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    【ミリマスSS】周防桃子「ひとつ咲き続ける花」

    1: ◆uYNNmHkuwIgM 2018/06/26(火) 00:17:23.56 ID:M3r0bmxb0

    -----桃子の目の前には二つの大きな顔。

    -----いつだか、どこだか、わからないけど、

    -----でも、それは確かな桃子の記憶。

    -----ふっと風が吹く、驚いて目を瞑る。

    -----その一瞬で、全部消える。

    -----やっぱり、また、ひとりぼっち。

     

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    2: ◆uYNNmHkuwIgM 2018/06/26(火) 00:20:04.40 ID:M3r0bmxb0

    キューって胸がしめつけられて、その痛さで目がさめた。ほっぺに冷たさを感じて、それを温めるように手のひらでゴシゴシと強めにこする。

    窓の外はごきげんな青空。うん、いい天気だね。バーカ!!!そんな悪口も言っちゃいたくなるくらいサイアクな朝。せっかくの日曜なのに。



    ドタドタと足音を立てて洗面所に行く。バシャバシャとワザと水の音を立てて大げさに顔を洗う。シーンと静かな家の中を少しでも音で満たす。

    ささっと準備をして、リビングには目もくれずに玄関に向かう。はやく家を出て、桃子の『イエ』に行かなくっちゃ。

    桃子「うぁ...まぶし...」

    暗い家から出ると、日差しの眩しさに少しくらっとした。

     

    3: ◆uYNNmHkuwIgM 2018/06/26(火) 00:22:10.82 ID:M3r0bmxb0

    ############
    765プロシアター
    エントランス
    ############

    桃子「おはよーございまーす」

    シアターについて扉を開けて挨拶。親しき仲にも礼儀ありだからね、挨拶はきちんとしなきゃ。

    海美「ももちーん!おはよー!」

    エントランスの掃除をしてた海美さんが100倍の元気で挨拶を返してくれて、おまけにダッシュで桃子の方に向かってきた。

    桃子「ちょ、なに、どしたの海美さん?」

    海美さんは桃子の正面で止まって、両方の脇を手でガシッって掴む。桃子の身体がふわっと浮く。

    いきなりなんなの!?ジタバタ動いても海美さんの力に勝てるわけなくって、全然動けない。

    桃子「もぅ!どしたの海美さぁぁぁぁぁぁぁぁんんんんん」

    海美さんは桃子をつかんだまま、グルグルと全速力で回り始めた。

    海美「あはははははははははたのしーねー!!!ももちん!!!!」

    世界がグルグルって回る。遊園地のアトラクションみたい。

    イヤな目覚めのモヤモヤってした気持ちが、そのグルグルで飛んじゃっていくみたい。

     

    4: ◆uYNNmHkuwIgM 2018/06/26(火) 00:24:11.14 ID:M3r0bmxb0

    でもちょっと速く回りすぎかな。もう終わりにしてって合図に、トントンと海美さんの身体を叩く。

    海美さんは気がついたみたいで、回る速さがだんだん遅くなってきたとこにまた元気な挨拶が響く。

    のり子「おはよー!桃子!海美!」

    挨拶はのり子さんの声だって気がついた瞬間、身体が海美さんとのり子さんにぎゅーってはさまれた。

    海美「わー、のりさんナイスタックル!」

    のり子「へへへ、のり子アイサツタックルスペシャルだよ」

    桃子を優しくはさんで、うれしそうに話す二人。

    桃子「もぅ、海美さんものり子さんも朝から元気すぎじゃない?」

    先輩として注意しようとしたけど、なんだか声が弾んじゃう。朝のモヤモヤは完全に二人の元気にやっつけられたみたい。

    のり子「へへー、ごめんごめん」

    海美「朝からももちんに会えたからはしゃいじゃったよ」

    桃子「ほとんど毎日会ってるのに、ホント二人ともどうしようもないんだから」

    桃子がそう言うと、やっぱり二人はニコニコと笑顔を返してくれた。

    うん、やっぱりここは桃子のイエだって思う。

      

    5: ◆uYNNmHkuwIgM 2018/06/26(火) 00:25:54.65 ID:M3r0bmxb0

    ############
    765プロシアター
    事務室
    ############

    さて、今日のお仕事はミーティング。今度出す新曲の楽譜と仮歌が貰えるみたい。一緒にユニットを組む二人も呼ばれてる。

    風花「うぅ、新しい曲どんなのかな?えっちなのじゃないよね...桃子ちゃんもいるし...」

    ワタワタしてる風花さん。仕方ないから先輩の桃子がアドバイスをあげる。

    桃子「風花さん。そうやって嫌がっちゃうから、お兄ちゃんが調子に乗るんだよ。堂々とした方がいいよ」

    風花さんは桃子のアドバイスになるほどって顔で返す。

    風花「確かに桃子ちゃんの言うとおりかも。よしっ、どんなえっちな仕事でもどんと来いです!」

    桃子「...」

    風花「...うわーん、これはこれでなんか違う ><」

    コロコロ変わる風花さんの表情は見ててなんだか面白い。ごめんなさいだけど、ちょっとお兄ちゃんの気持ちもわかるかもなんて思っちゃった。

     

