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    一方通行「お前……上条か?」

    1: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/16(水) 22:35:14.37 ID:yiTG7ZAso


    序章 幻想殺しの見た幻想 Un-Breakable_Dream.


     学園都市のとある駅の前に、子供が二人。
     小学校四年生くらい……いや、その少し手前くらいだろうか。
     忙しそうに動く周りの世界から隔絶されたように、二人の間には時が止まったような静けさが流れていた。

    「もう、行っちまうんだな……」

     黒い髪の子供が寂しそうに呟く。

    「あァ……そォなンな」

     もう一方の白い髪の子供はぶっきらぼうに応える。
     ただ、その声にもまた、わずかばかりとは言え寂しさが見え隠れしている。

    「ホント、寂しくなるな……もっと気の利いた事でも言えたらいいんだけど」

     黒い髪の子供は、目を伏せてそう告げる。心なしかその目も潤んでいるように見えた。
     それを見た白い髪の子供は小さく溜息をつく。
     仕方がない、とでも言うように。黒い髪の上に、白い手を置く。

    「男だったらそォ簡単に泣くンじゃねェよ……こンなしンみりした別れじゃなくてよォ。もっとガラの悪い感じでも構わねェンだぜ?」

    「……そう言うなよ」

    「カッ……俺とお前は悪友くらいの関係だろォが。似合いもしねェ気障な言葉なンか考えてンじゃねェよ」

     そう言って、黒い髪を撫でる。
     白すぎる顔に、笑顔が浮かぶ。
     にっこり、というものではなく。ニヤリ、とでも表現するのか。
     何かを企むような、深い意味が込められたようなものだった。



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    2: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/16(水) 22:36:09.03 ID:yiTG7ZAso


    「ははっ……んなこと言って、お前も寂しいんじゃねぇかよ」

    「あァ?」

     黒髪の子供も笑う。
     白い子供とは違った、屈託のない笑顔。

    「じゃぁ、涙ぐらい隠しとけよ」

    「ンなっ!? 馬鹿言ってンじゃねェ、泣いてなンかねェよ」

     バッ! と音がするくらいの速度で、白髪の子は背を向ける。
     そんな様子がおかしいのか、黒髪の子はにこにこと笑っていた。

    「似合わないついでじゃないけど……これ、持って行ってくれ」

     黒髪の子がポケットから小さな包みを取り出す。
     別れ際のプレゼントだろうか。
     小さなそれを白いの子の手にしっかりと握らせる。

    「ハッ……転校くらいで大袈裟なンだよ。会えなくなるわけじゃねェだろうが」

     照れくさそうな顔に、ほんの少しの嬉しそうな色を混ぜて、白い子はその包みを開く。


     中から出てきたのは―――


    「お前、意味分かってやってンのか?」

    「意味? いや、目に付いたからだけど」

    「そォかよ」

     少しだけ残念そうな顔を秘めて、白い子はそれをポケットにしまった。

    「君達……そろそろいいかな?」

     横から飛んできた男性の声で、二人は離れる。
     名残惜しそうな顔で、白い子は踵を返す。

    「じゃァな」

    「おう」

    「次に、会う時はよォ……」

    「ん?」

     白髪の子供は、一瞬迷ったような表情を作ると、その口元を歪める。

    「いいや……なンでもねェ」

     そう言って、白い子は周りを大人達に囲まれて、駅へと消えて行った。
     黒髪の子を一人、その場に残して。


    3: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/16(水) 22:36:38.89 ID:yiTG7ZAso








    「―――――――――あれ?」







    4: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/16(水) 22:37:18.10 ID:yiTG7ZAso


     目の前に見えるのは白い天井。
     焦点の合わない目をぱちくりと瞬かせ、上条はゆっくりとその上半身を起こす。
     いつの間にか蹴り飛ばしていた薄い掛布団は足元で団子になっており、その役割を果たしていない。
     それもこれもこの暑さのせいだ、と一人で納得し、上条はベッドから這い出る。
     ボサボサの髪を掻き、部屋の隅に置かれた時計へと視線を向ける。

     七月二十日。

     デジタル表示のそれは、夏休み初日という学生にとっては至高の時の始まりを告げていた。

    「にしても……昔の夢なんて珍しいな」

     上条はのそのそと立ち上がると洗面台へと向かう。
     そこに取り付けられた鏡には、寝ぼけた馬鹿面に映りこんでいた。
     いまいちハッキリしない意識を冷水で無理矢理にこじ開ける。


     昔の夢だった―――。


    (アイツ………元気にやってんのかな)

     もしゃもしゃと歯を磨きながら、上条はふと思案にふける。

     もう何年も前の事だ。
     上条が慕っていた一人の友人。
     急な転校とだけ言って去って行ったあの出来事は、なかなかに衝撃的だったというのを覚えている。

    (最近連絡も取ってねぇよな……)

     連絡先くらいは携帯に入っていたっけか、と曖昧になりつつある記憶を手繰り寄せる。
     転校してしばらくの間、上条は割と頻繁にメールを出していた。
     但し、それに返事が来た記憶はない。
     転校先の『学校』は発展的な開発になる、という話を聞いていたことから、単純に忙しいのだと思ってはいた。
     段々と連絡の頻度も減っていき、いつのまにか疎遠になっていた。
     一度そうなってしまった関係を修復することは難しく、中学に上がる頃にはメールを送る事もなくなっていた。

    「久々に連絡してみるか?」

     洗面台から部屋に戻った上条は、充電器にさしてあった携帯を手に取るとアドレス帳を開く。
     お世辞にも多いとは言えない登録件数の中から、目的のものを探し出すのにそう時間はかからない。


    5: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/16(水) 22:37:55.60 ID:yiTG7ZAso


    「っと、いざ開いてみるとなんて書いていいのか分かんねぇな」

     苦笑いを浮かべる。
     昔馴染みに唐突に手紙を送るようなものだ。
     何を書いていいかどころか、何と書き始めればいいかすら分からない。

    (急に恥ずかしくなってきた)

     そわそわと居心地悪そうに身をよじり、深呼吸を一つする。
     今時、ラブレターでもこれほど緊張するやつはいないのではないか、と言うくらいだった。

    「えっと………」

     指を迷わせるように、上条はキーを押しこんでいく。

     『久々にメールしてみたんだが、元気にしてるか?』と。

    「こんなもんか?」

     少し素っ気ないような気もしたが、上条はそのまま送信ボタンを押す。
     これ以上悩んでいたら結局送れなくなりそうだった。

    「返事返ってくるといいんだけどな」

     パタン、と携帯を閉じる。
     半ばダメ元だというのは分かっている。
     それでも、今朝の夢が何らかの『思し召し』である事に期待して。

    「ま、そんな上手くいくわけな―――」

     ピリリリリリ、と携帯が鳴動する。
     驚きのあまり口から出かかった言葉をそのまま飲み込み、上条は目を白黒させる。
     携帯に向けて『急に鳴るんじゃない』と言いたいところではあるが、そもそも電話は急に鳴るものだ。
     どこにもぶつけることの出来ない理不尽な感情に戸惑いつつ、彼は携帯を操作する。

     自分でも驚くほどの速さで受信フォルダを開くあたりに、上条は口元を緩める。
     なんだかんだ言いつつも楽しみにしてたんだな、と再認識する。
     受信フォルダにある未開封メール。
     そこに書かれていたのは。


    6: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/16(水) 22:38:35.42 ID:yiTG7ZAso








     ――― ERROR ―――







    7: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/16(水) 22:39:18.01 ID:yiTG7ZAso


     心の中で盛り上がっていた感情が、一気に冷めていくのを感じる。
     膨らました風船を液体窒素に突っ込んだような。
     潤いかけた砂が一気に渇いていくような。
     そんな感情。

    「ま、そんな上手くいくわけないよな」

     つい数秒前に口から出た言葉。
     文字としては、字面としては同じであるその言葉も、内包する意味合いは全く異なっていた。

    (なんつーか、ついてねーっていうか)

     はぁ、と溜息をつく。
     下がったテンションを持ち上げる術も思い付かないままに、

    「不幸だ……」

     ついつい口癖が漏れる。
     それくらいには、上条は返信に期待してしまっていた。
     上条自身は気にしていないつもりでも、どこかワクワクしていた。
     思い出に対して期待するようなものだと分かっていてもだ。

     ピリリリリ。

     そんな重い空気を切り裂くように、不意に電話が鳴り響いた。
     携帯電話ではなく、固定電話の表示パネルに知った名前が表示される。
     上条はあからさまに嫌そうな顔を作ると、躊躇いがちに受話器を取る。

    「もしもし……」

    『あ、上条ちゃんですかー? 世間では今日から夏休みですけど、上条ちゃんは馬鹿だから補習ですよー?』

     邪気のない声が電話口から洩れる。
     この幼女のものにしか聞こえない無邪気ヴォイスは、何を隠そう上条の担任のものだった。
     月詠小萌。
     学校の七不思議どころか、学園都市の七不思議に数えられてもおかしくないくらいの先生のものだった。

    「あー、ですよね……」

    『上条ちゃんは忘れてないと思うのですが、一応確認しておこうと思ったのですよー。ちゃんと来てくださいね?』

    「はい………」

    『それでは、待ってますよ―』

     妙に楽しそうな声のまま、電話が切れる。
     それと同時に、上条はがっくしと肩を落とす。
     世間は何して遊ぼうかと浮かれているというのに、何が嬉しくて補習等に顔を出さなくてはならないのか。
     自業自得ではあるのだが、納得しきれない。

    「やっぱり、不幸だ……」

     息を吐き、時計を見る。
     補習に出かけるにはもう少し、時間がありそうだった。


    8: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/16(水) 22:42:31.53 ID:yiTG7ZAso


    とりあえず、序章投下。
    注意書きってわけじゃないけども。

    上条、一方通行が幼馴染 → 転校で離れ離れに。

    からの本編再構成もの。

    設定に変更や一部キャラ崩壊などがあるのでご注意ください。


    30: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/17(木) 20:44:52.07 ID:rSTy2L/Wo


    第一章  お子様なお嬢様  Misaka_Mikoto.




    「上条ちゃん、聞いてますかー?」

    「………え?」

     上条が我に返ったとき、すぐ目の前には頬を膨らませた小萌先生の顔があった。

    「え!? あ、はい、なんでございませうか?」

    「はぁ……上条ちゃんくらいの年になると、悩み事もいっぱいあるとは思うのですが、授業中はしっかり話を聞いて欲しいのですよー?」

     眉をハの字にし、小萌先生は呆れたように茫然としている上条の顔を見る。
     背中に冷たいものが流れるのを感じながら、上条はごくりと唾を飲んだ。

    「今回は大目に見ますが、次あったらコロンブスの卵ですよ?」

    「うぇ……」

    「上条ちゃんはもともと単位が足りないので、すけすけ見る見るは絶対ですよー。どの道最後まで居残りなのです」

    「………不幸だ」

     小萌先生の容赦のない言葉に、上条は額を机につけるようにへなへなと身体を崩す。
     冷えた天板が心地よく感じられ、このまま眠りにつきたいと思ってしまう。

    (それやると……流石の小萌先生もキレちまうな)

     よっこいしょ、と身体を起こす。
     鼻歌を歌いながら黒板に文字を書いていく彼女の背中に微笑ましいものを感じながら、上条は机に置いたノートを開いた。

    「いやいや、羨ましいで、カミやん」

    「何が言いたいんだよ、テメェは」

     やれやれと、肩をすくめ、上条は小萌先生からすぐ近くにいる青髪ピアスへと視線を移す。
     先生との身長差でいうとどれくらいの差かは考えたくもないが、彼もまた邪気のない笑みを浮かべていた。


    31: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/17(木) 20:45:27.82 ID:rSTy2L/Wo


    「小萌ちゃんとマンツーマンで補習とか、ボクやったら飛びつくねんけど」

    「もしかしてヘン夕イさんですか?」

     ニコニコと気持ち悪い笑みを浮かべる青髪ピアスを白い目で見る。
     彼はそんな上条の視線を気にす事もなくクネクネと身体を捩っていたりするのだが。

    「いやぁ、あないなお子様に責められながら無理難題に立ち向かうなんて最高にハァハァするやん?」

    「口リコンな上にドMでドヘン夕イさんでしたねっ! ったく、救いようもねぇじゃねぇか」

     休み時間であれば問答無用で殴り飛ばしているところではある。
     先程、釘を刺された以上、これ以上彼女を怒らせてはどうなるか分かったものではない。
     ドMで口リコンでヘン夕イな青髪ピアスはともかく、ノーマル――だと上条は思っている――である自分にとっては死活問題だ。

    「せやからぁ、ボクは寧ろナマ居残り喰らいたいんやけど、カミやんも一緒に――」

    「テメェ一人で行きやがれ! 残念ながら上条さんはそんな地獄一周ツアーに喜んで参加するような性癖は持ち合わせてないんです!」

    「そぉか、じゃぁなカミやん。代わりに一個聞いてもええ?」

    「なんだよ……」

     急にニヤニヤ笑いを殺して妙に真剣な顔になった青髪ピアスに、上条は恐怖さえ覚える。

    「その首から下げてる指輪みたいなん……それなんなん? 今までそないなんつけてへんかったやん」

     上条の首から下がっている細いチェーンの先には、白い指輪が付いている。
     それほど高いものではないらしく、パッと見では玩具のようだった。

    「あぁ、コレか? ちょっと昔を思い出してな」

    「離れ離れになった幼馴染の女の子と交換した結婚指輪……にしては安モンみたいやけど」

    「うっせぇ! なんでもかんでも女の子にすんじゃねぇよ!」

     青髪ピアスの言葉を否定するかのように、上条は黒板の方へと視線を戻す。
     その視線の先には、背伸びをして板書していたはずの小萌先生。顔だけこちらに向けて、優しく微笑んでいる。
     何も口には出さないが、明らかに何か言いたげであった。

    (め、目が笑ってねぇ……)

     気まずい空気の中唾を飲み込み、上条は目線だけで続きを促す。
     理解してくれたのか、自己完結したのかは分からないが、小萌先生はその表情のまま黒板に向き直ると、何事もなかったように板書を再開した。

    (あぁ……こりゃマズいな)

     上条は溜息をつく。
     今日も帰りは遅くなりそうだ、と内心諦めモードに移行した上条は顔を俯けるのだった。


    32: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/17(木) 20:46:05.46 ID:rSTy2L/Wo


    「オイオイ、こんな昼間っから実験たァこっちの都合はお構いなしですかァ?」

     昼だというのに薄暗い廃墟の中で、挑発的な声が飛ぶ。

    「学校には行っていないと聞いています」

     対するは一人の少女。
     顔は見えない。
     感情の困っていないような淡々とした声が奥の暗がりから帰ってくる。

    「まァ、俺の最強への道の犠牲になってくれてるっつゥンだから文句も言えねェけどよ」

     赤い瞳が少女を捕らえる。

    「そろそろ飽きてこねェか?」

    「一方通行をレベル6へと進化させるには二万通りの実験が必要で―――」

    「ンなこたァ理解してる。毎度毎度、オマエが俺にぶっ殺されるってだけの『カンタンナオシゴト』ってやつだ」

    「では、そろそろ時間ですので」

     少女は鞄からマシンガンを取り出す。
     そのか弱い姿に似合わない装備にも、一方通行は驚かない。
     より好戦的な、挑発めいた笑みを浮かべるだけ。

     ガガガガガガガッ! というモーター音が響き、マシンガンが火を吹く。
     雨霰のように射出された弾丸が、一方通行の身体に直撃した直後だった。
     少女の持っていたマシンガンが爆発し、一方通行を直撃したはずの弾丸の雨は少女へと降り注いでいた。

    「ホントに学習する気あンのかよ? そンなオモチャじゃァ俺の『反射』の壁は越えられねェ事くらい、とうの昔に証明されただろォが」

     一方通行は溜息をつく。

    「くっ……」

     苦痛に顔を歪め、少女は一方通行から逃れるようにバックステップする。

    「なンだなンだァ? 愉快にワルツを踊りませンか、なンて洒落こンでる場合じゃねェことくらいテメェの脳でも分かってンだろうがよォ」

     地面を蹴る。
     弾丸のような速度で飛び出した一方通行が少女の首を掴む。

    「チェックメイトだなァ、三下」

     ぐしゃり、と。肉が潰れるような音と共に、鉄の匂いが広がった。


    33: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/17(木) 20:46:57.63 ID:rSTy2L/Wo


     完全下校時刻。
     学生しかいない学園都市において、学生の夜遊び防止のために決められたそれは、ある意味で学園都市全体が眠る時間だ。
     通学バスは勿論、公共交通機関は殆どその時間を終電としており、それを逃せば実質帰れなくなる、というわけだ。

     そんな夏の暑さが消えない夕刻の通りを、上条はトボトボと歩いている。
     結局、すけすけ見る見るを攻略できなかった上条は完全下校時間までしっかりと拘束されたのだ。
     それ故、寮の方に帰るバスもなく、徒歩での帰宅を余儀なくされている。

    「あっちぃ……」

     日中のうだるような暑さとまではいかないものの、ギラギラと輝く夕日は『まだまだイケるぜ』と言わんばかりに熱を放っている。
     風でも吹いてくれれば少しはマシになるというものなのだが、残念なことにそよ風さえ吹く様子はない。
     風力発電の風車はピッタリと制止したままだ。
     周りを行く恐らく同じ補習組であろう学生達も、各々不満そうな顔を浮かべている。
     元気に走り回っているのは警備ロボットや清掃ロボット達のみ。

    「さっさと帰り………あれ?」

     ふと、視線を向けた先。
     何故かスーパーの店先に並んでいるガチャガチャの群れ。
     上条の視線はそのすぐ前で固定される。
     気になるアイテムがあったわけではなければ、落ちている百円玉を見つけたわけでもない。

    「み、御坂?」

     危うく持っていた鞄を落としそうになるくらい衝撃を受けた。
     手に入れた戦利品を見ている美琴は、にんまりと表情を崩している。

    「な、何やってんだアイツ………」

     常盤台のお嬢様がスーパー前でガチャガチャをやっているなんていう光景は、不思議というレベルの話ではない。
     外国の要人がコンビニに買い物に来るようなものだ。
     明らかに周囲の注目を集めているが、美琴本人は気づいていない。
     このままスルーして何も見なかったことにしてしまうか、溢れる親切心であの視線を浴びているお嬢様に助け船を出すか。

    (しかし、あそこに突入すればもれなく俺も珍百景に認定されちまうのかっ!?)

     ぐぬぬ、と下唇を噛む。
     もし今、『おーい、御坂!』と突入していけば、注目の的は『ガチャガチャをやるお嬢様』から『お嬢様に馴れ馴れしい馬の骨』に切り替わるだろう。
     それだけならともかく、いきなりナンパしてんじゃねぇよとギャラリーに言われかねない。

    「御坂には悪いが、ここは気付かれる前に退散することにしますの……」

     どこぞの風紀委員のような口調で、上条は踵を返す。
     浮かんでくる不自然な笑みを隠しきれないまま、第一歩を踏み出した時だった。

    「おーっす、こんなところで奇遇ね」

    「だぁぁぁぁああああ!?」

     美琴からの声かけ。
     上条にとっては正にまさかの出来事であった。
     それにより、不思議少女美琴ちゃんからの逃亡作戦は全くの水の泡へと化す。

    「何やってんの……って、アンタ、なんでそんな落ち込んでんのよ?」

    「いや、何でもありませんことよ?」

     がっくしと、明らかに肩を落としている上条に美琴は怪訝そうな表情を作る。
     いつの間にか隣までやってきてしまった彼女に、上条は嬉しいやら悲しいやらなんだか複雑な表情を作るしかない。
     『お嬢様に馴れ馴れしい馬の骨』どころか、『お嬢様に声をかけられて、駆け寄られるくらいのヤツ』に成長進化してしまったことに愕然としつつ、彼は口癖の言葉を慌てて飲み込んだ。

    (ここで、不幸だ、なんて言ったらまたビリビリコースだよな……)

     上条としては早く帰りたいところではあるが、あんまり刺激してはビリビリ付き追いかけっこ。
     最近になってようやくほどほどの関係を築いたというのに、そうなってしまっては元も子もない。


    48: ◆XtjOmDyc46 2011/02/19(土) 20:05:58.92 ID:qw7dATgRo




     きっかけと言えばそれがきっかけだったのだろう。

     ちょうど一年ほど前、上条が中学三年であったころだ。
     このままじゃ近くの高校にも行けねーぞ、なんて担任に脅されつつ、今と変わらないくらいに補習地獄を送っていた頃だった。
     完全下校時刻を過ぎてトボトボと寮まで帰ったものの、冷蔵庫が空っぽである事実を突きつけられそのまま近くのコンビニへと向かうハメになった。 
     辺りは暗くはなっていたが、上条のように食料を求める人や立ち読みに来た暇人、はたまた何となくたまっているだけのお兄様方と多種多様の品揃えもとい、人揃えを見せている。

    「お財布的にもコンビニにお世話になるのはあんまりよろしくはないんですけども……」

     上条は肩を落として溜息をつき、並べられた鮭弁を手に取る。
     値段にして三百九十八円。

    (安くはねぇよなぁ………)

     かといって、他のものになると……。
     上条は、陳列棚に並んだ他の弁当に目を向ける。
     俺を買ってくれと主張している彼らは、どれもこれも五百円級の猛者ばかり。
     財布に小銭しか入っていない上条にとって、この差は大きいものだった。

    (カップ麺にしとくか?)

