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    フレンダ「結局、全部幻想だった、って訳よ」 第一部

    1: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/17(火) 23:51:59.06 ID:SnBkuMDlo

     注意書き。

    ・この作品はif作品です。設定もろもろが原作基準ではありません。
     ですが、原作部分の都合のいい部分のみ抽出している部分もあります。つまりご都合主義設定です。
     より、原作を読んでいることを前提で作っています。これから見る予定で、未だに見ていない人は原作のネタバレ要素にご注意ください。
     尚、外伝(漫画版『とある科学の超電磁砲』を除く)はその限りではありません。

    ・上記の通り、if作品なので人物関係に齟齬があります。
     また、能力にも若干の齟齬が見られる可能性もあります。

    ・人によってはNTRを感じるかもしれません。カップルに拘りがある方はお帰りください。

    ・スローペース不定期更新です。

     以上を踏まえた上でどうぞご覧になってください。



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    2: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/17(火) 23:52:25.05 ID:SnBkuMDlo

     少女は駆ける。
     周りを走る遅刻しそうな学生と同じように。
     少女はただ駆ける。


     ■   □   ■


    上条「不幸だ―――――――――ッ!!」

     上条当麻は不幸だった。
     六大ジャンボ宝くじを買っても300円すら絶対に当たらない(何故か下一桁が全部同じ数字になっている)し、
     大金を入れた財布を持ち歩けばそれを落とすことなど日常茶飯事。
     運よくタイムセールの卵を買えたと思ったらそれが割れる事態になることなどしょっちゅうだ。
     だから上条当麻は自分の幸運を信じない。
     信じない、のだが……

    上条「登校二日目から目覚ましが電池切れとか正直ありえないだろうがっ!!」

     愛用の目覚ましにすら見放されるだなんて思わなんだ。
     しかしそれが日常的に起こるのが上条の日常に他ならない。
     だから不運によってもたらされた不幸は自分の力でなんとかするしかない。
     故に、目覚ましが発動しなかった今朝の不運は遅刻を走りでカバーする。

    上条「待ってくれ――――ッ!!」

     遅刻ギリギリの高校行きのバスは無残にもその扉を上条の目の前で閉めた。
     例えばこのバスに運転手がいたならば、その彼或いは彼女の温情によって乗せてもられた可能性も無きにしも非ず。
     だがこのバスは全自動性のバスだ。そんな心遣いなど全くもって皆無。

    上条「――はぁ、はぁ、はぁ……」

     不運によってもたらされた不幸は自分の力でなんとかするしかない。
     故に、目覚ましが発動しなかった今朝の不運は遅刻を走りでカバーする。
     だがそれにもやはり限度というものがあり。

    上条「不幸だ――――――――――ッッッ!!!!」

     上条当麻はやっぱり不幸なのだった。


    3: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/17(火) 23:53:19.07 ID:SnBkuMDlo

     少女は疾走する。
     目的は別に遅刻の回避というわけではなく。
     少女はただ疾走する。


     ■   □   ■


     上条は木々の生えた散歩道を走る。
     バスに見放されたのならそれが使えない生物専用のショートカットを使うしかない。
     それでもよっぽど早く走らなければ遅刻は免れないだろう。
     新学期早々の遅刻はえらく印象づけられることだろう。不真面目キャラ認定されるのは免れない。
     そうなれば高校デビューなど夢のまた夢となってしまう。

    上条「ちくしょう、この鞄さえなければ……」

     上条は一つの学生鞄を持っている。
     その中にはぎっしりと、教科書類(お荷物)が詰まっていた。
     登校一日目、つまり入学式の日。無くした時のために名前を記入するという作業をするために持ちかえった。
     それが仇となった。
     上条当麻は中学校時代から所謂置き勉をする学生であり、だから名前を記入した教科書を全て二日目の今日に学校においてしまおうと思ったのだ。

    上条「ああくそ、不幸すぎる……っ!」

     目覚ましが自動的に止まった今朝とは違い、このことは自業自得な気もしないでもないのだが。
     兎にも角にも、上条は不幸塗れなわけだが。
     そんな彼に幸運が訪れることもある。


    4: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/17(火) 23:54:21.54 ID:SnBkuMDlo

     少女は細い金髪の髪を揺らす。
     相当な速度で駆けている彼女のそれは後ろに流れ、しかしチョコンと乗っかっているベレー帽はその頭から落ちることはない。
     そして少女は遂に自らの視界に捉えたつんつん髪の少年に対してスパートをかけ――――


     ■   □   ■


    少女「とーうまっ!!」

    上条「うぉっ!?」

     急に後ろから思いっきり押されて驚かない人はいないだろう。
     しかもそれが女の子ならば尚更だ。
     押された上条は踏鞴を踏んで、そしてその正体見たりと振り返る。
     そこには自慢できるほど綺麗な金髪をたなびかせて、ベレー帽をかぶり、そして上条の通う学校の女子制服を着た少女が意地悪そうな顔をして立っていた。

     上条当麻は不幸な人間だ。
     女の子にお近づきになることなどありえないし、中学からの知り合いでもない限り自分の名前を知る人などいないだろう。
     だが彼の中学校に金髪の少女など存在しない。
     そして彼自身は初対面の女子と話すことにはあまり慣れてはいない(ただしその場のノリと勢いによる)のだが。
     ……の、だが。

    上条「フレンダ……ビビらせんなよ」

    フレンダ「ごめんごめん、結局私は当麻弄りが趣味な訳だから」

    上条「そんな趣味は丸めて掃除ロボットにでも捨ててくれませんでしょうか!?」

    フレンダ「えー、どうしよっかなぁ?」

     上条は全くと言っていいほどに怖気づくことすらせず、彼女の名前を呼んで自然に会話をする。
     フレンダ=セルヴェルン。
     金髪ですら目を引く上に、制服(セーラー服)にベレー帽を被るという奇抜な恰好をしている、上条と同い年の『美』をつけていいだろう少女。
     そんな彼女の名前をどうして同じ高校なだけで上条が知っていて、そしてどうして普通に話せているのか。
     そしてまた逆に、どうして学園都市で接点がなかった彼女が上条のことを知っているのか。


    5: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/17(火) 23:55:08.07 ID:SnBkuMDlo

    上条「『どうしよっかなぁ』って、お前な……」

    フレンダ「そんなことよりさ、結局当麻は遅刻しそうな訳だけど走らなくていいの?」

     呆れて頭をポリポリと掻く上条にフレンダは問いかける。
     その言葉を聞いて、静寂が一瞬だけ二人の間を駆け抜けた。
     上条が恐る恐ると携帯を取り出して時間を見ると、昨日言われた時間まであと10分もない。
     鞄なしの全力疾走ならなんとかなる可能性もあったかもしれないが、もはやどうにもならない。

    上条「……不幸だ」

    フレンダ「結局早く起きなかった自分の自己責任だと思う訳だけど」

     落ち込む上条にフレンダは追い打ちをかけ、更に不幸な少年は手と膝をついて深く落ち込む。
     そんな彼を見て、少女は片目をつむって溜息を吐いた。

    フレンダ「はぁ。ま、だから私が来た訳だから。ほら、鞄貸して貸して」

    上条「え、いやでもこの鞄重」

    フレンダ「いーから」

     上条が渋っていると、フレンダはまるでスリのように手早くその手の中から奪い取る。
     その手際の良さにすこしばかり唖然としていると、少女はその鞄を重さを微塵も感じさせずに自分の背後に回して、

    フレンダ「パッ、と」

     フレンダは両手を前に出してその手の中に何もないことをアピールする。
     手品の如く、その鞄を消し去った。


    6: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/17(火) 23:56:01.99 ID:SnBkuMDlo

    上条「は?……え?」

     何が起こったのか理解が追いつかないのは上条だ。
     鞄を投げた様子もないし、別に地面に落ちたというわけでもない。
     ならば背中に何か取り付けるものがあるのかといえば、彼女にそんなものはないだろう。
     何が何だかわからない上条は頭に『?』を幾度と無く浮かべる。

    フレンダ「ほらほら、結局早くしないと遅刻するって訳よ。そのままぼーっとしてるなら先いっちゃうからね?」

     言うやいなや、上条の頬を金髪がくすぐる。
     本気で行くのかよ!?と思った瞬間には既に上条も走りだしていた。
     鞄がどこに消えたのか全くもって検討もつかないけれど、ここは超能力の都市である学園都市だ。そんな不思議などゴロゴロ転がっている。
     例えば、彼の右手とかにも。

     先に駆け出したフレンダに上条はやっとのことで並走する。
     自分は男で、相手は女で。そして体力にも多少の自信があるのに『やっとのこと』だとは上条は驚かずにはいられない。
     上条は走りながら、そういえば、と横を走る少女に話を振る。

    上条「そういえば、フレンダ。お前も遅刻しそうな割には余裕、だったよな?」

    フレンダ「あー、私、本当は今日休む予定だったからねぇ。でも、当麻が必死に走ってるのを見てこりゃあ助けてあげないとなって思った訳よ」

     走りながら、余裕そうに上条の方を見て彼女は軽く笑う。
     上条はその女の子っぽい表情を見て少しばかり顔を赤くしながら再び問いかけた。

    上条「……なんで、そこまでしてくれんだよ?」

    フレンダ「あったりまえじゃん」

     フレンダはなんてこともないように、ただ答える。

    フレンダ「結局、当麻とは幼馴染な訳だからね」

     そう、正しく。
     何を隠そう、不幸少年である上条当麻と金髪碧眼少女のフレンダ=セルヴェルンは、学園都市外で知り合った――所謂幼馴染なのだ。


    15: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/19(木) 21:22:28.58 ID:Kkb6Vddso

     ・時期について
     原作において上条当麻並びにその同級生はとある高校の一年生という設定ですが、このSSでは二年生ということにします。
     しかし御坂美琴や白井黒子もそのまま一学年上になるというわけではなく、上条が記憶喪失した年度(つまりこのSSでの二年生時期)に原作に年齢が原作と同じになります。
     つまり上条が記憶喪失になるのは二年生の夏休みで、上条と御坂の年齢差は三歳ということになります。
     そういう状況であることをご理解いただけると幸いです。


    16: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/19(木) 21:41:00.39 ID:Kkb6Vddso

     走る、走る、走る。
     荷物を持たない上条は遂に学校前最後の直線に辿り着いた。
     そのすぐ後ろをフレンダが追う。本当に女子でどうしてここまで体力があって自分についてこられるのか少しばかり不思議に思うが、しかし――

    上条(――もう、九年前だもんな)

     上条が学園都市に来たのは幼稚園を卒園し、小学校に上がる時だ。
     九年――小さな女の子が立派な女子高生になるには十二分な歳月。
     よくもまぁ、こんなにたくましく育ったものだ、とは思う。
     初対面では全くと言っていいほどこんな元気ないじめっこになる片鱗など――

    上条(……あったかもしれない)

     当然知り合って少しの間は西洋製の人形のように綺麗で大人しくしていたのだけれど。
     こなれてきたのか、一ヶ月立った頃にはもう元気に自分の横を走りまわっていた記憶がある。
     それなら、今と何もかわらないんじゃないか、と上条は思った。
     それでも年頃の男子についてこれるポテンシャルを持った女子などそれほどいないのだが……上条的にはそれはどうでもいいらしい。
     ただフレンダが自分についてきていること、それのみが重要なのだから。

    上条「フレンダ、見えたぞ!まだ予鈴はなってない、一気にスパートをかけるぞ!」

    フレンダ「言われなくても、わかってるって訳よ!」

     自分のスピードをあげると直ぐ後ろの足音の数も多くなった。
     校門を抜けたと同時に、予鈴が鳴り響く。
     靴を玄関の隅に脱ぎ捨てて一気に階段を駆け上がる。
     踊り場を一歩で切り返す。
     『いける!』、と。きっと上条でなくとも、そう思ったことだろう。
     後ろにぴったり付いてきているフレンダもそう考えた筈だ。

     しかし、上条は、フレンダは。一つだけ忘れていることがある。
     こういう時にこそ、『不幸体質』というものが命運を左右するということを。


    17: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/19(木) 21:56:22.56 ID:Kkb6Vddso

     校舎の解放された窓から流れこんできた風が、一枚の紙を滑らせる。
     おそらくは予鈴を聞いて急いだどこかのクラスの担任が落としたプリントだ。
     そのプリントはピタリ、と丁度上条の踏み込んだ足元で止まった。

    上条「っ!?」

     急いでいなければ、かわせたかもしれない。
     或いは上靴を履いていたなら、問題はなかったかもしれない。
     けれど勢いづいていて、且つ今の自分は靴下一つだけだという事実がその後の運命を決定づけた。
     つまり。
     上条当麻は偶然自分の足元に風で飛んできたプリントを踏んで、転倒する。

    上条「おぉぉぉおおおおおおおおオオオオオオオオオオ――――――――――――ッ!!」

     踏んだ瞬間に、踏ん張る。
     破くぐらいに踏ん張れば、もしかすれば転ばないですむかもしれない。そう考えた故の行動。
     プリントの中心を捉えた上条は幸運にも直ぐに転ぶことはなく、一瞬だけその場に硬直した。
     ――だが、上条当麻は目の前の不幸に対して、もう一つ後ろから来る『不幸』を頭から完全に落としている。

    フレンダ「にゃぁあっ!?」

    上条「ふっ、フレッ!?」

     真後ろにいたフレンダの存在を。
     ほぼ同じスピードで動いていた少女は自分の目の前で固まった少年にそのままの速度でぶつかる。
     そして少年はぎりぎりのところで立っていたのだ。
     その結果がどうなるか、などと。言うまでもない。


    18: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/19(木) 22:12:20.53 ID:Kkb6Vddso

     一瞬の暗転の後、気がついたフレンダは自分が壁に激突したことに気がついた。
     背中とお尻がひりひりする。一体どういう状況で壁にぶつかったのやら。
     廊下にはバラバラと、教科書やら筆箱やらパソコンやら、上条から預かった鞄すらも落ちていた。

    フレンダ「いっけない、ちゃんとしまったのに」

     しかし、大事なモノは落としてないから大丈夫かな、と周りを見渡す。
     そこで気付いた。自分の幼馴染がそこにいないことに。
     あれ、と首を傾げると同時。もぞりと手前で何かが動いた。同時に擽ったいともまた違う、不思議な感触が自分の股を走った。
     反射的にぐっ、と太ももに力を入れてから、気付いた。

    フレンダ「…………まさか」

     フレンダは自分の、おそらくぶつかったときの勢いで開いてしまった足の間に視点を移す。


     ■   □   ■


     上条当麻の視界は、真っ暗だった。
     自分は一瞬目をつむってしまったのか、と思って目を開けても、真っ暗。

    上条「?」

     別に目が見えなくなったわけではないだろう、と思って軽く身動ぎをする。
     右頬と左頬、両側から強く圧迫感を喰らう。
     しかしそれは別段固いものではなく、どちかといえば柔らかいものであって、何故か幸福感すらも感じた。

    フレンダ「…………まさか」

     自分を抑えつけていたモノの力が緩み、真上から声が聞こえた。
     なんだと思って身体を引いて上を向くと、そこにはわなわなと表情を揺るがせる幼馴染の美少女がいた。
     その美少女は、確か今朝見たとき、黒いパンストのようなものを履いていたように思える。


    19: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/19(木) 22:20:49.92 ID:Kkb6Vddso

     理解が追いつくと同時、なんだすごい音だ、何かあったのか、と既に配置についていた教師陣が教室から顔を出す。
     その教師たちが見たのは、つんつん頭の少年が金髪碧眼の少女の股に顔を近づけている状況に他ならない。

    フレンダ「…………っ!」

     真っ白な顔が真っ赤に染まるのを上条は見た。
     そして次に起こることも、なんとなく予想ができた。

     だから上条は大きく息を吸い込む。
     いつものアレを叫ぶため。
     どうしようもない理不尽なことが起きて、それは他にぶつけようがないために自分であみ出した、神様への八つ当たり。

    上条「不幸だぁ―――――――――――――――――――――ッッッッ!!!!!!」

    フレンダ「結局、それはこっちの台詞って訳よッッッ!!!!!」

     二人の叫び声は予鈴直後の静かになった学校全体に轟いて。
     そしてその後のバチン!という凄まじい音も同様に響き渡った。


    20: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/19(木) 22:51:18.08 ID:Kkb6Vddso

     ■   □   ■


    幼女「えーっ、それではHRを始めますですよー」

     壇上でピンク髪の幼女が頑張っていた。
     叩かれて左頬にすっかりと紅葉の形の痣がついた上条(遅刻の件は有耶無耶になった)は周りを見渡す。
     周りの生徒も同様に、えぇー、とでも言いたげな表情で彼女を見つめている。
     ちなみにその中にフレンダの姿はない。彼女は別のクラスだと昨日のクラス分け表で見た。
     一緒ならば尚よかったのだが、如何せんそこまで人生はうまく行かないらしい。最も、今の状況なら針のような視線で刺されるのが関の山だと思うのだが。

     壇上の幼女は壇上に更に自分が乗る段を使ってクラスの全員が見えるように名前を書く。
     月読小萌。なんというか、見た目そのままな印象を持つ名前だ。
     その状態からクルリと振り返り、笑顔で幼女――基、小萌先生は話しかける。

    小萌「はーい、それじゃあ先生になにか質問とかはありますかー?ちなみに乙女の年齢は秘密ですよー」

    少年「はいはーい!質問質問ー!」

    小萌「はい、それじゃあどうぞー」

     小萌に当てられて立ったのは青髪に耳にピアスをしている大柄な少年。
     なんというか、インパクトを強くしようとして失敗した感が上条にはいなめなかった。
     そしてそんな少年は人の良さそうな笑みを浮かべながら質問する。

    少年「小萌先生って付き合ってる人とかいるん?」

    小萌「……青髪ちゃん、そんなことを真正面から聞いちゃメッ、ですよ?そういうノリで聞いてショックを受ける人も少なくないんですから、これからは気をつけてくださいね」

    小萌「それで、私が付き合ってる人は今はいませんですよー」

    少年「よっしゃあっ!それじゃあそれじゃあ、先生、ボクが立候補してもええってことですよね!?」


    21: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/19(木) 23:03:37.34 ID:Kkb6Vddso

     その青髪の言葉に小萌は僅かながら動揺する。

    小萌「え、えーっと、青髪ちゃん。冗談でもそういうことを言っちゃダメですよ?」

    青髪「冗談なんかじゃなく、ボクァ結構本気でいってるんやけどなぁ……先生ちっちゃくて可愛いし」

    小萌「も、もう!先生は大人の女性なんですから、ちっちゃいとか言っちゃダメです!」

     ぱたぱたと手を振って青髪の発言を禁止する小萌。
     上条も含め、きっとこのクラスの意志は瞬間的に一つになっただろう。
     『この先生、可愛い』――と。

    小萌「この質問はこれで終わりです!それじゃあ次の質問は――」

    少女A「はいっ!先生って趣味とかなんですか!」

    少年A「あっ、女子きたねぇぞ!先生!それじゃあ好きなタイプとか――」

    少女B「あーやだやだ、男子ってそんな質問ばっかりで端直よねー」

    少年B「そんなこといったら女子だって自分のことしか考えない自己中ばっかじゃねぇか!」

    少女A「何いってんの、そんなこといったら男子だって――――!」

     窓側に座っている上条の目の前で、男子VS女子の罵詈荘厳の争いが繰り広げられる。
     まだ知り合って一日目のクラスでここまでヒートアップすると正直この先の関係にも関わるのではないかと思う。
     少なくとも高校生活を安泰に過ごしたい上条にとってこの状況は面白くないものだ。
     だから上条は周りを見渡して、男子でも女子でも言い合いに参加していない人を見つけようとして。

     上条はそれを見た。
     必死に声を上げても誰も見向いてくれない小萌先生が涙目になってすらも声を張り上げいたのを。


    22: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/19(木) 23:16:36.06 ID:Kkb6Vddso

     瞬間、自分の何かが切れた気がした。
     自分と同じくこの騒ぎを止めたい人を探すことなんか最早考えから消え失せていた。
     ただ、この争論を止めること。それのみが彼を支配したのだ。

     上条は立ち上がる。
     しかし周りの人はそれだけでは気がつかない。
     上条は教壇に上がる。
     それでもクラスメートは視線すら向けない。

     だから上条当麻は。
     壊すぐらいの勢いで、教卓に両腕を叩きつけた。
     バン!と一際大きな音が鳴り響き、全ての視線がこちらへと向けられる。
     声を上げていた小萌の視線も、女子へ悪口を言っていた男子も、男子へと今にも掴みかかりそうだった女子も。皆が皆、自分のほうを見ていた。
     視線というのは強い力だ。人によってはそれだけで身動きが取れなくなる人も少なくない。
     けれど、上条当麻は臆さない。

    上条「……お前ら、何がしたいんだよ」

     静かに、怒るような声を教室内に響かせる。

    上条「お前たちは昨日から高校生になったんじゃねぇのかよ、これから始まる高校生活に期待に胸をふくらませてたんじゃねぇのかよ!」

    上条「なのにどうして妥協したりできないんだよ!どうして円満に解決して、男子も女子も共に楽しい高校生活をおくろうと思わねぇんだよ!」

    上条「確かに先生が可愛いのは理解できる、けどな、それで先生をとりあって喧嘩なんかしたら本末転倒じゃねぇか!」

    上条「現に、先生は皆が喧嘩しているのが悲しくて泣いてるんだぞ!お前らはそれが観たかったのか!?違うだろ、ただ楽しくわいわいしたいだけだろ!?」

    上条「そう思うんなら少しでも妥協しろよ!順番に聞くとか、ジャンケンで決めるとか、そんなんでいい。もっと平和な方法で解決しろよ!」

    上条「それでも、お前らがまだ何か言い足りなくて、口喧嘩を続けて、そして先生を泣かせ続けるっていうんなら」

    上条「まずはその幻想をぶち殺す!」


    23: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/19(木) 23:30:23.32 ID:Kkb6Vddso

     シン、と教室内が静寂に包まれた。
     自分の言いたいことは届いただろうか、それとも届いてないのだろうか。
     届いていないのなら、自分はきっとこの右手を振るう。
     理論は分からないがあらゆる異能を打ち消すこの右手を駆使して、この喧嘩を止めて見せる。

     そんな上条の決意と思いが届いたのだろうか、それとも或いはただ説教されて毒気が抜けただけなのか。
     頭に血がのぼり、立ち上がって暴言をぶつけていた生徒は一人、二人と座り始めると、雪崩のように全員が着席した。

    上条「……ふぅ。それじゃあ小萌先生、続けてください」

    小萌「えっと……な、名前はなんていうんです?まだ先生しか自己紹介してないから、覚えてなくて……」

    上条「上条です。上条当麻」

     その時小萌の顔を見て気がついた。
     小萌の眼はなんとなく、『憧れのお兄ちゃん』を見ているような視線だったことに。
     そして先生は眼に涙を貯めたまま、とびっきりの笑顔を上条へと向けた。

    小萌「ありがとうございます、上条ちゃん!」

    上条「あ、えっと……いや、別に……あ、俺も席に座ります」

     先程まで全く大丈夫だった周りの視線にこんどこそ上条は耐え切れなく、逃げるように自分の席へと帰る。
     そして小萌が再び壇上へとあがって、仕切りなおしにパン、と手を叩いた。

    小萌「先生は皆の質問に答えますので、ちゃんと一人ずつ順番に質問してくださいね?」

     それからは、至って平和に小萌先生の、そしてクラスメートの自己紹介は終わった。
     ただ、自分の番に只管視線が身体に刺さったことを除いては。


    35: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/22(日) 21:27:47.80 ID:E0rlQyC3o

    上条「……不幸だ」

     全く、どうしてこういつも自分には不幸というものが付いて回るのだろう。
     上条はそんな世界に軽く絶望しつつ、放課後の学級で机に沈む。

     視線が痛かった。
     眼が物語っていた。
     それはそうだ。いきなり喧嘩を始めたクラスメートを止めるためとはいえ教壇に上がって長々しい説教をかまし、挙句の果てには『その幻想をぶち殺す!』ときた。
     それで注目されないほうがおかしいというものだろう。
     しかしなんだろう。中にはまた別の感情が混じった視線があったような気もしたが。

    上条(――ま、どうせ気のせいなんでしょーけどね)

     もはや世界が信じられなくなっている上条当麻(15)である。
     一端の男子としては高校生になったら青春したい!と意気込んでいたのだが。

    上条「この結果じゃ、無理かな無理だな無理ですねの三段活用だ……」

    「いーや、意外とそうでもなかったりするんだぜい?」

     机に伏して呟いた独り言に真上から返事が帰ってきた。
     なんだと思い顔を上げて上を見上げると、そこには二人の男子高校生が立っていた。
     一人は染めたような金髪にグラサンをかけていて、もう一人はこれまた染めたような青い髪に耳にピアスを付けている。
     少なくとも、上条には見覚えはない。

    上条「……で、なんだこいつら」

    青髪「酷ッ!?つっちーは兎も角、ボクの方は小萌てんてーに質問してたやん!」

     そう言われても、上条的にはそれよりも重要な事態(自分がクラス中から痛い目で見られる)ことがあった為に前後のことなど記憶になかった。
     つっちー、と呼ばれた金髪の方は自分の髪の毛の先をグリグリと弄る。


    36: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/22(日) 21:48:38.39 ID:E0rlQyC3o

    金髪「というかこんな髪色してんのクラスで俺らぐらいだから、自己紹介でバッチリ印象を植えつけたと思ったんだけどにゃー」

    上条「すまん、マジで記憶にない」

     というかこんな髪色した奴もいたのか……と上条は唖然とする。
     そういえば皆ナチュラルにスルーしてたけど、小萌先生の髪色はピンクだったなーと思い出す。
     それは今はどうでもいいことなのだが。
     とりあえず人と話すのに机に突っ伏したままは悪いと考えた上条は椅子の背もたれに深く腰をかけて座りなおし、それと同時に目の前にさし出された手に眼を丸くする。

    金髪「んじゃー改めて自己紹介。土御門元春、つっちーでもなんでも好きに呼んでくれて構わんぜい」

    上条「あ、ああよろしく」

     がっし!と握手をしたところで、土御門……?と上条は首を傾げる。
     最近、その苗字を見たような気がするのだが、如何せん思い出せない。

    上条「なあ、どこかでお前とあったことあるか?どこかで苗字聞いたことある気がするんだけど」

    土御門「ああ、隣人の土御門さん、っていえば伝わるかにゃー?」

     隣人の土御門。その言葉を聞いて上条はようやく合点がいった。
     学園都市の学生の大半は学生寮に入寮し、更に同じ学生寮の生徒は殆どの人が同じ学校に通う。
     かくいう上条もその例に漏れずとある学生寮に入寮しているのだが、その借りている部屋の隣の表札に『土御門』と書いていたのだ。

    上条「なるほどなー、お前が隣の土御門ってわけか。んじゃそっちの方向でもよろしくな」

    土御門「おうよ、これから長い付き合いになりそうだし、こっちこそよろしく頼むぜい」

     改めて固い握手を交わし、これからの事に対して一緒に頑張ろうと誓う。
     しかし、三人いる状況で二人がそうなると、残りの一人は面白くもなんともないわけであって。


    37: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/22(日) 22:01:22.51 ID:E0rlQyC3o

    青髪「ちょっ、ちょっとまってーな、ボクをのけ者にしないでほしいんやけど」

    上条「うるせぇ青ピ」

    青髪「一言目にうるさい!?というか青ピって何!?」

    土御門「多分外面的な印象から察するに青髪ピアスの略なんじゃないかと思うぜい」

     やっぱりこれから付き合う隣人だ、俺の言いたいことを理解してる。
     上条は土御門にまた親近感を覚えて、しかし青髪の少年――基、青髪ピアスは焦ったように否定する。

    青ピ「なんやそれ!ボクにはちゃんと、列記とした名前が――」

    土御門「うるさいんだにゃー青ピ」

    青ピ「つっちーまで!?」

     一緒に上条に歩み寄った者にも呼ばれ、ショックを受ける青髪ピアス。
     のけぞり、そしてそのままの体勢で上条の方をみやった。

    青ピ「くっそう……どれもこれも、全部上条クンのせいや!だったら、上条クンなんてカミやんで十分や!!」

     どうだ変なアダ名をつけられる恐ろしさを思い知れ!、とばかりに青髪ピアスは叫ぶ。
     しかし、特別変なアダ名とは思えない。苗字の一部をとってアダ名をつけることなどよくあることだろうし、許容範囲だろう。
     だから上条はなんて事もなくこう答える。

    上条「いいぜ、だったらお前はこれから青ピな」

    青ピ「なん……やと……」

     当然だ、相手をアダ名で呼ぶということは自分もアダ名で呼ばれることを許すということを暗に認めていることになる。
     つまり青髪ピアスは墓穴をほったわけだ。
     人を呪わば穴二つ、とはよく言ったものだ。この場合、穴に落ちたのは呪ったほうだけなわけだが。


    38: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/22(日) 22:21:11.50 ID:E0rlQyC3o

    青ピ「こ……こ……」

     青ピの顔に影がさし、本人の身体は薬物中毒者のように震える。
     そして上条と土御門は青ピが漏らした音を雄武返しで聞き返す。

    上条「こ?」 土御門「こ?」

    青ピ「この、ドクサレ共がァ――――――――――――ッ!!!」

     身長180を超える巨漢は眼を光らせて自らをからかう金髪とつんつん頭をそのターゲットとして捉える。
     そしてその腕をぶんぶんと振り回す!
     だが対する二人もそう簡単にやられるわけではない。
     上条は素早く椅子から立ち上がり距離をとって、土御門は至近距離でも冷静に腕の動きを見切って避け、それから距離を取る。
     しかし、一度回避された程度で収まる怒りではなく、教室内で二人を同時に追いかけ始める。
     これが月読小萌が新たに持った学級の三バカ――後のデルタフォース――が起こした初めての事件である。


     ■   □   ■


     『鬼ごっこ』によってなぎ倒された机を元の状態に戻し、そして再び上条は席に座って二人がその席に寄る。
     先程はこの状態からいきなりアレが始まったというのにまだクラス内で談笑しているグループがあるところを見ると、学園都市の常識はやっぱりズレているらしい。

    上条「そんで、『意外とそうでもなかったりする』ってどういうことだったんだ?」

    土御門「ああ、それはな……高校生活の青春っていうのは、クラス内だけでは決まらないって意味だぜい」

    上条「? どういうことだ?」

    青ピ「つまり、早い話ナンパしようっちゅー訳やな」

     なるほど、と上条は手を打つ。
     確かにクラスの女子と話したり遊んだりするのも青春の一つの形だが、別にそれは他校の生徒とでも成立はする。
     例えそれが中学生だったり大学生だったとしても、その中間である高校生なら特別問題はないといえるだろう。


    40: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/22(日) 22:39:35.53 ID:E0rlQyC3o

    土御門「まぁ別に俺ら二人でも別にいい気はするんだけど、隣人のよしみもあるし、ある意味クラスの英雄と化したカミやんならいいかなと思ったんだにゃー」

    青ピ「頭数も結構重要なわけやしね。それでどう?って話なんやけど」

     ふむ、と上条は考える素振りを見せる。
     別に断る理由もないし、まだ高校生活も始まったばかりだ。今日失敗したところでまだまだ挽回のチャンスはあるだろう。

    上条「よし、いい――」

     ぜ、と言おうとしたところで。
     頭に何か色々入っているであろう鞄の強烈なアタックがぶち込まれた。
     そのままの勢いで机に額をぶつける。上条の体力がケージで表されたとするなら、今のコンボで五分の一は減っているだろう。
     なんだ、誰だ、と後頭部をさすりながら振り返ると、今朝廊下で別れた金髪幼馴染が立っていた。

    フレンダ「そうは問屋が卸さないって訳よ!」

    上条「ふ、フレンダぁ!?なんでお前……」

     上条は幼馴染のバックアタックに理由を求めるが、フレンダは答えない。
     突然の金髪美少女の登場に教室内が固まる中、フレンダはそう叫んで上条の制服の襟をつかんだ。
     そしてそのままクラス外へと有無を言わさず上条を引きずったまま出て行く。

    上条「えっ、ちょっ、フレっ……!?」

    フレンダ「結局、上条は私に付き合ってればいいってわけよ!」

     じたばたと抗ってみるが、女の子の力とは思えない強い握力からは逃げられない。
     そしてそのまま彼らは廊下へと消え、そして『不幸だぁあああああああああああああ』という断末魔が学校全体へ響き渡った。
     残された土御門、青髪ピアス、以下クラスメートは上条に対して『あんな美少女に連れられるのはある意味羨ましいけど、でも今度から構ってやろう』と思うのだった。


    47: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/26(木) 00:37:08.64 ID:CX6HgCKTo

     学園都市の技術は外のそれと比べて二〇~三〇年先に進んでいる。
     つまるところそれが超能力開発技術の土台ともなっているわけだが、それはさておき。
     つまり全世界で学園都市の技術だけが突出してとびぬけている、ということになる。

    フレンダ「よっしゃゲットッ!」

     しかしながら、だ。
     技術が進んでいることが進んでいないことを否定する材料にはなりえない。
     勿論科学技術――例えば省エネルギーだとか武器開発だとか――においてはそれは成立するだろうが、全てが全てそうではないのだ。
     その最たるものがこれであるといえよう。

    フレンダ「結局私の手からは逃れられないって訳よ……!さぁ次はどいつにしようかなー?」

     そこは廃れながらも賑わっていた。
     不良たちがたむろしているというわけではなく――ある意味ではそうだが、その施設自体が賑わいの原因ともなっているのだ。
     カラオケボックスではない。ボーリング場だとなお遠い。
     そこは、古き良き暇つぶし施設のゲームセンターである。
     フレンダ=セイヴェルンと、彼女に引っ張られた上条当麻は中ではなく外の技術開発によって作られた、『遅れてるゲームセンター』にいるのだった。
     そしてプレイしているゲームは、UFOキャッチャー。
     外のものを参考にして作られた学園都市産であるが、実際に殆ど変化はない。
     このゲームは単純且つ難しいという条件を満たしており、一種の完成形であるからだ。
     アームの強さによってお金を落とさせることも自由自在という利点もあることだし。

    上条「……上条さんのチャンスを潰してまでつれてきた結果がこれですか」

     そんな慣れていない人には難しい、慣れている人でも少しは苦労するゲームはまた一つの人形を吐き出した。
     よくできているテディベアを抱いて、フレンダは上条に向き直る。
     彼女の足元には、既に六体もの同じ人形が転がっていた。
     ちなみに入店して十分程度しか経過していない。

    フレンダ「結局そーゆーことは不健全な訳よ。だったら久しぶりに会った幼馴染にサービスしてもいいと思わない?」


    48: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/26(木) 00:37:35.09 ID:CX6HgCKTo

     フレンダの言い分には一理あるが、しかし上条はため息を吐く。 

    上条「お前の言いたいことはわかるよ」

     久しぶりに再会した幼馴染だ。
     幼稚園で別れてから、もう二度と会うこともないだろうと思った、仲の良かった友達だ。
     それと再会して今までの時間を埋めるように遊びたいという気持ちは上条にも少しはある。

    上条「けどさー……なんかこれ違うんじゃないか?」

    フレンダ「それじゃあ結局、上条はナンパのほうが良かった?行き連れの女の子とにゃんにゃんするのが良かったっていう訳?」

     言外に『不潔』と責められているような気がして、上条はやや焦る。
     上条にとって、フレンダのいう『にゃんにゃん』までは行かずとも女の子との関係は望ましいものだし、そんな下心が全くないとも言い難いから。
     というか性欲真っ盛りの健全な男子高校生だ。そんな感情を持たないほうがおかしいだろう。
     だから言い訳口調になるのは正直仕方がない――筈だ。

    上条「ぐっ……いっ、いや!ナンパっていうのはですね、成功の有無に関わらずやることに重きを置いていることなんですよ!」

    上条「ある意味の度胸試し、そして一緒に声をかけて一緒に振られたりすることによって男同士の友情を深めるというかなんというか……」

    フレンダ「結局、そういう下心はないって言いたいの?」

    上条「そうだ、そうです、そうなのです!上条さんは全く疚しいことなんか考えてませんッ!」

     ふーん、とフレンダはジト目でそんな言い分を述べる上条を見る。
     そして、でもさ、と口を紡いだ。


    49: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/26(木) 00:38:20.13 ID:CX6HgCKTo

    フレンダ「あの金髪と青髪の二人は同じクラスな訳でしょ?」

    上条「ん、まぁそうだけど……」

    フレンダ「それならさぁ、結局いつでも遊んだりできるわけだし、やっぱり今日ぐらいは私に付き合ってくれてもいいと思う訳よ」

     折角久しぶりにあったんだし、と締めくくってフレンダは抱きしめたテディベアに顔の下部半分を埋めた。
     テディベアに埋まっていない眼も少し細まっていて、上条ではなく地面へと向けられる。
     上条の眼には迷子の少女のように気弱になっているように映った。
     上条はそんなフレンダから気まずそうに視線を外して、後頭部をガリガリと掻いた。
     自分たちは唯の幼馴染だ。学園都市でそんな存在が他にいないというのは分かるが、何故そこまで固執するのか。
     上条にはわからない。彼は基本的に後ろではなく前を向いているから。過去のことを悔やむより先にそれを挽回するために走りだすから。
     それでも。
     上条当麻にそれを追求する訳などなく、どうしようもない蟠りをぶつけるが如く溜息を吐いた。

    上条「わかった、今日は再会記念ってことで遊び倒すってことでいいんだな?」

     答えるようにフレンダは視点を上条へと向ける。
     上条の方が身長が高いためそれは自然と上目遣いとなり、それは少しながら上条の心を揺らした。
     それを誤魔化すように上条は制服と全くマッチしていないベレー帽の上からフレンダの頭を軽く抑えつける。

    上条「でもさ、一つだけ言わせてもらうと」

    フレンダ「……もらうと?」

    上条「お前ともいつだって遊べると思ったからアイツらの誘いに乗ろうと思ったんだからな?別にクラスが違うぐらいで途切れるような関係じゃないだろ?」

     上条は振り返らない。
     が、しかし。別にそれは過去を大事にしないとかそういう事では断じてない。
     九年ぶりの幼馴染だとしても、長年会わなかったということを感じさせず、しかしそういった関係であったことは忘れない。つまり関係は昔のまま先に進ませる。


    50: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/26(木) 00:39:14.49 ID:CX6HgCKTo

     これが上条当麻。
     自らが不幸だとしてもひねくれずに真っ直ぐに育ち、自分の信ずるところに突き進む少年。
     最も、彼は自らのそんな行動を顧みて自らのことを『偽善使い』と称しているわけだが。
     そんな彼の言葉を真正面からうけて、フレンダはつい、笑顔を浮かべた。つられて彼も同じように。
     まるで――子供のように、無邪気な笑顔を。

    上条「……よしっ、それじゃあ上条さんも遊ぶとしますか!」

    フレンダ「大丈夫な訳?当麻お金ないんじゃない?」

    上条「苦学生な俺にもゲーセンで遊ぶお金ぐらいはあります!問題なし!」

    フレンダ「ふふんっ、その程度でこの私についてこられるなんて結局思えないって訳よ!」

    上条「よろしい!ならばこの不肖上条当麻、フレンダお嬢様の後を死ぬつもりで付いて行きましょう!」

     彼らの再開記念イベントはまだ始まったばかりだ。


     ■   □   ■


    フレンダ「ふぃー、遊んだ遊んだー」

     下校のチャイムが鳴り響く夕方、満足そうな表情のフレンダを前に、正反対にやつれた顔をした上条が追う。
     やはりというかなんというか、ゲームセンターでもやはり不幸に見舞われる上条だった。
     故障につく故障。最後のほうなんて店員に『またか』とでも言いたげな顔をされた。

    上条「……で、結局取れたのがこのよくわかんないカエルのぬいぐるみだけって訳か……」

     唯一の戦利品であるカエルのぬいぐるみの首もとを掴んでその顔をこちらへと向ける。
     ぶら下がっているタグには『ゲコ太』という商品名が記入されていた。
     上条と違って沢山の戦利品を手に入れた筈のフレンダの持ち物はというと、今朝あった時と同じように手ぶらだった。
     つい一瞬目を離した瞬間にぬいぐるみ類が跡形もなく消え失せていた所をみるとそれが彼女の能力か何かなのだろう。
     物をどこかに飛ばす――例えばテレポートのような能力だとか。あくまで推論でしかないし、わざわざそれを確かめようとは思わないが。
     それよりもなによりも、目下の問題はこのぬいぐるみの処理についてだ。
     上条には人形を抱いて寝る趣味などさらさらないし、部屋に飾るにしてもイメージにあわなさ過ぎる。


    51: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/26(木) 00:39:51.59 ID:CX6HgCKTo

     結果、それは前を歩いていた少女へと向けられる。
     上条との距離を確かめようと振り向いた瞬間に目の前いっぱいにカエルの顔があったフレンダは、眼を丸くして仰け反った。

    上条「やるよ」

     一先ず突き出されたぬいぐるみを両手で受け取り、フレンダは眼を丸くしたまま口を△にしてぬいぐるみとにらめっこするようにそれを凝視する。
     そしてパッ、と顔を上げ、上条の言ったことの確認をとった。

    フレンダ「え、いいの?私、沢山ぬいぐるみもってる訳だけど。それに当麻唯一取れたのこれだけでしょ?」

    上条「いいって。俺が持っててもしょうがないし、それならぬいぐるみ好きな奴に持っててもらったほうがコイツも嬉しいだろ?」

     再びフレンダはゲコ太とにらめっこを再開。
     じっくり数十秒ほど見つめ合ったあと、ふっ、と微笑んだ。

    フレンダ「当麻がそこまでいうなら、貰ってあげないこともない訳よ!」

    上条「どうぞどうぞ、是非貰ってくださいませ姫」

     上条は恭しく傅き、対してフレンダは苦笑する。
     それでも全くもって、悪い気はしなかった。
     フレンダは先程までの人形のようにそれをどこかに消したりはせず、大事そうに身体の前で抱きしめて上条の隣に並ぶ。
     静寂――しかし、それすらも心地いい。
     上条は感嘆すら覚えるほど朱い空を見上げ、ほぅ、と深く息を吐く。

    上条「明日も晴れ、か」

    フレンダ「空模様で天気占いとか非科学的」

    上条「でも案外間違ってもないだろ?」

    フレンダ「違いないね」

     空をとぶ飛空船は明日は晴れだと告げていた。
     ならば明日は晴れる。絶対に、確実に。一%の狂いもなく。


    52: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/26(木) 00:40:20.24 ID:CX6HgCKTo

    上条「それにしても、フレンダすごい勢いでお金使ってたよな。やっぱり能力開発だけじゃなくて、あの両親からももらったりしてるのか?」

     上条の記憶が正しければ、彼女の両親は二人とも金髪の外人さんだった。
     優しそうで、裕福そうに見えたのもうっすらと朧気ながらも覚えている。
     フレンダはほんの少しだけ考えるような素振りを見せてから肩をすくめて答えた。

    フレンダ「ほんの少しだけね。収入の殆どはバイトして稼いでる訳よ」

    上条「それであんなに沢山使えるって……それって誰でも簡単にできる怪しいお仕事とかそんなんじゃないよな?」

    フレンダ「違う違う、普通のだってば」

     けらけらと笑いながら歩道橋を行く。
     やがて二方向へと分かれている場所に行き着き、その分かれ道で立ち止まる。

    上条「そんじゃ、また今度な。なんか用事でもあれば、遠慮無く言ってくれよ」

    フレンダ「幼馴染だから?」

    上条「幼馴染だからってだけじゃねーよ」

     上条はこつん、と軽く拳骨を一つ。フレンダは舌を小さく出して応える。
     そのまま上条はじゃあな、と振り返らず後ろ手を振る。
     フレンダも振り返えしたが、ついぞ上条が彼女の方を振り返ることはなかった。

    フレンダ「……幼馴染だからってだけじゃない、ね」

     手の中でカエルを握りしめてくるりと一回転。
     次の瞬間に、そのカエルは手の中から消え失せていた。

    フレンダ「結局、当麻ってば昔からなんにも変わらないって訳よ」

     手すりによしかかって、呟く。
     それはとても淋しげに。ゲームセンターで上条に見せたあの気弱さに酷く似ていた。


    53: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/26(木) 00:41:05.55 ID:CX6HgCKTo

     丁度、まさにその瞬間を見計らったかのように。
     ピリリリリリ、となんの捻りもない、デフォルト設定の携帯着信音が夕焼けの道路に鳴り響く。
     フレンダは誰からの電話かとか確かめることなく携帯電話を開いて着信ボタンを押した。

    フレンダ「――はーい、こちらフレンダ」

     ――フレンダ=セイヴェルンは上条当麻に二つだけ嘘を付いた。
     一つは、彼女の両親は自分を学園都市に預けたその瞬間からある一時期を除いて行方を眩ませていること。お金なんて振り込まれるはずもない。

    女性『あ、出た出た。全くもう、さっさと出なさいよねー』

     電話の声で彼女であることを確認して、フレンダはなんてことのない口調で言う。

    フレンダ「ねーねー麦野。結局、今日は中々に充実した一日だったよ」

    麦野『……はぁ?何いってんのアンタ』

     電話の相手――学園都市能力者序列第四位の麦野沈利は彼女の言葉を一蹴する。
     そちらの事情などどうでもいいとでも言うように。

    麦野『んなことより、仕事よ仕事。打ち合わせ場所は六学区の地下室。もうアンタ以外全員揃ってんだから早く来なさい』

    フレンダ「んー、わかった。それじゃあ今から向かうって訳よ」

     ――そして、もう一つは。
     彼女のしているバイト――『お仕事』は、灰色どころか真っ黒に染まっているということだった。


     フレンダ=セイヴェルンは。
     学園都市暗部組織『アイテム』で上に命令されるがままに働いでいる。
     それこそ、泥の底を掬うような汚い仕事まで。


    61: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/29(日) 15:16:13.51 ID:zkGAG4J7o

     ――少しばかり時を遡ろう。
     彼女、フレンダ=セイヴェルンが闇へと堕ちてしまったその理由を紐解くために。


     ■   □   ■

                         ・
    フレンダ「――ふ、ふれんだ、せいぶぇるん……です。よろしくおねがいします」

     夏休みが明けて、だがそれでも暑さは残り、蝉の鳴いている季節。
     彼らの前に居たのは金色の髪を持ち、そして澄んだ蒼色の瞳を持つ少女だった。
     白や黒、ピンク色のフリルスカートを着せてじっとさせておくと、おそらく人形と勘違いしてしまうだろうレベルの。

    先生「みんな、セイヴェルンちゃんは一応日本で育ってるけど両親は外国人なの。だからつい聞きなれない言葉とか喋ったり、日本語自体もなれてないかもしれないけど、仲良くしてあげてね」

     はーい、と元気のいい合唱が教室内に響く。
     先ほど先生が言ったとおり、フレンダは外国人の間に生まれた娘だ。家では両親の母国語、外では日本語を聞いていたことによって今のところ二つの言語を話せる。
     しかし、それならば先程の辿々しい喋り方はどうしてだろうか。
     その理由は至って解明。

    フレンダ(……けっきょく、きんちょうしてる……ってわけよ)

     入ってくる前に人っていう字を三回書いて飲み込んだのに、と思う。
     当然といえば当然でもある。日本国内だとはいえ、彼女にとってこの入園が初めてなのだ。
     つまり、こういう幼稚園やら保育園やらの施設に入ることすらも初めて。他の同年代の子と一緒に机を並べるのも初めて。
     この年代の子どもならこんな状況で緊張しないほうがおかしいだろう。

     ちなみに彼女が心で呟いた『結局』だとか『訳』だとか、そういう言葉は父親の口癖だった。
     なんでも彼が習っていた日本人の教師の口癖が伝染ってしまったのだという。
     傍から見ていれば、なんとも不自然な言葉だ。


    62: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/29(日) 15:38:59.84 ID:zkGAG4J7o

     それから数日の間、同姓の女の子からは綺麗で可愛い、と、もて囃された。隣のクラスからも覗きに来る子供も見た。
     当然といえば当然。人形のような可愛いものが大好きな女の子なら彼女に憧れを抱いても仕方のないことだと思う。
     そして話す相手はできた。友達といえるような人もできた。
     しかし、だ。
     ここは日本で――そして、彼らは日本人だった。

     日本人、というのは中流意識が染み付いている民族である。
     勿論稼ぎが多くなって贅沢な暮らしができればもっといいのだろうが、それよりも周りよりも秀でない、周りよりも抜きん出ない、所謂『普通』を求める傾向が強い。
     『出る杭は打たれる』という諺がある。日本はそれを地で行くためにそういった考えが生まれるのだ。
     今となっては外人がいることは普通になっているが、昔はそれほどでもなかった。だから尚更彼、或いは彼女に嫌悪感を抱く日本人も少なくなかった。
     そして子供にはその自分とは違うものを排他するという精神が大人よりも強い。

     綺麗なのはいい。可愛いのも問題ない。
     だが。彼女の少し不自然な口調や、髪色、肌の色はどうしても彼女と自分たちとは違うという考えを生み出す。
     それでも、初めのうちは何もなかったのだ。友達もできて、果たして普通に過ごしていたに他ならない。良くも悪くも彼女は可愛くて、人形のようだ、という位置を得られたから。
     つまり――切欠がなかった。
     罅の入ったダムは直ぐに瓦解するように。火さえつけば直ぐに伝わる導火線のように。

     その瓦解するダムにとっての『罅』、導火線にとっての『火』が、彼女が入園して僅か一週間で発生した。

     『外国人による、日本人の殺人事件』――それが、事件の概要だった。
     国も違う。系統も全く違う。フレンダには、なんの関係もない事件の筈――だったのだ。
     だが、テレビでその概要を見ていたコメンテーターはこんなことを言った。

     『こうなるから外国人の入国を日本は認めるべきではなかった』、と。

     それは偏見だ。街中を歩く一部の高校生を取材して、『これが最近の高校生の実態だ!』とグラフをつくるようなことと同じことだ。
     しかし、日本人は均一的な民族で。そして日本にいる外国人は決して数が多いとは言えない時期で。
     だから、そういったことが起こってしまったのだ。


    63: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/29(日) 15:56:40.56 ID:zkGAG4J7o

    フレンダ「――いやっ、やめてよっ!」

     彼女は男子に足蹴にされていた。太陽に煌く金髪は泥に塗れ、服も同様で、そんな状況で彼女は頭を抱えて丸くなっていた。
     それは当然、先の事件が関係していた。
     だが、それだけでは理由にならない。一日、二日は少しぎくしゃくしながらも会話を交わしていたりしたのだ。
     火はついた。導火線の役割を果たしたのは、一人の男子だった。
     クラス内でも声の大きい元気な男子が、親から何を吹きこまれたのか彼女の前にたって糾弾したのだ。

    少年『――殺人民族は日本からでていけよっ!』

     それからだった。彼女に対する眼に見える虐めが始まったのは。
     得てして『火』がついた『導火線』は火薬への引火を果たしたわけだ。
     入園当初仲良くしてくれていた女子は誰も味方してくれない。それどころか男子に混じって蹴る人もいる。
     子供は純粋だ。だから加減がない。自分たちが正しいと思い込んでいるうちは只管に残酷なことをできる。
     例えば虫の胴体と頭を引きちぎってけらけらと笑うように。
     例えば欲しいおもちゃを持っている相手に対して平気で殴りこみをいれるように。
     つまり――彼らはきっと、フレンダを悪に見立てて、それを倒す自分たちを正義と思い、これを虐めとすら理解していない。
     だから彼らは蹴る。蹴る、蹴る、蹴る。
     外国人を。金髪碧眼の少女を。自分たちとは違うモノを。

     それでも、僅かな救いはあった。先生は自分の味方をしてくれたことだ。
     彼女は平等であり、虐めを見かけると手を差し伸べてくれていじめていた子を叱った。
     フレンダにはそれがあったから、まだ心が折れずに前に進むことができたのだ。


    64: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/29(日) 16:13:12.40 ID:zkGAG4J7o

     ある時だった。
     そんな自分の味方をしてくれた先生が、刺された。
     命に別状はなかった。しかし、入院を余儀なくされた。目撃者はいない。ただの通り魔だということが警察の見解だった。

     フレンダの味方をしていたとしても、風当たりのいい先生だったためにクラスの皆からは慕われていた。だからそのクラスは大きな衝撃を受けた。
     ――それだけなら、まだよかったのだ。
     数日後、誰が流したのかその通り魔が外国人だという噂がどこからともなく発生した。
     結果――どうなるか、などと。言うまでもないだろう。

    フレンダ(どうして)

     彼女は考える。
     蹴られ、背に、腕に、足に。身体の各部位に痛みを感じながらも。
     彼女は考える。

    フレンダ(どうして、私だけがこんなことになってるわけ?)

