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    ヘッドライン

    お嬢様「お手洗いで食べるご飯がこんなに美味しかったなんて!」

    1: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/19(木) 11:55:36 ID:.ifnVuEU

    お嬢様「それとも、あなたと一緒だからかしら?」

    男(出てってくれないかなぁ・・・)



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    2: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/19(木) 11:56:00 ID:.ifnVuEU

    お嬢様「どうかした?」

    男「ここ、個室なんだけど・・・」

    お嬢様「そうね」

    男「しかも、男子トイレの」

    お嬢様「知ってるわ」

    男「・・・あの、出てってくれない?」

    お嬢様「イヤよ」


    3: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/19(木) 11:56:46 ID:.ifnVuEU

    男「・・・・・・」

    お嬢様「・・・・・・だいたい」

    お嬢様「鍵を掛けない、あなたがいけないのではなくて?」

    男「掛けようとしたら、キミが駆け込んできたんだけど」

    お嬢様「そうだったかしら?」

    男「それにここ、ご飯食べるところじゃないから」


    4: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/19(木) 11:58:38 ID:.ifnVuEU

    お嬢様「あら、あなただって、お弁当広げているじゃない」

    男「・・・僕は、いいんだよ」

    お嬢様「そんなの納得いかないわ」

    お嬢様「なんであなたは良くって、わたしはダメなの?」

    お嬢様「あなたがよそへ行かない限り、わたしもここにいますから」

    男「・・・じゃー、わかったよ。いいよもう」

    男「隣の個室が空いてるから。そっちで食べていいから、ね」


    5: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/19(木) 11:59:09 ID:.ifnVuEU

    お嬢様「ここで食べるわ」

    男「狭いじゃないか」

    お嬢様「気にしないわ」

    男「僕が気にするんだよ」

    お嬢様「器量の小さい男ね」

    男「・・・」


    6: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/19(木) 11:59:45 ID:.ifnVuEU

    お嬢様「時間、なくなってしまうわよ?」

    男「・・・いただきます」パカ

    お嬢様「・・・」ジー

    男「なに?」

    お嬢様「その・・・玉子焼き、美味しそうね」

    男「べつに。ふつうだよ」

    お嬢様「少しわたしに・・・、あ」


    7: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/19(木) 12:00:28 ID:.ifnVuEU

    お嬢様「こ、交換っことか・・・しない?///」

    男「え?」

    お嬢様「いいでしょ、ね、ねっ?」

    男「キミのその・・・、えぇと」

    お嬢様「クラブ・サンドウィッチよ」

    男「それ、サンドイッチなんだ」


    8: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/19(木) 12:01:00 ID:.ifnVuEU

    お嬢様「食べたこと無い?」

    男「サンドイッチはあるけど・・・」

    男「それ、中身なに?」

    お嬢様「ハムと卵とお肉と、トマト」

    お嬢様「あと、トリュフよ」

    男「トリュフ?」

    お嬢様「ただのキノコよ」

    男「サンドイッチにキノコ?」


    9: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/19(木) 12:01:28 ID:.ifnVuEU

    お嬢様「はい、どうぞ」

    男「・・・・・・」

    お嬢様「それじゃあ、わたしはこれいただくわね」

    お嬢様「・・・!わぁ、おいしいっ」

    男「・・・」モグモグ

    お嬢様「玉子焼きって、こんなに甘くてとろ~ってしてたのね」

    男「うん」


    10: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/19(木) 12:02:11 ID:.ifnVuEU

    お嬢様「・・・そっちは、あまり口に合わなかったかしら?」

    男「そんなことないよ」

    男「ただ、いつも食べてるサンドイッチと全然違ったから」

    お嬢様「そう・・・次は、もっとあなたの口に合うものを作らせるわね」

    男「うん。・・・ん?」


    11: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/19(木) 12:02:53 ID:.ifnVuEU

    お嬢様「ごちそうさま」

    男「あれ、もう? まだサンドイッチ残ってるよ」

    お嬢様「あなたの玉子焼きで、おなかいっぱいになっちゃったのよ」

    男「! ぜんぶ食べてるし・・・」

    お嬢様「よかったらこれ、食べてくれないかしら?」

    お嬢様「もし食べ切れなかったら、棄ててしまって構わないから」


    12: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/19(木) 12:06:35 ID:.ifnVuEU

    お嬢様「それじゃ、またね」バタン

    男「・・・」パク

    男「・・・・・・」モグモグ

    男「うん」

    男「サンドイッチにキノコ、意外にイケるね」


    21: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/20(金) 12:37:21 ID:O4CR8UtI



    女子生徒A「昨日のドラマみたー?」

    女子生徒B「見た見た、キモタク超ヤバかったよねー!」

    ・・・

    男子生徒A「帰りゲーセン寄ってかね?」

    男子生徒B「いいねー。今日は隣街の、1ラインシャッフルのとこ行こうぜ」


    22: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/20(金) 12:37:57 ID:O4CR8UtI

    ・・・

    女生徒C「え~、それってほんとー?」

    女生徒D「マジマジ、あたし卒業した先輩から聞いたんだから」

    ・・・

    男子生徒C「Pubで一緒になったクソ外人のせいで、俺のHCウィズ子ちゃん(Lv58)がお亡くなりに」

    男子生徒D「だから、ワンパンマンなんかと組むのは止めとけって言ったろ」

    ・・・


    23: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/20(金) 12:38:31 ID:O4CR8UtI

    お嬢様「・・・」

    男(見事に孤立してるなぁ・・・)

    男(そうだ。たしかあの子、一週間前に転入して来た、お嬢様さんだ)

    男(自己紹介で盛大にやっちゃってからこっち、そのままズルズルきちゃったんだな)

    男(この特別教室での授業にしたって、お嬢様さんの周りだけ人が座ってないし)

    男「・・・それは、僕も一緒か」ボソ


    24: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/20(金) 12:39:10 ID:O4CR8UtI

    お嬢様「・・・」ガタッ

    男「ん?」

    お嬢様「・・・」スタスタ

    男「あれ?」

    お嬢様「・・・」トスッ

    男「え・・・」


    25: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/20(金) 12:39:37 ID:O4CR8UtI

    お嬢様「ここ、座ってもいいかしら?」

    男「もう、座ってるじゃない」

    お嬢様「空いてるんだから、いいわよね」

    男「自分で訊いて、自分で答えちゃったよ」

    生徒たち「・・・・・・」ジーー

    お嬢様「・・・」

    男「・・・」


    26: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/20(金) 12:40:20 ID:O4CR8UtI

    ガラッ

    教師「全員、席に着けー」

    お嬢様「・・・・・・テキスト」

    男「え?」

    お嬢様「忘れてしまったのよ。・・・見せてくれないかしら?」

    男「いや、さっきの席に置――」

    お嬢様「見せてくれるわよね?」


    27: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/20(金) 12:42:22 ID:O4CR8UtI

    教師「よし、授業はじめるぞー」

    お嬢様「・・・」

    男「・・・いいよ」スッ

    お嬢様「少し、見にくいわ」

    男「ちゃんと真ん中に置いてるよ」

    お嬢様「もっと、こっちに寄ってくれない?」

    男「え?」

    お嬢様「いいわ。わたしがそっちへ行くから」


    28: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/20(金) 12:43:19 ID:O4CR8UtI

    男「な・・・」

    男(腕が触れそうなくらいくっついてきた・・・)

    お嬢様「こ、これでいいわ///」

    お嬢様「・・・い、いいわよね?」

    男「・・・うん」

    生徒たち「・・・・・・」ポカーン

    教師「こら、お前らよそ見してるんじゃない!」

    男(はやく終わらないかなぁ・・・)


    30: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/21(土) 07:52:38 ID:l24p3bmI



    友「男、いまから帰りか?」

    男「友・・・うん、まぁ」

    友「なら、俺も帰ろうかな」

    男「でも・・・」

    友「坂を下るまでは一緒だろ?」

    男「うん」


    31: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/21(土) 07:53:50 ID:l24p3bmI

    後輩「友せんぱぁ~い!」

    友「ん?」

    後輩「あのぅ、いまから友達とみんなでカラオケ行くんですけどぉ~、よかったら・・・」

    友「ワリ。今日は、こいつと一緒に帰るから」

    後輩「えぇ~・・・」チラ

    男「あ、おれはべつに・・・」(「おれ」のイントネーションは語尾上がり)


    32: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/21(土) 07:54:52 ID:l24p3bmI

    友「また今度誘ってくれよ、な?」

    後輩「友先輩、いっつもそう言って、一緒してくれないんだもん~」ムスー

    友「今度は都合のいい日に、こっちからメールするから」

    後輩「絶対、約束ですよぉ~?」

    友「ああ」

    男「・・・」


    33: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/21(土) 07:56:58 ID:l24p3bmI

    友「んじゃ、行くか!」ニッ

    男「・・・僕に気を使うことないのに」

    友「ハハ、そんなんじゃないって」

    友「俺が、お前と一緒に帰りたかっただけだよ」

    男「・・・うん」

    男「ねえ、友」

    友「ん?」


    34: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/21(土) 07:57:48 ID:l24p3bmI

    男「県大会、残念だったね」

    友「またその話かー? ははっ、お前こそ、俺に気を使いすぎだって」

    男「ごめん」

    友「確かに惜しかったんだけどな。・・・甲子園かー」

    友「でも、後悔はしてないぜ。未練も。野球は、そりゃあ好きだけどさ」

    友「俺には、もっと大事な、夢があるからな」


    35: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/21(土) 08:00:46 ID:l24p3bmI

    男「それって」

    友「男は知ってるだろ?」ニコッ

    男「プロレーサー、でしょ。でも、とんでもなくお金がかかるって」

    友「ん、まぁな。お金だけじゃない、コネも必要だし、何より才能だ」

    男「才能なら、きっとあるよ。僕が保証する」

    友「そりゃ、心強いな」ハハ


    36: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/21(土) 08:06:05 ID:l24p3bmI

    男「幼馴染の僕は、小さい頃から見てきたから」

    男「たくさんのカートレーシングの大会で、表彰される友を」

    男「それだけじゃないよ」

    男「どんなスポーツも、勉強でも、いつだって友は、人よりも結果を出してきたもの」

    男「だから、きっと大丈夫だよ」

    友「おだてすぎだって。・・・結局、全日本カートで特別ライセンスは取れなかったんだ」

    男「・・・」


    37: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/21(土) 08:09:05 ID:l24p3bmI

    友「でもな、腐ったりしないぜ?」

    友「どんなに狭き門でも、一部の特権者が幅を利かせる世界だって」

    友「ここを走るんだって、自分で決めた、俺の道なんだ」

    男「自分の道、か」

    男「羨ましいな。僕には・・・」

    友「男だって、なんだってできるさ」


    38: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/21(土) 08:16:07 ID:l24p3bmI

    男「僕は、友みたく器用にはできないし、そんな風には思えないよ」

    友「そんなことないさ、腕も足も二本ずつ、目と口もちゃんと付いてる」

    友「しっかり見れて、はっきり喋れて、元気に走れる。俺も男も変わらない、同じ人間だ。違いなんか無いさ」

    男「・・・」

    友「そうだ」

    友「運転免許な、今週末にセンターへ試験を受けに行って、取りに行く予定なんだ」

    男「うん」


    39: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/21(土) 08:17:25 ID:l24p3bmI

    友「取れたら、どこかドライブでも行かないか?」

    男「僕と二人で?」

    友「華が無いかな? なら、妹か姉貴を連れてこう」

    男「いや、そうじゃなくて・・・」

    友「たまにはパーっと外でさ、遊ぶのもいいだろ? なっ?」

    男「・・・僕は、いいよ」

    男「代わりに、さっきのほら・・・あの女の子誘ったら?」

    友「お前の代わりなんか、どこにもいねーよ」


    40: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/21(土) 08:17:53 ID:l24p3bmI

    男「・・・」

    友「・・・」

    友「なぁ男、まだ・・・一人でメシ食ってるのか?」

    男「・・・」

    友「時間が解決してくれる、なんて思ってたけどさ」

    友「もう、そろそろさ、いいんじゃないか」

    友「そうだ。明日は、俺と一緒に食べないか?」


    41: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/21(土) 08:22:37 ID:l24p3bmI

    男「でも・・・」

    友「いや、もちろん、いきなりはハードル高いから、他のやつはナシで」

    友「俺とお前二人でよ、屋上にでも出てさ・・」

    男「友」

    男「ありがとう。・・・でも、ごめん」

    友「・・・」

    男「やっぱり、まだ・・・」


    42: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/21(土) 08:25:16 ID:l24p3bmI

    友「・・・そか。無理強いは、よくないよな」

    友「っ、なら、せめてさ! 今日の晩御飯、ウチでどうだ!?」

    友「いやほら、妹も姉貴も男に会いたがってるし、母さんも・・・!」

    男「友」

    友「おうっ!?」

    男「着いたよ」


    43: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/21(土) 08:27:50 ID:l24p3bmI

    友「あ、もう・・・坂の下か」

    男「僕、こっちだから」

    友「・・・ああ」

    男「今日は・・・無理だけど、いつか行くから」

    友「いつかっていつだよ・・・」ボソ

    男「妹ちゃんや、おばさんに、よろしくね」

    友「・・・ああ。伝えとく」


    44: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/21(土) 08:29:07 ID:l24p3bmI

    男「・・・」

    男「そうだ、友」

    友「なんだ?」

    男「あのさ、トリュフって食べたこと、ある?」

    友「チョコレートの?」

    男「じゃなくて、キノコの方」


    45: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/21(土) 08:30:04 ID:l24p3bmI

    友「ないけど・・・、なんでまた?」

    男「今日初めて食べたんだけど、けっこう美味しかったんだ」

    友「へ、へぇ、そうなんだ?」

    男「うん。白くて・・・クラブサンド、だっけな? それに挟まってて・・・」

    友「・・・」

    男「あ、それだけなんだけど・・・」

    友「そっ、そうか」


    46: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/21(土) 08:30:24 ID:l24p3bmI

    男「うん。それじゃ・・・」

    友「ああ」

    友「・・・」

    友「男が自分の事を、自分から話すの、久しぶりだな・・・」

    友「ていうか、クラブサンドに白トリュフ?」

    友「・・・」

    友「プラチナ・クラブ・サンドウィッチ?」

    友「・・・はは、まさかな」


    47: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/21(土) 13:19:08 ID:l24p3bmI



    お嬢様「やっぱり、あなたの玉子焼きは美味しいわね」

    男「・・・そう」

    お嬢様「家では、わたしが言って作らせても、こうはならないのよ」

    お嬢様「なにが違うのかしら?」

    男「・・・さあ」


    48: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/21(土) 13:19:57 ID:l24p3bmI

    お嬢様「なにか、特別な調味料でも入れているの?」

    男「砂糖と塩と醤油しか入れてないと思うけど」

    お嬢様「そんなはずないわ。・・・でも、じゃあ、作り方に秘密があるのかしら?」

    男「ていうかね・・・」

    お嬢様「? どうかした?」

    男「今日でもう、二週間だよ」


    49: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/21(土) 13:20:22 ID:l24p3bmI

    男「キミがこうして僕の所に・・・二週間、ずっとだよ」

    お嬢様「あら、もうそんなになるの?」

    男「あのさ・・・いい加減、なんとかならないかな?」

    お嬢様「そうは言っても、あなた全然ここから動かないんだもの」

    男「僕はずっと、ここで食べてきたんだよ」

    お嬢様「わたしも、ずっとここで食べることにしたのよ」


    50: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/21(土) 13:21:53 ID:l24p3bmI

    男「・・・」

    お嬢様「・・・そ、そんなにイヤなら、鍵を掛けてしまえばいいでしょう・・・!」

    男「鍵は・・・」

    男「最初はああ言ったけど、掛けたことなんてないよ」

    お嬢様「どうして?」

    男「・・・」

    お嬢様「・・・」


    51: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/21(土) 13:22:35 ID:l24p3bmI

    男「・・・・・・」

    男「怖いじゃないか」

    お嬢様「え?」

    男「・・・」

    お嬢様「怖いって、なにが?」

    男「・・・」

    お嬢様「ねえ」


    52: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/21(土) 13:23:15 ID:l24p3bmI

    男「言っても、きっと分からないよ」

    男「キミみたいな、世間知らずのお嬢様には」

    お嬢様「!わたっ、・・・!」

    お嬢様「そう・・・、わかったわ。・・・そうよね」ガチャ

    男「あ・・・」


    53: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/21(土) 13:23:38 ID:l24p3bmI

    お嬢様「立ち入ったことを聞いてしまって、ごめんなさい」

    お嬢様「悪気はなかったのよ・・・・・・、許して頂戴」

    男「・・・」

    男「・・・もう、来ないかな」

    男「ううん、これでいいんだ」

    男「・・・これで、いいんだよ」


    58: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/24(火) 08:11:34 ID:oqeNWKgs



    友「なるほどね、そんなことがあったのか」

    男「うん・・・」

    友「そうか。だから、そんなに落ち込んでるんだな?」

    男「え?」

    友「男が、だよ」


    59: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/24(火) 08:13:02 ID:oqeNWKgs

    友「その子のこと、気にしてるんだろう?」

    男「べつに僕は・・・」

    友「・・・実はさ、ここ最近、聞こうか聞くまいか迷ってたんだ」

    男「なにを・・・?」

    友「男、自分のことをよく話すようになったろ?」

    友「どんなものを食べたとか、今日はこんなことがあったとか」

    友「自分じゃ、気付いてなかった?」


    60: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/24(火) 08:13:38 ID:oqeNWKgs

    男「・・・」

    友「不思議に思ってたんだけどさ、良い傾向だからって、ずっと訊き損ねてたんだ」

    友「でも、今の話を聞いて合点がいったよ」

    友「お嬢様ちゃんか・・・」

    友「変わった子だと思えるけど・・・、男が普通に話せる女の子なんて、珍しいんじゃないか?」

    男「図々しいだけだよ」

    友「はは。男が、そんな風に他人の事を言うなんてさ」


    61: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/24(火) 08:14:29 ID:oqeNWKgs

    男「友、からかってるでしょ?」

    友「まさか。・・・まあ、ちょっと無遠慮だったよな」

    男「そうだよ、だから僕は」

    友「言いすぎたって、思ってるんだろ?」

    男「っ・・・」

    友「・・・謝らないのか?」

    男「・・・」


    62: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/24(火) 08:15:39 ID:oqeNWKgs

    友「・・・男がどうしてもイヤに思ってるならさ、俺から改めて言ってやるぞ?」

    男「え?」

    友「男はあなたのことを、とても不快に思ってるので、金輪際近づか――」

    男「そんな、だめだよ! ・・・あっ」

    友「・・・なーんてな」

    男「う・・・」


    63: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/24(火) 08:18:31 ID:oqeNWKgs

    友「謝るんだろ?」ニコッ

    男「ぼ、僕は・・・」

    男子生徒A「おい! 正門のとこ見てみろよ、黒塗りのすンゲー車が停まってるぞ!」

    男子生徒B「すっげぇ、マジだ! しかも、あれメイドか!?」

    女子生徒A「あたし、本物のメイド初めて見た・・・」

    男子生徒A「ていうか、メイドの左右で仁王立ちしてるの、SPとか黒服ってヤツか・・・?」

    女子生徒B「ねえ、あそこで大声で揉めてるのって、お嬢様さんだよね?」

    女子生徒A「ホントだ・・・。やっぱり、あの子って普通じゃないんだ・・・」


    64: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/24(火) 08:19:38 ID:oqeNWKgs

    男「・・・あの子がいる」ポカーン

    友「へえ、どれどれ? ・・・って、すごい可愛いじゃないか!」

    友「あの子が本当に、お前と一緒に二週間も、トイレでランチを?」

    男「うん」コク

    友「人は見かけによらないな・・・」

    男「・・・」


    65: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/24(火) 08:22:54 ID:oqeNWKgs

    友「で?」

    男「え?」

    友「行くんだろ?」

    男「ええっ!? ・・・ど、どうしよう、友?」

    友「俺は、彼女とは何の関係も無いよ。・・・男が決めるんだ」


    66: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/24(火) 08:24:00 ID:oqeNWKgs

    男「・・・・・・。い、行くよ」

    友「よし! なら、行こうっ」ポンッ

    男「子供の頃はさ・・・いつも、友が前で、僕はその後ろを付いてってたよね」

    友「はは、そうだな。たまには、逆もいいだろ?」

    男「・・・そうかも」

    友「男、後ろにいるからな」

    男「うん・・・!」


    71: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/25(水) 07:22:12 ID:/IvFmpgc



    メイド「お嬢様、何度も言わせないで下さい。これは、大旦那様の言いつけなのですよ?」

    お嬢様「そっちこそ、何度も言わせないで! 嫌だって、言ってるでしょう!?」

    メイド「・・・あまり子供のような我侭を申されて、困らせないで下さいませ」

    メイド「今日、この日のことは、以前からお聞きなさっているはずではありませんか」

    お嬢様「そんなの・・・っ! わたしは、承諾した覚えはないもの!」

    お嬢様「ぜったい、絶対にイヤよ!」


    72: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/25(水) 07:25:37 ID:/IvFmpgc

    メイド「お嬢様・・・・・・」

    メイド「わかりました、仕方ありませんね」

    お嬢様「・・・」ホッ

    メイド「あなたたち、お嬢様をお車へお連れして」

    お嬢様「! うそ、やめてよっ!」

    黒服A「失礼します、お嬢様」

    お嬢様「やっ・・・――!」


    73: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/25(水) 07:26:42 ID:/IvFmpgc

    男「あのっ!」

    お嬢様・黒服A「!」

    メイド「・・・なにか?」

    お嬢様「っ、離しなさい、よ!」バッ

    お嬢様「・・・!」トタタッ

    男(僕の後ろに隠れた・・・)

    黒服A「!」ギロリ


    74: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/25(水) 07:27:26 ID:/IvFmpgc

    メイド「申し訳ありませんが、いま立て込んでおりますので」

    男「その、嫌がってますよ・・・彼女」

    メイド「・・・失礼ですが、どこのどなた様でしょうか?」

    男「あの、おれは、」

    お嬢様「お付き合いしている方よ!」

    男「・・・え?」


    75: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/25(水) 07:30:55 ID:/IvFmpgc

    メイド「・・・・・・お嬢様、今、なんと仰いましたか?」

    お嬢様「この方と、こっ・・・、交際していると言ったのよ!」

    メイド「それは、友人としてではなく・・・男女の関係、という意味でしょうか?」

    お嬢様「そうよ!」

    メイド「・・・・・・本当でしょうか?」

    お嬢様「ほ、本当よ!」


    76: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/25(水) 07:31:32 ID:/IvFmpgc

    メイド「お嬢様ではなく、そちらの方に訊いております」

    お嬢様「あっ・・・」

    メイド「どうなんですか?」

    男「お、おれは、その・・・」

    お嬢様「っ・・・」ギュッ

    男(あの子の、小さく震えた手が僕の腕を・・・)

    男「・・・・・・」


    77: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/25(水) 07:34:30 ID:/IvFmpgc

    男「本当、です」

    お嬢様「!」

    メイド「・・・そうですか。お嬢様、今のご自分のお立場は、分かっておられますよね?」

    メイド「まさかとは思いますが・・・、これは大問題ですよ」

    メイド「大旦那様が知ったら、きっとただでは済まないでしょう」

    お嬢様「立場・・・問題・・・? なら、いいわよ」ギュ


    78: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/25(水) 07:36:05 ID:/IvFmpgc

    お嬢様「わたし、家には戻らない」

    メイド「なにを仰って・・・冗談はおやめください」

    お嬢様「冗談なんかじゃないわ」

    メイド「それでは、戻らなければ、どこに行かれるのですか?」

    メイド「今のお嬢様は、現金どころか、身分を証明するもの一つだってお持ちではないでしょう?」

    メイド「これは冗談ではなく・・・お嬢様一人では、どこへも行けませんよ」

    お嬢様「わたしにとっては、このまま家に帰ることも、結局おなじことなのよ!」


    79: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/25(水) 07:40:09 ID:/IvFmpgc

    お嬢様「だから・・・! お願いだから、放っておいて!」タッ!

