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    フレンダ「結局、全部幻想だった、って訳よ」 第二部

    519: SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/10(土) 23:18:23.81 ID:x/iXiHHqo

     第六学区にあるホテルの一室。学園都市暗部組織『アイテム』の隠れ家の一つにて。
     フレンダ=セイヴェルンは果てていた。
     体勢的にはソファーに腰をかけて頭を背もたれの上部に乗せて顔が上を向いている状態、精神的には何を言うにも思うにもできない状態。
     ともすればそのぽかんと空いた口から魂でも飛びでてしまうのではないか、と思うほどに真っ白になっていた。
     そんな彼女を気遣ってか、二人のチームメイトが軽く同情しながら労いの言葉を投げかけた。

    滝壺「おつかれ、フレンダ」

    絹旗「お勤め超ご苦労様でした」

     その言葉にフレンダは軽く手を上げて下ろす。
     あげた、とはいっても膝の上にあった手をそこか十五センチ程持ち上げただけだ。
     それ程までに疲弊している事実に、絹旗は少しばかり気の毒に思う。

    絹旗「……麦野特性オシオキ部屋に三日間。正直、超想像に堪えません」

     先ほど『隠れ家』と形容したが、第三学区のそれと比べてこちらは『秘密基地』に近い。
     第六学区はアミューズメント施設が集中している学区だ。その特色をとってか、この部屋にはカラオケやテレビゲームを始めとした複数のアミューズメント機器がある。
     ――が、基本的にこのようなアミューズメントホテルは恋人な男女が『休憩』と称して一時的に借りることが多い。そのからその使用用途は言わずもがな、だ。
     そんな中、この部屋を含むフロアをとりあえず一年借りている『アイテム』は目立つ。名前を変えていても目立つことには違いない。
     故に『秘密基地』なのだ。

     絹旗の言うオシオキ部屋、というのはフロアの一室にある、この部屋とは違って鞭やら蝋燭やら首輪やら枷やらが揃っている部屋のこと。
     主に麦野がオシオキに使うため、その名前が付けられた。
     ちなみに絹旗は中を見たことがあるだけで何かされたことがあるわけではない。今のところ何かされたことがあるのはフレンダだけだ。
     しかし、それでも彼女の様子と部屋の備品を見ているとその内容が酷いものだということは容易に想像がつく。



    第一部→フレンダ「結局、全部幻想だった、って訳よ」 第一部




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    520: >>519 特性→特製 2011/12/10(土) 23:43:57.04 ID:x/iXiHHqo

    滝壺「それにしても三日なんて長かったね。今までは長くても一日だったのに」

    絹旗「そうですね。でもどうしてか、ってことぐらいは超わかりますけどね」

     やれやれ、と絹旗は軽く首をふる。
     今この場に麦野はいない。フレンダを部屋に放り込んでからは全く姿を見せていなかった。(ちなみにフレンダへのオシオキは設定した機械が自動的にしてくれる。)
     だからこそ、出来る話だが。

    絹旗「フレンダはあのあとすぐに入れられたから超知らないでしょうけど。麦野、あのインベーダーを取り逃がしちゃいましたからね」

    フレンダ「…………。…………うっそぉ!?」

     がばっと、突如フレンダの顔に生気が戻る。
     それほどに衝撃的だったのだ、麦野がターゲットを逃したということは。

     過ぎ去った八月十九日。
     その日には『アイテム』にしては珍しい拠点防衛の任務があった。
     『発電能力』を持った謎の侵略者(但し依頼主は正体がつかめている)。それを迎撃して追い払うなりやっつけるなりする単純な任務だった。
     ただ――相手が超能力相当の能力者だったということを除けば。

    フレンダ「ってことは……あれ、やっぱりレベル5だったってわけ?」

    絹旗「? そういうことは超聞いてませんけど……やっぱりってどういうことですか?」

    フレンダ「あり?」

     フレンダは首を傾げながら後頭部をぽりぽりと掻く。
     もしかして言ってないのかなーと思いつつも相手の戦闘スタイルを絹旗に告げた。
     体術そこそこ、陶器爆弾も一蹴、空中に散らばった金属の足場をつなげる。加え、磁力のみで足場を持ち上げるその馬力。
     どう見ても超能力クラスだった、と。


    521: SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/11(日) 00:18:50.08 ID:OBWGssmRo

    絹旗「……なるほど」

     フレンダの話を聞いて、絹旗は納得の言ったように相槌をうつ。
     そして続ける。

    絹旗「恐らく――多分、ですけど。第三位の『超電磁砲』じゃないですか?」

    フレンダ「第三位……って、麦野を追い越した奴?」

     記憶を辿って、そういえば電撃使いだったと思い出す。
     自分はそれほどに能力者の知り合いなどいないけれど、レベル5の力を持つ電撃使いなど他に心当たりはない。
     だが、しかし。それだとしたなら。

    フレンダ「結局、麦野はかなりの無茶をしてでも追い詰めそうなわけなんだけど」

    絹旗「どういう――ああ、そうですね。麦野、序列に超拘ってますし」

     麦野が第四位に落ちたことは記憶に新しい。
     その時、とてもじゃないが人様にはお見せできないほどに乱れまくっていたことも。

    フレンダ「もしかして、あと一個残っていた拠点で迎撃して勝ったとか?」

     フレンダは自分の失敗のあと部屋に投げ入れられていた為に知らないことを聞いてみる。
     それの答えは横で二人の話を聞いていた滝壺から返ってきた。

    滝壺「ううん。むぎのは私達に作戦の撤退を命令した」

    絹旗「そうですね。でも、今のことを聞くと妙に感じます。麦野なら、自分を蹴落とした第三位に怒りを覚えて再戦を挑まない筈がないんですが……」

     三人ともが頭を悩ませる。
     リーダーである麦野沈利の考えは、未だに彼女らには完全には把握できない。


    522: SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/11(日) 00:42:19.29 ID:OBWGssmRo

    滝壺「……そもそも、第三位はどうして施設を襲撃したんだろう」

     滝壺が呟くように疑問を呈する。
     確かに思えばその通りだ。暗部にほど近いただの研究施設の防衛だと思ったが、超電磁砲は第二位や第四位とは違って暗部に全く干渉していないただの中学生だ。
     それなのにどうしてそんなヘタをすれば捕まるかもしれない危険を?
     その考えに耽りかける瞬間、絹旗が盛大にため息を吐いた。

    絹旗「こればっかりは考えてもダメですね。知っていい情報なら初めから上から提示されてるわけですし」

    滝壺「……そうだね。でも、むぎのなら何か知ってそうだけど」

    絹旗「わざわざ麦野が負けた相手について聞く必要はないでしょう。下手すれば、逆鱗に触れて私達だってオシオキ部屋行きですよ?」

     洒落にならない冗談を交えて、絹旗は滝壺に答える。
     そんな中、フレンダは眼の焦点を二人に合わせずにただカーペットのような質の床を眺めていた。
     しかしその目は何も見ておらず、フレンダの意識はただ思考へと持っていかれて――

    滝壺「フレンダ?」

    フレンダ「っ…………な、何?」

     滝壺の呼びかけで引き戻された。
     まるで夢見心地のようだった思考は、今のですっかり記憶の彼方へと飛んでいってしまう。

    絹旗「大丈夫ですか?超ぼーっとしてたみたいですけど……もしかしてまだオシオキの弊害が?」

    フレンダ「あ、ああうん。結局、そんなところってわけよ」

     覚えてもいない思考について別段話す必要もない。
     フレンダはそう思って、絹旗の心遣いに話を合わせる。


    523: SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/11(日) 01:14:52.29 ID:OBWGssmRo

    絹旗「……それじゃあ、そろそろ超解散としますか?」

    滝壺「そうだね、フレンダも無事に解放されたし、むぎのも来ないみたいだし」

     そう言いながら二人は立ち上がる。
     そんな二人を見て、フレンダはソファーに更に腰を深く据えた。

    フレンダ「私はもう少しここで休んでから行くってわけよ」

    絹旗「そうですか?それじゃあゆっくり休んで、次は失敗しないようにしてくださいね?」

     からかうように絹旗は言ってから、滝壺を引き連れて部屋から立ち去る。
     滝壺の方は最後に一度振り返って小さく手を振ってきたのでそれに振り返しつつ見送った。
     バタン、とドアの閉まる音が聞こえてから、フレンダは大きく深呼吸をした。

    フレンダ(第三位、施設破壊、麦野沈利、第四位、劣等感、撃墜願望、敗北)

     思考が無意識に加速をする。
     彼女の能力、『物質収納』は脳がもう一つあるようなものだ。
     その能力を引き出してフレンダは思案する。

    フレンダ(暗部でない、襲撃理由、超電磁砲、麦野が見逃す、明かされていない研究内容、目的、目的、目的――――)

     スルリと、フレンダはどこからともなくパソコンを取り出した。
     誰の視線もないこの部屋の中において、フレンダの能力は最大限の力を発揮できる。(一人でできることはあまりないが。)
     彼女はそのパソコンを素早く立ち上げ、とあるツールを起動させる。
     名付けて『偽装認証機能』。
     Cランク端末である家庭用ノートパソコンでは書庫のCランク相当のものしか見ることができないためにそれ以上のランクのものを見るならハッキングをする必要がある。
     が、彼女がAランク相当の情報まで見られる暗部のコードを解析して作成したこれを使えば、学園都市統括理事会クラスであるSランクのものまで閲覧が可能となる。
     つまりハッキングより比較的安全に書庫の中身を閲覧できるというわけだ。

    フレンダ(さて、と――――)

     ぽきぽき、と指の骨を鳴らす。
     本来なら、こんなことなどしなくてもいい。
     本当に統括理事会クラスの情報ならば見たことを知られるだけで切り捨てられる可能性も拭い切れない
     けれど、何故だろう。
     知らなければならない、そんな気がしたのだ。

    フレンダ「行きますか」

     そして彼女はキーボードに手を伸ばす。
     その先に何が待ち受けているのかも知らずに。


    530: SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/21(水) 01:50:10.43 ID:zgHIARVPo

     ■   □   ■


     カタカタカタカタ、とキーを叩く音が部屋に響く。
     書庫の内部データが上から下に流れていく。フレンダはそれを目で追いながら目ぼしい物はないか一瞬で判断する。

     初めに目をつけたのは『超電磁砲』が起こした一連の事件。それに記載されていたデータから彼女がどうしてそんなことをしたのかを知る。
     『絶対能力進化』。芋づる式に『量産型能力者計画』も出てきたがそれはあくまでおまけだ。
     セキュリティランクAのその情報は数多にある研究の一線を画したものだったといえよう。
     本来ならば一研究所ではなく学園都市をあげて行なってもおかしくないものなのだから。
     しかし、それは果たして凍結された。何故か?

    フレンダ「無能力者――上条当麻によって第一位『一方通行』が敗北したから……?なんで、当麻が…………」

     愕然とした。
     自分がもう二度と関われなくなっても、草葉の陰から見守るしかなくなくなっても守りたかった大切な幼馴染。
     なんでそんな事になっているんだ。
     もはや指を止めるわけにはゆかず、思考を停止することも儘ならない。

     詳細はこうだ。
     自分と別れる前か後かは知らないが、上条当麻は第三位御坂美琴と知り合いとなっていた。
     その後に彼女の量産型能力者である『ミサカ一〇〇三二号』と接触、紆余曲折を得て『絶対能力進化』を知り阻止するに至る、と。
     そうだ、それが上条当麻だ。自分の知る彼ならば間違いなく、相手がどれだけ巨大だろうと阻止しようとすると断言できる。
     が、しかし――第一位だ。
     学園都市の頂点に立つ、最強の超能力者だ。

    フレンダ「……能力は、『自身の触れたベクトルの操作』。デフォルトでは反射にしてある為に攻撃は全て跳ね返り、通用しない」

     『一方通行』を創り上げた木原数多のレポートを参照して、その能力を把握する。
     つまり既存のどんな兵器を持ったとしても傷ひとつつけることのできない能力というわけだ。


    531: SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/21(水) 02:34:18.60 ID:zgHIARVPo

     それなのに、どうしてなんの能力も持たない上条が彼に勝つことができるのか?
     それだけじゃない、疑問に思うのはまだある。
     無能力者にやられただけでどうして実験を中止してしまうのか。
     そもそも『樹形図の設計者』によって『こうすれば絶対能力になれる』と導きだされたのが『絶対能力進化』である。一無能力者にやられた程度でその完璧は揺らぐものなのか?
     揺らぐのだとしてもそれを含めて再演算すればいい。絶対能力は研究者なら誰から見ても魅力的なものなのだから。

    フレンダ(……或いは、そうなってしまう理由があるってわけ?)

     まるで奇術師のように指を軽く動かすだけで幾つかのデータが表示される。
     その中で目を引いたのは一つのデータだ。
     統括理事会へ消息不明の『樹形図の設計者』のについての最終報告。
     ランクはS。つまり相当の情報というわけだ。
     迷うようにマウスカーソルは右へ左へと揺れる。が、今更だと思ったのか、すぐにそのファイルを開きにかかった。
     内容は、一言で言ってしまうと『樹形図の設計者』が何者かに破壊された、ということ。
     これで疑念の片方は消え失せた。どうやって破壊されたのかが気になるがそれはさて置き、再演算しようにもできない状況ならばどうしようもないだろう。

    フレンダ「それで、残るは当麻の方……か」

     ベクトル操作の網を潜る方法。そんなもの考えた所で見つかるはずがない。
     そうでなければ最強の超能力者などと呼ばれない筈だ。
     デフォルトで反射。レポートによれば睡眠時も発動しているとある。
     正しく無敵。反射ならばぶつかる直前に引けばいいと思いもするが、言うほど簡単なものじゃないし自分の幼馴染にそんな器用なことができるとは思えない。

    フレンダ「だったら、結局どういうことってわけよ……」

     全くわけがわからない。フレンダは苛立ちを収めることができず、髪を掻きむしる。
     かと思えば、顔を両手で押さえる。その手に伝わるのかほんのりとした熱。知恵熱、とでもいえるだろうか。
     逆に手は冷たくて、その熱を僅かに抑えるにはちょうどいいものだった。


    532: SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/21(水) 03:04:30.58 ID:zgHIARVPo

    フレンダ「……焦っても仕方がない、か」

     大きく溜息を吐く。
     あの幼馴染が意味不明なのはよくよく考えればいつものことだった。
     あの理不尽なまでの不幸もそうだし、他の人とは比べ物にならないくらい入退院を繰り返している。
     そして何より。
     初めて会った人を相手にしても、その人が事情を抱えていれば直ぐ様に助けようと思うおかしな人物なのだから。
     それが自分が好きになった理由の一つでもあるし、魅力的なところでもあるけれど、と心のなかで付け足す。

    フレンダ「……元気にしてるのかな」

     呟き、思い出すのは四月も初めの時期。
     残酷なまでに少年を突き放し、決別を告げたあの時のこと。

     少年はどうにかして自分を闇から引き戻そうとしていた。
     穢れていようが汚れていようが関係ないと叫んでくれた。
     別れを告げて背を向けた自分に、縋るような声を投げかけてきた。
     最後の叫びが鮮明に再生されて、図らずも胸が締め付けられる。
     悪いことをした、とは思う。
     上条に、自分はフレンダを救えなかった、という事実を植えつけてしまったことにもなるのだから。

    フレンダ「……それでも、当麻には平和な世界で生きてて欲しかった、ってわけよ」

     その結果が、『コレ』……『絶対能力進化』の阻止だが。
     はぁ、と。再び溜息を一つ。

    フレンダ「……もういっそのこと、ついでだし当麻がこの数カ月何してたか調べちゃおっカナ!?」

     そう言って指を走らせるフレンダ。
     それをする彼女の顔は、なんとなく笑っているようにも見えた。


     ――彼女、フレンダ=セイヴェルンがとある病院のカルテを見つけるまで後八分。
     そしてその内容――上条当麻の記憶喪失を知るのは、見つけてから僅か十三秒後の事だった。


    538: SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/22(木) 02:07:21.96 ID:jyGxs/gao

     ■   □   ■


     カチャン、と部屋を密室状態へとしていた鍵が放たれる。
     その音は勿論部屋の中にいたその少女の耳へと入り、彼女はまるで猫の様にテーブルに突っ伏していた頭を持ち上げた。

    フレンダ「ただいまー」

    フレメア「……!おかえりなさい、フレンダお姉ちゃん!にゃあ!!」

     声が聴こえると同時に少女、フレメア=セイヴェルンの表情は明るくなる。弾かれたように立ち上がり、玄関へと駆けていく。
     ここ三日間、姉であるフレンダは家に帰っていなかった。とはいっても、そのぐらいならよくあることに過ぎない。
     しかし仕事の都合上よく家を開けることはあるとはいえまだ小学生のフレメアだ。一人で留守番をすることに慣れてはいても、姉が返ってくることは嬉しいことこの上ない。
     だからその喜びを抑えきれずになりふり構わず玄関まで駆けて行ってしまうのだ。
     そんな尻尾を振るフレメアを見て、フレンダはにわかに微笑む。

    フレンダ「ただいま、フレメア。いい子にしてた?」

    フレメア「にゃあ!」

     一鳴き。
     靴を脱ぎ終えたフレンダは自分と同じ金髪の頭を撫で、抱きしめ、ぽんぽんと幾度か背中を軽く叩く。
     それはフレメアへのご褒美のようなものでもあるし、フレンダ自身の癒される行動でもあった。
     こういっては失礼だが、さながら主人とペットの関係の様にも見える。

    フレンダ「ごめんね、いつも留守番任せちゃって。本当に申し訳ないってわけよ」

    フレメア「ううん、フレンダお姉ちゃんはお仕事で忙しいから、大体気にしてない、にゃあ」

     軽く棒読みの入ったそれは明らかに気にしていることを如実に表していたが、言葉上は隠すところにフレンダはたまらなく愛らしさを覚える。
     そうしてフレンダは再び、力の入れ加減に注意しつつフレメアを抱きしめる。フレメアはその抱きしめられた胸の中で頬を擦りつける。
     これら一連の行動が、彼女らセイヴェルン姉妹によく見られる光景、やりとりだった。


    539: SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/22(木) 02:48:12.27 ID:jyGxs/gao

     いつもならばこれを数分間(よく飽きもしない)続けるのだが。
     今日のフレンダは途中で思い出したように笑顔を消して、フレメアを引き離した。
     フレメアは不思議そうな顔をして直ぐ真上にある姉の顔を見つめる。

    フレメア「……お姉ちゃん、大体どうかしたの?」

    フレンダ「…………」

     フレンダは僅かに逡巡し、そして瞬きをすれば消えてしまうだろう淡い笑顔を貼り付ける。

    フレンダ「ううん、なんでもないってわけよ。結局、少し疲れてるだけだから」

     フレメアはそう言うフレンダの瞳をまじまじと見つめた。
     彼女は別にそうして嘘を嘘と見抜くわけではない。が、単純に勘が鋭いのだ。
     今年度に入ってから特に強くなった、とフレンダは姉としてそれを実感していた。
     恐らくは春先に起きた出来事――というかそれ以外に原因は見つからない――が引き金となったのだろう。

     上条当麻との別れ。
     決別の後、フレンダはフレメアにも有無を言わさず彼に会うことを禁じた。
     当然だ。フレメアと関係を持っていたならフレンダの尻尾を掴むことなど容易になるのだから。
     それがどうして勘が鋭くなるのか、という疑問を抱かざるを得ないが、フレンダは既に一つの仮説を確立している。
     『自分が何かを見逃したから自分達と当麻お兄ちゃんとが別れるはめになった』と思いでもしたのではないかとフレンダは推測する。
     実際はそんな事は全くないのだが、蚊帳の外に居たのは事実であり、知っていれば何かがほんの少しだけ変わったかもしれないこともまた事実だ。
     それを経験した結果、無意識か意識してかはわからないが、物事を注意深く観察するようになったのだろう。

     閑話休題。
     結果、フレメアはお姉ちゃんが何かを隠していることを僅かに感じ取った。
     が、別段問い詰めるようなことはしない。十中八九、聞いても仕方のないことだ、とでも判断したのだろう。
     フレメアも笑顔を浮かべ、もう一鳴きする。

    フレメア「にゃあ。ベッドはちゃんと整えてあるから、今日はゆっくり休んでね」

    フレンダ「ありがとう、フレメア。フレメアも、もう時間遅いから速く寝なよ?」

    フレメア「うん、大体、わかった」

     お休み、と最後にもう一度だけ頭を撫でてからフレンダは玄関を後にして自分の部屋へと向かう。
     フレメアもその背中におやすみなさいと言ってから、フレンダが帰ってくる直前までいた、居間の方向へと足を向ける。
     本日の姉妹の会話はコレにて幕を閉じた。


    540: SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/22(木) 03:08:32.00 ID:jyGxs/gao

     学生寮、とはいっても彼女らが住むそれは、そこらの学生寮とは一線を画している。
     3LDK……と言ってしまえば話は早いだろう。
     もっと簡単にいってしまうなら、上条当麻の寮に更に部屋が三つ付いている状態。
     とはいっても、先程姉と妹が別の方向へ行ったように一つの部屋は玄関から居間へ向かう途中に設置してあるのだが。
     兎も角、高校生と小学生が二人で暮らすには少々広い間取りな寮なのだ、一人一部屋使ってもまだ一つの部屋が余るほどに。
     これも『アイテム』の恩恵といったところだろう。

     フレンダは部屋に入るやいなや、ベッドに仰向けに倒れこむ。
     彼女の部屋は思った以上にファンシーな雰囲気で彩られている。
     ところ狭しと棚が置かれ、その上には沢山の人形、ぬいぐるみが置かれている。
     無論のことながら彼女が倒れたベッドの上にも沢山のぬいぐるみがいた。
     その中の一つを手に取り、真っ直ぐ上へと持ち上げる。とある第三位が大好きなキャラクターであるゲコ太と呼ばれるカエルのぬいぐるみだ。
     しかし、どれだけ金を積まれようと脅されようと、彼女がこのぬいぐるみを手放すことはないだろう。
     なぜなら、これは。

    フレンダ「当麻がくれた、ものだもん」

     ぱっ、と空中で手放し、胸で受け止めてから力いっぱいに抱きしめる。
     そうだ。これは上条が自分へとプレゼントしてくれたぬいぐるみだ。
     再会してからゲームセンターへ二人で行った時のこと。
     そこで上条が唯一手に入れた戦利品を、フレンダはもらい受けた。
     昨日のことのように、思い出せる。
     きっと、彼もそうに違いない。
     ――――今はもう、そう思うことすらできない。

    フレンダ「どうして――――」

     どうして、死んでしまったの。
     彼女の抑揚のない声は室内にすら響かず、消える。


    541: SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/22(木) 03:26:06.16 ID:jyGxs/gao

     記憶喪失。
     エピソード記憶の消失。
     それはつまるところ、その人の死だと言ってもいい。

    フレンダ「…………」

     腕の中にいるぬいぐるみに、更に力を入れてしまう。
     事実を知り、ショックだった。直後は、何も考えたくなかった。
     だって、上条当麻は死んでしまったのだから。

     幼馴染として積み重ねた思い出。
     同級生として重ねあわせた記憶。
     それらと共に、上条当麻は死んでしまったのだから。

    フレンダ「でも、それでも――――」

     けれど、今はつい数時間前より少し進んだ。フレメアを見て、多少なりとも思考を回復させた結果の賜物だった。
     上条当麻は記憶をなくし、死んだ。
     ――――それでも。
     それでも、彼は生きている。

     『絶対能力進化』。それを上条が止めたという事実を見た時、フレンダは流石当麻、という感想を抱いた。
     その時の彼は、既に記憶を失っているのに。

     彼以外の誰が、なんの特にもならない、無謀とも言える戦いに身を投じることができるだろうか?
     いいや、何人たりともできやしないだろう。上条当麻でなければ。
     逆にいえば、上条当麻でさえあれば、第一位に真っ向から喧嘩を売るなんて真似ができる。

     上条当麻は、生きている。
     記憶を失っても、例え自分のことを完全に忘れていたとしても。
     自分の愛した上条当麻は、まごうこと無く、生きている。


    542: SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/22(木) 03:39:15.87 ID:jyGxs/gao

     生きている。
     しかし、記憶を失っている。
     つまり、それはどういうことか。

    フレンダ「普通の人なら、きっと別人だというかもしれない……ってわけよ」

     自分は絶対に違う。
     上条当麻は、上条当麻だ。
     例え記憶を失っても彼の本質はなんらかわりはしていないのだから。

    フレンダ「けど、記憶はない」

     そう、記憶はない。
     だが、上条当麻だ。
     今の彼は、寸分の狂いもなく『記憶がない上条当麻』なのだ。

    フレンダ「結局――――」

     そう、つまり。

    フレンダ「私はまた、当麻と会える、会うことが出来る――――ってわけよ」

     フレンダと上条が分かたれたのは上条がフレンダの秘密を知ってしまったことにある。
     しかし、当の上条はそれを忘れてしまっているのだ。
     それならば会ってはいけない道理などない。

    フレンダ「…………っぷ、はははっ」

     フレンダは、笑う。
     久しく、心の底から笑う。
     それ程までに、彼女にとっては嬉しいことなのだ。
     相手は、例え記憶が無くとも、その生き様はなんらかわっていない、自分の好きになった上条当麻なのだから。


     まずは、どう挨拶をするところから始めよう?『初めまして』?或いは『久しぶり』?
     元知り合いか知り合いでないかできっと印象はガラリと変わるだろうなぁ、なら、どうしようか――――
     フレンダは疲れきった心身でそんなことを考えつつ、深い眠りへと落ちて行く。


    552: SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/30(金) 00:21:51.40 ID:B9gxW1Fao

    上条「あー……不幸だー……」

     上条当麻は疲れていた。
     学園都市の誇る超能力者、七人しかいないそれのトップにたつ能力者一方通行との戦闘より三日。
     身体的な疲れが完全にとれない(痛みがないわけではないが松葉杖などの補助があれば歩くことも出来る)のもそうなのだが、それよりも見舞いの応答の方が疲れた。
     一日目(入院時の記憶はないが一方通行戦後)の夜中にはミサカ10032号基御坂妹が、二日目にはその姉である御坂美琴とインデックスが。
     そして本日三日目の午前中には以前に一度あったことのある青髪ピアスと、そして上条は覚えていないが寮の隣人だという土御門元春が来た。
     後にも先にもこれほどに緊張したことはなかっただろう。

    上条(隣人でクラスメートだっていうから結構密接な関係だと思ったんだけど……意外となんとかなるもんだなぁ)