     理由などなかった。
     ただ、自分は見た目が、生まれが、口調が、ほんの少しばかり皆と違っていただけ。
     たったそれだけの理由。
     他に理由を求めるのなら。強いて、ひねり出せる答えはただ一つしかなかった。
     即ち――

    フレンダ(不幸)

     最近教えてもらった言葉。
     自分が外国人だったことも、関係の無い外国人が日本人を殺したことも。
     唯一味方をしてくれていた先生すら刺されて、それの所為で自分への虐めが激化したことも。
     全て――不幸だったから。
     自分が不幸だったから起きたのだ。


    65: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/29(日) 16:27:58.67 ID:zkGAG4J7o

     疲れたのか、少年たちが去っていく。
     その足音だけを聞いて、フレンダはただ地面に崩れていた。

    フレンダ(けっきょく、また汚しちゃったわけよ……お父さん達になんて説明しよう、また皆と泥遊びしてたっていえばいいかな)

     両親に心配はかけたくなかった。
     自分の事で忙しいお父さんとお母さんに迷惑を掛けたくなかったから。
     とりあえず今日はもう蹴られる心配はない、と身体から力を抜く。ぐったりとして、全く力が入らなかった。
     いま何時だろう。思い、ゆっくりと仰向けになって空を見上げる。
     真っ赤に染まっていた。もう既に夕方なのだろう。
     そんな時間まで、自分はずっと蹴られ虐められていたのだ。

    フレンダ「っ、は――――」

     嗤う。
     自らの不運を。
     神から見放された自分を。
     嘲笑う。

    フレンダ「あははははははははは――――」

     それは、幼稚園児には全く似合わない、壊れた嗤いだった。
     ともすれば死まで追いやられていたかもしれない。壊れてしまうのも無理はない。
     そうして幼稚園の用具場の影でひとしきり嗤った後、大きく息を吐く。

    フレンダ「けっきょく私は――」

     不幸だった――――
     言いかけて、自分に影が差したことに驚いて、口を紡いだ。
     いや、驚きすぎて言えなかった、というのが正しいだろう。


    66: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/29(日) 16:46:48.58 ID:zkGAG4J7o

     それは少年だった。
     見たことのない少年――いや、自分の覚えがないだけかもしれない。
     これといって特徴のない、目立たない少年だったから。
     強いて言えば、髪の毛の量が少し多いくらいだろうか。ツンツンのうに頭にして丁度良くなりそうな気がする。
     しかしフレンダにとってそんな外見はどうでもよかった。
     重要なのは……そう、重要なのはただ一つ。
     自分に危害を加える、加えないか――

    少年「――――」

    フレンダ「っ……!」

     少年の手が動く。
     つい、叩かれるかと思って強く眼を瞑ってしまう。
     お腹を見せた無防備な状態で、無様だが疲労でまともに動くことも出来無い為にそれしか対抗手段はなかった。
     だが、いつまで経っても予想していた衝撃は訪れない。不思議に思い、彼女は固く閉じた瞳をゆっくりと、ゆっくりと開らいた。
     そこには当然の如く、相も変わらず少年が立っていた。
     先ほどと違うのは、その少年の手は自分の目の前に差し伸べられているということ。
     そして。

    少年「……立てる、か?」

     優しく声かけられたその行動だった。


    67: >>66 修正 少年「……立てる、か?」→少年「……立てる?」 2011/05/29(日) 17:05:39.95 ID:zkGAG4J7o

    少年「えっと……君が例の外人の転入生……ってことでいいの?」

     フレンダにブランコの元まで肩を貸して座らせ、その隣に座った少年は先ずそう尋ねた。
     例の、というのがよくわからないが、この幼稚園に外人の子は自分しかいないので、フレンダは少し躊躇いながらも頷く。
     よしんば頷かなかったとしても、髪の色と肌の色で一目瞭然なのだから。

    少年「そっかぁ……前から話には聞いてたけど、見たことはなかったから、僕」

     少し照れたように少年は笑う。
     フレンダはそんな少年をみて不思議に思った。
     どうして自分に危害をいのか、と。別にそうであることを望んでいるわけではないのだが。

    フレンダ「……けっきょく、どうしてあなたは、私に何もしないわけ?」

    少年「……?どうして何かする必要があるの?」

     フレンダの問いに、彼はきょとんとした顔で返す。
     彼女はまた少し言いづらそうにしながらも、ゆっくりと彼の質問に返す。

    フレンダ「だって……私が、外国人なわけだから」

    少年「どうして外国人だと何かしなきゃいけないの?」

    フレンダ「それは――――」

     私が、不幸だから。
     そう言ったときの少年の顔は、驚いたというよりもえっ、と表情が一瞬消えたように思えた。


    69: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/29(日) 17:28:58.74 ID:zkGAG4J7o

    少年「……それって、どういうこと?」

    フレンダ「……えっ、えっと、別にきいてておもしろいことじゃないから、」

    少年「いいから」

     逃げられない、と思った。
     疲れていたから、質問に返し過ぎた、とも後悔する。
     彼は自分のことを外人の転校生としか把握してなくて、それでも少なくとも、優しくしてくれた。手を差し伸ばしてくれた。
     それでも、この少年は日本人だ。きっと話を聞いたら周りに同調して、クラスの人達と同じように自分を虐めてくることだろう。
     フレンダはほんの少しばかりだけ考えた後に、やっぱり話すことにする。
     結局私は不幸なのだ。この少しだけ優しくしてくれた少年を今誤魔化してもどうせ同じになるだけだ、と思って。
     今希望を僅かながら抱いたところで結果的に絶望になるならなんの意味もない、と思って。

     それから、彼女は順番に話をする。
     自分が外国人の子供だということ。教えてもらった日本語は少しばかりおかしいこと。
     外国人が日本人を殺したこと。数日後に男子が『殺人民族』と自分を糾弾したこと。
     虐められ始めたこと。そして味方をしてくれた先生が刺されて、それを刺した人が外人だと噂されて更に激化したこと。
     それまでに自分は何も悪いことをした覚えはなく、つまり自分が不幸だから、と締めくくる。
     全部を話し終えて、フレンダはブランコを少しだけ漕いだ。
     夕焼けに燃える地面の影が揺れる。しかしその隣の影は全く揺るがなかった。

    少年「それは――間違ってるよ」

     少年の第一の返事はそれだった。
     やっぱり、とフレンダは嘲笑する。やはり自分が何もしていないということが間違いだったのか。
     日本人ではない両親の子に生まれ、金髪碧眼で、口調も少しおかしいだけのことが間違いだったのか。
     そんなことを考えたフレンダは、だが次の少年の言葉でその思考を途切れさせる。

    少年「フレンダは何も悪くない。悪いのはイジメをしてくる男子とか、味方をしてくれない女子だよ」


    70: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/29(日) 17:47:42.15 ID:zkGAG4J7o

    少年「だって、おかしいよ」

    少年「フレンダはただ普通に転入してきて、普通に過ごしたいだけなのに、ただ他の外国人が事件を起こしただけでフレンダを虐めるなんて」

    少年「それで『殺人民族』なんていう男子はおかしいし、そのおかしな事に気づかないでフレンダを助けようとしない他の人達もおかしい」

    少年「そもそももし仮にフレンダが悪いことをしたとしても、関係の無い他の人たちがフレンダを攻めること自体もおかしいのに」

    少年「……悪いことをした人に対して怒っていいのは、その悪いことに関係した人たちだけだと思う」

     少年はフレンダをじっと見つめて、そう言う。
     フレンダは眼を見開いて、彼のその眼を見た。
     少年の瞳は真っ直ぐだった。周りが間違ったことを正しいと言っても、間違ったことを間違ったと言える、芯のある眼だった。
     だとしても。少年一人がそう唱えても、世界は何もかわらない。
     寧ろ悪化するだけかもしれない。なにせ、きっと味方をしたその少年すらも巻き込まれてしまうのだから。

    フレンダ「……けっきょく、だめなわけよ。今更だし、もし言っても絶対に――」

    少年「――それでも」

     フレンダの諦めの言葉すらも遮って、彼は告げる。

    少年「それでも、何とかする。フレンダはもうぼろぼろだから。僕が、フレンダを守るから」

     無理だ、と少女は子供心ながらに思った。
     理由ならいくらでも用意できる。
     子供にとって数は絶対だ。喧嘩をしても勝ち目などあるわけもない。
     喧嘩を抜きにしても。小の声など、大の声に簡単に打ち消されてしまう。

     それでも。
     なんとかなるような気がした。
     この少年なら、なんとかしてしまうのではないか、と。そんな気が。

     だからフレンダは、その心にしたがって彼を頼ることにしたのだった。


    71: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/29(日) 18:07:53.76 ID:zkGAG4J7o

     結果からいうと、その直感は当たった。

     翌日にいつも通り用具場の隅に連れていかれようとした瞬間に少年は現れた。
     虐めていた男子は、彼の姿を見るなりフレンダを置いて逃げていった。
     その様子をみて唖然とするフレンダを見て、彼は笑ったのだ。

    少年『――ね?なんとかできたでしょ?』、と。

     その日から、彼とフレンダは友達になった。
     少年に他の友だちはいなかった。それでも直接的な虐めは滅多になく――寧ろ避けられていた。
     しかしたまに石を投げられていることを目撃したことがあった。が、少年は少女に何も言わず、また、少女も少年に何も言わなかった。

     その後にフレンダは少しばかり調べて、知った。
     少年が周りの人間から『疫病神』と呼ばれていることを。
     彼が近くに寄ってくると自分にまで不幸が訪れる。だから石を投げて『不幸』を遠ざけるのだと。
     全てに合点がいった。自分を虐めていた人たちが遠ざかったのは、近くに少年がいたからだ、と。

     しかし、少女は何も変わらず少年の傍に居た。
     彼女は少年によって救われたのだ。避けるようになる道理などあるわけもない。『疫病神』だなんて信じるわけもない。
     無論、それだけが理由ではない。
     彼女は願ったのだ。自分が彼の傍にいることで彼の救いになりたい――――と。
     例え、少年に石が投げられて、その流れ弾に自分があたったとしても。
     少女は既に、彼の傍にいることによって救われているのだから。


     ――その少女を救ったその少年の名は、上条当麻と言った。


    72: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/29(日) 18:09:19.13 ID:zkGAG4J7o

     過去編その1終わり。
     次は過去編その2、学園都市編ですです。


    80: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/03(金) 00:17:05.36 ID:OMcsj5e5o

     学園都市編とは言ったものの、まだ学園都市前編は消化不良だったのでそこに入るまでを。


    81: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/03(金) 00:17:42.18 ID:OMcsj5e5o

     幸福、とは言えずとも。
     上条とフレンダは彼らの間での平穏は手にしていたのだ。
     それはほんの些細なものであったが、少なくとも二人の間だけの幸せだった、といえたかもしれない。

    フレンダ「……それでね、けっきょく、あと半年もしたらね、私に妹か弟がうまれるんだよ」

    上条「へぇー、そうなんだ?いいなぁ」

    フレンダ「たぶん、とうまとも仲良くできるわけよ」

     とある冬のある日。
     午後も過ぎ、帰宅時間となった頃。
     その日の彼らもやはり他愛ない話をしていた。
     周りからは目も向けられない。自分たちに近寄らなければどうでもいいというように。
     クラスの大半が出ていくのを確認した後、フレンダは立ち上がる。

    フレンダ「……それじゃあ、かえろっか?」

    上条「うん、帰ろう」

     そうして二人は手を繋いだ。
     幸せだった、などと曖昧なものではなく、今この瞬間に彼らは紛れもなく幸せだったのだ。
     理不尽など今は忘れ去り、二人だけの世界だったのだから。

     ――『幸せ』。
     それは全世界の人々が共通して自らの身に訪れることを望むものであり。
     神が親愛なる人々へとばら蒔くという最大の奇跡であり。
     そしてまた。
     持ち主本人にすら未だその存在を明らかにしない『幻想殺し』が打ち消す対象となる最大の異能――


    82: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/03(金) 00:18:52.93 ID:OMcsj5e5o

     銀の刃が煌めく。
     突然で、衝撃で、恐怖で、全く動けない少女を、それは狙う。

    上条「フレンダっ!」

     そんな彼女の前に、少年は躍り出る。
     少女をその刃から守るように。
     少女を理不尽から遠ざけるように。

    上条「っ」

     地面に赤い斑模様が落ちる。
     夕焼けよりもまだ朱い、生命の糧ともいえる液状のモノ。
     つまり――血。
     その飛沫が飛んで、更に落ちて。
     一歩遅れて、ドサリ、と地面に崩れる。それが何か、などと。言うまでもない。

    フレンダ「ぁ…………」

     狂った声が近くに聞こえる。
     怒声、悲鳴が遠くに聞こえた。
     しかし少女の耳にはどちらも入らない。
     彼女が今認識出来るのは、目の前の少年が血溜まりに倒れたという事実のみ。

     少年が身動ぎをする。
     致命傷だ、動かないほうがいい。そう身体が訴えていたけれど、彼は確かめたかったのだ。
     少女に何も危害が及んでいないかを。
     自らの不幸に他人が巻き込まれていないかを。

    上条「――――」

     その口は言葉を紡ぐことなく、開かれたまま再び地へと伏す。
     死んだ、と思った。
     その幼い子どもにとってはトラウマに成り得ない事象を目の前に、少女の血の気は引き、視界が暗闇に染まる。


    83: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/03(金) 00:19:21.59 ID:OMcsj5e5o

     ■   □   ■


     それは通り魔だった。
     借金を背負い、どうにもならなくなった一人の男だった。
     そんな男がどうして通り魔になったのか想像は容易だ。
     つまるところ、嫉妬のようなものだったのだ。簡単にいえば逆恨みだったのだ。
     『何故自分はこんなにも苦しんでいるのに、ほかの奴はのうのうと幸福に生活しているのか――』
     不幸は不幸を呼ぶ。憎しみは連鎖する。
     彼は暫く前より、ばれないように少しずつ少しずつ人を襲っていた。
     死なさないように、苦しみを引き延ばすように。自らの苦しみを無理矢理に押し付けるかのように。

     後に本人の自白で判明したことだが。
     フレンダの味方をしてくれた先生を刺したのも、この人物だった。


     ――かくして、『幻想殺し』は不幸を呼び寄せた訳だ。


     その日から上条は幼稚園に出席しなくなった。
     いや出来なくなった、といったほうが正しい。
     当然だ。彼は刺された、斬られた。大人でも死ぬ人も少なくないのに、体の小さな子供にとってそれは致命傷になりえる。
     彼は病院での入院生活を余儀なくされた。

     フレンダは彼を見舞うことはできなかった。
     怖かったのだ。
     恐ろしかったのだ。
     不幸が、ではない。彼に責められることが。
     無論彼が彼女を責めるはずもない。寧ろ幼稚園児らしからぬ心遣いで『不幸に巻き込んでごめんなさい』と謝罪をすることだろう。

     それでも――
     フレンダ自身がきちんと反応できていればこんな事態が起こらなかったことに変わりはなく。
     故に彼女は不幸よりも何よりも、彼に見捨てられることを恐れた。
     同時に、上条に庇わせてしまった自らの不甲斐なさも責めた。


    84: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/03(金) 00:19:47.36 ID:OMcsj5e5o

     卒園式があった。
     上条はそこにもいなかった。
     フレンダは安堵したと同時に、また恐怖を覚えた。
     『もしかしたらこのままもう二度と当麻と会うことは出来ないのではないか』。
     『もしかしたら許さないと言われるどころか、自分の過ちを謝ることすらもできなくなるのではないか』。
     彼女はそれを振り払う。

     一月もしないうちに小学校が始まる。そこでなら、きっと直ぐにまた会える。
     そうしたら謝ろう。許されなくとも謝ろう。
     そして許されるまで償おう、と。

     しかしながら。
     そうして迎えた入学式、そこに見知った少年の姿は見えなかった。
     視界に入りさえすればわかる。見間違うはずもない。
     なのに、少年上条当麻はその場のどこにも存在しなかった。
     代わりに一人の男性がそこにいた。
     彼は身長の低いフレンダに目線を合わせて尋ねてきた。

    『――君が、フレンダちゃんかい?』

     上条刀夜と、男は名乗った。
     名前で直ぐに少年の父親だと推測できた。

    刀夜『当麻から聞いたよ。幼稚園の時に随分とよくしてくれたそうだね、ありがとう』

    フレンダ『……けっきょく、とうまは?とうまは、どこにいるわけ?』

     フレンダは彼の言葉を受け取らず、逆に言葉をぶつける。
     刀夜は少しばかり困ったような顔をしたが、数秒もまたないうちにフレンダの眼をしっかりと捉えて答える。

    刀夜『……当麻はね、学園都市に行ったんだ。もう、きっと暫くは帰って来れないだろう』

     一瞬、何を言われたのか理解ができなかった。
     当麻が学園都市に行った。暫くは帰って来られない。
     じっくり数十秒ほど時間をかけて理解し、同時にがん、と金槌で頭を撃たれたような衝撃が脳内を巡った。
     彼女にとって、彼がここにいないという事実がそれほどまでに衝撃的だったのだ。


    85: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/03(金) 00:23:15.06 ID:OMcsj5e5o

    刀夜『当麻は、君に会いたがっていたよ。言いたいこともいえなかったって』

    刀夜『仲良くしてくれてありがとう、それと巻き込んじゃってごめんなさい、って』

    刀夜『君の事を、最後の最後まで気にかけていたよ』

     二撃目。
     やはり当然のように、上条当麻はフレンダを庇ったことなど気にしておらず、寧ろ自分の事情に巻き込んだと思っていたようだ。
     フレンダは頭を抱えた。
     きっと恐らく、最後まで、学園都市に行く限界まで彼はフレンダのことを待っていた。
     それでも彼はあれ以来一度も会いにこない自分について恨み言を思わずに、言葉そのままのことを思ったのではないかと思う。

     自分は馬鹿だった。
     勝手に恐れて、勝手に怖がって。
     そして言いたいことも言えずに、少年は遠くに行ってしまった。
     どうしよう、どうすればいい?このまま会えなくなるなどと、絶対にイヤだ。
     学園都市の話は外にまで届いている。何でも学生に超能力を開発していてその技術を外に出さない為に滅多に学生は外に出れないのだとか。
     自分がこのままここにいるのなら、もう上条と会うことは不可能に等しい。

     そう。
     自分がこのままここにいるのなら。

    フレンダ「……学園都市に」

     そうだ、元よりそのつもりだったではないか。
     例え許されなくとも彼の傍に居ようとしていたのだ、許されていると知っていて傍にいない道理はない。

     いつの間にか刀夜は消えていた。
     ショックを受けている子供を励ますよりは、そっとしておいたほうがいいと判断したのだろう。
     自分が息子を学園都市に送るのを決めたと決断したという後ろめたさもあったのだろうが。
     しかし、フレンダには好都合だった。他に気を配るものがなければ、考えることに集中できるから。

     問題と言えば一つだけ、自らの両親の件について。
     けれど――きっとそちらも心配はないだろう。
     なぜならつい先日、妹が、『フレメア=セイヴェルン』が生まれたばかりだから。
     フレンダの家は決して裕福ではない。両親が共働きしてようやく一人前に過ごせる程度だ。
     それならば一人増えたことによって仕事の負担を増やすよりも学園都市に送り自給自足の生活を送らせる方がいい。
     それでも反対はするかもしれない。その時は両親をどう説得しようかと幼い小学生に成り立ての頭を回転させながら思う。

    フレンダ「――まっててね、とうま」

     追いかけて、傍に寄り添って。
     そして、その時には、きっと言って見せよう。
     『ごめんね』と、『ありがとう』と。
     そして。


     『好きだよ』、と――――――


    86: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/03(金) 00:25:12.64 ID:OMcsj5e5o

     さて、ここで本当に幼児編は終了です。
     次は学園都市――小学校後半から中学入学あたりの時期を予定しています。


    97: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:05:18.26 ID:5sY57bXOo

     桜が咲き誇っている。
     三月といえばこの花の季節である。勿論学園都市では他の季節でも簡単に咲かすことは可能だが、それでも気分や雰囲気を考えるとこの季節が一番ぴったりに思える。
     そしてその研究所であり学校でもあるその建物の敷地内に一本だけある桜の下に彼女らは居た。

    女性「――卒業おめでとう」

     彼女は薄らと微笑みを浮かべてそう言う。
     それは無論、フレンダだけに告げた訳ではなく少女の隣に立つ級友にも向けられていた。
     その数は十六名と少ないものだったが、こんな研究室の一端を教室へと仕立てた学校ともいえないクラスにおいてそれは十二分に多い方だろう。
     笑みを浮かべながらも僅かに瞳が潤んでいる彼女に対して周りの男子女子は戸惑いを見せた。
     彼女はいつも無表情だったから。叱る時は子女らにとっては鬼のようで、褒める時も淡々としたものだったから。
     『鉄面皮』と他の研究者――もとい先生方から呼ばれていることすらよく耳にしていたから。

    フレンダ「結局さ、先生」

     どよめく周囲を押しのけて、その少女は一歩前に出た。
     来月より入学する中学の制服――卒業式は皆それで出席した――と、被ったベレー帽を軽く正す。
     そして六年間自分たちを見守ってくれた恩師に対して、笑いかける。

    フレンダ「ありがとうございましたって訳よ。暇が出来たらまた遊びにでも来るから、待っててほしいって訳よ」

     その言葉に『先生』は面食らったような顔をして。
     少女以外の周りの生徒も顔を見合わせて、彼女に揃って同調した。
     それに先生の感涙は決壊する。
     自分は決していい先生とは呼べなかった。自分は研究者で、どうして先生をしなければならなかったのか不満だらけだった。
     それなのに、生徒はちゃんと自分を慕ってくれていた。
     それが堪らなくうれしくて、うれしくて――――

     と、その瞬間。
     ぼそっと、少女の呟いた声が聞こえた。

    フレンダ「――ま、結局遊びと言うのは体で、ただご飯とか集りに行くだけな訳だけど」


    98: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:06:13.24 ID:5sY57bXOo

    先生「フゥゥゥウウウレェェェエエエエエンンンンンンンンンダァァアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」

     豹変。
     フレンダは言うやいなや、既に彼女に背を向けていた。
     先生は怒りの形相をして叫んだ少女の名を再び叫ぶ。

    先生「まてぇぇええええええええええええフレンダァァアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」

    フレンダ「結局待つわけがないって訳よっ!!」

     挑発し、逃げ出した少女を彼女は必死の形相で追いかける。
     インドアな白衣を着た研究者とは思えないスピードだ。
     それに対して、フレンダも逃げる、逃げる、逃げる。
     小学生――否、もう中学生にはなるが、その年頃の女子にしては高い身体能力で追手を捲る。

     しかしそれでも子供だ、いくら運動不足の大人とは言えども怒っている者が相手ならば分が悪い。
     一般の学校ほど広くはない敷地、というのも簡単に追い詰められる要因となる。
     ふっ、と悪戯好きな金髪の少女を追い詰めて勝利の笑みを浮かべた。
     が、しかし。

    先生「なん――――!?」

     踏み込んだ地面がいつの間にか泥になっており、ぬかるんで、ずるん、と足を滑らせる。
     その結果は簡単に想像できる。
     彼女の着ていた真っ白な白衣は泥の――濃い茶色に染まる。

    少年「やりっ!」

     遠くで少年の声が聞こえた。ガッツポーズをしているであろうことは容易に想像がつく。
     恐らく――彼の能力は土を操る能力か、水を操る能力なのだろう。それによって乾いていた地面を泥にしたのだ。
     ナイス!とフレンダが彼に叫んで、再び先生から逃げてゆく。

    先生「貴様らァ――――――――――――――――ッ!!!!」

     怒号と同時に、フレンダだけでなく周りの子供たちも四方八方へと散る。
     つい先ほどの三流お涙ちょうだいシーンはどこへやら、卒業鬼ごっこが始まりのゴングを鳴らす。
     ……捕まれば人生からの卒業が待っていそうな命がけの正しく『鬼ごっこ』だが。

     それでも。
     彼女らは全くもって、楽しそうだった。
     ――ここは、第十三学区にある意識能力開発研究所。同時に、『置き去り』の子供達を引き取っている施設の一つでもあった。


    99: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:06:47.52 ID:5sY57bXOo

     六年前――――
     フレンダ=セイヴェルンは上条当麻を追って学園都市へとやってきた。
     いろいろと手続きがあり、都市内に入ったのは五月の頃。入学シーズンはとっくの昔にすぎているが、学園都市においてそれは関係ない。
     彼女はすごい、と思った。
     道端には無人の掃除機が縦横無尽に走り回り、バスや電車も全て全自動。
     果てには高く高く立ち並ぶビル。これの殆ど全てが学生の為にあるのだから、驚きだった。
     しかし。
     どこの学校に入れることにするか――その期間の終わりには、もっと衝撃的な事実が待っていた。

     両親が蒸発した。

     子供ながらに、何を言っているんだろう、と思った。
     両親は快く学園都市へ送ってくれて、辛かったらいつでも戻ってきてもいい、とも言っていたというのに。
     これを代わりだと思え、と、両親が使っているのと同型のベレー帽をプレゼントしてくれたというのに。
     そんな子供に、どうして『見捨てられた』と思うことができようか。

     両親と連絡が取れないのは自立できるようになる年頃の中学以降ならまだしも、小学生にとっては致命的だ。
     なにせ、その身の保証が何もないのだから。
     故に彼女はまた、ある種学園都市からも見捨てられることになったのだ。

     かくして、フレンダは『置き去り』となったわけだ。
     しかし――そんな彼女でも、同じ境遇の人間内では比較的幸運だったといえるだろう。
     フレンダが拾われた研究所は、先に挙げた意識能力開発研究所。
     名前からは察しにくいが、意識改革によって一度発現した能力を変えることができるか、ということをテーマにした研究所だ。
     悪質な研究所ならば『置き去り』などただのモルモットとしか思っておらず、脳を簡単に解剖したり、無茶な薬を投与して壊れるまで実験してみたりと非人道的な事をとる。
     だが、意識能力開発研究所は善良な研究所だった。
     能力者相手に実験はするが、それはちゃんとした自我を持っている高校生前後の人たちを対象に確認、契約をとってしているものであり、幼い子供に無理矢理などということは一切ない。
     それでも子供を拾っているのはただの慈善事業。蛇の道は蛇――というわけではないが、上のような研究所をよく聞くから少しでも子供を救うため、という思いかららしい。
     よって、彼女は知る由もないが、『置き去り』の中では不幸中の幸い、だったのだ。


    101: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:34:01.65 ID:5sY57bXOo

     しかしながら、フレンダにとっては不幸の連続でしかなかった。
     十三学区には幼稚園や小学校が多い。だが、その自分と同じ年代の小学生を眺めていても、あの少年の顔は全く見つからなかったから。
     彼女は彼に会いに、この学園都市へとやってきたというのに、これを一番の不幸と言わずなんというだろうか。

     十三学区内にいないのなら、他の学区――特に第七学区が怪しいだろう。
     だが、学園都市は広く、一つの学区ですら小学生の足ならまともに出ることは難しい。
     頑張れば不可能ではないが、お金もかかる上に『置き去り』だからあまり無茶をいえない、というのが本音だったのだ。

     しかし、だからといって、フレンダはただのうのうと六年間を研究所で過ごしていた――という訳ではない。
     迷惑をかけない最小限の範囲で、彼女は活動をしていた。

    フレンダ「……此処に来るのも、もう最後になる訳かなぁ」

     そこは小さな詰所。
     扉の前には硝子盤一枚が貼ってあり、彼女はそれに右手を押し当てた。
     一秒も満たないうちに『ピー』と電子音が鳴って、がちゃん、と鍵が開いた音がする。
     その扉を押し開け、フレンダは声を上げた。

    フレンダ「こんにちはー」

     その声に椅子を傾けて振り返るのは眼鏡を掛けた女性だった。フレンダの姿を見て驚いたような表情をする。
     その見た目通りに判断するなら、大学生ぐらいではないかと思える。
     が、彼女は未だ高校生だ。大人びて見える、というのは美点ではあるが悪く言えば老けて見えるということでもあり、度々彼女の頭を悩ませていた。

    「あら、どうしたのフレンダちゃん?もう終わりじゃなかったっけ」

    フレンダ「結局ここにはもうこなくなるだろうから、遊びにきたって訳よ!」

    「詰所は遊び場じゃないんだけどね。紅茶でも飲む?」

     くすくす、と彼女は笑いながら、フレンダにそう尋ねてきた。
     フレンダはそれに頷き返し、我が物顔でソファーへと身を任せ、そこに丁度置いてあった『風紀委員』と書かれた腕章を軽く撫でた。
     『風紀委員』第一一三支部。それがここの詰所の名称だった。


    102: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:57:16.73 ID:5sY57bXOo

     フレンダはここの先輩に気に入られていて、未来の某『超電磁砲』の中学生の如くたまに遊びに来ている――
     ――訳ではなく、彼女も列記とした『風紀委員』の一員なのだ。
     最も、中学に移ると同時にこの支部より移転という形になり、ここの支部での仕事は既にまわされてこないのだが。

     彼女が『風紀委員』に入った理由はたった一つだけだ。
     上条当麻を探すこと、そして会うこと。
     無論のことながら書類上は適当にでっち上げたが、それ以外に彼女がここに入る理由などない。
     何故探すのに『風紀委員』……とも思うかもしれないが、それにも彼女なりの理論がある。

     それは単純解明、上条当麻の性質に寄るもの。
     彼は基本的に、間違ったこと――特に理不尽な不幸――は見逃さない性格である。
     ならば、そういった活動をしやすい『風紀委員』にもしかしたら入っているのではないか、と思ったが故の行動だった。
     万が一いなくとも、他の電子端末から調べて回るより『風紀委員』の電子端末から調べた方がより高いランクの情報を手に入れられる。
     結果からいうと後者であり、それでも全くもって彼の姿すら見つけられなくなった。
     それでも探すために努力をしているという実感があり、見つけられないことに対して心を折らずにも済んだ、というメリットもあったし、結果オーライという奴だろう。
     ……結局、目的は果たせていないのだが。

    「フレンダちゃん、確か第七学区の学校だっけ?」

     フレンダの前に座って尋ねてくる先輩に対して、フレンダはスティックシュガーをニ本まるまるいれてかき混ぜながら答える。

    フレンダ「うん。でも結局、有名な学校には入れなかったって訳よ」

    「フレンダちゃんの能力なら常盤台でもはいれそうなモノだけどねぇ」

    フレンダ「一応見学には行ったけど、私にはあわなさそうだったから……」

     一番の理由は『学び舎の園』だから、だが。
     ようやく砂糖が全部溶けきったことを確認して紅茶に口を付ける。
     それでもまだ苦い。否、甘いのだが苦い。簡単に行ってしまえば口に合わない、と言える。
     だが頼んだのは自分なわけだから、と意志を固めて口に流し込もうとした瞬間、再び入り口の鍵が開いた音が響いた。


    103: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 23:18:44.29 ID:5sY57bXOo

     入ってきたのはショートヘアーの活発そうな少女。勿論腕には腕章が付いている。
     その見た目通り、元気の良いよく通る声でハキハキと言う。

    「ちわーっ、新聞の集金でーす」

    「お婆さん、もうあげたでしょ」

    「痴呆じゃないやい!というかお婆さんが回収しにくる新聞集金ってどんなさ!?」

     フレンダは手の中でカップを転がしつつ、それを見て僅かに微笑む。
     これはもはやこの支部の恒例コントのようなものだ。他にもメンバーはいるが、息のぴったり合うのはこの二人ぐらいのものだろう。
     フレンダも最初はいきなり始まったそれに驚いたが、今ではちょっと笑えるほどに慣れていた。
     それも今日で見納めかと思うと少しながら寂しくなる。だからこその微笑み。
     そんなシンミリとしたフレンダを入ってきた少女はようやく視界に捉えて、同時にあれ?というような顔をした。

    「……あれ、フレンダ?どうしてここに?」

    「フレンダちゃん、今度から第七に行くから、遊びに来たんだって」

    「いや、そうじゃなくて――さっき表の道路にいたじゃん」

    フレンダ「?」

     フレンダはぽかん、と呆けて彼女を見つめた。
     それに答えるように『いや、だからさ』、と彼女は紡ぐ。

    「さっき、表の道路で歩いてたじゃん。金髪にベレー帽だったからフレンダに間違いないって思ったんだけど……おっかしいなぁ」

    「見間違えじゃないの?」

    「いやいや、絶対そうだって!この2.0の眼が確認した!」


    104: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 23:34:54.01 ID:5sY57bXOo

     とくん、と。
     なんとなくフレンダの心が騒いだ。
     彼女は紅茶を置いて立ち上がり、素早く支部備え付けのパソコンの前へと移動する。

    フレンダ「少し借りるわけよ」

    「え、うん構わないけど……」

     返事が帰ってくる前にフレンダはパソコンを起動し、素早くショートカットキーを叩く。
     画面に広がるのは学区内にあるありとあらゆるカメラ。どれもリアルタイムで映っている映像だ。
     それを一瞥し、その次の瞬間には別のカメラの映像へと切り替わっている。
     幾度も、幾度も、幾度も、幾度も、幾度も。
     キーを叩くその指は休まれない。それは本当にこれから中一になる年か、と思うほどの速さで延々と叩かれ続ける。

    フレンダ「居た」

     短く呟いて、それ除く画面を全て消す。
     そして最大化して更にカメラの一部をズームしながらその動きを捉える。

    「お、この子だよこの子!でも、フレンダじゃなかったのかぁ……」

    「そうみたいだけど、それにしてもそっくりだね」

     フレンダの後ろから声が聞こえた。
     けれど彼女にその声は届かない。

     ――金髪とベレー帽。先ほど言われた通りの特徴。
     確かに似ている。似すぎているぐらいに、似ている。
     六年前の自分に。
     六歳の頃の自分に。


    105: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 23:46:49.59 ID:5sY57bXOo

    フレンダ(まさか)

     思い、否定する。
     そんな事ある訳がないと思った。
     そんな事を、彼が、彼女がする訳ないと思った。

     その瞳が偶然にもこちらを向いた。
     透き通った蒼い瞳。
     恐らくは今まで人を疑うことのなかっただろう純粋な瞳。
     そこだけが、自分と違っていた。

     しかし金髪だ、
     しかし蒼い眼だ、
     しかしベレー帽だ。

     フレンダは既に知っている。
     そんな事をするわけがないと思いつつも、既に彼らはそれを行ったと。
     即ち、六年前の自分に対して。
     即ち、六歳の自分に対して。
     自分の両親が自分を見捨てたということを知っている。

     間違いは恐らくない。
     彼らは一度目為らず、二度目もやってのけたのだ。
     『置き去り』を。
     裏切りを。
     奇しくも六年前の自分に対して行ったように。

     六歳のフレメア=セイヴェルンを学園都市に売ったのだ。


    115: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/11(土) 22:04:02.45 ID:sYU2qMZNo

     走る。
     走る、走る、走る。
     フレンダ=セイヴェルンは一つの地図を眼にしながら歩道を走っていた。
     一定の呼吸は崩れることなく、たまに口内に溜まった唾を飲み込む音も混じらせつつ、彼女は駆ける。

     こんなに必死になるのはいつぶりの話だろう。
     多分、上条当麻が自分に会わずに学園都市に行ってしまったとき。
     大切な、好きな人を追いかける時以外にこれほどまで焦ることなどないと思っていた。

    フレンダ「フレメア……ッ」

     まさか、生まれて数日の時以来会っていない妹にコレほど必死になるなんて。
     別に放って置いたって構わないだろうに。
     フレンダは心で自嘲する。

    フレンダ(結局、私ってバカな訳ね)

     多分、彼女は妹に自分の影を見た。
     同じ金髪、同じ碧眼、同じベレー帽。
     ただ違うのは純粋に澄んでいるその瞳。
     放っておけばいい。そして絶望を知らしめさせ、自分と近づけばいい。
     なのにこうして走っているということは妹に自分と同じ思いをさせたくないのだろう。
     その妹の不幸を自分も引きとってやろうと思ったからなのだろう。
     純粋な眼をそのままにしてあげたかったからなのだろう。
     彼女が自分の分身のようにみえてしまったから。
     ただ血が繋がっただけの、全くの別人だというのに。

     故に自分を自嘲する。
     『私は救いようのないバカだ』、と。

     繰り返そう。
     少女は決して不幸の呑底という訳ではなかった。
     『置き去り』の時点で幸福とは呼べずとも、その中では幸運な部類だったのだ。
     しかしながら。
     それはあくまで彼女自身のことについて、だ。

     その不幸中の幸いに妹は含まれなかった――ただそれだけの話。


    116: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/11(土) 22:24:19.05 ID:sYU2qMZNo

     ■   □   ■


     ぽきぽきぽき、と指の関節が鳴る。
     その数は合計九つ。

    フレンダ「五回ぐらいならいいのに、一つだけ鳴らないと無性にイライラするって訳よ」

     その代わりに首を軽く捻って音を立てた。
     彼女が今いるのは十三学区内の一つのホテル、その一室。
     別段特別なものはない。ベッドがあり、クローゼットがあり、テレビがあり、バスルームがあり……基本的なホテルといった様子だ。
     本日付けで第七学区内の学寮に引越しだったのだが、支部で見た妹の姿が忘れられずに少し調べてみることにしたのだった。
     別にそんなことをしなくともよかったのだが、なんとなく胸騒ぎがしたから。

     彼女の先程の行動は準備運動のようなものだ。緊張を解すためにいつも行う動作。
     目の前にはパソコン。普通のホテルの一室であるこの部屋には勿論、LAN接続の環境も整っている。
     柄にもなく緊張している、とフレンダは思った。
     彼女が今からしようとしていることはただ妹が、フレメアが入った施設を調べよう、とかそういうことではない。
     表に出ている情報を信じることは愚行だ。『風紀委員』に入って、それは深く学べている。
     だからこれからするのは――

    フレンダ(侵入)

     クラッキング行為。
     『風紀委員』の支部ならば端末ランクももう少し上位でもしかしたら目的の情報が手に入るかもしれないが。
     如何せん彼女は引越しと同時に一一三支部の人間ではないし、それにもしかしたら『問題』も発生する危険性があるから。
     そうなればなにより、あの先輩方を巻き込むわけにはいかないだろう。
     だから法を犯す。安直だとは思うが、コレ以外に方法があるとは思えない。
     眼を閉じ、深く深呼吸をして――身体中全ての息を吐いて、そして瞳を開く。

    フレンダ「それじゃ――始めますか」


    117: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/11(土) 22:56:14.13 ID:sYU2qMZNo

     『はじめてのクラッキング』は思ったよりもスムーズにいった。
     全く気付かれることなく『書庫』にアクセスできたのは本当に運がよかったとしか思えない。

    フレンダ(慣れ親しんだセキュリティ、っていうのも理由の一つな気がするケド)

     経路は隅から隅まで知っている一一三支部より。
     それ以外のところからは侵入初心者な自分には侵入できる気がしなかった。
     ……とはいえ学園都市の構築した基本防壁をすり抜けるのは賞賛に値すべきだろう。
     そこまでいって、フレンダは改めて安堵の息を吐く。
     しかし、安心するにはまだ早い。後を残さずバレずに引き返すまでがクラッキングだ。

    フレンダ「えっ、と……少し遠回りになるけど、結局同時進行ならなんとかいける……かな」

     第一に探すのはフレメアの個人情報。
     『置き去り』ならば今現在どこに引き取られたか、というのを知る必要がある。
     きっと今年度の新入生は比較的新しいところに置かれているだろう、と目星をつける。
     同時に、十三学区内の裏で何かしていそうな怪しい研究所のリストアップ。
     第一の情報に合致した研究所のデータを見ればそれで終わりだ。

     しかし、普通の人ならば同時にそんなことはできないだろう。
     『風紀委員』だから、というのも大して理由にはならない。
     『風紀委員』の研修には情報処理の項目もあるにはあるが、それで求められるのはあくまで一般的な情報処理だから。勿論中には出来る人もいるにはいるが。
     それなのにどうして、まだ中学生になるばかりの女の子がそんな事を出来るのか――

    フレンダ「見っけ」

     間もなく瞳に映るのは真正面から見た妹の顔写真と、そのプロフィール。
     見ればみるほど自分に似ている。思わずそんな妹に微笑を浮かべてしまう。
     しかし魅入っている暇などない。研究所名を記入し、短く『check』のコマンドを打ち込み、リストと照合する。

     一つの研究所の名が、赤色に染まった。


    118: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/11(土) 23:27:52.00 ID:sYU2qMZNo

     研究所名は――いや、そんなモノなどフレンダにはどうでもいい。
     ただ一つ重要なことは、妹が自分とは違って『悪い』研究所に拾われてしまったことだ。
     運がいいのか悪いのか、その少女を使って近日に行う実験の日時まで『書庫』には記されていた。

    フレンダ「……はぁーっ」

     再び息を吐く。
     これは先程の安堵の溜息とは違い、どうするべきか、という悩みを含んだ物だ。

     ――見捨ててしまえばいい。
     悪魔が耳元で囁いたような気がした。

     わざわざ自分から首をつっこむ必要などない。藪をつついて蛇がでる、という諺もある。
     毛も生えていない頃しかしらない妹なんて、助ける必要などない。
     あんな純粋な心なんか汚れてしまえばいいのだ。
     自分と違って苦労などしていないだろう眼など。
     自分と違って不幸など背負っていないだろう身体など。

     それでもフレンダは迷う。
     天使は現れない。天使と悪魔は基本的にワンセットであり、道に迷った人々を導くというのに。
     この場合の天使と悪魔とはその人の良心と悪の対比であることが多い。
     正しい道に導こうとする天使と、欲望に素直になれと堕落を誘う悪魔。
     それの天使が現れないということは――短絡的だが彼女に良心なんてものが存在しない、ということになる。

     だが、しかし。
     それでも、フレンダは迷う。
     それは彼女自身が良心だから――などという理屈の通らない理由ではない。
     彼女は考えるのだ。

     『もしも』。
     『もしも上条ならどうするか』と。

     彼女にとっては上条当麻こそが最重要なことであるから。
     間違えてしまったら顔見せ出来ないとまで考えるから。

     故に彼女は。
     自分を馬鹿だ馬鹿だと思いつつも。
     ホテルを飛び出して、完全下校時刻を過ぎた学園都市を走る――


    120: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/12(日) 00:10:04.93 ID:UFg6mT29o

    フレンダ(あーもう、本当バカって訳よ!)

     上条が彼女にとって全て。それでも、悪態を吐かずにはいられない。
     彼女が過去の少年に深く依存しているとはいえ、それでも決定事項にはならないからだ。
     全てだとしても全てではない――そんな複雑な女の子に成長しているから。

     それでもきっと、妹を助けようと考えたのはあの時になくなったハズの良心も訴えていただろうから。
     『自分』を、妹を助けてやれと。
     『自分』を、フレメアを救ってやれと。
     上条がフレンダに手を差し伸べたように、上条に触れた自分であの時の自分によく似た妹を救って欲しいと。
     あの時引きとってもらった不幸を、今こそ引きとってやって欲しいと。

     そうして――多分、恐らく。
     彼女の最後の良心は妹へと集約した。
     その結果、自分が不幸を貰うと分かっていても彼女は走ることになったのだ。
     だから彼女は悪態を吐く。
     自分の最後の道を示した良心に向けて、只管に。


     ■   □   ■


     辿り着いたのはそこそこに大きい施設だった。
     これ程に大きいなら、確かにこういった実験もできるだろう、とフレンダは手の中の紙をクシャリと握りしめた。

    フレンダ「……脳波を同調させて繋げ、一つの能力に向けて複数の脳が共同で演算処理を行い『超能力者』また『絶対能力者』を目指す、ね」

     自分で言ってて軽く敵意が湧いてくる。
     脳波を同調させる――などと簡単に書いているけれど、実際にはそんなうまくいくはずがない。
     これより未来に同じようなことをする人物がいる。が、今より更に進んでいるその時期でさえ脳波を同調した人間はあまりの負荷に気を失っているのだ。
     フレンダはそれを当然のことながら知らないが、そんなことが起きることぐらいは理解できる。
     学園都市にきたばかりの『置き去り』を引きとって、それで直ぐにそんな危険度の高い実験をするなんて白々しいにも程がある。
     本当に、使い捨て程度にしか考えていない人のやり方だ。


    121: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/12(日) 00:31:59.29 ID:UFg6mT29o

     そんなところにいたらきっと、心が濁る程度じゃ済まされなくなる可能性が高い。
     だから今直ぐにでも助けだして保護しなければならない。
     の、だが……

    フレンダ「……結局、走ってきた訳だけど……どうしよう」

     肝心の侵入方法がわからない。
     人を監禁しても大丈夫そうな施設だ、見回りと警備ロボットは当然の如くあるだろう。他にも監視カメラだって。
     早速の手詰まり。
     上条ならきっと見つかることすら厭わずに突っ込んでいくだろうが……こちらにはその後も逃げまわるという目的があるのだ、そうもいかない。

    フレンダ「……監視カメラはマップ確認で何とかできるとしても、問題はロボットと見回りって訳よ」

     フレンダの金髪は目立つ。
     一度捉えられてしまえば直ぐに割り出されてしまうだろう。
     ……それならば。

    フレンダ「結局見られなければいい……ってだからそれが問題な……」

     訳、といいかけて閃く。
     吟味してみる。問題はないわけではない。しかし金髪を見られる、という心配はなくなる。
     完璧ではないけれど、試す価値はきっとある。
     ぱん、と自らの頬を両手で叩く。

    フレンダ「……さっさと行って、終わらせるって訳よ!」

     意気込んで、早速目の前に立ちはだかる鉄の扉の攻略にかかった。


    122: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/12(日) 00:48:50.33 ID:UFg6mT29o

     音をなるべく立てないようにして通路を走る。
     ジグザグに動くのは監視カメラに捉えられないため。
     さっきパソコンから手に入れた設計データでどのルートを通れば映らないのかは確認済みだ。
     しかし、それよりの問題は――

    フレンダ(っと、来た!)

     足音。
     フレンダが素早く柱の陰に隠れると同時に、ライトがその場所を駆け抜けた。

    「……今何か居たような気がしたんだけどなぁ……気のせいか?」

     そして欠伸を一つ。
     フレンダはそれを聞きながら、事前に用意しておいたモノをとりだした。

    フレンダ(……三、ニ、一……零!)

     足音で距離を見計らいつつ、ぽーん、とそれを放り投げる。

    「なんだ!?」

     突然通路から飛び出してきたそれに見回りは驚いてライトを向けた。
     フレンダの手の中にあるパソコンがきらりと光る。それに対応し、彼女はただ反射でエンターキーを押した。

     ――見回りが一瞬だけ捉えたのは。
     よくあるクマの形をしたぬいぐるみ――テディベアと。
     その額についた携帯電話。

     瞬間。
     彼の網膜は一瞬にしてクマの形だけを残し、真っ白に染まる。


    123: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/12(日) 01:21:02.45 ID:UFg6mT29o

    フレンダ「っしゃぁ!」

     思わず声をあげてしまう。が、見回りの悲鳴にかき消された。
     暗闇の中みると、彼は持っていた懐中電灯を取り落とし、地面を転げまわっていた。

    フレンダ(結局、悪戯用に強力にしたライトがこんなところで役に立つなんて思わなかった訳よ)

     フレンダがしたのは至って単純。
     先ほど彼女が思ったように、懐中電灯以上に強力にした携帯電話のライトで相手の眼を潰しただけのこと。

     暗順応、という働きがある。
     暗闇の中で眼が慣れてくる、というが暗闇のなかで光を捉えるため、光を感じる物質であるロドプシンという物質が増えてくるから暗い場所でも徐々に見えてくるようになる。その働きを暗順応という。
     同じように。明順応という働きもある。
     言葉通り暗順応の逆の言葉であり、光に慣れる、とも言える。
     だがこの二つの順応には大きな差がある。
     暗順応が完全に施行されるまで数十分かかることに対し、明順応はたかだか数十秒で終わるのだ。
     それは仕組みの差。暗順応に必要なロドプシンは光のあるところだと死滅し、再生するのに時間がかかってしまうが、明順応にそういった物質は必要がなく、瞳孔の大きさを調節するだけで済むからである。
     そして、暗順応している最中に強烈な光を貰うと明順応になろうとし、明順応が完了してから暗順応になるために目が見えなくなる。
     所謂『目眩まし』状態。
     フレンダはそれを利用したのだ。

    フレンダ(結局、姿を見られていなければ、問題はないって訳よ!)