     うーん、と頭を悩ませつつ、上条は即席麺コーナーへと歩いていく。
     確かに弁当を買うよりも少しは安い。ただ、その差は微々たるものだ。
     腹の膨れ方を考えればどちらが得かとは言い切れない。

    「あぁぁ!? なんで売ってねぇんだよ」

     いっそ食わねぇで寝ちまうってのもアリか、なんていう思考に辿りついたちょうどその時だった。
     さっきまで立っていた弁当コーナーからクレームにも似た声が飛んでくる。
     恐らく店中の注目を集めたであろうその声の主は、少しキツそうにみえるお姉さん的な人だった。

    「くっそ……せっかく出てきたのに鮭弁がねぇとか……」

     明らかに不満そうに眉を吊り上げている。
     バツの悪そうな顔でレジ前に立っている店員さんを恨めしそうに見て、彼女は別のものを物色し始めた。

    (な、なんか怖そうなんですけどもぉぉぉ)

     上条は得体のしれないドキドキ――勿論、恋ではない――に襲われながら、右手を見る。
     そこに握られているのはさっき確保した鮭弁。


    49: ◆XtjOmDyc46 2011/02/19(土) 20:06:47.35 ID:qw7dATgRo


    「え……あー、っと」

     次いで、先程の女性を見る。
     おにぎりコーナーで紅鮭を手に取り、『こういうのじゃないよなぁ……』とか呟いているあたり、鮭弁にかなりのこだわりがあったのだろうか。
     ふぅ、と息を吐き、意を決したように上条は彼女の方へと向かう。

    「あ、あの……」

    「うん?」

     振り返った彼女は控えめに見ても美人だった。

    「これ、よかったらどうぞ……」

    「あん? いいの?」

     上条は持っていた鮭弁を半ば無理やりに彼女に押し付ける。
     キョトンとした表情をしていた彼女だったが、やがてゆっくりとその口角を上げていく。

    「ありがとね」

    「いっ、いえ! お気になさらずっ」

     ビシッ、と居住まいを正し、上条は直立する。
     何事かと言われれば、ドキっとしました、としか答えようがないのだが、それくらいには破壊力のある笑顔だった。
     顔が真っ赤になってるんじゃないかと慌て、上条はそのままくるりと身体を回転させると、逃げるようにしてコンビニを飛び出していく。

    「なんなんだ、アイツ?」

     鮭弁を持ったお姉さんがレジ前の店員へと目を向ける。
     何も知らない彼は愛想笑いを浮かべるしか出来なかった。


    50: ◆XtjOmDyc46 2011/02/19(土) 20:07:30.11 ID:qw7dATgRo


    「なんで逃げたんだ、俺ぇぇぇぇっ!?」

     何に動揺したのか、急に恥ずかしくなって逃げた上に、無意味にランニングなんぞ決めてしまった上条は、汗ばみながら肩で息をしていた。
     なんとか呼吸を整えるものの、張りついてくるTシャツの不快感からは逃げられない。
     うげ、と顔をしかめて走って来た道を振り返る。

    「今のは出会いのチャンスと言う奴だったのではないでせうか?」

     独白に応える者はいない。
     鮭弁好きのお姉さんの余裕のある頬笑みに、どう応えていいかも分からなかった。

    「しっかし………お姉さんとかストライクゾーンど真ん中だったんじゃねぇのか、おい」

     ドキドキと高鳴る心臓――走ってきたからであって、断じて一目惚れとかではない――の音をうるさく感じながら、上条は数分前の事を思い起こす。
     好みのタイプは『寮の管理人みたいな年上のお姉さん』と公言しているが、正直なところそれほどこだわりはなかった。
     女の子といちゃいちゃするのは憧れではあったし、年上年下にこだわるほどモテるとも思っていない。
     修学旅行の夜的なシチュエーションで答えるために用意した、いわゆるテンプレートに過ぎない。

    「ちょっと、怖い感じではあったけど」

     絶対に逆らえねぇだろうな、と上条は苦笑いを浮かべる。
     第一声のアレを思い出し、身震いする。喧嘩慣れした上条でも、言葉で精神的に削られるのには流石に勝てない。
     青髪ピアスなら喜んで飛びつきそうではあるが。

    「ちょろっと、そんなトコに突っ立ってないで……邪魔だからどいてくれる?」

    「うぇ!? すいませんっ」

     慌てて前に向き直り、道を開ける。
     迷惑そうな顔で立っている中学生くらいの女の子がそこにいた。

    「ったく………ぼーっとすんならもっとマシなとこでやってよね」

    「あー、悪い」

     やれやれと首を振る彼女に一応謝りつつ、上条はさっきまでのテンションをすっかり失っていた。

    (つか、わざわざ俺のいるとこ通んなくてもいいだろ……)


    51: ◆XtjOmDyc46 2011/02/19(土) 20:08:05.36 ID:qw7dATgRo


     溜息一つ。
     確かに道の真ん中でぼーっとしていた自分にも非はあると思うが、それ以前に人一人立っているだけで通れなくなるような道ではない。
     むしろ、女子中学生さんのちょっとした団体様御一行でも十二分に歩けるほどの道幅が用意されている。

    (やれやれ、最近の中学生ってのは……まぁ、俺もそうだけどよ)

     大人な女性の余裕ある姿を見た後だからか、その差を強烈に感じて上条は肩を落とす。

    「アンタ、文句あるなら口で言ったら?」

    「うげ………見てたのかよ」

     もう行ってしまったと思った先程の女子中学生がこちらを―――見てはいなかった。
     歩みを止めてはいるものの、こちらに背を向けたままだ。
     もちろん、こちらの様子を窺った後で踵を返した可能性だってある。
     だが、それこそ無意味だ。そんな事をしてまで、上条に背を向ける意味がない。

    「確かに私の口も悪かったとは思うわよ。でも、何もそこまで肩を落とすことないんじゃない?」

     彼女は上条の方へと身体を向けると、さっきの不満そうな顔のまま口を開く。

    「あー、そうだな……」

     気まずい空気に気圧されつつも、上条は彼女の姿を見る。

     肩まである茶色の髪。
     美人と呼ぶには年齢的に少々幼すぎる気はするが、それでも十二分に整った顔立ち。
     そして極めつけは、灰色のプリーツスカート、半袖のブラウスにサマーセーターという服装。
     『学園都市の外』に放り出せば、なんてことのない女子中学生にしか見えないが、ここでは違う。

     その制服が示すのは、彼女が常盤台中学の学生であるということ。
     全人口の八割が学生であるこの街の中でも、一、二を争うほど有名なエリート校である。
     最低入学条件が『レベル3以上』であり、学園都市にも七人しかいないレベル5の『超能力者』を二人も擁する超名門校だ。
     当然、目の前にいる彼女もレベル3以上の能力者であり、レベル0の『無能力者』である上条からすれば雲の上のような存在だ。
     それを考えれば、背を向けながら上条の態度を『見れた』のも納得がいく。

    「透視能力者かなんかまでは分かんねぇけど、こんな時間に常盤台のお嬢様が一人で歩いてるのは色々とマズいんじゃねぇの?」


    52: ◆XtjOmDyc46 2011/02/19(土) 20:08:34.39 ID:qw7dATgRo


    「お嬢様、ねぇ……」

     彼女は心底面白くなさそうに肩をすくめる。

    「いちいち面倒よね、その『お嬢様』ってのも……」

     その一般的には羨ましがられるであろう肩書きも、彼女にとっては邪魔なのだろうか。
     彼女は見飽きたものを見るような目で、上条を見据える。

    「お嬢様だからこうやって出歩いちゃいけないわけ?」

    「いや、そうじゃなくてだな……」

     やや論点のずれている少女に頭を掻きつつ、上条は答える。

    「女子中学生が一人で夜歩き、ってトコが問題なんだが」

     その言葉に、少女は驚いたように目を見開く。
     何を言ってるのか分からない、とでもいうのだろうか。目をぱちくりとさせている。

    「心配してくれるのは嬉しいけど、余計なお世話よ」

    「お、おい!?」

     上条の言葉をどこまで聞いていたのかは分からないが、少女はその場で踵を返すと夜の学園都市へと歩を進める。
     そんな人の話を聞かない彼女の後姿に、上条はぎょっとした顔で呼び掛ける。
     心配性すぎる上条にとっては、このまま彼女を放っておいて万が一の事態でもあればと思うと、安心して眠る事も出来ない。

    「お前が『後ろにいる人間の様子も分かる』ってのは分かったが、さすがに大人数に囲まれたら対処しきれねぇだろ?」

     ぴくり、と少女の肩が跳ねる。
     思いとどまってくれたか、と上条が胸を撫でおろそうとした時だった。
     ゆっくりと、振り返った彼女の前髪がバチッと音を立てる。

    (あ、れ―――?)

     何かがおかしい。
     静電気にしては大きかったその音は、明らかに彼女から放たれた。
     そして、一瞬ではあるが、彼女の前髪あたりでスタンガンのような青白い閃光が起こった。
     何かがおかしい。
     では、何がおかしいのか―――。


    53: ◆XtjOmDyc46 2011/02/19(土) 20:09:40.92 ID:qw7dATgRo


    「大人数に囲まれたら、って?」

     挑発的な笑みを浮かべる彼女は、その細い右手を自分の前に持ってくる。
     バチィッ! と、聞き間違いではない高音が上条の耳にも届く。
     青白い火花。
     心臓に悪い高音。
     雷のような閃光が、彼女の手の中で踊っている。

    「お前、『電撃使い』だったのか………」

    「そ。電磁波をソナー代わりに利用すれば、自分の見えてないところで何があるかも分かるってわけ」

     勿体ぶるでもなく、発表するようでもなく。
     淡々と、少女は技のタネを明かす。

     その様子は、あくまでそれが自己の能力の付加価値にしか過ぎないと。
     自らの能力の一端でしかないと。
     言外にそう言っているようにさえ見えた。



     余裕綽綽。


     
     そう言わんばかりに、彼女は笑っている。

    「お前、まさか……」

     上条は息を飲む。ゴクリ、と。近くにいる少女の耳にも届くくらいの音を立てて。
     話くらいは聞いたことがあった。
     常盤台にいるという『電撃使い』について。

     否。

     恐らく、学園都市で彼女の名を聞いたことのない人間などいないだろう。
     レベル1の何でもない『電撃使い』から、特別な名前がつくほどの『超能力者』まで駆け上がった努力家として。


    54: ◆XtjOmDyc46 2011/02/19(土) 20:10:14.78 ID:qw7dATgRo


    「ねぇ、アンタ………超電磁砲って、知ってる?」

     ニヤリ、と。
     彼女の口元が不気味に歪む。

    「超……電磁砲」

     出力にして十億ボルト。
     電子どころか磁力さえも自在に操る最強の『電撃使い』にして、学園都市の第三位。
     三二万八五七一分の一の能力。

    「無能力者が束になってかかってきたところで、返り討ちにしてやるわよ」

     いとも簡単に、そう告げる。
     確かに彼女ほどの力があれば、自分の身を守ることくらいは朝飯前だろう。

    「ついでと言っちゃなんだけど、私も一つ気になってんのよね」

     そう言って、彼女はさっきまでの余裕のある表情を一変させる。
     初めに上条に邪魔だと言ったときのような、不満げな顔。

    「…………アンタ、なんて能力なわけ?」

    「能力って………俺はレベル0の無能力者なんだけど」

    「冗談は程々にしておくことね」

     ピシャリ、と彼女が言い放つ。

    「その右手……どういうことか説明してもらえるかしら?」

     彼女の視線が、上条の右手へと集まる。
     何の変哲もないように見える、少しばかりがっしりとした右手。

    「その周りだけ電磁波が掻き消されてんのよ……しかも、ご丁寧に『私から出たものだけ』ってのが皮肉よね」

     携帯電話の分は綺麗に残ってんのに、と彼女は続ける。
     電子線や磁力線まで視えるという『電撃使い』の少女の目は、上条の右手の周りの異常を捉えていた。
     そこだけポッカリと空いた空間。
     一色に塗られた絵の一部分だけを切り取ったような。
     白い部屋の中心に置かれた、黒いテーブルのような。


    55: ◆XtjOmDyc46 2011/02/19(土) 20:10:47.35 ID:qw7dATgRo


    「これは―――」

     上条が右手を動かす。

    「ちょっと、痛かったらごめんね」

     少女の前髪から、一段と大きな火花が散ったかと思った次の瞬間だった。
     先程まで彼女の手の中で踊っていたのと同様の雷が、槍のようになって上条に襲いかかる。
     避けるなんて事は出来やしない。
     そこに『避ける』なんていう選択肢が介入する余地はない。
     何かが光った、くらいにしか判断できないほどの速度で、雷撃の槍が飛ぶ。

    「う、わっ!?」

     バギン! と、不自然な音が鳴り響く。
     咄嗟に突きだした上条の右手を貫いたその雷撃の槍は、砕けたガラスのように四方へと散る。

    「え……?」

    「テ、テメェ! 危ねぇだろうが!」

     飛び散った電撃の向こうから現れたのは、傷一つ見当たらない上条の姿。

    「絶縁……能力?」

    「………いいや」

     電撃を飛ばしてきた美琴に説教の一つや二つぶつけてやろうと思ったが、彼女はなにかショックを受けているらしい。
     茫然とした顔で上条を見ている。
     その視線をむず痒く感じつつ、上条は突き出していた右手に目を向ける。


    56: ◆XtjOmDyc46 2011/02/19(土) 20:11:21.80 ID:qw7dATgRo


    「俺のはちょっと異色でさ」


     『幻想殺し』


     上条の右手に宿る、異能に対する絶対的な力。
     全ての異能を打ち消し、無へと返す力。

    「そ、そんなの……」

     ありえない、と。少女の唇が動く。
     二百三十万分の一の能力。
     生まれながらにして上条が持っていたその力は、レベル5の電撃であっても例外ではなかった。

    「ふっざけんな……」

     少女、いや、常盤台の『超電磁砲』こと、御坂美琴の周りから火花が散る。
     バチバチという音が空気を切り裂き、青白い電光が宵闇を照らす。

    「お、おい……なんでそんなにバッチンバッチンしてるんでせうか?」

    「ちょろっと、本気出してみても良いかもしれないわね」

     少しだけ嬉しそうな笑みが、彼女の口元に現れる。
     それはちょうどRPGのラスボスを前にしたような、高揚感から来るような笑みだった。

    「お、俺はレベル0の無能力者なんで………って、聞いてないっ!?」

    「死ぬ気でやんないと死ぬかもしれないわよ?」

     理不尽だ、と上条は思う。
     それ以前に、日本語が変じゃないか、とも。

    「ふ、不幸だ……」

     がっくりと肩を落とす暇もないまま、上条に向けて雷撃の槍が飛んだ。


    89: ◆XtjOmDyc46 2011/02/23(水) 19:54:43.35 ID:tiOfvahqo




    「ちょっと、知恵熱なんか出してる場合じゃないでしょ?」

     初めての出会いを思い出していた上条の顔を覗き込み、彼女は不満げに口を開く。
     美琴が何を言いたいのかは分からないが、少なくとも『初めて会ったときはビリビリ電気飛ばしてきて大変だった』なんて言える雰囲気ではない。

    「いや、常盤台のお嬢様がガチャガチャなんかやってるもんだからな」

    「んなっ!?」

     上条の言葉に、美琴は顔を赤くする。
     それは瞬間湯沸かし器のごとく、一瞬の出来事だった。

    「ア、アンタ、見てたの?」

    「ガチャガチャの前で戦利品と睨めっこしながらニマニマしている御坂さん、くらいは見たな」

    「うああああああああっ!?」

     湯気を出してもおかしくないくらいに赤く染まっていく。
     完熟トマトも真っ青になってしまうほどのその顔は、恐らく平熱よりも随分と火照っていることだろう。

    「注目の的だったぜ? まぁ、常盤台の制服着てるだけで注目はされるんだろーけどさ」

    「うっわぁぁぁ……」

     気づいてなかったのかよ、という言葉も今の美琴の耳には届いている様子はない。

    (とことん、お嬢様っぽくねぇよなぁ………)

     一般人でしかない上条に絡んでくるし。
     年上に対してでもタメ口をきいてくるし。
     なんで俺だけ、とは思う。


    90: ◆XtjOmDyc46 2011/02/23(水) 19:55:40.40 ID:tiOfvahqo


    (これが白井の言っていた『お姉様の居場所』ってことか?)

     そう考えて、上条は苦笑する。
     自分でも少し傲慢だとは思うが、もしそう思ってくれているのなら。
     彼女が羽を伸ばす場所が他にないというのなら。

    「偶になら付き合ってやっても良いよな」

    「はぁ? 何言ってんの?」

    「なんでもねぇよ」

     不思議そうな顔で、覗きこむ美琴を適当に流す。
     ビリビリしてくるのは勘弁だが、なんだかんだ可愛い女の子と喋ることは楽しいのだから。

    「で、美琴センセーは何を獲得してニマニマされてたんです?」

    「ニマニマなんかしてないわよっ……多分」

    「いやー、写真でも撮りたいくらい見事な顔でしたよ?」

    「う、うっさい!」

     茶色の髪がパチパチと静電気を起こす。
     これくらいならまだ大丈夫だ。

    「ちょっと可愛いバッチがあったからさ……」

     そう言って、美琴はポケットから缶バッチを取り出す。
     ファンシーグッズメーカーのものらしく、青地に彼女が好きなカエルが描かれている。

    「またカエルかよ」

    「ケロヨンって名前があんのよ、いい加減に覚えろ」

    「って言われてもなぁ」

     ゲコ太だか、ゲロッパだか知らないが、正直に言って興味のない上条には見分けがつかない。
     美琴にとってはそれが死活問題らしく、ことあるごとに怒られている気がする。


    91: ◆XtjOmDyc46 2011/02/23(水) 19:56:35.44 ID:tiOfvahqo


    「まぁ、いいわ……アンタ、今から暇?」

     期待した私が馬鹿だった、とでも言わんばかりの顔で美琴はバッチをポケットに戻す。

    「帰って夕飯食べて風呂入って明日の準備して寝るっていうハードスケジュールだな」

    「なにそれ、日常生活と変わんないじゃん」

    「明日も絶賛補習祭りでな」

     上条は大きく溜息をつく。
     一学期丸々分を一週間やそこらで取り戻せるとは思わないが、出なければ何を言われるか分からない。
     もっとも、出席しているだけでどこまで話を聞いているかと言われると、上条自身にも分からないのだが。

    「ふーん。じゃ、付き合いなさい」

     有無を言わさず、美琴は上条の腕をがっしりと取る。

    「ちょ、ちょっと話聞けっ」

    「なに?」

     強引に引っ張っていこうとする彼女の腕を振りほどく。

    「明日! 明日ならどうだ?」

    「………明日?」

    「明日なら多分こんな遅くなんねぇし、午後くらいから時間取れると思うから………」

     美琴はうーん、と頭を悩ましている。
     正直、一日先延ばしにしただけで何の解決にも至ってはいない。

    「………ダメか?」

    「分かったわよ……明日は、逃げんじゃないわよ?」

    「お、おう」

     何とか納得してくれた――表情はイマイチであったが――美琴を置いて、上条は帰路へとつく。
     二人とも、この時はまだ考えもしていなかった。
     怒涛のような出会いが繰り広げられることになるなんて。


    92: ◆XtjOmDyc46 2011/02/23(水) 19:57:36.71 ID:tiOfvahqo


    ◆  ◇  ◆  ◇


    「昼も夜も実験実験、ってなァ……」

     上条と美琴が翌日の約束を取り交わしていた頃だった。
     パンパン、と埃をはらうように手を数回叩く。
     一方通行の立っている周りは鮮血に彩られていた。

    「あと何回だったかなァ……」

     コキコキ、と首を回す一方通行は真っ白だった。
     返り血の一滴どころか、傷やほこりさえも付いていない。
     そんな地獄絵図のような空間に、一人の女が姿を現す。

    「ふーん、これが噂の『一方通行』ねぇ?」

    「あァ? 誰だ、テメェは?」

     一方通行が振り返った先。そこにいたのは―――

    「麦野沈利、って言えば分かるかにゃーん」

    「………第四位か」

     殆ど興味なさそうに、『一方通行』は『原子崩し』を見る。
     剃刀のような赤い目と、挑発的な茶色い目が交わる。

    「思ってたよりも白いんだね、百合子ちゃん?」

     神経を逆撫でするかのような声で、麦野は一方通行へと食ってかかる。
     興味なさげにしていた一方通行も、その時初めて麦野沈利に対して感情を見せた。

    「何言ってやがンだ、テメェ?」

    「あれー? 第一位は実は女の子、って噂はガセだったのかな?」

    「くっだらねェ……なンなンですかァ? 俺がスカート穿いてる姿でも想像して興奮したとか言うンじゃねェだろォな?」

     一方通行がイライラを示したことがそんなにおかしいのか、麦野はニマニマと表情を緩めていく。
     まるで年下をからかうようなその仕草は、第一位に対して向けられているものとは思えないほどだった。


    93: ◆XtjOmDyc46 2011/02/23(水) 19:58:54.51 ID:tiOfvahqo


     もし麦野が一般人ならば、まずそんな態度に出ることはなかっただろう。
     恐れて逃げ出すか、逃げられなくなるほど慌てるか、あわよくばと掴みかかるか。
     そのどれでもないこの態度は、一概に言えば麦野の性格によるものでもある。

     ただそれ以上に、麦野は『ある程度なら一方通行とも戦える』と思っていた。
     いくら第一位と言えど、同じレベル5だ。
     利便性と応用力の問題から『超電磁砲』に第三位の座は譲っているものの、単純戦闘力なら学園都市のナンバー3だと。
     そう考えていたからこそ、麦野は一方通行に対しても臆することはなかった。

    「で、第一位サマは、面倒な実験に付き合わされてるんだって?」

     麦野はあたりにべったりと付いている血肉を気にする様子もなく、一方通行の方へと歩む。

    「…………」

    「ザコキャラちまちま二万匹も潰してレベルアップ、ってRPGみたいなことしてるらしーけど」

    「…………」

    「答える気もない、ってか?」

     麦野の言葉を完全に無視し、一方通行は彼女に背を向ける。

    「そこまでして『最強』になろうとする意味があんの?」

    「…………分かってねェな」

    「はぁ?」

     背を向けたまま、顔を少しだけ麦野の方へと向け、睨みつける。

    「『最強』程度じゃ意味がねェンだよ……『無敵』って言われるようになって初めて合格点ってなァ」


    94: ◆XtjOmDyc46 2011/02/23(水) 19:59:58.55 ID:tiOfvahqo


    「なんだ、その美学? 意味わっかんねぇ」

     鼻で笑うように、麦野は一方通行の言葉を嘲笑する。
     『実験』に邪魔が入らないように、と周辺警戒を依頼されたついでに、学園都市最強の顔を拝んでやろうと思ったらこれだった。

    「言葉遊びでもやってるつもり?」

    「わかンねェなら黙ってやがれ……」

    「学園都市の第一位が思ってた以上にメンドクセェ奴、ってことだけは分かったけど?」

    「なんのつもりか知らねェが、第四位程度じゃお遊びどころか暇つぶしにもなンねェ」

    「へぇ?」

     吐き捨てるようにして、一方通行は麦野へと告げる。
     ピキッ、と麦野の表情が変わる。
     元より友好的とは言い難いものだったが、その表情は完全に怒りをはらんでいた。

     麦野はニヤリと笑うと、一方通行の背中に向けて一筋の閃光を放つ。
     『原子崩し』による光線。正確には粒機波形高速砲とよばれるそれが暗い路地を照らしていく。
     一直線に進んでいたその光線は一方通行の身体に当たると、直角に折れ曲がりアスファルトの地面へと突き刺さる。

    「知ってるか? 『樹形図の設計者』によると第三位の『超電磁砲』が逃げに徹しても百八十五手しか耐えらンねェらしい」

     煙の奥から現れたのは、相変わらず面倒そうな顔をした一方通行。
     その手前には、反射された『原子崩し』のビームによる穴がぽっかりと空いている。

     衝撃的だった。
     全く変わることなく立っている一方通行の姿に、麦野は目を見開く。
     見せつけられた能力の差は、言葉では言い表せないほど大きなものだった。

     まさに絶対的。

     正攻法どころか奇襲でもどうにかなるレベルを越えていた。
     『ある程度なら戦える』ではなく、『上手くやれば逃げられる』かどうかも怪しいくらいに。


    95: ◆XtjOmDyc46 2011/02/23(水) 20:00:51.10 ID:tiOfvahqo


    「序列がその一個下、第四位のテメェが、一体何手でアヘ顔晒すことになンのかは興味あるとこだけどよォ」

     一方通行はつまらなそうに溜息をつく。

    「悪ィが時間切れみてェだなァ」

    「ッ!?」

     ガチャガチャと重たい金属音が周囲から響く。

    「実験時以外での」

    「戦闘は」

    「避けてください」

    「計画や計算のズレが」

    「修正可能とは限りません」

    「それに」

    「ミサカのチューニングは」

    「計画に合わせて」

    「施されていますので」

    「日程の修正は困難です」

    「とミサカは警告します」
     
     一方通行と麦野沈利を囲むのは、数十にはいるかであろう同じ姿をした少女。

    「おーおー、お勤め御苦労さン」

     ひらひらと手を振る一方通行は、似合わない銃火器を持った『妹達』の間を抜けていく。


    96: ◆XtjOmDyc46 2011/02/23(水) 20:01:54.39 ID:tiOfvahqo


    「逃げんのかよ」

    「時間切れ、つっただろォが」

    「第一位の名が泣くぞ?」

    「ハッ……勝手に言ってやがれ」

     プチッ、と。
     麦野の中でメーターが振り切れる。
     高ぶった感情に任せ、その足を一方通行に向けて動かした時だった。

     ジャキッ! と周囲を囲んでいた『妹達』の持つ銃口が麦野へと向けられる。
     これ以上動けば、『オモチャの兵隊』と呼ばれるマシンガンが火を吹くことになる、と暗に宣言されているような状況だった。
     レベル5である麦野にとって、レベル3程度の『発電能力者』などそれほどの脅威にはならない。

     ただ、相手が武装した『妹達』となると話は別だ。
     基本的に『防御能力』をもたない『原子崩し』にとって、この状況は最悪とも言える。
     飛んできた銃弾を消し飛ばすことくらいは容易であるが、全方位から雨のように降り注ぐであろうそれを迎撃できるほど器用な能力でもない。
     自らの身体を犠牲にして全力を出せば、『妹達』ごとこの周辺を吹き飛ばすことが出来るかもしれないが、そこまでする状況ではない。

    「チッ………」

     一方通行の追跡を諦めて肩に入った力を抜くと、くるり、と『妹達』に背を向け、麦野は一方通行が去った方向とは逆へと歩いていく。
     それを見取った彼女らは銃口を下げ、周囲の処理に取り掛かっていく。

    (一方通行をレベル6にする事に何の意味があるか、だね)

     麦野はふむ、と頭を悩ませる。

    (「絶対能力者になりました。ハイオメデトー」で済むわけはない)

     何かあるかにゃーん、と、麦野は新しい玩具を与えられた子供のように表情を緩める。
     それとほぼ同時だった。

    「麦野の能力にも動じないとは、流石は第一位と言ったところでしょうか」

     そう言って、感心したような表情をしたニットワンピース少女に続き、金髪ベレー帽少女が現れる。

    「結局、麦野は一方通行に構って欲しかった、って訳よ」 

    「フレンダ……よっぽどオシオキして欲しいのかしら?」

     得意気に笑うフレンダと呼ばれた少女の肩を、麦野はポンと軽い調子で叩く。
     上司が出来の悪い部下にするかのようなその動作は、フレンダと呼ばれた少女の動きを止めるには十分すぎる効果を発揮した。
     麦野の表情は笑顔のように見えるが、明らかに目だけが笑っていない。