    男「わっ!?」グイッ

    メイド「! お待ちください、お嬢様!」

    お嬢様「追ってこないで!」

    メイド「そうはいきません! あなたたち、すぐに連れ戻して!」

    黒服A・B「はい」

    友「おっと、ストップ」


    80: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/25(水) 07:41:34 ID:/IvFmpgc

    友「忘れてるかもしれませんけど、ここ、学校の敷地内ですよ?」

    メイド「なんなんですか、あなたは!」

    友「あなた達が、どれくらいの無茶ができるかは分かりませんけど」

    友「もうすぐ教師たちがやってきます。そうしたら・・・」

    友「少なくとも、状況説明をする必要は、あるんじゃないですかね?」

    メイド「! お、お嬢様っ・・・、もう、あんな遠くへ!?」


    81: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/25(水) 07:43:26 ID:/IvFmpgc

    メイド「あなたたち、なにをしているんです! 押し退けて行きなさいッ!」

    黒服A・B「はッ!」ダッ

    友「だから、通行止めだって」スッ

    ズシャッ!!

    黒服A「足を引っ掛けやがった!?」

    黒服B「この、ガキ・・・ッ!」


    82: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/25(水) 07:44:23 ID:/IvFmpgc

    友「後ろを、任せてもらったんでね」

    メイド「お嬢様、ああっ・・・!」

    黒服B「そこをどけッ!」

    友「・・・教師たちが来るまで、あと2、3分てところか」

    友「男、時間稼ぎをしてやるからな」


    87: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/26(木) 07:36:32 ID:9IMSg2cg



    男(僕の手を牽いて駆け出した、お嬢様さんは・・・)

    男(しばらくすると立ち止まって、息をつくと、こんどは早足で歩きはじめた)

    男(・・・その間、彼女は一度も振り返らずに、前だけを見ていた)

    男(そうして今も、僕の前を歩いている。 ・・・繋いだ手は、そのままに)

    お嬢様「・・・」トタトタ

    男「・・・」スタスタ


    88: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/26(木) 07:38:25 ID:9IMSg2cg

    男「・・・あの」

    お嬢様「っ!」ビクッ

    お嬢様「な、なによ・・・?」

    男「いや、どこまで行くのかなって」

    お嬢様「そんなの知らないわよ」

    お嬢様「こんなところ、歩いたことなんてないんだから・・・」


    89: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/26(木) 07:40:05 ID:9IMSg2cg

    男「・・・そう」

    お嬢様「ええ・・・」

    お嬢様「・・・」トタトタ

    男「・・・」スタスタ

    男「・・・あの」

    お嬢様「今度はなによ!」


    90: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/26(木) 07:42:32 ID:9IMSg2cg

    男「その、手・・・いつまで繋いでるのかなって」

    お嬢様「て・・・っ!?///」

    お嬢様「ちがうのよ!」バッ

    男「なにが?」

    お嬢様「これは、そういう・・・あの。 とにかく、違うからねっ?///」

    男「あ・・・うん」

    お嬢様「わかればいいのよ・・・!」コホン


    91: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/26(木) 07:47:13 ID:9IMSg2cg

    男「あのさ」

    お嬢様「なにかしら?」

    男「さっきのことなんだけどね」

    お嬢様「・・・・・・べつに、なんでもないわよ」

    男「僕は、なにも訊かないよ」

    男「何か、込み入った事情があるんでしょ?」


    92: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/26(木) 07:49:12 ID:9IMSg2cg

    お嬢様「事情なんて・・・!」

    男「いいんだ。ただ、その・・・これから、どうするの?」

    お嬢様「どうするって?」

    男「家には戻らないって言ってたよね?」

    お嬢様「ええ、そうよ。 べつにいいでしょう?」

    男「行くところ、あるの?」

    お嬢様「・・・・・・」


    93: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/26(木) 07:52:37 ID:9IMSg2cg

    男「あのさ」

    お嬢様「イヤよ。家には戻らないわ、戻りたくない」

    男「そうじゃなくって、その・・・」

    男「・・・僕の家、くる?」

    お嬢様「え?」

    男「さっきの様子だと、もう一度話し合うにしても、日を跨いだ方が良さそうだし」

    男「今日一日くらいなら、僕は構わないよ」


    94: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/26(木) 07:54:45 ID:9IMSg2cg

    お嬢様「・・・いいの?」

    男「うん」

    お嬢様「でも、わたしはあなたに・・・」

    男「ごめんね」

    お嬢様「えっ・・・?」

    男「キミに、悪気があったわけじゃないのは分かってたのに・・・」

    男「あんな、突き放すような言い方しちゃって」


    95: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/26(木) 07:56:24 ID:9IMSg2cg

    お嬢様「・・・」

    男「ひどいこと言って、ごめん。 ・・・許してくれる?」

    お嬢様「・・・」フルフル

    男「だめってこと?」

    お嬢様「・・・」フルフル!

    男(どっちなのかなぁ・・・)


    96: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/26(木) 07:58:36 ID:9IMSg2cg

    お嬢様「それじゃあ・・・」クルッ

    お嬢様「二人とも、配慮に欠けてたってことじゃない。 お互いさまでしょ・・・」

    お嬢様「許すも許さないも、ないわよ・・・っ」

    男「・・・ありがとう」

    お嬢様「・・・っ、・・・」グスッ


    97: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/26(木) 07:59:45 ID:9IMSg2cg

    男「・・・」

    お嬢様「・・・ぅ、・・・っ?」ゴソゴソ

    男「ハンカチ、使う?」スッ

    お嬢様「っ」

    男「持ち物、全部置いてきちゃったもんね」


    98: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/26(木) 08:01:45 ID:9IMSg2cg

    お嬢様「ちがうのよ・・・っ、あなたが変なことを言うから・・・!」

    男「うん」

    お嬢様「わたしは・・・、泣いてなんかっ、ないんだから・・・」

    男「うん」

    お嬢様「ぅ・・・く・・・」

    男「ごめんね」


    99: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/26(木) 08:04:24 ID:9IMSg2cg

    お嬢様「・・・」ゴシゴシ

    男「・・・で、どうしようか?」

    お嬢様「・・・・・・行く」

    お嬢様「今日だけ、・・・お世話になるわ」

    男「わかった」


    100: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/26(木) 08:06:39 ID:9IMSg2cg

    男「ところで、僕の家なんだけど・・・」

    男「ここからだと、ほとんど反対側になっちゃうんだよね」

    お嬢様「それじゃあ、なんでこんなところを歩いているのよ」

    男「キミが引っ張ってきたからでしょ」

    お嬢様「わたしのせいだって言うの?」

    男(そうなんだけどなぁ・・・)


    101: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/26(木) 08:08:25 ID:9IMSg2cg

    男「・・・とにかく、日が暮れる前に帰りたいから。 こっちだよ」

    お嬢様「待ちなさいよ」

    男「・・・」

    お嬢様「み、道が・・・分からないわ」

    男「大丈夫だよ、何回か通ったことあるから」

    お嬢様「そうじゃなくて・・・!」


    102: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/26(木) 08:11:25 ID:9IMSg2cg

    男「?」

    お嬢様「女性を・・・き、きちんとエスコートするのは、男性の務めでしょう?」

    お嬢様「だから、そのっ・・・///」モジモジ

    男「・・・手、繋ごうか」

    お嬢様「! しょ、しょうがないわね・・・」


    103: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/26(木) 08:15:39 ID:9IMSg2cg

    男「両手で握ってると、歩きにくいと思うんだけど」

    お嬢様「そんなことないわ!」

    お嬢様「いっ、いいのよ・・・これで///」

    お嬢様「・・・もう、気付くのが遅いんだから」

    お嬢様「でも・・・」クス

    お嬢様「ふふっ、許してあげる!」ニコッ


    105: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/27(金) 12:24:07 ID:8QWMkuVA



    お嬢様「ここ?」

    男「うん」

    お嬢様「立派な一軒家ね」

    男「そうかな・・・。いま、開けるから」

    お嬢様「ええ、・・・あ。ちょ、ちょっと待って!」


    106: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/27(金) 12:24:46 ID:8QWMkuVA

    男「?」

    お嬢様「・・・///」サッサッ

    男「どうしたの?」

    お嬢様「身だしなみを整えてるのよ・・・っ、お、おうちの方にご挨拶するんだから・・・」

    男「ああ・・・」

    男「大丈夫。誰もいないから」


    107: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/27(金) 12:25:31 ID:8QWMkuVA

    お嬢様「え? お母様は・・・?」

    男「いないよ。・・・誰もいないから」カチャッ

    お嬢様「そ、そう」

    男「気を使わなくていいよ。 どうぞ、あがって」

    お嬢様「・・・お邪魔します」ペコリ

    男「とりあえず、そっちの部屋で・・・って」


    108: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/27(金) 12:26:05 ID:8QWMkuVA

    男「あの、お嬢様さん? なにしてるの?」

    お嬢様「見れば分かるでしょう? 脱いだ靴を揃えているのよ」

    男「そんなのいいのに・・・」

    お嬢様「ダメよ。ご家族の方が帰られた時に、はしたない女だと思われてしまうじゃない」

    男「・・・」


    109: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/27(金) 12:26:28 ID:8QWMkuVA

    男「スリッパ、これ使って」

    お嬢様「ありがとう、お借りするわね」

    男「僕、着替えてくるから」

    お嬢様「そう、わかったわ」

    男「すぐに行くから、適当に座って待っててくれる?」

    お嬢様「ええ。 あ、ちょっと待って!」


    110: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/27(金) 12:26:54 ID:8QWMkuVA

    男「どうしたの?」

    お嬢様「あの、・・・お手洗い・・・貸してくれないかしら?」モジ

    男「トイレなら、そのすぐ横のドアだよ」

    お嬢様「あ、ありがとう」

    男「・・・」

    お嬢様「・・・」


    111: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/27(金) 12:27:27 ID:8QWMkuVA

    お嬢様「なぜ、そこで立ったままこちらを見ているのかしら?」

    男「・・・ちゃんとは入れるかなぁって」

    お嬢様「・・・そう」

    お嬢様「まさか、わたしが入るところ、見ているつもりじゃないわよね?」ニコ

    男「え、ダメかな?」

    お嬢様「だ、ダメに決まってるでしょう!?///」


    112: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/27(金) 12:28:48 ID:8QWMkuVA

    男「一応、心配して・・・」

    お嬢様「いいから、行きなさい。行くのよ・・・ね?」ニッコリ

    男「お嬢様さん、こわい顔してるよ?」

    お嬢様「! 誰のせいよ!」

    男「わ、分かったよ」

    お嬢様「・・・もうっ・・・///」


    116: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/28(土) 11:02:42 ID:UFKzqMDo



    男「お待たせ」

    お嬢様「あら、お帰りなさい」

    男「・・・」

    お嬢様「どうかしたの?」

    男「・・・いや、あ・・・座ってていいって言ったのに」


    117: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/28(土) 11:05:57 ID:UFKzqMDo

    お嬢様「勝手に座ったりできないわよ」

    男「和室、珍しいかな?」

    お嬢様「そういうことではなくて、お行儀が悪いじゃない」

    男「気にしすぎだよ」

    お嬢様「そういう風に躾けられてきたのだから、仕方ないじゃない」

    男「そういうものかなぁ・・・」

    お嬢様「そういうものよ」


    118: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/28(土) 11:07:29 ID:UFKzqMDo

    男「とりあえず、座ろうよ。 はい、座布団」

    お嬢様「ありがとう」

    男「・・・」

    お嬢様「・・・」

    男「・・・」


    119: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/28(土) 11:09:43 ID:UFKzqMDo

    お嬢様「な、なにか喋りなさいよ・・・」

    男「なにかって?」

    お嬢様「なんでもいいわよ」

    男「あ、それじゃあ・・・」

    男「僕、ずっと気になっていたことがあったんだけど、聞いてもいいかな?」

    お嬢様「ええ、いいわよ。なにかしら?」


    120: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/28(土) 11:11:38 ID:UFKzqMDo

    男「なんであの日、僕のところに来たの?」

    お嬢様「あの日・・・」

    男「初めてキミがトイレに、僕が食べてるところに来た理由」

    男「ずっと気になってたんだ。なんでなんだろうって」

    お嬢様「・・・あなたのことを、ずっと見ていたからよ」

    男「え?」


    121: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/28(土) 11:16:33 ID:UFKzqMDo

    お嬢様「ふふっ、少し端折りすぎたわね」

    お嬢様「わたしが、あなたのクラスへ転入した日のことは、覚えている?」

    男「うん、覚えてるよ」

    お嬢様「あの時、自己紹介が終わって、みんながわたしのことを笑っていたわ」

    お嬢様「被害妄想なのかもしれないけれどね・・・、少なくとも、誰もわたしと目を合わせようとはしなかったわ」

    お嬢様「・・・あなたをのぞいてね」

    男「・・・」


    122: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/28(土) 11:21:30 ID:UFKzqMDo

    お嬢様「皮肉なことにね」

    お嬢様「他人と自分の価値観に、そんな風にズレがあるなんて、ずっと気付かないままでいたのよ」

    お嬢様「・・・・・・あなたは、運命って信じる?」

    男「運命?」

    お嬢様「あの瞬間・・・頭の中が真っ白になってしまって」

    お嬢様「小さい頃から、何不自由なく、それが当たり前のように生きてきたから」

    お嬢様「だからこそ逃げられないんだな、って。 『わたし』はずっと『わたし』のまま」


    123: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/28(土) 11:23:35 ID:UFKzqMDo

    お嬢様「人は・・・変われないんだって、これが運命なんだって。 大袈裟かもしれないけど、そう・・・思ったの」

    お嬢様「・・・あなたの、小さな拍手が聞こえるまでは」

    男「・・・僕は、ただ・・・」

    男「キミが一生懸命なのが伝わったから」

    男「きっと、頑張って話すことを考えたんだろうなって分かったから・・・」

    お嬢様「・・・」


    124: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/28(土) 11:24:41 ID:UFKzqMDo

    お嬢様「それから、あなたのことをそれとなく見ていたの」

    お嬢様「そうしたら、他の人とは必要以上に言葉を交わさなければ、何をするにも一人でいる」

    お嬢様「休み時間やお昼になったら、決まって姿が見えなくなるし」

    お嬢様「・・・なによ。この人だって、十分変わってるじゃないって」

    お嬢様「そう思ったら・・・ふふっ、なんだか興味が湧いてきたのよ」


    125: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/28(土) 11:29:13 ID:UFKzqMDo

    男「それであの日、僕の後を尾けてきたの?」

    お嬢様「ええ、そうよ」クス

    お嬢様「びっくりしたわ。どこで食べるのかしらと思っていたら、お手洗いへ入っていくんだもの」

    男「それで個室にまで付いてきちゃうんだから、僕の方がビックリだよ」

    男「でも・・・そっか」

    お嬢様「これでわかった?」


    126: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/28(土) 11:30:32 ID:UFKzqMDo

    男「僕が変わってたからってことだよね」

    お嬢様「・・・もう少しロマンチックに言えないのかしら」

    男「ねえ、お嬢様さん」

    お嬢様「なに?」

    男「僕の友達が言ってたんだけどね」

    男「しっかり見れて、はっきり喋れて、元気に走ることができれば・・・。人間に、違いなんか無いって」


    127: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/28(土) 11:33:07 ID:UFKzqMDo

    男「二週間・・・短いけど、キミと一緒にいた僕が保証するよ」

    男「キミは、他の人と何も違わない」

    お嬢様「・・・」

    男「頑固で、見栄っ張りで、図々しくて・・・」

    男「でも、優しくて、照れ屋で・・・よく笑って、たまに泣いちゃう」

    お嬢様「・・・」

    男「僕にとっては、ただの可愛い、一人の女の子だ」


    128: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/28(土) 11:34:26 ID:UFKzqMDo

    お嬢様「・・・っ」ポロッ

    お嬢様「あ、あれ・・・なんで・・・うそ?」ポロポロ

    お嬢様「・・・ぁ、・・・ぅ」

    男「お嬢様さん・・・」

    お嬢様「なっ・・・なにか喋ってとは言ったけど・・・っ」

    お嬢様「泣かせてとは・・・ひっく・・・言ってないわよぅ」グスッ


    129: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/28(土) 11:36:20 ID:UFKzqMDo

    男「・・・」

    お嬢様「なによぉ・・・言いたいほうだい、言っちゃって・・・」

    男「ごめん」

    お嬢様「でも・・・ぐすっ・・・嬉しいの」

    お嬢様「・・・すごく、嬉しいのよぅ・・・っ」ポロポロ

    男「うん」

    お嬢様「・・・っ」ゴシゴシ


    130: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/28(土) 11:41:22 ID:UFKzqMDo

    男「・・・」

    お嬢様「・・・」

    お嬢様「あ、あなたといると・・・なんだか泣いてばかりだわ、わたし」

    男「そういうところも、可愛いと思うけどね」

    お嬢様「な、なに言って・・・///」


    131: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/28(土) 11:42:18 ID:UFKzqMDo

    お嬢様「・・・・・・あ。あの、ね」

    男「なに?」

    お嬢様「あなたに、聞いて欲しいことがあるの」

    お嬢様「わたし、じつは――」

    ぐぅーーーー


    132: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/28(土) 11:42:41 ID:UFKzqMDo

    男「・・・」

    お嬢様「・・・」

    男「僕じゃないよ」

    お嬢様「っ///」

    男「えぇと、さきに、ご飯にしようか?」

    お嬢様「そっ・・・そう、ね・・・///」


    134: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/29(日) 11:12:17 ID:FdhB8vhE



    男「食材、あったかなぁ・・・」

    お嬢様「あら、あなたが作るの?」

    男「うん。冷蔵庫の中、見てみるね」ガチャ

    お嬢様「・・・・・・卵ばっかりじゃない」

    男「そうだね」


    135: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/29(日) 11:14:18 ID:FdhB8vhE

    お嬢様「ずいぶん偏ってるわね」

    男「・・・僕の家の冷蔵庫がこうなったのは、キミのせいでもあるんだからね?」

    お嬢様「あなた、そうやってなんでもわたしのせいにするの、やめてくれないかしら」

    男「一度、僕のお弁当に玉子焼きが入ってなくて、大騒ぎしたのはキミでしょ」

    お嬢様「それは・・・たしかに、そうだけど」

    お嬢様「・・・あなたって、けっこう底意地の悪いところあるわよね」


    136: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/29(日) 11:15:42 ID:FdhB8vhE

    男「そうかな? 初めて言われたよ」

    お嬢様「見る目がないのね、みんな」

    お嬢様「・・・・・・ないままでいいけど」ボソ

    男「なにか言った?」

    お嬢様「な、なんでもないわよ・・・///」

    男「そう?」


    137: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/29(日) 11:16:37 ID:FdhB8vhE

    お嬢様「・・・・・・ねえ」

    お嬢様「もしよかったら、わたしが作りましょうか?」

    男「・・・え?」

    お嬢様「・・・」

    男「料理、できるの?」

    お嬢様「・・・あなたがわたしをどういう風に見ているのか、少し分かったわ」


    138: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/29(日) 11:18:35 ID:FdhB8vhE

    お嬢様「人と比べたことがないから、基準は分からないけれど・・・」

    お嬢様「レシピと材料があれば、大体のものは作れるわよ」

    男「家で、自分でご飯を作ったりするの?」

    お嬢様「しないわよ?」

    お嬢様「決まった日に、お料理を教えてくれる人がいるの」


    139: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/29(日) 11:20:01 ID:FdhB8vhE

    男「料理教室みたいなものだね」

    お嬢様「お料理だけじゃないわよ?」

    お嬢様「華道に茶道にピアノ、それからお着物の着付けに・・・小さい頃はバレエの先生もいたわね」

    男「・・・」

    お嬢様「ふふっ、すごいでしょ?」

    男「本当に、お嬢様なんだね」

    お嬢様「ええ、そうよ」クスッ


    140: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/29(日) 11:22:03 ID:FdhB8vhE

    お嬢様「それで、どうするの? わたしが作ってもいいのかしら?」

    男「あの、でも・・・僕・・・」

    お嬢様「いいじゃない。ね、ねっ?」

    男「・・・」

    男「えっと・・・・・・、じゃあ・・・」

    お嬢様「きまりねっ」パァッ


    141: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/29(日) 11:23:09 ID:FdhB8vhE

    男「僕も手伝うよ」

    お嬢様「いいわよ、あなたは座ってて?」

    男「でも・・・」

    お嬢様「道具の場所とか、分からなかったらあなたに聞くから」

    男「う、うん・・・」

    お嬢様「それじゃあ、えーっと・・・」ゴソゴソ

    男「・・・」


    142: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/29(日) 11:24:21 ID:FdhB8vhE

    お嬢様「あ、ねえ? このエプロン、借りてもいいかしら?」

    男「あ、うん」

    お嬢様「ありがとう。~~♪」

    男「・・・」

    お嬢様「あ、ねえ? 冷蔵庫の中にあるものは、みんな使ってもいいの?」

    男「あ、うん」

    お嬢様「わかったわ。~~♪♪ ふふっ」


    143: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/29(日) 11:25:45 ID:FdhB8vhE

    男「・・・」

    お嬢様「~♪、~~♪」

    男「・・・」

    男「あの」

    お嬢様「あら、どうかした?」

    男「やっぱり、僕も手伝っていいかな?」


    144: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/29(日) 11:27:37 ID:FdhB8vhE

    お嬢様「・・・そんなにわたしって信用ないかしら?」ムス

    男「そうじゃなくって・・・なんだか、落ち着かなくて・・・」

    お嬢様「そうなの?」

    男「うん・・・」

    お嬢様「もう、しょうがないわね」

    お嬢様「じゃあ、こっちの野菜を洗って、皮を剥いておいてくれる?」

    お嬢様「わたしは、卵を溶かして下拵えしてしまうから」

    男「わかったよ」


    145: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/29(日) 11:28:29 ID:FdhB8vhE

    お嬢様「~♪~~♪」カシャカシャ

    男「・・・」

    男「すごく、楽しそうだね」

    お嬢様「そう? 普通じゃないかしら・・・ふふっ♪」

    男(料理するのが好きなのかなぁ・・・)

    お嬢様「~~~♪」


    150: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/31(火) 11:23:17 ID:PJEBMrR2



    お嬢様「それじゃあ、いただきましょうか」

    男「・・・う、うん」

    お嬢様「どうかしたの? やっぱり、どこかおかしいかしら?」

    男「ううん。すごく、美味しそうにできてるよ」

    男「ただ、人が作ったものを食べるの、久しぶりだから」

    お嬢様「あら、そうなの?」

    男「うん」


    151: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/31(火) 11:23:50 ID:PJEBMrR2

    男「・・・いただきます」

    お嬢様「ええ、どうぞ召し上がって」ニコ

    男「・・・」

    お嬢様「食べないの・・・?」

    男「・・・あ・・・」

    お嬢様「もしかして、嫌いなもの入ってたかしら?」

    男「だ、だいじょうぶ」

    お嬢様「そう?」


    152: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/31(火) 11:24:24 ID:PJEBMrR2

    男「・・・っ」ゴクッ

    男「あむ・・・」

    お嬢様「・・・どう、かしら? おいしく・・・できてる?」ドキドキ

    男「あ・・・はは。う、うん・・・。おい――」

    『――どう? 男ちゃん、美味しい?』

    男(!!!!)


    153: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/31(火) 11:25:13 ID:PJEBMrR2

    男「~~~ッ!!」ガタン!