     適当に、今までの自分と同じように手探りで話していても少しも疑われなかった……と、思う。
     それの件はそれでほっとしたので大した精神的苦痛にもならなかったわけなのだが。
     問題はその後。午後に訪れた客人にある。
     小萌先生率いるインデックス、姫神秋沙の三人組だ。
     姫神からは『この人はまた。馬鹿みたいに無茶をして』と呆れられ、インデックスには『本当だよ!とうまは全く何もわかってないんだよ!』と再びかじられ。
     最後に小萌先生からは『上から上条ちゃんが退院した後に強制的に外に連れ出せって命令が来たんですけど、上条ちゃん一体何したんですかー!?』と詰問された。
     無論のことながら『一方通行と戦ってました』なんて言えるはずもなく。
     口八丁の口車で不承不承ながらも納得してもらって帰ってもらったのだ。
     上条的には、土御門を相手にするよりこちらのほうがよっぽど疲れたのである。
     はぁー、とため息を吐くと噛まれた頭がズキン、と痛む。

    上条「っつつ……インデックスのやつ、昨日より噛む力が増してないか……?」

     この様子では明日辺りになると頭蓋骨を噛み砕かれるのではないか、と背筋に薄ら寒いものを覚える。
     そんなこんなで、上条当麻は精神的にも肉体的にも疲労しているわけなのだった。
     ぐてー、と食事やモノを置くようのテーブルに上半身を乗せてぐだついていると、慎まやかに、小さく病室のドアをノックする音が響く。

    上条「どうぞー」

     その突っ伏した体勢のまま上条は告げる。
     上条はもう誰が来ても『どーにでもなーれ』状態なのだ。心身ともに疲れたならばきっと誰だってそうなってしまうだろう。


    553: SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/30(金) 00:38:39.29 ID:B9gxW1Fao

     続いて、からからから、と引き戸の音がする。
     上条は誰が来たんだ、とゆっくりと身体を持ち上げてその入ってくる客人を見る。
     思わず息を飲んだ。
     一応インデックスも銀髪だし、一方通行も白髪だった。街中でも髪の色が黒や茶とは違う人は多々見た。
     だから今更どんな人でも(無意識下で)驚かないと思っていたのだが。
     その、綺麗な金髪に思わず目を奪われた。

    フレンダ「失礼します……ってわけよ」

     おずおずと言うそれに上条は現実に引き戻される。

    上条「え、あっ、おっ、おう」

     口篭るのは仕方がない事だ。
     目の前にいるのは金髪の美少女だ。勿論インデックスだって御坂美琴だって姫神秋沙だって美少女とはいえるわけだがこの破壊力は彼女らの何れにも当てはまらない。
     言うならば、絵に描いたような外国人の少女。被っているベレー帽が邪魔といえば邪魔だが、それで魅力が損なわれているわけではない。
     と、上条がじっと見ていると、気まずそうにその少女は口を開く。

    フレンダ「ええと……その、ひ、久しぶり、ってわけよ、当麻」

    上条「あ、え……えっと…………」

     誰だっけ。
     そう出かけた言葉を慌てて飲み込む。
     久しぶり、というからにはいつの知り合いなのかわからないが、自分ではない上条当麻の知人であるに違いない。
     名前で呼ぶということはそれなりの親しさも感じさせる。
     ならばこの一瞬の間は致命的だ。少なくとも名前を当てもしないと収集しないに違いない。
     そう思った上条を先回りするように、その少女は苦笑いを浮かべて言う。


    554: SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/30(金) 01:01:25.97 ID:B9gxW1Fao

    フレンダ「結局、学園都市に来る前だから覚えてない?幼稚園で一緒だった、フレンダだけど……」

     やっぱりね、とでもいうように肩を落とす。
     学園都市に来る前の、幼稚園での知り合い。
     その情報を聞いて上条は若干安心した。これならば覚えていなくとも問題ないかもしれない、と。

    上条「名前は聞き覚えがある……と思う。俺、幼稚園の頃って全然覚えてないんだよなぁ」

     フレンダは椅子に座りつつ、相槌を打つ。
     上条がつい先程まで突っ伏していたテーブルの上にお見舞いの品を置きつつも答える。

    フレンダ「まぁ、当麻はいろんな人と遊んでいたからね。結局、私のことを忘れてても仕方がないってわけよ」

    上条「ごめんな?えっと……フレンダ、だったか?」

    フレンダ「うん、フレンダ。フレンダ=セイヴェルン。もう二度と忘れちゃ嫌……とかいって」

     フレンダは頷き、言った後にてへへ、と笑みを浮かべる。
     それは心からの笑みではなく作り笑いであることは上条にもわかった。
     フレンダ=セイヴェルン。彼はこの瞬間にその名前を脳裏に刻み込んだ。

    上条「それで、どうしてこんなとこに?」

    フレンダ「それは単純ってわけよ。前に病院に来た時に当麻の姿を見かけて――――」

     自分の知らない自分。
     それを知る少女の話に、上条は一片も聞きのがさんと耳を傾けた。


    555: SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/30(金) 01:22:58.51 ID:B9gxW1Fao

     ■   □   ■


    上条「あ、え……えっと…………」

     上条の戸惑う姿を見て、フレンダの胸の奥がぎゅっ、と締め付けられた。
     記憶喪失。それがわかっていて近づいた。
     なのに改めてその現実をつきつけられ、表面上は隠せても心の中ではそれを誤魔化すことなど出来なかった。

     忘れた。
     当麻は忘れた。
     自分のことを忘れた。
     自分との思い出を忘れた。
     忘れた、忘れた、忘れた、忘れた――――

     暴走しかけた、狂うほどに激しいその感情を、無理矢理にねじ込み、飲み込む。
     わかっていた。わかっていて、接触した。
     そしてそれがなければ接触出来なかった。
     そうだ。自分にとって最も大切なのは上条当麻自身ではないか。
     例え記憶を失っている、自分を知らない彼だとしても。芯は彼であると自分は知っているではないか。
     ならば、上条当麻は上条当麻なのだ。
     現に、ほら。もう二度と忘れちゃ嫌だ、と、冗談めかして言った自分に対して彼はそれを虚だと見抜いて、しかしそれを言わないではないか。
     恐らく、絶対的に忘れないように心に刻んでいるに違いない。
     自分の話の一つをとって、自分を本物に近づけようとして周りを傷つけないようにしようとしているに違いない。
     それならば、ほら。やはり、彼は上条当麻なのだ。

    上条「じゃあ、俺とフレンダって――――」

     上条が質問をしてくる。
     こんな日が、やってくるなんて思ってなかった。
     こんな日が、二度と来るなんて思ってもみなかった。
     しかし、その一度失い、そして夢見た日々が目の前にある。
     それだけでフレンダの心は、その底から温かい思いで満たされていた。

     そして、彼女は決意する。
     今度こそ。
     そう、今度こそ。

    フレンダ(――今度こそ、間違えない)

     二度とこの景色を失わない、と。
     少女はその心に、唯一の大切な想いを刻む。


    578: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/02/12(日) 14:55:51.75 ID:3IbwCkvTo

     ■   □   ■


    滝壺「フレンダ、最近随分と機嫌いいよね」

     八月二十五日。第七学区の地下隠れ家にて。
     取り立てて活動のなかった『アイテム』が解散してすぐに滝壺が言った。
     ちなみにその話題の人物であるフレンダはこの場にはいない。食べかけていた鯖缶(煮付け)も食べかけそのままにさっさと場を去ってしまっていた。
     麦野はソファーに腰を深く落としてテレビを見ていたのを止め滝壺を顧みて、絹旗は食べ残した鯖缶を冷蔵庫にしまいつつ。

    絹旗「まぁ、何かあったんだろうな、ということぐらいは超わかりますね」

     仕事関係でいえば最近フレンダに起きた良かったことなど彼女らには思いつかない。
     良くなかったこと、なら思い当たることも無くはないが。
     数日前に窶れたフレンダを見たのを絹旗と滝壺はまだ忘れていない。
     麦野もそれに心あたったのか口元を少し釣り上げた。

    麦野「大方、マゾにでも目覚めたんじゃないの」

    絹旗「それは流石に超ないと思いますけど」

     絹旗はけらけらと笑う麦野に若干呆れる。
     あの様子では確かにマゾになったほうが楽は出来るだろうが、そうするには人間として大事な何かを捨てなければならないだろう。
     というかオシオキの後真っ白になっていた時点でその線はない。

     となればあとはプライベート、ということになるのだが。
     彼女らは互いのプライベートをあまり知り得ていない。絹旗が稀に皆を誘って映画を見に行くが大体はそれだけだ。
     それだとしても『良い事』となれば大体の予想はつくわけだが。


    579: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/02/12(日) 15:47:28.93 ID:3IbwCkvTo

     長期間的に喜びが続くものといえば、大量のお金でも手に入ったか、いい玩具でも見つけたか。
     他の場合もあるが個人によって大きく左右される。
     フレンダの場合ならぬいぐるみや人形でも発見したのか、或いは……

    麦野「男か」

    絹旗「……え、超なんですかそれ。フレンダが?男?」

     絹旗は割と激しい動揺を見せる。
     何を今更、というように麦野はテレビを眺めながら答えた。

    麦野「絹旗、アンタ知らないの?前にフレンダが学校に入った理由、あれ男よ」

    絹旗「えっ……え、えぇ…………?」

     その新情報に改めて絹旗は動揺する。
     知ってましたか?とでも言うように滝壺を見るが彼女も横に首を振った。
     その様子を見て、そっか言ってなかったか、と麦野は小さく呟く。

    絹旗「ちょっと、待ってください……ええと、つまりフレンダは男を超追いかけるために学校に通ってる……いや通ってた」

    滝壺「そういえば、通ってる時のフレンダも最近の様子に似てた気がする」

    麦野「そゆこと。学校をやめた理由は何故か知らないけど、振られたかどうかしたんでしょーよ」

     もはや真剣に考察するのには飽きたのか最後の方は割と投げやりに彼女は言い、テレビへと意識を戻す。
     しかし絹旗はそれを聞いて、滝壺の横に腰を落としてまた考えに耽る。

    絹旗(……フレンダは、然程遊び人ってわけでもありません。寧ろ超一筋っぽい生き方をしてます)

     何があってもフレメアを守ろうとしたところなど最たるところだろう。
     大事なものは何があっても守る、そんな生き方をしている。

    絹旗(そんなフレンダが、一度超振られたからって男を捨てて他の男に走るでしょうか……いや寧ろ、振られた程度では学校を止めない気が……)

     絹旗は深く悩み始めて、そしていつの間にか眠ってしまうのは数分後の事。


    590: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/02/19(日) 23:11:46.82 ID:uSVHjpCCo

     そんな自らが身を置いている組織のことなど露知らず。
     フレンダは今にも空を駆けそうな程に機嫌が良かった。
     その腕の中には何も持つものはないが、彼女の能力があれば別段手ぶらだろうと構わないだろう。

    フレンダ「んー……でも、結局これとかでよかったのかな?」

     彼女が思い浮かべるのはここを通る道すがら購入したお菓子類である。
     見舞いといえばお菓子、そしてフルーツだが如何せん、日常茶飯事だった上条の入院に態々そういったものを渡すことは先の一年なかったのだ。
     しかし今は、『久しぶりにあった幼馴染』という設定なのだから何かしらのお近づきの印というものが必要だろう。
     食事に誘う、というのも考えたのだがまだ学生である身分にして、そういうのは少し大人伸びすぎだとも思った。
     高校生という子供でも大人でもない、この中途半端なお年頃。誠に不便だと思う。
     というか最近再会した(という設定)の幼馴染に、こんな短期間で二回もあっていいものなのか。

    フレンダ「我ながら、少し逸っちゃったわけよ」

     後少しでも考えて行動すればよかったかなーと思うも後の祭り。
     しかしやらないで後悔するよりはやって後悔する方がいいとも言う。
     また善は急げと言葉が示すように、ゆっくりしていたら虎視眈々と少年を狙っているハイエナにかっさらわれてしまう可能性も決して小さくはない。
     果たしてフレンダは上条にとってどんな行動を起こせばよかったのか。
     正解などきっとありはしないが、一度見舞いに行った後、もう一度会うには難しい距離感を思うとそう考えずにはいられなかった。

    上条「おーっす、こんなとこで何してんだー?」

     まぁ、その悩みなど少年にはほと関係なく、簡単に打ち破られてしまうわけだが。

    フレンダ「!???!?」

     松葉杖をついて、まだ包帯を巻いている上条の姿を見て、フレンダは激しく動揺する。
     同時にぼとぼとぼと!とスカートの端から様々なお菓子がこぼれ落ちた。


    591: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/02/19(日) 23:42:09.68 ID:uSVHjpCCo

    上条「おわっ!?な、なんだ?」

     上条は突如として出現したお菓子に驚く。
     が、フレンダにはそんなことよりも目の前の少年の方がひたすらに重要なのだ。

    フレンダ「とととととっ、当麻!?あれ、どうして結局こんな所にいるってわけよ!?」

    上条「どうしても何も、ただ上条さんは退院しただけなのでありますが」

     いや、それはわかっているのだ。
     わかっていたから今病院に向かっていたのだ。
     そこでどんな顔をしてどんな風に退院祝いを渡そうかと、或いは別のことにしようかと悩んでいたのに。
     道すがら、突如としてその本人が登場したなら混乱せずにはいられない。
     だが会えて嬉しくもある。そんないろんな感情がごちゃまぜになって、フレンダは地団駄を踏んだ。

    フレンダ「――――ッ!病院を出るのが早すぎるってわけよ!」

    上条「えぇー!?なんなんですかその逆ギレ!?上条さん一体何かしましたか!?」

     なんだなんだ、と周りの少年少女達が上条とフレンダを見る。
     その様子に気付き、はっ!と顔を赤くして周りを見て、しゅん、と大人しくなる。
     できるならとっとと離脱をしたいところなのだが上条が怪我をしている以上引っ張っていくのは難しい。
     だからといってフレンダだけが去ると、彼の思考からして『なんだったんだ……』で終わってしまうに違いない。
     結果的に取れる選択肢は絞られる。無茶な因縁をつけて怒鳴り続けるか、或いは何もかもを押し込んで羞恥に耐えるか。
     これまでの上条との関係ならばきっと前者をとっていただろうが、やはり今の関係だとそういうムチャぶりも難しい。故に後者を選びとることとなる。
     とまぁ無理矢理に理由付けてしまえばそうなるが、実際にはただ感情が混ざり合った延長線上で何をどうすればいいのかわからなくなっただけだ。

    フレンダ「あ、あうあう……」

     フレンダの様子がおかしくなって上条は先程までとのギャップに首を傾げた。
     上条にはコレぐらいの視線など気にするモノにも入らないらしい。
     というか視線が気になるのだったらいちいち人助けなどしていられないだろう。


    592: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/02/20(月) 00:19:54.29 ID:d+GXsckao

    上条「んー……ってかとりあえずこれ拾って移動しないか?動いてるとそうでもないけど立ちっぱなしだと結構辛いんだ」

    フレンダ「え、あ、う、うん」

     言われて生返事を返し、ようやく地面に散らばった惨状に気付く。
     慌ててしゃがみ込み、拾った菓子類をベレー帽の中に次々としまい込む。
     さながら、それは手品そのもので様子を見ていたギャラリーは勿論上条すらも呆気に取られる。
     何かしらの能力だ、とは察しはついてもモノをしまい込む能力などと一瞬では判別つかないだろう。

    フレンダ「さて、と」

     全てしまい終わったフレンダの思考はもうスッキリとしている。
     結果的に退院見舞いをする、という計画は狂ってしまったがその帰り道に会えたのだからまだまだ運は残っているに違いない。
     ならばこれを生かしてやろう、とフレンダは心中で自らを鼓舞する。

    フレンダ「じゃあとりあえず、そこら辺の喫茶にでも入って涼もう……ってわけよ」

    上条「あ、ああ」

     楽しげに先を行くフレンダを上条は松葉杖をついて必死に追う。
     そんな彼らの後ろ姿を、一部始終を見ていた人々は『なんだったんだろう一体』と首を傾げるのだった。


    608: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/02/27(月) 01:13:47.01 ID:UiBp4k76o

     喫茶店、と言っても学園都市には様々なものがある。
     貧乏学生が入るようなファミレスから、学園の園のお嬢様達が立ち寄るような高級店まで、多種多様の店がある。
     無論のことながらそれはバッグや服などの多様のジャンルにも相違ないと言えるが飲食店においての格差は著しい。
     
    フレンダ「私は、ガトーショコラとミルクティーのセットをお願いするってわけよ」

    上条「えーっと……俺は……」

     上条はメニューに目を落として言葉を詰まらせる。
     彼らがいるのは店の隅から隅まで話し声が聞こえるような学生御用達のファミレスではなくもっと静かな雰囲気の漂う喫茶店だ。
     シックなBGMが店内を包み込んでいて、席は全て埋まってはいないが訪れている客は良い育ちだと人目でわかるような上品さを漂わせている。
     つまるところ、『いい雰囲気』の店だということだ。
     勿論通常のファミレスならワンコイン、高くても一枚にも届かない料理がこういう所では簡単に倍の料金を叩き出したりする。
     メイド喫茶のようなコーラを頼んだだけで500円などということはないだろうが、それでも財布の中身を心配せずにはいられなかった。
     家に帰ったら大飯食らいの居候にも食事を用意しなければいけないのだ、財布の中身を多く残しておくことに越したことはない。
     そんなこんなで悩んでいる上条をちらりと見て、フレンダは嫌な汗をかいている上条のメニューをその手から抜き取った。

    フレンダ「こっちの人には和風オムライスとアイスコーヒーで」

    「かしこまりました」

    上条「あっ、ちょっ」

     上条が止める暇すらもなかった。
     上品に注文を承った店員はフレンダからメニューを受け取って店の奥へと消えてゆく。

    上条「ふっ、フレンダさん!?上条さんはこんな高そうな所で食べるお金なんてあまりないのでございますが!?」

     慌ててそう告げる上条に、フレンダは溜息を吐いて肘をつきながら答える。

    フレンダ「結局、当麻ってば周りを見ろってわけよ」


    609: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/02/27(月) 01:34:19.82 ID:UiBp4k76o

     言われ、ふと回りに意識を集中させるといいところのお嬢様方が上条達のテーブルをみてクスクスと笑い合っていた。
     別に彼女らは『庶民が私達と同じ処で食事をとっておられるわ』などと思っているわけではなく、言うならば馬鹿な行動をした弟や妹を見る年上の兄弟の様な感情を抱いているのだ。
     言うならば『大人の余裕』といったところだろうか。
     女性の精神の成熟は早いとはいうが、育ちも良ければその成長もまた優雅に育つのだろう。
     それを察して上条は恥ずかしさに顔を赤くした。
     道端での衆目に晒されるのは平気のようだがこういう場所においては雰囲気に飲まれてしまうらしい。

    フレンダ「……心配しなくても結局、今日は私のおごりだから。気にしなくてもいいわけよ」

    上条「……いやいやそんな、悪いだろ」

     今度は音量をちゃんと調節した上条が言う。
     お金がないとはいっても奢られるのはその言葉の通り相手に悪いと思っているのだろう。
     しかし、フレンダには一応ながら、大義名分の理由がある。

    フレンダ「そんなことないってわけよ。今日誘ったのは、ほら。つまり当麻の退院祝いなわけだから」

     だから来るのが早いとか言ってたのか?と上条は僅かに首を傾げる。
     が、そこはやはり上条当麻である。自分に何かをしてもらうなんて相手に悪いという考えの持ち主だ、千幾ら程度の食事でも受け取れない。

    上条「そんなこといってもな……さっきはお金なんてあまりないっていったが、いや実際そんな多いわけじゃないけどさ。
        飯を食えるぐらいはあるから、やっぱり自分の分は自分で払うよ」

    フレンダ「別に遠慮なんてしなくていいってわけよ。結局当麻って、自分から勝手に相手に何かしに行くくせに自分がやられるのは嫌なのね?」

     自分がされて嫌なことは相手にするなって習わなかった?と皮肉交じりに言う。
     それとこれとは違う。そうは思っても上条には反論できなかった。

    フレンダ「たまにはご褒美として受け取ってもいいんじゃないかって私は思うわけよ。
          そうじゃなくても、態々『何々してくれる』って言ってるんだから、それを断ったらその人の顔に泥を塗ることになるし、ね?」


    610: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/02/27(月) 01:51:55.06 ID:UiBp4k76o

     フレンダは言外に告げていることを上条は察す。
     『いいから好意を受け取れよ、お前は私の顔に泥を塗る気か?』と。
     ニュアンスはもっと別なものに違いないが、彼女の言葉を要約するとそういうことに違いない。
     流石に善意でしてくれていることを何度も断るのは失礼に当たるということぐらいは上条も知っている。
     仕方がないとばかりに上条は溜息を吐いて答えた。

    上条「わかった。それじゃ遠慮無く奢らせて頂きます」

    フレンダ「それでよし、ってわけよ」

     満足そうな笑顔を見せるフレンダを見て、上条もつられて口元を釣り上げる。
     そんな時、まるで見ていたのではないかというタイミングで注文の品がテーブルへと届いた。
     ちゃんと訓練されているのか、店員に頭の上にひっくり返されることもなく目の前に並べられたオムライスからはバター醤油の良い香りが漂っている。

    上条「それじゃあ、いただきまー……」

    フレンダ「ストップ!」

     手に持ったスプーンをオムライスへと突き刺そうとした瞬間に目の前に座る少女から『待て』の命令が下る。
     思わず止めた手からサッ、とそのスプーンは奪い取られ、上条が入れる筈だった初めての切れ込みはフレンダが入れることとなる。
     何が起こっているのかと唖然とする上条の前にぐっ!とつきつけられたのは無論のことながらスプーンに載せられた、ご飯が卵に包まれた料理の一口分。

    フレンダ「あーん」

     ともすれば語尾にハートでもつきそうな程甘ったるい声でフレンダは突きつける。それも、満面の笑みで。
     上条はつい包帯を巻いた両手をあげて、降伏を示した。

    上条「あの、フレンダさん?上条さんはまだ怪我は完璧に治ってはいませんが、一応スプーンとかフォークとかは使えるわけでして」

    フレンダ「あーん」

    上条「であるからして、上条さんはフレンダさんから子供のように態々口に入れさせてもらわなくても一人で食べれ、」

    フレンダ「あーん」

    上条「フレ、」

    フレンダ「あーん」

     駄目だこれは、逃げられない。
     観念した上条がその後オムライスを全て口に入れるまで、10分以上の時間を要したのだった。


    638: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/11(日) 22:06:51.60 ID:1RN8OGe4o

    フレンダ「じゃあ、またねー!」

     喫茶店を出た後、フレンダは手を振って上条から遠ざかってゆく。
     上条は松葉杖をついているため手は振り返せないが故に言葉だけで返し、遠くに消え行く少女を見送った。
     少女が見えなくなった後、上条は小さく溜息を一つ。

    上条「……なんだったんだろう」

     正しく、風と共にやってきて、風と共に去る。
     道端にいたのを話しかけたのは上条のほうだが、そのまま連れさらわれたに等しいのだから問題はないだろう。
     そういえば病院を出るのが早すぎだと言ってもいたし、結局やることは変わらなかったに違いない。

    上条「奢ってもらえたのは正直嬉しいけど、あのプレイはもう勘弁」

     やれやれ、と上条は深い溜息を吐いた。
     食べ終わるまでの十分間、店内にいた人たちの温かい視線に包まれていたのだ。溜息を吐きたくもなる。
     心なしか、店員さんまでそんな視線をしていたような気もした。

    上条「でもま、幼馴染って言ってたし……ああいうこともやってたのかな?」

     記憶がない以上、想像することしかできないが。
     彼の辞書に、幼馴染というのは第一に幼い頃仲の良かった人物、第二にゲーム等において大半の場合無条件にフラグの立っているキャラクター、だ。
     後者はさておき、前者の方を考えるならばやはり鉄板イベントの『一緒にお風呂』とかもこなしていたのだろうか、などと考えてしまう。

    上条「いやいや、それはないだろ流石に」

     幼馴染とはいっても流石にそういうことは聞けないし、胸に永遠の謎としてしまっておこう、と誓う。
     しかし、その彼女に関して疑問に思ったことが一つあるのだ。

     どうして彼女は今更ながら、自分に会いに来たのだろう。


    639: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/11(日) 22:26:01.73 ID:1RN8OGe4o

     先日初めて会った時、彼女は自分を自分だと確信しているような物言いだった。
     理由を聞いたら、あの時はそういうこともあるのかもしれないなーと思ったが、よくよく考えてみるとやはり僅かに不自然なのだ。
     あの日、理由を尋ねた上条に彼女はこういった。

    フレンダ『それは単純ってわけよ。前に病院に来た時に当麻の姿を見かけて――――』

     それ自体は不自然ではない。
     が、彼女は初めに『久しぶり』といい、そして名前で呼んだ。
     その二つの事実を照らし合わせてみたら、ほんの少しだけ疑問に感じる点がある。
     もし、自分がフレンダならば。きっと、初めにこう言う筈だ。

    フレンダ『ええと……当麻、だよね?』

     そう、つまり。
     確認作業が、抜けていた。
     入り口に名前が書いてあったとしても、外見を予め見ていたとしても。久しぶりにあった知り合いを互いに認識するためには先ず尋ねるだろう。
     当麻、と呼ぶほどの親しさ。きっと今も彼女は、自分をそれなりに親しい幼馴染だと感じているのだろうと思う。
     だから間違えないのだ、と言われてしまえばそれまでなのだが。そうなるとやはりおかしいのだ。
     以前に見かけた時に、フレンダは上条に話しかけなかった、という事実が発生するのだから。

     すると、一つの仮説が浮上する。
     フレンダは上条を昔から認識していて、その上であえて今まで話しかけていなかった、という仮設が。

     考えすぎ、と言われたらそうなのかもしれない。
     気のせいだ、と言われたらそうなのかもしれない。
     が、考えたくはないが、或いはその仮説が会っていて、今更接触してきたことに何か裏があるのだとしたら、それは――――

    「――――上条、当麻……だな」


    640: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/11(日) 22:51:25.11 ID:1RN8OGe4o

    上条「…………っ!」

     ゆっくりとインデックスの待つ自宅へと進めていた松葉杖を、止める。
     その声は、鈍く、鈍く。
     名前を呼ばれなければ、『ただの雑音だろう』と片付けてしまうだろうほどに鈍く平坦な声。
     言葉を変えるならば、無機質だとも言える。
     その声は、上条に自らの言葉が届いたことを確認して尚続けた。

    「数日前……今まで幾人もの能力者達、スキルアウト達が挑み敗れた……『最強』を倒した。……間違いないな」

     見れば、ビルとビルの隙間。僅かな影。
     その影に紛れて、自分より一回り大きな巨体が身動ぎしたのが見えた。
     瞬間上条が思うのは、どうやって逃げるか、ということ。

     小萌先生はお見舞いに来た時に上層部からの伝言とやらを教えてくれた。
     曰く、『腕に覚えのある不良ちゃん達が上条ちゃんを狙って大々的な人間狩りを始めてしまったので、退院したら少しの間、外に追い出してくださいって命令されたんですよー!?』と。
     学園都市最強という地位と名声を手にしたい能力者か、或いは無能力者か――それはわからないが、路地裏でよく遭遇するスキルアウトと同じような雰囲気を発しているのはわかった。
     故に、逃げの選択肢をとる。

    上条(けど、俺だってまだ全力じゃはしれねぇし……そもそも逃げた所で、名前が割れてるんなら寮まで追いかけられるかもしれない……)

     もし寮がバレていないのだとしても、バレるのは時間の問題だろう。
     そして、そうなれば我が身だけではない。インデックスまでが危険に晒されてしまう。
     それだけは、なんとしても避けなければ。
     兎も角、一当。今の自分の全力でぶちかまして、運が良ければ記憶も吹っ飛ぶ。その隙に逃げる。

    上条(……怪我してると油断して襲いかかってきたところをカウンターで……!)