     初めから見つからない、ということは不可能。
     ならば最初から見つかることを覚悟しつつ、しかし姿を見られなければ犯人確定は難しくなる。
     警察だって犯人がいることが分かっていても姿形がどんな様なのかわからなければ手のだしようがない。同じことだ。

    「ぐ、うぅうううううううううううっ!」

     とり出されるのは無線機。
     フレンダは影から飛び出し、それを力一杯蹴り飛ばす。
     見つかったら後は駆け足だ。他の警備の方への連絡を防ぐことを最優先にして、それ以外の行動は無視する。

    フレンダ「Good Bye」

     地面に捨てられた懐中電灯、テディベアを回収して、フレンダはそれだけ告げる。
     そして恐らく子供達がいるであろう場所へと向けて最早周りのことなどスルーして走りだす。


    129: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/16(木) 21:02:17.75 ID:apqhtTJQo

     悲鳴を聞きつけて付近に居た警備ロボットや他の見張りが集まってくる。その中には警備ロボットもあった。
     それをニアミスで回避しつつ、先を急ぐ。
     計画通り――といえばその通りでもある。
     一定のエリアの警備員がひとつの場所に集まれば、そのエリアの他の場所はガラ空きとなって移動が容易くなるのだから。
     監視カメラの方でもきっと命じていることだろう。ならば全ての警備が集まってくるのは時間の問題。

    フレンダ「っと」

     キラッ、と手元で懐中電灯が光る。
     天井に取り付けられている監視カメラに光を数秒浴びせ、それが消える時には既にカメラのある場所を抜けている。
     いくら周りを気にしないとはいっても、姿を見られては本末転倒だ。だから強い光を浴びせる。
     普通の懐中電灯ならそこだけが光ることになり駄目だっただろうが、流石は学園都市製、全開を出せば持っているこちらですら多少眩く感じる。
     それは監視室ではその画面だけ明るく光ることになって位置を知らせることにはなるが既に見つかってしまっている以上関係ない。
     その気になればフェイク情報を入れて相手を撹乱ことも不可能ではないが、それをしてしまうと外部からの応援が来てしまう可能性がある。
     一瞬警備の中枢を押さえてしまおうか、とも思ったがそれは頭の隅に追いやる。
     余計なリスクを犯す必要などない。必要なのは何よりも早く救い出し、何よりも早く逃げ出すこと。

    フレンダ「えっと……確かここがこうなってて、こうだから……次は階段って訳ね」

     しかし足を掛けた瞬間に上から足音が聞こえてくる。
     恐らくは監視室から命令されて来たのだろう、急いで階段の影に隠れて通りすぎるのを待つ……としたいが。

    フレンダ(先回りして来たのにそこで鉢合わせに為らなくて、けど他のルートも通ってないってなったら隠れてることがバレバレって訳よ)

     ならばどうするか。
     目前に迫る選択に、フレンダはリスクとメリットを素早く計算する。


    130: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/16(木) 21:18:22.38 ID:apqhtTJQo

    フレンダ(結局、ここで軽く交わしてもきっとまた前から来る。そうしたら今度はこの交わしたコイツも後ろから来るってことになる訳だから)

     うっすらと暗闇に影が見えた瞬間。
     フレンダは影から飛び出し、こちらに振り向かれる前に背中に飛びついた。

    「うぉっ!?」

     僅かな驚きの声。
     そんな声を聞きながらも、フレンダは躊躇なくその首に腕を回した。
     対能力者用近距離鎮圧術。無論のことながら能力がない相手にも通用はする。
     『風紀委員』の活動で本来ならば関節などを決めて投降を願う言葉を送るところなのだが、それができそうにない場合に置いてこの術が用いられる。

    フレンダ「――落ちろ」

     軽く冷や汗を流しながら、耳元で囁く。
     詰まるところ、絞め技。
     子供とはいえども、訓練を積んだ者の完全に決まった技は簡単に逃れることなどできやしない。
     その男も数秒もがいたが、やはり唯の見張りということか、何をするでもなく――落ちた。
     ガクン、と項垂れたそれは一見死んだようにも見えるが無論気絶をしているだけだ。何もしなければ、数分は時間を稼ぐことができる。

    フレンダ「っ、余計な時間をくった訳よ……!」

     已むを得なかったとは言えタイムロスはタイムロスだ。
     フレンダの動きで目的が何かを察知されているのなら手詰まりまであと少し、といったところだろうか。
     これ以上の時間のロスは許されない。

     だと、いうのに。
     背後から聞こえるたのは、警備ロボットの警告音。
     けたたましい程にしつこい、異常事態を知らせるブザーの音。


    131: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/16(木) 21:37:59.67 ID:apqhtTJQo

    フレンダ「やっば――――っ!」

     人間相手ならなんとかなる。
     動かない監視カメラも回避できる。
     が、しかし。警備ロボットとなれば話は全く別の方向になる。
     道路で活動している掃除ロボットと外見こそ似ているのに中身は全くの別物で、時にはアームを出したり、時にはスタン・ガンを放出することすらある。
     しかもその機能は完全破壊するまで停止せず、躊躇いすらしないのだ。
     ならば取るべき戦法は一つしかない。

    フレンダ「っ!」

     三十六計逃げるに如かず、目の前の階段を駆け上る。
     あの清掃ロボットと似た状態ならば階段を上がることはできない。アームを取り出して再稼働するまでに数秒を用するだろう。
     そのうちにブービートラップでも設置するしか倒す方法はないが、

    フレンダ(『道具箱』に入ってるのは全部悪戯用だっつーの!)

     碌に準備をしなかったことが恨まれる。
     一日でも準備期間をとっていれば、泊まらせて貰っていた例の施設から爆薬でも何でも盗んでいたものを。
     それでも機械相手に数秒のラグは大きい。ターゲットロックされたとしても振りきってしまえば問題はないのだ。
     ……問題は、逃げ場がない、ということなのだが。

    フレンダ「だぁぁあああああああああああああっ!!」

     警備ロボットも見回りの人の影すら見えない一直線の廊下。
     時々壁には研究室の扉がついているが開こうとドアノブを撚るだけ野暮というものだ。
     故にフレンダは全力疾走で走る。
     周りにその存在を誇示するかのような音から逃げながら。


    132: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/16(木) 22:03:01.98 ID:apqhtTJQo

     勿論の事ながらその音はフレンダの位置を示すものに他ならず、また付近の警備員達の足音も警告音に混じって聞こえてくる。
     主に上の階だから回り込まれることもないが、それでも気が気でない。
     監視カメラにもちゃんと懐中電灯を向けて気を配るが、付けたり消したりする余裕すらなく、ずっと付けっぱなしだ。

    フレンダ(ヤバイヤバイヤバイ!このままじゃ結局、前からも押さえられるのは時間の問題って訳よ!?)

     ようやく曲がり角が見えた。
     しかしその先にあるだろうライトが揺れながら、そして足音も大きくなる。

     運が悪かった、としか言いようがない。
     フレンダの根拠のない皮算用ではもう少し奥まで見つからない手はずだったのだ。
     それが開始数分で崩れ去り、その結果がこれ。
     もう少し慎重になるべきだったかもしれない。
     でなければ、帰り用の道具を今使う、だなんてことにはならなかっただろうに。

     ズルン、とスカートの影からずり落ちたものをバランスを崩しながらも手で受け止める。
     懐中電灯は捨てる。コレは片手で持てるほど軽いものではなく、それにこれを使えば一時的には必要がなくなるから。
     背後からは警備ロボットのアームが迫り、前方からは大きく揺れる明かりが近づく。
     そして、次の瞬間。
     フレンダはその黄色のピンを弾き、赤い円柱状のモノから伸びたホースを角へと向ける。

     それは、消火器、と呼ばれるモノであり。
     本来の用途とは別に、常時で使用すれば白い煙で目眩ましが可能になる火を消すための道具だ。


    133: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/16(木) 22:31:01.58 ID:apqhtTJQo

     視界がホワイトアウトする。
     突然の煙に驚くのは、やはり曲がり角から迫っていた警備員。
     声で適当に位置を判断して連続して吹きかけると怯み、僅かにたじろいだ気配がする。

     しかしながら、突然の白い視界に機械は怯まない。
     例え一寸先すら見えない真っ黒な闇が広がったとしてもこの警備ロボットはロックしたターゲットをその機械的な視点から見失わない限りどこまでも追い詰めるだろう。
     それが機械にとっての長所であり――そして、短所でもある。
     なぜならば、それはこちらから近づいてこなくとも馬鹿正直に真正面から近づいてくるということを示すのだから。

     ガィン!と金属バッドでドラム缶を殴ったような音が鳴り響く。
     視界が真っ白になり、更に顔に消火器を喰らった警備員はその音に身体中の毛を逆立てた。
     急展開に理解が追いつかない。一体何が起こっているのか。
     きっと、彼がそれを知るのはベッドの上で、ということになるだろう。
     理由は簡単だ。
     『警備ロボットは消火器による打撃によりターゲットロックシステムに異常をきたし、暴走状態に陥った』。それ以上は言うに及ばない。


     ■   □   ■


    フレンダ「ふぃー……」

     大きく溜息を吐いて、額の汗を拭った。
     全くもって危険だった。しかし結果オーライとも言えるだろう。相手は恐らく、自分を完全に見失ったのだから。
     警備ロボットは暴走して近くの警備員を倒した後にどこかに走り去ってしまい、フレンダはその隙に近くの窓を開け放って内側に結びつけたロープを垂らしておいた。
     また新しい警備員が来たから近くの女子トイレに隠れたが、一言二言叫んで走っていったところを見ると咄嗟に考えた作戦は成功したのだろう。

    フレンダ「全く、この能力で命拾いしたって訳よ……」

     そうしてフレンダはまたどこからともなく、ノートパソコンを取り出す。
     ――『物質収納』。
     それが彼女の考えた能力名であり、首の皮を繋いだ命綱の名前でもある。


    134: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/16(木) 22:42:51.04 ID:apqhtTJQo

     TIPS
     『物質収納』【シークレット サーバー】
     名前の通り物質を『道具箱』にしまうことのできる能力。
     フレンダはこの能力のレベル3であり、いくらかの節約が存在する。
     ・自分より小さな物しかしまえず、また無生物でなければならない。
     ・出し入れは人の眼の見えないところからのみ。(人が目の前にいるが壁に背をつけていたりすると、そこから出すことも可能。しかし主にスカートの中から取り出す)
     ・『道具箱』はいくつもあり、フレンダは用途別に道具をしまっている。が、一度に仕える『道具箱』は一つであり、入れ替えるのに多少の時間が必要。
     ・慌てたり必死になったりすると所謂暴発状態になり、中身がばらまかれることもある。
     ちなみに『道具箱』をどれにしようと『情報』はいくらでも出し入れでき、自分の持つ脳とは別に同時に演算することができる。


    140: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/17(金) 22:12:37.15 ID:Jx7jT8tco

     『お姉ちゃんがいるんだよ』。
     フレメア=セイヴェルンは六歳になる丁度一月前にそう両親から告げられた。

     彼女が目を輝かせたのは当然の事だったかもしれない。
     なぜなら両親が共働きをしていて、彼女は大抵家に一人ぼっちだったから。
     姉であるフレンダとは異なり幼少期の殆どを家で過ごした純粋培養な少女だったから。
     テレビを見て知っている。兄弟というのは仲が良くて、いつも一緒に居るものなのだと。いつも感情を分かち合うものなのだと。
     それが全てではないが、幼い少女にとってはそれが兄弟姉妹というものの認識だった。

     一人ぼっちじゃなくなるかもしれない。共に遊べる姉ができるかもしれない。
     そう考えた純粋なフレメアは、次の両親の言葉に簡単に頷いてしまったのだ。
     『じゃあ、お姉ちゃんに会ってみるかい』、と言う言葉に。
     迷いなく頷き、手放しで喜んでいるフレメアが両親の黒い表情に気付けるはずもなく。
     六年前のフレンダと同じように――今回は両親が意図的にしたが――その姉に会うという目的を持ったフレメアは学園都市に預けられることとなったのだ。
     たった一つの、姉とお揃いだというベレー帽をその頭に被せられて。

     無論、無事に入った当日に両親は再び行方をくらました。
     何が原因だったのかは定かではない。が、最低な親であることは間違いない。
     例え養っていくだけのお金がなかったとしても、フレメあの存在を否定するわけではないがそれならそもそも産まないという選択肢もあっただろう。
     フレンダを育てていた時点でそれがわかっていた筈で、それなのに二人目を産んで、限界になったからと無責任に預けるとは人としてどうにかしている。
     ……きっと恐らく、この姉妹に二度と会うことがないだろうからこんなことを言ったところでどうにもならない訳だが。
     そして姉と同じく学園都市の『置き去り』となったフレメアは、同じく施設に引き取られるという道を辿ることになる。

     承知の通り、彼女は知らず知らずのうちに闇に引き摺りこまれてしまい、そこが姉とは大きく違う点でもある。
     しかし当然のことながら、そんなことなど露知らずの少女はまだ見ぬ姉に思いを寄せながら一つの大きな実験室で他の子供達と一緒に雑魚寝をすることになっているのだった。


    141: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/17(金) 22:33:24.38 ID:Jx7jT8tco

     ■   □   ■


     音が聞こえた。
     暗い闇の中で蒼い猫のような瞳がぱっちりと見開く。

    フレメア「……ふにゃ…………」

     古臭いタオルケットをどけて上半身を起き上がらせ、腕をぐっ、と伸ばしながら欠伸を一つ。
     周りを見渡すがまだ真っ暗で、他の子供は全く目を覚ましていない。部屋の中に聞こえる音は寝返りぐらいの物だ。
     起きたのだから朝なのか、とも思ったが、窓のない部屋だがなんとなくまだ朝ではないと人間としての本能が訴えていた。
     ではどうして目がさめたのだろう?寝ていた為に薄暗い闇の中でもしっかりと見えている視界は扉の方へと向けられる。
     忙しい足音が近づき、そして遠ざかっていった。
     先程の音はきっとこれだったのだろう、恐らく地面に耳をぴったりとつけていたからその振動で気がついたのだと思う。

    フレメア「……大体、眠い」

     彼女の大体、というのはフレンダの結局と同じような口癖だ。
     こちらは父親ではなく母親に感染されたのだが、大差などないだろう。
     彼女は口にしたとおりに眠かった。相手が意図していなかったとは言えたたき起こされたのだ、当然だろう。
     しかし再び眠る気にもなれない。眠いのだが、なぜだろう。
     ならばどうするか、などと考えてもこんな鍵の掛かっていて、中に何も無い部屋ではどうしようもない。出来ることといえばただぼーっと起きて時間を過ごすしかすることぐらいだ。

    フレメア「それしかないし、そうしよー……」

     一人ごちり、枕元に置いたベレー帽に手を伸ばした。
     ベレー帽は自分と姉とを繋ぐ唯一の物だ。実際には髪の色も眼の色も同じだが、それを聞かされていないフレメアは兎に角そう信じている。


    142: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/17(金) 22:59:56.05 ID:Jx7jT8tco

    フレメア「……んにゅぅ……」

     しかし起きたばかりだ、目がしょぼしょぼする。
     思わず目に力が入って、瞑る。続いて伸ばした手を引き戻して目を擦った。
     んー、と軽く唸りながらゆっくりと細目で開けつつ、もう一度手を伸ばしかけたところで、

    フレメア「……んゆ?」

     気付き、首を傾げた。
     先程までのことなど忘れたかのように目をまん丸に見開き、確かめるように再び目を擦る。
     そして開くが、その幻想は全く消えることなくそこに存在した。

     フレメアの頭の中にクエスチョンマークが踊り、疑問が湧き上がる。
     どうして。
     どうして、自分のベレー帽が二つもあるのだろう、と。
     まさか、分裂したわけでもあるまいに。

     それの答えは――上から降ってきた。

     スタン、とそれは猫の様な見事な着地を見せた――かと思いきや、体重を後ろにかけすぎたのか踵からの着地と同時にお尻から倒れる。
     に゛ゃあ!、と尻尾を踏まれたような酷い悲鳴が部屋内に響き、それに驚いた子供が何人か目を覚ます。
     そしてその子供たちと、丁度目の前だったフレメアは墜落した正体不明のインベーダーを見た。
     黒に濁って見えるが、その色は金。その色は蒼。
     そして分裂したのではなくて、先に落ちてきたのであろうベレー帽。
     フレメア=セイヴェルンはその姿を見て、直感というよりも、もっと本能に近いもので理解した。
     正しく。
     正しくその姿は。

    フレンダ「……いっつぅー……結局、ロープあそこで使うんじゃなかったってわけよ……」

     ――正しくその姿は、一目見たかった姉のものだ、と。


    143: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/17(金) 23:49:30.86 ID:Jx7jT8tco

     ■   □   ■


    『……てなわけで、警報で気が付いた時にはには実験に使うはずだった子供達が全員部屋から居なくなってたんだってさ』

     画面の向こうから女の声が響く。
     ……とはいっても、その画面に映っているのは『NO IMAGE』という二つの単語だけであり、声だって学園都市なら変えることなど容易な為に確実ではないが。
     それに対して、二人の制服を着ている少女の内、大人びている女性は肘をつきながら心底どうでも良さそうに返す。

    「ふーん。で?」

    『で?じゃなわよこいつときたら!始めに言ったでしょ仕事よ、し・ご・と!!私の言うことなんて全然耳に入りませんでしたってか――――ッ!?』

     先程までの落ち着いた声とはうって変わって、姦しい以上に五月蝿い声が車内に響き渡った。
     片目を力強くつむってその嵐が通り過ぎるのを待った推定中学生程の少女は、先ほど返した女性に慣れた様子で進言する。

    「リーダー、面倒ですからからかうのはやめましょうって前に言いましたよね?」

    「ごめんごめん、ついくっだらない仕事を持ってくるコイツにむかついて」

    『こいつらときたら!二人して上である私をからかうだなんてどういう了見だゴラァ――――ッ!!』

     五月蝿い切ってしまおうか、とリーダーと呼ばれた方は手を軽く動かしかける。
     が、しかしやめる。どうせ届くはずもないし、仕事を請け負うのは確定事項なのだ。やるだけ無駄なことはしたくない。
     もう一人の少女が重い溜息を吐くと、それを合図にしたかのように向こう側の女は続ける。

    『つーわけで!あんたらにはその子供を逃がした手引きをした奴、もしくは奴らを捕まえて欲しいって依頼!拒否権はなし!』

    「あーはいはい、わかったわかった。じゃあねー」

    『ちょっ、まだ話は終わってな――――!』

     ブツン、と能力で無理矢理介入して電源を落とす。
     はぁー、と溜息を吐きつつ、彼女は後頭部をガシガシと掻いた。

    「全く、態々私を使うほどのもんかなぁ、ねぇ未来」

    未来「……まぁ私たち『アイテム』は未だ二人きりですし、仕方がないと思いますよ。他の組織はもっと難しいのやってるんでしょうし」

     未来、と呼ばれた少女は天井のライトを見上げて手を伸ばした。そこに何かがあるかのように手を泳がせる。
     そして諦めたような口調で彼女は直ぐ傍にいるリーダーへと紡ぐ。

    未来「いくらリーダーが学園都市第三位の『原子崩し』って言っても、ね」 


    144: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/17(金) 23:54:02.98 ID:Jx7jT8tco

     TIPS
     時久未来【トキヒサ ミライ】
     過去時代『アイテム』メンバー。
     オリキャラ。能力等は本編にて。


    160: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/22(水) 23:14:29.60 ID:bJZBFGiro

    フレメア「ふかふかーっ!」

     ぼふん、とフレメアはシャワーを浴び終わった直後、その髪すら乾かさずにベッドに飛び込む。

    フレンダ「結局、昨日も同じことしてたって訳よ」

     ベッドの上で足をパタパタさせる濡れ鼠にフレンダはバスタオルを放り投げた。それはぴったしに彼女の頭を覆う。
     生きた心地のしなかった救出劇から一夜明け。ついでで同時に逃がした子供達は自分が世話をしてもらった施設に斡旋し、当初の目的である妹だけは自分の元へと置くことにした。
     そして連れてきた部屋――つまりこの部屋――についた瞬間目に入ったベッドに、妹は無邪気に飛び込んだのだ。
     施設の寝床であった布団と比べれば確かにふかふかであり物珍しいに違いない。フレンダ自身もきっと妹がいなかったらしていたことだろう。
     事実、この部屋を借りた際に一番初めに行ったことがそれなのだから。
     過去の不幸で多少擦れていて、更にはハッキングで情報を手に入れたり、妹を窮地から救い出す度胸を持っていても彼女はまだ一端の新中学生なのだ。そのぐらいの行動は大目に見てもいいだろう。

    フレンダ「……で、結局どうしようかなって思う訳なんだけど」

    フレメア「んに?」

     身体に対してとても大きいバスタオルの下から顔を出して、フレンダはその姉を見た。

    フレメア「お姉ちゃん、どうしたって訳よ?」

    フレンダ「いーや、フレメアをどうしようかって話……って真似しないで欲しい訳よ」

     フレンダの言葉に妹は首を傾げる。
     どうやら意図的にはしていないらしい。子供だから無意識に真似をしてしまっているのだろう、変な口癖がついても困るので矯正する必要がありそうだ。
     ……自分の真似をされてそう思うということは自分の口癖である『結局』と『訳』がおかしな物だということは理解しているのだろう。

    フレンダ(でも、私は今更直せないって訳よ……)

     これからでも可能性はあるが、最早半分以上の諦めがある。
     こちらに来たばかりの時期も少しだけ挑戦してみたが、治すことはできなかったのだから。


    161: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/22(水) 23:43:06.53 ID:bJZBFGiro

    フレンダ「……んじゃあ結局、私は乾かすから。終わったら呼ぶから、ちゃんと拭いておいてね」

    フレメア「うん、大体、わかった」

     ん、と短くだけ返してバスルームと部屋との間にある洗面所に入る。
     備え付けのドライヤーから温風が噴出し、鏡に映る金色の髪が後ろになびいた。
     手櫛で髪の隙間にもその風を通しながら、考えるのは先ほどフレメアにも言ったこと。

    フレンダ(結局、フレメアをどうするか)

     他の子供達と同じように施設に預けるというのが一つ目の案。
     二つ目は自分が後見人となってフレメアをちゃんとした小学校へと通わせること。
     私的には後者を押したいところだが、それにはフレメア本人の承諾が必要だ。
     あの両親からどの程度自分のことを聞いているのかは知らないけれど、昨晩急に現れたぽっと出の姉を名乗る人物を保護者と簡単に認めるだろうか。
     ……運がいいのか悪いのか、懐かれてはいるしお姉ちゃんとも呼ばれてもいるが。
     仮にフレメアが自分のことを後見人として認めたとしても、だ。もしも昨日施設に預けた中に、短い期間ながら友達となって仲良くした相手がいたとしたら。
     そして、その相手を離れるのが嫌だといったら。
     万一程度の確率だ、しかし子供の考えることはわからない。
     自分だって助けてもらった相手に対してずっと恋心を抱いているというのだ、一人単独で学園都市に送られて、寂しい思いの時に出来た友達を特別を思ってもおかしくはない。

    フレンダ「あー、あー!私に悩むのは似合わないって訳よ!」

     スイッチを強にして、熱風を真正面から受ける。
     数秒の間そうやって風に煽られた後にスイッチを切り、大きく息を吸って、溜息を吐いた。

    フレンダ「……結局本人に聞いたほうが早い!とっとと聞いて結論出す!」

     もしも先程の仮定が本当であり、そして離れるのが嫌だと言ったら。
     その時はすっぱりと諦めよう。そんな友達が居るならきっと自分とは違って真っ直に育つだろうから心配はいらないだろうし。
     髪を乾かしてあげながらそのことを聞いてみようと、声をあげようとしたその時。

     ピリリリリ、と。
     部屋にある電話のベルが鳴った。


    162: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/23(木) 00:12:19.16 ID:QUERWRdAo

    フレンダ「?」

     こんな朝っぱらから一体誰だろう。ホテルのチェックアウトにはまだ時間があるし、モーニングコールも頼んでいない上にそれだとするなら遅すぎる。
     ならば一体何が?
     と思っているとそのベルの音が鳴り止む。
     聞き間違え?と瞬間浮かんだ疑問は、しかし一瞬で氷解する。

    フレメア「はい、もしもし」

     扉の向こうからフレメアの声が聞こえた。どうやら近くにいた彼女がその電話に出たようだ。
     フレンダは呼ぶのをやめて扉を開け、フレメアを見遣る。
     両手で受話器をもって耳に当てるその姿は、本当に可愛らしい人形のようにしか見えない。
     昔の自分もあんなのだったのだろうか――それならば、時が経つのは早いものだ。
     ……などと思っている頭に。フレメアの元にある受話器から、嫌にはっきりとした声がフレンダの耳にも届いた。

    『えっと、フレンダ=セイヴェルンさんへ。今からぶちかましにいくので首を洗って待っていてください』

     知らない声、物騒な言葉。故に確信した。

    フレンダ「フレメアッ!」

     思うより、言葉より早く、身体が動いていた。
     数メートルの距離から、飛び込んで突き飛ばす。
     スローモーションになる世界。その中でフレメアが驚きに見開いた顔が目に映り、その手から受話器が離れる。
     次の瞬間に響くのは、爆音。
     視界が一瞬だけ真っ赤に染まった。

    フレンダ「――――――ッ!」

     バラバラ、とスカートの中から ビー玉やおはじき、トランプなどといった遊び道具が零れ落ちる。
     一拍遅れて、彼女自身も地面に落ちる。
     受身も碌に取れずに叩きつけられて一瞬だけ顔を歪ませるが、爆発から庇った左腕の痛みに比べればなんてことはない。
     フレメアが使っていた物だろう落ちていたバスタオルを掴み、傷口に当てながら状況把握する。


    163: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/23(木) 00:26:39.25 ID:QUERWRdAo

    フレンダ(電話が爆発した……)

     受話器どころか、本体すら跡形もなく消えていて、土台だけが寂しそうに残っていた。
     一旦タオルを患部より離すと、血は付いているものの痛みに比べて出血の量は大したことはない。
     自分の目で傷口を直に確かめると、小さなプラスチックの破片がいくらか刺さっていた。

    フレンダ(本当なら受話器で耳を怪我させるつもりだったに違いない訳よ……)

     爆薬の臭いはせず、するのは何かが焼き切れたような焦げ臭い臭いのみ。
     故に考えられるのは遠隔で爆発させる能力か、或いは電気操作の能力。
     或いはそれ以外かもしれないが……学園都市内でも狭い世界しか知らないフレンダにそれ以上の予測はつかない。

    フレメア「お、お姉ちゃん、大丈夫!?」

     フレンダの傷を見てフレメアが慌てて駆け寄ってきた。
     大丈夫だよ、と優しく返し、安心させるために頭を撫でてあげたいところだけれども、彼女にそんな余裕はない。
     電話の相手の言葉が正しいのなら――今から『ぶちかましに』来るのだから。

    フレンダ「結局……理由は一つだけな訳よ」

     昨日のこと。あまりにも早過ぎるが、それぐらいしか襲われる理由は見当たらない。
     どこから足がついたのか。もしかしたら監視カメラを見逃していた?
     或いは逃げ回っていた時でも帰る時でも誰かに姿を見られていた?

    フレンダ「……理由なんて、今はどうでもいいか」

     どうせその答えを知っている輩がもうすぐ来るのだ、考える必要はない。
     それよりも考えるべきは、これからどうするか、どうすべきかだ。
     先程まで考えていたフレメアの処遇についてではなくて、目の前に迫る危機に対する対処法。


    164: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/23(木) 00:55:47.19 ID:QUERWRdAo

    フレメア「フレンダ、お姉ちゃん……?」

     不安気に呟くフレメアになんとか微笑を作りながらも考える。
     扉から逃げる――不可能。きっともうすぐそこまで迫ってきている。
     部屋で用意して待ち構える――不可能。ロビー付近からこの部屋まで効果が及ぶ能力に真正面から立ち向かえると思えない。

    フレンダ(どうする、どうする、どうする――――)

     不意打ち――不可能。そもそもとして隠れる場所が無いに等しい。
     窓から逃げる――不可能。寮ならなんとかなったかもしれないが、ここはホテルだ。プライバシーを護るために仕切り板は強固なものだろう。

    フレンダ「――っ」

     歯噛みする。
     ほぼ詰んでいる。逃げ道など全くない。
     残る手段といえば有事の際の非常口だが……そういう場合以外に開かないようになっている。
     せめて、先程の爆発が火災を感知するセンサー付近で起きてくれればよかったものを。

    フレンダ(――落ち着けって、訳よ)

     逃げ出すことが最優先だ。
     『警備員』と連絡をとれれば保護してくれるし、『風紀委員』ともつながりがある。
     そう、逃げ出せればいいのだ。フレンダかフレメア、どちらか片方が無事に逃げ切れればそれでいい。

    フレンダ「――ふっ、ふふ」

     思わず、笑いが漏れた。
     追い詰められている。だからこその、笑い。

    フレメア「……?」

     少しばかり怯えたような瞳で見上げるフレメアの頭の上に、ぽん、と右手を置いた。


    165: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/23(木) 01:29:40.01 ID:QUERWRdAo

    フレンダ「大丈夫」

     『物質収納』。
     それは、『自分だけの現実』の収縮した結果の能力。
     自分の唯一無二の武器。
     それがあるから――きっと、大丈夫。

    フレンダ「結局、全部お姉ちゃんに任せておけば大丈夫って訳よ」

     フレンダは軽く説明をしながら、ベッドの枕元に重ねておいてあるベレー帽を手に取った。
     目立つ赤色のそれを妹の頭に載せて、鈍い藍色のそれを自分の頭に載せる。
     そしてしゃがみ込み、フレメアに目線を合わせる。

    フレンダ「でも、私が生き延びるにはフレメアにかかってる訳だから。絶対に逃げきらなきゃダメだよ」

     いいね?と確認をとるフレンダに、彼女の年の半分にも満たない妹は僅かに頷いた。
     その碧眼は不安に揺れながらも。その幼い顔つきが微かに強ばっていても。
     自分の姉を助けられると信じた少女の首は、確かに縦に振られたのだ。

    フレメア「大体、わかった」

     フレメアが姉の言葉に頷くと同時に。
     ピンポン、と来客を告げるチャイムが鳴り響く。
     半分以上は運である。しかし最早これぐらいしか方法はない。
     最後に一歩玄関のドアへと踏み出した。


     ■   □   ■


     シュガッ!と火花が散り、扉が斜めに切断された。切断されただけで、切れ口はぴったりとくっついていて扉の上部分はは崩れ落ちないが。
     能力ではない。『発電能力』ならば電子ロックを解除すればいいし、物を爆発させる能力なら単純にドアを爆破すればいい。そうでないのだから違うのだろうとフレンダは判断した。
     手の中で用意しておいたそれを握りしめる。
     どんな能力かある程度は予測はしているとはいえ、相手の能力に対して自分はあまりにも非力。故にいつ飛んで来るかわからない攻撃に冷や汗を垂らしながらも扉の向こうへと話しかける。

    フレンダ「……よく、ここがわかったね」

    「そりゃあ、当然ですよ。なにせ私たちは『学園都市』なんですし」

     ガシャン、と切断された部分が部屋側に押されて、崩れた。
     その奥から現れるのは、目算、自分より身長が少し大きい女子学生。

    「それでは、大人しくお縄についてもらえると助かります。余計な怪我はしたくないでしょうし、私だって余計な労力は使いたくないですし」

     学園都市の闇を担う暗部組織、『アイテム』。
     その正式構成員である彼女は、時久未来という。


    177: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/07/01(金) 00:25:50.65 ID:SZw+hnYVo

     少しばかりの警戒心を持って、フレンダは侵入者へと対峙する。
     部屋の扉から彼女の立つ位置は一直線で数メートル。強力な能力があるなら数秒で決着がつく距離だ。
     その為にフレンダは数歩下がって未来を部屋へと招き入れる。
     襲撃してきたのがこの人物だけならば先ほど電話を破壊したのはこの人物で、高位能力者ということにもなるからだ。

    未来(……誘ってるってことですね。まぁ、私としても閉鎖されている通路よりそれなりに拾い部屋の方が動きやすいですし)

     入り口で待機していればそこを通らなければならないフレンダはどうにかして攻略しようと頭を捻らせ、あらゆる手を使ってくるために長期戦になるだろう。
     部屋に入ったとしても入らなかったとしても結末は一緒なのだ、ならば早い方がいい。
     ……後ろでリーダーも待っていることなのだし。

     フレンダは部屋に入ってくる未来相手になるべく距離をとろうと、部屋の対角線上に移動する。
     バスルームや部屋の外の廊下へと続く通路から姿を表した未来は部屋の内部を一瞥した。
     跡形もなく砕け散っている電話に普通に使っているだけではここまでにならないだろうぐらいに乱れているベッド。
     客が入る前の部屋と見比べて大きく違うのはそのあたりだろうか。他にも足元に赤色が付着したバスタオルや文房具が落ちていたりするが些細なことだろう。

    未来「……一応、もう一度警告します。降伏して頂けると助かります、様々な意味で」

     言う未来に対して、フレンダは答えない。
     その一挙一動を見逃すまいと凝視しながら、ベランダへと続く窓を背にする。
     その行動を見て未来は溜息を吐いた。

    未来「全く、大人しくしていれば済むものを……時間も余り無いことですし、とっとと終わらせましょう」

     そう言いながら未来はブレザー型制服の内側に手を突っ込む。
     そこに用意してあるのは拳銃。しかし殺傷能力は普通のそれに比べて低い謂わば麻痺銃のようなものだ。
     依頼はあくまで殺害ではなく、捕縛だから。でもなければ自分が出る必要はなかった、とまた心のなかで溜息を吐いた。
     そしてそれを胸から抜いて――――瞬間、
     フレンダが何かを投げるような仕草を見せた。


    178: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/07/01(金) 00:45:50.81 ID:SZw+hnYVo

    フレンダ「てぇい!」

    未来「!?」

     素早く構えて、その正体不明へと発砲する。
     いくら殺傷能力を押さえて作られている銃でも心臓や脳天を狙えば殺害は可能だ。
     つまり当然なことなのだが物を弾いたりする分には十二分な威力を持っている。
     だから突然で足が動かない状況に置いて投げられたモノに対して発砲するのは自然な流れであるともいえよう。
     ……それが刃物などの武器ならば、だが。

     銃を構えて引き金に指を掛けた瞬間、何故か時間が引き伸ばされたように感じた。
     そして未来はそれを視認した。
     小さな筒状の、先頭と思われる方に導火線の様なものが取り付けられている、しかし一般に売っている――――

    未来(――爆竹?)

     引き伸ばされた思考の中で天井を見た。
     丁度フレンダの立っている場所と自分の立っている場所の中間より少しこちら側の地点。
     今まさに爆竹が浮いている、その真上。
     火災警報器が付いていた。

    未来(しまっ――――!)

     思った時にはもう遅い。
     引き金は引かれ、サイレンサーのついた銃はパシュン!と空気の抜けるような音を立てて銃弾を発砲してコンマ一秒にも満たない時間で爆竹へと着弾する。
     突然の行動で小さなそれに当てられた、とうのは賞賛の一言を送るしか無い。
     結果、それが裏目に出たのだとしても。

     パァン!と。まるで銃の発泡音のように破裂の音が響くのと、至近距離で火薬の爆発とその煙を浴びた火災警報器がけたたましい音が鳴り響くのは同時だった。


    179: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/07/01(金) 01:12:23.90 ID:SZw+hnYVo

     火災警報器は耳を塞ぎたくなるほどにうるさいアラームを部屋に響かせながら、その火を感知するカバーを外した。
     中から現れるのは一見して地雷の様に見えなくもない装置。
     スプリンクラー。日本語では散水器。
     火を感知したのだから次にすることは一つだけだと言わんばかりにその装置は小さく唸る。
     ――放水が始まる。

     雨の様に降り注ぐ水に未来は歯噛みする。
     未だに鳴り響く警告音によって他の人が駆けつけてくるのも時間の問題だ。
     咄嗟の判断で避けることをしなかった自分が憎い。

    未来「味な真似をしてくれますね……!」

    フレンダ「当然。結局、私はそう簡単に捕まるつもりはないって訳よ!」

     後ろ手で窓を開けてフレンダはベランダへと飛び込んだ。
     何をするつもりか、などと聞かなくても理解できる。
     ベランダには下の階へと行くことのできる非常口が取り付けられている。普段ならばロックのかかっているそれは開かない筈なのだ。
     だが今は既に普段ではない。火災警報器が鳴り響き、スプリンクラーが作動しているこの状態ではロックは解除されているだろう。

    未来「逃がさない――――!」

     びしょ濡れになったのと、素人相手に無様な真似を見せてしまったのと。
     その二つの原因によって血がのぼった未来は再び判断を誤った。
     銃を再び構え、足元――赤色のついたバスタオル――を見ずにその上をおもいっきり踏み通ろうとして。
     ズルン、と体勢を崩す。それによって窓越しにフレンダに定まっていた照準は思いっきりずれることになり、銃弾は虚しく地面を叩く。

    未来「っ!」

     受身も取れずに無様に前方向へ転んだ未来は足元のおかしな感触を確かめるために踏んだタオルの方向を見た。
     思いっきり踏んだことによってズレたタオルの端からは赤色や青色を内に秘めた小さなガラス玉が顔を覗かせている。
     ビー玉。球体のガラス玉。
     それをタオル越しとはいえ幾つも踏んだのだ、当然のことながら転ぶことになる。


    181: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/07/01(金) 01:46:31.90 ID:SZw+hnYVo

     プッ、と吹き出した様な声がした。
     起き上がりつつ前を見ると、フレンダは非常口の入口(当然のことながらコンクリートだからそれなりに重い)を既に開けたフレンダがいた。
     見事なまでに子供だましの罠に引っかかってくれた未来を笑いながら。

    フレンダ「それじゃあまた今度って訳よ」

     そしてフレンダはその穴へと潜り視界から消える。
     部屋から脱出さえしてしまえば逃げ場などいくらでもある。少なくとも先程まで縮まっていた距離が引き離されるのは確かだ。
     その事実を認め、どうしようもないイライラが未来の内側に募った。

    未来「っ~~~~~~、ああもう、すっごくいらつくっ!」

     未来は立ち上がるやいなや憂さ晴らしをするように壁を一度だけ蹴り飛ばした。
     ドゴン!と女子中学生とは思えない程の音がした。見ると、五ミリ程の深さで足跡が壁に刻まれていた。
     彼女は自分の不甲斐なさや怒りや悔しさに顔を歪ませながらフレンダの後を追って非常口へと飛び込む。
     二人の居なくなった部屋の中では相変わらず警告音とスプリンクラーが作動している。
     ……そんな部屋の中に残された少女が一人。

    フレメア「……そー……」

     木製のクローゼットをゆっくりと開いて、その中から現れるのはフレメア。
     その碧眼をきょろきょろとせわしなく動かして、誰もいないことを確認する。

    フレメア「……大体、フレンダお姉ちゃんを、助けなきゃ」

     フレメアがフレンダから任されたことは単純だ。
     『自分が囮をするから風紀委員なり警備員なり、助けを読んできて欲しい』。
     それはどの程度の時間がかかるか全く予想などつかない。だからフレンダは間に合ったら万々歳程度でこれをお願いした。
     この頼みの本当の目的は、『目的を持たせることでフレメアをこの場から逃がすこと』。
     フレメアが自分と同じなら恐らく、姉である自分の言う事を聞かないで自分を助けようと顔を突っ込んでくると考えたが故だった。
     きっと助ける方法が別にあるのだと教えればそちらに向かっていくだろうから、そういう頼みをしたのだ。
     それを全くもって知らないフレメアは、自分の姉を助ける為に半壊している扉から部屋の外へと飛び出した。


    184: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/07/01(金) 22:28:58.81 ID:SZw+hnYVo

     ■   □   ■


     時は深夜まで遡り。
     麦野は侵入者が持ってきた、そして置いていったロープの先っぽを振り回しながら呟く。
     何か一つでも手がかりを、と請求したところ持ってこられたのがこの道具だった。

    麦野「なーるほどにゃー、こりゃあ弱小組織であるウチらにぴったしの仕事ね」

    未来「弱小とは違うとおもうんですけど……単純な戦力で言うならレベル五が一人居るだけでレベル四以下数十人と匹敵するのですし」

    麦野「わかってる、わかってる。ちょっと言ってみただけよ」

     時久未来と麦野沈利の関係を一言で表すならば、『親友』というのが最も近いだろう。
     或いは戦友とも呼べるかもしれないが彼女らは少なくとも一時的な仲間という意識を越えている。
     なぜそうなったのか、というのはとても単純。彼女らは暗部の右も左も知らぬ存ぜずの時に同じ部屋の中に放りこまれた、ただそれだけ。
     両者とも高位能力者とは言えども流石に闇の中に堕とされて心細くない筈もなかった。
     だから彼女らは直ぐ傍に同じ境遇の人間を見つけて、手と手を取り合ったのだ。
     故に、親友。

    麦野「ま、とりあえず。ほれ、未来」

     麦野は手の中で素早く丸めて束にしたロープを未来に手渡す。
     受け取った彼女は瞬間、脳内にそれのデータが流れてくるのを感じた。
     その見た光景を整理し特徴だけを抜き出し、もう一人の相棒に告げる。

    未来「……金髪碧眼の女の子。身長は小学校高学年から中学校程度で、藍色っぽいベレー帽を被ってる」

    麦野「女の子?一人?」

    未来「みたい。特にその場には居合わせてる様子もないし」

     ふぅ、と未来は疲れたように溜息を吐いて、ロープを室内のテーブルの上に放り投げる。
     そのロープの過去を『詠んだ』のだ。それは疲れもするだろう。


    185: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/07/01(金) 22:52:18.30 ID:SZw+hnYVo

    麦野「……女の子、か……なーんかやる気でないにゃー」

     麦野は高校生にしては珍しいといえる肉つきのいい身体を思いっきり伸ばす。
     その言葉に未来も考えるように顎に手を当てた。

    未来「指示も捕縛、だし。リーダー今日はバックアップにする?能力危ないし、滑ったら死んじゃうでしょ、相手」

    麦野「未来は真面目ねぇ、正直私はぶっちしてもいいかなぁとか思ってたんだけど」

    未来「そんなことしたら色々と面倒くさいし。特にあの『電話の人』が」

     言えてる、と麦野はそれを想像して窶れたような息を漏らした。
     未来も同じように息を吐く。
     あのはた迷惑な管理者殿の姦しい声を聞いたのは一度や二度だけではなく。しかも二人とも同じ回数そうなっているのだからこの反応も当然だ。

    未来「えっと今から潜伏場所調べるから、侵入は多分朝。リーダーには最初の一撃と、一番可能性が高い逃走経路に詰めててほしい。後は下部組織のを適当に配置しておく」

    麦野「悪いね、そういう面倒くさい手配だけじゃなくて今回はオフェンスまで回して」

     殊勝な我らがリーダーの返しに未来は思わず吹き出した。
     それは部下としてではなく、一友、一親友として。

    未来「何いってんの、沈利はどーんと構えてくれてればいいの。それだけで十分役割は果たせるんだし」

    麦野「……んじゃ、任せた。親友」

    未来「任されました、親友」

     女の子同士にしては珍しくそう呼び合い、そして拳を軽くぶつけ合い、そして笑いあう。
     とても暗部組織とは思えない。
     とてもこれから見る麦野沈利とは思えない。
     そんな笑顔を、彼女らは浮かべていた。

    麦野「あ、でも失敗したら勿論、リーダーとしてオシオキするから」

    未来「えぇっ!?」

     驚きに発された声は、しかし防音の壁に阻まれて部屋の中で完結し消える。


    186: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/07/01(金) 23:20:34.87 ID:SZw+hnYVo

     ■   □   ■


    未来(……ふむ)

     見失った。
     先に下ったフレンダはその階の非常口を開けている間に追いつかれると判断したのか、部屋へのガラスを割ってホテル内へと入っていた。
     その痕跡を追って自分も廊下に出て最後に曲がった角は見えたのだが、そこから忽然と姿を消した。
     ルートは右、左、真ん中と三つに分かれている。単純にして追いかけて当たる確率は三分の一。

    未来「……それで撒いたつもりなんですかね」

     彼女はそれだけ呟いて、低反発のふかふかな床に手を触れる。
     そして『詠む』。
     それのほんの少しばかりの過去を。

     ――『時間記録』。時久未来の能力は爆破でも電気操作でもない、そして攻撃効果すらないものだ。
     触れたモノの過去を詠み取る、という説明が一番わかり易いだろう。
     ロープに触れただけでフレンダの外見を捉えたのはそういった能力に寄るものだ。
     この能力がある以上、よほど突飛な逃げ方――例えばヘリコプターで逃げるだとか――をされない限り、相手が逃げれる道理はない。

    未来「……真ん中のルートか」

     ものの数秒で詠み取りを終えて追跡を再開する。途中で普通の客ともすれ違うが見向きすらしない。
     そういう行動を見られたのならまだしも、ただすれ違っただけなら口封じにすら値しないからだ。
     最も人ごみの中でも確実に当てられる至近距離ならばきっと発砲する。その時に見られたのならば安全の保証はする予定がない。
     そんな時以外ならば暗部は基本的に一般人とは干渉しないのだ。逆に言えばそういう時ならば只管に干渉するが。
     暗部の一部でも触れてしまった人には、ただ只管に。
     ……それはさておき。
     時久未来は親友に任された使命を果たすため、またオシオキを喰らわないようにするためにまだ目視出来ない金髪の少女を追う。


    187: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/07/01(金) 23:56:07.11 ID:SZw+hnYVo

     フレンダは非常階段を三階分登り切り、息を切らしながら柱に手を付く。
     彼女のスタミナは同年代の子供より圧倒的に多い。しかしこの体たらくは何か。
     ……それには簡単すぎる回答がある。

    フレンダ「は、は……膝、笑ってるって、わけよ……結局、銃なんて、反則……はぁっ、はぁっ……」

     膝が笑っているのは疲れではなく怖さによって。
     体力の減りが早いのは背後から追われる恐怖心によって。
     銃なんて初めて見た。風紀委員の使う信号弾を撃つための銃なら見たことも触ったこともあるが、攻撃用に作られたものを見たことはなかった。
     実際には捕獲用の銃なワケだが、区別がつかない上に些細な事だ。
     相手が銃を持っていた。フレンダ=セイヴェルンにとってはそれが最も重要な事実。
     正直、初見で棒にならないでスムーズに逃げられた事が奇跡的だと思った。

    フレンダ「フレメアは……無事に、逃げれた、かな?」

     クローゼットに押しこんで部屋から誰も居なくなるまで出るな、と事付した妹を思い出す。
     きっと銃を見て棒立ちにならなかったのは彼女を逃がすという目的があったからだ。
     相手はどうやら部屋には自分しかいないと思っていたようだから、フレメアはきっと逃げることが出来たのだと信じたい。
     そして、同時に自分も相手を撒くことが出来たのだと信じたい。

    フレンダ「あー……もう、ほんと銃とか反則って訳よ……」

     再び、先ほどと同じ悪態をつく。
     確かに悪いことをしたのは自分だが、見られて困るようなことをしていた自分たちも悪いだろうに。
     というよりどちらかといえば全面的に相手側が悪いのだ、とフレンダは結論づける。だから銃を持ち出すことはないだろう、と。
     これで逃げれたのならばもはやどちらでもいいが。
     ――無論、そううまくいかないのが人生である。

     タンッ、と非常口に軽快な足音が鳴り響いた。
     それは半階上の踊り場から。


    188: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/07/02(土) 00:48:29.97 ID:0a/48McKo

     振り向くより先に、首元の辺りがチリチリと痛みを発してなにより先に回避行動をとった。
     同時、二つの弾丸がフレンダの居た場所を射抜き、そして跳弾して身体を掠める。
     回避に成功した自分の第六感に戦慄しつつ、動揺が何よりも勝って口走る。

    フレンダ「ちょっ、なんで上から!?」

     フレンダがこの階についてからまだ五分も立っていない。
     普通見失ったなら出口を抑えるものだ。それなのに上の階から来るなど、フレンダの居場所が分かっていたとしか思えない。
     勿論のことながらフレンダの問いに未来は答えず、階段を飛び降りながら隠れる場所のないフレンダに同じく銃を向けた。

    フレンダ「っ、やばっ!」

     慌てて下り階段へと飛び込む。
     振り向いたら一巻の終わりだ。フレンダは固まりそうになる足に鞭打ち、今度は上ではなく下へと向かうことになる。
     しかし今度は地形が悪い。上からは見通しがよく、逆に逃げている最中に下から上は見上げにくい。
     フレンダは自分の足音と重なって半階ほど上から聞こえてくる足音に今度こそ命の危機を感じざるを得なかった。


     ■   □   ■


    麦野「……おっそいなぁ」

     普段ならもう終わっていて、未来から連絡が来てもおかしくない。直ぐに来ると思っていただけに余計遅く感じる。
     そればかりか、ホテル内の従業員が騒然としている事から察するに。

    麦野「もしかして失敗したの?」

     と思う。
     完全なる失敗ではなく部屋から逃げられたという程度の失敗で、今丁度架橋に入っているところなのだが。連絡のない麦野には知る由もない。
     刹那、タンタンタンタンタンと軽い足音が段々と近づいてきた。反射的に麦野は物陰に隠れる。
     彼女が居るのは従業員用の裏口。フレンダのデータを見た未来が『部屋から逃げられたら恐らくここから逃げる』と予測したデータに基づいてだった。
     そっと、影からその走ってくる人物を伺った。
     金髪ならクロ、死なさない程度に傷めつけて捕獲。それ以外ならシロでスルー。
     鈍く光る、黒が混じった照明だけが照らす廊下を走ってくるのは見間違う事無き金髪の少女。

    麦野「……あん?」

     しかし麦野は攻撃を躊躇った。
     彼女の姿は情報よりも遙かに小さくて、小学校高学年ではなく幼稚園・保育園生レベルの体格にしか見えなかったから。
     そして同時にそのベレー帽の色が明らかに違ったものだったから。

     その色は――赤。
     彼女は目標のフレンダ=セイヴェルンではなくその妹のフレメア=セイヴェルンだと麦野が知るのは、彼女に話しかけて情報を得てからの話である。


    197: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/07/14(木) 19:16:35.72 ID:rHyH6WoTo

     滅多に使われることのない非常階段は殺人現場における要素を満たしているといえよう。
     即ち人に見られない。即ち事件発覚まで時間がかかる。
     人に見られないのは言わずもがな、時間的猶予があるというのは逃亡する犯人の心にも余裕を持たせる。
     故に時久未来は油断しない状況でありながらも圧倒的有利な状況にあるのだ。

     対してフレンダ=セイヴェルンは上の要素だけならず、数々の要因により追い詰められていた。
     第一に自分と相手の関係と距離。
     自分は逃亡者で相手は追撃者、そしてその距離は目視も容易な僅か階段十数段。
     相手は一撃で致命傷になりうる飛び道具を持っていて自分は何も対抗できる手段がないというのも一つの要因。
     また正体不明の能力について。完全に撒いたと思ったハズなのに場所が完全的にバレていた。
     監視カメラを使ったとしてもあそこまで早く割り出すことはできない為にそれは学園都市の学生が一人一つは持っている能力だろう、と判断できた。
     しかしその正体が全く分からない。追跡系なのか或いはそれ以外のものなのか――如何せんフレンダの知っている世界は狭く、知識も豊富とは言えないから安易に答えを出すことはできない。
     だが大体は一致しているだろう、ならばいくら逃げたとしてもすぐに位置を捕捉される。時間制限のない鬼ごっこほど辛いものはない。
     そして最後に一つ。

    フレンダ(あいつの能力がそれなら――結局、最初に電話を爆発させたのは誰ってわけよ!?)