    お嬢様「きゃ・・・!?」ビクッ

    ドタドタドタッ

    男「ぅ、ぐ・・・っ、ォぇ・・・っ!!」

    お嬢様「え、え・・・?」

    お嬢様「! ねえ、だ、大丈夫!?」トタタッ


    154: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/31(火) 11:26:25 ID:PJEBMrR2

    男「はぁ、はぁ、ぐ・・・ぅぇ・・・ッ」

    お嬢様「どっ、どうして・・・。なんで? やっぱり・・・」

    男「ちが・・・、キミの、せいじゃ・・・なくて」

    お嬢様「お、お医者様よぶ?」

    男「へいき・・・だいじょうぶ、だいじょ・・・ぅ゛、・・・ェっ!」

    お嬢様「大丈夫に見えないわよ! ねえ、お母様、どのくらいで戻ってくるの?」


    155: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/31(火) 11:28:10 ID:PJEBMrR2

    男「・・・・・・いよ」

    お嬢様「え?」

    男「・・・戻ってなんてこないよ」

    男「はじめから、いないもの」

    お嬢様「いない・・・、え?」

    男「この家には、僕一人で・・・」

    男「母さんなら、とっくに死んでるよ」


    156: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/31(火) 11:29:03 ID:PJEBMrR2

    お嬢様「・・・うそ・・・」

    お嬢様「! あの・・・っ、ご、ごめんなさい・・・!」

    男「どうして、キミが謝るの?」

    お嬢様「だって、わたしずっと・・・無神経なことを・・・」

    男「・・・不公平だよね」

    お嬢様「え・・・?」

    男「キミは、ちゃんと理由を教えてくれたのに」


    157: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/31(火) 11:29:30 ID:PJEBMrR2

    男「僕・・・誰かと一緒に物を食べることが、すごく苦痛なんだ」

    男「特に、こうやって卓を囲んで食べるっていうのが、無理みたい」

    男「拒否反応がね、でちゃうんだ・・・。ずっと、ここの胃の辺りがぎゅうって」

    お嬢様「そんな・・・」

    男「それに、人が作った料理を食べるのも、じつは苦手なんだ」

    男「スーパーで出来合いのものとか、殆ど買うことないし・・・」

    男「自分が食べる物は、自分で全部作ってる」


    158: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/31(火) 11:30:11 ID:PJEBMrR2

    お嬢様「うそ・・・」

    男「調子のいい時はね、少し気持ちが悪くなるくらいで済んじゃうこともあるんだ」

    男「一口二口くらいなら・・・我慢できるし」

    男「でも、そんなの続かないでしょ?」

    男「ひどい時は、さっきみたいに吐き戻しちゃうし。みんな、すぐに気味悪がって・・・」

    男「僕も・・・しょうがないかなって」


    159: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/31(火) 11:31:08 ID:PJEBMrR2

    お嬢様「でも・・・だって、あなたはわたしと・・・!」

    男「うん。・・・だから、心のどこかで期待してた」

    男「もしかしたら、キミが作ったものならって」

    男「あんな距離で食事ができるの、友達の家族以外じゃ、初めてだったから・・・」

    男「それも、やっぱり楽じゃなくって・・・、苦しいの、我慢して・・・それが、申し訳なくて」

    男「でも、キミと食べてる時は、イヤな気持ち悪さも感じなくて」


    160: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/31(火) 11:31:29 ID:PJEBMrR2

    男「もしかしたら一緒に、普通に・・・食べれるんじゃないかって。僕も、自分で手伝えば・・・って」

    お嬢様「・・・」フルフル

    男「はは・・・馬鹿だ、僕。そんな保証なんて、どこにだってないのに」

    男「素直に言えば良かった・・・。自分で勝手に期待を持って、こうしてキミにイヤな思いを・・・」

    お嬢様「・・・」フルフル

    男「・・・・・・ごめんね」

    男「僕はこんなだから・・・ダメで、食べてあげられないけど・・・、キミは――」


    161: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/31(火) 11:32:01 ID:PJEBMrR2

    お嬢様「っ・・・!」ダキッ

    男「え・・・」

    お嬢様「わたし、何も知らないし・・・何も訊かないわ」

    お嬢様「世間知らずだし・・・お嬢様だし・・・」

    お嬢様「もし話を聞いても、分かってあげられないかもしれないから」


    162: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/31(火) 11:32:33 ID:PJEBMrR2

    お嬢様「でも・・・っ」

    お嬢様「何も知らなくても、こうすることはできるわ」

    お嬢様「だって・・・っ、きっとわたしなら、悲しいとき、誰かにこうして欲しいって思うもの・・・!」

    男(正面から彼女に抱きすくめられた僕の首筋に、冷たい感触・・・)

    男「泣いているの?」

    お嬢様「・・・そうよ・・・」

    男「・・・どうして・・・」

    お嬢様「あなたが、泣かないから・・・」


    163: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/31(火) 11:33:48 ID:PJEBMrR2

    男「・・・」

    お嬢様「ごめんなさい・・・ごめんね。 悲しいわよね、ずっと、辛かったわよね・・・」

    お嬢様「あなたの苦しい気持ちの、半分でもって思うのに・・・!」

    お嬢様「なにも知らなくて、何もできない・・・、こんなわたしを、許して・・・っ」

    男「僕は、・・・っ」ポロッ

    男「怖いんだ、僕は・・・ずっとこのままなのかなって・・・っ」


    164: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/31(火) 11:34:19 ID:PJEBMrR2

    男「そのうち、食事だけじゃなくて、何をするのも無理になっちゃって」

    男「そうしたら、ずっと一人でいないといけないのかなって・・・!」

    お嬢様「・・・うん」

    男「毎日ずっと、僕は・・・僕だけで・・・! 一人きりで・・・生きてるんだって、実感がなくて」

    男「平気じゃないのに、平気な振りをして・・・、いつかそれが当たり前になっちゃうんじゃないかって」

    お嬢様「・・・うん」


    165: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/31(火) 11:34:42 ID:PJEBMrR2

    男「キミが、このことを知ったらって思って・・・想像したら、どうしようもなく不安になって」

    男「キミと出会って、話せて・・・嬉しかった。もう一度、頑張れるかもって・・・」

    お嬢様「・・・うん」

    男「でも、ダメだったっ! ・・・寒いんだ・・・っ、胸の辺りが、ずっと・・・」

    男「どこにいても、何をしていても!」

    男「ずっと、寒いんだよぅ・・・っ」


    166: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/31(火) 11:35:19 ID:PJEBMrR2

    お嬢様「なら・・・」

    お嬢様「わたしが暖めてあげる!」ギュッ

    男「・・・っ」

    お嬢様「わたしが、あなたを暖めるから」

    お嬢様「・・・ほら、聞こえる? わたしの鼓動、とくんとくんって」

    男「・・・・・・うん」

    お嬢様「ね。・・・あなたのも、聞こえるわ」


    167: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/31(火) 11:35:50 ID:PJEBMrR2

    男「・・・」

    お嬢様「あなたは生きてる、ちゃんと生きているのよ・・・」

    お嬢様「あなたはここにいる。わたしがしっかり抱いているもの」

    お嬢様「ね? だいじょうぶ、大丈夫だから」

    お嬢様「あなたが、寒くなくなるまで・・・ずうっと、こうしてるから」

    男「・・・っ」

    お嬢様「涙、拭いてあげる」ゴソ


    168: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/31(火) 11:36:47 ID:PJEBMrR2

    男「ハンカチ・・・」

    お嬢様「あなたのハンカチよ」

    お嬢様「わたしの涙も混じってしまってるから・・・少し、冷たいかもしれないけれど」フキフキ

    男「・・・・・・あったかい」ギュ

    お嬢様「・・・」ソッ

    男「あったかい・・・よ・・・っ」

    お嬢様「よかった」


    169: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/31(火) 11:37:09 ID:PJEBMrR2

    男「・・・」

    お嬢様「・・・ねえ、ごはん・・・食べましょう?」

    男「え・・・でも、僕は・・・!」

    お嬢様「わたしが、食べさせてあげる」

    お嬢様「きっと食べれるわ。・・・わたしが、あなたに食べて欲しくて作ったんだもの」


    170: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/31(火) 11:37:49 ID:PJEBMrR2

    男「・・・」

    お嬢様「怖い? 寒い?」

    お嬢様「ほら、こうして手を握っていてあげる」

    お嬢様「ちょっと・・・お行儀はよくないけれど・・・」クスッ

    お嬢様「ほら、あーん。・・・ね?」

    男「・・・っ」

    男「・・・・・・あむ」


    171: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/31(火) 11:38:13 ID:PJEBMrR2

    お嬢様「・・・」

    男「・・・、っ・・・」モグ、モグ

    お嬢様「・・・」ギュッ

    男「・・・ん」ゴクン

    男「・・・できた・・・」

    お嬢様「ね?」ニコ


    172: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/31(火) 11:38:59 ID:PJEBMrR2

    男「食べれた・・・気持ち悪くない・・・」

    お嬢様「おいしかった?」

    男「・・・よく、わかんなかった・・・」

    お嬢様「もう、しょうがない人ね」

    男「もう一回! 次は、しっかり味わって食べるから・・・」

    お嬢様「ふふっ、いいわよ。また同じものでいい?」

    男「えっと・・・こっちのも美味しそうだし・・・。あ。でも、そっちのも・・・!」


    173: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/07/31(火) 11:41:42 ID:PJEBMrR2

    お嬢様「そんなに慌てないで」ナデ

    お嬢様「心配しなくても、ちゃんと全部食べてもらうつもりよ?」クス

    男「う、うん・・・///」

    お嬢様「ずっと、こうして・・・」

    お嬢様「もうあなたが一人で震えないように、寒い思いをしないように」

    お嬢様「あなたの横にいて、わたしが暖めてあげるわ」

    お嬢様「・・・そう、決めたからね?」ニコ


    174: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/01(水) 10:37:10 ID:PzFs0mHs



    男「やっぱり、よくないと思う」

    お嬢様「どうして?」

    男「どうしてって」

    お嬢様「わたしは、あなたの横にいるって決めたわ」

    男「だからって、一緒のベッドで寝るのは違うと思うよ」


    175: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/01(水) 10:40:44 ID:PzFs0mHs

    お嬢様「なにか問題あるかしら?」

    男(問題だらけだと思うけどなぁ・・・)

    お嬢様「わたしがいいって言ってるのだから、いいじゃない」

    男「でも、恥ずかしくないの・・・?」

    お嬢様「べつに、恥ずかしいことなんて、なにもないわよ?」

    男「そっぽ向いたまま言っても、説得力ないし」

    男「それと、耳赤いよ」

    お嬢様「うそっ、部屋暗いのに、そんなのわかるわけ・・・!」


    176: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/01(水) 10:42:18 ID:PzFs0mHs

    男「・・・」

    お嬢様「ぁ・・・///」

    男「ほら? やっぱり恥ずかしいんじゃない」

    男「僕、やっぱり床に布団敷いて、そっちで寝るよ」

    お嬢様「待って、行かないで・・・!」

    男(彼女の指が、僕のシャツの裾を掴んだ・・・)

    男「そんなに無理することないよ」

    お嬢様「無理なんてしてないわ! ・・・あの、恥ずかしいのは認めるけど・・・」


    177: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/01(水) 10:44:31 ID:PzFs0mHs

    お嬢様「あなたになにかあった時に、そばに居ない方がイヤ」

    男「いや、気持ちは嬉しいんだけど・・・」

    男「僕の場合、食事以外は問題ないから」

    お嬢様「一人だと、寒いって言ってたじゃない」

    男「うん。でも、キミがいれば大丈夫」

    お嬢様「じゃ、じゃあ・・・いいじゃない、このままで・・・///」


    178: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/01(水) 10:47:08 ID:PzFs0mHs

    男「いくらなんでも極端すぎるっていうか・・・、正直、かえって眠れくなっちゃうよ」

    お嬢様「・・・なぜ?」

    男「意識しちゃうから」

    お嬢様「・・・わたしを?」

    男「キミを」

    お嬢様「! へっ、変なことしないわよね・・・!?」

    男「しないよ・・・するわけないでしょ」

    お嬢様「そう・・・? それはそれで、なんだか釈然としないわね」


    179: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/01(水) 10:49:20 ID:PzFs0mHs

    お嬢様「ねえ、どうしてもダメ?」

    男「うーん・・・」

    お嬢様「わたし、頑張るから」

    男「え、なにを?」

    お嬢様「ドキドキさせないように、頑張るからっ」

    男「・・・」


    180: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/01(水) 10:49:53 ID:PzFs0mHs

    男「・・・じゃー、いいよ。わかったよ。とりあえずこれで・・・」

    お嬢様「・・・!」コクコク

    男「やっぱり眠れそうになかったら、布団敷くからね?」

    お嬢様「わ、わかったわ・・・」

    男「それじゃ・・・」ゴソゴソ

    男「おやすみ」

    お嬢様「・・・お、おやすみなさい」ゴソ


    181: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/01(水) 10:51:18 ID:PzFs0mHs

    男「・・・」

    お嬢様「・・・」

    男「・・・そうだ」

    お嬢様「なっ、なに?」

    男「学校で、一緒にごはん食べてる間に、キミから分けて貰った物なんだけど」

    男「あれ、殆ど食べれないまま、捨てちゃってたんだ・・・」


    182: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/01(水) 10:53:02 ID:PzFs0mHs

    お嬢様「いいのよ。 何も知らなかった、わたしがいけないんだもの」

    お嬢様「でも、全然気付かなかったわ。 いつも、わたしの前では食べてたし・・・」

    男「少しなら・・・。 いつも、先に出て行くのがキミで助かったよ」

    男「今更だけど、ごめんね」

    お嬢様「ううん。気にしないで」

    男「・・・」

    お嬢様「・・・」


    183: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/01(水) 10:55:08 ID:PzFs0mHs

    お嬢様「ねえ? あなたの体のこと知ってるのって、わたしだけなの・・・?」

    男「友っていう、幼馴染がいるんだけど・・・」

    男「それから、友のお母さんと、友姉さんに友妹ちゃん。友の家族だね」

    お嬢様「そう・・・」

    男「でも、僕が人の作ったものが苦手だっていうのは、ずっと言ってない」

    お嬢様「どうして?」


    184: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/01(水) 10:57:58 ID:PzFs0mHs

    男「余計に心配して、きっと、もっともっと気を遣わせちゃうから」

    男「すごく、大事な友達で・・・なんでも出来て。小さい頃の夢を、今も持ち続けて・・・」

    男「叶えて欲しいんだ。 これ以上、僕が負担になりたくない」

    お嬢様「・・・」

    男「友の家族も、みんないい人ばっかりでね?」

    男「母子家庭なのに、元気で明るくて、笑顔の絶えない家なんだよ」

    男「すこし、羨ましいくらい・・・はは」


    185: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/01(水) 11:01:08 ID:PzFs0mHs

    お嬢様「負担なんて・・・」

    男「え?」

    お嬢様「負担になんて、きっと思ってないわ」

    お嬢様「大事なお友達なんでしょう? きっと、向こうだってそう思ってるわよ」

    お嬢様「それなのに・・・あなたがそういう風に一人で考えてしまって、距離を取ったら・・・」

    お嬢様「もしそれを知ったら、すごく寂しくて、悲しむと思うわ」

    お嬢様「少なくとも、わたしだったら悲しいもの。あなたに、そんな風に思われたら」

    男「お嬢様さん・・・」


    186: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/01(水) 11:01:47 ID:PzFs0mHs

    お嬢様「だから、すぐでなくてもいいから・・・」

    お嬢様「その人にも、話してあげて?」

    お嬢様「・・・ね?」

    男「・・・うん、そうだね。・・・そうする」

    お嬢様「・・・」

    男「・・・」


    187: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/01(水) 11:03:38 ID:PzFs0mHs

    お嬢様「あの・・・」

    男「・・・」

    お嬢様「・・・ね、寝てしまったの?」

    男「・・・起きてるよ」

    お嬢様「あの・・・寒くない?」

    男「ん。だいじょうぶ」


    188: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/01(水) 11:05:35 ID:PzFs0mHs

    お嬢様「じゃ、なくって・・・その。・・・な、なんだか寒くない?」

    男「毛布もう一枚持ってくる?」

    お嬢様「い、いいわよ」

    男「エアコンつける?」

    お嬢様「そ、そういうのはいいから。・・・ちょっとだけ・・・」モゾモゾ

    お嬢様「ちょっとだけ、そっちに行ってもいいかしら・・・?」ピトッ

    男「もう、きてるじゃない」

    お嬢様「こ、こうした方が、あったかいもの」


    189: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/01(水) 11:06:35 ID:PzFs0mHs

    男「あったかいけど・・・」

    お嬢様「・・・ドキドキしちゃう?」

    男「うん・・・」

    お嬢様「・・・離れたほうがいい?」

    男「そのままで・・・」

    お嬢様「・・・こっち、向いて?」

    男「・・・」モゾモゾ

    お嬢様「・・・ぁ///」


    190: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/01(水) 11:08:12 ID:PzFs0mHs

    男「顔、真っ赤だよ」

    お嬢様「暗いから分からないはずよ・・・」

    男「これだけ近かったら、さすがにね」

    お嬢様「ぅ・・・///」

    お嬢様「あのね?」

    お嬢様「さっきの、あなたの言葉なんだけど・・・」

    お嬢様「家族が、羨ましいって。あれね・・・」

    男「うん」


    191: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/01(水) 11:10:14 ID:PzFs0mHs

    お嬢様「その、わたしが・・・あなたの家族に・・・なるわ」

    男「え?」

    お嬢様「ば、バカなこと言ってるのは、自分でも分かっているのよ?」

    お嬢様「でも、わたしの今の、素直な気持ちっていうか・・・」

    お嬢様「あなたと、ずっと一緒にいれたらって思ってるの。本当よ?」

    お嬢様「・・・わたし、ここにずっといたら・・・だめ?」

    男「・・・それは」


    192: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/01(水) 11:12:14 ID:PzFs0mHs

    男「難しいよ・・・。キミの問題は何も解決してないし、僕たち学生だし、生活力ないし・・・」

    お嬢様「・・・やっぱり、そうよね」シュン

    お嬢様「ごめんなさい。いまのは、わすれて――」

    男「――でも」

    男「僕も、キミとずっと一緒にいたい」

    お嬢様「ふぇ・・・っ!?///」


    193: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/01(水) 11:12:51 ID:PzFs0mHs

    男「僕の今の、素直な気持ち。 ・・・キミに、僕の家族になって欲しい」

    お嬢様「ぁ・・・ぅ///」

    男「帰り辛いなら、ここにいていいよ。・・・ううん、いて欲しい」

    男「僕は、ずるい人間だから・・・」

    男「こんなの長続きしないって分かってても、甘えちゃうんだ」

    男「だから・・・」


    194: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/01(水) 11:14:43 ID:PzFs0mHs

    お嬢様「もういっかい」

    男「えっ?」

    お嬢様「・・・もう一回、言って?」

    男「・・・どこを?」

    お嬢様「あの、一緒に・・・ってとこ・・・///」ゴニョゴニョ

    男「ずっと一緒にいたい」

    お嬢様「っ/// そ、それから・・・っ?」ドキドキ

    男「・・・家族に、なって欲しい」


    195: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/01(水) 11:21:42 ID:PzFs0mHs

    お嬢様「~~~っ///」ダキッ!

    男(抱きついてきた・・・)

    お嬢様「・・・もういっかい」

    男「・・・ずっと一緒にいたいよ・・・」

    お嬢様「よく聞こえないわ、もっと大きな声で言って・・・?」

    男「ていうか、布団の中の僕の胸に顔うずめてたら、聞こえづらいよね?」


    196: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/01(水) 11:23:04 ID:PzFs0mHs

    お嬢様「~~♪」ギュ~

    男「・・・人のこと言えないけどさ。キミ、スイッチ入るとけっこー変わるよね」

    お嬢様「? ねえ、はやくいって?」

    男「・・・・・・ずっと、一緒に・・・」

    お嬢様「ふふ、ふふふっ♪」

    男(はやく眠ってくれないかなぁ・・・)


    201: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/03(金) 08:51:58 ID:BHBzB302



    友「そうか・・・」

    男「今まで、黙っててごめん」

    友「・・・どうして、言ってくれる気になったんだ?」

    男「彼女がね・・・」

    男「お嬢様さんが、知らないままでいる方が、悲しいことなんだって」

    友「お嬢様ちゃんが?」

    男「うん」

    友「・・・そうか」


    202: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/03(金) 08:52:47 ID:BHBzB302

    友「・・・・・・俺も、な」

    友「ずっと、男には遠慮してたのかもしれない」

    友「なまじ距離が近かったからってのを、言い訳にするつもりはないけどさ」

    友「口ではなんのかんの言ったところで、結局は、腫れ物を扱うみたいにしてよ・・・」

    友「負担っていうのなら、きっとそういうの、男には良くなかったんだろうな」

    男「・・・良いとか悪いとか、僕には分からないよ」

    男「でも友がいたから、彼女に会うまで、僕は僕のままでいれたんだ」


    203: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/03(金) 08:53:36 ID:BHBzB302

    男「何も知らない外の人から見れば、それでも歪に映ったんだろうけど」

    男「・・・定期診断から任意診断に切り替わったのも、中学を卒業して普通の高校に入れたのも・・・」

    男「みんな友のおかげだよ。・・・本当に、ずっとありがとう」ニコッ

    友「・・・・・・はは、まいったなぁ」

    友「お嬢様ちゃんに、感謝しないといけないな」

    男「え?」


    204: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/03(金) 08:54:27 ID:BHBzB302

    友「どんなに図々しくて世間知らずでもさ」

    友「男を・・・一人ぼっちのトイレから、手を牽いて外へ連れ出したのは、彼女だってことだ」

    男「・・・うん」

    友「それじゃあ、お嬢様ちゃんには、全部話したのか?」

    男「僕の、体のことだけね」

    男「そうなった理由は・・・話してないんだ」


    205: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/03(金) 08:55:40 ID:BHBzB302

    友「話さないのか?」

    男「話したくないわけじゃないんだけど、向こうが、あまり気にしてないみたいで」

    友「聞いてこないか」

    男「うん」

    友「まあ、敢えてしなくちゃいけない話でも、ないのかもな」

    男「もし訊かれたら、ちゃんと話すつもりだよ」


    206: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/03(金) 08:56:03 ID:BHBzB302

    男「お嬢様さんには、僕のこと、みんな知っていて欲しいから」

    友「・・・ゾッコンなわけだ?」

    男「そうみたい」クス

    友「・・・」ポカーン

    友「ハハッ・・・ホント、まいったぜ」


    207: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/03(金) 08:56:30 ID:BHBzB302

    男「ねえ、友は昨日、あの後大丈夫だった?」

    友「ん?」

    男「どこも、怪我とかしなかった?」

    友「ああ、問題なかったぜ。 あちこち強く引っ張られて、制服が少し伸びたくらいだな」

    男「よかった。心配してたから・・・」

    友「さすがに、あそこで手を出してくるほど浅慮じゃないだろうよ」

    友「しっかり分別を弁えた大人だったってことさ」


    208: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/03(金) 08:56:54 ID:BHBzB302

    男「あの人たち、なにか言ってた?」

    友「どうかな。すぐに教師が来て、連れ立って校舎へ入って行ったからな」

    友「俺は俺で、その場で事情を説明しないといけなくってさ」

    友「男とお嬢様ちゃんについては、知らぬ存ぜぬを通してみせたけど・・・」

    友「あの人たちが、本当にお嬢様ちゃんの家の関係者なら、今頃大騒ぎだろ?」

    男「きっと、そうだろうね」


    209: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/03(金) 08:58:03 ID:BHBzB302

    友「そっちは、なんにもないか?」

    男「たぶん。・・・少なくとも、目に付く範囲では」

    男「僕としては、むしろ昨日のうちにでも、何かあるんじゃないかって思ってて・・・」

    友「・・・どういうつもりなんだろうな?」

    男「・・・わからない」


    210: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/03(金) 08:58:32 ID:BHBzB302

    友「お嬢様ちゃんは?」

    男「僕の家にいるよ。学校には、きてない」

    友「教師からは、何も訊かれなかった?」

    男「うん」コク

    友「不思議だな。かえって怪しいというか」

    友「俺は当事者なわけだけど・・・。あんなにギャラリーがいたんだぞ?」

    友「いくら俺がトボけてみたところで、男やお嬢様ちゃんを見たって人は、いっぱいいるだろうに」


    211: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/03(金) 08:59:04 ID:BHBzB302

    男「・・・」

    友「そんな顔するなよ。 考えたって、仕方ないさ」

    友「もし何かあったら、迷わず相談してくれよ?」

    友「たとえ何があっても、世界で俺だけは、お前の味方でいるんだからな」

    男「友・・・」


    212: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/03(金) 08:59:27 ID:BHBzB302

    友「あー・・・、っと? もう俺一人だけじゃないのか」

    男「?」

    友「お嬢様ちゃんもなんだろ? ・・・世界で、二人だな」

    男「! ・・・はは、そうだね」

    男「昔からずっと・・・これからも、頼りにしてるからね、友」ニコ

    友「ああ、任せとけ」ニッ


    213: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/04(土) 10:08:16 ID:3FFfBojY



    お嬢様「ごちそうさまでした」

    男「ごちそうさま、美味しかったよ」

    お嬢様「ふふっ、ありがとう」ニコ

    男「なんだか、朝からやけに豪勢だったけど・・・」

    男「なにかあったの?」


    214: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/04(土) 10:09:27 ID:3FFfBojY

    お嬢様「とくに、なにかあったわけじゃないんだけどね」

    お嬢様「今日は、わたしがこの家に来て、はじめての休日でしょう?」

    お嬢様「それでね? その・・・いろいろ考えていたら、なんだか浮かれてしまって」

    お嬢様「き、気が付いたら、こんなことに・・・」

    男「考え事って?」

    お嬢様「それは・・・」


    215: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/04(土) 10:10:25 ID:3FFfBojY

    お嬢様「それは・・・」

    男「僕には言えないこと?」

    お嬢様「そうじゃなくって・・・」

    男「あ。もしかして、あれ?」

    男「この前、買い物に行った時、キミがこっそりカゴに入れた生理用品ならトイレの収納スペ――」

    ダンッ!!