    「……何か、勘違いをしているようだが」

     身構えた上条に、巨漢は諭すように言う。
     相も変わらず、平坦な声で。


    641: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/11(日) 23:12:38.34 ID:1RN8OGe4o

    「俺は……『最強』の座を必要としてはいない。……その座を手に入れたことで強大な力が手に入るなら別だが、そうではあるまい」

     その真偽はわからない。
     顔色を確かめようにも影に隠れ、彼の人相すら伺えない。
     尚も警戒を解かず、上条は恐る恐るといった様子で影に向かって投げかける。

    上条「……じゃあ……なんだ?なんで、お前は俺に接触してきた?」

    「学園都市最強の超能力者を倒した無能力者……そして、その志の方向は同じとなればこそ。俺の正体をしれば容易に想像がつく……」

     上条の見ている前で、彼は一歩、表の道へと踏み出す。
     まず上条が感じたのは、圧倒的な存在感。
     それは常人の倍はあろうその体躯故に、ではない。彼そのものの存在が、大きいのだ。
     だが同時に、影に紛れることの出来るほどの身のこなしも持っている。
     異質――――。
     そういうのが、相応しいと上条はふと思った。
     こんなのにカウンターを決めた所で記憶どころか、果たしてダメージすらも与えられるかどうかを考えることすらも馬鹿馬鹿しくなる。

    「俺は、駒場利徳。ここら一帯のスキルアウト……それらを束ねる代表者、とでも言おうか……」

    上条「駒場……」

     聞いた覚えはない。記憶にもその名前は見当たらない。
     が、嘘を言っている様子は見られない。
     そんな彼が上条に接触してきた理由を考えると、彼の言ったとおりに簡単に思い当たった。

    駒場「それで……どうだ。高待遇で迎え、」

    上条「お断りだ」

     きっぱりと。
     上条は最後まで聞く必要はないと言わんばかりに、駒場の言葉を叩き斬った。


    642: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/11(日) 23:28:33.40 ID:1RN8OGe4o

    上条「組織されてるスキルアウトがどんなことを目的にして活動してるのか、なんてしらねぇ。だけど、スキルアウトは大体の場合において人に迷惑をかけてる奴らだ」

     俺だって何度襲われたことか、と呟く。
     記憶を失って以降でさえ、この夏休み中に3、4回絡まれているのだ。
     記憶は無いが、学園都市に来てからを考えると、両手両足の指では数えきれないに違いない。

    上条「そのせいで、無害な無能力者すら恨まれることだって少なくない。そんなことをしている奴らの仲間に、俺はならない」

     もしくは、駒場利徳の話をしっかりと聞いたなら。
     上条当麻は、スキルアウトに入っていた道もあったのかもしれない。
     が、今の上条の言うこともまた真実であり、絶対なる事実である。
     故に駒場は、その揺るがない表情をほんの少しばかり、残念そうに顔を歪ませた。

    駒場「そうか……残念だ。ならば、去るとしよう。気が変わったなら、いつでも尋ねてくれ……」

     足を後ろに下げて、再び路地裏へと消えてゆく駒場に対して上条は少しばかり呆ける。
     スキルアウトというなら、断るなら襲ってくるとばかり思っていたのだが。
     この駒場利徳という男は、そこらのスキルアウトとは考えが異なっているらしい。

    駒場「……そういえば、あの舶来は……お前が助けたのに、よく似ていたな」

    上条「舶来……?」

    駒場「或いは同一人物か……。果たして、子供の成長というのは早いものだ……舶来ならば、尚更か」

    上条「おい、ちょっと、まっ……」

     呼び止めようとしたが、時既に遅し。
     駒場は現れた時と同じように、音もなく、闇の中へと消えてしまった。
     上条は言い知れない疑惑と共に、暫しの間そこで立ち尽くした。


    654: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/21(水) 21:55:26.14 ID:Ao5QWZ7To

     ■   □   ■


    インデックス「ゼッタイ、許さない! とうまの頭骨をカミクダク!」

     そんなこんなで、上条の日常は不幸と絶叫から再開された。

    上条「痛い痛い痛いですってインデックスさん!? やめてやめて、死んじゃう死んじゃう!?」

    インデックス「ほれくらいはははひんはほ! ほうははひひどひはいへほひはほうはひひんははは!」

    訳『これぐらいじゃ甘いんだよ! とうまは一度痛い目を見たほうがいいんだから!』

     不幸だー!と上条当麻は嘆く。
     折角。折角学園都市の外に出たというのにマトモに羽休めもできず、海岸から実家まで往復したりしたというのに。
     『御使堕し』の解除を試みようと頑張ったというのに。

    上条「この仕打ちはあんまりだだだだだだだだ――――――――――っ!?」

     ガガガガガッ! とインデックスの歯、否、牙が上条の頭蓋に打ち付けられる。
     最早激痛どころの騒ぎじゃない。ヘタをすれば、いやヘタをしなくとも今回土御門から受けたダメージよりも深いのではないだろうか。
     そしてインデックスがまだ怒りは収まらんとばかりに(話しかけられただけで埋められたのだから当然といえば当然だが)、顎に力を入れ始めた瞬間。
     こんこん、と病室の戸が叩かれた。

    上条「ほっ、ほらインデックスさん! 誰か来たから! お客様が来なすったからぁあああああああああ!?」

    インデックス「誰が来たからって、そんなの関係ないんだよ!」

     ギャ――――――ッ! という悲鳴をBGMにその客人はスルリと病室内へと入って彼らを唖然とした顔で目撃する。


    656: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/21(水) 22:26:31.03 ID:Ao5QWZ7To

    フレンダ「な……何をしてる、ってわけよ……?」

     その彼女の言葉に、インデックスはようやくその口を上条の頭から放し、上条はその隙にインデックスを引き剥がす。
     ぜー、ぜーと肩で息をするだけで済んでいるのは正直僥倖に近い。
     そして入室してきたフレンダを確認して助かった、とばかりに笑顔を見せつつ、声をかけた。

    上条「ようフレンダ、一体どうしましたのですか?」

    フレンダ「いや……結局、風の噂で当麻が外から帰ってくるなり病院に運ばれたって聞いて駆けつけたんだけど……」

     言いつつ、彼女の視線は銀髪碧眼少女へと集約される。
     その彼女も、見知らぬ金髪蒼眼の少女を見遣り、視線を外さずに上条に尋ねた。

    インデックス「とうま、この金髪白人は誰なの? 知り合い? とうまのことを名前で呼ぶとかどんな関係?」

    フレンダ「それはこっちの台詞、ってわけなんだけど。当麻、結局このシスターは誰?」

     ええと、と上条は言葉を詰まらせる。
     フレンダは彼女曰く幼馴染だ。しかしインデックスの説明が難しい。
     魔術云々の話を抜きにしたとしても自分は出会いを覚えていないのだ。
     いうならば……

    上条「こっちは、インデックス。ぶっちゃけただの居候……だな」

    インデックス「ただの!? とうま、今私のことただの居候って言った!?」

     居候=同居人。その結論に言葉を失くすフレンダをよそに、インデックスは上条の言葉へ噛み付く。
     ぎゃーぎゃーと騒ぐ彼らを目の前に、我を取り戻すのは案外早かった。
     どうしてそんなことになったのか、という理由について考え始めると彼の性質を考えると直ぐに思い当たる。

    フレンダ「あー……なるほどなー……」


    657: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/21(水) 22:38:49.75 ID:Ao5QWZ7To

     何かに納得したような声を出すフレンダにインデックスは指を向けた。

    インデックス「それでとうま、こっちの女はどこの誰なの!? まさかまた私のしらない所で引っ掛けてきたりして――――」

    フレンダ「いやどちらかといえば逆、ってわけよ」

     その言葉にインデックスの目付きが鋭くなり、フレンダを射抜く。
     数多の修羅場を潜った覚えのあるフレンダはその視線など物ともせず、言葉を探るように続けた。

    フレンダ「んーと……私はフレンダ、フレンダ=セイヴェルン。当麻が学園都市に来る前からの知り合い……つまり幼馴染ってわけよ」

    フレンダ「とはいっても、結局再会したのは最近。だから逆、ってコト」

     新ヒロインではなく、元祖ヒロイン。
     思わぬ伏兵にインデックスは僅かに慄く。

    上条「まぁ、そういうことだ……つっても、フレンダにせよインデックスにせよこの上条当麻、何もやましい事はありませんとのことよ?」

     その瞬間だけは互いに警戒する少女達の想いが一致する。
     嘘をつけ。


    659: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/21(水) 23:00:11.97 ID:Ao5QWZ7To

    フレンダ「ま、いいか……とりあえずこれ、お見舞いの品」

     いいつつ、後ろからとりだしたその缶は以前にも見覚えのある。
     御坂美琴が買ってきたクッキーと同様のもの。あの後に調べて、上条では気軽に買えない料金だったのを覚えている。
     それを受け取って、更にもう一つ同じものが乗せられた。
     あの高いのが二つも!? と上条は戦慄を覚え、しかしその上条はきにせずにフレンダはインデックスへと視線を向ける。

    フレンダ「結局もう一つのはあなたが食べていいってわけよ」

    インデックス「……もしかしていい人?」

     おずおずと疑問形で尋ねるインデックスに、それは自分の判断基準で考えろ、と思いつつ。
     もしかしたら、と思いこちらから申し出てみる。

    フレンダ「……お望みなら、もうひとつ乗せるけど」

    インデックス「金髪、貴方いい人! 頂戴!」

    上条「いけません! これ高いんだから!」

     再び騒ぎ始める二人。
     彼らを眺めて思わず苦笑いをし、銀髪少女のお望み通りサイドテーブルにクッキーの缶を一つ置いて踵を返す。
     そんな彼女の背に上条は一旦インデックスとの口論を止めて、声を投げかけた。

    上条「もういくのか? ちょっと話したいこともあるし、少しゆっくりしていったらどうだ?」

     それは、とても魅力的な申し出だけれど。
     フレンダはその顔だけを振り向かせ、答える。

    フレンダ「今日はちょっとバイトがあるから遠慮しとくってわけよ。それじゃまたね、当麻」

     そう言って彼女は笑いかけ、軽く手を振った。
     上条には、その顔が何故か一瞬寂しげに見えて。
     瞬きをすれば掻き消える幻想に意味も分からず心が強く締め付けられた。


    660: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/21(水) 23:20:30.30 ID:Ao5QWZ7To

     ■   □   ■


     時は少しばかり巻き戻る。
     フレンダが病室に辿り着く直前のこと。
     彼女は廊下で、上条の隣人でありクラスメート、そして超能力者であり魔術師でもある彼が真正面から歩いてくるのを見た。

    フレンダ(っ……)

     警戒するのは当然だ。
     なにせ彼は彼女を知っている。
     自分がいついなくなってもいいように学校の生徒とはなんら接点をもたなかったが、上条の知り合いとなると別だ。
     ほんの少しでも、関わらざるを得なかった。
     そしてまた、彼が記憶喪失するまで自分を探すことを手伝ってもらっていた、或いは話していた可能性もある。
     だから染められた金髪にアロハを着込んでいる彼が単純にすれ違った時、ほっとしたのだ。
     安心して上条のところにいける。そう思った瞬間。

    土御門「安堵したか?」

     ゾク、と背中にナイフをつきつけられたような尖い殺意と言葉が自らに冷や汗を垂らさせる。
     素早く振り返りながらバックステップで距離をとり、その彼と向き合った。
     その少年はサングラスの奥で、フレンダをしかと捉えている。
     いつでも武器が出せるように道具箱を入れ替えつつ、後ろ手にスカートの中にそれを入れる。
     が、相対する彼は構えず、言葉を投げかけてくる。

    土御門「安心しろ、危害を加えるつもりはない」

    フレンダ「……それを、信じろってわけ? ついさっき、殺意を向けてきた奴の言葉を?」

     尚も警戒し、先手必勝と思い武器を出そうと考えるのも束の間。

    土御門「ここには人目が多いからな。俺達のような奴にはそういうのはあまりよろしくない」

     確かに、ここは病院で、そして廊下だ。
     今は人気が全くないとはいえ、両側に並んでいる戸を開けば人がすぐそこにいるのだ。
     フレンダは武器を出すのは止め、しかし警戒は解かずに彼へと尋ねる。


    661: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/21(水) 23:40:48.70 ID:Ao5QWZ7To

    フレンダ「……結局、何が目的……ってわけ」

    土御門「まぁ、聞けよ」

     フレンダの問いに土御門は答えず、ズボンのポケットに手を突っ込みながら続ける。

    土御門「お前がいなくなった時、俺と青ピは『フラレたか』と思いカミやんにその件について問い詰めたんだ」

    土御門「だが、カミやんは何も言わなかった。青ピはそれ程までにショックだったんだ、と納得したようだが俺は違った」

    土御門「少し調べたらお前は元からいなかったことになっていた。また少し調べたら、お前がこっち側だということに簡単に辿りついた」

     所属まではわからんがな、と笑い飛ばしながら言う。
     余裕のありそうな彼に対して、フレンダにあまり余裕はない。
     土御門元春、その目的が全く見えてこないからだ。

    土御門「そう睨むな。お前がカミやんのことを思って身を引いたことぐらい俺にはわかるし、カミやんにお前がいたことを教えてお前の目的をぶち壊すなんて無粋なことをするつもりもない」

    フレンダ「じゃあ、結局何……ってわけよ」

    土御門「フレンダ=セイヴェルン、お前は学校をやめてからもカミやんを見守っていたんだろうな。そして今からも影から様子を見に行くんだ、違うか?」

     その通り、だが。
     この何もかもを見透かしたような奴にそんなことを正直に言う義理はない。
     その敵意は知らず知らずのうちにフレンダの視線に隠っていて、それを逸らすように土御門はクイ、とサングラスを軽くあげた。

    土御門「おいおい、別に何も邪魔するつもりはない。だが一つ忠告しておく。今はやめておけ、でなければきっと後悔する」

     フレンダは目を細める。
     後悔する、の理由が見当たらないからだ。
     その内容を吟味していると、目の前のまるで街に入れば胡散臭いほどこの上ない少年はフレンダへ背を向けていた。

    土御門「まぁどちらを選ぶにしてもお前の自由意思だ、好きにすればいい」

     だが、と。
     土御門は一瞬だけ振り返り、そこにいるフレンダを一瞥する。

    土御門「今のは同じ守るべきものを持つ奴の忠告だ」

     そう言って、土御門は去っていった。
     見えなくなった所でようやくフレンダは構えを解いたが、冷や汗は拭えない。
     自分も相当な使い手の筈だが、アレは得体の知れない何かを秘めていたから。


    662: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/21(水) 23:50:09.89 ID:Ao5QWZ7To

    フレンダ「…………はぁー」

     そして現在。
     少女が佇むのは屋上。
     シーツが風に揺られてバサバサと音を立てる。
     その給水塔の足元に彼女は体育座りをして溜息を吐いた。

    フレンダ「なるほどなー……」

     フレンダは病室で呟いたその台詞をもう一度呟く。
     上条の様子を見れば、あの少女とくっついた、というわけではない。
     だからその親しさは関係ない。
     しかし、あの忠告の意味がよく身にしみてわかったからだ。
     自分の場所が取られてしまったことほど、辛いものはない。

    フレンダ「……でも、チャンスはまだ残ってるわけだし」

     そもそも上条と付きあおう、などと考えた事は一度もない。
     自分はたまに、隣に居られる存在であればいいから。
     例えば彼が躓いた時、その肩を支えてあげる程度の存在であればいいから。
     付き合ってしまえばそれこそ自分の事情に否応なく巻き込んでしまい、本末転倒となってしまうのだから。

    フレンダ「私は、当麻の杖になれればそれでいい……ってわけよ!」

     バッ、と一気に立ち上がる。自分の頬を叩き、気合を入れる。
     それに、自分は少年の隣にいたからバレてしまったのだ。近すぎたからバレてしまったのだ。
     ならば、今の関係がいい。今の関係が丁度いい。
     言い聞かせるように、少女は想い――――

    フレンダ「おっ、電話だ」

     そしてまた、血腥い少女の日常へと還ってゆく。


    677: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/04/22(日) 01:40:58.07 ID:alYlxhyXo

     ■   □   ■


     これは、九月上旬の或る日のこと。

     言うまでもなく、フレンダ=セイヴェルンは『アイテム』の構成員である。
     その『アイテム』の活動は主に学園都市内の不穏分子の削除及び抹消。
     時に統括理事会含む上層部、『アイテム』と同じような暗部組織の暴走の阻止も行う。
     しかしながら結局は、彼女らの『電話の声』こと制御役、もとい上層部のさじ加減によって決まることが専らだ。
     つい先日行われた、捨ておいても殆ど問題などなさそうな一方通行による『絶対能力進化計画』の御坂美琴による阻止など最たる例だろう。
     つまるところ、『アイテム』とは軽い任務から重い任務までやらされる何でも屋に近いものなのかもしれない。それを言ってしまえば彼女ら以外の暗部組織も同じようなものなのだろうが。
     故に、というべきか。彼女らは割と頻繁に呼び出されては、いいように使われている、というのが現状だ。
     無論のことながら一つの仕事ごとに報酬もでるので、リスクとリターンはそれなりに釣り合っているわけなのだが。

    フレンダ「ふむ……」

     フレンダはファンシーなぬいぐるみ類を前に、頭を捻っていた。
     彼女の資本は風紀委員や暗部で培ったその体術と、なんでも出すことの出来るその能力。そして拠点防衛などにおけるトラップ類の設置にある。
     相手の戦力を見誤ったり、逆に相手にトラップを利用されることを考えない致命的なうっかりも多々あるのだが、それに目を瞑れば比較的優秀な部類に入るに違いない。
     その彼女のトラップとは、大体の場合において爆弾、である。
     設置し、タイミングよく爆発させるだけで大火力が保証できる。非常に優れた武器である、とは彼女自身の弁。
     だが、生身のまま設置するわけにもいかない。そこで使用するのがカモフラージュの為の人形、ぬいぐるみなのだ。
     普通の人形から始まり、犬、猫は言わずもがな、多種多様の動物系ぬいぐるみを使用する。
     その為の物色、なのだが。

    フレンダ「むぅ。結局、いいのを買おうとすると値が張るってわけよ」

     結局何も購入せずに店を出る。
     安価なものを購入すればいい、という人もいるだろうがフレンダにもフレンダなりのこだわりがある。
     だがこだわりが過ぎるとやはりどうしても値が張ってしまうのだ。


    678: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/04/22(日) 02:06:42.13 ID:alYlxhyXo

     爆弾の方は経費で落とせるが、カモフラージュ類は落とせない。
     設置した場所がバレることを前提に仕掛けることがそもそもおかしいのだから、言わせれば『バレないようにしかければいい』なのだ。
     よって人形やぬいぐるみは実費でおとすしか無い。
     が、彼女も年頃の女の子である。妹であるフレメアにも比較的自由にさせてあげたいし、罠に必要以上にお金を割くわけにはいかない。

    フレンダ「と、なると……やっぱりアソコ、ってことになるのかな」

     次なる目的地へ足を向ける。
     一応、彼女の見目は平均よりは遥かに上である。
     見目麗しい、とまでは到達せずとも可愛いなあの子、と人の目を軽く引くレベルの容姿だ。
     それはつまり――――

    「ねーちょっと、きみ君。ここでよく見るけど、何? ぬいぐるみとか好きなの?」

    「ちょっと俺らとお茶とか付き合ってくれたら、買ってあげるけど、どうよ?」

     こういった輩の視線も引くわけで。
     はぁ、とフレンダは心中で溜息を吐く。
     この程度のナンパ行為は、学生の多い学園都市では頻繁に起きていることだ。暗部だから目くじらを立てて、『目立ってはいけない』というルールに反するわけではない。
     しかしながら、だ。

    「あれ、聞こえてない? もしかして日本語わかんない? ……こういう時ってなんて言うんだ?」

    「『How much』でいいんじゃね?」

    「ばっか、お前それ下心バレバレじゃねぇか」

     下卑た笑い声が耳をつんざく。
     フレンダはあからさまに不愉快そうな表情を見せる。
     気に入らない、どころの話じゃない。耳元をうろつき回る蝿よりもうっとおしい。


    679: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/04/22(日) 02:33:58.74 ID:alYlxhyXo

     自分にはこのうっとおしい人間をどうこうする力がある。
     が、先程取り立てて暗部のルールに違反しているというわけではないと言ったが、必要以上に目立つのはご法度だ。
     いつ、どこで、誰が見ているのかわかったものではないのだから。
     面倒だな、と思いつつどうやって煙に巻くか思考を巡らせた、まさにその時。
     正しく先ほどの『どこで誰が見ているかわからない』という言葉をを具現化したように、それはやってきた。

    上条「あっ、こんな所にいたのかー! いやーごめんごめん遅くなっちまったなー」

     わざとらしいにも程がある、彼のその演技。
     もっとうまいやりようがあるだろうに、と彼を知る少女は頭を抱える。
     その言葉が示す通り、『あ? 何、お前?』とでも言いたげな視線を向ける男たち。
     もし彼の入り方がもっと自然だったなら、ナンパ側もこれほどに喧嘩腰にはならないだろうに。
     『いつも』はこの後に諍いとなるのだろう、少し顔が引きつって逃げ腰の上条に、男達は標的を移す――

    フレンダ「もーおっそーいっ! いい加減来ないと思ってたんだよぉ?」

     ――瞬間に、上条の腕を引っ張って彼らの向けた照準を掻っ攫う。
     とても彼女らしからぬ口調で、上条すら目を丸くした。

    フレンダ「そーいうわけで、ゴメンネ? わたしぃ、この人と先約があるから」

     そう言って営業スマイル。実際には仕事に笑顔など使わないわけだが些細な問題だ。
     遺恨を残さないための笑みには違いないのだから。

    フレンダ「それじゃ、いこっかぁ」

    上条「お……おう。ごめんな待たせちまって」

     なんとか思考が追いついてきたのか、上条も話をあわせて、彼らに背を向ける。
     フレンダのあまりに外見とかけ離れた口調と、その自然体っぷりに残された男達はただ呆然と二人を見送るのみであった。


    681: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/04/22(日) 03:05:18.80 ID:alYlxhyXo

    フレンダ「はい、これ。 シソサイダーとブルーコーラ、どっちがいい?」

    上条「……んじゃ、ブルーコーラで」

     上条はフレンダの両手に持たれたアルミ缶のうち片方を受け取り、その蓋を開く。
     ぷしゅっ、と小気味良い音が聴覚を刺激する。
     フレンダも同様に行いつつ、上条の隣へと腰を下ろした。
     そして同時に缶の中身を口に含み、飲み込み、『ふぅー』、と息を吐く。
     その一連の動作を終えてようやく、フレンダはしゅん、と反省しているようにみせつつ隣に座る少年へ礼を告げる。

    フレンダ「……結局、さっきはありがとう、ってわけよ。すっごく助かった」

    上条「いやいや、いいっていいって! 寧ろフレンダがフォローに入ってくれなかったら上条さんはきっと突っかかられてたわけですし!」

    フレンダ「そう? それじゃお相子ってコトで」

     返す言葉をきき、続いて少女は悪戯っぽく微笑む。
     そんな一瞬で表情をころころと変えるフレンダに上条は僅かに『嵌められた?』と思いつつも、世間話の話題を持ってくる。
     とはいっても、それはついさっきの出来事から、なわけだが。

    上条「それにしてもさっきの変わり身、すごかったな。もしかして学校とかでもああいうキャラだったりするのか?」

    フレンダ「違う違う。学校だったら寧ろ何も喋らないって」

    上条「あれ、そうなのか? フレンダだったら結構友達とかいると思ったんだけど」

    フレンダ「人にはそれぞれ事情がある……ってね」

     少女は誤魔化すようにその話題を打ち切る。
     四月にとある学校をやめて以来、フレンダは学校に通っていない。制服は既存のものの借り物で、先程のは通っていた頃の様子を話しただけだ。
     これ以上踏み込まれては辻褄があわなさそうで困る。故に打ち切ったのだ。


    682: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/04/22(日) 03:32:38.55 ID:alYlxhyXo

    フレンダ「私の学校のことより、私的に、だけど。結局前のあの子の方が気になってる……ってわけよ」

    上条「前の、って……ああ、インデックスのことか?」

    フレンダ「そうそう。あの子と当麻がどういう関係か興味津々ってわけよ」

     気が気でない、ともいえる。
     最終的にはどちらの答えでもとるべき選択に代わりはないのだが不意をうたれるよりかは覚悟をして自ら問いただしたほうがダメージも少ないというものだ。
     そして上条はフレンダの質問に考えるような仕草を見せた。

    上条「どういうって……前にも言った通り、ただの居候だよ。インデックスのせいで今日も家計は切り切り詰め詰めですよ」

     とほほ、と上条の眼の端に涙がこぼれ出る。
     その言葉に嘘偽りはないようだった。そのことに、少しばかりフレンダは安堵する。
     ――結果的にとる選択肢はやはり、変わらないのだが。

    フレンダ「そうなんだ……」

    上条「……? どうか、したのか?」

     それでもやはり、不満は表に出ていたのか上条はフレンダの顔を覗き込みながら問いかけてくる。
     不意をつかれて慌て、フレンダの顔は一瞬で赤くなった。

    フレンダ「っ! べっ、別になんでもないってわけよ! それより、これから当麻は暇!? 暇なら少し付き合って欲しいんだけど!!?」

     動揺して早口に一息に、一気に口走る。
     その勢いに多少なりとも押されて狼狽しつつ、上条は暇だ、と返事を返す。
     それを聞いてからフレンダは、動揺も顔の赤さも、何もかもを誤魔化すように素早く立ち上がって中身を飲み干した缶を清掃ロボットに投げつける。

    フレンダ「そっ! じゃあ結局、ささっと行くってわけよ!」

     そう言って歩き出すフレンダに倣い、慌てて上条も自分より幾分小さい彼女の後を追う。

    上条「ちょっ、待てよフレンダ! 行くって、つまりどこに行くんだ?」

    フレンダ「そんなの、決まってるって」

     口端をほんの僅かに吊り上げながら、ピッ、と人差し指で上条を指さし。
     そして当然の様にその施設の名前を告げるのだった。

    フレンダ「ゲームセンター、ってわけよ」


    690: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/04/30(月) 00:34:16.52 ID:uXKy5OPwo