     追手は複数いる。
     それが事実だとするのならフレメアを別行動させたのはやはり間違いだったのではないか?
     実は既に捕まってしまっていて、自分と同じように銃を向けられているのではないか?
     想像だが、フレンダの脳裏にその光景が鮮明に浮かんだ。

     ――薄暗い空間で、恐怖に塗れて身体も満足に動かせず。
     ――そして向けられた冷たい鉄の塊が冷酷無比なまでに火を噴いて。
     ――幼い少女は無残にもその糧を散らし、金の髪や白い肌はアカイロに染まる。

     その想像は。
     太ももに走る突然の激痛に掻き消えて思考は現実へと引き戻される。


    198: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/07/14(木) 19:17:16.97 ID:rHyH6WoTo

     次の瞬間にはフレンダは空中に投げ出されていた。
     遅れて、喉の奥から悲鳴が漏れる。
     いや漏れた、というよりは反射的なもので叫んだ、というほうが正しいだろう。

    フレンダ「――――――!」

     それすら声にならない。
     更には眼下、直前に迫る階段。
     恐怖や激痛によって引き伸ばされた時間はそれを認めると同時に瞬く間に流れを取り戻す。
     全てを認識したフレンダはそれに考えを巡らす隙さえ与えられずに階段より転げ落ちる。
     何を思う暇すらなく凹凸の豊富な段差に身体を全身隈なく打ちつけて、一番下まで落ちた。その勢いのまま壁際まで転がる。

    フレンダ「ぁっ、ぐっ……ぅ…………」

     全身に走る痛みが尋常じゃない。しかしヘタをすれば死んでいたかもしれない今の状況で生きているだけ僥倖だ。
     まともに動きすら取れないフレンダが思い出したのは、階段から落ちる直前に感じた太腿の痛み。
     撃たれた?撃たれた。
     疑問に思う必要すらない。それしかありえないのだから。
     階段を駆け下りていたフレンダは銃弾を受けて足元をすくわれ、一瞬空中に投げ出されて階段から転げ落ちたというのが今起こった出来事だろう。
     運が良かったのは階段の一番上ではなく半分ぐらいから落ちた、ということだろうか。それでも重傷に代わりはないのだが。

    未来「……跳弾ですし、まだ動けるハズですけど……まだ抵抗しますか?」

     頭すら庇うのが儘ならない落ち方をしたフレンダを踊り場より半階分下に見やり、立ち止まった未来は言葉を投げかけた。
     『衝槍弾頭』というものがある。
     表面に特殊な溝を刻む事で衝撃波の槍を生み出す対暴走能力者用に開発されている武器だ。
     この時代に置いてそれはまだ完成の目処が立っていないのだが――別方面のアプローチより同一目的の開発は進んでいる。
     それの結果がまだ未完成にして実用化となっている彼女の持つ銃弾、名付けるなら『衝撃電弾』といったところだろうか。
     人体の筋肉を硬直させる命令を込めた電流によく似た電流を弾の表層直下に走らせる事で着弾と同時に相手の動きを封じる効果を持つ。
     ――が、如何せん未完成だ。その表層は数メートル飛ぶ空気感との摩擦で剥がれ落ちて効力をあっという間に失う。
     結果、長距離はもってのほか、目標物外のモノにぶつかっても込められていた電流は空中へと逃げる。だから未来は跳弾だからまだ動けるハズだ、と言ったのだ。


    199: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/07/14(木) 19:17:47.08 ID:rHyH6WoTo

     しかし、実際に銃弾を喰らってそう簡単に動ける筈がない。
     だから彼女は投降勧告をだした。これ以上苦しみたくないのなら、などという優しい考えではなく。それはただ楽をしたいが為の提案。
     時間短縮を求めるが故の一つの助言。

    フレンダ(……っ、ても……出来ることなんて、少ないってわけよ…………)

     未来は仮にここでフレンダが断ったところで、足なり腕なり胸なり、或いは頭に弾丸を直接撃ちこめばいいのだ。
     ほんの僅かに引いた、少し動かせばまだ痛みが残っていると実感できるレベルの怪我を負っている状態でそれを避けれるのかすらも甚だ怪しい。
     道具箱にあるものだっていい加減限界だ。かき回すにしても難しい。
     爆竹や癇癪玉はまだ残ってはいるが、そもそもこの場所に火災検知器がない。事件だと知らせることは出来ない。
     この中で彼女が取れる選択肢はたった二つしかない。希望的観測を含めばもっと増えるが、それはあくまで『希望的』だ。検証する価値すら無い。
     そして目の前に出された二つのそれは、互いに相反するもの。
     極端に言ってしまえば生か死か。
     直接的に言えば、戦いか、或いは――

    フレンダ(降参、か……)

     弱気な自分の考えが頭を過る。
     身体中が痛い。弾に射ぬかれた左足はもう満足に動かせる気がしない。
     降参の勧告、ということは殺しはしないという意味だろう、とフレンダはここでようやく相手の意図を理解する。

    フレンダ(無理に逆らってこれ以上痛い思いとか、死ぬような思いとかするよりは結局、降参したほうがいいってわけよ……)

     死ぬたくない、生きたい。痛い思いをしたくない。
     そう思うのは人間、いや動物、生き物として最も純粋な本能だ。
     誰だって自分の身が一番大事。
     その為ならば、何を見捨てることだって――――


     ――――仲良くしてくれてありがとう、それと巻き込んじゃってごめんなさい。


     それは。
     人伝いに聞いた伝言だけれど。
     けれど、確かにそれは。
     彼の言葉で。耳元で囁かれたような気がした。


    200: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/07/14(木) 19:18:17.36 ID:rHyH6WoTo

     思考が戻ってくる。
     目の前の選択以外にも考える余地が生まれる。
     自分の生死?迫っている危機?
     そんなものはどうでもいいのだ。
     今考えるべきはそんなくだらないものではない、もっと、もっと先――――
     選択を行った結果。その未来。

    フレンダ(フレメアが)

     自分が捕らえられたら、フレメアはどうなる?
     きっと、恐らく。自分はどんなことをされるにしても、二度と戻れなくなる可能性が高い。或いは死ぬ可能性しらあるだろう。
     そうしたならば、阻止したはずの実験は再び行われ。そしてほぼ確実に彼女は冷たくなってしまう。
     血肉を分けた少女。自分とは違う道を辿って欲しい大事な、大事な妹。

     彼のように全てに手を差し伸べるという訳にはいかない。自分を犠牲にしてまで他人を思いやることなど出来るはずがない。
     自分は、自分のことで精一杯なのだ。その考えが中心なきっとフレンダは誰よりも人間らしい。
     けれど。
     そんな自分だから、全てを、ということは不可能だけれど。
     せめて本当に大事な、一つの宝物ぐらいは。

    フレンダ「守っても、構わないって、わけよ…………!」

     未来が怪訝そうな顔をした。
     全身に力を込める。
     関節が、筋肉が、骨が悲鳴をあげた。
     しかしそれでも構わない。
     ゆっくり、ゆっくりと。激痛に歯を食いしばりながらも、壁伝いに爪を、その穴に指を引っ掛けて立ち上がる。
     その息は荒い。今にも倒れ伏してしまいそうなほどの満身創痍状態。
     けれど、彼女は選んだのだ、その道を。
     降参ではない、抗いの選択を。

     彼と、上条当麻と同じように不幸まみれの状態でも、不幸に手を差し伸べる選択を。


    201: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/07/14(木) 19:19:02.07 ID:rHyH6WoTo

    フレンダ(それに)

     そしてある種、これは彼女の復讐でもある。
     あの時の自分と彼に重ねるならば、もう一つ必要な役どころがあるのだ。
     即ち、『虐め』。
     正しく目の前にある暴力こそがそれだ。

     ならば目の前のそれを倒すことが自分の過去、虐めていた少年たちへの復讐といえる。
     運命論を語るつもりはないが。
     この日のこの出来事はきっと、『起こるべくして起きた』。
     そしてこの運命を支配したときには恐らく。
     途轍もない、喜びに満たされることだろう。

    フレンダ「……それは結局、さいっこうに気持ちが良さそうってわけよ」

     そのフレンダの心情を知ってか知らずか、未来は溜息を吐く。

    未来「面倒臭いですね」

     ガチャン、と銃のシリンダーを引いて弾をリロード。
     階段に飛び込み、揺れる手元でもフレンダを捉える。
     距離は凡そ数メートル。落ちるようにして駆けてくる未来は一秒も持たずに射程圏内へ到達するだろう。
     当たるかどうかは相手の腕と自分の運に掛かっている。

    フレンダ(落ち着け)

     痛みはもう殆ど消え失せている。恐らくあまりの激痛に脳内麻薬――アドレナリンが多量分泌されたためだろう。
     それでも今は都合がいい。それならば、いつもと同じで遜色なく動けるのだから。
     思考を加速させる。本来の脳と能力での擬似脳、二つのそれで演算を開始する。


    202: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/07/14(木) 19:19:47.25 ID:rHyH6WoTo

     ぽろん、とスカートの中から何かがこぼれ落ちた。
     未来はそれに眼をやり、少しばかりそれを見開く。
     幾つも幾つも、少しの煙をあげながらスカートから出てくるそれは。

     ロケット花火。

     瞬間、それらは狭い非常階段内を疾走する。
     四方八方十六方に飛び回るそれは素早い動物を連想させた。
     そしてそのうちの幾つかが未来へと殺到する。

    未来「っ!」

     たかがロケット花火、されどロケット花火。
     結構な勢いのあるそれが開いた眼に直撃でもしたら失明の恐れすらあるのだ。
     銃で撃ち落とす――などという選択肢はとてもではないが取れない。弾だって無限ではないし、自分に当たる前に全てに命中できる気もしない。
     階段の途中だ、回避するのすら難しい。それならば。

    未来「これだけしかないですね!」

     銃の先を標的から外し、顔付近の防御に専念する。
     それ以外は当たっても火傷が精一杯だ。検討する必要すらない。
     庇いつつ最後の数段は身を投げて、回転受身をとりながら転がる。
     二つ程命中した腕部分は赤く晴れていたが、今は気にしている暇はない。
     再び構えてターゲットを捜すが、そこには既にその姿はなく。代わりに開け放たれた扉だけがあった。
     階を確認すると地下一階。そこは駐車場エリア。
     一応全ての出口には下部組織の人を張り付かせてはいるが、どれかの車を使われると簡単にバリケードは突破されるだろう。

    未来「……アレだし、それはないか」

     事前集収した性質的に。追われているときに目立つようなことはするタイプではないだろう。
     逆に車を使うと思い込ませて何かブービートラップを仕掛ける可能性のほうが高い。
     どちらにしても。

    未来「ここで、決着を付けましょうか」

     未来は誘われるように、開いている扉へと歩み寄った。


    216: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/07/31(日) 21:55:40.75 ID:UJ6q2vlKo

     地下駐車場と言えども明るさは地上となんら変わりない。
     光が差し込んでいるわけではなく、純粋に上層を支えるように何十本も立つ柱に取り付けられているライトの光によって、だ。
     しかしそのライトの甲斐なく、止まっている車は見渡すかぎり全体の五分の一、というところ。
     学生だらけの学園都市にそれだけの車を所持している人がいることに対しても驚きだが、それよりも重要なのはつまり隠れる所が少ない、ということだ。

    フレンダ(……どうする、か)

     心を奮い立たせて戦うとは決意したものの、倒す方法が具体的に思い浮かばない。
     相手の能力が直接的な攻撃力を持たないにしても自分への追跡を補助しているのは確かである。
     撃たれた足の痛みは今はアドレナリンが抑えてくれているとは言えども、それが切れて足を引きずるのも時間の問題。
     こうなれば道具箱の一つに救急セットでもぶち込んでおけばよかった、と思っても後の祭りだ。
     絶望的な状況。
     早くも中学生間近な少女の心は崖っぷちに立たされ、崩れかける。

    フレンダ(それでも、結局)

     賽は投げられた。動き出した歯車は止まらない。
     自らが承認した選択はもう引き返すことなどできない。例えそれがゲームの中でもない限り。
     故に絶望に引きずられた考えを別の思考で上書きして打ち消す。

    フレンダ(勝利条件、は)

     こういう時に出される選択肢は3つある。
     突発的に良い考えが思いつく、もしくは仲間が助けに来てくれる。或いは、助からない、現実は非情である。

     フレメアが警備員やら風紀委員やらの助けを呼んできてくれる、というのが一番いい方法なのだがそう甘くはないだろう、実際の風紀委員だった彼女はよく知っている。
     何かしらの事件があった時、そしてその規模が大きそうだった場合。上部の警備員に連絡して許可の承認を待ち、それから出発する義務がある。
     既に承認を待っている状態だったとしても認められるまでに多少の時間はかかるし、風紀委員といえども生徒だからその生徒に危険が及ぶ、と判断したなら不許可の時もある。
     その場合は警備員がちゃんと出動するが、その出動は出動届け、武装決め、武装の三段階をこなさなければならない。
     緊急の場合――第二警報や第一警報が発された場合はその限りに非ず、また不良などのいざこざならば風紀委員が即出動できるのだが、難しいだろう。
     風紀委員の詰所に始末書覚悟で直ぐ動ける覚悟のある人がいる場合はまた別だが……それに希望を託すというのもまた難しい話だ。


    217: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/07/31(日) 22:34:06.83 ID:UJ6q2vlKo

     となると、やはり選択肢は二つに狭められる。
     ……とはいっても、片方は既に選択肢ですらなく、結果になってしまっているわけだが。
     だから、最初から取れる選択肢など関係なかったのかもしれない。

    フレンダ(結局、相手を戦闘不能にするしか――っ!)

     ずきん、と鈍い痛みが脚部を襲った。
     思わず、苦悶に顔を歪ませる。唇を噛んで発されそうになった声を噛み殺す。
     痛みが舞い戻ってきた。時間は沢山と残されてはいない。

    フレンダ「……くそ」

     悪態を吐く。
     道具箱の中で役立つものなどあまりない。罠を設置する時間があれば役に立つものも多いが、単体で使えるものとなると中々に。
     仕えるものといえば、火薬つきのもの。先ほどまき散らした花火や、最初に使った爆竹のような。
     しかし花火は全て使ってしまったし、爆竹など至近距離で爆発させもしない限り大したダメージにはなるまい。
     やはり武器の有効さでは圧倒的にあちらが上なのだ。機動力で補いたいところだが足を撃たれているためにそれも無理。
     それ以外の方法で勝つといえば。

    フレンダ(地の利……)

     しかしここは地下駐車場。地の利も何も、柱と車ぐらいしか有りはしない。
     だが、自分に有利になるようにする方法がないわけではない。
     その判断でいいか悩むのもほんの束の間。先ほどの選択と同じように、他に取れる方法がないことに思い当たる。

    フレンダ(……よしっ!)

     決意し、立ち上がる。
     その勢いで車の陰から顔が飛び出て。
     パシュン、と。
     当たらなかったのは本当の強運だと思うほど近く――数ミリ前の視界を銃弾が横切った。


    219: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/07/31(日) 23:10:26.61 ID:UJ6q2vlKo

    フレンダ「――――――!」

     顔を引きつらせ、思考が固まりつつも身体を前に進むことが出来た。
     今のが外れたのは本当に僥倖だ。なにせ相手は爆竹を突然投げられても冷静にそれを射ぬくことぐらい容易にやってのける相手なのだから。

    未来「ちっ」

     対する未来はというと舌打ちをしつつ、車の陰から飛び出した動く的へと再照準する。
     こんな広く見渡しのいい場所で見失うはずなど無い。そもそも能力を使わずとも、地面に血が垂れているのだから。
     これで終い、と思いながら引き金を引く。
     が、カキン、と虚しく金属音が響き渡る限りだった。
     二、三度引き金を引くが、やはりハンマーが銃を叩くだけに変わりはない。

    未来「…………」

     再び舌打ちを放ち、苛立ちを募らせながら弾倉を抜き取って二つ目のそれを差し込む。
     スライドを引いて再び構えた時には既にフレンダは柱の陰へと移っていた。
     苛立つのは手間がかかっているからだ。決着をつける、とは思ったものの勝ちはほぼ確定だからなるべく早く終わらせたい、というのは当然のことだろう。
     憂慮すべきは弾の残量だが、それは今差し込んだシリンダーで最後。だがそれには九発の弾があり、この場所と彼女の腕なら半分も使わずに仕留められるはずだ。

     そっと足音を忍ばせてフレンダが隠れた柱(四角柱型)まで駆け抜ける。
     一度その柱――フレンダのいる場所の対面側に張り付いた。
     そして、素早く。

    未来「っ!」

     その場所に回りこみ、銃口を突きつける。
     筈、が。
     そこには、既に人の形など跡形もなく消え失せていて。
     代わりに存在するのは、真上を向いて火がついている一つの爆竹と。
     それを囲うように置いてある癇癪玉。


    220: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/07/31(日) 23:53:07.43 ID:UJ6q2vlKo

     パパパパパパパパパパパパパパン!と耳を劈く、幾つもの破裂音が重なる。
     いないとは思っていた。だから回り込んだ瞬間に銃は発砲しなかった。
     だがしかし、未来は素人の少女が、怪我をして判断力も鈍っているであろう少女が。こんなにもタイミングを合わせて火薬系の罠を仕掛けるなんて思っていもいなかった。
     白い煙が揺蕩い、一瞬だけ遠く感じた耳は直ぐに戻ってくる。

    未来「っ、この……どうせ負けるんだし、とっとと降参してくれればいいのに……!!」

     更に苛立つ。
     怒りをぶつける理由は自分の不甲斐なさへではなく、降参をしない相手に対して。
     この状況になったのを自分のせいでないと微塵も疑わない。頭に血が上っていて、冷静な時にできていた判断ができなくなっている。
     だからこそ、遅れをとる。

    未来(あの金髪は多分私とこの柱と自分を一直線上に置いてその直線上から逸れないように移動して隠れた、それ以外に逃げる方法なんてなし)

     瞬間で考えて、無意識に視界をその先へと向けた。
     女性は男性に比べて一瞬の閃きに優れている。だからこそ、女性は口喧嘩で勝ち易い。
     だがそれはやはり相手が男性だからであり、同じ女性――ましてや頭の回転が自分より早く、且つ冷静である同性には勝てない。

    未来(――いや、違う!そもそもこの方法だと、爆竹に火をつけてから私の視界から逃げ切れる筈がない!)

     視覚と聴覚。そして遅れてやってきた判断。三つの情報を仕入れて、彼女はようやく知る。
     足音は真後ろに走っているということに。

     ――フレンダは。
     消しきれていない足音を頼りに爆竹癇癪玉の罠を仕掛け、四角柱の柱の特性を利用して賭けに出た。
     即ち相手が面を一つ分移動した瞬間に自分も対面側に移動するという方法。角一つでも隔ててしまえば柱の壁に接着している人間はその角の先を見ることはできない。
     賭け、というのは相手が自分と同じ方に顔を出すか、或いは出さないかということ。確率は単純に二分の一。
     いや、移動が少しでも遅れて金髪の先が角へ消えるのがみられることも含めれば、フレンダにとっては分の悪い賭けだった。
     しかし、方法はこれしかなかったのだ。


     瞬間。
     バチン!と全ての照明がその存在意義を失う。


     そう、方法はこれしかなかったのだ。
     非常口――フレンダが入ってきて、未来が追いかけてきた場所にあるスイッチを落とすには。


    224: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/01(月) 23:10:36.77 ID:qchUQOzPo

     スイッチを落とせば当然辺りは暗闇一色に染まる。
     今まで見ていたものが見えなくなる――まるで異世界にでも入り込んだかのように。
     明順応、暗順応の原理。
     スイッチを押す瞬間に僅かでも眼を閉じていれば急激に襲うそれを少しといえども回避できる。
     しかし暗順応は行われるまでに少々の時間を要する。故に多少の誤差は変わらない。そう思いがちだが。
     冷静さと同じだ。たった少しの差は、縮まることのない圧倒的な差でもある。
     さながら、スポーツ世界の超えられない0,1の壁、とでもいえばいいだろうか。
     冷静さを失い、そして突然目の前が真っ暗になり。格言の『一寸先は』どころか一寸先すら見えない世界に投げ込まれて。
     錯乱しないはずがない。

    未来「っ!!」

     次の瞬間には彼女はその銃口を最後に見たフレンダの姿のあった方向へと向けて引き金を引いていた。
     弾数など知ったことか。当たれば勝ちなのだ、当たりさえすれば。
     三つ――四つの銃弾を投げ入れても悲鳴は無く、既に移動したのだということを悟る。

    フレンダ「――――――っ」

     撃たれたフレンダは撃たれたことを知る由もない。
     いくらを確認してからそのスイッチを切り替えるまで瞳を閉じていたとしても先程も言ったとおり僅かしか変わらない。
     一メートルも満たない先が歪んで見える、たったその程度。

    フレンダ(それでも――――!)

     一歩でも前へ。
     距離感覚を思い出しつつ銃撃が自分を狙う前(既に発されているが)に。
     走れ。
     走れ。
     走れ――――!


    226: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/01(月) 23:40:41.07 ID:qchUQOzPo

     パシュン、と音が聞こえる距離まで近づいた途端、銃弾が頬を掠めた。
     気付いた時には地面は眼前に迫っていた。
     鈍い音、そして鈍い痛み。

    フレンダ「っつ!」

     痛みと痺れ――その両方に後押しされ、地面を転がる。
     それが正しかった。
     チュイン、と自分がいた場所に何かがぶつかって跳ねたような音がしたのだから。

     身体の痺れは取れない。
     身体の末端を掠めたところではどうしようもなかっただろうが、脳内信号を操る脳部付近を掠めて強力な電流が流されたのだ。
     電気信号の命令が混濁していてもおかしくはない。

     ――だから、余計な考えなど捨てた。
     そもそも地面に伏して倒れた瞬間に考えていたことは全て吹き飛んだのだ。
     侵入の際に効果を発揮した近接目眩まし用に取り出した懐中電灯も先ほどの衝撃で転がっていった。
     拾っている時間など無く、そもそも暗闇でどこにころがったかもわからない。
     作戦が失敗した以上、余計な概念や考えなどいらない。
     例え撃たれたって構わない。
     全てを直感で。
     全てを直前で。
     あらゆるルールを投げ捨てて。
     目的を、遂行する。


     彼女に、拳銃に残された弾数は既にわからなかった。
     最初の錯乱時に打ち過ぎて、つい先程の音――恐らく最後の一発が僅かに命中して倒れたのだろうと予測して――に更に一発使った。
     それでも反応はなかった。
     即死ならきっと声など上げる暇もなかっただろうし、どこか射抜いていたとしても電流で痺れて声をあげられなかったのだ、ということも十二分に考えられる。

    未来(いや――そうじゃなかったらもうきっと目の前にいるだろうし、きっと、そうに違いない。うん、違いない)

     自分に言い聞かせるように考える。
     全身の熱が辺りに放出されたように抜けていく感覚に囚われて、そして自分の息の荒さにようやく気がついた。
     どうやらそこまで追い詰められていたらしい。


    227: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/02(火) 00:02:36.10 ID:yO6mbWmHo

     ダンッ!と何かが地面を叩いた。
     再び衝撃が走る。
     考えるまでもない。『奴』だ。

    未来「っ、この――――!」

     構える。
     足音の強さからして直進。疑うまでもない。
     フレンダは勿論、彼女ですら知ることがないがこれは正真正銘最後の銃弾。

     放つ、前に。
     少しでも距離をとろうと、未来は後ろへと跳んだ。
     着地、同時に放つ。
     パシュン、と風船の空気が抜けるような間抜けな音と共に発された銃弾は。
     得てして、自分の向いている方向へとまっすぐに飛んでいった。


     ――それは、あくまで天井へと、なわけだが。


    未来「――え?」

     ようやくうっすらとだが見えたそれに、未来は唖然とすることしかかなわなった。
     全てがスローモーションに感じる。
     思考が途方もなく引き伸ばされる。
     その思考で、彼女は考える。
     何故。
     何故、自分は天井へと、引いては空、天へと身体を向けているのだろうか?
     本能的に、銃を持っていない手を伸ばす。
     流れの遅い世界で何かをつかもうとその手はゆっくりと閉じて。
     それでもやはりその手は何も掴むことはなく。
     彼女の世界は再度加速し、投げ出されていて支えられてなど微塵もいないその身体も、重力の制限を享受する。


    228: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/02(火) 00:25:43.01 ID:yO6mbWmHo

     フレンダは――――
     電源を消す直前、爆竹が爆発した直後。
     自分が電気を消すのだと感づかれても追いかけてくるのを阻止するため、またそれを見て動きを躊躇わせるようにばらまいた、一つのものがあった。
     未来はそれに一度既に引っかかっている。

    未来(ビー玉!)

     勢いで広範囲に散らばったそれを、彼女は踏みつけてしまった。
     それは、紛れもなく偶然だった。
     フレンダが未来の追撃を防ごうとばらまいたビー玉も。
     未来が錯乱してそのビー玉に気がつかなかったことも。
     そして未来がそのビー玉を踏みつけてしまったのも、全て。

     それでも。
     それを誘導したのは、間違いなくフレンダだ。
     電気を消して動揺を誘い、そして最後に距離を一気に詰める、と言わんばかりに駆け音を踏み鳴らした。
     結果がこれを生み出した。
     この、自らが勝つ唯一無二のチャンス。

    フレンダ「っ、ぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」

     まるで、それは獰猛な獣のように。
     呆然と愕然と、ただ天井を見つめる未来に対してフレンダは真上から飛び込む。


     勝負は、決する。
     多数にあった袋小路の道を切り捨てて、唯一の活路を導き出した少女の勝利によって。


    229: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/02(火) 00:45:45.09 ID:yO6mbWmHo

     ■   □   ■


    フレンダ「……やっばい、マジで死ぬってわけよ…………」

     癇癪玉の焼け跡が黒く残っている柱にもたれかかる。
     もはや一歩も動けない。先ほどまで痛みはあっても平気に動いていた足だって力すら入らない。

     横に視線を移す。もはや暗闇で数メートル先も見えるようになった眼に、意識が落ちている時久未来の姿がある。
     笑いがこみ上げてきた。というより、笑いしか出てこなかった。
     当たり前だ、自分が使ったのは全て子供の悪戯レベルのおもちゃに違いない。そりゃあ危険なものだってあっただろうが、拳銃に比べてしまうと本当におもちゃのようなものだ。
     それなのに、勝った。
     運が良すぎ、というレベルではないだろう。奇跡と呼んでいいぐらいに偶然が重なった。

    フレンダ(――ほーんと、出来すぎってわけよ)

     神様、なんてもものは信じていない。
     だからそんなものに感謝などしない。
     今ここにあるのは、つまりそうなるべくしてなった結果である。
     そこに感動を感じる理由などない。あるとするならそれは、達成感、或いは優越感。
     自分の、そして相手の運命を掌握したかのような錯覚。

    フレンダ(結局、こいつはこうなるべくして生まれてきたんだ――ってね)

     鼻で笑ってしまう。
     内容と、そんなことを思った自分に。
     そして。
     虐めっ子だった筈の相手が自分との戦いによって地に伏していることに。

     深く息を吸い、そして吐いた。
     その際に瞑られた眼は、開かない。

    フレンダ(結局、もう、眠い……ってわけよ…………)

     彼女の身体の活動限界はとうに超えている。
     足が動かず、瞼が重いことからも簡単に推測はできよう。


    230: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/02(火) 01:09:50.54 ID:yO6mbWmHo

    フレンダ(あー……ダメ、少しだけ、少しだけ………………)

     無意識に、もう一度息を大きく吸った。
     と、その時。
     視界が紅くなった。

    フレンダ「っ!?」

     紅くなった、というのは間違いかもしれない。
     しかし光源を直接浴びている時に眼を閉じているとどことなく紅い感じもするから絶対な間違いではないだろう。
     咄嗟に目を開けてしまい、光が瞳を焼くような感触を味わった。

    フレンダ「う……っ!」

     腕も持ち上がらない為、首を振ってゆっくりと眼を開き徐々に慣らす。
     足音がした。
     タタタタタタタ、と子供の駆けるような足音と、そしてコツ、コツ、コツ、と遅れてやってくるゆったりとした足音。
     近くにある未来の気絶体に近寄って様子を伺ったそれは、入り口からは柱の陰にいていることに気がつかなかったであろうフレンダに気付いた。

    フレメア「フレンダお姉ちゃん!」

     まるで行方不明だった家族に再開したかのような喜びようで。
     フレメアは全く動かないフレンダへと抱きついた。
     そのフレンダはというと、まだ眼を開くこと叶わず、しかしその聞きなれた声はしっかりと耳に届いて、鼻腔を擽るその香りは自分が昨日洗ってやった髪についている香りだ。

    フレンダ「フレ、メア……?よかった、結局、無事だったってわけね…………」

     心から安堵する。
     まだこの場にいたことは叱る対象にはなるが、それでも今は脅威は去っている。
     それに心配で残って、探してくれていたのだ。この場では感謝こそすれ、怒るところではないだろう。


    231: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/02(火) 01:32:59.20 ID:yO6mbWmHo

    フレンダ「……っつ」

    フレメア「……お姉ちゃん?」

     痛みに顔を歪ませるフレンダに、その妹は怪訝そうな顔を浮かべる。
     そんな少女に気付かれないように、彼女は腕をそっと上げて、ぽん、とベレー帽越しに頭の上においた。
     眼を丸くする妹様に、これまたゆっくりと手を動かして撫でる。

    フレンダ「ありがとう、ってわけよ。追いかけてきてくれて」

     微笑みながら撫でるフレンダに、フレメアは少しだけ赤面した。
     そしてもぞかしそうに身体を動かし、そして口を開き、

    フレメア「……にゃあ」

     鳴いた。
     驚いて、手を止めてしまう。
     猫のように、鳴いた。
     フレンダは二、三度、眼をぱちくりとさせた。
     フレメアは他人の口癖を模倣する。昔の自分とそっくりだ。
     そして自分はにゃあ、などとはつかわないし、戦闘が始まって別れる前にもフレメアが使っていた様子はない。
     だったら、別れてから今に至るまでに出来た口癖、ということになる。

    フレンダ「……フレメア、それは、」

     ――誰の?
     答えは、向こうからやってきた。

    「あー、お取り込み中のところ悪いけど、ちょっといいかにゃーん?」

     制服を着ている、自分より身長の高い女の人。
     フレメアは彼女を仰ぎ見る。その口が、名前を紡いだ。

     『麦野お姉ちゃん、にゃあ』と。

     フレンダ=セイヴェルンは悟った。
     例え、万全の状況で、どんなに自分にとって有利な場所であったとしても。
     ――この化物にはきっと敵わない、と。


    235: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/03(水) 00:25:21.15 ID:xv59rZRTo

    麦野「…………」

     ちらり、と麦野は傍らに倒れた未来を一瞥する。
     血は多少流れているものの、傍から見ている限りでは命に別状はないようで僅かに安堵した。
     フレンダはそんな麦野から視線を外せない。第六感とでもいうのだろうか、そのような自分の感覚でないそれが理解していた。
     敵であると。そして敵うような相手ではないと。
     それでも。彼女は諦めるわけにはいかないのだ。
     限界もとうに超えている状態で、力を全力で注いで腕一つようやくまともに動かせる状態で、考えるのだ。この場を切り抜ける方法を。
     唯一この場の状況を理解できていなかったのは、自らを強い能力者だと自称した麦野を連れてきて、そして姉を助けたいと考えていた無垢なる少女だけだった。
     麦野は未来から視線を自らを窺う姉と、そして怪訝そうな顔をしている妹へと向けた。

     麦野が先に眼を止めたのはフレメアだった。
     しゃがみ込み、視線を合わせようとする。何をするか全くわからなかったフレンダは腕で制そうとするが、それすらも儘ならない。
     そうして麦野はフレメアの手をとり、その手にポケットからとりだした小さな小銭入れを握らせた。

    麦野「ねーフレメアちゃん。私喉乾いたから、ジュース買ってきてもらえるかにゃー?勿論フレメアちゃんの分と、お姉ちゃんの分もね」

    フレメア「……うん、わかった、にゃあー」

     握らされた手を見て一拍。フレメアは笑みを浮かべて麦野の言うとおり飲み物を買いに階段の方へと足を向けた。
     直ぐに視界から消えたフレメアを見送りながら、フレンダは意図を考える。
     フレメアは飲み物を購入したら戻ってくる。だから別に逃したわけではない。単純に席を外させただけだ。
     しかしフレメアに席を外させる必要性もわからない。
     妹の前で姉を傷つける所を見られたくないから?否。どうせ強制的にフレメアは捕まえられるのだから無意味だろう。
     ならば、どうして?
     疑惑の眼を向けられた麦野は再び立ち上がり、座りながら壁に凭れかかるフレンダを見下ろした。

    麦野「……一応、確認しておく。未来……これ、アンタがやったのよね?」

    フレンダ「……そう。結局、そっちは、なんなわけ?お仲間?」

    麦野「そうね……仲間であり、友達……親友ってところかしら。でも仕事中は、そんなの関係ないけど」

     麦野は言いつつ手持ちぶたさそうにスカートのポケットをまさぐり、何もないことを理解して腕を組む。


    236: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/03(水) 00:44:15.52 ID:xv59rZRTo

    麦野「……非戦闘能力者だからって、一応戦闘訓練受けてるんだけどねぇ……射撃演習ではそこそこの成績だしてるし」

    麦野「まー自分も動きながら当てるのは苦手だったみたいだけど」

    フレンダ「……なんの話?」

    麦野「ん?ああ、戦闘訓練っていってもそっちみたいな風紀委員のとは違うわよ。もっと実践的な、言うなら暗殺とか殺人とかそんな感じのやつ」

     関係のない話、と思ったフレンダは説明を求めたのだが、麦野から返ってくるのはやはりとりとめのない答え。
     何をいいたいのか。フレンダは頭をかしげ、ひねらせる。
     麦野は頭をガシガシと書きながら、ようやく答える。

    麦野「あー、なんていうの?アンタはすごいねぇ、って褒めてやったってだけの話」

    麦野「いくら風紀委員の訓練を受けていても私らと互角に……いや、別に知らないけどさ。互角に渡り合えるのはそんなにいないからね」

     知らないのにいない、との断定は何事か。
     そして未だ全貌が掴めない。褒めて、『アンタはよくやった、だからここで死ね』とでも言うのだろうか、と脳裏を過る。
     しかしそんな素振りはない。
     すごい相手だ、というようなオーラはあっても殺意が全く込められていない。

    フレンダ「結局、そっちは……何がいいたいってわけ?私を捕まえるの?それとも、殺すの?」

    麦野「なーんでそっちの方向にいくのかにゃー……いや、未来がそんな風だったから仕方が無いと思うけどさ」

     やはり麦野は困ったように後頭部をガシガシと掻きむしる。
     それをやめたとおもいきや、今度は言葉を探すように胸の前で人差し指を立てた右手をぐるぐると回した。

    麦野「そりゃーね?私だって最初はアンタをさっさと捕まえて、もっと大きな仕事を舞い込むようにしようと思ってたってわけよ?」

    麦野「でもさー、そうして仮にも本気だった――私は本気じゃないけど、本気だった未来を翻弄して退けたってのはやっぱり賞賛に値する訳。ましてや」

     言いつつ、麦野は足元に落ちてたビー玉を拾い、覗き込む。


    237: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/03(水) 00:56:51.55 ID:xv59rZRTo

    麦野「ましてや、こんな子供だましの道具なんかで、ね」

     それはフレンダ自身でも思う。
     今でも運がひたすらによかった、としかいいようがない。
     例えるなら三つのサイコロを投げて全部六が出るような。それでも一〇〇分の一程度の確率だ。
     だが、よく言われる一%以下――その確率を実現したのは紛れもなくフレンダである。

    麦野「んで、私はこうも思うのよ」

     子供だましで、その一%以下の確率を勝利へと導いた。
     それがもし、子供だましではなかったら?
     おもちゃで戦況をひっくり返したというのに、それがおもちゃではなかったら?
     例えばビー玉が地雷だったら。例えば爆竹がダイナマイトだったら。例えばロケット花火がロケットランチャーだったら。
     恐らく、全ては一瞬で終わりを迎えたことだろう。

    麦野「……多分そろそろあの子戻ってくるだろうし、簡潔に言わせてもらうわ」

     再び、麦野は腕を組んでフレンダを見下ろす。
     それは別に見下しているわけではない。
     そうすることがリーダーとしての威厳を示すものだからだ。

    麦野「アンタ、私の下に――『アイテム』に入らない?」

     わけがわからなくなった。
     追われて、攻撃されて、追撃して。それであまつにはその組織に入らないか、などと。
     簡単に理解できるものではない。

    フレンダ「……なんで」

    麦野「簡単よ。私達にメリットがあるから」

     ピッ、と麦野は左手を腰に当てて、右手の指を立てる。


    238: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/03(水) 01:18:06.67 ID:xv59rZRTo

    麦野「私達ね、ぶっちゃけ人手不足なの。私達の正式構成員は私と、そこでぶっ倒れてるそいつ、未来だけ」

    麦野「他にも使える奴はいるんだけど……ダメね。どれもスキルアウトやそこらの不良に毛が生えた程度のもんでしかない」

    フレンダ「……だから?」

    麦野「ん、だから。私達と互角に戦えるってことはつまり使えるってこと。姿を見られずに研究所に侵入してガキ共を逃し、未来を返り討ちにしただけで十二分」

    麦野「私達には至急に戦力が必要なの。他の組織に対応できて、またこの闇から逃れるための戦力が」

     だから、あなたを誘ったのだ。麦野はそう締めくくる。
     言い分は理解はした。しかし納得はできない。
     果たして、自分がこのような手を染めることにどのような意味があるというのか。
     ……戦闘では色々な行動を考えられつつも、この時点で自分の立場が同じであるとしか考えられないのはやはり人間的なものだろう。

    麦野「納得できないって顔ね。ま、当然か……んじゃ言い方を変えるわ」

     フレンダはズバリと言い当てられて、麦野は小さく溜息を吐く。
     そしてその目は、先程よりも冷たいものに変わる。
     それがまた、これから問いかけること、言い換えることの深刻さを深めた。

    麦野「じゃあ聞くけど。もしアンタが今ここで断って、私の手を偶然逃れるかしたと仮定して。アンタに未来はある?」

    フレンダ「……どう、いう…………?」

    麦野「私達は『学園都市』なの。アンタはその手の中から逃れられると本気で思っているのかしらってコト」

     ギクリ、とした。
     自分達は『学園都市』だと。麦野沈利はそう言ったのだ。
     決して嘘や出任せではないことは、その口調から理解できた。


    239: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/03(水) 01:32:52.64 ID:xv59rZRTo

    麦野「言うなら、釈迦の掌の孫悟空ってとこね。逃げたつもりでも逃げ切れていない。不可能なのよ、逃げることは」

    麦野「……この私達だってね」

     麦野がぼそっと呟いた一言で、意味が繋がった。
     だから求めるのだ、戦力を。学園都市から逃れるために。
     繋がれた首輪を、噛みちぎる為に。
     心なしか、麦野は唇を噛みしめて、そして僅かに震えているようにすら見えた。

    フレンダ「………………」

     それでも。フレンダは、それでも。
     諦めずにはいられない。逃げることを選ばずにはいられない。
     そして。
     自分は、会いたいのだ。
     恋焦がれている、あの少年に――――

     それでも、と。
     麦野は紡ぐ。

    麦野「……それでも、それでもアンタが断るっていうんなら――そうね」

     麦野はとびっきりの、酷い顔をフレンダへと見せた。
     先程まで、抜けだしたいなどと慟哭していた人とは思えない程の、酷い顔を。

    麦野「私も、あまり小さい子は手に掛けたくないんだけど」

     心臓が一瞬、止まった。
     唾を飲むことも、息をすることも、瞬きをすることすら忘れる。
     断ればどんなことになるのか、理解する。

     差し出された選択肢は二つ。
     『学園都市』の狗として先ほどまでの自分のように闇に対してイケナイコトを行った人を追いかけるのか。
     或いは最愛の少年に会いたいがために、ただ一人の妹すら犠牲にして学園都市から逃亡する生活を選ぶのか。


    240: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/03(水) 01:39:27.35 ID:xv59rZRTo

    フレンダ「――はは」

     フレンダは、嗤う。
     嗤うしかないのだ。
     そうするだけで全身に痛みが走るが、笑うしかないのだ。

    フレンダ「はははははははははは――――――――っ!!」

     無表情で自分を見つめる麦野の前で、一頻り笑って。
     フレンダは全身が脱力する。
     ――選択肢など、元より残されていない。
     それに。
     こちらには、まだ可能性だってあるのだから。
     例え、遠回りになっても――可能性があるならば、そちらを選ぶべきだ。

     フレンダ=セイヴェルンは人間だ。
     生物学的なものではなくて、性格的なモノが限りなく『人間』だ。
     自分と、その大切なもの以外は、知ったことか。
     そして、その大切なもののためなら、例え悪魔に魂だって売ってみせよう。

     フレンダは答える。
     麦野の誘いに対して。

    麦野「そう」

     麦野は、短く、ただそれだけを呟き。
     一歩も動くこと叶わぬフレンダへと手を差し伸べた。

    麦野「ようこそ、『アイテム』へ」



     ――これが。
     フレンダ=セイヴェルンが暗部へ――『アイテム』へと入った経緯である。


    241: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/03(水) 01:41:02.41 ID:xv59rZRTo

     過去編、終了!


    246: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/05(金) 01:54:56.60 ID:3yYVwla2o

     ■   □   ■


    「ははぁ……なるほど」

     聞き終わり、感心したように吐かれた息が一つ。
     前のめりになっていて固まった姿勢をほぐすかのように、思いっきりソファーの背もたれによしかかる。
     そのまま背筋を伸ばす。コキコキ、と気持よさそうな音がなった。

    「超修羅場くぐったんですね、フレンダ。一歩違えば闇の底行きですよ?」

    フレンダ「まぁねぇ……結局、麦野に勧誘されてなかったらそうなってたってわけよ」

     やれやれ、とフレンダは首を振る。
     フレンダは自分と麦野との出会いを話の種として撒き、そして見事に花を咲かせていた。
     とはいったものの、反応があるのは目の前の三人掛けのソファーに座る二人のうちの一人、絹旗最愛の方である。
     もう一人の滝壺理后は聞いているのか聞いていないのかよくわからないようなぼーっとした表情でジュースをちびちびと飲んでいた。

    フレンダ「……結局その件も含めて色々と利点もあったし、結構感謝してるってわけよ。ギャラもいいし、かなりの融通もきくし」

     あの時想った少年にも再開を果たすことが出来たし。心でそう呟く。
     最も、今やあの頃の想いを告げることなど叶わない、叶うわけなどない。
     なぜならば。

    フレンダ(この手はもう、汚れちゃってるってわけよ)

     見るのは、両親から受け継いだ白い肌に覆われた両手。
     彼女の戦法的に、実際にこの手の中でそれをしたことは両手で数える程だがこの手で最後の決定を下したのは指の数では数えれない。

     溜息を、一つ。
     多分、おそらく。二度とあの少年に自分の心の内など吐露することはありえないだろうから。
     仮にもそうしてしまったなら、少年に迷惑がかかることこの上なしだろうから。
     だから、それの諦めの溜息。
     何度ついても想うたびに吐き出されてしまう。きっと少女はそれほどまでに少年が好きだったのだろう。
     一途、という言葉ではきっと片付けられない。これは一種の執念とも言える。
     けれど、されど、しかし。
     やはりその想いをぶつけることは不可能なのだ。

    フレンダ(だから――ただ傍に居させてくれるコトだけは、許してほしいってわけよ)

     それがまた、新しい溜息の原因になることを知っていても。
     それによって僅かな幸せを感じることができるから、フレンダ=セイヴェルンはそう思わずにはいられず、願わずにもいられない。


    247: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/05(金) 02:15:41.54 ID:3yYVwla2o

    絹旗「しかし……」

     絹旗は考えるように腕を組んで、眼を瞑った。

    絹旗「麦野にしては超甘すぎる処置じゃないですか?フレンダに対してもそうですし、元センパイに対しても……いやしたんですか?聞いてませんけど」

    フレンダ「ううん、時久にも麦野は何もしなかったってわけよ。結局、したのは……そうだね、ウメボシとか拳骨とかそんなレベル」

     聞いた絹旗は眼を丸くした。
     それはもう、信じられないとでもいいたげに。
     聞いていたのか聞いてないのかよくわからない滝壺も、その言葉にフレンダの方に顔を向けた。

    絹旗「信じられませんね。麦野なら指の一つや二つ、超折りにきそうなものですけど」

    滝壺「……戦力が足りなかったっていっても、フレンダ自身にも何もしなかったっていうのもおかしい。今なら問答無用で足を射ぬいて依頼人に突き出しでもすると思う」

     酷い評価だ、と思いつつもフレンダはそれを否定することはしない。
     それが絹旗最愛、滝壺理后両名の知る麦野沈利という人物だからだ。それまでとこれまでを知っているフレンダは印象の違いがよくわかる。
     そして、そうなってしまった理由も。

    フレンダ「よくも悪くも、時久は麦野の親友だった――ってわけよ」

     目の前の二人は顔を見合わせた。
     フレンダは軽く笑う。確かに今の一言でわかれ、というのは難しい話だろう。
     けれどそれが真実なのだ。
     時久未来が彼女の親友であったことで、今の麦野がある。
     しかし、もしも彼女が麦野の親友でなかったなら過去の麦野沈利も今の麦野沈利も存在しなかっただろう。

    フレンダ「結局、わかりやすく言うと。時久は死んだってわけよ。組織を脱退したとか別組織に移されたとかじゃなくて、死んだの」

     フレンダはそんなことすらも簡単に、こともなしげに告げる。
     昔ならばきっと躊躇いを覚えていただろうに。もはやこの程度のことならば言うことにすら何も感じることはない。

     ――そう、時久未来は死んだのだ。
     他ならぬ親友、麦野沈利の目の前で。


    248: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/05(金) 02:35:22.34 ID:3yYVwla2o

     あの時はまだ三人だった。
     麦野沈利、時久未来、そしてフレンダ=セイヴェルン。
     三人は暗部から抜けだそうとした。そして、失敗した。
     どうやって抜けだそうとしたのかその方法は割り合いする。もはや過去のことであり、失敗した出来事なのだから。

     その際に、時久未来は死んだ。呆気無く。酷く簡単に。
     麦野が死に際の彼女を抱いて慟哭していたのを、フレンダは今でも覚えている。
     雨が降っていた。血が流れていた。一人が、もう一人の親友を抱えていた。
     さながら、映画のワンシーンを彷彿とさせた。
     台詞の言い回しすらもそんな雰囲気を感じた。
     その時の自分は何を言っているのかはよくわからなかったが、自分がまだ入っていない『アイテム』で何かあったのだろうということだけは理解できた。

     悪役がいた。
     それは麦野と同じ年齢ぐらいに見える、少年というよりも青年に近い男。
     第二位の、垣根帝督と名乗った。
     圧倒的だった。
     反撃も許されなかった。
     何が起こってるかすら理解できなかった。
     こちらにも第三位が居たというのに、何をすることもかなわなかったのだ。

     結果、『アイテム』は敗北し、時久未来は命すら失い。再び暗部へと舞い戻ることになった。
     何がいけなかったのか、何が悪かったのか。
     幾度検討をしても、幾度思考を巡らせても、それすらわからない。
     そんな中、麦野は言ったのだ。
     誰に言うでもなく、言ったのだ。

    麦野『やっぱり――全部幻想だった、ってコトね』

     その時の麦野は、一体何を考えていたのかフレンダにはわからない。
     けれど以前までの麦野と何かが変わった、というのは理解できた。
     過程よりも結果を求めた。
     なによりも力を求めた。
     第四位に降格された時にはただ怒り狂った。

     今ならその気持ちがどういうものかわからないでもないが――
     けれどやっぱり、理解は遠く及ばない存在になってしまったのだ。


    249: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/05(金) 02:46:06.32 ID:3yYVwla2o

    フレンダ「結局、麦野は――――」

     言いかけた瞬間。
     背後から嫌なくらいに聞きなれた声が自分に投げかけられた。

    「フーレンダぁ、一体全体、なーにはなしてんのかにゃーん?」

     びくっ、とソファーに座ってた身体が跳ね上がる。
     いないはずだ、いなかったはずだ。でなければ自分の昔話などできるはずがない。
     今の麦野にとって、時久未来の話は恐らくタブーのはずなのだから。
     すっ、と両手が視界の端に現れてその頬を撫でた。
     目の前で絹旗が我関せず、と映画のパンフレットに視線を落とし、滝壺はまた再びぼーっとし始める。
     もはや、助けはない。
     振り向けもしない状況で、フレンダは後ろの人物へ震える声で話しかける。

    フレンダ「む、むむむむむむ麦野、結局、一体いつから話を聞いてたってわけよ?!」

    麦野「んー?いや、マジに今来たとこ」

     それを聞いてほっとする。
     少なくともあの時の話は聞かれていなかったようだ。
     ほっとするのも束の間、フレンダの顔は無理矢理上へと向かされた。
     視界いっぱいに、口端を釣り上げたリーダーの顔が広がる。

    麦野「んーで、フレンダ?私の何を話してたのかにゃーん?」

    フレンダ「あの、その、ええと…………」

    麦野「んー?」

     逃げられない。
     悟ったフレンダは思考を停止して、ゴメンナサイ、とだけ言う。



     室内に悲鳴が響き渡った。
     勿論、気に留める人物は誰もいない。


    253: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/06(土) 15:40:10.67 ID:2g4hLujfo

     結果、フレンダは地に伏していた。
     燃え尽きているように見えるのはきっと気のせいだが、しかしそれでもまともに動くことはなく、時折痙攣をするかのようにぴくぴくと動く。
     そして彼女をそのようにした当の本人、麦野はというと腰に手を当てて彼女を見下していた。

    絹旗「……終わりましたか?」

    麦野「まーね、全くもって有意義でも何でもない時間だったわ」

     動かないフレンダはほうっておいて、麦野はそのフレンダが座っていた場所に陣取る。
     だが座っていた場所とはいっても、絹旗、滝壺が座っているような三人掛けのソファーだ。
     その真ん中にドカッ、と座り占領するその姿はさながらどこぞのマフィアのリーダーに見えなくもない。
     この暗部組織がそれに劣るものなのかと問われれば、そうではないのだろうが。

    絹旗「しかし本当に超速かったですね。もう少し時間がかかるものだと思ってましたが……」

    麦野「ほーんと一瞬だったわよ。足二、三個ブチ抜けば一瞬一瞬。ペラペラと紙のように吐いてくれたわ」

     彼女がしていたのは尋問だ。
     上から始末しろと言われて始末し、その中で敢えて一匹だけ残したねずみの尋問。

    麦野「今までもそうだったけど、頭が足りてないわ。なんで情報を喋れば助かるとでも思ってんのかしらね」

     そしてそれを終えた後は跡形もなく消し炭にする。
     麦野沈利の能力は『原子崩し』、人一人の存在を消失させることなどわけはない。
     それを告げた時の相手の絶望の顔を見た時がたまらなく麦野には心地良く感じる。
     力こそが全て。まるで世界の支配者にでもなったような、そんな感情すらある。

    滝壺「……でも、どうしてむぎのはいつもそういうことしてるの?別に仕事内容に含まれてるわけじゃないのに」

    麦野「あー?プライベートよプライベート。だからあんたら使ってないでしょーが」

     少しだけ、麦野は不機嫌になる。
     まるで自分の領域、部屋に無断、そして土足で踏み入られたような表情をする。


    254: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/06(土) 16:06:35.47 ID:2g4hLujfo

     プライベートで尋問して相手を殺すのは絹旗らにしてみれば正直性質の悪い遊びにしか見えない。
     仮にも仕事でそういうことをしているとはいえ、趣味でやるのは面白いものとは言えないからだ。
     それでも彼女らはそれを趣味としているリーダーに口をだすことはない。

    絹旗(何が待ってるか、超わかりませんから、ね)

     パタン、とパンフレットを閉じる。
     同時に部屋中に響き渡る音量の、最近テレビで流行っている歌手の歌が流れた。
     携帯だ、ということは全員一瞬で理解した。だがその音源は麦野でも、絹旗のものでも、滝壺のものでもない。
     ならば誰の?と思うのも束の間、それは数秒も待たずしてで消える。
     そしてその電話に出た持ち主の声が代わりに聞こえた。

    フレンダ「はーい、こちらフレンダでーす」

     フレンダ=セイヴェルンだった。
     見ると先ほど麦野にやられた格好のまま、器用に頭だけ起こして電話に出ている。
     しかしその声は、嫌なくらい楽しそうに見える。
     絹旗と麦野、彼女ら二人は黙ったままそれを見つめていた。