    6: ◆uYNNmHkuwIgM 2018/06/26(火) 00:28:00.33 ID:M3r0bmxb0

    このみ「あら、えっちって言葉はアレだけど、私は歓迎よセクシーなお仕事」

    ユニットのもう一人のメンバーのこのみさんは、風花さんの話を聞いてなんだか嬉しそう。

    そんなこのみさんのドヤって顔をながめてると、グリグリって桃子の頭がなでられる。

    このみ「まぁ、確かに桃子ちゃんがいるから今回はセクシーなお仕事はおあずけね。うりうり」

    このみさんはよく桃子の頭をなでる。いつも年下から頭なでられるから、身長の低い桃子は『かっこうのえじき』なんだって。

    子供扱いされるのはイヤだけど、このみさんには仕方ないなっておとなしくなでられてあげる。いつか桃子がおっきくなったら、今までの分なで返してあげるんだ。

     

    7: ◆uYNNmHkuwIgM 2018/06/26(火) 00:29:40.01 ID:M3r0bmxb0

    そんな感じでワイワイしてると、お兄ちゃんがやってきた。新曲の楽譜を見ながらみんなで仮歌を聞く。

    ミリP「永遠の花。離れていながらも、お互いを思い合う歌だ」

    これってラブソングだよね?しかも本気の大人の曲。桃子にこんな曲が来るなんて思わなかったからおどろいた。

    このみ「とても素敵な曲ね。大事に歌わなきゃ」

    風花「切なくて、なんだか泣けちゃう曲ですね。素敵な曲をいただいて嬉しいです」

    大人の二人はさすが桃子よりも余裕があるみたい。そうだね、確かに二人にはぴったりな曲。



    桃子は考える。このユニットでの桃子の役割。

    きっと、11歳らしい歌とか表現をしたんじゃダメだって思う。だってそのくらい大人な曲だし、このみさんも風花さんも本気の大人の歌声だもん。

    ちょっと背伸びした子供の役割が桃子に求められてるなら、もうちょっと大人度を下げた曲になってるか、メンバーの2/3が大人組ってユニットにしないはず。

    でも用意されたのはこの曲で、このメンバーで歌うって決められた。きっと、桃子がこのみさんと風花さんみたいにきちんと歌い上げることを求められてるんだ。

    それはなんだか嬉しいって思う。だって、それだけ桃子が大人な表現ができるって期待されてるってことだもん。

    でも、うん。こういう曲は...。

     

    8: ◆uYNNmHkuwIgM 2018/06/26(火) 00:31:57.66 ID:M3r0bmxb0

    ############
    学校
    教室
    ############

    休み時間の教室。1番さわがしい男子のグループを、ジトーっとながめる。

    学校の男子はみんな子供だ。ワイワイと意味なくさわいで、ヘラヘラって笑ってる。

    クラスじゃあの子があの子を好きとかあるみたいだけど、信じらんない。あんな子供のどこがいいんだろ?

    はーっとため息が出る。ずっとモヤモヤってしてることがある。もちろんお仕事のこと。

    永遠の花。大人のラブソング。この曲を歌い上げるために大事なことを桃子は知らない。

    桃子は愛って何かよくわからない。

    愛って誰かのことが好きで好きでしかたないってことでしょ?桃子は誰かにそんな気持ちになったことなんてない。



    こんなんじゃきっといい歌は歌えないよ。あーあ、王子様みたいな人が桃子の目の前に来てくれたらいいのに。

    桃子が1番だって言ってくれて、桃子の隣にずっといてくれて、桃子の言ったこと全部叶えてくれるの。そんなステキな王子様。

    そんなことを考えてると、一つぼんやりと思い浮かぶ顔があった。ねグセをつけて、ネクタイ曲がってて、かなりダメダメな顔。

    うん、確かに桃子の知ってる中で1番王子様に近いのはお兄ちゃんだね。桃子のために頑張ってくれて、言ったこともいくつか叶えてくれてる。

    でも、「お兄ちゃんを愛してる?」って聞かれると、うん、そんなことないって思う。お兄ちゃんはお仕事のパートナー、そういうのとは違う。

    頭の中のお兄ちゃんの顔にバッテンをつけて、他の王子様候補を探したけど、他には思い浮かぶ人すらいなかった。

     

    9: ◆uYNNmHkuwIgM 2018/06/26(火) 00:33:53.63 ID:M3r0bmxb0

    うーん、愛...愛...。

    グルグル頭の中で『あい』って文字を回してたら、頭のてっぺんをペシッと叩かれた。桃子が考え事してるのに、こんなことするのは奈緒さんだね!

