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    【モバマス】白菊ほたるの逃避行

    1: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/08(月)23:46:58 ID:qzl


    ◎事の発端


     冬休みのある日、白菊ほたるはついに何もかもが嫌になった。

     昨日まで耐えられていたのが嘘のように我慢が効かなかった。

     頭は沸騰し、涙は止まらない。

     グシャグシャに泣きながら、とにかく自分を取り巻く全てを捨てて逃げ出してしまおうと決心する。

     切欠はなんだったろうか。

     こんどこそはとアイドルになる夢を賭けてオーディションを受け、やっと所属できた三軒目の事務所も倒産したからか。

     しょげかえって鳥取に戻って久々に顔を合わせた家族と喧嘩をしてしまったからか。

     自分の不幸をよく知る故郷の人々が、自分の挑戦について口さがない噂をしていると知ってしまったからか。

     いや、もうそんなことはどうでもいい。

     とにかくもういい。

     ほたるの中で大事な何かが決壊していた。

     それが何なのかは、沸騰した頭ではまともに考えられなかった。

     だけどとにかく、もう、嫌になったのだ。

     ほたるは泣きながら貯金を全て引き出し、小さな鞄をひとつ持って列車に飛び乗った。

     自分に指される無数の後ろ指、両親にかける心配、物心ついた日からつきまとう不幸、無数の苦しい思い出。

     アイドルに見た希望、僅かながらにかけられた期待、頑張り続けてきたこと、人をしあわせにしたいと夢見た事。

     そしてこの期に及んでもなお、声を殺して泣こうとする自分。

     それら全て、何もかもから逃げ出すために。



    2: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/08(月)23:47:46 ID:qzl

    ◎12月某日・早朝/列車内

     まだ暗い早朝、産まれた街を後にして、列車が動き出す。

     兎の名前の特急は、ここから姫路まで突っ走る。

     一度は沸騰した頭もいつまでも沸き続けているわけではない。

     薄暗く雨に濡れる街が遠ざかってしばらく経ったころ白菊ほたるの頭は少し冷え、ようやく自分がとんでもないことをしていると実感した。

     これは家出だ。

     両親は心配するだろう。

     騒ぎになるかも知れない。

     今引き返せばなかった事にできるかも知れない。

     冷え始めた頭でそのぐらいのことは理解するが、何故か引き返す気には全くなれない。

     冬の鳥取の空は、いつも暗い。

     車窓からそんな空を見上げると、ここから離れたいという気持ちは余計強くなって、騒ぎになるならなればいいとさえ思ってしまうのだ。

     激流のような悲しみは去って行きつつあるのに、心は普段のようには戻らない。

     見上げた空のような暗い倦怠が胸を満たして、心が重く、動かない。

     昨日まで必死に耐えようとしていたものも、大事に思っていたものも、それらを捨てようとしていることも、何故か他人事のように思える。

     その奇妙な無感情にかすかな戸惑いを覚えつつ車窓を見つめて、ほたるはようやくこれからの旅程に思いを馳せた。

     もともとどこか行きたい場所があったわけではなく、このあとの旅は全て白紙だ。

     ただ、何故だかとにかく、寒いところに行きたかった。

     寒くて誰もいない北の果て。

     そこまでいったら、どうしようか。

     いっそのこと、そこから身投げでもしてしまおうか――。

     動きの鈍った心でそこまで考えて、白菊ほたるは少し笑った。

     今までの自分なら絶対に考えなかったような暗い発想が淡々と浮かんでくるのが、なんとはなしにおかしかったのだ。

    3: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/08(月)23:48:09 ID:qzl
     考えてみると、自分のこれまではひどいことばかりだった。

     本当に全てを賭けるつもりで受けた最初のオーディションに落ちたとき。

     そしてようやく採用してもらえて、これでアイドルになれるかもと希望に胸を膨らませた矢先にあっけなく事務所が潰れた時の失望や悲しみは、今よりずっと大きかったように思う。

     それなのに凝りもせずに挑戦を繰り返した自分が、今頃になって何もかも捨てようとしている。

     今更何をやってるんだろうと、自分でも不思議に思う。

     それならあの時、諦めていれば良かったんじゃないか。

     何故あの時でなくて、今なんだろう。

     何が自分を、こうさせたんだろう。

     理由はよく解らない。

     だけど色々なところに迷惑をかけた末にこれなんて、なんだか本当に――滑稽じゃないか。

     ああ、でも、何にでも限界はある。

     鉄も叩き続ければ折れるし、湯も沸かし続ければやがて鍋は空になる。

     私は今日、限界を迎えたのかもしれない。

     力尽きてしまったのかも知れない。

     曇りや雨ばかりつづく鳥取の空のように、私の心のこの無感動も絶望も、もう二度と晴れることはないんだ。

     白菊ほたるは表情を失った白い顔で、ただ車窓を見詰めていた。

    4: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/08(月)23:51:34 ID:qzl

    ◎同日昼前/福井駅


     さて、そういうわけで北の果てを目指して始まった白菊ほたるの逃避行――なのだが。

     もともと思いつめるたちの彼女らしくそのまままっしぐらに北を目指すかと思いきや、13時を過ぎたあたりでその姿は福井駅のホームにあった。

     途中下車である。

     とんでもないことをしたと思いなおして逃避行を中止したのかといえば、そうではない。

    「おなか、すいたな……」

     そう、腹が減ったのだ。

     勢いで乗り込んだ列車が姫路について、そこから京都。

     とにかく北だと白い車体に鳥が書かれた特急に乗り込んで福井県へ。

     金沢のあたりまで行くはずの列車に乗っているのに、白菊ほたるの細い腹は鯖江を過ぎたあたりからもうグウグウと鳴りまくっていたのだ。

     そういえば家を抜け出したのは夜も明けきらぬ早朝である。

     沸騰した頭で何も考えず列車に飛び乗ったのだ、当然何も食べてはいない。

     毎日頑張ってレッスンに励んできた健康な身体が食事を求めるのは当然の話であるのだが、場合によっては身投げしてやろうかぐらいの気持ちで飛び出した少女にすればこれは大問題だ。

     限界が来たんだとか無感動や絶望がとか悲劇ぶって考えていてもそんなこと知らないとばかりに腹は鳴る。

     しかも無視しててもちっとも鳴り止まず主張を強めるばかり。

     ついにたまりかねて福井駅で途中下車してお弁当屋さんの列に並んだところで、なんともいえない情け無い気持ちになる。

    5: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/08(月)23:52:11 ID:qzl
     これは、なんだろう。

     北の果てまで行って身投げしてやろうなんて考えていたのに、私はお弁当を食べるのか。

     お弁当を食べて、それからまた身投げの旅を続行するのか。

     そしてまたおなかがすいたら、どこかでご飯を食べるのか。

     ――もしかして私、すごく意志が弱いんじゃないでしょうか。

     そう思いはするもののやっぱり腹は減っていて、列を離れる気にもなれない。

    「幕の内弁当を1つと、お茶を1つお願いします」

     しっかり、注文までしてしまう。

    「あ、いいえ。お茶は烏龍茶じゃなくて玄米茶で」

     いつもの習慣で、お茶の種類まで指定してしまった。

     これが何もかも捨てて逃げようという人間のすることだろうかと、ため息をついて財布を取り出すと――

     ぶるぶるっ。

    「えっ――」

     一瞬、財布が生き物のように震えた気がした。



    6: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/08(月)23:52:48 ID:qzl
     だが驚くヒマはない。