     フレンダの言うゲームセンターというのは学園都市側のものではなく、外からのものだ。
     基本的に学園都市製のアーケードゲームというのはその高度な技術を生かしたシミュレーション型が大多数。
     彼女はそんなものに全く興味などない。
     いやあるといえばあるのだが、それは偶然近くを通りかかった時に『試しにやってみようかな』という程度のものであり、自分からしにいこうとは思わないのだ。
     そんなわけで彼らは今、複数の音が交じり合って騒がしい外のゲームセンターへと来ていたのだった。

    フレンダ「よし……よし……よし……よし…………っ!」

     フレンダの声に力が入ると同時、ピロピ口リロー、と景品を手に入れたことを労う音が鳴り響く。
     機嫌がよさそうに、少女はしゃがんで、取り出し口の奥に転がっている景品に手を伸ばした。
     その光景を後ろで見ていた上条は感嘆の声を上げる。

    上条「うまいな、フレンダ……これでもう三つ目だぞ?」

     上条の言葉を聞きつつ奥から取り出して少女が抱きしめるそれは、うさぎのぬいぐるみ。
     存外、というべきかなんというべきか。彼女とぬいぐるみの相性は抜群だった。

    フレンダ「そりゃ、慣れてるからね。結局週に一回は適当に狩りに来る、ってわけよ」

    上条「狩りって……景品、なくなっちゃうんじゃ……」

    フレンダ「そこはちゃんと常識の範囲内で納めてるってわけよ」

     フレンダの言うとおり、いつも彼女は一クレーン内では二つから三つまでで収めている。
     曰く『独り占めはイケナイ』とのことだ。
     しかしそうしたなら一つの店では足りないため、複数の店を回るはめになるわけだが。
     彼女にとってはいくつも店を回って行う収拾すらゲームの一部なのだ。


    691: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/04/30(月) 00:59:20.01 ID:uXKy5OPwo

    上条「けど、よくできてるよなぁ……」

     上条はフレンダのぬいぐるみと、クレーン内にあるそれらを一瞥して呟く。
     そう、よくできている。

    フレンダ「だから、よく来るってわけよ。店で買ったら大出費になっちゃうからね」

     ゲームセンターの景品というのは、得てして出来がいい物が多い。
     アニメキャラクター等のフィギュアも然り、ストラップ類も然り。そして彼女の獲ったぬいぐるみも然り。
     あまりに出来が良すぎるものは直ぐに品切れになるものすらもあるぐらいだ。
     そうでなくとも、先程も言ったようにゲームセンターの景品は往々にして出来がいい。フレンダのお眼鏡に叶うほどに。

    フレンダ「……っていっても、始めたばかりの頃は店のほうが安いんじゃないかってぐらいにお金つかってたけど」

    上条「……ちなみに、ぬいぐるみ一ついくらぐらいするので?」

    フレンダ「店で買ったら小さいのなら五百円から千円、こういう大きいのなら三千、四千もくだらないし」

     その言葉を聞いて、上条は改めてフレンダの手にあるぬいぐるみを見る。
     フレンダはいとも容易くその三千、四千円もするぬいぐるみをワンコイン足らずでとってしまった。
     こういう人が定期的に来て、店は採算とれているのだろうか……とあらぬ心配をする。

    フレンダ「さーてと! じゃあ次はあれにするってわけよ!」

     フレンダは適当に道具箱の中にぬいぐるみを消すと、次なる目標物へと突撃する。
     上条もそれを追いつつ、なけなしの千円札を両替機へ入れて百円玉へと変える。
     自分自身はそれほど興味をもっているわけではないが、あまりにもああやってぽんぽんと獲っている人を見ると自分も出来るんじゃないかと思ってしまうのだ。
     仮にとれたとして、その景品のその後については、まぁとった後に考えればいいだろう。
     そう思いつつ、上条はフレンダの目標物に隣接したクレーンに百円玉を投入する。


    692: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/04/30(月) 01:18:08.19 ID:uXKy5OPwo

    フレンダ「……当麻、お金大丈夫なの? 入院とか多いみたいだし居候だっているし、余裕ないんじゃ?」

    上条「まぁ、切り詰めれば千円ぐらいなんとかなるからな。それに、一緒に遊びに来たのに一人だけ見てるんじゃなんか違うし」

     一人は遊び、もう一人はただ眺めるだけ。その理由は金銭問題。
     上条だからよかったものの、普通の人ならばそれはとてつもなく距離を感じるに違いない。
     それに気付いてフレンダは少しばかり気まずそな顔をした。

    フレンダ「あーっと……結局、その……ごめん、ってわけよ」

    上条「フレンダが謝ることなんてないって、特に気にしてないからな」

     彼がそういうならそうなのだろうが、はいそうですか、とフレンダは肯けない。
     彼女にとって上条とフレメア以外の人間は殆どどうでもいいのだが、代わりにその二人だけは常に気にかけて行動すべきだと思っている。
     だから偶然上条と会ってテンションが上がってしまい、不覚にも上条のことを気にかけられなかったことは反省すべきことなのだ。
     フレンダの落ち込みをみて、そんな事情を僅かでも察したのか上条はそれじゃあ、と紡ぐ。

    上条「それじゃあ、このぬいぐるみ取るの手伝ってくれよ。やるのは俺だけど、ナビゲートしてくれるだけで随分と変わると思うからさ」

     そんなことじゃ――と言いかけて、止める。
     彼が言うということは、本当にそれでいい、ということなのだ。別に気を使っているわけでもなく、それがいい、ということなのだ。
     ならば、自分が口出しすることではなく。
     すべき事は彼の提示した取引に全力で応えることである。

    フレンダ「わかった、それでいいけど――――それだけじゃ嫌、ってわけよ」

    上条「……え?」

    フレンダ「結局、その千円で当麻をクレーンゲームのプロにしてやるってわけよ! その為には一回分も無駄にしない、ってわけよ!」

     上条は、思う。
     これは、藪をつついて蛇を出したな、と。
     そしてぼやくのだ。
     『不幸だ――――』、と。


    693: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/04/30(月) 01:38:52.60 ID:uXKy5OPwo

     ■   □   ■


     フレンダの熱の入った講義を受けつつ千円をたっぷり二時間で消費して。
     その結果上条の手にあるのはぬいぐるみ一つ。
     それでも十二分な戦利品だ。

     フレンダは楽しそうにスキップしながら上条の数歩先を行く。
     時刻はもう六時を回っている。そろそろインデックスもお腹をすかせる頃に違いない。
     夕焼けに光るビル、風力発電のプロペラ、道路、飛行船などをぐるりと見渡して、キラキラと煌く眼の前の金髪に視線を移す。

    上条「フレンダ」

    フレンダ「ん? ――――っとと!?」

     振り返ると同時に、ふわり、とそれを投げつけられた。
     それはつい先程まで居たゲームセンターのロゴが入った袋であり、中身は上条がフレンダの力を借りて手にいれたとったぬいぐるみである。
     瞬間呆然とし、上条を見た。
     尋ねられる質問がわかっているのか、彼は先回りしてフレンダの問いに応える。

    上条「よかったらそれ、貰ってくれ。 上条さんには似合わないし、フレンダのお陰でとれたようなものだし」

     それに、と付け足す。

    上条「それだってきっと、ぬいぐるみが好きな奴に持っててもらったほうが嬉しいだろうからな」

    フレンダ「っ…………!」

     去来する。
     いつかの会話が、いつかの光景が、いつかの出来事が。
     まるで昨日あったことのように、鮮明に脳裏へとリフレインした。


    694: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/04/30(月) 01:50:41.66 ID:uXKy5OPwo

    上条「んじゃあな、フレンダ。何かあったら、遠慮無く言ってくれよ」

     上条はフレンダに背を向け、駆け足で立ち去る。

    フレンダ「――――待って」

     が、それはやはり少女によって止められた。
     その言葉の真剣さを汲み取ったのか、上条は駈け出した数歩で立ち止まって少女の方へと振り返る。

    フレンダ「一つだけ、聞かせて欲しい……ってわけよ」

    上条「……なんだ? 俺に答えられることなら、なんでも答えるぞ」

     フレンダは紡ぐ。
     『さっきのは』、と。
     『何かあったら遠慮なく言ってくれ、というのは』、と。

    フレンダ「幼馴染、だから?」

     一陣の風が吹き抜ける。
     それはきっと一瞬、僅か一拍にも満たない時間。
     その後――つまり即答で、上条は何の気なしに答える。

    上条「別に幼馴染だからってだけじゃねーよ」

     フレンダは思わず、それを口走りそうになり。
     唇を噛み締めてそれを無理矢理に押しこみ、飲み込み。
     そして、満面の作り笑いを浮かべて別れを告げる。

    フレンダ「そっか、わかった! それじゃあね、当麻! また今度、ってわけよ!」

    上条「? おう、また今度な」

     少しばかりの違和感に首を僅かにかしげ、しかしそれを掴み取ることなく、上条は今度こそ背を向けて去ってゆく。
     いつかのように、一人の少女と、彼が少女へと渡したぬいぐるみを置いて。


    695: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/04/30(月) 02:14:32.07 ID:uXKy5OPwo

    フレンダ「……っ…………!」

     上条が去り、フレンダは今にも泣きそうな顔で受け取った袋を抱きしめる。
     『幼馴染だからってだけじゃねーよ』。上条の声が、そのまま脳裏に蘇る。
     それは、今さっき上条から受け取った言葉ではなく、一年前に上条から送られた言葉。
     奇しくも同じくゲームセンターの帰り、上条のとったぬいぐるみを貰った後。つまりほぼ同じ状況にて発せられた言葉。

    フレンダ「なんで……どうして、思い出させるの…………」

     上条当麻は、上条当麻だ。
     それはわかっているけれど、記憶の失った前と後では決定的に違うことがある。
     即ち、彼の隣に居る人物だ。
     前は自分で、今はインデックスと名乗る少女。
     それを知った後、自分は一度は諦めざるを得なかったのだから、数週間前に、それでいい、これでいいと思い込んだ時もあった。


     それなのに。
     同じ反応をされると、諦めきれないじゃないか。
     思い出してしまったら、諦めきれないじゃないか。
     以前と何も変わらないと、諦めきれないじゃないか――――


     少年の言葉の真意が。幼馴染だからという、それ以外の理由が違うものになっているからこそ。
     少女はこの感情を抱かずにはいられない。
     一度は『これでいい』と判断したこの関係を、また元に戻したいと思わずには居られない――――



     ふと思って、フレンダは自分の受け取った袋の中身を見る。
     そして思わず吹き出した。

    フレンダ「……何も、こんなところまであの時と同じじゃなくていいのに」

     袋の中ではカエルのぬいぐるみ、ゲコ太がいつかと同じように笑っていた。


    791: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/22(土) 20:14:18.64 ID:TuNwTlKvo

     ■   □   ■


     上条当麻の大覇星祭六日目はやはりいつもの口癖から始まった。
     昼にはインデックスに噛まれる、御坂美琴に絡まれる、吹寄制理にどつかれるの三大コンボをも達成した。

     もう何があっても驚かない。
     そう決意した上条当麻であったが、昼までさんざん不幸な目にあったせいか、不思議と夕方からはパッタリ、なのであった。
     インデックスは小萌先生と姫神秋沙が引き取ってくれた(こう言っているのを目撃されたらまた噛まれそうだが)ので、上条は自由を謳歌していた。
     こんな時に限って、やはり御坂が襲来してくるのだがそんなこともなく。(上条は知らずだが、美琴は白井に攫われてしまった)
     偶然鉢合わせた両親に『たまには家族で』と誘われ、ナイトパレードの目玉であるキャンプファイヤーを遠巻きに眺めることになったのだった。 
     疲れも限界の学生たち、しかし騒ぎ立てて火の周りで踊るのを見て、刀夜は感嘆の声を上げた。

    刀夜「いやぁ昨年も見たが、このキャンプファイヤーは本当に素晴らしいな。父さん、母さんと踊った時のことを思い出すよ」

    詩菜「あらあら、刀夜さんったら。あの時はいろんな場所から引っ張りだこで、母さんと踊った時間は数分もなかった気がするのだけれど気のせいかしら?」

     地雷踏んだ!?と刀夜に戦慄が走る。
     しかし例え五分に満たない時間だとしても、踊ったことは覚えていたのだからそこは評価するべきではないだろうか、と上条は両親のやり取りを他人ごとのように思う。
     そんな我関せずを示している息子にそうはさせまいと巻き込むのがこの親である。

    刀夜「と、時に当麻。お前は踊る相手はいないのか?」

    上条「え?」

     不意に話を振られ、呆けた声を出す。
     親として、或いは女としてはやはり色恋沙汰の話は気になるのだろうか、詩奈も刀夜の言葉に続ける。

    詩菜「そうね。当麻さんも『どこかの誰かさん』とよく似ているのだし、そういう人の一人や二人いてもおかしくないと思うのだけれど」

    上条「んなこといわれてもなぁ……」

     話題を逸らしたはずなのに矛先を向けられて慄く刀夜はさておき。
     上条は両親の言葉に首を傾げた。


    792: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/22(土) 20:26:39.87 ID:TuNwTlKvo

    上条「特にこれといってはいないな……そもそも出会いが少ないし」

    詩菜「あらあら、当麻さんったら。 そういう言い訳も『どこかの誰かさん』にそっくり」

    刀夜「そ、そうだ当麻! あの海にも連れてきていた……インデックス?さんだとかいう娘だとか、御坂さんだとかはどうなんだ!? 仲がよさそうだったじゃないか!」

     詩菜の言葉を途切らせ、無理矢理割り込んでくる刀夜に少しばかり戦きつつ。
     上条は今挙げられた二人を脳裏に思い浮かべ、首を振った。

    上条「……あの二人はなんか違う気がする」

     インデックスは花より団子な性格だし、御坂に至っては顔を合わせれば喧嘩を売られるのだからないだろう。
     後者に関しての考察は間違っているが、そんなことを知る由もない。

     さて、じゃあそれ以外ならどうだろうか?
     それ以外、として目を向けてみてもそんなに対象となる相手はいないだろう。
     姫神はただの仲の良いクラスメートだし、吹寄はどちらかといえば嫌われている節もある。
     小萌先生は先生だからそういう対象にはなり得ないし、御坂妹は踊ってはくれそうだが変なボケをぶちかましそうだ。
     学園都市の外に目を向けてみても、神裂火織、シェリー=クロムウェル、オルソラ・アクィナス程度しか知り合いは居なく、何れも踊るのは違うと思うのだ。
     ……その何れにしても、大体の人間は彼に対して憎からぬ感情を持ってはいるのだが。この朴念仁はそのことに全く気が付かない。

    上条「……うん、やっぱりいないな。というかそうして考えてみると、俺ってつくづく出会いがないんだなぁ……」

     不幸だ、と小さく呟く。
     だが上条の言葉を聞いて、詩菜は更にその怒り感情オーラを広げた。
     刀夜にはその広がる理由に心当たりがあったのかもしれない、慌てて次の一手を打とうと考えを巡らせ、思い当たったそれを言う。

    刀夜「そ、そうだ当麻! あの子はどうしたんだ、仲がよかったじゃないか!」

    上条「あ、あの子?」

     聞き返した言葉に刀夜は頷く。
     どうやらこのまま逃げ切れそうだ、と安堵の表情を浮かべているのを見逃さない。

    刀夜「ああ、去年は一緒にナイトパレードを回っていたじゃないか。そういえば当麻と同じ学校だったはずなのに見かけなかったが、転校でもしたのか?」

     言われ、上条の表情は瞬間的に固まる。
     去年のことは覚えていない。記憶喪失は周りの人は勿論、親にすら知られるわけにはいかない。
     それが上条当麻の代わりを務める自分の責務なのだから。
     故にどうやって避けようかと考えを巡らせつつ、場を繋ぐために口からはぐらかすための言葉を吐き出す。


    793: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/22(土) 20:28:24.34 ID:TuNwTlKvo

    上条「うーん……転校した人は多分いなかったと思うぞ? 見落としてただけじゃないか?」

    刀夜「そんなはずは無いと思うんだがなぁ……なぁ、母さん」

    詩菜「そうね、個人競技の時に当麻さんを見逃さないようじっくりと凝視していたけれど、いなかったと思うわよ?」

     いやいやいや、と上条はその両親の記憶を否定するように手をブンブンと振った。

    上条「それでも遠目からみたら似たり寄ったりだろ? 自分の子供とか親しい知り合いでもない限り、探すのは難しいって――――」

     その否定は。
     実の父親と母親による言葉で完全に論破される。

    刀夜「――――いや、だから。 外見だって金髪で特徴的だし、それなりに親しいじゃないか」

    詩菜「あらあら、当麻さんったら。もしかしてあんな慕ってくれてた幼馴染の存在も忘れてしまったのかしら」

     そして再び。
     上条は言葉を亡くし、絶句する。

     金髪で特徴的。
     それなりに親しい、幼馴染。
     割と最近に再会した、とある少女にそっくりじゃないか?

     ごくり、と唾を飲み込んだ。
     だって、これは――もしかしたら、取り返しのつかないことになっているのかもしれないのだから。
     その『もしも』を想像してしまうと、上条は戦慄せずには居られない。
     喉がカラカラに乾く。心臓がわけもなく、震え、激しく音を打つ。
     その今にも走り出したい衝動を抑えるために、もう一度だけ唾を飲み込み。
     そして尋ねた。

    上条「もしかして、それってフレンダのことか?」

     その答えに対する答えは、やはり頷きとともにあり。

    刀夜「ああ、そうだが。当麻、お前去年の時、彼女以外にナイトパレードを一緒に周る女性がいたのか?」

     覚悟もしていたその回答を聞いて、上条は知らず、身体を打ち震え上がらせた。


    710: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) 2012/05/16(水) 12:06:38.37 ID:Hb+VHRiAO

     携帯から失礼。
     昨夜は頭が禄に働いてなくて軽くとばしすぎました。
     急展開にもほどがあるっていうね……もっと繋げかたが他にあったろうにってか思いついたのです。
     ……ので、申し訳ありませんが今回の分は巻き戻しさせていただきます、本当に申し訳ございません。


    713: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/05/19(土) 01:12:49.29 ID:ZNOtSOmRo

     巻き戻し開始。
     大覇星祭六日目→大覇星祭数日前(九月十六日)


    714: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/05/19(土) 01:28:50.33 ID:ZNOtSOmRo

     ■   □   ■


     繰り返すが、学園都市には幾つもの学区があり、そして学区ごとにその役目は分かれている。
     例えば第七学区は学生寮や学校の多いまさに学園都市を代表する学区であり、第二十三学区は航空や宇宙開発研究を行う為だけの学区である。
     そしてここ、第三学区は主に『外部からの客を招く学区』、つまるところ金持ちが彷徨くような学区なのだ。

     その中にある、とあるプライベートプール。
     プライベートプールというからに大きさを察することは容易だが、そこらの競技用プールに引けを取らぬほどの広さを誇っている。
     そしてそのプールに浮かぶ人の形をしたモノが一つ、二つ。
     ビート板を自分の座る椅子に立てかけて飲み物を飲みつつ、絹旗は呟く。

    絹旗「……なんか、こうして見ていると超死体みたいですね」

     片や滝壺理后。
     彼女は泳ぐのが面倒くさいのか、否、彼女曰く『楽しい』からプールにぷかぷかと浮いて漂う好意をしているらしい。
     そして片やフレンダ=セイヴェルン。
     彼女の方は別に、滝壺を見ていて感化された、などそういうことはなく。

    絹旗「滝壺さん。フレンダ、生きてますか?」

     その言葉に半分以上沈んでいた滝壺は鼻から上を水面から出して、水面に広がる金髪を確認する。
     音もなく、波も僅かしか起こさず、ススス、と近づくその姿はまるで妖怪のようにも見えたが、絹旗はあえて何も言わず。
     そしてつい先程自分もしていた、背中だけを水面上に出している状態にフレンダに呼びかける。

    滝壺「フレンダ、大丈夫? フレンダ」

     ぷかり、ぷかり。
     幾ら肩を揺すって呼びかけても波紋が広がるのみであり、同年代の少女は一向に反応を見せない。


    715: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/05/19(土) 01:37:54.70 ID:ZNOtSOmRo

     少女はどうしたものか、と首を軽く傾げ。
     意を決し、掛け声とともに僅かしか持っていない力を込める。

    滝壺「えいっ」

     気の抜けそうなその掛け声は効果があったのか否か、浮かんでいた少女の身体をひっくり返した。
     そして今度は顔を覗き込みながら(その顔をぺちぺちと叩きながら)、再び名前を呼ぶ。

    滝壺「フレンダ。 フレンダ?」

     その一部始終をプールサイドから見ていた絹旗。
     ズズズズ、とストローから発せられる音が出てきた時を頃合いに、再度プールへと言葉を投げかける。

    絹旗「どうですか、超生きてますか?」

     たっぷり数十秒。
     滝壺は考えを一頻り巡らせた後に、いつもと変わらぬトーンで答える。

    滝壺「生きてるかどうかはわからないけど、息をしてないよ?」

     次の瞬間、てんやわんやの蘇生作業が幕を上げたのだった。


    716: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/05/19(土) 01:58:08.23 ID:ZNOtSOmRo

     その蘇生も終了し、フレンダも息を吹き返した後。
     虚ろ目で息絶え絶えになっているフレンダは口から水を吐きながら言う。

    フレンダ「あー、けっゲホッゲホッ!、けっきょゴホッ! ……結局、死ぬかと、ゴホッ!、思ったわけよ……」

    麦野「殆どおまえの自業自得だろーが」

     ため息混じりに麦野は吐き捨てる。
     そもそもフレンダがプールに浮いていた理由は大覇星祭にある。
     いや厳密に言えば上層部の思いつきなのだが、つまるところ大覇星祭の選手宣誓にレベル5を起用したいという交渉がきたのだ。
     無論の事ながら麦野はそれを一蹴、フレンダが調子に乗って代わりに立候補したところをとっちめられ、プールに投げ捨てられた、という話だ。
     ようやく行きが整ったのか、広いプールを眺めながら背後の椅子に腰掛ける麦野と絹旗へ投げかける。

    フレンダ「でもさ、結局どうして、麦野が選手宣誓に誘われたんだろうね」

    麦野「…………あん?」

    絹旗「? 単純にレベル5だからーって『電話の人』が超言ってましたよね?」

     それはわかってるんだけどさ、と前置きをして。
     フレンダは軽く笑いながら続ける。

    フレンダ「だって大覇星祭って結局、体育祭なわけでしょ? 麦野ってどうみても学生じゃなくておば」

     刹那。
     きっとそれなりに高級であろう、特製ジュースの入っていたコップがフレンダの米噛みに直撃し、彼女はプールへと沈む。
     滝壺は相も変わらずプールで浮いていたため、ただ一人その瞬間を眺めていた絹旗は悟った。
     『麦野に年齢の話は禁句』なのだと。
     その話題を振ったなら、命を失う覚悟ぐらいはしなくてはならないのだと。


    717: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/05/19(土) 02:17:35.54 ID:ZNOtSOmRo

     ■   □   ■


    麦野「まぁつまり、あんたらも大覇星祭は参加しちゃだめだからってことで」

     散々泳ぎ、遊んだ後に麦野はそう締めくくる。
     それほど異論があるわけではないが、とりあえず手を上げて質問の意を示すのは絹旗。

    絹旗「別に参加するつもりは超ないですけど、別段目立たなければ参加してもいいのでは?」

    麦野「ダメダメ。目立たなかったとしても、火のないところに煙は立たない」

     火のあるところには煙が立つ。
     逆に言えば、どれだけ目立たない火でも煙はたってしまうのだ。
     例えば。そう、例えば。

    麦野「フレンダ、あんた去年のこと覚えてるわよね?」

    フレンダ「ぎく」

     黙っていればばれない、など。そんなことがあるはずもなく。
     昨年の大覇星祭であった、舞台裏騒ぎは迅速にアイテムの面々にも伝えられたのだった。

    麦野「特にあんたは今年度に入るまで学校にいたんだし、顔を知ってる奴も多少いるはずだから。一週間大人しくしていなさいな」

    絹旗「そうですね、どちらにしても久々の長期休暇ですし羽を超ゆっくりと伸ばすことにしましょうか。私は溜まっている映画でも見にいきましょうかね。滝壺さんはどうするんですか?」

    滝壺「……、去年と同じように、どこかの観客席でAIM拡散力場浴でもしてるよ」

    フレンダ「滝壺って、本当にそれ好きだよね?」

     女三人揃えば姦しい。
     一人はどちらかといえば無口な方だが、それでも気に当てられたのか口数も多くなっていた。
     それを麦野はぱんぱん、と手を叩きながら戒める。

    麦野「はいはい、そんなわけで暫く休暇ね。でも急な仕事が入る可能性もあるから、いつでも連絡を受け取れるようにしておくこと」

    麦野「じゃ、解散」

     そういって、今宵の『アイテム』の集会は終わりを迎えた。


    718: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/05/19(土) 02:38:44.36 ID:ZNOtSOmRo

     そして迎える当日の朝。
     フレンダは麦野の言っていたことを脳内で反芻しつつ、準備を進める。

    フレンダ「……とはいっても、やっぱり祭りなんだから遊び盛りなわけで」

     昨年は共に出ていたからよく確認できなかったけれど、今年は外から上条の勇姿を見ることが出来るのだ。
     どうせ全体的には負けが多いに違いはないのだけれど、大抵の人は気がある人のどんな姿でも見たいと思うものだ。
     故に彼女はやはり、麦野の言葉も無視して準備を進める。
     懸念は元知り合いと鉢合わせすることだったが、まぁ問題はあるまい。会ったとしても、ただ学校をやめた理由を作り上げればいいだけなのだから。

    フレンダ「……よしっ、と」

     キュッ、と胸のリボンのバランスを取り、鏡の前でクルリと一回転する。
     スカートの端がフワフワと揺れ、パンストに覆われた太ももがちらりと覗ける。
     それをひと通り確認して、鏡向こうの自分へと笑いかけた後に部屋から出て、未だ部屋で着替えているフレメアに声を書ける。

    フレンダ「フレメア、そろそろ行かないと遅刻するってわけよ」

    フレメア「にゃあ! まって、まって!」

     慌てて声を上げるフレメアを玄関先で待つ。数分も立たないうちに、同じ髪の色をした妹が走ってきた。
     そんな彼女の、少しばかり乱れている服装を整えつつ埃を払う。
     フレンダはフレメアに笑いかけて、そして足を部屋の外へと踏み出す。

     こうして、彼女らの大覇星祭は幕をあけたのだった。


    722: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/05/27(日) 00:58:49.47 ID:smLjIvGZo

     ■   □   ■


    フレンダ(さて、と。今日はどうするかなー?)

