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    上条「一緒に帰ろう、インデックス」

    1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/19(金) 23:37:02.73 ID:14Imd/CE0


    「まったくもって…厄介だね」

    第23学区の空港から、目的地である
    第7学区へ向かう無人バスの中で、
    ステイル=マグヌスは一人呟く。
    車内は禁煙なので、
    噛み煙草を噛んではいるのだが物足りない。
    ヘビースモーカーである彼にとって、バスでの移動時間は苦痛以外の何ものでもなかった。
    ステイル=マグヌス。
    イギリス清教必要悪所属の魔術師。
    今回訳があってはるばるイギリスから学園都市にやって来たのだ。
    煙草を吸えない気分を紛らわせようとバスの窓を少し開けると、
    春の夕暮れ特有の柔らかい風が、
    ステイルの赤い髪を揺らした。

    (さて…"彼"はもう来ているかな)



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    2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/19(金) 23:41:49.67 ID:G1UhTXZRO

    「遅い…」

    どこにでもいる平凡な高校生、
    上条当麻は、公園のベンチでイライラを募らせていた。
    ステイルから"一方的"に告げられた約束の時間は、
    一時間前に過ぎてしまった。
    公園に着いた時はチラホラ居た子供達も、
    今は皆帰ってしまい、公園には上条一人が取り残されている。

    「くそ…スーパーの特売を諦めて来たのに…
    不幸だ…」

    ブツブツと呟く上条の背後からふいに

    「やぁ」

    その声に上条が慌てて振り返ると、待ち合わせ相手である
    ステイルが音もなく立っていた。
    ステイルの赤い髪が、夕日を浴びてさらに深い赤になっている。
    まるで燃え盛る炎の様だ。


    3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/19(金) 23:44:25.69 ID:G1UhTXZRO

    「何が"やぁ"だ!遅い!遅過ぎる!
    俺はスーパーの特売を諦めてまで…」

    上条の文句を右手で制して、
    ステイルは煙草を取り出す。
    くわえた煙草に指先を近付けると、
    まるで手品の様に火がついた。
    ステイルの最も得意とする魔術、"炎の魔術"だ。
    ステイルはまるで何日も砂漠をさ迷った人間が水を飲むように、
    美味そうに煙を吸い込む。

    「どこもかしこも禁煙でね。
    この街はどうやら僕に死ねと言っているみたいだ」

    ぶはーと煙を吐き出しながら、
    ステイルは苦い顔で呟いた。
    話の腰を折られた上条は、
    怒りの矛先を持て余し、仕方なく尋ねる事にする。


    4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/19(金) 23:46:17.45 ID:G1UhTXZRO

    「で…何の用だ?」

    呼び出されはしたものの、理由は聞いていない。
    ステイルは再度煙を吐き出すと

    「あの子は?」

    「インデックスか?言われた通り預けて来たぞ」

    上条は煙から逃げるようにステイルと距離を取り応えた。
    そんな上条にステイルはわざとらしく煙を吐きかける。
    嫌な笑みを浮かべて、だ。

    「誰に?」

    「小萌先生に」

    「小萌…?」

    ステイルの脳裏に小さな女の子
    (正確には大人の女性だが)が思い浮かんだ。


    5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/19(金) 23:47:59.68 ID:G1UhTXZRO

    (確か月詠小萌。上条当麻の担任か)

    ステイルは指先の炎で、
    無意識に煙草を消し去る。
    以前未成年だからと煙草を取り上げられ、
    散々注意された事で、無意識にそんな事をしたのかもしれない。
    そんな自分に苦笑いしながら、
    ステイルは二本目の煙草を取り出し、
    先程までとは違う、魔術師の顔で話し始める。

    「さて、じゃあ本題に入ろうか」


    6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/19(金) 23:49:11.38 ID:G1UhTXZRO

    「ねぇねぇ小萌ー」

    白い修道服に身を包んだ、銀髪碧眼のシスターが、
    ゴロゴロと転がりながら台所に声を掛ける。
    呼び掛けられた小萌は、作業の手を止めると

    「なんですかぁ、シスターちゃん?
    晩御飯ならもう少しで…」

    「晩ご飯もだけど、とうまの事なんだよ」

    インデックスは服が汚れるのも気にせず、
    依然として床をゴロゴロしている。
    小萌のボロアパートの部屋は、
    お世辞にも片付いているとは言えず、
    インデックスが転がる度に、
    あちこちでビールの空き缶が音を立てて倒れていく。
    初めてこの部屋を見た人間は、まさか女性が住んでいるとは思わないだろう。


    7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/19(金) 23:50:32.43 ID:G1UhTXZRO

    「とうまは何でわたしを小萌に預けたのかな?
    小萌は何か知らない?」

    不安そうな顔をしているインデックスに、
    小萌は優しく微笑みながら

    「上条ちゃんは用事があると言ってたですよー。
    心配しなくてもすぐ迎えに来てくれると先生は思います」

    「んー、なんか嫌な予感がするんだよ。
    "あの事"じゃなきゃいいんだけど」

    「まぁまぁ、それよりご飯にしましょー」

    小萌は小さなちゃぶ台に食事を並べていく。
    肉汁のしたたる大きなハンバーグ。
    インデックスの嫌な予感も、
    テーブルに並べられたハンバーグを前に消し飛んでしまうのだった。


    8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/19(金) 23:52:12.08 ID:G1UhTXZRO

    「…インデックスが狙われてる!?」

    驚きの余り声をあげた上条に、
    ステイルは頷く。
    上条には嫌という程心当たりがあった。

    「インデックスの…魔導書か」

    インデックスの頭の中には、
    10万3000冊の魔導書が収められている。
    読めば命を落とすような魔導書も、
    完全記憶能力で一字一句記憶しているのだ。
    魔導書の持つ強大な力。
    それを欲しがる魔術師は山ほどいる。
    魔導書図書館であるインデックスは、
    常に狙われる立場にいるのだ。


    10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/19(金) 23:53:39.81 ID:G1UhTXZRO

    「一体誰が何の為に?」

    上条の問い掛けに、ステイルは何の脈絡もなく

    「"聖杯の槍"を知っているかな?」

    突然訳の分からない質問を返された上条は、
    訝しげな顔をする。

    「な、いきなりなんだよ…」

    「いいから答えてくれないかな」

    「し、知らねーけど…」

    「だろうね」

    ステイルはからかっているのか小さく笑うと

    「アーサー王の伝説に聖杯と共に出てくるが、
    元は新約聖書に出て来た純白の槍の事だ。
    イエス・キリストが十字架に張り付けられ、処刑されたっていうのは流石に知っているだろう?
    そのキリストが本当に死んでいるのか…
    確認の為にキリストに突き刺した槍の事だ」

    訳の分からないといった顔の上条をよそに、
    ステイルはすらすらと唇を動かしていく。


    11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/19(金) 23:55:33.24 ID:G1UhTXZRO

    「ロンギウスの槍とも呼ばれているが…
    まぁこれは後世に名付けられたものだね。
    そもそもこの槍がキリストの命を奪ったなんて話もあるが、
    それはただの誤りだ」

    ステイルは次から次へと、まるで歌うように言葉を吐き出すが

    「で…それとインデックスが狙われてるのに、
    何の関係があんだよ?」

    上条は明らかに混乱していた。
    どうやら頭がついて来ないようだ。
    ステイルは嘲笑を浮かべながら煙草を消し去る。

    「ふん…まぁ最初から君の頭には期待していない。
    その"聖杯の槍"が盗まれたのさ」

    「は?」

    盗まれただけで何故インデックスが狙われるという話になるのか、
    上条は頭を高速で回転させる。
    しかしいくら考えても答えは出ない。
    気付けば辺りは薄暗い闇に包まれていた。


    13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/19(金) 23:57:30.20 ID:G1UhTXZRO

    「察しが悪くて助かるよ」

    ステイルは嫌みを言いながら、
    三本目の煙草に火を付けた。
    炎に照らされ、ステイルの顔がぼんやりと闇に浮かぶ。

    「その槍を"本当の意味で"使う為に、
    あの子の知識を必要としているという事さ」

    「"本当の意味"?」

    「カーテナにスタブソード、アドリア海の女王。
    君も知っているだろう?」

    上条は身を持って知っていた。
    とてつもない魔術的能力を持つ"霊装"。
    その凄まじい力を間近で見ている。

    「まさか…」

    上条の背中を嫌な汗が流れる。

    「そう。聖杯の槍も霊装の一つなんだよ」


    14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/19(金) 23:59:55.33 ID:G1UhTXZRO

    まるで当たり前だというように、
    ステイルはさらっとそう言った。
    しかし上条にとって、それは当たり前に受け止める事など出来る事ではなかった。
    様々な霊装を目の当たりにし、その凄まじいまでの力を目の当たりにしているのだ。
    その霊装を使う為、インデックスが狙われている。
    つまり霊装はこの学園都市へ持ち込まれる可能性が高いという事だ。
    上条の不安をよそに、ステイルは続ける。

    「聖杯の槍は不完全でね。
    盗まれたのは柄の部分なんだ。
    穂先はレプリカを含め、
    イギリスの様々な博物館に数点保管されているが、
    本物は最も安全な"金庫"に移してある」

    「金庫?」

    「そう、そこらへんの金庫なんかよりよっぽど安全な、ね」


    15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 00:01:40.19 ID:SZp/QVFwO

    「くしゅんっ」

    神裂は寮の自室で小さくくしゃみをした。

    (誰か噂でもしているのでしょうか…)

    イギリスにあるこの寮は、
    イギリス清教のシスター達などが皆で住んでいる。
    その寮の一室に神裂はいた。
    神裂火織―ステイルと同じ必要悪所属の魔術師であり、
    世界で二十人程しかいない"聖人"の一人。
    天使にも匹敵する程の力を持つ聖人は、
    首から下げた袋から金属の塊を取り出した。
    それは30cm程の長さの薄い板で、
    引き伸ばした菱形をしている。

    「聖杯の槍…ですか」

    神裂は槍の穂先を袋にしまうと、
    遠く学園都市に思いを馳せる。
    今頃上条にも事情が伝わっている筈だった。
    神裂も上条やインデックスを守る為に駆けつけたかったが、
    槍の穂先の護衛を任されているので学園都市に向かう訳にはいかない。
    敵の求める物が穂先とインデックスである以上、
    二つを同じ場所に揃える訳にはいかない。

    「さて…刀の手入れでもしておきましょう」

    神裂は学園都市の景色を頭から振り払うと、部屋を後にした。


    17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 00:03:32.50 ID:SZp/QVFwO

    「……」

    男は学園都市の高い塀を見上げていた。
    右手には140cm程の長く白い棒が握られている。
    それは金属で出来ていて、真ん中あたりに
    何か文字のようなものが刻まれていた。
    学園都市から溢れてくる光に、
    金属の棒が冷たく輝く。

    「さて…」

    男は小さく呟くと、
    まるで闇と同化するように、その姿を消した。


    20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 00:06:46.12 ID:SZp/QVFwO

    「くそっ」

    ステイルと別れた上条は、夜の闇の中を一人で歩いていた。
    先程までのステイルとの会話が頭の中で何度も繰り返される。
    インデックスが狙われた事は何度もあるが、
    それに慣れる事など決してない。
    上条の心は言い知れぬ不安で一杯だった。

    (どんな顔してインデックスを迎えに行きゃいいんだよ…)

