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    ひき娘「け、ケーサツ呼びますよっ」

    2: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/03/30(水) 00:02:29.79 ID:WqfX6909o

    ----------------------------------
      一日目 ひき娘の部屋前

     こんこんこん

    ひき娘「開けません。
     泥棒さんはお引取りください……っ」

    男「わたしは泥棒ではありませんよ。
     まったく、顔を見ていきなり逃げ出されると、
     案外傷つくものですね……。

     御家族から話をされていませんか?
     今日から家庭教師が来ると」

    ひき娘「き、聞いてないですっ。
     とにかく、そんなウソを言ってもダメです。
     今ならまだ無かったことにするので、
     お引取りくださいっ」




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    3: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/03/30(水) 00:03:07.18 ID:WqfX6909o


    男「そう云われましても。
     よく考えてください。

     鍵がかかっていた玄関の扉を開いて、
     堂々と入ってきたんです。

     いきなり出くわして驚かれたでしょうが、
     もしわたしが泥棒であれば、
     もう少し行動を考えているはずですよ」

    ひき娘「……堂々とした泥棒さんかも」


    男(確かに。白昼の住宅街では、
     ピッキングなどの技術に自信があれば、
     帰宅するような自然さで侵入するらしいですね。

     あながち穿った意見ではありませんが、
     立場を悪くしても意味がありません)


    4: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/03/30(水) 00:03:36.80 ID:WqfX6909o


    男「そんな人がいないとは、まあ言えませんが。
     では、ひき娘さん。
     わたしがひき娘さんのお名前を知っているという事で、
     わたしへの不信を解いてもらえませんか」

    ひき娘「家の表札に、
     削ってなければ私の名前があるはずです」

    男「……そういえば、眼にした気がしますね」

    ひき娘「それに、今更家庭教師とか変ですよ。

     私がひきこもり始めたのは二年も前ですもん!
     いまさら学校に行くとか、ムリですよ」


    男「しかし、間にカウンセラーが来ませんでしたか?

     お母様から、三人ほど過去にカウンセリングをしたと、
     そのように聞いていますが」

    ひき娘「……それは、確かに何度か。
     カウンセラーさんは来ましたけど」


    5: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/03/30(水) 00:05:08.70 ID:WqfX6909o


    男「しかし、結局ひき娘さんは扉を開かず、
     通ってきていたカウンセラーも帰してしまった。
     違いますか?」

    ひき娘「……はい」

    男「そこで、ひき娘さんのお母様から、
     今すぐに部屋から出てきてもらう事より、
     いざ出たときのために、
     最低限の学力を維持して欲しいというご依頼があり、
     わたしがこうして出向いてきました」

    ひき娘「それは、お母さんが考えそうだけど……」

    男(わたしも一応カウンセラーとしての、
     資格は持っていますが。
     ここは普通に家庭教師としたほうが、
     抵抗は少ないでしょうね)


    6: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/03/30(水) 00:05:49.37 ID:WqfX6909o


    男「であれば、わたしがひき娘さんの家庭教師と、
     信じていただけますね?」

    ひき娘「……少しですけど」

    男「今のところ、警察を呼ばれなければ構いませんよ」にこっ

    ひき娘「それで、その――」

    男「申し遅れました。
     わたしは男と云います。

     この近くの塾で中高生を対象として、
     文系科目を中心に学んで貰っています。

     良ければ、名刺でもいかがですか?」

    ひき娘「えっと……
     それじゃ、扉の下から、お願いします」

    男「はい、どうぞ」すっ


    7: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/03/30(水) 00:06:36.10 ID:WqfX6909o


    ひき娘「確かに、塾と家庭教師ってありました……」

    男「もちろんです。
     信用していただけたのなら、
     扉、開けてくれませんかね?」

    ひき娘「はい……って、ソレとこれとは、関係ないですっ」

    男「ドサクサにまぎれてみましたが、
     開けていただけませんか」

    ひき娘「ダメです」

    男「では、少し大変ですが、
     今日の授業は扉越しに行いましょうか」


    8: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/03/30(水) 00:07:18.75 ID:WqfX6909o


    ひき娘「その、本当に家庭教師さんなんですか?」

    男「はい。ですから、勉強をしましょう」

    ひき娘「……」

    男「何やら、にらまれているような気配がしますね」

    ひき娘「……」

    男「今度は少し泣きべそをかいているような」

    ひき娘「もしかして、見えていませんか?」


    9: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/03/30(水) 00:07:53.32 ID:WqfX6909o


    男「まさか。
     長く教師を続けていると、
     それなりにそうした空気が分かるものです」

    ひき娘「……そういうものなんですかね?」

    男「はい。そういうものです。
     では、まず第一歩として。
     扉の前に教材を置いて、少し距離をとるので、
     回収して、勉強できる状態になってください」

    ひき娘「その、勉強は苦手なんです……」

    男「得意にするのが私の役目です。
     大丈夫ですよ、優しく教えて差し上げます」


    10: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/03/30(水) 00:08:29.66 ID:WqfX6909o


     ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

    男「ふむ……少し意外ですね」

    ひき娘「何が、ですか?」

    男「とりあえず、どの程度までさかのぼる必要があるか。
     それを判断するために、今のテストを受けてもらいました」

    ひき娘「……」

    男「ひき娘さんが学校に通わなくなった頃の生徒さん、
     中学二年生を対象とする全国模試の過去問題です。

     正確な統計とはなりませんが、
     その得点でおおよその得手と不得手、
     そして学力が分かるわけです」

    ひき娘「その、どう、でした?」

    男「そうですね。
     まだ足場を固めたい部分はありますが、
     総じて悪い評価ではありません。
     むしろ、ブランクを考えれば大変よく出来ているでしょう」


    11: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/03/30(水) 00:09:49.37 ID:WqfX6909o


    ひき娘「……よかったです」

    男「これで勉強が苦手と言ってしまっては、
     立つ瀬が無い人もいますよ」

    ひき娘「その、本当に苦手で。
     でも、その、やることもなくて」

    男「退屈しのぎに、ですか。
     では、多少宿題が多くても、大丈夫ですね」めもめも

    ひき娘「……それは、ちょっと」

    男「大丈夫ですよ。
     無理な事は要求しません。

     ひとまず今日はこれで終わりにしましょう。
     実は、十七時からは塾でわたしの授業がありまして……
     ひき娘さんのための勉強メニューを組むため、
     今回のテストは持ち帰らせてもらいます。
     次回には、採点と赤ペンを入れて御返ししましょう。」


    13: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/03/30(水) 00:11:10.76 ID:WqfX6909o


    ひき娘「……もしかして、少し」

    男「車で来ているので、大丈夫ですよ。
     しかし、今日はこれで失礼しますね」

    ひき娘「あ、はい」

    男「そうそう、宿題ですが。
     次回は明後日ですからね。
     それまでに、英語のドリルは終わらせてください。
     数学も、基礎編を終わらせてください」

    ひき娘「……え、その、終わらせる?」

    男「はい。大丈夫ですよ。
     大した量ではありません。
     ほどよい努力で達成できる量です」

    ひき娘「その、ムリだと思うんですけど……っ」

    男「わたしは結果重視主義ですが、
     努力すればその分実力はつきます。
     がんばってください」にこっ

     とことことこ


    15: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/03/30(水) 00:11:47.08 ID:WqfX6909o

    ----------------------------------
      一日目 ひき娘の部屋

    ひき娘「ふはっ」

    ひき娘「……こんなに喋ったの、
     久しぶりで、喉、痛いかも」

    ひき娘「気がついたら、
     案外普通に話してた、かな?」

    ひき娘「お母さんとも、
     最低限しか話さないのに」

    ひき娘「……男先生」

    ひき娘「丁寧な人?
     でも、怖そうな人」

    ひき娘「顔、ちゃんと見えなかったな」

    ひき娘「優しそうだといいけど」

    ひき娘「笑顔の優しい人は、すき」

    ひき娘「……」


    16: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/03/30(水) 00:13:19.64 ID:WqfX6909o


    ひき娘「でも、やっぱり」

    ひき娘「外には、出たくない」

    ひき娘「勉強は、いいけど。
     学校とか、友達とか、先生とか、
     まだ、怖いよ」

    ひき娘「もう、外には出たくない」

    ひき娘「痛くて。
     辛くて。苦しくて。怖くて。
     外には、いいことなんて、何にもないもん」


    17: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/03/30(水) 00:14:18.72 ID:WqfX6909o

    ----------------------------------
      一日目 男の車

     ぶろろろろ

    男(ひきこもりの子に授業なんて、
     初めての体験で、戸惑いますね)

    男(いきなり警察を呼ばれそうになるとは、
     さすがに思っても居ませんでした)

    男(しかし、そうしたアクシデントを除外しても、
     簡単には済まないようですね)

    男 ぺらり


    18: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/03/30(水) 00:15:21.01 ID:WqfX6909o


    男(ひき娘さん、今年で十六歳。
     保護者は母親のみ。昼は仕事。

     中学二年で不登校に。
     以来、部屋からも出てこない)

    男(これしか情報が無くては、
     作戦の練りようもない。

     どうして引きこもってしまったか。
     せめて趣味や好きな食べ物でも分かれば……)

    男(非効率的でいまいち不本意ですが、
     完全にゼロから親しくなるしかないですか)


    19: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/03/30(水) 00:17:48.22 ID:WqfX6909o


    男(しかし、その点を除けば、
     大人しく、利発で、
     勉学への忌避感などは感じられません。

     他の生徒さんたちよりは、
     幾分か伸びやすい気がしますね)

    男(難しい子ですが、
     ソレを疎んでは教師として立ち行きません)

    男(嫌われない程度に、
     がんばるとしましょうか)

    男(ひとまず、中学二年生までの復習と足場固め。
     普通の生徒と違って、
     時間つぶしとしてドリルなどをやるような、
     パズルとして楽しんでくれる雰囲気がありますからね。
     焦りは禁物ですが、それなりに早く終わるでしょう)

    男(それが終わる頃には、
     もう少し距離を縮めておきたいものです。
     廊下での授業はさすがに寒いですし、
     お尻も、腰にも負担が厳しい……)しみじみ


    20: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/03/30(水) 00:24:19.61 ID:WqfX6909o

    ----------------------------------
      一日目 TL:sugomori

    sugomori 今日、久しぶりに、
     私にお客さんが来ました。
     どうやら、明後日また来るみたいです。

    kuro sugomoriに、お客さん?
     そんな話題が出たの初めてよね。
     どんな人?

    sugomori 顔は見てないです。
     っていうか、kuroさんは私がひっきーって、
     知ってるじゃないですか。


    21: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/03/30(水) 00:25:08.91 ID:WqfX6909o


    kuro ちゃんと『会った』のかなーと。
     本当に来ただけなのね。

    megane お客さんですか。
     キチンと対応しなくてはいけませんよ。
     お会いしたことはありませんが、
     どうやらsugomoriさんは、どこか……

    sugomori その、気を使ったみたいで、
     気を使っていない省略はやめてください(>_<*)
     どこか、なんですか? meganeさん。

    megane どこか、ユーモラスな方なのでと、
     そう言いたかっただけですよ。
     なにか、邪推をなさいましたか?


    22: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/03/30(水) 00:30:22.09 ID:WqfX6909o


    sugomori megane さんのニヤニヤ顔が目に浮かびます!

    kuro megane さんって、性格イイですよね(笑)

    megane 良くそのように褒めてもらえますね。

    kuro あぁん、惚れちゃいそう!

    megane おや、どこかで猫が鳴いているような。

    kuro 私は発情期の猫じゃありませんよーだ。

    sugomori は、はつじょうきって、kuroさん。


    23: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/03/30(水) 00:30:52.82 ID:WqfX6909o


    kuro この年になって恥ずかしがらない。
     カマトトぶってちゃダメよ?
     今は女も肉食の時代!

    megane 秘すれば花なり、秘せずは花なるべからず。
     世阿弥のお言葉ですが、
     今の時代ほど、これを実感する時もありません。

    kuro え、meganeさんは女性幻想持ちなの?

    megane これでも男性の一翼として。

    kuro ちょっといがーい。

    megane どう見えていましたか?


    24: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/03/30(水) 00:31:21.21 ID:WqfX6909o


    kuro 結構リアリストに。

    megane 否定はしませんが、
     男女関係に幻想は必要ですよ。
     それを楽しみたいのであれば。

    sugomori なんか、おとなの会話……

    kuro sugomoriがオコチャマなのよ。

    sugomori それは傷ついた……(><。)

    megane おっと、そろそろ用事が。
     また夜にでもお話しましょう。

    kuro 私もー

    sugomori え、ふたりとも?!


    25: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/03/30(水) 00:33:11.98 ID:WqfX6909o


    kuro みんなsugomoriとは違って、
     普通はひきこもってないの。

    sugomori ショボ━(´・ω・`)━ン

    megane 夜になったら、
     確か今夜はガンダム00の再放送でしたね?

    sugomori はっ、そうです。楽しみな00です!

    megane 実況で盛り上がりたいので、
     その時はお付き合いください。
     それでは、失礼しますね。

    sugomori がんばってください。
     ☆ァディオス☆(`・ω・´)ノ

    kuro meganeさんって、さりげなくタラシね。
     それじゃ、私も暇だったら夜にお話しにきてあげる。

    sugomori まってるね!


    36: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/03/31(木) 00:02:06.86 ID:GUT9ukDzo

    ----------------------------------
      一日目 男の教室:近代史

    男「では、そろそろ授業も終わるので、
     では、総括に入りましょう。
     今日は一時間かけて産業革命と、
     十九世紀イギリスを代表する一人の思想家について学びましたね。

     産業革命については前半にまとめを終えてますから、後者を。
     十九世紀に発生した市民による運動の名前、
     また、その目的はなんですか」

    生徒1「プロレタリア運動、もしくは労働者運動です。
     当時、急激に格差が広がった、
     労働者と雇用者の関係是正が目的でした」

    男「事象的には正解です。
     彼のその考えの根底にあるのは疎外論ですが、
     その疎外論では何をいっていますか?」


    37: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/03/31(木) 00:02:44.87 ID:GUT9ukDzo


    生徒2「確か……
     人間の手によって生み出された物が、
     人間の手を離れて、
     逆に人間を支配して、
     その人間性を失わせることです」

    男「はい、その通りです。
     この場合、その生み出されたものとは金銭ですね。
     『人間が生み出したお金という価値に追い立てられ、
     自らの価値を奪われた人々が、
     真に尊厳を取り戻すための運動』
     というわけです。
     人々は尊厳を奪われたと感じるほど、
     金銭に追われるようになってしまったのでしょう。
     ではなぜ、それほど労働者と雇用者の格差が広がりましたか?」

    生徒3「えっと、労働の価値が下がったからです」

    男「説明としてはちょっと足りませんね。
     誰か補足を」


    38: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/03/31(木) 00:03:18.53 ID:GUT9ukDzo


    生徒4「それまでの労働の価値とは、
     材料から生産物を作るまでの価値の変化と等量でした。

     パンを十個作る程度の能力は、
     パン十個から材料の価値を引いたものと等量です。

     しかし、そのためには材料を用意する必要があり、
     それは少量のほうがコストがかかります。
     そこで、大量に安く材料を用意できる人が、
     その材料から生産物を作るための労働力を雇って働かせます。
     それが資本家です。

     資本家は、パンを十個作る『労働量』そのものを安く買い、
     本来より安くパン十個を手に入れて売ります。
     こうして、労働の価値が下がりました」

    男「いいですよ。
     労働力の価値を決めるのが、
     物ではなく、資本家の判断になった事がきっかけですね。

     その考えから、労働者運動の発案者は、
     どのように主張を行いますか」


    39: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/03/31(木) 00:07:55.36 ID:GUT9ukDzo


    生徒5「共産主義を主張しました。
     人が金銭によって使われる事なく、
     金銭を使う事によって豊かさを得られる社会を目指しています。
     具体的には、富の共有や平等な分配です」

    男「はい。では、その発案者の名前。
     そして代表的な著書を、年代入りで」

    生徒6「K.H.マルクスさん、1818年から1883年です。
     代表的な著作は、共産主義宣言と、資本論で、
     前者は1848年、後者は1885年から1894年です」

    男「その通りです。
     現在、彼の目指した共産主義を実践する国家はありませんが、
     大きな力を持った思想なのは確かでしょう」

     きーんこーんかーんこーん

    男「というところで、時間ですね。
     質問があれば、一時間程度なら教員室にいますので、
     聞きに来てください。
     もちろん、近代史以外でも大丈夫です」

    生徒たち「「「はーい」」」


    40: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/03/31(木) 00:08:47.84 ID:GUT9ukDzo

    ----------------------------------
      一日目 塾教員室

    男「はい、では、このレポートは預かりますね。
     次回の授業後に評価を伝えましょう」

    女生徒「はい、お願いします」

    男「努力している人は好きですよ。
     応援させてもらいます」

    女生徒「はいっ!」

     たったった

    男「これで、質問も終わりですかね。
     くっ、ふー」せのびー


    41: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/03/31(木) 00:09:14.29 ID:GUT9ukDzo


     すっ

    黒髪「授業お疲れ様です、先生」肩もみもみ

    男「ん、おや、黒髪さんですか」

    黒髪「いつも通り、丁寧な授業で助かります」もみもみ

    男「それが仕事ですので。
     黒髪さんも、お金を払っている生徒さんですから、
     こんな事はしなくていいんですよ」

    黒髪「これは趣味ですから」もみもみ

    男「単純に趣味ですか?」じっ


    42: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/03/31(木) 00:09:40.60 ID:GUT9ukDzo


    黒髪「だいぶ肩がこってますよ」もみもみ

    男(黒髪さんにしては分かりやすい)

    男「……ずいぶんお上手ですね」

    黒髪「お父さんの御機嫌取りのため、
     ずいぶん勉強しましたから」もみもみ

    男「はは、それはご苦労様です。
     それで、質問ですか?」

    黒髪「帰ろうとしたら、
     先生が疲れた様子だったので気になって」もみもみ


    43: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/03/31(木) 00:10:12.98 ID:GUT9ukDzo


    男「やはりこの歳になると、
     体はだんだん重くなる物でしてね」

    黒髪「先生おいくつでしたっけ?」もみもみ

    男「今年で三十路に」

    黒髪「やだ、もうちょっと……」もみもみ

    男「もうちょっとなんですか?」

    黒髪「……先生ってふけ顔ですね」もみもみ


    44: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/03/31(木) 00:11:12.02 ID:GUT9ukDzo


    男「よく言われます。
     さて、あまりこうしているのも良くありません。
     御用がなければ、今日は帰りますが」

    黒髪「あぁん、もう冷たいですね」くねくね

    男「わざとらしいですよ」

    黒髪「わざとですから。
     そういえば、先生ってひどいですよね。
     猫の声がするとか言って」

    男「本当に猫の声を聞いただけですよ」

    黒髪「あの時隣にいたじゃない。
     猫なんて居ませんでしたよ。
     ここ、防音しっかりしてるから、
     猫の声なんて聞こえる場所じゃなし」


    45: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/03/31(木) 00:11:48.00 ID:GUT9ukDzo


    男「……そういえばそうでしたね」

    黒髪「まったく。それこそわざとらしい。
     ところで、彼女、どうですか?」

    男「例の巣篭りさんですか」

    黒髪「可愛いでしょ」

    男「嫌いなタイプではありませんが。
     そういう話ではありませんからね」

    黒髪「ノリが悪いわね。
     折角、カウンセリングが出来るって聞いて、
     ひきこもりの彼女に先生を紹介したのに、
     なんでガンダムとか話してるんですか」ぷぅ


    46: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/03/31(木) 00:12:16.63 ID:GUT9ukDzo


    男「そういう風に頬を膨らませるのは、
     女性では媚びているように見られて、嫌われませんか?」

    黒髪「見られなければいいのよ。
     たまには可愛らしいぶりっ子をしてみたい時もあるの」

    男「そういうものですかね。
     お約束として、わたしは頬を突くべきでしたか?」

    黒髪「それはイヤ」

    男「難しいところで」


    47: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/03/31(木) 00:12:42.98 ID:GUT9ukDzo


    黒髪「話をもどしましょ。
     それで、巣篭りちゃんはどうです?」

    男「わたしは友人として紹介されましたが、
     カウンセリングの相手として依頼されたわけでは、
     ありませんからね」

    黒髪「むう」

    男「そういう話をする時期では、まだないですよ。
     ただでさえ顔を合わせない会話は難しいものですから」

    黒髪「顔を合わせられるなら、
     ひきこもりになんて成らないわよ」


    48: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/03/31(木) 00:13:28.24 ID:GUT9ukDzo


    男「確かにそうですね。
     とりあえず、また別件で、
     ひきこもりの子のお相手をすることになりましてね。
     こちらはお仕事で」

    黒髪「あまり熱心にコチラの事情にかまえない、ですか」

    男「少し忙しくなる、程度です。
     カウンセラーとしてのわたしに頼みがある、
     と云われたときに断っていれば、話は違いましたが。

     一人の大人として、関わることにしましたからね。
     それなりに責任を自覚しながら行動しますよ」

    黒髪「甘いですね、先生」


    49: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/03/31(木) 00:13:58.81 ID:GUT9ukDzo


    男「甘いからわたしにかまうんですよね、黒髪さん」

    黒髪「否定はしませんわ、ふふ」

    男「たくましいことです。
     それでは、そろそろビルも閉じる時間です。
     また次の授業でお会いしましょう」

    黒髪「あら、twitterではかまってくれないんですか?」

    男「気が向けば、お相手しましょう」

    黒髪「楽しみにしています」にこっ

     とことこ


    50: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/03/31(木) 00:14:33.98 ID:GUT9ukDzo


    男「ふう……
     どうにも、彼女のお相手は楽ではないですね」

    友「おつかれーって、どうしたよ、男」

    男「お疲れ様です。
     今まで黒髪さんと話していましてね」

    友「特別親しいって、例の生徒か。
     ウチの生徒に手ぇだすなよ?
     って、にらむなよ、冗談だ」

    男「にらんでいませんよ。真顔なだけです」


    51: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/03/31(木) 00:15:05.46 ID:GUT9ukDzo


    友「怖いっての。
     もし良かったら、この後どうだ?」くいっ

    男「そうですね……
     深夜までは少し時間が有りますし、
     少しで有ればお付き合いしましょう」

    友「よし。じゃ、男の車で、
     いつものトコ行こう!」


    52: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/03/31(木) 00:15:39.49 ID:GUT9ukDzo

    ----------------------------------
      一日目 居酒屋

    友「いやー、やっぱ、
     仕事の後はビールだなっ!
     って、またお前、日本酒かっ」

    男「ビールは口に合いませんからね。
     いつもの事でしょう」

    友「俺がツッコミ入れるのもいつもの事だろ。
     んで、さあ、話せ! 吐け!
     俺に砂を零させろ!」

    男「なんの事ですか?」


    53: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/03/31(木) 00:16:27.88 ID:GUT9ukDzo


    友「あの黒髪って娘と、
     お前の仲だよ。
     高校の時からなんだかんだ一緒にいるが、
     あれだけ仲がいい女なんて、いなかったろ」

    男「失敬ですね。
     何人かお付き合いもしていましたよ」

    友「でもって、
     『律儀すぎて、お付き合いしてる気がしないの』
     なんていわれて、毎回俺が痛飲に誘われてな!」けらけら

    男「……」

    友「あー、悪い」

    男「悪気がないのは分かっています」

    友「そう、悪気はない!」


    54: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/03/31(木) 00:17:19.37 ID:GUT9ukDzo


    男「頭が弱いだけなんですよね」

    友「そう、頭が――ってなんでやねん!」

    男「とりあえず、黒髪さんについてですが、
     特別親しいという事はありませんよ。
     わたしにとっても、彼女にとっても」

    友「ん? そうは見えなかったが」

    男「彼女の友人に引きこもっている子がいるということで、
     ちょっと相談に乗ってあげて欲しいと云われましてね。

     なんでも、元はわたしの勤めていた、
     あの中学校にいた生徒だとか」

    友「あー、そこに責任感感じちゃう?」

    男「多少は」


    55: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/03/31(木) 00:17:46.04 ID:GUT9ukDzo


    友「確かに、お前の勤めてた中学はひどかった。
     一介の個人塾にすぎないウチまで、
     悪評が漂ってきてたからな」

    男「恥じ入るばかりです」

    友「お前は恥じるなよ。
     そこに反発して辞めるなんざ、漢だろ」

    男「子供のような所業でしょう」

    友「んで、その、
     お前さんにとっての『恥じ』につけいれられて、
     友人の面倒を見てくれと」


    56: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/03/31(木) 00:19:10.51 ID:GUT9ukDzo


    男「最初はただの相談でしたがね。
     わたしがカウンセラーの資格を持っていると聞いたようで。

     自分の世界にひきこもった友人との付き合いに、
     助言を求めに来ただけでしたが、
     わたしの方が放って置けなくなりまして」

    友「……ホントに、不器用だな」
    男「ありがとうございます」

    友「褒めてネェから!」

    男「不器用は、褒め言葉だと云ったのは友さんですよ?」

    友「そうだっけか?」

    男「教育委員会ににらまれたわたしに、
     ウチで働けと声をかけてくれた時、
     理由をきいたら『見捨てられネェからな』と云いましてね。

     わたしが不器用ですねと云った時、
     そう、返されました」


    57: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/03/31(木) 00:19:40.03 ID:GUT9ukDzo


    友「あー、ちょっと後悔してる」

    男「御迷惑をおかけして……」

    友「おう。大迷惑だ!
     俺より教えるのがうまいだの何だの、
     なんで女生徒の質問者はみんなお前に行くんだ!」

    男「……」

    友「せっかくジジイのやってた塾継いで、
     女子高生うっはうっはな、
     俺様パラダイスだったのによ。
     奥様は女子高生計画が台無しだ!」

    男「……そうですか」


    58: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/03/31(木) 00:20:13.11 ID:GUT9ukDzo


    友「そうですってんだよ!
     あーくそ、酒飲みながら顔色一つ変えやしねぇ」

    男「飲まれるようでは未熟ですからね」

    友「せっかく、
     お前が来てから塾の人気が上がったとか、
     生徒が口コミで増えて嬉しい悲鳴だとか、
     言ってやろうと思ったのによ」

    男「……照れくさいですね」
    友「だろ? 酔った方がいい時もあるってもんだ」

    男「あなたの隣にいるのが照れくさいです」
    友「ぶふぅっ、な、な、なに言ってやがる」

    男 ふきふき

    友「あ、悪い……だが、その、なんだ、
     男同士でそういう趣味は、俺には……」


    59: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/03/31(木) 00:22:23.40 ID:GUT9ukDzo


    男「恥ずかしい方向で、照れくさいです」

    友「もげろ!」

    男「元気ですねぇ……」

    友「お、俺の純情が弄ばれたっ……」だだだっ

    男「どこに行く気ですか……
     って、お手洗いですか。
     まったく騒がしい……」

    男「しかし、その騒がしさに、
     昔から救われていますからね……」

    男「それにしても。
     ひき娘さんに、巣篭もりさん……
     他にも多くの子供たち。
     これからの日本、いえ世界を担うべき子供たちが、
     自分の世界に閉じこもらなくてはならないこの『今』……
     なんとも、なんとも悲しいですね」くいっ


    69: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/01(金) 00:34:32.22 ID:EaqrA7Aio

    ----------------------------------
      二年前 中学校校長室

    校長「ふむ、では男くん、
     君が生徒に暴力を振るったと、
     肯定するのかね?」

    男「はい」

    理事「まあ! なんてことザマショ。
     そんな恐ろしいことをして、
     悪びれもしないなんて」

    男「恐ろしい、ですか」

    理事「当然ザマス!
     ウチの息子は、
     顔に真っ赤な痕をつけて、
     帰ってきたんザーマス!
     きぃぃ、思い出しただけで、
     はらわたが煮えくり返る思いザマス!」ぜぃぜぃ


    70: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/01(金) 00:35:30.16 ID:EaqrA7Aio


    校長「まあまあ、
     教育委員会理事様。
     どうか落ち着いてください」

    理事「きっ」じろり

    校長「……う、むむ。
     とにかく男くん。
     暴力事件はまずいんだよ」

    男「そうでしょうね」

    校長「ここは、ホラ。
     僕も一緒に頭を下げるから、
     誠意を込めて、理事様に謝罪しよう。な?」

    男「……」

    校長「君だって将来を嘱望される身だよ。
     まだ、えっと、二十八だったかな?」

    男「はい」


    71: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/01(金) 00:35:59.85 ID:EaqrA7Aio


    校長「その若さで、いくつか重要資格も取って、
     たしか論文も出していたね。
     大学も、旧帝大だとか。
     運がよければ、あと数年で校長への道もあるって。
     それを台無しにするのは、良くないよ」

    男「つまり、
     校内で暴力を振るっていた生徒に対し、
     指導を行ったことを謝罪せよと、
     校長はそうおっしゃっていますか?」

    校長「いやぁ。それはね。
     指導はいいよ。
     でも、暴力はやりすぎじゃないかい」

    男「では、何によって彼らは、
     自分達の行為の重さを知ることができますか。
     人を、その身体を傷つけ、暴言で弄り、
     笑っていた彼らに」


    72: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/01(金) 00:37:16.47 ID:EaqrA7Aio


    校長「根気強く言い聞かせるしかないのさ」

    男「そうして卒業してくれるのを待つわけですか」

    校長「言い聞かせきる前に卒業してしまうのは、
     遺憾だが仕方の無いことだよ、男くん」

    男「……」

    校長「普段は冷静な男くんらしくもない。
     なぜそれほどムキになるんだね」

    男「わたしには、
     そのような消極的手段で、
     一生の傷を負う生徒達を守れるとは、思いません」


    73: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/01(金) 00:38:58.54 ID:EaqrA7Aio


    理事「だから、ウチの子に暴力を振るうと?!
     ウチの子は、信頼する先生のあなたに暴力を振るわれて、
     一生残る心の傷を負ったザマス!
     どう責任取るザマスか!」

    男「では、アナタのお子さんが、
     他の生徒を傷つけたことについても、
     正しく責任をとる必要があることを、
     誰が教えますか?」

    理事「そんなのは誤解ザマス。
     ウチの子に限って、そんな事はありません」 キリッ

    校長「なあ、男くん、頼むよ。
     つまらない意地を張っていないで、
     キチンと謝罪をしてくれないかねえ。

     わたしの任期中にこの学校で事件なんて困るよ、
     まだローンもあるし、娘も社会人になってないんだ」

    男 ぎり……っ


    74: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/01(金) 00:39:37.49 ID:EaqrA7Aio


    校長「なに、ちゃんと謝罪すれば、
     理事様も悪いようにはしないはずさ。
     ですよね、理事様」

    理事「それはウチの子が決めるザマス。
     許せる態度の謝罪であれば、
     節度ある親としてひきさがるザーマスヨ」

    校長「な、ほら。謝って来よう」

    男「何を……」ぐっ

    校長「決まっているだろう。
     君が暴力を振るったことをだよ」

    男「何をいってるんですか、あなたたちはっ!!」

    校長「……」


    75: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/01(金) 00:41:06.66 ID:EaqrA7Aio


    男「彼らによって暴行された生徒は、
     入院していると聞いている!

     にも関わらずその子を嘲笑い、
     説得からも逃げようとした奴らを、
     改心させるために振るった平手に、
     何の謝罪だ!」

    理事「そ、そんな事実はないザマスよ!」

    校長「ウチはそんな危険な場所じゃないよ。
     その生徒さんは、足を滑らせたのさ。
     めったな事は言わず、
     今ならまだ間に合うから、ほら、なっ」

    男「……もみ消す気か」ギリリッッ

    男「ふざけないでください……」ジロッ


    76: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/01(金) 00:42:06.88 ID:EaqrA7Aio


    理事「なんザマスか、その態度は!」びくっ

    男「コレが今の教師ですか。
     コレが今の教育なんですか!」

    校長「そうだよ。
     そんなねぇ、若くないんだからさ。
     現実を見よう。

     教師が手を上げれば保護者が動く。
     保護者が動けばマスコミが、
     マスコミが動けば、社会が動くんだよ。

     今時、教育的指導なんて言葉ははやらないんだ」

    男「……」


    77: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/01(金) 00:42:36.29 ID:EaqrA7Aio


    校長「とにかく、事件は困るんだよぉ」

    男「なら、わたしは今日から無関係です……」

    校長「へ?」

    男「わたしは否定します。
     そんな教育を。こんな現場を」

    校長「辞めるのかい?」

    男「当然です」

    校長「……そっか。わかったよ。
     コッチで処理はしておくから、
     今日中に荷物をまとめていって欲しいな」

    男「分かりました……」くるっ


     ばたん


    78: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/01(金) 00:43:10.86 ID:EaqrA7Aio


    校長「いや、すみませんね。
     彼、流行のツンデレってヤツなんでしょうか。

     大変申し訳なく思っているようですが、
     素直になれなくて、
     引責辞任もあんな言い方なんですよ」

    理事「引責辞任なんて、そんなの!
     明らかに反省の色もなかったザマス!
     これはもう、知り合いの新聞記者に書いてもらうザマス」

    校長「いやぁ、それは困るんです。
     理事様も、困るでしょ?
     イジメの証拠が、もし、万が一出てきたりしたら」

    理事「なっ、そんな事はウチの子は関係ないザマス!」


    79: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/01(金) 00:43:46.56 ID:EaqrA7Aio


    校長「そうともいえないんですわ。
     実は、その現場を見たという教員、生徒はいましてね。
     なかなか、派手にやっていたようで……」

    理事「そんな事は……」

    校長「若さの暴走っていうのは、あるものです。
     ここは一つ、事故って事にしては、くれませんかね?」

    理事「……」

    校長「教育委員会の理事様の息子さんが、
     暴行傷害なんて、大見出しですよ?
     あなた自身も、危なくなってしまいます」

    理事「……しかたありませんわね」

    校長「いやぁ、お話が通じてよかった、よかった。
     大丈夫ですか? お顔の色が優れませんが。
     良ければ保健室で寝ていかれませんか」


    80: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/01(金) 00:44:15.58 ID:EaqrA7Aio


    理事「大丈夫ザマス。
     わたしも、失礼するザーマス!」どたどた

     ばたん

    校長「……ふぅ。
     若いのは嫌いじゃないけどねぇ。
     僕に関係のないところで、やって欲しいよ。
     そう、ドラマの中やなんかでやって欲しい」

    校長 ピポパポ

    校長「ああ、守衛くん。
     お客さんがお帰りだから、
     うん、お車までお見送りしてあげてくれないかな?
     僕を置いて出て行っちゃってね」

    校長 がちゃ

    校長 ぎしぃっ

    校長「まったく。
     現場と保護者と自称有識者と。
     それぞれ鮫みたいに僕をにらんでくれる。

     鮫皮にそんなにこすられちゃ、
     すぐに僕なんて削りきられちゃうよ」


    81: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/01(金) 00:50:52.88 ID:EaqrA7Aio

    ----------------------------------
      三日目 男の部屋

     ちゅんちゅん……

    男(……夢、ですか)

    男 せのびー

    男(もう二年。
     まだ、二年でしょうか)

    男 ふらふら

    男(顔を洗って、
     着替え、食事……)

    男(啖呵を切って出てきたものの、
     喧嘩の相手が教育委員会理事ですからね。
     それが公然の秘密では、行く先もなく……)


    82: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/01(金) 00:52:07.49 ID:EaqrA7Aio


    男(友さんが拾ってくれなければ、
     今頃飢え死にしていたか、
     それとも日雇いになっていたでしょうか)

    男 ばしゃばしゃ

    男(今頃こんな夢を見て、
     実は後悔していたのでしょうか)

    男(……両親に顔向けできないとは、
     今も思っていますが)

    男(当時交際していた彼女も、
     すぐに別れることに……)

    男(でも、後悔は、
     していないハズです)


    83: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/01(金) 00:53:01.74 ID:EaqrA7Aio


    男(もしあの場で屈していては、
     それこそ後悔していたでしょう)

    男(恥じることは、していません……)

    男 ごそごそ

    男(さて、ひき娘さんは、
     ちゃんと宿題を終わらせているでしょうか。
     少々多めに出しましたが……)


    84: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/01(金) 00:53:54.06 ID:EaqrA7Aio

    ----------------------------------
      三日目 ひき娘の部屋前

    男「では、今日の授業はココまでとしましょう。
     お疲れ様でした」

    ひき娘「お、お疲れ様、です」

    男「疲れていらっしゃいますね」

    ひき娘「うう、信じられないです。
     百ページ以上の英語ドリルと、
     数学の問題集も五十ページ……

     徹夜して必死に終わらせたら、
     さらに宿題が増えました」


    85: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/01(金) 00:54:44.55 ID:EaqrA7Aio


    男「増えてはいませんよ。
     終わらせたのなら、
     一日あたりの換算量は、
     むしろ少し減らしています。
     多く見えるのは、次が三日後だからですよ」

    ひき娘「ううう……」

    男「今は三月で間に合いませんが、
     次の入試には挑める程度にしたいですからね。
     普通の人の倍以上の勉強は必要ですよ」

    ひき娘「わ、わたし引きこもりなんで、
     そんなに勉強しても……」

    男「受験の有無はお任せしますが、
     ひき娘さんにしっかりと学力をつけてもらう事が、
     わたしの仕事ですので」


    86: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/01(金) 00:55:23.00 ID:EaqrA7Aio


    ひき娘「実は先生って、
     わたしの事をいじめて楽しんでませんか?」

    男「藪から棒ですね。
     なぜそのような事を?」

    ひき娘「いえ、なんとなく声が笑っているような」

    男「笑ってなどいませんよ……くく」

    ひき娘「笑ってるじゃないですか!」

    男「気のせいです。
     さて、ではそろそろ、私は塾での講義のため、
     失礼させてもらいます」

    ひき娘「あ、はい……。
     その、がんばってください」


    87: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/01(金) 00:56:14.94 ID:EaqrA7Aio


    男「次の授業は三日後です。
     徹夜は情報が劣化するのでお勧めしません。
     適切に計画を立てて、宿題を終えてください」

    ひき娘「絶対量が多いんですよ……」

    男「そうですね。
     がんばって今回の宿題を終えたら、
     見直しを検討しましょう」

    ひき娘「ホントですか?!」がたたっ

    男「ええ。お約束します」

    ひき娘「がんばりますっ」

    男「では、がんばってください」すたすた


    88: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/01(金) 00:56:49.90 ID:EaqrA7Aio

    ----------------------------------
      三日目 ひき娘の部屋

    ひき娘「今回の宿題が出来たら、
     量の見直ししてくれる……」

    ひき娘「それなら、がんばらないと!」


    ----------------------------------
      三日目 男の車

     ぶろろろろ

    男「ひきこもりをしているという事で、
     打たれ弱い人だと考えていましたが。
     いやいや、それほどでもないですね」

    男「無理な量では無かったですが、
     少しサボれば難しい量です。
     案外、努力家な側面がありますか」

    男「もう少し増やす方向で、
     スケジュールの前倒しも有りですね」


    90: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/01(金) 00:57:24.35 ID:EaqrA7Aio

    ----------------------------------
      六日目 ひき娘の部屋前

    男「そういえば、ひき娘さん」

    ひき娘「ひゃぃ……」

    男「返事が死んでいますね」

    ひき娘「……」

    男「大丈夫ですか?」

    ひき娘「らいじょうぶれす……
     ちょっと、つかれたらけれす……」


    92: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/01(金) 00:58:12.21 ID:EaqrA7Aio


    男「体調が悪いようでしたら、
     もう少し手加減しましたが」

    ひき娘「悪くなかったれすけど、
     手加減ほしいれす……」

    男「三時間にテスト四本は、
     やはり少しやりすぎましたか……」

    ひき娘「ぷしゅー……」

    男「すみません。
     普段で有れば顔色を見て判断しますが、
     分からないとつい、
     自分の学生時代が基準になりまして」


    93: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/01(金) 00:58:39.63 ID:EaqrA7Aio


    ひき娘「先生は、
     学生時代は……」

    男「もう少し多かったですね。
     基本的に自主学習だったため、
     効率とロスを考えると、
     量で補う形にならざるをえませんでした」

    ひき娘「そ、そうですか……」

    男「しかし、考えてみれば、
     ひき娘さんは女性ですからね。

     男性のわたしと比較して、
     体力が無いのは当然です。

     次回以降はもう少し、
     ひき娘さんの体力を考えたペースで、
     授業やテストを行いましょう」

    ひき娘「うう、お願いします」


    94: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/01(金) 00:59:11.97 ID:EaqrA7Aio


    男「ああ、後……
     先ほど聞こうと思ったのですが、
     ひき娘さんは好きなものなど有りますか?」

    ひき娘「好きなもの、ですか?」

    男「たとえば、イチゴやチョコレートなど、
     甘いものは如何でしょうか」

    ひき娘「好きですよー。
     イチゴもチョコも。
     でも、しばらく食べてないですね……
     しばらく……ずっと……」

    男「ひき娘さん?」

    ひき娘「あれ……
     引きこもってから、実は食べてない?」


    95: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/01(金) 00:59:43.01 ID:EaqrA7Aio


    男「ひきこもっていれば、
     確かにそうなるかも知れませんね」

    ひき娘「うう、思い至らなかったら、
     忘れていられたのに……」

    男「……実は今、
     ひき娘さんが勉強をがんばったご褒美に、
     『イチゴミルク練乳・オ・レ
      ~とっても濃厚なお味を召し上がれ~』
     というジュースをコンビニで買ってきていますが」

    ひき娘 ごくり

    男「飲みたいですか?」

    ひき娘 こくこく

    男「もしかして、首を振っていますか?
     扉越しに雰囲気は伝わりますが、
     見えないですよ」


    96: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/01(金) 01:00:21.71 ID:EaqrA7Aio


    ひき娘「飲みたいです……」

    男「では、お顔を見せてくれたら、
     差し上げましょう」

    ひき娘「……え?」

    男「いい加減、
     扉越しの授業は難しいですからね。
     声も通りにくいので、
     今日も何度か聞き返してしまいましたし。

     警察騒ぎになった初日に、
     少しだけお会いしたわけですが、
     ここで改めて顔合わせをしましょう」

    ひき娘「えっと、その」

    男「もちろん、強要はしませんが」


    97: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/01(金) 01:00:48.02 ID:EaqrA7Aio


    ひき娘「ほっ。それなら、
     その、顔合わせとかはまた、
     いつか機会があればで」

    男「しかしそうなると」

    ひき娘「はい?」

    男「私はこのジュースを、
     廊下において立ち去ることになりますよね」

    ひき娘「ですね……?」

    男「実は祖父母から、
     飲み物や食べ物を床に置くなと、
     厳しく言われて育ったため、
     床においていくのは抵抗があるのですよ。

     いっそ自分が飲んだほうがと、思う程度に」


    98: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/01(金) 01:01:20.89 ID:EaqrA7Aio


    ひき娘「……っ!
     ひ、卑怯です!」

    男「卑怯とはなんですか。
     わたしの買ってきたジュースですからね。
     どのように扱っても文句は言われないはずです」

    ひき娘「それは、その、そうですけど……」

    男「今年のイチゴは出来が良かったと聞きます。
     季節限定のこのジュースも、
     今だけしか味わえない最高の甘さと香りを、
     という謳い文句でした。
     実はわたしも興味があるから買いましてね……」

    ひき娘「う、」

    男「ちょっと、ストローを差し込んでしまいましょうか」

    ひき娘「……」


    99: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/01(金) 01:02:25.98 ID:EaqrA7Aio


    男「ああ、コレは……
     実に芳醇な香りです。
     みずみずしいイチゴの、
     口いっぱいに広がる甘酸っぱさが伝わるような香り。
     練乳のしとやかな風味もいいですね」

    ひき娘 ごくり

    男「やはり、わたしが飲んでしまいましょうか」

    ひき娘「うう……」

    男「お部屋から出なくなって、
     いえ、人のいないお昼は出ているようですから、
     人と会わなくなって、でしょうか。
     既に二年ほどですか?」

    ひき娘「はい……」

    男「二年ぶりのイチゴ。
     わたしであれば、大層おいしく感じるものだと思います」にやっ


    100: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/01(金) 01:02:56.44 ID:EaqrA7Aio


    ひき娘「…………うううう」

    男「それほど、わたしと会いたくないですか?」

    ひき娘「そういうわけでは、
     ないですけど……その、いろいろ」

    男「ああ、そうでした。
     女性には気にかける事がいろいろと、
     有るようですからね」

    ひき娘「そ、そうです!
     だから、その、今日は……」

    男「では、妥協案で如何ですか?」


    101: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/01(金) 01:03:28.47 ID:EaqrA7Aio


    ひき娘「妥協案、ですか?」

    男「姿を見せなくて構いません。
     右手を扉から出していたらければ、
     手渡ししましょう」

    ひき娘「……その、
     のぞきこんだりは」

    男「レディの部屋を覗くのは、
     紳士ではありませんね。
     配慮しましょう」

    ひき娘「…………うう、
     それくらい、なら」


    102: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/01(金) 01:05:03.59 ID:EaqrA7Aio


     かちゃ

     こそっ

    男「では、どうぞ」

     すっ

     ぱたん

    ひき娘「あ、ありがとうございます」

    男「いえいえ。
     それでは、今日はコレで失礼しますね。
     次回は明後日です。
     宿題はいつもと同じように、
     扉の前においてありますので」

    ひき娘「はい。では、その、
     がんばってください」


    103: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/01(金) 01:06:49.48 ID:EaqrA7Aio


    男「ええ。では、失礼します」とことこ

    男 とことこ

    男(心理学的に、扉を開くという行為自体に、
     距離を縮める、壁をなくすという意味があります。
     こうして何度か扉を開くことを繰り返せば、
     自然と距離も縮まるでしょうかね)とことこ

    男(しかし、まるで小動物のような動きで……
     鷹におびえる子猫や子ネズミのようでしたね。
     からかってはいけませんが、しかし……)とことこ


    104: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/01(金) 01:07:17.54 ID:EaqrA7Aio

    ----------------------------------
      六日目 ひき娘の部屋

    ひき娘「……えへへ。
     イチゴなんて久しぶり~♪」

    ひき娘「あれ。でも、未開封って……」

    ひき娘「なんていうか、
     すごく手のひらで踊らされている感じだよね」

    ひき娘「うう。
     twitterで書いちゃお……」



    105: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/01(金) 01:08:25.02 ID:EaqrA7Aio

    ----------------------------------
      六日目 TL:sugomori

    megane:実は最近、
     小動物を観察するのが楽しくて……

    kuro:うーん……
     meganeさんに小動物って、
     イメージ違うかも。

    megane:どんなイメージですか(苦笑)

    kuro:どんなって言われても、
     ちょっと分からないけど。
     たとえば自然公園にデートで行っても、
     動物とかに思考を割くくらいなら、
     その間仕事について考えてそうな?