     次の瞬間財布の底がガバッと抜けて、盛大に小銭やカードが床にばらまかれてしまったからだ。

     硬い床に沢山の硬貨が跳ねて派手な音を立てて散らばり、たくさんの視線がほたるに集まる。

    「ご、ごめんなさい、ごめんなさい」

     すぐに片付けますと冷たい床にしゃがみこんで、たくさんの冷たい視線を感じながら硬貨をかき集めていると、泣きたくなってくる。

     ああ、またこんなだ。

     私がどんな気持ちでも、すぐ都合の悪いことが起きるんだ。

     私とこの不運は切っても切り離せないんだ。

     そんな事を考えていると、一度は空腹に負けていた暗い気持ちが蘇ってくるような気がする。

     だけどとにかく、このままじゃ後ろに並んでいる人に迷惑だ。

     早くしないと。

     気ばかり焦るが冷たい硬貨と床に指先の温度が奪われて、なかなか硬貨が拾えない。

     慌てたせいか折角拾い上げた硬貨をまた落とす。

     ほたるの手を逃れた硬貨たちは軽やかに転がって、ほたるから離れていく。

     床に半分這い蹲るみたいな姿勢で半べそをかきながら硬貨を追いかけ、ひとつ、また1つと捕まえるけど、ふらふら転がる硬貨はなかなか捕まらない。

     ああ、私の人生みたいだ。

     暗い気持ちが蘇る。

     こうやって届かないものを必死で追いかけて、それでも逃げられて、結局手元には何も残らない。
     
     必死で追いかけても、きっとあの500円玉は捕まらない。

     ほら、きっとこのまま手が届かなくて、線路に落ちてしまうんだ。

    7: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/08(月)23:53:15 ID:qzl

     それがいつもの事なんだ……と、白菊ほたるがそう考えるのも、まあ無理からぬことだったろう。

     落し物は見つからない、機械はこわれる、トーストはかならずジャムを塗ったほうを下にして落ちる。

     それが彼女の日常、彼女の当たり前なのだから。

     だけど、この日は違っていた。

     追うことを諦めてぺたんと座り込んだほたるから逃げるように、500円玉はまっすぐ線路へと向っていく。

     だけど。

     ああ、やっぱり落ちる――そう諦めたほたるの目の前で、500円玉は女の子にひょいっと摘み上げられたのだ。

     高校生ぐらいの、明るい色の服を着たお姉さんだった。

     くるくるした目が500円玉を見て、ほたるを見る。

     栗色のポニーテールが、動きに合わせて揺れていた。

    8: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/08(月)23:53:40 ID:qzl
    「落としたのはこれで全部ですか?」

     ほたるの傍に座り込み、拾った500円を手渡してからポニーテール嬢は問う。

    「いいえ、まだ」

    「では早く探さないといけませんね。手伝います!」

    「あ、あの、悪いです。床は冷たいし、私が悪いのですし」

    「でも二人の方が早く見つかりますよね?」

     くるくるした目をエヘンと開いて、ポニーテール嬢がわらう。

     笑顔が素敵な人だ、とほたるは思った。

     まるで太陽みたいな、精気のある笑顔。

    「これも運命かもしれないですしね!」

     そしてそこから繰り出される突拍子も無いセリフの破壊力。

    「運命!?」

     あれ、ちょっと変わった人なのかも知れないとほたるは思った。

    「任せてください。小銭探しぐらい、私のサイキックでお茶の子さいさいです!」

     いやこれはだいぶ変わった人に違いない、とほたるは結論した。



    9: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/08(月)23:53:57 ID:qzl
     サイキック?

     サイキックってなんだろう。

     今ポケットから取り出した水晶の振り子となにか関係があるものなんだろうか。

    「さ、急ぎましょう。あなたも列車の時間とかあるでしょうし!」

     だけど言葉からも表情からも、感じられるのはあけっぴろげな親切心。

     ぱっと飛んできて見ず知らずの女の子と一緒に小銭を拾ってくれるなんて、普通は無い気がする。

     少なくともほたるは今までそんな人間に会ったことはなかった。

    「さあ見ててください、この通販で買ったペンデュラムが私のサイキックに反応して、小銭の位置を探知してくれますからね!!」

     そう、とにかくその人は、今までほたるの周りに居たことの無いタイプの人物だったのだ。

    10: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/08(月)23:54:28 ID:qzl

    ◎20分後/福井駅のベンチ


     20分後、二人は駅のベンチで並んで駅弁を食べていた。

     どこかにはまりこんで一枚見つからない500円玉をポニーテール嬢の「サイキック」で見つけるのに時間がかかって、ほたるが乗るつもりだった列車は行ってしまったのだ。

    「いやあ、時間かかっちゃいましたね。申し訳ない、サイキック不調でした……」

    「いえ、おかげでお金は全部見つかりましたし……ありがとうございました」

     目に見えてしょげるポニーテール嬢に告げる白菊ほたるの謝意は本心だ。

     サイキック云々は置いといて、ポニーテール嬢は本当に真剣になって一緒にお金を拾ってくれた。

     床に這い蹲るみたいにして、スカートが汚れるのも気にせずに一緒に探してくれたのだ。

     しかも二人が食べる弁当は、ほたるが最初買おうとしていた幕の内から名物かにめしにパワーアップしている。

     せっかく北陸に来たのなら是非、とポニーテール嬢がお勧めしてくれたものだった。

    小銭集めに時間がかかってしまったからと言うことで、彼女のおごりなのである。

    「へえ、白菊。白菊ほたるちゃんて言うんですか。綺麗な名前ですねえ。私なんて『裕子』ですよ堀裕子。普通っぽい」

    「名前が個性的だとすごく目立ちますけどね」

    「ああ、そういう苦労はあるのかもしれないですね」

     容器からして蟹っぽい形のお弁当をつまみながらの他愛も無い雑談は、ほたるにとって決して不快ではない。

    11: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/08(月)23:54:47 ID:qzl
    「お弁当、どうですか」

    「……おいしいです」

     困ったことに空きっ腹に名物弁当は本当においしい。

     ――堀裕子は屈託なく話す楽しいお姉さんだ。

     中学生になったばかりのほたるにも敬語で話しかける。

     『サイキック』の話は専門用語が多すぎて正直よくわからないけど、明るく、表情が豊かで、話題も豊富。

     サイキックの失敗談には、思わず吹き出してしまいそうになる。

     とはいえ、不快でなければ快なのかと聞かれたら、違いますと答えるしかない。

     一度は感情すらなくした、身投げでもしようかと考えた自分が「スプーンを曲げようとしたら近くの子の椅子に花が咲いた」なんて失敗談を聞いて面白いと思ってる。

     おなかがすいてたことを認めて、素直においしいですなんて言っちゃってる。

     まるで今朝の激情を忘れたようではないか。

     それではあまりに不誠実ではないか。

     白菊ほたるは、少なくともアイドルを目指す道には誠実だったのではないのか。
     
     その道に絶望して半日もしないうちにかにめし美味しがってどうするのか――

     そんなふうに、胸の片隅でちくちく己を責める自分がいる。



    12: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/08(月)23:55:26 ID:qzl
    「そういえばほたるちゃんはどこに向かって旅を?」