    「だいじょうぶ。私はそんな余計な事を言うフレンダも応援してる」 

    「い、いやああああああ!? 応援してないで助けてぇええぇっ」

     ぎゃあぎゃあと争っている場所から少し離れて、ニットワンピースの少女、絹旗最愛は小さく肩をすくめる。

    「ま、超平常運転、ってことですかね」


    103: ◆XtjOmDyc46 2011/02/25(金) 19:09:28.62 ID:p8DvCwaco


    行間  一

    「どーいうことだ、こりゃぁよ」

     いつもと違う雰囲気の研究施設に、男は声を漏らす。
     普段から明るく綺麗な施設とは言えないし、どちらかと言えばジメジメした雰囲気の方が似合うような場所だ。
     だが。

    「オイオイ、冗談じゃ済まされねーぞ。今日は四月一日じゃねェだろーがよ」

     長い白衣が乱れるのも気にせず、男は少しだけ早足で研究施設の奥へと向かう。
     誰もいない。
     何もない。
     残されているのは、運び出せない据え置き型の機材のみ。

    「ったく、泥棒さンにしちゃぁ、随分とスマートじゃねーな」

     片っ端から、という言葉がこれほど似合う状況はないだろう。
     文字通りに全て持っていかれたどころか、自分以外の研究員さえいない。
     少しずつ早くなる足取りにも気づかず、施設の最奥へ向かう。

     この施設の要、被験者たる人物が居るはずの部屋。
     扉を吹き飛ばしかねない勢いで、男は部屋に入る。
     当然のように、誰もいない。

    「ギャハハハ! 傑作じゃねーか。こんなイイ年になってから仲間はずれなんてよぉ」

     ドガァッ! と、男の拳が壁に突き刺さる。
     当然、剥き出しのコンクリートはびくともしない。
     男の右手から、赤い血が落ちる。

     部屋に残されているのは、大きな姿見が一つ。
     使っていたかどうかは分からないが、持ち主の姿は当然映ってはいない。
     そこにいるのは、自分でも驚くぐらいに顔を歪めた男の姿のみ。
     顔の左半分を刺青で覆った、おおよそ研究者には見えない姿だった。

    『機嫌は良くないみたいだな、木原数多』

    「白々しいなァ……やってくれんじゃねーか、学園都市の統括理事長さんはよ」

    『今回のは私の判断ではないさ。統括理事会は五月蝿くてね』

     館内放送から洩れてくる声は、非常にクリアだった。
     電話でもこうはいかない。
     脳内に直接話しかけて来ているのではないかと錯覚するほどだった。


    104: ◆XtjOmDyc46 2011/02/25(金) 19:10:07.11 ID:p8DvCwaco


    「俺はお払い箱ってコトか……」

    『君の能力に関しては高く買っていたつもりだったがね。彼らにとっては少々のんびりとしすぎていたようだな』

     淡々と、興味がなさそうな声で、アレイスターは告げる。
     木原にとってそれは、研究者としての解雇宣告に近いものだった。
     担当していた対象を、横から奪われた。
     それも、とっておきと、至高と言っていいものだった。

    「不満はその早漏ジジィ共にぶつけてもオッケー、ってことでいいのか?」

    『好きにしたまえ。学園都市としての意見は変わることはない』

    「二、三人ぶっ殺してみたら面白いかも知んねぇなァ?」

    『補充ならいくらでもいる。好きにしたまえ』

     先程と全く同じ声で。
     全く同じテンションのままで、アレイスターは言葉を紡ぐ。
     それは、木原の提示した行為が、全くの無駄であると告げていた。

    『まさか君がそこまでアレに入れ込んでいるとは思わなかったがな。噂の木原一族とは随分甘いものだったのか?』

    「あーあー、笑わせてくれなくてもイイんだぜ? 俺はただ『学園都市最強の器』に興味があっただけだってーの」

     ギリッ、と奥歯を噛みしめる。
     それは無心でのことだった。
     木原自身でも意識したわけではない。
     ついやってしまった、というもの。

    『ふむ……アレが君を変えた、ということか』

    「だーかーら、いちいちネタを提供してくれなくても良いって言ってンだろ?」

    『アレを君から遠ざけるのは間違いだったかもしれないな』

    「ハハッ! テメェに言われちゃ世話ねーわ。これも全て『プラン』の内だってことかよ」

     木原は虚空を睨む。
     もちろん、そこに何かがいるわけではない。
     どこでもよかった。
     どこであろうと、アレイスターは確実にこちらの姿を捉えているだろう。

    『心配してくれなくとも委細問題はない。あの「ベクトル演算装置」はこちらで預かる』

    「ケッ………美味しい所だけ持っていくたぁな」

    『君に無事完成した「一方通行」を見せられる事を祈っているとしよう』

     プツン、と回線が切れる。
     無音になった研究施設は、途端に広く暗く感じられた。


    124: ◆XtjOmDyc46 2011/03/03(木) 22:27:38.05 ID:Qa7CywZDo


    第二章  暗転  LEVEL6_SHIFT.




    「おーっす、待たせたな」

     座り込んでいた美琴に、上条が手を振る。
     顔を上げた彼女は、親の仇を見るかのような目で上条を睨んだ。

    「こんの、やっっっっっっっっっっっと来たわね!」

    「のわぁっ!?」

     予定から十五分遅れておきながらも悪びれる様子のない上条を青白い雷光が襲う。

    「テ、テメェ!」

    「うっさい! 遅れてくんならせめて連絡くらい寄越しなさいよ」

    「うっ、それを言われると………と、言いたいところだが、御坂。俺はお前の連絡先、知らねぇんだが……」

    「へ?」

     そう言えば、と美琴は続ける。
     なんだか長い付き合いだが、一度も連絡先を交換しようとしたことはなかった。
     なにかあっても、『今度会った時でいっか』くらいで解決してしまうのだ。

    「連絡しようにも………っとまぁ、こりゃ言い訳だ。待たせて悪かった」

    「あ、うん……」

     上条は両手を目の前で合わせ、美琴に頭を下げる。
     本当は文句の一つや二つ、オマケに電撃でもぶつけてやろうと思っていたのだが、こうも素直に謝られてしまえば美琴としてもそれ以上に責めることが出来ない。

    「じゃぁ、連絡先、交換しとく?」

    「それはちょっと話は別と言いますか………」


    125: ◆XtjOmDyc46 2011/03/03(木) 22:28:09.38 ID:Qa7CywZDo


     ポケットから携帯を取り出そうとする美琴に、上条は複雑そうな顔で視線を逸らす。

    「ほほう? 私と連絡先を交換するのがそんなに嫌だっていうの?」

    「……嫌ってわけじゃねぇんだけどさ」

     煮え切らない上条の態度に、美琴はワザとらしく肩をすくめる。
     もう一年くらいの付き合いにあなるが、絶妙な距離感をとる上条に、美琴は嘆息するしかなかった。

     別に惚れているわけでも、一緒に居たいわけでもない。
     お世辞にも誉められた態度でない自分を受け入れてくれるだけでも感謝はしているが。
     会ったら少し話をする程度。
     たわいもない軽口をたたき合う程度の関係。
     その関係に不満を覚えた事はない。

     だが。

     偶にする他人を煙に巻くような態度が、美琴は好きではなかった。
     なにか隠し事をされているような。
     仲間外れにされているような。
     そんな感覚に襲われると気がある。
     出会いが欲しいとか言っているくせに、妙に人と距離をとる。

    (昔なんかあったとか?) 

     そんな妄想の域を出ない想像が、美琴の脳裏に浮かんでは消えていく。

    「ほら、携帯出しなさい。こんな可愛い女の子と連絡先を交換できるなんてイベント、そうはないわよ?」

    「自分で言うなよ……」

     しぶしぶ、と言った表情で上条はポケットから携帯を取り出す。
     妙に傷が多いのはご愛嬌だろうか。


    126: ◆XtjOmDyc46 2011/03/03(木) 22:28:36.30 ID:Qa7CywZDo


    「交換は良いけど、しょっちゅうメールしてくるとかはナシな」

    「アンタは私にどんなキャラ期待してんのよ」

    「だから、寂しがり屋の動物委員って―――」

     バチィ! という高音で上条の言葉が途切れる。
     右手に宿る『幻想殺し』が美琴から放たれた雷撃の槍を打ち消す。 

     いつもどおり。
     平常運転すぎて、もはやテンプレートとなりつつあるやり取り。
     だが。

    「あ……」

    「あ、あ、ああああああああああああああっ!?」

     上条の右手に握られていた携帯は、ぷすぷすと煙を上げている。
     二人の視線を浴びる中、黒く焦げたそれはうんともすんとも、反応する様子はない。
     片や気まずそうな顔で持ち主の顔を窺い、片や涙目で炭化した相棒を見つめる。

    「ごめん」

    「ふ、不幸だ」

     がっくし、と顔を俯ける上条の肩を、美琴は恐る恐る叩く。
     彼は無表情のままポロポロと涙を流していた。

    「べ、弁償するから……ね?」

    「うううううう」

     取りあえず携帯ショップよね、と言って美琴は上条の腕を引いていく。
     それに抵抗も出来ないまま、上条は引きずられていった。


    127: ◆XtjOmDyc46 2011/03/03(木) 22:29:05.70 ID:Qa7CywZDo


    「な、なんなら通話料も私が払ってあげるから……って、聞いてる?」

    「………それは流石に」

     鼻をすすりながら、上条が顔を上げる。
     その目に浮かんでいた涙を拭き、彼は笑ってみせる。

    「こうなっちまったもんは仕方ねぇから良いんだけどな……」

    「……ごめん」

    「俺で良かった、ってコトにしとこうぜ? 身体の方はいたって無事だし」

    「そう、だけどさ」

     納得しきれないような美琴の頭を、上条はわしゃわしゃと撫でる。
     さらさらの髪は、手で触れていても気持ちのいいものだった。

    「ま、とりあえずコレじゃぁ話になんねぇしな……携帯見に行くか」

     ぽん、と彼女の頭を軽く叩き、上条は歩きだす。

    「ちょ、ちょっと待ちなさいって」

    「はぐれないように、しっかりついてこいよ」

    「子供扱いすんなッ!」

     二人の足は携帯電話のサービス店へと進んでいく。
     


    128: ◆XtjOmDyc46 2011/03/03(木) 22:29:33.08 ID:Qa7CywZDo


      ◆   ◇   ◆   ◇


     一時間もかからなかった。
     上条の手にはしっかりと新しい携帯が握られている。

    「いやー、ちゃんとバックアップしておいた昔の上条さんを誉めてあげたい気分ですよ」

     携帯自体に保存してあったデータは吹き飛んでいたものの、万が一を思ってセンターに預けておいたことが幸いした。 
     写真やメールなどのデータはどうしようもなかったが、最低限の電話番号やメールアドレスが復旧できただけでもマシと言えるだろう。

    「いちいち全員に連絡先を聞くとか馬鹿みたいなことしたくねーしな」

    「分かる分かる。結構面倒よね、あれ」

     図らずもボロボロだった携帯が最新機種になった事を内心で喜びつつ、上条はそっと鞄へとそれを戻す。
     現状、二人はアテもなく歩いている。
     美琴が少し申し訳なさそうな顔をしているくらいで、交わす会話も何となくの下らないものだった。

    「そうは言っても、あんまり連絡先とか多い方じゃねぇからマシだとは思うけど」

    「私も多くはないなぁ……黒子とかは大変みたいだけどね」

     相槌を打つようにして、上条の言葉を受ける。
     上条はともかくとして、美琴はあまり友人が多い方ではない。

    「白井か……風紀委員だもんな」

    「そ、あちこちの支部とか関わった施設の人とか、交換しておくらしいわよ? 使うかどうか分かりませんのに、ってボヤいてた」

    「ふーん」

    「情報化社会、とか言って便利にはなったけど、それで――――――っ!?」


    129: ◆XtjOmDyc46 2011/03/03(木) 22:30:02.03 ID:Qa7CywZDo


     突然の出来事だった。
     上条の隣で談笑していた美琴が、その足を止める。
     血の気が引いたように真っ青にした顔で、彼女は顔を道の先へと向ける。
     それは明らかに異常だった。
     上条の目の前にいる美琴は、今までに見たことのない表情をしていた。

    「おい………御坂?」

    「ごめん、ちょっと静かにして」

     信じられないものを見たような。
     それでいて、それを信じきれていないような。
     否定していたいような。
     心の奥底で、無視しようとしていたことが、目の前で行われているような。
     そんな、表情。

    「そんな……まさか………」

     美琴が、一歩後ずさる。
     その視線は、ただ前方へと固定されていた。

    「どうしたんだよ」

     その視線を追うように、上条も前方に目を向ける。
     そこに居たのは


    130: ◆XtjOmDyc46 2011/03/03(木) 22:30:27.70 ID:Qa7CywZDo








    「………お姉様、ですか」







    131: ◆XtjOmDyc46 2011/03/03(木) 22:30:56.03 ID:Qa7CywZDo


     御坂美琴だった。
     肩まである茶色の髪。
     サマーセーターにプリーツスカートという常盤台指定の制服。

    (はぁ!?)

     一瞬、上条は自らの目を疑った。
     疲れているのだと。夢でも見ているのだと。そう思った。
     何度瞬きをしても、何度目を擦っても、頭のてっぺんからつま先まで完全完璧なる『御坂美琴』が目の前に居る。
     鏡でもあるのかとも思った。
     狐に化かされているのではないかとさえ思った。

    (ドッキリ大作戦、とかじゃねぇよな……)

     ちらりと隣の美琴へと視線を向ける。
     相変わらずの青い顔で、唾を飲む彼女の横顔は、とてもじゃないが演技であるとは思えない。 

    (『おねえさま』って言ったよな………)

     もう一度、目の前の少女を見る。
     やはり何度見ても、彼女は美琴にしか見えなかった。
     額に軍用のイカツイ暗視ゴーグルを装備していたり、何の色も示していない表情くらいしか、違いはなかった。

     ここが能力者の街である以上、『肉体変化』の能力者である事も可能性としてはもあり得る。
     だが、彼らはそんな不可思議都市にも僅か三人しかいない。こうもピンポイントでぶつかることは確率的にいっても、まず有り得ないだろう。

    (だとしたら……)

     考えられるのは、あと一つ。

    「おい、御坂……お前、双子だったのか?」

     上条の問いかけに、美琴は応えない。
     真っ直ぐに、目の前に現れた『自分自身』を睨んでいる。

    「アンタ……何者なの?」

    「ミサカの名前はミサカですが………」

     何を当り前の事を聞くのか、とでも言いたげだった。
     彼女の顔色からは何も読み取れない。
     フラットすぎるほどフラットなその表情は、まるで感情のない人形のようでもあった。


    132: ◆XtjOmDyc46 2011/03/03(木) 22:31:28.98 ID:Qa7CywZDo


    「強いて言うならば、妹……でしょうか、とミサカはお姉様の問いに答えます」

     単調に、そう告げる。
     仕事熱心な秘書の業務連絡でも、もう少し感情がこもっているだろう。
     まるで機械のような、無感情な声。
     かと言って、機械のような無機質な音声ではない。人間の、肉声。
     上条はそのギャップに痛烈な違和感を感じていた。

    「妹、って………おい、御坂? 生き別れの双子とか、そんな昼ドラ的ドロドロ展開に発展したりしねぇだろうな?」

    「………昼ドラくらいで済んだら良かったかもね」

    「は?」

     上条の問いかけに答えるように、美琴の口から言葉が漏れる。
     蚊の鳴くような声で放たれたその言葉は、上条の耳に届く前に霧散する。

    「ゴメン……今日はこのまま帰って」

    「お、おい」

    「ちょろっと、『妹』と話ししたいからさ」

    「御坂………」

     思いつめたような彼女の表情に、上条は固まる。

    「お願い。今は何も聞かないで」

     そこまでいうと、彼女は上条に背を向けて『妹』の方へと歩いていく。
     『ちょっとおいで』とだけ言い、強引に彼女は自分とそっくりな少女を引っ張って行った。

    「………………」

     何も出来なかった。
     何も言えなかった。

    (なんなんだよ、一体)

     何が起こっているのかも飲み込めないまま、上条は二人の背中を見送った。


    139: ◆XtjOmDyc46 2011/03/08(火) 20:16:32.04 ID:hplLs8wro




     人通りの少ない道を美琴は慎重に歩く。
     隣を歩いているのは、自分とそっくりな少女。
     いや、そっくりでは物足りない。
     瓜二つでもまだ足りないくらいだ。

    (この辺なら大丈夫かな)

     近くを通る人は見当たらない。
     ぐるり、と周囲を確認したところで美琴は少女から手を放し、その無感情な顔を真正面から睨みつけた。

    「アンタ、私の―――」

     言葉が出てこなかった。
     信じたくなかった。
     頭の片隅に、心の端っこに引っかかっていた噂を。


    140: ◆XtjOmDyc46 2011/03/08(火) 20:17:09.89 ID:hplLs8wro




    『レベル5のクローンが製造されてるらしいぜ』



    『あぁ、正式に軍事採用されるとか』



    『第三位の「超電磁砲」のDNA使ってるらしいよ』



    『さっき街で御坂さんを見かけた、って……』



    141: ◆XtjOmDyc46 2011/03/08(火) 20:17:45.94 ID:hplLs8wro


    「お姉様が何処まで知っているかは分かりませんが」

     喋れなくなった美琴に代わるようにして、無表情の少女が口を開く。
     淡々と抑揚のない声が、美琴の耳へと届く。

    「ミサカはお姉様の……『超電磁砲』の体細胞クローン、『妹達』ですよ、とミサカは素直に白状します」

    「っ!?」

     美琴の顔が苦痛に歪む。
     自分そっくりの少女自身から放たれてしまった言葉。
     それは『噂』が『真実』である事を、何よりも確実に証明していた。
     証拠も、証言も、全てが目の前に揃っていた。

    「な、なんで……」

    「実験に参加する為、としか答えようがありません」

    「実験って、人間のクローンなんか使って……何をしようとしてんのよ?」

     美琴は少女の胸ぐらをつかむ。
     ガクガクと震える膝に精一杯の力を入れる。
     気を抜くと崩れ落ちてしまいそうだった。

     この先に、目の前の少女の、自分のクローンの言う言葉に、希望があるとは思えない。
     どのような言葉が紡がれようとも。
     それが如何に綺麗な話であっても。

    「クローン技術なんか使ってまで、レベル5を量産するなんて……馬鹿げてるわよ」

    「いいえ、そうではありません。ミサカの能力はせいぜいレベル2程です、とミサカはお姉様の足元にも及ばない事を告白します」

     レベル2といえば、日常生活で役に立つか否かとされる程度の力。
     当然、レベル5たる『超電磁砲』とは雲泥の差がある。
     オリジナルの1%にも満たない、完全なる劣化版でしかない。


    142: ◆XtjOmDyc46 2011/03/08(火) 20:18:36.54 ID:hplLs8wro


    「レベル2って……異能力者程度じゃ、商品価値も実験対象にする価値も殆どないわよね? コストが合わないんじゃ……」

    「はい。現に『量産能力者計画』は凍結されました、とミサカは報告します」

     ぞっと、美琴は背中に冷たいものを感じた。
     計画の凍結、つまり、クローンの製造は中止されてなければいけないはずだった。
     ならば―――

    (なんで、そんなヤツが目の前にいるのよ)

    「その顔から察するに、お姉様は実験の関係者ではないようですね、とミサカは判断します」

    「…………!?」

    「念のため符丁の確認を行います」

     何のことかも分かっていない美琴を無視し、ミサカは続ける。

    「ZXC741ASD852QWE963'」

    「………」

    「この符丁を解読できない時点で実験の関係者ではないとみなします。これ以上はお答えできません、とミサカは口を閉ざします」

     あくまで淡々と。それも作業の、実験の一環であるかのように告げる。

    「だから、実験て何なのよ?」

    「禁則事項です」

    「首謀者は?」

    「禁則事項です、とミサカは繰り返します」

     ミサカの表情は全く変わらない。
     美琴の質問に対してなんの動揺も見せない。


    143: ◆XtjOmDyc46 2011/03/08(火) 20:19:11.49 ID:hplLs8wro


    (………これはなかなか強敵ね)

     相手が少しでも人間的な反応を示してくれていれば、付け入る隙があるかもしれない。

    (それなら―――)

     掴んだ胸ぐらを引き寄せる。
     額と額がぶつかりそうなくらいの距離。
     焦点の合わない、何も映していないような瞳の奥から少しでも何かを探るように、美琴は睨みつける。

    「…………」

    「はぁ………力づくでも、って言いたいところだけど」

     大きく溜息をつき、彼女はその手から力を抜いた。
     ミサカは、美琴から逃げようとすらしない。

    「仕方ない、か」

     美琴は手をひらひらとさせる。
     ミサカに、どこか行けとでも言うように。

    「悪いけど、後ろつけさせてもらうわ。………どうせ、アンタは研究施設に帰るんだろうし、そこに首謀者なり制作者なりいるでしょう?」

     ミサカは何も答えなかった。
     言葉でも、態度でも、表情でも、何の反応すら示さなかった。
     言外に好きにしろと言わんばかりの態度だった。
     もしかすると『追跡を拒否する』ことは指示されていないのかもしれない。

    (まさか、とは思ってたけどね……)

     前を歩く背中を見る。
     目の前に本物が現れでもしなかったら、信じることなんて出来なかっただろう。
     現に、見て会話まで交わした今でも半信半疑なくらいだ。


    144: ◆XtjOmDyc46 2011/03/08(火) 20:19:59.23 ID:hplLs8wro


    (『妹達』か……)

     噂にすぎないと、下らない都市伝説だと思っていた。
     いや、思おうとしていた。
     気にしないフリをしていた。

    (もっと恐ろしいもんかとも思ってたんだけどね)

     溜息を一つ。

     ぼーっと、能天気に歩く自分のクローンを見て、美琴は脱力するしかなかった。
     本物と入れ替わるとか、潜入捜査をするとか、はたまた人間関係をぶち壊すとか。
     美琴は、そんな黒いイメージを持っていた。
     漫画の読み過ぎだと笑われるかもしれない。
     だが、『自らのクローンが存在するかもしれない』という時点で、十二分に漫画的な話だ。

    (拍子抜け、とは言わないけど)

     なんだかな、と思う。
     本来なら二、三日寝込んでもおかしくないレベルの出来事だというのに。
     もっとショックを受ける事であるはずなのに。
     前を歩くミサカは、キョロキョロと色んなものに気を取られてはフラフラしているように見える。
     まるで邪気のない幼稚園児のようだ。

    「…………?」

     これでは必要以上に警戒していた自分が馬鹿みたいじゃないか、と思っていた頃だった。
     不意に、ミサカが立ち止まる。

    「お姉様」

    「んっ!?」

     くるり、と振り返ったミサカはその手を自分のお腹へと手を伸ばす。


    145: ◆XtjOmDyc46 2011/03/08(火) 20:20:59.26 ID:hplLs8wro


    「お腹がすきました、とミサカは空腹を宣言します」

    「はぁ?」

    「空腹でこれ以上動けません、とミサカは少々オーバー気味に表現します」

    「それを私に言ってどうするのよ?」

    「ですがミサカはお金を全く持っていません、とミサカは無一文であることをアピールします」

     ミサカはそう言うと、ポケットをひっくり返してみせる。
     埃一つ落ちないところを見ると、研究者からは何一つ与えられてはいないのだろう。
     真っ直ぐに、無感情な視線が美琴を捉えて離さない。

    「ハンバーガーの注文方法ならば完璧です、とミサカは遠まわしに食べたい事を伝えます」

    「じゃぁ、その代わり………」

     と、言いかけたところで止まる。
     ハンバーガーの代わりに実験について白状しろ。
     なんとも間抜けな話だ、と美琴は思う。
     十中八九どころか、100%、彼女がそれを吐くとは思えない。
     もし、そんな簡単に買収されたとしたら、それこそ笑い話にもならない。

    (ホント……調子狂うわ)

     やれやれ、と肩をすくめる。

    「ここはお姉様が奢ってあげるわよ……ついてきなさい」

     少しだけ口角が上がってしまうのを不思議に感じながら、美琴はミサカに告げる。
     偶然か否かは知らないが、行きつけのバーガーショップはすぐそこだ。

    「買収はされませんよ、とミサカは予め釘を打ちます」

    「そんなつもりじゃないわよ」

     安心しなさい、と付け足す。
     ミサカは一瞬だけ逡巡したような態度をとると、小さく頷いた。


    146: ◆XtjOmDyc46 2011/03/08(火) 20:22:05.50 ID:hplLs8wro


    「これは……もぎゅもぎゅ……なかなか………もぎゅもぎゅ…美味しいですね……もぎゅ」
    「口の中にもの入れて喋んな」

     口いっぱいにハンバーガーを頬張るミサカの頭を軽く小突く。
     ただでさえ他の客の注目を集めているのだから、少しばかり自重して欲しい。
     美琴は周りから飛んでくる好奇の目にそわそわとしながら、手元のポテトを口に運ぶ。

    (それにしても―――)