    106: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/01(金) 01:09:01.71 ID:EaqrA7Aio


    megane:否定はしませんが、
     そこまで無粋な人間ではありませんよ。
     月に一度、プラネタリウムに行くのが趣味です。

    kuro:ちょ、そんなwwwwwwww

    megane:そこまで芝を生やさなくても。

    kuro:だってぇー。
     meganeさんに星とか、
     ロマンチックなのがすごく、
     えーっと、ステキです☆

    megane:おや、今度はこうもりが。

    kuro:どっちつかずって事ですか?

    megane:むしろ、真っ黒という意味です。


    107: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/01(金) 01:09:35.27 ID:EaqrA7Aio


    sugomori:ちょっとkuroさん、
     聞いてください(>_<*)

    kuro:んん?
     わたしとmeganeさんの愛の語らいをさえぎる、
     すごいニュース?

    sugomori:え、お二人って……

    megane:わたしがからかわれるような間柄です。

    kuro:えーそんなー。
     あたし、からかってなんかいないですよ?(棒読み)

    megane:御丁寧にどうも(苦笑)


    108: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/01(金) 01:10:02.36 ID:EaqrA7Aio


    sugomori:えっと、その……

    kuro:で、なに?
     じゃれてるだけだから、
     気にしないでいいのよ?

    sugomori:えっとね。
     今日はまた、あの人が来たんだけど!

    kuro:おおー。
     竹取物語の求婚者みたいね。

    sugomori:そういうのは、ないけど。
     でもね! すごく意地悪だったんですよ!!
     (ノω・。)

    kuro:んー。
     まあ、わかるかも?

    sugomori:何がです?


    109: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/01(金) 01:10:28.62 ID:EaqrA7Aio


    kuro:いやー。
     sugomoriって、いじめて楽しいタイプだし?
     あ、そうだ。
     こんど遊びに行かせてよ!
     いっぱい可愛がって、あ・げ・る♪

    sugomori:Σ(・□・;;;

    megane:む。
     すみませんが、時間来たので、
     今日は失礼しますね。

    kuro:あ、あたしもー。

    sugomori:そんな、
     このもやもやした気持ち、
     どうすればいいんですかっ!


    110: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/01(金) 01:10:57.09 ID:EaqrA7Aio


    kuro:それはもう、自家発電で!

    sugomori:自家発電?

    kuro:あー

    sugomori:ググって来たほうがいい?

    kuro:いやいやいや!
     しないでいいから。
     あんたはそのままでいいの。
     うん。

    sugomori:??

    kuro:じゃ、わたしも行かないと!

    sugomori:後で教えてくださいねー。

    kuro:考えておくっ。


    120: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/02(土) 14:15:33.84 ID:JqlxdhNUo

    ----------------------------------
      十五日目 ひき娘の部屋

    男「はい、それでは今日の授業はココまで。
     今日の範囲は重要なので、
     よく復習しておいてください」

    ひき娘「ううう、はいぃ……」

    男「いつもそんな声ですね。
     そろそろ半月です。
     慣れてもいいと思いますが」

    ひき娘「半月もこんな調子じゃ、
     すぐ死んじゃいますよ……
     がんばって生き延びてるほうです……」


    121: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/02(土) 14:16:04.85 ID:JqlxdhNUo


    男「確かに、がんばっていますね」

    ひき娘「で、ですよね……」

    男「英単語テストも平均点が上がってますね。
     基本千二百語は現段階で、
     七割くらいでしょうか。
     最初が四割だったことを考えれば、
     悪くない上昇率だと思います」

    ひき娘「おー。
     それなりに上がってますか」

    男「それなりに、ですがね。
     この努力を維持して、
     四月半ばにはマスターしましょう」

    ひき娘「ううう……」


    122: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/02(土) 14:16:37.17 ID:JqlxdhNUo


    男「数学も伸びていますね。
     いえ、使い方を学んだという事でしょうか。.

     中学一年生の範囲を中心とした基本総復習テストは、
     九割ほど出来ていますね。
     苦手な図形を補いつつ、
     やっていない範囲がある二年生の範囲に、
     足を踏み入れても良い頃でしょう」

    ひき娘「よかった、
     必死に思い出した甲斐がありました……」

    男「国語については、
     文法に多少苦手意識が見られますが、
     それ以外は最初から高いレベルでしたね」

    ひき娘「そうなんですか?」


    123: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/02(土) 14:17:26.41 ID:JqlxdhNUo


    男「センスが良い、という言葉はどうかと思いますが、
     そんな印象がありますね。
     読書量の多さがそこに結びついているのでしょう。
     特にすばらしいのは古文ですね」

    ひき娘「あー……あはは」

    男「どうかしましたか?」

    ひき娘「なんでも、ないです。
     褒めて貰ったのが久しぶりだから、
     ちょっと浮かれただけです」

    ひき娘(ネオロマにハマったから、
     なんて言えないよー)

    男「なるほど。
     僕は出来るようになれば褒める主義です。
     これからも努力すれば、
     認めますよ」


    124: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/02(土) 14:18:15.28 ID:JqlxdhNUo


    ひき娘「それなら、
     もっと褒めて貰えるように、
     がんばります」

    男「はい。
     では、今回は少し多めに宿題を出しましょうか」

    ひき娘「ひぃ、ソレは許してください……」がたっ

    男「冗談です。
     では、無理しない程度に、
     がんばってください」

    ひき娘「はい……」

    男「よっこいしょ……と、おややっ」ぐらっ

     どたーん!

    ひき娘「だ、大丈夫ですか?!」


    125: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/02(土) 14:18:44.10 ID:JqlxdhNUo


    男「ええ、大丈夫ですよ。
     大した事は……痛たた……」

    ひき娘「…………っ」

     かちゃ

    ひき娘「………………」そっ

    男「ああ、すみません。
     心配をおかけして」

    ひき娘「そ、その――」こそっ

    男「実はちょっと、
     腰を悪くしていましてね。
     立ち上がり損ねてしまいました」


    126: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/02(土) 14:19:11.43 ID:JqlxdhNUo


    ひき娘(少し恥ずかしそうな苦笑い。
     初めて見た時はただ、
     泥棒だと思って怖かったけど、
     優しそうな人)

    男「よいしょ、つっ。
     歳は取りたくないですねぇ」

    ひき娘(そっか。
     廊下で教えるって、
     ずっとココで座ってるって事で)

    男「どうして、
     申し訳なさそうな顔をするんですか?」

    ひき娘「あ、あの、その……」

    男「はい」


    127: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/02(土) 14:19:39.43 ID:JqlxdhNUo


    ひき娘「え、えっと……」

    男「ちょっと、深呼吸しましょうか。
     はい、すってー」
    ひき娘 すー

    男「はいて」
    ひき娘 はー

    男「すってー」
    ひき娘 すー

    男「はいて」
    ひき娘 はー

    男「さらに吐いて」
    ひき娘 っ、はー……けほっ

    ひき娘「ひ、ひどいです……」じっ


    128: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/02(土) 14:20:11.10 ID:JqlxdhNUo


    男「すみません。
     緊張しているようだったので、つい」

    ひき娘「う、うう……」(////

    男「緊張は解けましたか?」

    ひき娘「少しだけ……」

    男「はい。
     御心配をおかけしてすみませんでした。
     ただ、お会いできて嬉しいですよ。
     ひき娘さん」

    ひき娘「あ……。はい……」

    男「改めてはじめまして。
     男と云います」にこっ

    ひき娘「……ひき娘、です。
     その、ずっと、廊下なんかで授業させて、
     ごめんなさい」へこっ


    129: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/02(土) 14:20:40.99 ID:JqlxdhNUo


    男「気になさらないで下さい。
     コレも仕事です」

    ひき娘「……」

    男「さて、今日は失礼しますね。
     そろそろ塾の授業の準備があります……」

    ひき娘「はい。
     その、えっと……」

    男「どうしましたか?」

    ひき娘「じ、次回は、その、
     お部屋の片付け、しておきます」

    男「……はい」にこっ


    130: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/02(土) 14:21:09.09 ID:JqlxdhNUo

    ----------------------------------
      十五日目 黒髪の部屋

     prrr prrrr

    黒髪「はい。黒髪です」

    ひき娘<あ、黒髪さん……>

    黒髪「あら、こんばんは。
     ひき娘から電話なんて、久しぶりね。
     今日はtwitterじゃないの?」

    ひき娘<うん。
     その、久しぶりに、
     黒髪さんの声が聞きたくて>


    131: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/02(土) 14:21:38.35 ID:JqlxdhNUo


    黒髪「嬉しいこと言ってくれるわね。
     ふふ、何も出ないわよ?」

    ひき娘<嬉しいの?>

    黒髪「そりゃもちろんね。
     人間不信しちゃってる子が、
     自分から電話してくれるのよ?
     嬉しいに決まってるじゃない」

    ひき娘<別に、そんなんじゃ……>

    黒髪「そんなんでしょ。
     人間恐怖症のひきこもりだし、
     いらない見栄張らなくていいの」

    ひき娘<う、うん>


    133: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/02(土) 14:22:05.69 ID:JqlxdhNUo


    黒髪「それで、
     どうしたの?
     声が聞きたかったの――とか、
     そんな可愛い理由かしら」

    ひき娘<えっと、その。
     ちょっと話したいけど、
     大丈夫?>

    黒髪「いいわよ。
     あ、ちょっとだけ、
     雑用済ませてからでいいかしら」

    ひき娘<うん。いいよ>

    黒髪「じゃ、いったん切るわね。
     改めて電話するから」

    ひき娘<待ってるね>

     つーつーつー


    134: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/02(土) 14:22:32.04 ID:JqlxdhNUo


    黒髪「ふふ、
     あの子が自分から電話、ね。
     それにしても――」くるっ

    黒髪「せっかくひき娘から、
     電話もらったっていうのに……」

    黒髪父「すまんな」

    黒髪「いいわよ。
     これでも外務省官僚の娘として、
     心得ているわ」

    黒髪父「その友人を待たせんためにも、
     早々に済ませてしまおう」

    黒髪「そうね。
     それで、確認だけど、
     ロシア外相との秘密会談について、
     本当にリークするの?」


    135: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/02(土) 14:22:58.12 ID:JqlxdhNUo


    黒髪父「全てではないがな。
     夕日新聞の政治部に渡せるか?
     表向き、私にかかわりが無い場所が望ましい」

    黒髪「できるわよ。
     それなら、談合社のゴシップ雑誌にも声をかけるわ。
     こっちも私のコネクションだから、
     父さんにはつながらないし。
     ロシアって事は、流すのは四島問題について?」

    黒髪父「いや、不意打ち訪問とその接待についてだけだ。
     四島問題はまだデリケートだから、
     下手に触れればあたり一帯を吹き飛ばすぞ。

     今のロシア駐在大使を追い落とすのが目的だ。
     そこまでする必要はない」

    黒髪「追い落とすの?
     ……もしかしてこの不意打ち訪問、
     もう一つ何か裏があるの?」


    136: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/02(土) 14:24:07.10 ID:JqlxdhNUo


    黒髪父「もちろんだ。
     親露派が接触を取って、
     四島問題とレアメタル貿易について、
     極秘会談が行われた。

     ついでに、メタンハイドレートについても、
     いくつか採掘技術の交換提案が有ったみたいだが、
     まあ、それはどうでもいい」

    黒髪「どうして?
     地中のハイドレート採掘技術は、
     日本ならかなり高い水準で実用化できるでしょ?
     水中じゃないんだし」

    黒髪父「日本の研究機関はスパイ対策が弱いからな、
     手札なんぞ最初から相手に丸見えだ。

     技術分野で日本が諸外国に対抗するには、
     研究機関への意識改革からはじめねばならんよ。

     ちなみに、会談は親露派から提案したらしい。
     連中ははなから舐めきられていたのが印象的だったよ。
     結局、大した会談にはならなかったようだ」

    黒髪「……どこでそんな情報、
     手に入れてくるのよ」


    137: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/02(土) 14:25:02.81 ID:JqlxdhNUo


    黒髪父「さてな。
     とりあえず今回は、
     その親露派の男が駐在大使でなくなればいい。

     各部に根回しをして、
     不意打ち訪問自体をもみ消したつもりらしいが……

     連中はまだまだ詰めが甘い。
     せっかくの機会だ、使わせて貰おう」

    黒髪「流しておくわ。
     ホント、インターネットって便利ね。
     確度が高い情報屋として、
     あっさりコネクションが出来ちゃったわ」

    黒髪父「不本意なように言うが、
     違うだろう?」

    黒髪「そうね。
     刺激的で、楽しいわよ。

     コネクションを作るのも、
     父さんの仕事を継いで外務官僚になりたいって、
     私の夢のためにとても有用ね。

     だから、一部を除けば不本意じゃないわ」


    138: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/02(土) 14:25:29.57 ID:JqlxdhNUo


    黒髪父「ほう、その不満はなんだ」

    黒髪「お仕事のお手伝いをする、
     頭が良くて気が利いて可愛い健気な娘を、
     お父さんが褒めてくれない事よ」

    黒髪父「……わざとらしい事だ。
     今度、休みが取れたら、
     どこか連れて行ってやろうか?」

    黒髪「どこにだって自分で行けるわよ。
     そういう時は、
     頭を撫でてくれるのが一番よ」

    黒髪父「くく、そうか。
     確かにそうだな」なで、なで

    黒髪「……ありがと。
     それじゃ、ひき娘が待ってるから」

    黒髪父「確かに任せたぞ」とことこ

     ぱたん


    139: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/02(土) 14:25:56.22 ID:JqlxdhNUo


    黒髪「ふぅ……疲れる人」

     かたかたかたかた

    黒髪「何が外務省のクロマクよ。
     父親としては最低……」

     かたかたかたかた

    黒髪「ま、人としては嫌いじゃないから、
     その点はいいけどね。
     リークした情報は私のコネの維持材料になるし」

     かたかたかたかた

     たたんっ

    黒髪「さて、用も終わったし、
     ひき娘の声でも聞いて、
     リラックスしようかしら」


    140: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/02(土) 14:26:46.73 ID:JqlxdhNUo


     prrr prrrr

    ひき娘<はい、ひき娘です>

    黒髪「お待たせ。
     今良いかしら?」

    ひき娘<うん。大丈夫だよ。
     黒髪さんこそ、大丈夫?>

    黒髪「父さんとちょっと話しただけ。
     問題ないわ」

    ひき娘<良かった。
     えと、それで……
     実はこないだ話したお客さんなんだけど>

    黒髪「そういえば熱心に来てるみたいね。
     その後どうなの?」わくわく

    ひき娘<えっとね、
     今日はじめて顔を見て>

    黒髪「あんたが自分から顔出すなんて、
     ひきこもってから初めてじゃない?
     妬いちゃうわー」


    141: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/02(土) 14:27:17.13 ID:JqlxdhNUo


    ひき娘<妬いちゃう?>

    黒髪「だって、
     ひき娘ったら、親友の私に対しても、
     今は会いたくないからって、
     ずっと扉閉じきってたじゃない」

    ひき娘<……まさか、
     窓から入ろうとしてくるとは、
     思ってなかったからね……>

    黒髪「親友が人間不信で寂しい思いしてるのよ?
     押し付けたくなるくらい、
     あんたの事を大切に思ってる人がいるって、
     とりあえず伝えないと」

    ひき娘<おかげで、ちょっとだけ救われたからね>

    黒髪「だって私が乗り込んだのよ?
     人の一人や二人救われるわよ」


    142: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/02(土) 14:27:43.40 ID:JqlxdhNUo


    ひき娘<あはは、ありがとー>

    黒髪「どういたしまして。
     それで、どうなの? その人とは」

    ひき娘<えっと、その。
     次に来たときには、
     お部屋に入ってもらおうかなって>

    黒髪「おおー、良いわね。
     この二年で部屋に入るの、
     二人目?」

    ひき娘<うん。
     お母さんはやっぱり、
     ちょっとまだ距離があるからね……>


    143: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/02(土) 14:28:10.13 ID:JqlxdhNUo


    黒髪「……そっか。
     じゃ、とりあえず、
     うまくいく事を願っておくわ」

    ひき娘<うまくいくって、何が?>

    黒髪「何かよ。
     その出会いが良かったって、
     言えるものになるように、とか。
     イロイロね」

    ひき娘<……うん>

    黒髪「話はそれだけ?」

    ひき娘<うん。聞いてくれてありがと>

    黒髪「気にしないでいいのよ。
     お礼は今度、ディナーでね」

    ひき娘<えっ?!>


    144: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/02(土) 14:28:38.76 ID:JqlxdhNUo


    黒髪「その後は添い寝とかしてくれると、
     私としては嬉しいなー」

    ひき娘<あ、お泊りしに来るの?>

    黒髪「そう。小さい頃みたいにね」

    ひき娘<うん。
     たぶん、今なら、大丈夫……>

    黒髪「よかった。
     またメールとかで、
     詳しい日とか決めましょう。
     今日はちょっと疲れたから、
     そろそろ寝る事にするわね」

    ひき娘<おやすみ、黒髪さん>

    黒髪「おやすみ、ひき娘。
     いい夢見なさい」

     つーつーつー


    162: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/12(火) 23:54:13.34 ID:Ta6SI7TUo

    ----------------------------------
      十七日目 ひき娘の部屋

     こんこんこん

    ひき娘「は、はひっ」とことこ

     かちゃ……

    男「こんにちは」にこ

    ひき娘「こ……こんにちは。
     ……その、どうぞ」へこっ

    男「……お邪魔します、と、
     言いたいところですが、
     本当に大丈夫ですか?」


    164: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/12(火) 23:55:08.33 ID:Ta6SI7TUo


    ひき娘「えっと、その。
     緊張しますが……
     でも、廊下で教えてもらうのは、
     やっぱり礼儀として、
     どうかとおもいますし」ぶつぶつ

    男「それでも、必要以上に緊張しては、
     身に付くものも身につきません。
     もしお加減が優れないようでしたら、
     わたしは構いませんよ?」

    ひき娘「い、いえ。
     大丈夫、です」

    男「……それでは、
     失礼して、お邪魔させていただきます」

     とことこ

     ぱたん


    165: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/12(火) 23:55:36.54 ID:Ta6SI7TUo


    男(思ったより部屋が質素ですね。
     片付いているというより、
     あまりモノが無いような。
     置かれていた跡も見えません)


    ひき娘「その、こちらに、
     おかけください」

    男「ありがとうございます。
     
    ひき娘「その、粗茶ですが……」こぽぽぽ

    男「ありがとうございます」

    ひき娘「考えてみたら、
     今までお茶もお出ししないで……
     ごめんなさい」


    167: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/12(火) 23:56:06.55 ID:Ta6SI7TUo


    男「大丈夫ですよ。
     実は今日も、自分の飲み物は買ってきていますからね」

    ひき娘「はい……」

    男「……」

    ひき娘「……」

    男(か、会話が)

    ひき娘(会話が続かないですっ)

    男「そ、それじゃ、
     そろそろ勉強を始めましょうか」

    ひき娘「は、はいっ」

    男(予想よりも早く、
     こうして隣に座ることができるようになりましたが……
     話題にできるものが見つからず、
     積極的に会話する子でもない……
     わかっていましたが、これは難しいですね)


    168: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/04/12(火) 23:57:21.45 ID:Ta6SI7TUo

    ----------------------------------
      十七日目 ひき娘の部屋

    男「では、ペンを置いてください」

    ひき娘「はい。……ふぅー」

    男 ぺらぺらぺらー

    男 とんとんとん

    ひき娘「何度やっても、
     やっぱりテストは慣れないなぁ……」

    男「そもそも、ひき娘さんには、
     その絶対量が足りていませんからね。
     学力の確認もありますが、
     テストの経験をつむ目的もあります」


    169: 鳥わすれてた。。//// ◆LZfAlLlryk 2011/04/12(火) 23:58:03.50 ID:Ta6SI7TUo


    ひき娘「うう……」

    男「さて、今日はコレくらいにしましょうか」

    ひき娘「え、でも。
     今日はまだいつもの半分くらいしか……」

    男「半分ではありません。
     三分の二ですよ」

    ひき娘「……やっぱり、いつもより少ないですよね」

    男「御不満ですか?」にやっ

    ひき娘「そういうわけでは、無いですけど。
     ちょっと違和感があって」もじもじ

    男「そうですね。
     こうしてお話できる程度には、
     まだ余力があるようです。
     ただ、集中力はどうでしょうか」


    170: ◆LZfAlLlryk 2011/04/12(火) 23:58:55.76 ID:Ta6SI7TUo


    ひき娘「え?」

    男「いつもより誤答率が高いです。
     それも、いつもより些細な点で。
     普段隣にいないわたしがいること。
     そして、寝不足でしょうかね?
     少し眠そうに見えます」

    ひき娘「その、ごめんなさい」

    男「……何に対する謝罪ですか?」

    ひき娘「えっと、
     せっかく来てもらってるのに」

    男「仕事ですから」

    ひき娘「……」

    男 ちらっ

    男「まだ少し時間が有りますね。
     もしよければ、少し雑談などいかがですか?」

    ひき娘「雑談、ですか?」


    171: ◆LZfAlLlryk 2011/04/12(火) 23:59:48.56 ID:Ta6SI7TUo


    男「はい。
     ……このお部屋の窓ですが、
     この時間に日が差しこむという事は、
     西と北にありますね」

    ひき娘「えっと、
     たぶん、そうですね」

    男「窓の外を見る事はありますか?」

    ひき娘「たまに、
     電話をしながら、くらいですけど」

    男「なるほど、
     では今夜は北の窓に目を向けてみませんか?」


    ひき娘「なにか有るんですか?」

    男「四月はまだですが、
     春の星座として、
     こぐま座とおおぐま座というのがあります。
     それが見えるんですよ」


    172: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 00:00:26.55 ID:WjMVrQHeo


    ひき娘「星、ですか」

    男「わたしは歴史や神話に興味を持って、
     民俗学を学ぶために、
     大学に行きましてね」

    ひき娘「民俗学……」

    男「はい。
     その国の人たちが何を思い、
     どんな風に暮らすことを求め、
     その歴史を積み重ねてきたかを見る学問です。

     古い物や、人々の話、物語から、
     その文化を読み解くのが民俗学です」

    ひき娘「それが、どうして星座なんです?」


    173: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 00:00:55.05 ID:WjMVrQHeo


    男「……そうですね。
     ひき娘さんはどうして、
     星座なんてものがあると思いますか?」

    ひき娘「どうしてって……」

    男「わたしが生まれるはるか昔。
     日本が日本と呼ばれる前から有るわけです。
     それがどうしてかなんて、
     想像することしかできませんがね。
     テストと違って正解はありません。
     想像してみてください」

    ひき娘「…………」

    男「…………」

    ひき娘「ずっと昔の人ですよね、
     星座を考えたの」


    174: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 00:02:01.51 ID:WjMVrQHeo


    男「そうですね。
     最古はエジプト文明だと言われています。
     その流れを汲んで、メソポタミア。
     そしてギリシアへ伝わった、といいます。

     明確にいつから規定されたかは、
     さすがに私も研究ノートを見ないと思い出せませんし、
     また新たな発見によって更新された、
     と云う可能性もあるので、言及は避けますが……

     紀元前九世紀、ホメーロスの二大叙事詩で、
     すでにいくつかの名前があります」

    ひき娘「えっと、今は二十一世紀だから、
     三千年まえかな?」

    男「二千九百年前です。
     コレはテストで出しましたよ」

    ひき娘「はうっ」

    男「一世紀は西暦1年から始まり、
     西暦100年までを言います。
     しかし、紀元前一世紀は紀元101年から、
     西暦0年までをあらわします。

     紀元前ゼロ世紀が無い分、
     混乱が生じやすい部分ですね。
     これは、再テストでしょうか」にやっ


    175: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 00:02:34.85 ID:WjMVrQHeo


    ひき娘「うう、せっかく教えてもらったのに、
     ごめんなさい」

    男「構いません。
     来週に伝えるつもりでしたが、
     再来週には今月のまとめテストの予定でしたから。

     一ヶ月経って覚えている知識は、三割あれば上等です。
     三度繰り返して、ようやく覚えきれるというところでしょうか。

     ペースも速いですからね。
     忘れても、覚えなおせば良いのですよ。
     繰り返しこそが、力になります。
     そして、わたしは何度でも教えますよ」

    ひき娘「……はい」

    男「さて、では話を戻しましょうか。
     彼らはなぜ、星座を考えたと思いますか?」

    ひき娘「…………えっと、必要だったから?」


    176: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 00:03:00.53 ID:WjMVrQHeo


    男「悪くはないですよ。
     ただ、足りません」

    ひき娘「えーっと、えーっと……」

    男「降参しますか?」

    ひき娘「……はい」

    男「必要だから、というのはその通り。
     古代エジプトでは、
     暦を作るうえで、星は重要な資料でした。
     一年をかけてめぐってくる星を見分け、
     その行き来で時期を明確にしたわけです。

     そしてその覚え方として、
     いくつかの星を一まとめにするという方法があり、
     それが星座の始まりだと言われています」

    ひき娘「はい」


    177: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 00:03:29.82 ID:WjMVrQHeo


    男「では、足りなかったのは何か。
     ……ロマン、ですよ」にやっ

    ひき娘「ろ、ろまん、ですか」

    男「目を閉じてください」

    ひき娘「はい?」

    男「目を閉じて、
     深呼吸してみてください」

    ひき娘「……はい」

    ひき娘 すー、はー

    男「いま、ひき娘さんは、
     一面の広い昼の草原に立っています。
     太陽の光に照らされた、
     緑の豊かな草原。
     深呼吸をするごとに、
     ひき娘さんの想像する草原は、
     少しずつ現実的になっていきます」


    178: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 00:04:08.77 ID:WjMVrQHeo


    ひき娘「……はい」

    男「遠くを見つめれば、
     小さく森があります。
     そして後ろを見れば、遠くに山が。
     それ以外は何もない、
     たださわやかな風が吹き抜けて、
     草が囁くばかりの草原です」

    ひき娘「……」

    男「草原を照らしていた太陽が、
     ゆっくりと傾いて、
     ひき娘さんの足元の影を伸ばしながら、
     やがて赤く色を変えて、沈みます」

    ひき娘「……」

    男「そして空の青色が濃くなって、
     広い空の向こうに、
     ぼんやりと星が輝き始めます」


    179: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 00:04:43.96 ID:WjMVrQHeo


    ひき娘「でも、
     星なんて、見たこと無くて」

    男「……想像でいいですよ。
     さて、そんな時にあたりを見回して、
     ひき娘さんには何が見えますか?」

    ひき娘「えっと、草原と、森と、山と……」

    男「本当に、見えますか?」


    ひき娘「え?」

    男「月が昇らなければ、
     夜はひどく暗いものです。
     近ければうっすらと見えますが、
     遠くの小さな森などは見えませんよ」

    ひき娘「……そっか」


    180: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 00:05:37.76 ID:WjMVrQHeo


    男「そんな時に、
     空を見上げて、満天の星空があったら。
     そして、毎晩やってくる夜に、
     その星しか見るものがなければ」

    ひき娘「星を見るくらいしか、できない」

    男「そして、ふと気がつくんです。
     いくつかの強い光を結びつけると、
     何かの形になるのではないか、と」

    ひき娘「そうやって想像を膨らませたのが」


    181: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 00:06:07.02 ID:WjMVrQHeo


    男「はい。きっとそれが、
     今の星座の成り立ちです。

     蝋燭も油も貴重だった時代。
     人は日がくれると眠り、
     日が昇ると目を覚ます。

     それでも眠れない夜はあり、
     また、眠りたくない夜もあったでしょう。
     恋人と語り明かしたくなるような。

     そんな時には空を見つめて、
     きっと星を肴にお酒を飲んだり、
     会話の手がかりにした事でしょう……

     想像に過ぎませんが」ぽりぽり

    ひき娘(少しだけ照れくさそうにわらって。
     頬をかく仕草が、子供みたい)


    182: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 00:06:33.87 ID:WjMVrQHeo


    男「そして、
     春の星座であるこぐま座は、
     そんな紀元前九世紀、
     ホメーロスが見ていた星です。

     その二千九百年。
     どれだけの人たちが、
     何を思ってその星を見つめたか。
     それを思うだけで、
     なんとなく幸せになったり、
     切なくなったりしませんか?」

    ひき娘「……はい」

    男「そして、星座には、
     神話をはじめとした様々な物語があります。

     実は、有名な星座の神話には、
     少し悲しい話が多いのですよ」

    ひき娘「そうなんですか?」


    183: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 00:07:43.97 ID:WjMVrQHeo


    男「厳密に統計を取ったわけではないですが、
     おおよその実感として。

     そこからまた、
     僕達民俗学者は想像するんです。

     その神話が生まれた時代の人たちが、
     どんな物語をこのんだのか。
     どんなものを使っていたのか。
     どんな神を信仰していたのか。

     そうした神話は、
     二千九百年かけた長大な伝言ゲームです。
     同じ星、同じ神についての話でも、
     どの民族が伝えたか、
     伝えられた先の民族の文化や、
     風習、その時の流行によって微妙に変わり、
     同じ神話でも大きな違いが生じます。

     想像して、その想像を裏付ける証拠を集めるわけです。

     その伝わり方の違いからも、
     それぞれの人たちの事がわかるわけですね」


    184: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 00:08:14.44 ID:WjMVrQHeo


    ひき娘「……なんだか、
     すごく不思議ですね」

    男「もっとも、星座の基本は同じです。
     星をつなげて、その形から想像する。
     つなげた形から、その星を覚える」

    ひき娘「はい」

    男「実は、現代でも、
     多くのある職業の人たちが、
     星座とその逸話を作っているんです。
     どんな人たちだと思いますか?」

    ひき娘「う……
     今度こそあてたいけど……」

    男「……」


    185: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 00:09:01.89 ID:WjMVrQHeo


    ひき娘「……ごめんなさい」

    男「少し意地悪な話ですからね。
     答えは、教師です」

    ひき娘「……先生、ですか?」

    男「その通りですよ。
     国語、英語、歴史、地理、
     倫理、政治・経済、
     数学、地学、化学、
     物理学、生物学……
     これらの教科は高校で触れますね。

     そして、この中にはそれぞれ、
     単元ごとに違う名前の星が詰まっています」

    ひき娘「その星をつなげて、
     名前をつけて、逸話を?」


    186: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 00:09:38.86 ID:WjMVrQHeo


    男「はい。
     系統立てて、掛け算は足し算の発展だとか。
     高校で倣う三角関数の問題には、
     中学生が習う、三角形の相似形の問題が隠されているとか。
     そうした話をするわけです。

     でも、それだけじゃ、ないんですよ」

    ひき娘「違うんですか?」


    男「コレは私の恩師の言葉ですがね。

     『学問とは、星の発見のようなものだ。
     まずは肉眼で見てわかるものを、
     人は結びつけた。
     次に、望遠鏡を手に取った。
     やがて宇宙から眺めるようになる。
     そこには一歩一歩の積み重ねが見えるはずだ。

     そして星座という形でその連なりが見えるはずだ』と」


    187: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 00:10:18.65 ID:WjMVrQHeo


    ひき娘「その、つまり……」

    男「いま古代ギリシアの星座の話をしましたが、
     この古代ギリシアという『歴史』の一ページと、
     天文学――高校生では『地学』として学ぶ分野が、
     後で学んで貰う『三角関数』という『数学』に、
     結びつくことになります。

     古代ギリシアには、
     ピタゴラスという人がいるのですが、
     知っていますか?」

    ひき娘「えっと、ピタゴラスの定理って、
     名前だけは」


    188: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 00:11:04.56 ID:WjMVrQHeo


    男「その定理を発見した人ですね。

     三つの辺、辺a、辺b、辺cによってできる、
     直角三角形の三辺の比率は、
     cを斜辺(直角に触れない辺)とすると、
     aの二乗とbの二乗を足したものが、
     cの二乗と一致するというものです。

     そして彼は数学者であると同時に、
     哲学者でもあり、音楽家であり、宗教家でした」

    ひき娘「え、え……」


    189: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 00:11:45.93 ID:WjMVrQHeo


    男「この世は全て数字によって説明できると、
     そういう考えだったのです。
     だから、音楽家でも宗教家でも数学家でも、
     彼の中では矛盾してないんですよ。

     そして、そのピタゴラス的な考えは、
     当時のギリシアではとても流行しました。

     数学という証明手段で、
     それまで神の恩恵と呼ばれていた、
     世界の神秘を知ることこそが、
     一つの信仰の形となったのです。

     そして、そんな考えを受け継いで、
     星がどうして空を回るのかを考えたのが、
     ヒッパルコスという、
     紀元前二世紀の学者です。

     星がどうしてどのように回るのか。
     それを、数学的に考えるために、
     『ピタゴラスの定理』や、
     ひき娘さんが今苦手にしている、
     『三角形の相似』を整理、研究されて、
     『三角関数』が生み出されました」

    ひき娘「うわ……」


    190: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 00:12:38.33 ID:WjMVrQHeo


    男「どうです?
     星座は見えましたか?」

    ひき娘「うん、あ、はい。
     なんとなく、それまではただの計算で、
     三角形の相似とか、
     使わない無駄なものみたいだったのに」

    男「現代ではあまり使いませんが、
     特に図形の三角法を先に学ぶのは、
     そこから派生した物が多いからです。

     日本史でやりますが、
     十八世紀から十九世紀にかけて、
     伊能忠敬という人が、
     日本中を歩いて地図を作っています」

    ひき娘「あ、それは小学校とかでも、
     ちょっと見た気がしますよ」


    191: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 00:13:12.68 ID:WjMVrQHeo


    男「その伊能忠敬さんが、
     正しく測量するために駆使したのが、
     先ほどの三角法でした。
     それによって、
     現在使われているものとほぼ変わらない、
     高精度な地図が作られています。

     つまり、つい二百年ほど前まで、
     三角法による測量は現役だったんです。
     コレは『歴史』と『地理』の分類ですね」

    ひき娘「すごい。
     どんどんつながって……」


    192: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 00:14:59.56 ID:WjMVrQHeo


    男「さらに、測量は海の上でも重要でした。
     『歴史』で大航海時代と呼ばれる十六世紀末。
     スペインが他の国を差し置いて、
     黄金があふれる新大陸と呼ばれたアメリカと、
     頻繁に交易することができたのは、
     その測量技術が優れていたからです。

     大航海時代は多くの人々が海を行きかい、
     その人たちは、
     自分達の文化を他に伝え、
     また他の文化を持ち帰る役目もありました。

     彼らがその往来によって伝えたのは、
     数学や言語学、医学、本草学などもそうですが、
     神話や民間伝承などもその伝え広まった文化です。

     そうして文化が混ざり合う中で、
     いつの間にか人々は、
     本来自分達が持っていた文化を忘れそうになります。

     そこで、ソレを再発見するための研究が、
     わたしが学んでいた『民俗学』なのです」

    ひき娘「ぐるっと、一周しちゃった……」


    194: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 00:15:36.04 ID:WjMVrQHeo


    男「文系、理系。
     それぞれの各教科の系統立てた分類は、
     参照する場合には非常に有効です。

     また、テストをする場合にも有効です。

     しかし、人の記憶は、
     星の位置だけを覚えることには向いていません。

     人の記憶が覚えるのは、
     星のつながりであり、
     そのつながりを覚える補助として、
     物語や歴史があります。

     星を見るだけなら、誰でもできます。
     しかし、そこに星座というつながりと、
     その物語(ロマン)を伝えられるのが、
     教師なのだと、わたしは思っています」

    ひき娘「…………」


    195: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 00:16:08.09 ID:WjMVrQHeo


    男「ひき娘さん?」

    ひき娘 ぽけーっ

    男 手ふりふり

    ひき娘 はっ、びくっ

    男「どうしました?」

    ひき娘「そ、その。
     今まで勉強したのが、
     全部そうやってつながってたらって、
     そう考えたら、すごく、
     すごいなって気分で……」あせあせ

    男 にこっ

    ひき娘「今日は、その、
     先生が帰ったら、星を見てみます!」

    男「はい」にこっ


    196: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 00:16:37.70 ID:WjMVrQHeo


    男「と、それでは時間ですね。
     次は週明けなので、三日後ですか」

    ひき娘「あう……」

    男「残念ですか?」

    ひき娘「その、勉強が楽しそうかもって、
     お話を聞いて、そう思ったんですけど」

    男「では、多めに宿題を出しても平気ですね」

    ひき娘「へ?」

    男「このドリルの後半のまとめ全てと、
     それから、英単語も今回は多めにやりましょう。
     後は歴史の資料集のここからここまでを読んで、
     重要部分をまとめてください。
     後、ここからここまでの漢字の暗記と――」


    197: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 00:17:14.74 ID:WjMVrQHeo


    ひき娘「ま、まま、まって下さいっ。
     そんなにあったら寝られないですよ!」

    男「大丈夫ですよ。なんとかなります」にぃっ

    ひき娘(意地悪な笑顔だっ。
     この人、悪人ですよっ。
     今更だけど悪い人ですっ!)

    男「がんばったら、
     御褒美があるかも知れませんよ?」

    ひき娘「え、えっと、それは」

    男「がんばってからのお楽しみです。
     それでは、失礼しますね」


    198: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 00:17:41.30 ID:WjMVrQHeo


    ひき娘「あ、はい。
     今日もありがとうございました」

    男「いえいえ。仕事ですから」とことこ

     ぱたん

    ひき娘「……」

    ひき娘「ご褒美かぁ……
     ちょっと楽しみだし、がんばろうかなー♪」

    ひき娘 かきかきかきかき

    ひき娘「……そういえば、
     最後は殆ど緊張しなかったかも。
     もしかして、大進歩?」

    ひき娘「えへへ……」

    ひき娘 かきかきかきかき


    200: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 00:18:24.16 ID:WjMVrQHeo

    ----------------------------------
      十七日目 男の車

     ぶろろろろ

    男「さて、進行度は順調ですね……」

    男「今日の遅れも、
     宿題で取り戻してもらえそうですし、
     問題だった空気も、
     何とか保てましたか……」

    男「一番の懸念でしたからね。
     やはり教師と生徒には、
     信頼関係は必須ですよ」

    男「信頼関係……」

    男「ふっ……」

    男「どうなりますかね、この後は」


    203: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 23:03:45.40 ID:WjMVrQHeo

    ----------------------------------
      二十日目 ひき娘のへや

    ひき娘 かきかきかきかき

    男「……終了五分前です」

    ひき娘「はいっ……」

    ひき娘 かきかきかきかき


    男(やはり、良いですね。
     わたしがいる事にさえ慣れれば、
     コレだけの集中力が出せる……)


    204: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 23:04:15.11 ID:WjMVrQHeo


    男(そう、問題は環境……
     ひき娘さんの集中力は良いですが、
     この程度ならまだ、他の生徒さんでも……)

    男(しかし、ひき娘さんには、
     他の人の数倍するハンデがある)

    男(人間が、怖いという)


     pipipipi pipipipi

    男「はい、ではペンを置いてください」

    ひき娘「……はいぃ」べちゃぁ


    205: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 23:04:48.24 ID:WjMVrQHeo


    男「テストが終わって、
     気が抜けるのはわかりますが、
     抜きすぎはよくありませんよ」

    ひき娘「あ。そっか、はい……」ごそごそ

    男「わたしが隣にいること、
     忘れていましたか?」

    ひき娘「忘れていたというか、
     気にしている余裕が無かったというか……
     だいたい、先生のテストはひどいですよっ!」

    男「はい?」ぱちくり

    ひき娘「一つの単元で百問以上あるって、
     すごく多いですよ……」

    男「ああ、その事ですか。
     たしかに、この手のテストでは多いですね。
     しかし、意味はあるのですよ?」


    206: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 23:05:19.78 ID:WjMVrQHeo


    ひき娘「意地悪じゃ、ないんですか?」じぃっ

    男「いやですね。
     わたしは誠意ある教師ですよ。
     意地悪なんてとんでもない」にぃっ

    ひき娘(絶対ウソじゃないですか。
     そんな意地悪な笑顔で!
     わかっててやってるあたり、
     先生はもう、ひどい人ですよ)

    男「それに、その百問以上のテストですが、
     私はその問題を作って、
     かつソレを採点までしているわけです。
     手間としては私のほうが多いですよ」

    ひき娘「あ、そっか……」


    207: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 23:06:03.89 ID:WjMVrQHeo


    男「わたしがひき娘さんに課すテストは全て、
     簡単なものから難しいものまで織り交ぜて、
     得点式ではなく、
     正答率でいつも判断していますね」

    ひき娘「はい……。
     だから、百点とか無くて」

    男「百点は無くても、百パーセントはありますがね。
     しかし、言いたい事はわかりますよ。
     やはり得点というのは、頑張る目安にしやすいですからね。
     ただ、わかった上で、コレが良いと言いましょう」

    ひき娘「どういうことです?」

    男「今回の三角形に関しての数学のテストは、
     百四十問ですか。
     それを一時間でやって貰ったわけです。
     一分に二問でも間に合いませんが、
     一分に三問なら、おおよそ四十七分。
     十分以上の時間が余ります」

    ひき娘「……計算上は、ですけど」


    208: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 23:06:46.58 ID:WjMVrQHeo


    男「ええ。それでは遅いくらいです。
     一分五問程度が目標ですからね」

    ひき娘「……」うるうる

    男「さて、採点が終わりましたよ。
     現段階では、と注釈がつきますが、
     正答率は七割で悪くありません」

    ひき娘「でも、やっぱり、
     全部正解って、できないですよ」

    男「現段階であれば、
     解ける問題だけを集中して解けばいいです。
     いずれ、イヤでも全問正解になります」

    ひき娘「イヤでも、って。
     どういうことです?」


    209: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 23:07:17.94 ID:WjMVrQHeo


    男「私がひき娘さんに対して、
     こうして毎回科しているテストは、
     市場に出回っている各社の問題集や、
     模試で使われた問題、
     日本各地の高校入試問題から、
     数字だけを変えたものなんですよ」

    ひき娘「高校入試って、
     そんな、初めて半月じゃ解けませんよ……」

    男「そんな事は有りませんよ。
     見てください。
     コレとコレと、それからコレがそうです。
     きちんと解けていますね」

    ひき娘「ホントにコレ、
     入試問題なんですか?」

    男「本当ですよ。
     誤解されることが多いですが、
     入試程度で出題される数学問題は、
     基本的に練習量で対応できます」


    210: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 23:07:50.73 ID:WjMVrQHeo


    ひき娘「でも、
     数学って頭の回転が速くないとって、
     よく聞きますよ」

    男「否定はしませんが、肯定もしかねます。
     たとえばひき娘さんは、
     全く新しい料理、と云うのを知っていますか?」

    ひき娘「えっと、
     たまに遊びに来てくれる友達が、
     そんな宣伝のついたお菓子とか、
     買ってきてくれますけど……」

    男「では、たとえばそのお菓子が、
     焼き菓子だったとしましょうか。

     たとえば、納豆とケチャップ味のマドレーヌなんて、
     新しいと思いませんか?」

    ひき娘「うっ……
     新しいは新しいですけど、
     食べたくは無いですね」


    211: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 23:08:48.14 ID:WjMVrQHeo


    男「でも、本当にこれは新しいんですかね?」

    ひき娘「そんなのを思いつくの、
     先生だけでいいです……」

    男「そういう話ではないのですが……
     それにわたしだって悪食じゃありません。
     ソレは美味しくなさそうだと思います。

     この『納豆ケチャップ・マドレーヌ』というのは、
     納豆も、ケチャップも、マドレーヌも、
     全て既存のものですよね?
     それなのに『新しい』のでしょうか」

    ひき娘「……確かに、
     材料はぜんぜん新しくないですけど」

    男「ちょっと例えが悪かったですかね……
     要するに『見たことが無いもの』というのは、
     たいてい『見たことが有るもの』の、
     新しい組み合わせに過ぎないのですよ」

    ひき娘「でも、納豆ケチャップは、
     マドレーヌに合わせちゃダメですよ」うるうる


    212: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 23:09:28.36 ID:WjMVrQHeo


    男「例えが『あんこときな粉のマドレーヌ』だったら、
     どうですかね?」

    ひき娘「……それなら、ちょっと美味しそう?」

    男「実際にありそうですがね。
     これにしても、あんこもきな粉もマドレーヌも、
     全て既存のものに過ぎません。

     しかしコレを考えた人がいたら、
     今までにない物を考えた人、と呼ばれます」

    ひき娘「確かにそうだと思いますけど……」

    男「数学の問題だって同じですよ。
     特に高校入試程度の問題なんて、
     今までに見たことがない材料は使われません。

     全て、既存のものの組み合わせです。
     その組み合わせ方や、使い方に新規性が見えても、
     落ち着いてよく考えれば、
     どれも見たことがあるもののハズなんです。

     たくさん、問題を見ていれば」


    213: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 23:10:54.84 ID:WjMVrQHeo


    ひき娘「つまり、
     先生が山ほど問題を出すのは、
     見たことがない問題を無くすため、ですか?」

    男「そういう事です。
     詰め込みとか批判されるかも知れませんが、
     道具を使いこなせるようになるには、
     理論を学んだ後にしっかりと経験をつむ事が重要です。

     そのためには、
     宿題という形で授業の予習を多く行って貰い、
     授業時間はその穴埋めと復習、
     そして使い方の実習を行うわけです。

     そして、高校入試程度であれば、
     問題を出す側にしても、
     どの道具を使ってよいかという幅が狭く、
     新しい組み合わせなんて、無いに等しいです。

     つまり、新しい組み合わせが無くなるまで、
     既存の組み合わせに習熟することで、
     イヤでも誤答が無くなるというわけです」


    214: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 23:11:28.60 ID:WjMVrQHeo


    ひき娘「あはは、効率的なのか、
     非効率的なのか、わからないですね」

    男「テスト勉強に王道はありません。
     王道とは近道の事です。

     教師がどこに星があるかを示して、
     それを覚えるための物語を提示しても、
     その星の使い方を知らなければ、
     意味がありませんからね」

    ひき娘「でも、
     そんな事、学校じゃ教えてくれまないですよね……
     知ってたら、もっとがんばりやすかったり、
     もっとテストで点が取れたりするのに」


    215: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 23:12:31.60 ID:WjMVrQHeo


    男「かなりぶっちゃけた話ですからね。
     でも、ちゃんと教えているはずですよ。
     『努力をすれば報われる』と、
     オブラートに包んだ話し方になりますが」

    ひき娘「その努力って、
     何を、どんな理由で、
     どういう方法で努力すればいいかが、
     わからないですよ……」

    男「仕方ありません。
     これは私だって、
     教員をしていた時には、あまり考えませんでしたから」

    ひき娘「……先生って、学校の先生だったんですか?」


    216: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 23:13:04.05 ID:WjMVrQHeo


    男「話していませんでしたか?
     数年前まで、この近くの学校で教師をしていましてね。
     いろいろ有って、今の塾に転職したんです。

     教員のときの私は、
     いかに勉強が楽しいかをと伝えるのが使命だと、
     そう思っていました」

    ひき娘「ちがったんですか?」

    男「違ったようです。
     確かに、あの先生の授業は面白いと、
     そういってもらう事は嬉しかったですがね。

     保護者さんや生徒さんには、
     それでもテストの点が取れなければ意味が無いと、
     そう言われた方が多かったですよ」

    ひき娘「せっかく、
     楽しい授業をしてるのに」


    217: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 23:13:39.65 ID:WjMVrQHeo


    男「私以外の教員も、
     楽しい話をしようと思えば、
     そんなものはたくさん出てくるのです。

     そういう意味では、
     私はまだまだ未熟なほどに」

    ひき娘「そ、そんな事ないです。
     先生の解説、面白いし……」

    男「ありがとうございます。

     ただ、授業の面白さなんて関係なく、
     与えられた指導要綱にしたがって、
     一定程度の能力を持っている生徒が、
     一定以上の割合でいるクラスを量産することが、
     いまの教員の役割のようです。

     そして、それ以上を望むなら、
     塾などを頼るべきだと」


    218: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 23:14:52.17 ID:WjMVrQHeo


    ひき娘「なんだか、工場みたい……」

    男「まさに工場ですよ。
     塾はさしずめ、上級工場。
     家庭教師はオーダーメイドの工房ですか。

     どれも、生徒を情報処理機械として、
     生産する事が目的であることに、
     変わりはない気はしますがね。

     教員は、与えられたマニュアルに従って、
     機械を動かすように、チョークと口を動かし、
     流れ作業を繰り返す……

     安定した品質の製品を大量生産することが求められる、
     工業国家らしい指針です」

    ひき娘「……」


    219: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 23:15:17.44 ID:WjMVrQHeo


    男「もちろん、良い先生もたくさんいます。
     勉強会に参加し、工夫を重ね、
     より楽しんで貰えるように、
     より人生に役立つようにと考えて、
     そのために努力する人たちも多いです。

     役所にだって、そういう人たちを応援しようと、
     学校そのものを変えようとしたりするために、
     努力する人たちがいます。

     私もそんな教師で在りたかったんですが……」

    ひき娘(寂しそうな目。
     先生はまだ、そんな夢を諦めてないのかな?)