    お嬢様「すこし、黙っていてくれる?」ニコ

    男「・・・はい」


    216: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/04(土) 10:11:19 ID:3FFfBojY

    お嬢様「あなたって・・・」

    お嬢様「意地が悪いだけじゃなくて、デリカシーにも欠けるわよね///」

    男「ごめんなさい・・・」

    お嬢様「まったく。 本当に、仕方のない人なんだから」

    お嬢様「わたしが考えていたのはね、今日は休日でしょう? だから、一日中・・・」

    お嬢様「あ、あなたと一緒にいれるんだなって・・・あの、そういう・・・ことよ///」ゴニョゴニョ


    217: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/04(土) 10:12:51 ID:3FFfBojY

    男「・・・・・・ぷっ」

    お嬢様「! わ、笑ったわね!?」

    男「だって、キミがあんまり可愛らしいこと言うから・・・」

    お嬢様「な、なによぉ///」

    男「ごめんね。 ・・・でも、そっか」

    男「キミが来て、もう五日なんだね」

    お嬢様「・・・」


    218: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/04(土) 10:13:29 ID:3FFfBojY

    男「・・・本当に、キミの家の人、だれも来てないの?」

    お嬢様「ええ、来てないわ」

    男「学校も、いつもどおり。 まるで、本当に何にもなかったみたいだ」

    お嬢様「そう・・・」

    男「・・・心配じゃあ、ないのかな?」

    お嬢様「お父様は、なによりも面子を気にする方だから」


    219: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/04(土) 10:14:31 ID:3FFfBojY

    男「・・・苦手なの?」

    お嬢様「人間としてはすごく立派な方よ。とても尊敬しているし、誇らしいわ」

    お嬢様「でも、父親としては・・・」

    男「・・・」

    お嬢様「わたしが小さい頃は、違ったんだけどね・・・」

    お嬢様「お母様が病気で亡くなってからは、あまりわたしのことを見てくれなくなったわ」

    男「そうなんだ・・・」


    220: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/04(土) 10:15:28 ID:3FFfBojY

    お嬢様「そんな顔しないで? ありがちな話よ」

    お嬢様「人間って、そんなに強くないもの・・・。 わたしお母様似だったから、尚更ね」

    お嬢様「・・・あなたの前で、不幸自慢なんてできないわよ」クス

    男「そんなの、比べるようなことじゃないよ」

    男「・・・ホントは、寂しいんじゃないの?」


    221: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/04(土) 10:15:50 ID:3FFfBojY

    お嬢様「仕方ないわ。いつだって、多忙な方だもの」

    お嬢様「でも・・・そうね。 『寂しい』『わたしを気にかけて欲しい』って気持ちが、ないわけじゃないわ」

    お嬢様「だって、わたしのたった一人のお父様だもの」

    お嬢様「血の繋がった・・・家族なんだもの・・・」

    男「・・・」ギュッ

    お嬢様「なんだか、考えていたら心配になってきてしまったわ」

    お嬢様「ダメね、わたし。 自分でそうするって言って、その結果がいまの状況なのに・・・」


    222: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/04(土) 10:19:00 ID:3FFfBojY

    お嬢様「でもね、あまり体が丈夫な人ではないから」

    お嬢様「去年から、胃潰瘍を患ってしまって・・・」

    お嬢様「・・・・・・お薬、ちゃんと飲んでいるかしら」

    男「連絡してみる?」

    お嬢様「でも・・・」

    男「やっぱり僕たち、ずっとこんなこと続けていたらダメだと思う」

    男「そもそもは、僕がキミに甘えてしまったのが悪いんだけど・・・」

    男「どこかで、しっかりケジメは付けないと」


    223: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/04(土) 10:19:57 ID:3FFfBojY

    お嬢様「・・・そうね。・・・あなたの言うとおりだわ」

    男「じゃあ、」

    お嬢様「でも・・・待って!」

    男「?」

    お嬢様「あの、今日だけ・・・今日だけは、一緒に・・・」

    お嬢様「最後だから、今日で、最後だから・・・!」

    お嬢様「あなたと、一緒にすごしたいの」


    224: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/04(土) 10:21:33 ID:3FFfBojY

    お嬢様「・・・これで、最後のワガママにするから・・・」

    お嬢様「そうしたらわたし、お父様とちゃんと話せるから」

    男「・・・うん」

    男「わかった・・・今日は、ずっと一緒にいよう」

    お嬢様「! い、いいの?」

    男「もちろん」


    225: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/04(土) 10:22:02 ID:3FFfBojY

    男「・・・僕も、同じこと言おうと思ってた」

    お嬢様「そうだったの? ・・・同じことを考えていたのね」

    お嬢様「ふふ、なんだか嬉しいわ」

    男「それじゃあ、どうしよう?」

    男「どこか行きたいところとか、したい事とかある?」

    お嬢様「あなたは、なにか考えているの?」

    男「いくつか案はあるけど、できれば二人で決めたいな」


    226: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/04(土) 10:22:51 ID:3FFfBojY

    男「僕たちの、初めてのデートなわけだし」

    お嬢様「でっ、デート・・・っ!?///」

    男「そうでしょ? あれ、違う?」

    お嬢様「ちがわないわ! ええ、なんにも、ちがうことなんてないわね!///」ブンブン

    男「あ、うん・・・」

    お嬢様「でーとっ・・・好きな人と・・・お出かけ・・・ふ、ふたりでっ・・・」ブツブツ


    227: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/04(土) 10:24:02 ID:3FFfBojY

    男「まだお昼前だし、定番だけどレジャーランドとか・・・」

    男「ちょっと早いけど、イルミネーションを見に行ってもいいし・・・」

    男「都心まで出て、ショッピングっていうのもあるんだけど・・・」

    お嬢様「///」ポー

    男「お嬢様さん、聞いてる?」

    お嬢様「! き、聞いていたわよ?」アセアセ

    男「それで、キミの方はなにかある?」


    228: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/04(土) 10:24:58 ID:3FFfBojY

    お嬢様「・・・あなたと・・・」

    お嬢様「・・・遊園地で遊んだり、ライトアップされた街を歩くのも、買い物をするのも・・・」

    お嬢様「みんな、きっと楽しくて素敵だと思うわ」

    お嬢様「でも今日は・・・あなたと二人、ゆっくり過ごしたい」

    お嬢様「・・・近所に、小さな公園があるでしょう?」

    男「うん」


    229: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/04(土) 10:25:33 ID:3FFfBojY

    お嬢様「あそこへ行って、二人でベンチに腰掛けてね?」

    お嬢様「手を繋いで・・・とりとめのない話をしながら、たまに、あなたの肩にもたれたりして・・・」

    お嬢様「小さな子供やその兄妹、その子たちと遊ぶ父親に、迎えに来た母親、その光景を見守る老夫婦・・・」

    お嬢様「・・・そうやって、あなたと二人、たくさんの『家族』を見て過ごしたいの」

    男「・・・」

    お嬢様「だめかしら?」


    230: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/04(土) 10:27:03 ID:3FFfBojY

    男「なんだか、年寄りくさい気がする」

    お嬢様「もうっ! そういうことは、思っていても言わないものよ?」

    男「はは。でも、僕たちらしいや」

    お嬢様「・・・ふふっ、わたしも同じこと思ったわ」

    男「ついさっきも、似たようなやり取りしたね」

    お嬢様「こういうの、フィーリングっていうんでしょう?」クス

    男「そうだね」ニコ


    231: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/04(土) 10:28:15 ID:3FFfBojY

    男「よし。初デートは、公園に決まりだ」

    お嬢様「外は寒いから、温かいお茶を淹れて行きましょう」

    男「僕、着替えてくるよ。 ついでに、キミの分のマフラーも持ってくる」

    お嬢様「ええ。ありがとう」

    男「・・・あのさ」

    お嬢様「なぁに?」


    232: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/04(土) 10:28:48 ID:3FFfBojY

    男「僕、キミに会えてよかった」

    お嬢様「どっ、どうしたのよ、急に?」

    男「なんだか、言っておきたい気分になって」

    お嬢様「変なこと言わないでちょうだい。縁起でもないんだから・・・」

    お嬢様「・・・それとも、またわたしを泣かせるつもり?」

    男「純粋な、感謝の気持ちなのになぁ・・・」


    233: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/04(土) 10:30:22 ID:3FFfBojY

    お嬢様「あんまり泣かせると、嫌いになってしまうからね?」クス

    男「はは・・・気を付けます」

    ピンポーン!

    お嬢様「あら・・・お客様?」

    男「友かな? でも、事前に何の連絡もないのは、らしくないし・・・」

    お嬢様「わたし、見てくるわね」

    男(訪問販売か新聞屋か、宗教勧誘かなぁ・・・)


    234: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/04(土) 10:33:19 ID:3FFfBojY

    お嬢様「どちら様でしょうか?」

    お嬢様「・・・」

    男「・・・?」

    お嬢様「誰かが、間違って押してしまったのかしら?」

    ?「・・・私だ」

    お嬢様「――!!」


    235: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/04(土) 10:33:56 ID:3FFfBojY

    ?「ここを開けて、出て来るんだ」

    男「え・・・だれ?」

    ?「聞こえたのだろう? 同じことを二度も言わせるな」

    お嬢様「・・・」

    男「? お嬢様さん?」

    お嬢様「・・・・・・お父様」

    大旦那「家族ごっこは、終わりだ」


    239: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/05(日) 11:05:26 ID:qd.ytklY



    メイド「お帰りなさいませ、お嬢様」

    お嬢様「・・・」

    大旦那「何をしているんだ。早く行かないか」

    お嬢様「・・・っ」チラ

    男「あ・・・」

    大旦那「あまりモタモタするな。客人を待たせているんだぞ」


    240: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/05(日) 11:06:03 ID:qd.ytklY

    お嬢様「お父様・・・!」

    大旦那「メイド」

    メイド「はい」

    大旦那「娘を着替えさせろ。それから広間へ来い」

    メイド「かしこまりました。 ・・・お嬢様、行きましょう」

    お嬢様「待って、待ってくださいお父様! わたしは、この方と・・・っ」


    241: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/05(日) 11:06:34 ID:qd.ytklY

    大旦那「この男を連れてきたのは、おまえがどうしてもとゴネたからだ」

    大旦那「あんなところで大騒ぎして、衆目の目に晒されるのは、こちらも望むところではないし」

    大旦那「・・・彼にとっても、無体なことだろう? 特段の理由があったわけではない」

    お嬢様「お願いです、お父様。どうか、わたしの話を聞いてください!」

    大旦那「お前のくだらない話に貸す耳は持ち合わせておらん!」

    男「あの!」

    大旦那「部外者は、黙っていてもらおう」ジロッ

    男「う・・・」


    242: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/05(日) 11:07:10 ID:qd.ytklY

    大旦那「・・・さっさとしろ。これ以上愚図るようなら、この男には今すぐ帰ってもらう」

    お嬢様「・・・・・・わかりました」

    大旦那「メイド、娘が変なことをしないか見張っておけ」

    メイド「・・・はい」

    男「・・・」

    大旦那「さて、お前はこっちだ。ついてこい」


    243: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/05(日) 11:08:05 ID:qd.ytklY

    男「彼女は、どこへ?」

    大旦那「客人がいると言ったろう。それなりの格好をさせなければ、失礼に当たる」

    男「客人?」

    大旦那「結婚相手だ」

    男「・・・は?」


    244: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/05(日) 11:08:22 ID:qd.ytklY

    ガチャッ

    大旦那「先ほどから何か言いたそうな顔をしていたが・・・」

    大旦那「これも巡り合わせだと思えば、話が早くて都合がいい」

    大旦那「お前にも紹介しておこう」

    ?「やあ、はじめまして」

    大旦那「娘の許婚の、御曹司殿だ」


    245: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/05(日) 11:09:00 ID:qd.ytklY

    男「・・・」

    男「い、いいなずけ?」

    御曹司「ああ。婚約者っていうことになってる、一応ね」

    御曹司「遅かったじゃないですか。 ・・・彼が、例の?」

    大旦那「うむ。不肖の娘と結託し、私の顔に泥を塗ってくれた男だ」

    御曹司「へえ・・・。どう見ても、普通の高校生って感じだけどなぁ」


    246: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/05(日) 11:09:43 ID:qd.ytklY

    御曹司「ねえ、キミ。キミは、何を持っているの?」

    男「? なにを・・・?」

    御曹司「だって、そうだろう?」

    御曹司「およそ凡人が考え得るものは、全て手に入れることができるだろう彼女がだよ?」

    御曹司「一般人か、それ以下にしか見えないキミとさ・・・」

    御曹司「レアリティの高い・・・そう、何か特別な物で釣ったとしか思えないよ」

    大旦那「・・・」

    男「レアリティ、って・・・? おれは、何も・・・」


    247: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/05(日) 11:10:15 ID:qd.ytklY

    御曹司「じゃあ、何か弱みでも握っていたとか」

    男「なッ・・・!?」

    御曹司「オレはね、彼女のことなら小さい時から知っているんだ」

    御曹司「幼馴染ってヤツさ。 実際に会ったのは、片手で数えるくらいだけどね」

    御曹司「金や物で、彼女が動くとは思えないし・・・もしそうだったら、とっくに誰かのモノさ」

    男「・・・」


    248: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/05(日) 11:10:58 ID:qd.ytklY

    御曹司「だから興味があるんだよ、純粋に」

    御曹司「一体なにが、彼女をそうさせたのかってね」

    御曹司「考えたかないが、実際こうなってるからには、そうさせるなにかをキミは持っていた」

    御曹司「オレにはなくて、キミが持ってるものねえ・・・」

    御曹司「そんなモンあるか?」

    男「それは・・・」

    御曹司「ぜひ、ご教示願いたいもんだ」


    249: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/05(日) 11:11:32 ID:qd.ytklY

    大旦那「それは違うな、御曹司殿」

    大旦那「その男は、私らの目を惹くものなど、何も持ってはいない」

    大旦那「ただの、ペテン師だ」

    御曹司「へえ? それって、どういう意味ですか?」

    コンコン

    メイド「・・・お嬢様をお連れしました」


    250: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/05(日) 11:12:01 ID:qd.ytklY

    大旦那「来たか。入ってこい」

    メイド「かしこまりました」

    ガチャ

    お嬢様「・・・失礼いたします」

    男「!」

    男(ドレスと洋服を折衷したような服に身を包んだお嬢様が・・・)

    御曹司「おお!」


    251: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/05(日) 11:13:36 ID:qd.ytklY

    お嬢様「・・・御曹司様、ご機嫌麗しゅう・・・お久し振りでございます」

    お嬢様「はるばる遠い国から、海をお渡りし、おいで頂いたにも関わらず・・・」

    お嬢様「このたびは、わたしの浅慮な取り行いによって、多大なご迷惑をおかけしたこと、深く――」

    御曹司「まあまあ。そんなに、気にすることないさ」

    御曹司「向こうは、いまは情勢や景気も大分落ち着いていてね」

    御曹司「多少の時間なら、オレがその場にいなくても回せる程度には、軌道に乗せてきたつもりだ」

    お嬢様「ですが・・・」


    252: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/05(日) 11:14:48 ID:qd.ytklY

    御曹司「この数日は、いろいろな観光名所に足を運ばせてもらってね」

    御曹司「ネズミーランドに、アースツリーに・・・むしろ、退屈しないで済んだくらいさ」

    御曹司「そして現に、こうして無事あなたに会えた」

    御曹司「今ならば、あなたの言うことも瑣末なことだと思える」

    お嬢様「・・・寛大なご深慮に、感謝いたします」

    お嬢様「それで、ですね・・・。 あの・・・今回、ご来日頂いた件ですけれど・・・」


    253: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/05(日) 11:15:23 ID:qd.ytklY

    大旦那「空とぼけるのはやめないか。縁談交渉だろう?」

    お嬢様「! お父様!」

    大旦那「彼に気を遣っているのか? だとしたら、もう遅いな」

    大旦那「ここへ入る前に、お前と御曹司殿の関係は話してある」

    お嬢様「そんな!?」

    お嬢様「あ・・・っ」チラ

    男「・・・本当、なんだ・・・」ポツリ

    お嬢様「ちが、違うのよ・・・! あ、いえ・・・そういう話があるのは、本当のことなんだけど・・・」

    男「・・・」


    254: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/05(日) 11:17:04 ID:qd.ytklY

    お嬢様「っ・・・お父様に・・・」

    お嬢様「お父様に聞く気がなくても、聞いていただきます!」

    お嬢様「御曹司様も、恥知らずな女と謗っていただいて構いません、どうか聞いて下さいませ!」

    お嬢様「わたしは・・・お嬢様は、彼に・・・そこに居る男性に心惹かれております!」

    大旦那「何を言いだす! よさないか、馬鹿馬鹿しい!」

    大旦那「曲がりなりにも婚約者がいる前で、別の男に惹かれているだと・・・?」

    大旦那「そのような、はしたない女に育てた覚えはない!」

    御曹司「はは、そんなに怒鳴ることありませんよ。 確かにいい気分はしませんが・・・」


    255: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/05(日) 11:17:38 ID:qd.ytklY

    大旦那「そうはいかん。この際だ、お前にも教えておいてやろう」

    大旦那「そこの男はな、お前を騙して拐した、ペテン師だ」

    大旦那「いや、ペテン師どころではないな。もっとタチが悪い・・・」

    大旦那「――親に棄てられた、欠陥人間だ」

    お嬢様「お父様ッ!!!」

    大旦那「・・・ここ数日の、おまえたちのやり取りはほぼ全て把握している」

    男・お嬢様「!?」


    256: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/05(日) 11:21:28 ID:qd.ytklY

    大旦那「お前の制服にはな、マイクが仕込んであったのだ」

    お嬢様「な、なんですって・・・? そんなこと・・・」

    大旦那「それで常に監視させるよう、メイドにいい付けていたのだ」

    大旦那「そうして、別の人間には、その男とやらの徹底した身辺調査を行わせた」

    男「・・・!」

    大旦那「漫画やドラマの世界だけの話かと思ったか? ふふ、ありがちな話だ」

    大旦那「不思議に思ったろう? 何もしてこないのは何故だ、と」


    257: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/05(日) 11:24:17 ID:qd.ytklY

    大旦那「敢えてしなかっただけだ。 そう、いつでも『何かする』のはできた」

    大旦那「それが、たまたま今日になっただけだ」

    お嬢様「・・・・・・さい」

    大旦那「なんだ?」

    お嬢様「・・・取り消してください」

    大旦那「なにをだ」

    お嬢様「彼は欠陥じゃないわ!」


    258: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/05(日) 11:27:09 ID:qd.ytklY

    大旦那「満足に食事もできん人間だろう? そういった者の末路は想像ができる」

    大旦那「いずれ、他者といるだけで苦痛を覚えるようになる。 ・・・その男自身、言っていた通りな」

    男「・・・っ」

    大旦那「断絶された世界で、独りきりでいる人間が、正常なわけもなかろう?」

    お嬢様「望んでそうなったわけではないわ!」

    大旦那「過程は問題ではない。 勉学も、仕事も、芸術も、評価されるのは結果であり現状だ」


    259: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/05(日) 11:32:54 ID:qd.ytklY

    御曹司「・・・その通りだね」

    御曹司「仮にあなたが彼と一緒になったとして・・・」

    御曹司「オレには、それが上手くいくとは到底思えない」

    お嬢様「そんなことない! わたしは、そんな風には思いません!」

    お嬢様「第一、親が居ないと言うのなら、わたしだって同じでしょう!?」

    大旦那「病気で死ぬのと、棄てられるのでは、まるで意味合いが違うだろう」

    お嬢様「それで心が傷つくのは一緒よ! お父様の言う通り、大事なのは過去じゃない」

    お嬢様「わたしの今の、この気持ちよ!」


    260: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/05(日) 11:36:04 ID:qd.ytklY

    大旦那「おまえがそこまで惹かれるのは、この男の何に対してだ?」

    大旦那「金がないのは勿論、特別な才能の一つも持ち合わせていない、平凡な人間ではないか」

    御曹司「少なくともオレなら・・・名誉も地位も、権力も、あなたのために用意できる」

    御曹司「誰よりも裕福で、満たされた暮らしが約束できる」

    大旦那「もちろん、ただ普通であるだけの男におまえをやるつもりなど毛頭ないが」

    大旦那「その相手が、精神的弱者であるのなら尚更許し難い」

    大旦那「娘を持つ一人の親としては、これは当然のことだと思うがな?」


    261: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/05(日) 11:39:40 ID:qd.ytklY

    お嬢様「・・・それは、でも・・・っ」

    大旦那「なんであろうと、お前をその男にはやれん」

    大旦那「・・・信用できんのだ」

    大旦那「おまえが無知なのをいいことに、さんざ下卑た真似をしたのではとな」

    お嬢様「彼は・・・! わたしは、彼と五日間、寝食を共にしましたけど」

    お嬢様「彼が、お父様が心配なさるような、破廉恥な気持ちで・・・わたしに触れてくるようなことはなかったわ!」


    262: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/05(日) 11:42:07 ID:qd.ytklY

    大旦那「・・・それは僥倖」

    大旦那「娘が傷モノにされる前に解決できてなによりだ」

    お嬢様「っ・・・こんな・・・お、お母様がいれば、きっと!」

    大旦那「! 生きている人間の話に、死んだ人間を持ち出すんじゃない!」

    お嬢様「・・・じゃあ、わたしの、わたしの気持ちはどうすればいいの?」

    大旦那「そんなもの、初めからこうなると、わかっていただろう?」

    大旦那「それに・・・今更どうしようもない話だ」

    お嬢様「・・・?」


    263: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/05(日) 11:42:31 ID:qd.ytklY

    大旦那「お前は明後日、御曹司殿と一緒に海外へ渡るのだ」

    男「!?」

    お嬢様「? な、何を言ってるの、お父様・・・冗談はやめて・・・」

    大旦那「冗談ではない、既に学籍は除籍済みだ」

    お嬢様「うそ・・・」

    男(そうか。だから学校じゃあ、なにも・・・)


    264: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/05(日) 11:43:17 ID:qd.ytklY

    大旦那「航空便も手配してある」

    大旦那「できれば専属輸送を用意したかったが、なにぶん急に用意する必要があったからな」

    大旦那「申し訳ないな、御曹司殿。少々窮屈な思いをさせてしまうかもしれん」

    御曹司「とんでもない。一般の航空機というのも、それはそれで興味があります」

    大旦那「私も鬼ではない。学友や教諭らにお別れを言う時間くらいは用意してやろう」

    大旦那「明日、メイドに身辺整理も含めて送迎させよう。 メイド、いいな?」

    メイド「はい。委細、かしこまりました」


    265: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/05(日) 11:43:49 ID:qd.ytklY

    大旦那「だが、その男はダメだ。 お前が発つその瞬間まで、一切の接触を禁じる」

    お嬢様「いや・・・そんなの! お父様・・・お願い、やめて・・・」

    大旦那「やめるもなにもない。 もう、決まったことだ」

    お嬢様「やだ・・・こんなの、こんなのあんまりよ・・・!」

    大旦那「理不尽に思えるだろうが、いずれお前にも分かる時が来る」

    大旦那「私は失敗したことがない。いつだって、正しかったのは私だ」


    266: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/05(日) 11:44:05 ID:qd.ytklY