    絹旗「…………」

    麦野「…………」

    フレンダ「うん、うん……うん、いくってわけよ!……うん、わかった。それじゃあねー」

     そういって切られた電話はパチン!と二つ折りに戻り、スカートのポケットへと戻される。
     立ち上がった彼女は何事もなかったかのように体全体を伸ばす。
     関節が溜まった空気の破裂音を出す。
     ひと通り終えた後、よしっ、と両手の手を握って彼女は小さくガッツポーズをした。
     そしてソファーに座っている麦野達を仰ぐ。

    フレンダ「それじゃあ、ちょっと行ってくるってわけよ!」

    麦野「あーはいはい、仕事入ったら招集するから、直ぐにきなさいよ」

    フレンダ「結局、わかってるってわけよ!」

     例えるなら、風のように。
     先程までの空気はどこへやら、フレンダ一人の言動で吹き飛んでいってしまった。
     絹旗は、呆れと感嘆が混ざったような溜息を吐く。


    255: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/06(土) 16:29:33.97 ID:2g4hLujfo

    絹旗「……麦野的には、アレは超別にいいんですか?」

    麦野「なにが?」

    絹旗「ですから、アレ。フレンダのことですよ」

     コップに入っているコーラを飲みながら絹旗は尋ねる。
     カラン、とテーブルに置いた拍子に氷がコップとぶつかり合い、音を立てた。

    絹旗「……学校に通ってること。あと、こうして遊びに超ふけてること」

     絹旗のその口調は少しだけ不満があるようにも聞こえる。
     当然といえば当然かもしれない。彼女は学校に通うことを是とされていないのだから。
     隣に座る滝壺も同様だろう。制服を着ている姿など一度も見たことがない。

    麦野「別にいいんじゃないの?上からもちゃんと承認出てるみたいだし、でなきゃ通えないでしょうに」

    絹旗「そうですけど……でも、麦野は」

    麦野「私としても、別に問題あるとは思ってないわ。寧ろ必要なことだと思ってるから」

     遮られて言われた答えに、絹旗は眉に皺を寄せる。

    麦野「フレンダはね、まだ持ってるのよ」

     それだけでは絹旗にはわからない。
     だから問いかける、何をもっているのか、と。
     麦野は鼻で笑って、その先を続けた。

    麦野「とてつもなく大きな希望を。是が非でも貫きたい願いを」

     そこで麦野は一拍だけ置いて。
     嘲笑う様に言った。
     まるで、それを抱くのは間違いだとでも言うように。


    麦野「――『幻想』って奴をね」


    261: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/11(木) 00:19:32.00 ID:0fQxChx+o

     ■   □   ■


    フレンダ「とーうまっ!!」

    上条「うおっ!?」

     フレンダには見境がない。
     上条当麻の姿形を見かけたら、いつでもどこでも背後から飛びかかる。
     途中で気付いて前を向いても知ったことではなく、自分の全体重を任せて跳びかかる。
     それは彼女が彼に全信頼を寄せている証でもあるのだが、それでもこう毎日続くと目に余るものがある。
     上条は溜息を吐きつつ、呆れたように後ろにぶら下がっている幼馴染に語りかける。

    上条「フレンダ……前にやめろっていったよなぁ……?」

    フレンダ「私も前に無理って言ったわけよ」

     言われ、上条は苦笑いを浮かべる。
     もはやこのやりとりはテンプレートになってきている。だから上条も言っても無駄だとわかっており、それほど強くは言いはしない。
     もっとも、フレンダは一般的に見れば美少女に他ならない。それに抱きつかれるという幸福と、そもそも特に危害となっていない事と比べてみれば圧倒的に前者が上回る。
     故に上条はフレンダとのスキンシップを甘んじて享受しているわけだ。
     そんな光景をみて、上条の隣を歩いていた青髪ピアスは冷たく恨めしそうな声で呟く。

    青ピ「カミやん爆発しろ」

    上条「なぜにっ!?」

    青ピ「だってうらやましいやんか!なんねんな、金髪やで!?碧眼、加え幼馴染にベレー帽!特徴的な口癖もあわせれば合計HPは10もくだらないんやで!?」

     青髪ピアスは興奮して必死の形相でまくし立てる。
     彼は所謂『モテない』男子の部類。故に日常的に美少女の抱擁を受けている上条を見逃せないのだ。
     ちなみにHPとは、ヒロインポイントのことを指している。


    263: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/11(木) 00:47:41.78 ID:0fQxChx+o

     だが上条的には『知るか』だ。
     金髪碧眼はまだいいにしても、幼馴染なんて昔の、或いは昔からの友達につく称号であり、悪い言い方をすれば腐れ縁となる。
     特徴的な口癖なんて世の中に溢れている、なんてことはないが少ないわけでもない。
     ベレー帽なんてただの付属品、オプションであり被るだけでそのポイントが上がるというのなら誰だって被るだろう。……上げようと思う人は少ないはずだが。

    青ピ「あーもう、ほんまなんなん!?カミやん、態々フレンダちゃんに抱きつくなーなんていうぐらいならボクに譲ってほしいわ!というか寧ろ譲れ!」

     いうやいなや、カモン!と言わんばかりに腕を広げる青髪ピアス。
     フレンダは抱きついたまま上条の肩越しにそれを眺めて、笑顔を浮かべる。
     しかしその笑顔は面白いだとか、嬉しいなどといった、そういった笑みではなく。

    フレンダ「結局、お断りしますってわけよ。少しキモいし」

     最後の方は少しボリュームが小さくなっていたが、それでも聞こえる距離だ。
     同時に青髪ピアスは石化する。
     ショックを受ける、ということは曲がりなりにも希望を持っていた、ということなのだろうがこの少女が靡くはずなどない。
     フレンダは満足した、とでもいいたげにふふん、と口元を釣り上げて、上条から飛び降りる。
     その姿は相変わらずの手ぶらだ。上条はそれを確認して、小さく息を吐く。
     能力によるものだと知ったのはもう随分前、それこそ再会してから一ヶ月も経っていない頃。問いかけてはいないが、それぐらいはわかる。
     上条には彼女の能力がどんな能力かは未だによくわからないが、実用的に使えて羨ましいのは確かだった。
     そんな上条の心情など露知らず、いつも通りに楽しそうな幼馴染は数歩先まで走り、途中で振り返る。

    フレンダ「それじゃあね、当麻!また放課後会おうってわけよ!」

     周りなど気にしないで大きく手を振りながら遠ざかる彼女に、上条は小さくだが手を振り返す。
     見えなくなった頃にふと横をみるが、そこには未だ石になり果てていたクラスメイトの姿があった。
     先ほど少し脅かされた仕返しとばかりに、思いっきり腹部に拳を入れる。

    青ピ「ぐふぁっ!?」

    上条「よしっ!」

    青ピ「よし、じゃな……っ!あ、タンマ、マジいたい」

     それから数十秒、青髪ピアスはもがき苦しみ、そこまでやるはずではなかった上条は謝りつつ、彼に付き合うのだった。


    264: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/11(木) 01:15:24.89 ID:0fQxChx+o

    青ピ「しっかし、あれやね。相変わらず心開いてくれんなぁ」

    上条「ん?何がだ?」

     青髪ピアスが回復して、周りの生徒と同じ流れにのって学校へ向かう途中、彼がいう。
     上条は言っていることが全くわからず、きょとんとした顔で聞き返した。

    青ピ「ん?だからフレンダちゃんのことやけど」

    上条「フレンダが?誰に?」

    青ピ「ボクにや」

     返された言葉に、やはり上条は眉を寄せる。
     フレンダが心を開いていない?そんなはずはない、と思う。
     少なくとも会話はしているし、上条自身が会話に混じらなくても話続けもする。
     それなのに、そんな事があるはずはない、と。

    上条「なんかの勘違いじゃねぇの?少なくとも俺には普通に見えたけど……」

    青ピ「普通、ねぇ……じゃあ仮にボクに対する態度が普通やとするんなら、カミやんへの態度はもう好いてる相手にするそれやで?」

    上条「はぁ?なんだよそれ、そんなんだったらフレンダ、皆好いてるってことになんじゃねーか」

     青髪ピアスも困ったような顔をして後頭部を掻く。

    青ピ「だから、それが間違っとるんやって。カミやんを除いて、フレンダちゃんが単体で接してる人なんて見たことあらへんもん」

    上条「……つまり、なんだ?フレンダは、俺以外の奴とは一対一で話さないってことか?」

    青ピ「それどころじゃのうて、カミやんを見かけたらとりあえず抱きつきはするけど、周りにボクやつっちー、他にも吹寄センセーとかがいたらさっきみたいに直ぐ去っていくんやで?」

     まぁカミやんは一人の時に話しかけられて一緒に投稿することもあるからわからへんかもしれへんけど、と付け加える。
     嘘だ、と思った。そんなあからさまに避ける必要なんて、フレンダにはないはずだ。
     強いて言うならば幼稚園の頃の事がトラウマになっている可能性だが――それなら、学園都市に来てからはずっと一人で行動しているということになる。


    266: >>264 投稿→登校 2011/08/11(木) 01:29:31.03 ID:0fQxChx+o

    上条「……それ、本当か?」

    青ピ「まぁ、少なくともボクの眼から見たらそんな感じやな。ほら、他にもボクらが遊ぶ約束して、そのあとカミやんが誘っても来る時なんて一回もないやろ?」

     言われて見れば、そんな気がした。
     自分が他の誰かと一緒にいる時、フレンダはいつもいない気がする。
     そして傍に誰もいない時、どこからともなく現れて傍によりそう。

    上条「…………今度ちょっと聞いてみるよ」

    青ピ「ええてええて。ボク的には自然と仲良うなりたいだけなんやから」

    上条「だけどさ、」

    青ピ「カミやんにそういうこと聞かれるの、一番嫌がると思うで?情報を統合するに、フレンダちゃんにとってカミやんは特別やってことなんやから」

     確かにそうはなるけれど。
     言われてみれば気になって仕方がない。
     もしもその行動に何かしらの理由があるのなら、そしてそれが負の感情によるものならば、その特別な者として自分は解決してあげたい。
     自分から話をふったとはいえ、青髪ピアスは余計なこといったかな、と冷や汗をかいた。

     予鈴がなる。
     辺りの生徒達も軽く小走りになる中、彼らもその流れに乗るのだった。


    274: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/12(金) 01:46:22.84 ID:dU4Enc9Mo

    上条「……ってことなんだけど、実際のとこどうなの?」

    フレンダ「その流れで私にその質問を言うってことは、結局当麻って鳥頭なの?」

     言いながらフレンダは手に持っている真っ白なソフトクリームを舐める。
     ガードレールに腰掛けて、すぐ後ろを走る車など全く気にせずに足をぷらぷらさせる。
     対する上条はといえば、そのすぐよこにあった電信柱によりかかりながら答える。

    上条「いや、青ピにそうはいわれてもさ。今まで気付いてなかった分気になるじゃんか」

    フレンダ「でもだからって本人に聞くことは無いと思うわけよ。仮に、もし私には当麻以外に友達がいなくて、他の人と接触するのが怖い怖いだったらどうするの?」

     上条は言葉に詰まる。
     それは安全地帯だと思っていた場所に地雷が埋められていたようなものだ。仲間だと思っていた人から背中を撃たれるようなものだ。
     他人と関わり合いを持たずとも平気な人はいるが、そうでない人がいることもまた忘れてはならない。
     そして後者の人はそういったことにコンプレックスを持っていることも少なくはなく、不機嫌になることも多々ある。
     最も、フレンダ自身の反応からして彼女はそれではないのだろうが、もしそれだったならきっと堪忍袋の緒が切れていたことだろう。

    上条「あー……すまん」

     本人に言われることでようやく自分のしでかした間違いに気付いた上条は、拙くも謝罪の言葉を口にする。
     それに対してフレンダは笑う。わかっているからだ、上条は自分の為にそういった行動に出てくれたのだと。
     そして回り道が苦手だから直線距離で突っ走ってきたのだと。
     ぺろん、と溶けて垂れかけているコーンとの接続部位から一番上の跳ねている部分まで一息に舐める。
     その際に口の端についたアイスを舌で舐めとりつつ、フレンダはずいっ、とそのアイスを突き出した。

    フレンダ「これいーくらだっ!」

     あまりにも不意な問い掛け。
     しかしつい先程購入したところを間近で見ていた上条は少し悩んでから答える。


    275: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/12(金) 02:01:30.86 ID:dU4Enc9Mo

    上条「120円」

     確か間違いではないはずだ。
     だが上条の答えにこれまたフレンダはニマッ、と笑う。

    フレンダ「残念、間違いってわけよ!」

    上条「いやいや、確か120円だろ!?」

     フレンダの出した答えに上条は直ぐ様抗議する。
     しかしフレンダは余裕の表情を全く崩さず、また得意げに語った。

    フレンダ「確かに、私がコレを買ったときは120円だったってわけよ。それは揺るぎ無い事実」

    上条「……まさかお前が舐めた分減ったから、既に120円の価値はないとかいうんじゃないだろうな?」

    フレンダ「のんのん、結局、考え方は逆ってわけよ」

     120円以下というわけではない、と彼女はいう。
     ならばそれ以上ということになる。出来立てでない、また当初の分量ではないのにどうしてそれ以上の値段になるのだろうか。
     それは上条でも簡単に導き出せた。そういうのに反応するオトモダチが直ぐ側にいるためだ。

    上条「……お前が食べてるから、か」

    フレンダ「正解っ!、っと、わわっ」

     パチン、と指を鳴らして上条を指さす。
     その際に軽くバランスを崩すが、その指さした手を上条がつかんで歩道側に引き戻した。
     その勢いのまますっぽりと上条の腕の中にフレンダは収まる。
     幸いにもフレンダが気をつけたのかアイスは上条の胸にべっとり、なんてことにはならず。
     ただ二人の男女が抱きあう形になった。上条の後ろから見れば、よこに食べかけのソフトクリームが生えているようにしかみえないのだがそれはそれだ。


    276: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/12(金) 02:24:32.42 ID:dU4Enc9Mo

    フレンダ「っ……!」

     瞬間、軽く赤くなったフレンダは慌てて上条を遠ざける。
     上条も少し突然すぎたと思ったのか、すまん、と言って身を離す。
     気まずい雰囲気。凍りついた様な、微妙な空気が流れる。
     しかし今はもはや晩夏とは言えどもまだ熱い日は続いている時期だ。だからこそ冷たくて甘いそれを彼女は食べているのだから。
     瞬間、フレンダの手に溶けたアイスが伝う。
     それに気付いた二人が同時に慌てる。

    フレンダ「にゃっ!?」

    上条「ちょっ、動くな、動くな!今ティッシュだすから!」

     歩道の端っこでちょっとした混乱騒ぎ。
     フレンダは上条の言葉に軽く首を左右に振って、制服にたれ落ちないように汚れた手を口元まで持っていく。
     そして舐める。
     それはもう、丁寧に。
     まるで絹のように白くて滑らかな手に付着しているその白い液体を、少女はなんてことなしに綺麗に舐め取る。
     たったの一滴すらそこに存在を許さず、優しく、ゆっくりとその指先まで舌で弾く。

    上条「…………っ!」

     今度赤くなるのは上条だった。
     妙に工口ティックなその光景に、鼻血が出ていないか思わず鼻を押さえてしまった程だ。
     しかしその光景から眼を外すことなどできるはずもなく。
     フレンダは自分を凝視しているそんな上条を見て、そして薄く微笑みを貼り付ける。
     そして問いかける。

    フレンダ「舐める?」

     その手にはソフトクリームがある。
     だから紛れもなく確信犯、そう断定せざるを得ない。
     たらり、と鼻腔を液体が流れた。

     ……どちらにしても、ティッシュは必要だったらしい。


    278: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/12(金) 02:56:16.18 ID:dU4Enc9Mo

     一頻り笑われたあと。彼らは歩道はそろそろ限界だとのことで移動を開始した。
     移動して間もなく、ようやく上条の鼻血は凝結するが、その時には既に日は朱みを帯び始めた。
     それでも、彼らは歩く。少なくとも上条はフレンダが答えてくれるまで。
     きっと答えてくれるだろうと、そう思ったから。

     自称紳士な上条当麻にしては、先ほどの出来事は不覚でしかなかった。
     まさか幼馴染に興奮してしまうなどとは夢にも思うまい。
     フレンダは目の前に広がった公園の中に駆け足で入り、ベンチにどさっと座る。
     ぽんぽん、と隣を叩いて座れ、と促すその姿は、さながら子供にしか見えない。

    上条「ふぅ」

     同じように座り、しかし上条は彼女の方は見ずに空を見上げた。
     日もそろそろ短くなり始めてきている。夏場なら毎日こうした公園で遊んでいる子供たちの姿が見えないのもそのせいだ。
     学園都市の技術なら人工太陽でも作れそうなものだが、やらないということは必要がないということだろう。
     確かにいつも昼間なら、ずっと学校にいなくてはいけなくなることにもなりそうだ。

    フレンダ「……当麻はさぁ、覚えてる?」

    上条「何を」

    フレンダ「昔のこと。私達のこと」

     振り返ったのは、いつのことだろう。
     きっとフレンダと再会して、久しく思い出したかもしれない。
     毎日夕暮れをすぎても遊んでいたあの日のこと。
     石を投げつけられても追いかけっこを続けたあの日のこと。
     世の中の理不尽や不幸すらも忘れることのできたあの日のこと。
     間違いなく、あの日々は宝物だった、大切な思い出だったと言える。
     だから、上条は胸を張って言えるだろう。例え十年近い時が経って尚、鮮明に思い出せる思い出を覚えているかと聞かれて。

    上条「勿論、覚えてるに決まってるだろ」

     それを聞いて、フレンダは満面の笑みを浮かべた。
     会ってから一度も、この話はしたことがなかったけれど。
     それがこの笑顔を見せる要因となったとしたら、それでよかったのだと思えた。


    279: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/12(金) 03:17:28.00 ID:dU4Enc9Mo

    フレンダ「私もさ、結局一度も忘れたことなんてなかったってわけよ。寧ろあの日の思い出を糧に頑張ってたって言っても過言じゃないぐらい」

     それは僅かに、予想の範疇を超えていた。
     つまりそれは、他に糧になるような日々がなかったということではないか、と上条は考える。
     事実では、小学六年生の卒業時までは普通の一般生として彼女は過ごせていたのだ。僅かな温かい思い出になるぐらいには。
     問題はそれ以降。
     暗部での生活、それは決していいものではない、あるはずがない。
     その闇に揉まれた状況の中で、フレンダは一筋の光に縋って生きてきた。そして正当化してきた。
     故の先ほどの台詞だ。
     そして上条の勘違いも含めて、それを正当だと示すように続ける。

    フレンダ「私にとっての一番は、上条当麻。一人の例外を除いて、それ以外はほんっとうにどうでもいいわけよ」

     それが答え。
     フレンダ=セイヴェルンが上条当麻以外の人間と関わりを碌に持とうとしない理由。
     得てして青髪ピアスに言われたことは真実であった。上条は特別であり、その他の人間はやはり避けていたというわけだ。
     上条にはその考えは間違っているように思えてならない。
     一人しか関わりを持たない世界は狭い。それ以外に彼女の考えを否定する大きな理由などないが、それでも十二分だろう。
     だから上条は僅かでも世界を広げてもらおうと、フレンダに他の人に心を開いてもらおうと試みる。

    上条「じゃあ、俺が一緒にいてくれっていったらどうするんだよ?他の友だちと仲良くしてくれって言ったら?」

     彼女は上条の言葉に僅かに首を振る。

    フレンダ「結局、私だって頑張ってるってわけよ。見ただけであからさまに避けようとはしてないし、最低限の会話はするし。でも、やっぱりあまり懐かないのは――」

     あまりに近づきすぎると、辛いから。
     フレンダは苦しそうに、上条に聞こえるか聞こえないかの音量でそう呟いた。
     その言葉にただならぬ気配を感じた上条は言及しようと口を開きかけるが、やはり少女の声に上書きされる。

    フレンダ「それにっ!言ったでしょ、一人の例外を除いてって」


    280: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/12(金) 03:36:31.95 ID:dU4Enc9Mo

     上条が返事するよりも早くフレンダは立ち上がり、座っている上条と向きあう。
     しかし、その目は上条を捉えていない。
     もっと、後ろ――上条はその目的物の途中にいるに過ぎない。

    「――フレンダお姉ちゃんっ!」

    上条「……えっ?」

     声に足音に振り返る。
     そこには小さな小さな、フレンダを生き写しにしたような少女がいた。
     いや、生き写し、とは違うかもしれない。彼女をそのまま縮めたような、という表現が一番しっくりくる。
     その少女は間に存在した小さな塀を乗り越え、ベンチをかわして、そうして『自分』へと抱きつく。
     大きな少女――フレンダは小さな少女へと笑いかける。
     そして小さな少女――フレメアは大きな少女へと元気に返事を返した。

    フレンダ「――おかえり、フレメア」

    フレメア「にゃあ。ただいま」

     フレメア、と呼ばれた少女の姿は後ろ姿で表情など上条には全く見えないが、それは簡単に予測できた。
     きっと、今のフレンダと同じ表情をしている。

    上条{そういえば――言ってたっけ」

     妹が生まれるんだ。確かにそう言っていた覚えがある。
     あの時点ではまだ生まれていない妹。上条が去ってから直ぐに生まれた妹で、そして上条は見たことのなかった妹。
     妹のフレメア=セイヴェルンは、上条とフレンダの離れていた時期や関係を如実に表している時計の様なものだ。
     彼女こそが自分と離れていた時期であり、彼女とフレンダの関係こそが自分の知らないフレンダとも言える。
     つまり彼女が、彼女は。上条当麻の知らないフレンダ=セイヴェルンなのだ。
     正しく、今さっきフレンダが明かしてようやく他の人との距離を図っていた理由をしった様に。この瞬間に、上条は知らないフレンダを認識したのだ。


    281: >>280 図っていた→測っていた 2011/08/12(金) 03:50:55.78 ID:dU4Enc9Mo

    フレンダ「……当麻」

     フレンダはフレメアを腕に抱きつつ、彼の名前を呼ぶ。
     それこそ、彼の知らない彼女だった。

    フレンダ「九年間は、当麻の知らない私を作ったわけよ」

     上条はそれを認め、頷く。
     九年という時は長い。
     上条、フレンダの生きてきた人生の半分以上。そしてフレメアの人生まるごとがその時代に収まる。
     でも――と少女は紡ぐ。
     疎外感を感じるのは君だけじゃないんだよ、と囁くように。

    フレンダ「九年間は、私の知らない当麻を作ったわけよ」

     彼女の知っている上条当麻は、周りから理不尽な扱いをうけていただろう。
     彼女の知っている上条当麻は、友達など中々つくることなどできなかっただろう。
     彼女の知っている上条当麻は――――

     変わったのは、知らない部分が増えたのは、何も少女だけではない。
     少年も変わったのだ。僅かか、或いは大きくか。それは知るところではないが。
     ならば、どうする?
     再会してから五ヶ月が経過したこの日に、ようやく深い溝があることを知ってどうする?

    フレンダ「だから私は、とあるモノを当麻に進呈しようと思うわけよ」

     置いてけぼりのフレメアをすこし傍に置いて、スカートの中に手を入れる。
     それをとりだして、少女は少年へと差し出す。

     それはさながら、岸と岸を繋ぐ橋のようにも見えた。


    282: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/12(金) 04:03:18.77 ID:dU4Enc9Mo

     ■   □   ■


     上条はただ一人、夕焼けに沈む公園に佇んでいた。
     その手には、先程フレンダから差し出されたモノが一つ。

    上条「…………はぁー」

     ひたすらに大きく、溜息を吐く。
     溝は深い。特定の、特別な人としか関わりを持たないというのも問題だろう。
     しかし上条は彼女がそれでいいならそれでもいいとは思うのだ。
     少なくとも、彼女は自分に信頼を寄せてくれているのだから。

    上条「じゃないと、こんなもの渡さないもんな」

     また一つ、溜息。
     それはいいとして、気になることが彼女の発言の中にあったが故。
     さらりと流したが大きいこと。

    上条(……一人の例外を除いて、ね)

     たった一人の例外。それが家族であるフレメアなのだろう。
     ならば、他の疑問が浮上してくる。
     果たして、父親母親は例外ではあるのだろうか、それともないのだろうか。

    上条(とりあえず、できることからやっていこう)

     空に手を伸ばす。
     右手を。
     ありとあらゆる異能を、幻想を打ち砕く、生まれた時から人生を共に歩んできたその右手を。
     『幻想殺し』――――を。
     掲げられたそれは、夕焼けと、夕闇に朱黒く染まった。


     もうすぐ、学園都市二大祭りの一角である大覇星祭が始まる。
     それまでに少しでも掘られた溝を埋められればいいな、と。
     上条当麻は切にそう願う。


    293: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/17(水) 01:02:44.87 ID:gsqSaAtSo

     ■   □   ■


     学園都市はその名の通り学園の都市だ。
     基本的なカリキュラムは外と変わらず、大きく違うのは進んでいる設備と超能力開発ぐらいのものだろう。
     だが、外の学校にあるものと学園都市内の学校にあるもので同じだが異なっているモノもある。
     それが、学園都市二大祭り、或いは二大イベントと呼ばれる体育祭――通称大覇星祭と、学園祭――通称一端覧祭である。
     外ではそれぞれの学校がそれぞれ行っているのに対し、学園都市内では都市全体でそのイベントを開催し大覇星祭においては学校単位で他の学校と戦うことになる。
     一応赤組と白組に分かれているのだが、やはり生徒たちは自分の学校のために競技に全力を尽くすということになる。
     その大規模な為に期間は一週間、というのも外とは大きく違うところだろう。

    フレンダ「あついぃいいいい……」

    上条「あついぃいいいい……」

     九月も中頃を突破したとはいえ、それでも日が燦々と照っている。
     涼しくなっても暑いものは暑い。
     上条もフレンダも、そんな暑さに頭を茹で上がらせて同時に恨みがましい声を漏らした。
     彼らだけでなくその周りからも『暑い』『死ぬ』『みずー』などといった声が聞こえて、皆一様に同じ方向へと無気力ながらも移動をする。
     さながら、一つのゾンビ映画のよう。子供たちの様子を見に来た両親や兄弟の顔も真っ青である。
     これから第一競技が始まるというのにこの体たらくでは結果は見えたも同然だ。

    フレンダ「あー……とうま当麻。結局私、第一競技サボるってわけよ……」

    上条「ちょっ、ダメだろそりゃ。俺も怠いけどでるんだからさ、フレンダもがんばろうぜ」

    フレンダ「そうは言っても、こんな暑い空気じゃやる気も出ないってわけよ」

     フレンダ的には冷房システムか完備されて、顎を使うだけで飲み物が出てきて、更には寝息を立て始めたら自動的に布団をかけてくれる部屋にでもいたいのだ。
     ダメダメな現代っ子サマである。


    294: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/17(水) 01:37:54.04 ID:gsqSaAtSo

     第一試合は定番な綱引きである。
     他の会場では棒倒しやら玉入れやら何やらやるが、兎に角上条達の高校の第一競技は綱引きだった。
     だがしかし、この綱引きは『せーの!』で引っ張り合いを開始する、ただの綱引きではない。
     そこらの国際競技場程の大きさもあるグラウンドに敷き詰められた綱、十数本。
     それらの両端にそれぞれの生徒はつき、火薬の破裂音と共に真ん中へ詰めて縄を掴み、引っ張り合いを開始するのである。
     縄を掴むまで、そして縄を掴んですら注意せねばならないことは相手の能力によっての妨害対策。
     つまりこの競技は引っ張る係と妨害係、そして撃墜係を分断して行わなければならない競技なのだ。
     最終的にはどちらの陣地により多くの縄が引っ張られていたかで勝敗が決る。

    「貴様ら、気合入れなさい!最初からそんなんだったら結果は見え透いているわよ!」

     そう先輩やクラスメート問わず叱咤激励するのは上条のクラスの生徒である吹寄制理。
     その体操着の袖には『大覇星祭実行委員』の文字が輝いている。
     フレンダは何かもの申そうかと思ったが、それを首を振って打ち消す。
     それは他の生徒がしていることだし、そもそも。

    フレンダ(結局、一所懸命に学園生活を送ってる人に文句をいう権利はないってわけよ)

     先ほどフレンダを咎めて、しかし体力が既に尽きかけているのか地面に転がっている上条を見た。
     サボるのはダメで、ヤル気をなくすのはいいのか、と思いつつも気持ちを入れ替えるように軽く背伸びする。
     緊急に仕事が入ったならいざしらず、今暗部の仕事はオフだ。
     だからといって参加する義務もないわけだが。自分の一番である上条当麻がサボるのはいけないというのだ、やってやろうではないか。

    フレンダ「――よしっ、それじゃあ当麻、準備体操でもするってわけよ!」

     意気込んで声を張り上げたフレンダに、上条だけならず他の人を叱咤していた吹寄も眼を丸くした。


    295: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/17(水) 02:09:53.90 ID:gsqSaAtSo

     上条達の学校は所謂普通の学校である。
     学力が上位、とかスポーツが優秀などと言った特色のない、逆に珍しい学校だ。
     短所はないが、長所もない。そんな学校が勝てる相手といえば自分達より下、中学生などであるのだが。

    フレンダ「――まぁ、こうなるって結果は見えてたってわけよ」

     その対戦相手である中学生相手に、試合終了時には縄を過半数以上とられ完敗をきすこととなった。
     敗兵は見るも無残に戦場に転がっている。フレンダが立っているのはやる気の賜だ。
     だが、やがり自分がやる気を出したからってどうにかなるわけではなかった。例えば一騎当千の武将がいたとしても本当に千の軍隊を相手することは愚の骨頂である。
     自分や、吹寄などの一部ではなく全員が立ち向かう力を振り絞っていたなら戦況はわからなかったが、あの長い開会式の後でそうしろというのは難しい話だ。
     仮にそうなったとしたら、それはよっぽどな理由がきっとあるわけなのだろうが。
     その理由とは、一体どのような理由なのだろうか。

    吹寄「怪我人はすぐに実行委員のテントに行ってー!そうでない人は速やかに退場してくださーい!」

     吹寄並びに他の実行委員の言葉を受けて、のろのろと立ち上がる生徒たち。
     大半の生徒は怪我という怪我はなく、あったとしても擦り傷程度のものだった。
     が、しかし。

    フレンダ「……?」

     その中に少年の姿が見当たらず、きょろきょろと会場を見渡した。
     少年は開始から数秒経ったら砂煙のせいもあって姿が見えなかったのだが、もしや馬鹿正直に突っ込んでいったのだろうか?
     だとすれば相手の妨害工作を真正面から受けたということになるのだが……そうしたなら擦り傷の一つや二つですんでいないかもしれない。
     そんな考えが脳裏をよぎり、背筋に悪寒が走った丁度その瞬間にツンツン頭の少年が頭を抑えながら立ち上がったのが見えた。
     それはやはり中心位置に近い場所で、能力をきっとまともに受けていたに違いない。

    フレンダ「当麻、大丈夫!?」

     フレンダは思うやいなや、すぐに駆け寄って声をかけた。
     当の少年はといえばフレンダの姿を確認するとカッコ悪いところを見せてしまったとでも言うように苦笑いを浮かべる。
     体操服は土の色で濁ってしまっているが、その姿に怪我はない。その事にほっ、と安堵する。

    フレンダ「退場だって。早く行こう、当麻」

    上条「ああ、そうだな」

     既に退場を始めている生徒に混じって、二人も会場を後にする。
     しかし上条の服は茶色く汚れていたというのに怪我一つない事に、フレンダは最後までなんの疑問も抱かなかった。


    296: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/17(水) 02:36:13.01 ID:gsqSaAtSo

     会場を出た二人を待っていたのは、人の波だった。
     それが学生だけならまだいい。中には大人も混じって流れを作っている。
     この大覇星祭ではいくつものグラウンドで競技が行われ、そして競技ごとにグラウンドを移動する。
     であるから、親も子と共に移動することになるのだ。ある意味、これも一つの競技といえよう。

    上条「もう何回も見てるけど、この景色ってすげぇな」

    フレンダ「超同感、ってわけよ」

     つい絹旗の口調が出てしまったが気にしない。
     上条とはぐれない様に手を繋ぎ流れからの脱出を図る。
     ――がしかし、運悪く先行していた学校生との流れが途切れてしまい二人して流れに飲み込まれる運びになった。
     手をつないでいても眼はグルグルと回る。回る、回る。

    上条「ふ・こ・う・だぁ―――――――――――――――――ッ!!!」

     上条の叫び声だけが耳元で木霊する。
     しかし勢いに繋いでいる手すら段々と引き離されていき――――
     ずるん、と。
     汗で滑った手は、そのまま二度と繋がる事はなく。

    フレンダ「当麻ぁ―――――――――っ!!」

    上条「フレンダァ――――――――――っ!!」

     二人してまるで演劇の様に互いの名を叫びながら、その距離は遠く離れていく。
     そして遂には見失う運びとなった。


    297: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/17(水) 03:03:51.25 ID:gsqSaAtSo

     ■   □   ■


    フレンダ「うう……えらい目にあったってわけよ……」

     あのあと、人混みに揉みに揉まれたフレンダはふらふらと道を歩く。
     コレも当麻の不幸体質のせいなのか、と思わざるを得ない。昔は信じていなかったけれど、再会してからの頻度を考えれば見えなくても信じたくはなる。
     それでも、自分からは絶対に離れようとは思わないが。
     携帯を見ると、着信三つとメール一つを受信していた。麦野からの仕事の連絡?と一瞬ひやひやしたが、全て先ほど分かたれた少年からでほっとする。
     どうやら電話に出なかったためメールで安否の確認をとることにしたらしい。

    フレンダ「えっと……『一応、無事。お腹すいたから食べ物食べながら次の会場に行くね』、と。送信」

     出来れば落ちあって二人してデートっぽいことをしながら歩きたいが、あまりにも流されすぎた。
     これはそれぞれ向かった方が効率的だ。
     画面の右上に表示される時間を確認した後、フレンダは屋台の位置を頭に思い浮かべながら道路を行く。

    フレンダ「昼ごはんはちゃんと食べたいから……菓子類かな」

     屋台の定番であるりんご飴やわたあめ、チョコバナナ。
     様々な菓子が脳裏をよぎり、思わず涎が口の中に溜まった。
     首を振って打ち消そうとしても止まらない。女の子の欲望は強く、簡単にそらすことなどできやしない。
     同時に香りが漂ってきた。恐らくクレープの、生地を鉄板で焼く甘い香り。
     曲がり角の先。判断するやいなや、フレンダは少しでも早く手に入れようと駆け出していた。

    フレンダ(あ、そうだ。フレメアの分も買って、次の試合会場行く前によって、あげてこようっと)

     一つの考えにとらわれると、周りが見えなくなる。
     フレンダもその思考の持ち主だったようで、鼻歌まじりに角を曲がろうとした瞬間、飛び出してきた影に全く気付くことができなかった。
     とはいったものの、その影はフレンダよりも小さく、おそらく中学一年程度の少女だった。
     その小柄な少女はフレンダに激突して尻餅をつく。

    「っ!」

    フレンダ「っと、ごめんごめん。ちょっとよそ見してたってわけよ」

     笑いながらフレンダは手を差し伸べる。
     こっちもそっちもよそ見していたんだからこれで帳消し、とでもいうように。
     彼女にしては甘い判断だったかもしれない。いつもの彼女なら言葉面で謝り、そして急いでいるからとでも言って立ち去るだろう。


    298: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/17(水) 03:17:44.72 ID:gsqSaAtSo

     尻餅をついた少女は、暫く差し伸ばされたフレンダの手を見つめた後掴む。

     ――フレンダにしては、甘い判断だったかもしれない。
     いや、事実甘い判断だったのだ。

     次の瞬間、パシン!といい音を立てて彼女の手が払われた。

    フレンダ「……へ?」

     何が起こったのか理解ができない。
     いや、理解はできているのだ。どうしてそうされたのか、と言ったほうが正確だ。
     理由がない。自分はただ手を差し伸べただけで、その手を払う理由など相手のどこにも。一度掴んだ手なら尚更だ。
     フレンダは少々目を剥く。
     手を払った少女の、その表情を捉える。

    少女「………………っ!」

     その少女は、怯えていた。
     何故。
     振り払って怒られることを恐れているのか?それはない、少女のこの怯えはもっと深いものだ。
     そう、例えば。
     例えば、殺人犯を目の前にしたような――――

    フレンダ(………………っ!?)

     『読心能力』。
     触れた相手の心の内を読み取ることのできる能力。
     それの亜種に、『意見解析』という能力があるのを以前パンクを覗いた時に見たことがある。
     その能力は心の内を読むのではなくてその相手のプロフィールを知ることができる能力とあった。
     確か、その『意見解析』に該当する能力者は一人。
     その名は――

    フレンダ「――鉄網」

    鉄網「っ!?」

     同時に、少女――鉄網はフレンダに背を向けて走りだす。
     ついさっき買ったのであろうクレープを、地面に放りなげたまま。
     フレンダはただそれを見て、もはや自らの表と裏は逆転したことを知る。


    309: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/20(土) 02:49:24.24 ID:KMIwy7rho

    フレンダ「鉄網――『意見解析』のプロフィール」

     モバイル端末を走らせて彼女は必要な情報を得る。
     それに写っているのはやはり今さっき道端でぶつかり、そして手を握られた途端に震えだした少女。
     鉄網少女は、所謂極普通の中学生だった。置き去りでもなんでもない、ただ少し優秀な能力を持ったただの少女。
     しかし名は体を表すというが、鉄の網とはよくも言ったものだと思う。
     いや、この場合は名は能力を表す、といったほうが正しいだろう。無論そんな格言は存在しないが。

    フレンダ「『意見解析』の由来はその相手の言動の根底まで読み取ってしまうから」

     上辺と本音は使い分けなければならないものだ。
     それは人間関係を円滑にするための必需品と言っても過言ではない。
     しかし『読心能力』系よろしく彼女の『意見解析』はそれをあまりにも深く詠み通してしまう。
     それもそんな今現在思っていることだけではなく、その人のバックボーンすらも。

    フレンダ「故に心を許せる友達は無し、ね」

     なるほどそれなら今直ぐに『私ら』のことを言いふらされる心配はないな、と思う。
     更に彼女はそれが原因で所謂虐めというのを受けているらしい。
     女子のグループというのは恐ろしい。自分達が標的と決めた相手にはいつまでもネチネチと、例えが悪いが例の黒い虫を捕まえるネバネバの様に粘着する。
     その結果、彼女は普通の中学生なのだがまぁ一般人に比べて自分の意見を前面に出しにくい、所謂内向的志向となっている。
     これは恐ろしさを考えれば考えるだけ深みに嵌っていくタイプで、自分が追撃せずとも勝手に自滅していくだろう。

    フレンダ(さてはて、結局どうするか、ってわけね)

     モバイルに学園都市のカメラをリアルタイムで複数表示してその一つが彼女を見つける。
     あれから随分走ったはずなのに、自分が追ってきていないか後ろを気にして、人にぶつかりながらまだ走っている。
     正直捨ておいても問題のない人物だろう。これからの活動に何か支障があるとは到底思えない。
     それに、極普通の中学生だとしても、虐められていたという事実には同情せざるを得ない。
     の、だが。

    フレンダ「……追跡、開始」

     ポツリとそう呟く。
     同時にモバイルに広がるのは、自分の位置と相手の位置の縮小図、そして先回りの順路。


    310: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/20(土) 03:19:36.77 ID:KMIwy7rho

     それを見ながら行動を開始する。
     境遇に同情はする。捨ておいても問題ない因子ではある。
     だが、それがどうした。

    フレンダ(結局、暗部は基本的に秘密主義)

     仮に『警備員』や『風紀委員』に捕まえられたとして、下部組織なら兎も角フレンダのような上位組織の正式構成員ともなれば裏から手を回してもらえる。
     が、それは不自然極まりないのだ。
     いきなり上層部を語る相手から『今捕まっている奴は冤罪だから今直ぐ釈放しろ』と電話が来る。これほど怪しいことはこの上ない。
     また、その電話を受け取ったのが友人や身内が何かしらの事件に巻き込まれていて、学園都市陰謀説を持っていたなら尚性質が悪い。
     一応追跡を捲くマニュアルなども存在しているが、そういうものを実行しなければならない程度にはマークされることになるのだ。
     そうならないための芽を摘んでおくのは、決して無意味なことではない。
     ましてや『アイテム』は基本的に裏の情報を表に出そうとする――或いは学園都市の情報を外に出そうとするのを阻止するために存在する。
     可能性が低い危険因子だとしても、見逃さなければならぬ道理はない。

    フレンダ「みっけ」

     ショートカットを駆使して、影も形も見えなかった鉄網の背中を捉える。
     しかし人混みが邪魔をする。追跡しているのを解り辛くもするが、逆もまた然り。
     再びフレンダはモバイルを開く。
     知略で追い詰め、そして迎撃するのは彼女の最も得意とする戦略だ。
     本来なら罠をふんだんに仕掛けた拠点守護にこそ最も力を発揮する戦略なのだがそれは置いておこう。
     今最も重要なのは彼女が追跡中の相手の思考を誘導しようとしていること、その一点に尽きる。

    フレンダ「――よし、ならこっちから先回りってわけよ!」

     再び、彼女はターゲットと一直線の道から外れる。
     彼女の作戦が成就するまでに数分の時間すら必要ない。


    311: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/20(土) 03:47:22.07 ID:KMIwy7rho

     長いこと走った。普通の女学生には息が切れてしまうほどには。
     足を緩めながら、追手の姿を窺う。視界にその姿は見られない。
     どうして名前を知られていたのかわからないけれどこれでよかったのだ、と鉄網は思う。
     しかし、ああ、と被りをふる。

    鉄網「どう、して……私は、ただ、普通でいたい、だけなのに……」

     触れてしまった手。
     そこから流れこんできた情報。
     フレンダ=セイヴェルン。年齢は15、能力は『物質収納』。そして、

    鉄網(学園都市暗部組織『アイテム』の正式構成員……?そんな、知りたくもなかった……)

     その他にも様々ないらない情報が脳内に流れ込んできていた。
     意図して能力を使ったときはそのへんの調節もできるのだが、意図していない時には多すぎる量の情報が入ってくる。
     使えない能力。それが鉄網が常日頃から思っている自分の能力に対しての評価だった。
     いや、能力だけではない。自分本人すら使えない存在、木偶の坊だと思っている。
     虐め、という存在が彼女をここまで追い詰めていた。
     『使えない』、『無能』、『役立たず』。そんな罵倒をいくら受けてきたのか、数えるときりがない。
     能力は中々に優秀なはずなのだが、自分のそんな状況すら救ってくれないそれに対してどうして自分から自信をいだけようか。
     そんな使えない能力の所為で自分は追いかけられている。
     学園の生活も含めて、自分は普通でいたい、役立たずでもなければ優等生でもなく普通でいたいだけなのに、どうしてこんな事態に巻き込まれなければならないのか、と神を呪う。

    鉄網「…………あれ、何か騒がしい?」

     視点を前に戻すと、目の前には人だかりができていた。
     それは一つの競技だ。
     四学校合同競技の『借り物競争』は初め――借り物の紙を手に入れるまでは同じ道を走り、そこからバラバラに散ってゆく競技である。
     それの決められた道にぶつかってしまったらしい。

    鉄網「どうしよう。ここだったら邪魔にな――――っ!!」

     どちらに抜けていこうか左右に首を振った時にちらりと見えた。
     藍色のベレー帽を被った金髪少女の姿が。
     刹那、鉄網は少しばかり落ち着いていた心をまたはやらせて、その姿が見えた方向と逆方向へと一目散に走る。


    315: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/20(土) 17:23:56.28 ID:KMIwy7rho

     道行く人はチラリと鉄網を見るだけで、しかし視線を逸らす。
     恐らく彼女は必死の形相で走っているのに、何故そうするのか。
     答えは一つだ。今は大覇星祭中で、そして同時に彼女は体操服であるから。
     必死の形相というのも競技に勝つためにそんな顔をする、というのはよくあることだ。

    鉄網「なら、どうすれば……」

     彼女自身、運動はあまり得意ではない。
     それでも走ってこれたのは、まさしく死に物狂いだったせいだ。
     だが一度スピードを落として、それを再び上げるには結構な体力を要する。
     マラソンで立ち止まってしまったらもう走れなくなるのと同じように。
     また、追われているという精神の心持ちだけでも疲労の蓄積度は圧倒的な変化を見せる。
     振り返る。
     人混みに紛れて、金髪の少女の姿はない。

    鉄網「どうにかして、撒かなくちゃ……」

     しかしどうやって?
     相手は学園都市暗部だとかいうよくわからない力を持つ相手だ。見失ったはずの自分の先にいたというのは、位置を把握していて先回りしたとしか思えない。
     発振器でもついているのか。或いは見えなかっただけでずっと後ろにいたのか。
     経験の薄い鉄網にもわかる。それはない。
     発振器はつける暇なんてなかったはずだし、ついていたならきっと生徒全員の現在位置を確認するために学園都市全員に付いているはずだ。
     見えなかっただけ、というのも視界が狭くなっていた為に否定はしきれないのだが、それでもあの目立つ金髪を逃すはずがない。

    鉄網「っ!」

     フレンダが追ってきていないか周りを確認していると、ドン、と人にぶつかった。
     大人の人。恐らく子供を見に来た観光客の一人なのだろう。

    「おっと、すまないね」

     その証拠、というわけではないだろうが、人の良さそうな笑みを浮かべて手を差し伸ばすのは自分にも同程度の子供がいるからではないだろうか。
     しかし。
     鉄網には彼が、どうしてもダブって仕方がない。
     たった十数分前の出来事、彼女の主観ではもう数時間も前に感じる出来事。


    316: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/20(土) 17:44:29.46 ID:KMIwy7rho

     ぞわり、と全身を寒気が駆け巡った。
     自分は今まで全く知らなかった。学園都市暗部なんて存在が、この学園都市にあることを。
     だからこそ、考える。
     その学園都市暗部は、皆が知らないだけで本当はすぐ近くにあるのではないか、いるのではないか?
     それは、宛ら足元に貼られた氷の膜一枚の差で。
     誰も彼もが、気付いてしまった人は秘密裏に処理されてしまう程度にはその構成員がいるのではないか?