    ステイルの話ではその敵とやらはまだ学園都市に
    侵入した形跡はないらしい。
    侵入した場合はすぐに連絡をするので、
    それまではいつも通り過ごすようにと言われたのだ。
    この件に対応するのがステイル一人の筈はないので、
    土御門も一枚噛んでいるのだろうと、上条は漠然と考えていた。

    (いつも通りっつっても…ステイルの野郎、
    インデックスに感づかれたら殺すとか言いやがって)

    「くそっ…不幸だ」


    22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 00:09:04.32 ID:SZp/QVFwO

    「ねぇとうま。ねぇねぇとうまとうま?」

    迎えに来た上条と共に、住み慣れた我が家へと戻ったインデックスは、
    まだ食べ足りないのか、スナック菓子を片手にくつろいでいた。
    ここは上条の借りている部屋なのだが、
    インデックスと一緒に住むようになってから、
    部屋の主はこの小さなシスターになってしまっている。
    インデックスはスナック菓子を口の端からポロポロこぼしながら

    「ねぇとうま聞いてる?一体何の用事だったのか教えて欲しいんだよ」

    帰って来てからずっとこの調子だった。
    上条は"たいした用事じゃない"などと、
    適当にごまかしていたが、
    インデックスは、引き下がるつもりが毛頭無いらしい。

    「たいした用事じゃありません。
    それからお菓子をポロポロこぼすんじゃない」

    上条は出来るだけ目を合わせないように、
    しかし自然に振る舞う。


    24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 00:11:16.16 ID:SZp/QVFwO

    ところが

    「やだ」

    「は?」

    「やだもん」

    いつもと違う声に、上条は、思わずインデックスの顔に視線をやる。
    てっきり拗ねていると思ったインデックスが、
    悲しそうな顔をしていた。
    上条はその理由を知っていた。
    インデックスは、上条が自分の知らない所で戦い、
    自分の知らない所で傷付く事を極端に嫌う。
    おそらく上条の態度に何か不安を感じたのだろう。
    いつの間にか、お菓子もテーブルの上に置いていた。

    「はぁ~。分かった。話すよ」

    上条はインデックスに向き直り、
    その碧眼をまじまじと見つめると―
    いきなり土下座をした。


    25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 00:12:57.62 ID:SZp/QVFwO

    「すまんインデックス!土御門達と新しく出来たラーメン屋に行ってた!」

    「ら、らーめん?わたしが行きたいって言ってたあの?
    頼んでも連れて行ってくれなかったあの?」

    上条は頭を下げたままコクコクと頷き

    「お前には悪いと思ってる!今度必ず連れて行ってやるから!
    何杯でも食べさせてやるから!」

    我ながらしょうもない嘘だと思いながらも、
    上条は本当の事は言えなかった。
    ステイルに殺されるからではない、
    魔導書が狙われている事を知れば、
    責任を感じたインデックスがどんな無茶をするか分からない。
    それによりどんな危険に巻き込まれるかも分からない。
    大切な少女を守る為のしょうもなく、小さく、けれど優しい嘘。


    26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 00:14:08.96 ID:SZp/QVFwO

    「すまんインデックス!この通りだ!」

    必死に土下座する上条の頭上に、影が落ちる。
    恐る恐る見上げると―

    「とうま…」

    「ふ、ふぁい?」

    「ずるいんだよっ!」

    ガブリと音を立てて、上条の頭にインデックスが噛みついた。

    「ぎゃぁぁぁ!!不幸だぁぁぁ!!」


    29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 00:16:42.78 ID:SZp/QVFwO

    「ヒドい顔だね」

    次の日の朝、上条と合流したステイルは、
    開口一番そう言った。
    昨夜散々インデックスに噛みつかれた上条は、
    フルマラソンを完走した後の様にグッタリしている。

    「はは…上条さんはこんなの慣れっこですよ」

    上条はなかば諦めにも似た溜め息を吐くと

    「で、インデックスを一人にして大丈夫なのかよ?」

    狙われている張本人を一人にするのはとてもマズいような気がするが、
    かといって連れてくる訳にもいかない。
    幸い平日なので、インデックスには学校と言って出て来ている。
    もちろん学校はお休みした訳で、
    補習という代償を払ってここにいるのだが。


    30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 00:19:10.67 ID:SZp/QVFwO

    そんな事などどうでもいいと言わんばかりに、
    ステイルは煙草を取り出しながら

    「あの子には事情を説明して、護衛も付けてある。
    護衛には僕のルーンカードも持たせてあるしね」

    「は?」

    「馬鹿みたいな顔してどうした?」

    「だってお前…感づかれたら殺すって」

    その事かというように、ステイルは小さく笑うと

    「別に事情を話さないとは言ってないんだけどね。
    君が関わっている事をあの子が知れば、
    君の為にあの子がどんな無茶をするか分からない。
    君を始末すれば話は早いんだけど、
    それをすればあの子は悲しむ。
    不本意だけどね。
    君が関わっていなければ、
    あの子は事態が片付くまで大人しくしていると言っていたしね。
    そもそも学園都市で魔術を使えば、あの子だって気がつくさ」

    上条はとてつもなく騙された気がしていた。
    昨夜はあんなに誤魔化すのに四苦八苦していたのに、
    インデックスはこの件について既に知っていたのだ。
    しつこく聞いてきたのも、
    上条が関わっているかいないか、
    それが知りたかったのだろう。


    32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 00:21:04.42 ID:SZp/QVFwO

    「くそ…なんかすげぇ疲れた」

    あぁそうと興味無さそうに、ステイルは煙草に火をつける。

    「じゃあそもそも俺はインデックスのそばで、
    いつも通りにしてたら良かったんじゃねぇのか?」

    上条はふと思った疑問を口にしてみる。
    インデックスが大人しくしているなら、自分もわざわざ首を突っ込む必要があるのだろうか。
    むしろそばにいて、いざという時に彼女を守るべきではないのか。そう考えている上条に、ステイルは煙を吐きかけながら言う。

    「案内役だよ、この学園都市のね。
    まぁそれは建て前かな…君があの子のそばにいる時に襲われでもしたら、
    君を守る為に…あの子が何をするか分からないしね。
    こっちが本音だ。
    襲われるならひっそりと頼むよ」

    「ぐっ…」

    結局何も知らない上条を残して、
    話は進められていたのだ。
    認めたくはないが、仲間外れにされたようで少し寂しかったりもする。


    34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 00:23:04.54 ID:SZp/QVFwO

    「で…これからどうすんだよ?」

    「うん?もちろん槍を回収するのさ」

    ステイルは面白くなさそうに答える。
    まるで緊張感がないが、
    槍が不完全な事、インデックスには
    腕の立つ護衛が付いている事、
    地の利がこちらにある事などが
    余裕を産んでいるのではないかと上条は想像した。

    「回収っつっても、学園都市って結構広いぞ?
    槍を盗んだ奴がどこにいるか分かんのか?」

    学園都市は東京都の約3分の1程の広さで、
    23の学区に区切られている。
    いくら地の利があるとはいえ、
    その全てをたった二人で探し回るというのはいささか無理がある。
    しかしステイルは当たり前のように

    「ふん、わざわざ探し回る必要がどこにあるんだい?
    向こうに来てもらうのさ」

    そう言ってやれやれというジェスチャーをした。
    なんとなく馬鹿にされたのは分かったが、上条はぐっと我慢する。
    今はくだらない口喧嘩をしている時ではないのだ。


    35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 00:24:27.03 ID:SZp/QVFwO

    「おびき寄せるって事か。でもどうやって…」

    「はぁ、君が僕達イギリス清教にとって何の利益もないなら…
    今すぐ燃やし尽くすんだけどね」

    察しが悪いのか、魔術の事を忘れているのか。
    ステイルはわざとらしく溜め息を吐いて

    「魔術師がいないはずのこの街で、魔力を感じたら君ならどうする?」

    「そりゃ魔力を感じたら魔術師がいるって事になるから…あっ」

    上条もやっと何かに思い当たり、思わず声を上げた。

    「わざと魔力を感じさせるって事か!」

    「そうだ。相手も馬鹿じゃないだろう。
    当然罠の可能性も考えるだろうが…
    逆にあの子に辿り着くチャンスとも考えるだろうね。
    攻撃を仕掛けるにせよ、しないにせよ、必ず確認に現れる」

    「そこを抑える…って事か」


    36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 00:26:42.33 ID:SZp/QVFwO

    学園都市第十二学区。
    ここは多種多様の宗教施設が集まり、
    まるで海外のような街並みを造り出している。
    その中の一つ、イギリス清教の息が掛かった教会に、
    インデックスはいた。
    ここなら修道服姿のインデックスも目立たない上、
    イギリス清教との連絡にも都合がいい―護衛がそう判断したからだ。

    「で…一体どれだけ食べれば気が済むんだにゃー?」

    護衛の男―土御門元春はうんざりした顔で問い掛ける。
    ここに来てから、この小さなシスターは
    食事だお菓子だと食べ散らかしている。
    見ているだけで胃薬が欲しくなるような、
    そんな光景だった。


    38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 00:28:07.98 ID:SZp/QVFwO

    「する事ないんだもん。
    食べられる時に食べられるだけ食べるのが、
    わたしのポリシーなんだよ」

    そう言いながらも、フォークは絶えず口に運ばれていく。
    インデックスはエビフライにフォークを突き立てると

    「それに、あなたは昨日とうまとらーめん食べたんでしょ?
    だからその悔しさの分まで今食べとくんだよ」

    「昨日?ラーメン?」

    土御門にはそんな記憶はない。
    上条の様に記憶喪失にでもなっていない限り、
    ラーメン屋には行っていないはずだった。
    土御門は頭をフル回転させてみる。
    魔術師でありながら、学園都市にスパイとして潜入し、
    能力開発まで受けた土御門は、
    魔術師としての力も殆ど失い、
    超能力も無いに等しい。
    相容れぬ二つを無理矢理手に入れた代償だった。
    しかしそれでも土御門が学園都市の暗部に関わり、
    イギリス清教からインデックスの護衛を任される程に信頼があるのは、
    土御門にそれだけの力があるからなのだ。
    それが"頭の回転の速さ"、"知識"、"機転"―簡単に言えば
    "頭が切れる"という事だ。


    39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 00:30:22.23 ID:SZp/QVFwO

    (なる程…カミやんもまたしょうもない言い訳をしたな)

    「昨日は確かにカミやんとラーメン屋言ったにゃー。
    いやー、あれは絶品だったぜい」

    まるで勝ち誇ったかのようにへらへらと話す土御門に、
    インデックスはムッとしながら、さらに勢い良く食べ物を口に運んでいく。

    「やっぱり!ずるいんだよっ!
    むきぃー!やけ食いするんだよっ!」

    上条の普段の苦労が垣間見えて、土御門は少し同情した。
    やっぱり出来た義妹さえいれば他に何も
    ―などと考えていた時だった。
    突然肌をピリピリとした感覚が走る。
    それは間違えようもない、馴染みの感覚。
    どこかで強い魔力が生み出されている。
    土御門は、同じく魔力を感じたらしいインデックスと目を合わせる。