    大旦那「だからお前は、わたしの言うことを聞いていればいいのだ」

    大旦那「そうすれば、お前は幸せになれる」

    お嬢様「・・・」フルフル

    大旦那「聞き分けろ」

    お嬢様「彼と・・・話をさせて、二人で・・・」

    大旦那「ダメだ」

    お嬢様「・・・っ!!」


    267: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/05(日) 11:44:41 ID:qd.ytklY

    大旦那「お間がいま持っている気持ちは、一過性のものだ」

    大旦那「普通ではない出会い、普通ではない状況、普通ではない環境・・・」

    大旦那「そういったものが、たまたまお前の感情回路に作用して生まれただけのものだ」

    大旦那「いずれ冷静になった時に後悔する」

    大旦那「その時傷付くのは、お前だけではない。彼も傷付くだろう。それでもいいのか?」

    お嬢様「・・・・・・」

    大旦那「理解したのなら、部屋へ行って、荷物をまとめろ」

    お嬢様「・・・」フルフル


    268: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/05(日) 11:45:19 ID:qd.ytklY

    大旦那「メイド、娘を連れて行ってくれ」

    メイド「しかし・・・」

    大旦那「もう話は終わりだ」

    大旦那「御曹司殿、すまないが、一緒に行って見てやってくれないか」

    御曹司「そうですね。まあ、あっちで物に困ることはないでしょうが・・・」

    御曹司「思い入れがあるものは、手元に残しておいたほうがいいでしょう」


    269: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/05(日) 11:45:44 ID:qd.ytklY

    御曹司「さあ、行こうか」

    メイド「・・・お嬢様・・・」

    お嬢様「・・・」フルフル

    大旦那「いいから連れて行け!」

    メイド「お嬢様、行きましょう・・・」

    バタン……


    270: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/05(日) 11:46:24 ID:qd.ytklY

    男「あ・・・」

    大旦那「いま、タクシーを呼ばせる。それで帰ってもらおう」

    大旦那「私は、仕事が溜まっているのでな。これで失礼する」

    男「・・・・・・待ってください」

    大旦那「なんだ? まだなにかあるのか?」

    大旦那「おまえが何を言っても、もう――」

    男「それは、いいです」


    271: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/05(日) 11:46:52 ID:qd.ytklY

    男「あなたの言ったことはいちいち正論でしたし」

    男「おれがあなたの言う通り、人間として欠陥なんだというのも自覚しています」

    男「でも、彼女という存在を、ないがしろに扱うのは止めてあげて下さい」

    大旦那「親が自分の子をどう扱おうと、他人に口出しされる謂れはないな」

    男「おれは親が居ません。父は蒸発して、母は自殺しましたから」

    男「だからもちろん、親の気持ちなんて分かりません」

    男「けど、親が子を思うように、子も親を思います」


    272: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/05(日) 11:47:18 ID:qd.ytklY

    大旦那「なにが言いたい?」

    男「おれたちの会話、聞いていたんじゃないですか?」

    男「彼女、あなたのことをとても気に掛けていました」

    男「胃潰瘍に罹ってるんですよね? ・・・薬、欠かさず飲んでますか?」

    大旦那「・・・」

    男「あなたの言うこと、おれ、分かりますよ」


    273: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/05(日) 11:48:07 ID:qd.ytklY

    男「自分が親になるなんて、想像もつきませんけど・・・」

    男「おれがあなたなら、やっぱり納得行かないし、許せないと思います」

    男「どんなに自分の子供が理想や感情を翳しても、相手が障害者だったりしたら躊躇います」

    男「・・・それが当たり前です。好きだという感情一つで生きていけるほど、世の中簡単じゃないですから」

    大旦那「見た目に反して現実主義だな」

    男「ずっと戦ってきましたから。・・・現実と」


    274: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/05(日) 11:48:24 ID:qd.ytklY

    男「お金があって、物に溢れてて・・・それで、幸せなんでしょうか?」

    大旦那「ないよりは、あったほうがいいのは間違いなかろう」

    男「彼女、寂しいって言ってましたよ。父親が、自分を見てくれなくなったと・・・」

    大旦那「・・・」

    男「彼女に、別れを告げるような学友は居ませんよ」

    大旦那「なんだと?」

    男「知りませんでしたか?」

    大旦那「・・・」


    275: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/05(日) 11:48:56 ID:qd.ytklY

    男「もう少し、時間をあげることはできませんか?」

    男「おれと彼女の、ではなくて・・・」

    男「彼女がもう一度好きだという相手が現れた時、それが、おれのような欠陥人間じゃなかったら・・・」

    男「彼女とその男を・・・しっかり見てやって欲しいんです」

    大旦那「・・・おまえは・・・」

    大旦那「私がこんなことを言うのもなんだが、娘に未練はないのか?」

    大旦那「なぜそのようなことを、笑って言える・・・?」


    276: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/05(日) 11:49:23 ID:qd.ytklY

    男「未練はありますよ。お嬢様さんのこと、一生忘れられないと思います」

    男「彼女のおかげで、おれは救われました。誇張じゃありません」

    男「だから、彼女にはうんと幸せになって欲しいんです」

    大旦那「なら・・・なぜだ?」

    大旦那「駆け落ちでも何でも・・・方法はあったろう」

    男「おれは・・・おれが世界で一番、彼女を幸せにできるんだって」

    男「そんな風に思い上がること、できませんから」


    277: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/05(日) 11:49:51 ID:qd.ytklY

    男「・・・それに、駆け落ちじゃあ、ダメなんです」

    男「おれだけじゃダメなんです。あなたもいないと」

    大旦那「私も?」

    男「あなたにも、きっと祝福して欲しいんです。 だって、あなたは・・・」

    男「あの子のたった一人、・・・血の繋がった『家族』なんですから」

    大旦那「!」

    男「・・・彼女のこと、よろしくお願いします」ペコリ


    278: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/05(日) 11:50:44 ID:qd.ytklY

    大旦那「・・・待て」

    男「?」

    大旦那「・・・・・・」

    大旦那「欠陥と言ったことは、取り消す・・・」

    男「え・・・」

    大旦那「それと数日間とはいえ、娘の面倒を見てくれたことには・・・感謝する」フイッ

    大旦那「屋敷の門前まで、黒服に送らせよう」

    男「・・・はい」クス


    281: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/06(月) 04:37:51 ID:dITg6Ycw



    お嬢様「・・・・・・」

    メイド「・・・」

    メイド「御曹司様、少しよろしいでしょうか?」

    御曹司「なんだい?」

    メイド「申し訳ありませんが、お嬢様は少し寄るところがあります」

    お嬢様「・・・?」


    282: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/06(月) 04:38:47 ID:dITg6Ycw

    御曹司「寄るところ?」

    メイド「お察しください」

    御曹司「・・・ああ」

    メイド「ですので、先に、お嬢様の部屋の前でお待ちいただけますか?」

    御曹司「そういうことなら、仕方ないな」

    御曹司「了解だ。だけど、あまり待たせないでくれよ?」

    御曹司「べつに待つのは嫌いじゃないが、今回は散々待たされたからね」

    メイド「かしこまりました」ペコリ


    283: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/06(月) 04:39:17 ID:dITg6Ycw

    メイド「・・・・・・」

    お嬢様「メイド? わたしべつに・・・」

    メイド「どうぞ、お行きください」

    お嬢様「・・・え」

    メイド「おそらく、大門を出てからタクシーに乗るはずです」

    メイド「先に人払いをしておきますから、そこでお待ちになるといいでしょう」

    お嬢様「メイド?」


    284: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/06(月) 04:40:03 ID:dITg6Ycw

    メイド「・・・大旦那様の、おっしゃった通りです」

    メイド「全てではありませんが、わたくしはお二人の会話を盗み聞きしておりました」

    お嬢様「・・・」

    メイド「お嬢様にとって、それがどれだけ許しがたい行為で・・・」

    メイド「わたくしが何度地に頭を擦りつけようと、決してお許し戴けないであろうことも、覚悟しております」

    お嬢様「そんなこと・・・」


    285: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/06(月) 04:40:38 ID:dITg6Ycw

    メイド「どんな方なのか・・・。 はじめは、興味と警戒が目的でした」

    メイド「しかし、日を追うに連れて・・・」

    お嬢様「・・・」

    メイド「血は繋がっていなくとも、お嬢様とあの方は、紛れもない家族でした」

    メイド「なにより、お嬢様があのように笑ってらしたのは、わたくしにはとんと久しぶりに思えました」

    メイド「・・・ああ。この方は、お嬢様を心から笑顔に出来る方なのだと・・・」


    286: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/06(月) 04:41:09 ID:dITg6Ycw

    メイド「ですからこれは、お嬢様への謝罪と、あの方への感謝の気持ちです」

    メイド「わたくしには、この程度が精一杯ですが・・・」

    お嬢様「いいえ」

    お嬢様「そんなことない、充分だわ。 ありがとうね、メイド・・・」ギュッ

    お嬢様「わたし・・・行ってくるわね!」ニコッ

    メイド「はい、行ってらっしゃいませ」フカブカ


    287: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/06(月) 04:42:02 ID:dITg6Ycw



    男「・・・」

    黒服A「よそ見してんじゃねえ」

    男「あ、すいません」

    黒服A「そんなに珍しいか?」

    男「そうですね」

    男「まず、家の中を車で移動するところが珍しいです」


    288: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/06(月) 04:43:12 ID:dITg6Ycw

    黒服A「・・・」

    男「・・・」

    黒服A「おい」

    男「なんですか?」

    黒服A「おまえ、本当にお嬢様には指一本触れてないんだろうな?」

    男「そうですけど・・・」

    黒服A「・・・」


    289: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/06(月) 04:43:49 ID:dITg6Ycw

    男「そういうのは全部、ケジメを付けてからだと誓っていたので」

    黒服A「誓った? 何にだ」

    男「自分自身です。 彼女を好きになった、自分にです」

    黒服A「・・・」

    黒服A「俺はな、この屋敷で、お嬢様のことをずぅっと見てきたんだ」

    黒服A「だからかね? 大旦那様の前じゃ口が裂けても言えねえが、妹か、娘のように思ってる」

    男「はい」


    290: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/06(月) 04:44:48 ID:dITg6Ycw

    黒服A「これは、俺だけじゃねえ。同じように思ってるヤツはけっこういるんだ」

    黒服A「だから、お嬢様を五日間も拉致監禁した、どこぞの腐れた馬の骨を憎む気持ちがないわけじゃねえ」

    男「・・・拉致監禁・・・」

    黒服A「だが・・・最低最悪の一歩手前のとこで、筋は通してるみてぇだな」

    黒服A「次に顔を見たら、変形するくらいブン殴ってやろうと思っていたが・・・」

    黒服A「・・・勘弁してやる」フン

    男「・・・どうも」


    291: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/06(月) 04:46:25 ID:dITg6Ycw

    キキッ

    黒服A「着いたぞ。降りろ」

    黒服A「降りたら、脇に人が出入りするための通用門がある。そこから出ろ」

    男「わかりました。わざわざ、ありがとうございます」

    黒服A「それから、こいつを」

    男「この、封筒は?」

    黒服A「大旦那様から、おまえ宛てに預かったもんだ。 必ず渡すようにってな」


    292: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/06(月) 04:47:07 ID:dITg6Ycw

    男「・・・中身、お金じゃないですか・・・」

    黒服A「だろうな。大旦那様が、どういうつもりで用意したかしらねえが・・・」

    黒服A「受け取っておけ。 べつにあって困るもんじゃねえだろ?」

    男「これ、手切れ金っていうのですか?」

    黒服A「・・・・・・かもな」

    男「返します」

    黒服A「ダメだ。必ず渡せと言い遣ってる」


    293: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/06(月) 04:48:36 ID:dITg6Ycw

    男「彼女と会わないということに、いまさら異論を挟むつもりはないです」

    男「けれど、縁まで切って失くすつもりはありません」

    男「だから返します。 もしあなたが返せないのなら、歩いて戻ってでも、自分で返します」

    黒服A「・・・ちっ。 返せ、俺の方から上手く言っておく」

    男「お願いします」


    294: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/06(月) 04:49:31 ID:dITg6Ycw

    黒服A「・・・おい」

    男「はい?」

    黒服A「・・・お嬢様のこと・・・」

    黒服A「もう、諦めんのか?」

    男「・・・」

    黒服A「べつにお前個人がどうのこうのってわけじゃねえぞ?」

    黒服A「ただな、御曹司みたいな男に、お嬢様を預けるくらいなら・・・」


    295: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/06(月) 04:51:23 ID:dITg6Ycw

    男「・・・ありがとうございます」

    男「でも、もう決まったことみたいですから」

    黒服A「そうか・・・そうだな」

    黒服A「じゃあな。もう、会うこともないだろうが」

    男「はい」バタン


    296: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/06(月) 04:51:45 ID:dITg6Ycw

    ブロロロロ

    男「・・・ふう」

    男「・・・・・・」クルリ

    男「大きいなぁ。・・・僕には大きすぎるや」

    男「・・・言いたかったこと、まだまだあったんだけどなぁ・・・」

    男「また、泣いてないかなぁ・・・」

    お嬢様「泣いてないわよ」


    297: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/06(月) 04:54:45 ID:dITg6Ycw

    男「!」

    お嬢様「なによ、そんな驚いた顔して・・・」

    男「・・・なんで、ここに?」

    お嬢様「自分の家だもの、散歩くらいするわよ・・・」

    男「そっか・・・」


    298: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/06(月) 04:55:11 ID:dITg6Ycw

    お嬢様「・・・なんで」

    お嬢様「なんで、そのまま帰ってしまおうとするの?」

    男「・・・」

    お嬢様「わたしに・・・! もう一度、どうにかして会いたいとか、おもっ・・・!」ポロッ

    男「ごめん・・・」


    299: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/06(月) 04:56:21 ID:dITg6Ycw

    お嬢様「・・・どうして・・・?」

    お嬢様「どうして、何も言わなかったの?」

    お嬢様「お父様や御曹司様に、あんな風に言われて・・・ぜんぜん、悔しくないの?」

    男「は・・・」

    お嬢様「あんな風に言われて、どうして何も言い返さないの?」

    男「それは・・・」


    300: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/06(月) 04:57:48 ID:dITg6Ycw

    お嬢様「わたしは悔しかったわ」

    お嬢様「・・・あなたはダメじゃないもの」

    お嬢様「わたしが知ってるあなたは、欠陥人間なんかじゃ、ないもの・・・っ」ポロポロ

    男「・・・」

    お嬢様「過去の自分がどうだったとしても」

    お嬢様「人は、変われるわ。変われるのよ・・・」

    お嬢様「あなたがそう、わたしに教えてくれたんじゃない!」

    男「・・・」


    301: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/06(月) 05:03:03 ID:dITg6Ycw

    お嬢様「なんで黙っているの?」

    お嬢様「言いたかったこと、あったんでしょう? 言いなさいよ・・・」

    男「僕は」ギュッ

    お嬢様「・・・」

    男(僕が、静かに涙を流す彼女の手を握ると、彼女もそっと指を絡めてきた・・・)

    男「僕はずっと、自分のことが好きじゃなかった」

    男「でも、キミのおかげで・・・。キミと出会って、キミの言葉で、キミがくれた温もりで・・・」


    302: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/06(月) 05:04:08 ID:dITg6Ycw

    男「ほんの少しだけど、僕は僕で。 ・・・これでもいいのかなって、思えるようになった」

    男「それが、僕にとっては変わったってことなんだとしたらさ」

    男「僕にはもう、それで十分だよ」

    お嬢様「・・・それで十分? もう・・・?」

    お嬢様「・・・わたしたち、これで終わりでもいいの・・・?」

    お嬢様「こんな風に、もう会えなくなって、お別れしてしまってもいいの?」


    303: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/06(月) 05:06:31 ID:dITg6Ycw

    男「キミは、たくさんの人を幸せにできる人だよ」

    男「僕一人じゃ、とても釣り合わない・・・勿体無い、女の子だ」

    お嬢様「他の人なんて・・・! わたし考えられないし、考えたくないわ・・・っ」

    お嬢様「だから、もう一度わたしと一緒に、お父様と話しましょう?」

    お嬢様「わかってもらえるまで、何度も」

    お嬢様「どうしてもダメだと言われたら、あなたと二人、どこか遠くへ・・・!」


    304: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/06(月) 05:08:06 ID:dITg6Ycw

    男「それはダメだよ」

    男「それじゃ、僕もキミも、幸せにはなれない」

    男「キミだって、それは分かるでしょ?」

    お嬢様「でも、それじゃあ本当に、お別れなの・・・?」

    お嬢様「イヤよ、イヤ・・・あなたと離れたくない・・・ずっとあなたといたい・・・」

    お嬢様「あなたは、そうじゃないの? ・・・わたしのこと・・・」

    男「好きだよ」


    305: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/06(月) 05:08:37 ID:dITg6Ycw

    お嬢様「・・・っ、ぅ・・・」ポロポロ

    男「・・・」

    お嬢様「っく・・・ぐす、ひっく・・・」ポロポロ

    男「・・・やっぱり、キミのお父さんだね」

    男「細かい仕草とか、照れたり泣きそうなると、背を向けるところとかソックリだ」

    お嬢様「ぅ・・・っく・・・」ポロポロ


    306: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/06(月) 05:10:31 ID:dITg6Ycw

    男「お父さんのこと、大切にね」

    男「もっと、怖がらずに、自分のことをたくさん話して上げなよ」

    男「直接話すのが難しいなら、メールでもなんでもいいから、ね?」

    男「やっぱり『家族』はさ・・・一緒に居なきゃダメだよ」

    お嬢様「・・・」

    男「・・・」


    307: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/06(月) 05:11:53 ID:dITg6Ycw

    お嬢様「・・・さいごのわがまま」

    男「?」

    お嬢様「デートには、行けなかったから・・・」

    お嬢様「・・・まだ、有効でしょう?」

    男「・・・うん。今ここで、僕ができることなら、なんでもするよ」

    お嬢様「・・・目を瞑って?」

    男「わかった」


    308: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/06(月) 05:22:24 ID:dITg6Ycw

    お嬢様「・・・ん・・・」

    男「・・・」

    お嬢様「・・・」

    お嬢様「ファースト・キスよ」

    お嬢様「男さん・・・名前を呼ぶのは、初めてね。 なんだか不思議な感じ・・・」

    お嬢様「あなたと過ごした時間は、わたしの人生の中で、一番安らぎに満ちたものだったわ」


    309: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/06(月) 05:22:37 ID:dITg6Ycw

    お嬢様「男さん・・・・・・男様」

    お嬢様「男様がそうであるように、わたしも、男様にどれだけ救っていただいたか・・・言葉にできません」

    お嬢様「わたしの人生に、夢のような日々を、ありがとうございました」

    お嬢様「・・・わたしは・・・お嬢様は、これから先もずっと、男様だけを想っております」

    お嬢様「ずっと・・・ずっと、愛しております」

    男「・・・」

    お嬢様「さようなら」


    317: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/08(水) 09:55:47 ID:2BTS5C7k



    タクシーの運転手「着いたぞ、兄ちゃん」

    男「ん・・・ぅ」

    タクシーの運転手「住所、ここで合ってるよな?」

    男「・・・あ、・・・はい」キョロキョロ

    タクシーの運転手「はっは、寝ぼけてるな? すっかり寝入ってたもんなぁ」

    タクシーの運転手「悲しい夢でも見てたのか?」

    男「え?」


    318: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/08(水) 09:56:45 ID:2BTS5C7k

    タクシーの運転手「いや、頬に涙の跡がよ」

    男「・・・」コシコシ

    男「・・・いくらですか?」

    タクシーの運転手「ああ、お代ならもう貰ってんだ」

    タクシーの運転手「だから、そのまま降りちゃってくれや」

    男「・・・そうですか」ガチャ


    319: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/08(水) 09:57:49 ID:2BTS5C7k

    タクシーの運転手「・・・兄ちゃん、何があったかしらんけど、元気出せよ?」

    タクシーの運転手「俺もよぅ、去年、二十年勤めた会社をリストラされちまってな」

    タクシーの運転手「こんな時代だろ? 資格もキャリアもない中年オヤジには、再就職なんてホトホトなぁ・・・」

    タクシーの運転手「でもよぅ。ウチに帰っと、笑顔の嫁が、泣き言一つ零さずに迎えてくれんだよ」

    タクシーの運転手「毎日毎日よ。そしたらだんだん、自分が惨めに、情けなくなっちまってよ」

    タクシーの運転手「俺と別れてくれ、自分の人生を歩いてくれやって・・・折れちまったんだなぁ」


    320: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/08(水) 09:59:45 ID:2BTS5C7k

    男「・・・」

    タクシーの運転手「でもよ、そしたら・・・はっは。『絶対に嫌です』って」

    タクシーの運転手「『貴方がどんなに貧しくても・・・どれだけの不幸に見舞われようと、私は貴方に寄り添って歩いてゆきます』」

    タクシーの運転手「『ですから貴方も、私の手を引いて歩き続けて下さい。前に、進み続けてください』」

    タクシーの運転手「『そしてどうか、生きてるうちは、前に進むことを諦めないで下さい』」

    タクシーの運転手「・・・それが、生きてる人間の唯一の義務です・・・ってよ」


    321: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/08(水) 10:01:26 ID:2BTS5C7k

    男「・・・いい話ですね」

    タクシーの運転手「ん、なんかノロケたみたいになっちまったか?」

    タクシーの運転手「はっは、年甲斐もなくマジに語っちまって、恥ずかしいったらねぇな!」

    タクシーの運転手「・・・なんだか、兄ちゃんの顔が・・・その頃の俺と、同じ顔してたように見えたからよ」

    タクシーの運転手「見当違いなら、中年の戯言と思って、聞き流してくれや」

    男「・・・はい・・・」

    タクシーの運転手「それじゃあな、兄ちゃん」

    男「ありがとうございました」バタン


    322: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/08(水) 10:08:11 ID:2BTS5C7k

    ブロロ・・・

    男「・・・」

    男「いつの間にか、日がこんなに傾いて・・・」

    男「・・・」

    男「・・・なんだか、あっという間だったなぁ・・・」

    ガチャ

    男「ただいま」

    男(そういえば、もう誰もいないんだったなぁ・・・)


    323: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/08(水) 10:09:52 ID:2BTS5C7k

    友「おかえり」

    男「! と、友!?」

    友「鍵、かかってなかったぞ? 無用心だな」

    男「あ・・・。 出る時、バタバタしてたから」

    友「ウチの妹が、車に乗ってくところを見てたみたいでさ」

    友「とにかく泣きつかれて、様子を見に来てみれば、こんな状態だろ?」


    324: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/08(水) 10:10:40 ID:2BTS5C7k

    友「男・・・」

    友「・・・ひとりか」

    男「うん・・・」

    友「お嬢様ちゃんは?」

    男「帰ったよ、自分の家に」

    友「そうか・・・」

    友「まあ、気を落とすなよ。明日になれば、また学校で会えるさ」


    325: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/08(水) 10:11:26 ID:2BTS5C7k

    男「学校は辞めたよ、彼女」

    友「はあ?」

    男「実は婚約者がいて、その人と、外国へ行くんだって」

    男「いつこっちへ帰ってくるかは分からないし、僕はもう、彼女とは会えない」

    男「会うな、って言われた」

    友「・・・・・・は、」

    友「話が急すぎて、把握しきれないんだが・・・」

    友「それで、そのまま帰ってきたのか」


    326: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/08(水) 10:12:20 ID:2BTS5C7k

    男「うん」

    友「うん、って・・・! 男は、それでいいのか?」

    男「そんなの、良いも悪いもないじゃないか」

    男「土台、こんな状態長続きしっこなかったのは、友だってわかってたでしょ?」

    男「彼女にはちゃんと本当の家族がいて、その父親が、彼女のためにそうすることを決めたんだ」

    友「・・・お嬢様ちゃんが承諾するとは思えない」

    男「そうだね・・・嫌がってたよ」


    327: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/08(水) 10:15:13 ID:2BTS5C7k

    友「横暴じゃないか!」

    男「僕といるよりはいい」

    友「それは、お嬢様ちゃんがそう言ったのか?」

    男「・・・」

    男「彼女ってさ、ほら、お嬢様でしょ?」

    男「僕とは、身分違いにすぎるって」

    友「やめろよ! なんだよそれ・・・?」

    友「人を好きになる気持ちに、貴賎なんてあるか!」


    328: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/08(水) 10:16:44 ID:2BTS5C7k