    220: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 23:15:48.21 ID:WjMVrQHeo


    ひき娘「先生は、どうして先生を辞めたんです?」

    男「………………
     ……事件を起こしてしまいましてね」

    ひき娘「事件、ですか」


     pipipipi pipipipi

    男「すみません、もう、
     塾の授業が始まってしまいますので、
     失礼します……」 ガサガサ

    ひき娘「あ、はい……」


    221: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 23:16:21.65 ID:WjMVrQHeo


    男「宿題は、数学はここからここまで。
     英語はここから、ここ。
     歴史はこの章をまとめてから、
     資料集を参考にこの事件についてレポートを。
     漢字と文法のドリルは、
     一年生の部分は全てやってください」

    ひき娘「……」

    男「できませんか?」

    ひき娘「あ、いえ。大丈夫です」

    男「では、これで失礼します」とことこ

    ひき娘「ありがとうございます」

    男「いえいえ、仕事ですので」へこっ

     ぱたん


    222: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 23:16:59.20 ID:WjMVrQHeo


    ひき娘(窓から差し込んだ夕焼けの、
     赤い光のせいなのかな……)

    ひき娘(先生の顔がすごく、
     すごく怖く見えた……)

    ひき娘(ものすごく、
     怒っているような、
     同時に、泣き叫びたいのを我慢してるみたいな)

    ひき娘(事件って、なに?)


    223: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 23:18:02.66 ID:WjMVrQHeo

    ----------------------------------
      二十日目 黒髪の部屋

    黒髪「ふーん、それで私に?」

    ひき娘<うん。
     その、黒髪さんなら、
     何か調べられないかなって>

    黒髪「どうして私ならわかるのよ」苦笑

    ひき娘<なんとなく、
     噂とか、詳しそうだから……
     その、知らないなら知らないで、
     いいからねっ>


    224: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 23:18:41.83 ID:WjMVrQHeo


    黒髪(情報屋まがいの事をしてるなんて、
     知らないはずなんだけどね、この子。
     相変わらず人を良く見てるっていうか……)

    ひき娘<黒髪さん?>

    黒髪「そうね。
     名前と特徴と、その人のいた学校について――
     それだけわかれば、
     ある程度なら調べられるわよ」

    ひき娘<そうなの?
     良かった……>

    黒髪「でも、どうかしらね」


    225: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 23:19:11.57 ID:WjMVrQHeo


    ひき娘<どう、って?>

    黒髪「今は辞めたけど、勤めていた学校で、
     その人が起こした事件について知りたい。

     その気持ちはわかるわよ。
     私だって、
     そんな風にあいまいで、
     意味ありげな事を言われたら気になるわ。

     でも、聞いていた限り、
     その人はかなりしっかりした人よね?」

    ひき娘<うん、すごく、大人な人>


    226: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 23:19:46.56 ID:WjMVrQHeo


    黒髪「しっかりしている事と、
     大人であることが同じであるとは思わないけど。

     まあいいわ。
     後で用事があるなら、
     そういう人は余裕を持ってタイマーを仕掛けるわね。

     つまり、何をしたかという一言さえ、
     言う暇がなかったとは思えないわ」

    ひき娘<秘密にしてるのかな?>


    227: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 23:20:17.94 ID:WjMVrQHeo


    黒髪「現象的にはそうね。

     不利益になるから隠しているか、
     後悔してるからごまかしたのか、
     大した事で無いから言わなかったか、
     改めて言うつもりが有るから後回しにしたのか。

     私が言うのもなんだけど、
     ヒミツには相応の理由があるものよ。

     それを暴き立てるなら、
     暴く側にも相応の覚悟が必要よ。
     後悔したり、怒ったり、悲しんだり」

    ひき娘<……>


    228: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 23:20:49.81 ID:WjMVrQHeo


    黒髪「ひき娘には、
     そんな覚悟はないでしょ」

    ひき娘<……うん。そうだよね>

    黒髪「悪い事は言わないわ。
     忘れちゃいなさい。

     で、相手が語ってくれる時が来たら、
     思い出せばいいのよ」

    ひき娘<……わかったよ>


    229: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 23:21:24.84 ID:WjMVrQHeo


    黒髪「それじゃ、今日はもう寝なさい。
     宿題いっぱいあるんでしょ?
     よく寝て、頭すっきりさせてから、がんばりなさい」

    ひき娘<うん>

    黒髪「それじゃ、おやすみ
     ――って、そうそう」

    ひき娘<どうしたの?>

    黒髪「一応、名前だけ聞かせてよ。
     いつまでも、例のその人、じゃ呼びにくいわ」


    230: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 23:22:01.33 ID:WjMVrQHeo


    ひき娘<あ、そうだよね。
     男さんって、いうの>

    黒髪「そっか。わかったわ。
     じゃ、男さんと仲良くね」

    ひき娘<うん。
     あ、近いうちにまた遊んで欲しいな>

    黒髪「いいわよー。
     こないだのお泊りもまだしてないしね。
     お菓子いっぱい持って、
     お泊りしにいくわ」


    231: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 23:22:34.01 ID:WjMVrQHeo


    ひき娘<待ってるね。
     それじゃ、おやすみなさい>

    黒髪「おやすみ。いい夢みなさい」


     つーつーつー

    黒髪「……そうよねー、やっぱり。
     時期が一致。
     伝わってくる人格が、双方一致。
     距離も近いし、行動時間に整合性有り。
     男さん意外の可能性なんてないじゃない」


    232: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 23:23:11.64 ID:WjMVrQHeo


    黒髪「そもそも、引き合わせようとは、
     思っていたけどね。
     因縁のある二人だから。
     でも、それはもうちょっと先のハズだったのに」

    黒髪 がさがさがさ

    黒髪(計画表のリストでも、
     後半年は時間が有るはずだった。

     ひき娘がもっと人になれて、
     少しくらいあの過去を思い出しても、
     今度は人に頼れる位になってからって)

    黒髪「でも、二人は出会った」


    233: ◆LZfAlLlryk 2011/04/13(水) 23:23:38.10 ID:WjMVrQHeo


    黒髪「……だめねぇ。
     どこぞのクロマクさんと違って、
     私はまだまだ読みが甘いわ」

    黒髪「……それなら、
     状況の設定をしなおさないと。

     なるべく自然に。
     でも大胆に。

     先生にもひき娘にも、
     できるだけ痛みが無い方向で、
     あの事件を乗り越えて貰わないと……」

    黒髪「………………」

    黒髪「だって、そうじゃないと」

    黒髪「…………私のせいなのに」


    237: ◆LZfAlLlryk 2011/04/16(土) 00:40:20.61 ID:/lB5Cy3po

    ----------------------------------
      二十一日目 ひき娘の部屋

     こんこんこん

    ひき娘「はい、どうぞー」

     がちゃ

    ひき娘「いらっしゃいっ」にこっ

    黒髪「おじゃまします。
     悪いわねー、昨日の今日で、
     急にお邪魔したい、なんて」

    ひき娘「そんな事ないよ。
     黒髪さんだったら、いつでも歓迎するからね」


    238: ◆LZfAlLlryk 2011/04/16(土) 00:40:46.55 ID:/lB5Cy3po


    黒髪「嬉しいこと言ってくれるじゃない」にっ

    ひき娘「とりあえず、お荷物はコッチにおいて……
     今日は、泊まっていけるの?」

    黒髪「ええ。私は大丈夫よ。
     ひき娘こそ、平気なの?
     何度か会いに来てるけど、
     泊まるのは初めてじゃない」

    ひき娘「う、うん……」

    黒髪(やっぱり、
     まだ少し緊張っていうか、
     躊躇いはあるみたいね……)

    ひき娘「でも、大丈夫だから。
     だって、黒髪さんだし」にこっ


    239: ◆LZfAlLlryk 2011/04/16(土) 00:41:12.39 ID:/lB5Cy3po


    黒髪「まったく、かわいいわねー」ぎゅっ

    ひき娘「きゃ、ちょっと、黒髪さん」(////

    黒髪「まあ、気分が悪くなる前に言いなさい。
     家も近いし、
     帰る手間なんて無いも同然だから」にこっ

    ひき娘「うん。ありがと」

    黒髪「さて、それじゃ……
     早速勉強でもしましょうか」

    ひき娘「え、え?」

    黒髪「宿題、いっぱいあるんでしょ?」

    ひき娘「それは、あるけど」


    240: ◆LZfAlLlryk 2011/04/16(土) 00:41:38.47 ID:/lB5Cy3po


    黒髪「それじゃ、さっさとやっちゃいましょ。
     やることやってからの方が、
     気持ちよく遊べるじゃない」

    ひき娘「うん、がんばるー」しゅん

    黒髪「そんなに気を落とした風に言わないの。
     わからない所は私も教えてあげるから」

    ひき娘「うん、それなら、
     何とか終わる、かな?」

    黒髪「なに、そんなに有るの?」

    ひき娘「うん。
     ここから、ここまでと……」


    241: ◆LZfAlLlryk 2011/04/16(土) 00:42:08.53 ID:/lB5Cy3po

    ----------------------------------
      二十一日目 風呂場

    ひき娘「ふわー……」

    黒髪「おつかれさま、ひき娘」

     ちゃぷちゃぷ

    ひき娘「うう、せっかく、
     黒髪さんに手伝ってもらたのに、
     やっぱりこんな時間までかかっちゃったよ」

    黒髪「とはいっても、
     私は殆ど何もしてないけどね。
     いくつか計算のコツとかは教えたけど、
     ホントに自主学習用の内容じゃない。
     出る幕が無かったわ」


    242: ◆LZfAlLlryk 2011/04/16(土) 00:42:35.01 ID:/lB5Cy3po


    ひき娘「あはは。
     そうだよねー。
     漢字の書き取り頼んでもしょうがないし」

    黒髪「まあ、その間、
     ひき娘がお気に入りのアニメ、
     山ほど見させられたけどね」

    ひき娘「面白かったかな?」

    黒髪「確かに、いくつか面白かったけど……
     男の子向けのが多くなかった?」


    243: ◆LZfAlLlryk 2011/04/16(土) 00:43:04.19 ID:/lB5Cy3po


    ひき娘「そ、そうでもないよ。
     00はゆん先生がキャラクターデザインで、
     ガンダムはガンダムでも、
     平成三部作の中では一番とっつきやすいんだよ。

     さらにいろんなタイプの男の子がいるから、
     友情のキラキラが好きな人も、
     私はこんな彼氏が欲しいなーって人も、
     もちろんそれ以上を想像して楽しみたい人だって大満足だし!

     それに、Fateはあの赤い弓兵さんと、
     青い槍兵さんだって、
     二人ともそれぞれにすごくかっこよくて、
     粋でいさみはだな生き方がもう最高で、
     キュンキュンが止らないって、
     男女に普遍の人気があるし!
     
     あと見てもらった中だと、
     完全に男の子向けだったけど、
     私としてはあのクーガーさんのかっこよさは、
     女の子として一度は見ておいて、
     胸をときめかせておいて欲しかったりだし……」


    244: ◆LZfAlLlryk 2011/04/16(土) 00:43:31.54 ID:/lB5Cy3po


    黒髪「ちょっとちょっと。
     落ち着きなさいよ。
     まったく、アニメのことになるとすごいわね」

    ひき娘「あ、あう」(////

    黒髪「確かに、夢中になるのもわかるけど、
     ひき娘って前からそんなに、
     アニメとか好きだった?」

    ひき娘「え、あ、それは……
     あの、黒髪さんから紹介されたmeganeさんとの会話で、
     『最近の若い子の好みがわからなくて、
     苦労してるんですよ』
     なんて話が出て……」

    黒髪「まあ、彼なら言いそうね」


    245: ◆LZfAlLlryk 2011/04/16(土) 00:43:58.48 ID:/lB5Cy3po


    ひき娘「どうせ暇だし、
     最近の人はどういうのが好きなのかなーって、
     見て回ってるうちに、
     夢中になっちゃって……」(////

    黒髪「ミイラ取りが……、
     っていうほどじゃないけど、
     思うところができちゃったわけね」

    ひき娘「うん。
     ネットで評判を調べて、
     アニメチャンネル?
     っていうので、見てたら、はまっちゃって」(////

    黒髪「でも、アニメの話なら、
     それだけ話せるのね……
     なんだかもう、
     ひきこもらなくても平気なんじゃない?」


    246: ◆LZfAlLlryk 2011/04/16(土) 00:44:25.44 ID:/lB5Cy3po


    ひき娘「そ、そんな事ないよっ。
     やっぱり、外に出ようとすると怖くて、
     扉の前で足がすくんじゃうし」

    黒髪「試したの?」」

    ひき娘「そ、その……
     等身大ガンダムが見たくて……」

    黒髪「あはは、いいわねソレ」

    ひき娘「わ、笑わないでよっ」

    黒髪「気にしないでよ。
     そんなひき娘を想像して、
     ちょっとほほえましくなっただけだから、ぷぷ」

    ひき娘「むぅー」


    247: ◆LZfAlLlryk 2011/04/16(土) 00:44:53.88 ID:/lB5Cy3po


    黒髪「でも、外に出ようって気には、
     なったのねー……」

    ひき娘「出られなかったけどね」

    黒髪「いいんじゃない?
     そんな気になっただけで、
     また一歩前進よ。
     それに――」

    ひき娘「それに、何?」

    黒髪 にやー

    ひき娘「な、なに?!」

    黒髪「ひ・み・つ♪」 

    ひき娘「えー」


    248: ◆LZfAlLlryk 2011/04/16(土) 00:45:21.24 ID:/lB5Cy3po


    黒髪「さ、そろそろ体洗って出ましょ。
     背中流してあげる」

    ひき娘「そんなの悪いし、
     別にいいよー」

    黒髪「まあまあ任せなさいよ。
     ほら、こっちに座りなさい」

     ちゃぷちゃぷ

    ひき娘「自分で洗えるよ?」

    黒髪「洗うだけならねー。
     こうやって手にボディソープをつけて、
     泡立ててから、
     指先、手のひら、手首……」

     ぎゅっぎゅ


    249: ◆LZfAlLlryk 2011/04/16(土) 00:45:49.20 ID:/lB5Cy3po


    黒髪(勉強がんばりすぎよ。
     すっかり手のひらの筋が固くなって、
     腕も、肩もつっぱっちゃってるじゃない)

    ひき娘「ん、んぅ。
     ちょっと痛いけど、
     気持ちいいかも?」

    黒髪「でしょ。
     ここまでなら自分でも普通にできるけど……
     二の腕、肩……」

    黒髪(昔はお父さんのために、
     少しでも出来る事をしたくて、
     詳しい人に習ったのよねー……
     今じゃ、そんな気にはならないけど)


    250: ◆LZfAlLlryk 2011/04/16(土) 00:46:16.70 ID:/lB5Cy3po


    ひき娘「ひゃぁん。
     ちょっと、黒髪さん、そこはくすぐったいっ」

    黒髪「ちょっとくらい我慢なさい。
     ほら、ここをぐーっと」

     ぎゅー

    ひき娘「あ、いたいいたい!
     ムリッ、むりむりだよっ、
     ギブアップ! ビリビリするよっ!」

    黒髪「4,3,2,1……
     はい、いいわよー」ぱっ


    251: ◆LZfAlLlryk 2011/04/16(土) 00:46:43.41 ID:/lB5Cy3po


    ひき娘「い、痛かった……」うるうる

    黒髪「ちょっと腕、回してみなさい」

    ひき娘「こんな感じ?
     って、わわ、すごい、肩が軽いよ!」

    黒髪「最近ずっと勉強がんばってたみたいだし、
     ちょっと肩重かったでしょ。
     勉強しながら何度も腕を動かしてたから、
     ちょっとほぐしてあげたわけ」


    252: ◆LZfAlLlryk 2011/04/16(土) 00:47:10.24 ID:/lB5Cy3po


    ひき娘「うわー、すごい。
     黒髪さんは何でもできるんだね」

    黒髪「……そうでも無いわよ」

    ひき娘「黒髪さん?」

    黒髪「さ、続きやるわよー。
     たっぷり気持ちよくしてあげる」にこっ

    ひき娘「えっと、もう痛いのは」

    黒髪「大丈夫よ。
     痛くなくなるようにするのが目的だから」

    ひき娘「えっと、それって」


    253: ◆LZfAlLlryk 2011/04/16(土) 00:47:38.87 ID:/lB5Cy3po


    黒髪「痛くなくなるまでは、痛いかも?」

    ひき娘「その、それはまた次で……」

    黒髪「今日これから痛いのと、
     次に三倍痛いのと、どっちがいいかしら?」

    ひき娘 ぴしっ

    黒髪「ほら、わがまま言ってないで観念しなさい。
     第一、普段から運動してないのが悪いのよ。
     ちゃんと運動してれば、
     こんなにすぐに固まらないんだから」

     ぎゅーっ

    ひき娘「――――ッッ?!?!?!?」


    254: ◆LZfAlLlryk 2011/04/16(土) 00:48:05.28 ID:/lB5Cy3po

    ----------------------------------
      二十一日目 ひき娘の部屋

     ぎしっ

    ひき娘「ふぇえ、やっと布団に入れたよ」

    黒髪「あ、こら。
     ちゃんと髪の毛乾かしなさい。
     痛むわよ?」

    ひき娘「ううー。
     大丈夫だと思うよ……」

    黒髪「そんな根拠のないこと言わないの。
     ほら、ちょっと座って」

    ひき娘 ごそごそ

    黒髪 さらー、さらー


    255: ◆LZfAlLlryk 2011/04/16(土) 00:48:32.18 ID:/lB5Cy3po


    黒髪「それにしてもひき娘ったら、
     あんなに大きな声で叫ばないでよ」

    ひき娘「だ、だって。
     ホントにそれくらい痛くて……」(///

    黒髪 さらー、さらー

    黒髪「それにしても加減ってものがあるでしょ。まったく……」

    ひき娘「むう、
     じゃ、黒髪さんに同じ事しても、
     そんなに叫ばないの?」

    黒髪「……まあ、それはそれね」

    黒髪 さらー、さらー


    256: ◆LZfAlLlryk 2011/04/16(土) 00:48:59.29 ID:/lB5Cy3po


    ひき娘「もー」

    黒髪「ふふ、まあ、
     痛くてもちゃんと効果があるからやってるのよ」

    ひき娘「それは、確かに効果はあったけど……」

    黒髪 さらー、さらー

    ひき娘「……黒髪さん」

    黒髪「何かしら?」

    ひき娘「明日は、最初だけでも、
     男さんの顔見たいって言ってたけど……」


    257: ◆LZfAlLlryk 2011/04/16(土) 00:49:27.90 ID:/lB5Cy3po


    黒髪「迷惑だったらいいわよー」

    黒髪 さらー、さらー

    ひき娘「迷惑じゃなくてね」

    黒髪 さらー、さらー

    ひき娘「もしかして、黒髪さんは」

    黒髪「っ」 さらー、さらー

    ひき娘「んー、やっぱり、なんでもない」

    黒髪「ほんとに、なんでもないの?」

    ひき娘「うん。なんでもない。
     ところで、ソロソロ終わった?」


    258: ◆LZfAlLlryk 2011/04/16(土) 00:49:54.88 ID:/lB5Cy3po


    黒髪「はい。これで終わり。
     って、言いたいけど、
     ちょっと待ってね。
     これと、これをー」

    黒髪 ペタペタ

    ひき娘「それは何?」

    黒髪「大したものじゃないわよ。
     百均で買ってきた化粧水。
     寝る前と起きた後に軽くつけるだけで、
     多少は髪質が良くなるってわけ」

    ひき娘「そんなのいいよー」

    黒髪「だーめ。
     乙女でしょ?
     ちゃんと髪のお手入れくらいしないと」


    259: ◆LZfAlLlryk 2011/04/16(土) 00:50:48.31 ID:/lB5Cy3po


    ひき娘「黒髪さんみたいにきれいだったら、
     意味はあるかもしれないけど」

    黒髪「ひき娘の髪じゃ変わらないって?
     バカ言ってんじゃないの。
     こんなジョークを知らない?

     『英国のカントリーハウスに観光に訪れた夫人が、
     そこの庭師に、良いお庭ですね、とくに芝が美しいとほめた。
     続けて、どんな工夫をしたら、
     こんなにきれいな芝生になるんです?
     とたずねたけれど……』」

    ひき娘「化粧水?」

    黒髪「……面白いところに接続されたわね。

     『特別な事は何もしてませんよ。
     せいぜい二百年、毎日朝露を拭いて、
     時期が来たら長さを整えてやるだけです』

     って言われたそうよ」


    260: ◆LZfAlLlryk 2011/04/16(土) 00:51:57.62 ID:/lB5Cy3po


    ひき娘「うわぁ……
     さすがイギリスっていうか……」

    黒髪「ブルジョワジーって感じよね。
     ま、そんな長期間でなくても、
     髪のお手入れくらい、
     女の子だったらサボっちゃだめよ」

    ひき娘「うー……」

    黒髪「それにね。
     顔の形とか胸の大きさとか、
     そういうのはどうにもならないし、
     体型とかも難しいわよね。

     でも、髪の手入れなんてそんなに難しくないから、
     きれいになりたいなら、
     まずはそこからよ。

     今時、男の子だってやるわよ」


    261: ◆LZfAlLlryk 2011/04/16(土) 00:52:47.61 ID:/lB5Cy3po


    ひき娘「お、男の子も?」

    黒髪「男の子に髪のきれいさで負けると、
     ずいぶんショックらしいわよ。
     ま、私だったら、そんな男なんてごめんだけど」

    ひき娘「確かに、そうかも……」

    黒髪「だからね、それくらいはちゃんとしなさい。
     この化粧水置いていって……
     って、そういえば、
     ひき娘は普通の化粧水とか、乳液とか……」

    ひき娘「え、えへ」

    黒髪「あーもう、
     今度、何種類か持ってきてあげる。
     試供品の中から、
     ひき娘に合うの見つけましょ」


    262: ◆LZfAlLlryk 2011/04/16(土) 00:53:17.65 ID:/lB5Cy3po


    ひき娘「は、はーい……」

    ひき娘(なんで黒髪さんって、
     こう美容とかの話になると怖いのかなー……)

    ひき娘「と、とりあえず、もう終わり?」

    黒髪「そうね。ちゃんと乾いたみたいだし、
     いいわよー」

    ひき娘 ばたーん

    ひき娘「もう駄目ーねるー」


    263: ◆LZfAlLlryk 2011/04/16(土) 00:54:22.54 ID:/lB5Cy3po


    黒髪「私も隣で寝ていいの?」

    ひき娘「うん、いいよー」

    黒髪 もぞもぞ

    ひき娘 もぞもぞ

    ひき娘「それじゃ、おやすみ、黒髪さん」

    黒髪「おやすみ、ひき娘」


    264: ◆LZfAlLlryk 2011/04/16(土) 00:54:51.64 ID:/lB5Cy3po


    黒髪「……」

    ひき娘 すーすー

    黒髪「無防備にすぐ寝ちゃって……」

    黒髪「ま、それだけ疲れてたって事でしょうけど……」

    黒髪「……ほんと、
     あどけない顔しちゃって」

    ひき娘 すーすー


    265: ◆LZfAlLlryk 2011/04/16(土) 00:55:21.54 ID:/lB5Cy3po


    黒髪「…………ふぅ」

    黒髪(今は、こうやって話せてる。
     でも、二年前は、そんな事もできなかったのよね)

    黒髪(あの日から、
     こうやって話せるようになるまでに、
     費やした時間は二年)

    黒髪(短いか長いかは、
     私では判断が付かないけど。

     それでも、ひき娘が努力してる事は、
     間違いなく伝わってくる)

    黒髪(人間が信じられなくて、
     怖くて、嫌いで。

     人が近寄るだけで、
     その忌避感から吐きそうになってた)


    266: ◆LZfAlLlryk 2011/04/16(土) 00:56:34.03 ID:/lB5Cy3po


    黒髪(当時のひき娘は、
     ずっとずっと、
     泣いてた印象がある)

    ひき娘『もう、やだよ。
     生きてるの、辛いよ。
     なんでこんなに、苦しいの?
     なんでこんな思いをして、
     生きてないといけないの?』

    ひき娘『死にたいよ。
     死にたいけど、怖いの。
     痛いのも、苦しいのも、もうやだよ』

    黒髪(そんな言葉を言う自分も嫌いで、
     でも言わないと揺れる心が保てなくて。

     そんなのが口にしないでも伝わるような、
     聞いてるだけで突き刺さるような、言葉)


    267: ◆LZfAlLlryk 2011/04/16(土) 00:57:30.43 ID:/lB5Cy3po


    黒髪(私にできたのは、
     扉の外でそんな声を聞くことだけ。
     それも、学校が終わってから、
     他の習い事の間の、ほんの少し)

    黒髪(それでも、
     声を聞かせてくれるだけ、
     私には心を許していて。
     他の人にはずっと、黙りきってたみたい)

    黒髪(やっと最近になって、
     少しずつ外に目を向けるようになったと、
     そう思ってたら)


    268: ◆LZfAlLlryk 2011/04/16(土) 00:59:29.13 ID:/lB5Cy3po


    黒髪(いつの間にか、
     男さんとすっかり仲好くなったみたいで。
     男さんに対しては、さすが専門家、かしら)

    黒髪(でもやっぱり、
     悔しくないって言ったら嘘ね)

    黒髪(親友のあたしを差し置いて、
     なんて言えた義理はないけど。
     それでも、なんだかさらわれた気分)

    黒髪(難しい処ねー……)


    269: ◆LZfAlLlryk 2011/04/16(土) 01:00:44.43 ID:/lB5Cy3po


    黒髪 うとうと

    黒髪「私が、守ってもらう側、だったのにね」

    黒髪 うとうと

    ひき娘 ぎゅー

    黒髪「……」

    ひき娘 すー、すー

    黒髪 そっ

    ひき娘 にへー

    黒髪 にこっ

    黒髪 すー、すー


    275: ◆LZfAlLlryk 2011/04/19(火) 00:47:24.91 ID:P3g7+O6so

    ----------------------------------
      二十二日目 ひき娘の部屋

     こんこんこん

    ひき娘「はい、どうぞー」

     がちゃ

    男「失礼します……おや」

    黒髪「はろー」

    男「どうして、黒髪さんがコチラに?」

    ひき娘「えっと、その」

    黒髪「偶然ってあるものねぇ。
     ひき娘のところに熱心に通ってるのが、
     先生だったなんて、いがーい」しらじら

    ひき娘「だ、だって家庭教師さんだし」

    男「…………ふむ」


    276: ◆LZfAlLlryk 2011/04/19(火) 00:48:10.82 ID:P3g7+O6so


    男(どこからドコまでが、
     黒髪さんの『仕込み』でしょうか。

     家庭教師から?
     それとも何かがその前から?
     偶然、でしょうか。

     しかしなぜこのタイミングで、
     わたしとバッティングしたのか……)

    男「とりあえず、細かい事は後回しです。
     これからひき娘さんの授業ですが、
     黒髪さんはどうしますか?」

    黒髪「間接的に出て行って欲しいって、
     言われてる気分になりますね。
     二人っきりが良かったですか?」にやっ


    277: ◆LZfAlLlryk 2011/04/19(火) 00:48:42.84 ID:P3g7+O6so


    男「授業の邪魔になるようであれば」苦笑

    ひき娘「あ、あの。
     先生と黒髪さんが知り合いかもで、
     私から黒髪さんに、一緒に授業を受けない? 
     って聞いたんです」おどおど

    黒髪「そんなにキョドんないでよ。
     やましいことも無いんだから」

    男「ひき娘さんからの提案でしたか。
     では、一緒に授業を受けますか?
     黒髪さんにとっては、
     あまり有用では無いと思いますが」

    黒髪「そうなの?」


    278: ◆LZfAlLlryk 2011/04/19(火) 00:49:12.83 ID:P3g7+O6so


    男「基本的に、
     今は中学一年生から二年生まで、
     既に行ったはずの単元の、
     総復習ですからね」

    黒髪「そういう内容なら、
     私にとっても復習になるし。
     現役がどれだけの速さで解答するか、
     ひき娘にも目に見える目標に、
     なれるんじゃない?」

    男「……そうですね。
     そうしたメリットを考えれば、
     さほど悪い話でもありません」


    279: ◆LZfAlLlryk 2011/04/19(火) 00:49:40.26 ID:P3g7+O6so


    黒髪「その切れ味の悪い解答、
     まさかホントに、
     先生ったらひき娘と二人きりがよかったの?」

    男「僕はひき娘さんのお母さんから」

    ひき娘 ぴくっ

    男「授業をして欲しいと頼まれていますが、
     黒髪さんはそこに含まれていませんからね。
     デメリットしかない話なら、
     当然受ける事はできません」

    黒髪「解答が真面目すぎて面白くないけど、
     確かにそうよね」

    ひき娘「そ、その。
     それじゃ、二人で授業でも」

    男「わたしとしては、
     一向に構いませんよ」


    280: ◆LZfAlLlryk 2011/04/19(火) 00:50:25.73 ID:P3g7+O6so


    ひき娘「じゃ、今日は一緒にお勉強だね♪」

    黒髪「うふふ、
     よろしくお願いしますね、先生」

    男「……大丈夫とは思いますが、
     問題があれば出てもらいますよ?」

    黒髪「大丈夫よー。
     ちゃんと友達のためになるように、
     私だってがんばるから」にこっ

    ひき娘「ありがとー」にぱっ

    男「……では、授業をはじめますか」


    281: ◆LZfAlLlryk 2011/04/19(火) 00:51:39.74 ID:P3g7+O6so


    男(普段よりひき娘さんの緊張が、
     幾分か少ないようですね。

     建前もあって、
     口では渋っていますが、
     それだけでも悪くない話です)

    男(しかし、本当に何が目的でしょうか)

    男(私の見る限り、
     黒髪さんはあまり、
     無駄なことに時間は使わない人です)


    282: ◆LZfAlLlryk 2011/04/19(火) 00:52:33.80 ID:P3g7+O6so


    男(塾でも、
     友人同士の馴れ合いなどは、
     必要以上に行っていない様子……

     もちろん、空気を悪くしない程度に、
     適度に、ですが)

    男(……考えても仕方ありませんね。
     黒髪さん自身が提案した利点もあります。
     それは存分に活かさせてもらいましょうか)


    283: ◆LZfAlLlryk 2011/04/19(火) 00:53:14.54 ID:P3g7+O6so

    ----------------------------------
      二十二日目 ひき娘の部屋

    男「はい、それでは手を置いてください」

    ひき娘「はんにゃー……」ぐったり

    黒髪「ふぅ……」こきこき

    男「では少しだけ休憩です。
     その間に二人の答案を見ますので、
     ストレッチやお手洗いなど、
     済ませて置いてください」

    ひき娘「はぁい…………
     ん、くぅー」せのびー

    黒髪「じゃ、私はちょっと、
     お花を摘んでくるわね」

    ひき娘「うん、どうぞー」

     かちゃん


    285: ◆LZfAlLlryk 2011/04/19(火) 00:53:45.59 ID:P3g7+O6so


    男 さらさらさらっ

    ひき娘 ちらっ

    男 さらさらさらっ

    ひき娘「あ、あの……」

    男 さらっ

    男「はい?」

    ひき娘「えっと、その……
     黒髪さんとは……その……」

    男「はい」

    ひき娘「もしかして、恋人とか、」


    286: ◆LZfAlLlryk 2011/04/19(火) 00:54:12.67 ID:P3g7+O6so


    男「へ? 黒髪さんとは、
     多少仲が良いとは思いますが、
     ただの教師と生徒です。

     どう聞いていますか?」

    ひき娘「えっと、そ、それは」

    男「ああ、女同士の秘密、
     というやつでしょうか。
     ムリに云わなくてもいいですよ」

    ひき娘「そうしてもらえると、
     その、たすかります」


    287: ◆LZfAlLlryk 2011/04/19(火) 00:54:49.24 ID:P3g7+O6so


    ひき娘(ど、どうなのかな?

     『場合によっては、
     恋人になるって選択肢もある仲、
     って云えば良いかしら』なんて、

     黒髪さんは言ってたけど……)

    ひき娘(黒髪さんが、
     先生に片思いしてるって事かな?)

    男 さらさらさらっ


    288: ◆LZfAlLlryk 2011/04/19(火) 00:55:20.28 ID:P3g7+O6so


    ひき娘(確かに、ちょっとわかるかも。

     眼鏡だからっていうのもあるけど、
     すごく頭が良さそうで、
     実際、大学もいい所を卒業してるとか……)

    男「…………」さらさらさらっ

    ひき娘(普段はすっごく真面目で、
     話から伺える限りだとすごい努力家みたい。

     一度大切にするって決めたら、
     ずっと大切にしてもらえそうかも)


    289: ◆LZfAlLlryk 2011/04/19(火) 00:56:08.09 ID:P3g7+O6so


    男 さらさらっ

    ひき娘(それでいて、
     時々とってもいたずらっ子な笑顔があって……

     普段の真面目さとのギャップに、
     なんだか……なんだか?) じーっ

    ひき娘 ふるふる

    ひき娘(体力とかは普通そうだけど、
     それでも何か有ったら頼りになるような、
     落ち着いた安定感っていうのかな、
     守ってもらえそうっていう感じがするかも)

    ひき娘 じーっ

    男「……ひき娘さん」


    290: ◆LZfAlLlryk 2011/04/19(火) 00:56:34.36 ID:P3g7+O6so


    ひき娘(小さい頃に離婚しちゃって知らないけど、
     恋人にしたい人っていうより、
     お父さんになって欲しい人、みたいな)

    男「ひき娘さん?」

    ひき娘「はっ、ひゃい?」ばっ

    ひき娘「い、痛い……」

    男「ああ、噛んでしまいましたか。
     大丈夫ですか?」

    ひき娘「だ、大丈夫です」(///


    291: ◆LZfAlLlryk 2011/04/19(火) 00:58:01.72 ID:P3g7+O6so


    男「ひき娘さんと黒髪さんは、
     どういうつながりだったんですか?

     失礼ですが、
     黒髪さんはあまり、その……」

    ひき娘「あ、えっと、
     その、それは――」

     こんこんこん

    ひき娘 びくっ

    男「はい、どうぞ」


    292: ◆LZfAlLlryk 2011/04/19(火) 00:59:00.45 ID:P3g7+O6so


     がちゃ

    黒髪「あら、取り込み中じゃなかったの?」

    男「取り込もうとしていたら、
     黒髪さんが帰ってきてしまいました」

    黒髪「えっとそれは……
     ちょっと散歩にでも、
     行ってきた方がいいかしら?」にやっ

    ひき娘「そ、そんなの冗談だから!
     私も、お手洗い行ってきますっ」

     どたどた


    293: ◆LZfAlLlryk 2011/04/19(火) 00:59:42.46 ID:P3g7+O6so


    黒髪「……まさか、本当に?」

    男「いえいえまさか。
     そういう勘繰りは、お里が知れますよ?」

    黒髪「知られて困るような里じゃないわよ。
     それで、どうなの?」ずいっ

    男「近いですよ、黒髪さん」

    黒髪「どきどきしちゃいます?」

    男「違う意味でなら」にやっ

    黒髪「違う意味?」すっ

    男「黒髪さんに迫られると、
     何かの術中に落ちそうな気がします」

    黒髪「私って信用ないかしら」


    294: ◆LZfAlLlryk 2011/04/19(火) 01:00:10.62 ID:P3g7+O6so


    男「信用はしていますよ。
     信頼はできませんが」

    黒髪「まだまだ若いって、
     云いたいわけね」

    男「否定はしません。
     ただ、それ以上に」

    黒髪「それ以上に?」


    295: ◆LZfAlLlryk 2011/04/19(火) 01:00:37.55 ID:P3g7+O6so


    男「私は友人として、
     黒髪さんをかっていますからね。
     アナタは自分を、
     それほど安く扱う人ではないと」

    黒髪 ばんざーい

    黒髪「降参よ。
     そんな落とし文句を口にされて、
     いけしゃあしゃあとしていられるほど、
     私もできてないわ」

    男「では、降参させた褒美に、
     一つ教えてください」

    黒髪「何かしら?」


    296: ◆LZfAlLlryk 2011/04/19(火) 01:01:09.99 ID:P3g7+O6so


    男「なぜ、今日、こちらに?」

    黒髪「…………怖い人。
     ドコまで見通してるのかしら?」

    男「それはコチラのセリフですよ」

    黒髪「後でちゃんと話す、
     という事でどうかしら。
     先生はここには車かしら?」

    男「電車ではいささか不便ですから」

    黒髪「それなら、
     塾まで送ってもらえるかしら?
     話は車で」


    297: ◆LZfAlLlryk 2011/04/19(火) 01:02:04.19 ID:P3g7+O6so


    男「……迷うところですが、
     いいでしょう。

     ここで授業を終えた後では、
     場合によっては遅刻させる事にも、
     なるかもしれませんからね」

    黒髪「ありがとー、
     先生大好きよ☆」

    男「現金な大好きですね」苦笑

    男「さて、では、
     ひき娘さんが戻ってきたら、
     テストの解答を渡しましょう」


    298: ◆LZfAlLlryk 2011/04/19(火) 01:02:33.71 ID:P3g7+O6so

    ----------------------------------
      二十二日目 車の中

     ばたーん

    黒髪「あーもー、ダメ。
     今日は授業休ませてー……」ぐたっ

    男「何を云ってるんですか、まったく。
     さ、シートベルトをしめてください」

    黒髪「私を椅子に縛りつけて、
     身動きしにくいようにしたいなんて、
     先生ったらやらしー……」にやにや

    男「疲れてますねえ。
     いつもより冗句に品が無いですよ」

    黒髪「むっ……」いそいそ

    男「発車しますよ」

     ぶろろろろ


    299: ◆LZfAlLlryk 2011/04/19(火) 01:03:08.71 ID:P3g7+O6so


    黒髪「…………たぶん、
     もうわかってるんでしょ?」

    男「何がですか?」

    黒髪「私とひき娘の事」

    男「まあ、少しして、
     冷静に考えられるように、
     なってからですが」

    黒髪「そして私の恋心も」

    男「それは知りません」

    黒髪「む、それは気がついてよ」

    男「ふふ、とはいっても、
     煙ばかりで火は見えませんね」


    300: ◆LZfAlLlryk 2011/04/19(火) 01:03:46.39 ID:P3g7+O6so


    黒髪「火の無いところに煙は立たず、
     って云わせたいの?」

    男「中国の周に幽王という人がいましてね」

    黒髪「周っていうと、
     封神演義の頃ね」

    男「それはフィクションですがね。
     コチラは紀元前八世紀の史実です。

     ある日、敵襲を知らせる狼煙が間違って上がり、
     敵襲だと騒いだ諸侯が集結しました。

     その慌てぶりを幽王の愛する寵姫が目にして、
     たいそう可愛らしく笑ったため、
     以来、しばしば無用に狼煙を上げたとか。

     その結果、諸侯の機嫌を損ねてしまい
     本当に反乱が起きたときには、
     誰も助けに来なかったそうです」


    301: ◆LZfAlLlryk 2011/04/19(火) 01:04:13.77 ID:P3g7+O6so


    黒髪「その心はなによ」むすっ

    男「あまり大人をからかわないように、
     といったところです。
     ウソは言葉を軽くしますからね」

    黒髪「でも、オオカミ少年でも幽王も、
     最後は本当のことを言うでしょ?」

    男「では、最後という機会であれば、
     本当のことが聞けると、
     そう覚えておきましょう」

    黒髪「ふふっ、後で後悔しないでね?」

    男「本当だったなら、
     後悔しないとは云いません」苦笑

    黒髪 むっ


    302: ◆LZfAlLlryk 2011/04/19(火) 01:04:39.54 ID:P3g7+O6so


    男「さて、
     では雑談はこの程度にして、
     そろそろ本題を話しましょう」

    黒髪「……そうね。
     結論から言えば、
     先生に紹介したsugomoriと、
     あのひき娘は同一人物よ」

    男「やはり、そうですか」

    黒髪「見覚えはないの?」

    男「私の担当学年では無いので、
     さすがに憶えていないですよ。
     その頃の話をすれば、
     もしかしたら思い出すかもしれませんが……」


    303: ◆LZfAlLlryk 2011/04/19(火) 01:05:07.99 ID:P3g7+O6so


    黒髪「それと一緒に、
     あの子のいじめの記憶も」

    男「呼び覚ましてしまうかも知れません。
     なので、しばらくは、
     その話はしないつもりです」

    黒髪「私も気をつけるわ。
     うっかり云わないように」

    男「それがいいですね……ただ」

    黒髪「なにかしら」

    男「私は、私だと云ったものか、
     悩んでいます」

    黒髪「……ああ、twitterのことね。
     先生がmeganeさんですって」


    304: ◆LZfAlLlryk 2011/04/19(火) 01:05:33.63 ID:P3g7+O6so


    男「はい。
     ウソは嫌いなので、
     もし聞かれれば肯定しますが。
     自分から言い出す必要もないかなと」

    黒髪「私からは、
     特にどちらという気もないけど……
     バレると問題があるの?」

    男「おそらく、問題はないでしょう。
     ただ、利点はありそうですね」

    黒髪「たとえば?」


    305: ◆LZfAlLlryk 2011/04/19(火) 01:06:59.77 ID:P3g7+O6so


    男「私の事について、
     なにか気に障る点などが有れば、
     数少ない異性の知り合いとして――」

    黒髪「唯一ね」

    男「唯一の異性の知り合いとして、 
     その不満を打ち明ける相手になれば……

     彼女に今以上にストレスなく、
     接してもらえるだろうと思います。

     卑怯な考えですが」


    306: ◆LZfAlLlryk 2011/04/19(火) 01:07:58.13 ID:P3g7+O6so


    黒髪「卑怯ね。
     でも、間違ってはいないわ。

     ひき娘みたいに、
     悩みを抱え込むような子が相手なら、
     武器は多いほうがいいとは、
     私も思うもの」

    男「同じ見解で何よりです」にこっ

    黒髪「そうと決まれば、
     私からは何も云わないわ」


    307: ◆LZfAlLlryk 2011/04/19(火) 01:08:31.06 ID:P3g7+O6so


    男「わかりました」

    黒髪「ただ――」

    男「はい?」

    黒髪「いえ。
     また何か有ったら教えて。
     共通の『友人』も、
     できたことだし」

    男「……そうですね」苦笑


    315: ◆LZfAlLlryk 2011/04/20(水) 00:19:43.19 ID:/TFMvsV3o

    ----------------------------------
      二十二日目 教員室

    黒髪 ひょいっ

    女生徒「それでですねー、
     うちの教師ったら私の胸元ばっかりみてー」

    男「それは嬉しくないですよね。
     とはいえ、教師もやはり男です。
     もう少し隠していただけたほうが、
     わたしとしてもやりやすいですが」苦笑

    女生徒「えーやだー、
     せんせーも興味あるの?」にやにや


    316: ◆LZfAlLlryk 2011/04/20(水) 00:20:48.37 ID:/TFMvsV3o


    男「それは男性ですからね。
     とはいえ、
     やはり目を見れば、
     相手がどこを見ているかは分かります。

     だからわたしは、
     できる限り相手の目を、
     見るようにしています」

    女生徒「あはは、
     せんせーったらなんかかわいー」

    男「だから、
     女生徒さんが授業中、
     ずっと黒板以外を見ていたのも、
     もちろん知っていますよ」にこっ


    317: ◆LZfAlLlryk 2011/04/20(水) 00:22:18.50 ID:/TFMvsV3o


    女生徒「うわ、
     マジかんべんなんだけど」

    男「女生徒さんが見つめていたのは、
     斜め前の……」

    女生徒「すとっぷすとーっぷ」

    男・女生徒「あははは」

    黒髪「忙しそうね……」とことこ


    319: ◆LZfAlLlryk 2011/04/20(水) 00:24:22.46 ID:/TFMvsV3o


     とことこ

    友「ん、よぉ……たしか」

    黒髪「こんばんわ、友先生。
     黒髪です」にこっ

    友「あーそうそう、黒髪ちゃん。
     どう、勉強の調子は」

    黒髪「先生たちのおかげで、
     模試も志望校に問題ないと」

    友「ほー。確か志望校は、
     俺らと同じだったっけ?」

    黒髪「あら、
     名前は覚えてないのに、
     志望校は覚えているんです?」


    320: ◆LZfAlLlryk 2011/04/20(水) 00:26:57.87 ID:/TFMvsV3o


    友「そういう言い方はないぜ」苦笑

    黒髪「ごめんなさい。
     ちょっとした冗句です」にこっ

    友「……まああれだ。
     もしよけりゃ、
     この後少し時間はねえか?」

    黒髪「時間、ですか?」

    友「先輩の俺から、
     対策をちょいとね」ウィンク

    黒髪「……」

    友「ま、一時間したらちゃんと送るよ。
     心配なさんな」にかっ


    321: ◆LZfAlLlryk 2011/04/20(水) 00:30:16.02 ID:/TFMvsV3o


    黒髪「……では、一時間だけ」にこっ

    友「そんじゃ、俺は男に一言残してくる。
     このビルの下……はマズいな。
     駅前のアーケードあるの、わかるかな?」

    黒髪「はい、わかりますよ」

    友「その通りにある第一書森のところ、
     右に一本入ると小さなビルが有ってな。
     その二階の店で落ち合おう」

    黒髪「……ずいぶん用心しますね」

    友「用心っつーか。
     俺の秘密の巣なんだ。
     だから、大勢に教えちゃいけないぜ?」

    黒髪「わかりました。
     では、お先に」へこっ

    友「おう」


    322: ◆LZfAlLlryk 2011/04/20(水) 00:35:12.72 ID:/TFMvsV3o

    ----------------------------------
      二十二日目 BAR琥珀亭

     からんからーん♪

    友「じゃまするぜー」

    店主「……」

    友「俺の連れが来てるはずだけどよ」

    店主 くいっ

    友「あいよ。
     あ、ついでにいつものと、
     なんかノンアルコールの。頼む」

    店主 こくっ


    323: ◆LZfAlLlryk 2011/04/20(水) 00:39:04.79 ID:/TFMvsV3o


     とことこ

    友「やーやー。
     悪いね。待たせちゃって」

    黒髪「構いませんよ」にこっ

    友「……あの店主、
     愛想ないだろ」ぼそぼそ。にやっ

    黒髪「ええ。びっくりするくらい……
     でも、優しい方ですね」

    友「そうかぁ?
     ま、そうかもな」


    324: ◆LZfAlLlryk 2011/04/20(水) 00:39:33.19 ID:/TFMvsV3o


    黒髪「サービスって言って。
     こちらのジュースをくれて」

    店主 とことこ。ことっ。

    友「ども、サンキュですよ」

    店主 こくっ。とことこ

    友「ま、美人サービスだな。
     俺に対してはただの無愛想だ」

    黒髪「あら、それって、
     間接的にほめてもらってます?」じっ


    325: ◆LZfAlLlryk 2011/04/20(水) 00:40:55.47 ID:/TFMvsV3o


    友「ま、まあ、な」たじっ

    黒髪「ふふっ、ありがとうございます」にこっ

    友(うあー。
     男ったら、こんな女とよくいられるな……)