     ぽんと堀裕子が問う。

    「いえ、特に行きたいところがあるわけでもないんです。ただ、北のほうに行きたいな、っていうくらいで」

     ほたるは曖昧に答える。

     まさかヤケになって家出して身投げでもしてやろうと思っていたとは答えにくい。

     いきなり重苦しい話を切り出されたのでは後味が悪かろうし、親切にしてくれた人にそんな思いをさせるのも悪い。

     列車が来ればすぐに別れてしまうのだから、曖昧な回答でお茶を濁しておくのがいい――と考えたのだ。

     だがしかし、堀裕子の反応はほたるの予想を越えていた。
     
    「なるほど北ですか――それじゃあ一緒に行けますね!!」

    「えっ」
     
     まさかの言葉に、真っ白になるほたるの頭。

    「実は私も北を目指して旅を始めるつもりだったんです――いやあ、今朝見た予知夢はやっぱり正夢だったんですね!」

    「よ、予知夢、ですか」

     予知夢と正夢が共存できる概念かどうかなんて疑問は、裕子の中には存在していないようであった。

    「はい、北に向う旅に出ると運命の出会いがあるって――駅に来た途端に小銭ぶちまけてる子に出会って、その子も北に向かう途中だなんて、これはもう予知夢の運命です!」

    「運命ってそんな、大げさな」

     だって、たかが小銭で、あれは私の運が悪いからで。

     それを運命といわれることを、ほたるはひどく座りが悪いと感じた。

    13: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/08(月)23:55:44 ID:qzl
    「いいえ、大げさではありません!」

     だが堀裕子は笑う。

     とても、いい顔で笑う。

    「私が運命だと感じたんだから、運命なんです」

    「運命ってそんなものなんでしょうか」

    「いいんだと思います。それにほたるちゃんと一緒の旅は、きっと楽しいと思うんですよね」

    「あ、あのあの、私不幸体質で、きっと私と一緒だと、その」

    「私はエスパーだから大丈夫です!!」

     なんとか諦めてもらおうという白菊ほたるの説得は、エスパーユッコの自信満々な断言によって完全敗北した。

    「というわけで、道中よろしくお願いします――ふふふ。きっと楽しい旅になりますよ!」

     やたら張り切る堀裕子。

     白菊ほたるはどうしていいか解らず、固まった。

     ただ、裕子が絶対に諦めそうにも無いということだけは理解していたのだけど。

    14: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/08(月)23:56:07 ID:qzl

    ◎午後/福井発金沢行き列車内


     一緒に列車に乗りこんで、先に立って二人分の空席を探してくれている堀裕子の後姿を眺めつつ、白菊ほたるは途方に暮れていた。

     どうしてこうなった、と戸惑うばかりだ。

     とにかく堀裕子が絶対に自分についてくるつもりだ、と言うのははっきりしている。

     自分より年上で行動力もありそうな彼女から逃れる術はなさそうであるが、ほたるは列車に乗り込んだ後でなお、往生際悪く彼女と別れる方法を思案していた。

     列車が出発する前に、こっそり降りてしまおうか。

     それとも何か、二人ではダメな理由を考えてはっきり別れたいというべきだろうか。

     ああでも、全然説得できそうな気がしないし、面と向かって嫌な思いをさせるのはあまりに忍びない。

     そしてもちろん円満に別れられそうな言い訳なんて、ちっとも思いつかない。

     白菊ほたるは決して口が上手な女の子ではなかったのだ。

     ――実のところ、別に堀裕子が嫌いだから別れたいという話ではない。

     むしろその逆、堀裕子がいい人だから、困るのだ。



    15: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/08(月)23:56:34 ID:qzl
    『とにかく北ということでしたら、ここからこの列車で金沢まで行って乗り換えて大宮、そこから新幹線で青森の方を目指すというのはどうでしょう』

     全くのノープランでここまで来たほたるにそう提案して、てきぱきと券を買ってくれたのは彼女だ。

     そんな格好だと風邪を引いてしまいますよと予備の上着を貸してくれたのも彼女だ。

     おかげで今ほたるは、ぬくぬくのちょっと大きめな上着を着ている。
      
     今だって、二人分の席を見つけて、ほたるちゃんこっちですとにこにこ手を振ってくれている。

     予知がどうとかは置いといて、堀裕子の行動は明快で、その好意は誤解のしようがない。

     はっきりした好意に触れることは心地よいことだ。

     出会ってからほんの一時間ほどしか経っていないのに、裕子と居ると心がほわほわと緩んでいくのを感じる。

     何もかも捨てるつもりで飛び出して来たのに、一生の夢を諦めてきたのに、裕子といると自然と笑顔になりそうになる。

     それが、たまらない。

     あれほど辛かった気持ちが緩んでいってしまうのが、悪いことのような気がして、自分が許せなくて――
     
     ベルが鳴って、列車が動き出した。

     とにかく、一人になろう。

     ごとごと床下から響く音を聞きながら、ほたるはひそかにもう一度決心を確かめる。

     口下手な自分でうまくごまかせるかどうかわからないけれど、道中でなんとか誤魔化そう。

     今はうまく行っていても、このまま旅を共にすれば自分の『不幸』が堀裕子にどんな迷惑をかけるとも知れない。

     自分が旅に出たのは、人が聞いたら後味の悪い思いをするような、暗い理由だ。

     私と一緒では、裕子さんが言うような楽しい旅には絶対ならないのだから――
      
     裕子はもちろんほたるの決心に気付いた様子はない。

     隣同士に座ると、道連ができたことがよほど楽しかったのかにこにこ顔で。

     そのうち、鼻歌まで歌い出して――

    「――あっ」

    そのメロディを聞いたとたん、ほたるは小さく、短く声を上げた。

    16: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/08(月)23:57:01 ID:qzl
    「どうしたんですか、ほたるちゃん」
     
     裕子は首をかしげて、ひどく心配げにほたるの顔をうかがった。

     ほたるの短い声に、生傷に触れられたような苦痛の響きが混じっていたからだ。

    「その、歌……」

    「ああ、今のですか? ――なんとかってアイドルの曲なんですけど、私、好きなんですよね」

    「……私もです」

     ここで、その歌を聴くなんて、思わなかった。

    「あ、ほたるちゃんも知ってたんですか!」

     ほたるの中で渦巻くものを知らずに、裕子は笑った。

    「恥ずかしながら私うろ覚えなんだけど――いい曲ですよね。気持ちが明るくなるって言うか」

    「私、その曲、持ってます」

     ほたるは告白の言葉をこぼして、鞄を開いた。

     ほんの小さな荷物の底には、スマホが入っている。

     あの日テレビであのアイドルを見てからスマホは何度も壊れて、買い換えて。

     だけど必ず、スマホの中にはあの曲を入れてきた。

     スマホはすぐに見つかったけど、スイッチを入れようとして、手が止まる。

     今電源を入れたら、きっと親からのメールや電話の着信が見えるだろう。

     それが恐くて、もういちどスマホを荷物の底に押し込んで――かわりに、ほたるはちいさく歌いだした。

     何百回、何千回聞いたか、唄ったか解らない、その曲を。

    17: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/08(月)23:57:40 ID:qzl
    「ほたるちゃん……」

     裕子の目が丸くなる。

     少しか細い綺麗な音、正確なメロディ。

     列車の中に響くいろんな音の中で、裕子の耳は小さいはずのほたるの声に引き寄せられていた。

     だけどその声は、だんだん震えてくる。

    「――ごめんなさい」

     謝罪して、仕切りなおすほたる。

     だが、もう一度唄い出すと、声の震えはもっとひどくなっていた。

    「ごめんなさい、もう一度――」

    「ほたるちゃん、ほたるちゃん」

     制止するように、裕子はほたるの手をとった。

     その手は震えている。

     手だけでなく、声だけでなく、ほたるの全身は小さく震えていた。

    「ごめん、なさい、うまく唄えなくて」
     
     また、謝罪する。

    「唄おうとしたら、なんだか――我慢できなくなってしまって。ごめんなさい」

    「ほたるちゃん」

     裕子の手が、労わるように背中を撫でているのを感じる。

    「知ってるんです。唄える、と思ったんです」

     言うつもりのなかった言葉が、ぼろりとこぼれた。

    「私、その人が唄ってるのを見て、その曲を聴いて、アイドルになりたいって思ったんです」



    18: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/08(月)23:58:28 ID:qzl
     あの日、テレビのアイドルを見た。