    桃子「何するの!?桃子今考えち...」

    いつもの調子で注意しようとしたら、目の前には担任の先生の顔があった。あ、そっか、ここ学校だった。みんな起立してて、授業前の挨拶をしようとしてるとこだ。

    桃子「...ごめんなさい」

    めずらしいって目でみんなが桃子を見る。学校ではいっつもムスーってしてばっかだったから。うぅ、そんなに見ないでよ!


    10: ◆uYNNmHkuwIgM 2018/06/26(火) 00:36:02.78 ID:M3r0bmxb0

    ############
    765プロシアター
    事務室
    ############

    わかんないことは誰かに聞くのが大切。桃子はここでそれを教えてもらった。だから、桃子はお願いをした。

    風花「えっと、私なんかが先生役でいいのかな?」

    桃子「うん、風花さんだからいいんだよ。大丈夫、このみさんにも聞くし。せかんどおぴにおん?ってやつ」

    そう言うと、風花さんは少し困り眉になって答えた。

    風花「うーん、セカンドオピニオンはちょっと違うような...。まぁ、それはいいよね。それで、うん、えーっと、愛...についてだっけ?」

    ちょっと顔が赤くなって、もぞもぞしだす風花さん。『愛』って言うのがはずかしいみたい。それで今回の曲大丈夫なの?って思っちゃう。

    でも、風花さんの歌はとっても大人だ。なんだか聞いててほわぁってする。だから、風花さんの気持ちを聞いてみたいって思ったんだ。

    桃子「うん。よろしくお願いします」

    ぺこりって頭を下げる。風花さんがコホンと一息おいて話を始める。

    風花「私は、愛って『与えること』だって思うの。大切な人のために、何かしてあげたいって気持ち」

    与えること。うん、桃子はそんなこと思いもしなかった。

    やっぱり風花さんに聞いてみて正解だって思った。

    愛は与えること、その言葉を頭の中で繰り返す。よくわかんないけど、繰り返すうちに何だかそれはちょっと寂しい気がした。

     

    11: ◆uYNNmHkuwIgM 2018/06/26(火) 00:38:21.23 ID:M3r0bmxb0

    桃子「あのね、変なこと聞くかもしれないんだけど、たくさんあげて、それでも相手に届かなくても、愛は続くのかな?」

    そう聞くと、風花さんはとっても優しい顔になった。それは桃子が見たことない風花さんの顔。

    風花「私もあまり経験豊富ってわけじゃないから、きちんと答えられないかもなんだけどね、続くっていうその前に、相手にきちんと届くって思ってる」

    桃子「気持ちは絶対に相手に届くってこと?そんなこと、ゲンジツテキじゃないって思うんだけど」

    桃子がそう返すと、風花さんはやっぱり優しい顔のままで答える。

    風花「そうだね、私がそう信じたいだけなのかも。でもね、『届く』って、きちんと受け取ってくれるってこととは違うかなって思うの」

    風花「私があげたもので、その人の何か一つでも良いことに変われば嬉しいなって。そう思える人がいることは、とっても幸せなんだって思うの」

    風花「そういうあったかい気持ちが愛なんだって、私は思ってる」

    そう言うと、風花さんの表情は恥ずかしさをごまかすようなちょっと困り眉の笑顔に変わった。

    うん、なんか桃子もちょっとムズムズしてきた気がする。こういう誰かの心の中を教えてもらうってこと、経験したことがなかったから。

    風花「私からはこれでおしまいかな、今度の曲絶対いい歌にしようね」

    そう言って風花さんが桃子の両手をにぎる。はげますように、優しくつつみこむように。

    桃子「うん」

    風花さんの気持ちに答えるように、桃子はぎゅっと両手を握り返した。

     

    12: ◆uYNNmHkuwIgM 2018/06/26(火) 00:39:20.41 ID:M3r0bmxb0

    ############
    765プロシアター
    屋上
    ############

    次はこのみさんの番。風花さんにしたのと同じ質問を、このみさんにも聞いてみる。

    このみさんはちょっとだけうーんって考えた後、桃子に質問した。

    このみ「ちなみに、風花ちゃんはなんて言ってた?」

    風花さんに悪い気もしたけど、聞かれたので正直に答える。

    桃子「愛って『与えること』だって言ってた」

    その言葉を聞いて、このみさんはふっと笑顔になる。

    このみ「風花ちゃんらしい答えね。ほんと、あの子お嫁さんにしたいわー。桃子ちゃんもそう思うでしょ?」

    いきなり聞かれたのでびっくりしちゃう。だって、女の子と女の子って結婚できないよね?