    黒髪「それで、
     ご用件はなんです?」

    友「それはほら、さっき言った……」

    黒髪「建前はいりませんわ。
     志望校への試験対策なら、
     教材の充実している塾の教員室の方が、
     どう考えても向いていますよね」

    友「…………」


    326: ◆LZfAlLlryk 2011/04/20(水) 00:44:29.68 ID:/TFMvsV3o


    黒髪 かたっ。こくっこくっ

    黒髪「美味しいですね」

    友「……無愛想だが、味は確かだからな。
     まあ、あれだ。
     試験とか勉強を餌に釣った事は、
     まず謝る」ふかぶか

    黒髪「釣られたわけではないですが、
     面白くないお話なら、
     途中で帰らせてもらいますよ」にこっ

    友「あー。面白いかどうかってなら、
     面白くないかもしれんな」

    黒髪「……」


    327: ◆LZfAlLlryk 2011/04/20(水) 00:46:43.34 ID:/TFMvsV3o


    友「男にずいぶん近づいてるみたいだが、
     何が目当てなんだ?」じっ

    黒髪「……目当てなんて。
     勉強を教えてもらってるだけですよ。
     塾の生徒と、講師として」

    友「ついでに友人の面倒も、か?」

    黒髪「……」

    友「男は――あいつは、
     基本的に他人を頼らんやつだ。
     友達甲斐のかけらもねぇ」

    黒髪「そう、ですね」


    328: ◆LZfAlLlryk 2011/04/20(水) 00:51:01.87 ID:/TFMvsV3o


    友「だがまあ、
     あいつだって木石じゃねえ。

     見せないようにしてるが、
     悩みがあるならそれなりに影ができる。
     苦しんでたら、その分だけ元気がなくなる」

    黒髪「……苦しんでますか?」

    友「苦しんでるな」

    黒髪「……」

    友「……俺と男は、幼馴染でな。
     かなり古い付き合いだ。
     だから他の奴よりは、あいつに関しちゃ気がつくつもりだ」

    黒髪「見間違いなどでもないと」

    友「苦しんでるな。
     おまえさんがあいつに絡むようになってから」じいっ

    黒髪「……」すぃっ


    329: ◆LZfAlLlryk 2011/04/20(水) 00:53:35.38 ID:/TFMvsV3o


    友「もっとも、俺はおまえさんを責めちゃいねえよ。
     あれであいつも、三十路の男だ。

     悩むのも悩まねえのも、
     苦しむのも苦しまんのも、
     立つも座るも歩くも、
     あいつが選んですることだ」

    黒髪「……ではなぜ、
     私を呼んだんです?」

    友「難しいところだが、
     しいて言えば、あいつの尻拭いだ」

    黒髪「しりぬぐい、ですか」

    友「おう」


    330: ◆LZfAlLlryk 2011/04/20(水) 00:57:04.40 ID:/TFMvsV3o


    友 ぐいっ

    友「っかー。やっぱり仕事の後は酒だな!
     とくにこんな時は、酒だ」ぐいっ

    黒髪「こんな時?」

    友「気にすんなよ。
     まあ、それでな、
     俺は基本的に一人の男として、
     あんまりあいつの事情に首を突っ込む事はしないが。
     やっぱ、向き不向きはあってな」

    黒髪「……」

    友「あー、もうめんどくせぇ。
     ぐちゃぐちゃ前置きはいい。
     おい、黒髪ちゃんよ」

    黒髪「はい」

    友「お前さんな、悩んでるだろ」


    331: ◆LZfAlLlryk 2011/04/20(水) 01:00:24.61 ID:/TFMvsV3o


    黒髪「……」じっ

    友「悩みの内容なんざ、
     俺は魔術師でもなけりゃ超能力者でもねえ。
     ロクにわからんがな。
     伊達や酔狂で『先生』やってるわけじゃねえんだ。
     悩んでるガキくらい見りゃわかる」

    黒髪「そうなんですか?」

    友「おうよ。
     ……ま、何も悩んでないって言うなら、
     それはそれでいいが」ぐいっ

    黒髪「……」

    友「ほれ、氷が解ける前に飲んじまえ。
     足りなくなったら頼んでやるから」ずいっ

    黒髪「はい」ごくっ、ごくっ

    友「おう。
     酒じゃねえが、いい飲みっぷりだ」


    332: ◆LZfAlLlryk 2011/04/20(水) 01:04:03.29 ID:/TFMvsV3o


    黒髪「……ふぅ。
     落ち着きました」

    友「そうか。
     んで、どうだ。
     俺の勘はあたりか?」

    黒髪「…………確かに、悩んでます」

    友「ほう」

    黒髪「通ってる塾の先生に、
     塾の外で合わないか、なんて強要されて」ううっ

    友 ずべぇー

    黒髪「あら、大丈夫ですか?」

    友「じゃかぁしぃ!
     なんだ、人がせっかく気を回したのによ」

    黒髪「そうなんですか?」

    友「そうなんですよっ。
     くそっ。男のヤツの周りには、
     なんでこんなヤツらばっか集まるんだ」


    333: ◆LZfAlLlryk 2011/04/20(水) 01:06:42.10 ID:/TFMvsV3o


    黒髪「類が友を呼ぶのでしょう。
     ねえ、親友さん」にこっ

    友「けっ」

    黒髪「……そうですね。
     確かに、本当に悩んでます」

    友「知ってる」

    黒髪「でも、ちゃんと隠してたはずですけどね……」

    友「うぬぼれるな。
     これでも教師歴十五年だ!
     ガキなんざ見慣れてらぁ」

    黒髪「えっと、今年でおいくつでしたっけ?」

    友「男と同じで三十路だがな、
     あの塾は祖父のやってた塾だからな、
     年少クラスで手伝いしてたんだ」

    黒髪「ああ、なるほど……」


    334: ◆LZfAlLlryk 2011/04/20(水) 01:09:34.84 ID:/TFMvsV3o


    友「んで、どうなんだ?
     悩みが有るのはわかるが、
     話す気がないならわざわざ聞かねえよ。

     俺としちゃ、
     あくまで幼馴染の友人が困った顔してるから、
     ちょっとおせっかい焼いてるだけ、だからな」

    黒髪「……ここでの言葉は、
     秘密にしてもらえます?」

    友「それが望みならな」

    黒髪「では、他言無用で」

    友「あいよ」


    335: ◆LZfAlLlryk 2011/04/20(水) 01:16:20.25 ID:/TFMvsV3o


    黒髪「…………
     どこから、話しましょうか」

    友「最初からだろ」

    黒髪「……では、三年前の、
     四月から、ですかね」

    友「つまり、中学の入学式か」

    黒髪「はい。
     最初は普通のクラスで、
     みんな仲良くやっていたんですが……

     しばらくすると、
     女子にまとまりができて、
     そのまとまりに居ない子を、
     いじめというほどではないんですけど、
     はじくようになりましてね」


    336: ◆LZfAlLlryk 2011/04/20(水) 01:20:45.46 ID:/TFMvsV3o


    友「……女はおっかないな」

    黒髪「まあ、そんなのは良くある事ですよ。
     男子だって、多かれ少なかれ、あるみたいだし。

     そこでその時は少し体が弱かった私が、
     女子からあぶれましてね。

     体育とかも休みがちで、
     そういうのって女子の中だと……」

    友「あー、まあわかる。
     協調性がないとかいいだすアホがいるもんだ」

    黒髪「そんな理由で、
     女子から無視される事が何度か有って……

     それだけなら良かったんですけどね、
     私だけが、一部と中が悪いだけだったから」


    337: ◆LZfAlLlryk 2011/04/20(水) 01:24:29.97 ID:/TFMvsV3o


    友 からからっ、ぐびっ

    黒髪「二年生になって、
     どういう理由かは分からないんですけど、
     急に男の子たちが、私に好意を伝えてきて」

    友「二年か……
     確か、それなりに進学のいい私学だったよな」

    黒髪「はい」

    友「なら、ちょうど修学旅行の少し前だろ」

    黒髪「……なるほど。
     そういうワケね」

    友「中学二年の男子なんざ、
     頭の中は乙女よりもピンク色だからなー」


    338: ◆LZfAlLlryk 2011/04/20(水) 01:28:35.37 ID:/TFMvsV3o


    黒髪「話を戻しましょうか。
     それで、そういった事を伝えられたけど、
     私としては、
     他にやりたいことが有ったから、
     すべて断ってたんです」

    友「あー、なんか読めてきた」

    黒髪「たぶんそのとおりですよ。
     クラスでも人気の男子を断ったら、
     翌日からはもう、
     クラス中の女子から無視されたり、
     机とか物に落書きされたり……」

    友「もし受けてても、
     今度はまた違う排斥が有ったろうがな」

    黒髪「否定はしないですよ。
     まあ、そんなこんなで、
     いい加減私の方も、
     なにか解決策を打とうとしたところで……」


    339: ◆LZfAlLlryk 2011/04/20(水) 01:31:26.61 ID:/TFMvsV3o


    友「なんだよ、そんなの有ったのかよ」

    黒髪「それは色々と」にこっ

    友(な、なんだ、急に背筋がぞくっとしたぞ?!)ガクガク

    黒髪「そこで、
     ひき娘っていう子がみんなの前に立って、
     『黒髪さんをいじめないで』なんていっちゃって」

    友「あー、アウトだ」

    黒髪「はい。
     確かに私への行為は減ったけど、
     減った分の倍くらい、
     ひき娘にそのいじめが向いて……」

    友「……そうか」


    340: ◆LZfAlLlryk 2011/04/20(水) 01:34:35.46 ID:/TFMvsV3o


    黒髪「私としては、
     それが原因でひきこもった友人をたすけたい」

    友「それで、アイツに相談したわけか」

    黒髪「そういう事です。
     ただ、思った以上に先生が気にしちゃって」

    友「……それは嘘だろ?」苦笑

    黒髪「……ばれました?」

    友「わかるっての。
     男を巻き込むつもりは満々だった。
     理由は知らんがな」

    黒髪「……」

    友「別に責めちゃいないさ。
     さっきも言ったが、
     どうするにしたって、あいつも大人だ。
     巻き込まれたくなければ関わらん。
     関わったのなら、あいつにやる気があったって事だ」

    黒髪「そうですかね?」


    341: ◆LZfAlLlryk 2011/04/20(水) 01:38:00.87 ID:/TFMvsV3o


    友「でだ。
     あいつが乗り出した事で、
     俺から考えりゃ、悩みは無くなったハズだが。
     どうにも、まだ何かあるだろ」

    黒髪「……厄介ねぇ」

    友「……」

    黒髪「友先生みたいに、
     『鼻の利く』人って、苦手なのよ」

    友「なんだ、迷惑か?」

    黒髪「迷惑なら帰ってるわよ。
     わかってて聞いてるでしょ」

    友「いや、わからん。
     俺は男と違って、
     気取ってるやつの機微なんざわからんからな」


    342: ◆LZfAlLlryk 2011/04/20(水) 01:42:15.24 ID:/TFMvsV3o


    黒髪「友先生が気取らなさすぎでしょ」

    友「よく云われるな」きりっ

    黒髪「ほめてないわよ。
     まあ、そうね。
     悩んでるわよ。とっても」

    友「何をだ?
     話せば楽になるかもしれねえよ?」

    黒髪「…………
     私ね、きっとどこかで、
     ひき娘の事を嫌ってるのよ。
     ……見ていてイライラするの」

    友「……」

    黒髪「無邪気な笑顔。
     努力家なところ。
     良くないものを良くないって云える高潔さ。
     ちょっと抜けてる可愛らしさ」


    343: ◆LZfAlLlryk 2011/04/20(水) 01:45:52.37 ID:/TFMvsV3o


    友「褒め続けだな」

    黒髪「ええ。
     だって、そんな風に、
     私が持ちたくて持てないものを、
     たくさん持ってるところが、
     妬ましくて疎ましいから」

    友「……なるほどなぁ」

    黒髪「あの子の事は大好きよ。
     助けてくれてた恩人だし、
     実は中学は別だったんだけど、親友だったわ」

    友「過去形か?」

    黒髪「今でも親友よ。
     むしろもう、恋人みたいな?」にこっ

    友「茶化さんでもいいぜ」苦笑


    344: ◆LZfAlLlryk 2011/04/20(水) 01:51:59.49 ID:/TFMvsV3o


    黒髪「何よ、人がせっかく……
     とにかく、私としては、
     ひき娘は大切にしたい相手なの」

    友「それで、男を巻き込んだのか」

    黒髪「…………そうよ」

    友「……それでいいのか?」

    黒髪「…………」

    友「なんとなく俺には、
     それだけじゃねえように見えるぜ?
     黒髪ちゃんよ。
     お前さん、実は男を巻き込んだ理由は――」


    345: ◆LZfAlLlryk 2011/04/20(水) 01:52:48.88 ID:/TFMvsV3o


    黒髪 ふるふる

    友「……まあ、俺は別にいいぜ。
     友達の友達が悩んでるから、
     善意で協力しようとしただけだ。
     だが、悩みたいってなら、あえて何も言わん」

    黒髪「…………」

    友「さて、そろそろ約束の一時間だ。送ろう」

    黒髪「…………はい」


    351: ◆LZfAlLlryk 2011/04/21(木) 00:24:11.12 ID:Q5PfHxA6o

    ----------------------------------
      三十日目 TL:sugomori

    sugomori:おおー、ついにナドレが変身!

    megane:さっきのフォーメーションといい、
     今日のメンバーはヤル気ですね。

    sugomori:だってだって、
     幸せそうな罪の無い人を殺したんですよ!
     ソレスタルビーイングと、
     AEUの紛争の理由を増やしたんです、
     立派な紛争幇助ですよ!


    352: ◆LZfAlLlryk 2011/04/21(木) 00:25:03.88 ID:Q5PfHxA6o


    megane:そうですね。
     おや、おもったよりあっさり、
     彼らが撤退しましたね。

    sugomori:あうー。
     なんでわざわざ、
     ロックオンさん飛んでくるんでしょうか。
     大気圏外狙えるなら、
     水平線くらいから狙えばいいのにっ。

    megane:……なかなか物騒ですね。


    353: ◆LZfAlLlryk 2011/04/21(木) 00:26:12.79 ID:Q5PfHxA6o


    sugomori:むうむぅ(>_<)
     スローネさんたちは嫌いですからね!
     エクシアとヴァーチェはいいとしても、
     ロックオン兄さんには、
     長距離で倒して欲しかった(>_<)

    megane:まあ確かに、
     狙撃兵がわざわざ、
     すぐ目の前にやってきて、
     ライフルを振り回されても(笑)

    sugomori:ですよねっ!

    megane:大気圏外を狙えるなら、
     おおよそ五キロ程度の距離、
     レーザーの減衰も気にせず、
     撃てば良い気もしますが……

    sugomori:五キロって、
     どういう計算です?


    354: ◆LZfAlLlryk 2011/04/21(木) 00:28:22.01 ID:Q5PfHxA6o


    megane:先ほど、
     sugomoriさんが、
     水平線からーと云いましたよね。
     水平線はまでの距離はおおよそそれくらいなんですよ。

    sugomori:なんと。案外近いです……

    megane:もちろん、
     高さがあればもう少し遠くから見ることもできますがね。

    sugomori:ええっと、どうしてです?

    megane:水平線というのは、
     地球という球体の上に視点をとって、
     その点から引いた直線と、
     球体の接線の点だと考えましょう。


    355: ◆LZfAlLlryk 2011/04/21(木) 00:28:48.67 ID:Q5PfHxA6o


    sugomori:めもめも

    megane:その水平線の向こうに、
     直線に交わるものが有った場合……
     現実から考えれば、
     水平線という『壁』よりも、
     高さのあるものが存在すれば、
     当然見ることもできますよね。

    sugomori:おお、そうですね!

    megane:相手が低くても、
     コチラの高さがあれば、
     同じように接線は遠くなります。
     そうすると、
     球体の接線より手前に相手がいる状態になり、
     やはりコレも狙うことができます。


    356: ◆LZfAlLlryk 2011/04/21(木) 00:30:07.57 ID:Q5PfHxA6o


    sugomori:おおー

    megane:地球の円周は12700キロちょっと。
     計る場所によって違いますが、
     この数字を関数に代入して使えば、
     簡単におおよその接点を見つけられますよ。
     また、この演習の数字はセンターなどでも、
     教科によっては時々出題される数字です。

    sugomori:なんとっ。

    megane:また、ギリシャ時代には、
     二点の距離と、
     その点で作られる影の長さから、
     円の関数を使って、
     地球の大きさがある程度求められていますね。

    sugomori:…………


    357: ◆LZfAlLlryk 2011/04/21(木) 00:31:28.60 ID:Q5PfHxA6o


    megane:方程式というのは、
     変数を変えることで作られる、
     比例式ともいえます。
     この使い方に習熟しておくと、
     工夫をすることで、イロイロと便利ですよ。

    sugomori:meganeさんって、なんだか……

    megane:はい?

    sugomri:いえ、ちょっと、
     知り合いの先生ににてるなーって。

    megane:先生ですか。
     もし私が先生なら、
     きっとアニメの話だけで、
     授業時間がおわってしまいますよ(笑)


    358: ◆LZfAlLlryk 2011/04/21(木) 00:32:00.62 ID:Q5PfHxA6o


    sugomori:あはは、それはそれで、
     喜ばれそうな先生ですねd(・ー<*)ウィンク☆

    megane:おや、続きが始まりましたよ。
     ああ、沙慈君、辛そうですねぇ……

    sugomori:そうですよ、
     だってせっかく彼女に指輪を……
     指輪を……
     うわぁん(ノ_<。)

    megane:ああ、日本に……

    sugomori:スローネなんて大嫌いですよー><


    359: ◆LZfAlLlryk 2011/04/21(木) 00:32:27.07 ID:Q5PfHxA6o

    ----------------------------------
      三十一日目 ひき娘の部屋

    ひき娘 かりかりかりかり

    ひき娘(テスト始めてから、
     いつもより時間の読み上げが少ないかな?)

    ひき娘 ちらっ

    男 こくり……こくり

    ひき娘(なんだか、眠そうだよ……)

    ひき娘 かりかりかりかり

    ひき娘(今日は寝不足なのかな?
     先生も、昨日のガンダム見てて寝不足だったりして)


    360: ◆LZfAlLlryk 2011/04/21(木) 00:33:41.02 ID:Q5PfHxA6o


    ひき娘 ふるふる

    ひき娘(先生はアニメとか、
     見なさそうだよね。
     でも、寝不足なのは心配……)

     pipipipi pipipipi

    ひき娘「あっ」

    男「むっ。では、ペンを置いてください」

    ひき娘「は、はいぃ……」

    男「どうしました?」

    ひき娘「えっと、その、
     先生が眠そうだなって、
     気になってたら時間で……」


    361: ◆LZfAlLlryk 2011/04/21(木) 00:34:44.41 ID:Q5PfHxA6o


    男「む、気付かれてましたか」

    ひき娘「けっこう、お船こいでたので」

    男「本番のテストでも、
     寝ている子はいるかもしれません。
     集中を乱すのはダメですよ?」ふいっ

    ひき娘(ちょっとだけ、
     先生の頬が赤くなってるみたい?
     もしかして、ちょっと照れてるのかな?)

    男「…………それはそれとして、
     集中をそいでしまって、
     すみませんでした」へこっ


    362: ◆LZfAlLlryk 2011/04/21(木) 00:35:47.16 ID:Q5PfHxA6o


    ひき娘「い、いえ。
     ただその、体調は大丈夫ですか?」

    男「はい。
     ちょっと夜更かしをしてしまっただけなので」

    ひき娘「えっと、その。
     これから十五分だけ、
     休憩しませんか?」

    男「……」

    ひき娘「あの、やっぱり、
     眠いのは辛いし、
     先生はこの後塾で授業ですよね?」


    363: ◆LZfAlLlryk 2011/04/21(木) 00:36:41.31 ID:Q5PfHxA6o


    男「そうですが」

    ひき娘「じゃ、その十五分で、
     私はテストのダメだったところ、
     もう一度自分で見直したいです!
     お手洗いも行きたいですが……」おずおず

    男「……すみません。
     では十五分だけ、
     お時間を下さい」

    ひき娘「はいっ」にこっ

    男「えっと、コチラのクッション、
     お借りしても良いですか?」


    364: ◆LZfAlLlryk 2011/04/21(木) 00:37:21.82 ID:Q5PfHxA6o


    ひき娘「あ、その。
     寝るならベッドで」

    男 ちらっ

    男「いえ。
     やはり女性の寝具を借りるわけにはいきません」

    ひき娘「気になりますか?
     そうですよね、
     その、一応整えてますけど、
     私がねた後じゃ、気になって……」

    男「そういうわけでは、ないですが」


    365: ◆LZfAlLlryk 2011/04/21(木) 00:38:42.57 ID:Q5PfHxA6o


    ひき娘 じっ

    男「…………わかりました。
     確かに、効率的な疲労回復には、
     寝具も重要な役割があります。
     ここはお借りします」

    ひき娘「はいっ」にぱっ

    男 ごそごそ

    ひき娘「じゃ、私は一度、
     お手洗いに行ってきますね」

    男「はい……」


    366: ◆LZfAlLlryk 2011/04/21(木) 00:39:18.73 ID:Q5PfHxA6o


    ひき娘 とことこ

     ぱたん

    ひき娘(いつものやり取りだったら、
     私がからかわれてるけど、
     ホントに疲れてるみたいで、心配)

    ひき娘(そういえば、
     テストの問題とかって、
     先生が自分で準備して、
     さらに私の宿題とかテストの採点、
     他にも塾のお仕事があって……)

    ひき娘(うん、疲れて当然だよね……)

     とことこ

     がちゃ

     じゃー

     ぱたん


    367: ◆LZfAlLlryk 2011/04/21(木) 00:39:44.97 ID:Q5PfHxA6o


     とことこ

    ひき娘(先生、
     もう寝てるかな?)

     そっ。かちゃり

    ひき娘 そーっ

    ひき娘(あ、寝てるみたい)

    ひき娘 そーっ、そーっ

    ひき娘(先生の寝顔……)


    368: ◆LZfAlLlryk 2011/04/21(木) 00:40:12.80 ID:Q5PfHxA6o


    ひき娘(いつもより、
     なんか優しい顔?)

    ひき娘(先生っていつも、
     ぎゅっと眉をしかめてるみたいだから、ちょっと意外)

    ひき娘 そっ

    ひき娘(先生の髪、
     ちょっと硬くて、
     男の人ーってかんじ)


    369: ◆LZfAlLlryk 2011/04/21(木) 00:40:48.05 ID:Q5PfHxA6o


    ひき娘(前に黒髪さんが泊まった時は、
     やわらかい髪っていいなーっておもったけど)

    ひき娘 なで、なで

    ひき娘(こういう硬い髪の人も、
     撫でるのに、気持ちいいかも。
     なんだか大きな、
     そう、シェパードみたいなわんちゃんみたいで!)

    ひき娘 なで、なで

    男 すぅ、すぅ


    370: ◆LZfAlLlryk 2011/04/21(木) 00:41:19.32 ID:Q5PfHxA6o


    ひき娘 なで、なで

    男 すぅ、すぅ。にっ

    ひき娘 どきっ

    男 すぅ、すぅ

    ひき娘(……いま、笑ってました、よね。
     いつもみたいに、
     すこし皮肉っぽい笑顔じゃなくて。
     無防備な)なで、なで

    男 すぅ、すぅ……つぅ


    371: ◆LZfAlLlryk 2011/04/21(木) 00:41:57.48 ID:Q5PfHxA6o


    ひき娘「っ」ぴくっ

    ひき娘(なんで、涙を)

    男 すぅ、すぅ

    ひき娘(無意識に、ですかね。
     何か、つらいユメでも、
     見ているんでしょうか……)

    ひき娘 なで、なで

    ひき娘(大人の、男のひとなのに)

    ひき娘 なで、なで


    372: ◆LZfAlLlryk 2011/04/21(木) 00:42:24.74 ID:Q5PfHxA6o


    ひき娘(大人の男の人、だから?)

    ひき娘(先生は、
     誰かに甘えられるのかな?
     つらい時に、
     誰かに辛いって云えるの?)

    ひき娘 なで……

    ひき娘(寂しい時に隣にいてくれる、
     恋人さんとか、いないのかな?)

    ひき娘 つくん

    ひき娘(なんで、胸、痛いのかな?)

    男 すぅ、すぅ

    ひき娘「……っ」ぽろ、ぽろ


    373: ◆LZfAlLlryk 2011/04/21(木) 00:43:05.04 ID:Q5PfHxA6o


    ひき娘(なんで、
     今度は私が泣けて来ちゃうのかな?)

    男 すぅ、すぅ

    ひき娘(分かんない。
     なんだか、ぜんぶ、
     ぜんぜんわからないよ……)

    男 すぅ、すぅ

    ひき娘 ぐしぐし

    ひき娘 なで、なで

    男 にっ。すぅ、すぅ

    ひき娘 にこっ


    374: ◆LZfAlLlryk 2011/04/21(木) 00:44:11.51 ID:Q5PfHxA6o


    ひき娘(丁寧で、
     まじめで、
     少しかたくて、
     ちょっとだけロボットみたいな先生)

    ひき娘 なで、なで

    ひき娘(でも、先生だって……)

    ひき娘 ぎしっ


    375: ◆LZfAlLlryk 2011/04/21(木) 00:46:15.72 ID:Q5PfHxA6o


    ひき娘(ほっぺただけど、しちゃった……)

    ひき娘 とたとた

    ひき娘(つ、つつつつつ、
     つい、いきおい、勢いあまって!)

    ひき娘(なんだか恥ずかしい?
     恥ずかしいよね!
     恥ずかしくなってきた!!)(////

    ひき娘(うわわわわ)

    ひき娘 ちらっ

    男 すぅ、すぅ


    376: ◆LZfAlLlryk 2011/04/21(木) 00:48:11.57 ID:Q5PfHxA6o


    ひき娘(へ、平常心ですよ。
     深呼吸して!)

    ひき娘 ひーひーふー

    ひき娘(って、ちがーう!)

    ひき娘 ばたばた

    ひき娘(うわーもう、
     なんでこう、
     考えないで行動しちゃうかなー)

    ひき娘(もう、もうなんだか、
     わけ分かんないですよ!
     なんでほっぺたとはいえ!)

    ひき娘 ごろごろ


    377: ◆LZfAlLlryk 2011/04/21(木) 00:50:25.13 ID:Q5PfHxA6o


    ひき娘(……でも、でも。
     いやなドキドキじゃ、
     ない、よね)

    ひき娘(……)

    ひき娘「にゃぁ……」

    男「……猫のまねですか?」

    ひき娘「ふにゃぁっ?!
     って、か、噛みました!」

    男「大丈夫ですか」ぎしっ。とことこ

    ひき娘「あ、あの、その。
     いつから、起きてました、か……」さぁーっ

    ひき娘(も、もし、
     寝てなかったら。
     あの時、起きてたら……)


    378: ◆LZfAlLlryk 2011/04/21(木) 00:52:50.10 ID:Q5PfHxA6o


    男「なにやらばたばたなさっていたので、
     それで目が覚めましたけど……」

    ひき娘(い、いまだよね。
     そう、今のはず、今に違いないですっ)

    男「顔が赤いですが、
     大丈夫ですか?」

    ひき娘「……だい、じょうぶ、です」

    男「……」すっ

    ひき娘「ひぅっ」びくぅっ

    ひき娘(ひひひ、ひたい、が、
     当たってて、
     それ以外にも、
     目とか、鼻とかくちびるとか、
     ちかいです、近すぎですっ!)


    379: ◆LZfAlLlryk 2011/04/21(木) 00:55:48.77 ID:Q5PfHxA6o


    男「……少し熱が有るようですね。
     すみません、
     こちらばかり気を使わせて」へこっ

    ひき娘「あ、えっと、その」

    男「しかし、体調が悪いようなら、
     きちんと申告をしてください。
     今日は、もう授業は終わりますか?」

    ひき娘「だいじょうぶ、です。
     その、ちょっと、部屋が暑くて。
     空気の入れ替えしたら、
     それで大丈夫です!」

    男「そ、そうですか」

    男(なんだか、
     今日はひき娘さんがいつもより、
     ずいぶん押しが強いですね)


    380: ◆LZfAlLlryk 2011/04/21(木) 00:57:29.01 ID:Q5PfHxA6o


    ひき娘 とことこ

     がらっ

     そよそよー

    ひき娘「……良い風です」

    男「そうですね」

     そよそよー

    ひき娘「その、
     もうちょっとだけ涼んだら、
     授業再開しましょう」

    男「ムリはしていませんか?」

    ひき娘「はい」にこっ

    男「では、少ししたら、
     再開しましょう」

     そよそよー 


    381: ◆LZfAlLlryk 2011/04/21(木) 01:02:00.74 ID:Q5PfHxA6o


    ひき娘(さっきのは、
     ほんの気まぐれ、ですよ……)

    男 せのびー

    ひき娘「……先生、
     なんか、ネコみたいですよ。ふふっ」

    男「そうですか?
     犬のよう、とはよく言われますが」

    ひき娘「そう言われると、そうかも?」

    男「どっちですか」苦笑

    ひき娘(優しくて、少しだけシニカルな笑顔。
     でも、この人の中には、
     あんなに素直な笑顔と涙があって)

    ひき娘「……明日、
     晴れると良いですね」

    男「ふむ。晴れますね」


    382: ◆LZfAlLlryk 2011/04/21(木) 01:04:14.52 ID:Q5PfHxA6o


    ひき娘「晴れますか」にこっ

    男「西の空の夕焼けがきれいなら、
     翌日に雲が届きそうな範囲に、
     雨雲がないということです。
     なので、基本的には晴れます」

    ひき娘「……ちょっと、ロマンはないです」ぼそっ

    男「はい?」

    ひき娘「なんでもないです。ふふっ」

    男「?」

    ひき娘(夕焼けに染まる、
     赤い部屋の中で。
     私のベッドで眠る先生のほっぺたに。
     私は、キスを、してしまいました)


    388: ◆LZfAlLlryk 2011/04/23(土) 00:30:00.89 ID:ZHyd2CHMo

    ----------------------------------
      三十三日目 ひき娘の部屋

    ひき娘 かきかきかきかき
    黒髪 かきかきかきかき

    ひき娘「でね、ちょっと意外だったのが、
     先生って少し子供みたいなところがあってね」

    黒髪「へー。どんなところ?」

    ひき娘「時々コンビニでね、
     私が好きって云った、
     イチゴのジュースとか、
     買ってきてくれるの」

    黒髪「あ、そういう人よね。
     朴念仁な生真面目に見えて、
     そういう気配りは忘れないタイプ」


    389: ◆LZfAlLlryk 2011/04/23(土) 00:30:46.38 ID:ZHyd2CHMo


    ひき娘「そ、そんな風に、
     分類されるほどいるんだ……」

    黒髪「探せばいるわよー。
     個人的には、友達にしたいタイプね。
     彼氏とかダンナには、
     ちょっと不向きかも……
     って、ほら、ひき娘、
     手が止まってるわよ」

    ひき娘「む、黒髪さんもだよ。
     こんな調子じゃ、
     宿題おわらないかも……」

    黒髪 かきかきかきかき
    ひき娘 かきかきかきかき

    黒髪「どんな言い訳よ。
     いま終わらなかったら、
     お肌荒れるの覚悟で徹夜よ」

    ひき娘「う……
     それはイヤかなー……」

    黒髪 かきかきかきかき
    ひき娘 かきかきかきかき


    390: ◆LZfAlLlryk 2011/04/23(土) 00:31:19.50 ID:ZHyd2CHMo


    黒髪「で、子供っぽいって、
     どんなところがそうなの?」

    ひき娘「えとね、そういう時って、
     先生も自分の分を買ってくるけど、
     帰る頃には先生のジュースだけ、
     ストローがぐにょぐにょで」

    黒髪「ストロー噛んじゃうって、
     確かに子供みたいよね。
     ちょっと意外かも」苦笑

    ひき娘「ね、ね。
     なんかそんなところが、
     普段よりちょっと子供みたいで、
     かわいいなーみたいな」


    391: ◆LZfAlLlryk 2011/04/23(土) 00:31:45.77 ID:ZHyd2CHMo


    黒髪 かきかきかきかき
    ひき娘 かきかきかきかき

    黒髪「うーん、
     その可愛いは、わかるような、
     わからないような……」

    ひき娘「えー」

    黒髪「ああ、でも。判るかも……」

    ひき娘「何かあったの?」

    黒髪「こないだね、
     塾の教員室に顔をだしたら、
     先生がすっごく真剣な表情でね」

    ひき娘「……な、なにがあったの?」

    黒髪「食べたガムの包み紙で、
     折り紙してたのよ」

    ひき娘 ずるぅっ


    392: ◆LZfAlLlryk 2011/04/23(土) 00:32:23.17 ID:ZHyd2CHMo


    黒髪「器用ねー。
     すわったままそんなにスベるなんて、
     ドリフもびっくりよ?」

    ひき娘「もう、からかわないでよー」

    黒髪「折り紙の話はウソじゃないわよ。
     でね、そこまではいいのよ。
     あの生真面目な先生が、
     っていう驚きだけで」

    ひき娘「うーん。
     確かにそうかも?」

    黒髪「それでね、
     出来上がったものを前に、
     真剣に腕を組んで悩むのよ」

    ひき娘「出来上がったのを前に、
     って……たとえば、
     端っこがズレてたとか?」


    393: ◆LZfAlLlryk 2011/04/23(土) 00:33:08.42 ID:ZHyd2CHMo


    黒髪「確かに先生なら、
     ソッチのほうがありそうよね。
     でもそうじゃなくて。

     こどもの日によく作る『兜』って、
     わかるかしら?」

    ひき娘「うん、なんとなく」

    黒髪「それを前に唸っててね、
     ボソっと。
     『鶴は、違いますよね……』って!

     もー、それ聞いて大爆笑よ!
     あの瞬間はなんていうか、
     不覚にもあの堅物に萌えたわ、ぷぷ」

    ひき娘「鶴、兜……
     ああ、確かになんだか、
     間違えそうな気が……
     する……え、しない?」

    黒髪「鶴の折り方よー。
     日本人なんだから、
     間違えるわけ無いじゃない、あはは」


    394: ◆LZfAlLlryk 2011/04/23(土) 00:33:35.29 ID:ZHyd2CHMo


    ひき娘「そ、そうだよねっ。
     って、また話込んじゃったよ」

    黒髪「あら、ついつい。
     でもなんとなく判ったわ。
     男先生、ちょっと萌えキャラ……ぷ」

    ひき娘「もー、
     笑ってたら宿題終わらないよー」

    黒髪「はーい」

    ひき娘(……で、鶴って、
     どうやって折るのかな……あうぅ)

    黒髪 かきかきかきかき
    ひき娘 かきかきかきかき

    ひき娘「あう、間違えちゃった……」

    ひき娘 けし……けし……


    395: ◆LZfAlLlryk 2011/04/23(土) 00:34:07.32 ID:ZHyd2CHMo


    黒髪「……ねえひき娘、
     その消しゴム、使いにくくないの?」

    ひき娘「え?」

    黒髪「かなり磨り減ってるじゃない。
     小指の爪くらいしか残って無いし……
     消しにくいでしょ」

    ひき娘「う、うん」

    黒髪「……?」

    ひき娘「でも、この消しゴム……
     先生にもらったのでね」

    黒髪(優しい微笑。
     大切な物に向ける眼差しで、
     小さな消しゴムをじっと見つめて)


    396: ◆LZfAlLlryk 2011/04/23(土) 00:34:45.34 ID:ZHyd2CHMo


    ひき娘「ほら、私ひきこもってるから、
     この部屋にはほとんど、
     まともに筆記用具がなくてね」

    黒髪「確かに、中学生が使ってそうな筆箱よねー」

    ひき娘「中学生が使ってたんだもん」むー

    黒髪「ふふ、むくれないでよ。
     可愛らしくていいじゃない」にこっ

    ひき娘「ううー…… 
     それで、この消しゴムはね、
     先生が何日か前に、
     よくがんばってるからって、
     プレゼントしてくれたの」にこっ

    黒髪(どこにでもあるような、
     可愛いけれど、安っぽい消しゴム。
     そんな物をぎゅっと握って、
     幸せそうに微笑むなんて)


    397: ◆LZfAlLlryk 2011/04/23(土) 00:35:27.41 ID:ZHyd2CHMo


    黒髪「とりあえず、ひき娘」

    ひき娘「?」

    黒髪「可愛くは無いけど、
     消えやすいから気に入っててね、
     良かったら使って」ごそごそ

    ひき娘「え、いいの?」

    黒髪「何かあった時のためにって、
     いつも一つは予備を持ち歩いてるのよ」

    ひき娘「でも、それなら……」

    黒髪「おばかねー。
     いまどき消しゴムなんてドコにでもあるんだから、
     帰る時にコンビニで買うわよ」にこっ

    ひき娘「あう、そっか、
     外にはコンビニとかあるもんね」(///


    398: ◆LZfAlLlryk 2011/04/23(土) 00:36:20.28 ID:ZHyd2CHMo


    ひき娘「それじゃ、使わせてもらうね」にこっ

    黒髪「はいはい」

    ひき娘 ごそごそ

    黒髪(小さくなって、
     もう使えない消しゴムを、
     枕元の宝石箱にそっと入れて)

    黒髪「……まったく。
     いじらしいわね」苦笑

    黒髪(気がついたら、
     自分の口からそんな言葉が零れて、
     誰よりも驚いたのは私自身。
     そんな事を言いたいわけじゃないのに)

    ひき娘「いじらしい?」


    399: ◆LZfAlLlryk 2011/04/23(土) 00:37:22.29 ID:ZHyd2CHMo


    黒髪「ひき娘の、その恋の仕方が、よ」

    黒髪(私は自分がいま、
     どんな顔をしているのかわからない。
     見守るような笑顔?
     支えるような笑顔?
     それとも――)

    ひき娘「こ、恋なんて……」(////

    黒髪「恋でしょ、ソレ」

    ひき娘「その、えっと」

    黒髪「わからないの? 本当に」

    ひき娘「……」

    黒髪「もう、ごまかしきれてないじゃない。自分にも」


    400: ◆LZfAlLlryk 2011/04/23(土) 00:38:15.38 ID:ZHyd2CHMo


    黒髪(逆さに向けた砂時計のように、
     私の言葉はとめることができない。
     それとも私には、
     すでに止めるつもりもないのか)

    黒髪「もし恋じゃないなら、
     ひき娘のソレは、なんて名前なのよ」

    ひき娘「…………うーん、その、ね。
     確かに、先生の事は、嫌いじゃないの」

    黒髪「……でしょ?」

    ひき娘「でも、なんていうか、
     今の私にはわからないんだけど。

     先生には、
     私の知らない先生があって、
     私の知ってる先生は、
     きっとまだ表だけなの」


    401: ◆LZfAlLlryk 2011/04/23(土) 00:38:50.43 ID:ZHyd2CHMo


    黒髪「そんなの、
     誰だってそんなもんよ?

     本音は尊いとか、
     ウソは良くないとか、
     確かにそれは正論だけどね、
     それじゃ世界は回らないのよ」

    黒髪(違う)

    ひき娘「違うの。
     それは確かにそうなんだけどね、
     私が言いたいのは、
     そういう事じゃなくて」

    黒髪(聞きたい。
     ひき娘の思いを。
     でも聞きたくない。
     ひき娘の思いだから)

    ひき娘「先生をね、
     包んであげる人に、
     なれたらいいなーって」にこっ(////


    402: ◆LZfAlLlryk 2011/04/23(土) 00:39:23.57 ID:ZHyd2CHMo


    黒髪(そんなのを聞いたら)

    黒髪「ばかねー」苦笑

    ひき娘「ば、ばかじゃないもん」(////

    黒髪「ばかよ。ばーか。大ばかよ」

    ひき娘「……黒髪さん?」

    黒髪「それをね」涙ぽろぽろ

    黒髪「愛って、呼ぶのよ」


    403: ◆LZfAlLlryk 2011/04/23(土) 00:39:50.85 ID:ZHyd2CHMo

    ----------------------------------
      三十三日目 教員室

    友「男ー、
     出勤したばっかりで悪いが、
     ちょっと時間もらえるか?」

    男「はい?
     大丈夫ですが」とことこ

    友「ま、そこ座れよ」

    男「はぁ……よっこいせ、と」

    友「おいおい、
     お前さ、それやめろよ」

    男「はい?」


    404: ◆LZfAlLlryk 2011/04/23(土) 00:40:20.11 ID:ZHyd2CHMo


    友「生徒が見てないからいいが、
     見てたら確実に、
     おっさんって、呼ばれるぜ?」

    男「はあ、まあ、
     年齢的にはもう三十路ですから、
     さして間違った表現とは思いませんが」

    友「ちがうだろ!
     三十路だからこそ若々しく、
     雄雄しく、猛々しく!」

    男「……さて、授業の準備をしますか」

    友「うぉおい!
     せめてツッコミくらいしてくれよ」

    男「まったく、面倒な人ですね」

    友「真面目な顔で云うなよ、
     いくら冗談でも傷つくだろ?」


    405: ◆LZfAlLlryk 2011/04/23(土) 00:40:46.08 ID:ZHyd2CHMo


    男「え?」

    友「は?」

    男「冗談を言ったつもりはないですよ」

    友「……なんで、
     なんで俺コイツ雇ったんだろ……
     って、そうじゃなかった。
     ちょっと話があったんだよ」

    男「何ですか?」

    友「この前、長い時間じゃなかったが、
     黒髪ちゃんだったか?
     彼女と話す機会があってな」

    男「……生徒を口説くのは関心できませんよ?」

    友「そんなんじゃねえよ!」


    406: ◆LZfAlLlryk 2011/04/23(土) 00:42:46.44 ID:ZHyd2CHMo


    男「しかし、確か黒髪さんの外見って、
     完全に友の好みですよね?

     小学校のときのあの子や、
     中学の時に当たって砕けたあの子、
     高校のときの――」

    友「だぁぁあああ! ダマレッ!
     コレだから幼馴染ってヤツは!
     どれもコレも振られて、

     未だに彼女いない暦
     =人生の俺を舐めてんのか……」うぐぅ

    男「かわいそうなので話を戻しましょうか」

    友「おい、本音出てるぞっ」ぐすっ


    407: ◆LZfAlLlryk 2011/04/23(土) 00:43:12.75 ID:ZHyd2CHMo


    男「それで、黒髪さんが何ですか?」

    友「コレはあくまで俺の勘だがな。
     黒髪ちゃん、お前に惚れてるぜ」

    男「……」

    友「……」

    男「え、それだけですか?」

    友「それだけ、ってなんだよ。
     云いたいことがあるならはっきり言え」

    男「いえ、なんというか、
     時間を取って損したなーと」

    友「はっきり言いすぎだ!
     あんな美少女が!
     しかも逆玉確実な子に惚れられて、
     その反応は何だよ」


    408: ◆LZfAlLlryk 2011/04/23(土) 00:43:44.67 ID:ZHyd2CHMo


    男「いえ、そういう冗談は、
     本人からよく言われているので」

    友「……冗談じゃないんだが」

    男「黒髪さんとしては、
     そんな惚れたのなんだのではなく、
     単純に会話を楽しんでいるだけでしょう」

    友「……あのな、
     お前がそう考えるのは勝手だが、
     一応言っておくぜ」

    男「はい」

    友「それでも一度でいい、
     黒髪ちゃんを恋人とか、
     そういう相手として、
     考えてみてやってくれよ」


    409: ◆LZfAlLlryk 2011/04/23(土) 00:44:50.10 ID:ZHyd2CHMo


    男「……」

    友「俺の推測が多いが、
     黒髪ちゃんって子はお前が好きだ。
     そして友達のひき娘ちゃんも好きだ」

    男「まあ、好意は感じていますが」

    友「口を挟むな。
     もしお前らがこのまま、
     ひき娘ちゃんと親しくし続けるなら、
     黒髪ちゃんは、
     そのまま大人しく身を引くだろうぜ」

    男「……」

    友「お前とひき娘ちゃんが、
     どういう関係になるのか、
     それともどうにもならんのかは、
     俺にはわからん」


    410: ◆LZfAlLlryk 2011/04/23(土) 00:45:47.19 ID:ZHyd2CHMo


    男「そんな……」

    友「だから黙ってろ。
     あの黒髪ちゃんって子は、
     俺の見立てじゃ強い子だ。
     自分の欲しいもののために、
     戦うことができる。

     だからたとえばお前が、
     そこらの女と付き合うってなら、
     彼女は手段を選ばず、
     お前を奪いにくるだろうさ」

    男「……」苦笑

    友「だが、あの黒髪ちゃんって子は、
     ひき娘ちゃんが相手なら、
     戦おうとすらしないだろうぜ。

     お前は、
     黒髪ちゃんがひき娘ちゃんに対して、
     どうしてあんなにこだわるか、わかるか?」


    411: ◆LZfAlLlryk 2011/04/23(土) 00:46:40.68 ID:ZHyd2CHMo


    男「元々親しかったから、と」

    友「それもある。
     だがな、それ以上に、
     黒髪ちゃんはひき娘ちゃんに対して、
     強い劣等感と、恩義を感じてるんだ」

    男「……」

    友「ひき娘ちゃんを助けて欲しいと、
     お前に対して頼んだのは、
     お前がひき娘ちゃんを助けられると思ったからじゃない」

    男「……それは」

    友「ひき娘ちゃんは助けたいだろうが、
     それはそれ、コレはコレだ。

     そこでまずお前を選んだのは、
     お前と一緒にいたかったからだと、
     俺は彼女の話を聞いて思ったぜ」


    412: ◆LZfAlLlryk 2011/04/23(土) 00:48:34.26 ID:ZHyd2CHMo


    男「……」

    友「だから一度でいい。
     彼女と向き合ってみろ。

     黒髪ちゃんって子は、
     周りのガキより段違いに賢い。

     可愛がってもらえる仮面や、
     鬱陶しく思われない仮面を、
     きちんと使い分けている、
     そこらの大人より大人なヤツだ。

     戦うって事がどんな事かも、
     おそらく分かってる。
     喧嘩とかじゃないぜ。
     金や情報、人の動かし方、
     そういった戦いだ。

     だからこそ、黒髪ちゃんは、
     友達を傷つける事を、恐れてる」


    413: ◆LZfAlLlryk 2011/04/23(土) 00:51:19.47 ID:ZHyd2CHMo


    男「だからわたしに」

    友「ああ。
     お前は一度、
     一人の男として、
     あいつに向き合うべきだ。

     その事に気がつかないで、
     冗談だろうと笑ってたら、
     お前は絶対にいつか後悔する」

    男「……わかりました」

    友「時間取らせたな」

    男「いえ、その価値は、
     十分以上に有ったと思います」


    414: ◆LZfAlLlryk 2011/04/23(土) 00:52:33.70 ID:ZHyd2CHMo


    友「それじゃ、
     俺はもう授業だからいくぜ」

     とことこ

     ぱたん

    男「……」

    男「黒髪さんの気持ちと向き合え」

    男「……それならむしろ、
     友さんが、友さん自信と、
     向き合うべきでしょうね」

    男「いったいどれだけ、
     心から向き合えば、
     それだけ相手の事が見えるのか」


    415: ◆LZfAlLlryk 2011/04/23(土) 00:54:21.64 ID:ZHyd2CHMo


    男「もっとも、
     それがまた友さんの良い処でもありますが……」

    男「さしあたって、
     性急にとは思いませんが、
     ゆっくりと状況を変えて……

     ひき娘さんとも黒髪さんとも、
     少し距離を取るべきでしょう」

    男「教師として……」


    420: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 00:06:07.14 ID:sMjSSDqzo

    ----------------------------------
      三十四日目 ひき娘の部屋

    男「では、今日の授業はここまでにしましょう」

    ひき娘「はいぃ~。
     お疲れ様でした」よろよろ、へこっ

    男「お疲れ様でした。
     それでは、失礼しますね」がさがさ

    ひき娘「え、あの……」

    男「はい?」

    ひき娘「あ、あの……
     もしかして今日は、
     何か急ぎの用事があったり、
     するんですか?」


    421: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 00:06:43.02 ID:sMjSSDqzo


    男「いえ、そのような事はありません。
     何かありましたか?」

    ひき娘「……その、
     いつもなら、少しお話したり、
     してくれるから……」ちらっ

    ひき娘(もうちょっと、
     先生と一緒にいたい……
     特に、今日は)

    男「…………そうですね」

    ひき娘「あ、あの」

    男「はい」

    ひき娘「その、先生は……」

    男「……」

    ひき娘「自分がここにいていいのか、
     いない方がいいんじゃないかって、
     思った事はありますか?」


    422: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 00:07:27.26 ID:sMjSSDqzo


    男「何か、ありましたか?」

    ひき娘「少しだけ」

    男「……」

    ひき娘「……」

    男「事情は、話してくれないようですね」苦笑

    ひき娘「ごめんなさい」

    男「では、観念的になりますが――
     わたしにもやはり、
     自分がここにいていいのかと悩む時はあります」

    ひき娘「……」


    423: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 00:08:13.46 ID:sMjSSDqzo


    男「自分がここにいてよいかという、
     存在とその価値とは、
     人にとってどのようなものか。

     マズローいわく、
     欲求には五つの階層があります。

     重要度が高い順に、
     『生理的欲求』『安全欲求』
     『愛情欲求』 『尊敬欲求』
     『自己実現欲求』
     となります。
     後者三つが、存在とその価値についての考えですね。

     欲求というのは、
     その生命と精神の存続に、
     必要となる要素を欲することです。
     必要以上を欲するのが、欲望です。

     つまり人間にとって、
     食べる事や安全である事についで、
     誰かに愛されること、
     誰かに価値を認められる事は、
     その精神に必要なことなのです」

    ひき娘「必要、なんですか」


    424: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 00:08:56.36 ID:sMjSSDqzo


    男「おそらく人の心にとって、
     誰かに認められたいと願う心は、
     喉が渇いているから、
     水が飲みたいと願うようなものなのでしょう」

    ひき娘「それなら、
     先生はどうして、
     自分が必要か悩むんですか?