    「始まったか」


    41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 00:33:05.56 ID:SZp/QVFwO

    第十七学区―ここは学園都市において最も人口が少なく、
    様々な施設が自動化されている工業地帯だ。
    その一角、正方形に切り取られ、フェンスで囲まれた廃材、コンテナ置き場に二人はいた。
    ステイルは地面からコンテナ、廃材、捨てられた貯水タンク、
    あらゆる場所にルーンのカードを貼っている。
    ステイルの魔術は、このルーンを如何に
    上手く使うかが鍵になる。
    その特性上、奇襲などは苦手で、
    拠点防衛などを得意としていた。
    つまり今回のような、準備する時間がある待ち伏せは、その力を最大限発揮出来るのだ。
    ステイルはカードを貼り巡らせながら、
    黙々と自分の縄張りを造り上げていく。
    上条も手伝おうと思ったのだが、
    右手には"幻想殺し"が宿っている。
    触れただけであらゆる異能を打ち消すこの右手がカードに触れれば、
    カードの効力が打ち消されてしまうので、
    ステイルの作業をただ黙って見ているしかなかった。


    43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 00:36:10.63 ID:SZp/QVFwO

    「さて…」

    上条がボーっと暇を持て余していると、
    ステイルが小さく呟いた。
    どうやら満足の行く準備が出来たらしい。
    懐から煙草を取り出すと、
    スパスパと吸い始めた。

    「なぁ、まだおびき寄せなくていいのか?」

    今から敵と合間見えるかも知れないというのに、
    呑気に煙草をふかしてる場合なのだろうか。
    上条はステイルに尋ねた。
    ステイルはこちらを向くのも面倒だというように、
    チラリと視線だけ上条に向けると

    「今魔力を煙に混ぜているんだけどね。
    気が散るから少し…いやむしろ永久に黙っててくれないかな」

    それだけ言うとまた黙々と煙を吐き出し始めた。

    「ぐっ……」

    魔術に関してはステイルに従うしかない。
    上条は取り敢えず口を閉じるのが最善だと判断した。


    44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 00:38:09.84 ID:SZp/QVFwO

    (インデックスは大丈夫かな…つーか護衛って誰だ?
    神裂?なら安心なんだけどな…
    つーか敵は何人だ?男?女?)

    する事の無い上条の頭を、
    様々な想像がぐるぐる廻っていた。
    ステイルは色々知っているようだが、
    上条が尋ねても「確たる情報が無いので、教える必要もない」と、
    細かい事は教えてくれなかった。
    それからどれくらいの時間が経ったのだろう。
    上条が流れる雲を120程数えた時だった。

    「来る」

    突然ステイルが声を上げた。
    ステイルの視線を追って、コンテナ置き場の入り口に目を走らせる。
    所々破れたフェンスの向こう、
    300m程先に人影が見えた。

    「ふん、隠れるつもりもないみたいだね」

    人影は堂々と、上条達を正面に捉えて歩いてくる。
    まるで友人と待ち合わせでもしているかのように、
    身構えもせず、ただゆっくりと歩いてくる。
    その堂々とした振る舞いに、
    上条は全身の毛穴が開く感覚がした。
    身を隠す事もせず、何か武器を構える仕草もない。

    (俺達を倒すのは余裕…って事かよ)


    45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 00:40:41.53 ID:SZp/QVFwO

    男は上条達から20m程の位置で立ち止まる。
    上条は男を素早く観察する。
    体格は上条と同じくらいで、
    フードの付いた、地面につく程長い
    マントの様なものを羽織っていた。
    上条にはどの宗派なのかよく分からなかったが、
    マントの下には修道服の様なものを着ている。
    何よりも特徴的なのは、
    その全てが黒で統一されている事。
    男の異様に白い肌も相まって、
    まるで物語に出てくる死神そのものだった。
    マントに隠れてはいるが、
    何か長いものを腰から下げているのが分かる。

    (あれは…槍か?)

    上条が男の武器をなんとか確認しようとしていると、ステイルがこの場の誰よりも早く口を開いた。


    47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 00:42:42.16 ID:SZp/QVFwO

    「君一人みたいだね。
    わざわざやられに来たのかい?」

    ステイルは軽口を叩きながらも、
    男の一挙手一投足から目を離さない。
    魔術師特有のピリピリした緊張感が場を支配する。
    男はステイルの質問には答えず、
    ただ黙って上条達を見据えていた。

    「やれやれ…日本語は通じないのかい?」

    ステイルは吸っていた煙草を男に向かって指で弾いた。
    煙草は放物線を描きながら、
    男の目の前で―突然小さく爆発した。
    それが開戦の合図となった。


    49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 00:44:29.37 ID:SZp/QVFwO

    「暇なんだよ。にゃー」

    インデックスは第十二学区の教会、
    長椅子に腰掛けて土御門に文句を垂れていた。
    魔力を感じてから10分弱、まだ強い力は感じていない。
    おそらくまだ戦闘にはなっていないだろう。
    上条達はここから距離のある場所にいる、と土御門は読んでいた。
    土御門もステイルも、
    お互いの居場所を知らせていない。
    リスクを少しでも減らす為の策。
    そんな事はつゆ知らず、インデックスは相変わらず暇そうにしていた。
    狙われているのは当の本人なのだが、
    上条が関わっていないと思っている事、魔術師だけで処理すると聞いている事が、
    気持ちに多少の余裕を生んでいるようだった。


    52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 00:48:10.40 ID:SZp/QVFwO

    「ねぇ、ここは安全ってほんと?にゃー」

    インデックスはする事がないのか、
    先程から土御門の口癖を真似ている。
    そこはかとなく馬鹿にされているように感じるが、
    それを受け流す程には土御門は大人だった。

    「敵が特定の人間を、どこにいても捜し出せる
    魔術を持っていない限りは…だにゃー」

    土御門は真っ先にその可能性を考えていたが、
    知る限りではそんな便利な魔術は聞いた事もなかった。
    似たような魔術もあるにはあるが、
    それは様々な条件をクリアして初めて成り立つのだ。
    例えば捜したい相手の氏名や生年月日、血液型や身体的特徴。
    身に付けている物の一部、もしくは髪の毛などの身体の一部。
    このようなものが揃って初めて可能になるのが位置特定の魔術だ。
    禁書目録の詳細なデータは、
    イギリス清教でも極秘扱いになっている。
    そんな状況で、詳細に位置が特定される可能性は極めて低いのだ。


    53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 00:50:08.28 ID:SZp/QVFwO

    「ふーん。じゃあしばらくはここから動かないんだね。にゃー」

    インデックスが長椅子にコロンと横になった時、
    土御門は強い魔力同士がぶつかり合うのを感じた。
    インデックスも同じく緊張した顔になっている。

    「始まったか」

    と、次の瞬間―土御門達の後ろで、教会の扉が吹き飛んだ。

    「っ!?」

    飛んできた扉を咄嗟にかわし、
    土御門はインデックスに駆け寄る。

    (ちっ、ステイル達の魔力に紛れて接近に気付かなかった!)

    土御門は四角に切り取られた入り口に、
    人が立っているのを確認し―凍り付いた。

    「アンチ…スキルっ!?」

    その男はアンチスキルの制服を着ていた。
    学園都市において、警察の役割を果たす組織。
    そのアンチスキルが、土御門達を襲撃して来たのだ。
    さらにもう一つ、土御門を驚かせるものがあった。
    男が手にしている白い棒の様なもの。
    140cm程の長い金属の棒。


    54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 00:53:08.45 ID:SZp/QVFwO

    「聖杯の槍だと!?」

    渡された資料に添付してあった槍の写真と同じ。
    間違いなく聖杯の槍だった。
    状況は飲み込めなかったが、土御門はすぐに頭を切り替える。

    (まずは禁書目録の保護が優先っ!)

    護衛の任務を言い渡されてから、
    教会の見取り図も第十二学区の地図も頭に叩き込んであった。
    土御門は左手でインデックスの腕を掴み、
    右手で腰から銃を引き抜く。

    「走るぞ!」

    インデックスの返事を待たず、
    土御門は入り口とは反対に走り出す。
    振り向きざま、アンチスキルの両足に向けて一発、二発と引き金を引くが―

    「倒れないっ!?」

    確かに弾が男を撃ち抜いた感覚はあった。
    しかし男は倒れもしなければ、怯みさえしない。

    (何かおかしい)

    その何かを考えている余裕はない。
    土御門は裏口から路地へ飛び出し、右へ左へ曲がっていく。
    一見不規則に見えるが、土御門は最善のルートを選んで走る。
    敵に長く背中は見せず、出来るだけ見失いやすいルートを。


    56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 00:54:35.78 ID:SZp/QVFwO

    背後から着実に追って来る気配を感じる。
    土御門はインデックスの腕を掴みなおすと

    「もう少し走れるか!?」

    その問いに、インデックスは小さく頷いた。
    護衛任務で重要なのは、護衛対象を守り抜く事。
    今回の様に一人で任務に就く場合、
    敵に戦いを挑むのは愚か者のする事だ。
    万が一敗れでもすれば、その時点で任務は失敗と言ってもいい。
    土御門は逃げに徹する事を決め、路地を走り続ける。

    (距離が開き始めたな)

    土御門は背後を素早く確認し、予め目を付けていたビルの中から、
    今の状況もプランに組み込んで、逃げ込む先を選出していく。

    「あそこだな」

    土御門は路地を曲がり、
    予め非常口の鍵を開けておいた、
    5階建の小さな廃ビルに飛び込む。


    58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 00:56:31.19 ID:SZp/QVFwO

    (このビルの非常口は各階の北、
    裏口は1階に3つ、資材搬入口が1つ…)

    ビルの見取り図を素早く思い浮かべ、インデックスを壁際で休ませる。
    ビルの1階はもともと何かの店が入っていたのか、
    大小様々な金属製の棚が、
    所狭しと積み上げられていた。
    土御門がこのビルを選んだ最大の理由がここにあった。
    万が一ここが見つかり、槍を持った敵と戦闘になったとしても、
    この乱雑に積み上げられた棚の中、あの長い槍は邪魔にしかならない。

    (出来れば…戦闘は避けたいんだがな)

    土御門は銃の残弾を確認し、
    路地に耳を澄ませる。
    男を巻く事に成功したのか、
    足音は一向に聞こえてこなかった。

    「さて、どうするか…にゃー」


    59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 00:58:30.45 ID:SZp/QVFwO

    煙草が弾けると同時に、ステイルは男との距離を一気に縮める。

    「はぁぁぁぁっ!」

    ステイルが右腰に両手を構えると、
    そこから炎の剣が生まれる。
    距離を詰める勢いを殺さず、
    ステイルはその剣を男に向かって突き出した。
    しかし男は横に大きく飛び退き、その一撃をかわす。
    ステイルは男の後を滑るように追い、さらに炎剣を振り下ろした。

    が、男はそれを体を強引に捻ってかわす。

    「ちぃっ!」

    ステイルはそれ以上深追いせず、
    一旦後ろへ飛び退き、距離を取る。

    「うぉぉぉぉっ!」

    男が攻撃をかわし終えた瞬間を狙い、
    上条は横から飛びかかる。
    右拳を男の顔面を狙って振り抜くが、
    首を僅かに捻ってかわされてしまった。

    「くそっ」

    上条達から10m程距離を起き、
    男が身構える。
    完全に降り出しに戻ってしまった。


    60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 01:00:08.18 ID:SZp/QVFwO

    ステイルは攻撃の手を緩めず、炎剣を男に向かって投げつけた。
    炎剣は煙草とは比べものにならない爆発を起こし、
    男は咄嗟に両腕で防御の姿勢をとった。
    それを見たステイルの口の端がつり上り