    桃子「もぅ、そんなのわかんないよ」

     

    13: ◆uYNNmHkuwIgM 2018/06/26(火) 00:41:03.95 ID:M3r0bmxb0

    なんて言っている間に、このみさんが桃子の質問に答えてくれた。

    このみ「私はね、愛は自分を強くしてくれるものだって思う」

    その答えは風花さんとは全くちがう答えだった。おんなじ質問なのに、こんなにもちがうんだ。

    このみ「誰かを愛するとね、その人に隣にいるのが私でよかったって思ってもらえるよう、いろんな面で強くならなきゃって思うの」

    このみ「自分を見つめなおして、磨いて、ステキになれるの」

    そう言ったこのみさんの顔は、いつもの優しい顔とは違ってカッコよかった。悔しいけど、やっぱり桃子よりもずっとずっと大人だなって思っちゃう。

    このみ「まぁ、だからと言ってアレコレ好きな人を見つけろって意味じゃないけどね。心から女を磨かなきゃって思えるようなイイ男に出会えることが先決ね」

    フフンとドヤ顔を決めるこのみさん。それを見てると、なんだかちょっぴりイジワルなことを聞いてみたくなった。

     

    14: ◆uYNNmHkuwIgM 2018/06/26(火) 00:42:22.61 ID:M3r0bmxb0

    桃子「で、今はイイ男と出会えてるの?」

    このみさんはそんな桃子の質問に、しっかりとした口調で答えた。

    このみ「そうね、たくさんいるわ。私を応援してくれるファンのみんな。男女関係なく、みんな私にもっと輝きたいって気持ちをくれる」

    このみ「私はみんなのために、いい女であり続けなきゃいけないの」

    なんかズルイって思っちゃうくらいカッコいいけど、あれ?なんかちがくない?

    桃子「このみさんの言うとおりだと思うんだけど、なんかごまかされてるような気がする...」

    ジトーッとした目でつっこむと、このみさんはとりつくろうようにくしゃくしゃと桃子の頭をなでる。

    このみ「いいから、アイドルのうちは難しいかもだけど、いつかちゃんとイイ男を捕まえなさいよ、桃子ちゃん」

    なんか最後はいつものドタバタに戻っちゃたけど、桃子もいつかこんなにカッコよくなりたいって思うくらい、このみさんはステキだって思った。

     

    15: ◆uYNNmHkuwIgM 2018/06/26(火) 00:43:46.69 ID:M3r0bmxb0

    ############
    765プロシアター
    控え室
    ############

    風花さんとこのみさんに『愛』って何か教えてもらった。2人の答えはちがったけど、きっと2人ともいろんな経験をして、自分なりに答えを出したんだと思う。

    桃子にはまだない経験、やっぱり2人はきちんと大人だ。

    その2人の答えをヒントにしながら、桃子は何度も新曲の歌詞を読む。主人公の気持ちを想像する。

    うーん、前よりは主人公に近づけた気がするけど、やっぱりまだまだ桃子の中にスッと主人公が入ってきてくれない。

    机につっぷして頭を抱えていると、ドアが開いて甘い匂いがした。

     

    16: ◆uYNNmHkuwIgM 2018/06/26(火) 00:45:19.63 ID:M3r0bmxb0

    春香「おはよー桃子ちゃん。マドレーヌ食べる?」

    春香さんはいきなりあらわれて、いきなりおかしを差し入れてくれた。

    桃子「おはよ春香さん、どしたの急におかしなんて?」

    そう聞くと、春香さんはニヤニヤーって顔になって答えた。

    春香「春香さんの桃子ちゃんセンサーが『桃子ちゃんがピンチ!』って電波を受信したの。だから差し入れ」

    なんだかよくわからない答えだけど、頭をグルグルさせて疲れたからおかしはうれしかった。

    桃子「ありがとう。じゃあいただきます」

    パクっと一口食べると、ふわっと優しい甘さが広がった。その甘さで、顔が自然に笑顔になっちゃう。

    桃子「おいし~♪」

    春香「えへへ、美味しそうでよかった」

    春香さんはとっても笑顔、ニコニコっておかしを食べる桃子を見てる。

    桃子「美味しいけど...あんまり見られると食べにくいよ...」

    はずかしいからそう言ったのに、春香さんは「ごめんね」って言いながらも変わらずニコニコと桃子を見てた。

     

    17: ◆uYNNmHkuwIgM 2018/06/26(火) 00:46:40.63 ID:M3r0bmxb0

    春香「で、何に悩んでるの?桃子ちゃん?」

    マドレーヌを食べ終わった瞬間に春香さんが桃子に言った。フンスフンスと鼻息を荒くして、相談してってオーラを出してる。

    ここまで前のめりされるとちょっと引いちゃうけど、リコッタのときにも頼りになったし相談してみようかな。

    桃子「あのね、今度の新曲...」

    春香「お姉ちゃん、お願い!」

    相談しようとした桃子の言葉を、おっきな声で春香さんがさえぎった。え?なに?お姉ちゃん?