     学校とか塾が有って、
     恋人さんとかも、いるんですよね?」

    ひき娘 つくん

    男「学校や塾といった、
     社会的な場はありますが、
     恋人はいませんよ」苦笑

    ひき娘 つくん


    425: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 00:09:31.62 ID:sMjSSDqzo


    男「もちろん何人か、
     お付き合いした経験もありますが、
     どちらからともなく別れてしまうのが、
     今までの常ですねぇ……」苦笑

    ひき娘「……」

    男「話がそれましたね。
     様々な事情はありましたが、
     わたしが学校を辞めたのは、
     自分が教師として必要だと思った、
     その考えを否定された事が理由です。

     わたしは本当に生きる価値があるか、
     教師として生きて良いのか。

     教師を辞めた際に、
     恋人とも破局しましてね。

     お酒に浸って現実を忘れようとしたりもしました」


    426: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 00:09:56.65 ID:sMjSSDqzo


    ひき娘「それでも、
     先生は、先生なんですね」

    男「当時の自分からすれば、
     今の自分がいることも、
     想像の埒外ですけどね」苦笑

    ひき娘「でも、先生が先生で、
     良かったです。
     こうして、出会えたから」

    男「……ありがとうございます」にこっ

    ひき娘「それで……その、
     たとえ話なんですけど」

    男「はい」

    ひき娘「もし先生が、
     先生がいることが、
     誰かを苦しめたりする時、
     先生は、どうしますか?」


    427: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 00:10:41.80 ID:sMjSSDqzo


    男「難しい質問ですね。
     それが自分にとって、
     どうでも良い集団からの場合、
     その集団を離れて、
     新しい集団を作れば話は済みますが……

     しかし、そうでないなら。
     自分にとって大切な相手や集団で、
     他に替えが無いと思うなら……」

    ひき娘「そんな時は」

    男「…………わかりません。
     そもそもこうした、
     観念的な話というのは、
     物事を抽象化し、
     その要素をパターンかする事で、
     解放を導く手段です。
     
     しかし、この件に関しては、
     パターン化できるほど単純ではありませんからね」


    428: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 00:11:10.51 ID:sMjSSDqzo


    ひき娘「……そうですよね」

    男「お役に立てなくて申し訳ありません」

    ひき娘「いえ」

    男「ただし」

    ひき娘「はい?」

    男「私や黒髪さんは、
     どんな状況であれ、
     ひき娘さんを大切にしたいと、
     そう思っていますよ」

    ひき娘「……っ」


    429: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 00:11:50.99 ID:sMjSSDqzo


    ひき娘(何か聞いたのかな?
     聞かないよね。
     ……言えないよね)

    男「ひき娘さんが何を悩み、
     どう思っているのか、
     どんな答えを出すかは、
     今の段階ではわかりません。

     しかし、私も黒髪さんも、
     ひき娘さんのことが大好きです。

     だから、
     わたし達の事は、信じてください」

    ひき娘「ぁ……ぅ…………」ぐすっ


    430: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 00:12:35.41 ID:sMjSSDqzo


    男(肩を落として、
     ぎゅっと手を握って耐える姿は、
     なんと小さい……)

    男(そんな小さな体で、
     また何を背負い込もうとしているのでしょうか)

    ひき娘「…………その、ありがとうございます」

    男(夕暮れの明かりの中で、
     目元が涙で少し光って……)

    男 すっ

    ひき娘「……っ」

    男 なで、なで


    431: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 00:13:00.20 ID:sMjSSDqzo


    ひき娘「いやぁっ!」 ぱしんッッ!

    ひき娘「あっ……」ぷるぷる

    男「っ、すみません、
     つい、その……」

    ひき娘「い、いえ。
     ご、ごめんなさい」ぷるぷる

    男(頭を撫でた瞬間、
     ひどく怯えた表情で、
     手を弾き飛ばされた……)


    432: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 00:13:48.36 ID:sMjSSDqzo


    ひき娘「そ、そそ、その、
     ホントに、ごめんなさい」ぶるぶる

    男「いえ、悪いのは、コチラです」

    男(歯の根が合わないほど震えて、
     指先の色が抜けるほど強く、
     手を握ってこらえている)

    ひき娘 はぁ……はぁ……

    男「すみません」

    ひき娘「きょ、今日は」ぷるぷる

    男「わかりました。
     また明後日に来ます」

    ひき娘「……すみません」

    男 ぐっ……とことこ

     ぱたん


    433: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 00:14:15.99 ID:sMjSSDqzo


    ひき娘 がたがた、ぶるぶる

    ひき娘 ぎゅぅ……

    ひき娘 がたがたがたがた

    ひき娘「思い出したく、ない」

    ひき娘「あんなこと」

    茶髪『おい、見てみろよ、
     コイツ怯えてるぜ?』

    ピアス『はは、お前が殴りすぎたんだろ?』

    刺青『お前らだって殴っただろ。
     まあ、コレでやっと、
     自分の立場がわかったろ? けけっ』


    434: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 00:14:44.53 ID:sMjSSDqzo


    茶髪『ほれ、教師が来る前に、
     やっちまおうぜ』

    ピアス『大丈夫だっての。
     ウチの親が教育委員会だからよ、
     教員なんざ、見たって何もいわねえよ』

    茶髪『ひひ、お陰でやりたい事ができるぜ』

    刺青『どうでもいいだろ、んなこと。
     おいひき娘、面倒だからお前、
     自分から服脱げよ。
     どうせ他の奴にも股開いてんだろ?』


    435: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 00:15:20.06 ID:sMjSSDqzo


    ピアス『え、脱がすの?
     どうせだし服破ってやろーぜ』

    茶髪『なんだよ、ピアスそーゆー趣味?
     ま、彼女あいてじゃできねえし、
     俺もさんせー』

    刺青『んじゃ、やっぱいいわ』チキッ

    刺青『ナイフ、見えるよな?
     刺されたくなけりゃ、
     せいぜい大人しくして、犯されろ』

    ひき娘『い、いや……っ』

    ピアス『イヤ、じゃねーの』げしっ


    436: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 00:15:55.87 ID:sMjSSDqzo


    ?『君たち、何をしてる!』

    ピアス『げ、よりにもよってアイツかよ』

    茶髪『ひひ、ママの七光りはどうしたよ』

    ピアス『知ってるだろ、
     アイツそういうの気にしねえって。
     くそっ、とりあえず行こうぜ』

    刺青『ちっ、せっかく盛り上がってきたのによ。
     顔見られる前に、行くぞ』だだっ

    ?『くっ、待てっ!
     キミ、彼女を保健室へ。
     わたしはアイツラを――』


    437: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 00:16:42.80 ID:sMjSSDqzo


    ひき娘「いや……」がくがく

    ひき娘「痛いのは……」

    ひき娘「殴らないで」

    ひき娘「髪の毛、ちぎらないで」

    ひき娘「蹴らないで」

    ひき娘 がくがく……

    ひき娘「う、……ぅく」ぽろぽろ

    ひき娘「もう、ずっと前……
     ずっと前だから、
     もう大丈夫、大丈夫……」がくがく


    438: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 00:17:17.45 ID:sMjSSDqzo


    ひき娘「…………………………」

    ひき娘「………………」

    ひき娘「……ふ……ぅ」

    ひき娘「はぅ……」

    ひき娘(目の前に、
     大きな手が来て、視界がふさがったら……)

    茶髪『コイツ面白いぜー。
     頭殴るとよ、足元ふらつかせんの。
     せーぶつの実験、ってな!
     俺らすっげー真面目な学生だよな、くくっ。
     おい、歩けよっ!』

    ひき娘「…………っ」


    439: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 00:17:56.74 ID:sMjSSDqzo


    ひき娘「過去だから……」

    ひき娘「もう、思い出さない……」

    ひき娘(急に、あの時の事が、
     一気に思い出されて……)

    ひき娘「もう、やだよ……」

    ひき娘「…………もう」

    ひき娘「なんで、私が……」

    ひき娘「……ぐすっ」


    440: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 00:18:23.83 ID:sMjSSDqzo

    ----------------------------------
      三十四日目 教員室

    男「……」かきかきかきかき

    男「…………」かきかきかき

    男「………………はぁ」

    男「いけませんね、こんな調子では」

    黒髪「そうよー。
     先生らしくないじゃない」ひょこっ


    441: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 00:18:50.42 ID:sMjSSDqzo


    男「おや、黒髪さん。
     いつの間にコチラへ?」

    黒髪「さっきからいたわよ。
     話しかけても応えないから、
     いっそ面白くなって見てたけど」

    男「趣味が良くないですね」

    黒髪「態度が良くないよりはマシじゃない?」

    男「……私の態度は良くなかったですか?」

    黒髪「授業中に突然考えこんだり、ね」

    男「授業に私事を持ち込むなんて、
     申し訳ない……」


    442: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 00:20:16.17 ID:sMjSSDqzo


    黒髪「私は逆に安心したけどね。
     ああ、この人も人間なんだって」

    男「それはどういう意味ですか」苦笑

    黒髪「そのままよ」にやっ

    男「……それで、どうしましたか?
     質問にいらしたんですよね」

    黒髪「質問があるとしたら、
     今日の先生はどうしたんですか、
     といったところよ」

    男「…………」

    黒髪「答えたくないのかしら?」


    443: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 00:20:48.09 ID:sMjSSDqzo


    男「いえ。実は今日、
     ひき娘さんをおびえさせてしまったようでして」

    黒髪「……何かしたの?」

    男「詳しくはわかりませんが、
     少し何かに悩んでいるようだったので、
     励ますつもりで頭を撫でると、
     急に怯えだして……」

    黒髪「それだけ?」

    男「誓って」

    黒髪「…………となると、
     どういうものかはわからないけど、
     それが鍵になって、
     いじめられた事を強く思い出したのかしら」

    男「恐らく、そうでしょう」


    444: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 00:21:22.08 ID:sMjSSDqzo


    黒髪「あれから二年も経ったのに、
     ひき娘の中では、
     まだ終わってないのね」

    男「……焦ってはいけない。
     それは誰より私が判っていたのに、
     どうにも……」

    黒髪「やりきれないわね。
     ……そうね、それなら一つ提案があるわ」

    男「はい?」

    黒髪「よかったら、
     週末に時間もらえないかしら?」にやっ


    445: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 00:21:49.41 ID:sMjSSDqzo

    ----------------------------------
      三十九日目 駅前広場

    黒髪「ないわー」

    男「……遅れてやってきて、
     第一声がそれですか」

    黒髪「だって、ねえ。
     せっかくの土曜日!
     週末に二人っきりで外出よ?

     いわばデート!
     それなのに、その格好って……」

    男「普段どおりですが、なにか」

    黒髪「……普段からそのスーツなの?」

    男「そうですが」


    446: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 00:22:15.51 ID:sMjSSDqzo


    黒髪「……せっかく人が、
     こうやってオシャレしてきたっていうのに」ぶつぶつ

    男「どうかしましたか?」

    黒髪「何でもないわよ」

    男「……とりあえず、
     黒髪さんはお昼はどうしましたか?」

    黒髪「軽くつまんできたわ。
     何か食べても大丈夫だし、
     食べなくても平気な程度に」


    447: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 00:22:48.04 ID:sMjSSDqzo


    男「私もです。
     では、ランチは考えず、目的を果たしましょうか」

    黒髪「そうね。
     そういえば、アレからどうなの?
     ひき娘との関係は」

    男「悪くはありません。
     ただ、最近は落ち着いていましたが、
     先日の一件以来、
     ある距離から近づくと、
     目に見えて緊張するようになりましたね……」

    黒髪「やっぱり、簡単にムリね。
     ……例の作戦を実行しましょう。
     名づけて――
     『ひき娘にプレゼントで仲直り作戦!』」ビシッ


    448: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 00:23:31.18 ID:sMjSSDqzo


    男(どこかの名探偵みたいな、
     妙にキマッたポーズ……
     練習でもしたんでしょうか?)

    男「……やはり、考えたのですが、
     そんな問題ではないと思いますよ。
     第一、私たちは不仲になったわけでもありませんから」

    黒髪「一見すれば、ね。
     嫌われたなら仲直りしやすいけど、
     ひき娘は先生を嫌ってない。
     ただ、先生に対して、
     過去の幻影を重ねてるだけ」

    男「それが判っていて、プレゼントで仲直りですか」

    黒髪「そんな疲れた顔しないでよ。
     別に根拠なく機嫌を取っておこうみたいなノリじゃないから」

    男「そうなんですか?」


    449: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 00:24:10.85 ID:sMjSSDqzo


    黒髪「要するに、
     今のひき娘って、
     先生に対して過去の恐怖を重ねているじゃない?」

    男「恐らくは」

    黒髪「つまり、今のひき娘にとって、
     先生が恐怖の象徴なのよね」

    男「……身もフタもない分析ですね」

    黒髪「こういう分析に、
     私情は何の意味も無いわ。
     むしろ正確な分析をして、
     現状からの打開策を探す原動力に、
     その私情を燃やすべきじゃない?」

    男「もっともです。
     ……ふむ、云いたい事はおおよそわかりました」


    450: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 00:24:50.68 ID:sMjSSDqzo


    黒髪「さすが先生。
     そう、先生自身が過去の恐怖なら、
     その恐怖を無価値にするような、
     好意の感情で、
     改めてその過去の感情を塗り替えればいいのよ」

    男「そう簡単な話ではないですが、
     無意味でも無いでしょうね」


    黒髪「無意味でないなら良いじゃない。
     ぶっちゃけて云えば、
     今までひき娘の内面に有って、
     手の出しようが無かったものに、
     何かできるかもしれないって事でしょ」

    男「肯定的に考えるなら、
     そのような考え方もできますね」


    451: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 00:25:20.49 ID:sMjSSDqzo


    黒髪「否定的な考えなんて、
     取れる手段が一つも無くなって、
     希望が見えなくなってからすればいいじゃない」

    男「……いけませんね。
     今日の私はどうやら、
     黒髪さんに面倒をかけ通しです」苦笑

    黒髪「たまにはいいじゃない。
     ひき娘の事についてとか、
     私だって先生に迷惑かけたもの。

     この件だって元をたどれば、
     私がひき娘を紹介したからよ。

     私ができない事を手伝ってもらう。
     手伝ってくれる先生に、
     私が私の出来る事をする。

     そこには共栄関係は有っても、
     問題はないと思うわよ」


    452: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 00:25:48.94 ID:sMjSSDqzo


    男「……本当に、
     今日はかなわないようです」苦笑

    黒髪(そりゃそうよ。
     このデートのお誘いをしてから、
     何回も何回も、
     頭の中で考えたんだもん。

     先生の口にしそうな言葉とか、
     考えそうなこととか)

    黒髪「ふふっ、
     それじゃ、行きましょ。
     ひき娘の気に入ってくれるもの、
     がんばって探さないと」

    男「はい」


    453: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 00:26:24.68 ID:sMjSSDqzo

    ----------------------------------
      三十九日目 アーケード

     とことこ

    黒髪「それで、
     先生は何をプレゼントするつもり?」

    男「そうですね。
     ひき娘さんが喜ぶもの……

     アクセサリなどは、
     たぶん喜ばないでしょうね。
     服はサイズがわかりませんし……」

    黒髪「サイズは判るわよ。
     ただ、どうかしら。
     下手するとイヤミになるわよ」

    男「イヤミ、ですか?」


    454: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 00:27:02.67 ID:sMjSSDqzo


    黒髪「一緒に選びに来たなら、
     また話は変わるけど……

     ひき娘は自分の服、
     子供っぽいって自覚があるから――
     中学生の頃の服の着まわしだから、
     しかたないんだけど、
     そういう場合は逆効果だと思うわ」

    男「云われてみればそうですね」

    黒髪「……そうね。
     個人的には、
     少し上等な文具一式、とかが良いと思うわ」

    男「文具ですか」


    455: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 00:27:39.43 ID:sMjSSDqzo


    黒髪「教師と生徒って関係からも、
     文具のプレゼントなら、
     いろいろ言い訳も立つでしょ。

     気付いてたみたいだけど、
     ひき娘の使ってる文具って、
     今は中学生の頃のだから、
     デザインとか機能に不満があるみたいだし」

    男「……よく考えてますね」

    黒髪「ひき娘の事だから、当然でしょ」

    友『黒髪ちゃんはひき娘ちゃんに対して、
     強い劣等感と、恩義を感じてるんだ』

    男「…………」

    黒髪「先生?」ずいっ

    男「――っ、黒髪さん、近いですよ」

    黒髪「……ドキドキしました?」にやっ


    456: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 00:29:54.43 ID:sMjSSDqzo


    男「そうですね、
     お化け屋敷に入ったときくらいには」

    黒髪「私は貞子じゃありませんよ」むぅ

    男「お化け屋敷で、
     女の子に手を握られた時くらい、
     という意味だったのですが」

    黒髪「……っ。
    か、からかわないでよっ」(////
     
    男「わたしだけ許されないというは、
     幾分か不条理な気がしますね」

    黒髪「たしかにそうだけど……」


    457: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 00:31:46.14 ID:sMjSSDqzo


    男「この文具店なら、
     どうですかね?」しれっ

    黒髪「無視しないで、
     って言いたいけど、
     たしかに良さそうね。

    男「では、入りましょうか」そっ

    黒髪「ぇ……」(さりげなく、
     私の手をとってくれて)

     からーん♪


    458: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 00:35:43.00 ID:sMjSSDqzo


     とことこ

    男「一口に文具と言っても、
     いくつもありますが……」

    黒髪「……」

    男「どうしましょうかね?」

    黒髪「……」

    男「黒髪さん?」

    黒髪「っ、え、はい?」

    男「大丈夫ですか?」

    黒髪「……大丈夫よ」


    459: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 00:38:54.06 ID:sMjSSDqzo


    男「……とりあえず、
     私だったらこのあたりの物を、
     選ぼうと思うのですが」

    黒髪「…………とりあえず、
     笑った方がいいかしら?」

    男「なぜ笑いますか」

    黒髪「だって、ねえ。
     プリキュアのシャーペンなんて、
     今時もらって喜ぶの、
     小学生でもいないわよ」

    男「しかし、
     ひき娘さんは毎週プリキュアを見るファンですよ」

    黒髪「それとコレとは別。
     第一、先生はひき娘の趣味しらないでしょ」

    男「そこは、黒髪さんに聞いたと云う事で」

    黒髪「いやよ!
     それじゃこの選択、私のセンスみたいじゃない」

    男「……そんなにダメですかね?」


    460: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 00:42:21.06 ID:sMjSSDqzo


    黒髪「とりあえず、
     こういう時は相手の趣味最優先より、
     無難に長く使えるものでしょ。

     だいいち、こんな安い作りのペン、
     すぐに壊れて使えなくなるわよ」

    男「壊れるというのは、
     どうかと思いますが……
     良く見れば使い勝手も良くなさそうです。
     早まるところでしたね」

    黒髪「……実は先生って」

    男「はい?」

    黒髪「プレゼントのセンスが無いって、
     よく言われない?」

    男「……否定はしません」

    黒髪 あちゃー


    461: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 00:45:58.38 ID:sMjSSDqzo


    黒髪「……とりあえず、あれね」

    男「あれ、とは」

    黒髪「私がすべて選ぶわ」

    男「は?」

    黒髪「だって、
     この調子で先生と相談してたら、
     日が暮れても終わらないわよ」

    男「すみません」

    黒髪(普段のソツのないところから、
     まさかこんな、
     低レベルな欠点があるなんて)あいたたた



    462: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 00:48:49.06 ID:sMjSSDqzo


    黒髪「まったく、しょうがないわね」

    男「面目ない……」

    黒髪(ま、本当に何でもできる人よりは、
     可愛げがあるかもしれないわね……ふふ)

    男「む、こちらには、
     まどか☆マギカのペンケースが」

    黒髪「いいから、
     そういうのはやめておきなさい!」



    463: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 00:53:04.96 ID:sMjSSDqzo

    ----------------------------------
     三十九日目 洋菓子喫茶ミンドロウ


    黒髪「まったく、
     こんなに時間がかかるなんて思わなかったわ……」

    男「ですからこうして、
     お詫びに、友から教えてもらった、
     美味しいケーキ屋に来ているわけで……」

    黒髪「……メイド喫茶?」

    メイド にこっ

    メイド かちゃ、かちゃ

    メイド「どうぞ、ごゆっくりお楽しみくださいませ」へこっ

    男「二年前はたしか、
     普通のケーキ屋だったんですが……」


    464: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 00:55:01.57 ID:sMjSSDqzo


    黒髪「もしかしてお店間違えてない?
     ……あら、結構おいしい」まぐまぐ

    男「間違えてませんよ。
     確かにこの名前でしたからね」

    黒髪 まぐまぐまぐまぐ

    男「……気に入ってくれたようでなによりです」

    黒髪 まぐ……(////

    黒髪「意地悪いわね」

    男「理不尽ですね」苦笑


    465: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 00:57:26.93 ID:sMjSSDqzo


    黒髪「とりあえず、
     ひき娘へのプレゼントも買えたし、
     今日の目的は達成ね」

    男「かなり無難になってしまいましたが」

    黒髪「こんなところに、
     独創性もアニメ成分も要らないのよ」

    男「喜ぶと思いますがね、アニメ」

    黒髪「……云うまいと思ってたけど」

    男「はい?」


    466: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 01:00:16.22 ID:sMjSSDqzo


    黒髪「先生って先日、
     ひき娘に消しゴムあげたのよね?」

    男「はい。コンビニで売っていた、
     シャルロッテの消しゴムですね」

    黒髪「シャルロッテ?
     まあ、なんでもいいけど、
     その安っぽい小さい消しゴムをね、
     あの子ったら、
     爪の先くらいになるまで、
     後生大事に使ってたのよ」

    男「……あといくつか、
     買っていくべきだったでしょうか」

    黒髪「違うわよ。
     まあ、数がないって点では、
     間違ってないけど。

     それ以上に、
     先生がくれたって事が、
     あの子にとってそれだけ大きかったのよ」


    467: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 01:03:20.96 ID:sMjSSDqzo


    男「……」

    黒髪「言ってしまえば、
     たかが消しゴムの一個よ。

     でも、あの子にとっては……っ」

    男(うつむいて、どうしたのでしょうか)

    男「黒髪さん?」

    黒髪「あの子にとっては、
     大好きな先生からもらった、
     大切なものだったのよ」ひっく

    男「……」


    468: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 01:05:30.70 ID:sMjSSDqzo


    友『だが、あの黒髪ちゃんって子は、
     ひき娘ちゃんが相手なら、
     戦おうとすらしないだろうぜ』

    男「まさか――」

    黒髪「まさかじゃないわよ!」

    男「あ、いえ、それでは」

    黒髪「あの子はね!」ぐいっ

    黒髪 がっ

    黒髪「先生が、だいすき、な」

    黒髪 ぼろぼろ


    469: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 01:08:46.43 ID:sMjSSDqzo


    黒髪 ぐしぐしっ

    男「黒髪、さん」

    黒髪「先生が、だい、すき、なの……よ」ぼろぼろ

    男「…………」

    黒髪 ぱっ

    黒髪「だから。
     もっと良く考えて、
     ずっとずっと、大人になっても、
     一生使えるものを、贈ってあげてよ」

    男「……黒髪さん」

    黒髪「ね」

    男「……」


    470: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 01:11:44.45 ID:sMjSSDqzo


    男「すみません」

    黒髪「……なんで謝るのよ」

    男「……いろいろです」

    黒髪「そう」

    男「……」

    黒髪「……それなら」

    男「はい」

    黒髪「今度はお詫びに、
     またどこか、連れていってよ」

    男「……はい」


    471: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 01:14:40.42 ID:sMjSSDqzo


    黒髪「…………お化粧、
     直してくるわね」

     とことこ

    男「………………」

    男 がりがりがり

    男「なんだって、こう――」

    男「わたしは、
     この誘いを断れば良かったのか?」

    男「それとも、――それとも?」


    472: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 01:18:22.97 ID:sMjSSDqzo


    店長「……お客さんよ」ちょい

    男「……はい?」

    店長「これ、渡してやりな」

    男「お絞り、ですか」

    店長「男なんて、
     女に泣かれちまったら、
     それくらいしかできねえもんさ」

    男「……」

    店長「……なんてな。
     あんまりウチの店で女の子を泣かせないでくれよ?」にやっ

    男「……すみません」苦笑


    473: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 01:20:33.96 ID:sMjSSDqzo


    店長「よし、笑えるなら大丈夫だな。
     良くわからんが、
     女の子の前で沈んだ顔はいかんぞ。
     ……む、」たたっ

    男「……」

    店長「ああ、奥様お久しぶりです。
     前回のご来店から十日間と三時間ぶりでございます。
     しかし前回よりも素敵な笑顔で」延々

    男「くっ……くくっ」


    474: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 01:22:34.43 ID:sMjSSDqzo


    男「いけませんねぇ。
     なんだかどうにも、
     今日は黒髪さんに振り回されすぎです」

    黒髪 とことこ

    黒髪「お待たせ」

    男「こちら、よかったら使ってください」

    黒髪「おしぼり? ありがとう」にこっ

    男「……」

    黒髪「……」


    475: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 01:25:13.05 ID:sMjSSDqzo


    男「……黒髪さん」

    黒髪「はい?」

    男「……黒髪さんは、イイ女ですね」

    黒髪「…………ぷっ、やだ、何よそれ」

    男「素直に、思ったところを言いました」

    黒髪「ふふふっ、そんなの、
     ずっと前からでしょ?

     だって私は黒髪よ?」にこっ

    男「そうでしたね。
     ええ、ずっと、イイ女です」

    黒髪「……それじゃ、そろそろ帰りましょ」

    男「はい」

     がたがた


    476: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 01:27:13.53 ID:sMjSSDqzo


    黒髪「……すきよ」ぼそっ

    男「……何か言いましたか?」

    黒髪「お勘定お願いします、って」

    男「……聞き返さなければ良かったですね」

    黒髪「聞いたからには、お願いね」

    男「仕方ありません。
     もとよりそのつもりでしたし、
     構いませんよ」

    黒髪「ふふっ」

    男「くくっ」




    477: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 01:29:49.83 ID:sMjSSDqzo


    黒髪「そういえば先生」

    男「はい?」

    黒髪「一つだけ聞かせて」

    男「……」

    黒髪「わたしと初めて会ったの、
     いつだったかしら」

    男「……去年の夏講習に、
     たしかいらしてましたよね?」


    478: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 01:34:15.91 ID:sMjSSDqzo


    黒髪「……ええそうよ。それでいいわ」にこっ

    男「?」

    黒髪(そう、それが初めてなら、
     それでもいい)

    黒髪(二年前に、
     私の友達を助けるために、
     乱暴そうな生徒に対して、
     一歩も引かないでまっすぐ向き合った先生。

     あの時近くにいたけど、
     覚えてないなら、それでいいわ。

     その後ろ姿に憧れた私は、これで卒業)

    メイド「代金のお釣りをお確かめください」

    男「はい、大丈夫です。
     ……では、行きましょう、黒髪さん」


    479: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 01:37:01.75 ID:sMjSSDqzo


    メイド「行ってらっしゃいませ」へこっ

    黒髪「また来させてもらいます」

    メイド「お待ちしております」 にこっ

     とことこ

    黒髪「ねえ、先生」

    男「はい?」

    黒髪「ちょっと、止まってください」

    男「……」

    黒髪 とこ、とこ

    男(微妙に動いて……
     なんでしょうか)


    481: ◆LZfAlLlryk 2011/04/24(日) 01:40:09.18 ID:sMjSSDqzo


    黒髪「はい、いいですよ、行きましょ」にこっ

    黒髪(そっと重ねた)

    黒髪「さーて、
     それじゃ私はこちらなので、
     失礼します」

    男「……はい。お気をつけて」

    黒髪「また、授業で」にこっ

    黒髪 たたっ

    黒髪(先生と、私の影の、唇の先)


    489: ◆LZfAlLlryk 2011/04/26(火) 01:54:53.65 ID:RdyoY+Dco

    ----------------------------------
     四十一日目 ひき娘の部屋

     こんこんこん

    男「……」

     こんこんこん

    男「ひき娘さん、どうしましたか?」

     こんこんこん

    男(なにか、問題があったのでしょうか?)

    男 どくん

    男(体調不良でしょうか。
     最近はまた、
     部屋に入れてもらった頃のように、
     想定より授業が進まず、
     宿題が増えてしまっていましたからね……)

    男「……開けますね」

     きぃっ


    490: ◆LZfAlLlryk 2011/04/26(火) 01:55:20.06 ID:RdyoY+Dco


     そぉっ

    ひき娘 すぅすぅ

    男(テーブルに突っ伏したまま、
     寝てしまっていますね。
     ただ、呼吸は穏やかで)

    男 とことこ

    男「……改めて、失礼します」

    男(そっと触れる。
     ひき娘さんの額は、
     少しだけ汗ばんでいるものの、
     おそらく寝汗なのだろう。
     熱いというほどではない)

    ひき娘 すぅすぅ

    男「まだ、時間がありますね」ちらっ

    男「……もう少しだけ、
     寝かせて差し上げましょう」

    ひき娘 すぅすぅ


    491: ◆LZfAlLlryk 2011/04/26(火) 01:56:54.67 ID:RdyoY+Dco


    男(なぜ)

    男(なぜ友さんや黒髪さんは、
     ひき娘さんが私を好いていると考え、
     言うのでしょうかね)

    男 そっ

    男 なで、なで

    ひき娘 すぅすぅ

    男(わたしなど、
     ただの社会不適合者なのに)

    男 なで、なで

    ひき娘「んん……」にへらー

    男(人付き合いが苦手なオタクで、
     好きな歴史や文化について、
     語りだすと止らない癖があって……)


    492: ◆LZfAlLlryk 2011/04/26(火) 02:01:00.79 ID:RdyoY+Dco


    男(過去にお付き合いした方々も、
     そんなところがイヤだったと、
     そう云って離れていきましたね。

     『可愛げがない』
     『私がいなくても良さそう』
     『つまらない話ばかり』

     そういって皆離れてしまい、
     結局親交がのこっている人は、
     殆どいなくなって……)

    男 なで、なで

    ひき娘 すぅすぅ


    493: ◆LZfAlLlryk 2011/04/26(火) 02:01:39.06 ID:RdyoY+Dco


    男(教師として、人として、
     恥じるような行動を行った事は、
     決してないといえる生き方でした。
     ……それでも人は、離れてしまう)

    ひき娘「んー」

    男 ……なで、なで

    ひき娘「んへー」にへら

    男(夢中になると、
     つい喋り続けてしまう癖も、
     人として恥ずべきことではないと、
     思うのですがね。

     度が過ぎる事もある点は反省すべきですが……)


    494: ◆LZfAlLlryk 2011/04/26(火) 02:03:04.79 ID:RdyoY+Dco


    男(……ひき娘さんは、
     ずっと話を聞いてくれましたね)

    ひき娘「……にゃう。」

    男「……くく」

    男(ひき娘さんにとっては、
     私のこの『悪癖』、
     気にならないのでしょうか)

    男「……時間ですかね。
     ひき娘さん、起きてください」

    ひき娘「うにゅ……」

    男「ひき娘さん」

    ひき娘「なう……」


    495: ◆LZfAlLlryk 2011/04/26(火) 02:04:15.36 ID:RdyoY+Dco

    ----------------------------------
     四十一日目 ひき娘の部屋

    男「では、本日の授業はここまでということで


    ひき娘「お、お疲れ様、です……」ぐたぁ

    男「お疲れさまです。
     さて、次回の授業ですが、
     宿題についてはこちらの紙に、
     まとめてきました」

    ひき娘「ありがとうございます。
     その、今回はごめんなさい、
     先生が来るって判ってたのに寝ちゃってて」しゅん

    男「何度も言ってますが、
     気にしていませんよ。
     今日で授業も……十八回ですか。
     よくがんばっていると思います」

    ひき娘「…………」しゅん


    496: ◆LZfAlLlryk 2011/04/26(火) 02:05:09.85 ID:RdyoY+Dco


    男(どうしたものでしょうかね……
     がんばっているのは事実ですし、
     授業時間には目をさましたので、
     問題にすることも無いのですが)

    男「……そうだ、ひき娘さん」

    ひき娘「はい?」


    男「ひき娘さんのがんばりに、
     応えられればと思いましてね。
     ……このようなものを買ってきたのですが」ごそごそ

    ひき娘「……プレゼント?
     きれいにラッピングされてるけど、
     開けてもいいですか?」

    男「はい、御随意に」にこっ

    ひき娘 かさかさ

    ひき娘「わ……すごいっ。
     これ、文具ですよね。
     なんか、大人な感じで、
     とってもステキです……」


    497: ◆LZfAlLlryk 2011/04/26(火) 02:06:02.59 ID:RdyoY+Dco


    男「使い心地を重視して、
     長く使えそうなものを、
     選ばせてもらいました。
     よければ使ってください」

    男(とはいっても、
     黒髪さんが絞りこんでくれて、
     その中から選んだ物ですが……

     そこまでしなければならないほど、
     わたしは趣味が良くないのでしょうかね)悶々

    ひき娘「…………」

    男「ひき娘さん?」

    ひき娘「……」うるっ

    男「ど、どうしましたか?」おろおろ


    498: ◆LZfAlLlryk 2011/04/26(火) 02:06:44.50 ID:RdyoY+Dco


    ひき娘「その、うれしくて」ぐすっ

    男「泣くほどですか?」苦笑

    ひき娘「泣くほどですよ……
     ただ、先生からもらえて、
     がんばってるって認めてもらえて。

     とっても、嬉しいんです」にぱっ

    男 すぅっ。ぴたっ。

    男(あぶない、つい、
     また頭を撫でようと……)

    男「喜んでいただけたら、
     私としても嬉しいです」にこっ


    499: ◆LZfAlLlryk 2011/04/26(火) 02:11:52.94 ID:RdyoY+Dco


    ひき娘「……ないで」じっ

    男「はい?」

    ひき娘「やめないで、ください。
     撫でてください」

    男「しかし……」

    ひき娘 そろ、そろ

    男(両手をついて、
     顔をうかがいながら近寄る姿が、
     怯える子犬のようだと云ったら、
     怒られるでしょうか)


    500: ◆LZfAlLlryk 2011/04/26(火) 02:12:35.42 ID:RdyoY+Dco


    ひき娘 とすっ

    男(せがむように、
     頭をそっと私の肩に寄せて)

    ひき娘「怖くない、とは、
     まだ云えないです。

     でも、このままでも、
     きっと良くないなって。

     せっかく褒めてもらって、
     今なら、勇気が出そうだから」

    男「確かにそうですが、
     ムリをしてはいけませんよ」

    ひき娘「……今は、撫でてほしいんです」じいっ

    男(覗き込むようにして、
     上目遣いで見上げてくる瞳が、
     少しだけ涙と恐怖にゆれているような)

    ひき娘「触って、ください」


    501: ◆LZfAlLlryk 2011/04/26(火) 02:13:14.13 ID:RdyoY+Dco


    男「……失礼しますね」

    男 そぉっ

    ひき娘 ぴくんっ

    男 さらっ、さらっ

    男(ぎゅっと目を閉じて)

    男「……ひき娘さんは、
     瞳に表情がでますね」

    ひき娘「?」

    男(少しだけ目を開けて、
     不思議そうに見上げる。
     それだけで、
     少しの不安と、興味と疑問が伝わってくる)

    男「ひき娘さんの目が、
     とても魅力的だと言ってます」にこっ

    ひき娘「……そんな」(////


    502: ◆LZfAlLlryk 2011/04/26(火) 02:14:33.91 ID:RdyoY+Dco


    男(恥ずかしがって伏せられ、
     その目が見えなくなった事が、
     少しだけ残念ですね)

    ひき娘 すり、すり

    男「……くく」なで、なで

    ひき娘「?」

    男「小動物のようですね。
     そうして、顔を寄せる仕草が、特に」


    503: ◆LZfAlLlryk 2011/04/26(火) 02:15:44.59 ID:RdyoY+Dco


    ひき娘「小動物、なの?」くぅっ

    男(目を細めて、
     なんの表情なのか)

    男「……不満ですか?」

    ひき娘「……たぶん」

    ひき娘 そっ

    男(さらに近づいて、
     そっと体を摺り寄せられて。
     それで、不満なんでしょうか)

    男 なで、なで

    ひき娘 ふるり、ふるり


    504: ◆LZfAlLlryk 2011/04/26(火) 02:16:51.90 ID:RdyoY+Dco


    男(なでるたびに、
     音も無く震える細い背中。
     そこに何を背負っているのか、
     見えないのに、見えてしまう)

    男「……ひき娘さんは、
     この手が、怖いですか?」

    男(近づき過ぎないように、
     ひき娘さんから離して手のひらを見せる。

     ひき娘さんの手に比べれば、
     大きく、筋張っている手)

    ひき娘「…………」ふるり


    505: ◆LZfAlLlryk 2011/04/26(火) 02:17:31.91 ID:RdyoY+Dco


    男「そうして身を寄せているのは、
     私の手のひらを、
     見ないようにするため、ですよね」

    ひき娘「っ……。はい」

    男「……試して見ましょうか」

    ひき娘「はい?」

    男(そっと首を傾げる仕草に、
     やわらかい、良い匂いのする髪が、
     私の首筋を甘くくすぐる)


    506: ◆LZfAlLlryk 2011/04/26(火) 02:19:08.11 ID:RdyoY+Dco


    ひき娘「チョコレート?」

    男「たしかひき娘さんは、
     チョコレート、お好きでしたよね。
     コチラも、渡そうと思って忘れてました」

    ひき娘「うん」

    男(おそらく、わざと――
     ひき娘さんの言葉の距離が、
     いつもより近い)

    男「では、これ、食べたいですよね」

    ひき娘 こくり

    男(頷くたびに、
     焦らすように首筋を撫でられて……
     穏やかじゃありませんね)

    男「包みを開けて……
     手のひらに載せてみましたが。
     ここで思い至りませんか?」


    507: ◆LZfAlLlryk 2011/04/26(火) 02:20:50.47 ID:RdyoY+Dco


    ひき娘「思い至る、って、なににです?」

    男「……このチョコ、食べていいですよ」

    ひき娘 そぉっ

    男「ただし」

    ひき娘 ぴくっ

    男「手は、使ったらダメですよ」にやっ

    男(ムリにさせる気は無いものの……
     手のひらに置かれたチョコレートを、
     ゆっくりとひき娘さんに近づけて、
     鼻先に匂いを残して遠ざける)

    ひき娘「でも、手を使っちゃダメって」

    男「そんな風に、
     伺うような目で見ても、ダメですよ」

    男(嫌いなものを、
     好きなものとして上書きする
     ……言い訳、か?)


    508: ◆LZfAlLlryk 2011/04/26(火) 02:21:27.52 ID:RdyoY+Dco


    ひき娘「でも、それって、
     てのひらのチョコを、
     もしかしてそのまま……」

    男「イヤなら構いませんよ」

    ひき娘「……」

    男 なで、なで

    ひき娘 ふるふる

    男「チョコレート、
     今日はいりませんか?」

    ひき娘「食べたい、けど」

    男「では、どうぞ?
     早くしないと、溶けますよ?」

    ひき娘「う……」


    509: ◆LZfAlLlryk 2011/04/26(火) 02:22:21.56 ID:RdyoY+Dco


    男「もちろん、大好きなチョコです。
     一度口をつけたら、
     残さず食べてもらいますよ?」

    ひき娘「そ、それって……?」

    男「どうしますか?
     食べるなら、
     早いほうが気が楽だと思いますが。

     それとも、わたしの手のひらを」

    ひき娘「とけて、のこってたら」じっ

    男「舐めて、とってもらいましょうか」にぃっ

    男(不安げでいて、
     期待しているような瞳。
     表情豊かなその光が、
     恐怖とは別の何かにゆれて)

    ひき娘「…………」(/////


    510: ◆LZfAlLlryk 2011/04/26(火) 02:22:47.94 ID:RdyoY+Dco


    男「大丈夫ですよ、
     清潔にしてありますから」

    ひき娘「そういう問題じゃ……」

    男「ああ、それとも――
     溶けるのを待ってます?」

    ひき娘「え……?」

    男「私の手のひらに
     チョコが溶けるのを待っているのかなと」

    ひき娘「ち、違いますっ」(////

    男「でも、そうして時間をかけると、
     間違いなくチョコは溶けますよ?