     しあわせな気持ちになった。

     自分もこんなふうに、人をしあわせにしたいと思った気持ちを、今も思い出せる。

    「だけど、なれなくて。どうしてもなれなくて――」

     そうだ、なれなかった。

     なれないのだ、と認めてしまった。

     その時初めて、ほたるは自分の中のこのどうしようもない気持ちが、どこから来ているのかを知った。

     もっと大きな失望を味わったこともあったのに、今日になって何もかもを捨てようという気持ちになった訳を知った。

     そう。

    「絶対になれないんだって。自分でそう思ってしまったから――」

     今までは、なりたいと思えていた。

     何度失敗しても、追い返されても、もう一度――と思うことができた。

     だけど今日は違った。

     ほたるは色々なものに打ちのめされて弱った気持ちの中で、今までのことを考えた。

     弱った心は、都合の悪いことから目を逸らすことを許してくれない。

     考えれば考えるほど、悪い結果が大きく突きつけられていく。  

     だから――考えてしまったのだ。

     私がこれまで頑張ってきたことには何の成果もなかった。

     自分はきっと、これからいくら頑張ってもアイドルにはなれない。

     私は、そういう運命なんだ。

    19: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/08(月)23:59:24 ID:qzl

     
     そう認めた瞬間、ほたるの中で大事な何かが決壊した。

     蓋をしていたものがあふれ出す。

     人を不幸にする自分。

     何度挑んでも夢に届かない自分。

     人に迷惑をかけた末に、諦める自分。

     そう、自分が嫌で、嫌で、嫌で、たまらなかった。

     嫌悪。

     失望。

     悲しみ。

     ああ、それは全部他の何に向いたものでもない。

     自分だ。

     全部自分に向いていたものだった。

     だから――逃げ出したんだ。

     自分なんか捨ててしまいたいと思ったんだ――
     

    20: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/08(月)23:59:52 ID:qzl
     腹の底からわきあがってくる気持ちに顔がくしゃくしゃになる。

     涙が溢れてくる。

     それをとめることは、もう出来なかった。

     声を殺して泣きながら、ほたるは悟った。

     自分は、平気になってなんか、いなかった。

     ただほんのわずかな間、このどうしようもない気持ち――

     絶望に、どうしようもない自己嫌悪に、目を背けていることが出来ていただけだった。

    「ごめんなさい、ないちゃって」

     涙声を殺して、謝る。

    「泣かれたって、困りますよね。嫌な思いをさせて、ごめんなさい」
      
     裕子は、何も言わない。

    「親切にしてくれたのに、平気な顔のままで別れたかったのに。ごめんなさい――」

    「ほたるちゃん。それは違いますよ」

     堀裕子はしばらく躊躇ってから、言った。

    「ほたるちゃんはずっと全然平気そうじゃなかったですよ。初めて駅で見た時から、ずっと――とっても苦しそうな顔をしていましたよ」

    21: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)00:00:14 ID:akv
                     ◇◇◇


     実のところ堀裕子がほたるについて行こうと決心したのは、予知のせいではなかった。
     
     無論、夢を見たのは本当だ。

     それを予知夢だと信じたのも、本当だ。

     『北に向う旅に出れば運命の出会いがある』というその夢を直感的に信じた彼女は、起きるなり両親を説得し、銀行からありったけの貯金を下ろした。
     
     そして準備万端整えて勇んで駅を訪れて『運命の出会い』を探そうとして――そしてほたるを見つけた。

     これも本当のことだ。

     だが、裕子の話には一点だけ嘘があった。

     駅に来たとたんに小銭をぶちまけているほたるに出会った、というくだりがそうである。

     堀裕子は駅に来てすぐ、ほたるを見つけた。

     ただし、それは小銭をぶちまけるよりずっと前、ほたるが列車から降りてきて、弁当屋の列に並ぼうとした時の事だったのだ。

     堀裕子はその瞬間にほたるを見つけていた。

     なぜならあの時あの駅に、白菊ほたるほどひどい顔をした女の子は居なかったからだ。

     様々な暗いものに長いこと打ちのめされたような。

     自分の何もかもが情けなくてしかたないとでも言うような――堀裕子は、あれほど苦しげな人の顔というものを見たことがなかった。

    22: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)00:00:36 ID:akv
     そして、不思議だと思った。

     あの子があんなにひどい顔をしているのは、自分のようなエスパーでなくたって解るはずではないだろうか。

     見ているだけで、あの子の心の痛みが見えるみたいじゃないか。

     それなのに、誰も彼女を気にしないのはなんでだろう。

     誰もあの子が心配にならないのだろうか?

     裕子はもう、目を離せなくなっていた。

     何か自分に出来ることはないかと真剣に考えた。

     あの子が笑顔になる方法はないだろうかと強く思った。

     ほたるの財布が変な風に動いて小銭をぶちまけてしまったのは、その後の事だった。

     周りに謝りながら縮こまるみたいにして小銭を集める彼女を見て、堀裕子はもう駆け出していた。

     一緒に小銭を集めて、一緒に話をした。

     ほたるがあんな顔をしていた事情は知らない。

     その代わりに自分には何ができるだろうと深く考えた。

     そしてついていくと決めた。

     ついていって、あの子の力になろうと決めたのだ。

     堀裕子が白菊ほたるについていくことにしたのは、予知夢のせいではない。

     予知を見ていなくても、逆に予知の夢が「白菊ほたるについていくな」と言ったとしても、関係ない。

     堀裕子はあんな顔をした女の子を、決して放っておけない少女だったのだ。



                     ◇◇◇



    23: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)00:00:54 ID:akv

     裕子の腕の中で、ほたるが泣いている。

     泣きながら、色々な言葉を溢れさせる。

     憧れた、夢のこと。

     不幸の事。

     何度も夢に挫折したこと。

     家族に心配をかけたこと。

     家を飛び出してしまったこと。

     自分が嫌いになったこと―― 

     堀裕子は話を聞いて、何も言わなかった。

     その代わりに、自分には何ができるだろうと深く考え込んだ。

     賢い人ならやさしくほたるから話を聞いて真実を知り、彼女の苦しみを取り払ってあげるようなこと出来るのかもしれない。

     だが、堀裕子は器用な方では無い。

     そして自分が器用でないことも、不器用な言葉は時に人を傷つけるのだと言う事もよく知っていた。

     だから、裕子はただ、ほたるを抱きしめた。

     ほたるは裕子に縋って、ただ泣いた。

     涙は、列車がもうすぐ金沢に着く、というアナウンスが流れるまで続いていた――

    24: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)00:01:20 ID:akv
    ◎金沢駅到着間近/裕子とほたるの座席


     鳥の名前の列車は、もうすぐ金沢に着くらしい。

     福井から青森まで乗り換える三本の列車は、どれも鳥の名前がついているのだった。

    「――もうすぐですね」

     乗り換えのアナウンスを聞きながら、ほたるはくすんと鼻を鳴らして、顔を上げた。

    「私、鳥取に、帰ろうと思います」

     気遣わしげに見詰める裕子に、きっぱり告げるほたる。

     だって、そうだ。

     結局、裕子さんには迷惑をかけてしまった。

     自分が逃げ出したいと思ったのは、自分だった。

     それならどんなに逃げたって、逃げられるはずはない。

    「北に行こうと思ったのは、意味のないことだったから。戻らなくちゃ」

    「――鳥取に戻って、どうするんですか?」

    「どうしようかな……」

     無理だ、と自分で思ってしまったのだ。

     アイドルに挑むことはもう、できないだろう。

     そうすると次に何をしていいか、ほたるには解らない。

    「だけど、おとうさんとおかあさんに、謝らなくちゃ。これまで心配をかけて、ごめんなさいって」

    「――ねえ、このまま旅を続けませんか?」

     涙でぬれた顔のまま、気が抜けたように笑うほたるに、裕子は思わずそう提案していた。

    25: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)00:01:38 ID:akv
    「だってほたるちゃんに運命を感じたのは本当ですし。私はこのまま北に向いたいと思いますし! ……それに」