    わたわたしてる桃子に、春香さんがもう一度言う。

    春香「『春香お姉ちゃん、お願い』って言って♩」

    ものすごくキラキラした目で待ちかまえる春香さん。はぁ...仕方ないんだから...。

    桃子「...春香お姉ちゃん...お願い...」

    そういうと春香さんは「仕方ないなーもう」なんて言いながら腕まくりした。自分から言ったのに、調子いいんだから...。

     

    18: ◆uYNNmHkuwIgM 2018/06/26(火) 00:48:19.23 ID:M3r0bmxb0

    春香さんにひととおり桃子が上手くいってないとこを相談した。

    春香さんはこめかみに人差し指を当てる考え中のポーズで聞いてて、桃子が話し終わるとアドバイスをくれた。

    春香「あのね、完全に歌の主人公の気持ちにならなくてもいいんじゃないかなって思うんだ」

    帰って来たのは意外な答え。なんで?歌詞をよく読んで、きちんとその世界を歌うのが基本じゃないの?

    桃子「えっと、どういうこと?歌詞を無視していいってこと?」

    春香さんは桃子の質問に首を横に振って答える。

    春香「ううん、桃子ちゃんの考えにもっと寄せちゃってもいいと思うんだ」

    春香「前に千早ちゃんが言ってた。抽象化して、それぞれの要素を自分の世界に落とし込んで、そうやって歌は自分のものになるって」

    春香「だからね、正直いうとこれは私のアドバイスというより、千早ちゃんの受け売りなんだけどね」

    うーん、チュウショウカ?ヨウソ?なんだかよくわかんない。


     

    19: ◆uYNNmHkuwIgM 2018/06/26(火) 00:49:27.02 ID:M3r0bmxb0

    わかんないってことが顔に出てたのか、春香さんはゆっくりとしゃべる速さを落として言葉を続ける。

    春香「そうだね、この曲で言えば、桃子ちゃんには『たとえ今は離れててもずっとその人を大事に思ってて、その人のために頑張りたい』って人はいるかな?」

    春香「好きな男の人とか恋愛の話じゃなくていいの、転校して遠くに行っちゃった親友とか、そういうの」

    春香さんの話を聞いて思い浮かぶ顔があった。ズキンと胸が痛む。息苦しくなって呼吸が荒くなる。

    そっか、だからお兄ちゃんは桃子をこのユニットに選んだんだ。

    春香さんは桃子の様子を見て何かに気がついたようで、ギュッと桃子を抱きしめる。

    少し早くなった心臓の音が、春香さんの呼吸のリズムと温かさでゆっくり落ち着いていく。

    春香「桃子ちゃんならきっと歌えるよ。大事な人の胸に響く歌。応援してるからね」

     

    20: ◆uYNNmHkuwIgM 2018/06/26(火) 00:51:03.69 ID:M3r0bmxb0

    ############
    765プロシアター
    屋上
    ############

    ミリP「ぷはー」

    \ガチャッ/

    このみ「またタバコ吸ってるのね!身体に悪いから、辞めてって言ってるのに」

    ミリP「あぁ、すまんすまん。でも人のいないとこで吸ってるし、スーツのジャケットはデスクに置いてあるから三次喫煙の問題も大丈夫だと思うけど」

    このみ「はぁ...そういう問題じゃ...。まぁいいわ、ところでジェミニの話だけど」

    ミリP「ん?どした?喧嘩でもしたか?」

    このみ「そんなわけないでしょ。桃子ちゃんも昔よりはずっと丸くなったし、円滑にやってるわ。あの子、私と風花ちゃんにアドバイス求めて来たのよ」

    ミリP「おー、それは円滑だ。ころころうまく転がってるんだな」

    このみ「そうね。ただ...」

    ミリP「ただ?」

     