    「魔女狩りの王!」

    男の背後に巨大な炎の魔神が現れた。
    摂氏3000度にも及ぶ炎の巨人が、男目掛けて両腕を振り下ろす。
    その腕は男を完全に捉えていた―はずだった。

    ゴバッ!という音と共に、
    炎の巨人の両腕が吹き飛んだ。

    「っ!?」

    ステイルは突然の事に息を呑む。
    魔女狩りの王は、ルーンがある限り何度でも再生する。
    その為に時間を掛けて準備したのだ。
    故に腕が吹き飛ぶくらいではどうという事はない。
    しかし問題は何故腕を吹き飛ばせたのか。
    上条の様な特殊な右手ならまだしも、
    普通の人間なら触れただけで焼き尽くされるはずなのだ。
    その疑問はすぐに解ける事になる。
    立ち込める煙が風に攫われ、
    男が姿を現した。


    62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 01:02:19.48 ID:SZp/QVFwO

    「聖杯の…槍?」

    ステイルの視線の先、男の右手に何か握られていた。

    「槍じゃない…」

    上条にも確認出来た。
    それは装飾の付いた黄金の柄を持つ、1m程の刀身の剣だった。
    西洋の騎士が持つような、両刃の剣。
    上条にはただの剣に見えるが、
    ステイルは明らかに動揺している。
    魔女狩りの王を操る事すら忘れ、剣を見つめて呟いた。

    「テュルフィング…」

    上条が聞いた事の無い単語に、男の顔に笑みが浮かぶ。
    そして初めて声を発した。

    「よく知っているな」


    64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 01:04:09.49 ID:SZp/QVFwO

    どうやらステイルと男は剣について
    共通の認識を持っているようだった。
    訳の分からない上条は、
    男から視線を外さないままステイルに尋ねる。

    「お、おい!あの剣なんかやべぇのか?」

    喉を鳴らして不気味に笑いながら、
    ステイルの代わりに男が答える。

    「北欧の伝承に出てくる剣。
    それがこの"テュルフィング"だ。
    オーディン神の末裔スヴァフルラーメ王に数多くの勝利をもたらしたとされている。
    その切れ味は鉄を布の様に切り裂き、
    切られた人間はその日の内に必ず死んだという。
    人間の血を浴びるまでは鞘に収まらない。
    数々の悲劇を生んだ剣だ」

    そう言って男は近くのコンテナに剣を振り下ろす。
    力を入れている様には見えなかったのだが、
    コンテナの真ん中に突然線が走った。
    音もなく…まさに布のごとく切り裂いたのだ。
    コンテナは崩れる事もなく、切られた事すら気付かないようにただそこに存在している。
    しかし紛れもなく真っ二つになっていた。


    67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 01:08:22.61 ID:SZp/QVFwO

    「そんな眉唾の剣、実在したなんてね」

    ステイルは再度炎剣を生みだし、魔女狩りの王を男の死角へ移動させる。
    もう動揺はしていなかった。

    「だけど…どれだけその剣が優れていようと、
    使うのは人間だ。どうにでも…なるっ!」

    ステイルは魔女狩りの王と動きを合わせながら、男との距離を詰める。

    「はぁぁぁっ!」

    ステイルは炎剣を横に薙ぎ払い、
    男の背後から魔女狩りの王が腕を振り下ろす。

    「ふん」

    男は慌てることなく、最初に届くステイルの攻撃を剣で防くと、
    振り下ろされる巨人の腕を切り上げる。
    爆音が生じた。
    巨人の腕が吹き飛んだ音だった。
    ステイルは構わず腰だめに構えた炎剣を更に突き出す。
    男は振り上げた剣をそのまま振り下ろし、
    ステイルの炎剣を地面に叩き付けた。


    68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 01:10:21.08 ID:SZp/QVFwO

    「しまっ…」

    前に重心を掛けていたステイルの鳩尾を、男は蹴り上げる。

    「がっ…は!」

    ステイルは地面を滑るように、5m程吹き飛ばされてようやく止まった。

    「他愛ない…な」

    魔女狩りの王が腕を再生し終わる前に、
    男は剣を振るう。
    ドパッ!と轟音が響き、
    魔女狩りの王は木っ端微塵に吹き飛んだ。
    ルーンがある限り消える訳ではないが、
    それでも魔力は無尽蔵ではない。
    ステイルの魔力が尽きれば、
    魔力狩りの王は再生出来なくなってしまう。

    (どうするっ!?)

    上条は何も出来ずに見ているしかなかった。
    魔術師同士の戦いに、割って入る隙が見当たらない。
    いくら特殊な右手があるとはいえ、
    所詮ただの高校生。
    今までの戦いに勝利出来たのも、仲間や運に助けられた部分も大きかった。
    あの異能の力を秘めた剣に右手で触れ、破壊する事も考えたが、
    下手をすれば右手を切り落とされてしまう。


    70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 01:13:01.32 ID:SZp/QVFwO

    (考えろ!この状況を一発で覆す方法を!)

    上条は拳を握りしめる。

    (考えろ!考えろ!)

    魔女狩りの王はほぼ再生を終えようとしていた。
    ステイルはヨロヨロと立ち上がり、炎剣を構え直している。
    何か使える物はと、上条は素早く周囲に視線を走らせる。
    しかし辺りには廃棄されたコンテナや、
    巨大な貯水タンクが転がっているだけだった。

    (貯水…タンク)

    貯水タンクは男の数メートル背後、地面に転がっており、
    所々錆びてはいたが、見たところ穴もなく、
    水は入っているようだった。
    上条の頭の中に、一つの可能性が浮かび上がった。


    72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 01:15:00.54 ID:SZp/QVFwO

    (あの切れ味の剣に、正面からは無謀だ。
    不意打ちに持ち込むには…この手しかねぇ!)

    上条は拳を強く握り直すと

    「うぉぉぉっっ!」

    男に向かって走り出す。
    ステイルが呆気に取られているのが横目で確認出来た。

    「ふん、無能だな」

    男は剣を構え、一直線に走ってくる上条を迎え撃つ。

    「死ね」

    上条が間合いに入る瞬間を狙って、
    男は剣を横に振るった。
    が、そのまま直進してくるとばかり思っていた上条は、
    前転しながら剣をかわす。
    そのままゴロゴロと地面を転がり、
    男と貯水タンクの間に入る。

    (なる程ね)

    その様子を見たステイルは、
    一瞬で上条の思惑に感づく。
    認めたくはないだろうが、戦闘に関しての相性はそこそこ良いのかもしれない。


    74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 01:16:53.35 ID:SZp/QVFwO

    貯水タンクに背中をつけた上条に、男は剣を真上から振り下ろす。

    「魔女狩りの王!」

    ステイルの言葉を受け、魔女狩りの王が男の真横から攻撃を仕掛ける。

    「ちっ」

    男は一瞬、ほんの一瞬だけ魔女狩りの王に気を取られた。

    上条はその隙を見逃さず、横に飛び退き―
    ズパッ!という音と共に、
    貯水タンクが縦に切り裂かれる。
    貯水タンクに出来た細い切れ目から、
    水圧に耐えきれず大量の水が溢れ始め、水捌けの悪い地面を、
    あっという間に水浸しに変えてしまった。


    76: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 01:19:14.10 ID:SZp/QVFwO

    上条は素早く水から転げ出て叫ぶ。

    「ステイルっ!」

    「あぁ。魔女狩りの王っ!」

    ステイルの叫びと共に、魔女狩りの王はその巨体を自ら破裂させた。
    辺りに炎が撒き散らされ、男は一瞬目を瞑ってしまう。

    「目くらまし!?小細工をっ!」

    男は目を開いた瞬間、右の視界の隅に、炎剣を振り上げているステイルを捉えた。

    「甘い!」

    男が振るった剣は、確実にステイルを捉えた―はずだった。

    「蜃気楼は知っているかな?」

    切り裂いたはずのステイルが、反対側から男に問い掛ける。

    「なっ…にぃぃ!?」

    咄嗟に距離を取ろうとしたが、既に炎剣は振り下ろされた後だった。


    77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 01:20:55.21 ID:SZp/QVFwO

    「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

    ステイルの振り下ろした炎剣は、男の右手首から先を切り落とす。
    吹き飛ばされた男の手は、剣を握り締めたまま宙に舞った。
    そのまま剣と共にくるくると廻りながら落ちて―
    男の胸を刺し貫く。

    「がっ…は!」

    男は水溜まりに膝をついた。
    男から流れ出る血が、水溜まりをみるみる赤く染めていく。


    79: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 01:23:11.05 ID:SZp/QVFwO

    「テュルフィングの伝承で、君が説明し忘れている事がある」

    ステイルは冷たく男を見下ろすと

    「そのテュルフィングの持ち主だったスヴァフルラーメ王は、
    テュルフィング自身に命を奪われているんだよ。
    今の君のように…ね」

    それだけ言うと、煙草に火をつけた。
    それをバトンタッチと受け取り、上条は男を問い詰める。

    「聖杯の槍はどこにあるっ!?」

    もちろん素直に答えるとは思っていなかったが、意外にも男はあっさり言い放った。

    「うっ…くくく…はっはっはっ!
    槍の居場所は…ぐっ…"分からない"…
    私はただの…そう、橋渡しだよ!
    きっかけに過ぎないのだからな!」

    男が不気味に笑う度に、口の端から血が溢れてくる。


    81: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 01:26:03.62 ID:SZp/QVFwO

    上条とのやりとりを聞きながら、ステイルは男の言葉の真意を探っていた。

    ("居場所"?"橋渡し"?"きっかけ"?…槍の在処が"分からない"?)

    様々な可能性を考慮し、ステイルは一つの仮説に辿り着く。

    「まさかっ!?」

    ステイルの考えている事が分かったのか、男は更に口を吊り上げる。

    「その…ぐっ、まさかだよ。くく…くははははは!」

    「くそっ!」

    ステイルは煙草を地面に叩き付けた。
    冷静なステイルが、珍しく取り乱している。


    83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 01:28:20.06 ID:SZp/QVFwO

    「どういう事だ、ステイ…」

    「ふ…フハハハハ!どのみち間に合わないぞ」

    上条の言葉を遮るように男は笑い、
    残った左腕で自分の胸に生えた剣を引き抜くと、
    喉に切っ先を押し当てる。

    「…"俺達"が世界のバランスを崩すっ!」

    そう叫ぶと、切っ先を自らの喉に沈めた。

    「やめろっ!」

    上条が止める間もなく、男はグシャリと水溜まりに崩れ落ちる。

    「何なんだよっ!くそっ!」

    いくらインデックスを狙う敵とはいえ、
    目の前で死なれるのは心が痛む。それに―

    「ステイル、聖杯の槍はどこにあるんだ」

    男の言っていた事、何かに気付いたステイルの態度―
    それが上条の心に、小骨のように突き刺さっていた。


    84: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 01:29:41.81 ID:SZp/QVFwO

    「上条当麻、学園都市で教会が一番多い場所に案内しろ!」

    ステイルは男の亡骸には目もくれず走り出す。
    上条も慌ててその後を追った。
    前を走るステイルの背中に、上条は問い掛ける。

    「全部話してくれ!あいつの言ってた世界のバランスが崩れるって事!
    今槍がどうなっているのかって事!」

    上条の問い掛けに、ステイルは振り向く事なく話し始めた。

    「よく聞け、上条当麻。
    聖杯の槍は今…あの子のそばにある!」


    86: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 01:31:48.55 ID:SZp/QVFwO