    「それに?」
     
    「ほたるちゃんと、もう少し旅をしていたいです。ほたるちゃんは意味のないことだって言ったけど、続ければ――なにかいいこと、あるかもしれませんよ」

     そういう予知なんですとでも笑えたらよかったけど、裕子にはそんな余裕がなかった。

     ただ、ここで別れちゃ駄目だ、という思いがはっきりある。

     なんだかすごく、嫌な予感がしたのだ。

     だから裕子はほたるを抱く手に力を込めて、手放さないぞと意思表明する。

    「――そう、ですね」

     その手の暖かさにほだされて、ほたるはさっきより少しだけ生気のある顔で、笑った。

    「もう、心配はさせてしまっていますし――これも途中までなんて、少し嫌です」

    「そうですよ。いけるところまで行ってみましょう!」

     先に何かの展望があるわけじゃない。

     だけど裕子はこの旅を続けられるのが嬉しかった。

     列車は金沢で乗り換え。

     二つ目の鳥の名の列車で、二人は大宮へ。

     そして一路青森へ――。



    26: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)00:02:05 ID:akv
    ◎18時前/青森行き新幹線車内


     金沢からの二人の旅は、穏やかだった。

     金沢から雪深い山中を進んで大宮へ。

     そこから新幹線に乗り換えて、太平洋側を一路北上する。

    「私、ずっと日本海側を通るものだと思っていました」

    「それだとなんだか、すごい時間がかかっちゃうみたいなんですよね」

     想像していたよりずっと明るい海を見ながら、そんな話をしたりもする。

     自分の隠しておきたかったことを全て吐き出してしまったほたるはこれ以上意固地になる必要がない。

     夢を果たせなかった絶望も、自分への嫌悪もまだ胸の中にありはしたが、今はそれを見詰める余裕が出来ていた。

     時間をかけて後片付けをして、次の道を探そうと、今は思えたのだ。

     それもきっと、堀裕子のおかげだろう。

     堀裕子は、いままで自分の周りにいなかったタイプの人間だ。

     初めて出会ってサイキックとか言われた時は何事かと思ったけど、それは堀裕子の本質ではない。

     大宮で、こんなことがあった。

    「新幹線で車内販売があるかどうかわからないから」 

     ということで大宮で再び駅弁を買い求める二人。

     なんでもチキン弁当という名物弁当があるらしいのでそれにしませんかという裕子の提案に頷いて、弁当屋に並ぶ二人。

     だが残念、昼時をすっかり逃したためか、チキン弁当は売り切れだ。

     ああがっかりさせてしまった、私の不運のせいだとほたるの気分が落ち込みそうになる。

    27: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)00:02:30 ID:akv
     だがほたるの口からいつもの『ごめんなさい』が出てくる前に、裕子の口からは次の言葉が飛び出していた。

    「じゃあ、店員さんのオススメのお弁当をふたつください! 種類は別々で!」

     そして当初買う予定じゃなかった二つの弁当を抱えて、『あとでおかずを交換しながら食べましょうね』と笑うのだ。

     そしたらおかずの種類が二倍になって楽しみも倍だから、って。

     一事が万事、その調子だった。

     こんな人もいるんだ――と、ほたるは驚いた。

     自分とは違う。

     自分はいつも、悪い結果は悪いものとしか思わなかった。

     いつも、自分を責めていた。

     そこから良かったことを探せないでいた。

     だけど、堀裕子は違う。

     二人でお弁当を食べながら、ほたるは裕子を見詰める。

     裕子は今、交換したおかずが予想外の味付けで、すごくヘンな顔をしている。

     だけど次の瞬間には『こういう味付けがあるなんて知らなかった』と笑っている。

     堀裕子は思い通りにならないとき、そこで挫けて止まらない。

     思い通りにならなかった結果から良かったところを見つけて、先に進んでいこうとする。

     それはほたるにはない、堀裕子の強さ。

     人の心を暖かにする強さだ。

     ほたるは堀裕子と知り合えて、一緒に旅が出来てよかった、と思う。

     裕子さんと一緒だったらきっと気持ちよく旅を終わることが出来る。

     この旅の楽しい思い出とともに、私の挫けた夢も整理することが出来るのかも知れないと、そう感じるのだ。



                     ◇◇◇

    28: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)00:02:53 ID:akv
     お弁当を食べておいしいと笑うほたるを見ながら、裕子は金沢駅での出来事を思い出していた。

     乗り換えの合間に、ほたるは実家に電話を入れたのだ。

    「うん、ごめんね」

    「いつも心配ばかりかけて、ごめんね」

    「だけど最後だから――このまま、もう少しだけ、旅をさせて」

    「うん、最後にするの」

    「これが終わったら、私、諦めるから。もうおかあさんたちに心配かけるような事、しないから」

    「うん。いいの。いいの――」

     裕子はそのやりとりを聞いていた。

     その時の顔を見ていた。

     今お弁当を食べてる時の笑顔と同じだ。

     なんだか気が抜けてしまったような、力のない笑顔だった。

     ちっともよくない、と思った。

    29: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)00:03:28 ID:akv
     本人が諦めるというのなら、仕方ないのかも知れない。

     それは今日会ったばかりの堀裕子にどうこうできることではない。

     だって自分は白菊ほたるの挫折も苦しみも、越えてきた道のりも知りはしないのだから。

     だけど、ほたるが裕子の人となりを知って感銘を受けたように、裕子もまたほたるに衝撃を受けていた。
     
     堀裕子はほたるを見て、二つの事を思う。

     ひとつは――ほたるはすごいってことだ。

     ひとつの夢を目指して、挫折する。

     よくあることだ。

     だけど、どうやっても夢に届かない自分に、諦めてしまう自分に絶望してしまう。

     その夢を失うことが、その人の全てを打ち砕いてしまうような、そんなにまで情熱を注いだ人を堀裕子は見たことがなかった。

     そんなにまでひとつの事を好きになれた人を、見たことがなかった。

     ほたるはすごい。

     自分もそんな風に、ひとつの事を追いかけてみたい――

     それはひたむきな情熱への敬意と、憧れだった。

     そして、もうひとつ思うこと。

     それは、そんなにまで打ち込んだ夢を諦めて、自分に失望したままで、そのあとこの子はどんな顔をして暮らすんだろうってことだ。

     あの電話の時みたいに、今みたいに、力のない顔で笑って暮らすんだろうか。

     自分に感じた絶望を、諦めた夢を、思い返して暮らすんだろうか。

     そんなのは嫌だ、と裕子は思う。

    30: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)00:03:50 ID:akv
     他人の事だけど、それを決めるのは自分じゃないけれど、そんなのはどう考えたって嫌だ。