    鉄網「――っ!」

     鉄網は謝罪すら思い立たず、ただ目の前の男性を敵だ、とだけ認識してただ逃げる。
     道行く人は息絶え絶えになりながらも走る鉄網を一瞥する。
     視界が狭い。
     けれど幾人かは眼についた。
     自分を見ながら携帯に向かって話しかける者。
     無線で何かしらの指令を受け取っている警備員。
     全ては彼女の自意識過剰に過ぎない。なぜならフレンダは下部組織には勿論、リーダーである麦野沈利にすら連絡をとっていないのだから。
     それでも、だ。
     そんなことを全く知らない少女には、周り全てが敵のように思えた。
     人混みなどなんの役にすら立たず、寧ろ自分の位置を誇示しているだけだと、そのようにすら思えた。

    鉄網「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ……!」

     彼女の能力は『意見解析』である。
     握手をした相手のプロフィールを読み取る能力。
     それを使えば自分が疑っていることなど全て嘘だったとわかるのだが彼女はそれをしたくない。
     これは役立たずな私の、役立たずな能力だから。希望を抱きたくても絶望が待っていると思い込んでしまっているから。
     故に使わない。いや、希望も絶望も抱かないために使えないといったほうが正しい。真実を知らないことで疑心暗鬼になってしまっているわけだが。

    鉄網「はっ、はっ、はっ……っ、こほっ、げほっ!!」

     だがもはや彼女は何も考えられない。唾を飲み込むことすら忘れて、流れてきた唾は気管に入りかけて咽る。
     酸素に頭が回らなくなってきていた。
     立ち止まる。
     人の目が自分へと集まるように感じた。

    鉄網「…………人の、いないところ」

     そうだ、いないところがいい。見張られるのなら見張られない場所に行けばいい
     ここがどこなのかわからないが、廃棄された研究所の一つや二つ転がっているだろう。
     そう――
     丁度、目の前にある、蔓が壁に這っている寂れた建物の様に。


    317: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/20(土) 18:04:56.25 ID:KMIwy7rho

    フレンダ「誤差範囲……人の目はなし、セキュリティも動いていない」

     逆に人のいる建物――研究所に駆け込まれると困ったことになっていた。
     侵入者扱いされた彼女は警備員を呼ぶことになり、運が悪ければ留置所に入れられることすらある。
     そうなれば手出しが出しにくくなるどころか、口を滑らせてしまう可能性すらあるのだ。

    フレンダ「結局、いつもなら軽めのとはいえセキュリティも動いてるし……大覇星祭中でよかったってわけよ」

     そうはいうものの、鉄網の進路方向からそういった建物が比較的多いところへと誘導したのは彼女自身なのだが。
     人の多さで、周りに敵がいるという疑心暗鬼作用もうまい様に働いたようで大助かりだった。

    フレンダ「さってと、それじゃあ始末しにいきますか」

     データステータスを管理していたモバイルを閉じて、彼女はビルの屋上から腰を上げる。
     そして余裕を持ちながら鉄網が駆け込んだ研究所へと向かった。


    318: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/20(土) 18:32:08.15 ID:KMIwy7rho

     人の目がないなら、既に見つかる心配など無い。
     そう思っていた鉄網は、丸い柱によしかかって呼吸を整えていた。
     がらんとした研究所内。あるのは柱とロビーの受け答えに使っていただろうカウンター。後は積まれた鉄パイプなどの資材ぐらいのものだった。

    鉄網「……これから、どうしよう」

     ようやくモノを考える余裕が出てきて、彼女は思考を巡らせる。
     一番先に思いついたのが、『警備員』や『風紀委員』だ。
     学園の治安を護る為の学園都市機関ならきっと自分の身の安全を保証してくれる。
     ……が、しかし。とりだした携帯の番号を打つのを途中で躊躇う。

    鉄網「そういえば、さっきの人も……風紀委員って書いてたような気がする」

     厳密には『元』風紀委員だ。暗部と同時に治安行為を成立させることは難しい。
     だが同時に所属している人がいてもおかしくはない。
     風紀委員だけではなく、警備員も同様だ。疑いが晴れない以上、助けを求めることすら難しい。

     彼女は目を閉じる。
     少し疲れた、少しだけ眠ろう。
     難しい後のことは、それから考えよう。
     静かな研究施設内には、彼女の息遣いだけが聞こえる。

     キィ、と。
     思わず耳をふさぎたくなる、自分も扉を開けた際に聞いた、錆びが擦れる音がする。
     飛び上がりそうになってしまった。
     誰も来ないと思っていた研究所に、誰かが入ってきたのだから。

    「――『意見解析』。握手をした相手の名前や年齢、能力等様々なプロフィールを読み取ることのできる能力」

     息をすることすら忘れる。
     数度だけしか聞いていない声だが、絶対に忘れるはずなどない。
     フレンダ=セイヴェルン、その人。


    320: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/20(土) 19:09:06.94 ID:KMIwy7rho

    フレンダ「けれどその能力故に周囲に心許せず友達はいなくて、そして同時に虐めの原因にもなり果てた」

     自分の存在を示すように、フレンダはワザとらしく足音を鳴らした。
     先程も言ったとおり、この空間にはこれといって何も無い。
     柱が幾本、そしてカウンター、資材程度。

    フレンダ「そしてそれは知らなくていいことも暴いて、自分の身すら危機的に晒した――ってわけよ」

     ゴクリ、と鉄網は唾を飲み込む。
     その音は、酷く大きく響いたように思われた。

    フレンダ「心の許せる友だちとかいたならともかく、一人もなし……結局ある意味幸運で、ある意味不運だったってわけよ」

     許せる友達がいたなら彼、或いは彼女を頼れて心に余裕が出来た。
     しかし事情を話すということは逆に巻き込むことでもあるのだから。
     鉄網に逃げ場はない。
     上階に逃げたところで何れ追い詰められ、出口は既に塞がれているのだから。

    フレンダ「……まぁ、『無能』だって自分にコンプレックスをもってるみたいだし、このままやられても別にいいんじゃないかって私は思うわけよ」

     その言葉は、鉄網の感情を揺さぶった。
     そして次の言葉で、少女の心は決壊する。

    フレンダ「居場所のない、どこの誰でもない少女一人消えたところでなんの支障ももたらさないんだから」

     普通でありたかった。
     普通でいたかった。
     普通がよかった。

     それを願うということは、自分は普通ではないと自覚しているということ。
     しかし、今の言葉は――普通になることすらも否定された様に思えた。
     これから先の未来、どんな状況に置いてすら、自分の居場所など世界のどこにもないと言われたような気がした。


    321: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/20(土) 19:18:51.69 ID:KMIwy7rho

     鉄網は柱から飛び出す。
     逃げるためではない。
     戦うために。
     自らの願いすら否定した少女を倒して、そんなことはないと叫んでやる為に。
     それは鉄網らしからぬ行動だ。
     だが全てを賭すべき理由がある。

     彼女の頬に雫が伝う。
     喉から滲み出るであろう嗚咽を漏らさないように歯を必死に食いしばっていた。
     その手には丁度落ちていたのであろう鉄パイプ。

     その姿は。
     とても似ても似つかないのに。
     あの頃の自分のようにも見えた。

    鉄網「あぁああああああああああああああああああああ―――――――――――!!」

     咆哮する。
     それは魂の叫びだ。
     居場所はあると。それを見つけてみせると。
     何もかもが否定されて、足蹴にされた少女の全力だ。

     鉄パイプを振りかぶる。
     上段からの一閃。
     薄暗い建物の中で、その少しばかり茶色がかった鉄が鈍く光る。

     ズドン、と。
     続いて、カラン、と。
     無音の室内に、ただそれだけの音が響いた。


    322: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/20(土) 19:34:00.10 ID:KMIwy7rho

    フレンダ「っ、ふー」

     フレンダは達成した、というふうに息を吐く。
     懸念すべきは取り落としたときの鉄パイプが自分の真上に降ってこないか、だったが無事に避けて落ちた。
     カラカラカラ、と地面を転がり、乾いた音をたてる。重なる様にしてフレンダのベレー帽が落ちた。
     彼女の視線の先には、フレンダの横蹴りを腹部に受けて気を失っている少女がいる。

    フレンダ「…………」

     そんな少女を見て、彼女は少しばかり感傷に浸った。
     大切な何かを守るために戦う。それは正しく自分だった。
     フレメアを、自分達の未来を守ろうと戦った、フレンダ=セイヴェルンだった。
     彼女が欲したのは、普通――引いては、自分の居場所。
     『無能』な彼女には寮にも学校にも居場所などなかったのだろう。
     『無能』と称した能力は自分の居場所など作ってくれなかったのだろう。
     確かに、可哀想な境遇、とみなされないでもなかった。

    フレンダ(――ま結局、私程じゃないけど)

     ベレー帽を拾い、かぶり直す。
     仕事――自分で作ってしまったものだが――は無事に完遂。
     あとは始末するだけなのだ。
     なの、だが。

    フレンダ「…………」

     僅か、躊躇った。
     そしてそれは正解だったといえる。

    上条「――フレンダ?どうしたんだこんなところで」

     背後から、少年の声が聞こえてきたのだから。


    323: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/20(土) 19:46:46.67 ID:KMIwy7rho

     フレンダは今までにない、驚きに驚きを重ねた表情で振り返る。
     光の入ってきている入り口から、見間違うことなき上条当麻の姿があった。

    フレンダ「と、当麻!?ど、どどどうしたってわけよ!?というかなんでここが!?」

    上条「いや、バラバラで会場に向かうって話だっただろ?そしたら遠くにフレンダによく似た金髪が通り過ぎていったからさ」

     だから追いかけてきたんだ、と上条。
     フレンダは動揺しながらも脳内で地図を照らし合わせる。
     はぐれた場所、鉄網が逃げていたルート、そしてこの位置。
     なるほど、と理解し。どうして気がつかなかったんだ、と憤慨する。自分の爪の甘さに反吐が出る。
     なにも、よりにもよって――上条に見かけられることはなかっただろうに。

    上条「……それで、その女の子はどうしたんだ?気を失ってるみたいだけど」

    フレンダ「っ、それ、は……!」

     嘘をつくこと。真実を知られること。
     天秤が傾く。

    フレンダ「ね、熱中症で倒れたみたいだから、実行委員が来るまで日陰で休めてあげようと」

     スカートの中からミネラルウォーターとタオルを取り出す。
     そうするだけで介抱しているように見えるから不思議だ。
     彼女の腹部についている濃い足跡は薄暗くてみえなかったのか、上条は何も突っ込まなかった。

    上条「そうなのか。それじゃ、俺も一緒にいていいか?んでどうせなら会場まで一緒に行こうぜ、折角会えたんだから」

     歯噛みする。
     そうだ、上条当麻はこういう人間だ。
     誰よりも知っているくせに、どうしてあんな嘘を選んでしまったのか。


    324: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/20(土) 20:01:42.98 ID:KMIwy7rho

    フレンダ「だっ、大丈夫ってわけよ!ほら、結局、すぐくるだろうし!上条は先にいってて欲しいってわけよ!」

    上条「? すぐ来るならそんな変わんねーだろ?」

    フレンダ「なっ、なら!私少しお腹空いてるから、食べ物を適当に買って、会場に行ってほしいわけよ!ね、お願い!」

     フレンダは両手を合わせて上条を拝む。
     嘘を隠すには嘘を重ねるしかない。
     上条に対しては裏目にでるかもしれないのに、迷わず罪を重ねることを選んだ。
     上条はフレンダの勢いに少し身を引きつつ、考える素振りを見せる。

    上条「んー……すぐ来るんだよな?競技には間にあうんだよな?」

    フレンダ「もち!寧ろ間に合わなかったら昼ごはん奢るってわけよ!」

     それを聞いて上条は僅かに苦笑する。

    上条「流石にそれはいいよ、多分今までと同じで初日は母さん達が弁当作ってきてるだろうし。そうだ、フレンダも一緒に食おうぜ昼飯、皆で食べたほうが旨いだろ?」

     反射的に笑顔でうん、と頷こうとして。
     心に針がささったかのような痛みが走る。
     しかしその痛みを無視するように、笑みを作った。

    フレンダ「っ……うん、勿論!というわけで、先に言ってて欲しいってコトで!」

    上条「りょーかい、んじゃあ早めにな。寝てる子にもお大事にって伝えておいてくれ」

     うん、と頷き返し。
     フレンダはその場で大きく手を振りながら上条を見送る。
     上条はまたもやその動作に苦笑を示し、しかし小さく手を振りながら建物を出ていった。
     完全にいなくなった、と判断して、フレンダは溜息を吐きながらその場にへたれこむ。


    325: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/20(土) 20:10:13.31 ID:KMIwy7rho

     再び、彼女は鉄網を見た。
     彼女の守りたいモノ。望んでいた幻想。
     それを奪う権利など、自分と上条との関係を崩したくが無い為に嘘に嘘を重ねた自分になど無いように思えた。
     しかし、やはり彼女はモバイルを操作する。

    フレンダ「…………」

     フレンダはモバイルの連絡手帳を開く。
     連絡先は麦野沈利ではない。
     始末したあとの後処理を連絡するための下部組織でもない。
     その連絡先は警備員。
     麦野沈利、絹旗最愛、滝壺理后、フレンダ=セイヴェルン。
     この四人の携帯・モバイル端末から警備員や風紀委員に接続すると、ほぼ確実に『電話の声』に介入される。

    フレンダ(本人は『無能』だとしても、能力はそうは思わない。少なくとも私をヒヤッとさせたぐらいなんだから)

     能力、或いは固有スキルに使い道があるのなら、始末はない。
     自分がそうだったように、必要としているところに配属されるだろう。
     二度と、陽の光は拝むことなどできないかもしれないけれど。普通では無いけれど。
     そこには、きっと彼女の望むものがあるはずだから。

     フレンダはまた鉄網を見る。
     彼女は自分だ。自分は彼女だ。
     願いや、守りたいものの為に戦う同志だ。
     そんな彼女へと、フレンダは祈る。

    フレンダ「願わくば、貴方に居場所が示され、見つかりますよう――――」

     最後に一度、フレンダは目を閉じて。
     警備員と登録された電話番号へと連絡を入れる。


    326: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/20(土) 20:11:48.50 ID:KMIwy7rho

     大覇星祭編はこれで終わり……かな?
     もしかしたらナイトパレードでの一幕があったりするかも。


    333: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/03(土) 00:19:00.24 ID:MA0JWj5so

     上条当麻はベンチに座って、空を見上げていた。
     そこに何がある、というわけではない。強いて言うならば朱みが薄れた空に多少の星が瞬いているぐらいだ。
     彼がいるのは小高い丘。辺りを見渡せば少なくない家族の姿が目に入る。
     大覇星祭は久々に家族と再会を果たすことのできる場だ、かくいう彼自身も昼食を両親と共に食べた。
     ……記憶に残っているのは、見ているこちらが胸焼けするほどの熱々カップルぶりぐらいのものだったが。
     あとは大覇星祭中は昼食を共に食べるという約束をしたことぐらいだろうか。その約束をしてあるから上条は周りとは違って両親と今は共にいない。

    上条(……そんなことよりも)

     そんなことよりも、だ。
     上条にとって重要なことはそれよりも。

    上条(こっち、なんだよなぁ)

     ちらり、と横目で見遣る。
     小さな体躯でベンチに座り、地に足がついていない金髪少女がそこにいた。
     手持ち無沙汰そうに足をぷらぷらさせて、膝の上に置いてあるプラスチックの容器に入ったやきそばをちびちびと食べる少女。
     フレメア=セイヴェルン。

    上条(……見ればみるほど、フレンダにソックリだな)

     彼女の姉、フレンダとは知己の仲で幼馴染という関係である。
     しかしその妹である彼女のことを知ったのはつい最近――ここ一ヶ月以内のこと。
     そして会うのは二度目。無論のことながら、会話などあるはずもなく。
     上条は少し用事が出来たから迎えに行っておいて、と自らに告げた幼馴染を少しばかり恨むのだった。

    上条(……不幸だ)

     実際には何も起きてはいないから不幸ではないのだろうが、それでもこの沈黙は精神にクルものがある。
     上条は露知らぬことだが、相対するフレメアも同じ気持ちになっているのだった。


    334: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/03(土) 00:48:40.87 ID:MA0JWj5so

     フレメアはよっぽどの事がない限り初めての人に対しては普通に接することができる。
     例えば体力気力が尽きている状態で数時間共に過ごす、だとかそんなよっぽどの事だ。
     上条との間にそんなことがあったわけではないのだが、如何せん出会いが悪かった。
     自分の姉を見て笑顔で駆け寄っていき、姉は自分を受け止めてはくれたがそこにあったのは重い空気だった。

    フレメア(……あそこまで逃げたくなったのは、大体初めてかも)

     何が悪かと言われると、空気が悪かった。
     姉は、フレンダは自分を待っていたようだったがそれでも二人してシリアスな話(彼女にしてみれば小難しい話)をしていると入り難いものもある。
     結局、その場では挨拶もできなかったし紹介もされなかった。
     そんな彼が姉の代理、と言って迎えにきて動揺しないはずもない。
     動揺の結果口を閉ざしてしまって、今に至る……というわけだ。

    フレメア(……にゃあ。大体、この人がお姉ちゃんの言ってた『当麻』のハズ)

     たまに話題に出る『当麻』。
     姉のベッドの上に大事に置いてあるぬいぐるみも、その当麻からもらったのだと言っていた。
     そして本人は知ってか知らずか、そのカレのことを話す時心なしか笑顔担っているように見えた。
     だから、悪い人でないのはわかる。
     姉が笑顔で話題にする人。そんな人が悪い人な訳がない。

    フレメア(それでもー……)

     最初から失敗していては二次遭遇での対処も難しい。
     故に彼女は場を紛らわすようにやきそばを啜るのだ。


    335: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/03(土) 01:27:53.19 ID:MA0JWj5so

     そして同時、溜息が二つ。

    上条「……はぁー」

    フレメア「……にゃー」

     彼らは顔を見合わせる。
     方や一端の高校生の溜息、方や人形のような小学生の溜息。比べようなどないが、両者ともが溜息を吐いたのは事実だ。
     上条はおもむろに携帯を取り出す。時刻は六時を回って、十五分程経過したところ。
     『例の時間』にはフレンダは来ると言っていたから、きっともう数分もしない内にくることだろう。

    上条「……溜息を吐くと幸せが逃げるって、よく言うよな」

    フレメア「……にゃあ。大体、その度に逃げるからまた溜息を吐くたくなるのだと思う」

     不幸スパイラル理論、にゃあ。とフレメアは締めくくる。
     きっと誰から聞いたか、何かの本を読んだりでもしたのだろう。
     上条は苦笑する。つまり不幸は不幸を呼ぶ、というわけだ。いつも宛ら不幸不幸と嘯いていると更に不幸が寄ってくる、と。
     しかし言わないことには上条もどうしようも逃げ場がない。だから苦笑をしたのだ。もはや不幸を身に受け、そして不幸だ、と呟くことは自分の人生の一部である。
     そしてそれが自分には普通であるが、他人にとっては普通でないことも知っている。故に彼は目にした不幸に顔を突っ込み、自らに巻き込むことで打ち払うのだ。
     ……最も上条はそれを無意識に行い、しかし半分ほど自分の性分を満足させるためとわかっているために自らを『偽善使い』と呼ぶ。
     閑話休題。
     兎にも角にも、自分の言葉には答えてくれたのだ。この沈黙の突破口にするほかない。
     特に何もしていないのに嫌われるのは勘弁、と上条自身もそう思うのだし。

    上条「……そういえばさ、俺の名前って言ったっけ?確かそっちの名前は……フレメア、だったよな」

    フレメア「あ……うん、そう。名前は――知らないけど、知ってる」

     フレメアも話しかけられたことに戦々恐々としつつもチャンスとばかりに幼い頭を回転させて答える。
     だがその答えに上条は軽く首を傾げた。


    336: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/03(土) 01:50:19.98 ID:MA0JWj5so

    フレメア「当麻、ってフレンダお姉ちゃんがいつも話してる。違うの?」

     首を傾げた上条に答えるようにフレメアは続けた。
     なるほど、と思うと同時に上条は驚きを隠せない。
     フレンダはフレメアのことを自分に言わなかったのだから、フレメアにも自分のことを言っていないと思っていた。
     しかも、『いつも』とは……一体何を、どんなことを話しているんだ、と少しばかり恐れざるを得ない。

    上条「あ、ああ。俺は当麻、上条当麻。別になんて読んでくれても構わないぞ」

    フレメア「……大体、当麻は、フレンダお姉ちゃんと幼馴染だって聞いた。にゃあ」

     にゃあ?と語尾についた鳴き声にもまたハテナマークを頭上に浮かべるが、そういえばさっきも言ってたなと想い出す。
     それに疑問を呈したところで相手はまだ子供。ここは飲み込んで質問に答えるのが大人だ、と判断した彼は数秒置いて口を開く。

    上条「ああ。っていっても、再会したのはここ最近の話だけどな」

    フレメア「でもでも、当麻の話はフレンダお姉ちゃん、結構前からよく喋ってたよ?」

     そうなのか?と聞き返した上条に、フレメアはうん、と頷いた。
     一体何を話してたんだフレンダ……と更に上条は怯えざるを得ない。有ること無いこと話していそうな雰囲気だ。
     そんな上条などにフレメアは注目はしていなく、何かに納得したように一度頷いき、やきそばを運んでいた箸を置いてから上条を見た。

    フレメア「当麻お兄ちゃん」

    上条「……は?」

    フレメア「だから、当麻お兄ちゃん。フレンダお姉ちゃんと同じだから。にゃあ」

     笑顔で万歳する。
     お兄ちゃん、といわれると上条的には従姉妹の竜神乙姫を思い出す。
     小さくて笑顔がかわいいところはなんとなくその彼女と被るところもあるなぁと上条は思った。


    337: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/03(土) 02:08:03.74 ID:MA0JWj5so

    上条「まぁそっちはそれでいいとして。こっちはフレメアでいいか?セイヴェルンだとフレンダもだし」

    フレンダ「うん、大体、それでいいよ」

     とりあえず自己紹介は完了した。
     続いてのステップとしては話して仲を深めることだ。
     しかしあまりに情報が少ない。口癖に突っ込んでみても『?』で終わりそうだし、今日の結果について聞いてみるのも早急な気がする。
     ならばお互いに身近な人のことについて話すのがいいだろうと思いたつのにそう時間はかからなかった。

    上条「さっきさ、フレンダが俺のこと昔からよく話すって言ってたけど……どんなこと話してたんだ?」

     場合によっては脳裏に浮かび、誤魔化すように笑う彼女を問い詰めなければならなくなるかもしれない。
     そんな上条の決意を全く知ることのないフレメアは、相変わらず足をパタパタと振りながらんー、と唸る。

    フレメア「にゃあ。大体、幼稚園の事だった気がする」

    上条「……まぁ、そりゃあそうだろうな」

     過去にフレンダと一緒に居たのは幼稚園の一年間にも満たない期間だけだ。
     逆にそれ以外のことをフレンダが話していたならそれは恐れるべきことだろう。

    フレメア「確か、当麻お兄ちゃんに助けてもらったんだって、私も会ったらすぐに仲良くなれるって話してた」

    上条「…………」

     助けてもらった。
     違いない。事実として上条はフレンダを助けた。物理的な虐めから救った。
     けれど――同時に、フレンダ自身より救われたのは自分だと言えるだろう。
     自らの家族だけではなく、フレンダが自分の傍にいてくれることでどれだけ、どれだけ心が軽くなったことか。
     仲良く遊んでくれるだけで、どれほど不幸から逃げることができたことか。


    338: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/03(土) 02:25:22.33 ID:MA0JWj5so

    フレメア「当麻お兄ちゃんは優しいんだっていつも話してた。私もそうだとおもう。にゃあ!」

     再び万歳する。
     違う、違う、違う。
     情けは人の為ならず。他人の為でなく自分の為。
     自分になんの見返りなく、それが出来る人こそ真に優しい人だろう。
     例えば、そうだ。
     上条に助けられたといえども、ずっと共にいたらまとめて虐められるのに、一緒にいてくれたフレンダこそが――
     誰もがそう思わずとも、上条当麻はそう思う。
     だから彼は言う。その彼女の妹を、そのベレー帽の上から軽く撫でながら。

    上条「……俺よりも、フレンダの方がずっと優しいよ」

     いきなり頭をなでられてきょとん、としたフレメアは言葉を投げかけれられて上条の腕を払うことも、嫌がる素振りも見せずに。
     ただ、笑った。
     知っている、と。彼女の表情は、雄弁にそう語っていた。。
     つられ、上条も笑う。
     数日前、フレンダは九年間で変わったのだとばかり思ってしまっていた。
     けれど違う。少なくともこの妹から見たフレンダと、自分の認識にあるフレンダは全くの相違はない。
     ふくれあがっていた不安の種がストン、と落ちていったような気がした。

     遅れて、駆け寄ってくる足音が聞こえる。
     もうその音だけで誰だかわかる。

    フレンダ「当麻ー、フレメアー、お待たせー……ってなんで笑ってるわけよ?」

     待たせていた二人の様子を見て、フレンダは疑問符を浮かべる。
     しかし、その答えを待つことはなく。
     瞬間、シュポッ、と軽快な音が小さく耳に届いた。


     やや遅れ、空に煙火で彩られた花が咲く。
     午後六時三十分。
     大覇星祭の目玉である、ナイトパレードの開幕だった。


    347: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/09(金) 00:48:32.21 ID:sjncZVmao

    「たーまやー!」

    「かーぎやー!」

     どこかでノリに乗った男子学生の声が響き、それに答えてまた声が響く。
     しかし大半の人は闇が支配した空に煌く花火に目を奪われ、言葉をなくしていた。
     それは勿論、ここにいる少年、少女らも例に違わない。

     空を覆い尽くす程の輝きがそれぞれの瞳に映しだされる。
     赤、青、緑、黄。紫、茶、桃、橙。
     ポピュラーな色から地味だけれど綺麗な色まで、様々な花が咲き誇る。
     そして、瞬きすら待たずに散ってゆく。

    上条「……ここに来てから毎年見てるけど、やっぱりこれは圧倒されるな」

    フレンダ「……ほんっと、そのとおりなわけよ」

     ボヤく上条に、賛同するフレンダ。
     しかし両者とも空から目を外すことはない。
     フレメアも後一口二口しか残っていないやきそばを食べることも忘れて、目をキラキラさせて空を見上げていた。
     上条の言うとおり、ナイトパレードの導入であるこの花火は毎年見ているけれど圧倒される、という生徒が大半だろう。
     例えるなら、エレベーターで下の階へ行く時の重力を感じる気持ち悪さのような。正しい例ではないかもしれないが、何度やっても、という点では相違ない。
     それほどまでに、これは圧巻なのだ。
     そうして永遠にも感じられた十数分が終わりを告げて。
     どこからともなく学園都市中に響く。

    『――只今より、大覇星祭夜の部、ナイトパレードを開始します!今日はまだ初日ですが、皆様楽しんでくださいね!』

     恐らく実行委員なのだろう、声がとても興奮していたように感じられた。
     しかしその興奮も他の人の感情に押し負けて、歓声の彼方へと消えてゆく。
     今ここに、正式にナイトパレードの開始が宣言された。


    348: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/09(金) 01:15:01.26 ID:sjncZVmao

     花火はしばしの小休止。
     この僅かな間に生徒、或いは先生、はたまた保護者達はこのナイトパレードで何をするかを決めるのが通例だ。
     再び花火が再開するまで話にふけっているもよし、街にくりだして屋台を巡るもよし、午前の部で疲れたからと寝るもよし。
     なにせ七日間のお祭りだ。今日は出来なくとも明日にだって他の選択肢は選べる。
     しかし、大半の学生は同じ選択肢を選ぶだろう。
     辺りに賑わっていた学生カップル達は手をつなぎながら同じ方向へと歩き出す。
     それを見送って、上条は左右にいるフレンダとフレメアを見てから言う。

    上条「そんじゃ、俺らもいきますか?」

    フレンダ「モチのロンってわけよ!結局、早めに全力で遊んでおかないと後から体力が尽きるしね!」

     大覇星祭中、学生を追う親も大概だが、実際に競技に出る学生の体力は大覇星祭が進むに連れて減っていく。
     三日程度なら育ち盛り、若さ、青春にかける想いでなんとかできるとはいえ、流石に七日間は長すぎるのだ。
     だから基本的に、その三日間に全力を尽くすのが学園都市の学生流儀。
     無論のことながらゆっくり回れる午後に向けて力を蓄える人もいるし、トップを狙う長点上機学園、常盤台中学などの生徒はペース配分を考えてそこそこに遊ぶ。
     だが普通の高校である彼らは例に漏れない。
     そうして顔を見合わせて笑いながら、同じように屋台のある方向へと向かう二人に二人よりとても小さい少女は二人の間に割りこむように突進をかます。

    フレメア「にゃー!」

    フレンダ「わっ!?」

    上条「おっと!?」

     弾けるように二人は立ち止まり、割り込んだフレメアを見た。
     ふん、と鼻息をならして多少不機嫌に見える少女は、その不機嫌さを隠そうともしないで口を開く。

    フレメア「大体、私も、フレンダお姉ちゃんと、当麻お兄ちゃんと、行く!にゃあ!」

     数秒、沈黙が走る。
     そうしてフレンダ、上条はどちらともなく、ぷっ、と不意に吹き出した。


    349: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/09(金) 01:28:59.43 ID:sjncZVmao

     瞬間怪訝な表情を浮かべたフレメアの両手を、それぞれフレンダと上条が掴む。
     そして引っ張られるようにして三人は歩き出した。

    フレンダ「当然、ってわけよ!結局フレメアもこないんだったら、何のためにいたのかわからなくなるってわけよ!」

    上条「そうそう。つーわけで、さっさといこうぜ」

     二人の少年少女は間に挟んだ女の子へとそう笑顔で告げて。
     きょとん、とした彼女の顔は直ぐに純粋な、満面の笑みへと変わる。
     そして理解が追いついて、身体の動きも引っ張られるスピードに合わせて加速する。

     ――再び、花火が再開する。

     刹那、太陽よりも強く光るそれはその場に影を示す。
     三人分の影を。けれど、一つに連なった影を。
     それは、宛ら。

    フレンダ「フレメア、何食べたい?お姉ちゃんが買ってあげるってわけよ」

    フレメア「にゃあ!わたあめ!」

    上条「フレメアは甘いもの好きなのか?そういえばフレンダも――――」

     ――それは、宛ら。
     まるで、子供を真ん中に挟んだ夫婦のようで。
     幸せな、一つの未来のようにも見えた。


     しかし。
     小さいフレンダともいえるフレメアと、そのフレンダと共に行動していたのを青髪ピアスや土御門、その他のクラスメートに見られて大騒ぎになるのは僅か数分後の話だった。
     相も変わらず、上条当麻は不幸らしい。


    350: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/09(金) 01:49:03.36 ID:sjncZVmao

     ■   □   ■


     時間も零時を回った頃。
     フレンダはスタンドライトだけが照らすテーブルの上にノートを開いてペンを走らせる。
     三十行の半分まで書いたところでペンをとめ、溜息と共にそのまま後ろに倒れ、絨毯の上に転がる。

    フレンダ「くぁ……」

     思わず欠伸がでてしまう。
     今日は流石に疲れた。大覇星祭の初日だというのにはしゃぎ過ぎたような気もする。

    フレンダ「……ま、それだけじゃないけど」

     脳裏に思い浮かぶのは昼間追い詰めて闇へと突き落とした中学生。
     上条に見つかってしまったときはもうおしまいだと思ってしまった。
     けれどうまく――嘘をついてしまったけれど――ごまかせて、運がよかった、といえただろう。

    フレンダ「結局フレメアもうまく当麻と仲良くなったみたいだし、万々歳ってわけよ」

     思い出すのはナイトパレードが始まってすぐ。フレメアが『当麻お兄ちゃん』と呼んだ瞬間のこと。
     流石は自分の妹だと思ってしまった。懐き度が半端ない。
     それでも、そう簡単に自分の大切な人を妹に渡すつもりなんかないけれど。

    フレンダ「さて、と!」

     そんな掛け声と共にフレンダは一気に腹筋の要領で跳ね上がり、再びテーブルに向かう。
     しかし先ほどまでの様な時間はかけないで先ほど書いたものに更に数行加えただけでノートを閉じた。
     そして愛おしそうな表情をしてその表紙をゆっくりと撫でる。

    フレンダ「…………」

     そうしてたっぷり十秒もつかい、ようやくノートを道具箱の中へとしまう。
     スタンドライトのスイッチに手をかけて、けれど直ぐには押さず、フレンダは一つの方向を見遣る。
     その方向は、フレメアの部屋。彼女が寝て、起きて、生活している部屋。
     フレンダはそちらへ向かって『おやすみ』とだけ紡ぎ、電気を消す。
     そして、室内は闇へと包まれた。


    351: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/09(金) 01:51:19.17 ID:sjncZVmao

     恐らくこれで大覇星祭編は終了。


    354: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/14(水) 21:03:03.73 ID:ChPwem3Do

     ■   □   ■

     冬休みも開けて、早数日。
     放課後の廊下では腕を交差させて両肩を抑え、『さむいねー』『ねー』などの会話が繰り広げられている。
     そんなきゃっきゃきゃっきゃという黄色い声を聞きながら上条も寒っ!と白い息を出すのも一瞬。
     背後から思いっきり突き飛ばされて、顔面から冷たさと埃を蓄積した廊下へとダイブする。

    上条「つっめてぇえええええええっ!?」

     不幸だー!?と叫びながら冷たさをどうしようもない上条は素早くしゃがむ体勢になり、両手で口元を抑えて息を吹きかける。
     そんな彼を背後から笑うのはやはり彼を廊下へと突き出した二名の男子生徒。

    青ピ「なっはっは、何しとんねんカミやん」

    土御門「そうだぜい、たるんでるんじゃないかにゃー」

    上条「たるんでるもなにも、寒いなーって思った一瞬を突かれれば大体こうなるだろーが!」

     拳を握り、力説する上条。
     しかし青髪ピアス、土御門の両者はなんのゆらぎも見せない。

    土御門「そうはいっても、カミやんはいつもいつもあの子に背後から襲われてるぜい?いつでもどこでも、どんな時でも」

    青ピ「でもボクやつっちーはそれで倒れたことは見たことあらへんもん」

     『なー?』『なー』と顔を見合わせて首を傾げる二人に上条はややいらだちを覚える。
     しかしそれを拳に乗せて奮ったところでどうにも為らないことは知っている上に、ヘタをすれば例のごとくフレンダとの関係をネタにいじられかねない。
     ので、溜息を吐いてから簡潔に理由を述べることにする。


    355: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/14(水) 21:17:00.35 ID:ChPwem3Do

    上条「あのなぁ、フレンダは別にお前らみたいに俺を突き飛ばしたりはしてねーから」

    青ピ「でも、それならフレンダちゃんが乗っかった瞬間にカミやんはその勢いで倒れることになるんちゃう?」

    上条「いや、それもないよ。フレンダはあれで、結構気をつかってるからさ」

     なんていえばいいのかなー、と上条は頭を悩ませつつとりあえず口走る。

    上条「あれは徒に俺に突進しているわけじゃなくて、ちゃんと俺が倒れるか倒れないかーっていうのも見極めながら抱きついてるんだよ。だから悪くても数歩よろける程度」

    上条「今まではないけど、本当に倒れそうになったときは腕を離したりしないで逆に力いれて、倒れないようにもするんじゃねーかな……ってどうしたんだよ二人とも」

     全部言い終えて上条が見たのは、既に上条の話から興味を失っている青髪ピアスと土御門の姿だった。
     呆れた顔と恨めしそうな眼で上条を見るのはやはりその話に思うところがあるからだろう。
     というよりも、二人だけではなく偶然廊下にいた男子生徒も『また上条が……』といった視線で彼を見ていた。
     それはそうだ。今の上条の話は、つまりフレンダが自分をとても気遣ってくれている、という内容のものだ。
     だから、つまり、それは――――

    青ピ・土御門「「惚気、乙」」

    上条「んなっ!?」

     そう、惚気にしか聞こえない。
     自分の彼女がどれだけかわいいかという自慢話をしているそこらの中高生となんらかわらない。
     上条的にはそんなつもりはないのだがやはり周りからはそう聞こえてしまうのだ。


    356: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/14(水) 21:44:28.01 ID:ChPwem3Do

    青ピ「あーもう本当にムカツクわー」

    土御門「本当だにゃー。一人だけなら兎も角その上二人も三人も手を出してるこのモテモテ男、本当にムカツクぜい」

    上条「いやいや!上条さんには二股なんてもってのほか、一人も彼女なんていませんのことよ!?」

     しかし、上条が気がつかないだけでフラグは幾つも乱立している。
     クラス内だけで上条へ意識が向いている生徒が一体何人存在することか。
     学校中に範囲を広げてみれば両手両足の指では足りない。
     学校外へ足を延ばすともはや数えることすら億劫になることだろう。
     そんな状態でもフラグが立っていることにすら気がつかず、尚且つ更にフラグを立てるだろう彼に二人は呆れも、怒りすら通り越す。

    青ピ「あーはいはい、そうやなー」

    土御門「これだから主人公体質は。ケッ」

    上条「つ、土御門?青ピ?どこいくんだよ?」

     ぶつぶつといいながら去っていこうとする二人に上条は恐る恐るながらも声をかける。
     あぁ?とドスの利いた声と共に睨みつけながら振りむいた顔に流石の上条も怖気づいた。

    土御門「俺たちはゲーセンいくんだにゃー、このイライラの憂さ晴らしに」

    青ピ「カミやんはそこらの女の子と遊んでればええんやから、ついてきたら怒るで」

     それだけいうと再び歩き出し、彼らと上条の距離は遠ざかる。
     はぁ、と溜息を吐く。翌日になればそのゲーセンでストレスを発散しているのか元通りになっているから、ここは放っておくのが吉だ。
     それでも理不尽を感じずにはいられない。上条の中では本当に何もフレグの立っている出会いはないハズなのだ。

    フレンダ「……どうしたの当麻、そんな溜息吐いて」

     このフレンダと、妹のフレメアを除いて。


    357: >>356 フレグ→フラグ 2011/09/14(水) 22:01:38.03 ID:ChPwem3Do

    上条「あぁ……フレンダか。いやさ、いつものことながら見に覚えのない事でアイツらに責められ、」

    フレンダ「結局それは当麻が悪いってわけよ」

     全部言ってないのにフレンダにすら断言され、上条の心は瀕死寸前へと追い込まれる。
     しかし事実だ。知らぬは本人ばかりなり。
     廊下の隅にしゃがんで落ち込む上条の頭をぽんぽんとフレンダは叩いて慰めつつ、そんな上条に問いかける。

    フレンダ「一応きくんだけど、当麻今日は用事か何かある?」

    上条「えっと……いや、特に無いから何でも付き合うぜ?クレープ食べにいくでも、服見に行くでも、喫茶店にいくでも――――」

    フレンダ「いや、ないってわけよ、私用事あるから」

     ずがん、と再び上条は頭を金槌で打たれたように衝撃を受ける。
     そして質問された時にだけ一瞬戻った覇気ある眼も一気に暗闇へと落ちる。

    上条「人の予定を聞いておいて自分には用事があるからとか、なんの虐めだよ……ちくしょう」

    フレンダ「あわわ、結局そういう意味じゃないってわけよ!確かに私には用事があるけど、いやあるからお願いがあるってわけよ!!」

     ぶつぶつと呟きながら地面に拳を打ち付けていた暗黒面上条はその言葉で動きを止めた。
     よし、聞いてくれる!と思ったフレンダは一気に話を畳み掛ける。

    フレンダ「今日フレメアの学校で他校との交流会があるから遅くなるって言ってたってわけよ。でも私は用事があるから、迎えに行って欲しいって話だったんだけど……」

     ダメ?とフレンダは両手を合わせて尋ねる。
     上条は彼女の方を見ておらず廊下の壁に顔が向いているが地面を殴っていないところからみると話の内容を吟味しているのだろう。


    358: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/14(水) 22:38:35.94 ID:ChPwem3Do

    上条「……わかった、いいぞ」

    フレンダ「ありがとう当麻!本当に恩にきるってわけよ!」

    上条「それで、何時ぐらいにいけばいいんだ?」

     ようやく精神が安定した上条は立ち上がって、フレンダからお願いについて伺う。
     フレンダは確か、と人差し指を唇に当てて考える素振りを見せた。

    フレンダ「夕方……五時・六時ぐらいだったはず。今からなら三時間ぐらいまだ余裕があるってわけよ」

    上条「みたいだな。場所は?」

    フレンダ「私が用事の場所についたらメールで送っておく」

     わかった、と返したと同時、フレンダは時間を確認した。
     よほど時間がないのだろうと上条が思ったと同時に、フレンダは上条に背を向ける。

    フレンダ「それじゃあ、また――――」

    上条「――っと、フレンダちょっと待て!」

     フレンダはお別れの挨拶の上から言葉を重ねられてもその言葉を聞いて、反射的に足を止めた。
     上条は慌てて鞄を開いて一冊のノートをとりだし、それをもってフレンダの傍へと駆け寄る。

    上条「ほい、いつものな」

    フレンダ「ん、確かに承ったってわけよ」

     そのノートは上条の手からフレンダの手へと渡り、そして彼女のスカートの中へと消える。
     上条は鞄を閉めつつ、軽く微笑みながらフレンダへと先ほど途切れさせてしまった別れの挨拶を告げる。

    上条「そんじゃあ、またなフレンダ」

    フレンダ「うん、それじゃあまた、月曜に」

     フレンダも答えるように笑みを浮かべて、そして廊下を駆けていく。
     上条は彼女の姿が見えなくなるまで見送り、見えなくなった瞬間に大きく息を吸い、吐く。
     その白い息はすぐに霧散して空気へと消える。


     ――冬休みが開けて、数日の有る日のこと。
     本日は土日休みの一歩手前な、第三金曜日。


    364: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/19(月) 02:27:36.69 ID:6o65SDrVo

     ■   □   ■


     午後四時二十分。
     フレメアの通うとある小学校での学校交流会が終わりを告げた。
     六つの机をくっつけたテーブルにつく彼、彼女らは揃って終了の合図を示す壇上の先生を見る。

    先生「それじゃあ、今日はみんなお疲れ様。何度もいってるけど、三学期になってからここら一帯で不審者がでてるらしいからなるべく暗い道とか一人で歩いたりしないようにね」

     はーい、と素直で純粋な声が合唱する。
     勿論その中にはフレメアも混ざっている。

    先生「それじゃあ、皆気をつけて帰ってください。起立、きょうつけ。礼」

    『さようならー!』

     いうやいなや、少数の男子生徒は我先にと教室の引き戸を開いて廊下に消える。
     恐らく昇降口までの競争でもしているのだろう。いつものことだ。
     掃除当番を除くその他の生徒は自身の仲のいい友だちと共に荷物を担ぎながら廊下へ行く。中には改めて先生に別れの挨拶をする生徒もいた。
     フレメアもその枠組の中に入るはず、なのだが。
     掃除当番の邪魔にならないよう、ランドセルを背負ったままベランダへと出て、帰宅をする素振りを全く見せなかった。

    「フレメアちゃん、一緒にかえろー」

    「早く帰らないと不審者が来ちゃうかもしれないよ?」

     いつもなら途中まで一緒に帰る友達がベランダに出たフレメアを追って、声をかける。
     しかしフレメアは首を軽く左右に振った。

    フレメア「今日は、お兄ちゃんが迎えに来るの。にゃあ」


    365: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/19(月) 02:45:37.59 ID:6o65SDrVo

     その言葉に二人は目を丸くした。
     どう見ても姉妹だとわかるお姉ちゃんを見たことはあっても、お兄ちゃんというのは初耳だったからだ。

    「フレメアちゃんってお姉ちゃんだけじゃなくて、お兄ちゃんもいたの!?いいなぁー」

    「そのお兄ちゃんも、やっぱりフレメアちゃんと同じで金髪なの?」

    フレメア「ううん、当麻お兄ちゃんは違うよ」

     その日本人らしい名前にまた二人は目を丸くする。
     てっきりフレメアの兄妹というのだから、よく見るスラっとした外人系の人を想像していたのだ。無論、名前も横文字。

    フレメア「当麻お兄ちゃんは、お姉ちゃんのおさななじみーって言ってた、にゃあ。でも、私にも優しくしてくれるんだよ」

     そう笑顔で告げるフレメアに二人は顔を合わせる。
     女の子は早熟、とよく言う。といっても例外はどこにでもあるのだが。
     それでもフレメアの目の前に立つこの二人は無意識下で察したことだろう。今、フレメアは上条のことを話す瞬間は満面の笑みを浮かべていたのだ。
     フレメアはその『当麻お兄ちゃん』を好いている。それが『好き』なのか『憧れ』なのか、はたまた『懐き』なのかは区別がつかないが。
     とりあえずその事実があれば十分、といわんばかりに彼女らもまた笑顔を浮かべる。

    「それじゃあ私達は先に帰るね」

    「フレメアちゃんも気をつけてねー」

    フレメア「うん、大体そっちも気をつけてねー」

     そういって彼女らはフレメアとまだ見ぬお兄ちゃんとやらを話の種にしながら教室を去っていく。
     一人ベランダにのこるフレメアは、それでも微笑を浮かべつつ窓の縁に腰掛ける。
     少しばかり長くなった日は、それでもこの時間では赤い夕焼けになっている。
     足をぱたぱたとぱたつかせつつその空を見上げて、一人ごちる。

    フレメア「当麻お兄ちゃん、早くこないかなー」

     赤く染まる道路を小さい黒い影が横切る。
     しかし空をみあげているフレメアはその影に、全くと言っていいほど気がつかなかった。


    375: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/24(土) 01:32:46.17 ID:KXY1gf2no

     ■   □   ■


    上条「フレンダの話だと、終わるのは五時から六時ぐらいじゃないかってことだったけど……」

     いいながら上条は辺りを見る。
     はしゃぎながら駆けていく男子、横一列に並んで談笑しながら歩く女子。
     そんな小学生の流れに逆らって、上条はとある小学校へと向かっていく。

    上条「……こりゃあ、もう交流会ってやつもおわってるな。フレメア待ってるだろうな」

     迎えが来なくてしょんぼりしている金髪幼女を脳裏に浮かべ、罪悪感を感じる上条。
     どう言い訳をしようか考えながらようやく見えた学校に、徐々に近づいてゆく。
     放課後の小学校。軽く懐かしさが心の底に蘇る。
     辺りが真っ暗になるまでグラウンドでサッカーとかしたなーとか思いつつ、もはや校門まで十数メートルとなったところで。
     悲鳴。
     そして、怒号。

    上条「!?」

     思わず校門を出たばかりの小学生たちも立ち止まり、校舎の方を振り返った。
     遠くまで響いた悲鳴は、もう聞こえない。
     しかしそれは間違いなく学校から聞こえてきたもので。

    上条「――行くっきゃねぇだろ!」

     自称偽善者の上条当麻が動くに値する理由としては十二分過ぎた。
     ただ先ほどの声に呆然とする生徒達を追い越して、彼は校舎内へと駆け込んだ。


    376: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/24(土) 01:53:05.15 ID:KXY1gf2no

    上条(確か、声が聞こえたのはこっちのはず!)

     必死の形相で逃げる子供とすれ違いに、上条はグラウンドへと飛び込む。
     上条は目を疑った。
     そこに、立っている人は誰一人として存在しなかったから。
     そこにいる皆が皆、致命傷ではないとはいえ傷を負って横たわっていたから。その中には、生徒だけではなく共に遊んでいたであろう教師も含まれていた。
     ころころと余韻で転がるサッカーボールだけがつい先ほどまでは何事もない日常だったことを表している。
     そんな中、腕に力を込めて立ち上がろうとする男性教師を上条は見つける。

    上条「大丈夫ですか!?」

     上条が駆け寄ると同時に、彼の身体から再び力が抜ける。
     そんな彼の身体は、必要以上に傷がついていた。
     服の上からぱっくりと何か鋭利な刃物で切ったかのような跡が幾つもある。恐らく、他に倒れている人も同じだろう。
     人数からして刃物で直接傷をつけたとは考えにくい。
     何かしらの能力。上条はそう判断する。

    教師「きみ、は……」

    上条「俺は友達に頼まれて友達の妹を迎えにきたんだ……です。何があったんですか!?」

     なれない敬語を使いつつ、その教師に問いただす。
     その彼の答えを聞くよりも先に、遠くからバリン!と何かが壊れた音が聞こえた。
     思わず、上条はそちらへと顔を向ける。しかし影になっているのか、犯人は確認できなかった。

    教師「……きっと、逃げた生徒を追いかけて、そこから校舎に……」

    上条「くそっ!」

     悪態を吐いて、上条は走りだす。
     グラウンドの人たちの手当をする、というのも最もだが、まだ危機は過ぎ去っていない。
     命に関わる怪我を負っているのならまた別だが、全員が今の教師程度の怪我ならば危険を退けてからでも治療は遅くはないだろう。
     それに。

    上条(校内には多分、フレメアもいる……!)

     その事実が上条を焦らせる。
     家族ではないがそれ同然に大切な妹分。焦らないわけがない。
     そして彼は犯人の割った窓ガラスを見つけ、そこから校舎内へと飛び込んだ。


    384: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/10/02(日) 02:09:51.38 ID:zfGkbpcfo

     割れた窓の縁を、手を切らないように気をつけながら掴んで飛び込む。
     その時には既に犯人はそこには存在しなかった。

    上条「――けど」

     道標は残されている。
     それは廊下に転がっている少量の土。
     学校内、というのは土足厳禁だ。仮に土足で入ったのだとしても、クラスごとに廊下は分担して清掃されている。
     だから証拠は残る。不法侵入を果たし、どこへ向かったのかというその証拠は。
     上条は廊下の地面から顔を上げて、足跡と土が残された方向を見遣った。
     そこには。

    「っ…………」

    「はぁ、はぁ…………」

    「いた……い、よ…………っ……」

     その犯人が行ったであろう惨状が残っていた。
     残されていたのは証拠だけではなく、その結果。
     台風のようなものだ。
     通り過ぎた道のりを示し、そして多大な損害を振りまく。
     そしてそれは、消えない限り、進路方向へ災害を振りまき続ける。

    上条「んの――やろ!」

     グラウンド、そして廊下。
     何かの目的があって行動しているようには思えない。
     これは無差別で、その標的にこの小学校が選ばれただけだ。
     だからこそ。
     だからこそ、上条は怒る。
     そんな、自分自身だけの都合でなんの罪のない人を傷つけてもいいのか、と。


    385: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/10/02(日) 02:28:28.17 ID:zfGkbpcfo

    上条「おい、大丈夫――――」

     とりあえず、手短に倒れていた少年に問いかようとした最後の言葉は掻き消える。
     それは上条が襲撃を受けた、或いは意図的に切ったわけではなく。
     それより大きな声に上書きされたのだ。
     即ち、悲鳴に。

    上条「っ、すまん!後で手当はしてやる!」

     曖昧に頷いたのを尻目に、上条は廊下を駆ける。
     倒れている人を通り越しながら、先ほどの悲鳴はどちらから聞こえてきたのかを考える。
     方向ではなかったと思う。右とか左とか、そういう場所からではなく。
     どちらかといえば学校全体に響いたのが伝わったような。

    上条「ってことは、上か!?」

     眼の前の階段を注意深く見てみると、僅かに土が落ちていた。足跡は結構前より消え失せていた。
     生徒の誰かが持ち込んだものに土がついていた、という範囲で片付けられるかもしれないが僅かな可能性でもやらないよりはマシ。

    上条「……また!」

     パリン、と窓の割れる音が遠くに聞こえた。
     距離から判断して、恐らく三階だろうと判断する。
     上条は階段を二段飛ばしで駆け上がり、数十秒もかからずに三階へと到達した。
     先程からずっと走って息が少しばかりあがっているが、上条はそれを整える素振りすら見せずに顔を上げ、沢山の教室に繋がる一直線の廊下へ躍り出る。

    上条(――みつけた!)

     一人の男が腕を振りかぶっていた。
     真っ黒なロングダウンコートに身を包み、フードを深くかぶっている様に見える。少なくとも後ろからでは風貌は全くわからない。


    386: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/10/02(日) 02:43:19.14 ID:zfGkbpcfo

     瞬間、その男は何をしたわけでもなく、何かをした。
     その腕に何かを収束させたのだ。
     特に、何かの変化はない。けれど、雰囲気からしてわかる。数多のトラブルに巻き込まれてきた上条は直感で思う。

    上条(――やっぱり、能力者!)

     でなければ、アレだけの人数をコレほどまでに傷つけられるはずがない。
     そして彼はまた、その能力を使って上条の角度からでは見えない、目の前の少年、或いは少女を傷つけようとしている。
     これが、許されるだろうか。

    男「これで――十七人目!」

     そんな、楽しみと怨念が入り交じった声と共に。
     彼はその腕を振り下ろす。
     きっとそれは、その先の誰かを傷つける。
     それは――そんなことは――――

    上条「やめ、ろぉおおおおおおおおおおおっっっっ!!!」

     上条は咆哮する。駆け出す。
     その無防備な背中へと向かって、いきなりの乱入者に驚き、上条へと振り返りかける男へと向かって。

     そうだ、当たり前だ。
     自分しか持っていない何かを使って誰かを傷つけることなんて、そんなの――――
     ――許されるわけがない。


    387: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/10/02(日) 03:02:57.25 ID:zfGkbpcfo

    男「なっ、なん――!?」

     轟!と。
     人四人が横に並べば道を軽く塞げる廊下に、突風が一気に吹き抜ける。
     理解する。こいつの能力は風を操る能力だと。
     その風をかまいたちのようにして人を切り裂いていたのだと。
     しかし、上条にはそんなもの関係はない。

     慌てて目標を見失った風は男を中心として窓ガラス、教室に貼られているガラスを連続して割る。
     きゃあっ!と標的だった少女の悲鳴が風の音に混じって響く。
     そして。
     四方八方の例に違わず、上条自身にもその暴風は向かってくる。
     恐らく、この暴風は読んで字のごとく、暴走している。
     普通は演算中に邪魔が入れば霧散するだけだが、『不幸』なことに恐らく反射的に自分の力を超える演算を果たして、制御しきれなかったのだろう。
     そんなものを真正面から喰らえば、ただではすまない。

     だが、しかし。
     上条当麻に、そんなものは関係ない。

    上条「おぉおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

     その、右手を。
     ただ、前に突き出す――――

     刹那。
     音が消える。
     風が消える。
     ただ響くのは、上条の足が地面を叩く音のみ。

     ――『幻想殺し』。
     上条当麻の右手に宿る、ありとあらゆる異能、奇跡、幻想を無へと帰す、唯一絶対の能力――――!