    「"悲しい一撃"」

    インデックスがそう呟いた。
    あれから追っ手も現れず、インデックスと土御門は廃ビルで外の様子を窺っていた。
    少しずつ日が傾き、辺りは夕暮れに包まれはじめている。
    土御門は夜に紛れて逃げ出すつもりだった。
    闇に紛れるという事は、相手の奇襲を受けるリスクも上がる、
    しかし逃げるにも都合がいい。
    二人はひたすら夜を待っていた。

    「"悲しい一撃"」

    インデックスがもう一度呟く。


    88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 01:33:43.35 ID:SZp/QVFwO

    「さすがに禁書目録。"悲しい一撃"を知っていたか」

    インデックスは小さく頷くと

    「アーサー王の騎士だったベイリンが、
    聖杯の槍でペラム王に与えた一撃の事なんだよ。
    その一撃を受けたペラム王には聖痕が刻まれ、
    王の城は崩れ落ち、土地は荒れ果て
    …あっという間に王の国は荒廃した」

    「そう。それが俗に言う"悲しい一撃"だ。
    あの槍が本来の力を取り戻せば、その"悲しい一撃"を使う事が出来る」

    土御門は忌々しそうに言った。
    その一撃がどんな結果をもたらすか、
    インデックスにも良く分かっていた。

    「国の代表と認識される人物が、その一撃を受けた場合、聖痕を刻まれ、
    その国は瞬く間に荒廃しちゃうんだよ」


    91: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 01:37:25.65 ID:SZp/QVFwO

    「国を荒廃させる力を持つ"悲しい一撃"!?」

    上条は、ステイルの背中に思わず聞き返す。
    ステイルから説明された聖杯の槍の"本当の力"、
    それは上条が想像していたよりも、遥かに恐ろしい力だった。

    「…あぁ」

    ステイルは走りながら答える。
    上条にも見て取れる程、その背中は焦っていた。

    「くそっ、つーか何で槍はインデックスの近くにあるんだよ!?
    敵はあいつだけじゃなかったのか!?」

    「そうみたいだね」

    インデックスの居場所が分かっているのだろうか。
    ステイルは迷う事なく路地を走り抜けていく。
    上条の視線の先、まるで海外の様な街並みが見えて来る。
    建物の屋根には様々なシンボルが掲げられ、
    上条にも馴染みのある十字架もチラホラ見えた。

    「くそっ、何で槍はインデックスの所に…」

    街は薄暗く、街灯もその役目を果たし始めている。
    第十二学区に続く大通りに飛び出て、ステイルは答えた。

    「それは多分―」


    92: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 01:39:00.46 ID:SZp/QVFwO

    (さて、もう少しこちらの優位性を上げておくか)

    土御門は乱雑に放置されている棚を、一つ一つ動かしていた。
    殆どの棚は土御門の背丈よりも高く、動かすのはそれなりに骨が折れた。
    疲れたのだろう。
    インデックスは土御門の作業を大人しく見ている。

    (魔術で防御の陣を構築しといても良いが…
    俺が動けなくなるような事になれば、この任務は失敗だからな)

    最後の棚を動かし終わり、土御門は床で一息つく。

    (もう少しで日が落ちるな)

    土御門が窓に視線を移した時だった。
    突然入り口のドアが蹴破られ、男が入って来た。
    アンチスキルの制服に身を包み、右手には長い金属の棒を持っている。
    間違いなくあの男だった。


    93: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 01:41:07.75 ID:SZp/QVFwO

    「ちぃっ!」

    土御門は素早く立ち上がり、インデックスを裏口へ走らせる。
    それを確認すると、男の両足、両腕に向けて銃を数発撃ち込んだ。
    マズルフラッシュで室内が照らされ、
    薬莢が地面に落ちて、甲高い金属音が響く。

    (やっぱり効いていない!?)

    確かに弾丸は標的を撃ち抜いたはずなのに、男は悲鳴の一つも上げなかった。
    男は無表情で槍を振り上げる。
    しかし槍は棚に引っ掛かり、土御門に振り下ろされる事は無かった。

    (今だ!)

    土御門はポケットから数枚のカードを取り出す。
    ステイルから預かった、ルーンが刻まれたカードを。
    そのカードを男目掛けて投げつける。
    次の瞬間、カードは小さな爆発を起こし、
    男の視界を遮った。


    95: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 01:42:16.23 ID:SZp/QVFwO

    更に土御門は、予め動かしておいた棚の一つを思い切り蹴り倒す。
    棚はドミノの様に次々倒れ、
    男の周りをあっという間に埋め尽くした。
    男の姿が棚で覆い隠されたのを確認して、土御門もインデックスの後を追う。

    (たいした足止めにはならないな。
    このまま次の学区に行くか)

    前方にインデックスの背中が見えた。
    土御門はもう一度背後を確認し、頭の中の地図を引っ張り出す。
    こうして二人は再度路地を駆け回る事になった。


    101: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 02:25:14.70 ID:SZp/QVFwO

    どれくらい走っただろう。
    土御門達が路地から大通りへ飛び出した時だった。

    「きゃっ!」

    インデックスが誰かとぶつかり、尻餅をついた。
    土御門が慌てて確認すると、
    インデックスとぶつかったのは、制服を着ている女子高生だった。
    その少女はインデックスの目の前に突っ立っている。

    「ご、ごめんなさい!わたしが飛び出しちゃったから」

    謝るインデックスを余所に、
    少女は何のリアクションもしなかった。
    そもそも完全下校時刻は過ぎているはずだ。
    この少女はこんな時間に何をしているのだろう。
    土御門はそれに違和感を覚え―
    少女が手に持っているものに気付く。

    「聖杯の槍っ!?しまっ…」

    土御門が動くよりも早く、
    少女は聖杯の槍―正しくは槍の柄を、
    インデックスの額に押し当てた。


    107: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 02:35:58.37 ID:SZp/QVFwO

    「くそっ!」

    土御門は咄嗟に銃の照準を少女に合わせる。
    アンチスキルから女子高生へ―
    聖杯の槍の持ち主が変わっていた。

    (確かにアンチスキルが槍を持っていた。
    考えられる可能性は一つ…)

    少女の額に銃口を向け、土御門は一瞬で真実に辿り着く。

    (聖杯の槍には…"人を操る力"がある!)

    インデックスの額に押し当てられた槍が、淡い光を放つ。
    もう迷っている暇はなかった。


    109: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 02:48:02.13 ID:SZp/QVFwO

    なのに―
    一瞬、ほんの一瞬、少女と自分の大切な義妹の姿が重なってしまった。
    土御門は少女から銃口を外し

    (甘いな俺は…)

    少女に体当たりをしようと地面を蹴る。
    いや、蹴ったはずだった。

    「ぐぁっ!」

    土御門には一瞬、何が起きたのか分からなかった。
    体がくの字に折れ曲がり、
    アスファルトの地面を数メートル程転がる。

    (なん…だ?今のは…)

    固い地面を滑ったせいで、
    体のあちこちから血が滲む。
    土御門は激痛の走る腹部に手を当て―
    そこが生温かく湿っている事に気付いた。

    「なっ…!?」

    腹部から大量の血が滴り落ちていた。
    傷口を確認すると、まるで刃物で刺されたように、
    細長い穴が開いている。


    111: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 02:56:33.13 ID:SZp/QVFwO

    (槍に穂先はついていない!何故刺された!?)

    痛みを堪え、状況を把握しようとしていた土御門の目に、
    地面に横たわるインデックスが映る。
    小さな肩が小刻みに動き、
    苦しそうに肩で息をしている。
    それに呼応するように、少女の持つ槍が淡く明滅していた。

    「ぐ…まさ…か」

    土御門は激痛の走る体に鞭を打ち、
    なんとか立ち上がる。
    その反動で、傷口から大量の血が溢れ出した。
    気の遠くなるような痛みの中、
    最悪の事態になった事を土御門は理解した。

    「槍が…力を取り戻した!?」


    113: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 03:04:19.06 ID:SZp/QVFwO

    少女は土御門をただじっと眺めている。

    (くそ…肉体再生が追いつかない)

    土御門の学園都市で手に入れた能力―肉体再生。
    しかしそのレベルは1。
    破れた血管を薄く繋ぎなおす程の力しかなかった。
    出血はだいぶ治まったが、重傷に変わりはなかった。
    次の攻撃を完全にかわせる確率は、限り無く低い。
    土御門は腰の銃に手を伸ばす。
    指先に金属の冷たい感触が伝わり、土御門の神経を更に研ぎ澄ませる。

    (くそ、操られてる以上殺すのは忍びないが…)

    少女は土御門の目の前。その距離はおよそ5メートル。
    土御門の仮説が正しければ、
    既に槍の射程圏内に入っている。


    115: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 03:10:52.64 ID:SZp/QVFwO

    「恨んでくれて…構わない」

    土御門は今度こそ少女の額に照準を合わせる。
    引き金に掛けた指に、力を加えようとした時だった。

    「はぁぁぁぁっ!」

    少女の目の前に炎剣が突き刺さり、
    ゴパッ!と爆音を響かせて弾けた。

    「土御門っ!」

    路地から見知った人影が飛び出してくる。

    「ふん、遅いにゃー、カミやん」


    116: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 03:12:56.44 ID:SZp/QVFwO

    飛び出した上条の目に飛び込んで来たのは、
    血まみれの土御門と横たわるインデックスだった。
    それだけで異常事態だという事が分かる。

    「いっ、インデックス!」

    上条は横たわるインデックスに駆け寄り、
    肩を抱くように膝に乗せる。
    修道服の上からでも分かる程、インデックスは全身に汗をかいていた。
    その小さな肩は小刻みに震え、
    唇からは苦しそうな息が漏れている。

    「インデックス!インデックスっ!」

    上条がいくら呼び掛けても、
    インデックスからは苦しそうな吐息しか返って来なかった。


    117: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 03:14:40.23 ID:SZp/QVFwO

    「くそっ、何でこんな!」

    ふざけるな!と上条は心の中で叫ぶ。
    何故いつもインデックスが苦しまなきゃいけない?
    この小さな女の子が一体何をした?
    押し付けられた運命を受け入れ、
    それでも必死に生きているインデックスを苦しめる権利は誰にもない。
    笑顔が奪われて良い訳がない。

    「……」

    上条はインデックスを近くの壁にもたれかけさせてやる。
    右手で額の汗を拭ってやると、インデックスの耳元でそっと呟く。

    「すぐ終わらせて迎えに行くから…一緒に帰ろうな、インデックス」


    118: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 03:17:08.01 ID:SZp/QVFwO

    「しかし、よくここが分かったな」

    土御門の問い掛けに、ステイルはさも当たり前のように答える。

    「僕が護衛ならここに来るしね。
    近くまで来た時に、魔力が跳ね上がるのを感じたんだ」

    少女と一定の距離を取りながら、ステイルと土御門は情報を交換していた。
    土御門の仮説を聞いたステイルは頷く。

    「なるほどね。槍が人間を操っているという訳か。
    なら僕が倒した男の言っていた事も理解出来る。
    確かに奴は"きっかけ"だった訳だ」

    「あぁ、槍を手にした"魔術師じゃない人間"は、槍に意識を支配される。
    魔術師は魔術に対して抵抗力が強い。
    操るのは簡単じゃないからな。
    それと…操られると痛みも感じなくなってるみたいだ」

    確かに魔術師を操れるなら、
    あの男が槍を持っていれば済む話だなとステイルは思う。


    119: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 03:18:16.53 ID:SZp/QVFwO