     美琴とミサカが挟むテーブルには、ハンバーガーやポテト、ナゲットと食べ物がいっぱいに広がっている。
     見ているだけでお腹が膨れそうな光景にも動じず、ミサカはそれらを勢いよく食べていく。

    「アンタ……食いしん坊キャラなわけ?」

     正に一心不乱に食べるミサカは見ていて圧倒されるくらいだった。

    「いいえ………」

     一瞬だけ、ミサカが食べるのをやめ、美琴の方へと視線を向ける。
     ごくり、という喉を動かす音が聞こえる。

    「ミサカが……この個体が特別にそのようなチューニングを施されているわけではありません、とミサカは説明します」

     目を伏せ、テーブルに広がった食べ物に視線を滑らせてく。

    「施設での栄養補給は点滴やサプリメントによるものでしたので、単純に『食べる』という行為に興味があるのです、とミサカは説明を続けます」

    「………なら、もっと美味しいもの食べたいとか言った方が良かったんじゃないの?」

    「かもしれません。ですが―――」

     ミサカは手に持った食べかけのハンバーガーをに視線を固定する。
     業界の中では安さを売りにしているお店ではないものの、ジャンクフードである事には変わりない。
     世の中にもっと美味しいものがある事も知ってはいた。


    147: ◆XtjOmDyc46 2011/03/08(火) 20:24:16.98 ID:hplLs8wro


    「外の世界で初めて見たものが、これを食べる学生でしたので、とミサカは思い出を語ります」

    「そっか………なら、存分にお食べ。美琴お姉様直々の奢りなんて、滅多に出るもんじゃないわよ?」

    「お姉様も……」

     言おうかどうか躊躇うような表情。
     普段と殆ど変わらない、どこが違うかと言えば、変化などないだろう。
     ただ、少なくとも美琴にはそう見えた。

    「お姉様もご一緒に」

    「? そんな気を使わなくても良いわよ。私はそんなにお腹減ってないし、また来ればいいだけの話だしさ」

    「そうではなく……誰かと一緒に食事をする、というのがミサカの夢でもありました、とミサカは告白します」

     無表情なまま、ミサカはそう呟く。

    「まさかお姉様とそれが実践できるとは思いませんでしたが」

    「…………そ、じゃぁ遠慮なく」

     美琴は手近にあったハンバーガーを手に取る。
     食べ慣れた、いつものハンバーガーだ。

    (………コイツが一体何なのかも分かんないし、クローンを認めるなんて事も出来ない……ましてや、妹なんて)

     『妹達』とは、ふざけた名前だと思う。
     少し大きめのハンバーガーを頬張る。
     口いっぱいに広がるのは、ケチャップやソースの大雑把な味だ。
     だが、今日は少しだけ。

    (これが、コイツのいう『誰かとの食事』ってやつかしらね)

     少しだけ、美味しく感じられたような気がした。


    148: ◆XtjOmDyc46 2011/03/08(火) 20:26:10.75 ID:hplLs8wro


     日もとっぷりと暮れ、照明に照らされたベンチに、見た目そっくりの少女が二人腰掛けている。
     妙に艶やかになったミサカの隣で、美琴はうだーっと背もたれに身体を預けている。

    「疲れた」

    「すっかり夜になってしまいましたね」

    「帰っていくとこまでついてって、作った奴らボッコボコにしてやろうと思ってたんだけど。アンタ、一体いつになったら帰んのよ?」

    「それについてなのですが……ミサカは今日は帰りませんよ」

     さも今、思いだしたかのように、少しだけ上を向いてミサカが答える。
     その様子は『そう言えば』と言う言葉が似合いそうな仕草だったが、表情は普段通りのフラット過ぎるものだ。

    「はぁ?」

    「ですから、お姉様がミサカについてきたとしても、ミサカの製造者には会えません」

    「……もっと早く言って欲しかったわね」

     はぁ、と大きく溜息をつく。
     どこぞのツンツン頭の高校生ならば、『不幸だぁぁぁぁ!』とでも言っただろうか。

    「お姉様にご迷惑をおかけしたことは素直に謝罪します」

    「まぁ、謝られるほどの事じゃないけど、そういう大事なことは初めに言って欲しかったわよね……まぁ、私が勝手にしたことだしアンタが悪いわけじゃないんだけどさ」

     美琴は苦笑いを浮かべ、頭をかく。
     無駄足、とは言わないがまさかこんなどんでん返しがあるとは、と言ったところだろうか。

    「ですが―――」

     美琴がミサカの顔を見ると、そこには少しだけ不安そうな表情をした彼女がいた。


    149: ◆XtjOmDyc46 2011/03/08(火) 20:28:29.43 ID:hplLs8wro


    「他の人と、今回はお姉様とだったわけですが、何かを共有できたことは嬉しく思いました、とミサカは思い出を胸に秘めます」

    「な、何言ってんのよ……」

     彼女の放った言葉は、あまりに真っ直ぐすぎた。

    (これじゃ私が悪者みたいじゃない……)

     目の前に居るのは自分の体細胞から生まれたクローンだ。
     倫理的にも法的にもタブーとされている、存在自体が禁忌の物体。
     人間ではない、造りもの。


     ――――――だったはずだった。


     お姉様、と呼ばれたから気を許したわけじゃない。
     妙に図々しかったりするところが、憎めなかったわけじゃない。
     たまに良い事を言うからって、情にほだされたわけじゃない。
     それなのに。

    (どうして……)

     独特な、別の時間軸で生きているのではないかと思うほどの彼女のペースに巻きこまれたせいか。
     思っていたよりも呑気なクローンだったせいか。

    (これじゃぁ……本当に姉妹みたいじゃない)

     ブンブンと、美琴は首を振る。
     このまま一緒に居れば、『本当に』そう思えるかもしれない。
     それがいい事か悪い事かは分からなかった。
     だが、美琴にはそれが受け入れられなかった。
     クローンといえども命がある。
     あまり表現できてはいないが、感情も心もあるらしい。
     それは分かる。
     だが、そう簡単に『はい、そうですか。仲良くしましょうね』と割り切れるほど、単純な問題でもない。


    150: ◆XtjOmDyc46 2011/03/08(火) 20:30:28.36 ID:hplLs8wro


    (だけど……)

    「また、ね」

     小さくこぼす。
     ささやかな抵抗だった。納得できない自分への、ほんの少しの抗い。

    「………さようなら、お姉様」

    「さようなら、って……また会うかもしれないでしょ?」

    「………………」

    「今度会ったときは、もうちょっと良い物奢ったげる」

     目の前にいる『自分』に、笑ってみせる。
     力ない笑顔だった。
     無理矢理な笑みだった。
     自分のクローンというモノの存在。
     納得はできない。理解も出来ない。妥協も出来ない。
     それでも、どこか放っておけないような、そんな気分だった。

    「今までの事を鑑みるに、お姉様とミサカが再会する可能性は低いと思われますが?」

    「こういうときは、『またね』って言っとくもんなのよ」

     こんなのが自分のクローンなのか、と思うと少し複雑な気分にはなる。
     性格や人格は成長環境にあるとはいえ、もう少しどうにかならなかったのかと。

    「あ、そうだ……」

     茫然としているミサカのサマーセーターの裾を引っ張り、ポケットに入れっぱなしだったバッチをそこへあしらう。

    「何をされてるんですか?」

    「プレゼントよプレゼント……よし!」

     美琴は数歩後ろへと下がり、彼女の全身を見る。


    151: ◆XtjOmDyc46 2011/03/08(火) 20:33:47.27 ID:hplLs8wro


    「うん、思ったより悪くないんじゃない?」

     ふふん、と満足気に笑う。客観的に見れる分、鏡よりもいい見本になっていた。

    「……まさかお姉様がこれほどのお子様センスだったとは、とミサカは嘆息します」

    「んなっ!?」

    「プレゼントは嬉しいですが、もう少しミサカの好みに配慮したものが良かったです、とミサカは本音を飲み込みます」

    「飲み込めてないわよ! 思いっきり口から出てんじゃないっ!」

     溜息をつくミサカに噛みつきかけたところで、美琴はハッとしたように止まる。
     複雑そうに表情をコロコロと変化させた後、諦めたように脱力した。

    (なにやってんだろ……)

     本当に、何をやってるのだろうか。
     何を考えてるのだろうか。
     自分でも何がしたいか、何をすればいいのか分からなくなりそうだった。

    「もういいわ……行きなさい」

     美琴は溜息をつくと、ミサカへと手を振る。
     『どうしたのだろう?』と、他人事のように首を傾げているミサカに背を向ける。

    「お姉様、このバッチは?」

    「プレゼント、っつったでしょ? 今度会う時に失くしたとか言ったら怒るからね」

     美琴は振り返らない。
     そのまま、駆けるようにしてミサカから離れていく。

    「…………」

     ミサカはセーターに付けられた缶バッチに触れる。
     ただのアルミであり、ひんやりとしているだけのはずだった。

    「プレゼントですか」

     走り去っていく美琴の背を視線で追いかける。
     『妹達』の素体となったオリジナル。

    「ミサカもまたお姉様に会いたいと思います、とミサカは叶わないであろう夢を抱き、実験へと向かいます」

     くるり、と踵を返し、美琴とは逆方向へと進んでいく。

    「少し急がなくてはいけないようですね、とミサカ9982号は装備の回収へと向かいます」

     進んでいく。引き返すことのできない、実験に向けて。


    160: ◆XtjOmDyc46 2011/03/18(金) 16:57:09.18 ID:Cbu5Hl4Uo




     美琴と追い出され気味な別れをした後、上条は後ろ髪を引かれながら寮の部屋に戻った。

    「なんだったんだろうな」

     せっかく補習もないんだしお昼寝、と言いたいところだったが、頭に浮かぶのは、二人の少女のことばかり。
     寝るに寝れぬ気分にもならず、上条はベッドの上で転がっていた。
     突如、目の前に現れたもう一人の『御坂美琴』。
     今まで上条が知っていた美琴とはどこか雰囲気の違うもう一人の美琴。

    「お姉様とか妹とか言ってたけど……」

     信じていいものか、と上条は足を止める。
     美琴から妹がいると、しかもそれが双子だという話は聞いていない。
     わざわざ上条に話すことではない、と言われればそうかもしれないが、それにしたっておかしい。

    (同じ常盤台の制服だったよな……)

     常盤台の学生に聞いてみるのが一番早い。
     だが、平凡学生に過ぎない上条に、そんな素敵お嬢様な知り合いがいるわけもない。
     外に出て探すにしても、常盤台の学生は基本的に学舎の園の中にいることが多く、そうそう見かける事もないのだが。

    (白井の連絡先が分かれば早いんだが)

     生憎、彼女とは携帯の番号は交換していない。
     美琴に『何も聞かないで』と言われた手前、詮索するのも無粋だとは思う。
     だが、美琴の異常な反応から考えても、何かを隠している事は確かだった。
     その『何か』が複雑な家庭環境の問題であったのなら、上条の立ち入る隙はない。
     むしろ関わってはいけない、プライベートな部分だ。

    (でも……そんな感じじゃなかったしな)

     美琴の態度を思い出す。
     美琴がもう一人の美琴に対して示した態度は、強気で威圧するようなものだった。
     外敵に対する獣のような、威嚇に近いもの。
     ただそれは、虚勢のようにもに見えた。
     『強気で威圧的な美琴』から追い回されていた経験から考えてのことだ。
     勘と言われればそうかもしれない。
     根拠があるかと言われれば何もない。
     強いて言うならば、上条自身の経験則でしかない。


    161: ◆XtjOmDyc46 2011/03/18(金) 16:58:04.52 ID:Cbu5Hl4Uo


    「そういや、白井は風紀委員だったっけ」

     携帯を取り出し、風紀委員の支部を検索する。
     意外と簡単に見つかった支部のリストには、支部の場所と連絡先、所属生徒の名前が書かれていた。
     第七学区の中にあるとは分かってはいるが、それでも支部は山ほどある。
     その中から白井の名前を探し出すには苦労したが、どうにか電話番号を入手する。
     一瞬の躊躇いの後、上条は通話ボタンを押した。
     誰が取ってくれるかも分からない上、そもそも白井がその場にいるかどうかも不明だが上条にはそれ以外に手段がなかった。

    『はい、こちら風紀委員第一七七支部ですが……』

     数回のコール音の後、すこし緊張したような声が返ってくる。

    「あ、すいません。白井……さん、はそこにいますか?」

    『白井さんですか? ちょっと待ってくださいね』

     電話の向こうの人は飴玉を転がすような声でそう言うと、『白井さーん、男の人から電話ですよー』という何か間違ったような事を叫んでいる。
     『白井さん、私用の電話なら携帯でやってね』とか、『初春……貴女、わたくしで遊ぶとはいい度胸ですわね』とか、なんだか気の滅入る話が聞こえてくる。

    『代わりました、白井です』

    「あ、急に悪いな。ちょっと聞きたいことがあるんだが」

    『わたくし、お名前をまだ聞いてませんわよ』

    「っと、そうか。上条、だけど……」

     そこまで言った時だった。
     電話の向こうから『上条ッ!? お姉様となにやらされているあの方ですの?』という怒号にも似た声が飛んでくる。
     キィィィン! という耳鳴りのような痛みが上条の右耳を襲い、慌てて携帯を耳から離す。


    162: ◆XtjOmDyc46 2011/03/18(金) 16:58:42.73 ID:Cbu5Hl4Uo


    『わたくしに何の用ですの? お姉様の居場所なら例え存じ上げていても教えることはできませんの』

    「それは関係なくてだな……御坂の家族構成って分かるか?」

    『お姉様のご家族? 確かご両親との三人家族だったかと。お父様は単身赴任でなかなか会えないと仰っていましたの』

     白井は『どうしてそう言う事を聞くのか』というような不思議そうな口調ではあったが、素直に教えてくれた。

    (一人っ子、ってことだよな……)

     それが真実か否かは分からないが、この場面で嘘をつく理由も意味もないだろう。
     少なくとも『常盤台中学に在籍する妹』はいないことになる。

    「そ、そうか。ありがとな」

    『いえいえ……ですが、何故そんな事を? お姉様本人にお聞きになれば早いと思うのですが?』

    「いや、な、なんていうかだな……」

     しどろもどろになってしまう。
     白井の言うことはもっともだ。
     美琴の家族構成をわざわざ風紀委員の支部に電話してまで白井に尋ねることはない。

    『まさか……ご両親にご挨拶して外堀から埋めていこうという作戦!?』

    「はぁ?」

    『そんな事はさせませんの! お姉様の露払いとして絶対に阻止させて頂きますわ』

    「いや……切るからな?」

    『今、何処にいらっしゃ――』


    163: ◆XtjOmDyc46 2011/03/18(金) 16:59:19.98 ID:Cbu5Hl4Uo


     白井の言葉を聞き終わらないうちに、上条は通話を終わらせる。
     次に会った時が面倒かもしれないが、今は考えないでおく。

    (と、なると……どういうことだ?)

     まさに振り出しに戻る、だった。
     少なくとも、美琴には常盤台中学に在籍している妹はいない。
     だったら、先程現れたもう一人の美琴は一体誰なのだろうか。

    「………直接、聞いてみるしかねぇか?」

     ぼそり、と呟く。
     二人の美琴が何処にいるかは分からない。
     まだ一緒にいるのかも分からない。

    (さっき連絡先を交換しそびれたのは痛かったな)

     役に立たない携帯をポケットにしまう。
     美琴を探そうと、ベッドから身体を起こしたところで、上条はふと動きを止める。
     ここから先は興味本位で踏み込む事を許される話じゃない。

    「でも……」

     思いつめたような美琴の横顔を思い出し、上条は部屋を飛び出した。

    (あの顔させたまま、放っておいちゃダメだろ)

     彼女の相談役になれるとは言わない。
     彼女の隣に立てるとも言わない。
     ただ、彼女の居場所を作ってやるくらいはしたかった。


    164: ◆XtjOmDyc46 2011/03/18(金) 16:59:49.63 ID:Cbu5Hl4Uo


    ◆  ◇  ◆  ◇


    (ったく、何やってんのよ、私は)

     美琴は暗い街を走っていた。
     門限を気にして寮へと走っているわけでもなければ、何かを追いかけているわけでもない。
     探している物は公衆電話。
     携帯電話が普及しきった環境では滅多に見ることの無くなったそれは、意外と見つからない。
     十数分走った後、美琴は一つの電話ボックスを発見する。
     携帯の充電が切れたのだろうか、中には電話しているスーツ姿の男がおり、使うには順番を待たなくてはいけないらしい。

    (あった……ある場所くらい覚えておくべきかな)

     荒れた息を整え、美琴は電話ボックスの外で携帯を開く。
     電話をかける相手は初春飾利。

    「あ、もしもし、初春さん?」

    『こんばんはー』

     電話の向こうから初春以外の声が聞こえてくる。
     その中には見知ったルームメイトの声も混ざっていた。

    「あれ、黒子もいるって事は、まだ支部の方?」

    『そうなんですよ。ちょっと書類が片付いてなくてですね』

     残業です、と哀しそうな声が返ってくる。

    「ゴメン、忙しい中悪いんだけどさ、『ZXC741ASD852QWE963'』って、何のことか分かる?」

    『ふぇ? 何かの暗号ですか?』


    165: ◆XtjOmDyc46 2011/03/18(金) 17:00:31.00 ID:Cbu5Hl4Uo


    「符丁らしいんだけど、解析できるかしら?」

    『ちょっとやってみますね。もう一回さっきの符丁言ってもらえますか?』

     美琴の言葉に合わせるようにして、キーが叩かれていく。
     それから、数分、電話越しに初春の鼻唄を堪能する。

    『あ、ありましたよ。えっと、企業の機密情報、みたいですね……』

     これ以上はちょっと、と躊躇いがちな声を電話越しに聞く。
     こっから先の行為は調査でなく、ハッキング。
     風紀委員と言えど、さすがに越権行為だ。

    「なるほど、ありがと。分かった分だけ資料ってもらえる?」

    『え、あんまりやると始末書ものなんですけど……』

    「今度、好きなだけ甘いもの奢るわ」

    『御坂さんの端末に送ればいいですね?』

     あっさりと陥落した初春に『ひ、秘密ですからね!』と念を押されつつ、送られてきたデータに目を通す。
     データと言っても、関連施設の前くらいしかないものだったが。

    (こっから先は自力で何とかするしかないわよね)

     電話ボックスから出てきたすらっとしたスーツの男と会釈を交わし、狭いボックスの中へと飛び込む。
     持っていたPDAのコネクタを電話横に接続し、大きく息を吸う。
     電話をかけるわけではない。
     携帯を持っているのだから、そもそもそんな事をする必要はない。
     目をつぶり、自らの能力を行使する。
     『自分だけの現実』による電子制御。
     その力で件の施設のセキュリティを軽々と突破していく。


    166: ◆XtjOmDyc46 2011/03/18(金) 17:01:09.62 ID:Cbu5Hl4Uo


    (これ、かっ……)

     セキュリティの最深部。企業秘密以上のトップシークレットまで潜った先にあった目的のファイル。
     美琴はそれを足跡を残さないように、出来るだけ丁寧にダウンロードする。

    「―――っぷは」

     潜水から浮き上がったときのように、詰まりかけた息を解放する。
     PDAのコネクタを抜き、ダウンロードしたファイルを開く。
     無理矢理に習得したせいか、資料としては中途半端な部分で切れてしまっているようだった。

    「『絶対能力進化実験』?」

     資料が表示された画面をスクロールしていく。
     実験の目的や内容が記されたそれは、美琴に『最悪の事実』を告げる。

    「何よこれ……」

     驚愕させ、恐怖させ、狂心させる。


    167: ◆XtjOmDyc46 2011/03/18(金) 17:01:36.92 ID:Cbu5Hl4Uo




    ―――『樹形図の設計者』による予測演算により、唯一『絶対能力者』への進化が可能とされた超能力者『一方通行』を被験者とする。―――


    ―――同演算により導き出された手法は二通り。―――


    ―――そのうちの一方である『二百五十年法』については一旦保留とし、もう一方である『実践による能力の成長促進』を採用するものとする。―――


    ―――これは特定の戦場を用意し、シナリオ通りに戦闘を進めることで成長を管理するものである。―――


    ―――再度『樹形図の設計者』に予測演算をさせたところ、『一方通行』は『超電磁砲』を百二十八回殺害することで絶対能力者へと進化することが判明。―――


    ―――これに関して『超電磁砲』を複数用意することは不可能である為、以前に開発が進められていた『妹達』を流用することにする。―――


    ―――『超電磁砲』とのスペック差は武装や大量投入により埋めるものとする。―――


    ―――二万通りの戦闘シナリオと二万体の『妹達』を用意することで、『絶対能力者進化計画』とする。―――



    168: ◆XtjOmDyc46 2011/03/18(金) 17:02:04.70 ID:Cbu5Hl4Uo


    「わ、悪ふざけにも程があるわよ………」

     冗談にしても笑えない。
     二万回の戦闘が示していること。それは『御坂美琴のクローン』を二万回殺害する、ということに他ならない。

    「人の命をなんだと思って―――」

     そこまで言ったときだった。
     美琴はハッとしたような顔で固まる。
     クローン人間とは思えないのではなかったのか。
     もし現れたとしても、消えて欲しかったのじゃなかったのか。
     ゴクリ、と飲み込んだ唾の音が大きく聞こえる。
     自分と同じ姿をしているだけで、モルモットと同じなのかもしれない。

    (でも……)  

     美琴の脳裏に浮かぶのは、今日の出来事。
     色々なものに興味を示し、ジャンクフードを食べるあのクローンは、少なくとも自分と同じ『人間』に見えた。

    (私のクローンなんて、そんなものが許せるわけじゃない。存在を理解するなんて事も出来ない)

     PDAを握る手に力がこもる。
     資料に添えられた実験の日程に目を通していく。
     第一次実験は既に昔の話となっている。

    (っ!? ちょっと待って……これって)

     スクロールされて流れていく文字列。
     それが示しているのは、既に犠牲になった『もう一人の自分』の数。
     一つずつ、だが確実に増えていく実験の回数は、留まる事を知らない。


    169: ◆XtjOmDyc46 2011/03/18(金) 17:02:54.73 ID:Cbu5Hl4Uo


     第十次実験。

     第二十次実験。

     第百次実験。

     第千次実験。

     そして―――

     今日の日付、七月二十一日と示されていた部分に示されていたのは「九九八二」という大きすぎる数字。

    「そ……んな」

     身体の震えが大きくなる。
     絶望的だった。
     初めて見た自分のクローンに対し『もっとブラックなものを想像していた』なんて間抜けな感想を持ったことを悔やむ程度には。

    「そんな……じゃぁ、今日会ったあの子は……」

     実験の開始時刻は午後九時。
     もう数分の余裕もなく、九九八二人目の犠牲者を生みだす残酷な実験が始まろうとしていた。

    「う、あ」

     言葉にならない悲鳴にも似た何かが、美琴の口から洩れる。
     狂ってしまいそうだった。
     泣いてしまいそうだった。
     
    『今までの事を鑑みるに、お姉様とミサカが再会する可能性は低いと思われますが?』

     つい先刻、一緒にいた少女が放った言葉。
     『今まで会ったことがなかったから』という意味だと思っていた。

     だが、それが。
     彼女の言葉の意味が、彼女の言わんとしていることが、『実験を生き残った前例がない』というものだったとしたら。
     最悪の状況が、血に濡れるバッチが、美琴の脳裏によぎる。

    「うあああああああああああ」

     壊れてしまいそうになるのを堪え、美琴は駆ける。
     目指す場所は実験の行われる地点。


    170: ◆XtjOmDyc46 2011/03/18(金) 17:03:30.58 ID:Cbu5Hl4Uo


    ◆  ◇  ◆  ◇

     暗い何もないような路地裏で、二人の『人間』が向きあう。
     セーターに青いバッチを点けた少女が、額にしていた軍用ゴーグル装着する。

    「これより九九八二次実験を開始します」

     無言のまま、白い怪物が顔をあげた。


    177: ◆XtjOmDyc46 2011/04/08(金) 07:00:36.31 ID:s6ktP7hNo


    行間二


    「初春」

    「ふぇ?」

     美琴からの電話を切ってすぐ、初春飾利は後ろから飛んできた声に飛び上がった。
     恐る恐る振り返った先にいたのは白井黒子。
     風紀委員の先輩であり、友人でもある彼女は真剣な顔で初春を見ていた。

    「な、なななんですか、白井さん?」

    「今の電話、お姉様ですわよね?」

    「なんのことですか?」

     初春の声が裏返る。
     内緒にしておいて、と美琴に釘をさしてはおいたが、自分からバレてしまっては元も子もない。
     白井は酷く真剣な顔で、初春へと詰め寄る。