     大覇星祭三日目、フレンダはパンフレットを眺めつつ考える。
     別にフレメアの競技をずっと眺めていてもいいのだが、フレメアも年頃の乙女だ。例え慕っている姉だとしても付きまとわれれるのは嫌だろう。
     精々午前午後の競技に一度ずつと、昼食を共にするだけで十二分だ。

    フレンダ「でももうやることも殆どない、ってわけよ」

     食べたいものはあらかた食べ尽くした。
     外来者向けのおみやげ品を物色してこれはない、と思うものに対して大笑いしたりもした。

    フレンダ「そんでもって、好カードは特にない……ん?」

     上から下へ、パンフレットを流し読み。
     そこで見知った高校名が顔を覗かせる。
     見知ったというより、去年まで通っていたのだから知っているのは当然なのだが。
     まぁ、それだけならば問題はないのだ。何故なら初日の暇な時に、その会場から少し離れた処で見たのだから。
     ……何故か、殆どの競技にあの少年の姿はなかったのだが。

     それはそれとして、本題に戻ろう。
     彼女が目を止めたのはその対戦校だ。
     常盤台中学。学園都市に無数にある学校の中、五本指に入ると言われる女子中学校である。
     中学生だからとて侮る事なかれ。レベル5が二人、レベル4が四十七人、その他はレベル3で構成されたこの学校は対戦校をも気付かえる余裕を持つ。
     そしてそのレベル5の一人、御坂美琴は上条当麻に救われた経歴を持つ。つまるところ、フラグが立っているのだ。

    フレンダ「……ふむ」

     最強と謳われる第一位を倒した無能力者と、第三位を含めた能力者軍団の対決。
     正しく、見ものである。


    723: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/05/27(日) 01:24:38.64 ID:smLjIvGZo

    フレンダ「二日目はいたかいないか見てないけど、そう何度も面倒に巻き込まれたりしないってわけ……よね?」

     あの少年の顔を思い浮かべる。
     息を吸うように不幸な目に遭う彼ならば、ありえないことはない。
     『…………』と、僅かな沈黙を置いて。

    フレンダ「ま、まぁいなかったらいなかったで、結局適当に見て帰ればいいってわけよ!」

     パタン!と勢い良くパンフレットを畳んで、そう締めくくる。
     一昨日、昨日に続いて三日連続、同じ屋台でぶどう飴を購入(割と目立つ容姿だからか、顔見知りになったためぶどう一粒分おまけしてくれた)し、会場へと足を向ける。
     パキン、と飴を噛みちぎって口の中で味わいつつ、ふと辺りを見渡す。

    フレンダ(それにしても、やっぱり人が多いってわけよ)

     恐らく、学園都市で最も人が集まるであろう体育祭。訪れる人数は一千万を超す。
     赤い髪の神父や、無駄に露出の多い、本来の年より少しばかり老けて見える女性など多様な人間がいる。

    フレンダ(昨年も思ったけど)

     これだけいるなら。
     そう、これだけいるなら。
     もしかしたら、自分の父や母だっていてもおかしくはないんじゃないか。
     祭りの雰囲気に当てられ、そんな錯覚に囚われてしまう。

    フレンダ(――そんなこと、あるわけない、ってわけよ)

     それに、今更目の前に現れたところでもはや恨み言しかない。
     そうだというのに、思ってしまうのは何故だろう。
     ちゃんとした身分を保証してくれる親が戻って来て、置き去りから、闇から解放されるなんていう幻想を抱いてしまうのは。


    724: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/05/27(日) 01:52:35.44 ID:smLjIvGZo

     そんな妄想がもやもやと付き纏い、完全に振り切れたのは会場を目前にしてだった。
     混み混みになっている一般来場客用応援席を避け、真っ先に学生用応援席へと入る。
     テントのある、満員電車のような込み具合の一般来場客用とは違い、学生用のものは質素に、ブルーシートを引いただけのものだ。
     無論そこにいる人間は疎らで、空席が目立つ、というレベルではない。
     日向が大半、というのも理由の一つなのだろうが、空席の目立つもう一つの大きな理由は、応援に来る学生が競技に参加中だということにある。
     およそ半数もの学校が同時に競技に勤しんでいる中、他校の友達を応援に来るのは中々に難しいだろう。

     そんな中、フレンダがぱっと見て目についたのは、車椅子に乗っているツインテールの少女や、頭に花冠を乗せた少女。
     そして、木の下にある日陰でぼーっとしている、ピンク色のジャージを着たダウナー系無気力少女。

    フレンダ「………………」

     思わず目をぱちくりさせて、目頭を軽く抑える。
     疲れているのかな、と思い、大きく深呼吸をした。
     一連の動作を三度繰り返し、もう一度学生用観客席を見渡した。

     車椅子に乗ったツインテールの少女。
     頭に花冠を載せている少女。
     そして。
     木の下にある日陰でぼーっとしている、ピンク色のジャージを着たダウナー系無気力少女。

    フレンダ「……なんで滝壺がここにいるってわけよッ!!?」

     思わず大声を出してしまい、少ない視線を集めてしまう。
     ヤバッ、と思い口を噤む。間に合わないかと思われたが、運良く参加者の入場と重なって視線は自分から逸れる。
     『お姉さま――!』などという騒がしい歓声を背に、フレンダはそそくさと滝壺の方へと移動する。

    滝壺「……フレンダ、どうしてここに?」

    フレンダ「結局、それはこっちの台詞なんだけど」

     暑さの残る日差しの下に居たからか、それとも先程の失態の冷や汗か。
     どちらにしても気分の悪いべたついた汗をどこからともなく出したタオルで拭いつつ、フレンダはため息を吐く。


    725: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/05/27(日) 02:34:54.36 ID:smLjIvGZo

    滝壺「私は、ただぼーっとしてただけ」

    フレンダ「うん、大体わかってたってわけよ」

     滝壺理后の趣味はAIM拡散力場浴である。
     それが一体どういうものなのかフレンダには分からないが、森林浴や日光浴のようなものだと認識している。
     そして大覇星祭の始まるつい数日前に、滝壺はそれをするのだと言っていたことを、質問を投げかけてから答えられるまでの僅かな間に思い出したのだ。

    フレンダ「それにしても、すごい偶然だね。同じ場所に当たる確率って結構低いと思うってわけよ」

    滝壺「そうだね。ところでフレンダはどうして?」

     遠くで、協議開始のアナウンスが鳴る。
     それと合わせて振り向きながら、フレンダは答える。

    フレンダ「それは――――」

     いや、答えかけた。
     その次の瞬間。

     砂塵が舞う。
     電撃の槍が飛ぶ。
     炎が、風が、見えない力が、何もかもが一挙に交錯する。
     悲鳴、叫喚が錯綜し、怒声、喚声がそれを追う。
     この競技は一体なんの競技だっただろうか、それを忘れる程の凄惨な光景だった。

    フレンダ「…………」

     それは一方的な殺戮だった。
     いや、実際に死んでいる人は一人たりともいないのだろうが、そう見えてしまう程の一方的な試合。
     あの能力軍の中に上条当麻はいるのだろうが、あれをたった一人で対処するのはいくらあの少年でも難しい。

     そして勝敗は数分も経たない内に決する。
     勝敗は、いうまでなく。

    滝壺「……それで、フレンダはどうしてこの競技を見に来たの?」

     その問いに、フレンダは返答に困る。
     見ものだと思ったのだ。好カードだと思ったのだ。
     だがこの結果に収まってしまったのだ。
     軽く呆れながら、半ば投げやりに、最早答える気もなく、滝壺の言葉に返す。

    フレンダ「あー、うん。なんか適当に見に来ただけだから」

     滝壺はそっか、とだけ返して。
     二人は並んで、競技終了の時間までそのワンサイドゲームを眺めていたのだった。


    730: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/09(土) 01:19:45.09 ID:NI5onlcto

    実行委員『――午後の部第一種目、第十二会場は常盤台中学の勝ちです』

     アナウンスが流れて歓声を上げるのは一部の親類。
     お嬢様学校と揶揄される常盤台中学は、あくまで優雅に。
     ……それでも一年生と、一部の活発系な生徒は喜びを隠せなかったようだが。

    実行委員『怪我をした人は医務班へ、そうでない方は退場をお願いします』

     そのアナウンスと同時によくあるBGMが流れ、生徒はそれぞれ退散を開始する。
     そんな中で上条は不幸にも能力の渦に巻き込まれてひたすらにボロボロだった。

    青ピ「カミやん相変わらずボロッボロやね。これで何着目?」

    上条「もう三着目ぐらいだな……また上条さんの財布から野口さんが飛んでいきますとのことよ……ははは……」

     不幸だ、とがっくし肩を落とす上条。
     青髪ピアスはそれに対して落とした肩を叩きつつ笑う。
     彼的には負けて当然の試合であり、むしろお嬢様達の体操着を間近で見ることができたので試合に負けて勝負に勝った状態なのだ。
     それでいて肩を落としている親友を笑い飛ばさずしてなんというか。

    青ピ「まーまー、つっちーや吹寄ちゃん、姫神ちゃんもおらへんのだから仕方がないんちゃう?」

    上条「仮にそいつらがいても勝てたビジョンが思い浮かばないんだが」

     姫神や吹寄なら兎も角、適当に流そうとする土御門。
     その真面目な姫神や吹寄も大きな戦力とは言いがたい。
     つまるところ、どうしてもこの直接対決は負けていた。
     まーそりゃそうですよねーと現状を再認識したところで、はたと気付く。


    731: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/09(土) 01:40:58.78 ID:NI5onlcto

    上条(もしかして、もう買ったも同然とばかりに御坂が命令をしに来るのでは?)

     常盤台中学の超電磁砲、御坂美琴と交わした約束が脳裏を過る。
     一日目の競技が終了した時点ではあまり点差は開いていなかったが、二日目の午後から徐々に点差は開いている。
     あの電撃姫の言う通りに常盤台中学がスロースターターというのならその差はこれから広まる一方であろう。
     加え、今しがた終えた直接対決も負けた。
     いや約束は大覇星祭が終わった後に点数の高い方の命令を低いほうが聞くというものだから、結果は見えていても実際には終わるまではわからない。
     が、相手はあの御坂美琴だ、ビリビリ中学生だ。

    上条(命令をまだしてこないにしても、もしかしたら『これがアンタと私の差よ!』とかなんとかいいつつ口答えしたら電気の槍とか砂鉄の剣とか色々飛んでくるのでは?)

     ない、などとは言い切れない。
     レベル5は、色々と人格破綻者が多いのだから。

    青ピ「ん? カミやんどないしたん、急に黙って」

    上条「……よし」

     ぽつり、と決心を込めて頷きつつ。
     心配をしてくれたであろう青髪ピアスに早口に声を投げかける。

    上条「すまん青ピ、急用思い出した! 次の競技の時にな!」

     三十六計逃げるに如かず。
     上条はゲートを抜けると共に脱兎の如く、会場を離れるのだった。


     無論、観客席に居た少女もそれを確認した後にすぐさまその後を追いかけるのだが。
     この大覇星祭、彼らが邂逅するのは本日三日目の、夜だけであった。


    746: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/07/30(月) 22:20:50.31 ID:bgYeTr3fo

     さてはて。
     フレンダ=セイヴェルンはアイドルの追っかけよろしく上条当麻の追跡に身を粉にしていたわけなのだが。
     一人きりになる瞬間など都合よくは行かず、またその一人きりになった瞬間にも見失うという呆れた事態。
     昨年見せた追跡術はどこへやら、ただの男子高校生一人捕まえられない乙女と化していた。

    フレンダ「……はぁーっ」

     溜息を吐くのは仕方のないこと。
     時刻はもはやナイトパレード。フレンダは高台でその打ち上がる花火を眺めていた。
     代わり映えしない夜のお祭り……かと思いきや、案外そうでもない。
     七日間、全く同じ物を何度も見せられていれば流石に半分過ぎたころに飽きが来る。
     その為一日一日にテーマを決めている。
     ぼんやりと眺めていればそれに気付くことなどないかもしれないが、一応パンフレットにも乗っているし、それを踏まえて見れば『あーなるほどー』と納得できる出来ではある。
     そして本日のテーマは、『和』。

    フレンダ「なんつーか、これ以上ないぐらいに今日の夜に馴染んでないってわけよ」

     日本の『和』という文化は独特のものだ。
     例えば風鈴。それを聞けば大半の人は『涼しい』、というイメージを思い浮かべるが海の向こうから来た人はそうではなく、『うるさい』、と思うことも多いらしい。
     無論フレンダは長いこと日本(果たして文明の進みすぎている学園都市を日本と分類していいのかどうかは不明だが)にすんでいるため、その『和』の心得はある。
     だからこそ、自分がこの場にそぐわないことが理解できてしまうのだ。

    フレンダ「結局、当麻も捕まんないし、居場所もないし、で。 ふんだり蹴ったりってわけよ」

    上条「……俺ならここにいるぞ?」

    フレンダ「!?」

     ビクッ、とフレンダの背筋がピンと伸びる。
     声の持ち主は今更言わずもがな、上条当麻であるのだから当然だ。


    747: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/07/30(月) 22:54:59.92 ID:bgYeTr3fo

     ギギギ、と機械のように振り返り、そのツンツン頭に『?』を浮かべている少年を確認した後。
     フレンダは嬉しさと恥ずかしさが入り交ざった、なんともいえない表情を押し固め、とりあえず思考の片隅で拾ったそれを投げつける。
     なんでここに、ではなく。どこから聴いてたの、でもなく。

    フレンダ「とっ、当麻はっ……けっ、景気よく吹き飛ばされてたねっ!?」

    上条「…………」

     空気が凍る。
     世界が断絶され、ただ二人だけが時間の止まった世界に取り残される。
     その止まった空間でたっぷり七秒、ようやく失態を悟り、咄嗟について頭に浮かんだ言葉(何を言ったかすらも覚えていない)をフォローする。

    フレンダ「うっ、うそ! 違う、違うってわけよ!? いや何言ったかも覚えてないけど違くて、結局違くて!?」

     異常状態、混乱。
     攻撃コマンドを選んだら間違いなく自分か仲間にダメージを与えそうな少女はさておき。
     割とクリティカルな即死攻撃を一ターン目で食らった幻想殺しの少年はというと、

    上条「そうですそうです、上条さんはこんな右手一つあっても数の暴力には勝てず団体戦では吹き飛ばされ個人戦では訳の分からないうちに敗退する学力も平均以下の凡人なんですよー……」

     肉体面は兎も角、精神面が壊滅していた。(というのは見せかけで、いつもの自嘲ギャグだったりするのだが。)
     周囲にいたカップル達は話の咬み合わない二人を指して『何してんだこいつら……』と慄いているのだった。


    748: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/07/31(火) 04:09:00.99 ID:ARCu+TYOo

     ■   □   ■


     暫しの間を置いて、再度二人は向き合う。
     咳を一つ払ってから、まずフレンダは始める。

    フレンダ「こほん……とっ、当麻っ!? どうしてここにいるってわけよ!?」

    上条「え? えっと……俺はただ散歩っつーか、周りから逃げてきただけつーか……」
                     テイク・ツー
     リプレイ、これぞ世に聞く『やり直し』。
     どうやら彼彼女はつい先程見せた失態をなかったものとして扱うらしい。

    フレンダ「……あの量のガールフレンドから? 当麻も中々隅に置けない、ってわけよ」

    上条「ガールフレンドってそんなんじゃ……いや、合ってる、のか?」

     日本で言うガールフレンドとは懇意にしている女の子、つまり憎からず思っている女の子や彼女のことを指すのだろう。
     が、一歩外に出てみるとその意味はたちまち、直訳した女友達、というなんとも面白みのない言葉に早変わりする。
     フレンダの外見から察するに、本来の意味で使っている可能性が高い……と、英語知識の浅い上条は思った。
     いや、それよりも。

    上条「……ん? あの量の?」

    フレンダ「全く当麻も罪づくりな男なわけよね。 アレだけの量の女の子に一気に手を出してるなんて」

     やれやれ、と言った、呆れた面持ちで嘆息する。
     軽くジト目が入っているのは恐らく気のせいではないのだろう。

    上条「ちょっ、ちょーっと待て! フレンダさんは一体どこで何を見たり聞いたりしていたのでせうか!?」


    749: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/07/31(火) 04:34:33.42 ID:ARCu+TYOo

    フレンダ「どこでって、今日一日当麻を追っかけててだけど」

     さらりと告げる。
     別に取り立てて隠すようなことでもなし、フレンダ的にはこの程度はどうでもいいのだ。
     どうでもいいと、思っていたのだが。

    上条「今日一日って……」

     軽くストーカーじゃないか?なんてそんな言葉はさておき。

    上条「お前、自分の競技はどうしたんだ? っていうかフレンダの学校って俺知らないんだけど」

    フレンダ「……あー」

     上条のつい口からついてでた言葉(別に不利な追求から話題を転換しようとしたわけではない)にフレンダは口を閉口する。
     そういう意味でないのに、と思うのが二割と、しまった、と思うのが残り。
     上条のお節介スキルは筋金入りだし、うまく切り抜けるにはどうしたって彼を納得させる言い訳が必要なわけだが。

    フレンダ(……駄目だ、結局、何も思いつかないわけよ)

     何通りかの解答は思いつく。『自分の出てる競技以外の時に見てた』、だとか『実は学校に通っていない』だとか。
     それでもその後の言及は避けられない。こういう状況での適当な答えは後々の関係で自分を縛り付けることになる。
     だったら、下手に小細工をするよりは真実を。但し、隠すことは隠し、誤魔化すところはうまく誤魔化して。
     少女は纏っているスカートの端をぴら、とだけ持ち上げる。

    フレンダ「えーっと……実はね、一応この制服の学校に籍はあるんだけど、諸事情で通ってない、ってわけよ」

    上条「通ってないって……」

     学園都市で不登校になる理由など、外に比べてそう多くはない。
     レベルに応じてとはいえ給料よろしくお金が自動的に入金されるのだ、教科書代などは勿論別だが、教育費は全て無料という状況になっている。
     故に金銭面での不登校、休学はありえない。だから他の理由となれば割と簡単に絞ることが出来る。
     あくまで、闇に触れていない物の発想なので絶対に届くことはないが。


    764: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) 2012/08/17(金) 22:44:01.68 ID:isX5dwvto

    上条「……虐め、とかか?」

    フレンダ「んー、んー……当たらずも遠からず、ってとこかな」

     夜空に一つの花が咲き、その音は静寂した夜に響き渡る。
     フレンダは落下防止の柵に腰掛けて、その花に背を向けた。

    フレンダ「結局さぁ、私は……なんていうのかな、合わないってわけよ。向こうだって悪気があるわけじゃなくて、いや、悪気のない虐めとか、そういうんでもなくて」

    フレンダ「つまり……そう、『見ている世界が違う』。これが一番しっくり来るってわけよ」

     フレンダは、過去を振り返りながら理由を述べる。
     今籍を置いている学校には一度も通っていないが、以前上条と同じ高校には通っていたのだ、思い出すのはその時のこと。
     フレンダは友達と呼べる友達はいなかった。元々上条以外と触れ合うつもりはなかったのもあるが、たった今彼女が言ったことも、その理由の半分を占める。
     新しい学校。新しい生活。新しい友人。
     そういうものを求めてワクワクしていたクラスメート達。彼、或いは彼女らはあまりに――――

    フレンダ(――――眩しすぎた、ってわけよ)

     純粋な光。
     住んでいる世界が、見ている世界が違う。
     だから、逃げた。
     関わりを持ちたくないから。眩しすぎて、彼の隣にいるのが嫌になりそうだったから。
     それらはまるでつい昨日のことかのように想起でき、フレンダはその時の何とも言えない想いを心に持ちながら言ったのだった。

    上条「それは、」

     告げられた上条は逡巡する。
     そんなフレンダの深い事情まで知る由もないが、言葉をなぞるなら周りとの差異に自分が嫌になったと受け取る事が出来る。
     そんなプライベートな思いを、どうして知った口調で説得することができようか。


    765: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) 2012/08/17(金) 23:08:10.62 ID:isX5dwvto

     だが、とも思う。
     抱えている悩みを打ち明けてくれたということは、それはつまりそのことで弱っているということではないだろうか、と。
     そうだ。目の前の少女は自分と同じ学年とはいえ、多感な時期の子供に過ぎない。
     それは自分も同じだが、だからこそ、理解してやらねばという思いに駆られる。
     ことさら、上条が故に強くそう思う。

    上条「でも、それは――誰だって、同じじゃないか?」

    フレンダ「…………」

     フレンダはじっと、上条の目を覗きこむ。
     しかし上条はそれに臆さず、続ける。

    上条「俺だって、周りと違うって思うとこはあるぞ。勉強だってうまくいかないし、運動だって取り立てて得意なわけじゃない」

    上条「一番大きいとこはあれだな。よく不幸な目にあうってことだな」

    上条「俺が普段絶対に失敗するようなところで当然のように……いや、そいつらにとっては当然なんだけどさ、当然のように成功すると、違うんだなぁって思うよ」

     けど、と。
     上条は共感できると並べた言葉を、翻す。

    上条「それはやっぱり、誰もが感じてることなんじゃないか?」

    上条「勉強が出来ないやつだって、運動ができないやつだって。逆に高すぎる能力を持つやつだって、周囲との違いを感じてるかもしれない」

    上条「誰一人同じ人間はいないんだ。感じてる差異っていうのはつまり、個性のことなんじゃないのか?」

    上条「だから、」

     不意に。
     ぷっ、と。フレンダは微笑みを零した。


    766: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) 2012/08/17(金) 23:37:13.27 ID:isX5dwvto

    上条「……フレ、ンダ?」

     空気にそぐわない吹き出しに、上条は動揺する。
     ぷるぷると震える彼女は別に泣いているわけではなく。
     ただこみ上げてくる笑いに抗っているだけだ。

    フレンダ「ごっ、ごめん……いやね、やっぱり、当麻は当麻なんだなぁって、思ったってわけよ」

     例え合わないまま幾数年の年月を経たとしても。
     例え記憶喪失で全ての思い出を忘れてとしても。
     上条当麻は、やはり上条当麻。
     フレンダは何度その事実を確認しても、やはり嬉しくなってしまう。

    上条「あ、そ、そうか……?」

     しかし言われた本人からしてみると反応に困る言葉なのだ。
     別に馬鹿にされているわけでもなし、かといって褒められているとは言い難い。
     そんなこんなで困惑させて上条からの追求を避けるのもフレンダの目的の一つだったわけだが。

    フレンダ「……当麻の言いたいことはわかるよ。でも、今はそんなことはどうでもいいってわけよ」

    フレンダ「だって、さ」

     フレンダは柵から腰を上げて、ズイッ、と上条に接近する。
     数メートルの距離からいきなり数十センチになって上条はややのけぞるが、フレンダは弁えているのかそれ以上は近づかず。
     優しげな、儚げともとれる笑みを浮かべて告げる。

    フレンダ「今は、当麻が一緒にいてくれるんだから」

     遠くで、一際大きな花火が彼らを照らし。
     少し遅れて轟音が闇夜の静寂を引き裂いた。


    804: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/29(土) 01:23:16.01 ID:HmMgeG8so

     ■   □   ■


     悩みがあって夜も眠れない。
     そんなことはないだろう、考えに深ければいつしか眠りに落ちているに違いない。
     そう思っていた上条だったが、その考えは間違いだったことを身を持って知った。
     いや、厳密に言えば数時間は眠ったわけだが、いざ眠りにつこうとしたそれから二時間弱、寝付けなかったのだ。

    上条「ふぁ……」

     故に今の彼は寝不足である。大きな欠伸がそれを証明した。
     とはいっても、本日の競技は朝一番、それが終わればもうやることなどない。
     ので、それが終わった今、閉会式まで羽を伸ばすことの出来る最高の時間なのだが。
     彼の心はまったくもって晴れない。

    上条「……どういうこと、なんだろうな」

     それは誰に言うでもなく。
     思い出すのは、昨日のこと。

    上条「去年、フレンダは同じ学校に通ってたって?」

     意味がわからない。
     フレンダはつい四日前にそこらの事情を話してくれたばかりだ。
     自分と一緒に居られればそれでいい、なんて少しばかりドキッとする台詞も吐かれた。
     なのに、だ。
     昨年はクラスこそ違えど、同じ学校に通っていたという。
     情報が錯綜している、と思うのは彼が今の彼である所以だろう。

     記憶喪失。
     その重要なファクターも含めて鑑みると、その情報は恐らく正しいのだろうと思えてくる。


    805: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/29(土) 01:49:05.30 ID:HmMgeG8so

     そこには、一つの直面しがたい事実が存在する。

     それは、フレンダは上条が記憶喪失になったことを知っている、ということ。
     当然だ、昨年同じ学び舎だったとしたら、同学年で顔を合わせて居ない筈がない。なにせアレほどに目立つ外見なのだから。
     加えて両親の証言によると、その両親をほっぽって、ナイトパレードを二人で楽しむの仲だったらしい。 これで記憶喪失になっていないことが知れてないのがおかしいだろう。

     だとすれば。
     よほど残酷なことをフレンダにしてしまった、と上条は思う。

     あの日、病室で初めて会った時。
     幼稚園で一緒だったというフレンダに対して、上条は『覚えていない』と言ってしまった。
     本来なら、それより最近に会っているというのに。
     上条当麻は、フレンダ=セイヴェルンのことを忘れてしまっていたのだ。
     二人でデートもするほどの、もしかしたら好いた惚れたの仲であったかもしれない、幼馴染のことを。

     そして彼女は、つい数日前になんといっただろうか。
     『自分が一人なんてことはどうでもいい』、と。
     『今は当麻が一緒にいてくれるから』、と。
     彼女は、知っていて。
     少年が記憶喪失であることを知っていて。
     知っていて、尚、その言葉を告げたのだ。
     ――そう、笑顔で。

     そこにどれほどの想いが秘められていたことだろう。
     想像に難くない。 否、想像すら絶する。
     少女がどのような心を持ってして自分との邂逅を繰り返し、笑っていたのか、など。
     上条には想像もつかない。


    806: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/29(土) 02:01:55.41 ID:HmMgeG8so

     ……さて。
     だがここで、幾つかの疑問が沸き起こる。

     一つ。 何故フレンダは記憶喪失を知っていることを黙っているのか。
     一つ。 何故フレンダは昨年のことを言ってこないのか。
     一つ。 何故フレンダは学校を転校してしまったのか。
     何故、何故、何故。
     考えれば考えるほど、疑問の海に溺れていく。

     気がついたら、朝だった。
     上条は睡眠寸前のぼやけた思考を引っ張りだして、覚醒している頭でそれを咀嚼する。

    上条「…………わからねぇよ」

     それでも、わからない。
     まったくもって、理解できない。

     嗚呼、記憶喪失の我が身が恨めしい。
     思い出がないが故に少女の秘めた苦しみ一つ開放できないのだ。
     かくなる上は。

    上条「問いただす、しかないのか……?」

     一番手っ取り早い方法がそれだ。
     けれどそれは、踏みにじることになる。
     フレンダが様々なものを隠して誤魔化して保ち続けたこの関係を、ぐしゃぐしゃに蹴散らすこととなる。
     それは果たして、許されることなのか?
     散々気が付かなかった自分が今更それをして、まかり通るものなのか?