    21: ◆uYNNmHkuwIgM 2018/06/26(火) 00:52:59.80 ID:M3r0bmxb0

    このみ「桃子ちゃんにあの曲歌わせるのは酷じゃない?」

    ミリP「...桃子はお前ら2人に負けないくらい歌うまいと思うぞ」

    このみ「...はぁ、とぼけるのね。技術の問題じゃない、わかってるでしょ?」

    このみ「私はその辺の事情よく知らないのだけど、そういう意図で桃子ちゃんをメンバーに選んだのなら、ちょっとお姉さんいただけないかなぁって思っちゃう」

    このみ「誰にでも、触れられたくないことってあると思うの。いくら仕事のためとはいえ、あんまりだと思うわ」

    ミリP「......いや、桃子は今回そういう意図で選んだ。でも大丈夫だ」

    このみ「大丈夫って...」

    ミリP「桃子はずっとそれを目指して戦って来たんだよ。あいつ全然教えてくれないから、俺も半分くらいしか知らないけどな」

    ミリP「ずっと1人で戦って来たけど、もう1人じゃない。仲間がいる。おかげで桃子は強くなった。だから大丈夫だ」

    このみ「...そう。プロデューサーがそういうなら、問題ないのかもね。ごめんなさい、ちょっとお節介すぎたかしら」

    ミリP「いや、ありがたいよ。俺ができることは踏み台みたいなものだからな。あいつが見たい景色を見せてやって、疲れたら腰掛けさせてやるくらいだ」

    ミリP「多分、お前たちができることの方が多い。すまないが、もしもの時は支えてやってくれ」

    このみ「当たり前じゃない。このみお姉さんに任せなさい」

     

    22: ◆uYNNmHkuwIgM 2018/06/26(火) 00:54:32.80 ID:M3r0bmxb0

    ############
    桃子自宅
    ############

    無言で家に入る。目の前には真っ暗な空間。もちろん音なんて何も聞こえない。

    リビングのテーブルに帰りに買ったお茶を置く。コンビニのお弁当をレンジで温めていつもの晩御飯。いただきます。

    桃子にとってはこれが当たり前なんだけど、美奈子さんがこのご飯見たら悲しんで毎日ご飯作りに来ちゃうかもしれない。だから絶対にバレないようにしなくっちゃ。

    むしゃむしゃと固いご飯をかみながら考える。今日、春香さんの話を聞いて気がついたこと。

    きっとお兄ちゃんは、桃子にだけあの曲をラブソングとして歌うことを求めていないんだ。桃子の一番奥の奥の根っこにある部分、それを歌うことを求めてる。

    誰にも見せないようにして、隠して、桃子だけのものにしてたもの。多分、お兄ちゃんにはちょっとバレちゃてるのかも。

    ごくってご飯を飲み込む。考え事と一緒に。うん、どうしてバレたかはよくわかんないけど、それを歌って欲しいってことは桃子がそれだけ成長したってことだよね。

    お兄ちゃんはでりかしーがないけど、桃子たちのそういう気持ちは絶対に大事にしてくれるから。

    それに桃子の考えが正しいなら、桃子にとってこの曲はきっととても大事な曲になる。他の曲も大事だけど、少し意味は違う。

    うん、だからキチンとやりとげなきゃ。


    23: ◆uYNNmHkuwIgM 2018/06/26(火) 00:56:21.77 ID:M3r0bmxb0

    桃子の部屋に戻って机の引き出しを開ける。一番奥にしまってある一枚の写真を取り出す。

    写ってるのは小さい桃子とお父さんとお母さん。みんな笑顔で作り物みたいにステキな写真。

    桃子の記憶にはこんな顔で笑うお父さんもお母さんもいない。だから桃子には作り物に思えてしまう。

    桃子の家にはアルバムがない、他の写真がない。この一枚しか、昔の綺麗な思い出は残ってない。

    だから桃子は頑張るんだ。そう再確認して写真を机の中にしまう。絶対に桃子はやり遂げるから。

     

    24: ◆uYNNmHkuwIgM 2018/06/26(火) 00:57:44.65 ID:M3r0bmxb0

    ############
    765プロシアター
    舞台裏
    ############

    CDの収録も終わって、今日はライブで新曲をはじめて歌う。ジェミニの大事な大事なはじめの一歩目。

    このみ「お客さん盛り上がってるわね。ふふっ、新曲のお披露目には最高の舞台じゃない」

    風花「うぅ...このみさんは堂々としてすごいです。私はなんだか緊張しちゃって...」

    このみさんは大丈夫そうだけど、風花さんはそうでもないみたい。もぅ、世話がやけるんだから。

    桃子「風花さん、手貸して」

    風花「へ?手?」

    ゆっくりと風花さんが手を桃子の方に差し出す。ぷるぷるって細かく震えてて、桃子はそれを抑えるようにギュってにぎった。

    風花「ひゃっ!?桃子ちゃん、私多分手汗かいてるから...」

    桃子「いいの!気にしないで。出番まで桃子の手にぎってて」

    風花「うぅ...ごめんね」

    桃子「あやまらなくていいから、自分のことに集中して」

     