    「それにしても、なかなかに興味深い話でしたわね」

    「出来れば文句は御坂さんに直接お願いしたいのですけど……」

     ゴンッ、と白井のゲンコツが初春の脳天へと決まる。

    「い、いたぃっ!?」

    「痛くしたのだから当り前ですわ。それより初春。お姉様が何に関わってるのか、正直に吐いた方が身のためですわよ?」

     頭を抱えてオーバーに痛がっている初春を無視し、白井は彼女の端末のディスプレイに目をやる。
     とある医療機関のページが開かれているその画面は、少なくとも個人的にアクセスできるそれではなかった。
     白井はキッとした目で初春を睨む。
     彼女の技量をもってすれば、こんなページを開くくらいは出来るだろう。
     だが。


    178: ◆XtjOmDyc46 2011/04/08(金) 07:01:35.53 ID:s6ktP7hNo


    「こ、これ、これはですね」

    「言い訳は後で聞きますの。それより、お姉様が『わざわざ貴女を使ってまで』調べようとしていたファイルとは何か、それを教えてくださいな」

     酷く重い声だった。
     おふざけの一切介入しない声。
     仕事で現場に出たときでも、白井がそのような声を出すのは珍しいことだった。

    「む、無理ですよ」

     白井の追及から逃れるように、初春は視線を逸らす。

    「企業のトップシークレットにハッキングをかけるなんて……バレたら始末書じゃ済まないですよ」

    「まぁ、そうでしょうね」

     白井の言葉はあっさりとしたものだった。
     そんな事など分かっていると、そういうかのように。
     これからしようとしている事がどういうことか、全て理解した上で言っているようだった。

    「風紀委員としては越権行為も良い所。むしろ、逮捕されかねない事ですわね」

    「だったら―――」

    「ですが」

     初春の反論を断ち切り、白井は言葉を続ける。

    「お姉様が一人で関わろうとしているのを放っておけるほど、わたくしは優等生じゃありませんの」

    「…………」

    「貴女がやらないと言うのなら、わたくし一人でも何とかしてみせますの」

     白井は下唇を噛みしめる。
     唇が割れ血が流れていくのを、初春は見た。
     そして、彼女は少しだけ口元を緩める。

    「仕方がないですね………私もお手伝いしますよ」

    「……初春」


    179: ◆XtjOmDyc46 2011/04/08(金) 07:02:04.46 ID:s6ktP7hNo


     端末のキーボードに手を伸ばした初春に、白井は目を丸くする。

    「白井さん一人にやらせて逮捕でもされれば、私や御坂さんも捕まるかもしれませんし」

     花飾りの少女の指が、キーボードで踊る。

    「御坂さんと白井さんの背中を守るのが私たちの仕事だって、佐天さんとも約束したことですしね」

    「協力、素直に感謝しますわ」

    「無事に事が済んだら、ですね」

     初春は素早い動きで医療機関のコンピュータへとアクセスしていく。
     何重にも掛けられたプロテクトの穴を抜け、最深部を目指す。

    「初春、どうですの?」

    「なんとか……なりそうです」

     見つけ出した符丁の合致するファイルを入手し、足跡を残さないように慎重に蓋を閉めていく。
     素早く動いていた指の速度が少しずつゆったりとなり、最後のキーを押す音が静かな部屋に響いた。

    「………無事ですのね?」

    「今のところは、ってとこですね」

     ふぅと息を吐き、初春は入手したファイルを展開する。
     簡単なテキストファイルには、意味不明の文字列が並んでいた。 

    「暗号、ですの?」

    「みたいですね……どこまで解読できるか、正直あんまり自信がないです」

     そう言いつつも、初春は真剣な目で文字列に目を通し、幾つかのプログラムを立ち上げていく。

    「任せますわよ、初春」

     白井の言葉も、彼女の耳には届いていないだろう。
     それくらいに集中しているようだった。
     白井はそんな彼女の背中を見て、口元を緩める。
     一人でもなんとかする、と言ったものの、正直彼女の力がなければ何にも出来なかっただろう。

    (現状でわたくしに出来る事はありませんが……)

     近くにあったパイプ椅子を引き寄せ、それに腰をかける。

    (目標を捕まえたら、そこからはわたくしの出番ですわね)

     右袖につけた腕章に目をやる。
     その印を捨てることになったとしても、白井は走る覚悟を決めていた。


    186: ◆XtjOmDyc46 2011/04/23(土) 20:33:41.78 ID:plOY2Btfo


    第三章  第一位  Accelerator.



    「これより九九八二次実験を開始します」

     ミサカ9982号はそう告げるのとほぼ同時、一方通行とは真逆にステップを踏み距離をとる。
     構えた銃の引き金は引かない。

    「はァ……」

     一方通行はその場に悠然と立ったまま、動こうとすらしない。
     その顔に浮かぶ表情は余裕しかない。

    「いきなり追いかけっこからスタートする、ってのは新しいンじゃねェの」

     ダンッ! と、人間が地面を蹴ったにしては大きすぎる音が路地裏に響く。
     地面スレスレを飛ぶようにして、一方通行はミサカ9982号の居る場所へと一直線に進んでいく。
     彼女は一方通行をギリギリまで引き付けると、真横に飛んでそれを回避する。

    「おおっ!?」

     地面を削りスピードを落としながら、一方通行は口角をあげた。
     予想外の出来事に驚いているようにも見える。
     そんな一方通行の様子を気にする事もなく、ミサカ9982号はマシンガンの銃口を向け引き金を引き搾る。
     ドガガガガガ! と連射音が響き、放たれた銃弾が一方通行へと降り注ぐ。

    「今までの実験の過程において、ミサカは一方通行の能力に関して二つの仮説を立てました、とミサカは自らの考察を元に作戦を行使します」

     銃弾を放つ間も、ミサカ9982号は足を動かすのをやめない。
     トリガーを戻して物陰に飛び込むとほぼ同時。
     先程まで彼女がいた場所に銃弾が跳ね返り、壁や室外機などに突き刺さっていく。

    「ンで、その仮説とやらは証明できたか?」

    「半分ほど、ですが」


    187: ◆XtjOmDyc46 2011/04/23(土) 20:34:28.71 ID:plOY2Btfo


     ミサカ9982号は物陰から一方通行の様子を窺う。
     相変わらず傷の一つもない。
     先程の銃弾が何の効果も発揮していないのは明らかだった。

    「一方通行の能力の主体は『反射』にある、とミサカは考察を発表します」

     『オモチャの兵隊』を握り直し、ミサカ9982号は物陰から飛び出す。

    「通常状態での『防御の為の反射』に関しては、ミサカ程度の電撃やマシンガンの火力では打ち破れない、とミサカは判断しました」

     彼女はゴーグル越しに、路地に添えつけられた照明を睨みつける。
     バチィッ! とショートするような音がし、すぐ近くに何があるかすら分からないくらいに真っ暗になる。
     夜目に慣れるまでは何も見えなさそうだ。

    「『防御の為でない反射』、つまり一方通行が攻撃を行っているときこそ、一方通行の弱点である、とミサカは結論付けました」

     ミサカ9982号は暗視ゴーグル越しに一方通行の顔を見る。
     暗闇によって視界を奪われたこの状況でも、一方通行は余裕たっぷりの表情を崩さない。
     絶対防御たる『反射』が有効である時点で、この第一位がダメージを負う心配はないのだから当然のことだった。

    「先程の攻撃の結果、ミサカはそれが有効ではないと判断しました」

    「それくらいでダメになっちまうよォな演算能力じゃ、『学園都市の第一位』は語れねェもンなァ……お前にゃ残念な結果だったろォがよ」

    「ですが、『反射』を回避することならミサカにも出来たようです」

     ミサカ9982号は再び走る。
     少しだけ引き金を引いては止める。その間も足は止めない。
     早歩きくらいの速度で追いかけてくる一方通行は全く動じてはいなかった。

    「『反射』の影響を受けた弾丸は、恐ろしく正確に攻撃した地点へと返ってきます。これは『メタルイーター』での長距離狙撃で得た情報です」

     少しだけ力を込めて、トリガーを引く。


    188: ◆XtjOmDyc46 2011/04/23(土) 20:35:24.27 ID:plOY2Btfo


    「ですから―――」

    「『反射』によって弾丸が返ってくンなら、その場にいなけりゃ良い、ってか?」

     規則的なリズムで弾を吐きだしていた『オモチャの兵隊』が突如爆発する。

    「っ!?」

    「なかなかイイ考察だったぜ? ただ残念なのは、俺の能力の本質を見誤ってる、って事だな」

     ミサカ9982号は目を見開き、手に持っていたそれを見る。
     内部から爆発したマシンガンはとても撃てる状態ではなかった。
     しかし、彼女が衝撃を受けたのは武器が使い物にならなくなったことではなく、一方通行が彼女の思考を読み取ったかのような事を言ったからだった。

    「ミサカは、確かに『反射』によって銃弾が返ってくる軌道から抜けたはず……!?」

    「あァ、そォだった。確かにテメェは『そこ』にはいなかったな」

     一方通行は微笑んでいた。
     問題に正解した生徒を誉める教師のような顔だった。

    「正確無比な『反射』から逃れるには、常に移動を続けて、反射された攻撃が返ってくるまでに攻撃開始点から移動していれば問題ない……これがお前の立てた仮説、ってやつなンだろォが」

    「俺の能力が『向かって来るものを180度反転させるだけ』なら……それでオッケーだったンだけどよォ」

    「避けられンなら、それを見越して、反射させる先を変更しちまえばイイ、ってことなンだけど……わっかるかなァ?」

     混乱したような顔の9982号に向けて、一方通行は人差し指を立てる。

    「それでは、ここで一つ問題です。この俺、『一方通行』の能力は一体何でしょうか?」

    「『反射』じゃ………ない?」

     ミサカ9982号は一方通行に向けて使えなくなったマシンガンを投げつける。
     『反射』であれば真っ直ぐに返ってくるはずのそれは、一方通行の身体に当たると真横の壁に向けて勢いよくぶつかる。
     まるでその身体に当たることで、何らかの別の力が与えられたかのように。


    189: ◆XtjOmDyc46 2011/04/23(土) 20:36:07.30 ID:plOY2Btfo


    「『反射』も間違っちゃいねェ。俺の能力の一部であるこたァ確かだが、それだけじゃQEDには程遠いなァ」

     一方通行は足元にあった小石を幾つか拾うと、それをジャラジャラと手で弄ぶ。
     ニヤリ、とその口元が歪んだ。

    「っ!?」

     ミサカ9982号は一方通行に背を向けると全力で走る。
     なぜそのようにしたのかは彼女自身でも分からない。
     感じた悪寒が何によるものなのかも、そもそもその寒気が一体何なのかすらも分からなかった。
     『妹達』には感情はインストールされていない。
     それ故に恐怖を感じる事も無い筈だった。

    「正解は『ベクトル操作』。小せェ石で、こンなことも出来ンだぜ?」

     一方通行は弄んでいた小石をおもむろにミサカ9982号へと投げつける。
     ダーツで矢を投げるような、軽い調子で投げられたはずのそれは、異常な速度でミサカ9982号の背に直撃する。

    「がっ……」

     まるで車にはねられたような勢いで、ミサカ9982号の身体が飛ぶ。
     全てが異常だった。
     彼女には何が起こっているのか理解できなかった。
     この世に存在する物理法則ではありえない現象。
     それが彼の、学園都市の第一位が持つ『自分だけの現実』とでもいうのだろうか。
     地面を滑ったミサカ9982号の膝からは赤い血が流れている。

    「全てのベクトル……運動量も、熱量も、テメェらお得意の電気量も、俺が触れさえすりゃァ、なンでも意のままってな」

     ジャリッ! と、一方通行の足音がミサカ9982号へと迫る。
     一歩ずつ迫る『死』から逃れるように、彼女は足を動かしていく。
     それは走るというには程遠い、フラフラとしたものだった。


    190: ◆XtjOmDyc46 2011/04/23(土) 20:36:53.61 ID:plOY2Btfo


    「クカカッ……なンだァ」

     その背中を見据えながら、一方通行は歩いていく。
     走れば追いつける。能力を使えばそれこそ一瞬で済む。
     だが、彼女の背中が、姿が、態度が、一方通行に何かを留まらせていた。

    「まるで人間みてェじゃねェかよ……クローンの分際でよ」

     舌打ちを一つ。
     苦虫を噛み潰したような顔をしながらも、一方通行は足を止めない。

    「ま、だからと言って、やることが変わるワケじゃねェ……」
     人通りのない広めの道路の上をよろよろと走る彼女の背中を一瞥した後、一方通行は脇に置いてあった鉢植えを足で小突く。
     まるで見えない何かに押し上げられたように、鉢植えがぽんっと宙を舞った。

    「だから、さっさと楽になれ……」

     一方通行の手で叩かれた鉢植えはミサカ9982号の脇腹を捉える。

    「あっ……がぁ」

     ゴロゴロとミサカ9982号の身体がアスファルトの上を転がる。
     彼女の脇腹を捉えた鉢植えは無残にも砕け散り、黒い土を撒いていた。

    「ン?」

     その黒い土の上、ぐしゃぐしゃになった草花の横に落ちているのは缶バッチ。
     表面のカエルの左腕の上に、大きく傷が入っている。

    「なンだ、こりゃァ?」

    「あ……」

     一方通行の白い指が、青い缶バッチに伸びる。 
     彼は物珍しいものを見るような目で、手に取ったそれを眺めていた。


    191: ◆XtjOmDyc46 2011/04/23(土) 20:37:26.57 ID:plOY2Btfo


    「この珍妙なセンスは……テメェらの趣味か?」

    「か……返して下さい」

    「あァ?」

     ミサカ9982号は頼りなさげに立ちあがると、一歩、右足を一方通行へと進めた。
     歩くというには余りにも頼りないその足で、彼女は一方通行に向いていた。
     先程までは、『獰猛なハンターから命からがら逃げる草食動物』のように逃げに徹していたというのに。
     明らかに、『自分の命が失われることに恐怖を抱いていた』というのに。

    「それはミサカの物ですので………返して下さい」

     もう一歩、左足を前へ出す。
     ミサカ9982号の目には明確な意思が宿っていた。
     そのバッチを返せ、とそれだけを物語っていた。
     クラスのガキ大将に必死の思いで反抗する、いじめられっ子のように。

    「なンだなンだ、なンですかァ? 大量生産のクローンの分際で、死ぬ時は大切なものと一緒に、とか言っちゃうクチですかァ?」

     一方通行が右手に少しだけ力を加える。

    「それともあれか? おンなじ大量生産のオモチャに共感しちゃった、とかいう詩人にでもなったつもりかよ?」


     ペキッ―――と、高い音がする。


    「う、ぁあぁぁぁああああああああああ!」


    192: ◆XtjOmDyc46 2011/04/23(土) 20:37:59.93 ID:plOY2Btfo


     堰が壊れたようだった。
     脳が機械仕掛けだったならば、ショートしたか、ネジが吹き飛んだか。まさしくそんな状況だった。
     それくらいにミサカ9982号の中で、何かがはじけた。
     彼女が普通の人間であったならば、その感情が怒りだと、そう分かったかもしれない。
     フラフラで立っているのもやっとであったはずの身体をつき動かす。目に見えない何かを理解できないまま、彼女は一方通行の懐へと飛び込む。

     作戦なんてものはない。
     計画なんてものもない。
     そこには打算さえもない。
     ましてや、刺し違えるなんていう思考なんてない。
     ただ単純に、きわめて本能的に、身体が動いてしまった事の結果だった。

    「考えなしに突っ込ンでくるたァ……覚悟と度胸くらいは誉めてやるけどよォ」

     冷静で、冷酷で、冷淡な声がミサカ9982号の耳にも届く。
     ダンプカーに跳ねられたような痛みと衝撃を感じた頃には、彼女の身体は地面の上を転がっていた。

    「無謀、って言葉の意味くれェは、分かンだろ?」

     やれやれ、と一方通行は首を横に振る。
     諭すような言葉だった。
     目の前にいるレベルが100以上違うような初心者を相手に、情けをかけるような言葉。

    「そンなくっだらねェもンの為に、テメェの命を投げ出そうとすンのはどォかしてる、としか言いようがねェなァ……」

     ミサカ9982号の手に握られているのはカエル柄の缶バッチ。
     つい先程、一方通行が握りつぶそうとしたそれだった。

    「あなたには分からないかもしれませんが」

     ミサカ9982号は少し折れ曲がったそれをポケットにしまうと、その場に立ちあがる。
     足取りは不安定、視界も怪しいような状況でも、彼女は真っ直ぐに、一方通行を見据える。


    193: ◆XtjOmDyc46 2011/04/23(土) 20:39:09.40 ID:plOY2Btfo


    「これはミサカにとって、大切な物なのです、とミサカは告白します」

     彼女にとっては初めてのプレゼントだった。
     初めての絆だった。

    (これを大切にするのは、お姉様との約束ですから……)

     今日一日の出来事がフラッシュバックする。
     それが走馬灯と言うものなのか、とミサカ9982号は脳の端っこの方にあった知識を思い出す。
     お姉様の、御坂美琴の声が聞こえた気がした。

    「そォかよ……」

     はっきりと告げた彼女に対し、一方通行の口調は極めてつまらなさそうだった。
     その場に屈み、足元に転がる砕けた鉢の欠片を手に取る。鋭利に尖ったそれは、まるでナイフのようにも見えるほどだ。
     受けどころを間違えれば、恐らく致命傷にもなりえるだろう。

    「そこまで覚悟してンなら、そろそろ終わりにしても構わねェよな?」

     一方通行の投げたそれは、真っ直ぐにミサカ9982号の首元へと飛ぶ。
     その速度はプロ野球選手の投げる弾の如く、空気を切り裂くようなものだった。


    194: ◆XtjOmDyc46 2011/04/23(土) 20:39:42.15 ID:plOY2Btfo









     ガシャンッ! と、鉢のナイフが砕ける音がした。









    195: ◆XtjOmDyc46 2011/04/23(土) 20:41:11.06 ID:plOY2Btfo


     いつまでもやって来ない痛みに、ミサカ9982号は違和感を抱く。
     もやもやとしていた思考が次第にはっきりし始め、その違和感が疑問へと変わる。
     鉢植えの欠片の砕ける音が聞こえた。
     人体に突き刺されば、そんな音がするわけはない。
     なにか固いものにぶつかって、さらに細かく砕けたような音だった。

    「なンだ、そりゃァ?」

    「……え?」

     ミサカ9982号を護るように、マンホールの蓋が空を飛んでいた。

    「なんとか、間に合ったみたいね……」

     息を切らした声だった。
     懐かしく思える声だった。
     そして、もう一度聞きたかった声だった。

    「この実験………ちょっと、邪魔させてもらうわよ」

     バチバチという、『妹達』のそれとは比べ物にならないほどの電撃が路地を照らした。
     レベル5の第三位、『超電磁砲』がそこに立っていた。


    206: ◆XtjOmDyc46 2011/04/28(木) 19:20:44.65 ID:HSlJpMPJo




    「見つかんねぇ……」

     息を切らし、上条は足を止める。
     あれからどれだけ走ったかは上条にも分からなかったが、少なくとも美琴に繋がりそうなものさえ見つかっていなかった。

    「どこ行ったんだよ、、アイツ……」

     『他の学区まで遊びに行ってるとかいう絶対見つけられません』的なイベントじゃねぇだろうな、と少し考える。
     そうなってしまえば、いくらなんでも見つけ出すのは無理だ。
     学園都市全域を捜索するには、一人では文字通り人手が足りない。
     猫の手どころか、足も借りたい気分になる。
     なんとか息を整えつつ、上条は携帯を開く。
     時刻はちょうど午後九時になったところだった。

    「……寮に帰ってるかも知んねぇな」

     時刻的にも門限を過ぎている。
     寮に戻っていたとしたら、上条がいくら外を走っても見つかることはない。

    「くそ……」

     携帯をポケットに戻し、上条が軽く舌打ちしたときだった。
     シュンッ、という独特の音と共に、常盤台の制服を着た女生徒が現れる。

    「おわっ!?」

    「? あら、上条さんですの」

     突如現れた彼女、白井黒子は『またお前か』とでも言いたげな、呆れたような顔で溜息をつく。

    「あんまり夜中に走り回っていては怪しまれますわよ?」

    「風紀委員とはいえ、お前には言われたくはないんだけどな……」


    207: ◆XtjOmDyc46 2011/04/28(木) 19:21:20.27 ID:HSlJpMPJo


     やれやれ、と首を振る白井に、上条は肩を落とす。
     完全下校時間以後の行動は、学園都市内で誉められたものではない。
     お世辞にも治安が良いとは言い切れないこの街で、夜中に出歩くという行為は大なり小なり危険を伴う。

    「ところで、上条さん。お姉様を見かけませんでしたか?」

    「御坂なら俺も今探してたとこだ……お前こそ、場所知ってるんじゃねぇの?」

    「やれやれ……電話が繋がらないので、また貴方と諍いでも起こしてるのではー、なんて思ってたのですが」

     そう言って、白井は嫌に真剣な顔で黙りこむ。
     美琴に対して呆れたような素振りを見せるでもなく。

    (…………は?)

     てっきり上条は、白井が門限破りをしている美琴を探しているものだと思った。
     だから、さっき『俺も今探してたとこだ』と言ってしまった時は一瞬焦ったものだった。

    「癪ではありますが、せめて貴方と一緒なら、と思っていたのですけども」

     面倒なことになりましたわ、と続ける白井はそのまま大きな溜息をつく。
     どうやら白井の抱えている事情も、よっぽどの事らしい。
     でもなければ、彼女が『上条と美琴が一緒にいること』を望みはしないだろう。

    「お前、何か知ってるのか?」

     上条は唾を飲みこむ。
     白井の抱えている事情と、上条が抱えている事情。
     同じく美琴に関するものではある。
     話の流れから言っても、その二つの延長線上に、あの『もう一人の美琴』がいるのだろう。

    「まぁ、猫の手も借りたい状況ですし……上条さんにもお話ししておきますの」


    208: ◆XtjOmDyc46 2011/04/28(木) 19:21:50.31 ID:HSlJpMPJo


     一拍の逡巡を置いて、白井は説明を始める。
     その口から語られるのは―――

     美琴からの電話の事。

     告げられた符丁の事。

     解析結果の事。

     そして、機密情報に関して。

    「もっとも、わたくしの優秀な同僚の腕を持ちましても断片情報しか引き出せませんでしたが……」

     そこまで言って、彼女は言葉を詰まらせる。

     自分の不甲斐なさを噛みしめるようだった。

    「断片しかって事は……いや、断片はある、ってことだよな?」

    「え、まぁ……『妹達』、『絶対能力者進化実験』、それと『超電磁砲』……まともに読みとれたのはそれくらいですの」

     白井は悔しそうに下唇を噛む。
     何が起こっているかは彼女にも分からない。
     ただ、少なくとも『超電磁砲』――お姉様が関わっているのは確実だった。

    「なぁ、白井……ちょっと聞いていいか?」

     ぼそり、と。上条が呟く。

    「なんでしょうか?」

    「御坂が一人っ子ってのは確かなんだよな?」


    209: ◆XtjOmDyc46 2011/04/28(木) 19:22:23.93 ID:HSlJpMPJo


    「先程の電話でもありましたわね……わたくしが知る限りではその筈ですが―――」

    「アイツにそっくりな双子の妹なんて、いないはずなんだな?」

    「そっくりな、妹?」

     白井は一瞬だけキョトンとした顔をした後、驚愕の色を示す。
     信じられないものを見たかのような顔だった。

    「心当たりがあんのか?」

    「心当たりと言いますか……都市伝説、噂の類ですわ」

    「噂?」

     上条は怪訝な顔で白井を見る。
     白井の性格から言えば、そのような類の話など気にしないはずだ。
     少なくとも上条はそう思っていた。

    「お姉様、つまり第三位の『超電磁砲』のDNAマップを用いた量産軍用クローンがある、というものです」

    「クローン?」

     飲み込めない話だった。
     クローン人間の存在は国際法違反。つまりは絶対禁忌の存在だ。
     にもかかわらず、そんなものが噂として流れるのは何故だろうか。
     上条は唾を飲む。
     つまりはその噂を裏付けるような何かがあったということだ。
     例えば、その『現物』を見た上条のように。


    210: ◆XtjOmDyc46 2011/04/28(木) 19:22:52.85 ID:HSlJpMPJo


    「じゃぁ……まさか俺が見た妹って言うのは」

    「その『まさか』かもしれませんわね……」

     思いつめたような表情で、二人は固まっていた。
     実際には一分も経っていないくらいの長さだ。
     だがそれは、とても長いものに感じられた。
     上条が視線を向ける。
     そこには深刻そうな顔の白井がいる。
     自分も似たような顔をしてるのは確かだった。