     上条当麻は昨夜に続き、人の波の中で思考に耽る。


    816: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/14(日) 01:04:22.52 ID:qq5BMiuBo

     ヌッ、と。
     思考に耽る上条に背後から影が忍び寄る。
     音を立てず、人混みを縫い。

     少年は何やら考え事をしているようだ、と近づきつつ観察する。
     しかし、そんな深刻なことなのだろうか?
     いや、あの少年に限って、難しい問題があるだのそんなのあるわけがあるまい。 少女はそう自分の中で結論付ける。
     そして遂に少年の真後ろまで辿り着き――――

     ドンッ、と衝撃。
     同時に上条は心臓が飛び出るかと思った。
     それは叩かれるのが強い力だったとかそういうわけではなく、あまりに突然だったからだ。
     そして上条はもしや、と思う。
     背後から突然来るのは、今悩んでいた少女の接触行動ではなかったか、と。

     しかしそう考えるも遅い、反射的に上条は背後を振り返り。
     その人物を、確認する。
     そうして上条は、心より安堵した。

    上条「……なんだ御坂か」

    御坂「なんだとは何よ失礼ね。 敵同士とはいえ今日まで一緒に戦ってきた知り合いに労いの言葉一つないわけ?」

     上条のその溜息混じりの言葉はどうやら落胆したかのように見えたらしい。
     背後から奇襲をかけてきた御坂美琴はあからさまな不満な態度を示しながら言う。

    上条「んで、お前はこんなトコでなにしてるわけ? トイレでも探してるのか?」

    御坂「んなわけ無いでしょうが! ちょっと昼ご飯に屋台でも回ろうと思っただけよ」


    817: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/14(日) 01:20:49.04 ID:qq5BMiuBo

     デリカシーのない発言に嘆息を吐きつつ。
     美琴は腕を組んで片目を閉じ、もう片目で上条を流し見る。

    御坂「逆にアンタこそ何してんのよ? アンタも昼ご飯?」

     もしそうなら一緒にゴニョゴニョと聞こえない言葉はさておき。
     上条は『あー』だの、『うー』だの、歯切れの悪い生返事を並べ、まぁいいか、とでもいうように口を開く。

    上条「いや、ちょっと考え事」

    御坂「アンタが? 珍しいこともあるもんね」

    上条「失礼な! 上条さんだって極普通の男子高校生、そりゃあ悩み事の一つや二つありますとも!」

     別に美琴は上条に悩みがないといっているわけではなく、悩みがあったとしても後先考えずに突進しそうだと言いたいだけなのだが。
     それを言ったところで場が乱れるだけだしと胸の奥にそっと閉まっておく。

    御坂「それで?」

     はぁ、とまたもや溜息を吐きつつ言われたそれに、上条は『?』を頭上へ浮かべる。

    上条「それで……って?」

    御坂「だから、その悩みの話よ。 相談ぐらいなら乗るわよ」

     一応世話になってるし、と小さく付け足す。
     しかしやはり都合よく聞こえなかった上条は美琴の言葉の意図を探り、ハッとする。

    上条「まさか相談に乗ってやるから昼飯を奢れと!? 自慢じゃないがこの上条当麻、財布の寂しさには自身がありますとのことよ!?」

    御坂「誰もそんな事言っとらんだろうが! 勝手に暴走すんなやゴルァ!!」

     バチバチ! と電気が飛び散り、辺りの観光客や生徒は騒然とする。
     一番近くの上条はといえば、やはりさり気なく右手で電撃を打ち消し、無傷でいた。


    821: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/14(日) 12:18:56.39 ID:qq5BMiuBo

     防がれ、防がれ、防がれ。
     傷ひとつ負わせられない美琴には更に苛々が募るばかりであり。

    御坂「あーもうなんなのよアンタ! こういう時は適当に電撃を受けてその辺に転がるのがフツーでしょうがッ!」

    上条「そんなこと御坂が切れるたびにしてたら俺の身がもたないからな!?」

     尻もちをついて、こわー!この人こわー!と慄く上条。
     美琴の方はもはや色々と吹っ切れたようで(しかし頭の冷えた数分後に顔を真赤にすることは明白だが)、ずんずん、と上条の傍に近寄り手を差し伸ばす。

    美琴「ほら! アンタに奢ってなんか貰わなくてもアンタ一人ぐらいの食事を賄えるってトコ見せてやるわ!」

    上条「いや流石に自分の分くらいは自分でっておわっ!?」

     手を伸ばした瞬間に手首を捕まれて力強く引っ張られ、思わず情けない声が出てしまう。

    美琴「四の五の言わないで、さっさといくわよ! 目指せ全制覇!」

    上条「それってどこのインデックスですか御坂さん!?」

     やけっぱちになっている御坂美琴に手を引かれ。
     上条は美味しそうな匂いの漂う屋台エリアへと繰り出すのだった。


    822: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/14(日) 12:49:04.65 ID:qq5BMiuBo

    御坂「それで、アンタは何が食べたいの? 真面目な話、一つや二つぐらいならこのミコトサマが奢ってあげないこともないわよ」

    上条「男子高校生が女子中学生に奢ってもらうって正直どうかと思うけどどうぞよろしくお願いいたします」

     一瞬の迷いもなく頭を下げる。食欲と金銭問題は、男子高校生のプライドに勝る。
     ぶっちゃけ上条家の家計は赤字なのだ火の車なのだ。
     イギリス清教にインデックスの食費を何時か請求してやると心に秘めている上条ではあるが、その何時かすら見えない。
     故にもらえる時には貰っておく。 食うもの全部奢ってもらうというのは心苦しいから却下だが、一個二個なら超能力者である美琴の財布は痛まないだろう。

    御坂「よろしい。 それで、どうするわけ?」

    上条「そうだな、なるべくなら安くて量の多いものがいいけど……」

     屋台の食べ物の値段というのは、雰囲気代も含んでいる。
     上条の言う安くて量の多いものも確かにあるが、それは全体の半分にも満たないだろう。
     故に探すのはほんの少しばかり面倒になるわけだが……
     はぁ、と美琴はこれ見よがしに溜息を吐く。

    御坂「……アンタ、まだ私の財力わかってないわけ? 私の財産全部合わせたら、『書庫』の機材に届くか届かないかレベルにはなるんだけど」

    上条「…………差別だ」

     上条はその財力の差に愕然とする。
     お金とは数だ。 数とは力だ。 力とは強さだ。
     金を持つものと持たざるものには絶対的な壁が存在するのだ。
     『書庫』一つ買える程のお金など、上条の生活ならば半生どころか一生分の資金になり得るだろう。

    御坂「差別って何よ失礼ね。 私だって頑張ってレベル5になって、その結果お金を手に入れてるんだから当然じゃない」

     美琴はレベル1からレベル5になった極めて模範的な能力進化の可能性を示した能力者である。
     逆に言えば、彼女が居なければレベル1、2で心折れた人も数多くいたに違いない。
     真実を知らねば、彼女がその事に胸を張るのは当然である。


    823: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/14(日) 13:12:53.52 ID:qq5BMiuBo

    上条「……あいわかった! じゃあ上条さんも遠慮せず、高いものを奢ってもらうことにしましょう!」

    御坂「早速遠慮なくなったわねアンタは。 まぁ屋台だからどれだけ高くても万は超えることはないけど」

     したがって美琴は値段には拘らず、美味しさで判断する。
     お嬢様料理ばかりで舌が肥えている、というわけでもないが美味しいに越したことはない。
     そして仮に量が少なかったとしても、個数を買えばそれも賄える。
     まさに金持ちの発想である。

    御坂「んと……それじゃあそことか、結構人が並んでて良い感じ、じゃ…………」

     行列のできている一つの屋台を指して。
     その方向を見たまま美琴は固まった。

    上条「? 御坂?」

     問いかける。
     が、当の美琴には全く耳に届いていないようで、ブツブツと呟いていた。

    御坂「……いつ…………してこんな…………また何か企んで…………」

     上条も美琴の視線の先を追う。
     そこにはたこ焼き屋があった。
     行列の出来ているたこ焼き屋、大玉八つで五百円。 比較的良心的な屋台。
     そしてその一番前、丁度注文したたこ焼きを受け取ろうと手を伸すのは。
     紛うことなき、金髪の少女。


    824: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/14(日) 13:22:52.33 ID:qq5BMiuBo

    上条「――――ッ」

     瞬間、フラッシュバッグする。 ドクン、と心臓が跳ね上がる。
     病室で、道端で、街中で。
     ナイトパレードを一緒に見て、笑顔を見せてくれて。
     そして両親の言葉。

     フレンダは上条や美琴に気が付かず、二つのパックを受け取って笑みを浮かべつつ人混みへ去っていく。
     その笑みが、重なる。
     全く質の違うものだけれど、重なってしまう。
     自分へと向けていた、笑顔。
     心から楽しそうな、その表情に。

     思ってしまうのだ。
     その笑顔を奪いたくない、と。
     記憶を失っていることを知られたことを上条が知ってしまった、という事実を知られたくない、と。


     ――――笑っていて欲しい。


     上条は覚えているような気がしたのだ。
     脳ではなく。 身体でもなく。
     心で、心に。

     だから、隣で動く気配がした瞬間に上条当麻は。
     その腕を掴んで、止めていたのだ。
     もし御坂美琴が彼女を追いかけたのだとしたら、きっと自分も追いかけることになるだろうと思ったから。


    825: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/14(日) 13:37:13.86 ID:qq5BMiuBo

    御坂「――――っ、離し…………!」

    上条「嫌だ」

     グッ、と右手に強く力を入れる。
     抑えるためだけだから力は然程はいっていない筈だ。 美琴の反応からもそれが伺える。

    御坂「っ……なんでよ…………!」

    上条「だって……ここでお前を行かせたら…………」

     ごくり、と美琴は唾を飲む。
     そして上条はカッ! と目を見開き、叫ぶ。

    上条「御坂に奢ってもらえなくなるだろ!?」

    御坂「…………」

     御坂美琴は。
     このバカに、猛烈に数億ボルトの電流を流してやりたい衝動に見舞われた。
     しかし最初に奢ると言ったのはこの自分だ。

    御坂「はぁー……わかったわよ、ちゃんと奢るわよ」

     もう一度いうが、確かに初めに奢ると言ったのは美琴の方だ。
     だが何か急用がありそうだった人を引き止めてまでそれを主張するのは高校生として、いや男としてどうなのだろうか。
     まぁいいか、と。
     何かあるのだとしたらこの区だろうし、そうしたらまた出会うこともあるだろう。
     その時こそ、あの金、

    上条「金髪」

    御坂「っ」

     心臓が跳ね上がるのは、今度は美琴の方だった。
     知っているわけがないのだ。 いや、この少年ならば知っていてもおかしくないが、知らないはずなのだ。
     自分がつい先ほど、あの少女を見ていたことなど、知りようのないことだったのだ。


    826: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/14(日) 13:51:56.07 ID:qq5BMiuBo

    上条「綺麗だよな」

    御坂「……へ?」

     思わず呆けた声を出してしまった。
     だから、と上条は続ける。

    上条「一番前の金髪。 御坂もあいつ見てたんじゃないのか?」

    御坂「え、う、うん、そうだけど……」

    上条「フレンダの髪、綺麗だよな……インデックスのも銀髪だけど、上条さん的にはフレンダの方が……」

    御坂「ちょっ、ちょーっと待ちなさい! フレンダって、アイツのこと!? アンタ、アイツのこと知ってるの!?」

     それを聞くのは、本来逆だ。
     美琴は上条のカマかけと誘導に引っかかったことに気が付かない。

    上条「ああ、アイツは、フレンダは、学園都市に来る前の幼馴染だ」

    御坂「はぁっ!?」

     美琴の混乱が頂点を突き抜けた。
     屋台でいきなり『絶対能力進化』に関係していた金髪を発見し。
     思っていたことを言い当てられたかのように錯覚して。
     情報が散乱しているところに、その金髪が想い人の幼馴染だと判明。
     これで困惑しないほうがおかしい。


    827: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/14(日) 14:21:09.79 ID:qq5BMiuBo

     上条は引っかかった、と思った。
     美琴が見ていたのがフレンダでなければそれはそれでよかったのだが、フレンダだったのなら逆に話を聞くことが出来る。

    上条「御坂は、フレンダのこと知ってるのか?」

    御坂「ふぇっ!?」

     混乱する御坂はその言葉で目まぐるしく思考を加速させる。
     反応から見るに、上条はフレンダの仕事のことを知らないのだ。
     幼馴染というのだから仲はそれなりに親しいに違いない。
     上条は大なり小なりショックを受けるだろう。 それは美琴の本意ではない。
     故に美琴は。

    御坂「ええと、それはあれよ! その、なんかよく見たことがあるなって思ってただけよ! 目立つし!」

    上条「確かに目立つよなあれは」

    御坂「うん、だからその、それだけ! うん!」

     まだ混乱を引きずっているが、言葉を選ぶ余裕はあるようだった。
     あの時の反応から何か知ってはいそうだった。 が、これ以上無理には聞き出せまい。
     そう考えた上条は、そっか、とだけ返して。
     ふと、それが目に入った。

    上条「……おっ、そういや来客者ナンバーズの結果って今日じゃん」

    美琴「……そういえばそうね。 アンタ、買ったの?」

    上条「適当だけどな。 まぁ当たらないとは思うけど、見るだけ見に行ってみるか」

     そうして上条当麻は、日常へと返ってゆく。


    839: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/28(日) 01:32:36.35 ID:pFazFNpco

     ■   □   ■


     時間は未来から過去に向かって流れてくる、と誰かが言っていた気がする。
     が、上条当麻にとっては時間とは後ろから自分を追ってくるもの以外の何者でもなく、いつも背中を叩かれている気がするのだ。
     で、あるからして。

    上条「不幸だー」

    小萌「もー、何が不幸なのですか上条ちゃん!」

     ばんばん、と自らのデスクを叩くのは月詠小萌その人だ。
     それの端を見ると灰皿の上に吸い終わった煙草が山の様に積んであり、少しばかり健康が心配になってくる。
     というか吸ってはダメではないだろうか。 年齢的にではなく、見た目的に。

    上条「だって、だって! この上条当麻、生まれてこの方職員室に呼ばれていいことがあった試しなどないんですよ!?」

    小萌「大丈夫です、悪いようにはしませんので」

     そう言いつつ、小萌先生がデスクの引き出しから取り出すのは、一つのプリントの束。
     それの一番上にはこう綴ってある。
     『地力アップ特製問題集――上条ちゃん用――』。

     脱兎の如く逃げ出す上条当麻は丁度行き先に居た黄泉川愛穂にぶつかると同時に腕の関節を決められた。
     手加減は心得ているのか俺はしなかったが、それでも痛いことには変わりなく短い悲鳴を上げてしまう。

    黄泉川「おっとっと、すまんすまん。 つい反射的に決めちゃったじゃん」

    上条「つい反射で関節決めるって酷くないですか!?」

    小萌「黄泉川先生、そのまま取り押さえていて欲しいのですよ。 あまり痛くしない程度に」

     しまったこれは罠だ!? と思うより早く小萌先生は上条の目前に立っていた。


    840: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/28(日) 01:52:23.85 ID:pFazFNpco

    小萌「上条ちゃんったら、もー。 何も逃げることはないじゃないですかー」

     困った風にしながら、それでも嬉しそうな小萌先生。
     手のかかる生徒程可愛く見えるこの人物は真に先生向きだ。 その小学生にしか見えない体型に目を瞑れば。
     小萌は捕らえられている上条の足元に落ちた鞄の蓋を開けて、手に持っていた問題集を放り込んでからまた閉じる。

    小萌「ありがとうございました、黄泉川先生。 もういいのですよー」

    黄泉川「お役に立てて光栄じゃん。 ってか本当に月詠センセーんとこは楽しそうじゃん」

     言われ、すぐに手を話した黄泉川は仕事があるのか特に立ち話もせずに去ってゆく。
     関節をきめられた場所を上条は撫でるが、痛みは全くなく、これがプロの仕業か、と慄く。
     そしてもはや逃げても意味は無い。 はぁ、と溜息をつきながら小萌から鞄を受け取った。

    上条「……それで、これなんなんです?」

    小萌「やっぱり成績芳しくないようですので、補修の代わり、なのですよ」

     やっぱりかー、と上条は肩を落とす。
     態々『上条ちゃん用』と書いてあるところから察することは容易だった。

    小萌「中間テストがなくなったからきっと期末が大変になるだろうと思っての、先生からのプレゼントなのですよー」

    小萌「そもそも上条ちゃんは学校が始まってから入院とか多くて欠席できる日数も限界に近づいていてですねー……」

     唐突に始まった小萌先生の説教に上条は生返事で頷きつつ。
     この何もない平穏を噛み締めるのだった。
     ……問題集は、全力でお断りしたい所存だが。


    841: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/28(日) 02:48:53.98 ID:pFazFNpco

     十月五日。
     上条がイタリア旅行に行った日から丁度十日。
     それだけの日にちの間にも、上条は普通の人ならもう二度と事件に巡りあう事はないだろうと思われる程の重大岐路を経験した。
     例えば、イタリアでの女王艦隊の撃墜。
     例えば、神の右席、前方のヴェントの撃破。
     どっちもがどっちとも、ともすれば世界が即戦争になったに違いない。
     後者の事件で科学と魔術に明確な確執が生まれたのは違いないが、最悪な事態にはならなかっただろうと思える。

     それはそれとして、だ。

     日常は日常、非日常は非日常でそれぞれをそれぞれで全力で生きるのが上条当麻なのだが。
     今日は少しばかり毛色が違った。
     それは『0930』事件、ヴェントとの戦いの裏にあったもう一つの事件でもあり。
     そしてつい一昨日に起こった御坂美鈴がスキルアウトに襲われた事件でもある。
     過去にも『妹達』の計画を始め、土御門元春やアステカの魔術師等にも同じ匂いを感じたことがあったが、主な原因はその二つだろう。
     学園都市の闇について。

    上条「……普段なら、気にすることもないんだろうけど」

     少しだけ、気がかりなのだ。
     あの少女のことが。
     最近、とはいっても十日余りだが、会っていない気がする。
     というよりそもそも、彼女の電話番号はおろか、連絡先すら知らない。 よって、会いたくとも会えない。
     そんな尻尾を掴ませないところになんとなく、上条は『似たところ』を感じた訳だった。

    上条「……って言っても、どうしようもないんだけどな」

     土御門に聞いたところで返ってくるのは『知らない方がいい』に決まっている。
     或いはフレンダとのことを探っていると感づかれて記憶喪失がバレてしまう可能性も否定出来ない。
     故に八方塞がり。
     上条は交友関係は広いが、学園都市の闇に触れられる窓口は存外に少ない。
     だから地道にやるしかなく、出来れば本人に会わずに話を進めたいところなのだが。

     やはり、不幸にも、ちらりと金髪の影が目の前を過るのだった。


    860: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/11/10(土) 00:17:51.69 ID:yt28kcT/o

     不幸にも、というのはやはり自分の都合であって。
     遭遇したからには見てみぬ振りはできまい。
     それこそ、自分が割を食らうというのが確定している某レベル5の電撃姫でもなければ。
     加え、逃せば次にいつ遭遇するのかわかったものではないのだ。
     ならば、と。

    上条「おっすフレンダ。 こんなトコで何してんだ?」

     びくんっ、と肩が跳ねるのはいつものこと。
     フレンダは大抵の場合、突然上条が現れると驚いたような素振りを見せるのだ。
     上条には誰かを虐めるという趣味はないが、それが僅かに面白くも感じていた。
     そしてその後、フレンダは混乱に口を滑りに滑らせ、余計なことまで口走ってしまうこともしばしば。

    フレンダ「…………当、麻?」
     
     薄く青褪めた顔色、愕然とした表情。
     そして、いつもと違って、名を呼ぶ以外何も口走らぬ状況。
     上条はこの異例な事態を敏感に感じ取る。

     やばい。
     フレンダの起こしたアクション全てが、如実に、雄弁にそう語っていた。

     それを判断し、数瞬遅れて上条はここで会ってしまったことは決定的だと知る。
     だがそれすらも遅い。
     それを知るのは、少なくとも話しかける前でなければならなかった。

    「……お姉ちゃん、どうしたの?」

     ショーウィンドウを覗き込んでいた少女。
     フレンダの影になって、見えていなかった少女。

     後悔先に立たず。
     上条はそのフレンダに類似している少女がこちらを捉えて表情を変えると同時、ようやくその言葉の意味を理解する。


    861: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/11/10(土) 00:44:25.81 ID:yt28kcT/o

    「……あれ、当麻お兄ちゃんだ」

    上条「え…………」

     フレンダをそのまま小さくしたような女の子がいきなり現れて。
     そして自分の名前を呼んだ。
     驚かないわけにはいかない。
     自分の散々悩んでいた情報が真実だと結び付けられる証拠が突如として眼前につきつけられたのだから。

     少女――フレメアは自分の言ったことをもう一度噛み締めて。
     首を僅かに傾げ、上条をじっ、と捉えて。
     そしてぱっ、と表情を輝かせる。 場違いなほどに。

    フレメア「当麻お兄ちゃんだ! にゃあ!」

     間に居たフレンダを押しのけ、ダイブ。
     上条は慌ててフレメアを受け止めて、蹈鞴を踏む。
     ベレー帽がこぼれ落ち、地面に落ちるがそれを拾うものは無し。

    上条「うおっとと……!?」

    フレメア「大体、久しぶり! 当麻お兄ちゃんだ、当麻お兄ちゃんだ!」

    上条「ちょっ、落ち着いて、落ち着いて!?」

     喜びにテンションが高い彼女に目を引かれ、道行く人々は微笑ましく思いながら通り過ぎてゆく。
     上条も上条で、抱きしめたフレメアが暴れるのでバランスを取るのが精一杯でまともに返事を返すことが出来ず。
     だが、それは唐突に終わりを告げる。
     傍に居た、もう一人の少女の叫びによって。


    862: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/11/10(土) 01:12:45.07 ID:yt28kcT/o

    フレンダ「……して……どうして、当麻がここにいるってわけよっ!!」

     シン、と。 その怒鳴り声を聞いた何もかもが沈黙する。
     傍から見れば何が起きたのかわからない。
     上条の立場から見ればただ見かけた知り合いに話しかけただけで怒鳴られる道理はない。
     が、しかし。 彼らが知る由はない。

     たまにはお姉ちゃんらしくどこか連れて行ってあげようとフレンダがフレメアを連れ出したこと。
     ぬいぐるみとか色々見てみたいというので自分の行きつけに連れて行こうと思っていたこと。
     その途中でフレメアとはぐれてしまい、今丁度、おもちゃ屋の窓にへばり付いていたフレメアを見つけたこと、など。

     また、フレンダは第七学区を歩く際には知り合いが居ないか注意しているが、巡りあう可能性は割と低いことも知っている。
     それは上条と偶然に会うことも例外ではなく、会えるのは二十回に一回といった程度。 注意を忘れた頃に後ろから話しかけてくる、だから驚いてしまう。
     今日も例外ではなくて。 フレメアを探すことにかまけて、周囲への注意を怠っていたのは事実だが。

     しかし。
     それでも。
     そうであったとしても。
     フレンダがフレメアを連れて歩いている、今まさにこの状況に置いて。 上条と遭遇するというのは、両者にとって『不幸』だったのだと。
     そう言わざるを得ないのだった。

    上条「フレンダ……?」

    フレンダ「っ…………」

     フレンダは唇を噛み締め、声を殺す。
     叫んでしまったのはいけなかった。
     今までも驚きに叫ぶことは何度もあったが、今のが怒声だということぐらい上条には簡単に推測出来る。
     そしてそれが本当は上条に向けてではなく、フレンダ自身に向けてだったということも。


    863: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/11/10(土) 01:22:30.47 ID:yt28kcT/o

     ぽんぽん、とフレメアは自分を受け止めている上条の腕を軽く叩いた。
     それに従い、上条は少女をそっと地面に置き、少女は自らの姉へと向き直る。

    フレメア「フレンダお姉ちゃん」

     フレメアは尋ねる。
     今の怒声に置いての弁解を。

    フレメア「当麻お兄ちゃんと、会ってたの?」

     フレメアは尋ねる。
     喧嘩別れしたと思っていた筈の二人が、一触即発にならなかったことへの釈明を。

    フレメア「大体、どうして?」

    フレメア「どうして、私には当麻お兄ちゃんと会っちゃいけないって言ったの?」

     フレメアは尋ねる。
     自分にだけ会うことを禁じて、そして禁じた本人は会っていたことに対する説明を。

    フレンダ「…………」

     フレンダに回答する術は持たない。
     いや言ってしまうのは簡単だ。 フレメアに納得のいく説明だって出来る。
     だが、まだ彼女は躊躇ってしまう。

    フレメア「そっか。 ……にゃあ」

     何に納得したのか、それは明らかに勘違いではあるが。
     沈黙が解答だと、そう少女は判断して。
     脇目も振らずに、行き先も知らず駆け出す。


    864: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/11/10(土) 01:43:15.29 ID:yt28kcT/o

    フレンダ「フレッ……!」

     反射的に、妹を追いかける。
     そうしようとした瞬間、上条に腕を掴まれる。
     奇しくも、大覇星祭の時に美琴がフレンダを追いかけようとしたのを止めたように。

    フレンダ「当麻っ……! 離して……!!」

    上条「…………っ」

     きっと。
     問いただしてしまったなら、自分の心に反することになってしまう。
     この少女に笑っていて欲しいと願った、自らの心の奥底に眠っていたその想いに。

     けれど。
     ここでこの手を離してしまったら、もう二度とこの少女の手は掴むことができないと直感するのだ。

     本当の上条当麻ならどうしただろう。
     記憶を失う前の上条当麻ならどちらをとっただろう。
     既に失った記憶は無論のことながら答えてなどくれず、そして激しく動悸を打つ心も返事を返してくれない。

     思考を巡らす。
     大覇星祭を思い出す。
     フレンダが何かしらの問題を抱えていることは最早明白。
     ならば、上条当麻として取るべき行動はただ一つではないのか。
     例え、一時的にその笑顔を奪ってしまったとしても。 最終的に皆で笑ってハッピーエンドを目指せばいいのではないか。

    上条「フレンダ」

    フレンダ「何今はそれよりも――――っ!」

     上条当麻なら。
     上条当麻なら、きっと。

    上条「どうして、黙ってたんだ?」

     彼は、そう信じて。
     彼自身が良かれと思った方を選ぶのだ。
     その先に何が待っているかなど、全くもって知らずに。

    上条「俺とお前が、同級生だった、ってことに」

     ――そう、選んでしまうのだった。


    881: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/11/23(金) 23:27:57.35 ID:dPZhC0k9o

     言葉に、フレンダの思考は停止する。
     なんで、どうして。 現場を見られた、なんていうポカはしていない。
     決定打となり得たのは今のフレメアとの邂逅だが、それはこれから何とかしようと思えば出来るはずだった。 例えば少し無理があるが、幼馴染だった頃に会っていた、とか。

     だが夜道に、偶然通り魔に背中をグサリと刺されるように。
     それは現在とはあまりにも予想外の方向からやってきた。

    フレンダ(どうして、同級生だったって黙っていたのか、って――――?)