    25: ◆uYNNmHkuwIgM 2018/06/26(火) 00:58:45.07 ID:M3r0bmxb0

    そう風花さんに言うと、ニヤニヤってこのみさんが桃子と風花さんのつないだ手を見て言った。

    このみ「あらあら、私だけ仲間外れにするの?お姉さん寂しいわ~」

    風花「ちっ、違います。これは緊張してる私を桃子ちゃんが励まそうって...」

    このみさんのからかいを真に受けてワタワタする風花さん。はぁ、本当に風花さんのリアクションはもっとからかってって言ってるみたい。

    桃子は空いてる方の手をこのみさんに差し出す。

    桃子「ほら、このみさんも手つなぐ?」

    このみさんは「あら」って反応して、ギュって桃子と風花さんの手をにぎった。

    このみ「ふふっ、3人ならいい曲が歌えそうな気がするわ。頑張りましょう」


     

    26: ◆uYNNmHkuwIgM 2018/06/26(火) 01:00:22.00 ID:M3r0bmxb0

    そして、桃子たちのステージが始まった。

    イントロが流れて最初は風花さんのパート。

    風花さんの歌声、さっきまでの震えた感じはなくて、歌に自然に入り込めてた。

    優しくて、あったかい歌声。



    そして、桃子のパート。

    あの机の中の写真を思い浮かべながら歌う。

    桃子の中に咲いている一輪の花。

    種をまいて、芽がでるまで見守ってくれたのは、確かにあなたたち。

    ありがとう。桃子に綺麗な花をくれて。



    このみさんのパートにうつる。

    キレイでそしてどこかカッコいい歌声。

    ホント、歌ってる時は別人なんだから。



    そして3人の声が重なる。

    うん、きっと思い浮かべてる風景はそれぞれ違うけど、ぴったりと歌声は重なってくれた。

    というか、桃子の歌声2人に負けてないじゃん、ふふん。

     

    27: ◆uYNNmHkuwIgM 2018/06/26(火) 01:02:01.79 ID:M3r0bmxb0

    祈るように、願うように、桃子は歌う。



    桃子ね、ずっとずっとあなたたちを思っています。

    あなたたちとまた笑顔で会える日を、ずっとずっと願っています。

    だから、桃子は毎日がんばっています。

    この気持ちが愛なら、どうか届いてください。

    きちんと届くように、桃子は強くなるから。

    寂しい日もあります。悲しい日もあります。

    でも桃子はひとりぼっちじゃないです。

    みんながひとりじゃなくしてくれました。

    桃子の中に咲く花は、ちゃんと空に向かって伸びています。

    あなたたちの花がもし枯れてしまっていたなら、

    今度は桃子が種をまいて、芽がでるまで見守ります。



    だから、

    だから、

    いつか桃子がやりとげたら、ギュってしてくれますか?

    頑張ったねって、ほめてくれますか?

    そんな日が来ることを願って、桃子はこの歌を歌います。

    いつかまた同じ道を歩けるように、そんな『未来へと』。


     

    28: ◆uYNNmHkuwIgM 2018/06/26(火) 01:02:46.87 ID:M3r0bmxb0

    最後のフレーズを歌ってBGMが消える。シーンと静かな会場。

    あれ?いつもみたいに歓声が上がらない。

    どうしようって隣の風花さんとこのみさんを見ようとした時、ワーって大きな声とたくさんの拍手が響いた。

    ファンの人たちの方を見ると、笑顔の人に混じって泣いてくれてる人もいた。

    それだけの歌を桃子たちは歌えたんだね。えへへ、やった。

     

    29: ◆uYNNmHkuwIgM 2018/06/26(火) 01:04:10.82 ID:M3r0bmxb0

    ステージ裏に戻ると、風花さんが桃子をギュってした。びっくりして風花さんに言う。

    桃子「どしたの?急に?」

    風花さんはグズグズってなりながら答える。多分、泣いてるんだと思う。

    風花「...桃子ちゃん、ごめんね、一緒に歌ってたら、なんだか桃子ちゃんのことギュってしたくなって...」

    風花さんの言葉を聞いて確信する。うん、よかった。桃子はきちんと気持ちを歌にできていた。

    このみ「風花ちゃん、桃子ちゃん、まだ全員曲あるんだから、ほらほら準備するわよ」

    このみさんがほらほらと風花さんと桃子の頭をなでながら、次の準備をうながす。

    風花さんは涙でくずれたメイクを直しに行って、桃子は水をこくっと飲む。そうすると、背中からギュってされた。

    このみ「桃子ちゃん、私たちはユニットだからね。何かあったらいつでも相談するのよ」

    「なんだ、結局このみさんもギュってするんじゃん」とは言わないでおいた。

    うん、ありがたく受け取るよ。2人の気持ち。

     