    「御坂を……探すしかねぇ、よな」

    「……ええ。一般人である貴方の力を借りるのは不本意ですが、そうは言ってられませんの」

    「じゃぁ、見つけたら連絡する。番号でもメールアドレスでも、教えてくれ」

     二人は携帯を取り出し、赤外線交信を行うと、それぞれの連絡先を交換する。

    「では、わたくしはこれで……」

    「あぁ……無理すんなよ」

     シュン、という音と共に、上条の目の前から白井の姿が消える。
     それを見送ってから、上条は再び足を動かし始める。
     既に美琴が行きそうな場所はある程度回ったが、何処にもその姿は見当たらなかった。

    「ちくしょう……やみくもに走り回ったんじゃキリがねぇ」

     それでも走るしかなかった。
     周りを見回しても、それらしき姿はない。
     彼女の知り合い、もしくは、常盤台の生徒でもいれば目撃情報を得られるかもしれないが。


    211: ◆XtjOmDyc46 2011/04/28(木) 19:23:20.67 ID:HSlJpMPJo


    「こっちが探してる時に限って出てこねぇのかよ」

     舌打ちをする。
     忙しいときにはビリビリと現れるクセに、と心の中で毒づく。

    「なんかヒントでもあれば……?」

     ふと、上条の視線がとある場所で固定される。
     風力発電用の巨大な風車。
     学園都市のいたるところにあるそれは、ゆったりと回っていた。

    「え、あ?」

     おかしい。
     少し遠くに見える一本だけが、ゆっくりと回っていた。
     上条の近くにあるものも、それ以外も、微動だにしていないというのに。
     ほぼ完璧に近い無風状態で、風車が回る。
     まるで何か他の力を受けて、無理矢理に回っているように見えた。

    「ちょっと待てよ。確か、『電撃使い』の放つ電磁波や電撃によって風車が回ることがある、って……」

     うろ覚えに近い、脳の端っこに引っかかっていたような知識だった。
     『確かそんな話を聞いたような』くらいのものではあった。
     だが―――

    「行ってみるしかねぇよな」

     上条は動きの悪くなってきた足に鞭を撃つ。
     荒くなってきた息を無理矢理に整え、暴れ出す心臓を抑える。
     暗くなった学園都市の中を上条は駆ける。


    217: ◆XtjOmDyc46 2011/05/08(日) 18:13:57.22 ID:sFSCz0pbo




    「お……お姉様……」

    「はァ、お前、オリジナルの方か……」

     お姉様こと、オリジナルこと、御坂美琴は、色の違うふたつの視線の先に立っていた。

    「アンタ……そんなもん守ってどうするつもりだったの?」

     呆れるような、怒るようなそんな声で、美琴は語りかける。
     その視線の先で、ミサカ9982号は大切そうに青いバッチを手にしていた。

    「そんなモノの為に、自分の身を危険に晒してちゃぁ、意味ないでしょうが」

    「………ですが、これはお姉様から戴いたものですから」

     目を伏せ、手元のバッチへと視線を向ける。
     大きく傷の入った、青いカエルのバッチ。

    「アンタねぇ……」

    「これを大切にする、というのがお姉様との約束でした、とミサカは守れなかったことを反省します」

     言葉の通り、しゅんと肩を小さくする彼女に、美琴は溜息をつくしかなかった。

    「おォおォ、泣けるような姉妹愛のお話をどォも、ってとこだが……こういう場合は実験はどうなンの?」

     下らない、と首を振り、一方通行は美琴をその赤い双眸で睨む。

    「前に第四位がちょっかい出してきたときは何事もなく終わったけどよ。今回はそうもいかねェンじゃねェの?」

     一方通行の冷たい視線に、美琴の背筋が冷える。
     それはまさに凍えるような目だった。


    218: ◆XtjOmDyc46 2011/05/08(日) 18:14:34.35 ID:sFSCz0pbo


    「アンタ……『一方通行』で間違いないわね?」

    「おっと、なンですかァ? 自己紹介しあって仲良くやりましょうってワケじゃねェンだろ?」

    「そうね。私はアンタの実験を止めに来た。だけど、一応、確認しておくわ」

     バチバチと瞬く青色い閃光が、まるで獣の咆哮のように暗い夜道に響く。

    「アンタ、ウチの妹に何してくれてんのよ?」

     キッ、と眉を釣り上げ、美琴は一方通行を睨み返す。
     その両手は硬く握られ、穏やかそうに聞こえる声とは裏腹に、灼熱のような怒りが雰囲気として滲み出ていた。
     彼女の言葉に、一方通行は目を見開く。
     何を言っているのだ、とそう言う顔だった。

    「はァ?」

     思わず笑い出してしまいそうだった。

    「アンタが……もしかしたら『ホントはこんな事やりたくなかったけど、嫌々付き合わされてる』ってんなら……」

    「泣いて謝ったら、許してくれるってンのか?」

     美琴の言葉を、一方通行が横から区切る。
     その白すぎる顔には、歪な笑みしか浮かんでいない。

    「俺がやってんのは単なる実験。成果を上げる為に実験動物をぶっ殺してる、っつーだけなンだけどな」

    「反省の色はナシ、ってことでいいのよね?」

     美琴を取り巻く放電が、より一層大きくなる。

    「あの人形共がテメェの事を『実験動物』と自覚してる分、むしろモルモットの虐殺よりは良心的なンじゃねェの?」


    219: ◆XtjOmDyc46 2011/05/08(日) 18:15:02.62 ID:sFSCz0pbo


     限界だった。
     ぷちん、と美琴は自分の中で何かが切れるような音を聞いた。

     それとほぼ同時、前髪から纏っていた閃光が槍となって放たれる。
     理性と言うリミッターを外したそれは、その辺のスキルアウトを追い払うのに使うレベルの威力ではない。

     美琴自身、滅多なことがなければ使うことのない出力だった。
     ガァンッ! と爆発にも似た音が響き、一方通行に当たった雷撃の槍が四方八方へと撒き散らされる。

    「っ!?」

     白い煙の向こうから現れるのは、それよりも白い一人の人間。
     両手をポケットに突っこんだまま、少年は真っ直ぐに立っていた。

    「くっ、ああああああああああああああ!!」

     美琴の周りに黒い竜巻が起こる。
     磁力を用いた砂鉄による竜巻。
     巨大な刃と化したそれは、一方通行を取り囲むようにして舞う。

    「さすがはレベル5ともなると、そこの乱造品とは違ェってかァ?」

     取り囲んでいた黒い刃が一方通行の身体を襲う。
     前後左右どころか、上下にも逃げ場のないその攻撃は確実に一方通行の身体を捉えていたはずだった。

     だが。
     磁力での制御を受け、美琴によってコントロールされているはずの砂鉄は、一方通行の身体に触れるか触れないかの瞬間、その進行方向を真逆へと変える。
     まるでそこに一枚の壁でもあるかのように、一方通行の身体には一粒たりとも砂鉄が触れることはない。


    220: ◆XtjOmDyc46 2011/05/08(日) 18:15:33.38 ID:sFSCz0pbo


    (そういえば―――)

     聞いたことがあった。
     学園都市の第一位、『一方通行』の能力は、全てのベクトルを制御することだと。
     あっという間に攻略された砂鉄の竜巻は既に霧散していた。

    (だとすれば、全てのベクトルを操作されれば、雷撃や砂鉄の剣どころか、『超電磁砲』でさえも―――)

     そこまで考えたところで、美琴はぶんぶんと首を振る。
     だからなんだ。
     通用しないからなんだ。
     何をしに来たんだ、と。
     一方通行は余裕綽々と立っているだけだった。

    「早く立ちなさい」

    「お姉、様?」

    「このままじゃどうしようもないなら……逃げられるとこまで逃げるしかないでしょ!」

     よろよろと立ちあがるミサカ9982号を護るように、美琴は一方通行から視線を外さない。

    「逃げる、って……オイオイ、向かってくるンじゃねェのかよ?」

    「………」

     一方通行の質問には答えず、美琴はちらりと立ち上がったミサカ9982号を見る。
     ふらふらと落ちつかない足運びは、とても走って逃げられる様子ではない。

    (だったら……)

     バチバチと、発生させた電気を自分の体とミサカ9982号に纏わせる。


    221: ◆XtjOmDyc46 2011/05/08(日) 18:15:59.58 ID:sFSCz0pbo


    「な、なにを?」

    「いいから。じっとしてなさい」

     二人の身体に纏われた電撃から、一本の腕のようなものが伸びる。
     それは一方通行と逆方向にあった金属製の標識を掴む。
     ミサカ9982号が浮遊感を感じた瞬間には、二人の身体は高速で標識に向かって飛んでいた。

    「っ!?」

    「舌噛まないでよ」

     美琴は器用に電撃を操り、金属製のものを手繰り寄せるようにして超高速での移動を可能にしていく。
     無駄のないタイミングで次の標識へ、建造物へと電撃の腕を伸ばす先を変える。
     さながら木々の間を飛び回る忍者のような動きだった。

    「なぜ、ミサカを助けたのですか?」

    「こんな時にわざわざ聞くようなこと?」

     美琴はミサカ9982号へと視線を向けず、移動へと集中する。
     ミサカ9982号はそんなオリジナルの横顔を見ていた。

    「ミサカはボタン一つで簡単に製造できる実験動物に過ぎません。わざわざ助けに来るほどの価値は―――」

    「約束、したでしょうが」

     ミサカ9982号の言葉を切り、美琴は続ける。

    「またね、って。次会う時はもっと美味しいもの食べさせたげる、って」

    「…………」


    222: ◆XtjOmDyc46 2011/05/08(日) 18:16:32.53 ID:sFSCz0pbo


    「アンタらの事は正直受け入れきれないし、クローンなんてものを許容できないけど」

     美琴は一瞬だけ、ミサカ9982号の方へと視線を向ける。
     それは顔を向けるものではなく、横目で窺う程度のものだった。

    「それでも、あんな実験の正体を知って、その上で放っておけるほど人でなしでもないつもり」

    「……お姉様」

     真っ直ぐと前を向いたままの美琴の顔。
     ミサカ9982号から見た横顔は真剣そのものであった。

    「アンタ達の事とか、作りだした人間とか、その話はこのフザケた実験を片づけてから」

    「………」

    「それからゆっくり、話は聞かせてもらうわよ?」

     車をも抜いていくような速度で、美琴とミサカ9982号は駆け抜けていく。
     まさしく風を切るといったような速度で、移動していく。
     先程まで目と鼻の先で対峙していた一方通行はもう豆粒のようなサイズになっている。


     ――――――はずだった。


     美琴が状況を確認しようと、後方に視線を向けたときだった。
     あの白い超能力者が砲弾のようにしてこちらへと向かってきているのが視界に飛び込む。

    「えっ!?」


    223: ◆XtjOmDyc46 2011/05/08(日) 18:17:04.14 ID:sFSCz0pbo


     遅かった。
     美琴がその予想外だった事態に気付いた時、迫りくる一方通行は真横へと並んでいた。
     一方通行は高速移動する美琴にしっかりとスピードを合わせ、握りしめた右拳を振り下ろす。
     ゴンッ! という鈍い音が響き、美琴の身体がミサカ9982と共に地面へと落ちる。

    「ぐがっ、は……!?」

     全身を強く叩きつけられた先は貨物列車の操車場のようだった。
     敷き詰められた砂利が身体に刺さる感覚に顔をしかめ、美琴は立ち上がる。
     もうもうと上がる砂煙の向こうには、悠然と立つ第一位の姿があった。

    「ハッ……レベル5とやンのは初めてだけどよォ……案外、大したことねェなァ、超電磁砲」

    「うっさいわね………」

     美琴は自分の後ろに転がっているミサカ9982号に目をやる。
     弱ってはいるものの意識もしっかりしているようだった。

    「そんなに強いなら、もうこれ以上何を求めるってんのよ! この子達の命を犠牲にしてまで手に入れたいものってのがあんの!?」

    「………じゃァ、一つ尋ねるが、超電磁砲」

     一方通行は一瞬だけ言葉を詰まらせる。

    「人間を護るために実験動物の犠牲が必要って事になっても、テメェはそれを止めンのか?」

    「そんなの詭弁よ。現にこの子たちは『人間』としてちゃんと生きてるじゃない」

    「お前は本当にそのクローン共を人間だと認めンのか? お前の知り合いもか? 家族もか? 見ず知らずの人間も、全員がそこのクローンを『人間として生きてます』って認めンのかよ?」

    「っ!?」


    224: ◆XtjOmDyc46 2011/05/08(日) 18:17:32.40 ID:sFSCz0pbo


     一方通行の言葉に熱がこもる。
     美琴には言い返せなかった。
     止めはに来たものの、美琴自身も、彼女ら『妹達』を人間として完全に認めているわけじゃなかった。
     もし彼女らが助け出されたとして、果たして普通の人間通りに生活できるというのだろうか。

    「でも、だからと言って! アンタに殺されて良い理由にはなんないでしょうがッ!!」

     バチィッ!! という高音が響く。
     あたりに敷かれていた金属のレールがゆっくりと持ちあがる。
     何本もの重いレールが、それぞれ意思を持っているかのようにぬるぬると動く。

    「ぁあああぁあああああああああああああああああっ!!」

     ゆったりとした速度から一転。
     一気にアクセルをベタ踏みしたかのような急加速をもって、金属のレールが一方通行へと降り注ぐ。
     槍にも似たそのレール達は、もし生身の人間に当たれば一撃で身を粉砕するような威力を持っている。

     にも関わらずだ。
     一方通行は平然とした顔でそれらを迎え撃ち、撫でるようにして降り注ぐ槍の雨に手を差し伸べる。
     たったそれだけだった。
     速度を全く殺すことなく軌道を変えたレールの槍は放った美琴の周りへと突き刺さっていく。
     一本一本が三分の一ほど地面へと埋まり、まるで現代美術のオブジェのようだった。

    「学習して逃げたンじゃねェのかよ」

     一方通行の言葉が美琴の耳へと届く。
     美琴の顔は打ちひしがれたようだった。
     丁寧に潰されるならまだしも、乱暴とか粗暴というレベルでもなく、ただ立っているだけでこちらの詰め手を潰していく。
     そんな圧倒的かつ一方的な第一位に、愕然としていた。

    「そんな……ことって」


    225: ◆XtjOmDyc46 2011/05/08(日) 18:18:00.17 ID:sFSCz0pbo


     美琴の周りに突き刺さったレールは、さながら墓場に立つ十字架のようだった。
     相変わらず動こうとしない一方通行に、美琴は奥歯を噛む。

     残された手は一つ。
     右ポケットにあるコインを用いた『超電磁砲』
     チャリ、とコイン同士が触れ合う音がする。

    「この実験に、なんの意味があるってのよ………」

     ぼそり、とした呟きが漏れる。
     何のために、自分のクローンが、この妹達が、死ぬことになるのか。

    「なんでこの子達が死ななきゃいけないのよ! 殺されなきゃいけないのよ!」

     美琴はポケットからコインを取り出し、右手を一方通行へと真っ直ぐに伸ばす。

    「さっきから言ってンじゃねェか………」

     一方通行は小さく溜息をつく。
     何度も言わせるなと、少しイラついた調子で続ける。

    「誰も手を出そうとすら思わねェような、無敵になりてェってよ」

     その言葉に、美琴は頭の中が真っ白になった。
     何を言ってるのかが分からない。
     自分にとって利益なら人を殺しても良いというのだろうか。
     まるでRPGでレベル上げをしているような物の言い草に、なんの言葉も出ない。

    「ふざけんな……」

    「あァ?」

    「ふざけんなぁぁぁあああああああああ!!」

     美琴の右手が光る。
     そこから放たれた閃光が一直線に一方通行へと伸びる。
     ゴッ! という音と共に発生した風が巻き起こった。


    230: ◆XtjOmDyc46 2011/05/14(土) 16:54:06.72 ID:8FqggmgBo

     
     その直後、美琴の後ろに立っていたレールが真っ二つに折れ、地面へと落ちた。

    「………え?」

     自分の手から放たれたはずのビームにも近い砲撃が、超高速で耳元を横切って行った。
     その事実を美琴が理解したのは、レールが地面に落ちる音を聞いてから更に一拍してからだった。

     ミサカ9982号の横たわっている更にその後ろ。
     不自然に一部を切り取られたようなレールが立っている。
     プラズマ化した空気がオレンジ色の線となり、美琴と一方通行、さらにはそのレールを繋いでいた。
     水に垂らしたインクのように、オレンジの光がゆらゆらと消えていく。
     その光はまるで、美琴の気力を暗示しているようだった。

    「おォ? もしかして今のが『とっておき』だったか?」

     探るような顔で、一方通行は美琴の顔を見る。
     空気の抜けた風船のように、美琴はその場へと崩れ落ちていく。
     どうしうようもなかった。
     持てる切り札の全てを使っても、相手を崩すことが出来なかった。
     いくら名門常盤台のエースと言えども、相手が学園都市のジョーカーであれば話は別だ。

    「そいつは悪かった……まさかこれほどシケたもンだとは思ってなかったぜ」

     一方通行は崩れ落ちた美琴を冷めた目で見降ろす。

    「なンで超能力者に序列が決められてるか知ってるか?」

     もう聞いているかどうかも分からない。
     魂が抜けたように、茫然自失としている美琴を気にすることなく、一方通行は言葉を続ける。
     ミサカ9982号がよろよろと立ちあがるのを視界に収めつつ、一方通行は続ける。


    231: ◆XtjOmDyc46 2011/05/14(土) 16:54:40.05 ID:8FqggmgBo


    「それぞれの間に実力差があるからだ……第三位のテメェじゃ、ひっくり返っても勝てねェ事くらい理解してンだろォがよ」

     麦野沈利にも告げたことだった。
     学園都市が誇るスーパーコンピューターである『樹形中の設計者』によると超電磁砲が逃げに徹しても百八十五手でチェックメイトとなるという予測演算。
     その演算さえも疑わしいほどの圧倒的な実力差だった。

    「その様子だと、もう打つ手もねェようだが……決めちまってもいいか?」

     一方通行の両手がゆっくりと持ちあがる。
     片や毒手。
     触れるだけで血の流れを逆転させる。
     片や苦手。
     同じく触れるだけで、生体電気を逆流させる。
     もたらされる結果は一つ。
     『死』という結果以外に存在しない。

    「好きな方に触れろ、ってのは無理か……動く気力もねェみてェだな」

     一方通行が美琴に向けて一歩を踏み出した時だった。
     砂利を蹴るような音が響く。

    「っ、ん!?」

     ドンッ! という衝撃に、美琴は驚きの声を漏らし、彼女の身体がゴロゴロと地面を転がる。
     海の底に埋没した意識を急に引き上げられたような感覚に、美琴は目をパチクリとさせる。
     とっておきだった超電磁砲も通用せず、愕然とした事までは覚えている。

    (首の後ろをあたりを引っ張られたような……)

     美琴の視線が捉えたもの。
     それはさっきまで自分がいた場所に、ミサカ9982号が立っている姿だった。


    232: ◆XtjOmDyc46 2011/05/14(土) 16:55:07.87 ID:8FqggmgBo


    「ア、アンタッ!!」

     美琴の悲痛な叫びが響く。
     一方通行の右手がミサカ9982号の左腕を捕らえる。
     ずぶずぶと、その手が沈んでいく。

    「あァ?」

    「う、ああああっ!!」

     表情をあまり変えることのないミサカ9982号も、苦痛によって顔をしかめる。
     ぐちゅぐちゅと一方通行の握る手の隙間から、赤い血が噴き出す。

    「や、あ、ああ……やめっ」

     ブチブチブチッ、という嫌な音が聞こえる。
     引き裂くような、千切るような、もぎ取るような。
     ぼとり、と。
     残酷な音がした。
     ゆらゆらと明滅するミサカ9982号の視界に、真っ青な顔をした美琴の視界に、地面に落ちた左腕が飛びこむ。

    「抵抗しなけりゃ一瞬でラクにしてやろォかとも思ったンだけどな……」

     トンッ、と一方通行が地面を踏む。
     それに一瞬遅れて、地面に敷き詰められた砂利が爆発したかのような勢いで飛び散る。
     その爆風にも似た衝撃によって左腕を失ったミサカ9982号は後ろ向きに吹き飛んでいく。

    「ぐぅっ!?」

     吹きとんだ彼女の体を受け止めるように、美琴が落下点へと回り込む。
     全身を使っても勢いを受けきれず、妹の身体ごと後方へと転がっていく。


    233: ◆XtjOmDyc46 2011/05/14(土) 16:55:36.20 ID:8FqggmgBo


    「げほっ、ごほっ……」

     まともに腹に入った妹の身体に息を乱しつつ、美琴は彼女の背中を支える。
     その左腕からは決して少なくない血が流れ出している。
     ゾッ、とする、見ているだけでも気を失ってしまいそうな量だった。
     背骨に電流でも流されたような気分だった。

    「アンタッ……なんであんなトコに飛び出してくんのよ!」

     美琴の言葉に、苦悶の表情をしていたミサカ9982号の顔が少しだけ緩む。
     肩で息をした、痛みを我慢した上での、無理矢理な表情だったが。

    「自殺志願者でもあんな状況で飛び出してはこないわよ」

    「さっきも言いましたが……お姉様とは約束しましたので」

    「約束のバッチは守れてんでしょ? 無理して出てくることなんか……」

    「お姉様とは、もう一度『美味しいものを食べに行く約束』をしています、とミサカは何が出るか期待しつつ答えます」

    「そんな……死んでたかもしれないのよ? そうなったら何も意味ないじゃない!」

    「あのままではお姉様が死んでいました、とミサカは客観的な事実を突きつけます」

     美琴の目が見開かれ、その身体が震える。
     カタカタ、と弱々しく小刻みに震えるその姿は、迷子になった子供のようだった。

    「私なんて守る価値もないわよ。アンタ達を生み出して、苦しませるきっかけを作ったのは私なのよ」

     絞り出す声と共に嗚咽が漏れる。
     ぽろぽろと涙を流しながら、こぼすそれは懺悔にも聞こえた。


    234: ◆XtjOmDyc46 2011/05/14(土) 16:56:05.16 ID:8FqggmgBo


    「一万人近くも見殺しにした私に……そんな価値なんてないわよ」

    「いいえ。そんなことありません、とミサカはお姉様の言葉を否定します」

     苦痛で遠のきそうな意識を必死に支え、ミサカ9982号は美琴の目を真っすぐに見る。

    「ミサカ達はお姉様を恨んではいません。確かに生まれてきたのはお姉様がDNAマップを提供したからですが……もしそれがなければ、ミサカ達は生まれてくることも、こうして痛みを感じる事も、お姉様に会う事も、美味しいものを食べる事も出来ませんでした」

     ミサカ9982号は柔らかく微笑む。泣きじゃくる美琴を諭すようにして。

    「そしてなにより、『生きる』と言う事を実感することもできませんでした。だから、感謝こそすれ、恨むなんて事はありえませんよ、とミサカは内心を吐露します」

    「で、でも……」

    「でももへちまもありません。ミサカ達にとっての幸せは、お姉様が元気に生きてくれることですから」

     そういって、ミサカ9982号は立ちあがる。
     気の抜けてしまった美琴と、一方通行の間に立つようにして。

    「話は終わったのかよ?」

    「待っててくれたのですか、とミサカは一方通行の表情を探ります」

    「レベル5と戦闘すると、実験に影響が出るって言ったのはテメェらだろォが……」

     美琴は真っ青な顔で、ミサカ9982号の背中を見る。
     左腕のないその細い体に、必死に腕を伸ばす。
     生み出した超電磁砲も、砂鉄の剣も、雷撃の槍も、全て通じなかった、その右腕で

    (待って……)

     するり、と。
     スカートの裾が指に触れる。


    235: ◆XtjOmDyc46 2011/05/14(土) 16:56:52.29 ID:8FqggmgBo


    (待ってよ……)

     必死に伸ばしても、届かない。
     もう彼女の身体は、数メートル前へと進んでいる。

     届かなかった。

     遅かった。

     あと少し早く気づいていれば、この実験も止めることが出来ただろうか。
     もうあと少しだけ自分が大人であれば、こんなことにもならなかったのだろうか。

    「さて、今日も終わりにすっか」

     一方通行はポキポキと首を回す。
     よろよろと向かってくるミサカ9982号を見据え、つまらなさそうな顔でそれを見ている。
     幸運なんて、その辺に転がっている物ではない。
     救いなんて、そう簡単に得られるものではない。

    「助けて……」

     それでも。
     それでも、美琴はそう言うしかなかった。
     漏れてしまったその言葉が届くなんて事はあり得ない。
     待っているだけで救世主が現れるのは漫画やゲームの世界だけの事だ。
     そんな事は分かっている。