     なんとか、ほたるがこれから明るい顔で、大きな声で笑って暮らせるようにできないだろうか。

     だってそうでなくちゃ、気になって別れられない。

     別れたあとほたるがどこかでこんな顔で笑っている――なんて、想像するだけでたまらないじゃないか。

     とはいえ、だからどうしたらいいのかって言われたらこれはサッパリ解らない。

     せめて思いつくまで一緒に旅を続けたい。

     裕子は強く強く、そう念じた。

     とはいえ、念じたからって列車が遅くなるわけでもなし。

     唸って悩んでるより、きっとほたるちゃんと話しているほうがずっといい。

     裕子はさっぱりと頭を切り替えて、聞きたかったことを聞いてみた。

    「ほたるちゃん、あのアイドルって、どんな人なんですか?」

    「あのアイドル――?」

    「ほら、私の鼻歌のアイドルです。恥ずかしながら私、歌と顔ぐらいしか知らなくて」

     さっきの今で、少し酷だろうか。

     そう思いながらも、やっぱりまず聞いてみたいことはそれだった。

    「ほたるちゃんがそんなに好きになったアイドルの事、私も知りたいです」

    「――あのね。とっても笑顔が素敵な人だったんです」

     少しの間のあと、ほたるはこてんと頷いて、話し始めた。

     自分が憧れた、あの人の事を。

     それはもしかして、ほたる自身の気持ちを整理することにも繋がっていたかもしれない――。



    31: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)00:04:46 ID:akv
    ◎18時30分/同車内・二人のおしゃべり


     大宮から青森までは新幹線でも三時間近い道行になる。
     
     外が明るく景色を楽しむことが出来たのもほんのわずか、18時を回ったころにはすっかり日も落ち、真っ暗になってしまう。

     となれば年頃の女の子二人、あとの楽しみはおしゃべりという事になろう。

     二人隣り合って、ぴったり身体を寄せるみたいにしてわいわい話す。

    「えっ、福井の給食ってカニが出るんですか」

    「はい! 一人一杯食べられるんですよ」

    「鳥取もそんな学校があるって聞いたことありますけど、うちの地方ではなかったですね……」

    「そういえば、ほたるちゃんは東京の学校にも行ってるんですよね! 東京の給食ってどんなのなんです? やっぱりオシャレ?」

    「ふふ、オシャレな給食ってどんなのですか……あまり変わらないと思うんですけど、アゴとかハタハタとかは出なかったですね」

    「え、アゴなんて給食に出ましたっけ!?」

     ――ほたるがアイドルを目指す切欠となった『あるアイドル』の話からしみじみと始まった会話は、そのうちにお互いの身の上や雑談に変わっていた。

     産まれも育ちも違う二人だから、お互いの事を聞くだけで様々な驚きがあって、三時間ぐらい、おしゃべりであっという間に過ぎてしまいそうだ。

     食べ物の事、娯楽のこと、学校の事……。

    「東京って、どっちを向いてるか解らなくなるときがあるんです」

     それから、東京の話。

    32: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)00:05:13 ID:akv

     修学旅行で一度東京に行ったきりの堀裕子としては流行の発信地東京には憧れがある。

     暮らしてみてどうだったかと問われると、お店がどうとか服の流行がどうとかいう話の間にほたるはぽつんとそんなことを言った。

    「平らで、どこも建物ばかりで――ほら、山が見えないでしょう」

    「あー、それ、わかります」

    「だから自分がどっちを向いているか解らなくて、不安になったりしたんです」

     そういえば東京ではいつも不安だった気がする、とほたるは思い返す。

     自分がどっちを向いているか、正しいほうに進んでいるかもわからなくて。

     遮二無二進んだ末が結局行き止まりだったりして。

     こうしたらいい、こうしてはいけない、成功の早道はこうで、いやそれは間違っていて――

     色々なところから聞こえてくる沢山の声は、むしろ今の道が正しいかどうかを迷わせた。

     アイドルの道にも、山があればよかったのに。

     迷ったとき振り仰ぐと自分の向いている方向がわかる、そんなものが。

     そしたら私はもっと頑張ることができたのだろうか――。

    「うーん、街も入り組んでるし、迷いやすそうでしたよねえ。私も東京に住んだりしたら、きっと道に迷いそうです」

     物思いに沈みそうになるほたるを、裕子の声が引き戻した。

    「裕子さんも、ですか」

    「はい、恥ずかしながら地図読むのも得意とはいえないですし――まあ、私にはサイキック・ダウジングがありますから迷ったって安心なんですけどね!」

     なんだかやたら得意げに水晶のペンデュラムを取り出して謎ポーズを決める裕子。

     まさにそのダウジングで500円玉が発見できなかった経緯を思い出して、一抹の不安を覚えるほたる。

    「……サイキックって、本当にあるんですか?」

    33: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)00:05:58 ID:akv
     予知夢、サイキック、超能力。

     実際、漫画の題材としてはともかく、ほたるの周りにそんなことを信じている人間はいなかった。
     
     堀裕子は白菊ほたる史上初めて遭遇した『自称・本物の超能力者』だ。

     裕子さんは良い人で、一緒に居てくれたことがどれだけ助けになったか知れない。

     彼女がもし予知夢をみなければ今日出会うこともなかったわけだから、超能力に感謝すべきなのかもしれないが――それはそれ、これはこれ。

     超能力が信じられるかと言うとそうではない、というのがほたるの正直な気持ちだった。

    「フフフ、信じられないのも無理はありません!」

     だが当然というかなんというか、堀裕子はそんな疑問の声にも自信満々なのである。

    「だけどサイキックは本当にありますよ。だって私がこの目で見たんですから」

    「……見た?」

    「はい。小学校の、それこそ給食の時でした。私が持ってたスプーンが、突然グニャグニャに曲がったんですよ!」

    「えーっ!」

    「驚きますよね。私も驚きました! 信じられないですよね。普通そうだと思います! ――だけど、あの時起きた事、私が感じた驚きは、絶対本物です」

     ほんの一瞬穏やかな目でほたるを見てから、眉をぴーんと上げた顔できっぱり笑うエスパー少女・堀裕子。

    「だから誰が信じなくても、私は自分に超能力があるって信じてるんです」

    「実際、うまくいくんですか」
     
    「実際うまく行かないことも多いですけどね。だから私、いつか自在に超能力を使えるように毎日サイキックトレーニングを欠かさないんですよ!」

    「れ、練習の手ごたえは」

    「うまく行かない事の方が多いですが、そもそもうまく行かないから練習するんじゃないでしょうか」

    「――」

     ほたるは最初、なんといえばいいか解らなかった。

     堀裕子は小学校の時に体験した、そのたった一回の出来事で自分に超能力があると信じた。

     そして、毎日練習を続けているのだという。

     その練習がうまくいかなくても自分に超能力があることを疑うことはないのだと。

    34: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)00:06:20 ID:akv
     超能力なんていうありそうもないものを信じて、何年も挑み続けているなんて、ちょっとヘンだ――

     いや、違う。

     ほたるはすぐに思いなおした。

     だって、それは自分と同じじゃないか。

     超能力と、アイドル。

     挑むものが違うだけで、周りが不可能だと思うことに挑んでいるのも同じ。

     何度も失敗しているのも同じ。

     ずっと懲りずに練習を続けているのも――同じだ。

     違うのは一点、白菊ほたるはアイドルを諦めようとしているけど、堀裕子は今も自分を信じている、ってことだ。

     裕子自自身が普通信じられないだろう、と言ったように、超能力を使えるようになるなんてことは、きっと周りの誰にも信じてもらえないに違いない。

     それでも、堀裕子は信じ続けている。

     自分と同じように沢山の否定を向けられたに違いないのに。

     傷ついたことだってきっとあったはずなのに――。

    「――裕子さんは、すごいですね」

     だから、それしか言えなかった。

    「私も、裕子さんみたいになりたいです」

    「え、あ、いやその」

     突如真摯な賞賛のまなざしを向けられて、堀裕子は顔を真っ赤にして驚き慌てるのであった。



    35: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)00:07:12 ID:akv

    ◎20時前/列車故障

     がたんと列車が揺れて、堀裕子は目を覚ました。

     どうやらいつの間にか、話し疲れて寝てしまっていたらしい。

     布団を着ているわけでもないのに身体がとても暖かいのは、ほたるが裕子に身を寄せるようにして眠り込んでいるからだ。

     聞けば早朝に家を飛び出したということだから、きっと疲れているんだろう。

     少しでも寝かせてあげなくちゃ。

     そんなことを考えてほたるの細く軽いからだをそっと寄せる。

     そしてすがるように自分の上着を握っている細く白い手にそっと手を重ね、裕子は穏やかに微笑んで――

     から、慌てた。

    「ダメじゃないですか! 寝ちゃったじゃないですか!」

     あくまでも小声で慌てる。

    36: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)00:07:28 ID:akv

     ほたるのため何か出来ないか思いつくまで旅を――

     とか言いながら一緒に寝てしまったら考える時間は短くなっちゃうじゃないか。

     時計を見ればもう午後8時近く。

     列車はもうすぐ八戸に差し掛かるところだった。

     目的地の青森につくのにあと一時間もない。

     そこで一泊する予定ではあるけれど、今のところほたるのために何か出来そうな決定打とかは思いつかない。

     色々話していろいろ考えなくちゃいけなかったのに!
     