    「で、槍が完全に機能しているという話、根拠は?」

    ステイルは土御門をチラリと見やり、
    炎剣を生み出した。
    少女は未だ動く気配はないが、
    土御門の怪我を見る限り、攻撃の意志はあるように思える。
    土御門は自分の傷を指差し

    「根拠はこれだ。俺はあの槍の間合いに入る前に攻撃を受けた。
    それも打撃じゃない。斬撃だ。」

    アロハシャツは真っ赤に染まり、
    足元には血の水溜まりが出来ている。
    ステイルが見ても、明らかに刺し傷だった。


    120: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 03:19:15.98 ID:SZp/QVFwO

    「聖杯の槍に、穂先は必要ないという事か」

    土御門は忌々しそうに頷き、上条とインデックスに視線を移す。

    「あぁ…穂先は只の飾りだったらしいな。
    実際に槍が使われたのは今回が初めてだ。
    教会もそんな情報は把握してなかったんだろ」

    そこまで話して、土御門は激痛に顔を歪める。

    「ぐっ…俺は見ての通りもう戦えそうにない。
    禁書目録を連れてここを離れる」

    それだけ言うと、上条の元へ駆け寄って行った。


    121: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 03:21:08.55 ID:SZp/QVFwO

    「カミやん…悪かった。俺のミスだ」

    自分が護衛に付いていながら、完全に読みが甘かった事を土御門は痛感していた。
    悲しそうな、苦しそうな上条を見て、土御門はただ謝る事しか出来なかった。
    どんな責めも受けるつもりだった。
    しかし上条は頬を緩めると

    「サンキューな、土御門。
    ここまでインデックスを守ってくれて。
    早くインデックスを連れて逃げてくれ。後は俺とステイルで何とかする」

    そう言ってインデックスを土御門に預け、その場を離れた。

    (サンキューか…)

    それは土御門を気遣った訳でも、慰めた訳でもない。
    本当にそう思っているから掛けた言葉だった。
    それが上条当麻という少年なのだ。

    (カミやんのそういうとこ…好きだぜぃ)

    土御門は小さく笑うと、インデックスの腕を自分の肩に回す。

    (ちゃんと禁書目録を迎えに来いよ、カミやん!)


    122: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 03:22:08.68 ID:SZp/QVFwO

    土御門とインデックスがこの場を離れたのを確認して、
    上条はステイルに話し掛ける。

    「話はだいたい聞こえてた。あと一つ教えてくれ。
    インデックスは何であんな状態になってるんだ?」

    「おそらく…槍によって、頭の中の魔導書を引き出されたみたいだ。
    あの槍は人間を操り、魔導書まで導く。今回の場合はあの子な訳だが…
    柄に刻まれたルーンにより、
    強制的に情報を吸い出したのさ」

    淡々と説明するステイルの横顔が、一瞬悲しそうに見えた。
    きっとインデックスが苦しむ姿を見たからだろう。
    ステイルが守ると誓った少女。

    一歩遅れた自分自身を、ステイルは責めているのかもしれない。


    123: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 03:24:05.54 ID:SZp/QVFwO

    ステイルは更に続ける。

    「無理矢理魔導書の情報を引き出された訳だからね。
    あの子の頭に急激な負担が掛かり、
    体力が落ちているだけだろう。
    一時的な事だ。すぐに良くなる」

    上条はそれを聞いて安心した。
    と同時に頭がクリアになるのを感じる。
    これでやるべき事が明確になったのだ。
    ステイルは炎剣を構え、臨戦態勢に入る。

    「行くぞ、上条当麻!」


    134: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 10:03:36.61 ID:SZp/QVFwO

    「ステイル、まずは操られてる女の子から槍を引き離さないと」

    上条が少女を注意深く観察していると、ステイルがいきなり炎剣を振り上げた。
    そのまま間合いを詰め、少女に振り下ろす。
    少女は槍を水平に構え、その一撃を正面から受け止めた。
    炎剣から火花が飛び散り、鈍い音が辺りに響く。

    「ちっ」

    ステイルは反撃の隙を与えない為、素早く後退し、再度距離をとる。

    「何やってんだステイル!」

    上条にも分かった。今の一撃は完全に殺意がこもっていた。
    操られているだけだと分かっていながら、
    ステイルは何の躊躇も無く、
    少女を殺そうとしたのだ。

    「おい、ステイル!あの子は操られてるだけなんだぞ!」

    上条の言葉を無視して、
    ステイルは炎剣を構え直す。
    その視線は上条など捉えておらず、
    槍を持つ少女にのみ向けられている。


    135: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 10:05:40.41 ID:SZp/QVFwO

    「おい!ステイル!」

    耳を貸さないステイルに苛立ち、上条はステイルの肩を思い切り掴む。
    しかしステイルは上条に視線を移す事無く、ただ一言、冷たく言い放つ。

    「離せ。あいつは殺す」

    その言葉の威圧感に、そしてその言葉の冷たさに一瞬身じろぐが、
    上条も引き下がる訳にはいかなかった。
    いくらインデックスを狙ったとはいえ、少女もまた被害者だった。
    槍に操られているだけで、彼女は普通の人間なのだ。

    「ステイル!」

    しつこく食い下がられて苛立ったのか、
    今度はチラリと視線を上条に向けて、言葉を吐き出す。

    「邪魔をしないでくれないかな。
    あの子に害があるようなら……撲はたとえ神でも殺す」

    ずっと昔、ステイルが誓った事。
    インデックスを守る為なら何だってする。
    相手が誰だろうと焼き尽くす。
    ステイルは容赦なく少女を殺すつもりだった。


    136: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 10:07:35.79 ID:SZp/QVFwO

    「分かったらその手を…っ!?」

    突然ステイルの炎剣が弾けて消えた。
    炎剣があったはずの場所には、上条の右手があるだけだった。

    「幻想殺しか…」

    上条の右手に宿る"幻想殺し"。
    異能の力なら何でも打ち消すその右手に、
    ステイルの炎剣は跡形もなく消されていた。

    「邪魔をするなと言ったはずだ」

    ステイルは上条を睨みつけ、
    初めてまともにその目を見た。
    固い決意の滲んだ上条の目を。


    138: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 10:09:42.40 ID:SZp/QVFwO

    「ふん…」

    ステイルは暫く考え―そして体から力を抜いた。

    「いつもいつも甘いんだよ、君は。その甘さがいつか君を、あの子を殺す」

    「甘いか…そうかもな。だけどこんな人間が一人くらいいたって良いだろ。
    それに…俺は殺されたりしないし、
    インデックスも絶対に守る。」

    上条はしっかりとステイルの目を見ながら断言した。
    この世に絶対など無い事はステイルにも分かっているのだが、
    上条の言葉には不思議な説得力があった。
    認めたくはないが、上条にインデックスを預けている時点で、
    彼のその甘さも信頼しているのかもしれない。
    そう考えたステイルは自嘲気味に笑って言う。

    「人払いはしてある。好きにするといい。
    これは貸しにしておくよ」


    139: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 10:11:19.78 ID:SZp/QVFwO

    「で、言い出したからには何か策でもあるのかい?」

    ステイルは炎剣を再度作り出すと、上条に尋ねる。
    相変わらず少女はただこちらをじっと眺めているだけだが、
    ステイルは視界から少女を決して外さなかった。

    「単純だけど…俺の右手であの槍に触る」

    上条は右手を強く握り締める。
    あの槍が少女を操っているなら、
    その槍の魔術を打ち消せばいい。
    少女を傷付けずに助けるにはそれしかなかった。

    「簡単に言ってくれるけど、あの槍の攻撃範囲は広い。
    どうやら力を取り戻してるみたいだからね。
    右腕を相手に差し出す覚悟なら別だけど」

    「お前相変わらず一言多いな。
    作戦って程じゃねーけど、ステイルにはあいつを引き付けて欲しいんだ。
    俺は隙を見て飛び込み、槍に触る」

    ステイルは呆れた様に肩をすくめると、煙草を取り出し火をつける。

    「だと思ったよ。これも貸しにしておく」

    「倍にして返してやるよ」

    「ふん、期待はしないでおく」

    ステイルはしっかりと炎剣を握りなおすと、少女に向かって走り出した。


    140: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 10:13:34.73 ID:SZp/QVFwO

    「はぁぁぁっ!」

    ステイルは炎剣を横に薙ぐ。
    槍の力で身体能力も跳ね上がっているのだろうか、少女はそれを軽々とバックステップでかわすと、
    槍をステイル目掛けて突き出す。
    上条にもはっきりと見えた。
    突き出された槍の先端から、
    光の刃が飛び出した。
    光の刃は5メートル程の距離を一気に走り抜け、
    ステイルに襲いかかる。

    「くっ!」

    ステイルはそれを炎剣で受け流し、
    更に距離をとる。
    魔女狩りの王を使おうにも、
    ルーンを配置していない以上たいして役に立たない。
    少女は槍を引き、再度突きを繰り出す。
    光の刃が一直線にステイルの顔を襲う。
    距離をとっていた分、少し余裕があり、
    ステイルは咄嗟に首を捻って、ギリギリでそれをかわした。
    頬に鋭い痛みが走り、次いで生温かい液体が頬を流れる。
    光の刃はステイルを掠めた後、弾けて消えてしまった。


    141: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 10:15:17.95 ID:SZp/QVFwO

    (掠っただけでこの切れ味か。
    厄介だね。だけど槍の射程距離はだいたい分かった)

    ステイルの目測で、槍の射程距離はおよそ5メートル前後。
    ステイルの持つ炎剣の射程距離はおよそ1.5メートル。
    光の刃と比べれば、その攻撃範囲は明らかに短かった。
    そう、炎剣ならば。

    「吸血殺しの紅十字っ!」

    ステイルが大きく振り上げた腕から、十字架のような炎が打ち出された。
    炎は少女に襲い掛かり、大きな爆発を起こす。
    薄暗い街並がオレンジ色に照らされ、街路樹の葉は風圧で舞い散る。
    濛々と立ち込める煙の中、淡いグリーンの光に少女のシルエットが浮かび上がる。

    (防御用の魔法陣か…本当に厄介だね)

    煙が消え去ると、そこには傷一つ無い少女が立っていた。
    槍を中心に巨大な魔法陣が展開され、
    ステイルの攻撃を受け止めたのだ。


    142: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 10:16:49.34 ID:SZp/QVFwO

    一方上条は二人の戦闘を注意深く観察していた。
    そして一つ、少女の―というよりは槍の戦闘パターンで気付いた事があった。

    (あの槍…ステイルが近付いた時しか攻撃してないんじゃねーか?)