    388: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/10/02(日) 03:17:51.07 ID:zfGkbpcfo

    男「ちょっ、何――――!?」

     自分が能力を暴発させたことは理解しているのだろう。
     それが一瞬にして消え去った。
     それは僅か数秒も経っていない間の出来事で、理解が追いつかないのも道理だ。
     けれど。
     やはり上条には、そんな混乱などなんの関係もなく。
     ただ、やるべきことを成す。

    上条(お前が何を考えているか、なんてしらねぇ。何があったのか、なんてしらねぇ)

     人に何か怒りをぶつけたくなるような何かがそこにはあったのだろう。
     人に八つ当たりしなければやっていけいないようなことがあったのだろう。
     しかし。
     それを無関係な人にぶつけるのはお門違いというものだ。

    上条(それでも、自分より弱い、抵抗できない、無関係な誰かにそれをぶつけるっていうのなら)

     その幻想をぶち殺す。
     上条はその言葉を心で飲み込んで。
     拳を振りかぶりながら、最後の一歩を詰める。

    上条「テメェのことは、テメェ自身で何とかしやがれこの野郎!!」

     バキン!と。
     振り抜かれた拳は男のフードの外から頬を打ちぬき。
     男はその場で一回転して地面へと落ちる。


    389: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/10/02(日) 03:38:55.81 ID:zfGkbpcfo

    上条「ったく……大丈夫か?」

    少女「あ……う、うん」

     上条は尋ねながら手を伸ばし、少女は辿々しく、戸惑いながらもその手を掴んで立ち上がる。
     見たところ、廊下の隅まで追い詰められていた少女に目立った怪我はなかった。
     十七人目、と言っていたから十六人は被害を受けてしまったが、それ以上は防げたのだからよかったとしておこう。

    少女「お、お兄さん……助けてもらって、ありがとうございました」

    上条「いや、きにすんなって。偶然俺も通りかかっただけ……っと、そうだフレメアに連絡しねぇと」

     忘れていたわけではないが、これからのことを考えると連絡しておいたほうが都合がいいだろう。
     仮にも校内に入るにも許可をとっていないのだし、きっとこの不審者を取り押さえて事情を聞かれるのだろうし。
     どのくらい拘束されるのかなーと思うと頭が痛くなる上条だった。
     そして、フレメアにその旨を伝えようと携帯を取り出した瞬間。
     その携帯が震える。

    上条「っと、びっくりした」

     反射的に折りたたんだままボタンを押してバイブレータ機能を止めてしまい、サブディスプレイではメール一通が来たと表示される。
     携帯を開いて、メールボックスを開くと、そこに表示された名前は件の金髪碧眼少女からだった。
     何か起こってるみたい、とかそんな感じかなー、などと思いつつ上条がメールアドレスを開くと、そこに写った文字はたったの四文字。
     いや、本文には何も記されていない。記されていたのは件名の方だ。
     つまり――それほどまでに慌てていたということで。

    フレメア『たすけて』

     それは、まだ事件が終わっていないことを示していた。


    393: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/10/10(月) 00:55:28.61 ID:EtixBlmSo

     ■   □   ■


     時はほんの少しだけ遡る。

    フレメア「………………にゃー」

     パリン、とどこかで遠くで音がした。だから目が覚めた。
     おそらく日常から外れた非日常に身体が無意識に危機を告げたのだろうが、しかしフレメアはそれに気が付かない。
     寝ぼけ眼状態ではだいたいの事は素通りになるものだ。

    フレメア「……ここ、どこだっけ…………」

     にゃあ、と大きい欠伸を一つ。
     そのままぼーっとして数秒、自分がようやくどのような状態にあるかに思考がいく。
     ここは教室で、教卓の中。そして自分は教壇によしかかって寝ていたのだ。

     掃除が終わるまでベランダで外を眺めていたのはよく覚えている。問題なのは終わった後だ。
     窓を施錠する、と言ったから教室に入って、それでもまだ時間はあった。だから少し寝ようと考えたのだ。
     しかしなぜか自分の席に座って寝る気にもならず……その時に偶然に目に入ったのが教卓だった。
     フレメアぐらいの小学生なら三人で余裕、三人でギリギリの空間に、フレメアは身体を滑り込ませた。
     思った以上に居心地のよかったそこで、フレメアは当初の予定通り寝入ってしまったのだ。

    フレメア「……んー」

     教卓から這いでて、ぐっと背伸び。
     よくねた、というのはあくまで主観の話。彼女が時計を見ると、大した時間も経っていないことを知る。
     数字にして凡そ20分前後だろう。あと五分もしないうちに五時になるとアナログな時計は告げていた。


    394: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/10/10(月) 01:13:45.84 ID:EtixBlmSo

     そういえば。
     フレンダからのメールに上条が五時ぐらいにくるとかなんとか……

    フレメア「にゃあ!?」

     悲鳴。
     もう少しで時計が五時を指すことを再確認する。
     鞄をもって、急いで教室から飛び出した。
     わざわざ迎えにきてくれるのだ、その当麻お兄ちゃんを待たせるわけにはいかない。
     そう思うのはごく自然なことで、そうなると周りが見えなくなるのもごく普通のことだった。

    フレメア「にゃあ、にゃあ、にゃあ!?早く校門まえにいかないと!にゃあぁあああああっ!」

     冷静に考えれば五分もかからずに到着するのだが、混乱した彼女にそんなことを考える余裕はないらしい。
     遠くから悲鳴が聞こえた様な気がしたが、目的に向かって一直線な彼女にはどうでもいいことだ。
     階段をかけおりて、昇降口に飛び込む。なぜか自分と同じように慌てていた人が多かったが、自分もそうであったためあまり気にしなかった。
     そして多少なりとも息を切らせながら外にでる。
     校門まで十メートルというところで、軽く左右を見渡した。
     上条の姿はない。まだ来ていないのか、校門を間違えている可能性もある。

    フレメア「……そうだ、大体メール送ればいいんだ」

     何故そんな簡単なことが思い浮かばなかったんだろう、と軽く自分を馬鹿にしながら、フレメアはポケットから可愛らしい子供携帯を取り出した。
     そしてメール新規作成欄を選んで、『当麻お兄ちゃん』と登録したアドレスを呼び出して――


     ――ボスン、と。
     とても軽い、しかし場違いであるような音が、その距離十メートルに満たない距離から響いた。


     フレメアはメールを打とうとしたてを止めて、その音がなんだろうと思い前方を見やった。
     瞬間、自分と同じように急いでいた男子生徒が胸を抑えて地面に伏す。


    395: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/10/10(月) 01:31:59.88 ID:EtixBlmSo

     ただフレメアはそれを黙って見つめていることしかできなかった。
     それの原因は、どう考えてもこの小学校に置いて異物でしか無い、校門に立つ男だった。
     既に校舎内に侵入して暴れまわっている男と同じようなロングダウンコートを羽織ってフードを被っている男。
     夕日に照らされて校門に立つそれが嫌に神々しく見えた気がするが、それは気のせいだ。
     何故ならば。
     その手の中には。

    フレメア「……ボウガン?」

     だっけ、と心の中で付けたす。
     以前にテレビの中で見たそれと、とても形状が酷似しているように思われた。
     風がフレメアの頬を後ろからくすぐり、通り抜ける。
     恐らく、彼女の呟きはその風に乗ったのだろう。風は瞬く間にそのフードをかぶった男を煽って――

     そのフードに下に隠れた怨嗟の宿った瞳が、自分に向けられていたのを知る。

     ゾクリ、と自分の意識とは無関係に背筋に悪寒が走る。
     わからない。
     これがなんなのか、フレメア=セイヴェルンにはわからない。
     だがしかし、彼女の脳裏には思い浮かぶものはあった。
     それは、自分のお姉ちゃんが自分を助けだしてくれた時のこと。ビジネスホテルの一室で自分がクローゼットに隠れて黙ってた時のこと。
     あの部屋に突入してきた人がフレメアお姉ちゃんに向けていた感情に、これはよく似ていた。

    フレメア(――だめっ!)

     思うやいなや、フレメアは走りだす。
     袋小路になってしまう校舎内は即座に否定し、ただっぴろいグラウンドの方へ。

     ――足音から、相手が自分を目標対象にしたことがわかるのは僅か三秒後の話。


    396: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/10/10(月) 02:09:46.65 ID:EtixBlmSo

     走りながら、手探りで携帯を操作する。画面を見ている余裕なんて無い。

    フレメア(えと、えと……送、信!)

     ピッ、と送信ボタンを押して、携帯を閉じる。これ以上助けを呼ぶ余裕はない。
     今のフレメアは知る由も無いが、サブタイトルとはいえちゃんと『たすけて』とキチンと打てたことは僥倖でしか無いだろう。
     校舎の角を曲がり、グラウンドに出た彼女はそこにあった死屍累々の光景に思わず自分の目を疑い、立ち止まる他なかった。
     先ほど上条が見た光景と然程の変化はない。あるとすれば、教師が自分の怪我を引きずりながらも子供の治療に当たっていることだろうか。

    フレメア「なにが……」

     何が起こっているのか。
     彼女には何も知る術はないが、何かが起こっているのだけは理解した。
     足音の迫る、自分の背後も含めて。

     隠れないと、と思う。
     フレメアの髪の色は良くも悪くも目立つ。隠れでもしないと撒くことなど不可能だ。
     ――が、ここはグラウンド。隠れる場所など何一つ無い。強いて言うなら遊具や、水分補給のための蛇口のある場所だが間に合いやしない。
     結果、彼女は怪我人が只管に多いグラウンドへと足を踏み入れるしかなくなるのだ。
     彼女がグラウンドに飛び込んでから数秒もせずに辿り着いた男は、グラウンドの光景に対して僅かに感嘆の声をあげた。
     『沢山の無能力者共が地を這っているのはとても滑稽で愉快だ』。そうとでもいいたげな表情で。

    フレメア「――にゃっ!?」

     足がもつれて、転ぶ。運が悪いことに、その声で男を現実世界に引き戻した。
     男は自分が校門付近で捉えた金髪少女を確認し、そのボウガンに矢を番えて、構える。
     その距離は15メートルと先程より離れており、動いていないとはいえ当てるのは難しい――と思うだろう。
     が、彼の能力は飛び道具の精度を上げる能力だ。でなければわざわざこんな武器に頼ったりなどせず、能力で戦いに挑むだろう。
     レベルが上がればきっと『絶対命中』にもなるのだろうが……彼の実力では精々精度を上げるのが精一杯だった。
     


    397: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/10/10(月) 02:24:13.03 ID:EtixBlmSo

     だが、それでも。
     この距離なら、外さない。

    男「――無能力者は、死ね」

     グラウンドに居た教師が、治療道具を持った教師が口々に叫ぶ。
     『危ない』『やめろ』『誰か止めろ』――――
     そんなことを言われたって、彼にはそんな気は毛頭無い。
     男とフレメアを遮断するものすら何一つない。
     フレメアを狙ったことに大した理由など存在しないが、無能力者は全部同じだ。ただ目立ったかそうでないかの違いだっただけだ。
     引き金にかける指に力を入れる。
     フレメアが、碧い瞳でうつぶせに倒れたまま背後の彼を見た。
     その目は、恐怖と怯えと絶望に埋め尽くされていて。
     彼は、それが見たかったのだと嘲笑って、引き金を引く。

     射出する、その瞬間。
     フレメアの眼に、驚きが宿るのを彼は見逃さなかった。
     しかし、辺りに気配は何も無い。四方八方、十六方。どこからも足音など何も聞こえない。
     一体、何に驚くことがあろうか。
     そう思いながらも彼は入れた力を抜くことなどできず、矢は放たれる。

    上条「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお―――――――――――!!」

     ――それは。
     上から、降ってきた。


    398: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/10/10(月) 02:50:09.02 ID:EtixBlmSo

     二階の教室内の窓から外を確認した上条は、フレメアが逃げるようにグラウンドに飛び出したのを見かける。
     たすけて、というメール通りの言葉ならば今まさに追われている。
     だがわざわざ一階に降りてから向かっていたのではきっと間に合わない、守れない。
     そう判断した上条は、そのままベランダから飛び降りたのだ。
     幸か不幸か、偶然にも、フレメアとボウガン男の間に立つような立ち位置で。
     無論のことながら、それがどういうことを意味するかは上条を除く、すべての人が理解できた。

    上条「っ――――!?」

     ドスッ、と。
     上条の背中に深く、ボウガンの矢が刺さる。
     思わぬ衝撃と、着地のそれで上条は意図せずに片膝をついた。

    フレメア「当麻お兄ちゃんっ!?」

     フレメアは誰よりも何よりも驚きに目を見開き、悲痛な声で彼の名前を呼ぶ。
     しかし彼は手でそれを制して、ゆっくりと起き上がった。
     背中に刺さって飛びてている矢があまりにも間抜けに見えるが、その傷口から滴る赤い水を見ると笑い事ではすまない。
     そして、そんな状態になりながら尚立ち上がるのを見た男も唖然としながらも矢をつがえたボウガンをもう一度構えた。

    男「お、お前なんだ……なんだよ!お前!」

     動揺を隠せず、しかしこちらが優位であると判断した男はもう一度強い口調で彼に問いかける。
     上条はゆっくりと振り返り、そのボウガン男と対峙する。
     血がグラウンドに落ちて、赤いシミを作る。
     誰がどうみても、男が優位だ。上条も助けに入ったのはわかるが、怪我をしたのだからされるがままにされるしかない。そう皆が思っただろう。

    上条「――お前こそ、なんだよ」

     が、上条当麻は違った。
     この状況においても、自分の身など気にもかけずに、闘争の心は失っていなかった。


    399: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/10/10(月) 03:04:25.40 ID:EtixBlmSo

    男「なんだよ、って……」

     そんなこと、いう必要はない。
     けれど、それ自体を言うのを躊躇われた。

    上条「お前は、お前らは。一体何がしたいんだよ……!」

     上条の顔が怒りで歪む。
     ぎり、といった歯ぎしりがグラウンド中に響き渡った気がした。

    上条「無抵抗な小学生を!先生を傷つけて!なんなんだよ、お前らはっ!!」

     気迫。そう呼ぶのが最も相応しいのだと思う。
     でなければ、怪我人に対してこんなに圧迫感を受けることなどないだろう。
     ……そうだ、相手は怪我人なのだ。虚勢をはっているだけなのだ。冷静になれ――
     そう頭に染み込ませた男は、まだ強気に出る。

    男「お前にはわからねぇよ!」

     ヒュン、と矢が風を切る。
     能力の補正が加わったそれは、上条の左肩に吸い込まれた。
     再び刺されたそれは、上条の肉をやはり押し開き、遂に悲鳴を上げると思った。
     が。彼は僅かに勢いに押されて下がっただけで、呻き声すらあげない。
     そんな馬鹿な、と思う。仮にも武器だ。人を殺すことの出来る道具だ。致命傷ではない部位を狙ったとしても、これはあり得ることか。
     驚きを誤魔化すように、彼はもう一度ボウガンを構えてから言う。

    男「……全部無能力者が悪いんだよ!俺達は何もしてない、なのにアイツらは徒党を組んで俺を、俺たちを襲ってくる!」

    男「そうだ、全部こいつらが悪いんだ!未来、こいつらは同じ事をする!だから俺たちはその前にそれを止めようとしてるんだよ!寧ろ感謝して欲しいぐらいだ!」

    男「お前も能力者だろ!?でなければまだ立ってられるはずがない!!ほら、今なら見逃してやるからそこをどけよ!!」

    上条「どかねぇよ」

     低く、響く。
     上条当麻はその身に二つの矢を受けてすら、まだ強い視線で相手を見据える。


    400: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/10/10(月) 03:27:05.30 ID:EtixBlmSo

     ひっ、と男が無意識に悲鳴を出したのは、きっと彼自身気づいていないはずだ。
     上条は続ける。

    上条「俺が、能力者だろうと、無能力者だろうと。そんなのは関係ねぇ」

     上条はぐっ、と肩に刺さった矢に手をかける。
     先ほど助けた女子生徒が、窓の中から驚きに口元を手で抑える。

    上条「それで、お前も能力者だろうと無能力者だろうと関係ねぇ」

    上条「だって、そうだろ。無能力者が全員が全員スキルアウトみたいに徒党をくんでるわけじゃねぇし、被害を受けただろう能力者が全員こんなことをしているわけじゃねぇ」

    上条「そりゃあ、被害を受けた能力者は無能力者を根に持つことも多いだろうと思う。けど!そもそも無能力者が意味もなく能力者を攻撃することなんてあるわけねぇだろうが!」

    上条「勿論、中にはいてもおかしくはない。けどな、そんなのは一部の話だ!寧ろ、能力者が無能力者に対して――劣等生に対して刃を向けることの方が多いんだよ!」

     上条の学校ではあまり無いが、よく聞く話だ。
     力がない、成績が悪い。そういうのは往々にして虐めの対象になる。
     普通の学校ならまだしも、ここは能力で優劣がはっきりとつく学園都市。道端で見かけて巻き込まれたことは一度や二度ではすまない。

    上条「けど、だからといって無関係の能力者を叩くのもおかしい。それは確かに無能力者にもいえることだ」

    上条「けどな、それでも相手は選んでるはずだろうが!お前らみたいに、女子供を狙うなんてしてねぇだろうが!」

     その言葉に、男は僅かにたじろぐ。
     少なくとも第七学区はそうだ。確かリーダーがそういうことを禁じている。
     そのかわり基本見た目で標的が判断されるから、上条自身も狙われたことが数々あるが……それはおいておこう。

    男「だ、だが!」

     男は反論する。
     上条の言葉は事実でも、それでも反論せざるを得ない。

    男「俺たちは被害者だ!何もしていないのに、ただ能力者だからって狙われた!だったら、別に――」

    上条「――じゃあテメェは、能力者に虐げられている無能力者を助けたことがあんのかよ!?」

     上条は肩の矢を、一気に引きぬく。
     矢先についた血が、上条を中心とした円を描くように飛び散る。


    401: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/10/10(月) 03:41:26.47 ID:EtixBlmSo

    上条「自慢じゃねぇが、俺はあるぞ。能力者だろうが、無能力者だろうが、それに関係なく助けてる!偽善者といわれるかもしれねぇが、そんなのはとっくに自覚してるし、それでいいとすら思ってる!」

    上条「お前は、誰かを助けたことがあんのか!?誰か助けを求めてる無能力者に手を差し伸べたことがあんのか!?」

     ない。
     そんなことは答えられない時点でわかっていた。

    上条「……別にそれが悪いなんていわねぇ。けど、お前が一人でも無能力者を救っていたら!お前は他の、無能力者を襲う能力者と同じに見られなかったかもしれねぇんだよ!」

    上条「無能力者に文句をつけるのも別に構わねぇ。けどな、よく覚えておけよ。ナイフで人を傷つける奴は、きっと銃で人を射ぬくんだ!」

     武具のあるなしなんか関係ない。
     能力のあるなしなんか意味すらない。
     傷つける人はきっと道具なんか無くても、能力なんかなくても、人を傷つける。

    上条「それがわからねぇって、それでもお前は何も変わらないで、無抵抗な無能力者を、ここにいるような学生を狙うっていうんなら……」

     上条は背中の矢も、悲鳴すら無く引きぬく。
     そしてそれを握りしめたまま、その拳を男へと向けた。

    上条「まずは、その幻想をぶち殺す!!」

     上条は満身創痍のその状態で矢を投げ捨て、10メートルも先の男へと駆ける。
     たどり着くまでに僅か五秒もかからない。
     歯を食いしばり、上条の言葉に動揺したまま、しかし男は咆哮し、ボウガンの引き金に指をかける。

    男「くっ、くぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!」

    上条「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!」

     上条も同じように叫び。
     そして、瞬間。決着はつく。


     ――男は、終ぞ気付くことはなかった。
     上条が言葉で自分の矛盾を付く前に。自分の弱気が、本音を暴露していたことを。
     その時から既に、上条に精神で負けていたということを。


    402: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/10/10(月) 04:00:24.75 ID:EtixBlmSo

     ■   □   ■


    「………………」

     男は、その一部始終を見ていた。
     とはいっても、ボウガンの男が小学校に侵入してから、だが。故に風力使いの方は彼は知らない。
     グラウンドには救急車が到着していた。タンカーにツンツンした黒髪の少年が積まれ、その横には金髪の少女が心配そうに寄っていた。

    「……ふ」

     それは、ともすれば笑みとも呼べるものだったかもしれない。
     しかしその口端の釣り上がりは、一瞬で消えた。
     その陰鬱そうな横顔が何を考えているかなど、何もわからない。

     プップー!、と。
     不意に車のクラクションが、彼の背後から響いた。

    「駒場さん、こんなところで何してるんだ!?さっさといくぞ!」

    「まぁまぁ、落ち着けよ。まだ時間まで余裕もあんだし、駒場のリーダーだって平和を過ごしたい時だってあると思うぜ」

    「……え、ってことは平和な時に小学校を覗いてる駒場さんって、もしかして口リコン?」

     車の中から好きかってな言葉が聞こえてくる。
     そんな奴らに一発は拳骨を食らわせてやろうと思いつつ、彼は先程の少年を思い浮かべる。
     確か、少女からは『当麻お兄ちゃん』と呼ばれていたような気がする。
     『当麻』というその名前を心の隅に刻んで、人の二倍はあるだろう巨漢、駒場利徳は二人の仲間が待つ盗難車へと足を向ける。


     ――これは、冬休みが開けて、数日の或る日のこと。
     本日は土日休みの一歩手前な、一月第三金曜日。


    413: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/10/27(木) 00:57:09.37 ID:j4OhNFqCo

     ■   □   ■


    フレンダ「いや、まぁ。なんというか」

     フレンダは溜息を吐きながらそれを見下ろした。
     どこぞのスキルアウトがATMの強奪に踏み切った頃、カエル顔の医者に案内されてついた先の病室で彼女は呆れ顔を浮かべる。
     それの原因は、その病室にいる一人の少年のその様子だった。
     その少年、上条当麻も何とも言えないような愛想笑いのようなものを浮かべる。

    上条「……いいたいことは、わかる。けど何もいうな」

    フレンダ「いやいや、流石にこれは結局……」

     と、瞬間それは身じろぎをする。二人とも口を噤み、その動きを一片たりとも見逃さぬように目を見張る。
     うっとおしそうに組んだ腕で耳元を塞ぎ、そしてまた寝息を立て始めた。
     ……上条の上で。

    フレメア「……むにゃむにゃ」

     救急車中で気を失い、病院に運ばれて手当てを受けて。
     上条が病室で目が覚めた時には、既にフレメアが彼の腹の上で猫のように眠っていた。
     行儀よく靴をベッドの端に揃えて置いているのはいいとしても、上条が目が覚めた理由は悪夢を見てしまったからに他ならない。
     上からの圧迫を受けると悪夢を見やすくなる。故に彼が悪夢を見たのは少女のせいだとも言えよう。
     はぁー、と深いため息を吐くのは上条。その直後いつものように紡ごうとして、口が『ふ』の形で一旦止まる。

    上条「……これは、不幸なのか?」

    フレンダ「一応、私の妹ってわけよ」

     確認を取ったところ、何やら妙なプレッシャーを発されながらそう答えられた。
     ので、上条は白い天井を見上げ、消え入りそうな声で『幸福だー』と棒読みで呟く。


    414: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/10/27(木) 01:16:23.28 ID:j4OhNFqCo

    フレンダ「でもまぁ、結局大事ないようでよかったってわけよ」

    上条「大事もなにも、入院してるんですが……」

    フレンダ「そうだけどね。でもあのカエル顔の医者が言うには五日以内には退院出来るって話だし」

     フレンダは丸いパイプ椅子をギリギリまでベッドに引き寄せて座り、上条の上で眠るフレメアを撫でる。
     少しだけ緊張したように身体が硬くなるが、それもすぐに元に戻り、気持ち良さげに寝息をたてる。

    フレンダ「それにさぁ、今まで入院した時よりはいくらか傷はマシなんでしょ?」

    上条「そりゃあ、まぁ……なんてったって、ここは天下の学園都市だからな」

    フレンダ「その分、不幸のネタも桁違いってわけね」

    上条「違いねーな」

     よくもまぁ生きているものだ、とフレンダは思う。
     上条の身体検査の公式結果はレベル0と判定されている。つまり無能力だ。
     身体能力がそこそこあるとはいっても普通に考えて能力者は中々に倒せない。何らかの問題を起こしているとなれば尚更だ。
     それでも毎回ギリギリとはいえその問題を終息させている上に入院ですんでいるというのは中々に運の強さを思わせる。

    フレンダ(――不幸、なのにね)

     不幸なのに強運。矛盾を感じずにはいられない。
     もし彼女が上条の右手について知っていたとしたならその強運にも直ぐに説明がついたのだが、彼女は上条が右手を振るうのを見たことはない。
     フレンダが彼について知っていることといえば、学園都市に登録されているプロフィール、それと上条が語った上条自身の話と、昔の事と、そのぐらいだ。
     つまりフレンダは、上条が『幻想殺し』を持っていることを知らない。
     仮に知っていたとしても、彼女の態度が変わることなどきっと、ありえはしないのだろうが。


    421: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/10/28(金) 23:34:52.67 ID:CxyWEPJ8o

    フレンダ「……当麻が厄介ごとに首を突っ込んで何度も入院しているのを知ったときは正直なにしてるんだと思ったけどさ」

     ぐてー、とフレンダはベッドに上半身を寄せる。
     眠っているフレメアの顔を至近距離でまじまじと見つめつつ、頬をプニプニと突付く。

    フレンダ「結局、今だけは本当に感謝するってわけよ」

    上条「……俺は、どこまでいっても偽善者だけどな」

    フレンダ「例え、当麻自身の自己満足だとしても。当麻は私を助けてくれたことに変わりないし、フレメアを救ってくれたことに違いないから」

     だから――とフレンダは紡ぐ。
     自分のありったけの感謝をつめて、自分が最も信じることの出来る最愛の人へ。

    フレンダ「――ありがとう、ってわけよ」

     それは、やや照れくさそうに。
     窓から差し込む、もはや一筋となった夕焼けの光が一層、本来は白い彼女の頬を赤くしていた。
     上条はフレンダの柄にもないそんな言動を笑い飛ばそうかと思ったが、やめた。
     理由は特にない。強いて言うなら、そうしたほうがいいと思ったから。
     その代わりに直球の感情へと答えを返す。

    上条「そういわれると、本望だよ」

     いつもなら彼は『俺がしたかったことだから気にすんな』とでも言っただろう。
     フレメア自身もそう返ってくると思っていた。彼にとっては取るに足らない一つのことだから、気にしなくていいと言われると思っていた。
     だからその予想外の返事は、つまり『お礼を言われて嬉しかった』ということで。
     その想定外の返事を受けて、フレンダは、笑顔へと移行しようとする表情を隠せないほどに。
     たまらなく、たまらなく――嬉しくなってしまったのだった。


    422: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/10/28(金) 23:56:17.00 ID:CxyWEPJ8o

    フレンダ「……は、はは。なんだか照れちゃうってわけよ」

     自分の顔は赤くなっていないだろうかどうだろうかと思いつつ、フレンダはフレメアに寄せていた身体を起こして照れ隠しに笑う。
     上条もそんなフレンダを見て改めて自分の言ったこととその意味(本当にわかっているのかは疑わしいが)を察し、恥ずかしさに顔を背けた。
     時間が動く音のみが響く部屋で、外から聞こえたカラスの鳴き声が一際大きく聞こえた。
     互いに動くことすら躊躇う緊張感が漂うこの空間で、動くことの出来るのはただ一人。

    フレメア「……ん、にゃ…………?」

     のっそり、と上条のお膝元で眠っていた猫が目を覚ます。
     半分だけ起きている状態で苦笑いを浮かべる上条を見て、同じく傍らに座りこれまた同じく苦笑いを張り付かせていたフレンダを見た。
     目をしょぼしょぼとさせて幾度か擦ったあと、吸い込まれそうな程大きな口を開けて小さく鳴いた。

    上条「……起きたか?」

    フレメア「……うん、大体…………」

     答えながらのそのそ、と上条の膝の上に座りなおす。
     が、瞬きしようと瞳を閉じたその一瞬で寝入ってしまい、身体が傾く。
     偶然にもそれはフレンダの方に倒れてきたので、彼女は何を思うよりも早く倒れてきた妹を受け止めた。

    フレメア「……にゃあー」

    フレンダ「…………ぷっ」

     はは、と思わずフレンダの口から笑いが漏れた。
     なんというか、微笑ましすぎた。
     自分の妹ながら、よく懐いている子犬を連想させたから。鳴き声は猫だが。


    423: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/10/29(土) 00:15:12.61 ID:l3tiy7tmo

    フレンダ「……それじゃあ結局、今日は帰るってわけよ。ほらフレメア、起きて起きて」

    上条「おう、またな」

     フレンダはなんとか自分の足でフレメアを立たせながら、上条の方を顧みる。
     目があって一拍、無意識に微笑を見せた。
     蒼い瞳は上条から見るとどこまでも透き通っていて、その気のない上条でも思わずどきっとするほどだった。
     そしてフレンダは、ふと今思いついたように問いかける。

    フレンダ「ねぇ当麻」

     思いついたその疑問。その問いかけ。
     わかりきっている答えが返ってくることがわかっていても、問いかけずにはいられない。

     時刻は既に五時を周る。
     夕日の光は完全に消え去り、部屋の中は薄暗さで満たされる。
     そんな中で、彼女は紡ぐ。
     例えるなら、出口の見えない暗闇で、一筋の光を求めるが如く。

    フレンダ「当麻はさ、もし私が――――」

     その問いかけは、始まった夜暗へと放たれて消える。


    424: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/10/29(土) 01:07:37.13 ID:l3tiy7tmo

    フレメア「……フレンダお姉ちゃん、どうしたの?」

    フレンダ「え?」

     すっかりと暗くなった帰り道、フレメアは姉に尋ねる。
     唐突だったために何を問いかけられたのかフレンダは理解できずに思わず聞き返した。
     寝ぼけていたフレメアはいつの間にかしっかりと目が覚めていて、(彼女にしては)しっかりとした声でもう一度問いかける。

    フレメア「お姉ちゃん、なんだか変な顔してた。にゃあ」

    フレンダ「…………」

    フレメア「大体、何かあったの?」

     フレンダは言葉につまる。
     原因は今日の病室での一幕だ。
     上条は自分やフレメアのことを特別に思ってくれている。その事がたまらなく嬉しくて。
     同時に、自分の心に一つの想いが芽生えたのだ。
     それは帰りがけに質問した言葉で更に加速していたらしい、小学生のフレメアにすら察されてしまうとは。

    フレンダ「……結局、なんでもないってわけよ」

    フレメア「でも、お姉ちゃん……」

    フレンダ「いいから」

     ぽんぽんと自分と色違いのベレー帽を叩き、そして自分より小さな手を繋ぐ。
     まだまだ冬だ、と実感させるほどに、彼女の手はとても冷たくなっていた。

    フレンダ「何かあったら、相談するから。フレメアにでも、当麻にでも……ね?」

     フレメアは少しだけだけ考えて、うん、と小さく頷く。
     よし、とフレンダは意識して笑みを見せて、フレメアの手をぎゅっと握った。

     金髪碧眼の姉妹は、まだ肌寒い夜の学園都市を行く。


    433: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/10/31(月) 23:46:54.74 ID:jpWkDAr4o

     第七学区にあるアイテム御用達のファミリーレストラン、そこに彼女らは居た。
     大体の集合場所は麦野の気分で決まる。今日はここが眼鏡に適ったというわけだ。
     その麦野は例のごとく自分の好物であるシャケ弁当を持ち込んで食べており、その他のメンバーも自由気ままにしている。
     絹旗は映画のパンフレットを読みあさり、滝壺はただぼーっと視線を空中に漂わせる。
     そんな支離滅裂な彼女らが定員から注意されないのは、もはやそれが見慣れてしまった光景であるからであろう。
     少なくとも、四人とも飲み放題のドリンクバーを頼んで入るので(迷惑極まりないが)一応客としては見てもらえているというのもあるだろう。
     しかし、いつもの彼女らとは僅か、ほんの僅かに違いが見られた。
     それは麦野ではなく、絹旗でもなく、ましてや滝壺でもない。
     フレンダ=セイヴェルン、その人だった。

    フレンダ「…………」

     ふぅ、と小さな溜息を吐く。
     時折思い出したように自分の持ち込んだサバ缶を口にするが、直ぐに考え事に耽るように手を止めてしまう。
     絹旗はそんなフレンダを気にするようにチラリとみるが、直ぐにパンフレットに視線を戻す。意識は確実に彼女に向いてはいるが。
     フレンダのこんな様子は、ここ最近始まったものではない。いや、彼女らの付き合いの長さからすると『ここ最近』に分類はされるが、一日二日ではない、ということだ。

    麦野「……はー」

     ことん、と麦野は割り箸をテーブルに置く。シャケ弁の中身は全て綺麗に平らげられており、米一粒すら残っていなかった。
     麦野は肘をついて、うんざりしているような口調でフレンダに言葉を投げかける。

    麦野「アンタさぁ、最近ずっとそれよね」

    フレンダ「……へ?」

    麦野「だから、溜息。陰鬱、憂鬱。アンニュイ」

     やれやれ、と首を振る。
     当のフレンダはというと、無意識にやっていたこともあるのだろうが思い当たる節があるのか押し黙る。


    435: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/11/01(火) 00:06:29.52 ID:qhKlwhmzo

    絹旗「……まぁ、当然私も超気付いてましたけど」

     絹旗はここぞとばかりに麦野に続けて、質問を投げかける。

    絹旗「フレンダ、もうすぐ学校入学してから一年立ちますよね?それが超関係してるんじゃないかと疑ってるんですが、どうなんですか?」

    麦野「……ま、ありえない話ではないわね」

     そのことはやはり麦野も思っていたようで、絹旗の質問に頷く。
     それを問われたフレンダは、といえば口篭りながら辿々しく答える。

    フレンダ「結局、関係あるといえば関係はあるし……ない、といえばない、ってわけよ」

    麦野「ふぅん」

     然程興味はなさそうに、麦野は相槌を打つ。
     絹旗は『ふむ』と呟いてそのあやふやな答えについて少しだけ考え始めた。
     確かに学校は関係あるといえば関係はあるのだが、フレンダが悩む本当の理由にはならない。大して仲のいい友人もいないのだから。
     当然、そうなれば出される答えは一つしかない。
     上条当麻。その彼について、フレンダは悩み、ローテンションになっている。

    フレンダ(……そっか。もう結局、再会してから一年が経つのか…………)

     そう思うと、尚更悩む想いが倍増する。
     果して。
     果して自分は、一体いつまで――――

    麦野「それじゃ」

     パン、と麦野は手を叩く。
     周囲全体の視線を集めてしまうが、それもほんの一瞬。すぐに彼らは日常へと回帰していく。
     それを確認してから麦野は続ける。

    麦野「今日の仕事の話。いいわね?」

     ただ無言で、全員が頷く。


    438: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) 2011/11/04(金) 23:55:06.27 ID:EQm18zR0o

     ■   □   ■


     そうだ――もう一年が経つ。
     期末テストも終わって、あとはただ春休みを消費して。
     そして上条は、フレンダは二年生になる。
     二年生になって、一年生と同じようにそれなりに遊びながら、交流しながら、日々を過ごして。
     そして。

    フレンダ(そして――――?)

     一体、自分は何を求めているのか。
     暗部に入って、上条の情報を見つけて、許可をもらって。その目的は、上条と共に過ごすことだけだった。
     ただ、傍にいられること、それだけが幸せだと思ったから。それだけで十二分だと思ったから。
     それなのに。
     自分は、それ以上を求めている。
     学園都市に来た時の目的、そのものを願っている。

     許されるはずもない。
     だって、この両手は既に汚れていて。
     どれだけの理由を積んでも、どれだけの口実を重ねても。
     真白な純白の小鳥を触れることなど、絶対に出来るはずもない。

     上条と再会して、もう一年だ。
     上条と再会して、まだ一年だ。
     これから、どれだけの期間を上条と付き合っていくのだろう?
     フレンダは思う。
     果して。
     果して自分は、その時まで。
     自分が既に血塗られていることを隠し通すことができるのだろうか――――


    439: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) 2011/11/05(土) 00:15:37.87 ID:XUomEOYEo

    絹旗「フレンダ、前向いてください!」

    フレンダ「え?」

     声をかけられて、顔を上げる。
     瞬間、視界の端を靡いた服の裾が過ぎった。
     しまった、と慌てて振り返り、手を伸ばすも時は既に遅し。手は空を掴み標的を逃してしまう。

    フレンダ「あ…………」

     唖然とする。
     行き場のない手が空中を漂い、そのまま垂れる。

    絹旗「超らしくないですね。今までは滝壺さんとは違ってぼーっとしてても一応仕事はキチンとしてましたのに」

     絹旗がフード付き(勿論そのフードは被っている)パーカーのポケットに両手を突っ込みつつ言う。
     その足蹴にしている男が居なければさぞかし一角のモデルに見えなくもない。
     そんな絹旗に返す言葉もなく、フレンダはただ唇を噛み締めて視線を逸らすのみだった。
     フレンダの反応をみて絹旗はどうしたものか、と小さな溜息を漏らした。

    絹旗「……いや、まぁ私は麦野じゃありませんし、オシオキとかすることはないんですけど。見つかったら超大目玉ですよ?早く追っかけた方がいいんじゃないですか?」

    フレンダ「あ……う、うん。そうするってわけよ」

     言われ、ようやくフレンダは行動を始める。愚直に後を追うのではなくショートカットを利用する辺り、少しはこちらにも考えを割く余裕があるらしい。
     絹旗はチーム分けで麦野がこの場に居なくて本当によかったと思う。実際にフレンダがぼーっとしていて見逃したというのなら『超大目玉』だけでは済まないかもしれないからだ。

    絹旗「……少し前のフレンダなら、きっとそんなことも超なかったんでしょうけど」

     一体、何が彼女をここまで変えたのか。
     『アイテム』の中で一番を争う仲間思いの絹旗最愛は、ふと出来た余裕でそんなことを考えずには居られなかった。


    440: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) 2011/11/05(土) 00:46:13.67 ID:XUomEOYEo

     月明かりだけが差し入る路地裏で、フレンダは走りながら後悔する。
     やってしまった。
     今まで騙し騙しに、仕事と私情は別として扱っていたのに遂にやってしまった。

    フレンダ(結局……最悪っ、て、わけよ!)

     まだ幸運だったのは麦野にその失態を見られてなかったことぐらいか。
     一度逃がしてしまったのはなんとでも誤魔化しはきくが、あの瞬間を見られていたらどうやっても言い逃れはできなかっただろう。
     どれもこれも――――のせいだ。
     脳裏に過ぎったその言い訳を、フレンダは頭を強く振って打ち消す。
     それだけは思ってはいけない。例え死んでもそれを考えてはいけない。

     蘇るのはつい二ヶ月程前のこと。
     光の消え去った病室で、自分が最後に少年に問いかけた言葉。
     そして、それに対する少年の答え。
     それを恨んでしまうということは、その少年に対する不義理に他ならない。
     それだけは、それだけはしてはいけない。それをしてしまったら、自分はもう、今度こそあの少年に顔向けなどできなくなってしまう。

     しかし。
     自分のその思いとは裏腹に、それを強く印象づけようと自分の何かが強制的にそれを思い出させる。
     もうその少年に顔向けできないことを散々している癖に、とでも嘲笑う様に。

    フレンダ(――――違う、違う)

     違う。
     何が違う?
     自分だって隠したくて隠しているわけじゃない。
     ならば話せばいい。包み隠さず、全て打ち明ければいい。
     軽蔑される。できるなら話してしまいたい、抱えることすらも辛い。けれど嫌われるのはもっと辛い。
     しかしその結果がこのザマだ。それなら何もかもを話して、彼のせいにしてしまったら楽になるだろう。
     それからは守るべきモノだけを守っていきていけばいい。大切な妹だけを抱えてどこまでも歩いていけばいい。

     ――それは、嫌だ。
     なんで、どうして?
     嫌だ、いやだ、イヤだ。
     だって、だって、だって、だって、だって。
     私はどうしても、どうしても。彼を――上条当麻を――――


    441: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) 2011/11/05(土) 01:10:51.01 ID:XUomEOYEo

    フレンダ「追いついた」

     無意識に口走る。
     そこでようやく、自分の認識も追いついた。
     眼の前には先程自分の横を通り過ぎた男が、息を切らしながら走ってきている姿がある。
     どうやら先回りに成功したらしい。とはいっても随分とギリギリの場所だ、もう一つでも角を曲がればそこはもう表の世界なのだから。

    男「……くっ!?」

     男は近くまで来てフレンダを見た。金髪にベレー帽、見間違えるはずがないだろう。
     しかし彼は足を緩めない。別の道を行こうとすらしない。

    フレンダ(力づく?いや、でも)

     あの体力では限界だろう。
     そう思うと同時、男は懐に手を突っ込んで素早く取り出す。見ると同時に、フレンダは気をほんの少し引き締める。
     ナイフ。包丁より小ぶりの、しかし人を傷つける凶器となりうる武器。
     それを腰に構え、男は迷いもせずフレンダに突っ込んでくる。

    男「どけよぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!」

     精一杯の、声での威嚇。
     だがフレンダはそれに臆さず、ただ男を待ち受けて。
     身体全体で、そのナイフを受け止める――――

    フレンダ(――なーんて、ね)

     僅か、ナイフが突き刺される瞬間に身体を横にずらす。
     ピッ、と制服の脇腹付近がナイフの切っ先で切れてしまうが仕方のないことだ。
     ナイフを突き刺した場所は、フレンダの脇腹の直ぐ横。真横から見ていれば遠近法であたかもナイフが刺さってしまったようにも見える場所。
     その場所に入った瞬間、フレンダは素早く肘と脇腹で相手の腕を強く固定する。本来なら締め上げてナイフを落とさせることも可能だが、彼女はそれを割愛する。
     固定とほぼ同時に開いているもう片方の手で男の胸元を掴み、向かってきた勢いのまま、その勢いを殺さずに投げる。
     地面に叩きつけられるまでのその一連の行動に、数秒もかかっていない。
     男が投げられた時に取りこぼしたナイフが、地面とぶつかり火花をあげた。

    男「が、はぁ……っ!?」

     わけが分からず地面に叩きつけられ、男は悶え苦しむ。
     それもそうだろう。刺したと思ったら投げ飛ばされていたのだから。
     フレンダは小さく溜息を吐いて、銀色に鈍く光るナイフを拾い上げた。


    442: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) 2011/11/05(土) 01:32:05.05 ID:XUomEOYEo

    フレンダ「ねぇ」

    男「あ……ぶっ!?」

     そのナイフはなんの躊躇いもなく、地面に転がる男に振り下ろされた。
     しかし致命傷ではなく、フレンダにも刺さりかけた脇腹。手当をすれば数針縫う程度で済むだろう。

    男「な、ぐ……あ、どうし…………っ!?」

    フレンダ「結局人を指すってことは、自分も刺される覚悟が無いとダメってわけよ」

     目には目を、歯には歯を。
     実際にはフレンダは回避に成功したわけだが、刺されかけたことには変わりない。それの仕返しだ。

    男「っ、んぐ……うぅううううううううううぅぅぅ……!!」

     患部を押さえて、歯を食いしばる音がこちらにまで聞こえてきそうだ。
     いい加減目障りだ、と思ったフレンダは別に優しさからでもなんでもなく意識を奪いにかかる。
     ものの十秒もしないうちに男は堕ちて、辺りは静かになった。
     小さな血溜まりが、コンクリートに染みこむ。

    フレンダ「……さてと、じゃあ病人装っての回収ってことでいいかな」

     表に近いなら見られてもいいようにカモフラージュをする必要がある。
     フレンダは現在位置とその考えた回収方法を電話で下部組織に伝える。
     伝え終わったと同時に携帯電話を閉じ、気絶している男を一瞥する。

    フレンダ「……一応、ナイフは回収しておくってわけよ」

     どこかで取りこぼしたら面倒な事になってしまうし。
     そう思ってナイフに手を伸ばす。
     まさに、その瞬間だった。

    「おい――お前、一体何してんだよ!」

     先ほどの男の大声を表で聞いたのか、その少年がこちらを捉えて叫んだのは。
     厄介なことになった――と思いながらも顔を上げるフレンダの表情は、次の瞬間には驚愕が浮かぶ。
     『なんで』。声も出ず、ただその言葉を口がなぞらえた。

     同じくして、少年も唖然とする。
     その彼の動揺も、彼女にはわかりすぎる程に伝わってきた。
     それもそのはずだ。だって、その彼は、その少年は。

    フレンダ「とう、ま…………?」

     上条当麻に、他ならなかったのだから。


    448: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) 2011/11/09(水) 00:39:34.27 ID:bDZJZhTgo

     ■   □   ■


     上条当麻は調味料が切れていることに愕然とした。
     彼の本日の夕食は珍しくステーキ(タイムセールにて半額以下の品)であり、帰ってくる最中も不幸が訪れないかびくびくしていた結果がそれだった。
     先に既にすりおろしてあるチューブ型のガーリックを塗りたくり、その上から粗挽きの塩胡椒を万遍なくふりかけ用としたのも束の間。
     三分の一ほど降りかかったところで、既に粉ともいえないモノしか落ちてこなかった。
     そんな時に限って在庫も切らしている。いつもならちゃんとあるのに、と上条は嘆いた。

     もっとも、粗挽きでない塩胡椒ならある。それを残りの部分に味付けして、味の違いを楽しむのもまたいいのだが……
     上条の口の中は、既にガーリックと荒々しい粒の味付けで満たされていた。
     そもそもステーキ自体も久々で次はいつ食べられるのかわからないのだ。妥協はしたくないとの気持ちもあって、改めて買いに出かけることにした。
     した、のだが……

    上条「不幸だ……」

     十数分後、上条は溜息を漏らす。
     降りてすぐのコンビニになら少量の物ならあると思っていたのに、売り切れでなかった。
     その次のコンビニにもなかった。その次にもなかった。
     どんな状況になれば粗挽き塩胡椒だけ売り切れになるのか理解できない。
     そんな理解不能の状況ならば、いつもの口癖を口走ってしまうのも仕方のないことだった。

     しゃーない、次のコンビニになかったらもう普通にスーパーいくか、と思った矢先。
     丁度、目の前に、夜暗を照らす光が外まで漏れているコンビニがあった。

    上条「おっし、さっさと見て帰るか次行くか決め…………」

     意気込んだ上条の台詞は、途中で止まる。
     彼の視点の先は奇遇にも今見つけたコンビニエンスストア……ではなく、その入り口。
     三人の、『如何にも』という風貌の少年たちが座って駄弁っている。
     上条の脳裏に、嫌な想像が過る。

    上条「……いやいや、あれが仮にスキルアウトだとしても何か目立つようなことをしなければ何もしてこないはずだし俺は調味料買いに来たただの高校生だし何も問題ない、問題ない……っ!」

     素早く頭を振ってその嫌な想像を打消し、上条は一歩を踏み出す。
     その足元を見ようともせずに。


    449: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) 2011/11/09(水) 00:40:09.09 ID:bDZJZhTgo

     カランカラン、と嫌に甲高い、近くにいたなら耳を塞ぎたくなるような音が響く。
     耳という器官は仲間とのコミュニケーションをとるためだけではなく、他の動物――獲物や天敵が近づいてくるのを把握するためにも存在する。
     無論、それは人間にも違わないはずで。

    「あ?」

    「なんだ?」

     コンビニ前にいた少年三人組も違いなくその音に反応した。
     その先にあるのは、カラカラ、とコンクリートと擦れて未だに音をたて続ける誰かが捨てただろう空き缶と。

    上条「…………」

     それを踏んでしりもちをついている上条当麻。
     僅かな沈黙が通り過ぎて、三人の少年は仲間の顔を互いに見る。そして、意地悪そうな笑みを浮かべた。
     さながら、いい獲物を見つけたとでも言うように。

    上条「……は、ははは…………」

     対する上条はもはや苦笑いしか出てくることはなく。
     素早く立ち上がって、一目散に彼らから背を向けてダッシュする。

    上条「ふ・こ・うだぁ――――――――――――っ!!」

     背後から、約三人分の罵声を浴びつつ。
     上条当麻はまだ肌寒い、夜の学園都市を駆け抜ける。


    450: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) 2011/11/09(水) 00:41:06.95 ID:bDZJZhTgo

    上条「はぁっ、ぜぇっ……!!」

     上条当麻の運動神経は中の上から上の下に位置するが、ただそれだけだ。
     喧嘩でも確実に勝てるのは一対一まで。一対二なら苦戦し、三人相手なら迷わず逃げる。
     その戦法で今日も今日とて逃げたわけだが……
     上条は肩で息をしながらも周囲を警戒する。聞こえていた足音はもう聞こえず、完全に振り切ったといえるだろう。
     安心するのもほんの一息つくまで。さて帰ろうと息を整えつつ彼は前を向くが。
     そこに広がるのは、街灯が数メートルおきにしかない、殆どが暗闇の世界。
     人気のない高いビルが立ち並び、上を見上げても空は満足に見えやしない。

    上条「……ここ、どこだ?」

     そこらへんのビルの隙間に入ると犬に追いかけまわされそうな雰囲気。
     一応まだ高校生の上条としては、やはり少しおどろおどろしいその空気に軽く飲まれかけて冷や汗をかく。
     しかし、その雰囲気に反して人は全く見当たらない。こんな場所ならさっき追いかけてきたスキルアウトの一人や二人いてもおかしくはなさそうなものだ。

    上条「……まぁいいか。トラブルに巻き込まれないに越したことはないし、適当にあるいてりゃ知ってる道に出るだろ」

     そう楽観的に思い込み、街灯を辿って歩きはじめる。
     静かな夜。上条はふと空を見上げる。
     やはり空は狭いが、かろうじて月や星々は多少ながらも見えた。
     それを眺めながら、暦上はもう既に春だが上条は『もうすぐ春だなぁ』と思う。
     上条はいつも学年が一つ上がってようやく春が来た、と実感する。
     なぜなら、そこには四季の春だけではなく、別の意味の春も混じるのだから。

    上条「……そういや、今年はフレンダと一緒のクラスになれるのかな」

     昨年の春再会した、学園都市外で出会った幼馴染。
     久しぶりに会えてうれしく思ったが、クラスが違ってほんの少し落ち込んだのを覚えている。
     この一年で知らないことも少しは知れたし、仲が深くなったと思うのはきっと気のせいじゃない。
     そんな彼女と一緒のクラスになれば、土御門や青髪ピアス、吹寄制理らに交じって月詠小萌の担当するクラスは更に騒がしくなるに違いない。
     そのことを想像すると勉強は嫌いな上条でもなんとなく学校へいくのが楽しみになってくる。友達に会う為に学校へ通う、というのもまたいいものかもしれない。


    451: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) 2011/11/09(水) 00:49:43.96 ID:bDZJZhTgo

     知らない鳥が遠くで鳴いていた。
     その鳴き声をどこか心ここに在らずの心地で聞きながら、上条は歩く。
     今年も、まぁそれなりに不幸だったけれど。
     来年はきっと、もっと楽しい学園生活が待っているに違いない。
     上条当麻は、柄にもなくそんな根拠のないことを思いながら道を行き、

    『どけよぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!』

    上条「!?」

     怒声とも悲鳴ともとれない、喚声を聞いた。
     それはともすれば闇に食われてしまいそうな程に真っ暗な路地裏の先から。

    上条「な、なんだ今の!?」

     男の声、には間違いない。
     突然の事で何を言っているのかは聞き取れなかったが、切羽詰っている状況であることは理解できた。
     辺りに人はいない。いるはずもない。つまりあの声を聞いたのは、ここにいる上条当麻だけということになる。

    上条(――どうする!?)

     助けを呼ぶか、或いは?
     一瞬だけ思考を巡らせるが、どれも却下する。
     第一あんな声を出すほどだ。今更『警備員』を呼んだって遅すぎるだろう。
     それならば、と上条は決心する。

    上条「何かあったら改めて考えればいいし、何も無いならそれでいいんだ」

     ほんの少しの月明かりしか差し込んでいない路地裏。
     男の叫び声が聞こえた路地裏。
     そこに彼は踏み込む。


     ――来年はきっと、もっと楽しい学園生活が待っているに違いない。
     上条の抱いた、そんな根拠のない幻想がいとも容易く打ち破られることになるとも知らずに。


    452: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) 2011/11/09(水) 01:00:31.05 ID:bDZJZhTgo

     ■   □   ■


    上条「フレンダ……なのか?やっぱり」

     僅かな月明かりに反射した金髪少女に呼びかけられて、上条は確かめるように問いかける。
     それに対する答えはない。あるのはその少女が動揺している様子のみ。
     ごくり、と唾を飲んだのはどちらか。或いは両者ともの可能性もある。

    上条「フレンダ、お前こんな時間に何して……」

     違うだろう。
     違うだろう、上条当麻。
     フレンダに問いかけるべきは、こんな時間に出かけていることではないだろう。

    上条「いや、なんでこんな場所に……」

     そうじゃない。
     見えないのか?見えていないのか?
     見えてるだろう?一体何をしているんだ、と怒声を浴びせたのだから。
     いくら聞こえないフリをしたところで、上条の本心は上条へと語りかける。
     フレンダを確認してから、見ないふりをしたそれを。
     この場に偶然いただけでフレンダとは関係ない、と認識するのを停止したそれを。


     その――フレンダの足元にある、それはなんだ?
     ナイフが刺さっている人間じゃあないのか?
     恐らく、彼女が刺したであろう、人間じゃあ無いのか?