    男「・・・もう、どうしようもないことなんだよ」

    男「飛行機、取ったって。 ・・・明後日出発するみたい」

    友「よし、俺が車を出す。 今すぐお嬢様ちゃんの所へ行こう!」

    男「いいよ・・・。お別れなら、済ませてきたから・・・」

    友「なんでそんなに淡白なんだよ・・・もう会えないんだろ?」

    友「なんとも思わないのか? なんにも感じないのか?」

    友「悲しくないのかよ!?」


    329: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/08(水) 10:17:51 ID:2BTS5C7k

    男「――悲しいよ!」

    友「!」

    男「彼女にもう、会えないんだって・・・声が聞けないんだって思うと・・・」

    男「寂しいし、辛いし・・・苦しいよ!」

    男「でも、彼女はホントにいい子で、友みたいになんでもできて」

    男「だから・・・僕なんかといるよりも、きっと」

    友「・・・またそれか」


    330: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/08(水) 10:19:48 ID:2BTS5C7k

    男「・・・」

    友「二言目には決まって、自分みたいな人間はって言うんだよな」

    友「・・・男はさ、ただ怖がっているだけだ」

    友「繋がりを作ること、それを失うこと、そうして心が傷付くことを」

    友「怖がって、避けてるだけじゃないか」

    友「俺は、人並みの恋しかしたことないけど・・・誰かを好きになるのに、二番や三番はないんだ」

    友「いつだって『誰が一番か』っていうのが、恋をするってことじゃないのか?」


    331: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/08(水) 10:20:41 ID:2BTS5C7k

    友「お嬢様ちゃんにとっては、男が一番で・・・」

    友「お互い好き合ってて、一緒にいる理由に、それ以上なにが必要だ!?」

    友「彼女の気持ちを、彼女の一番(おまえ)が否定するなよ!!」

    男「っ・・・」

    男「・・・それじゃあ、どうするのさ」


    332: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/08(水) 10:21:09 ID:2BTS5C7k

    友「とりあえず、どこか遠くへ二人で逃げちまえば・・・」

    男「それこそ、この五日間となにも変わらない!」

    友「帳尻なら、あとでいくらでも合わせればいいだろ!」

    男「後ろめたさを抱えながら、彼女と暮らすのなら・・・僕は彼女の一番失格だ」

    友「・・・っ」


    333: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/08(水) 10:21:49 ID:2BTS5C7k

    男「それに、ほんの少しだけど・・・気後れしたんだ」

    男「・・・住む世界が違うんだなぁって、そう思っちゃったんだ」

    男「彼女を一番傷付ける考え方をして、僕は彼女の気持ちに背を向けた」

    男「彼女から逃げたんだ! ・・・結局僕は、弱くて情けない、ダメな人間のままで・・・」

    男「そんな男が・・・いまさら、どんな顔して会いに行けるんだ・・・?」

    友「・・・」


    334: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/08(水) 10:22:23 ID:2BTS5C7k

    友「・・・どんな顔だっていいじゃないか・・・」

    友「誰だって、そんなに強くないだろ? みんな弱いところいっぱいあって・・・」

    友「お嬢様ちゃんだって、そういう弱いところ全部裸になって、男に見せてきたんじゃないか」

    友「男だって弱いところあって当たり前だろ」

    男「・・・」

    友「『僕は弱くて情けない、ダメな人間です』って・・・」

    友「そういう顔していけばいいだろ!」


    335: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/08(水) 10:23:53 ID:2BTS5C7k

    男「・・・・・・」

    友「男が躊躇うのも仕方ないさ。・・・性格や価値観って、一朝一夕で変えられるほど単純じゃない」

    友「だからおまえが、弱くて情けない自分を、どうしても信じられないのなら・・・」

    友「お嬢様ちゃんを、信じてみたらどうだ?」

    男「お嬢様さんを・・・?」

    友「『あなたはダメじゃない』って、そう言ってくれた彼女の言葉を」

    友「おまえが好きになった・・・お嬢様ちゃんが変わったと信じる『男』ってヤツのことを」


    336: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/08(水) 10:24:43 ID:2BTS5C7k

    男「・・・」

    友「・・・部外者の俺が、なに勝手なこと言ってんだって思うだろうけどさ」

    友「俺は、男とお嬢様ちゃんの出会いは、特別なものだったんだって信じたいんだよ」

    友「運命だったんだって」

    男「・・・運命・・・」

    友「俺も」

    男「?」

    友「お嬢様ちゃんが言うように、男は変わったって、信じてる」


    337: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/08(水) 10:26:49 ID:2BTS5C7k

    友「彼女と出会って、おまえは変われたんだよ」

    友「だからもう一度、理屈や建前は抜きで、自分がどうしたいのか考えてみてくれ」

    男「どうしたいか・・・」

    友「おまえが前へ進む気になったのなら・・・。俺が、必ず何とかしてやる!」

    男「友・・・」

    友「連絡、待ってるからな」

    男「・・・」

    男「・・・僕は・・・!」グッ


    344: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/10(金) 13:56:12 ID:QFYmIAUU



    プルルルル・・・プ゚ルルル

    ・・・。

    メイド「・・・もしもし? メイドです」

    メイド「こちらは、さきほど学校に残った、お嬢様の荷物をまとめ終えたところです」

    ・・・。

    メイド「・・・大旦那様は、お帰りなりましたか?」

    ・・・。

    メイド「・・・そうですか」


    345: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/10(金) 13:56:37 ID:QFYmIAUU

    ・・・。

    メイド「・・・お嬢様なら、今しがた、担任の教師へご挨拶へ伺ったところです」

    ・・・。

    メイド「・・・それは、そうでしょう。いえ、少なくとも、表面上は・・・」

    ・・・。

    メイド「・・・わたくどもより先に、大旦那様が帰られるようなことがあれば、しっかりとお出迎えを」

    ・・・。

    メイド「・・・ええ。こちらも、あと数刻ほどで戻ります」


    346: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/10(金) 13:57:38 ID:QFYmIAUU

    ・・・。

    メイド「・・・。ところで・・・」

    メイド「あの、男という方が・・・屋敷に顔を出したりといったようなことは・・・?」

    ・・・。

    メイド「・・・そうですか。もし・・・」

    メイド「もし、彼が訪問してきたら、すぐにわたくしへ連絡しなさい」

    ・・・。

    メイド「・・・もちろん、大旦那様には内密に」


    347: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/10(金) 13:58:04 ID:QFYmIAUU

    ・・・。

    メイド「・・・構いません。責任は、全てわたくしが取ります」

    ・・・。

    メイド「・・・そうであるのなら、なおのことです」

    ・・・。

    メイド「・・・ええ、よろしくお願いします。・・・では」

    ピッ

    お嬢様「・・・?」スタスタ


    348: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/10(金) 13:59:14 ID:QFYmIAUU

    メイド「お嬢様、お帰りなさいませ」

    お嬢様「ええ・・・メイド?」

    メイド「はい、なんでございしょう」

    お嬢様「誰と電話をしていたの?」

    メイド「屋敷の使用人です」

    メイド「いくつか片付いてないままの雑務がありましたので、それを言伝たのと」

    メイド「わたくしが帰る前に、大旦那様が戻られるようなことがあれば、しっかりお迎えするようにと」

    お嬢様「そう・・・」


    349: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/10(金) 13:59:49 ID:QFYmIAUU

    メイド「担任教師へのご挨拶は、お済になったのですか?」

    お嬢様「ええ・・・」

    メイド「なにか、お嬢様に仰ってましたか?」

    お嬢様「そうね。向こうへ行っても、頑張るようにと」

    メイド「・・・左様でございますか」

    お嬢様「・・・」

    メイド「・・・あの、お嬢様・・・」


    350: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/10(金) 14:01:07 ID:QFYmIAUU

    お嬢様「帰りましょう」

    メイド「・・・はい」

    友「自分の教室には、寄っていかないの?」

    お嬢様「? あなたは・・・」

    メイド「! あの時の・・・!」

    友「・・・男に、なにも言わないで行くつもりかい?」


    351: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/10(金) 14:01:41 ID:QFYmIAUU

    お嬢様「っ・・・」キョロキョロ

    友「男なら、ここにはいないよ」

    お嬢様「!」

    メイド「・・・どういった用件でしょうか?」

    友「今日は、あのコワーイお兄さんたちはお留守番?」

    メイド「・・・ええ、そうです」

    友「そう、よかった。なら、まともに話ができそうだ」


    352: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/10(金) 14:02:35 ID:QFYmIAUU

    お嬢様「はなし?」

    友「そっちのクラスの先生問い詰めたら、今日の午後に来るって言うじゃないか」

    友「昼休みからこっち、午後の授業全部サボって待ってた甲斐があったよ」

    お嬢様「・・・メイド」

    メイド「はい」

    お嬢様「この人と、二人で話をさせて」

    メイド「しかし・・・」

    お嬢様「お願い」

    メイド「・・・かしこまりました」ペコリ、スタスタ


    353: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/10(金) 14:03:30 ID:QFYmIAUU

    友「・・・」

    お嬢様「友さん、ですよね?」

    友「そうだよ、お嬢様ちゃん」

    友「お互い、男を通して話は聞いてるわけだけど・・・こうして話すのは、初めてだね」

    お嬢様「そう・・・ですわね」

    友「最初で、最後になるかもしれないけど」

    お嬢様「っ・・・」


    354: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/10(金) 14:04:04 ID:QFYmIAUU

    友「さっきはああ言ったけど」

    友「男、学校には来てないんだよね」

    お嬢様「! ・・・そう、ですか・・・」

    友「気になる?」

    お嬢様「・・・」

    友「・・・・・・小学校の頃はさ」

    お嬢様「?」


    355: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/10(金) 14:04:35 ID:QFYmIAUU

    友「・・・俺たちが、ランドセルを背負ってそうしないうちまでは、男もああじゃなくってさ」

    友「母親が旧友同士ってのもあったのかな。どこへ行くのも、何をするのも、二人つるんでヤンチャしてた」

    友「俺って上も下も女だから、男のことは幼馴染っていうより、兄弟ってかんじなんだよなぁ」

    友「誕生日、俺の方が少し早いのもあって、しょっちゅう兄貴風吹かせてさ」

    友「あっちこっち連れまわして・・・俺はいつでも男の前を歩いて、後をついてくる男の手を引いてた」

    お嬢様「・・・」


    356: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/10(金) 14:04:55 ID:QFYmIAUU

    友「俺って、自分で言うのもなんだけど、器用な方でさ」

    友「男にもよく、『友は何でもできるよね』なんて言われるんだけど・・・」

    友「ほとんど、あいつのおかげみたいなところあるんだよね」

    友「男が興味を持ったこととか、先回りして必死に調べてさ」

    友「『友はやっぱりすごい』って、ニコニコしながら言われると、弟ってこんなかんじなのかなって」

    お嬢様「・・・」


    357: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/10(金) 14:06:10 ID:QFYmIAUU

    友「・・・小学校四年生の、夏休みの時だったかな」

    友「男の親父さん、突然いなくなっちゃったんだよね」

    お嬢様「・・・!?」

    友「出かけたっきり、家に戻ってこないでさ。蒸発っていうの?」

    友「もちろん捜索願いとか、できることは全部やったんだけど・・・」

    友「もともと、あまり家にいる人じゃなかったみたいでさ。俺も、数えるくらいしか会ったことないんだ」

    友「だから、そんなことになっちゃった理由は分からない。 きっと、男も、おばさんも・・・」


    358: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/10(金) 14:06:33 ID:QFYmIAUU

    友「・・・それからは、目に見えて男と会って遊ぶ時間は減ったよ」

    友「クソガキだった俺は、よく母さんに不満垂らしてたけど・・・当たり前だよな」

    友「男は、おばさんの手伝いをするんだって、必死に家事を覚えはじめた」

    友「掃除に洗濯・・・料理も。遊びたい盛りの子供がだぜ?」

    友「俺からしたら、男のほうがよっぽどすごいヤツなんだよ」

    お嬢様「・・・」


    359: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/10(金) 14:07:08 ID:QFYmIAUU

    友「でも、おばさんは・・・。無理、してたんだろうなぁ・・・」

    友「あんまり強くない人なんだなっていうのは、たまに男から聞く話で、思ってはいたけど・・・」

    友「・・・・・・」

    お嬢様「・・・?」

    友「・・・俺たちが、中学へ上がってすぐだった」

    友「強い雨が降る日だった」

    友「・・・・・・おばさんは・・・・・・」


    360: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/10(金) 14:10:38 ID:QFYmIAUU



    友「男と、無理心中しようとした」




    361: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/10(金) 14:11:08 ID:QFYmIAUU

    お嬢様「――!!」

    友「その日は、月に一度のご馳走の日だって・・・」

    友「おばさんは、自分の作った料理に毒物を混入させて、服毒自殺を図った」

    お嬢様「・・・りょうり、に・・・?」

    友「男が気付いた時、目に入ったのは、テーブルに突っ伏して口から血と泡を溢したおばさんの姿だ」

    お嬢様「・・・っ!!」


    362: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/10(金) 14:11:46 ID:QFYmIAUU

    友「男はその光景を見て、その場で胃の物を全部ぶち撒けた」

    友「そのうち吐くものが無くなってからも、涎と胃液を垂れ流し続けた」

    お嬢様「・・・っ」ポロッ

    友「・・・それが生理的、精神的な反応であったとしても・・・結果的には、それが良かったのかもしれない」

    友「次の日、学校に来ないまま連絡のつかない男の家を訪ねた俺が見たのは・・・」

    友「変わり果てたおばさんと・・・・・・涙と、自分の吐瀉物に塗れながら気絶する、男だった」


    363: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/10(金) 14:12:05 ID:QFYmIAUU

    友「あの後、どう対処したのか・・・よく覚えてない。とにかく救急車がきて」

    友「――男はそのまま三ヶ月間、家には帰れなかった」

    お嬢様「・・・っ、ぅ・・・」グスッ

    友「肉体的な後遺症が残らなかったのは奇跡だと、医者は言ってたけどね」

    友「・・・ハハッ、なにが奇跡だ。ふざけんじゃねえよ・・・!」

    友「あの時の・・・っ、男の姿を見ても、同じことが言えんのかよって・・・!」

    お嬢様「ぅ・・・ぐす・・・っ」ポロポロ


    364: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/10(金) 14:12:23 ID:QFYmIAUU

    友「・・・それから男は、人が変わったようになった」

    友「ほら、そんなに大きくない町だろ? 噂も、すぐに広まって・・・」

    友「心にひどい傷を負ったまま、あいつは独りになった」

    友「・・・あとは、お嬢様ちゃんも知ってのとおりだよ」

    お嬢様「・・・っ、・・・」ゴシゴシ

    友「・・・」


    365: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/10(金) 14:13:04 ID:QFYmIAUU

    お嬢様「・・・どうして、その話をわたしに・・・」

    友「フェアじゃないと思ったからさ。 ・・・男には悪いけど、これからする頼みには」

    お嬢様「頼み・・・わたしに?」

    友「・・・・・・男を」

    友「あいつを、拒絶しないでやってくれ」

    友「・・・高校に入って、環境が変わってからも、男は独りでいることをやめようとしなかった」


    366: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/10(金) 14:13:37 ID:QFYmIAUU

    友「でも本当は、救って欲しかったんだと思う」

    友「他の人間との交流は頑なに避けるくせに、学校へは毎日律儀に通い続けて」

    友「もう二度と辛い思いはしたくないと思いつつも、完全に独りきりになってしまうことが、怖かったんだろうな」

    お嬢様「・・・」

    『イヤなら、鍵を掛けてしまえばいいでしょう!』

    『掛けたことなんてないよ・・・怖いじゃないか』

    お嬢様「・・・ぁ」


    367: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/10(金) 14:13:57 ID:QFYmIAUU

    友「実は俺、お嬢様ちゃんのこと、少し恨んでるんだよね」

    お嬢様「え・・・」

    友「お嬢様ちゃんは『蜘蛛の糸』なんだよ」

    お嬢様「い、いと・・・?」

    友「それがさ、引っ張り上げるだけ引っ張っておいて、最後の最後でそれを切っちゃう」

    友「ひどいじゃないか? 中途半端で、男はどうするんだよって・・・」

    友「だから、恨み言の一つでも言ってやろうかなって」

    お嬢様「ぅ・・・」シュン


    368: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/10(金) 14:14:25 ID:QFYmIAUU

    友「さっきの、男の話・・・ひいた?」

    お嬢様「・・・・・・正直に言って、すこし」

    お嬢様「嫌悪感ではなくて・・・。わたしでは、とても想像もつかないような出来事だから・・・」

    友「そりゃあそうだ」

    友「人間って、他人の痛みには残酷なくらい鈍感だよ。 まして心の痛みなんて、本人にしか分からないさ」

    友「でも、お嬢様ちゃんは、男のために泣いてくれたじゃないか」


    369: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/10(金) 14:15:06 ID:QFYmIAUU

    お嬢様「・・・でも、わたしは・・・」

    友「俺に言わせればさ、二人して意気地なしなだけだ」

    友「困難だから、それで諦めるの? 本当に、それで終わっちゃっていいの?」

    友「・・・男のこと、好きじゃないの?」

    お嬢様「好きですっ!」

    友「!」

    お嬢様「愛しています・・・!」

    お嬢様「きっともう、こんなに誰かを好きになることありません」


    370: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/10(金) 14:15:44 ID:QFYmIAUU

    友「・・・そっか。・・・それだけ聞ければ、十分かな」

    お嬢様「・・・?」

    友「明日、何時の飛行機?」

    お嬢様「え、ええと・・・××空港から、十二時丁度初の、トルコ行きの便ですけれど・・・」

    友「わかった」コク

    お嬢様「でも、男さんは・・・!」

    友「必ず間に合うよ。だって、男とお嬢様ちゃんは・・・家族なんだろ?」

    お嬢様「・・・」


    371: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/10(金) 14:16:40 ID:QFYmIAUU

    友「男を、必ずキミの所へ送る。それは、俺の役目だ」

    友「誰にも譲るつもりはない」

    友「だから信じて待っていてくれ、キミの一番を」

    友「お嬢様ちゃんが好きになった、男って人間を」

    お嬢様「・・・はい」クス

    ポッ・・・


    372: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/10(金) 14:17:18 ID:QFYmIAUU

    お嬢様「あら・・・?」

    友「雨か・・・」

    ポツ・・・ポツ・・・

    友「まるで、あの日みたいだ・・・」ボソ

    お嬢様「え、なにか?」

    友「・・・あ、なんでもないよ」

    友「・・・・・・」ジッ

    友「・・・強く、なりそうだな・・・」


    376: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/13(月) 16:48:52 ID:CP.7AEjs



    ポッ・・・

    男「・・・雨・・・?」

    男(箪笥の奥に仕舞っていた、父さんと母さんと僕が映った家族写真・・・)

    男(それが収められた、小さな木製のフォトフレームを持つ僕の目の前の窓を、水滴が小さく叩いた・・・)

    男「・・・」


    377: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/13(月) 16:49:15 ID:CP.7AEjs

    男「母さん・・・」

    男「僕、一晩考えてみたけど、もう一度彼女に会うよ」

    男「会って、どうするかは決めてないし、分からないけど・・・」

    男「きっと、彼女が好きになった僕なら、そうすると思うからさ」

    男「だから行くよ。行ってくる」

    男「・・・」


    378: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/13(月) 16:49:32 ID:CP.7AEjs

    男「ねえ、母さん」

    男「・・・どうして、僕と一緒に死のうとしたの?」

    男「・・・僕は、愛されてなかったのかな・・・」

    男「・・・」

    ピンポーン!

    男「? 誰だろう・・・?」

    男「友かな?」スタスタ


    379: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/13(月) 16:50:11 ID:CP.7AEjs

    男「・・・どちら様ですか?」

    ?「お嬢様の、屋敷のモンだ」

    男「えっ・・・?」ガチャ

    黒服B「いなけりゃ、帰ってくるまで張り付いてやるつもりだったが」

    黒服B「ふん、学校はサボりか?」

    男「あなたは・・・」


    380: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/13(月) 16:50:29 ID:CP.7AEjs

    黒服B「・・・お嬢様が、お前に話があるそうだ」

    男「! 彼女が来てるんですか!?」

    黒服B「ここにはいねぇよ」

    黒服B「大旦那様には内緒なんでな、後から来る。・・・お忍びってやつだ」

    男「そう、ですか・・・」

    黒服B「どうする?」

    男「行きます」

    男「僕も・・・彼女ともう一度、話がしたかったんです」


    381: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/13(月) 16:51:21 ID:CP.7AEjs

    黒服B「・・・人気のない所に案内しろ」

    男「え?」

    黒服B「あまり、人に見られたくはないだろ?」

    黒服B「そうだな。滅多に人の来ないところがいい」

    男「僕の家じゃあダメなんですか?」

    黒服B「あ?そうだな・・・。ここでやると、後処理が面倒くせぇからな」


    382: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/13(月) 16:51:38 ID:CP.7AEjs

    男「処理?」

    黒服B「・・・とにかく、外の方が都合がいいんだ」

    男「わかりました。少し歩きますけど、いいですか?」

    黒服「ああ、かまわねぇぜ」ニヤリ

    ・・・・・・

    男「こっちです」

    黒服B「・・・」


    383: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/13(月) 16:51:58 ID:CP.7AEjs

    男「あの、聞いてもいいですか?」

    黒服B「なんだ?」

    男「お嬢様さん、変わった様子とか、ありませんか?」

    黒服B「・・・さあな」

    男「お父さんとは、仲直りしてましたか?」

    黒服B「・・・さあな」

    男「そういえば連絡って・・・彼女、携帯電話は持ってませんでしたよね?」


    384: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/13(月) 16:52:21 ID:CP.7AEjs

    黒服B「まだか?」

    男「あ・・・この、すぐ先です」

    黒服B「ここはなんだ?」

    男「養蚕工場、らしいです。元、ですけど・・・」

    男「ここ、おれが小さい頃から廃工場で、友達とよく探検したり・・・って、関係ないですね」

    男「今は、隅の一角を、粗大ゴミ集積場に使ってます」

    男「とは言っても、予備ですから、ここへ持ち込む人はまずいません」

    黒服B「ほぉ、ゴミ置き場か」


    385: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/13(月) 16:52:39 ID:CP.7AEjs

    男「ここなら、人が来ることはないです」

    黒服B「そいつぁ、都合がいい・・・」

    男「え? 何が――」

    ドガッ!!!

    男「――・・・ッ!!?」ズシャッ

    男(な、殴られた! 思いっきり・・・顔を!)


    386: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/13(月) 16:53:11 ID:CP.7AEjs

    黒服B「・・・・・・てめえのせいだ」

    バキッ!!!

    男「ッ!?」

    黒服B「てめえのせいで、お嬢様は!」

    ドカッ、ドガッ!!

    男「~~ッ!?」


    387: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/13(月) 16:53:30 ID:CP.7AEjs

    黒服B「変わった様子は、だとぉ?」グイッ

    男「・・・ッ・・・!」

    男(倒れ伏す僕にのしかかり、髪を掴み上げてきた・・・)

    黒服B「てめえと出会ってから、お嬢様は変わっちまったよ、なんもかんも!」

    ガンッ!

    黒服B「この俺が愛して病まない、儚く憂う表情はナリを潜め、夢だ恋だ乙女だの!?」

    黒服B「あまつさえ、海外だァ!? ・・・俺の手の届かないところへ行っちまうだとォ!!」

    ガンッ!!


    388: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/13(月) 16:54:04 ID:CP.7AEjs

    黒服B「貴様のせいだ、このクズ野郎ッ!欠陥野郎がッ! 分不相応も甚だしい!」

    黒服B「どこをとっても三流以下の、救いようのないゴミ人間が、この俺のお嬢様と五日も!?」

    ガンッ!!!

    黒服B「俺だけだ・・・! 世界中でお嬢様に触れることが、愛でることが許されるのは!」

    黒服B「それをッ・・・!! 貴様は二度と、お嬢様の前に顔を出せないようなツラにしてやる!」

    ドカッ、バキッ、ガンッ、グシャッ、ベキッ ・・・・・・・・!!


    389: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/13(月) 16:54:24 ID:CP.7AEjs

    黒服B「はっ、はぁ、はぁっ」

    男「・・・ぁ、・・・」

    黒服B「ひ、ひひッ」

    男「ぅ・・・っ」

    黒服B「ひひひッ、どうだ思い知ったか!? 俺のモンに手を出すからだ!」

    ドスッ!!