     わたしとしては、
     溶ける前に食べてもらっても、
     溶けてからなめ取ってもらっても、
     どちらでも、いいですよ」にこっ


    511: ◆LZfAlLlryk 2011/04/26(火) 02:23:26.11 ID:RdyoY+Dco


    ひき娘「…………先生って」

    男「はい」

    ひき娘「意地悪です」

    男「いまごろ気付きましたか?」なでなで

    ひき娘「気付いてましたけど……」

    男「さて、あまり時間はないですよ。
     わたしは次の授業があります」苦笑

    ひき娘 ぴくん

    男「やはり、自分で食べましょうか。
     考えてみれば、
     食べ物で遊んでいると云われて、
     反論できない状況ですしね」

    ひき娘「…………食べます」


    512: ◆LZfAlLlryk 2011/04/26(火) 02:24:13.11 ID:RdyoY+Dco


    男「……どうぞ」なでなで

    ひき娘 ふるふるふる

    ひき娘 ちらっ

    男 にこっ

    ひき娘「うぅ~……」そっ

    ひき娘 ぱく

    ひき娘 もぐもぐ

    男「手のひらに、
     溶けのこりはありますか?」

    ひき娘 ぴくっ

    ひき娘「……ないです」


    513: ◆LZfAlLlryk 2011/04/26(火) 02:25:15.63 ID:RdyoY+Dco


    男「それは残念。
     チョコの味はいかがですか?」すっ

    ひき娘「……とっても、とっても、甘いです」

    男 なでなで

    ひき娘「うう……」

    男「どうしました?」

    ひき娘「……なんだかホントに、
     しつけされてるみたいな」

    男「それなら、
     待てとお手が必要でしたね」

    ひき娘「……やっぱり、意地悪です」

    男「でも、よかったですよね。
     手のひらに、近づけましたよ」



    514: ◆LZfAlLlryk 2011/04/26(火) 02:26:18.88 ID:RdyoY+Dco


    ひき娘「だって、
     先生があんな事、
     やれって云うから」

    男「断ってもいいと云いましたよ。
     私の手のひらから食べたのは、
     あなた自身の意思です」にこっ

    ひき娘「そんな笑顔で、ズルいよ」じっ

    男 どきっ

    男(ズルいのは、どちらなのか)

    ひき娘「……ごちそうさまです」

    男「それは良かった」にこっ


    515: ◆LZfAlLlryk 2011/04/26(火) 02:27:19.28 ID:RdyoY+Dco


    ひき娘「う、むぅ……」

    男「どうしました?
     そんなに渋い顔で」

    ひき娘「……ずるいから」じっ

    男「なにもズルくなんて」

    ひき娘「ズルいんです」

    男「……どうやらズルいらしいです」苦笑


    516: ◆LZfAlLlryk 2011/04/26(火) 02:28:00.16 ID:RdyoY+Dco


     pipipipi pipipipi

    ひき娘「…………そろそろ、
     行かないと、間に合わないよね」

    男「そうですね。
     間に合わなくなります」

    ひき娘「……その、最後に」

    男「はい」

    ひき娘「もう一度だけ、撫でてください」

    男「…………」なでなで

    ひき娘 そっ

    男 なでなで

    ひき娘「……気持ちいいです」

    男「それは良かった」なでなで


    517: ◆LZfAlLlryk 2011/04/26(火) 02:32:01.20 ID:RdyoY+Dco


    ひき娘「先生」

    男「なんですか」

    ひき娘「……授業、がんばってください」

    男「ひき娘さんも、宿題がんばってください」

    ひき娘 そっ

    男(離れていく甘い匂いを、
     追いかけたくなってしまう)


    518: ◆LZfAlLlryk 2011/04/26(火) 02:32:34.69 ID:RdyoY+Dco

    ----------------------------------
     四十一日目 男の車

     ぶろろろろ

    男「いったい」

    男「今日のわたしは、何だというのか」

    男「つい先日、
     教師として距離を取ろうと、
     そう決めたばかりなのに」

    男 ちくん

    男「教師としての距離を、
     逸脱しそうな感情を覚えるなど」

    男 ちくん


    519: ◆LZfAlLlryk 2011/04/26(火) 02:33:22.24 ID:RdyoY+Dco


    男「……やはり、いけませんよね。
     こんな事を続けては」

    男(かつて)

    男(夢や希望など特に持たず、
     ただ進学校を目指し、
     その中で成績をあげるだけの、
     迷い子だった私)

    男(どうやって生きるべきか、
     迷う私を支えてくれた人の、
     教師という生き方に憧れて……)

    男(教師であろう。
     ただそれだけを考え、
     目指してきた私が、
     生徒に対して特別な感情を持つなど、有ってはならない)

    男(ありえない)


    520: ◆LZfAlLlryk 2011/04/26(火) 02:34:30.97 ID:RdyoY+Dco


    男「……壊れたの、でしょうか」

    男(迷い子に手を差し伸べる人徳者。
     知識を伝える伝道者。
     ただそうで在ろうとしてきたのに)

    男(すりよって来る少女の、
     信頼した表情と、
     目をそらしても、
     否応無く突きつけられる好意に、
     ほだされてしまっている)

    男「いくら鈍くても、気付きますよ、そりゃ」

    男(でも、気付こうとしなかった。
     気付きたくなかったから、目を背けていた)


    521: ◆LZfAlLlryk 2011/04/26(火) 02:35:18.86 ID:RdyoY+Dco


    男「表情豊かで大きな瞳が、卑怯すぎますよ」

    男「いつまでも、見ていたくなる」

    男「…………もう、これは」

    男(友さんに、家庭教師の代役を、
     求めるべきでしょう)

    男(これ以上、時計の針が進まないように)


    528: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 01:33:16.46 ID:Zsluq6pro

    ----------------------------------
     四十三日目 ひき娘の部屋

     こんこんこん

    ひき娘「はい」びくっ

    友(普段なら扉を開けるけど、
     この子相手にいきなりそれは、
     マズいんだったな)

    友「はじめまして、ひき娘ちゃん。
     男から電話で聞いたと思うけど、
     代打の友です」

    ひき娘「……はい」

    友「いやー、悪いね。
     こっちの都合で振り回しちゃって」

    ひき娘「だ、大丈夫です」

    友(おうおう……
     何が大丈夫だってんだよ。
     めちゃくちゃ緊張してんじゃねーか)


    529: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 01:33:52.75 ID:Zsluq6pro


    友「とりあえず、今日はよろしく。
     んで、男から聞いてるんだけど、
     最初は扉の外で授業かな?」

    ひき娘「あ、あう……
     え、と……
     おへ、やに。どうぞ」

    友「無理しなくていいんだぜ?
     気楽に気楽に。
     お兄ちゃんに頼るつもりで!」にかっ

    ひき娘「えと……」


    530: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 01:34:39.58 ID:Zsluq6pro


    友「あー、こういうノリ、だめ?
     もうちょっと大人に、ダンディがいい?」

    ひき娘「え、ええ?」

    友(超渋い声)「やあお嬢ちゃん。
     授業の用意は十分かね?」

    友(普通)「みたいな」にひっ

    ひき娘「っ! すごいですね!
     声優さんみたい!」

    友「いやいや、そこまでじゃないって」照れ照れ


    531: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 01:35:58.67 ID:Zsluq6pro


    ひき娘「えっと、とりあえずその……
     中に、どう、ぞ……」

    友「じゃ、お言葉に甘えて」

     がちゃっ

    友「お邪魔します」にかっ

    ひき娘「ど、どうぞ」ぎしぎし

    友「よく片付いた部屋だねー。
     あ、勉強ここですんの?
     じゃ教材おくね」さっさっさ

    ひき娘「は、はい……」ガチガチ


    532: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 01:36:39.81 ID:Zsluq6pro


    友(あー、あー。
     かわいそうなくらい固まって。
     男のヤツ、こんな子が折角、
     心を許してくれたってのに、
     それを押しのけるなんて)

    友「やっぱり、
     あのダンディ・ボイスのがいい?
     キャラクター設定受付ちゃうよ」けらけら

    ひき娘「……いえ、大丈夫です」

    友(ちょっと迷ったな)笑


    533: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 01:37:30.71 ID:Zsluq6pro


    友「ちなみに、
     俺の事は先生って呼ぶの禁止ね。
     コレ、皆に言ってるんだけどさ」

    ひき娘「はひ? か、噛んじゃっちゃ……あう」

    友「りらっくす、りらーっくす。
     ほい、深呼吸して?」

    ひき娘 すー、はー

    ひき娘「え、えっと。
     じゃ、友さん、と」


    534: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 01:37:57.63 ID:Zsluq6pro


    友「ま、それでもいいけどさ。
     ここは一つ、お兄ちゃんと呼んでくれないか」きりっ

    ひき娘「お、お兄ちゃん?」

    友「ザッツライッッッ!」

    ひき娘 びくぅっ

    友「ひき娘ちゃんみたいに、
     可愛い妹が欲しかった俺の理想!
     ここが、俺のエルドラドだったのか……」


    535: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 01:38:25.07 ID:Zsluq6pro


    ひき娘「えっと、みんなにも、
     お兄ちゃんって……」

    友「女の子にはそれなりに。
     でもホントに言ってくれたの、
     ひき娘ちゃんが初めてだけどね……」しゅん

    ひき娘(すごくテンション高くて、
     めまぐるしく表情の変わる人……)

    友「さて、そんな授業にしよっか」にこっ

    ひき娘「はい」こくっ

    友(……とりあえず、
     最低限は緊張解けたか?)

    友「そんじゃ、今日はテキストの~」


    536: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 01:38:51.01 ID:Zsluq6pro

    ----------------------------------
     四十三日目 ひき娘の部屋

    友「そんじゃ、今日はここまで。
     お疲れ様」にこっ

    ひき娘「はい。お疲れ様です」へこっ

    友「進め方どうかな?
     よく予習できてたから、
     それなりの速度でやっちゃったけど」

    ひき娘「大丈夫でした」

    友「それなら良かった」にこっ

    ひき娘「むしろ、
     すごくゆっくりだったような」ぼそっ

    友「ん?」

    ひき娘「い、いえ。なんでもっ」


    537: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 01:39:31.37 ID:Zsluq6pro


    ひき娘「えっと、その――」

    友「なんだい?」

    ひき娘「先生は……」

    友「お兄ちゃん」キリッ

    ひき娘「ち、違います。男さんは……」

    友「あー。あいつからなんて聞いてる?」

    ひき娘「……ちょっと、別件が、と」

    友「え、そんだけ?」

    ひき娘「はい……」しゅん

    友(だあああ。男め!
     人に押し付けるなら押し付けるで、
     未整理で寄越すなよ!)


    538: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 01:39:58.19 ID:Zsluq6pro


    友「アイツには今、
     受験生の授業任せててね。
     今までいた人が急に来れなくなって、
     文系で教えられるのが、
     アイツくらいだったんだ」しれっ

    友(く、苦しい言い訳だな、我ながら)

    ひき娘「そ、そうなんですか。
     お疲れ様です」

    友(うおおおお、罪悪感が……
     なんだこの素直さ!
     しかも気遣いできる優しさ!)

    ひき娘「……そっか。
     それなら、仕方ない、ですよね」

    友(んでもってこう、
     仕方ないの一言だけで、
     俺はもう逃げたくなる可愛さ!
     本当に妹に欲しいねぇ……)


    539: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 01:40:48.29 ID:Zsluq6pro


    友「ひき娘ちゃんは、
     男の授業のがよかったかな?」

    ひき娘「え、そ、その……
     おにい、ちゃんの、授業も、
     楽しかったです」

    友「そりゃ嬉しいね。
     ただ、正直に言っていいんだぜ?
     ぶっちゃけどうよって話」

    ひき娘「えと……」


    540: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 01:41:44.94 ID:Zsluq6pro


    友「……」

    ひき娘「……」

    友「大丈夫ならいいぜ?
     ただ、代わって欲しかったら、
     好きなときに云ってくれよ。

     俺の塾は生徒さんの希望優先。
     多少無理しても、
     御要望には応えますってな」にかっ

    ひき娘「……はい」


    541: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 01:42:12.49 ID:Zsluq6pro


    友「そんじゃ、今回の宿題は、
     ここからここまででどう?」

    ひき娘「そんなに、少ないんです?」

    友(おいおい、
     学校云ってないっていうから、
     他のヤツの三倍出してるんだぞ?
     それが「そんなに」少ないって……)

    友「……普段なら、
     ここからだったらドコまでやる?」

    ひき娘「えっと……」ぱらららららら

    ひき娘「……」ららららら


    542: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 01:42:39.00 ID:Zsluq6pro


    ひき娘「ここくらい、まで……?」

    友「……男のヤツ、
     本気でスパルタしてるな。
     よし、じゃ、そこまでね」

    ひき娘 びくっ

    友「男から甘くするなーって、
     云われてっからさ」にやっ

    ひき娘 ……こくん。うるうる

    友(やべ、涙目が可愛すぎ……)

    友「そんじゃ、また――」

    ひき娘「は、はい……」


    543: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 01:43:08.69 ID:Zsluq6pro


     ぱたん

    ひき娘「……」ぐたぁっ

    ひき娘「授業はそんなに大変じゃなかったけど」

    ひき娘「…………先生」

    ひき娘「……………………男さん」


    544: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 01:43:37.21 ID:Zsluq6pro

    ----------------------------------
     四十八日目 教員室

    男 かきかきかきかき

    黒髪 そろーっ

    男 かきかきかきかき

    黒髪 にひっ

    黒髪 ばっ

    黒髪「だーれだ」

    男「…………仕事の邪魔ですよ?」

    黒髪「むぅっ、ノリが悪いわね」


    545: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 01:44:02.86 ID:Zsluq6pro


    男「暇ではありませんので」しれっ

    黒髪「でも、根のつめすぎはダメでしょ?」

    黒髪 もみもみ。きゅっ

    黒髪「ほら、目元の筋肉が固まっちゃってる」

    男「……気持ち良いですが、
     自分でできるので大丈夫ですよ。
     それより、要件を済ませてください」

    黒髪「早くいなくなれって事?」

    男「端的に悪意をもって解釈すれば」

    黒髪「善意で解釈すれば?」

    男「夜道は危ないので、
     まだアーケードに明かりのある、
     今の内に歩いたほうが良いでしょうという心配です」


    546: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 01:44:34.22 ID:Zsluq6pro


    黒髪「で、先生の心境としては」

    男「善意が十割、悪意が二割ですね」

    黒髪「上限超えてるじゃない」

    男「副次的に意味を持つ場合、
     単純な比率ではあらわせませんからね」
     人の言動などその代表でしょう」

    黒髪「……いつになく、つれないわね」

    男「そうでしょうかね」

    黒髪「そうでしょうよ」


    547: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 01:45:12.30 ID:Zsluq6pro


    男 かきかきかきかき

    黒髪「…………しょうがないわね。
     判ったわ、本題ね」

    男「はい」かきかきかき

    黒髪「ひき娘から電話があってね。
     なんでも、家庭教師を代わったって」

    男「忙しくなったので、代打を起用しました」

    黒髪「野球は好きじゃないの」

    男「そうなんですか?」

    黒髪「そんな話を膨らませて、
     うやむやにしようとしないでね」

    男「……バレましたか」苦笑

    黒髪「バレバレよ」


    548: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 01:45:44.00 ID:Zsluq6pro


    男「私は、教師です」

    黒髪「そうね」

    男「それが、黒髪さんの問いへの答えですよ」

    黒髪「なによそれ」

    男「……」

    黒髪「……」

    男 かきかきかきかき

    黒髪「……そう、わかったわ」

    男「判っていただけたならよかったです」

    黒髪「分かり合えそうにない。
     買いかぶりだったって、わかっただけよ」くるっ

    黒髪 すたすたすた

     ばたん


    549: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 01:46:29.92 ID:Zsluq6pro


    男「…………」かきかきかきかき

    男「……間違っては、いない」かきかきかき

    男「教師と生徒には、
     最低限必要な距離を、保っただけです」

    男 かきかき

    男「……」

    男 ぎしぃっ。せのびー

    男「……」


    550: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 01:47:06.77 ID:Zsluq6pro


    男「それだけ。
     私にとって、唯一の価値。
     教師であるという価値を保つため、
     必要な行為」

    男「……」

    男「必要――なくてはならない」

    男 がしがし

    男「必要になってしまって、
     いたんでしょうか」


    551: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 01:47:35.78 ID:Zsluq6pro


    男「見上げてくる、瞳」

    男「伺うような表情が多くて、
     他の人には、
     きっとひき娘さんは、
     ずっと困ったような顔に、
     見えるかもしれない……」

    男「でもそれ以上に、あの瞳が」

    男「大きな目の中で、
     きらきらと輝く瞳が、
     顔の表情よりもに、
     感情を伝えてきて、気付かされる」

    男「思慕、尊敬、憧憬……」

    男「私の話に、
     本当に楽しそうに目を輝かせて」


    552: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 01:48:24.76 ID:Zsluq6pro


    男「そんな時間が楽しくて」

    男「楽しく」

    男「教師の仕事だというのに。
     それ以上に私は、
     ひき娘さんと会うのを楽しむようになっていた」

    男「アレだけの好意を向けられて、
     変質しないほど、鈍くはないんですよ」

    男「そうであれば、良かったのに」

    男「鋼鉄の魂が欲しい。
     チタンの心が欲しい。
     変質しない、無機質なものでありたい」


    553: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 01:49:07.11 ID:Zsluq6pro


    男「教師としてしか居場所の無い、
     こんな私と」

    男「部屋の中にしか居場所の無い、
     ひき娘さんと」

    男「引き合う孤独の力にも、
     影響を受けないように」

    男「重力の強さは、
     距離の二乗に比例する」

    男「私と彼女も離れていれば、
     やがて……」


    554: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 01:49:32.90 ID:Zsluq6pro


    男「まして、彼女の想いは、
     他の人のそれとは意味が違う……」

    男「彼女にとっての私は、
     彼女の世界の中での唯一の異性」

    男「カウンセリングの過程で生じる、
     擬似的な相手への依存」

    男「私の想いとは。かさならない」

    男「だから、これでいいのです」

    男「これで」


    男「……帰りましょう」


    555: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 01:50:01.29 ID:Zsluq6pro

    ----------------------------------
     四十八日目 塾のビル前

    男 とことこ

    男「…………ん?」

    ?(遠く)「からよっ。……ぜ」

    ?(遠く)「……じゃんよー」

    男「最近の若者は、元気ですね。
     ただなにやら、物騒な雰囲気で……」

    黒髪(遠く)「離してよっ!」

    男「っ!」だだっ


    556: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 01:50:43.24 ID:Zsluq6pro


    男「君たち、何をしてる!」ばっ

    黒髪「先生っ、助けて!」

    茶髪「あん?」

    刺青「なんだアイツ」

    男「いま警察を呼んだぞ!
     すぐに来るから大人しくしなさい!」

    ピアス「……ちっ、行くぞ」どかどか

    茶髪「でもよ、警察なんざ……」


    557: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 01:51:12.65 ID:Zsluq6pro


    ピアス「うるせえ。
     面倒ごとになる前に行くんだよ」げしっ

    茶髪「いてっ、いてぇーなー。
     わかったよ」とことこ

    刺青「次に会ったら、
     今度はもっとやってーなんて云うまで、
     犯してやんよ。けけっ」ぺっ

    男「いこう……」ぎゅっ

    黒髪「っ……」

    男 ぐいっ

     とことこ


    558: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 01:51:40.92 ID:Zsluq6pro


    黒髪「……」

    男「気がつけてよかった。
     暴力を振るわれていませんか?
     必要なら病院に向かわないと」

    黒髪「……」

    男「……黒髪さん?」

    黒髪「……っ。ひぐっ」ぼろぼろ

    男「…………」

    男 そっ

    男 ぎゅぅっ

    黒髪「ぅ……ぐ、うう…………っ」ぎゅぅっ


    559: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 01:52:07.26 ID:Zsluq6pro


    男 ぽん、ぽん

    黒髪「っぐ……ぁぅ……ふぐ……」

    男 ぽん、ぽん

    黒髪「せん、せい……」

    男「……はい」ぽん、ぽん

    黒髪「ごめんなさい……」

    男「なぜ、謝りますか?」

    黒髪「だって、だって……」ぼろぼろ


    560: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 01:52:36.25 ID:Zsluq6pro


    黒髪「帰り道に、やっどわがって……」ぼろぼろ

    男 ぽん、ぽん

    黒髪「先生の、ごどばの意味……」

    男「……もしかしてそんな事のために、
     こんな時間にわざわざ、戻ってきたんですか?」

    黒髪 こくん

    男「危険だと、言いましたよね」

    黒髪「ごべんなざい……でも」

    男「でもも、なにもありません。
     とりあえず、ティッシュです。
     使ってください」


    561: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 01:53:02.52 ID:Zsluq6pro


    黒髪 ごしごし、ちーん

    男「まったく。
     わたしは危うく、
     黒髪さんをひどい目にあわせるところでした」

    黒髪「……そんなの」

    男「どうでもよくありません。
     だいいち、怖かったでしょう」

    黒髪 こくり

    男「すみません。
     わたしが、きちんと説明しなかったばかりに」

    黒髪 ふるふる

    男「とりあえず、今日は送ります。
     車に乗ってください」がちゃ


    562: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 01:53:31.33 ID:Zsluq6pro

    ----------------------------------
     四十八日目 車内

     ぶろろろろ

    黒髪「……」

    男「……」

    黒髪「……ね、先生」

    男「なんですか?」

    黒髪「先生は、
     今回私じゃなくても、助けたの?」


    563: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 01:53:57.64 ID:Zsluq6pro


    男「どういう意図かわかりませんが、
     誰であっても、
     自分が助けられる範囲で、
     助けられる人は助けますよ」

    黒髪「……変わってないですね」

    男「はい?」

    黒髪「ずっと前の事です。
     私の学校に、一人の先生がいました」

    男「……」


    564: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 01:54:23.79 ID:Zsluq6pro


    黒髪「授業が面白くて、
     テストは難しいけど、
     人気のある先生でした。

     ただ、一つの事件がきっかけで、
     先生は学校を辞めたんです」

    男「それは」

    黒髪「辞めたといっても、
     本当は、辞めさせられた、でした。

     先生がいなくなるとき、
     偶然私は、
     大きな荷物を持った先生と会って、
     先生が辞めるって、聞いたんです」

    男(黒髪さんと、私が?)


    565: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 01:54:49.82 ID:Zsluq6pro


    黒髪「どうしてかと聞いたら、
     『どんな理由があっても、
      教師は生徒を殴っては、
      いけないらしい』って、
     悲しそうに云われました。

     私はその前日に、
     先生と一緒にいたんです。

     先生が殴った生徒が、
     女の子をおそっている所を、
     先生と一緒に見たんです」

    男(そうだ。
     あの事件の時、
     私は一緒にいた女生徒に、
     いじめられていた女の子を任せて、
     逃げる子たちを追いかけた。

     あの時に一緒にいたのは)


    566: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 01:55:21.51 ID:Zsluq6pro


    黒髪「先生が、
     なんでそんな事をするんだって、
     その生徒を殴ってました。
     悲しそうに泣きながら。
     
     その姿を見て、
     私はその先生を尊敬したんです。

     おそわれた子のためでもあったけど、
     おそった子たちのためだって、
     それが伝わってきて」

    男「……」

    黒髪「それなのに、
     それがいけなかったって、
     悔しそうに、笑って……

     いつでも生徒のために、
     がんばってくれてる先生で、
     ずっと、ずっと、
     尊敬してて」

    男「……人を殴る人を、
     尊敬してはいけせんよ」


    567: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 01:57:08.58 ID:Zsluq6pro


    黒髪「それでも、良い先生でした。
     『もし生まれ変わったら、
      彼らを見逃しますか』
     私が最後にそう聞いたんです。
     『同じように殴るでしょう』
     まっすぐに、胸を張ってそう答えた姿が、格好良かった。

     あの先生のお陰で、
     私は、こんな人になりたいって、
     目標を見つけることができたんです」

    男「……」

    黒髪「正確には、
     あんな人の隣に立てるようにって、
     髪をきれいにして伸ばして、
     お化粧を研究して、
     勉強もがんばって……」

    男「……」


    568: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 01:57:36.08 ID:Zsluq6pro


    黒髪「再会した時には、
     誰だかわかってもらえなかったけど、
     それでも良かったんです。

     今度は一から、
     私を見てもらおうって」

    男「……黒髪さん」

    黒髪「でも、その人を友人に紹介したら、
     その友人の方が、
     私よりずっと親しくなっちゃいましたけどね」

    男「……」


    569: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 01:58:02.85 ID:Zsluq6pro


    黒髪「先生、その人の代わりに、
     聞いてくれませんか?」

    男「…………はい」

    黒髪「先生は、すごい人です」

    男「…………」

    黒髪「どれくらいすごいかって、
     私みたいないい女が、
     惚れちゃうくらいです」

    男「……はい」

    黒髪「だからこそ」ほろり、ほろり

    黒髪 ぐしぐし

    黒髪「教室の外では、
     少しくらい、肩の力を抜いてください。

     教師じゃないあなたを、
     必要としている人がいるから」

    男「…………」


    570: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 01:59:05.07 ID:Zsluq6pro


    黒髪「先生、聞いてくれてありがとう」

    男「……」

    黒髪「あ、そこの交差点までで、
     いいですよ」

     ぶろろ……

    男「黒髪さん」

    黒髪「イヤよ」

    男「え……」


    571: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 01:59:32.17 ID:Zsluq6pro


    黒髪「今日は何も聞きません。
     明日には、元気で明るくて、
     美人で格好良くて知的でユーモラスな黒髪になるから」

    男「……」

    黒髪「今は、何も聞きたくないの」

    男 こくり

    黒髪「じゃね。先生。
     送ってくれて、ありがと」くるっ

    黒髪 すたすたすた


    577: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 08:57:16.64 ID:Zsluq6pro

    ----------------------------------
     四十八日目 コンビニ前

    茶髪「あーだりー」

    ピアス「ったく、変な男のせいで、
     せっかくの獲物だったのによ」

    茶髪「な、な。
     胸はちょっと足りないけどよ、
     お嬢様風っつーの?

     たっぷりバツ食わせて、
     客とらせてもイケたはずなのによー」

    ピアス「あはは、お前マジでどキチクじゃね?」

    刺青「……」

    茶髪「おい、刺青ー」


    578: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 08:57:43.25 ID:Zsluq6pro


    刺青「あの男、見た覚えがあるな」

    ピアス「は? 前世の因縁とか?
     スピリッチュアルー、なんちって」

    刺青「んなワケあるか……いや、そうか」

    茶髪「え、マジで前世?」

    刺青「バカやろ、んなワケねえって。
     ただ、ある意味じゃ前世だぜ」

    茶髪「あぁん?
     お前売り物のバツでもやったか?」

    刺青「二年前に、俺ら殴った教師いたの、おぼえてるか?」


    579: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 08:58:09.43 ID:Zsluq6pro


    茶髪「……いたか?」

    ピアス「あー、あぁ!
     そっか、あいつ!
     あの中学の時のやつか」

    刺青「あいつのせいで、
     たしかお前、
     随分親に絞られてたよな」

    ピアス「……ちっ、思い出させんなよ」

    刺青「確かあいつよ、
     結局お前の親が圧力かけて、
     学校辞めさせたんだよな」

    ピアス「そうだけどよ……
     そういやあいつ、
     先生なんて呼ばれてたか」


    580: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 08:58:39.73 ID:Zsluq6pro


    茶髪「おいおい、
     せっかく俺たちが体張って、
     世にも危険な暴力教師ってのを、
     やめさせたのによ、
     まだやってんのかよ」

    ピアス「けけっ、おまえ何もしてねーだろーがよ」

    茶髪「んなことねーよ。
     俺も一発殴られたしよー」

    ピアス「あー、胸糞わりい。
     忘れようぜ、あんなヤツの事」

    刺青「……いいオモチャなのにか?」にやっ

    茶髪「オモチャ?」

    刺青「ピアスの親ってよ、
     確か教育委員会の代表なんだよな?」

    ピアス「ああ、そうだぜ」


    581: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 08:59:07.10 ID:Zsluq6pro


    刺青「その代表が、
     苦情言って辞めさせたのによ、
     それがまだ先生なんて呼ばれて働いてるなんて……

     世のため人のためにならねーだろ」にやっ

    茶髪「お、おおー、そういう事か。
     つまり俺たちが、
     アイツの危険性を改めて訴えようってことか」

    ピアス「つまり俺たちが正義の味方か」にやっ

    刺青「おう。俺たちを殴った事、
     しぃっかりと、後悔してもらわなくちゃな」

    茶髪「きひひ」

    ピアス「それじゃマズはよー……」


    582: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 09:00:12.44 ID:Zsluq6pro

    ----------------------------------
     五十五日目 教室

     がらがら

    男「皆さん、授業を――
     ……コレは、いったい」

    黒髪「……」

    男「なぜ、教室に、
     黒髪さんしかいないんですか?」

    黒髪「……そういう日、
     なんじゃないかしら」

    男「バカな事を云わないで下さい」

    黒髪「……」

    男「何があったんですか?」


    583: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 09:00:40.92 ID:Zsluq6pro


    黒髪「……塾長に聞いてみたら?」

    男「友さんに? ……わかりました。
     少しだけ失礼します」

    黒髪「のんびり待ってるわ」

    男 たたっ

    男(二年生クラスは、通常二十人。
     それなのに、黒髪さんだけ?)

    男(そういえば、
     前回の授業の際にも、
     欠席が目立っていましたが。
     何かが起きたのでしょうか?)


    584: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 09:01:30.82 ID:Zsluq6pro


     がちゃ

    友「ええ、はい。
     了解しました。
     それでは、またご縁がありましたら――」

    男(電話……随分浮かない顔ですが)

    友「はい、それでは失礼します」かちゃん

    男「友さん。
     少しいいですか?」

    友「ん、なんだよ。
     今は授業時間だろ?」

    男「それはそうですが、しかし」

    友「だったら授業をしてくれ。
     それとも、生徒が一人もいないか?」


    585: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 09:02:41.80 ID:Zsluq6pro


    男「いえ、一人。
     黒髪さんだけが、います」

    友「ほう。黒髪ちゃんか。
     なら黒髪ちゃんのためにも、
     早く戻って授業してやってくれ」

    男「驚かないんですか?」

    友「まあ、な。
     今日だけで二十人以上、
     退塾の電話が有ったしな」

    男「そんなに……っ!
     いったいなぜ、どうして!」


    586: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 09:03:49.02 ID:Zsluq6pro


    友「……んな事はどうでもいいさ。
     来る者拒まず去るものは追えず。
     サービス業なんだから、
     こんな事もあるだろうさ」

    男「こんな事もって……
     二十人が一度に退塾なんて、
     聞いたこともありませんよ」

    友「お、そうか?
     そんならちょっと、
     ギネスにでも掛け合ってみるか」にかっ

    男「ふざけてる場合じゃないでしょう!」

    友「そうだな。お前は授業だ」


    587: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 09:04:46.26 ID:Zsluq6pro


    男「今は授業なんて」

    友「違うだろ。
     黒髪ちゃんがいるんだろ?」

    男「いますが」

    友「そんなら、
     彼女のために授業しろよ。
     ウチは雑談するために、
     お前を雇ってるんじゃない。
     授業をさせるために雇ってるんだ」ぷいっ

    男「……」


    588: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 09:05:16.23 ID:Zsluq6pro


    友「話なんざ、授業が終わってからもできるだろ」

    男「……そうですね。
     わかりました。
     授業をしてきます」

    友「おうおう。しっかりやって来い。
     ……二人きりだからって、
     襲い掛かっちゃいけねえぜ?」

    男「そんな事はしませんよ」苦笑

    友「つまらんヤツめ。
     なぜわかった?!
     くらい言ってみろよ」

    男「遠慮します。
     では、失礼」とことこ

      ぱたん


    589: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 09:06:04.08 ID:Zsluq6pro


    友「……」

     prrrr prrrr

    友 がちゃ

    友「はい、もしもし――
     はい、はい……
     退塾でございますね。
     わかりました……」


    590: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 09:06:35.69 ID:Zsluq6pro

    ----------------------------------
     五十五日目 居酒屋

    友「そんじゃ、まずは乾杯だな。
     おつかれー」

    男「……はい、おつかれさまです」

    友「どうしたよ、
     いつも以上にノリが悪いな」

    男「それはそうでしょう。
     わざわざこんなところまで」

    友「別にいいだろー。
     今日は質問に来る生徒だって、
     いなかったんだしよ」


    591: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 09:07:18.29 ID:Zsluq6pro


    男「そもそも、
     生徒さんが殆ど来ていませんでしたがね」

    友「なー」

    男「……なー、ではないでしょう。
     いったい何があったんですか?」

    友「……大した事じゃねーって。
     少しすりゃ、
     また人は来るって」

    男「そういう問題ではないですよ。
     一日に二十人以上の退塾なんて、
     どんな理由があれば起こりえますか」

    友「んーまあ、
     近くに不審者が出るって、
     噂があるからな。
     そこら辺じゃね?
     いいから飲めよ」


    592: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 09:08:15.21 ID:Zsluq6pro


    男「友さん」

    友「なんだよ、マジな顔で」

    男「真剣にもなります。
     あの塾は、友さんにとって、
     お爺さんの形見の、
     大切な場所じゃないですか。

     友さんはせっかく、
     有力な国家資格も取って、
     省庁入りが期待されていたのに……

     お爺さんが好きだった場所を残したいと」

    友「こまけえなぁ。
     良いんだよ別に。
     大した事じゃないって言ってんだろ」


    593: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 09:09:03.99 ID:Zsluq6pro


    男「……もしかして、
     わたしが何らかの原因ですか」

    友「んなわけねえって」

    男「友さん」

    友「あん?」

    男「わたしの目を見て言えますか?」

    友「おう」じーっ

    友「お前は特に関係ねえよ」じーっ

    男 じーっ

    友 じーっ


    594: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 09:09:31.49 ID:Zsluq6pro


    男「ああ、ウソですね」

    友「なんでだよっ!」

    男「気付いて無いかも知れませんが、
     普段の友さんであれば、
     私の提案に対して、
     『男同士で見詰め合うなんてごめんだ』と、
     そう言って笑い話にします」

    友「く……ちっ」

    男「心当たり、ありますよね」

    友「これだから、幼馴染ってヤツは」

    男「お褒めに預かり恐悦至極」


    595: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 09:10:22.08 ID:Zsluq6pro


    友「……そうだ。
     今回のコレの原因に、
     お前が関わっているのは事実だ」

    男「やはり……」

    友「だがな、そんな事はどうでもいい」

    男「どうでも良くはないでしょう。
     私の何が問題でしたか?
     原因を究明し、訂正すれば、
     戻ってきてくれる生徒さんもいるはずです」

    友「いや。そうはならん」

    男「……なにが悪かったんですか」

    友「…………」


    596: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 09:11:27.02 ID:Zsluq6pro


    男「応えていただけないなら、
     この場で辞表を出すしか、ありません」

    友「辞めるなよ」

    男「では、何が原因か、
     しっかりと教えてください」

    友「……わかった。
     だがな、何があろうと、
     俺はお前の退職はゆるさねえ」

    男「……またムチャを言いますね」苦笑

    友「ムチャはお前だ。
     酒もまだ飲んでないのに、
     目を据わらせやがって」


    597: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 09:12:48.79 ID:Zsluq6pro


    男「それで、事情とは」

    友「二年前のな。
     お前の起こした事件あったろ。

     いじめの現場に割って入って、
     暴力振るってた連中を殴ったって」

    男「はい」

    友「んで、教育委員会のお偉いさん、
     血相変えてお前を糾弾に来たんだよな」

    男「その通りです」


    598: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 09:14:02.06 ID:Zsluq6pro


    友「ま、その件でな。
     ある意味この周辺じゃ、
     公立も私学もみんな、
     お前に対して腫れ物扱いしたわけだ」

    男「……」

    友「教師ってのは、
     広いようで狭い社会だ。

     少し前までは、
     支持政党に関してとかまで、
     暗黙の了解で統一が図られたりしたほどだ」

    男「知っていますよ」


    599: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 09:15:35.15 ID:Zsluq6pro


    友「まあ落ち着いて聞けよ。
     だからこそ、周りの塾なんかも、
     お前の事を拒んだわけだ。
     教育者村の村八分ってわけだな」

    男「……そこを友さんが、
     誘ってくれましたね」

    友「まあな。
     幼馴染として、
     お前の教え方のうまさは知っていたからよ。

     丁度人手が足りなかったし、
     まだ教師ヤル気があるなら来いって、
     そう言ったよな」

    男「そして私はそれに応えた」


    600: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 09:16:00.82 ID:Zsluq6pro


    友「だからまあ、
     それで終わったはずだったんだ。

     権威に逆らって、
     この近辺にはいられないはずだ、
     だからコレで終わりと、
     ひと段落ついたはずだった。

     だが、お前がウチで、
     教員やってるってのを、
     教育委員会にチクったヤツがいたらしい」

    男「頭に伝われば、後は手足が動かされ」

    友「学校でな、
     あそこの塾には暴力教師がいると、
     そう生徒に言うように、
     秘密裏にだが促されたらしい」

    男「……」


    601: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 09:17:23.98 ID:Zsluq6pro


    友「ちなみにこの話ってのは、
     知り合いの学校教師から、
     こっそり流れてきたわけだ。

     お前が疫病神だって、な」

    男「否定しませんよ。
     そうした事情であれば、
     私を解雇するのは、
     雇用主である友さんにとって、
     半ば義務と云うべきものでしょう」

    友「知ったことかよ。
     そんな事したら酒がまずくならぁ」


    602: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 09:17:50.64 ID:Zsluq6pro


    男「友さん。
     そうして義理や人情を通すのは、
     悪いことだとは思いません。
     ですが、今の友さんは、
     二人の専業教師と、
     六人の学生バイトを雇う、
     事業主なんですよ。

     彼らの生活と、
     そして何より、
     お爺さんの塾の看板を守るべきです」

    友「……」


    603: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 09:18:54.70 ID:Zsluq6pro


    男「やはり、私はやめるべきです」

    友「また……そうやって逃げるのか?」

    男「逃げる、ですか」

    友「ああ、逃げてるだろ」

    男「コレは逃げる、ではなく、
     状況の悪化を避けるための、
     回避行動です」

    友「いいや違うぜ。
     それは回避じゃねえ。逃避だ。

     いい機会だから言ってやる。
     昔からな。
     お前は中途半端なんだよ。
     逃げて迷って、うだうだうじうじ」


    604: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 09:19:52.30 ID:Zsluq6pro


    男「そのような事実はありません」

    友「確かにそうとも言えるな。
     その良く回る脳みそで、
     毎回毎回、自称適切な理由って名前で、
     言い訳作ってんだからな。

     コレは仕方なかった。
     こうする以外の手段が無かった。

     そうやって男は逃げてきた」

    男「……いい加減に、怒りますよ」

    友「怒れよ。
     怒れる言い訳が見つかるならな。

     お前は小さい頃は本が好きだったな。
     俺が遊びに行こうって言っても、
     公園にまで本を持ち込むような、
     イヤミなヤツだった」

    男「……」


    605: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 09:21:23.60 ID:Zsluq6pro


    友「そんな物語好きが高じて、
     大学は民俗学選んだくせによ。

     民俗学じゃ食っていけないって、
     教師になったよな」

    男「教師には純粋に憧れていました」

    友「だが、その憧れよりも、
     民俗学への思いのほうが強かったよな」

    男「それは……」

    友「俺みたいに、
     食っていければ、
     仕事なんて何でも良いって、
     公務員選ぶよりはまっすぐだろ。

     結局、爺ちゃんが死んで、
     仕事なんか何でも良いって、
     塾講師になったがな。俺は。

     それでも、お前にとっての教師が、
     逃げた先だった事実は、
     たとえ何年経っても変わらねえよ」


    606: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 09:23:00.75 ID:Zsluq6pro


    男「……」

    友「それでもお前が、
     教師って職に対して、
     誠実に向き合ってた事は知ってるつもりだ」

    男「ええ。
     教師として、
     逃げるような行動を取った覚えはありません」

    友「それは完全じゃないな」

    男「何が、ですか」

    友「この騒動の原因。
     二年前の事件で、
     お前は生徒を殴って、
     それを謝罪せずに、
     教育界から排斥されたな」


    607: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 09:24:15.20 ID:Zsluq6pro


    男「表現の適切さは疑わしいですが、
     おおむね概要はその通りです」

    友「その時に考えたろ。
     このままじゃいけないとよ」

    男「はい」

    友「ならその時は頭を下げても、
     内側からルールを変えることで、
     より多くのヤツを、
     助ける選択肢もあったろ。

     むしろソッチのほうが、
     手段としては正統派だ」

    男「……」


    608: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 09:25:21.87 ID:Zsluq6pro


    友「俺だってな、
     学校じゃ竹刀で叩かれたり、
     そんな事が珍しくなかった世代だ。

     暴力反対ってヤツのいう事も判る。

     だがな、何の罪も無いやつを、
     面白いからって理由で殴るヤツに、
     口先だけでやるなって言って、
     本当に止めさせるなんて、
     まずできねえよ。

     人の痛みがわからないなら、
     殴られたら痛いって事だって、
     教える必要があるだろ」

    男「……」


    609: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 09:26:14.89 ID:Zsluq6pro


    友「学校は小さな社会だ、
     なんていうけれどよ。
     ならきちんと、
     法律だって機能させるべきだろ。

     いじめられたやつが、
     本気で警察、法廷に駆け込まないと、
     どうにもならない現状がおかしいだろ」

    男「そんな事を言っても、
     どうしようもありませんよ」

    友「その場だけ頭下げて、
     偉くなって、
     現場を直すって選択肢も、
     お前の中にはあったはずだろ」


    610: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 09:27:07.07 ID:Zsluq6pro


    男「あまり現実的ではありませんね」

    友「本当にそうか?
     俺は、お前にならできたと、
     本気で思ってるぞ。
     できないヤツに言うのは無理難題だが、
     立場も、能力も、
     お前ならできたと思う」

    男「……買いかぶりすぎです」

    友「…………そう思わせるな。
     だが、まだそれだけじゃない」

    男「まだあるんですか」

    友「ひき娘ちゃんの件だ」

    男「……」


    611: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 09:28:02.97 ID:Zsluq6pro


    友「お前さ、
     人間不信でひきこもってる子が、
     あんだけなついてるんだぜ。

     それをどうして、
     しばらく私には教えられません、
     なんて突っぱねられるんだよ」

    男「それは、
     生徒と教師としての、
     適切な関係を保つためです」

    友「はっ。真っ当だな」

    男「真っ当ですよ」

    友「反吐がでるくらいにな」

    男「……」


    612: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 09:42:44.51 ID:Zsluq6pro


    友「いいじゃねえか。
     高校生の恋愛ごっこだ。
     期限付きで親しくなったって、
     問題なかったろ」

    男「それは誠実ではありません」

    友「だから誠実に切り捨てるのか」

    男「……」

    友「人間不信で、男性恐怖症の子が、
     自分の唯一の世界である部屋に、
     招き入れた最初の異性だぜ。

     くっ付いたの離れたのと、
     やいやいやるような、
     高校生のごっこ遊びのわけがあるかよ。

     それこそ、
     俺たちからしてみたら、
     部屋の中にライオンだのトラだの、
     そんな生き物を入れるような恐怖だ。

     それを乗り越えたあの子の勇気を、
     お前はそんなモンで切り捨てるってのかよ」


    613: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 09:43:15.92 ID:Zsluq6pro


    男「ならば、
     どんな理由ならばいいと云うんですか」

    友「どっしり構えて向き合えよ。
     他に惚れたやつがいるとか、
     そんな状況なら話は変わるがな。

     今のお前は、
     前の女に振られて以来、
     そういった関係の相手はいないだろ」

    男「そうですが」

    友「でもって、お前さ。
     あの子の事、かなり好きだろ」


    614: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 09:44:03.29 ID:Zsluq6pro


    男「……キライとは言えませんね」

    友「素直じゃねえ奴な。
     まあいい。
     それでも、キライじゃねえなら、
     距離をとる必要なんてねえだろ」

    男「彼女にとって私とは、
     カウンセリングの過程で依存した、
     それだけの相手です。

     そこに教師やカウンセラーではない、
     私の感情を持ち込んでは、
     物事を見失います」

    友「アホたれ。
     お前は何が見えてる気なんだよ

     恋に恋して夢見る年かよ。
     そんなんだったら、それこそ、
     もう会うなって言ってやるがな。

     ひき娘ちゃんにしたところで、
     お前にしたところで、
     向かい合うならその形に貴賎はないだろ」


    615: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 09:44:31.97 ID:Zsluq6pro


    男「しかし、
     カウンセリングの副作用だと、
     その事に気がついたときに、
     わたしと距離が近ければ、
     その分だけ、
     改めて距離を取る際に彼女の傷に――」

    友「わかるが分からん。
     お前はなんでそう、
     物事を後ろ向きに考えるんだよ。

     俺たちはな、
     いつまでも一緒にいられるような、
     そんな相手なんざいねえんだ。

     誰といようが、
     別れて悲しむのは変わらん。
     むしろ悲しみが多いことを喜べ。
     それだけお前にとって、
     大切にしたい相手がいたって、
     そういう事だろ」

    男「……」


    616: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 09:46:35.91 ID:Zsluq6pro


    友「その上であえて言うぜ。
     俺たちはな、
     別れるために出会うんじゃねえ。

     出会って、手を取り合って、
     笑いあって、遊んで、
     そんなすべての喜びを、
     別れの悲しみのために否定するなよ。

     ひき娘ちゃんは、
     今を必死に生きてるぜ?