     誤魔化すのは容易い。
     言葉尻を切り取って、アレ、前に同じ年齢って言ってなかったっけーとでも笑い飛ばせばいいのだ。
     だがそれは許されないだろう。
     疑問を抱き、それが何かしらの問題へと繋がっていた場合に迷わず突っ走るのがこの上条当麻だ。
     表面の誤魔化しなんて通用しない。
     それは半年も前に、否、ずっと前からわかっていたことではないか。

     しかし、どうしてよりにもよって、この状況で。
     いや、この様な状況だからこそ、か。
     フレメアが上条と会い、久しぶりと声を発し、そしてフレンダにとって余計な疑問を投げかけて逃げるように去ってしまった。
     あの少女のことも上条的には気になるだろうが、それは目の前の幼馴染に聞けば良いことなのだ。
     自分の聞きたいことの、ついでに、でも。

    フレンダ「……少し」

     一瞬、上条が拍子抜かれた顔をした。
     自分でもわかる。 どれだけ情けない声をだしたのかぐらいは。
     それでも、ここで言うわけにはいかなかった。 直球に言わなかった上条の名誉のために、そして思考を整理する時間を得るために。

    フレンダ「少し、場所を変えよう、ってわけよ。 結局、ここじゃ人目が多すぎるから、当麻にとっても都合が悪い、から」

     その提案に上条は是非もなく頷いた。


    882: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/11/24(土) 00:04:39.56 ID:YYBvUpafo

     どうしようもないな。
     それがフレンダの出した結論だった。

     嘘を告げて、それを信じさせて撹乱させるのは簡単なことだ。
     転校も虐めが原因と言い、それぞれの疑問に矛盾のない答えを示すことだって容易だろう。
     けれど、結局。 それでは意味が無い。
     いや、意味が無いというよりは、無意味、というべきか。
     最終的に同じ結末へ向かうのは火を見るよりも明らかなのだから。

     それなら、選ぶしかない。
     嘘をつくことに意味は無い。 が、その逆には意味がある。
     自分にとっても、きっと、すぐ後ろを歩く幼馴染にとっても。

    フレンダ「……ついたよ。 お気に入りの場所。 結局、ここはあまり人が来ないから最適ってわけよ」

     目の前に広がるのは遊具が立ち並ぶ公園。
     上条は軽く園内をぐるりと見渡して、人が少ないことを確かめた。
     そして同時に、目の前の少女の背に話しかけられる。

    フレンダ「覚えてる? ここ、フレメアと待ち合わせしてた場所だよ。 それまで二人で話した場所だよ」

    上条「……フレメアってのは、さっきのフレンダに似た子のこと……だよな?」

    フレンダ「うん。 ……うん。 知ってたってわけよ」

     明言をしたわけではないが、その返事が何よりの答えだ。
     予想をしていた返事に僅か胸を痛め、何を今更、とフレンダは自嘲する。
     そしてまた振り向きもせず、公園内へと入る。

    フレンダ「…………」

     懐かしい、と感じてしまう。
     ここは今でもフレメアと待ち合わせている場所だというのに。
     どうしてそう感じてしまったのか。 その理由は、最早わかりきっているが。


    883: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/11/24(土) 00:46:53.14 ID:YYBvUpafo

    フレンダ「……結局、当麻も座ったら? 心配しなくても、逃げたりはしないってわけよ」

     公園の中心よりは程遠い、恐らくは無邪気にはしゃぐ子供を見守る用に作られたであろうベンチ。
     しかし公園内に子供は無く、外周を僅かに登下校中の生徒が歩くのみだった。
     そのベンチに彼女は座り、そして上条にも座るように促す。
     別に上条は逃げたりはする心配はしていないが、心なしか躊躇ってしまった。

     きっと、少年は本能で感じ取ったのだ。 ここに座ったならそれは交渉の席についたのと同義。 後には引けない、と。
     深く深呼吸をして、心を落ち着かせ、そして改めて、上条は座る。

     誰も居ない公園に、ベンチに座る男女が一組。
     ただ漠然と彼らの姿を捉えたなら、きっと誰もがカップルだと疑わない。
     だがその間に流れる空気は、それには似ても似つかない、遠くかけ離れたものだった。

     無言、沈黙、静寂。
     時たま吹く上着の恋しくなる風が、外気に露出した頬や手を撫でる。

     ほう、とフレンダは息を吐く。
     その吐息は思った以上にというよりは全く白くならず、ただ虚空に消える。

     元来、上条当麻はそれほど我慢強いわけではない。
     人の問題に首を突っ込む時には殊更、だ。
     故に。

    上条「……フレンダ、幾つか聞きたいことがあるんだけど良いよな?」

     口火を切ったのは当然の如く、少年の方であった。


    884: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/11/24(土) 01:01:46.00 ID:YYBvUpafo

    フレンダ「……うん。 順番に答える、ってわけよ」

     覚悟はついた。
     ここに来るまでの道程と、先程の沈黙との、少ない時間で。

    上条「じゃあ、先ずは……さっきの女の子のことから、か。 フレメア、って言ってたけど、まさか……」

     言葉を区切る。
     あれはフレンダをそのまま縮めたのではないか、というぐらいに似ていた。
     見間違える程似ているというのには、上条には酷く心当たりがある。
     『欠陥電気』、『妹達』。 所謂、クローン。
     もしかしたらと思うと、とても口に出せるものではなかった。 つまりそれは御坂美琴と同じ目にあっている、ということなのだから。
     しかしそれは次の言葉で打ち消される。

    フレンダ「ううん。 結局、あれは私の妹。 何の変哲もない、私と同じく親譲りの金髪と碧眼だけが特徴の女の子、ってわけよ」

     そうか、と返す間もなく。

    フレンダ「さっきも言った通り、当麻も、会ってるんだからね」

     一気に間を詰められた様に感じた。
     ここで上条は完全に確信に至る。 フレンダは記憶喪失を知っているのだと。
     今までもほぼ確実にそうであると思っていたが、心のどこかで、まだどこか、勘違いであってほしいと願っていたのかもしれない。
     何故なら、上条の手は最大の隠し事を突き付けられて微かに震えていたのだから。


    885: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/11/24(土) 01:23:49.17 ID:YYBvUpafo

     唾を飲む。 拳を握り締める。
     そしてまた、挑む。

    上条「……なんで、俺が記憶喪失だって、知ってるんだ?」

    フレンダ「……それは、答えるにはちょっと遠回りしなきゃいけないってわけよ」

    フレンダ「というか、殆どの疑問に答えるにはまずはこれを説明しなきゃいけないんだけどね」

     フレンダは苦笑しつつ、靴でガリガリと地面を削る。
     ジャリジャリジャリジャリジャリガリガリガリガリガリガリガリ。
     ぴた、と不意にそれが止まり、少女は前提としての問いかけを投げかける。

    フレンダ「暗部、って知ってる?」

    上条「暗部……?」

    フレンダ「そう、暗部。 学園都市の闇。 知らないはずはないよね、だって結局、当麻は何度か首を突っ込んでるってわけよ」

     先ほど思い浮かべた『妹達』。
     学園都市、イギリス清教ならず他にも幾つもの多角スパイを行なっているという隣人、土御門元春。
     0930事件では『警備員』よりも高度な装備を持っている特殊部隊のようなものも見たし、スキルアウトの御坂美鈴の時には『警備員』は出動しなかったらしい。
     他にも、アウレオルスに取って代わる前の三沢塾の姫神に対する扱いもそれだといえるのかもしれない。

    上条「……確かに心当たりはあるけど、それがどうしたって」

    フレンダ「私は、それに属してる」

     上条が疑問の答えに気付くと同時、フレンダも答えを露わにする。


    886: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/11/24(土) 02:00:05.62 ID:YYBvUpafo

    上条「……な」

     上条は驚愕する。
     予想はしていなかったわけじゃない。
     けどそれはあくまで、フレンダが巻き込まれた側、つまり御坂美琴と同じ側と考えていたのだ。
     それが大きな間違い。

     逆、だったのだ。
     巻き込まれた側ではなく、寧ろ巻き込む側。 悪に抗うのではなく、悪そのもの。
     今まで全く気付かせなかったそれは、まるで土御門のようで。
     やはり上条は驚かざるを得なかったのだ。

    フレンダ「……順番に答えると。 同級生だったけど学校をやめた理由は、当麻にそれを知られてしまったから」

    フレンダ「記憶喪失を知っている理由は、その暗部の情報網で当麻の近況を調べようとした時にカルテを覗いてしまったから。 病院に見舞いに行く前にね」

    フレンダ「ついでに言っちゃうと、フレメアに当麻と会うのを禁止していた理由は、当麻の記憶喪失前を知っていたから、ってわけよ」

     フレメアについてはもっと複雑な事情があるが、間違ってはいない。
     フレンダは上条の抱いた疑問全てに答えた。
     先ほどの衝撃で深く思考する間もなく矢継ぎ早に回答され、上条は慎重に返された解答の表面をなぞりつつ、返す。

    上条「じゃあ……幼馴染っていうのは? 学園都市で偶然見かけたっていうのも、嘘だったってこと……だよな?」

    フレンダ「……ううん。 幼馴染っていうのは、本当。 理由は、嘘だけど」

    上条「じゃ、じゃあ、どうして会いに来たんだよ? 俺は……申し訳ないけど、フレンダのことも忘れて――――」

    フレンダ「それは結局、簡単ってわけよ」

     少女は少年の言葉を遮り。
     くるり、と足元を見たり前を見たりしていた彼女の顔がこちらを向いた。
     極僅かな、息を吹きかければ飛んでいってしまいそうな微笑みを讃えて。

    フレンダ「――――私は結局、当麻のことが好きだから」

     そう、心からの本心を、ただ告げる。


    892: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/11/25(日) 00:44:38.72 ID:OP7efksLo

    フレンダ「当麻は、自分が当麻じゃないと思ってるかもしれないけど、それは違う。 この私が保証する」

     フレンダは言う。
     ここにいる上条当麻は偽物なんかではないと。

    フレンダ「自分の手の届く、守りたい誰かの為に勝ち目のない戦いに挑む」

    フレンダ「私は今の当麻の情報はこれしか知らなかったけど、思ったから。 『これは上条当麻だ』って」

    フレンダ「勿論それを知る前はすごく絶望したってわけよ。 だからこそ、当麻が生きてるって知って、すごく嬉しかった」

     フレンダは顔を正面へと向け、空を仰ぐ。
     何かを懐かしむように、思い出すように。

    フレンダ「結局私は、私を知る当麻を好きになったわけじゃない。 私を含む、何処かの誰かの救いになれる当麻を好きになった」

    フレンダ「だから、記憶を失って、それでも当麻だと知って。 ……不謹慎だけど、嬉しく思っちゃったのも事実」

    上条「……どういうこと、だ?」

    フレンダ「……当麻と、私の闇を何も知らない当麻と、やり直せるって。 今度こそは、上手くやれるって」

     衝撃で聞き流していた、直前の会話を思い出す。
     フレンダは学校をやめた。 何故か。 上条に知られてしまったから。
     何を? 闇を。
     知っていてはいけない、学園都市の闇を。

     ようやく理解する。
     字面だけをなぞれば、誰かに知られてはバラされて、学校にいられなくなるから先にやめた、ととれる。
     が、フレンダは自らの保身に走ったわけではない。
     いや一部あるかもしれないが、それでも彼女の一番の願いは上条当麻と、憎からぬ感情を持つ幼馴染と一緒に学生生活を過ごすということだった筈だ。


    893: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/11/25(日) 01:06:40.54 ID:OP7efksLo

     故にフレンダが恐れたのは自らの秘密をばらされてしまうことではなく。
     秘密を知ってしまった人物を、つまり上条当麻を、大切な相手を巻き込んでしまうことだった。
     つまり。
     フレンダの願いは、まだ潰えていない。

    フレンダ「……結局、上手くやれなかったけど。 それでも、また当麻と一緒にいれて楽しかった、ってわけよ」

     それなのにその言葉には諦めが含まれていて。
     上条はそれを見逃すことなどできなかった。

    上条「……なんで、諦めんだよ」

    フレンダ「……え?」

    上条「なんで、俺を巻き込まなかったんだよ。 なんで、俺を信じてくれなかったんだよ!」

     上条は叫ぶ。
     そう簡単に願いを諦めるなと。
     諦める前に、あらゆる方法を試してみろと。

    上条「フレンダ、お前は言ったよな。 俺は上条当麻そのものだって。 そして、上条当麻は自分を含む、何処かの誰かの救いになれるって」

    上条「きっと、俺はお前を助けたことがあるんだろうな。 だったら、もう一度救ってやる! お前の助けになってやる!」

    上条「だから、フレンダ! お前の願いは俺が――――!」

    フレンダ「やっぱり!!」

     シン、と。
     一瞬の沈黙が場を支配した。

    フレンダ「……やっぱり、当麻は当麻、ってわけよ」

     俯きながら、そう呟き。
     フレンダはベンチから立ち上がる。


    894: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/11/25(日) 01:18:06.17 ID:OP7efksLo

     一歩、二歩。
     フレンダは未だベンチから立ち上がれない上条に背を向け、少しずつ遠ざかる。

    フレンダ「上条当麻。 幼稚園の頃、私を地獄から救ってくれた大事な人」

    フレンダ「当麻は、私の世界を作った人。 当麻は、私の全てをくれた人」

    フレンダ「そして、当麻は」

     立ち止まる。
     背を向けて、空を見上げる。
     後ろ手に組んで、誰に言うでもなく、ただ語る。

    フレンダ「当麻は、私の大好きな人」

    フレンダ「今の当麻も、昔の当麻も、同じ。 当麻は私にとっての一番で、かけがえの無い大切な人」

     音の無い世界に響くのは独白。
     フレンダ=セイヴェルンという少女の生涯をかけた告白。


    フレンダ「だからやっぱり――さよならってわけよ」


     そして、別れの言の葉。


    895: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/11/25(日) 01:30:15.00 ID:OP7efksLo

    上条「な、――――」

     その唐突さに言葉に詰まり、

    上条「――――んだよそれっ!?」

     同時に飛び上がるようにベンチから立ち上がり、叫ぶ。
     理解できない、のではなく。 理解を拒否するように。
     それでも、フレンダは上条の方を振り返りすらせず。
     ただ突き放すように言い渡す。

    フレンダ「結局、当麻はもしかして、前に秘密がバレた時、何も言わないで私が当麻の目の前から消え去ったって思ってるわけ?」

    上条「…………」

     唖然と。
     上条はただ、その言葉に呆けてしまう。

     なんだ、その言い方は。
     なんだ、その台詞は。
     それでは、それではまるで、俺は、上条当麻は――――

    フレンダ「当麻は、私を助けられなかった。 救えなかった」

    フレンダ「だから当麻も、同じ。 私を助けられないし、救えない」

     嘘だ。

    上条「嘘、だ」

     思った言葉をそのまま口に出したつもりでも。
     その声は思った以上に弱々しく、嗄れていた。


    896: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/11/25(日) 01:39:52.17 ID:OP7efksLo

     フレンダからの返事を聞くまでもなく、それは嘘ではない、と。
     心のどこかで、『そうだ』、と。
     自分ではない自分がそう認めた気がした。
     同時、上条当麻は、その場に膝から崩れ落ちる。

    フレンダ「……当麻」

     上条は答えない、答えられない。
     それでもフレンダは続ける。
     聞こえているのはわかっているから。

    フレンダ「さっきも言ったけど、結局、私は今度こそ上手くやれるって、そう思ってた」

    フレンダ「でも、そんなことは最初から有り得なかった、ってわけよ」

    フレンダ「だって、当麻は当麻で、私は私だから」

    フレンダ「同じ要素だけを並べても、結果は同じになるに決まってる」

     だから。
     だから、そう。
     自分が、今まで抱いていた希望は、思いは、諦めきれなかった願いは。
     その全て、何もかもは。


    897: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/11/25(日) 01:41:05.86 ID:OP7efksLo






     ――――結局、全部幻想だった、って訳よ





    915: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/15(土) 01:07:02.42 ID:D/DneEsuo

     ■   □   ■


     わかっていた。
     きっと、こうなってしまうことは。

     わかっていた。
     何れ、この結末を迎えてしまうことは。

     わかっていた。
     けれど、わかっていなかった。
     二度目の喪失が、こんなに辛いものだなんて。

    フレンダ「……結局、私ってば馬鹿だった、ってわけよ」

     ぼんやりと、ベッドに横たわり天井を見上げる。
     自分の部屋ではなく、ビジネスホテル。
     今は誰にもどころか、フレメアにすら会いたくない。 厳密には、会わす顔がなかった。

    フレンダ「……本当、どうして選んじゃったんだろう」

     その問いは室内の壁に微かに反響して返ってくる。

     一度目。 自分が明らかなミスをした。
     ただ一緒に居られればよかった、ただそれだけだったのにそれ以上を求めてしまった。
     その迷いが引き金を引き、そして終わりを迎えさせた。

     そして二度目。 自分は目の前の可能性に盲目となってしまった。
     何故失敗したのか。 何故終わってしまったのか。
     その理由を鑑みれば、もう二度と間違えない、などと。 絶対に不可能だと、わかったはずなのに。


    916: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/15(土) 01:56:38.21 ID:D/DneEsuo

     事実を全て知れば、今回は恋愛感情などは関係がない、という人もいるのかもしれない。
     けれどそもそも根本からして、彼女の行動原理が恋心である以上その事実から逃れることなどフレンダには不可能な話だったのだ。
     それに気がつくのがあまりにも遅すぎた。

     気付いたのはやはり全てを失った後で。
     もう二度と同じ機会など巡ってくるはずもない。
     仮に。 仮に上条が再び記憶喪失になり、今までのことを忘れたのだとしても、彼女にはもう挑むことなど出来ない。
     当然だ。 彼女自身が上条のことをそこらの木とでも思わない限り、同じ事の繰り返しになるだけなのだから。

    フレンダ「……当麻」

     少年の名を呼ぶ。
     もう二度と、面と向かって話すことのないだろう少年の名を。
     そして心で想う。
     ごめんね、と。
     傷つけて、騙して悪かった、と。

    フレンダ「…………当麻」

     体勢を変え、すぐ傍に置いておいた二つのぬいぐるみを抱きしめる。
     それはどちらも、愛しい彼がプレゼントしてくれたものだ。
     彼にとって深い意味はなくとも、彼女にとって彼が居ない時の代わりだった。
     今までも、そしてこれからは恐らく、ずっと。

    フレンダ「もう、我慢するから」

     今までは自分勝手だった。
     勝手に傍に居たくて、勝手に悩んで、勝手に突き放して。
     そして勝手に希望を抱き、勝手に絶望する。

    フレンダ「もう、二度と当麻と一緒にいたいなんて思わないから」

     別れは、辛かった。
     また会って、隣を歩いて、笑いあいたい。 渇望せずにはいられないほどに。
     けれど、もう十分過ぎるほど貰ってしまったから。
     自分勝手に、彼の悲しみと引換に、糧を先払いで受け取ってしまったから。

    フレンダ「だから、結局、神様、どうか」

     フレンダは、神を信じていない。
     自分に試練と言う名の袋小路を与えるのみで手を差し伸べない無能の神など居るとは思わない。
     けれど、もし。 もし、仮にいるのだとするならば。

     自分の愛した少年に、精一杯の幸運を。

     虚ろになる意識の中、最後にそう思い。
     耳に携帯電話の着信音を聞きながら、少女は遂に眠りに落ちる。


    917: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/15(土) 02:45:54.17 ID:D/DneEsuo

     ■   □   ■


     上条当麻は気がついたら自分の寮部屋の前に立っていた。
     どうやってここまで来たのか、など全く覚えていない。
     それ程までに、上条にはショックだったのだ。

    上条(俺が……前の上条当麻が、助けられなかった、なんて)

     自分は、上条当麻ならきっとこうする、と考えて行動してきた。
     最近は彼の行動が上条当麻になりつつあるのだが、それでも芯は変わらず、上条当麻なのだ。
     少女も、それを認めてくれた。 他でもない彼女が、自分を上条当麻そのものだと。

     だから、だからこそ。 だからこそ、彼は折れてしまった。
     追っていた背中である、以前の上条当麻。 それが救えなかったということは即ち、自分にも救えないということ。
     普段の彼なら、『それがどうした』と。 そう叫んで手を差し伸べたのかもしれない。
     だが今回は別だ。 『元の上条当麻だったらこうした』という自分なりの予測の元、心の内で叫ぶ声を無視してフレンダに問い詰めたのだ。
     それを理由にしたが故に、彼にはこれ以上どうすることもできなかった。
     勿論、先人が救えなかったという事実を聞いてショックだったというのも大きいが。

    上条(正直、今は誰にも会いたくないけど……)

     今日はもう心身共にボロボロだ。 今から宿を探すと言っても時間がないし、金もない。
     加え、インデックスには今日の食事の件も伝えなきゃいけない。
     短く溜息を吐いて、上条はふらふらとした足取りで鍵を開けて家に入る。

    上条「ただいまインデックス……インデックス?」

     返事がない。
     出かけていることも多々あるが、この時間は大抵家にいるはずだ。
     そしていつもならおかえりーと元気な声が返ってくるのだが、それがなかった。

    上条(まさか)

     と、最悪の考えが過ぎる。
     よもやインデックスはその脳に保管してある十万三千冊の魔導書を狙う輩に攫われてしまったのではないか、と。
     戦慄が走り、上条は先程までの思いも忘れて靴も投げ捨ててインデックスの名を叫びながら部屋に入る。


    918: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/15(土) 03:00:31.09 ID:D/DneEsuo

    上条「インデックス!? インデッ……」

     その叫びは部屋にいる人物を捉えると同時、詰まった様に止まった。
     部屋に入った上条が目にしたのは、仁王立ちしたインデックスその人。
     上条の考えた最悪の事態は、幸運にも杞憂に終わったらしい。

     らしい、のだが。
     どうやらインデックスの纏う雰囲気がいつもと違うことに上条は気がついた。
     噛み付いてくる時の怒りとは違う、静かに、火が燻っているような気配。
     それをひしひしと感じつつ、爆発させてしまわないようにそっと、上条は言葉を紡ぐ。

    上条「……ど、どうしたインデックス、そんな殺気立って……あ、夕食に遅れたのは悪い。 連絡しておけばよかったな」

    上条「それで、重ねて悪いんだけど、今日の夕食は外で……」

    インデックス「とうま」

     呼ばれ、上条の背筋に悪寒が走る。
     まさしく、蛇に睨まれた蛙。
     今までの死闘を振り返ってもここまで怯えたことはなかっただろう。

    上条「ハイ……ナンデショウ、インデックスサン」

    インデックス「とうま……何か私に隠してること、あるよね?」

     打って変わって、インデックス満面のは笑みを浮かべる。
     今ならまだ許してあげなくもないけど、やっぱり内容による、とでも言いたげな笑み。
     正しく、天使の様な悪魔の笑顔。
     言われた上条は疲労で思考と止めかけている頭に鞭を打ち、必死に考えを巡らせる。
     が、インデックスに隠し事なんてそれこそ記憶喪失しかないし、怒られるようなことも覚えはなく。

    上条「……キオクニゴザイマセン」

     どこぞの政治家のような返事を返したなら。
     そこに待っていたのは、インデックスの尖った牙だった。

     瞬間、上条の悲鳴が寮内に響き渡る。


    919: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/15(土) 03:15:43.06 ID:D/DneEsuo

    上条「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い――――――――ッッッ!!!!」

     もはや殺しにかかってきているインデックスの噛み付きに上条は悶え苦しむ。
     が、それでもインデックスは離れず、上条の頭にしがみついていた。

    インデックス「もう! 黙って謝ったら許してあげようと思ってたのにどういうことなのかな、とうま!?」

    上条「いや俺には本当なんの覚えもないぃいいいいいいいいいいっっっ!!?」

     言い終わるより先にガリガリと頭蓋骨が削れる。
     弁解の機会すら与えず、インデックスは追撃に入った。

    インデックス「嘘つき! こっちには証拠だってあるんだよ!!」

    上条「しょ、証拠!? なんの!?」

    インデックス「自分の胸に聞いたらどうなのかな!!」

     ばっ、とテーブルを挟んで反対側に下り、インデックスは証拠と言い張るそれをテーブルに叩きつけた。
     頭に血が登っているのは間違いなく、上条が再び思考を巡らせる間もなくインデックスは言及する。

    インデックス「さぁ、答えてもらうんだよ! 一体いつから、とうまはあの金髪とこうかんにっきーなんてしてたの!?」

    上条「こうか……」

     言いかけて、止まる。 思考が一瞬停止する。
     交換日記? 誰と? 金髪……フレンダと?
     上条はインデックスが叩きつけたそれを見つめる。 ここ最近のものではないほんの少し古ぼけたノート。 題には間違いなく『交換日記』と記されている。

     無論上条当麻に覚えはない。
     しかし、それは――今の上条当麻には、だ。
     インデックスの言が正しいなら恐らく、いや、十中八九。 それは昔の上条当麻とフレンダ=セイヴェルンの『交換日記』。


    920: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/15(土) 03:38:43.60 ID:D/DneEsuo

    インデックス「全くもう! 態々本棚の後ろなんかに隠して! 最初はとうまの趣味の本かと――――」

     文句をぐちぐちというインデックスの言葉を手で制し、今度は上条は彼女へと問いかける。
     その言葉、表情は鬼気迫る物で、思わずインデックスも一歩たじろぐ程のものだった。

    上条「……インデックス、お前、これの中身見たのか?」

    インデックス「へ? ……ううん、最初の方だけで、全部見てないけど……」

    上条「ちょっと貸してくれ」

     言うやいなや、上条はインデックスからそのノートを奪い取りパラパラと捲る。
     それは、本当に単なる交換日記だった。
     昔仲良くしていて、そして高校に入ってから再会した一つの幼馴染同士の交換日記。
     それを書いていた当時のことに混じり、こんなことがあった、あんなことがあったと、互いの知らない空白の数年間を埋めるように書き連なっている。
     何枚か、写真も貼ってあった。
     自分と、フレンダと、それからフレメア。 まるで親子のように肩を寄せ合い写っている。

    上条「これ、は」

     間違いなく、自分が記憶を失う前のものだ。
     その後も、数頁、交互に筆記の文字が代わる代わる登場し、そして突然、文章が消えた。
     何事も無く続いていた交換日記が、忽然と終わりを告げた。

    上条「ここが……ここで…………」

     俺が、記憶喪失に?
     インデックスの手前、その言葉は飲み込み。
     なんの気もなしにまた数頁捲ったところで、再び文字が現れた。


    921: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/15(土) 04:11:07.96 ID:D/DneEsuo

    『四月九日 第七学区、喧嘩通り』

     たったそれだけの短い文字。 特に意味の見られない日付と場所の羅列。
     それは一つだけではなく頁一杯に書き尽くされており、そのいづれも似たようなものだった。
     上条当麻は、ここでこれを閉じることも出来た。 この意味の分からない文字を見つめることになんの意味もないと、切り捨てる事もできた。
     しかし、彼はそれをせず、ただその書かれた文章とも言えないそれを視線で追う。
     彼はここに何かが眠っていると、そう直感した。