    男「げェ、ッほ!」

    男(お腹に・・・つま先を蹴り込まれた・・・)


    390: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/13(月) 16:54:46 ID:CP.7AEjs

    黒服B「オラ、オラァ、オラァッ!!」

    ドスッ! ドスッ! ドスッ! ドスッ!

    男「ぅぐ、ォ゛・・・ッぅ゛ぇ・・・ッ」

    黒服B「おいおい、汚ねぇなぁクズ! ところかまわず粗相とは、気品が知れるぞゴミ人間!」

    黒服B「そら、こっちだ・・・!」

    ズリズリ

    黒服B「オイオイ、よかったなァ、すぐそこがゴミ捨て場で?」

    ドサッ!!


    391: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/13(月) 16:55:07 ID:CP.7AEjs

    黒服B「おーおー。ゴミはゴミらしく、そこにいるのがよく似合ってる、ぜッ!」ペッ!

    男「・・・っ」ビチャッ

    黒服B「ひゃッひゃッ、じゃあな。 そのまま、業者に夢の国まで運んでもらえや!」

    男「っ・・・ぁ」

    ポッ・・・ポツ・・・

    男(滅茶苦茶に殴られた顔が、熱い)

    男(しこたまお腹を蹴られたせいかな、気持ち悪い)


    392: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/13(月) 16:55:45 ID:CP.7AEjs

    ポツ、ポツポツ・・・

    男(右目・・・瞼が重くて、開けらんないや。・・・頭、チカチカする。意識が、飛びそうだ)

    男(僕、なんでこんな目に遭ってるんだろう・・・)

    ポツポツポツポツ・・・

    男(こんなことって、あるんだなぁ・・・)

    男(ごめんね、友。 せっかく、背中を押してもらったのに・・・)

    男(・・・・・・)

    男(・・・ごめんね、お嬢様さん・・・)

    ザアァァァァァ・・・

    男「・・・・・・」


    393: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/13(月) 16:56:25 ID:CP.7AEjs



    ザアアアア・・・・

    (いつの間にか本降りになった雨が、僕の全身を叩く・・・)

    (冷たいはずなのに、なんにもかんじない・・・)

    ザアアアァァァ・・・

    (何も、見えない・・・真っ暗だ・・・)

    (体は動かないし、なんだか気力も湧かない・・・)


    394: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/13(月) 16:57:14 ID:CP.7AEjs

    (僕は結局、なんにもできないまま・・・変われなかった・・・)

    (もう、いいや・・・)

    (もう、疲れた・・・)

    ・・・このまま、寝かせて・・・

    ・・・

    『・・・男』

    ・・・?

    ・・・僕を、呼ぶ声がする・・・

    ・・・誰だろう・・・?


    395: 推奨BGM 翡翠の記憶 2012/08/13(月) 16:58:33 ID:CP.7AEjs

     ttp://www.youtube.com/watch?v=gBlq6pnWsdk



    『・・・』

    『どうした? なんで、泣いている?』

    ・・・父さん・・・?

    『辛い時にこそ、男は笑うもんだぞ』ニコ

    『そうでないと、傍にいる家族が、不安になっちゃうだろう?』


    396: 推奨BGM 翡翠の記憶 2012/08/13(月) 16:58:59 ID:CP.7AEjs

    ・・・

    『・・・父さん、また出かけるけど・・・母さんのこと、頼むな』

    『俺がいない間は、男が父さんの代わりに、守ってやらないとな?』

    『そんなに寂しそうな顔するなよ。なぁに、すぐに帰ってくるさ』

    『いつだって、母さんと男のいるこの家が、父さんの帰る場所なんだから』ニコッ


    397: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/13(月) 16:59:25 ID:CP.7AEjs

    ・・・

    『・・・男ちゃん、パパは必ず帰ってくるわ。ママは信じてる』

    『だからそれまでは、ママが、男ちゃんとこの家を守るからね?』

    『だってわたしは、男ちゃんのお母さんだもの、ふふっ』

    ・・・母さん

    『男ちゃんは玉子焼きが好きなのね。じゃあ、ママが作り方を教えてあげるわ』

    『いつか、男ちゃんが食べさせたい誰かに、美味しいって言ってもらえるようにね?』クスッ


    398: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/13(月) 16:59:58 ID:CP.7AEjs

    ・・・

    『ごめんね、男ちゃん。ママ、忙しくって、授業参観にも運動会にも行けなくって』

    『友くんのお母さんに、ビデオとってもらったから、後で一緒に見ようね?』

    『ふふっ、だって親だもの。男ちゃんのことは、何でも知っておきたいの』

    『運動会は、終わっちゃったけど・・・。ママに、男ちゃんのこと、応援させてね』ニコッ


    399: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/13(月) 17:00:38 ID:CP.7AEjs

    ・・・

    『ごほっ、ごほっ。・・・ダメね、ママ。男ちゃんに迷惑ばっかりかけちゃって』

    『・・・もう、泣いたらダメよ、男ちゃん。大丈夫、ママならすぐに元気になるから!』

    『もうすぐご馳走の日でしょう? 男ちゃんの好きなもの、ママたくさん作ってあげるからね』ニコ

    ・・・

    『どう? 男ちゃん、美味しい?』

    『そう・・・。ふふふっ、よかったわ』ニコッ


    400: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/13(月) 17:01:07 ID:CP.7AEjs

    ・・・

    ザアアアァァァァァ・・・

    『ファースト・キスよ』

    ・・・あ・・・

    『夢のような日々を、ありがとうございました』

    『ずっと、愛しております』


    401: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/13(月) 17:01:21 ID:CP.7AEjs

    ・・・

    『こうした方が、あったかいもの』

    『あなたと、ずっと一緒にいれたらって思ってるの』

    『わたしがあなたの家族になるわ』

    ・・・

    『あなたはここにいる。わたしがしっかり抱いているもの』
     
    『わたしが、あなたを暖めるから』

    『そう、決めたからね?』


    402: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/13(月) 17:01:39 ID:CP.7AEjs

    ・・・

    『ここ、座ってもいいかしら?』

    『いいわ。わたしがそっちへ行くから』

    『い、いいわよね?』

    ・・・

    『わぁ、おいしいっ』

    『玉子焼きって、こんなに甘くてとろ~ってしてたのね』

    『お手洗いで食べるご飯がこんなに美味しかったなんて!』


    403: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/13(月) 17:03:28 ID:CP.7AEjs

    ・・・

    ―・・・『それとも、あなたと一緒だからかしら?』・・・―

    ザアアアァァァァ・・・

    男「・・・」

    男「・・・うん」

    男「きっと、僕も・・・」


    419: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 09:37:32 ID:WXjwtAew



    お嬢様「お父様、いますか?」コンコン

    大旦那「・・・」

    ガチャ

    お嬢様「・・・お父様」

    お嬢様「・・・そろそろ、出発します」

    大旦那「・・・そうか」


    420: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 09:38:41 ID:WXjwtAew

    お嬢様「・・・」

    お嬢様「わたし、御曹司様と行きます」

    お嬢様「お父様の、言う通りにします」

    お嬢様「だから・・・最後のお願いです」

    大旦那「おまえの最後の我侭なら、もう聞いてやった」

    大旦那「おまえがどうしてもとせがむから、一般の学校へ転校することを許したのだ」

    お嬢様「はい。だから、これはワガママではなくて、お願いです」

    大旦那「・・・なら、私がそれを聞いてやる道理はないな?」


    421: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 09:39:56 ID:WXjwtAew

    お嬢様「彼のこと、お父様にお願いしてもいいですか?」

    大旦那「・・・」

    お嬢様「男さんのことを、どうかよろしくお願いします」ペコリ

    大旦那「・・・あの男のことは、早く忘れるんだ」

    お嬢様「忘れることなんて、できません」

    お嬢様「人を、心から好きになるって、そういうことでしょう?」

    お嬢様「お父様は・・・お母様のこと、忘れてしまったのですか?」

    大旦那「・・・」


    422: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 09:40:17 ID:WXjwtAew

    お嬢様「落ち着いたら、メールしますね」

    お嬢様「わたし、お父様に聞いて欲しいこと、たくさんあるんです」

    お嬢様「ずっと・・・今までのことも、これからのこともです」

    大旦那「・・・私は忙しい。ちゃんと目を通してやれる保証などできんぞ」

    お嬢様「はい、もちろんわかってます。それでもいいんです」

    お嬢様「わたしのことを、お父様に知って欲しいっていう、わたしのワガママですから」

    大旦那「・・・」


    423: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 09:40:36 ID:WXjwtAew

    お嬢様「でも・・・」

    お嬢様「お父様も、なにかあったらわたしに言ってくださいね」

    お嬢様「他の人には言えないことでも・・・わたしには、遠慮しないでください」

    お嬢様「わたしはお父様の娘で・・・」

    大旦那「・・・」

    お嬢様「お父様は、わたしのお父様なのですから」

    大旦那「・・・」


    424: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 09:41:23 ID:WXjwtAew

    大旦那「御曹司殿を、待たせているのではないか・・・?」

    お嬢様「・・・・・・はい」

    お嬢様「あの、お父様、最後に一つだけ」

    大旦那「・・・なんだ」

    お嬢様「・・・これからは、二人きりの時は『パパ』って呼んでもいいですか?」

    大旦那「なに?」

    お嬢様「まだわたしが小さくて、お母様も元気だったあの頃のように・・・」

    お嬢様「・・・本当は、ずっとそう呼んでいたかったんです」クス

    大旦那「・・・」


    425: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 09:41:45 ID:WXjwtAew

    お嬢様「・・・それじゃあ・・・」

    大旦那「・・・体には」

    お嬢様「?」

    大旦那「いや・・・」

    お嬢様「・・・」

    大旦那「・・・・・・・・・気をつけて行きなさい」

    お嬢様「・・・っ」

    お嬢様「はい、パパ」ニコッ


    426: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 09:42:24 ID:WXjwtAew

    ・・・・・・

    ザアアアァァ・・・

    男「・・・運休・・・全線?」

    構内アナウンス「・・・えー、繰り返し申し上げます」

    構内アナウンス「ただいま○×線は、昨夜から続く雨の影響と」

    構内アナウンス「××駅で起きました人身事故の影響により、現在、運転を見合わせております」

    構内アナウンス「お急ぎのところ、お客様には大変後迷惑をおかけします。 振り替え輸送のご案内ですが・・・」


    427: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 09:43:22 ID:WXjwtAew

    男「あの、運転・・・再開の目処は、しばらく立ちそうにありませんか?」

    駅員「ええ、そうですねぇ、今の所は・・・ひっ!?」ビクッ

    男「・・・あ」

    男「わかりました、どうも・・・っ」タタッ

    男(いまの僕の顔、相当、酷いんだろうなぁ・・・)


    428: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 09:43:42 ID:WXjwtAew

    ザアアァァァァ・・・

    男「・・・まいったな」

    男「タクシーもバスも、待っている人でいっぱいだ」

    男「それにこんな顔してたら、乗車拒否とかされちゃうかな・・・はは」

    男「痛っ・・・! 笑うと、顔に響くや・・・」

    男「・・・どうしよう・・・」


    429: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 09:44:00 ID:WXjwtAew

    ザアアァァァ・・・

    男「・・・いや、行くんだ」

    男「たとえ走っても、這ってでも、必ず・・・!」

    男「・・・・・・必ず、行かないと」

    ザアァァァァ・・・


    430: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 09:44:36 ID:WXjwtAew

    ・・・・・・

    ザアァァァァ・・・

    お嬢様「では、行ってくるわね、メイド」

    メイド「はい、お嬢様。・・・寂しくなります」

    お嬢様「ふふっ、わたしもよ」

    メイド「向こうは、こちらとは風土も環境も違います」

    メイド「慣れないうちにあまり無理をして、お体を壊されないよう、お気をつけ下さい」

    お嬢様「そうね、ありがとう」


    431: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 09:45:57 ID:WXjwtAew

    メイド「・・・」

    お嬢様「・・・」

    メイド「・・・お嬢様・・・」

    メイド「わたくしの力が足りないばかりに、結局、このようなことになってしまって・・・」

    メイド「本当に申し訳ありません、お嬢様」

    お嬢様「謝らないで・・・? あなたは、十分助けてくれたもの」

    お嬢様「もし、わたしにお姉様がいたら、あなたのような人だったらって思うわ」

    お嬢様「・・・感謝しているのよ」


    432: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 09:46:17 ID:WXjwtAew

    メイド「そんな・・・わたくしには勿体無いお言葉です、お嬢様」

    お嬢様「・・・お父様のこと、お願いね」

    メイド「はい、お任せください」

    メイド「お嬢様の分も、わたくしが大旦那様をしっかりとお支えしてゆきます」

    お嬢様「・・・ありがとう」

    お嬢様「・・・・・・それじゃあ、ね?」

    メイド「・・・はい」


    433: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 09:47:03 ID:WXjwtAew

    メイド「あなたたち、いいですね?」

    メイド「空港までお嬢様のこと、しっかりとお送りするように」

    黒服A・B「はっ」

    メイド「御曹司様は?」

    黒服A「もう、むこうの車で待機しています」

    メイド「そうですか・・・」


    434: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 09:47:32 ID:WXjwtAew

    メイド「わたくしは、御曹司様と、少し話をしてきます」

    メイド「あなたたちは、お嬢様を送る車に乗って待っていなさい」

    黒服B「は・・・? しかしですね、雨天の影響で、多少の混雑が・・・」

    黒服A「――了解です」

    黒服A「ただ、あんまり余裕はないんで、早めに切り上げてくださいね」

    メイド「ええ、そんなに時間はかけませんから」

    スタスタ


    435: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 09:47:57 ID:WXjwtAew

    黒服B「おい、どういうつもりだ? 時間は・・・!」

    黒服A「まだ間に合う。・・・そんなに急ぐ必要もないだろう」

    黒服A「・・・車で待機だ」

    黒服B「チッ・・・!」

    コンコン

    ・・・ウィーーン

    メイド「御曹司様、少しよろしいですか?」


    436: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 09:48:34 ID:WXjwtAew

    御曹司「なんだい? なにかトラブルでも?」

    メイド「いいえ。わたくしが、御曹司様と個人的なお話をしたくてお伺いました」

    御曹司「キミがオレに?」

    メイド「はい」コクリ

    御曹司「珍しいな、なんだい?」

    メイド「・・・わたくしと、賭けをいたしませんか?」

    御曹司「は?賭け? ・・・オレとか?」

    メイド「はい。わたくしと、御曹司様で、です」


    437: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 09:50:17 ID:WXjwtAew

    御曹司「そりゃあオレは構わないが、一体何を賭けるんだ?」

    メイド「シンプルなことです」

    メイド「今日、御曹司様とお嬢様が飛び発つまでに、あの方が・・・」

    メイド「男様が現れたら、お嬢様との婚約の件は、無かったことにして頂きたいのです」

    御曹司「・・・・・・本気か?」

    メイド「わたくしは、冗談は苦手でございます」


    438: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 09:51:09 ID:WXjwtAew

    御曹司「それで、オレが仮に頷いたところで・・・事はそう単純じゃあない」

    御曹司「大旦那さんへはどう説明するつもりだ? ハイ、ソウデスカとはいかないだろ?」

    御曹司「オレが、一方的に話を取り下げたら終わるような問題じゃない」

    メイド「もちろん、大旦那様にも、わたくしからお話しを」

    メイド「必ず承諾していただきます」

    御曹司「・・・」

    御曹司「そもそも、オレにメリットはあるのか?」


    440: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 09:54:41 ID:WXjwtAew

    メイド「ございません」

    御曹司「なんだと?」

    メイド「ですが、このままお嬢様と一緒になられても、幸せにはなれません」

    メイド「お嬢様はもちろん・・・御曹司様も」

    御曹司「・・・ハッ・・・。メイド風情が、随分と・・・」

    メイド「不敬は承知のうえで申し上げております」

    御曹司「やたら強情に出ているが、使用人如きにそこまで口を挟まれるのは不快だな」


    441: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 09:55:48 ID:WXjwtAew

    メイド「御曹司様の仰りようは、当然でございます」

    メイド「この件がどちらに転んだとしても、わたくしのことは、どうぞお好きになさってください」

    御曹司「たかだかメイド一人の人生と、彼女との婚約を秤にかけろと?」

    メイド「はい。・・・どうか、お願い致します」フカブカ

    御曹司「・・・なぜ、そこまで真剣になれる?」

    メイド「こうすることが、お嬢様のためなのだと、心から思っているからです」

    御曹司「・・・信じているのか?」

    御曹司「キミは、あの男は来ると・・・」

    メイド「ええ」


    442: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 09:56:26 ID:WXjwtAew

    御曹司「・・・理解に苦しむな。まともに言葉を交わしたこともない人間を、どうして・・・」

    メイド「そうですね・・・わたくしは、男様のことは何も知りません」

    メイド「ですが、お嬢様が信じた・・・好きになった方です」

    メイド「わたくしにはそれだけで、十分信じるに足る理由です」

    御曹司「・・・」

    メイド「・・・御曹司様」

    メイド「受けて、いただけますか?」

    ザアアァァァァ・・・


    443: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 09:57:11 ID:WXjwtAew

    ・・・・・・

    ザアアァァァ・・・

    友「止まなかったな、雨・・・」

    友「男は、今朝も学校には来ていないか・・・」

    友「男・・・」

    友「来るよな・・・?」

    教師「よーし、じゃあ次ページの英文を訳してもらおう」


    444: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 09:57:42 ID:WXjwtAew

    教師「だれにやってもらうかな? そうだなー・・・」

    ガラガラッ

    男「・・・」

    教師「――ん? うおっ!?」ビクッ

    生徒A「! げッ、なんだあいつ!?」

    生徒B「か、顔・・・ボコボコじゃねえか・・・全身ずぶ濡れだし・・・!」

    ザワザワザワ・・・!