    「助けてよ……」

     誰でもいい、どんなことでもいい。
     ただ、藁にもすがる思いだった。


    236: ◆XtjOmDyc46 2011/05/14(土) 16:57:49.09 ID:8FqggmgBo


     バタバタ、と誰かが走ってくるような音が聞こえた。
     猫や犬の足音ではなかった。
     明らかに人の足音だった。

     それも遠くない。
     明らかにこちらに向かっているものだった。
     一方通行がその音の方向を見る。
     ミサカ9982号も、美琴も、動きを止めてそちらを見た。
     赤茶色の大きなコンテナの間から飛び出したのは、高校生くらいの影だった。
     その決して大きくはない身体がしなる。
     思い切り腰が捻られた後、右腕が振られる。

    「あァ?」

     踏み込みと共に振るわれた右拳が、一方通行へと突き刺さった。

    「ごっ……」

     余裕な表情だった左頬に重い拳を受け、その白く細い身体が転がる。
     地面を踏みしめ、少年はミサカ9982号の前に立つ。
     肩で息をしているその少年の目は真っ直ぐだった。

    「何やってんだよ……」

     ギリッと奥歯を噛みしめ、右拳を握る。
     黒い髪の少年は、身体を起こした白い少年に叫んだ。

    「……なンでテメェがここにいンだ?」

     殴られた左頬をさすり、一方通行は立ちあがる。
     反射の壁を突き抜けてきた相手を真っ直ぐ睨む。
     彼がこの滅多にない事態に慌てることはなかった。
     目の前にいる黒髪の少年は、旧知の仲だから。知っている顔だから。そして唯一の―――

    「何やってんだ、って聞いてんだよ、鈴科!!」

     一方通行の名前を知っている人間だから。


    237: ◆XtjOmDyc46 2011/05/14(土) 17:07:07.86 ID:8FqggmgBo

    時系列の話。
    このお話では、上条さんがインデックスに会うよりも先に、絶対能力進化実験に遭遇する話。
    だから、記憶喪失にはなってないのね。

    原作での日付設定とは違うのでご注意を。
    絶対能力進化実験の進み方も違うので、原作の流れは若干無視しつつ~な感じで。

    ちなみにこのSSでは現在7月21日です。


    253: ◆XtjOmDyc46 2011/05/18(水) 19:46:10.27 ID:gR4yGKypo


    行間3

     一方通行の居る場所へ文字通り殴りこむ少し前、上条は暗い路地裏を駆けていた。

    「くそっ……何が起こってんだよ」

     走る上条の耳に届いてくるのは聞きなれた電撃の音とそれに伴う爆発音。
     なんらかの戦闘が行われているのは確かだった。
     それが白井の言っていた『絶対能力進化実験』によるものなのだろうか。
     上条は奥歯を噛み、全速力のまま路地の角を曲がる。

    「あれー?」

     目の前に現れたのは暗い影、ではなく。

    「そんなに急いでどこに行くのかにゃーん?」

     目の前に立ちはだかるのは『原子崩し』の麦野沈利。
     上条の目指す先、実験現場への道を塞ぐようにして彼女は悠然と立っていた。

    「どこへ、って……この先に友達がいるんだけど……」

    「ひっさしぶりだねぇ、『幻想殺し』。ま、覚えてないだろうけど」

     一年前。ちょうど、美琴との初邂逅を果たした日と同日。
     上条は麦野と会っていた。
     なんでもない『ただコンビニで鮭弁を譲っただけ』の出会いではあったが。

    「お前……実験の関係者か?」

    「それはこっちのセリフでしょうが……まぁ、明らかに関係者じゃなさそうなんだけど、なんでココで実験やってるって知ってるのかな?」

     ゆっくりとした落ち着いた口調で話す麦野の向こう側では、今もなお激しい音が響いている。
     どういう状況なのかは分からないが、あまり猶予がなさそうなのは明らかだ。


    254: ◆XtjOmDyc46 2011/05/18(水) 19:46:50.07 ID:gR4yGKypo


    「やっぱりこの先なんだな……『絶対能力進化実験』の場所は」

     上条の言葉に、麦野は少しだけ感心したような顔を作る。
     『へぇ?』とでも言うような表情のまま、彼女は薄く微笑む。

    「知られたからには、って、漫画の世界だけじゃないんだよ?」

     そう言い終わるか否かのうち、麦野の身体から一筋の光線が飛び出る。
     粒機波形高速砲。
     一方通行には通じなかったものの、そのビームの破壊力は分厚い壁をあっという間に貫通させるような凶悪なものだ。
     普通の人間、それも学園都市で言う『普通の能力者』が浴びたならば、ひとたまりもないだろう。

    「な、なんだ、今の!?」

     ひとたまりもない―――だがそれは、あくまで『普通の能力者』であった場合だ。
     煙の奥から現れる上条の姿に、麦野は表情を固めるしかなかった。

    「随分といきなりじゃねぇか……」

     キッと睨みをきかせる上条に、麦野は舌打ちする。
     そしてその後、ふと何かを思いついたかのようにニヤリと口元を歪めた。

    「私達に依頼された内容は、『超電磁砲』以外の侵入を阻止する事だけだったんだけど」

     麦野はすこぶる楽しそうな顔で続ける。
     その恐怖さえ覚えそうな表情は、かえって残酷さを感じさせない。

    「気が変わった。行きたかったら行けば良いさ。それが絶望の入り口かも知んないけどね」

    「どういうことだよ」

     彼女の言葉に、上条は唾を飲み込む。
     実験と言うものがどういうものかは知らない。
     少なくとも、試薬を混ぜて有機化合物を精製なんていうサイエンス教室じみた事はやっていないだろう、程度の認識だ。


    255: ◆XtjOmDyc46 2011/05/18(水) 19:48:06.84 ID:gR4yGKypo


    「で、友達、ってのは誰の事かな?」

    「は?」

     意味が分からなかった。
     確かに『この先に友達がいる』とは言った。
     彼女の表情は疑問を抱いて質問しているようには見えない。
     全てを知った上で、敵の精神を崩そうとしているような。
     そんな笑みだった。

    「こんな所まで駆け付けた『幻想殺し』のお友達は誰の事かな、と思ってね」

     より一層、彼女の口元が歪む。

    「あの小生意気な『超電磁砲』? 『妹達』とかいう『欠陥電気』? それとも……『一方通行』かな?」

    「っ!?」

     今度は上条が驚く番だった。
     上条が言葉で示していた友達は、超電磁砲こと、御坂美琴の事だった。
     だが。

    「な、んだ……って?」

    「おっと、聞こえた筈だろ?」

     上条の手に嫌な汗が出る。
     聞きなれた名前だった。
     上条が聞いてきたときはまだ、その片鱗を見せ始めたくらいの幼いものであったが。 
     『一方通行』
     その名前が、今では学園都市最強として名高い事を上条は知らなかった。
     もし上条がスキルアウトとして活躍していたなら、その名を聞くこともあったかもしれないが。

    「あ、あくせら、れーた?」

     上条は麦野から、その奥へと視線を移す。
     いつの間にか静かになっていた。

    「ほら、早くいかないと大切なモノを失うかもな」

     その言葉に背を押されるかのように、上条は走る。
     その先にあるものは、絶望か。それとも。


    272: ◆XtjOmDyc46 2011/05/21(土) 22:00:16.09 ID:rSOcrOj0o


    第四章  黒髪の少年  Imagine-Breaker.



    「なに、やってンだ……って?」

     一方通行は紅い唾を吐き捨てる。
     口の中で感じる血の味も久々のものだった。

    「見て分かンねェのかよ……レベル6を生み出す為の実験って事くれェ知ってて来たンだろォがよ」

     別れたときと同じように、真っ直ぐに向き合う。
     ただ、それはかつてのように親しげなものではなかった。
     獰猛な獣同士の、睨みあいにも似た雰囲気だ。

    「そんな事を聞いてんじゃねぇ……テメェはその手で、その力で、何してんだ、って聞いてんだよ」

     上条は一方通行を睨む。

    「能力を開発して、レベル上げて……テメェは何してたんだよ」

     上条の声に混ざるのは落胆。
     友人がやってきたことは、目の前の惨状を見れば分かった。
     走ってくる間に、近づいてくる間に聞こえた声。
     かつて聞いた、見知った声に、足取りも重くなった。

    「………久々に会ったかと思えば、テメェは何を言ってやがる?」

     引きつった笑みを浮かべ、一方通行は上条を睨み返す。

    「実験には実験動物がつきもの、ってのは常識だろォが……ワクチン開発のモルモットと、コイツらクローンの、何が違うってンだ」

     先刻、美琴に告げたのと同じ内容の言葉。
     だがそこには、明らかな動揺が見てとれた。
     一方通行自身、自分に言い聞かせるようにしているようにさえ見える。


    273: ◆XtjOmDyc46 2011/05/21(土) 22:00:52.38 ID:rSOcrOj0o


    「研究者は言ってたぜ? 『薬品と蛋白質で構成された人形だって』な」

     一方通行の言葉は事実だ。
     レベル5として、第一位として安定しだしたその能力を更に進める為の実験。
     そこに関与してきた研究者たちは皆、口を揃えて言った。


    『目の前の人形を壊すだけだ』


     目の前で意志を持って動いている彼女らを指して、『人形』だと言った。
     それをハナから鵜呑みにするほど、一方通行も馬鹿ではない。
     自らが関わっておいて信じられなかったその実験手法が、いつの間にか当り前になっていた。

    「この実験の為に作られた人形をぶっ壊してるだ―――」

    「……グダグダうっせぇよ」

     一方通行の言葉を区切り、上条は叫ぶ。

    「俺はこいつらの事も詳しくは知らない。どういう存在なのかも知らねぇ……だけどな、こうやって生きてる以上、人形なんて呼ばせねぇ」

     ちらり、とすぐ近くにいるミサカ9982号に目をやる。
     上条には分からない。
     この個体が9982体目であることも、10000体以上のクローンがいる事も。

    「例えクローンであっても、ボタン一つで大量生産出来るのだとしても、ここにいる妹はこいつだけだろうが!」

     上条の言葉に、ミサカ9982号はハッと息を飲んだ。
     この少年は何を言ってるのだ、と。
     自らのオリジナルである美琴の友人であるとはいえ、一瞬顔を合わせただけではないか。
     ほんの一言、自己紹介にもならない言葉を交わしたのみ。
     それなのに。


    274: ◆XtjOmDyc46 2011/05/21(土) 22:01:18.61 ID:rSOcrOj0o


    「なぜ―――

    「なんで……なんでアンタが出てくんのよ!」

     ミサカ9982号の言葉に、美琴のが問いかけが被る。
     聞きたかったことは同じ。
     関係のない筈である彼が、この状況でなぜ飛び込んでくるのか。

    「わりぃな、御坂……お前は知られたくなかった事かも知んねぇけどよ」

     上条は落ちついた声で続ける。
     ふぅ、と溜息をつき一拍置くと、ゆっくりと振り返った。

    「でも、ほっとけなかったよ」

     にっこりと笑う。
     それは、一瞬だけだった。
     その一瞬の笑顔が消えた後、上条の顔にあったのは酷く真剣で、それでいて激しい怒りだった。
     無二の親友を怒るときのような。

    「ど、どういうことなのよ……?」

     美琴は生唾を飲みこむ。
     鬼気迫るような上条の様子は明らかに異質だった。
     かれこれ一年程の付き合いになるが、こんな荒れた上条を見た記憶はなかった。

    「はァ……で、テメェは何処まで知ってここに来たンだよ?」

     激昂する上条を尻目に、一方通行はまるで他人事のようだった。
     何も知らない奴に言われたくない、とそう言っているかのような目が、上条の視界に入る。

    「俺がコイツらをぶっ殺してきた、くれェは知ってンのか? それとも来てみたら偶々ボコボコにしてる所にぶつかったか?」
     
    「何にも知らねぇよ……でも、放っておけるわけねぇだろ」


    275: ◆XtjOmDyc46 2011/05/21(土) 22:01:55.17 ID:rSOcrOj0o


    「ハッ……正義のヒーローにでもなったつもりかよ? ならなンだァ? 俺をぶっ飛ばしてこの実験を止めりゃァ、お前の勝ちってわけだ」

     そういって一方通行は苦笑する。
     一番の当事者であるというのに、ましてや目の前の少年は自分を殴り飛ばしに来たというのに。
     それを理解した上で、彼は笑う。

    「違う……お前も助けだして、それでやっと俺の勝ちだ」

    「…………はァ?」

     『馬鹿じゃねェのか』と、言葉が漏れる。
     何を言ってるというのだろうか。
     一方通行の顔に困惑が混じる。

     目の前にいる少年の、上条当麻の表情は崩れない。
     あくまで本気で言っているようだった。

    「こんな下らない実験を止めて、御坂達を助けだして、その上でお前もこんな地獄から引っ張り上げてやる」

    「オイオイ、お人好しも大概にしとけよ、三下ァ……ここは悪役の俺をぶっ飛ばして華麗にエンディング迎えるとこだろォがよ」

     一方通行は信じられないような顔だった。
     上条の言っている事が理解できない。
     昔馴染みであるとはいえ、大量殺人犯である人間を、助けだすと言ってるのだ。

    「おかしいだろォが! いくら昔からの知り合いとは言え、情けをかけられる覚えはねェぞ!!」

    「お前だって……こんなことしたくねぇんだろ?」 

     上条の言葉に、一方通行の目が見開かれる。
     反射の壁どころか、全てを突き抜けて直接胸の奥に突き刺さってくるような言葉に、声が出なかった。


    276: ◆XtjOmDyc46 2011/05/21(土) 22:02:25.04 ID:rSOcrOj0o


    「なンだなンだ、なンですかァ!? わざわざ禅問答でもしに来たわけじゃねェだろうがよ、三下ァ!」

    「………」

     上条は何も答えない。
     真っ直ぐに一方通行の目を睨んだままだった。

    「カッ……めんどくせェ、やる気がねェなら邪魔しねェで黙って見てろ」

     舌打ちを一つ打ち、一方通行はその視線をミサカ9982号に向ける。
     上条はその視線を遮るように、彼女の前へと立ち塞がる。

    「御坂!!」

    「っ!?」

     不機嫌な一方通行に視線を固定したまま、上条は後ろにいるであろう友人に声をかける。
     放心気味だった彼女はその言葉にハッとすると、あわてて気を取り直した。

    「妹連れて逃げろ……医者行って治療してもらわねぇと」

    「逃げろ、ってアンタはどうすんのよ?」

    「俺はコイツと話がある」

     美琴は視線を迷わせていた。
     上条の背中と、妹の身体と。
     このまま放っておけば、妹は出血によって無事じゃ済まないだろう。
     だが、かといって上条を置いて逃げれば―――。


    277: ◆XtjOmDyc46 2011/05/21(土) 22:03:00.56 ID:rSOcrOj0o


    「俺は大丈夫だから」

     何を根拠にしているというのだろうか。
     確かに上条にも電撃は通じなかった傷一つ負わせることは出来なかった。
     それでも、ただの無能力者を、関係のない他人を、こんなところにおいていっていいものなのか。

    「御坂……」

    「ああああああ、もう!!」

     美琴は地面を踏みしめてミサカ9982号と上条の元へと駆けよる。
     そしてフラフラしている妹の身体に肩を貸す。

    「絶対、無事で帰ってきなさいよ。今日の有耶無耶になっちゃった約束、今度守ってもらうからね」

    「あぁ……そん時は妹も一緒にな」

     上条の言葉に、美琴は口元を緩める。

    「約束したわよ」

     美琴はそう言い残し、電撃の腕を伸ばしていく。
     先程一方通行に追いつかれてしまったそれも、今度は上手くスピードに乗って行った。

    「何がしてェンだ?」

    「お前とちゃんと話がしたかった。鈴科、あの時から今まで、何があったんだよ?」

     『あの時』、あの別れた時から、互いに連絡はとらなかった。
     お互いに何があったかなど知らない。

    (なにをしてきたか、ねェ……)

     思い出したくもない、そんな過去だ。


    300: ◆XtjOmDyc46 2011/05/28(土) 05:12:14.54 ID:NFLpaoqXo




    「デフォじゃ反射に設定してんだよ」

     ガタイの良い大きな身体が崩れ落ちる。
     その周りにも累々と、似たようなものが転がっている。
     各々、身体のどこかに負傷を負っており、呻きのた打ち回っている者も少なくはない。

    (またかよ……)

     一方通行は溜息をつく。
     順調に強くなった能力は今では学園都市最強と言われるまでになった。
     だが―――。

    (めンどくせェ……)

     一方通行は溜息をついてその場を離れる。

     周りには誰もいない。常に、独りだった。
     かつて、友人として隣にいた少年はもういない。
     そして、嫌々言いながらも面倒を見てくれていたヤクザの親玉みたいなのもいない。

     取り巻いてくる人間は、怪しげな研究者か無謀にも勝負を挑んでくるような馬鹿のみ。
     自分を『一方通行』として、学園都市の第一位としてしか見ていない人間ばかりだった。 
     その大きすぎる力を手に入れた代償、と言えば聞こえはいいかもしれないが、精神的に成熟したわけではない彼にとって、それ厳しいものだった。

    (なァにやってンだろうな、俺は)

     半ば強引に引っ張っていかれ、無理矢理に開発されたレベル5の頂点の力。
     それが一体何をもたらしてくれるの言うのか。


    301: ◆XtjOmDyc46 2011/05/28(土) 05:12:44.98 ID:NFLpaoqXo


     『こんな事になるなら力なんていらなかった』

     
     最近でこそ減ったものの、そんな事を思ったのは一度や二度ではない。
     独り歩く一方通行の耳に悲鳴のようなものが届く。
     声の方向にあったのは小さな公園。どうやら子供が喧嘩でもしているらしい。

    「はァ……」

     溜息が洩れる。
     勝手にやってろ、と言わんばかりに視線を戻し、歩を進めていく。
     別に子供やその喧嘩が嫌いなわけではない。
     五月蝿いのは好むところではないし、駄々をこねるガキはめんどくさい、とは思う。
     だが、今出てしまった溜息はそれによるものではない。
     嫌でも思い出される昔の事が原因だった。

    「元気でやってンだろうな、あの野郎」

     一方通行の脳裏に浮かぶのは黒髪の少年。

     思えば彼との出会いも喧嘩からが始まりだった。
     能力が芽生え始め、低レベルながら軽い『反射能力』が効いていた一方通行に唯一触れられる人間だった。
     その能力ゆえ、親しい友人を作りにくかった一方通行は独りでいることが多かった。
     話くらいはするものの、一定の距離から近づいてこない。

     まるで腫れ物に触るかのような扱いに何度落胆したか分から無くなった頃、黒髪の少年こと、上条当麻はそっと手を差し伸べてくれたのだった。
     彼が他の友人の方へ引っ張っていってくれたわけではない。
     どちらかと言うと、一緒に気味悪がられる事を厭わずに隣にいてくれた、ただそれだけだった。


    302: ◆XtjOmDyc46 2011/05/28(土) 05:13:11.22 ID:NFLpaoqXo


     当時の一方通行にとっては不思議でならなかった。
     その能力によって、見た目にも変化が出だした一方通行に臆することなく差しのべられたその手に。
     どうして一緒にいてくれるのか、と聞いた事もあった。

    『俺も独りにされてるからさ……放っておけなくて………』

     彼は少しだけ恥ずかしそうに、頭を掻いていた。
     彼なりに打算があったのかもしれない。
     自分と同じ、惨めにも独りにされていた仲間、として認識したのかもしれない。

     だが。
     その差し出された手が、どれだけ一方通行を救ったか。
     そして、その力なく笑った顔が、どれだけ眩しく映ったか。
     彼との交友関係はそこから始まる。
     気づいたら一緒にいて、気づいたら唯一の友人だった。
     最初で最後の、友人だった。

    「らしくねェな」

     一方通行は自嘲する。
     過去にすがっても得られる物などない。
     自分の能力にしか興味のない研究者達との契約に従って、能力開発と言う名の監獄に入ることを決めたとき、一緒に誓ったのではなかったか。
     過去には縋らないと。
     過去は捨ててしまおうと。

    「ったく……めンどくせェ」

     もう一度溜息をつく。
     やれやれと肩を落とした時だった。
     不意に現れたスーツの男がこちらを見ているのに気付く。


    303: ◆XtjOmDyc46 2011/05/28(土) 05:13:38.60 ID:NFLpaoqXo


    (あァ?)

     特別にガタイが良いわけでもなければ、チャラチャラした格好なわけでもない。
     キッチリとした服装をした知的そうな男だった。
     余裕のある笑みを浮かべているその男に対し、一方通行は忌々しそうに舌打ちをする。
     この手の人間が一番厄介であることを一方通行は知っていた。

    「ちょっといいですか?」

     恐らくはさっきのチンピラを差し向けたのはこの男だろう。
     『駒がどうなろうと興味がない』とか漫画のような事を言ってしまう人間かどうかまでは知らないが、少なくとも転がっている奴らには目もくれてはいない筈だ。

    「なンの実験のお誘いだ?」

    「おっと……流石は学園都市の第一位。大した洞察力ですね、とでも言っておきましょうか?」

     誉めているのか馬鹿にしているのか判断のつかない言葉。

    「洞察、っつー程のもンでもねェよ。この俺に突っかかって来るようなヤツは第一位の座を狙うような馬鹿か、テメェらみたいなスカウトかどっちかしかいねェ」

    「なるほど……まぁ、貴方の仰る通りですよ。とある実験、それも貴方にしか出来ない実験への誘いに、ね」

    「ハッ……わざわざ御苦労なこった」

     そんな男の態度に動じることもなく、一方通行は再び足を動かす。
     ちょうど、その男の真横を通りぬけた時だった。

    「現状に満足してますか?」

     男の言葉に、一方通行は足を止めた。


    304: ◆XtjOmDyc46 2011/05/28(土) 05:14:06.34 ID:NFLpaoqXo


    (満足してるか、だと?)