     ああでもほたるちゃん疲れてるんだろうしこんな安らいだ顔で寝てくれているんなら無駄じゃなかったのかなあ。

     そういえばあのアイドルさんの話をするときのほたるちゃん、嬉しそうだったなあ。

     やっぱりアイドル好きなんだなあ。

     そんな事をわいわい考えてる間に次は八戸に止まるぞとアナウンス。

     実際はたかだか一時間の睡眠なんだけど、もともと整頓して物事を薦めるのが苦手な裕子としては慌てた。

     ああ、なんとかもう少しだけ旅が長くならないだろうか。

     ほたるちゃんのために出来ることのヒントがどこかで見つからないものだろうか。

     エスパーユッコは強く祈った。

     列車が、ブスンと音を立てた。

    37: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)00:07:48 ID:akv

    ◎20時20分/八戸駅構内

     八戸駅のホームに吹く風は、冷たかった。

    「原因不明の、列車の故障だそうです」

     新幹線から降りて、ショボンとした顔で説明する堀裕子。

    「なんか電気の線? がおかしくなるような感じがあったとかで、ここで止めてなんかどこか点検するんだそうです」
     
     機械に明るくない裕子の説明は、実にフワフワしていた。

    「ごめんなさい、きっと私の不幸のせいで――」

     だがそのフワフワな説明を聞いて、同じくショボンとした顔で謝罪してしまう白菊ほたる。

     だって新幹線は滅多に止まったり壊れたりしないと聞いた。

     それが止まったり故障したりするのは、絶対自分のせいな気がしてならなかったのだ。

     他の事はとにかくとして、自分の不幸に対する自信は絶対的なものがある白菊ほたるなのである。

    「あ、いいえ、それは違います」

     だけど、堀裕子はあっさりそれを否定する。

    「だって、おかしくなったことが解って、安全のために止まったんです。むしろ大きな事故になる前にきちっと止まってラッキー! JRさんさすが!! と言うべきではないでしょうか」

    「言われてみれば、そうかも知れないですけど」

     堀裕子はよかったことを探す。

     自分が思っても見なかった考え方に、ほたるは目を丸くした。



    39: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)03:17:27 ID:akv
    「それより、ここからの移動がちょっと問題です」

     駅員さんに色々聞いてはいるのか、裕子は今度はちょっと難しい顔をした。

    「次の便の新幹線は席が埋まってて、乗れるかどうか解らないって。宿は青森でお願いしてましたから、なんとかできればと思うんですが」

     偶然にも旅が長くなるのは嬉しいけど、それでほたるが不安な思いや寒い思いをするのは困る。

     自分はいざというときはサイキックでなんとかなるけど、ほたるはそうではないのだ――と自分に対する無敵の自信を背景にまずほたるありきで思案をめぐらせる裕子。

    「とりあえず、宿には遅れますと電話を入れましょう。ほたるちゃん、お手数かけますけどスマホでこのあたりのバスとかの時刻表を探してみてくれませんか」

    「は、はい!」

     裕子が電話に集中し、一瞬ほたるへの視線が切れた。

     ほたるも自分のスマホを取り出して、ちょっとかじかんだ手で操作を始めようとして、周囲への注意がおろそかになった。

     そんなときだ。

    40: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)03:17:44 ID:akv
    ふにゃ。

     なんだか胸元に変な感触を覚えて、ほたるはびくっと背筋を伸ばした。

     パニックになりつつ自分の胸元を見下ろすとなんということであろう、華奢な手が、自分のお山を登頂している真っ最中ではないか。

     無許可登山、しかも初登頂である。

     ほたるはたまげて声も出せない。

     そんなほたるの眼下で白菊山を裾野から山頂まで余すところなく堪能している指が――

     ふにゃふにゃふにゃふにゃふにゃふにゃふにゃふにゃ。

    「ふあ――!?」

     名状しがたい動きをして、二度たまげた。

     ほたるは人間の手がこんなにすばやく繊細に動くのを見たことがなかった。

    「はっ、ほたるちゃんから助けを求めるミラクルテレパシーが届いた気が――あっ、白菊山が大変なことに!!」

     悲鳴を上げるより硬直してしまったほたるの気配を察した裕子が声を上げるとようやく白菊山を好き放題にしている手が止まった。

    「ゆ、裕子さん――!」

     ようやく手から逃れて裕子にかけよるほたる。

    「ほたるちゃん、私の後ろに――誰ですか他人のお山を行楽地にしているのは!」

    「はい、それはあたしです!」

     あろうことか堂々と手を上げて名乗る無許可登山者に、二人は唖然とした。
      
     ブラウンの髪をお団子にして、ニコニコ笑顔もチャーミング。

     突如白菊山を征服した登山者の正体は、女の子でもハッとするような妹系美少女だったのだ。

     そして、たった今ほたるのお山を初登頂した少女は決して「ごめんごめん」なんて言わなかったし、悪びれた様子も見せなかった。

    「ありがとうございました! とっても素敵なお山だったよ……!!」

     ためらいのない感謝の土下座。

    「儚さと未来への成長の予感を確かに感じさせるお山でした。そう、例えるなら――」

     さらに、ほたるのお山がどんなに素敵だったか嬉しそうに語って聞かせてくれる。

     その様子が本当に嬉しそうで楽しそうで、二人は面食らって顔を見合わせるのだった――。

    41: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)03:18:03 ID:akv
    ◎20時40分/八戸駅駅ビル一階・コーヒー店内


     白菊山征服から20分、ほたると裕子、登山家美少女の姿はそろって駅ビルのコーヒー店内にあった。

     被害者と保護者と加害者が同じテーブルを仲良く囲んで、コーヒーなんて飲んでるのだ。

     被害者の方は当然として、普通ああいう事をした後は、加害者だって相手から離れたがるものではないだろうか。

     相手を怒らせてるかも知れないし、そうでなくても警戒されているかもしれない。

     山がいかに魅力的であれ、登山の後まで一緒に居ては百害あって一理なしだ。

     だが少なくとも登山家美少女嬢はそう考えていなかったようで、ホームじゃ寒いしお礼もしたいからと、ニコニコ笑って一緒にコーヒーでもどうかと誘ったのは彼女のほうだったのだ。