    今上条の目には、少女から5メートル程離れた場所にいるステイルが映っている。

    (ある程度…多分槍の攻撃範囲の前後だ。
    そこまでステイルが離れた時は、槍は攻撃してきてない)

    確かに今目の前にいる少女は、ステイルをただ眺めているだけだった。

    (離れた所からの攻撃は、あの魔法陣みたいなので防ぐだけ。
    反撃もしてこない)

    上条は頭の中で今までの情報を反芻していく。
    戦闘パターン、霊装としての槍の能力、あの槍の伝承。

    「槍の…伝承?」

    上条の頭の中で、様々なピースががっちりと組み合わさっていく。
    足りないピースは推測で補い、やがて一つの可能性に辿り着いた。

    「ステイル、あの槍の伝承をもう一度教えてくれ!」


    143: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 10:18:29.99 ID:SZp/QVFwO

    「は?いきなり何を言い出すんだ?」

    次の攻撃手段を探っていたステイルは、
    上条が突然言い出した言葉の意図が掴めずに戸惑う。
    殺されるかもしれない戦闘の中で、何故今更槍の伝承を知りたがるのか。
    ステイルは普段余り見せる事のない、
    呆けた顔で振り返る。

    「槍の伝承なら前に話したはずだ。
    それに今は槍の伝承なんか語ってる場合じゃ…」

    「いいからもう一度教えろ!」

    上条の剣幕に押され、ステイルは槍の伝承を渋々話し始めた。

    「あの槍…聖杯の槍は元々新約聖書に出てくる物で、
    イエス・キリストの死を確かめる為に、
    張り付けにされた彼を突き刺した槍とされている」


    146: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 11:00:13.08 ID:SZp/QVFwO

    「やっぱりそうか。それにあの槍の能力、"悲しい一撃"。
    国の代表と認識される人物が槍で刺されると、その人物に聖痕が刻まれる。
    そして土地や建物は荒廃していき、最後には国も滅びる。
    そうだよな?」

    「そうだ。それが今何の関係がある?」

    ステイルの言葉はもう耳に届いていなかった。
    ステイルから聞いた槍の伝承、槍の能力、
    そして今までの戦闘。
    上条の頭の中で、一つの結論が導き出される。

    「ステイル、"攻撃はもうしなくていい"」


    147: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 11:04:38.62 ID:SZp/QVFwO

    「何馬鹿な事を言っているんだ、上条当麻!
    槍を野放しにでもする気か!?
    君が諦めると言うなら、僕はその女を殺してでも…」

    「違う、ステイル。"攻撃するという気持ち"を捨てるんだ」

    ステイルは混乱していた。
    上条がおかしくなったのかとさえ、本気で考えた。
    敵を前にして攻撃する気持ちを捨てろなど、
    死ねと言っているのと同じなのだ。
    しかし―
    上条はどうやら本気で言っているようだった。
    ステイルは苛立つ気持ちを抑え、
    彼の言葉に耳を傾ける。

    「ステイル、多分あの槍は"敵意"を持って近付く者に攻撃を仕掛けてる」

    上条は今まで観察していた戦闘について、推測も交えながらステイルに説明する。
    黙って聞いていたステイルも、やがて何かに気付いた様に口を開いた。

    「確かに…離れている間は何もしてこないね。
    遠距離からの攻撃には魔法陣で防御するだけ。
    反撃もしてこなかった」

    「あぁ、多分あの槍は敵意を持って近付いて来る者に、
    条件反射のように攻撃を仕掛けてるんだ。
    攻撃範囲外まで敵を追い出すと、
    それ以上は何もしない」


    148: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 11:08:03.97 ID:SZp/QVFwO

    実際、こうして上条とステイルが話し合っていても、
    少女は何も仕掛けて来なかった。
    ただこちらを眺めているだけ。

    「伝承をもう一度聞いて確信した。
    あの男が持ってた剣…確かテュルフィングだったよな。
    あれとは違って、聖杯の槍は誰かを殺す事に特化してる訳じゃない。
    キリストに刺したのは、死を確認する為だったんだろ?
    それに槍の能力、"悲しい一撃"。
    突き刺された者には聖痕が刻まれれ、
    そいつの治める国が荒廃する。
    国は荒廃しても…突き刺された者が必ずしも死ぬ訳じゃないんじゃねーのか?」

    上条の話に、ステイルの中でもピースががっちりと組み合わさっていく。

    「そういう事か。聖痕はそもそも、張り付けにされたキリストに刻まれた傷の事だ。
    実際は復活した訳だが…キリストの死によって招かれるのは、キリスト教の荒廃。
    "悲しい一撃"のルーツはこれか…。
    確かに、あの槍がキリストを殺した訳じゃない。
    確認の為に突き刺しただけだからね」


    149: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 11:10:14.31 ID:SZp/QVFwO

    「あぁ、あの槍で"殺された国の代表者"じゃなく、"突き刺された国の代表者"が聖痕を刻まれるんだ。
    つまりあの槍自体に殺意はない」

    「しかしそれは槍の能力のルーツが分かったに過ぎない。
    いくら槍に殺意が無かったとしても、攻撃して来ない理由にはならないんじゃないかな。
    使うのは人間だからね。
    槍に殺す気は無くても、使う人間に殺す気があれば…」

    そこまで言うとステイルは何かに気付いて、ハッと息をのむ。

    「そうだ、ステイル。あの子は操られてるだけだ。
    殺意どころか、自分の意識もないはずだ」

    「なるほどね。いくら槍に自我のようなものがあったとしても、
    今までの情報からすれば、それはごく単純なものだった訳か。
    "人を操り魔導書まで導く"と"敵意に反応して攻撃する"。この二つ」


    150: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 11:37:57.02 ID:SZp/QVFwO

    「あぁ、あの槍で"殺された国の代表者"じゃなく、"突き刺された国の代表者"が聖痕を刻まれるんだ。
    つまりあの槍自体に殺意はない」

    「しかしそれは槍の能力のルーツが分かったに過ぎない。
    いくら槍に殺意が無かったとしても、攻撃して来ない理由にはならないんじゃないかな。
    使うのは人間だからね。
    槍に殺す気は無くても、使う人間に殺す気があれば…」

    そこまで言うとステイルは何かに気付いて、ハッと息をのむ。

    「そうだ、ステイル。あの子は操られてるだけだ。
    殺意どころか、自分の意識もないはずだ」

    「なるほどね。いくら槍に自我のようなものがあったとしても、
    今までの情報からすれば、それはごく単純なものだった訳か。
    "人を操り魔導書まで導く"と"敵意に反応して攻撃する"。この二つ」

    上条はあの男が死ぬ間際に言っていた事を思い出しながら話す。

    「あいつが言っていた"橋渡し"の意味もこれに関係してたんだ」

    「ただの人間を操り本来の力を取り戻す。
    そしてまた別の魔術師が槍を回収する。
    そうすれば魔術師は意識を保ったまま槍の本来の力を使えるって訳か。
    そして回収するには槍に近付かないといけない。
    敵意を持って回収する奴はいないからね。
    槍に施された安全策ってとこか」

    「その通り。良く分かったわね」


    151: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 11:51:26.89 ID:SZp/QVFwO

    「っ!?」

    突然背後から掛けられた声に、
    二人は息をのむ。
    新たな敵魔術師かと思って振り返ると、そこには意外な人物が立っていた。

    「久しぶりだな、少年」

    ライオンの様にボサボサの金髪。
    黒を基調としたゴスロリファッションは、
    普通なら捨ててしまう程にボロボロだった。

    「シェリー…クロムウェル!?」

    かつて上条が戦った魔術師の女。
    そのシェリーがゴーレムと共に立っていた。

    「お前…どうしてここに!?」

    また戦争の火種を撒きに来たのか、それとも聖杯の槍の橋渡し役なのか。
    上条は拳を握り締め、咄嗟に身構える。

    「誤解してるみてーだな。別にあなたと戦いに来た訳じゃないわ。
    あたしはイギリス清教の暗号解読班、聖遺物の研究者としてここに来たんだよ。エリス!」

    シェリーがゴーレムに合図をすると、
    4メートル程の石の巨人が、何かを摘んでこちらに放り投げる。


    152: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 11:52:48.48 ID:SZp/QVFwO

    「ふん、手回しがいいね」

    ステイルが投げ捨てられたそれを一瞥し、
    煙草に火を付ける。
    ゴーレムが放り投げたのは、あの男と同じ格好をした男だった。
    戦闘をしたのだろうか、服は所々破け、意識も失っている。

    「まさか…」

    「そう、そいつが槍を回収するはずだった魔術師よ。
    あたしは聖杯の槍についてイギリス清教保管のあらゆる資料を調べ、
    てめーと同じ結論に達したわけだ。
    それで学園都市に入り、
    エリスの"目"を使って回収役の魔術師を捜し出したって訳なの。
    そいつから吐かせた情報で、裏で糸を引いてた組織は分かった。
    そっちはイギリス清教で処理するそうよ」

    そこまで話すと、シェリーは一息吸って、
    上条とステイルを交互に見やる。

    「無駄話はここまでよ。
    あんた達に協力するから、さっさと聖杯の槍を何とかするぞ!」


    153: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 11:54:38.33 ID:SZp/QVFwO

    「上条当麻。敵意を持つなと言われても僕やシェリーには難しい。
    魔術師としての本能と言えばいいかな、
    あれを前に敵意を捨てるのは無理だ」

    優秀な魔術師であればある程、
    相手が何であれ、警戒心や敵意を捨てる事は難しいのだ。
    シェリーも同じなのだろう。
    腕組みをしたまま動く気配はなかった。

    「分かった。どの道槍を破壊出来るのは俺だけだ。
    俺が行くよ」

    上条は大きく深呼吸をすると、
    少女に向かって一歩踏み出した。
    全身の力を抜き、一歩ずつ一歩ずつ近付いて行く。
    いくら攻撃して来ないと頭では分かっていても、
    それはあくまで様々な情報から推測した事に過ぎない。
    もし推測が間違っていたら―
    緊張で全身から汗が噴き出し、
    自分の鼓動が五月蠅いくらいに聴こえて来る気がした。
    ステイルとシェリーも、上条の様子を注意深く観察している。

    (もう少し…もう少しだ)

    少女との距離はもう2メートル程しかない。
    飛びかかれば槍に触れられる距離だ。
    しかし上条は慌てずに一歩ずつ近付いて行く。


    154: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 11:56:12.57 ID:SZp/QVFwO

    (あと一歩…あと一歩)

    少女に動く気配はない。
    上条の姿をただじっと見つめている。
    そして―
    上条は少女の目の前に辿り着いた。
    腕を少し動かせば槍に触れられる距離だ。

    (よし、あとは槍に…)

    上条が槍に手を伸ばそうとした瞬間だった。

    「ぐっ…がはっ!」

    突然の激痛に、上条は顔を歪める。
    視線をゆっくりと下に落とすと、
    そこには自分の脇腹に突き刺さった槍が見えた。
    上条の槍を壊そうというほんの一緒の敵意に、
    聖杯の槍が反応してしまったのだ。

    「ぐっ…うぉぉぉぉぉ!」

    もう敵意がどうなどと言っている場合ではなかった。
    槍に触るには今しかない。
    上条は突き刺さった槍に、右手を振り下ろした。
    しかし―


    155: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 11:57:50.97 ID:SZp/QVFwO

    「離れろ!!上条当麻っ!!」

    槍に触れる筈の上条の右手は空を切る。
    少女は槍を引き抜きながら素早くバックステップをし、
    その勢いで体を後ろにしならせていた。

    「エリスッッ!!」

    上条の前にゴーレムが立ちふさがる。
    少女は後ろにしならせた体を、
    そのまま前へ突き出す。
    槍から打ち出された光の刃は、
    上条に突き刺さる直前で、シェリーの操るゴーレムに突き刺さった。
    ゴーレムの腹部に亀裂が走り、
    ボロボロと崩れていく。

    「槍の破壊が目的である以上、
    近付くのは難しいわね。
    多少のリスクは背負ってもらうぞ、上条当麻」


    156: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 12:00:34.37 ID:SZp/QVFwO

    シェリーは白いチョークのような物を取り出すと、
    何もない虚空にスラスラと何かを書き始める。
    まるで紙に書いているかのように、
    文字は実体を持って書き連ねられていく。
    それに呼応するかのように、
    ゴーレムは周囲のアスファルトを巻き上げ、
    亀裂を修復していく。