     ギロリ、と鋭い目で男を睨む。
     一方通行が視線に感情を宿らせるのは珍しいことだった。
     ちょうど考えていたことだ。
     自らを取り巻く現状と、そしてかつて居た懐かしい場所について。

    「その目……満足されてはいないようで」

    「知ったような口聞いてンじゃねェぞ……テメェに何が分かる」

     他人を小馬鹿にしたような男の口調に、一方通行は警戒心を強めていく。
     サングラスに隠された男の目は何を示しているかは分からない。

    「何が分かる、ですか………そうですねぇ。貴方が考えている事をおおよそは、と言っておきましょう」

    「……オマエ、能力者か?」

     一方通行の言葉にも男は表情を崩さない。
     肯定とも否定ともとれるその表情は曖昧に笑ったままだった。

    「私の素性はさておき。もう一度お聞きしましょう、一方通行。貴方は自身を取り巻く現状に満足していますか?」

    「…………」

     ギリッ、と。一方通行は奥歯を噛みしめる。
     能力の強さも申し分ない。実験やら奨学金やらで金に困る事もない。
     だが。


    305: ◆XtjOmDyc46 2011/05/28(土) 05:14:33.73 ID:NFLpaoqXo


    「確かに貴方は学園都市『最強』だ」

    「何が言いてェ?」

     男はニヤリ、と口元を歪める。
     予定調和な会話に満足しているようにも見えた。

    「もし貴方がこれで『最強の先』に行くことが出来たならば、取り巻く環境も変わるかもしれないですね」

     そう言って、男はサングラスを上げる。
     感情は読み取れない。何を考えているのかも分からなかった。

    「くっだらねェな……」

    「この『絶対能力進化実験』、参加するか否かは貴方次第ですので……お待ちしてますよ」

     そう言って、男は背を向ける。
     罠かもしれない。
     それをねじ伏せるくらいの力はあるとは言え、わざわざそこに飛び込むのは煩わしい。

    「絶対能力、ねェ……」

     一方通行は上を見上げる。
     ふと周りを見たときには既に学園都市のトップに立っていた彼にとって、気にした事はない光景。
     もし『最強の先』があるならば―――。

    「無敵、ってコトか?」


    306: ◆XtjOmDyc46 2011/05/28(土) 05:14:59.21 ID:NFLpaoqXo


     もしそうであるならば。
     誰も手を出そうと思わない、誰も近づこうと思わない絶対の存在になりさえすれば。

    「………おもしれェ」

     一方通行は口元を歪める。
     無敵になれば、誰も近づかなければ、さっきのように下らない争いにに巻き込まれる事もない。
     そうすれば、誰も傷つけなくて済む。

    「オイ、オマエら」

     スーツを着た男が振り向く。サングラス越しにも分かるくらいに楽しげな顔だった。

    「その実験、詳しく聞かせろ」

     ニヤリ、と男が笑う。
     まるで一方通行がそう言う事を分かっていたというような顔で、彼はその表情を作っていた。

    「ここから先は学園都市の『闇』に触れることになります。もう、戻れなくなるかもしれませんよ?」

     男の言葉に、一方通行は逡巡する。
     そして、一拍を置くように、肺に溜まった息を吐きだす。

    「上等だ……俺に戻る先なんてねェよ」

    「どうぞよろしく、新入りさん」


    309: ◆XtjOmDyc46 2011/05/31(火) 19:01:28.80 ID:RaCc1kI5o




    「ふむ……急患と言うから何事かと思えば」

     手術衣を着た、カエルによく似た顔の医師がぼやくように呟いた。

    「大怪我を負った双子ってのは珍しいね?」

     手術室の前、待合場所のような小スペースに、収まっている美琴にそう声をかける。

    「……先生」

    「心配するな、妹さんの命は必ず助ける」

     カエル顔の医師の言葉に、美琴は小さく息を吐く。
     緊張していた身体から力が抜け、その場にへたりこんでしまった。

    「………まだ、落ちつくには早いわよ、美琴」

     それでも、美琴は自分の両頬を二度叩くと、気を入れ替えたように立ち上がる。
     手術を受けることになる妹の事も確かに心配だ。
     悲劇のヒロインを演じるならば、ここでミサカ9982号の手術を見守るのもアリだろう。

     だがそれで、救えるはずのもう一つの命を放り出すわけにはいかない。
     一方通行との、自分と妹の問題である中心点に放り出してきた馬鹿なお人好しを迎えに行かなくてはならない。
     心のモヤモヤを絞り出すようにして、大きく息を吐きだす。
     冷たい床から立ち上がり、ミサカ9982号の眠っているであろう手術室のドアに背を向ける。

    「君たちが何に巻きこまれてるかは聞かないよ? でも、子供があまり危ない場所に突っ込むのは感心しないね」

     背中越しに、カエル医師の言葉が飛んだ。
     身体を半分だけそちらに向ける。
     酷く真剣な顔をした医師がそこにいた。
     情けやちょっとした心配で浮かべているそれとは違う、真摯に子供を思うような顔だった。


    310: ◆XtjOmDyc46 2011/05/31(火) 19:01:58.87 ID:RaCc1kI5o


    「でも……行かなきゃだめなんです」

    「君も僕の患者だ。処置を受ける前に帰すわけにもいかないんだけどね?」

    「アイツが……妹をあんなにした場所に、お節介を一人で置いて来てるんです」

     美琴は医師から目を放し、一歩前へと進む。

     そう。

     いつまでも上条を放っておくわけにはいかない。
     全く歯が立たなかったとはいえ、レベル0を闘わせておいて、レベル5がのうのうとしているわけにはいかない。
     ふむ、とイマイチ納得出来ていないような医師を置いて、美琴はもう一歩踏み出した。

    「闘う覚悟は、あるんだね?」

    「……例え、私がどうなっても―――」

    「そうじゃないね。その戦場に戻っても、君は絶対に手を出しちゃいけない。戦っちゃいけない」

     美琴の足が止まる。
     確かに何もできないかもしれない。
     かえって邪魔になるかもしれない。
     それでも、何もしないよりはマシじゃないか、と。

    「君の気持ちも分かる。だけどね、もし君がそこで怪我でもすれば、君を必死に逃がしたそのお節介さんの意思はどうなるんだい?」

     美琴は唾を飲み込む。
     何のために上条が身体を張って逃がしてくれたのか。
     ミサカ9982号と共に、命の危機から救い出してくれたというのに。
     その意志を曲げてまで、戦場に飛び込む意味があるのか、と。
     カエル顔の医師はそう言っていた。


    311: ◆XtjOmDyc46 2011/05/31(火) 19:02:26.48 ID:RaCc1kI5o


    「で、でも……アイツは関係なくて……アイツが怪我を、傷を負う理由なんてないのに……」

     美琴の言葉が震える。
     無力な自分を責めているようだった。

    「もしここから戦場に戻ったときに、彼がどうなっているかも分からないんだろう?」

    「………」

     学園都市の第一位と、無能力者の戦い。
     本来なら数分も持たずに終わる戦いだ。
     既に手遅れで、美琴が戻ったときには跡形もなく集結している可能性だってある。

    「状況がどうなっていても受け止める自信があって、絶対に手を出さずに、自分一人でも生きて帰れる覚悟があるなら、行くといい」

     震える足は言う事を聞かない。
     前にも後ろにも、上手く動かない身体を叩く。
     ここで全てを投げ捨てて逃げてしまえれば、こんなに楽なことはないだろう。

    「……ちゃんと帰ってきます」

    「君が出来る事は全て終わった後に、彼を連れて帰って来ることだけだ」

    「大丈夫……アイツはきっと―――」

    「甘い考えなら捨てることだね。厳しいかもしれないが、世の中はそんなに優しく出来てない」

     実感のこもった言葉に息を飲み、美琴は前へと踏み出す。
     絶望しか残っていないかもしれない戦場へと、再び足を踏み出す。

    「二人一緒に帰っておいで。死なない限りは助けてやる」

     そう言って、カエル顔の医師は手術室のドアの向こうへと消えた。


    322: ◆XtjOmDyc46 2011/06/08(水) 20:23:22.15 ID:e3d7NYMPo




    「何があったか……それをテメェに話して何になンだ? 今までの事がチャラになンのか?」

    「そういう問題じゃねぇ。俺の知ってるお前は、こんな下らない事するような奴じゃなかっただろうが」

    「あァ!? テメェに何が分かってたってンだァ?」

     上条の言葉に一方通行は歯噛みする。
     その言葉は、一方通行が今まで何をしてきたかを知らないからこそ出るものだ。
     そして、どのような生き方をしてきたかを知らないからこそ、簡単にそんな事が言えるのだ、と。

    「『俺の知ってるお前』? ふざけてンじゃねェぞ、三下がァ!!」

     だから、気に入らない。
     軽々しくそう言えてしまう、上条が、その弱さが、強さが。全てが気に入らない。
     一方通行は地面を蹴る。
     飛び出した彼の身体は真っ直ぐに上条へと突き進む。
     その細い腕を振りかぶり、雑に振り抜く。
     おおよそ喧嘩慣れしていないであろう、気の抜けたような拳が上条の腹へと突き刺さる。

    「っ!? が……は」

     速度がついていたとはいえ、握り方もおかしいような、貧弱な当て身な筈だった。
     にもかかわらず、上条の身体はごろごろと数メートルも後ろへと転がる。

    「か……ふ……っ」

     胃の内容物が逆流するような感覚に、上条は胸を抑える。


    323: ◆XtjOmDyc46 2011/06/08(水) 20:24:33.58 ID:e3d7NYMPo


    「変わったんだよ……あれから何年経ったと思ってやがる。青くせェガキみたいだった頃の幻想を、いつまでも大切にしてんじゃねェぞ!」

     一方通行は絶叫する。
     心の奥にある、僅かな希望や光を掻き消すように。
     己のしてきたことから逃れようと、助けに縋ろうともがく自分を吹き飛ばすかのようだった。

    「あンときはまだ貧弱だった『一方通行』も、今じゃこの街のトップだ……テメェなんざに助けられる言われはねェンだよ、三下ァ」

     真っ直ぐに立つ一方通行の数メートル先で、上条は地面を転がっていた。
     乱れる息を整え、その白い姿を見る。

    (なにが最強だ……)

     唾と一緒に口に溜まった血を吐きだす。
     先程とは全く逆の状況。
     目の前の友人から感じるのは、学園都市第一位としての無言の圧力。
     昔は感じたことのないものだった。

    (なにが、レベル5だ……)

     上条は右手を握る。
     恐怖に対する、死に対する本能からか、自然と震える足を叩き、その身を起こす。
     話し合いで止まればと思っていた。
     甘いと言われようとも、強引に力でねじ伏せては意味がない、と。
     一方通行の心の奥まで引っ張り上げてやらないと、この戦いに何の価値もない、と。
     上条はそう感じていた。

    「変わっちまったんだな、お前」

     赤い目を睨みつける。


    324: ◆XtjOmDyc46 2011/06/08(水) 20:25:23.89 ID:e3d7NYMPo


    「だったら、もう一度思い出させてやるだけだ」

     ギリッ、と奥歯を噛みしめると、上条は一方通行へと突撃していく。
     頼れるのは右拳のみ。なんとかして近付かなくてはならない。

    「うおおおおおおおおおおおおおお!!」

     腰を低く落とし、上条は一方通行との距離を詰めていく。
     馬鹿正直と言われればそうだが、なんの能力もない上条には真っ直ぐに攻めるしかない。

    「はァ……幾らなんでも真正面ってのはねェだろ?」

     真っ直ぐに突っ込んでくる上条に呆れつつ、一方通行は地面を軽く蹴る。
     ゴバッ、という爆発と共に砂利の敷き詰められた地面が吹き飛ぶ。
     一つ一つが弾丸のような勢いを持った石が上条をめがけて飛んでいく。

    「ぐぅっ……」

     ふわりと上条の身体が浮き、吹き飛ばされた砂利と共に後ろ向きに飛んでいく。

    (な、なんだ……!?)

     地面を転がるようにして衝撃を殺し、再び立ち上がる。
     それとほぼ同時、上条の視界がレールに覆われる。

    「う、わっ!?」

     危機一発、身をかがめてそれを回避する。
     勢いのついた金属のレールが上条の髪の先を撫でていった。

    「まだまだァ!!」


    325: ◆XtjOmDyc46 2011/06/08(水) 20:26:20.29 ID:e3d7NYMPo


     ヒュンヒュンと舞うレールが幾重にも重なって上条を襲う。
     雨のように降り注ぐそれを寸でのところでかわす。
     だがそれは、上条の運動能力が優秀で回避しているというよりも、ギリギリ回避できるように計算され尽した攻撃のようだった。

     地面に突き刺さっていくレールが激しい音を鳴らす。
     飛び交っていたそれの最後の一本を懸命に避け、地面に転がる。
     積み上げられていたコンテナを崩す程の、地震のような衝撃が収まり、操車場が水を打ったように静かになった。

     もうもうと立ちこめる土煙の中で、上条は荒い息を整える。
     殴って目を覚まさせる、と言葉にすれば簡単ではあるが、そう上手くは行かない。
     相手は腐っても『超能力者』の頂点にいるのだ。 
     自らを補強する術のないただの『無能力者』である上条には真正面からぶつかる他に術はない。

    「足止めンじゃねェぞ」

     最強の言葉が、最弱の耳に届く。
     レールの嵐を降り止んだと思ったのも束の間。
     立ちこめる砂煙を大きく飛び越えるように、一方通行が上条に向けて降ってきた。
     空を飛んできたとも、跳躍で飛び越えてきたとも違う、重力を無視して宙から降りて来たような軌道だった。

    「足止めたらテメェは死ぬ。逃げ回るだけでも、だ」

     すっと、一方通行が両手を挙げた。 
     握るか握らないかの中途半端な手を、上条に向ける。

    「どォする? ジリ貧になるまで逃げ回るか。さっさと死んで楽になるか。何にしてもテメェの目的は達成されてンだろ?」

    「……御坂達を助けれた、って事か?」

    「まァ、妹の方は時間稼ぎ程度だったがよ」

    「じゃぁまだだ……お前が改心してくれるまでは、俺は諦めない」


    326: ◆XtjOmDyc46 2011/06/08(水) 20:27:05.69 ID:e3d7NYMPo


     荒い息で、震えてしまいそうな声で、上条は一方通行へと告げる。
     震える身体を支え、真っ直ぐ、紅い双眸を見据える。
     迷いなどなかった。
     ここに、この実験に飛び込むまでの間に覚悟は決めていた。
     例え自らの身がどうなろうと、馬鹿な昔馴染みを引っ張り上げてやると。

    「目ぇ覚めるるまで、何度でも殴ってやるよ」

    「そォか……」

     上条の言葉半分聞き流し、一方通行は地を踏みしめた。
     たったそれだけ、予備動作や溜めすらも必要なく、彼の身体が上条の目の前まで進む。
     それほど速くない、力のない一方通行の両拳が上条へと迫る。

     一つ一つが最新鋭の科学で補強された、世界最強の破壊力を持つ手。
     上条はそれを丁寧にかわし、あるときは右手で受け止める。
     喧嘩慣れしていない相手のものとは言え、一瞬の油断が上条の命を奪う。

     頼りなる武器などない。
     RPGのように最強の武器なんて装備もなければ、相手の弱点となるアイテムも存在しない。
     唯一の対抗手段となる『幻想殺し』の宿る右手も、出しどころを間違えれば死へのカウントダウンとなる。

    (それにしても、だ……)
     
     慣れてきた目で必死に相手の攻撃を捉え、正確に回避迎撃する中、上条の脳裏にふとした疑問が浮かぶ。
     単純に勝利だけを目指すなら。侵入者の殺害だけを目的としているなら。
     『一方通行が上条を殺すことだけを考えたなら』

    (距離とってレールやコンテナで攻撃した方が安全で効率的に決まってんだろ)

     近距離での一撃、それも右手一本しか攻撃手段のない上条に対し、わざわざ接近戦を挑む理由がない。
     手の届かない範囲、もっと言えば百メートル近い距離を取ったとしても、一方通行は人を殺せるに十分な術を備えているだろう。
     現に、最初にやったレールでの攻撃はまともに受ければ一撃で上半身を持っていかれる程のものだった。


    327: ◆XtjOmDyc46 2011/06/08(水) 20:27:54.13 ID:e3d7NYMPo


    (そういえばコイツ……その時もおかしかったよな)

     攻撃にキレがない。
     手加減、と言えばそれまでかもしれない。
     準備体操だと、運動だと、健気な努力を続ける上条への温情采配的なものと言われればそうかもしれない。
     だが。
     そのキレのなさが、どこか心の奥から来るものだとしたら。

    (もしアイツが、自分では止まれないなら―――)

     目の前のレベル5が、凶悪な実験に身を投じていた少年が。
     誰かに止めて欲しいと叫んでいるとしたら。
     
    (俺も守ってばっかじゃダメだよな)

     一方通行の伸ばした左腕をかわし、上条は身体の重心をずらす。
     ちょうど攻撃を受け流したような形で、上条は相手の左懐へと潜り込んだ。  
     
    「うおおおおおおおおおお!!」

     拳を握る。
     支点をずらされ、初動の遅れた一方通行も右手を握っていた。
     腰を捻り、腕を振りかぶる。
     全身の力を込めた一撃が、一方通行の脇腹へと突き刺さる、

    「ごフッ!」

     ぐらり、とよろめく一方通行に対し、上条は一瞬だけ顔を曇らせた。
     喧嘩に情けは無用だ。
     相手を気遣っていては倒せるものも倒せない。
     それでも。
     少しだけ、後ろめたいものを感じる。


    328: ◆XtjOmDyc46 2011/06/08(水) 20:28:24.25 ID:e3d7NYMPo


     再び一閃された上条の拳が、正確に顎へと刺さる。
     後ろ向きに飛んだ一方通行の身体を見送り、上条は肩に溜まった力を抜いた。

    「ちょっとは目、覚めたかよ……」

    「………」

     答えはない。
     意識が飛んでいるわけではなさそうだった。
     答えに困っているような、そんな空白だった。

    「立てよ……お前が悩んでること全部、俺がぶっ壊してやる」

    「はァ……ちくしょう………めンどくせェ野郎だぜ」

     目の前のお節介に、一方通行は悪態をつく。
     他人の事情に土足どころか、ロードローラーで乗り上げてくるような馬鹿に、呆れるしかなかった。

    「悩みは全部ぶっ壊してやる……だと?」

     その場に立ちあがり、上条を睨む。
     黒髪の奥に見えるのは、譲らない顔だった。

    「どォ考えても悩みってレベル越えてンに決まってンだろ? 一万人近くの『妹達』をぶっ殺した俺に、テメェは何を求めてる?」

     上条は応えない。
     一方通行の叫びは、静かな操車場全てへと届く。
     それは孤独の中で必死に叫んでいた幼い頃の一方通行を示しているようだった。

    「謝って許される話じゃねェのはオマエも分かってんだろ? 俺はもう止まれねェ。テメェか、もしくは他の誰かが、俺をぶっ殺すまでは実験は止まらねェンだよ!」

    「………ほんとにそうかよ」

    「あァ!?」


    329: ◆XtjOmDyc46 2011/06/08(水) 20:28:51.80 ID:e3d7NYMPo


     上条の言葉は淡泊だった。
     感情すらこもってないのではないかというような、冷たいものだった。

    「お前の、鈴科の意思はどうなのか、って聞いてんだ」

     上条の言葉が一方通行へと突き刺さっていく。
     ひとつ、またひとつとつ。
     一方通行はブンブンと首を振る。
     聞きたくないと、煩わしいと言わんばかりに。

    「うおおおおあああああああああああああァァァァァァァァァァ!!」

     ゴッ、と。竜巻のような突風が吹き荒れる。
     突き刺さっていたレールも、コンテナも全てが吹き飛ぶような突風だった。

    「ぐ……あがっ!?」

     それは、簡単に上条を持ちあげると、その身体を容赦なく地面へと叩きつける。
     ゴギ、という鈍い音がし、上条の口の中に血の味が広がった。

    「俺の意思なンてもンはもう関係ねェ! 必要なのは俺じゃねェ……『一方通行』だ。能力以外に価値のねェ人間が、その能力を捨てられると思ってンのか?」

     一方通行が地面を蹴る。物理法則も、人間の常識をも無視した速度。
     一直線に上条の元へと飛んで行く。

    「くっ……」

     砂利の敷かれた地面を転がり、その勢いで立ち上がる。
     次の瞬間には、一方通行の足蹴りがさっきまで転がっていた場所へと突き刺さった。
     ビリビリと地面が揺れ、小石が撒き散らされる。

    「があああああァァァァァァァァァァ!!


    330: ◆XtjOmDyc46 2011/06/08(水) 20:29:37.71 ID:e3d7NYMPo


     一方通行の腕を右手で掴みとる。
     乱暴にその腕を払い、強引に隙をつりだす。

    「この、馬鹿野郎!!」

     一方通行の襟首をつかみ、顔ごと引き寄せる。
     額同士がぶつかりそうな距離で、上条は叫んだ。

    「その能力が必要かどうかなんて聞いてねぇ! お前は何のために、この実験に参加したんだよ!」

    「……テメェみたいな馬鹿が、ウザってェガキが、俺に絡んでこないようにするには……俺自身が誰も手を出せない無敵になるしねェだろうが……」

     その体勢のまま、一方通行は続ける。
     手を伸ばせば、相手を黙らせられる。
     絶好の好機ともいえるその状況で、一方通行は力なく立ちつくしていた。

    「触れるだけで相手を傷つけちまうよォなら、誰にも触れられなきゃいい。これ以上、誰も傷つけないようにするには、他に手がねェンだよ!!」

     本心を語ったのはいつ以来だろうか。
     一方通行は荒くなった息を落ちつかせるように、大きく息を吸った。
     ここまで真剣にカッとなることも、久しぶりだった。

    「それなら……なんで『妹達』を傷つけたんだよ! いつまでもあんな実験を続けてたんだよ! 実験ごとぶっ潰してしまえる力ぐらいはあんだろ! 他人を傷つけないように守る術だってあんだろうが!」

    「っ!?」

    「ここは止めてやる。もし、またお前が実験に参加させられるってんなら―――」

     上条は掴んでいた一方通行を放す。

    「まずはその幻想をぶち殺す!!」

     ゴン、と。
     一方通行は脳が揺れるのを感じた。
     ふらり、と身体が崩れ落ち、視界が明滅する。

    「………もう一回、悩み抜いてみろよ、親友」


    331: ◆XtjOmDyc46 2011/06/08(水) 20:30:11.75 ID:e3d7NYMPo


    終章  名前  Do_you_think_about_me?



    「……ンァ?」

     ゆっくりと目を開ける。
     見なれない白い天井に、鼻をつく薬品の匂い。
     カーテン越しの陽光に、一方通行は眩しそうに顔をしかめた。

    「お、起きたか?」

    「………なンでオマエがいンだよ?」

    「おいおい、そりゃねぇだろ」

     不機嫌極まりない一方通行の物言いに、上条は頭をかく。
     どこか困ったように視線を彷徨わせているお節介を傍目に、白髪の少年は溜息をついた。

    「気絶するくらいに殴り飛ばしたよォなヤツに、なンで愛想良く出来ンだ?」

    「それは……そうだけど」

     やれやれ、と肩を落とす。

    (そもそもコイツはなンでこんな馴れ馴れしく来れンだ)

     昨夜は盛大に喧嘩をした仲だ。それも最悪の。
     いくら幼馴染と言えど、数年越しに会って殺しあいに近い戦いを繰り広げたというのに。

    「ま、元気そうでなによりですよ。上条さんは安心しました」

    「ハッ……テメェでぶっ飛ばしといて、それを言えンなら世話ねェな」


    332: ◆XtjOmDyc46 2011/06/08(水) 20:30:47.35 ID:e3d7NYMPo


     ベッド脇のパイプ椅子に座る上条を睨みつける。
     それでも上条は昨日と違って、柔らかな笑みを浮かべていた。
     そんな顔がまた、一方通行をイラつかせるとも知らずに。

    「なぁ、鈴科」

    「なンだ」

     ぶっきらぼうに答える。
     無視しても良かったのだが、恐らく返事をするまで帰ってくれないだろう。

    (昔から変なとこだけはうるせェヤツだったな、そういえば)

    「これ、まだ持っててくれたんだな」

     上条は棚に置かれた細い鎖を持ちあげる。
     その先に吊るされているのは黒い指輪。
     ちょうど、上条が首から下げているものと同じデザインだった。

    「………うるせェ」

    「なんだ、照れんなよ」

    「うっせェンだよ、三下ァ!!」

     掛けられていた薄いシーツを吹き飛ばすような勢いで、一方通行は上条へと噛みつく。
     だが、その目に敵意はなく、上条としても懐かしく思えた。

    「お前さ………これからどうするつもりだ?」

    「どォいう意味だ?」

     乗り出してしまった身体を迷わせ、一方通行は仕方ないといった調子でベッドへと戻る。

    「ミサカ……アイツに聞いた話だけど、あの実験は完全凍結になるみてぇだしよ……」

    「ハッ……俺はクビってわけだ」

    「そういう話じゃねぇよ」

    「お前に心配されなくても、身の振り方くれェはなンとかする……」


    333: ◆XtjOmDyc46 2011/06/08(水) 20:31:23.97 ID:e3d7NYMPo


     一方通行は視線を上条から外し、窓の方を見る。
     カーテンの隙間から見える風景はいつもと何も変わらない。

    「今までの事について言い訳する気はねェ。こっから先は、俺の問題だ。オマエに心配される筋合いも、気を遣われるいわれもねェよ」

    「……あんまり、抱え込み過ぎんなよ?」

    「お前に言われりゃ世話ねェよ」

     違いねぇ、と上条は溜息をつく。
     苦笑い、と言ったような、力のない笑みを浮かべる。
     表情こそ見えないものの、一方通行も似たような顔をしているのだろうと、勝手に想像しておく。

    「じゃぁ、上条さんはお暇しますかね。ミサカんとこにも行ってやんなきゃダメだしな」

    「二度とくンな、三下」

     犬猫を追い払うように、一方通行は手を振るう。
     追い払う気があるのかないのか分からないくらいの、やる気のないものだった。

    「三下三下って……昔みてぇに名前で呼んでくれねぇのかよ?」

    「オマエだって、名前呼びしてるわけじゃねェだろォが」

    「ハイハイ、そうですね、鈴科くん」

    「くン付け、とかしてんじゃねェよ」

    「ぷぷー。昔は誰構わず『くん』付けで呼んでたじゃねぇか。それともあれか、鈴科ちゃんとかのがよかったか?」

    「………オマエ、本当に上条か?」

     一方通行は怪訝な表情で上条を見る。
     彼の知る上条はもっと弱々しかったはずだった。

    「ん?」

    「お前……上条か?」

     疑るような、呆れるような一方通行の顔に、上条はにっと笑いかける。

    「正真正銘、上条当麻だよ」

     パイプ椅子から立ち上がり、上条は個室の出入り口へと向かう。
     一方通行は上条の背中へと目を向ける。
     昔から比べると随分と大きくなったその背も、どこか懐かしく感じられた。



    終わり


    339: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/08(水) 21:29:55.00 ID:UwqcRtVDO

    乙!
    きれいに終わってよかったよ
    だがなんだこの胸の寂しさは……


    340: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県) 2011/06/08(水) 21:44:58.13 ID:t3d4+cLN0

    乙!すごくおもしろかったです!
    終わったと思うと残念です
    欲を言うと友情エピソードを読みたかったかな。。

    またSS書いてくださいね!


    341: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/08(水) 21:50:13.13 ID:My16nd+E0

    ちょっと長いプロローグだとばかり思っていたのに終了だと…
    ともあれ乙!もし余裕あったらまた続き書いてくれると嬉しい!


    引用元: 一方通行「お前……上条か?」

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