    453: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) 2011/11/09(水) 01:21:52.13 ID:bDZJZhTgo

     上条はそんな事実すらも振り切る。自分に語りかけてくる事は嘘だと拒むように。
     そして尚問いかける。
     彼女の無実を信じて、ただ偶然ここにいただけだと言ってくれることを望んで。

    上条「なぁ、フレンダ。フレンダの足元にいるその人は――――」

     ――お前とは、全く関係のない人だよな?
     上条のその問いかけに、少女は確かに揺らぐ。
     俯いているのと、辺りの暗さが相俟い、上条には彼女の表情は確認できない。

    上条「フレンダ……?」

     再三、答えを得ようと、問いかけようとして、上条は無意識に一歩を踏み出す。
     そこからは一瞬だった。
     びくっ、と少女の体が大きく震えたかと思えば金色の髪が翻り、残滓を残して闇の中へと消える。

    上条「まっ……!?」

     上条が止めようと手を伸ばした時には既に、彼女の姿はそこにはない。黒に塗れて、黄金色の欠片さえ見つからない。
     逃げられた。ようやくその事が把握できたのは少女がこの場からいなくなってから数十秒の経過を経てから。

    上条「なっ、なん……」

     信じられない、と。そう言いたげに、上条は口元を震わせる。
     フレンダが質問にも答えず自分から逃げた。それはつまり、その質問に答えたくない理由があった、と受け取るべきだ。
     それは、つまり。
     つまり――――

    上条「フレンダが……これを…………?」

     その場に残る、赤く、鈍く光るナイフが腹部に刺さった男が、上条の導きだした答えの正しさを証明していた。


    461: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) 2011/11/18(金) 00:30:55.46 ID:rfU2epz+o

     ■   □   ■


     ―― 一週間が経った。
     上条当麻はベンチに座って遊んでいる子供らを眺めていた。
     気がついたら春休みも残り数日しかない。
     殆どの学生は新たな出会いにその胸を踊らせていることだろう。
     殆どの教師は新しい生徒が手のかからないのがいいと祈っていることだろう。
     だが上条当麻は後者は勿論、前者にすら当てはまらない。

    上条「…………どこにいんだよ」

     苛々が混じった独り言。
     一週間前からずっと彼はそうだった。
     闇の中に消えた彼女は終ぞ捕まることはなく、電話をしてもメールをしても音沙汰なし。
     端を偲んで小萌に頼み込んで住所を聴きだしても名前だけしかないもぬけの殻な寮部屋しかなかった。

     ともすれば、あれはもしかしたら夢だったのではないかと上条は思う。
     あの幼馴染の少女があんなことをするはずがないと信じたい。
     ――いや、きっと今でも信じている。

    上条「……なら、この状況はなんなんだよ」

     壁があるなら殴っているだろう、しかしここは屋外で上条が座っているのは木製のベンチの上。
     振り上げられた拳は、力なくベンチ上にぶつけられるしか行き場がなかった。


    462: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) 2011/11/18(金) 00:52:59.01 ID:rfU2epz+o

    上条「くそっ」

     何がどうなっている。
     上条の中にはそんな疑問が只管に渦巻いていた。
     理性を手放せばすぐにでも人目もふらず叫んでしまうであろう、言いようのない蟠りを上条は歯を食いしばって抑える。
     時計を見る。時刻は十一時ジャスト、待ち合わせ時刻ピッタリだ。
     よっぽど時間にルーズでなければ、きっと来るだろうと思った矢先。

    フレメア「当麻お兄ちゃん、にゃあ!」

     声が聞こえ、前を向いたと同時に満面の笑みを浮かべた金髪幼女が飛び込んでくる。
     恐らく青髪ピアス辺りが見ていたら同じく満面の笑みを浮かべて『話をきかせてもらおうか』と言わんばかりに肩を叩かれているだろうがそれはおいておこう。
     彼の今日の待ち人は少女、フレメア=セイヴェルンだった。
     その彼女が飛び込んでくるのがあまりにも急だったためベンチの背もたれを越して後ろに転びそうになるが、なんとか踏ん張る。『不幸』と叫ぶ事態には陥らなかった。
     が、力が緩むと同時に穴という穴から熱が吹き出たような気がしたのは決して錯覚ではないだろう。

    上条「よっすフレメア。元気にしてたか?」

    フレメア「大体、元気にしてた!当麻お兄ちゃんは?」

    上条「俺は……俺も、大体元気だ」

     言葉が詰まるが、なんとか捻り出す。こんなところで心配させるわけにはいかないだろう。
     上条はフレメアを横に座らせて、暫し他愛ない世間話を始める。

    上条「フレメアって、何年生になるんだっけ?」

    フレメア「ええと……五年生、にゃあ!」

    上条「五年生か……ってことは、小学校の中でも大人な部類なんだな」

    フレメア「私、もう大体大人だよ。電気だって真っ暗でも寝れるし、ブラだってつけてるから大体勝ち組」

    上条「その情報は人前であまり言わないほうがいいぞ」

     にゃあ?と首を傾げるフレメアに上条は僅かに気持ちが安らいだ。


    463: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) 2011/11/18(金) 01:08:57.55 ID:rfU2epz+o

    フレメア「それで、当麻お兄ちゃん。どうしたの、態々私を呼んで?」

    上条「ん、あーそれはだな……」

     お前のお姉ちゃん、イケナイコトしてんのか?
     などと、上条当麻には聞くことはできない。フレメアも事情を知っている可能性も無きにしも非ずだが、知らない可能性のほうが高いからだ。
     そもそもこんな子供にそんな生々しい話など聞けるはずがない。
     小さく深呼吸をして内容を纏めて、上条は真剣みなど微塵もないように、あくまで物のついでの様に尋ねる。

    上条「あれだ。お姉ちゃん……フレンダはどうしてる?」

     上条が失敗した、と悟ったのはほんの一秒後。
     フレメアの顔が曇ったのを見たその瞬間だった。
     それでも大好きなお兄ちゃんから尋ねられたことだからか、フレメアは落ち込んだように声を小さくしつつも直ぐに答えを返してきた。

    フレメア「……フレンダお姉ちゃん、一週間前に電話してきたっきり、帰ってこないの。大体、すぐ帰るって言ってたのに、にゃあ」

     ドクン、と心臓が跳ね上がったような気がした。
     一週間前の連絡で最後。帰ってきていない。
     『知らない』というのは表情が曇った時点で予想の範疇だったとはいえ、そこまで徹底しているなどと思っていなかった。
     上条が彼女を自分の知らない彼女を見た一週間前。フレメアがすぐに帰ると告げられた一週間前。
     これがただの偶然であるはずがない。上条と接触してから帰らないことを決めたのだと判断しても問題ないだろう。

    上条「……フレンダ、その時に何か言ってたりは?」

     力なく、フレメアは首を左右に振った。
     この様子を見るに、彼女はこの一週間フレンダの帰りを待って一人で過ごしていたということになる。


    464: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) 2011/11/18(金) 01:44:11.24 ID:rfU2epz+o

    上条「……ごめん、フレメア」

    フレメア「……?どうして、当麻お兄ちゃんが謝るの?」

     不意に口から漏れた謝罪をフレメアに拾われ、疑問を呈せられる。
     確かにその通りだ。フレメア視点からではフレンダが一週間前から帰らないことは上条とはなんの関係もない。
     それでも、上条は繰り返す。
     贖罪というわけでもないだろうが、自分と、フレンダのすれ違いの問題に巻き込まれただけなのだから。

    上条「ごめん」

     問題に巻き込んでしまったことと。
     そして、その問題に何か知っていることはないかと聞こうとしていたこと。
     上条当麻はその両方に向けて謝罪を告げる。

    上条「きっと、すぐに俺がフレンダを連れてくるから」

     いきなり言われ、フレメアはきょとんと呆ける。
     が、幼いながらも上条の言葉に秘められた決意を汲み取り、頷く。

    フレメア「うん、当麻お兄ちゃんが戻ってくるまで、一人で我慢する!にゃあ!」

    上条「……さんきゅーな」

     先ほどの様子を見てからでは空元気にも見えるフレメアのテンションに、上条はいつものように頭に手をのせる。
     気持ちよさそうに目を細めて撫でられるその姿は、主人の命を忠実に守る、或いは守った犬のそれだった。
     上条はフレンダを見つけたら妹を置いて何をしているんだということも聞かなければと心に決意した、まさにその矢先。

    「何々、結局二人で何してるってわけよ?」

     聞き覚えのある声が、二人の耳に届く。
     同時に声の聞こえた方向を向いて、上条は唖然とし、フレメアは嬉々とした表情を浮かべる。
     喜びに感情を支配されたフレメアが飛び出し、それを受け止める少女。
     受け止められた少女をそのまま大きくしたらきっとこうなるであろう受け止めた少女は、紛れも無く。

    上条「フレ……ンダ…………?」

    フレンダ「久しぶり……ってわけよ、当麻」

     フレメアの姉である、フレンダ=セイヴェルンに他ならなかった。


    469: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) 2011/11/19(土) 23:48:10.14 ID:K9EFSEQZo

     上条はフレンダの仕事の一部を垣間見た。
     とはいってもそれの半分も理解はできなかったが、しかし彼女が倫理に反することをしているのはわかった。
     だから上条は次にフレンダと会ったらそれを問い詰めようと思っていたのだ。

     そして、一週間探し続けた今。
     そのフレンダが目の前にいる。
     いる、のだが……

    上条「どうして……こうなってるんだ?」

     上条たちが居るのは第六学区のアミューズメントパークである。
     フレンダと再会した後、有無を言わさず遊びに行こうと言われて無理矢理に連れてこられた。
     その遊園地の道端にあるベンチに座って、彼はそうぼやいていた。
     視界の先にあるのはフレンダとフレメアが揃ってコーヒーカップで高速回転をしている場面だ。
     その前に乗っていたこの遊園地の絶叫三大名物であるジェットコースターに乗ってグ口ッキーとなっていた彼はこの光景に加わるのを辞退したわけだが。

    上条「なんていうか……」

     平和だな。
     そう言おうとしてその言葉がおかしなことに気づく。
     だって、自分の心はこんなにざわめきだっているというのに、何が平和だというのだろう。
     そしてまた違和感。
     何故自分の心はこんなにざわめきだっているのか。
     こんなにも、平和な光景だというのに――――

    フレメア「にゃあっ!」

    上条「うぉあっ!?」

     いつの間にか終わったのか、フレメアが上条に飛び込んできて、そのまま膝に居座る。
     前を見ると、そんなフレメアを見て苦笑を漏らしているフレンダがいた。


    470: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) 2011/11/20(日) 00:07:18.89 ID:kIerLlyeo

    フレンダ「結局、フレメアったら私より当麻の方がお気に入りってわけ?」

     少しばかり拗ねたような口調で、しかし笑顔でそれをいうフレンダにフレメアは上条の方から振り返って満面の笑みで返す。

    フレメア「当麻お兄ちゃんも好きだけど、フレンダお姉ちゃんも好き!大体、二人とも大好き、にゃあ!」

     いつにもましてテンションの高いフレメアに、上条も思わず笑みを漏らす。
     フレンダが現れる前に見せた、作り笑いのようなものでは全くなく、心からのものだとわかった故の笑みだった。
     フレンダも上条の隣に座ってフレメアに乗り物に乗る際に脱いだベレー帽を被せなおした。

    フレンダ「結局、私も二人とも好きってわけよ」

    フレメア「にゃあ、お揃いー!じゃあ、当麻お兄ちゃんは?」

    上条「え、かっ、上条さん!?上条さんは……あーっと…………」

     男性的な心情を口にさせてもらうと、好意を口に出すのは小っ恥ずかしい。上条ももれなくその心情を持っているため言葉が詰まった。
     が、フレメアは上条に対面する形で膝に座っている。
     そんなに近いところから純粋な期待を込められた眼差しで見られてしまうとこれも上条的には既にアウトだ。
     しかし彼の名誉の為に言っておくが、決して彼は口リコンというわけではないことをここに告げておく。
     上条はそんな至近距離からのフレメアの眼にやられ、仕方がなし、と言った面持ちで顔を少しばかり逸らしながら言う。

    上条「……俺も、フレンダもフレメアも好きだぞ」

    フレメア「にゃあ!」

     それを聞いたフレメアは、これ以上ないというぐらいの表情を浮かべる。
     まるで夢見た光景、とでも言うかのように手放しで喜びを見せた。


    471: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) 2011/11/20(日) 00:49:39.01 ID:kIerLlyeo

     その勢いで危なく背中から地面に落ちそうになり、上条は慌てて後ろに倒れかけたフレメアを支える。
     フレンダも驚きの表情を見せたが、それは直ぐに安堵に変わった。
     真正面から抱きしめられる形になった当のフレメアは、目を丸くして上条の腕の中に収まっていた。
     その上から、上条の安心した、と言いたげな息と、怒りを少し含んだ声が降る。

    上条「駄目だろフレメア、人の上で暴れたりなんかしたら。怪我したら大変なんだからな」

    フレメア「……大体、ごめんなさい」

     一転、フレメアはしゅん、と落ち込む。
     フレンダはそんなフレメアを苦笑いで受け入れ、上条から自分の膝に座らせた。
     しかし、上条と違って普通に膝の上に乗せただけ、だが。

    フレンダ「あはは……フレメア、ちょっとはしゃぎ過ぎってわけよ」

    フレメア「だって……大体、お姉ちゃんと会うのも久しぶりだし、お兄ちゃんとも、三人で遊べるなんて思ってなかったから……」

     にゃあ、という語尾の鳴き声は小さく消える。
     フレンダは微笑を浮かべながらそんなフレメアの髪をなぞる。
     手に取ると同時、さらさら、と自分と同じ髪質のそれは掌からすぐに零れ落ちた。

    フレンダ「結局、当麻はフレメアに怪我をしてほしくないって思ってるわけよ。私だって、そう思ってる」

    フレメア「……そうなの?」

     フレメアが地の底まで落ち込んだよなテンションでバツが悪かった上条はここぞとばかりにフォローに入る。

    上条「そうだぞフレメア。怪我をしたら俺やフレンダだけじゃなくて、フレメアに関わったみんな心配するはずだ」

    フレンダ「そうそう。だからフレメア、はしゃいでもいいけど、はしゃぎ過ぎないように……ね?」

     そのフレンダの囁きが最後の押しになったのか、フレメアは笑顔を僅かに回復させてうん、と頷く。

    フレンダ「よし!」

     そういってフレンダは背中を軽く押してフレメアを立たせ、自分も立ち上がりぐっと伸びる。
     くるん、と髪の毛が翻ったと同時、上条の前には後ろ手を組んで笑みを浮かべた幼馴染がいた。

    フレンダ「じゃあ、次いくってわけよ!」

     次の瞬間にその組んだ後ろ手は解かれ、右手が上条の目の前に差し出されていた。

    フレンダ「勿論当麻も一緒に、ね!」

    上条「…………」

     上条は一瞬、その手を掴もうか掴ままいか迷いを見せる。
     が、その迷いなど微塵もなかったかのように勢い良く、パシン!と上条の手はフレンダの手を握りしめた。

    上条「おし、じゃあ行くか!次、何のるんだ?」

    フレメア「大体、私は――――」

     春休み、カップルや友人同士で来ている人が多く賑わいを見せる第六学区アミューズメントパーク。
     その中での彼らの一日は、まだ始まったばかりだった。


    472: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) 2011/11/20(日) 01:13:37.88 ID:kIerLlyeo

     ■   □   ■


     夕方。
     第七学区の大きな歩道橋の上をフレメアは楽しそうに腕を大きく振りつつ歩く。
     その数歩後ろを上条とフレンダが並んで、それを眺めつつ歩いていた。

    上条「……フレメア、楽しそうだな」

    フレンダ「……きっと、よっぽど楽しかったんだと思うってわけよ。私も楽しかったし」

    上条「俺も楽しかったぞ。まぁ、偶然道行くカップルにソフトクリームをぶつけられたり危なく荷物を盗まれそうになったりもしたけど」

     フレンダはその光景を思い出しているのか、面白そうに口元を緩ませた。
     上条は笑い事じゃねーよ、と突っ込みつつも、不幸だ、とは決して口にはしない。
     その途中で、そうだ、と思い出したようにフレンダは上条を見遣る。

    フレンダ「これから少し、時間もらってもいい?話があるってわけよ」

    上条「ん、別に構わないぞ」

    フレンダ「ありがと。……フレメア――ッ!」

     フレンダが立ち止まり、つられて立ち止まった上条の直ぐ横を彼女の呼び声が通過していく。
     それに反応して、数歩前にいたフレメアも立ち止まって不思議そうな顔で振り返った。
     それを確認したと同時、フレンダは同様に叫ぶ。

    フレンダ「私、当麻と少し話してから帰るから、結局先に帰ってて欲しいってわけよ!」

     その言葉に彼女の妹は極僅か首を傾げるが、大きく頷く。

    フレメア「うん、わかった!大体、ご飯炊いて待ってる!」

     次いで、じゃあね、当麻お兄ちゃん!と手を大きく振りながら去るフレメアに、上条も手を軽く振りながら見送った。


    474: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) 2011/11/20(日) 01:47:47.86 ID:kIerLlyeo

     フレメアがいなくなれば、必然的に上条とフレンダは二人きりになる。
     とはいったものの、周りの通行人はそれこそ大勢いるのだから厳密に二人きりといえるのかは甚だ疑問だが。

    上条「………………」

     上条は口を開かない。
     いつもの彼なら、『で、話ってなんだ』と切り出しても全くおかしくはないはずなのに、彼は一言も発さない。
     彼は待っている。
     眼の前の少女が、こちらを振り返ってその言葉を言うのを待っている。

    フレンダ「………………」

     そしてフレンダも沈黙を破らず、振り返りすらしない。
     まるで上条にはその時間が永遠のようにも感じられた。
     周りの騒ぎたてる喧騒が近くて、しかし遠い。
     通りすぎていくそれらはもはや何かしらの放送時に交じるノイズに等しかった。

     十秒を超えたか、三十秒を超えたか、或いは一分を超えたか。
     はたまた、既に十分を過ぎたか、一秒すら経過していない時を経て。
     その沈黙はようやく、打ち破られた。

    フレンダ「……結局、今日はありがとう……ってわけよ。知らないフリをして、私に付き合ってくれて」

     しかしフレンダは振り返りもしない。
     故に上条もただそれを聞くのみ。

    フレンダ「少なくとも今日はフレメアに喜んでもらいたかった、当麻に楽しんで欲しかった、二人との思い出を作りたかった――――」

     ――風が。
     一筋の風が吹く。
     フレンダの髪が靡く。

     気がついたら。
     フレンダは既に、上条と向かい合っていた。

    フレンダ「もしかしたら」

     上条には、その風はまるで。
     二人の物理的、心理的距離の間を通って行ったように思えて。
     それでも、捨てなかった希望は、諦めなかった日常は。

    フレンダ「もう、三人じゃ会えなくなるかもしれないから」

     その言葉を聞いて、ようやく。
     その幻想は完全に砕け散ったことを知る。


    475: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) 2011/11/20(日) 02:17:12.24 ID:kIerLlyeo

    フレンダ「……少し、歩こう。ここじゃ、少し人通りが多すぎるってわけよ」

     フレンダは再び前を向いて、先を行く。
     上条はそれに答えず、ただその後を追った。

     景色は変る。
     歩道橋の上からビルが雑多に並ぶ道路へと。
     車の通りは夕方ということもあってそれなりにあるが、今の二人には全く関係のないことだった。

    上条(……ここは、確か)

    フレンダ「……二人で歩いたこと、あったよね」

     思っていたことを言われて僅かに驚きつつも、やっぱりそうだったかと想い出す。
     確か大覇星祭の直前だったから九月だったはずだ。
     とりとめのない話をしながら、フレンダと話しながら歩いた。
     ソフトクリームを指してこれいくらだ、とフレンダが問いかけた後の一幕は今でもよく覚えている。
     そして――

    上条「……確か、あの日だったな。フレメアを紹介されたのと、あと、」

    フレンダ「私と当麻には、互いに知らない互いがいるってことを知ったこと――ね」

     フレンダはあの日、ソフトクリームを食べながら腰をついた場所へと同じように腰掛けながら続けた。
     そう、同じ日だ。
     一番であるといわれたこと。
     自分以外はフレメアを除いてどうでもいいと言われたこと。
     そして。
     九年間が、上条の知らないフレンダを作ったということ。

    上条「……それが、アレだってのか…………」

     アレ。
     一週間前、路地裏で見た光景。
     フレンダは表情を無にして、僅か頷く。


    476: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) 2011/11/20(日) 02:34:14.92 ID:kIerLlyeo

    フレンダ「当麻が見たのは、私の仕事の一つ。所謂、裏の仕事――ってわけよ」

    上条「裏の……仕事」

     裏の仕事、の意味するところはわからないが。
     そのニュアンスから察するに、表沙汰にはできない仕事であるに違いないと上条は受け取る。

    上条「どうして……なんで、そんなことをフレンダが…………っ!」

    フレンダ「……理由なんて、どうでもいいってわけよ。結局重要なのは、それをやったこと。違う?」

     フレンダの言葉に、上条は周りの目も憚らずに叫ぶ。

    上条「違うっ!フレンダは、なんの理由も無しにそんなことするやつじゃないだろ!?」

    フレンダ「当麻は、私の何を知ってるの?」

    上条「っ」

    フレンダ「当麻は、知らない。アレに書いたことだけが全てだと思ってるってわけよ。でも、本当はそれだけが全てじゃない」

     ――九年間は、当麻の知らない私を作ったってわけよ。
     上条の脳裏に、あの時のフレンダの言葉がフラッシュバックする。

    フレンダ「当麻は知らないでしょ?私達のお父さんとお母さんが私とフレメアを見捨てて行方をくらましたこととか、フレメアが実験対象になりかけて命の危機に晒されてたこととか」

    上条「な、ん――――!?」

     フレンダの両親がフレンダとフレメアを見捨てて逃げた?
     フレメアが実験の対象になりかけて命の危機に晒された?
     どちらも初耳であり、どちらも驚くどころが驚愕するに十分値する情報。
     それを聞いて、上条は言葉を失った。


    478: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) 2011/11/20(日) 09:44:12.59 ID:kIerLlyeo

    フレンダ「……ほら、結局、当麻は何も知らないってわけよ。それならやっぱり理由なんてどうでも――――」

    上条「どうして」

     最後の、いい、という言葉は上条の問いかけに重ねて消える。
     上条からあふれるのは、疑問ばかり。
     そして同時に怒り。
     どうしてそんな重要なことを言ってくれなかったんだ、という友達、親友ならではの怒り。

    上条「どうして、言ってくれなかったんだよ!別に、その時にいなかったのだとしても、再会した後でもよかっただろ!?一言でも、なんでそんなことを――!」

    フレンダ「当麻はさ、もしかして私と当麻が再会したのは偶然だったと、そう思ってるわけ?」

    上条「……どういうことだよ」

     高校で再会したのはただの偶然だ。
     広い学園都市で『偶然』幼馴染の二人が『偶然』同じ高校に通い、『偶然』にも再会を果たしたに過ぎない。
     少なくとも上条はそう認識していた。
     だが、フレンダはそこに疑問を持つように呈した。
     それの意味するところといえば、つまり。

    フレンダ「結局、偶然なんかじゃない。私は膨大な暗部による情報から当麻がこの学校に通うことを知って、上層部から許可をもらってから入ったってわけよ」

    フレンダ「つまり、私と当麻がこうして再会して話せているのはその力もあってこそ、というわけ。それがなかったらきっと一生再会出来なかったと思う」

    上条「なんだよ、それ……」

     上条は愕然とする。
     そんな自分と再開することまでその暗部の手が関わっていたのかと。
     偶然にも幼馴染と再会したわけでなく、その偶然は必然とされていたのかと。


    479: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) 2011/11/20(日) 10:01:21.78 ID:kIerLlyeo

     フレンダはそんな上条を見て上条に気付かれない程度に淡く微笑んだ。
     愕然とするということはつまりきっと、上条は自分との日常が楽しいものだと思ってくれていたということだ。
     何度も言うが、上条当麻はフレンダ=セイヴェルンにとって全てであり、もっとも堪え難い存在だ。
     その彼が自分との表舞台での生活を楽しい、嬉しいと感じてくれていたなら、フレンダにとってこれ以上に嬉しいことはなかった。

    フレンダ「……ねぇ、当麻。結局、今度は私に言わせて欲しいってわけよ」

     その問いかけには、無言の返事だけが返ってくる。
     どうやら上条は未だに仕組まれた再会だというショックから完全に脱することができていないようだった。
     それでも構わない、とフレンダは続ける。
     自分のたどってきた軌跡を。
     自分が暗部に堕ちてしてきたことを。

    フレンダ「――理由は、とるに足らないことだった、ってわけよ」

    フレンダ「偶然にも学園都市の裏の顔を知ってしまった私は、それを漏らさないように刺客を放たれた」

    フレンダ「足を撃たれた。階段から落ちた。身体を引きずった」

    フレンダ「そこまでしてようやく一人目を退けても結局――その先にあるのは暗闇だけだった」

    フレンダ「第四位、知ってる?それはもう途轍もない能力で、私なんか歯も立たないってわけよ」

    フレンダ「でも結局、私はそんな化物を相手にして生きてる。これがどういう意味か当麻にはわかる?」

    フレンダ「……答えは簡単。その第四位は、私の実力を見て『仲間にならない?』って勧誘してきたから」

    フレンダ「断ったら死ぬ。そう思った私は、返事二つで頷くしかなかったってわけよ」

    フレンダ「そこからは、あっという間だった。結局、私はその時の私と同じような待遇の人を手にかけたこともあったってわけよ」


    480: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) 2011/11/20(日) 10:14:11.04 ID:kIerLlyeo

     フレンダは語る。
     事実と若干の齟齬がある部位もあるがそこに矛盾を感じさせないように差し替えつつ、物語を読むように。

    フレンダ「――私の手は、もう真っ黒だった」

    フレンダ「辞めたい、と思うこともあった。辛い、と思うこともあった」

    フレンダ「けどそれはもう、人を何か傷つけることに何かを感じてるわけじゃなくて。傷つけても何も思わない自分にそう思ったってわけよ」

    フレンダ「それでも、暗部からは抜け出せない」

    フレンダ「暗部に堕ちるには個々にそれなりの理由があるってわけよ。闇を知ってしまったからってことから、表に出せないことをやらかしてしまったことまで、沢山」

    フレンダ「私は闇を知って、暗部に落ちた。だから結局、私はよっぽどのことがない限り暗部から抜け出すことはできないってわけよ」

    フレンダ「……そこで、私は無性に何事もない表舞台での生活に憧れを抱いた。人を傷つけることのない生活ってどういうものなんだろうって知りたかった」

    フレンダ「無茶を承知でその要求を上に通したら、あっさりって言っていいほど簡単に許可がでたことには驚いたってわけよ」

    フレンダ「……そこからは、さっき言った通り。当麻の通う高校を調べて、そこに暗部の力を持ってして入学する。そこから先は――結局、言わなくても分かると思うってわけよ」

     一拍置く。
     再び彼らの間を風が駆け抜けた。
     フレンダの直ぐ背後を車が通過していく。

    フレンダ「これが、全部」

    上条「……全、部」

    フレンダ「そう、全部。私が暗部に堕ちてからしてきたこと、思ったこと、憧れてきたこと、その全部」


    481: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) 2011/11/20(日) 10:34:47.33 ID:kIerLlyeo

    フレンダ「――だから、結局。当麻とはここでお別れってわけよ」

     フレンダはなんとも言えない、様々な感情が混ざり合った上条に告げる。
     驚きに眼が見開く少年に聞かれる前にその理由を突きつけた。

    フレンダ「これ以上関わってると、当麻が暗部について知ったことを知られる。そうするともう遅いってわけ」

    上条「だから……フレンダと関わるのをやめろってのか……?」

     無言でフレンダは頷いた。
     静寂が訪れる。周りの雑音は耳に入ってくるが、それはもはや別世界のものだった。
     今、この瞬間だけは二人の世界は互いに二人だけしか存在しなかった。

     ――『手は黒く染まっている』。
     ――『人を傷つけることにもはや何も感じない』。
     フレンダの言葉の中に出てきた、今の彼女を象徴する言葉。
     しかし、こうとも言った。
     『何も感じない自分が嫌になった』『何事もない表舞台での生活に憧れを抱いた』。
     これが意味するところは即ち、フレンダは今もなお陽のあたる世界への回帰を望んでいるということ。
     だから上条は、上条当麻は――告げる。
     その右手の拳を悠然と握りしめて、爪が食い込んで血が出るほどに握りしめて。

    上条「――だったら、その暗部から出てやればいい」

     聞いたフレンダは、目を丸くする。
     上条はそんなフレンダに続ける。

    上条「暗部に関わるから日常に戻れないってんなら、その暗部から出ちまえばいいだろ」

    上条「少なくとも、フレンダはそう望んでるんだろ!憧れてたんだろ!?だったらそれを現実にしちまえばいいだけの話だろうが!」

    上条「なんでそんな弱気になってんだよ!なんで相当のことをしないと脱することができないとか思い込んでんだよ!!」

    上条「だったらその『相当』を起こしちまえばいいだけの話だろうが!なんで、しないうちから諦めてんだよ!」


    482: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) 2011/11/20(日) 10:50:51.19 ID:kIerLlyeo

     上条は叫ぶ。
     そんな別れなんて許さないと。
     それでも別の道を歩むというのなら最後まで足掻いてからにしろと。
     それに対して、フレンダは――笑った。
     ただ、笑った。

    フレンダ「――そんなこと、私が、私達がしなかったと思ってるわけ?」

     そう、彼女らは『相当』を起こそうと努力をした。
     フレンダだけではなく、麦野沈利と、今は亡きもう一人と。
     その結果に彼女は死に、麦野は狂ったように冷酷な人間へとなり果てた。

    フレンダ「第四位がいてすら無理だった。私一人じゃどうにもならないのは自明ってわけよ」

     それに、とフレンダは綴る。
     とても寂しそうな表情を浮かべたのは、きっと無意識。

    フレンダ「結局、憧れは、憧れでしかないってわけよ」

     嘘だ。
     上条にはそうとしか思えなかった。
     だって、そうでなければ、そうでなければ――――

    上条「どうして、わざわざ俺と同じ高校に入ってきたりしたんだよ!」

    フレンダ「っ!」

    上条「別に表舞台を知るだけならどこの高校でもよかっただろ!?それこそフレンダの能力ならもしかしたら常盤台だって入れるかもしれなかっただろ!」

    上条「なのに俺と同じ高校を選んだってことはやっぱり、昔に戻りたかったってことじゃないのか!?以前と同じ関係を続けたかったってことじゃないのか!?」


    483: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(少し中断です) 2011/11/20(日) 11:11:31.58 ID:kIerLlyeo

    上条「なぁ、フレンダ。違うのか?違うなら、違うって言ってくれ」

     ――でなければ、俺は諦め切れない。
     言外にその言葉を告げて、上条はフレンダの答えを待つ。
     その当のフレンダは動揺をほんの少し見せたがどうしようもない、というように軽く首を横に振って、また寂しそうに薄く笑う。

    フレンダ「……さっき、表舞台での生活に憧れを抱いたっていったけど、あれ嘘。本当は、当麻に会いたかった」

     上条がじゃあ、と言いかけたところを、フレンダはでも、と遮る。

    フレンダ「それは結局、私の夢だったから……ってわけよ」

    上条「……夢」

     鸚鵡返しにする上条に、フレンダも「そう、夢」と繰り返す。

    フレンダ「ねぇ、当麻。私が学園都市に来た理由、知ってる?」

    上条「……言いたくはないけど、両親に売られたんじゃないのか?『置き去り』は大体そうだっていうし」

     フレンダはその解答に小さく首を振った。
     じゃあなんだ、と上条は詰め寄る。それは当然の行動だったといえる。
     また彼女は言葉に迷いを見せるが、それを気取らせないように微笑を浮かべつつ正答を言う。

    フレンダ「私は、当麻に会いにきたんだよ」

     フレンダの提示した答えに、上条当麻は呆然とした。
     『私にとっての一番は、上条当麻』。過去にそんなことを言われたのを思い出す。
     それは、それだけはフレンダにとって初めから最後まで変わらないものだった。


    486: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) 2011/11/20(日) 12:23:37.90 ID:kIerLlyeo

     フレンダはガードレールから腰をあげる。
     上条から背を向けて、周りの目もやはり憚らず。歩道の真ん中で両手を広げる。

    フレンダ「当麻は、私のヒーローだった」

    フレンダ「当麻は、私の全てだった」

     上条はフレンダに何かを言う術を、何もかもを持たない。
     なぜならば、フレンダが上条を追って学園都市に来たということはつまり。
     上条当麻がいたからこそ、フレンダは学園都市の暗部へ堕ちたということも意味する。
     直結ではないが、間接的な理由になったのは間違いない。
     そう思ったのを察したのか、フレンダはフォローするようにいう。

    フレンダ「……結局、当麻のせいじゃないってわけよ。堕ちた理由を人のせいにするほど私は落ちぶれちゃいないし」

     しかしそれでも上条に顔は向けない。
     その表情は、笑っているのか、泣いているのか、怒っているのか、悲しんでいるのか。
     上条には全く、知る方法などなかった。

    フレンダ「……結局、私はただ当麻の傍にいたかった、ってわけよ。例え手が汚れてしまっていても、それを隠していればいいと思ったから」

    上条「……だったら、これからもそれを隠していけばいいじゃないかよ…………」

    フレンダ「それは無理ってわけよ。だって、もう壊れちゃったから」

    上条「……日常が、か?」

    フレンダ「私が、だよ」


    487: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) 2011/11/20(日) 12:37:55.16 ID:kIerLlyeo

     もしかすると日常も、の意味合いもあったかもしれない。
     が、フレンダには自分が壊れてしまったほうが致命的であった。
     夕焼けは丁度彼らの向いている方向の延長線上にあった。
     嫌なくらいに朱いそれは、果して舞台に降り注ぐスポットライト宛らのようにも思える。

    フレンダ「結局、隠せると思ってた。隠していけると思ってた」

    フレンダ「でも、無理だったってわけよ」

    フレンダ「隠せば隠すほど。ごまかせばごまかすほど。一緒に過ごせば過ごすほどに私の決意は崩れていった」

     一年。それでも長持ちした方ではないかと思う。
     大好きな人。その人に対して重大な隠し事。
     よくぞここまで我慢できたものだと感嘆せざるを得ないほどだろう。

    フレンダ「だからやっぱり――さよならってわけよ」

     フレンダは空を見上げる。
     そこには暗さが微量ながら混ざり始めていて、陽のあたる時間がもうすぐ終わることを示していた。
     けれど、上条はそんな空を見上げない。
     まるで、そんな光景など認めないかのように。

    上条「――暗部が、なんだ」

     上条は怒気を込める。
     それは誰に向けてでもない。
     あえていうなら、この世界のシステムに対してだろう。


    489: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) 2011/11/20(日) 12:56:23.09 ID:kIerLlyeo

    上条「汚れちまったのがなんだ、壊れちまったのがなんだ!」

    上条「確かに罪は消えない。けど、重要なのはこれからじゃないのか!?誰だって大なり小なり間違える、その度にもうダメだ、なんて思ってても仕方ねーだろうが!」

    上条「壊れちまったのがなんだ、壊れたなら直せばいいだろ!直せないなら、壊れているのが不自然でない状況にすればいいだけの話だろ!」

    上条「フレンダ、お前は一度、そこからこっちに来るのに失敗したっていったな」

     ――だが。
     それがなんだ。
     一度失敗したなら二度。二度失敗したなら三度。 
     何度でも繰り返せばいい。
     上条はそう叫んだ。
     その思考を持つのが上条当麻。不屈の精神を持つのが上条当麻。
     その彼の言葉を背中越しにでも聞いて、フレンダは思わず笑ってしまった。
     そう、これこそが自分のヒーローだ、と。

    上条「第四位といても失敗した?その第四位だって、一度失敗したらそれまでだって思う程度のやつなんだろ、そんな奴いたっていなくたって関係ねぇ!」」

    上条「それに、今度は俺だって協力してやる!フレンダの力になってやる!だから、フレンダ――」

     さよならなんて、いうなよ。
     上条はその言葉を紡げない。
     フレンダが、嬉しいとも悲しいとも取れない表情で、こちらの方を向いていたから。
     その表情は、酷く決意を秘めているような表情でもあったから。
     そして、フレンダは紡ぐ。
     上条の決意を、言葉を断ち切るかのように。


    フレンダ「――じゃあ、当麻は私と一緒に地獄の底までついてきてくれる?」


     その瞬間のフレンダは、紛れも無く『笑顔』だった。
     先ほど見せた真逆の感情が篭った表情を押し込んで、無理矢理に見せたそれは、暗に語っていた。
     ――こっちにくんな、と。


    490: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) 2011/11/20(日) 13:30:06.25 ID:kIerLlyeo

    フレンダ「……さっき言わなかったけど。暗部からの脱出を計った時、第四位と私以外に、もう一人いたってわけよ」

    上条「その一人って……」

    フレンダ「死んだよ」

     フレンダは無表情でさらりと言ってのける。
     その表情に、上条は背筋に薄ら暗いものを感じ取った。

    フレンダ「私達の目の前で、上半身と右足吹き飛んで。跡形もなく、粉々に。残った左足は……多分、自動処理にぶち込まれたってわけよ」

     上条の思考が凍った。
     自動処理?ぶち込まれた?何が?
     残った、人の死体を。

    フレンダ「結局、暗部で死ぬっていうのはそういうことなわけよ。例え死んでも、死んだことも知られない。全てが全て、闇の中に葬られる」

    フレンダ「……その人だって、能力も応用が効くしそれなりの使い手だった、ってわけよ。そんな人が、あっさりと死ぬ場所なわけよ、ここは」

     とんとん、と地面を叩く。
     上条とフレンダのこの距離はさながら境界線だ。
     生と死。あたかもそんな運命を定めるかのような境界線。

    フレンダ「それでも、それでも――結局、当麻は、私と一緒に地獄の底までついてきてくれる覚悟がある?」

     夕焼けが、嫌なくらいに朱い。
     上条から見てフレンダと重なるように存在するそれはある種近づけば焼け死ぬことを象徴しているようにも見えた。
     通行人が訝しげな表情で二人を見て通りすぎていく。

     ――決めなければならない。
     フレンダは手を伸ばす。
     此方側にくるなら、手を掴めとでも言うように。

     ――決めなければならない。
     上条は自分の右手を見遣る。
     『幻想殺し』。ありとあらゆる異能を打ち消し、神様の奇跡ですら消し去るであろう特殊な右手。

     ――決めなければ――――
     上条はその右手をゆっくりと持ち上げる。
     そしてその右手は。
     フレンダの手に。


     ――重ならない。


    491: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) 2011/11/20(日) 13:51:05.64 ID:kIerLlyeo

     フレンダはまた表情を変えた。
     あの、喜びとも悲しみともとれる、或いはとれない表情を。

    フレンダ「――さよなら、当麻。今日は、本当に楽しかった、ってわけよ」

     上条はフレンダを引きとめようと口を開く。
     が、そこからは何も出てこない。
     当然だ。上条は、フレンダの手を掴めなかった。それなのに、止める権利があるのだろうか。
     いや、ないに違いない。そう考えてしまったから、上条はただ翻り、離れていく後ろ姿に情けなく手を伸ばすことしか叶わなかった。

    上条「っ、フレ…………っ!!」

     膝から崩れる。
     一部を見ていた人は、上条を哀れそうにも迷惑そうにも見ていた。
     けれど今の上条にそんなどうでもいいことは目に入らない。

    上条「――そっ!!」

     全力で、地面に拳を叩きつけた。
     それで何が起こるわけでもない。現状が打ち破られるわけでもない。
     現実は、決して幻想なんかではなく。果してそこにあるのみなのだから。

    上条「っ――――」

     絶叫が喉からこみ上げてきて、それでも収まらない感情を上条は唇を血が出るほどに、歯がかけるほどに噛み締める。
     慟哭する。
     自分は何もかもを捨ててもいい覚悟であの手を掴むべきだった。

     右手。
     『幻想殺し』。
     例え、神ですら殺す右手があったとしても。
     本当に助けが必要な筈の少女一人にすら手を差し伸べられない。

     一年間の記憶が過る。フレンダ、途中からフレメアも混ざるが殆どがフレンダとの思い出だ。
     きっと、多分、おそらく。
     いや、そんな仮定ではなく。確実に。
     ――――好き、だったのに。

     自覚し。
     失い、そして初めて認識し。

    上条「っっぁああああぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!!」

     上条当麻は、抑え切れない感情を陽のあたる世界でぶちまけた。



     全てが終わって、ようやく気付いた。
     アミューズメントパークで感じた違和感。平和な光景なのに、平和じゃないと思った理由。
     あれは、フレンダが全部『楽しい』と演出していたからだ、と――――


    492: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) 2011/11/20(日) 14:12:31.66 ID:kIerLlyeo

     ■   □   ■


    フレンダ「――結局、これで、よかったってわけよ」

     一週間、フレンダは考えていた。
     上条にどう説明するか、ではなく。上条の介入をどう回避するか、をだ。
     何度も繰り返すが、フレンダ=セイヴェルンにとっては上条当麻が全てだ。
     例え、どんな印象を受けようとも。上条が此方側に来ることだけは回避しなければならなかった。
     だって、そうでなければ。

    フレンダ「当麻には、死んで欲しくないから」

     ただの無能力者。
     不運の持ち主で、だがそこからでも生きて帰れる強運も秘めている。
     が、そんな運は暗部では殆ど通用しない。
     だから来てしまったら死ぬとフレンダが考えるのは自明の理だった。

    フレンダ「ごめんね、当麻」

     きっと後悔しているであろう幼馴染に向けて、届くはずのない謝罪を口にする。
     でも、それでも。
     大好きな人には、生きていて欲しかったから。

    フレンダ「…………っ」

     思い出が蘇る。
     願いが叶ったのは、ほんの僅か一年。
     楽しかった、嬉しかった、苦しかった、悲しかった。
     フレンダは、その全てを飲み込む。

    フレンダ(ねぇ、当麻――覚えてるかな。フレメアを助けてくれたときのこと)

     あの時の、病院の時のこと。
     あの日の最後の問答を、今でも鮮明に思い出すことが出来る。

    フレンダ『当麻はさ、もし私が――――取り返しの付かないことをしてたら、どうする?』

    上条『何をしてても関係ねぇだろ?フレンダが何をしてようが、俺はお前の味方だよ』

     フレンダの問答に、当たり前のような表情で答えた上条。
     とても嬉しくて、とても苦しくなった。
     あれがなければ、少しでも変わったのだろうか?

    フレンダ「……結局、変わらない……ってわけよ」

     遅かれ早かれ、自分の決意の崩壊は変わらなかった。
     だったら、今でよかったのかもしれない。
     苦しみながらも、その想いの落とし所をみつけたフレンダは無意識に、口を紡ぐ。
     それは、上条の前では決して言われることのなかった言葉。
     暗部に堕ちた瞬間より自らの奥底に封印したはずの感情。

    フレンダ「ありがとう、さよなら、当麻。……大好きだった、ってわけよ」

     フレンダ=セイヴェルンのその誰にも向けられない情念は、闇の深い暗い世界に紛れて消える。


    501: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) 2011/11/26(土) 23:17:37.62 ID:Ejh6nqiJo

     ■   □   ■


    上条「不幸だ……」

     上条当麻は溜息を吐く。
     ただ自分は相手が誰かも知らず絡んでいる不良を助けたかっただけなのだ。
     だというのに。

    上条「まさか、雷を落とされるとは……あのビリビリ、デタラメすぎるだろ…………」

     あれの所為で辺り一面は停電になった。それだけでなく、電子機器類にもダメージを深く与えたことだろう。
     無論、付近の上条の寮のそれらに被害が及ばなかったわけがない。なにせ、彼は『不幸』なのだから。
     流石は第三位の超電磁砲といったところだが、彼にとってははた迷惑なビリビリ中学生でしかなかった。

    上条「……それより、今日の晩飯の方が優先か」

     腹の虫がなにか食わせろと泣き叫ぶ。
     ファミレスで注文したメニューはぶっちぎってしまったし、今更戻った所で食い逃げ認定からは逃れられない。
     ならば熱りが覚めるまでは行かず、別な場所で食事を済ませるのが利口な判断というものだ。
     そんなわけで、上条は心当たりのあるコンビニに足を向けた。

     辺りでは明日からの長期休暇に浮かれて騒ぎ立てる学生で満ち溢れている。
     上条はそんな彼らを横目に見ながら、道路の中心を歩く。

    上条「…………」

     その中でカップルと思わしき男女のペアに上条は僅か眼を止めて、
     グルン!と。
     不幸にも足元に転がっていた空き缶を踏んですっころぶ。


    502: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) 2011/11/26(土) 23:31:01.46 ID:Ejh6nqiJo

     からから、と寂しく転がるそれは乾いた音を立てた。
     しかしそれは雑踏に混じって消える。
     一瞬だけ音に反応した人も、すぐにその仲間との会話に戻っていく。
     まるで上条は一人、世界に取り残されたかのような錯覚を受けた。

    上条「……っ、て」

     苦痛に顔を歪ませる。
     よくある不幸だ。何かを踏んで転ぶ、なんて不幸はそれこそ数えても数えきれない。
     それなのに、何故だろう。

     あの時は、周りに殆ど人なんていなかった。
     心境だって違ったし、そもそも外に出ている目的だって違う。
     場所だって、時間だって。一致するのは、空き缶で転んだ、というただそれ一つの筈なのに。
     それなのに、何故だろう。

     何故だろう、あの日によく似ていると感じてしまったのは。

     上条は目を誰ともあわせないように伏せつつ、ゆっくりと立ち上がりその場を後にする。
     彼の行き先は既に近くのコンビニではなくなっていた。

    上条「――フレンダ」

     四月の初めも初めの日。
     今日は楽しかったと。そういって上条の目の前から消えてしまった少女の名を彼は呟く。


    503: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) 2011/11/27(日) 00:08:45.61 ID:a5P9pmUoo

     春に再会を果たした幼馴染。
     夏には二人で散々遊び歩き。
     秋では二大祭りを乗り越え。
     冬は妹も含めて交流を深めた。

     だが今ここにその彼女の姿はない。同じ学校だった筈なのに、その籍すら消えていた。
     自分が間違えてしまったから。怖気付いて手を差し伸べられなかったから。
     彼女は、自分の目の前からいなくなってしまった。

     他の人――土御門元春や青髪ピアスから見れば、上条はなんら変わりない、と思うだろう。
     しかし、実際には違う。彼はふとした拍子――例えば、先程空き缶を踏んだ時のような――に度々彼女のことを思い出す。
     そしてその度に、救えなかった自分を責めるのだ。
     時には拳を強く握り。時には歯を強く噛み締め。
     何れにしても、その身体を巡る血が外部に漏れてしまうほどに。

     上条の足は自然と、人の少ない方向へと向かっていた。
     角を曲がり、また曲がり、更に曲がる。
     それを繰り返す内に、いつしか彼の歩く道はあの日に彼が迷い込んだ場所によく似た雰囲気を纏っていた。
     つまりは、『外れた者達の領域』。

    上条「……いるわけ、ないのにな」

     フレンダが完全にいなくなってしまったあの日から、深く彼女を思い出すたびに上条はよくこういう道を歩く。
     あの日と同じように、例えフレンダが何をしていようと今度こそ背を向けずに追いかける心意気で。
     しかし一度もそういったことに巡りあってはいない。
     当然だ、こういった場所は学園都市のいたる場所に存在する。その中の一つをたまに歩いた程度で裏の仕事を見ることができるのならば闇に引きずり込まれる人は今の程度ではすまない。
     上条もそこのところはなんとなく理解しているのか、最近では半ば諦めつつこういった道を行く。
     いつか、彼女が自分の目の前に現れてくれると信じて。


    504: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) 2011/11/27(日) 00:40:22.82 ID:a5P9pmUoo

     今日も、上条はやはりなんの手がかりも掴めぬまま路地裏の出口を見つける。
     何事も起こらなかった闇の世界は、彼にはまるで実態のない幽霊のようにも思えた。
     実態がまるで掴めないというのに、人々を恐れさせるというその点についてのみ、だが。

     上条は路地裏を抜ける。
     作られた光が歓迎するように彼を照らした。
     しかし立ち止まり、上条は振り返る。
     そこにあるのは暗闇の世界。光が全く差さない、踏み込んだらそのまま沈んでいく、まるで底なし沼のような世界。
     彼がその世界を垣間見たのはたった一度のみ。
     それは、今思い出してもまるで悪い夢を見ていたようにしか思えなくて――――

    上条「……ああ、そっか。つまり、そういうことか」

     そこまで考えて、上条は気付く。
     光の世界の住人にとって、闇の世界は『悪夢』のようなものなのだ。
     だったら闇の世界の人々にとって、光の世界はその真逆の存在に違いない。
     つまりフレンダにとって上条と過ごした、彼女が楽しい、と言ってくれたあの日々は彼女にとっては正しく『希望』か、或いは。


    上条「――全部幻想だった、ってことか」


     上条は嗤う。なんて皮肉だ、と思わずには居られない。
     そのままであれば、それは幻想のままでいられたというのに。
     嗤い。嘲り。そして、嘆く。
     なぜなら、その幻想を打ち壊してしまったのは『幻想殺し』という異能を持つ上条当麻自身なのだから――――。



     ――翌日の七月二十日。高校二年、夏休み初日。
     その日、彼はベランダで運命に出逢うことを、まだ知らない。


    505: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) 2011/11/27(日) 00:48:55.73 ID:a5P9pmUoo

     第一部完!ようやくここまできた…………!
     しかし、第一部がこんな様子(予定より寄り道を多くした)で第二部は計画通りに進めるのかな……?
     ……うん、イロイロと詰める作業に入るとしよう、うん。

     とりあえず一段落ということで。
     第一部をご覧頂きありがとうございました!
     無論、この後の展開は原作で保管しても問題はありませんが、第二部はそのIFとしての物語となります。
     >>1にもあるとおり、不定期スローペースですが出来れば最後までお付き合い頂けると幸いです。
     では、また次回!


    506: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(大阪府) 2011/11/27(日) 00:55:48.04 ID:HG2dd+DQo

    楽しみにしてるわけよ!


    508: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西・北陸) 2011/11/27(日) 01:04:55.87 ID:d+GBb+iAO

    乙!!


    この後に1巻の出来事ってことは、うわぁ……


    509: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) 2011/11/27(日) 17:43:16.11 ID:LiXDoIsHo

    乙!第二部楽しみにしてるんだぜ!


    510: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) 2011/11/27(日) 18:12:59.50 ID:FSh9SGvDO

    >>1乙である

    続きを楽しみにしているのである









    引用元: フレンダ「結局、全部幻想だった、って訳よ」

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