     このままじゃいけないって、
     俺の事も部屋に迎え入れた」

    男「っ……」

    友「すんげえ努力だよ。
     他の誰が大した事ないって言っても、
     俺は惚れそうなくらい感じるね。

     その努力の先にいるのが、
     お前の姿なんだぜ。
     そのお前が向き合わないで、
     まっすぐ見つめないで、
     何をグダグダ言ってやがる」


    617: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 09:50:12.57 ID:Zsluq6pro


    男「……私は」

    友「塾の事もだ。
     俺たちは幼馴染だぞ。

     お前の不始末くらい、
     俺がなんとかしてやるよ。

     お前が気づいてないだけでな、
     俺は山ほど、
     お前のケツを拭ってやってんだ」

    男「……嫌な表現ですね」

    友「うっせ。茶化すな。
     とにかくな、俺はお前を、
     手放すつもりなんかねえんだよ。

     それにな。
     お前の教室だがな、
     みんなお前を信じてるんだぜ」


    618: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 09:52:43.47 ID:Zsluq6pro


    男「しかし、大勢がやめて、
     今日の教室も、黒髪さんだけでしたよ」

    友「さすがにな、
     その塾に行くなと教師に言われて、
     平然と来られるやつはいなかったらしいが……

     お前の生徒達からはな、
     少ししたらちゃんと通いますって、
     結構連絡来てるんだ」

    男「そんな」

    友「周りはお前を信じてるんだ。
     だからな、胸を張れ」

    男「…………はい」

    友「よし」


    619: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 09:54:27.22 ID:Zsluq6pro


    友「さーてそんじゃ、
     そろそろ帰るか。
     閉店時刻だしな」

    男「分かりました」

    友「あ、ちなみに代金お前持ちな」

    男「……仕方ないですね」

    友「よーしそんじゃ、
     車で待ってるからな」

    男「あ、すみません。
     今日は話が続いたので、
     一杯目の日本酒の後、
     水を飲んでいません……」


    620: ◆LZfAlLlryk 2011/04/27(水) 09:55:42.27 ID:Zsluq6pro


    友「げ、んじゃ」

    男「車は明日にでも、
     取りに来ないといけませんね」

    友「うえええ。
     くそ、駅から遠いからこそ、
     お前に頼ってるのによ」

    男「すみませんねぇ」苦笑


    625: ◆LZfAlLlryk 2011/04/29(金) 00:02:28.13 ID:zwyuxKRko

    ----------------------------------
     五十七日目 教室

    黒髪「また私だけ、ね」

    男「……そうですね」

    黒髪「私としては、
     先生と二人っきりで、
     濃厚な時間を過ごせるって事で、
     歓迎したいけど」にこっ

    男「では、濃厚に、
     大量のテストを始めましょうか」

    黒髪「やっぱり他の子がいないと、
     さみしいわねー」ついーっ


    626: ◆LZfAlLlryk 2011/04/29(金) 00:04:43.78 ID:zwyuxKRko


    男「そうですよね。
     それに教室としてもコレでは立ち行きません」

    黒髪「そもそも、
     先生と会える機会がなくなりそうね」

    男「どうしたものでしょうかね……」

    黒髪「それは相談?
     それとも独り言の愚痴」

    男「……」

    黒髪「そういえば、
     今朝の夕日新聞は見たかしら」

    男「いいえ。
     ウチは他紙を取っているので」


    627: ◆LZfAlLlryk 2011/04/29(金) 00:05:18.57 ID:zwyuxKRko


    黒髪「そう。
     なら、持ってきて良かったわね」がさがさ

    男「……『暴力事件を起こした教師、
     塾などへの移籍』ですか。
     この記事でウチの塾の外観写真……」

    黒髪「内容は別に、
     この塾だけを叩く内容じゃないわ。
     でも、見る人が見れば、
     写真の下に添えられた、
     都内某所の私営塾って解説だけでも十分ココってわかるわね」

    男「これは、偶然だと考えるべきでしょうか」

    黒髪「偶然さの証明は、
     神の不在証明と変わらないわ。
     考えても意味はないものよ。
     釈迦に説法でしょ」

    男「……」


    628: ◆LZfAlLlryk 2011/04/29(金) 00:05:53.32 ID:zwyuxKRko


    黒髪「この記事については、
     私の通ってる高校でも、
     話題になっていたわ。

     先日、クラス担任から、
     この塾には暴力教師がいるとか、
     そんな話が出ていたから、
     ソレこそ火に油状態よ」

    男「自然鎮火するまえに、
     燃やし尽くそうというつもりですか」

    黒髪「でしょうね」

    男「……やはり、ここは」

    黒髪「自分が問題の教師だと、
     名乗り出て事態の鎮圧を……
     なんて考えてないわよね?」

    男「考えていますが」


    629: ◆LZfAlLlryk 2011/04/29(金) 00:06:41.66 ID:zwyuxKRko


    黒髪「それこそ、
     火に油どころか、
     火にマグネシウムと黒炭の粉末ね」

    男「爆発しますか」

    黒髪「それも、辺りを巻き込んでね」

    男「……」ぎりっ

    黒髪「それにしても、
     わからないわね」

    男「何がですか?」

    黒髪「……本当に、
     追い詰められてるみたいね。
     冷静になってよ。
     普段の先生なら、
     私より先に疑問点を抽出して、
     解決策を探りだしてるでしょ」


    630: ◆LZfAlLlryk 2011/04/29(金) 00:07:58.50 ID:zwyuxKRko


    男「……そうですね。
     こういう場合の抽出要件は四つ」

    黒髪「"だれが"、"なぜ"、
     "どうした"から"どうする"」

    男「さすがです。
     "だれが"という主体は、
     教育委員会でしょうか。

     彼らが行ったのは、
     わたしの排除のために、
     教師を通じて悪評を流し、
     それを裏付ける情報を、
     マスコミに操作した」

    黒髪「その判断で正しいでしょうね。
     基本的には。
     ただし、困ったことが一つあるわ。
     "なぜ"なのか」

    男「……個人的に、
     私は現在の教育委員会の理事から、
     嫌われていますからね。
     それが理由でしょう」


    631: ◆LZfAlLlryk 2011/04/29(金) 00:08:42.81 ID:zwyuxKRko


    黒髪「……本当にそうかしら。
     この件にはいくつか、
     不明瞭な点があるわよ。

     なぜ、今なのか。
     先生が事件を起こしたのは、
     二年前の事よ。
     なぜあの時ではなかったのか。

     そしてなぜ今だったのか。
     なぜ、先生を攻撃したのか」

    男「攻撃、ですか」

    黒髪「攻撃でしょ。
     こういう書き方から見て、
     相手は先生を、
     狙っているんじゃないかしら」

    男「……」


    632: ◆LZfAlLlryk 2011/04/29(金) 00:09:44.63 ID:zwyuxKRko


    黒髪「私の親は、
     外交官をやってるって、
     話したかしら」

    男「一度だけ、
     何かの拍子に聞いた覚えがあります」

    黒髪「日本ではあまり聞かないけど、
     海外ではこんな手段も、
     それなりに聞くわ。

     もっともそれはあくまで、
     一般の個人に対してでは、ないけど」

    男「それも、なぜ、ですね」


    633: ◆LZfAlLlryk 2011/04/29(金) 00:10:21.47 ID:zwyuxKRko


    黒髪「……だめね。
     手がかりが少なすぎるわ。
     ヒントくらいならあるけど」

    男「ヒント、ですか?」

    黒髪「この記事書いたの、
     社会部よね。
     社会部には『友達の友達』がいるの。
     だから、
     聞こうと思えば聞けるかも。

     ただ、そのためには、
     錘が足りないわ。
     現状じゃ、天秤は傾けられないでしょうね」

    男「いえ、いいですよ。
     これはあくまで私と、
     そしてこの塾の問題です。
     そこに巻き込む事はできません」


    634: ◆LZfAlLlryk 2011/04/29(金) 00:11:15.04 ID:zwyuxKRko


    黒髪「……そう。
     なら、お節介はしないわ」

    男「むしろ――」

    黒髪「はい?」

    男「黒髪さんも、
     コチラへ通うのは、
     しばらく考えたほうが、
     良いかもしれませんよ」

    黒髪「……」

    男「学校でその様な話があるなら、
     この塾に通っているというだけで、
     不信の目を向けられるなど、
     周囲から浮いてしまう可能性もあります。

     それは、黒髪さんとしては望まないところでしょう」


    635: ◆LZfAlLlryk 2011/04/29(金) 00:12:22.53 ID:zwyuxKRko


    黒髪「確かにそうね。
     そこそこ地味に。
     ひっそりまぎれて人気者。
     という辺りが、
     私としては理想のポジションね」

    男「上でも下でも、
     目だってしまえば、
     問題はおこりますからね。

     そのために、
     私との接触も、
     他の生徒が帰った後に、
     こっそりと行っていたようですし」

    黒髪「あら、ばれてたの?
     確かに、先生と話すだけでも、
     女子から睨まれたりするから、
     控えていた面はあるわよ」


    636: ◆LZfAlLlryk 2011/04/29(金) 00:12:48.85 ID:zwyuxKRko


    男「女性は大変ですね」苦笑

    黒髪「……いま、イラっとしたわ」

    男「私は何も悪くないですよ」

    黒髪「……ねえ、それ、ワザとでしょ」

    男「何も意図するところは無いですよ」真顔

    黒髪「あーそー。ならいいわよ。
     とりあえず状況を見て、
     問題がありそうなら、
     私も欠席させて貰うわ。

     ……いざとなったら、
     twitterとかでも、
     先生とはお話できるしね」

    男「できるなら、
     普通に授業をしたり、
     普通にお話できるのが、
     一番良いのですけどね……」


    637: ◆LZfAlLlryk 2011/04/29(金) 00:13:36.05 ID:zwyuxKRko

    ----------------------------------
     五十七日目 教室の外

    黒髪 とことこ

    茶髪(……ん? あいつは)

    茶髪「なあ、おい」

    黒髪「はい?」

    黒髪(今の声、もしかして)

    茶髪「お前、黒髪じゃねえか?
     俺、茶髪!
     中学の時、同じクラスじゃなかったか?」

    黒髪(……やっぱり。
     こないだの夜に私をおそった中に、
     この男がいたわよね。
     ……気付いてないのかしら)


    638: ◆LZfAlLlryk 2011/04/29(金) 00:14:36.67 ID:zwyuxKRko


    黒髪「お久しぶりね」

    茶髪「おお、よかった。
     忘れられてねーんだ」にっ

    黒髪「だってクラスの人気者よ、
     忘れるわけないじゃない」にこっ

    茶髪「え、はは、そんなこた無いだろ」照れ照れ(////

    黒髪(……あの頃から、
     お調子者なのは代わらないのね。
     ま、男子なんて程度の差はあれ、
     基本的には変わらないわよね)

    茶髪「ところでさ、
     いま黒髪って、
     あそこの塾から出てこなかったか?」

    黒髪「……ええ、そうよ」


    639: ◆LZfAlLlryk 2011/04/29(金) 00:15:09.92 ID:zwyuxKRko


    茶髪「お前もあそこの塾に通ってんの?
     やめとけよ」

    黒髪「なんでかしら?」

    茶髪「あー、もしかして知らん?
     あそこの塾にさ、
     ウチの学校でな、
     生徒を殴った男ってヤツがいてよ。

     つか殴られたの、
     俺とかピアスなんだけどな。きひひ」

    黒髪「そうなの? 怖いわねー」

    茶髪「まあどうせ、
     近いうちにつぶれるけどな」

    黒髪「はい?
     ねえ、どういうこ事?」

    茶髪「んー。
     まあ、近いうちわかるだろ」にやっ


    640: ◆LZfAlLlryk 2011/04/29(金) 00:15:40.49 ID:zwyuxKRko


    黒髪(くっ、頭悪いくせに、
     変にもったいぶって……)

    黒髪「えー、アタシ気になるなー」そっ

    茶髪「うほっ」にやぁっ

    黒髪(胸を押し付けられて、
     そんなにいいのかしら。
     鼻の下伸ばしすぎよ。

     しかも胸元見すぎっ。
     ……大きくないのが劣等感なのに。

     あーもう、気持ち悪いわねー)


    641: ◆LZfAlLlryk 2011/04/29(金) 00:16:29.56 ID:zwyuxKRko


    黒髪「アタシの友達もね、
     この塾通ってて……
     心配になっちゃうのよ」じっ

    茶髪「うーん、ま、いいか。
     ……実はな、ピアスのヤツがよ、
     男の顔がこの町にいるだけで、
     反吐が出るとか言ってな。

     俺はどうでもいいんだけどよー。

     なんかよくわかんないけどな、
     教育委員会通じて、
     なんかするみたいだぜ?
     あいつの親、そこのお偉いさんでな」

    黒髪(『なんか』って、
     このバカ! 理解してなさいよ!

     まあ、ただこれだけでも、
     動けそうだから、もういいかしら)


    642: ◆LZfAlLlryk 2011/04/29(金) 00:17:34.57 ID:zwyuxKRko


    黒髪 するんっ

    茶髪「ぁっ」

    黒髪「ありがと、茶髪くんっ。
     これで『友達』にも、
     気をつけてっていえるわ」にこっ

    茶髪「ちょっ」

    黒髪「それじゃ、
     ウチ門限が煩いから、
     これで失礼するわね。

     また会ったら、
     その時はお礼でもするわ」うぃんく

    茶髪「お、おう……」(////

    黒髪「ばいばいっ♪」ひらひらー

     とことこ

    茶髪「……」ぽーっ


    643: ◆LZfAlLlryk 2011/04/29(金) 00:18:42.53 ID:zwyuxKRko


    ピアス「だからよー、
     確かにコッチで待ち合わせって、
     茶髪にはいったべ」

    刺青「じゃあまた茶髪の遅刻か……
     まさか、薬持って逃げたとか」

    ピアス「アイツにそんな、
     大それたことできるかよ。
     ってほら、噂をすれば――だろ」

    茶髪「……」ぽー

    刺青「おい、茶髪っ」

    茶髪「はっ。
     おお、二人とも、どうしたよ」


    644: ◆LZfAlLlryk 2011/04/29(金) 00:19:32.20 ID:zwyuxKRko


    ピアス「そりゃコッチのセリフだ。
     お前こそ、待ち合わせ忘れて、
     ボーっとしてんじゃねえよ」ごすっ

    茶髪「いってぇええっ。
     ざけんなこのマザコン」

    ピアス「あぁん? やんのかゴルァ」

    茶髪「コッチのセリフだヴォイ」

    刺青「………………はぁ」


    645: ◆LZfAlLlryk 2011/04/29(金) 00:20:19.78 ID:zwyuxKRko

    ----------------------------------
     五十七日目 黒髪の自室

     がちゃ

    黒髪「……」

     ベッドにボフンッ

    黒髪「ただいま、メーちゃん」ぎゅっ

    人形「めぇぇ」

    黒髪 ぎゅー

    人形「めぇぇ」

    黒髪「……」ごろごろ

    黒髪(とりあえず、
     キーワードは埋まったけど……)

    黒髪(読み解くと、面倒な図になるわね……)


    646: ◆LZfAlLlryk 2011/04/29(金) 00:21:04.62 ID:zwyuxKRko


    黒髪(この騒動を仕組んだのは、
     教育委員会というより、
     その有力者の息子のピアスね。

     理由は、男への復讐……
     それも、殴られたからって程度。
     悪意とか復讐心より、
     悪趣味さが透けて見えるわね。

     手のひらの上で、
     どう踊るか見ているような)

    黒髪「……くだらないわね。
     そう思わない?」

    人形「…………」

    黒髪「趣味が悪いし、
     スマートじゃないわ。
     かっこよさの欠片も無い」

    人形「めぇぇ」


    647: ◆LZfAlLlryk 2011/04/29(金) 00:22:04.24 ID:zwyuxKRko


    黒髪(ピアスが親を使って、
     先生に対して圧力を……
     悪評と、その論拠の流布をした。
     これが現状みたいね。

     手段だけはまともなのよねー。
     むしろこの部分は、
     ピアスの親が主体かしら。

     やり口から、
     二流政治家臭さがプンプンするわ)

    黒髪「ここで考えられるのは、
     以下の三つの点の存在。

     相手の次の行動は何か。
     相手との妥協点の模索。
     妥協の押し付け方……」

    人形「めぇぇ」


    648: ◆LZfAlLlryk 2011/04/29(金) 00:23:03.50 ID:zwyuxKRko


    黒髪(問題は利害関係じゃない事ね。
     こうした攻撃は普通、
     相手がいることで、
     利益が損なわれる者か、
     相手の利益が気に食わない者が行う行動。

     そこには何らかの『価値』が、
     密接に結びつくことになる。

     お金、権力、名誉……
     そうした価値主体で考えれば、
     妥協はするかもしれないけど、
     納得できる場所に、
     落とし所に持っていける)

    黒髪 ごろん

    黒髪(でも、目的が嫌がらせなら。
     絶対的にも相対的にも、
     価値が絡まないなら、
     そこには交渉のカードが置けない……)


    649: ◆LZfAlLlryk 2011/04/29(金) 00:24:22.47 ID:zwyuxKRko


    黒髪「ねえ、メーちゃんは、
     どうしたら良いと思う?」

    人形「……」

    黒髪「…………しかたない。
     こういう場合は、
     教えを請うしかないわね」むぅー

    黒髪 ぎしっ

    黒髪「留守番よろしくね」ぽすっ

    人形「めぇぇ」

    黒髪「……はぁ」

     とことこ


    650: ◆LZfAlLlryk 2011/04/29(金) 00:25:15.02 ID:zwyuxKRko

    ----------------------------------
     五十七日目 黒髪父の寝室

     こんこんこん

    黒髪父「入りなさい」

     かちゃ

    黒髪「失礼します」

    黒髪父「ほう。
     珍しいな、お前がこんな時間に、
     この部屋を訪れるとは」

    黒髪「……」

    黒髪父「まあいい。座りなさい」


    651: ◆LZfAlLlryk 2011/04/29(金) 00:26:05.11 ID:zwyuxKRko


     とことこ

    黒髪父「お前はもう、
     酒は飲める歳だったか?」

    黒髪「いえ、まだよ」

    黒髪父「そうか」

    黒髪(娘の年齢すら覚えていない。
     覚える気も無い父親)

    黒髪父「それで、要件はなんだね」


    652: ◆LZfAlLlryk 2011/04/29(金) 00:26:48.34 ID:zwyuxKRko


    黒髪「実は……教えを、請いたくて」

    黒髪父「ふむ。これはまた意外だな。
     なんだ、明日は雨か?」

    黒髪「天気予報では雨らしいわ」

    黒髪父「なるほど。
     ならば仕方ない。
     教えられることなら教えよう」

    黒髪「ありがとう」

    黒髪父「それで、何がしりたい」


    653: ◆LZfAlLlryk 2011/04/29(金) 00:27:15.18 ID:zwyuxKRko


    黒髪「実は今、攻撃を仕掛けられてて」

    黒髪父「ほう」

    黒髪「金銭とか、そういう目的なら、
     自分で何とかできるけど、
     相手の目的がどうやら、
     純粋に嫌がらせみたいなの。

     ある意味では通り魔的な行動だから、
     交渉のカードが見えないのよ」

    黒髪父「ふむ。
     確かにそれだけ聞けば難しい。
     利害関係には持ち込めそうにないか?」

    黒髪「直接的には難しいわね。
     一つ手段としては有るけど、
     無粋で無意味だから、
     使いたくないわ」


    654: ◆LZfAlLlryk 2011/04/29(金) 00:28:05.05 ID:zwyuxKRko


    黒髪父「となれば、
     間接的な手段だな。
     相手の攻撃は何を経由している?」

    黒髪「教育委員会と、
     それから夕日新聞よ」

    黒髪父「新聞は連載か?」

    黒髪「いいえ。単発を小さく」

    黒髪「そうか。
     となると、新聞への対処はいらん。

     問題はもう一方だが……
     いったい何をした」


    655: ◆LZfAlLlryk 2011/04/29(金) 00:28:38.41 ID:zwyuxKRko


    黒髪「私の塾の先生が、
     いじめをしていた子を殴ってね。
     それをきっかけに、
     一度は辞職されたんだけど、
     その後は塾講師をしていたのよ。

     で、先生が殴ったいじめっ子達が、
     先生への復讐として、
     親の七光りで圧力をかけてきたわけ」

    黒髪父「……ふむ」

    黒髪「……」

    黒髪父「そうなると、
     いくつか手段はあるな」

    黒髪「ほんと?!」

    黒髪父「嘘などつくものか。
     だが――」


    656: ◆LZfAlLlryk 2011/04/29(金) 00:29:10.57 ID:zwyuxKRko


    黒髪「なに?」

    黒髪父「なぜそのような、
     問題行動を起こした教師に、
     そこまでお前が肩入れする?」

    黒髪「……それは」

    黒髪父「最近のお前は、
     情報屋まがいの事をしているからな。
     それを知った者からかの攻撃だと思ったが……」

    黒髪「違うわ」

    黒髪父「所詮教師など、
     社会の歯車のひとつに過ぎん。
     代わりなどいくらでもいる。
     わざわざ動く理由はなかろう」


    657: ◆LZfAlLlryk 2011/04/29(金) 00:30:02.23 ID:zwyuxKRko


    黒髪「そんなの、どうでもいいわ」

    黒髪父「……」

    黒髪「その先生はね、
     私にとって憧れなのよ」

    黒髪父「そのように、
     情で動く自分を律せよと、
     そう言っているのだ」

    黒髪「……つまらないわ、そんなの」ぼそっ

    黒髪父「なに?」

    黒髪「私は父さんみたいに、
     人のためになる仕事をしたいって、
     そう思って今の進路を決めたの。

     だからそのために、
     必要のないモノは全て、
     切り捨てて進むつもりだったわ。
     でも――」


    658: ◆LZfAlLlryk 2011/04/29(金) 00:31:13.16 ID:zwyuxKRko


    黒髪父「……」

    黒髪「その先生はね、
     学校全体から見れば、
     見てみぬフリをしてもいいような、
     たった数人に対しても、
     真剣だったのよ。

     殴ってしまえば、
     その後は平穏には終わらないって、
     わかっていたはずなのに、
     それでも彼らのために、
     手を振り上げた。

     社会のゴミみたいな相手に、
     本気で、このままじゃいけないって、
     わからせようとしてた」


    659: ◆LZfAlLlryk 2011/04/29(金) 00:32:05.19 ID:zwyuxKRko


    黒髪父「その結果が、
     暴力教師という名前だ。

     取捨選択ができないから、
     そのような目に遭う」

    黒髪「でもね。
     その少数を拾う事を、
     最初から諦めてしまったら、
     私は胸を張れなくなるわ。
     背筋をまっすぐにして歩けなくなる。

     少数を切り捨てるのが選択なら、
     その先には何も残らないわ。

     それぞれが多層的に、
     どこかで少数に属するのが、
     人ってものでしょ。
     それを切り捨てたら、
     後には骨しか残らないわよ」


    660: ◆LZfAlLlryk 2011/04/29(金) 00:33:24.17 ID:zwyuxKRko


    黒髪父「……言うようになったな」

    黒髪「ふふん。
     だって私は黒髪よ。
     それくらい言うし、やって見せるわ」にぱっ

    黒髪父「まったくもって、度し難い。

     諦めろと言って説得するより、
     どうすれば良いか、
     指標だけでも与えたほうが、
     睡眠時間は残りそうだな」苦笑

    黒髪「迷惑をかけるわね」

    黒髪父「……なに。
     考えてみれば自分も、
     お前という少を切り捨てられん、
     父親の身だったと、
     思い出しただけだ」苦笑

    黒髪「……」


    666: ◆LZfAlLlryk 2011/04/30(土) 00:38:58.34 ID:CMDDfVNho

    ----------------------------------
     五十九日目 ひき娘の自室

     とんとんとん

    ひき娘「はい、どうぞ」

     がちゃ

    男「お邪魔します」

    ひき娘 にこっ

    男「コチラの事情で振り回してしまい、
     すみません」

    ひき娘「気にしないでください。
     お兄ちゃん――じゃなかった、
     友さんの授業も、
     わかりやすかったから」

    男「お兄ちゃん?」


    667: ◆LZfAlLlryk 2011/04/30(土) 00:40:10.04 ID:CMDDfVNho


    ひき娘「え、あ、あっと。
     本当のお兄ちゃんとか、
     そういう事じゃなくて、
     友さんが、そう呼んでくれって」あたふた

    男「友さんはまた……
     彼のわがままにつき合わせて、
     申し訳ありません」苦笑

    ひき娘「……」

    男「ひき娘さん?」

    ひき娘「よかったです……」

    男「何が良かったのですか?」

    ひき娘「ちょっとだけ、
     思ってたんです。
     もしかしたら、
     嫌われちゃったのかなって」

    男「……」


    668: ◆LZfAlLlryk 2011/04/30(土) 00:41:03.55 ID:CMDDfVNho


    ひき娘「でも、そうじゃないみたいで、
     安心したの」

    男「ひき娘さん……」

    ひき娘「……その、ちょっとだけ。
     授業の時間までの五分だけ、
     隣に座っても、いいですか?」

    男(顔を伏せて……
     涙を零さずに、
     泣いているような)

    男 そっ

    ひき娘「ありがとうです」そっ

    男「……」

    ひき娘「……」


    669: ◆LZfAlLlryk 2011/04/30(土) 00:41:43.53 ID:CMDDfVNho


    男(ひき娘さんの頭が寄せられた、
     肩の重さと温もりに、
     否応無く心が、揺れてしまう)

    男 なで、なで

    ひき娘 きゅっ

    男(袖口をつまんで。
     なんて些細な、
     いじましい意思表示……)

    男 なで、なで

    ひき娘 そっ

    男(体重を預けて。
     触れる面積が増えて……
     安心してくれているのが、
     伝わってくる)


    670: ◆LZfAlLlryk 2011/04/30(土) 00:42:20.64 ID:CMDDfVNho


    ひき娘「……先生」

    男「はい」

    ひき娘「私ね、がんばったんです。
     友先生にも、
     お部屋に入ってもらって、
     授業してもったんです」

    男「偉いです」 なでなで

    ひき娘「えへへ」

    男「ひき娘さんは、
     前を向いていますね」

    ひき娘「えっと……?」

    男「このままじゃいけない。
     何とかしないと。
     そういって、
     前に進む勇気を持っている……」


    671: ◆LZfAlLlryk 2011/04/30(土) 00:43:13.05 ID:CMDDfVNho


    ひき娘「それは」

    男「わたしからは、
     それがとても眩しく見えます。

     友さんに、怒られてしまいました。
     お前は逃げているって」

    ひき娘「……なにから、ですか?」

    男「いろいろですね。
     本当に、いろいろ……」

    ひき娘「私はちゃんと、
     前を向けてるのかな?」

    男「はい。
     見習いたいくらいに」


    672: ◆LZfAlLlryk 2011/04/30(土) 00:43:44.61 ID:CMDDfVNho


    ひき娘「ならそれは、
     先生のお陰なんですよ」

    男「私の、ですか?」

    ひき娘「先生と会うまでは、
     ずっとずっと、
     死んでたみたいだった……

     なんで私が、
     こんなに辛い思いをしないといけないのって。

     そうやって叫びながら、
     もう全部やだって、
     布団のなかでずっと眠り続けてたの」

    男「……」


    673: ◆LZfAlLlryk 2011/04/30(土) 00:44:14.75 ID:CMDDfVNho


    ひき娘「毎晩のように、
     夢で見てたんです。

     いじめられてた頃の事を。

     殴られて、蹴られて、
     ひどい言葉を言われて……」

    男「それは……」

    ひき娘「でも、変わったんです。
     先生と知り合ってから、
     少しずつ、
     その夢も見なくなりました」

    男「それは、良かった」

    ひき娘「先生と知り合って、
     親しくなってもらって……

     少しずつ、
     まだ私も誰かとつながれるんだって、
     そう思えてきたんです」

    男「つながれますよ。
     ひき娘さんなら、大丈夫です」


    674: ◆LZfAlLlryk 2011/04/30(土) 00:44:43.58 ID:CMDDfVNho


    ひき娘「……それは、先生もだよ」

    男「はい?」

    ひき娘 そっ。――きゅっ

    男「ひ、ひき娘さん。
     なんで、急に、抱きしめ……」

    ひき娘 なでなで

    男(やわらかい感触が、
     頭をそっと包み込んで。
     ひき娘さんの甘い匂いが、
     胸にいっぱいになる)

    男「ひき娘、さん?」


    675: ◆LZfAlLlryk 2011/04/30(土) 00:45:09.53 ID:CMDDfVNho


    ひき娘「前にね、
     先生が寝てるとき、
     みちゃったの」

    男「なにを、ですか?」

    ひき娘「先生が、
     眠りながら涙を流しているところを」

    男「……」

    ひき娘「それで、思ったの。
     なんでこの人は、
     眠りながら泣くのかなって。

     それは、起きている時に、
     泣けないからじゃないかなって……」


    676: ◆LZfAlLlryk 2011/04/30(土) 00:45:37.28 ID:CMDDfVNho


    男「そんな、事は……」

    ひき娘「違ってたら、ごめんなさい。
     でも、もしそうなら」

    ひき娘 ぎゅうっ

    ひき娘「次に泣きたくなったら、
     私が、受け止めます……
     受け止めさせてくれたら、嬉しいです」

    男「……」ぎゅっ

    男(細い体だ……
     身長だって、肩までしかない。
     それなのに、こんなにも、強い)


    677: ◆LZfAlLlryk 2011/04/30(土) 00:46:04.41 ID:CMDDfVNho


    男「……たまりませんね」

    ひき娘「はい?」

    男「いえ、なんでもありません。
     さ、そろそろ授業を始めましょう」

    ひき娘「……むぅ」

    男「不満そうにしてもダメですよ。
     わたしは家庭教師に、
     来ているんですから」

    ひき娘「……はい」そっ

    男(そんなに残念そうな顔をされると、
     教師らしくいられなくなりそうで、
     たまらないんですよ)苦笑


    678: ◆LZfAlLlryk 2011/04/30(土) 00:46:51.35 ID:CMDDfVNho


    男「……ただ」

    ひき娘「?」

    男「いつか、外に出られたら。
     二人で、星を眺めに行きませんか?

     町からみる空も趣きはありますが、
     空気の澄んだ山の上で、
     街灯を気にせず見る星空は、
     一度は経験して欲しい景色です」

    ひき娘「……それは、
     家庭教師として、ですか?」


    679: ◆LZfAlLlryk 2011/04/30(土) 00:47:19.67 ID:CMDDfVNho


    男「今は。
     ただ、部屋の外なら、
     わたしは家庭教師でなくても、
     許されるでしょうかね」(////

    ひき娘「……先生はズルいです]

    男「大人にはイロイロあるんですよ」

    ひき娘「それなら、仕方ないですね。
     そんな事言われたら、
     外に出ないわけにはいかないですよ」くすくす

    男「外で会える日を、
     楽しみにしていていいんでしょうか」

    ひき娘「…………はい」こくん


    680: ◆LZfAlLlryk 2011/04/30(土) 00:48:11.78 ID:CMDDfVNho

    ----------------------------------
     五十九日目 TL:sugomori

    kuro:というわけで、
     なんとかする方法はありそうよ。

    megane:なるほど。
     確かに、今回の件の鍵は、
     ピアスくんのお母様のようですね。
     そして彼女が強引に通した話を、
     他の幹部の背中を押すことで、
     抑えてもらう……ですか。

    kuro:彼女の言い分にも、
     確かに理はあるんだけどね。
     二年も前の話を蒸し返して、
     一個人を攻撃するようなマネ、
     さすがに嫌がっている人も、
     少なくないらしいわ。


    681: ◆LZfAlLlryk 2011/04/30(土) 00:49:02.22 ID:CMDDfVNho


    megane:よく調べましたね……

    kuro:蛇の道は蛇、って言うでしょ。

    megane:それは恐ろしい。

    kuro;それで、どうする?

    megane:どうする、とは。

    kuro:任せてもらえるなら手は打つわ。
     少し時間がかかるかもしれないけど、
     いずれは人を戻せるはずよ。


    682: ◆LZfAlLlryk 2011/04/30(土) 00:50:00.89 ID:CMDDfVNho


    megane:しかし、
     それを黒髪さんにお願いするのは……

    kuro:あら、借りは作りたくないの?

    megane:kuroさんを利用しているようで……

    kuro:いいんじゃないの?
     利用して利用されて。
     持ちつ持たれつすればいいじゃない。

    megane:しかし…………


    683: ◆LZfAlLlryk 2011/04/30(土) 00:50:27.27 ID:CMDDfVNho


    sugomori:[壁]_'*)こそっ

    kuro;sugomoriさん、こんばんは。

    megane:お久しぶりです。

    sugomori:あ、今日は、
     meganeさんもいるんですね。

    megane:すみませんね、
     最近は忙しかったので。

    sugomori:体調はいかがですか?

    megane:おかげさまで元気ですよ。

    sugomori;それなら良かったです♪


    684: ◆LZfAlLlryk 2011/04/30(土) 00:50:55.97 ID:CMDDfVNho


    kuro:@megane とりあえず、
     話の続きは改めてしましょ

    megane:@kuro 了解です。

    sugomori:あの、
     もしかしてお邪魔しちゃいました?

    kuro:大丈夫よ。
     顔見て話したほうが、
     良さそうな方向だったから。
     むしろ良いタミングよ。

    sugomori:お手柄かな?('-'*)

    kuro:お手柄よー( ̄ー ̄*)

    sugomori:微妙な顔wwww

    kuro:えー、なんでよ、可愛いじゃない。


    685: ◆LZfAlLlryk 2011/04/30(土) 00:51:28.58 ID:CMDDfVNho


    sugomori:あ、そうだ。
     meganeさん!

    megane:はい?

    sugomori:あの、男の人って、
     デートのとき、
     どんな服がすきなんですかね?

    kuro:デートォ?!

    sugomori:う、うん(///)

    kuro;え、あんた、まだ外には……

    sugomori:うん。まだムリ、かなぁ。
     でも、今なら出られるかも?
     なんだかそれくらい、
     今はテンション高いです(>_<*)

    kuro:もしかして、男さんと……?

    sugomori:……えへへ。


    686: ◆LZfAlLlryk 2011/04/30(土) 00:51:54.73 ID:CMDDfVNho


    kuro:…………meganeさん。

    megane:

    kuro:meganeさん、
     まだいるでしょ?

    megane:

    kuro:三秒以内に出頭しないと、
     いろいろするわよ。

    megane:いろいろってなんですか。
     私はお手洗いに行っていただけですよ。

    kuro:いろいろ、っていうのは、
     いろいろ、よ。
     ところで、sugomoriがなんと、
     男女交際するそうよ。

    megane:おめでとう、ござい、ます。


    687: ◆LZfAlLlryk 2011/04/30(土) 00:52:28.02 ID:CMDDfVNho


    sugomori:男女交際って……
     えと、その……
     ……ありがとうございます(*ノノ)

    kuro:こんなに可愛いsugomoriを、
     彼女にできるなんて、
     随分幸運な男ね?

    megane:そう、ですね。

    sugomori:そんなこと無いですよ(///
     ま、まあ、ホントは、
     星を見に行こうって、
     誘ってもらっただけなんですけどね。

    kuro:あら、いきなり大胆ねー。
     ちゃんとゴム持っていかないとダメよ?

    sugomori:ちょっと、そんな(////

    kuro:必要よね? meganeさん(^^*)


    688: ◆LZfAlLlryk 2011/04/30(土) 00:54:34.91 ID:CMDDfVNho


    megane:……無いよりは、良いかと。

    sugomori:大丈夫ですよー。
     とっても誠実な人だから、
     そんな心配なんて……

    kuro:誠実な人、ですってぇー。
     ソレはノロケってものでしょww

    sugomori:……えへへ(////)
     むしろ、男さんといると、
     あの頃の嫌な夢を見ないで済むとか、
     そういう方がノロケかも?

    kuro:そう。
     それは、良かったわね。
     本当に(^^*)

    sugomori:うんっ♪

    megane:……そろそろ、
     私は明日のために寝なければ。


    689: ◆LZfAlLlryk 2011/04/30(土) 00:55:45.18 ID:CMDDfVNho


    kuro:えー。meganeさん寝ちゃうの?
     せっかくなんだからもうちょっと、
     sugomoriの「ノロケ」を、
     聞きましょうよー。

    sugomori:いえいえ、
     これ以上はしませんよ><

    kuro:いいじゃない、
     いっぱいノロケちゃいなさいよ。
     折角なんだからっ。

    megane:……地獄絵図だ。

    sugomori:はい?(’’?)

    kuro:ふふwwww


    690: ◆LZfAlLlryk 2011/04/30(土) 00:57:40.80 ID:CMDDfVNho

    ----------------------------------
     六十二日目 教員室

     がちゃ

    男「おはようございます」

    友「……」びくっ

    男「……どうかしましたか?」

    友「お前って、タイミング悪いな。
     これ、見てみろよ」


    691: ◆LZfAlLlryk 2011/04/30(土) 01:01:59.14 ID:CMDDfVNho


    男「……これはまた、
     相手はずいぶんと手の早い」

     こんこんこん

    男「はい?」

     がちゃっ

    黒髪「失礼します。
     先生、先日の件について、
     お話に来ましたけど」

    男「ああ、黒髪さん。
     どうやらその手間は、
     かけていただかなくても、
     良くなりそうですよ」


    692: ◆LZfAlLlryk 2011/04/30(土) 01:04:33.42 ID:CMDDfVNho


    黒髪「それは、良い理由で?」

    男「……悪い理由でしょうね」そっ

    黒髪「……教員に対する資格義務化と、
     その更新試験について、ですか」

    友「要するに、
     教員として適切じゃないやつは、
     教員を名乗るなって事だな。

     今の『教師免許』ってのが、
     分類上は『名称独占』だってのは、
     黒髪ちゃんは知ってるか?」

    黒髪「いいえ。知らないです」


    693: ◆LZfAlLlryk 2011/04/30(土) 01:10:47.56 ID:CMDDfVNho


    友「そんじゃ、そこからおさらいな。
     俺と男はそれぞれ、
     高等学校教諭一種免許状ってのを、
     俺は数学、男は国語で取得してるんだ。

     で、これを持っていることで、
     その地域の学校でなら、
     取得した教科の教員ができる。」

    黒髪「なんとなく、
     教員免許って、そういうものだと、
     思ってましたけど」

    友「だろうな。
     ただし、これは国公立の話で、
     たとえば私学の場合は、
     同じ教員を名乗っていても、
     この教諭免許状は必要ない。
     つまり、独自基準で採用できる」


    694: ◆LZfAlLlryk 2011/04/30(土) 01:12:49.80 ID:CMDDfVNho

    あ、違う!
    下調べ前の下書きのを、
    そのまま貼り付けてました(汗)

    正しくは以下です><

    >>692
    友「要するに、
     教員として適切じゃないやつは、
     教員を名乗るなって事だな。

     今の『教師免許』ってのは、
     無くても教師を名乗れるって、
     黒髪ちゃんは知ってたか?」


    695: ◆LZfAlLlryk 2011/04/30(土) 01:17:43.41 ID:CMDDfVNho


    黒髪「それが先ほど言った、
     無くても教師を名乗れるって、
     意味なんですね」

    友「そういうこった。
     またそれ以外にも、
     塾講師の場合は、
     教員免許持ちは当然優遇されるが……

     それが無くても、
     人気塾講師なんて呼ばれている人はいるな」

    黒髪「……そこに対して、
     教員免許を持っていない人は、
     教員を名乗るなと――
     そういうワケですか」


    696: ◆LZfAlLlryk 2011/04/30(土) 01:22:23.79 ID:CMDDfVNho


    友「そうそう。
     調理師とか、栄養士、
     介護福祉士なんかと同じだな。

     同じ内容の業務はできても、
     その名前は名乗れないってことだ。

     教師・教員・教諭とか、
     そこらへんの名称を独占して、
     名乗らせないようにする。

     まあ、仕事をするなとは言わないが、
     信頼を奪うってわけだ」

    黒髪「教師って、
     信頼が重要な仕事ですよね」

    友「もちろんな。
     こういうのは基本的に、
     業務独占に向かうまえの、
     過渡期に際して行われたり……

     著しく信頼を損なう業者に対して、
     それを取り締まるために、
     法令として制定される」


    697: ◆LZfAlLlryk 2011/04/30(土) 01:27:40.37 ID:CMDDfVNho


    黒髪「そっか。
     そうやってその業務の名前に対して、
     一定以上の水準を約束することで、
     信頼を作るわけね」

    友「そういうわけだな。
     で、教員に関してなんだが、
     免許の更新制とか、
     悪質な塾の取り締まりとか、
     そういう話は昔からあったんだ。

     ただまあ、
     いろいろと利権も有って、
     なんだかんだと流れてきたんだが……」

    男「今回の私の件をテコにして、
     条例の提案とその審議という形で、
     たたみこむつもりですね……」


    698: ◆LZfAlLlryk 2011/04/30(土) 01:30:10.43 ID:CMDDfVNho


    黒髪「……なるほど。
     一つ残ってた疑問が氷解したわ」

    友「なんだ?」

    黒髪「県下の学校に対して、
     この塾の悪評を流すようにって、
     教育委員会が秘密裏に、
     各学校に求めたって話があってね」

    男「……」

    黒髪「ただ不思議だったのは、
     たかが塾一つ、
     一個人のために、
     どうしてそんな事をするのか。

     それこそ、怨恨としか思えなくて、
     それが今回の件の解決を、
     複雑化していたのよ」


    699: ◆LZfAlLlryk 2011/04/30(土) 01:40:05.98 ID:CMDDfVNho


    黒髪「そういう事ね。
     既存の利権以上の何かを求める人と、
     例のピアスの母親の目的が、
     うまく一致した結果が今回なのね。

     この塾をたたくために、
     手を回しやすい地方紙に、
     大きな紙面を使った記事を、
     載せるという選択をしなかった。

     コストをかけて小さい記事でも、
     全国紙に乗せる事に意味が有った」

    友「売名行為か」

    黒髪「悪い子が良い事をすると、
     普通の子がするより褒められる、
     なんて言うわよね。

     一度問題にして炎上させて、
     それを解決したとなれば……」


    700: ◆LZfAlLlryk 2011/04/30(土) 01:45:01.31 ID:CMDDfVNho


    男「今回の教員に対する資格義務化と、
     その更新試験の説明会について、
     という連絡は、
     その『解決』のための布石でしょう。

     マスコミや、周辺学校の校長など、
     後は有識者を呼んで、
     ……まずは条例ですかね、
     その成立に向けての、
     意見交換を行うのでしょう」

    友「だろうな。
     そして――男。
     この場にお前も来てはどうかというわけだ」

    男「名指しですか?」

    友「この塾宛だがな、
     そもそもこの塾に届く事が、
     おかしいと思わないか」


    701: ◆LZfAlLlryk 2011/04/30(土) 01:47:49.29 ID:CMDDfVNho


    黒髪「新聞に載った塾ってことで、
     吊るしあげるつもりでしょうね」

    男「……」

    友「ぶっちゃけた話をすれば、
     この話についてだけ考えれば、
     俺は反対はしないんだが……」

    黒髪「そうなの?」

    友「悪質な塾やなんかがあるのは、
     事実だからな。
     生徒を財布としか思ってない、
     そんな連中はいる。
     だから、その対策としては、
     一歩目としては悪くないだろ」


    702: ◆LZfAlLlryk 2011/04/30(土) 01:50:16.08 ID:CMDDfVNho


    黒髪「でも、だからといって、
     こうして招待を受けた以上、
     その場にいかなければ、
     マスコミがまとめてココをたたく、
     理由を作ることになるわよ。

     実際にそうするかどうかは、
     何とも言えないけど。

     そして顔を出したとしたら、
     罵倒をされ続ける時間になるわ」

    友「それは分かってる。
     だから気が重くてなー。

     正直、うちの塾の今の評判てのは、
     かなりドン底だからな。

     それこそ、殺人鬼のいる塾、
     なんて噂が有っても驚かねえくらいだ」

    黒髪「ふふ、それはさすがに驚くわよ」


    703: ◆LZfAlLlryk 2011/04/30(土) 01:53:36.34 ID:CMDDfVNho


    友「探られて痛い腹は無いが、
     痛く演出しようとすれば、
     それができる腹はある……」

    黒髪「……」

    男「いきます」

    友「……」

    男「わたしがその場に出向いて、
     正面から正々堂々と、
     喝破すればいいのです」

    黒髪「……難しいと思うわよ」

    男「分かっていますが、
     残された手段はそれしかありません。
     第一、行っても行かなくてもダメならば、行かない分だけ損でしょう」

    友「同じアホなら、か」


    704: ◆LZfAlLlryk 2011/04/30(土) 01:56:30.46 ID:CMDDfVNho


    男「思うところを打ち明けて、
     通じ合えなければ仕方ありません。
     その時はやはり、
     私がこの塾をやめる事で、
     幕としましょう」

    友「……それは」

    男「他の教員の生活もあります。
     友さんには、
     私のために他の人を見捨てたり、
     して欲しくはありません」

    黒髪「……私も、
     できる限りの事はするわ。
     どこまでできるかは、
     わからないけど」

    男「しかし、黒髪さん。
     そうしてもらっても、
     私は何も恩返しができませんよ」

    黒髪「そんなのは私が決める事よ。
     無かったら絞り取るだけ」にやっ

    男(い、いま、悪寒が)ぞくっ


    705: ◆LZfAlLlryk 2011/04/30(土) 02:00:50.00 ID:CMDDfVNho


    黒髪「とりあえず、
     相手がだれか、
     目的は何か、
     手段はどうするか、
     そのカードが出そろった今なら、
     私だってできる事は有るわ。

     ややこしいことは言ってないで、
     私の世話になりなさい」にこっ

    男「……ありがとうございます」

    友(あの男が尻に敷かれてるよ……)

    黒髪「さしあたって、
     今日の授業は欠席するわ。
     その『説明会』って、来週でしょ。
     それまでにできる事をしないと」くるっ

    男「……」

    友「悪いな、黒髪ちゃん」

    黒髪「そんな言葉より、
     終わった後のありがとうの方が、
     聞きたいですね」とことこ


    706: ◆LZfAlLlryk 2011/04/30(土) 02:02:20.87 ID:CMDDfVNho


    友「……」

    男「……」

    友「……怖いな」

    男「いまさらですね」

    友「…………ホントに怖いな」

    男「怖い、ですね」

    友「でも」

    男「私たちより、
     よほど頼りになりそうです」苦笑


    714: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 07:55:16.70 ID:8MUbeGaXo

    ----------------------------------
      六十二日目 黒髪の部屋


    記者<っていうのが概要かな。
     詳しい内容については、
     ウチのデータベースの内容、
     ソッチに送りますよ>

    黒髪「ありがとうございます」

    記者<なに、コッチはいつも、
     お世話になってるからね。
     たまには恩返しをしないと、
     後が怖いよ。はは>

    黒髪「そんな、怖いだなんて」

    記者<おっと済まない。
     デスクが戻ってきたから、
     切らせてもらうよ。
     またいいネタ有ったら、
     ぜひ僕に持ってきてくれ>

    黒髪「はい、お約束します」にこっ

     つーつーつー


    715: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 07:55:49.70 ID:8MUbeGaXo


    黒髪「……ふぅ」ぎしっ

    黒髪「コレで何とか、
     必要な資料は集まりそうね」

     You got a mail~♪

    黒髪「仕事早いわねー。
     さすが、父さんの紹介……
     しかも随分細かいところまで、
     よく調べられてるわ」

    黒髪 かたかた

    黒髪「確かに受け取りました、と」

    黒髪 かちかちっ。

    黒髪(……どうやら、
     推測は正解だったようね。
     例の会議に際して、
     マスコミ各社に話が通っている)

    黒髪「その特集を組む場合、
     この情報を使おうと、
     集めてたのね……」


    716: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 07:56:38.56 ID:8MUbeGaXo


    黒髪(数年後に使えるようにと、
     今からマスコミに、
     コネを作っておいて、
     正解だったわね)

    黒髪(今回の件の主導は、
     例のピアスの母親……理事さんね。
     教員資格の厳正化については、
     今まで中立派閥の代表だった。

     それが、今回の件で乗り換えて、
     県政への足がかりにするつもりみたいね。なるほど)

    黒髪「一石二鳥を狙ってるわけね」

    黒髪(なかなかどうして、
     ただの親ばかってわけじゃ、ないか。

     送られて来た情報の通りなら、
     すでに県議会への根回しは、
     おおよそ済んでいる状態みたいね。

     特に紙上に取り上げていないけど、
     この『提案』に合わせて、
     条例を整備するために、
     必要そうな議員を接待したという、
     疑惑、が並んでいる)


    717: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 07:57:10.42 ID:8MUbeGaXo


    黒髪(今までの免許義務化は、
     あくまで抽象的な話だった。
     具体化すると、
     その議題を深く扱わないといけない。
     けれど真剣に議論しては不都合な人がいたから。

     ただ、今回の件で、
     ウチの県の教育について、
     教育委員会が問われるような内容が全国紙に掲載された)

    黒髪「この義務化と、
     定期的な更新試験については、
     確かに不満な点は殆どないわね……」

    黒髪(ただし、
     暴力問題を起こした男さんは、
     間違いなくその試験で、
     問題ありとして免許をなくすことになる)


    718: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 07:57:37.23 ID:8MUbeGaXo


    黒髪「そうなると、
     教師としての仕事は殆どなくなって、
     先生も食べていけなくなる……」

    黒髪「問題はやっぱりそこね。
     資格試験については、
     コレは必然的な流れで問題はないわ。

     ただし、ソレを利用して、
     先生を貶めようというウラがあるのが問題になる……」

    黒髪「つまり、着地点としては、
     先生の行為の正当性を証明した上で、
     くだらないウラなんかなしで、
     検討を行ってもらうことかしら……

     構想自体には、
     先生も友さんも賛成みたいだし」


    719: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 07:58:04.96 ID:8MUbeGaXo


    黒髪「……でも、暴力の正当性って、
     いったい何かしらね。

     暴力を振るうなという先生が、
     暴力を使って相手を戒める。
     教育的指導をする。

     それを相手が感謝していれば、
     きっと話は済むはずなんだけど、
     あの茶髪やピアスが、
     先生に感謝なんかするはず無いわ」

    黒髪 ぎしっ

    黒髪(暴力を振るわれた人からすれば、
     振るった相手に報いをって、
     そう考えるのは当然よね。

     でも、その報いが暴力なら、
     暴力の被害者が増えるだけ……」


    720: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 07:58:30.86 ID:8MUbeGaXo


    黒髪「それじゃ、
     会話が通じない相手に対して、
     どんな手段が適切なのかしら……」

    黒髪(……ダメね。
     集中力が途切れてきてる。
     いまは実際の正当性より、
     いかに正当を主張するか、よね)

    黒髪 ごそごそ

    黒髪「……これを使えば、
     主張できる、はず。でも……」じぃっ

    黒髪「ぎりぎりまで模索して、
     ダメなら、その時の手段ね」


    721: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 07:59:05.06 ID:8MUbeGaXo

    ----------------------------------
      六十九日目 男の部屋

     ちゅんちゅん

    男「……」ごそごそ

    男「結局、あまり寝られませんでしたね」

    男「いつも通りに、するしかないというのに」

    男 せのびー

    男 ふらふら

    男(結局あの後、
     黒髪さんは授業に顔を出さず、
     例の理事さんの件について、
     一度メールが有ったきりで、
     以降は特に連絡もない……)


    722: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 07:59:43.00 ID:8MUbeGaXo


    男「……仕方ありませんがね」

    男(黒髪さんは確かに賢く、
     また強い意志と、
     何らかの『手段』を持っている事は確かに見える。

     しかし、それでも彼女はまだ高校生。
     そして相手は、
     大人の中でも相手にしにくい、
     それなりに権威のあるお役所です)

    男 ばしゃばしゃ

    男(学校に関係する事に限定されるが、
     実質的には立法・行政機能を持つ組織――)


    723: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:00:27.91 ID:8MUbeGaXo

     
    男「大人の私でさえ、
     こんな事態になってしまえば、
     嵐にもまれる船のように、
     事態に押し流されるしかない……」

    男(むしろ、酷な事を任せたか……)

    男 ごそごそ

    男「黒髪さんの落ち着きに、
     甘えすぎてしまいましたね」

     prrr prrrr

    男「……友さん」

    友<よーう。よく眠れたか?>


    724: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:00:54.82 ID:8MUbeGaXo


    男「ええ。過不足無く」

    友<……さすがに電話じゃ、
     判断がつかねえな>

    男「大丈夫ですよ。
     ところで、要件はなんですか?」

    友<それなんだが……
     なあ、本当に俺は行かなくていいのか?>

    男「来ていただいても、
     何もする事は有りませんよ。

     むしろ、この件に関しては、
     いざという時のために、
     わたしを既に解雇したつもりで、
     知らなかったことにするべきでしょう」


    725: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:01:21.52 ID:8MUbeGaXo


    友<そんなワケにはいかないだろ>

    男「心情的には、
     そうかも知れませんね。
     ですが、何度も繰り返していますが、
     友さんには友さんの、
     持つべき責任というものがあります。

     巻き込んでしまったわたしには、
     言う資格がないかも知れませんが、
     コレは私のとるべき責任です。
     委ねてはいただけませんか?」

    友<……そこまで言われたら、
     何もいえないな>

    男「すみません」

    友<わかったから謝るなよ。
     だがな、俺はお前のダチだ。
     それは忘れてくれるなよ>

    男「……はい」にこっ

     つーつーつー


    726: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:01:57.36 ID:8MUbeGaXo

    ----------------------------------
      六十九日目 説明会会場

    司会「えー、というわけで、
     本日コチラには、
     県の代表として、
     教育委員会から数名と……
     教育評論家の方々を、
     お招きしております」

     ぱちぱちぱち

    司会「本日の進行ですが、
     マスコミの方々からの依頼があり、
     最初に委員会から意見の提示をし、
     ソレに対して反対の立場を持つ、
     評論家の方々から質問を受け、
     対話形式で会議いたします」


    727: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:02:27.27 ID:8MUbeGaXo


    男(なるほど。説明会を兼ねた、
     フォーラム(公開討論会)ですか。
     しかし、さて。
     反対意見の相手を用意しての討論に、
     どれほどの意味があるのか……

     いや、この場では、
     その様な意味など、
     いらないのかも知れませんね。

     あくまで議論をしたという、
     経緯が欲しいだけと考えれば……)

    男「……ふっ」

    男(どのような演目か。
     ここに来たからには、楽しみに見させてもらいましょう)


    728: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:03:01.80 ID:8MUbeGaXo

    ----------------------------------
      六十九日目昼 説明会会場

    評論家「というデータから、
     教員免許の義務化により、
     必ずしも教員の質が向上すると、
     語る事はできません」

    理事「教員の質の向上は、
     確かにそのデータを見る限り、
     難しいかもしれないザマス。

     しかし、質の低下は、
     防止することができるザーマス。

     コチラが事前に、
     各学校教諭に対して、
     任意でテストを行ってもらい、
     それをまとめたものが、
     資料、三の二ザマス」

     かさかさかさ


    729: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:03:30.30 ID:8MUbeGaXo


    男(ふむ……
     やはりどうやら、
     事前に質問や意見をまとめ、
     ソレに対する回答を、
     用意していた節がありますね)

    理事「ご覧の資料でわかるザマショ。
     自分の担当する教科であっても、
     一定以上の学力が認められない、
     そんな教員が、
     全体の一割ほどいるザマス。

     割合からすれば少なくとも、
     今後の子供達の事を考えれば、
     たとえ一割でも問題ザーマス」

    男(もっとも、
     それでも正論なんですよね)


    730: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:03:57.53 ID:8MUbeGaXo


    評論家「ですがねえ。
     費用対効果を考えてください。
     数年に一度でも、
     教員全体に対してテストを行い、
     その結果によって、
     免許の剥奪、更新などをした場合、
     どれだけのコストがかかるか……」

    理事「そのコストが、
     血税から出ていると考えると、
     一滴でもムダを減らしたいのは当然ザマス。

     でもあえて言えば、教育とは、
     そもそもお金がかかるものザマス。

     その負担をしてでも、
     これから先に、
     より多様化する社会に適応するため、
     その時代に生きる子供達に、
     より質の高い『知』を、
     提供するのが大人の役割ザマショ」


    731: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:04:27.40 ID:8MUbeGaXo


    評論家「だからと云って、
     学ぶ気の無い子供に、
     ムダに金をかけてどうします。

     今時中学生だって、
     どうせ勉強しても、
     その知識は使わないんでしょと、
     そう言って大人を笑ってますよ?」

    理事「……」

    評論家「大体ね、
     そういう教師がいても、
     大体何とかなっているモンなんです。

     訴訟問題なんかも、
     殆どおきていないでしょ?