    30: ◆uYNNmHkuwIgM 2018/06/26(火) 01:06:13.91 ID:M3r0bmxb0

    次の曲までに少し時間がある。桃子はある人のとこに向かった。きっとあの人は、いろんなスタッフさんの動線が集まるとこに絶対にいる。だって昔、桃子がそこにいなさいって教えてあげたんだから。

    やっぱりそこにあの人はいた。ねグセがついて、シャツはくしゃくしゃで、ネクタイは曲がってて、汗だくのお兄ちゃん。

    お兄ちゃんは桃子を見つけると、笑顔になってこっちに来てくれた。

    ミリP「おぅ、おつかれ。良かったぞ、永遠の花」

    お兄ちゃんは心からの笑顔。演技だったら桃子先輩の目はごまかせないからね。

    なんだかお兄ちゃんの笑顔がむずがゆくって、桃子は少し言葉を曲げて返してしまう。

    桃子「誰に言ってるの?桃子だよ、当たり前じゃん」

    お兄ちゃんは「まぁな」って言って、やっぱりニコニコ笑う。



    なんだか恥ずかしくって、お兄ちゃんに小言を言ってごまかす。

    桃子「でもね、やっぱり大変だったんだからね。だから、ね?」

    そんな桃子の遠回しの遠回しのお願いを、お兄ちゃんは受けとってくれた。

    ミリP「あぁ、頑張ったな、桃子」

     

    31: ◆uYNNmHkuwIgM 2018/06/26(火) 01:11:39.83 ID:M3r0bmxb0

    へへへ、やっぱりお兄ちゃんはお兄ちゃんだね。だから、ちょっとだけ桃子も素直になってあげるよ。

    桃子「ありがとう、このユニットに桃子を選んでくれて」

    まっすぐお兄ちゃんの顔を見て伝える。お兄ちゃんの目がちょっとゆらいだのを桃子は見逃さなかった。

    お兄ちゃんはバカみたいに優しいから、きっと桃子にこの曲を歌わせたこと、少しのほんのちょっぴりだけ後悔してるんだと思う。

    多分、お兄ちゃんに「後悔してる?」って聞いても、正直には答えてくれないと思う。ほんと素直じゃないんだから、困っちゃうよ。

    だから桃子がね、そんな後悔吹き飛ばしてあげるんだ。

    桃子「桃子もっともっとすごいアイドルになるから!強くなるから!まだまだこんなもんじゃないよ!」

    そして、最後にお願いを加える。

    桃子「...でも、それにはお兄ちゃんが必要です。だから、これからも一緒に頑張ってください」

    そう言ってグーにした右手をお兄ちゃんに差し出す。さすがにギュッてするわけにはいかないからね。

    お兄ちゃんのゆらいだ目がシャキッとして桃子のグーにグーを重ねる。

    頼りにしてるよお兄ちゃん。


     

    32: ◆uYNNmHkuwIgM 2018/06/26(火) 01:12:16.92 ID:M3r0bmxb0

    -----桃子の目の前には二つの大きな顔。

    -----いつだか、どこだか、わからないけど、

    -----でも、それは確かな桃子の記憶。

    -----ふっと風が吹く、驚いて目を瞑る。

    -----その一瞬で、全部消える。

    -----俯くと、2輪咲いてるキキョウの花があった。

     

    33: ◆uYNNmHkuwIgM 2018/06/26(火) 01:13:43.98 ID:M3r0bmxb0

    目がさめる。胸がじわーっとあったかくて、ほっぺをふにっと触るとやっぱりあたたかかった。

    窓の外はごきげんな青空。うん、いい天気。

    くーっと伸びをして、いっぱい空気を吸い込む。うん、悪くない朝。



    洗面所に行って顔を洗う。シーンと静かな家にバシャバシャって音が響く。

    リビングに行くとやっぱり誰もいなかった。カランと空っぽのリビング。

    準備を済ませて玄関に行く。大きな靴が一足あるのを確認して、メモ帳から一枚紙を破る。ささっと殴り書きをして家を出る。

    桃子「行ってきます」

    眩しい日差し。うん、今日も一日良い日になりそう。



    E N D

     

    37: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/06/26(火) 12:13:25.32 ID:NUzFjezUO
    すごく良かった

    38: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/06/26(火) 20:54:11.34 ID:76tgYT99o

    とても感動しました

    引用元: ・【ミリマスSS】周防桃子「ひとつ咲き続ける花」

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