    『四月十三日 第七学区、商店街裏道』

    『四月十八日 第三学区、廃ビル(電磁研究施設)』

    『四月十九日 第七学区、東地区の路地裏』

     日付は毎日ばらばらで、一行一行にそれが書かれていた。
     それになんの意味があるのか分からず、上条はただ頁を捲る。
     四月を抜け、五月も過ぎ、六月すら素通りする。
     次に手を止めたのは、七月。
     七月、十九日。

    『七月十九日 第七学区、幌南高校付近の裏通り。

     あれから三ヶ月と少し、未だフレンダの尻尾さえ掴めない。
     俺の探し方が悪いのか、それとも暗部とやらが隠蔽工作をしているのか。
     どちらかはわからないけど、諦めるわけにはいかない。
     あの日、俺はフレンダの手を掴めなかった。
     フレンダは、きっと俺を巻き込むまいと、わざとああ言う言葉回しをしていた。
     あの時のフレンダは、嬉しかっただろう。 安堵しただろう。 上手く行ったと、ほくそ笑んだだろう。
     けれど、きっとそれ以上に、悲しかっただろう。
     俺はあの時、気が付かなかった。 フレンダの救難信号に気付くことができなかった。
     気付けず、そして突き放してしまった。 俺は地獄にはついていけない、お前一人で勝手に行け、と。

     馬鹿だ。
     フレンダの真意に、俺がフレンダを好きだったことに、突き放してから気がついてしまった。
     俺は、本当に馬鹿だ。 本当に、馬鹿なことをした。
     ……だからこそ、諦めるわけにはいかない』


    928: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/15(土) 22:07:07.45 ID:D/DneEsuo

     上条の息が詰まる。
     何を思う間もなく、上条は次の文章に目を落とす。

    『俺はフレンダの幻想を殺した。
     だからと言って、諦めなければならないわけじゃない。
     壊れたなら作ればいい。
     今度こそ壊れない幻想を、本物を。
     俺たちなら、きっと、ここだろうが、例え地獄だろうが、見つけ出すことが出来るはずだから。

     ……明日から夏休みだ。 絶対に、見つけ出してみせる。
     ここに探した場所を書くのは今日で最後にする。
     新しいノートも買っておこう。 フレンダと会えたら、今度は俺から渡そう。
     この交換日記みたいに今までのことじゃなくて、今度はこれからのことを一緒に書いていこう、って。』

     『交換日記』はここで終わっていた。
     上条は知る。 『上条当麻』は諦めたわけじゃない、と。
     一度目は救えなかったけれど。 二度目に向けて立ち上がっていたのだと。

     それを自分は、馬鹿だ。
     昔の自分が救えなかったという事実だけで怯んで、ショックを受けて、落ち込んで。
     自分の、上条当麻の本質を忘れていた。

     『不屈』。

     何があっても、何がおこっても、誰が相手でも、何が相手でも、自分が正しいと思ったことに決して、絶対に諦めない。
     それこそが上条当麻の芯に他ならない。

     パタン、とノートを閉じる。
     その拳を握りしめて、ゆっくりと立ち上がり。
     そして、言う。

    上条「……いいぜ、フレンダ。 お前が、自分は光に返ることなんて叶わない、俺と一緒に居た過去が、未来が幻想だったっていうんなら……」

    上条「まずは、その幻想をぶち殺す……!」

     ゆらり、と。
     過去と現在、今一つになった上条当麻は不屈の意志を胸に秘めて。
     静かに、その闘志を燃え上がらせる。



     ――――時は、十月五日。
     学園都市の独立記念日である十月九日まであと四日に迫った日の出来事だった。


    923: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/15(土) 04:38:50.12 ID:D/DneEsuo

     第二部、完。


    953: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/13(日) 20:06:30.11 ID:XrEKeLcho

     このスレは小ネタで埋めて、第三部は恐らく春辺りにスレ立てすることにしました。

     その小ネタですね。
     七夕だとか、クリスマスだとか、一端覧祭だとか。
     残りのレス的に全部書けるかわからないので優先順位を僭越ながら安価できめさせて頂きます。
     勿論上記以外の内容でもいいです。 ぶっちゃけ上フレじゃなくても構わないです。
     上絹か上滝だったら該当SSの後日談的なことになります。 無論、該当SSの本編を見ていない前提で書きますが。

     そんなわけで安価致します。

     第一希望 >>954
     第二希望 >>955


    954: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/13(日) 20:14:39.98 ID:jaXwJP1mo

    じゃあバレンタインデー


    955: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/13(日) 20:17:53.90 ID:NmcLxBmTo

    上条絹旗バレンタインも


    968: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/30(水) 01:01:06.72 ID:QlOSdYbgo

     ――例えば。
     例えば、自分が心から尊敬している人間が居るとしよう。
     その感情は恋愛のそれとは然程離れてなくて、出来れば付き合いたい、と思う。
     しかし、それは叶わない。
     叶えられない、理由がある。

     だとしても、だ。

     それでも、少女は一人の乙女であることには変わりなく。
     妹を引き連れたスーパーで、一つの商品を見て頭を悩ませているのだ。

    フレンダ「うーん…………」

     セント・バレンタイン。
     それが明日の、学園都市ならず全国、或いは全世界的に認識されているイベントだろう。
     日本において、そのイベントは女子は好きな男子にチョコレート菓子を送るものだとされている。
     菓子会社の策略だ、と切り捨ててしまうのは簡単なのだが、今や青春時代を過ごすありとあらゆる中高生が注目しているこのイベントを無視することは難しい。

     そこでフレンダの悩みに戻るのだ。
     果たして、チョコレートをあの少年に渡しても大丈夫なのか、ということを。

    フレメア「お姉ちゃん、大体また悩んでる。 にゃあ」

     妹が誰に言うでもなくぼやく。
     しかしその気持ちも理解できなくはない。 なぜなら、ここ二週間ほどは毎日こんな感じで葛藤を繰り返しているためだ。

    フレンダ「結局、分かってるってわけよ」

    フレメア「私は当麻お兄ちゃんには買ったけど、お姉ちゃんは買わないの?」

    フレンダ「……分かってるってわけよ」


    970: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/30(水) 01:27:19.20 ID:QlOSdYbgo

     妹の素朴な疑問に、姉は苦虫を噛み潰したような表情を見せる。
     わかってる、そう、わかってるのだ。
     日頃お世話になってるという意味で渡しても問題ない。 けれど、それにしたって妥協はしたくない。
     市販のチョコレートを溶かして型に入れて固める、それだけで手作りというのはおこがましいとは思うが――それでも、渡すならそういった手作りのものがいいのだ。
     
     少年は、上条当麻はにぶい。
     ドンカンどころかドカンだ。 意味がわからないけれど、恋愛沙汰になるとそれぐらいに鈍感なのだ。
     けれども、万が一、ということがある。
     渡すものは妥協したくない。 そして、きっとその過程に込める気持ちは隠せない。
     仮に、万が一。 彼が、その事実に気がついたとしたら?

    フレンダ(……目も当てられない、ってわけよ)

     受け入れられても、断れれても見る先は地獄。 前者は、最悪、と但し書きがつくが。
     恐らく、それはないと思いつつもやはり思考をめぐらさずにはいられないのだ。

     揺れ動くは乙女の心。
     天秤はゆらりゆらりと左右に傾く。
     期限は今日。 明日にはもう渡さなければならず、レシピを調べるのならばもはや一刻の猶予もない。

     ならば。
     ならば。
     ならば。

     駆け巡る思考。
     その末に彼女が下した、その決断は。


    971: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/30(水) 01:53:06.31 ID:QlOSdYbgo

     ■   □   ■


    上条「はぁー……」

     放課後。
     上条は鞄をひっくり返し、転がり落ちてきたそれを見て溜息を吐く。

    上条「今年はお情けが二つですか……とほほ」

     昨年までは、義理(クラス全員に配っていたもの)でももう少し貰っていたはずなのだが。
     一つは委員長でもないのにクラスのまとめ役となっている吹寄制理から、上条含む三馬鹿へ。
     中身は『飲めばたちまち脳が冷静に!? 某脳開発研究所公認、チョコドリンク!』であり、もう少し落ち着きを持て、とのこと。
     もう一つは年齢不詳の雲川芹亜先輩から。 先輩なのに年齢不詳とは如何に、だが事実その通りなのだから仕方がない。
     そしてその中身はというと、あの例の一口チョコレートの詰め合わせである。 沢山味があって嬉しいものは嬉しいが、バレンタインに貰うものとしては話は別だ。
     というよりは、彼は親友の二人と同じで量よりも質が欲しかったりしたのである。
     例えば、影で慕ってくれていた後輩キャラが勇気を出して告白してくる、とか。
     例えば、クラスの人気者の女子生徒が実は入学した時から自分の事が好きだった、とか。

    上条「いやまぁそんなことないってわかってるんですけどねー」

     その幻想はいとも簡単にぶち殺される。 ないとはわかっていても、そんな理想を抱いてしまうのが男子高校生の性なのだ。
     いや、彼に限ってそれは違うのだが、互いに牽制しあっている為にそうなってしまうのが現状だ。
     そして彼は今も、放課後の誰もいなくなった教室に一人きりで佇んでいる。
     別に、一人を狙って告白しに来る女子がいると信じているわけではなく。 単純に疲れたというただそれだけの理由だ。

    上条「……そろそろ、帰りますかね」

     もはや時刻は四時をとっくに過ぎている。
     沈む夕日は朱く、部活動者以外はもう校内にはいないだろう。
     そう思い、机の横に置いておいた鞄を拾い上げ、席を立つ。


    972: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/30(水) 02:10:59.13 ID:QlOSdYbgo

     そして、ガラッ、と教室の扉を開けた瞬間。

    フレンダ「っ!?」

    上条「おわっ!?」

     隣のクラスの、幼馴染と対面した。
     上条は思わず一歩引いてしまい、その隙にフレンダはその手を隠すように後ろに回す。

    上条「フっ、フレンダ? こんな時間に、何してんだ……?」

    フレンダ「べっ、べつに、別に? 結局、ただ当麻を待ってただけってわけよ?」

    上条「なんで疑問形だよ……」

     待ってただけ、にしては驚き様が尋常ではなかったのだが。
     上条jはまぁいいか、と。 そういったところを気にもとめないから鈍感だと言われるのだろう。

    上条「んじゃ、帰るか。 どっか寄る予定とかあるのか?」

    フレンダ「あっ、フレメアが今日、会いたいって言ってたわけよ」

    上条「フレメアが? それじゃあいつもの公園かな……」

     言いつつ教室を出て、フレンダに背を向けて歩き始める上条。
     それは当然、フレンダもついてくるだろうという予測に基づいた行動だったが実際にはそうはならず。
     数歩、距離にして二メートル弱離れ、ようやくついて来ていないことに気がついた。

    上条「……フレンダ?」

     振り返り、名を呼ぶ。
     フレンダは背後に手を回したままこちらを真正面に見据えず、視線をあちらこちらに泳がせる。

    フレンダ「あー、えっと、その……と、当麻は、結局、今日は誰かからチョコレート貰ったり、した?」


    973: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/30(水) 02:24:45.35 ID:QlOSdYbgo

     あーあ、と思いながら当麻は後頭部をポリポリと掻く。
     この幼馴染のことだ、恐らくは本命を貰えなかった事をからかってくるに違いないと判断する。
     しかし誤魔化しても仕方がない。 弄られる覚悟だけはしておこうと心に決め、そして答える。

    上条「本命は一個も貰えなくて、義理が二つだけ。 もらえるだけ幸運だからな、文句は無いけど」

    フレンダ「へ、へー……そっ、そうなんだ」

     おや、と思う。
     いつもなら、『結局、もらえるだけ良かったねってわけよ』ぐらいの言葉は返してきそうなものなのだが。
     軽く疑問に思いつつも、それを深く言及したりはせず、上条は言う。

    上条「……とりあえず、フレメアのとこ行こうぜ。 早くしないと暗くなっちまうし、あの公園に一人は少し不味いだろ?」

     再び背を向けて、歩き出そうとする上条。
     その背中に、意を決してフレンダは声を投げかける。

    フレンダ「当麻っ!」

    上条「? 何――――っと!?」

     問いかけるより先に。
     それが放物線を描いて飛んできた。
     ピンクリボンでラッピングされた透明の袋に入れられているもの。
     星やハートの形をとっているそれは、間違いなくチョコレートだった。

    フレンダ「義理っ、ってわけよ! 結局、他の人から貰ったならあげなくてもいいかなって思ったけど、持ってても使い道ないしあげるってわけよ!」

     再び、上条が聞くよりも速く、フレンダはペラペラと聞いてもいない理由を口走る。
     それなりに仲のいい男女間でこんな会話があったなら、きっと男の方は『あれ、こいつ実は俺の事好きなんじゃね?』ぐらい思うのだろう。
     がそこは上条当麻、期待を裏切らず、少女の言葉を全て鵜呑みにして、そのままを受け入れる。
     それに、先程も言ったとおり、もらえるだけ幸運なのだから。


    974: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/30(水) 03:03:22.54 ID:QlOSdYbgo

     だが、何かが引っ掛かり。
     そして、上条はふと思い立つ。

    上条「……そうだ、それじゃあ俺からもやるよ」

    フレンダ「……へ? やるって、何を……」

     先ほど自分が投げた時よりは、もう少し速く。
     それが何か確認できずに手で受け止めて、そこでようやくそれが何かを知る。
     自分が投げたものと同じで、それはチョコレートだった。
     ただ、コンビニのレジ横で売っている、あの一口サイズのもので、雲川から上条が貰ったものの一部だが。

    上条「確か外国だったら男から女に渡す……んだったよな?」

    フレンダ「えっと……うん、そうだったと、思う」

    上条「んじゃ、別に間違ってないよな?」

    フレンダ「…………うん」

     問いかけに頷いて、そしてそれを胸元で軽く握り締める。
     それは、元は上条が貰ったもので、定価にして五十円もしない安物だ。
     けれどフレンダには、それを上条がくれたというその事実が、途方もなく嬉しかったのだ。

     例え、そこに何も特別な感情はなくとも。
     上条当麻が、この自分に、どんな理由付けでもいいから、物をくれたというその事実が――――

    フレンダ「……ふふっ」

    上条「……フレンダ?」

     突然含み笑いをしたフレンダに、上条は名を呼んで問いかけずにはいられない。
     けれど彼女はそれに答えず、ただ笑みを浮かべた。

    フレンダ「結局、なんでもないってわけよっ!」

     フレンダはやはり楽しそうに、上条に近づいて、その隣に立ち並び。
     そのまま自然に上条の腕を掴み、恋人さながらに彼を引っ張って昇降口へと向かうのだった。



     少女は願う。
     ポケットにしまった、小さなチョコレートへ。
     来年もまた、変わらずにここにいられますように、と。


    975: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/30(水) 03:06:55.83 ID:QlOSdYbgo

     バレンタイン(フレンダ)、おわり。

     おまたせして申し訳です……
     絹旗はもう少しお待ち頂けると幸いです
     それでは、また


    983: >>37じゃなく>>33でした 2013/02/01(金) 12:38:58.46 ID:UWNiv0mPo

     ほう、と息を吐く。
     けれどもそれは白くは濁らず、何もなかったかの様に風が過ぎ去り、消し飛ばしていく。
     トレードマークとも言えるニット系の服と帽子を身にまとった少女はその風をじっと、ただ見送った。

    「絹旗っ」

     自らの名を呼ばれ、はっ、とする。
     急ぎ足で駆け寄ってくるその姿を確認して、彼女の表情は僅かに綻ぶ。

    「すまん、遅れた」

    「もう、超遅かったです」

     息を切らしている年上の少年に、少女はそんな悪態を吐く。
     怒っている素振りを見せつつも、実際にそんなことは全くない。
     誠意、というものがある。
     例えば、同じく時間の例になってしまうが、授業に遅刻した時全力疾走で教室に駆け込んできたのと、どうせ遅刻なんだからとゆっくりと歩いてくるのでは抱く印象は全く変わるだろう。
     それと同じく、彼はほんの少しでも待たせてしまったことを本当に申し訳ないと思っているだろう。 きっと誰にでもそうなのだろうが、その変わらなさが彼女にとっては嬉しくもある。
     そして、怒ってはいなくとも相応に弄ることで帳消しにする、というのが彼女の言だ。

    「でも、許してあげます。 超感謝してください」

     どやっ、とでも効果音の付きそうな表情を見せる少女に対し、ははー! と少年は土下座しそうな勢いで敬々しい言動を起こす。
     大体、いつもこんな感じだ。
     少年、上条当麻と少女、絹旗最愛の掛け合いというやつは。

    「それじゃ、早くチケット買ってしまいましょう。 当麻が遅れたせいで、もうすぐ始まっちゃいますから」

    「……まだ弄るか」

    「超当然です。 少なくとも、今日一日はもらいますからね?」

     やれやれ、と肩を落とす上条の手を、絹旗は引っ張る。
     そして待ち合わせをしていたこの店――映画館へと一緒に入るのだった。


    984: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/01(金) 13:01:45.05 ID:UWNiv0mPo

     映画館の内部は人っ子一人いない……というわけではなく、そこそこに人がいた。
     おや、と上条は首を傾げる。
     絹旗と映画に来たことは何回かあるが、その何れもB級C級。 自分たちの他に人がいることなど滅多にない。
     それなのに今日は極普通に確認できるレベルで席に人が居る。 かつて無いことだった。
     上条のそんな疑問をお見通しのように、絹旗は飲み物のストローから口を離し、説明する。

    「今日のは、そこそこ人気のある映画なんですよ」

    「へー、そうなのか。 珍しいな、絹旗がそんなの見るなんて」

    「まぁ、そうですね。 特にこのジャンルを見るのも超ありませんので、ちょっと期待してたりします」

     ほら、席につきましょう、と絹旗は上条を促す。
     行き先はど真ん中、ネットで先に予約しておいたから一番見晴らしのいい席をとることができた、らしい。
     当たり前の様に隣り合わせに座り、特大サイズのポップコーンは真ん中に。
     そして間もなくの映画上映を告げるブザーが鳴り響き、照明が落とされる。

    「……ちなみに、これ、どんな映画なんだ?」

    「超恋愛ものですよ」

     返された言葉を聞いて、瞬間、ようやく上条は気付く。
     埋まっている席に居る人々は、皆カップルだということに。

    「バレンタインの、なんでもないちょっとした恋愛を描いた映画です」

     そして映画が、上映される。


    985: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/01(金) 13:27:44.83 ID:UWNiv0mPo

    「恋愛映画って初めて見たけど、結構面白いもんだな」

    「そうですね、いつも見るのはアクションとかSFとかばっかりだったので超新鮮でした。 別の意味で、手に汗握る展開も多くて、流石名作、ってことですか」

     これからもたまには普通の映画も見ることにしようと少女が心に決めたのは余談。
     映画上映後、彼らは他のカップルと同じく感想をいいながら映画館から出る。
     外に出て空を見上げると既に暗い。 日は段々と長くなっているらしいが、それでも二月中旬なら放課後に映画を一本も見たら暗くなるだろう。
     上条はふと思い出す。  そういえば、この隣にいる彼女は常盤台に通ってるんだったよな、と。

    「そういや、常盤台って門限何時までだっけ? ってかお前制服じゃないけどどうしたんだよ?」

    「今更ですか、超遅いですね」

     絹旗は腰に手を当ててジト目で上条を見やる。
     遅刻した時とは違い、割と本気で責め立てている雰囲気に上条はたじろいだ。

    「……まー、当麻に目敏さを期待しているわけじゃないですし、今回も超許してあげます。 気付いただけマシですからね」

    「あ、ありがたきしあわ「でも!」

     上条の言いかけた言葉を潰して、絹旗はぴっと人差し指を突きつける。
     それは真剣そうな顔で、彼を再び戦慄させた。

    「問題に答えられたら、です! 答えられなかったら超許しませんからね!」

    「えっ、ちょっ、問題って上条さんそういうのは苦手、」

    「第一問!」

     異論など聞く耳を持たないというように、絹旗は上条に問答を突きつける。


    986: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/01(金) 13:51:12.74 ID:UWNiv0mPo

    「今日は何月何日!」

    「……えっ?」

    「ほら、超早く答えて下さい! マッハで!」

     予想していた問題形式と異なっいて、上条も思考は一瞬置き去りになる。
     が、急かす絹旗に思考をすぐに取り戻し、頭をフル回転させて答える。

    「二月十四日の、バレンタイン」

    「第二問!」

     正誤の公開もなしか、と思いつつも上条は身構える。
     そういったパターンの問題なら冷静に考えれば特に問題はない――――そう思った矢先の第二問。

    「当麻が今日貰ったチョコレートの数は!?」

    「えっ!?」

     今度こそ上条の考えは混乱する。
     絹旗は一体この問題で何を求めているのだろうか。 というか寧ろ、これに正解しても別の方向で怒ったりしないのだろうか。
     そう思いつつも、先ほどと同じように急かされて仕方がなしに上条は貰った数を正直に告げる。

    「ええと、二、三、四……六、かな」

    「……ついでに、どんな人からかも聞いてもいいですか」

    「三つはクラスメイトから、一つは他クラスの人、もう一つは先輩。 最後の一つは御坂から……だけど」

     そういえばあれはなんだったんだろうな、と上条は思う。
     絹旗との待ち合わせで急いでたらいきなり体当たりしてきて、チョコが欲しいか欲しくないかの押し問答を繰り返した末に無理矢理チョコを押し付けられたのだ。
     上条の中ではきっと罰ゲームか何かだろうということで片付いているのだが、それを知らない絹旗は美琴の名前を聞いてへぇ、と目を細めた。
     思わず上条の背筋に薄ら寒いものが走る。 が、幸運なことにそれを向けられたのは少年の方ではなかった。


    987: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/01(金) 14:08:00.72 ID:UWNiv0mPo

    「……第三問」

    「お、おう」

     緊張が走ったまま行われる第三問。
     一問が今日の日付、二問が日付に関わること。 となれば三問も二問と同じような問題が来るに違いない。
     もうどうにでもなれ、と上条はもはや許されないことを覚悟しつつ。

    「今日の私を見て、超何か言うことはないですか?」

     その消え入りそうな質問を聞いた。
     言葉に詰まる。
     それは別に何も感じなかった、とかそういうことではない。
     質問の意図を測りかねたのだ。
     普通なら、わざわざ厳しい常盤台の校則違反を犯してまで私服を来て出歩き、その外観を褒めて欲しいと思うのだろう。
     けれどそんな簡単な問題を、この期に及んで出すわけがない。

    「…………」

    「えっ、と」

     先程までと異なり、絹旗は全く解答を促したりはせず、ただじっと、上条のことを見つめている。
     それに答えて、上条も絹旗のルックスを上から下まで見下ろす。
     なんてことのない、これぞ絹旗、という服装だ。
     ニット系のワンピースで、少し上に引っ張ったり、屈んだりしたならその下着が見えてしまうのではないか、という短さのもの。
     オーバーニーソックスを履いて足を覆ってはいるが、僅かにある絶対領域が薄ら寒さを醸し出している。
     とても、冬に着る服装だとは思えな――――。

    (……ん?)

     今、なんて思った? 上条はそう自問する。
     冬に着る服装だとは思えない。
     それはつまり、冬服ではない、それ以外の季節の服だということを指しているのではないか?


    988: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/01(金) 14:31:07.31 ID:UWNiv0mPo

     思い、周囲を見渡す。
     そして、ああ、と。

    「そっか……そういえば、ここだったっけ」

    「……超思い出しましたか?」

    「ああ。 ごめんな、忘れてて」

     思い出す。
     ここは、絹旗と初めて映画を見た映画館だと。
     まだ知り合いですらない、そんな時に出会った場所だと。
     絹旗はふてくされたように、ぷい、と後ろを向く。

    「……本当、超遅いですよ。 折角、あの時と同じ服を着てきたのに」

    「悪い、あの時は他の印象の方が強すぎて、服とかあまり――――っ」

     言い終わるより先に、上条当麻の唇は塞がれる。
     ちょっと背伸びして、少年のネクタイを引っ張ってその顔を引き寄せた、少女によって。
     十秒より長く、一分より短い。
     沢山の時間をかけて、二人はようやく二つの影になる。 それでも、離れないが。
     二人とも荒い息で顔を付きあわせ、先に上条が口を開く。

    「……第二問の解答、訂正してもいいか?」

    「どうぞ」

    「七つ。 超、甘かった」

     言われ、少女ははにかむ。
     そんな彼女が限りなく愛おしく、そのまま少年は少女を抱きしめる。


    989: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/01(金) 14:45:48.18 ID:UWNiv0mPo

     手洗いに行っていたのか、遅れて出てきたカップルが彼らを見て顔を赤らめつつそそくさと去っていく。
     けれど、そんなのは彼、彼女には関係なく。
     きっと周りに数十人の人間がいたとしても、二人は二人だけの世界に飛び込んでいただろう。

    「当麻」

    「……絹旗」

     抱きしめたまま、名を呼び交わす。
     しかし絹旗は不服の声を上げた。

    「その絹旗っていうの、そろそろ超やめてほしいんですけど」

     ずっと思っていたけれど、ずっと言えなかったこと。 それは自分を固有名詞で呼ぶな、と言っているわけではない。
     今ならきっと、すぐに理解して貰える。
     その予測通り、上条はすぐにその意図を理解して。

    「えっと……それじゃあ……」

     『最愛』、と。
     彼女が待ち焦がれた呼び名で、少年は少女を呼んだ。



     『窒素装甲』で自分を覆っていた膜は上条の右手で消えていて、今や彼女は夏服で吹きさらし。
     けれど、そんな肌寒さよりも、心の暖かさの方が強く優っていた。

    「当麻」

     ただ、少年の名を呼んで。
     そして、少女は告げる。

    「ハッピー・バレンタイン」

     この日に、最上の愛を誓う、と。




     fin.


    990: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/01(金) 14:48:18.70 ID:eTTd2glAo

    おつ!かわいい、わざわざきぬはた編も書いてくれてありがとう!!

    ふおおおおお


    995: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/01(金) 16:04:05.50 ID:BXqlUyJ4o

    絹旗可愛すぎだ
    次の投下待ってる


    996: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/01(金) 17:33:35.28 ID:j8u95RhAO

    乙。超、甘かった

    美琴視点だと涙がちょちょぎれるな……。いつか短編ででも幸せにしてあげて


    998: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/01(金) 21:18:28.86 ID:dsIxuqERo

    乙でした

    続き楽しみに待ってる


    999: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/01(金) 21:51:13.90 ID:r2JDybXU0

    乙乙
    ゆっくりだけど手の込んだお話をありがとう
    次スレを待っている

    999ならハッピーエンド











    引用元: フレンダ「結局、全部幻想だった、って訳よ」

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