     あなた方の主張は大げさなんですよ」


    732: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:04:54.84 ID:8MUbeGaXo


    理事「頻繁に訴訟が起きたら、
     その時では遅いザマショ。

     加えて、何とかなっていると、
     そうおっしゃるなら、
     自分の子供をそんな学校に、
     率先して入れてみるザマス」

    評論家「子供はいませんが」

    理事「ならそのつもりになって、
     よく考えてみるザマス。

     自分の子供が、
     暴力を振るうことで有名な、
     そんな教師に師事する光景を、
     よく思いうかべてみるザマス!」

    評論家「……それは、不快ですが。
     そういう教師は、
     学校側で辞めさせるでしょうよ」


    733: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:05:24.86 ID:8MUbeGaXo


    理事「現在の採用方式だと、
     アルバイトを解雇するように、
     簡単にはいかないザマス。

     いかに指導力がなかろうと、
     いかに暴力的であろうと、
     子供達は耐えるしかない。

     そんな現状を変えるための手段が、
     今回の免許更新制度ザマス。

     第一、学校を辞めた後でも、
     塾や私学で教師を続ける者がいて、
     子供達に牙を向けているザマス」

    評論家「……」

    理事「そう、
     そこに座っている、
     暴力教師のように」


    734: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:05:58.67 ID:8MUbeGaXo


    記者1「暴力教師?」ザワ

    記者2「そういやコイツ、
     夕日新聞で載ってた、
     あの記事の塾講師だぜ」ザワ

    記者3「ああ、張り込みしてたときに、
     確かコイツが出入りしてたな」ザワ

    理事「ウチの息子も、
     そこの教師によって、
     暴力を振るわれた被害者ザマス。

     その悔しさ、悲しさ、
     あの子の味わったような辛さを、
     二度と繰り返さないために、
     こうして訴えかけているザーマス」よよよ

    記者1「子供のために県政を変える母、
     売れそうなネタだな」にやり


    735: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:06:36.22 ID:8MUbeGaXo


    理事「恥知らずなことに、
     それでも未だに、
     教鞭を握るような人がいるから、
     こうして改革が必要になるザマス」

    評論家「……そこのキミ」

    男「はい」

    評論家「生徒に対して、
     暴力を振るったというのは、
     事実なのか?」

    男「事実です。
     ですがしかし――」

    司会「キミ!
     会の参加者でもないのに、
     問われた事以外には口を出さないでもらおう」


    736: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:07:07.20 ID:8MUbeGaXo


    評論家「ではキミ、
     その暴力がきっかけで、
     学校を辞めて塾教員になったと、
     それは事実かね」

    男「事実ですが――」

    評論家「そんなキミは!
     生徒に暴力を振るったことを、
     恥ずかしいと思わないのかね」

    男「思いません」

    記者2「ふてぶてしい野郎だな」ぼそっ

    男(やはり、こうなりますか)

    評論家「確かに、
     この男性のような教師が、
     極端な例で無いとすれば、
     まさに由々しい話か」

    理事「お陰でうちの子は、
     今でも時々うなされて」ううっ


    737: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:07:34.34 ID:8MUbeGaXo


    男(実に白々しい……
     しかし、新聞の記事には、
     その声は乗りませんからね。

     意図的な質問の偏向も、
     恐らく最初から、
     仕組まれていた。

     反対していた人間が、
     危機感に煽られて翻意した、
     というだけで、
     人はその事態に対しての、
     意識レベルを上げますからね)

    評論家「このような人間が、
     他人に何かを教える事こそが、
     今の世の狂気かも知れないな。

     自制もせず、
     その横暴の恥を知らない。

     ただひと時の知識量だけで、
     その資格を手に入れて、
     責任を自覚することもなく、
     ソレを漫然と持ち続けている事に、
     何の疑問も持たずに振りかざす者が、
     いったい何を教えうるのか」

    男「……」


    738: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:08:30.45 ID:8MUbeGaXo


    評論家「彼のような人が、
     これからも安穏と教師を続けようと、
     そういうならば、
     私もこの社会の一員として、
     この条例の正当性を、
     容易には否定できないな」

    記者1「確かに、
     こんなヤツに自分の子を任せるなんて……」ぼそぼそ

    記者2「教師が聖職なんて、
     もう間違っても言えねえな」ぼそぼそ

    理事「どうやら、
     今回の条例の正当性について、
     皆様にきちんと理解していただけたようザマスネ。

     委員会は、このような教師に対し、
     厳しい態度を見せる必要を、
     感じているザマス。

     記者の皆様も、
     このような人間を、
     社会にのさばらせないためにも、
     御協力を求めるザマス」


    739: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:09:09.63 ID:8MUbeGaXo


    記者2 パシャ……

    記者3 パシャパシャッ……

    男(一人のシャッターを皮切りに、
     痛いほどの白い光が、
     『悪』を糾弾せんと、わたしに向けられる)

    男(そして確かに、
     間違ってはいない。
     今のルールの中では、
     わたしは誰かに対して、
     何を誇る事もできない悪なのだ)

    男「わたしは……」

    男(それでも、
     わたしは主張しなくてはならない。
     わたしが教師ならば、
     この背を伸ばし、胸を張り、
     言わなければならない言葉がある)

    男「それでも――」

     がちゃっ

    男(扉が開いて、)


    740: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:09:36.28 ID:8MUbeGaXo


    黒髪「遅くなったわね」にやり

     とことこ

    司会「な、なんだねキミたちは」

    黒髪「何って、
     見てわからないの?」

    司会「わかるわけが無かろう!」

    黒髪「当事者を、引き連れてきたのよ」

     ぞろぞろぞろぞろ


    741: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:10:27.77 ID:8MUbeGaXo


    生徒1「あ、どもども」

    生徒2「おー、高そうなカメラ!」

    生徒3「せんせーおひさー♪」

    生徒4「あ、さんちゃんズルい!
     先生、私もいるよー!」

    生徒5「同窓会じゃねえんだし、
     早く入れよー。
     さっさと奥つめないと、
     皆廊下で立ちんぼなんだ」

    生徒6「まあまあ、
     焦らなくても入れるだろ?」

    生徒7「え、もしかして、
     俺らせっかく来たのに、
     中に入れねーの?
     ま、百人ちかいし、
     しょーがねーか?
     超ウケるんだけど。あははは」

    生徒8「笑えねーだろっ」


    742: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:10:54.19 ID:8MUbeGaXo


    男「みんな……」

    黒髪「話は全て、
     聞かせてもらっていたわ」ごそっ

    男(胸元から出したのは、
     携帯電話……?
     ああ、会場の音声を、
     流している人がいたのですね)

    理事「な、あなた達はなんザマスか!
     今は子供達のために、
     重要な話をしているザマースッ!
     でていきなさいっ!!」

    黒髪「子供のために?
     私達のために?

     はん、笑わせるんじゃないわよ。
     何も知らずに、
     正論を振りかざすことしかできない人たちは黙ってなさい」


    743: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:11:41.44 ID:8MUbeGaXo


    評論家「改めて聞こうか。
     君たちは誰だね」

    黒髪「そうね、
     あなた達の流儀に則るなら、
     恥知らずの支持者よ。

     男先生がいじめられてるって聞いて、
     そんな事はさせないって、
     集まった生徒代表よ」

    評論家「いじめるなどと、
     人聞きの悪い事は、
     むやみに口にすべきではないな」

    黒髪「なら、恥知らずなんて、
     ソレこそ恥知らずな言葉、
     使うべきではなくてよ」

    評論家「何を言っている。
     この男のように、
     教育者でありながら、
     守り、教導すべき生徒に、
     暴力をふるって恥じない人間に、
     それ以上相応しい言葉はあるまい」

     ぶーぶーっ!!

    司会「静粛に! 一斉に喋るな!」


    744: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:12:08.43 ID:8MUbeGaXo


    黒髪 すっ

     ぴたっ

    黒髪「ごめんなさいね、
     余りにも面白いな冗句だったから、
     つい盛り上がったのよ」

    評論家「このっ……!」

    黒髪「ねえ、評論家さん、
     一つ聞かせてくれるかしら?」

    評論家「なんだっ!」

    黒髪「なんで誰も、
     先生がどうしてこの場にいるか、
     どうして暴力を振るったか、
     ソレを問わないの?」

    理事「子供は黙っているザマス!」

    黒髪「ババアは黙ってなさいッ!」ピシャッ

     ざわざわ。けらけら


    745: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:12:35.67 ID:8MUbeGaXo


    記者4「確かに彼女の言葉の通りだ。
     なぜ彼がいるのか、
     その点には俺も疑問を持っていた」ニヤリ

    黒髪 ニヤリ

    記者4「司会さん、
     良けりゃぁ俺にも、
     この場の参加者として、
     質問させちゃくれないかね」

    司会「…………」

    記者4「沈黙は肯定と取るぜ。
     なあ、先生さんよ。
     なんでアンタはこの場にいるんだ?

     こんな場所に来たって、
     アンタの得になる事はないだろ。

     むしろ、この展開なんざ、
     予想できてしかるべきじゃないか?」


    746: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:13:13.20 ID:8MUbeGaXo


    男「この場に私がいるのは、
     招待されたからですよ。
     一教師として、
     生徒に関する話となれば、
     顔を出さないわけにはいきません」

    理事「白々しい……っ」

    記者4「生徒思い、子供思いか。
     だが、そんな事をいう人間が、
     なんで生徒を殴ったんだ?」

    理事「いい加減にするザマスッ!
     会の進行を滞らせるなら、
     出て行ってもらうザマスヨ!」

    記者4「構わねぇですぜ?
     会が終わった後にでも、
     先生と個人面談と洒落込むからな。
     他の記者さんがたも、
     一緒に話を聞きたそうだし、
     皆で近くのファミレスで、
     この続きをする事もできますわ」

    理事「くっ」


    747: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:13:53.77 ID:8MUbeGaXo


    男「あの生徒を殴ったのは、
     ソレが必要な行為だったからです」

    記者2「何で必要だったんですか?」

    男「ソレは……」

    記者1「口ごもるって事は、
     何か疚しいことでも?」

    黒髪「そんなわけ無いでしょ。
     先生、いいのよ。
     ソレについては、本人が説明してくれるわ」

    男「本人……? まさかっ」

    ひき娘 よろ、よろ

    生徒8「ねえ、ホントに大丈夫?
     顔色悪いよ」

    ひき娘「大丈夫、です」

    男(ああ――)

    生徒9「がんばれっ。
     今なら、俺たちも背中を押せる」

    ひき娘「うんっ」

    男(外に)


    748: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:14:27.67 ID:8MUbeGaXo


    評論家「キミは誰だね」

    ひき娘「私は、ひき娘です。
     先生が、人を殴ったのは、
     私のため、だから、
     私が説明に、来ました」ふらっ

    評論家「ええいっ、
     フラフラするなっ!」

    黒髪「評論家さん、
     そういう言葉は、
     相手の顔色を見て口にすべきよ」そっ

    ひき娘「ありがと」ぎゅっ

    黒髪「どういたしまして。

     評論家さん。
     ――この子はね、
     この二年間ずっと、
     いじめで負った心と体の傷が原因で、
     人が怖くて、外が怖くて、
     部屋に引きこもらないといられなかったのよ」


    749: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:15:15.07 ID:8MUbeGaXo


    評論家「ならばなぜここに居る」

    黒髪「決まってるでしょ。
     先生に手を出すからよ。

     人質を取るようなマネして、
     先生を引っ張り出さなければ、
     わたし達だって来なかったわ」

    批評家「何を言ってる」

    黒髪「白々しくとぼけないで。
     先生を貶めるために呼んだのなんて、
     子供にだってわかるのよ。
     でもね、そんな事はさせないわ」

    ひき娘「先生は、悪くなんて、
     ない、ですから」


    750: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:15:46.56 ID:8MUbeGaXo

    ----------------------------------
      六十九日目朝 ひき娘の部屋

     prrr prrr

    ひき娘「……ん」

    黒髪<おはよ、ひき娘。
     ちょっといいかしら?>

    ひき娘「うん。大丈夫。
     でも、黒髪さんが、
     こうやっていきなり電話とか、
     珍しいよね」

    黒髪<そうね。
     ただ、今回はちょっと差し迫った話だったから>

    ひき娘「差し迫った話?」


    751: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:16:14.42 ID:8MUbeGaXo


    黒髪<単刀直入に聞くわ。
     ひき娘は男さんのこと、好き?>

    ひき娘「…………うん」

    黒髪<そうよね。
     じゃ、男さんのためなら、
     何でもできる?
     何でもしたい?>

    ひき娘「うん。
     先生が困ってるなら、
     何だってするよ」

    黒髪<……そうよね>

    ひき娘「黒髪さん?」

    黒髪<自分の好きな人が困ってて、
     何かできるかもしれないなら、
     何だって、したくなるわよね>

    ひき娘「少なくとも私は、
     出来る事があるなら、
     お手伝いしたいと思うけど……。

     先生が何か困ってるの?

     そういえば今日は、
     いつもなら授業なのに、
     おやすみさせて欲しいって云ってたけど」


    752: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:16:41.07 ID:8MUbeGaXo


    黒髪<……あのね、ひき娘。
     私あなたに、ひどい事するわ>

    ひき娘「ひどい事?」

    黒髪<本当はね、
     そんな事をしなくてもいいように、
     そう考えて行動したけど……

     どうしても、
     最後の一手が足りないのよ。

     どんなに手を打っても、
     どんなに見直しても、
     後一歩なのに、届かないの>

    ひき娘「黒髪さん……?」


    753: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:17:10.00 ID:8MUbeGaXo


    黒髪<守りたいのに。
     アナタも、先生も、
     私の大切な人だから、
     大切に守って、
     傷つけたくなんか無い。

     でも私の力じゃ、
     どうしても皆を一緒には救えない。

     先生を助けようと思ったら、
     ひき娘に負担を押し付けないと、
     どうしても足りなくて……>

    ひき娘「黒髪さん、泣いてるの?」

    黒髪<……泣いて、無いわよ>

    ひき娘(悔しさと、悲しさでゆれる。
     その声が少しだけ濡れているのが、
     電話越しでも伝わって)


    754: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:17:42.29 ID:8MUbeGaXo


    ひき娘「……いいよ。
     そんなのは全然、
     気にしないでいいから」

    黒髪<……卑怯よね。
     こんな言い方されたら、
     ひき娘なら断れないって、
     わかってて私、言ってるの>

    ひき娘「そんな事ないよ。
     だって、先生が困っていて、
     私が何かできるなら、
     何だってしたいって気持ちは本当だもん」

    黒髪<……ひき娘も、
     変わってないのよね>

    ひき娘「変わってないって?」

    黒髪<中学生のとき、
     私がクラスで浮いちゃって、
     いじめみたいになった時に、

     助けてくれたのは、
     ひき娘だったじゃない。

     なんで私なんかを、
     かばってくれたのって聞いたら、

     『私が助けたいって、思ったからだよ』 

     なんて答えて>

    ひき娘「……」


    755: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:18:08.68 ID:8MUbeGaXo


    黒髪<あのね、ひき娘。
     ひき娘が最後に学校に行った日、
     何があったかは、
     ……忘れられてないわよね>

     どくん

    ひき娘「……うん」

    黒髪<三人の男子に囲まれて>

     どくん

    黒髪<痛い思いをしたんだよね>

     どくん

    黒髪<その時に助けてくれた人、
     その人の事は思い出せる?>

    ひき娘「助けてくれた人……」


    756: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:18:40.44 ID:8MUbeGaXo


    黒髪<ひき娘を助けるために、
     あの三人の前に飛び出した人>

    ひき娘「……憶えて、無いよ」

    ひき娘(憶えていたくなかったから。
     あの日の事は全部忘れたくて、
     それでも忘れられない、
     三人の顔だけしか、
     私の記憶には残っていない)

    黒髪<それなら、
     私が救急車を呼んで、
     病院に連れて行ったことも、
     忘れちゃってるわよね>

    ひき娘(あの後、何があったのか。
     三人に襲われそうになって、
     誰かが助けてくれて、
     誰かが介抱してくれて)


    757: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:19:11.96 ID:8MUbeGaXo


    黒髪<そしてね、
     ひき娘を助けるために、
     あの三人の前に立ったのが男さんなの>

    ひき娘「……それって」

    黒髪<あの三人に連れられて、
     校舎裏で暴行されてる、
     ひき娘の姿を見つけて>

    ひき娘 どくん

    黒髪<近くにいたわたしの手を引いて、
     アナタを助けに向かったの>

    ひき娘「……でも、
     学校で顔を見た覚えとか、ないよ」

    黒髪<担当学年が違ったのよ。
     私はイロイロと、
     先生の手伝いとかしていたから、
     教員室で何度か顔を合わせてたけど。
     すれ違う程度なら、
     憶えてなくても仕方ないんじゃない?

     ……あとそうね。
     よく思い返せば男さんも、
     あの頃より細くなって、
     表情も、硬くなったかしら。

     体型はともかく、
     最近の先生の表情はだんだんと、
     昔みたいにやわらかくなったけどね>

    ひき娘「それで、なのかな」


    758: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:19:45.95 ID:8MUbeGaXo


    黒髪<……まあ、憶えてないなら、
     いいんじゃないかしら。
     それで何かわかるようなものは、
     ないんでしょ?>

    ひき娘「うん、そうだね」

    黒髪<それでね、
     実はその時に、
     あの三人を殴った事で、
     いま、先生が追い詰められてるのよ>

    ひき娘「どういうことなの?」

    黒髪<詳しい話は長くなるわ。
     一つ言えるのは、
     先生がその事で居場所を失おうとしているという事。

     そんな先生を助けるために、
     ひき娘にお願いしたい事があるの>


    759: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:20:23.08 ID:8MUbeGaXo


    ひき娘「……うん」

    黒髪<ひき娘にね、
     他の人の前で、
     あの時の事を喋って欲しいの>

     どくん

    黒髪<ソレがどれだけ大変か、
     二年間、何度もひき娘と話して、
     会って、わかってるつもり。
     でも、このままじゃ、
     先生の居場所がなくなることになるの>

     どくん

    黒髪<無理強いはしないわ。
     できたら、来て欲しいの、
     メールに、住所と地図を送るから>

    ひき娘「……それって、外、なんだよね」

    黒髪<……そうよ>

    ひき娘「……行く」

    黒髪<……>

    ひき娘「行くよ。どこにでも」


    760: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:21:02.73 ID:8MUbeGaXo


    ひき娘「向き合う勇気をくれて、
     外に目を向けさせてくれて、
     ……知らなかったけど、
     二年前にも、助けられてるなら」

    ひき娘「今度は私が先生を助けるの」

    黒髪<……私だって、
     私達だっているんだからね>

    ひき娘「うん。
     一緒に、先生を助けに行こう」


    761: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:21:33.70 ID:8MUbeGaXo

    ----------------------------------
      六十九日目昼 説明会会場

    黒髪「アナタって、
     本当に評論家なの?
     とりあえず叩けばいいなんて、
     安直な考え持ってないわよね?」

    批評家「お、オマエッ!!」

    ひき娘「先生は、誰よりも先生です。
     私をいじめた人たちの事を、
     他の先生が黙認しているときに、
     一人だけ私にも、
     彼らにも、
     向かい合ってくれて、いました」

    黒髪「あの歪んだ学校の中で、
     ただ一人、
     批判も横暴も恐れる事無く、
     当たり前のように、
     『先生』で居てくれたのが、
     この人なのよ」

    生徒達 こくこく


    762: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:22:11.73 ID:8MUbeGaXo


    記者3「いったい何があったんです?」

    黒髪「あの学校にはね、
     権力に迎合する校長と、
     親の威を借りて、
     自分達の行為を黙認させる、
     ガキンちょと、
     そんな二人に遠慮する、
     『大人』ばかりだったのよ」

    ひき娘「その結果として、
     私に対するいじめは、
     担任の先生に訴えても、
     マトモに聞いてもらえなかった……」

    評論家「どうせいじめだ何だと、
     被害妄想に浸ってるだけだろ」

    ひき娘「それなら、見ますか……?」

    黒髪「ひき娘……」

    ひき娘「いいの」

    ひき娘「今やらないなら」ぷち、ぷち

    ひき娘「何とために来たかわからなくなるから」ばさっ


    763: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:22:41.35 ID:8MUbeGaXo


     ひっ……
     うあ……
     ぐ……

    ひき娘「コレが、
     ただの被害妄想だって言うなら、
     同じ目に、遭ってみますか?」じっ

    批評家「も、もういいっ!
     隠しなさいっ」

    ひき娘「見たくないんですか?
     気持ち悪いですか?
     汚いと思いますよね。

     でもこの傷は、
     もう、消えないんです。

     ずっとずっと、
     これから先も、
     何年経っても、
     私の体に残り続けるんです。

     アナタは目を背けられるけど、
     私は、背けられないんです。
     死ぬまで、何度も見て、
     向かい合わないといけないんです」


    764: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:23:08.19 ID:8MUbeGaXo


    記者4「なんでそんな、
     そんな事態になるまで、
     誰も止めなかった!」

    黒髪「そのいじめた生徒の親が、
     そこに居る理事さんのような、
     有力者だったからじゃない?」

     じっ

    理事「ひっ――」

    ひき娘「はじめまして、
     ピアス君の、お母さん」

    黒髪「コレがアナタのお子さんの、
     行ったことです」

    理事「し、知らないザマス!
     そんなのに、
     ウチの息子は関わってないザマス!」

    黒髪「今更ね。
     何のために、
     こうして皆を連れてきたのよ」


    765: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:23:36.06 ID:8MUbeGaXo


    生徒1「俺たちも、
     あの時はひき娘をいじめてたんだ……」

    生徒2「このままじゃいけないって、
     ずっと思ってたんだけどさ、
     言い出せなかったんだ」

    生徒4「でもひき娘ちゃんが、
     そんな傷を負って入院したって聞いてね」

    生徒5「みんなで決めたんだ。
     ちゃんと償おうって。
     でもその時には、
     部屋の外に出られなくなったって聞いてさ」

    生徒7「だから今回、
     黒髪に声かけられてよ。
     俺たちがいじめたって、
     その中にアイツもいて、
     一番暴力的だったって必要ならドコででも言うよ」

    生徒8「俺たちと違って、
     先生がひき娘を助けたって、
     そう聞いたからな。
     その先生とひき娘の二人を、
     一度に助けられるならなんだってするさ」


    766: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:24:15.16 ID:8MUbeGaXo


    黒髪「このために、
     みんな学校休んでまで、
     こんな場所まで出向いてきたのよ。

     ウチのクラスで、
     ひき娘をいじめてた子だけじゃないわ。

     男さんが担任だった、
     クラスの生徒のみなさん。

     塾講師になった男さんに教わって、
     大学に合格している人や、
     いま受験の真っ最中の人。

     みんな、先生が心配だって、
     それだけの理由で、きてくれたの」

    男「……っ」


    767: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:24:46.45 ID:8MUbeGaXo


    黒髪「理事さん」

    理事「な、なんザマスかっ!」

    黒髪「この先生ね、
     泣きながら、
     アナタのお子さん殴ったのよ」

    理事「だから、何が言いたいザマス!
     ウチの子はそれで、
     心に深い傷を負ったザマス!」

    黒髪「それなら、アナタの息子さんは、
     ひき娘の心の傷に、
     いったいどんな償いをするの?
     どんな理由があって、
     彼女にこんな、
     心だけじゃなくて、
     体にも消えないたくさんの傷を残したの?

     ウチの子じゃないなんて、
     どう考えてもウソの言葉をまた言うの?」


    768: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:25:34.00 ID:8MUbeGaXo


    黒髪「少なくとも先生は、
     生徒として大切にだったから、
     手を上げたのよ。

     殴られる痛みを知らないで育ったら、
     彼らのためにならないって、
     そうすることでしか教えられない、
     唯一の手段だから……

     大切なものを、
     伝えようとしての行為よ」

    理事「…………っ」

    黒髪「そんなの本当は、
     アナタが教えるべきじゃないの?
     おかあさん」

    理事「……」

    黒髪「……それからね、
     アナタのお子さんに、
     私は夜道で襲われたわ。

     コッチは証人なんていないけど、
     知っている声だもの、
     イヤでもわかっちゃうの。

     結局、理事さんは、
     そうやって甘やかすことで、
     せっかく先生が用意した、
     立ち直る機会すら、
     お子さんの手から奪ったのよ」

    理事 よろ、よろ

     がちゃん


    769: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:26:13.57 ID:8MUbeGaXo


    黒髪「さて、
     説明会の主役は退場したけど、
     どうするのかしら?」

    司会「……そ、それは」

    批評家「とりあえず私は出直すことにしよう」くるっ

    黒髪「出直して、あなたはどうするの?」

    批評家「どうもしないな。
     私は私として、
     必要だと思う言動をするだけだ」

    黒髪「……それが、こんな、仕事でも?」

    批評家「無論だ。
     そこの彼に、
     予想より大きな人望があったから、
     今回はうまくいかなかったが、
     目的の半分は達成した」


    770: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:26:40.78 ID:8MUbeGaXo


    黒髪「アナタそれで……」

    男 すっ

    男 ふるふる

    黒髪「……」

    批評家「では失礼する」

    司会「わ、私も一度、
     下がらせていただきます。
     あ、改めて連絡に参ります」

     いそいそ

     ぱたん


    771: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:27:22.15 ID:8MUbeGaXo


    黒髪「……司会が、
     終了の合図しないで出て行くって、
     もうぐだぐだね」

    男「やりすぎですよ、黒髪さん」苦笑

    黒髪「コレでも手加減したのよ。
     いろいろとね」にこっ

    男「まるで狸ですね」

    黒髪「だますのが上手いって?」

    男「外面は可愛い、でしょうかね」

    黒髪「ムリがあるわね」苦笑

    男「……」


    772: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:28:02.43 ID:8MUbeGaXo


    黒髪「さて、それじゃ、
     この場は私が引き受けるから、
     先生は、するべきことがあるでしょ」

    男「……お願いします」

    黒髪「お願いされたわ」

    男「……こちらへ」そっ

    ひき娘「……はい」とことこ


    773: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:28:29.43 ID:8MUbeGaXo

    ----------------------------------
      六十九日目昼 外

    ひき娘「……」

    男「……」

     風さわさわー

    ひき娘「外、出られるようになりました」

    男「おめでとうございます。
     それから、すみませんでした」

    ひき娘「何がですか?」

    男「私の事情に巻き込んで、
     思い出したくない事を、
     思い出させてしまいました。
     他にも、いろいろ」


    774: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:29:07.09 ID:8MUbeGaXo


    ひき娘「……思い出すのは、
     確かに辛かったです。

     でも、いつの間にか、
     そこまでじゃ、
     なくなってたみたいです」

    男「そうなんですか?」

    ひき娘「……先生が隣にいるから、
     かもしれないです」にこっ

    男「おやおや。
     ……もしそうなら、嬉しいです」

    ひき娘「……」

    男「……」

     風さわさわー


    775: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:29:52.70 ID:8MUbeGaXo


    ひき娘「先生は傷の事とか、
     何も言わないんですね」

    男「……今の私には、
     ひき娘さんに対して、
     言える言葉が無いだけです。

     その傷の痛みも、重さも、
     苦しみも、全て……
     推し量ることしかできません。
     そんな私の言葉の、
     いったいどれだけが誠実か、
     自信が持てないのです。

     ただもし、
     僭越ながら、言葉にすることを許してもらえるなら」

    ひき娘「……」

    男「生きていてくれて、
     ありがとうございます」


    776: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:30:43.03 ID:8MUbeGaXo


    ひき娘「……ぁ……ぅ」ぼろ

    ひき娘 ぼろぼろ

    男(傷を負って、
     痛みや恐怖と戦いながら、
     ずっと閉じこもっていた部屋から、
     私のために出てくれた)

    男「外に出てくれて、
     ありがとうございます」

    ひき娘「……っ、」ぼろぼろ

    男(そしてその傷を晒して、
     私を助けてくれた。
     ……これは、心の中だけで、
     ありがとうございます)

    男「……」

    ひき娘 ぼろぼろ


    777: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:31:11.44 ID:8MUbeGaXo


    男「――ひき娘さん」

    ひき娘「……はい」

    男「触れても、いいですか?」

    ひき娘 こくん

    男 そっ……ぎゅっ

    ひき娘「……」

    男「それからもう一つ、
     ありがとうを」

    ひき娘「なんのお礼ですか?」じっ

    男「わたしがわたしらしく、
     こうしていられるのは、
     ひき娘さんのお陰なんです」

    ひき娘「え?」


    778: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:32:05.71 ID:8MUbeGaXo


    男「学校を追われる事になり、
     私はソレまでの私を、否定しました。

     食べていくために、
     友さんの誘いに応えて、
     塾の講師をしていましたが、
     いつもどこかが乾いていました。

     わたしのような人間が、
     教師を続けていて良いのかと。

     その迷いの一つの回答として、
     ただいたずらに、ひたすらに、
     機械的に教師らしく生きることを、
     選択したんです。

     やがて、
     勉強を教えるという仕事をこなす、
     それ以上もそれ以下もしないのが、
     わたしになっていました」

    ひき娘「……それは、悲しいです」


    779: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:32:58.63 ID:8MUbeGaXo


    男「ある意味では、
     私もひきこもっていたんです。
     部屋の中ではなく、
     心に作った殻の中に。

     そんな私に対して、
     ひき娘さんは、
     正面から向き合ってくれました。

     そうして、
     信頼を勝ち取ることの大切さと、
     失いかけていた自分らしさを、
     取り戻す手伝いを、
     してくれたんです」

    ひき娘「……もう、大丈夫なんですか?」

    男「ひき娘さんが隣にいるから、
     きっと大丈夫です」にこっ

    ひき娘「……ず、ずるいよ」じりっ

    男「いまさらですよ」ぎゅぅっ

    ひき娘「……それなら」

    男「……」

    ひき娘「もう、ずっと、ずっと、
     隣にいてください」

    男「……参りましたね。
     そんな事を言われたら、
     手放せなくなってしまいます」苦笑

    ひき娘「いいですよ。
     私だって先生の事、
     もう、離さないから」にぱっ


    780: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:33:35.39 ID:8MUbeGaXo

    ----------------------------------
      六十九日目夜 男の車

     ぶろろろ

    黒髪「じゃあなに?
     私が新聞記者の相手とかしてる間に、
     二人は恋人同士になったって、
     そういうこと?」

    ひき娘「こ、恋人っていうか」(///

    男「もう少し、シビアな関係と云うか」(///

    黒髪「……男さん、
     いい年のオッサンが、
     赤くなったって可愛くないわよ?」

    ひき娘「……」

    黒髪「でも実態はやっぱり、
     ずっと一緒にいようねなんて、
     婚約みたいなものじゃない」むぅー

    男「ははは、
     私としてはそれでもいいですが、
     さすがにひき娘さんに悪いですよ。

     なにせ、ほとんど倍ほども、
     年齢差がありますからね」

    ひき娘「そんなの、気にならないのに」ぼそっ


    781: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:34:10.44 ID:8MUbeGaXo


    黒髪「……ま、仕方ないわね。
     そこらへんのゴチャゴチャは、
     二人で解決しなさいな」苦笑

    ひき娘「な、なんだか、
     黒髪さんに距離を取られた?」

    黒髪「それはもちろん。
     夫婦喧嘩は犬も食わないってね。
     私は横で、
     生暖かく見守らせてもらうわ」

    男「そろそろ、黒髪さんのお宅ですが」

    黒髪「そうね。
     送ってくれてありがとう。
     助かったわ」

    男「いえ、帰り道ですから」

    黒髪「それじゃ、ここで降りるわ」

    男「しかし、もう少し近くまででも――」

    黒髪「いいのよ。
     今日は涼しいし、
     風も気持ちいいから、
     少し歩きたい気分なの」

    男「……わかりました」


    782: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:36:00.38 ID:8MUbeGaXo


     がちゃ

    男「黒髪さん」

    黒髪「はい?」

    男「今日の事、これまでの事……
     ありがとうございます」

    黒髪「……高いわよ」にやっ

    男「値切りませんよ。
     いつか改めてしっかりと、
     お礼をします」こくり

     ぱたん

     ぶろろろろ


    黒髪「……」とこ、とこ

    黒髪「あーあ……」


    783: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:36:41.59 ID:8MUbeGaXo


    黒髪「初恋は実らないって。
     嘘だったら良かったのに」

    黒髪「…………」

    黒髪「いつか絶対、
     すーんごい、後悔させてあげるんだから」

    黒髪「……」

    黒髪「んーん。違うわね。
     後悔なんてしなくていいわ。
     そうじゃなくて、
     となりにいる私まで、
     幸せになるくらい、幸せになりなさい」

    黒髪「大好きよ、二人とも」とことこ


    784: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:45:02.07 ID:8MUbeGaXo

    ----------------------------------
      夜 男の車

    男「さて――
     そろそろ、目が慣れてきましたかね」

    ひき娘「……うん。
     真っ暗だけど、
     少しだけ指先とかも見えるかも」

    男「それでは、扉を開けますよ」

    ひき娘「はい」

     がちゃっ

     ばたん

    ひき娘「……うわぁ」

    男「どうですか?
     さすがにここまで来ると、
     都市部と違って空気も澄んで、
     光害もないから、
     よく星が見えますよね」


    785: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:48:31.85 ID:8MUbeGaXo


    ひき娘「すごい……
     本当に、見上げる限り、
     一面が星で埋まってる」とことこ

    ひき娘 よろっ

    男 がしっ

    ひき娘「あ、ありがとうございます」

    男「足元には気を付けてくださいね」

    ひき娘「う、はい……」

    男 がさごそ

    男「よい、しょと。
     見えますかね?
     ここにシートをしいたので、
     寝転がりながら、見あげましょう」


    786: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:51:49.44 ID:8MUbeGaXo


    ひき娘「先生、ちょっとだけ、
     わがまま言っても、
     良いですか?」

    男「……いいですよ」にこっ

    ひき娘「えっと、それじゃ、
     先に横になってもらって、
     良いですか?」

    男「? はい」ごろん

    ひき娘「それで、
     その……こんな感じで」もぞもぞ

    男「ああ、腕枕ですか」

    ひき娘 こくん(////

    男(こんな事でわがまま、なんて、
     初々しさが微笑ましいやら、
     まだ縮まりきっていない、
     微妙な距離にもどかしいやら……)苦笑


    787: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 08:54:54.31 ID:8MUbeGaXo


    ひき娘「実は、その。
     折角だから、勉強、してきたんです」

    男「星座をですか?」

    ひき娘 こくん

    男「では、あの星はなんですか?」

    ひき娘「むぅ、
     さすがに、北極星くらいは、
     すぐに分かりますよ……

     さっき、北の方角確かめましたし」

    男「そうでしたね」苦笑

    ひき娘「その北極星から、
     天頂方向に四つ、
     その先に入れ物を形作って、
     それが、こぐま座ですね」

    男「その通りです」にこっ


    788: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 09:01:41.94 ID:8MUbeGaXo


    ひき娘「先生が……
     初めて教えてくれた、
     星座ですよね」

    男「……はい。
     だいぶ昔のようですが、
     まだ、せいぜいひと月ですか」

    ひき娘「……」

    男「……」


    789: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 09:03:09.23 ID:8MUbeGaXo


    ひき娘「先生に教わって、
     改めて勉強するようになってから、
     今まで見えていなかった、
     いろんな星座が見えてきて、
     とっても感謝してるんです」にこっ

    男「それは良かった」にこっ

    ひき娘「……」

    男「……」


    790: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 09:06:26.47 ID:8MUbeGaXo


    ひき娘「なんででしょうね。
     先生と二人で、
     こうやって星を眺めてると……

     ここに来る前には、
     どんな話をしようとか、
     折角だから、先生に負けないくらい、
     たくさん星座を覚えようとか、
     がんばったのに」

    男「ああ、だから最近の授業中に、
     すこし眠そうに」

    ひき娘「ごめんなさい。
     でも、そのおかげで、
     いろんな星の事とか、
     勉強出来て……

     でも、二人になったら、
     なんだか全部、忘れちゃいました」

    男「……」


    791: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 09:09:27.08 ID:8MUbeGaXo


    ひき娘「こうやって二人で、
     のんびりと空を見上げているだけで、
     とっても幸せな気分になって……」

    男「……わたしもですよ」

    ひき娘 そっ

    男 きゅっ

    ひき娘「えへへ。
     先生の手、あったかいです」にぱっ

    男「それを言うなら、
     ひき娘さんの手の方がよほど、
     温かいですよ。
     まるで……」

    ひき娘「む、子供の手じゃないですよ」

    男「まるで、
     幸せに温度が有ったら、
     こんな感じだろうと思った、
     と言おうと思ったのですが」にやっ


    792: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 09:11:28.26 ID:8MUbeGaXo


    ひき娘「むむぅー。
     あ、そうだ! 先生!
     忘れてたけど、
     そういえばお詫びがまだですよ」

    男「お詫び、ですか?」

    ひき娘「先生がmeganeさんだって、
     黒髪さんと共謀して、
     私にかくしてたって打ち明けた時に、
     何かお詫びをするって、
     言ってくれてましたよね」

    男「ああ、そのことですか」

    ひき娘「忘れてたんです?」

    男「……まあ、そのような感じです」

    ひき娘「むー」

    男「ふふ」なでなで


    793: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 09:13:24.88 ID:8MUbeGaXo


    ひき娘「なでられても、
     ごまかされないですよ?」

    男「声はすっかり、
     期限がなおってますけどね」

    ひき娘「……だって、
     先生の手って、気持ち良くて」

    男「それは良かった」

    ひき娘「でも、
     お詫びはちゃんと、
     してもらいますよ!」

    男「バレましたか」

    ひき娘「はい。
     だから、一つだけ、
     お願いを聞いてください」


    794: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 09:15:23.78 ID:8MUbeGaXo

    男「拒否権なんて、
     最初から無いと思いますが……
     何がご希望ですか?

     あまり高価なものは、
     ねだられても手が出ませんよ」

    ひき娘「そんなのじゃないですよ。
     むしろ……」

    男「はい?
     すみませんが、聞こえなくて」

    ひき娘「……」

    男「ひき娘さん?」

    ひき娘「えっと、その、
     まず一つだけ、
     聞かせてください」


    795: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 09:17:21.85 ID:8MUbeGaXo


    男「なんですか?」

    ひき娘「その……
     あの説明会のときに、
     私の体の傷、
     見てもらいましたよね」

    男「……はい」

    ひき娘「その、本当のところは、
     どうだったですか?
     ……気持ち悪かった、ですよね」

    男「……」

    ひき娘「色とか形とか、
     自分で見てても、
     怖くなるくらいで……」

    男「ひき娘さん」

    ひき娘「……」


    796: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 09:20:29.93 ID:8MUbeGaXo


    男「もしかして、
     その傷が気にならないなら、
     今日は、その、
     大人としての行為をと、
     そう考えての発言ですか?」

    ひき娘「ぇ、ぁ、……」こくん(////

    男「それで、
     手を出さない私に対して、
     そうした点が気になっているのかと、
     気を回してくれたわけですね」

    ひき娘「……」こくん

    男「……そのですね。
     これはそのー、
     男性と女性との差異というか、
     えっと、その……」しどろもどろ


    797: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 09:22:35.35 ID:8MUbeGaXo


    ひき娘 じーっ

    男「……そんな瞳を向けないでください。
     嫌がっているわけでは、
     無いんです。

     むしろ私としては、
     必死に自分を抑えていましてね」

    ひき娘「……そうなんですか?」

    男「やはりわたしとひき娘さんは、
     十四歳、年が離れていますからね。

     その分だけ、
     この関係を他の人に対しても、
     誠実であるというアピールというか」苦笑


    798: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 09:25:22.97 ID:8MUbeGaXo


    ひき娘「……先生は、その、
     わたしとそういう事は、
     したいって、思ってくれてるんですね」(////

    男「直球ですね……」苦笑

    ひき娘「だ、だって、その。
     黒髪さんが、
     こういうのは変化球で投げても、
     男さんにはすぐにそらされて、
     気がつくとごまかされるって」

    男「……否定できないところが、
     我ながらなんとも情けないですが。

     とにかくひき娘さんに対して、
     体を重ねたいという思いは、
     持っていますよ。

     傷に関しては、
     気にした事はありません」


    799: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 09:28:35.77 ID:8MUbeGaXo


    ひき娘「……」

    男「納得できませんか?」

    ひき娘「その、納得はしているんですけど」

    男「……では、目を閉じてください」

    ひき娘「え?」

    男「今日は月もなくて、
     風も穏やかな、暖かい良い夜です。
     だから、少しだけ」

    ひき娘「……少しだけ」すっ

    男(我ながら、
     もうすっかり、
     元の『先生』には戻れないですね)


    800: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 09:29:32.73 ID:8MUbeGaXo


     chu♪


    801: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 09:32:31.38 ID:8MUbeGaXo


    The indoors roman.

    Scripted by 1 ( @bienyaku )

    And Special Thanks for You.

    The end of story.
    But To be continued at The World.


    802: ◆LZfAlLlryk 2011/05/02(月) 09:39:33.55 ID:8MUbeGaXo

    と、いうわけで、
    これにて幕とさせていただきます。

    お付き合いいただき、ありがとうございました。


    804: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) 2011/05/02(月) 09:46:56.98 ID:tqP/3PJO0

    完結お疲れ様でした。
    ひき娘も男も最後にはちゃんと想いが通じ合えて良かったー!
    初恋の実らなかった黒髪ちゃんだけが不憫で不憫で…
    。・゚・(ノД`)・゚・。
    今作も実に良い話でした…次回作も楽しみにしてますね?


    805: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) 2011/05/02(月) 09:49:19.82 ID:bxY6PRQCo

    お疲れ様でした。
    クライマックスの部分は引き込まれるように読んでいました。とても面白かったです。
    次回作も楽しみに待っています。


    807: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/02(月) 11:03:03.23 ID:Gqj1PA69o

    ひき娘も最後に大活躍だな!
    乙でしたー


    引用元: ひき娘「け、ケーサツ呼びますよっ」

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