    445: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 09:58:44 ID:WXjwtAew

    男「・・・」

    スタスタ・・・

    生徒C「きゃあ!?」

    生徒D「ひぃっ!」

    教師「お、おい! おまえ・・・どこのクラスの生徒だ!?」

    教師「いまは授業中だぞ!? 自分の教室・・・いや、まずは保健室にだな・・・!」

    スタスタ・・・


    446: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:00:24 ID:WXjwtAew

    男「友」

    友「・・・へへ。なんだ、随分男前になったじゃないか?」ニッ

    男「彼女を、迎えに行く」

    男「車を貸して」

    友「・・・・・・」フゥ

    友「先生!」

    教師「な、なんだ?」

    友「すいません、早退します」


    447: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:01:07 ID:WXjwtAew

    教師「なんだと?」

    友「こいつ、病院に連れて行かないと」

    教師「あ、ああ・・・? しかし・・・」

    男「友、僕は・・・」

    友「貸してってな、お前、免許持ってないじゃないか」

    友「だいたい、場所とか、飛行機の時間とか知ってるのか?」

    男「・・・あっ」


    448: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:01:44 ID:WXjwtAew

    友「おいおい・・・」

    男「僕はとにかく、あの子のところ行かなきゃって、それだけで・・・」

    友「・・・そうか、お前らしい」クス

    友「気持ちは、固まったんだな?」

    男「・・・うん」コク

    友「よし。なら、俺が連れてってやる」


    449: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:02:27 ID:WXjwtAew

    友「おっと、『でも・・・』はナシだからな?」

    友「まったく、ヤキモキさせやがって・・・」

    男「友・・・」

    男「・・・・・・うん」

    男「僕を、彼女のところへ連れて行ってくれ!」

    友「ああ、任せておけ!」ニッ


    450: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:03:08 ID:WXjwtAew

    ・・・・・・

    ザアアァァァ・・・

    大旦那「・・・」

    コンコン

    大旦那「・・・だれだ」

    メイド「メイドです、大旦那様。 ・・・入ってもよろしいですか?」

    大旦那「・・・ああ」


    451: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:03:32 ID:WXjwtAew

    ガチャ

    メイド「失礼します」

    大旦那「・・・」

    メイド「間もなく、お嬢様たちが空港へ到着するそうです」

    大旦那「・・・そうか」

    メイド「・・・」

    大旦那「・・・雨は、止みそうにないな・・・」

    メイド「はい」


    452: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:05:19 ID:WXjwtAew

    大旦那「・・・・・・『よろしくお願いします』、か」

    大旦那「二人して同じ事を言って・・・」

    大旦那「ふふっ・・・、これでは、私が悪者のようではないか・・・」

    メイド「大旦那様・・・」

    大旦那「メイド、お前はどう思う?」

    大旦那「私が間違っていると思うか?」

    メイド「・・・わたくしは・・・」

    大旦那「無作法だと思うことはない。遠慮は要らんから、素直な意見を聞かせてくれ」


    453: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:07:39 ID:WXjwtAew

    メイド「・・・大旦那様の仰った通り・・・」

    メイド「気持ちというものは、ひどく不安定に揺れ動くものです」

    メイド「愛しているから、と・・・」

    メイド「言葉にするのは容易ですが、それを幸せという形にするには、とてつもない労力が必要でしょう」

    メイド「・・・ですが、わたくしも女です」

    メイド「立場や価値観を飛び越える、一生に一度の恋、運命の出会いというものには憧れますし」

    メイド「そういうものが、きっと現実にもあって・・・」

    メイド「そうして幸せになった人もいるのだと、信じております」


    454: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:08:40 ID:WXjwtAew

    メイド「お嬢様にとって、それがあの方だと・・・男様なのだというのなら・・・」

    メイド「わたくしは全身全霊をかけて、それを応援するだけです」

    大旦那「・・・人を好きになる、か・・・」

    大旦那「私とてな、木の股から生まれたわけではない」

    大旦那「アレは・・・お嬢様の母もな、一般の家庭に生を受けた女だったのだ」

    大旦那「笑った顔が向日葵のような、とても印象的な女でな」

    大旦那「アレが笑うと、不思議と私まで温かい気持ちになれて・・・いつの間にか、どうしようもなく惹かれていた」


    455: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:10:15 ID:WXjwtAew

    大旦那「・・・だが私の家は、父も母も、それは厳格な人だったからな」

    大旦那「当然、私たちの関係が許されることはなかった」

    メイド「・・・」

    大旦那「そして、二人で遠くへ行った」

    大旦那「色々な物を棄てて、親の手の届かないところへ」

    大旦那「そしてお互い、死ぬ気で働いて・・・」

    大旦那「ふふっ・・・当時は、自分がもし子供を持ったら『こんな想いは絶対にさせない』と誓ったものだが・・・」

    大旦那「時の流れというものは皮肉で、残酷なものだ」


    456: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:12:38 ID:WXjwtAew

    大旦那「・・・・・・アレが、病気で亡くなって・・・」

    大旦那「私は、立ち止まることをやめた」

    大旦那「振り返ってしまったら、彼女と過ごした日々を想ってしまったら・・・」

    大旦那「そこから、二度と動けなくなりそうだったからだ」

    メイド「大旦那様・・・」

    大旦那「・・・パパ、か・・・ふふふっ」

    大旦那「いつの間にか、わたしのことを『お父様』と呼ぶようになったお嬢様は・・・」

    大旦那「笑った顔が、アレにそっくりに見えるくらい成長していた」


    457: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:13:48 ID:WXjwtAew

    大旦那「・・・だから、怖くなったんだな、私は」

    大旦那「また家族を・・・失ってしまうのでは、と・・・」

    大旦那「仕事に一層傾倒し、娘と接する機会を出来るだけ削った。予防線のつもりだったんだろう」

    大旦那「まったく・・・ダメな親の見本というやつだな」

    大旦那「それに、娘から母親を奪ってしまったという負い目もあった」

    メイド「それは・・・! 大旦那様せいでは・・・!」

    大旦那「ああ・・・」


    458: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:14:53 ID:WXjwtAew

    メイド「大奥様が亡くなられたのは、ご病気のせいであって、大旦那様は何も・・・!」

    大旦那「みな、そう言うのだ」

    大旦那「だがな、やはり思ってしまうのだ。当人としてはな・・・」

    大旦那「あの時、あんな風に根を詰めるような働き方をさせるべきではなかった、と」

    大旦那「・・・」

    大旦那「逃げたりせず、トコトン・・・父と母が折れるまで、二人で話し合っていれば・・・と」

    メイド「・・・」


    459: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:16:04 ID:WXjwtAew

    大旦那「・・・お母様がいれば、か・・・」

    大旦那「きっと、私はこっぴどく叱られるだろうな。『何を考えているの?』と・・・ふふっ」

    大旦那「私は・・・間違ってしまったのかもなぁ・・・」

    大旦那「もっと娘とゆっくり・・・時間をかけて、話すべきだったのだ」

    大旦那「・・・家族、なのだから」

    メイド「・・・・・・まだ」

    メイド「まだ、間に合います」

    大旦那「・・・」


    460: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:17:04 ID:WXjwtAew

    メイド「お嬢様に、大旦那様の気持ちを伝えましょう」

    大旦那「しかし・・・」

    メイド「たとえ家族でも、言葉にしなければ伝わらないことはあります」

    大旦那「娘を避け続けてきた私に、できるだろうか・・・」

    メイド「・・・お嬢様が、仰ってました」

    メイド「人は、変われるのだと」

    大旦那「・・・あの子が・・・」


    462: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:18:07 ID:WXjwtAew

    大旦那「私も、変われるだろうか。いまからでも・・・」

    メイド「はい、きっと・・・!」

    大旦那「・・・そうか」クス

    大旦那「メイド、娘のいる空港まで車を出してくれ」

    メイド「!」

    大旦那「それから・・・」

    大旦那「今日の仕事は、全てキャンセルだ」

    メイド「・・・はいっ!!」パァ


    463: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:18:49 ID:WXjwtAew

    ・・・・・・

    ザアァァァ・・・

    友「男、もうすぐ着くぞ」

    男「うん」

    友「・・・腫れ、少しはひいたか?」

    男「どうだろう・・・? よく、わかんないや」

    男「でも、右目はどうにか開けれるようになったよ」

    友「急場しのぎに、プレートアイス砕いたヤツ当てるだけでも、違うもんだな」


    464: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:19:58 ID:WXjwtAew

    男「・・・あとでおばさんに、ちゃんとお礼言わないとだね」

    友「その時は、お嬢様ちゃんと二人、一緒に来いよ」

    男「そうだね・・・」

    男「服も、ありがとうね」

    友「男が着てたの、ビショビショの上に泥だらけだったしなぁ」

    友「何より、一世一代の大勝負に出るんだ。おめかしくらいはな?」

    男「だから、スーツなの?」

    友「わかりやすくていいだろ?」


    465: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:20:39 ID:WXjwtAew

    男「・・・」

    友「・・・お嬢様ちゃんに、何て言うんだ?」

    男「・・・」

    男「・・・・・・夢でね」

    男「父さんと、母さんのこと、少し思い出したんだ」

    男「ずっと、思い出すの辛かったけど・・・」

    男「いまなら、僕は二人に愛されていたんだって」

    男「素直にそう、思えるんだ」


    466: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:22:31 ID:WXjwtAew

    友「男・・・」チラ

    男「父さんは、今も結局帰ってこないまま」

    男「母さんも、僕を置いて逝ってしまったけど」

    友「・・・空港に入るぞ」

    男「子供の頃の僕は、自分のことを不幸だなんて思ったこと、なかったよ」

    男「いつだって、写真に映る僕のように、笑顔でいれたんだ」


    467: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:24:49 ID:WXjwtAew

    男「だから僕は・・・もっと、自惚れていいのかなって」クス

    男「世界中の誰よりも、彼女のことを幸せにできるんだって」

    男「彼女に会って、もう一度、今度は胸を張って言うよ」

    男「好きだ、って」ニコ

    友「・・・そっか」

    友「もう、俺に手を牽かれなくても、男は一人で歩いていけるんだな」

    友「・・・こういうの、寂しいって言ったら・・・ダメなんだろうなぁ」

    男「友・・・」


    468: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:26:02 ID:WXjwtAew

    友「よし、着いたぞ」

    男「・・・うん。時間、何とか間に合いそうだ」

    男「ここまで、いろいろありがとう」

    友「ああ」

    男「友は、これからどうするの?」

    友「男は、男にしかできないことをするために行くんだろ?」

    友「俺は俺で、自分にしかできないことをやるさ」


    469: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:26:28 ID:WXjwtAew

    友「だから、後ろは俺にまかせて、お前は真っ直ぐ進め」

    男「うん・・・!」

    友「ここで、『無茶するな』なんて言わないぜ」

    友「後悔しないように、思いっきり暴れてこい」

    男「・・・行ってくる、友」

    友「ああ。行ってこい、親友!」

    ザアアァァァ・・・


    470: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:28:36 ID:WXjwtAew

    ・・・・・・

    御曹司「A-29、A-29・・・ここか」

    御曹司「さあ、座って」

    お嬢様「・・・」トス

    御曹司「ふむ。思っていたほどの窮屈さは感じないな」

    お嬢様「・・・」

    御曹司「・・・なにか珍しいものでも見えるのかい?」

    御曹司「窓から外を見ているが・・・」


    471: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:29:58 ID:WXjwtAew

    お嬢様「・・・」

    御曹司「もしやと思うけど・・・」

    御曹司「あの男を、待っているわけではないだろうね?」

    お嬢様「・・・」

    御曹司「来るわけないだろう」

    お嬢様「・・・あの人は、来ます」

    御曹司「なんで、そう言えるんだ?」


    472: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:30:46 ID:WXjwtAew

    御曹司「・・・あの男とオレと、一体なにが違うっていうんだ?」

    御曹司「オレは絶対に、あなたに不自由などさせない」

    御曹司「あなたを、必ず幸せに・・・」

    お嬢様「――御曹司様は」

    お嬢様「わたしの、どのようなところに惹かれたのですか?」

    御曹司「・・・」

    お嬢様「幸せにしてくださると、言っていただけましたが・・・」

    お嬢様「これから十年、二十年・・・五十年経っても、わたしのことだけを愛してくださいますか?」


    473: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:31:34 ID:WXjwtAew

    御曹司「・・・」

    御曹司「言葉にするのは、簡単なことだ。大事なのは・・・」

    お嬢様「そうです」

    お嬢様「きっと・・・そうなのかもしれません」

    お嬢様「でも、わたしが欲しかったのは、そんな簡単なことで・・・」

    お嬢様「あの人は、わたしにそれをくれたんです」

    御曹司「・・・オレではダメだと? そんなにオレは、魅力がないか・・・?」

    お嬢様「御曹司様は・・・たとえ『御曹司様』でなくても・・・とても、魅力的です」


    474: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:32:28 ID:WXjwtAew

    御曹司「・・・」

    お嬢様「ただ・・・」

    お嬢様「わたしでなくても、平気な人なんです」

    御曹司「・・・っ」

    お嬢様「少なくともあの人・・・っ」ポロッ

    お嬢様「男さんは、私でないとダメだって言ってくれたんです!」

    お嬢様「言葉だけじゃなくて・・・っ、心から・・・!」ポロポロ


    475: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:33:10 ID:WXjwtAew

    御曹司「あなたは・・・!」

    お嬢様「御曹司様が、ダメなのではありません」

    お嬢様「きっと、他の誰でも・・・」

    お嬢様「男さんでないと、ダメなんです」

    御曹司「く・・・っ」フイッ

    お嬢様「・・・」グスッ


    476: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:34:38 ID:WXjwtAew

    ・・・・・・

    グランドスタッフ「こんにちわ、お客様」

    男「あの、十二時発の、トルコ行きの便なんですけど」

    グランドスタッフ「トルコ航空の、イスタンブール行き直行便でしょうか?」

    男「はい、それです」

    グランドスタッフ「そちらは、すでに最終搭乗受付時間が過ぎておりまして・・・」

    男「まだ、出発はしてないんですよね?」

    グランドスタッフ「え? ええ、そうですが・・・」


    477: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:35:17 ID:WXjwtAew

    男「知り合いがその飛行機に乗っているんですが、忘れ物をしてしまったようで・・・」

    男「とても、大事な物なんです」

    男「会って、渡すことはできませんか?」

    グランドスタッフ「・・・それは・・・」

    グランドスタッフ「問い合わせてみますので、少しお待ちいただけますか?」


    478: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:35:36 ID:WXjwtAew

    男「・・・わかりました」

    男「ちなみに、搭乗口ってどっちですか?」

    グランドスタッフ「四階の、第三サテライト31番の、ゲートラウンジからになっております」

    男「そうですか・・・」

    グランドスタッフ「・・・もしもし、北口チェックインカウンターです」

    グランドスタッフ「トルコ航空のTK51便なのですが、いま、乗客の方に荷物を届けにきたというお客様が・・・――!?」


    479: 推奨BGM 00 gundam 2012/08/17(金) 10:37:47 ID:WXjwtAew

     ttp://www.youtube.com/watch?v=DnWtyvwgOzU



    男「ッ・・・!!」ダッ

    グランドスタッフ「お、お客様、どちらへ!?」

    男「階段は・・・あっちか!」

    グランドスタッフ「! だっ、誰か止めてッ!!」

    空港係員A「なんだ!?」

    空港係員B「不審者だ、各階へ連絡しろ!」

    男「く、さすがに・・・ッ」


    480: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:38:12 ID:WXjwtAew

    黒服A「なんだ? ――・・・アイツは・・・!?」

    黒服B「!? あの野郎・・・!!」

    男「なんとか四階へ・・・!」

    黒服A「アイツ、まさかお嬢様のところへ!?」

    黒服B「クソが、行かせッかァ!!」ダッ

    黒服C「おい!?」

    黒服D「ボケッとするな、俺たちも追うぞ!」

    男「! あの人たちは・・・!」


    481: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:38:53 ID:WXjwtAew

    空港係員A「そこの男、止まれッ!」

    男「止まれといわれて、止まれるわけは!」

    空港係員C「階段から移動するぞ、そっちに回れ!」

    空港係員D「左右から・・・! エントランスの前にも何人か待機させるんだろ!」

    男「!? くッ、あっという間に囲まれて!」

    空港係員B「そのまま、壁際に追い詰めろ・・・そうだ!」

    男「ここまで来たのに・・・! もう少しで届くのに・・・!」

    空港係員D「こちらはもういい! 念のため、TK51便の機長に連絡を!」


    482: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:39:29 ID:WXjwtAew

    男「彼女が、あそこにいるのに・・・ッ」

    黒服A「おまえ、どういうつもりで・・・」

    男「決めたんだ、もう何も零さないって・・・」ギュッ

    黒服B「てめえは、あれだけやられてまだ理解できねえのかッ!」

    男「父さん、母さん・・・僕はもう、過去には縛られないよ」


    483: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:40:01 ID:WXjwtAew

    空港係員C「よし、警察署には連絡したんだな!?」

    男「前を見て、生きていくんだ・・・変わってゆく、これからも・・・彼女と!」

    黒服B「何をブツブツとッ・・・! 今度はその程度じゃ済まさねェぞ!!」

    黒服A「なんだと、おまえ、どういう・・・!?」

    男「だから、そこを退いてくれ・・・ここは――」


    484: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:40:58 ID:WXjwtAew




    男「僕の道だぁぁァッッ!!!」




    485: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:41:43 ID:WXjwtAew

    黒服B「――ッ!?」ゾクッ

    空港係員A「・・・はっ、挟みこんで取り押さえろッ!」

    黒服A「待ってくれ! 手荒な真似は・・・――なんだッ!?」

    ガシャアアアアアン!!!

    「「「!!!!????」」」

    黒服A「な・・・ッ!?」

    空港係員D「ま、窓から・・・!!」

    空港係員B「乗用車が突っ込んで!?」


    486: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:42:17 ID:WXjwtAew

    男(友―――!?)

    友(―――男ッ・・・)

    友「行っ、けぇぇぇッ!!」

    男「ッ・・・!!」ダッ

    空港係員A「滑走路へ出て行ったぞ!?」

    空港係員C「ま・・・ッ、すぐに追いかけ・・・!」

    ギャリギャリッ!!

    黒服C・D「うおぉッ!?」

    友(行かせねえよッ)


    487: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:43:00 ID:WXjwtAew

    黒服B「うがあ゛あ゛あぁッ!!」ダッ

    ギャキキキッ!!

    黒服B「!?」

    友「あいつの・・・俺の弟分の邪魔は、誰にもさせねえッ」

    友(男・・・)

    友(これが、俺がおまえにしてやれる、最後のことだ)

    友「あとは、おまえ次第だからな・・・!」


    488: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:43:57 ID:WXjwtAew

    ・・・・・・

    御曹司「・・・そろそろ、離陸時間だな」

    お嬢様「・・・」

    機内アナウンス「ご搭乗のお客様に、ご案内申し上げます」

    機内アナウンス「当機、トルコ・イスタンブール行きTK51便は・・・」

    機内アナウンス「ただいま、アクシデントが発生したために、離陸時間が遅れる見込みです」

    機内アナウンス「設備トラブル等ではございませんので、ご安心ください」

    機内アナウンス「離陸可能の目処が付きましたら、こちらのアナウンスにて、改めてご案内いたします・・・」


    489: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:44:35 ID:WXjwtAew

    機内アナウンス「ご搭乗、お急ぎのお客様には、大変ご迷惑を・・・」

    お嬢様「・・・?」

    御曹司「トラブルだと? 一体なんの・・・」

    お嬢様「・・・――うそ・・・」

    お嬢様「っ!!」バンッ!

    御曹司「な、どうしたんだ・・・?」

    お嬢様「・・・きた・・・ぁっ・・・!」


    490: BGM A letter 2012/08/17(金) 10:48:27 ID:WXjwtAew

     ttp://www.youtube.com/watch?v=NLIBrZIPG5Y



    ・・・・・・

    ザアァァァ・・・

    男「ぜっ、ぜぇっ、・・・はっ、はぁ・・・はっ」

    男「・・・・・・っ!」ゴクッ

    男「(スゥー・・・)」

    男「お嬢様ぁぁぁーーーっ!!」


    491: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:49:32 ID:WXjwtAew

    男「きたよッ! 僕は・・・ここまで、キミに会いに来たんだ!!」

    男「キミに、どうしても伝えたいことがあったから!」

    男「僕はもう、諦めることはしないよ!」

    男「生きることも、キミと一緒にいることも!!」

    男「寂しいんだ! キミが僕の隣にいないと、苦しいんだよ!」

    男「僕には、お嬢様が必要なんだ! お嬢様じゃないと、ダメなんだ!」


    492: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:50:08 ID:WXjwtAew

    男「お金も、名誉も、才能もないけれど! キミの一番は、誰にも譲らない!!」

    男「だからもう一度、今度は・・・! 今度も、心からの僕の気持ちを・・・」

    男「僕だけの言葉で、お嬢様に届けるからッ!」

    男「キミが僕の手をひいて連れてくれた、外の世界(ここ)で!!」

    男「どうか、聞いて欲しいーッ!」

    男「・・・僕の・・・っ、」


    493: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:50:48 ID:WXjwtAew




    男「家族になってくれぇーーーっ!!!」




    494: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:51:08 ID:WXjwtAew

    男「キミのことが好きだッ! 愛してるんだ!!」

    男「誓うよ! キミのことを、世界の誰よりも好きな自分に、約束する!」

    男「世界の誰よりも、僕がキミのことを幸せにするんだって!」

    男「もう、涙は流させないから!」

    男「笑わせ続ける・・・僕が、キミをずっと笑顔にするからッ!」

    男「だから・・・!」

    男「『さようなら』なんて、言わないでくれぇぇっ!」


    495: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:51:41 ID:WXjwtAew

    男「・・・はぁ、っ、はぁ、はぁッ・・・」

    男「お嬢様・・・」

    男「僕の言葉が聞こえたなら、返事をしてほしいーーッ!」

    男「それでここに・・・! 僕の・・・ッ、傍へきてくれ!」

    男「この手を取って・・・! 僕のことを――」

    男「抱きしめてくれえぇぇぇッ!!」

    ザァァ・・・・・・

    ・・・ポツ、ポツ・・・


    496: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:52:22 ID:WXjwtAew

    ・・・・・・

    お嬢様「ぅ、・・・っ、ぁ」ポロポロ

    お嬢様「! っ・・・!」バッ

    御曹司「・・・」

    お嬢様「・・・ぁ・・・」チラ

    御曹司「行くといいさ」

    お嬢様「え・・・」


    497: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:52:48 ID:WXjwtAew

    御曹司「・・・まさか、本当に来るなんてなぁ・・・」

    御曹司「あの男にはあって、オレにはないものか・・・」

    御曹司「そんなもの、あるわけないだろうと思っていたのにな」

    御曹司「・・・あんな風に誰かのために、雨に打たれながら、好きだと叫び続ける・・・」

    御曹司「ハハ・・・オレには、真似出来そうにない」

    御曹司「・・・苦労なら、人一倍してきたつもりだが・・・」

    御曹司「なまじ万能感なんて覚えてしまうから、小さくても大事なことへ目を向けられなくなってしまうんだな」


    498: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:53:27 ID:WXjwtAew

    御曹司「・・・こんな気持ちは、初めてだ・・・」

    お嬢様「・・・」

    御曹司「あの男と、あなたを取り合う勇気は、オレにはとても持てそうにない」

    御曹司「・・・・・・A-29、か」

    御曹司「この席は、あなたには少し窮屈だったようだ」クス

    お嬢様「・・・」

    御曹司「行けよ」フイッ


    499: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:53:47 ID:WXjwtAew

    お嬢様「御曹司様・・・」

    御曹司「あなたの家の使用人に、伝えておいてほしい」

    御曹司「・・・・・・賭けは、キミの勝ちだと」

    お嬢様「・・・はい」コクリ

    御曹司「『さようなら』、だ」

    お嬢様「・・・」

    お嬢様「さようなら、御曹司様」


    500: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:54:14 ID:WXjwtAew

    ・・・・・・

    男「はっ、はぁ、はぁ・・・」

    男(あ・・・足が・・・)ガクガク

    男(でも、まだだ、まだ倒れるわけには・・・)

    男(彼女は必ず来る、だから、その瞬間までは!)

    男(男は、辛い時にこそ・・・)

    男(・・・父さん、そうでしょう・・・?)

    男「・・・ん?」

    男「・・・あ・・・」


    501: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:54:39 ID:WXjwtAew

    ・・・・・・

    友「! 雨が・・・」

    友「って、いってぇ! もう何もしねえってば!」ドサッ

    ・・・・・・

    メイド「! 大旦那様、外を・・・!」

    大旦那「雨が止んで、雲が・・・」


    502: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:54:59 ID:WXjwtAew

    ・・・・・・

    ビュウッ!

    男(急に吹いた強い風に乗って、懐かしい匂いが鼻を掠める・・・)

    男「・・・・・・かあさん?」

    男「ぁ・・・っ」

    男(急に雲が切れて、合間から光が・・・)

    男「! まぶ、し・・・」


    503: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:55:23 ID:WXjwtAew

    ・・・・・・

    お嬢様「どいてください! どいて! 道を空けてぇ!」

    ―走る。乗客を掻き分けて

    お嬢様「あの人が・・・彼がそこにいるの! わたしを待っているの!」

    ―彼が何を言っていたかは、聞き取れなかった

    お嬢様「だからお願いです! 通して! わたしを・・・っ」

    ―でも、わたしを求めてくれているのは分かった

    お嬢様「彼のところへ行かせてぇっ!!」


    504: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:56:21 ID:WXjwtAew

    ―・・・運命だと、誰かがそう言うのなら、

    ―だからどうした、と。

    ―わたしの運命なんだ、わたしが決めてやらないでどうする。

    ―彼の横で、彼と一緒にずっと生きてゆく、

    ―もうずっと前に、そう、決めた。

    ―いつか、彼を愛するわたしにそう、誓ったのだから。

    お嬢様「男様っ・・・男さんっ!」

    男「! お嬢様さん!」


    505: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:56:51 ID:WXjwtAew

    お嬢様「男さん、男さんッ・・・! おとこぉーー!」バッ

    男「ッ・・・!」ダキッ

    お嬢様「ぅ、ぐすっ、・・・おとこ、さん・・・!」

    男「ごめんね。少し、遅くなっちゃった」

    お嬢様「・・・」フルフル

    お嬢様「顔・・・こんなにして・・・無茶ばっかり・・・!」

    男「なんてことないよ」ニコ

    お嬢様「もう・・・仕方のない人・・・なんだからぁ・・・」


    506: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:57:41 ID:WXjwtAew

    男「好きだ」

    お嬢様「・・・わたしも」

    男「結婚しよう」

    男「僕たち、本当の家族になろう」

    お嬢様「はい・・・」

    お嬢様「わたしを、もらってくれる?」


    507: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:57:59 ID:WXjwtAew

    男「ずっと、そばにいてほしい」

    お嬢様「ずっと、離さないでね?」

    男「これからは僕が、キミの手をひいて歩くよ」

    お嬢様「わたしも、あなたの手をひいて歩くから・・・」

    男「二人、ずっと」

    お嬢様「手を繋いで、一緒に」

    男・お嬢様「「歩いていこう」」


    508: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:58:22 ID:WXjwtAew

    お嬢様「・・・ぅ、っ・・・」グスッ

    男「もう、泣かせないって決めたのになぁ・・・」

    お嬢様「嬉しくて流す涙は、いいのよ・・・ふふっ」コシコシ

    お嬢様「ねえ、あの時の、やり直し・・・」

    お嬢様「してくれるでしょう?」

    男「・・・うん」

    お嬢様「・・・」

    男「・・・ん」チュッ


    509: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 10:59:53 ID:WXjwtAew

    男(空を厚く覆っていた雲に切れ目が入って、地上に太陽の光が差し込む)

    男(長い滑走路が次々と陽光に照らされ、幻想的な光の道が、眼前に遼く伸びる)

    男(僕には、その光景が二人の未来を示唆しているように、素直に感じられた)

    男(口付けをおえた彼女がゆっくりと目を開けると、口元には柔らかな笑み)

    お嬢様「わたし、いまとても幸せ」

    男「・・・僕もだよ」

    男(そう答えると、彼女は向日葵のような笑顔を浮かべ、それからまた静かに目を閉じた)

    男「ふふっ・・・」クス


    510: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 11:06:08 ID:WXjwtAew

    男(彼女もきっといま、僕と同じことを考えているのだろう)

    男(僕は彼女の温もりをしっかりと胸に抱き寄せると、そっと彼女に唇を寄せた)

    男「ありがとう」

    男「キミに出会えて、よかった」

    男「キミを好きになって、よかった」

    男(太陽のアーチが僕らを包み、言祝ぐ)


    511: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 11:08:59 ID:WXjwtAew

    お嬢様「わたしも、ありがとう」

    お嬢様「あなたを愛して、よかった」

    お嬢様「あなたに愛してもらえて、よかった」

    男(そうして笑いあうと、僕たちは再び口付けを交わした)

    いつまでも、

    ―・・・いつまでも、二人、一緒に。


    Fin


    512: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 11:25:23 ID:WXjwtAew

    最後まで読んで下さった方、お付き合いありがとうございました。
    進行中、乙や支援をくれた方、とても励みになりました。
    とくにネタ元の、>>1のみを書くスレの>>31氏には、この場を借りて大きな感謝を。
    未完SSマイスターの自分が完走できたのは、氏のおかげです。こんなオナ二ーに使ってごめんね。

    反省点のだらけな上、なんか気軽に読むってカンジじゃなくなってしまって申し訳ない。
    BGM云々ってのも、なかなか見ない形なので、人によってはウザかろうと思います。
    あと、空港での大立ち回りはフィクションとして割り切ってください。

    最後に、気付いた方もいるかもしれませんが、ドラマ「101回目のプロポーズ」から
    いくつか台詞を拝借しました。脚本の野島さんに、勝手に感謝させてください。


    515: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 11:37:44 ID:k6kUIJhY

    乙!ずっと見てたよ

    あれだけのやり取りから、よくここまでの話を書いたな

    またなんか書いてくれるの待ってるぜ


    518: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 11:49:57 ID:b.kuCgqo

    全米が泣いた


    520: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 12:49:11 ID:EC13RCAg

    感動した ありがとう


    525: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/18(土) 01:24:12 ID:iG9KgBDM

    乙!

    友は最後までイケメンだった


    524: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/17(金) 20:20:17 ID:m1ZrAZAI


    ちょっとトイレでメシ食ってくる


    引用元: お嬢様「お手洗いで食べるご飯がこんなに美味しかったなんて!」

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