    「上条当麻、まだ動けるな?
    僕とシェリーで槍を引きつける。
    要は最初の計画に戻しただけだけどね。
    君はギリギリまで敵意を持たずに近付いてくれ。
    後は出たとこ勝負ってとこかな」

    ステイルは炎剣を作り出すと、
    少女に向かって身構える。
    シェリーの操るゴーレムも修復を終え、
    いつでも戦える状態だった。

    「ふふ、やっぱりただ見てるだけってのは性に合わないわね。
    やるか、エリス」

    「Fortis931(我が名が最強である理由をここに証明する)っ!!」

    「Intimus115(我が身の全ては亡き友のために)っ!!」


    157: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 12:03:02.84 ID:SZp/QVFwO

    二人の波状攻撃が開始された。
    ステイルが炎剣で左から切りかかると、
    シェリーはゴーレムを右からけしかける。
    少女は攻撃スピードの早いステイルを先に槍で牽制し、
    次いで襲いかかるゴーレムの腕を光の刃で打ち砕く。

    「ちぃっ!吸血殺しの紅十字!」

    距離を取ったステイルが炎を打ち出し、
    その隙にゴーレムが残った腕で殴りかかる。
    しかしステイルの炎は魔法陣で防がれ、
    ゴーレムの腕も光の刃で再度打ち砕かれてしまった。

    「本当に…本当に厄介だね」

    二人の戦いを視界にの隅に捉えながら、
    上条は槍の攻撃範囲外から少女の後ろに回り込む。
    槍で受けた傷口からは、血液が絶え間なく流れていた。
    何度も視界はぼやけ、意識が持っていかれそうになる。

    (ぐっ…けど痛みのおかげで何も考えずに済む)

    一歩、また一歩、痛みに耐えながら上条は足を運ぶ。


    158: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 12:04:31.81 ID:SZp/QVFwO

    「離れろ、シェリー・クロムウェル!」

    ステイルは数十枚のルーンカードを取り出し、
    少女の周囲にバラまく。

    「魔女狩りの王っ!!」

    ステイルの呼び掛けに応える様に、
    炎の巨人が少女の目の前に現れた。
    ルーンを配置しきれていない分、活動範囲は狭く、
    その上魔力消費も激しいが、
    それでも少女の気を引くにはやむを得ない。

    「エリスっ!!」

    石の巨人と炎の巨人。
    その圧倒的な攻撃力に、少女は防御する回数が確実に増えていく。

    (まだか…上条当麻!)

    ステイルの額から汗が流れ落ちる。
    魔女狩りの王から発せられる熱のせいではない。
    今までの戦いで激しく魔力を消費していたせいだった。


    159: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 12:05:54.33 ID:SZp/QVFwO

    (あと…もって数分か)

    それでもステイルは炎の巨人に魔力を送り続ける。
    魔力消費が激しいのは自分だけではない。
    シェリーも明らかに疲れが見え始めていた。

    「ちっ、何だよこいつ!エリスの攻撃が当たらないじゃない!」

    こちらが押している様に見えるのだが、
    実際はかなり苦しい状況だった。
    二体の巨人による攻撃を、魔法陣で確実に防ぎ、
    一瞬の隙を突いて槍を繰り出してくる。
    槍の意志なのだろうか。
    光の刃は自動再生の魔女狩りの王はほとんど狙わず、
    石で出来たゴーレムを中心に攻撃して来ていた。
    その為、ゴーレムは体の再生に時間を取られ、
    攻撃の回数も目に見えて減っている。

    (早くしろ…上条当麻!)


    160: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 12:29:24.07 ID:SZp/QVFwO

    少女の背中が1メートル程の場所にある。
    痛みを堪え、上条当麻はようやくここまで辿り着いていた。
    もう立っているのが不思議なくらいに、上条は血液を失っている。
    それでも彼は倒れない。
    世界を守るなんて大きな事を、上条は考えていなかった。
    ただこの街を、大切な人たちがいるこの学園都市を守りたい。
    インデックスを守りたい。
    その心が彼を奮い立たせているのだ。
    上条の目の前、少女は魔法陣と槍を上手く使い、
    二体の巨人と互角に渡り合っている。
    今なら槍に触れられる。
    残された体力からすれば、チャンスはこの一度きり。
    おそらく槍に触れようと思った瞬間、
    攻撃される可能性が高い。

    (なら…右手以外はくれてやる!)

    上条が拳を握り締めた瞬間、
    その敵意に反応して、少女が振り返る。


    161: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 12:30:29.73 ID:SZp/QVFwO

    「くそ!エリスっ!」

    上条を守る為、ゴーレムをけしかけようとシェリーが動く。
    しかし―

    「な…に!?」

    ゴーレムはボロボロと崩れ始め、
    あっという間に石の塊になってしまった。

    「魔力が…底をついた!?」

    少女は石の塊をチラリと一瞥すると、上条に向けて槍を構える。
    その槍は上条の心臓に照準が合わせられていた。

    (あんな状態では、上条当麻は攻撃を避けられない!)

    ステイルは残りの魔力を全て送り、
    炎の巨人に最後の命令を下す。

    「魔女狩りの…王っ!!」


    162: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 12:32:25.40 ID:SZp/QVFwO

    上条はぼやける視界の中、自分と少女の間に割って入る炎の巨人を見た。
    それだけで、ステイルの意図が全て分かった。

    「上条当麻ぁぁぁぁっ!!」

    「うぉぉぉぉぉっ!!」

    上条は右拳を握り締め、炎の巨人に向かって振り上げる。
    と同時に、少女は上条に向かって槍を突き出す。
    しかし炎の巨人がいたせいで照準がずれ、
    光の刃は上条の左肩を貫いた。

    「そのふざけた幻想を…」

    上条が振り抜いた右手は、炎の巨人を跡形もなく打ち消し―

    「ぶち殺すっっ!!」

    そのまま槍の柄に叩き込まれた。
    次の瞬間、槍は粉々に砕け散り、
    操られていた少女は意識を失って崩れ落ちてしまった。

    「は…はは…やっ…た」

    上条当麻の意識はそこで途切れた。


    163: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 12:33:29.93 ID:SZp/QVFwO

    「…ん」

    上条が目を覚ますと、そこは見知った景色だった。
    白い壁に白い天井。いつもの病院、いつもの病室。
    もう何度お世話になった事か。

    「目が覚めたかカミやん」

    いつから居たのか、ベッドの傍らに、金髪サングラスの男が座っていた。

    「土御門…無事だったのか?」

    「まぁにゃー。こう見えても一応肉体再生があるからにゃー」

    傷は痛まないのだろうか。
    土御門は大袈裟に胸を張る。

    「そうそう。一応カミやんにも事後報告しておくぜぃ。
    操られてた二人は無事だにゃー。
    アンチスキルの男は俺が撃っちまったけど…
    まぁ急所は外してたから問題無いぜぃ。
    槍に関しては、完全にただの金属片になっちまったけどにゃー」

    上条は自分が右手で触れた事を思い出した。


    164: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 12:34:32.28 ID:SZp/QVFwO

    「あの槍…粉々にしちまって良かったのか?
    本当は回収する予定だったんじゃねーのか?
    一応価値のある物なんだろ?
    弁償なんて事になったら上条さんは…」

    不安そうにまくし立てる上条を見て、土御門は大袈裟に笑うと

    「それなら心配ないぜぃ。
    槍の力が戻ってしまった以上、
    もしあれをイギリスに持ち帰ったなんて事が各国に知れたら、
    間違い無く戦争になるからにゃー。
    あんなもの壊れちまった方が良かったんだぜぃ」

    そう言うと土御門は何か思い出した様に紙袋を取り出す。

    「そうそう。これはお見舞いだにゃー」

    「悪いな。何が入ってんだ?」

    上条の質問に、土御門はニヤリと笑う。


    165: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 12:35:23.48 ID:SZp/QVFwO

    「本だにゃー。【メイドの全て】に【ご奉仕メイド隊】、【大好き義兄ちゃん!】に【義妹だらけの…」

    「……れ」

    「はい?」

    「帰れぇぇっ!」

    上条は紙袋を奪い取ると、ゴミ箱にぶち込んだ。

    「ひっ、ひどい!苦労して探して来たのに!」

    土御門はゴミ箱から本を回収すると、大事そうに埃を払う。
    その様子を見て、上条は深い溜め息を吐いた。

    「はぁ~。そういやインデックスはどうしてる?」

    「ん?それは自分で確認するといいにゃー。
    じゃあ俺は帰る。また学校でにゃー」

    そう言うと、土御門は大事そうに本を抱えながら病室を出て行った。
    土御門と入れ違いに、小さなシスターが入って来る。


    166: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 13:00:16.37 ID:SZp/QVFwO

    「や…やぁ。インデックスさん」

    「また無茶したんだって?とうま」

    「あ…あはは」

    上条は頭を掻きながら苦笑いをする。
    インデックスは明らかに怒っているように見えた。

    「とうま…」

    そう言いながら、インデックスはベッドに上がり込み、
    上条の膝の上にペタンと座った。
    噛みつかれるのを覚悟した上条は、静かに目を閉じる。
    インデックスに黙って無茶をしたのだ。
    これくらいの罰は甘んじて受けよう。
    上条はそう考えていた。
    しかしいつまで経っても痛みはやって来ない。
    恐る恐る目を開けてみると、
    相変わらずインデックスは上条に乗っかったままだった。
    よく見ると、大きな瞳に涙を溜めていた。


    167: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 13:02:18.27 ID:SZp/QVFwO

    「とうま」

    インデックスは上条を抱き締め、胸に顔をうずめる。

    「いっ、インデックス?」

    突然の事で動揺する上条に、インデックスは静かに話し始めた。

    「わたし聞こえたんだよ」

    「へ?」

    「あの時…魔導書を抜き出された時。
    頭の中がかき回されたみたいになって。
    苦しくて苦しくて…」

    「イン…デックス」

    「何も分からなくなって。
    でもその時ちゃんと聞こえたんだよ。
    とうまの声。"一緒に帰ろう"って」

    「…そっか」

    上条はインデックスの頭を優しく撫でてやる。

    「だからね、とうま。
    早く元気になって…一緒に帰ろうね」



    168: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 13:04:23.69 ID:SZp/QVFwO

    以上です
    お見苦しい点も多々あるとは思いますが、支援下さった皆様、お付き合い下さってありがとうございました


    169: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 13:05:56.04 ID:ypUhEm1S0

    いまさらだが土御門はLEVEL0だ


    170: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 13:07:28.73 ID:SZp/QVFwO

    レベル間違えてました…
    すいません
    あとは雑談、乗っ取り、落とすなどご自由にどぞ!


    175: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 14:10:02.93 ID:tpfQr5fVO

    いちおつ
    面白かったよ


    171: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 13:39:51.82 ID:xwRMZTJK0

    お疲れさま


    172: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 13:44:22.99 ID:S3gUsha/O

    面白かったよ!
    お疲れ様!
    超乙!


    173: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 13:54:50.74 ID:XKf4grMR0

    レベル0で血管治せるとか土御門すごいよね

    佐天さんなんか使いものにならん


    174: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/20(土) 14:00:10.05 ID:SZp/QVFwO

    レベル0にもいろいろあるんですかねー
    レベル0プラスとかレベル0マイナスとか
    佐天さんはレベル0マイナスですね


    引用元: 上条「一緒に帰ろう、インデックス」

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