     しかも。

    「あたし棟方愛海。かわいい女の子がだいすき。あと女の子の柔らかいところもだいすき!!」

     ハキハキと、自分の欲望をかけらも隠さない元気な自己紹介までしてみせたのである。
     
     これは変わったコだ――とほたると裕子があっけに取られてしまっても、仕方ないというものであろう。

     もっとも棟方愛海の方だってサイキック少女に不幸少女という二人の身の上を聞かされれば、世の中には変わった人が居るんだねえと唸ったに違いないのだが。

    「だ、大好き――なんですか」
     
    「うん、だいすき!」

     ようやく温まって人心地ついて、お山をガードしつつほたるが確かめるように問えば、一切迷いの無い答えが返ってきた。

    「私より裕子さんのほうがおっきかったのに何故……」

    「ほ、ほたるちゃん!?」

    「あのね、大きさじゃないんだよ」

     思わぬところで自分が話題に上り、慌ててマウンテン堀をガードする堀裕子だが、棟方愛海はわかってないなあと笑うのだ。



    42: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)03:18:48 ID:akv
    「お山にはそれぞれ違ったよさがあるの。四季にそれぞれのよさがあるように、咲く花がそれぞれに人の心を和ませるように。どのお山もそれぞれ特別で素敵なもので、人をしあわせにしてくれる物なんだよ。というわけでほたるちゃんのお山最高でした! ありがとうございます!」

    「そ、それはもういいですから」

     真っ赤になるほたる。

     愛海は悪びれたりごまかしたりしない。

     口から出るのははっきりした感謝で、どんなにお山が素敵だったか嬉しそうに語って聞かせてくれようとする。

     やられたことはショックだったけど、それでもなんだか憎めないのは天真爛漫な笑顔と飾らない言葉のおかげだろう。

     まあその笑顔が時々『うひひ』って感じになるのは気になるところであったけど。

    「しかし突然あんなことするのはちょっとどうかと思いますよ?」

     一応年長としてメッと嗜める裕子。

    「あはは、そこ言われると弱いなあ」
     
     痛いとこ突かれちゃったと笑う愛海。

    「いつもならちゃんと『お山を登らせてください!』ってお願いするんだけど、なんかこう、ほたるちゃんの後姿はなんだか目が離せなくてフラフラと――あ、ユッコさんのお山も素敵だよ? 今度登山させてください」

    「いえ、遠慮します――って、いつもはお願いしてるんですか?」

    「え? うん。素敵なお山だから登りたいって」

     なんか予想外の事を聞いたという顔をする裕子に対し、愛海は天使のように無邪気な顔でこてんと小首をかしげる。

    「嫌がられないですか、それ」

    「みんなあたしのお山好きは知ってるし、まあそういうことも多いけど――基本はやっぱり熱意と工夫かなあ」

    「みんなって」

    「学校のみんなとか町の人とか、両親とか」

    「えええええ」

     裕子とほたる、二人の驚きの声がハモった。

    43: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)03:19:10 ID:akv

    「お山に触りたいんなら、そんなに知れ渡ってたらダメなんじゃないですか」

     だって、警戒されてしまうし、気持ち悪がられたりはしないのか。

     ほたるが思わずそんな事を聞いてしまうのも当然だろう。

     だけど聞かれたほうは平気な顔で、

    「え、なんで?」
     
     なんてキョトンとしているのだ。
     
    「何故って――その、隠したりとか、普通は」

     いや、お山を登ってまわろうと考えたことは無いので何が普通だかは解らないけど、みんなに知られていていいものでは無いような気がするのだ、すごく。
     
    「でも、好きなものを好きでないふりするのって嫌じゃない」

    「――」

     スパッとした言葉を聴いて、ほたるは何故だか言葉に詰まってしまった。

    「あたしはお山が大好きだし、お山は決して恥ずかしいものじゃないし。でも普段好きじゃないフリしてると、なんだかそれが悪いことみたいだし」

    「……そうですね」

     いや、そもそも人のお山に登るのはどうなんだ、という常識的なツッコミをする気にはなれなくて、小さく頷く。

    「それにちゃんと『貴女のお山がとってもステキだから登りたい』って言いたいし、どうせなら可愛い子とは仲良くなりたいから――だからやっぱり好きでないふりはしたくないなって、あれっ、ほたるちゃん大丈夫?」

     話を聞くうちに目に見えて縮こまったほたるに慌てる愛海。

    「初めて見たときもなんだほっとけない感じがしたんだけど。もしかして、何か辛いことでもあったりとか」

    「私、そんな風に見えましたか」

    「うん、ちょっと。そのあと『ああ、今にも消えそうな儚いお山も素敵だなあ、のぼりたいなあ』って思ったけど」

     台無しである。

    44: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)03:19:49 ID:akv

    「私は大丈夫ですよ」

     ほたるが、笑う。

    「愛海さんはえらいなって、そう思ってただけです」

    「えっ、本当? もう一度お山登っていい?」

    「それはダメです」

    「えー」 

     愛海と笑いあってから、ほたるは黙る。

     好きなことを好きでないふりをするのは、嫌だ。

     シンプルな言葉は何故だかほたるに刺さっていた。

     自分は好きなものを隠したりは、していないのに。

     諦めはしたけど、それは納得してのことだったはずなのに――

    「――そういえば今更だけど、裕子さんとほたるちゃんは、これからどうするつもりだったの?」

     俯くほたるをちょっと見てから、愛海は話題を切り替えた。

    「ああ、実はどうしようかなって思ってたところなんです」

     俯いてしまうまでのほたるの表情の変化をつぶさに見守っていた裕子も切り替えに乗って、ちょっと困ったような顔をしてみせる。



    45: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)03:20:13 ID:akv
    「新幹線が故障で、次の便が満席みたいで。青森駅の近くに宿を取っていたのでなんとか移動しようと――ほたるちゃん、バスの方どうでしたか」

    「あ、ええと――」

    「あ、待って待って?」

     顔を上げて慌ててスマホの画面を呼び出そうとするほたるを手で制止して、愛海はいいこと思いついた、と笑う。

    「今からだとバスでも列車でもすごい時間になっちゃうよ。全然休めないじゃない――どうせならさ、うちに泊まっていかない?」

    「えっ」

    「愛海さんちって、旅館か何かなんですか」

     思ってもない申し出に目を丸くするほたると裕子。

    「ううん、普通の家だけど?」

    「それじゃ流石におうちの人に迷惑では」

    「ふふーん、それがそうじゃないんだなあ」

     時間のこともあって流石に常識的なことを言う裕子にしんぱいごむようと笑ってみせる愛海なのである。

    「あたしが駅に居たのはね、今日までうちに泊まってた親戚のおねーさんたちを見送りに来たからなの。おふとんのレンタルは明日の昼までで片付かないし、客間は空いてるし」

    「いや、確かにそうしてもらえたら有難いんですが」

    「そうしなよー、素敵なお山のお礼をもっとしたいし! ウチのお父さんもお母さんもかわいい女の子は大好きだからきっと大歓迎だよ!」

    「それ愛海ちゃん的な意味じゃないですよね!?」

     そこはぜひとも確認しておきたい裕子なのであった。 

    46: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)03:20:30 ID:akv

    ◎30分後/八戸市市営バス・市内循環線内


     結局棟方家にお世話になることにして、ほたると裕子は愛海の招くままにバスに乗り込んだ。

     裕子としては自分達の前に泊まってたおねーさんたちのお山は無事だったんだろうかとか色々考えないではなかったが、まあそれはそれ。

     今までの言動とか電話越しに熱心にご両親を説得する愛海の様子を見ていると、奇妙ではあるけど信用してもいいかなと言う気持ちになったのだ。

    「ほたるちゃん、寝ちゃったね」

     前の席からほたるの顔を覗き込んで、ひそひそ声の愛海。

     バスの中が暖かいからか、疲れていたのか、ほたるはバスに落ち着くなり再び眠り込んでしまっている。

    「朝からずっと列車だったそうですから。疲れているんでしょう」

     流石に家出がどうとかそういうことは言えなくて、曖昧に答える裕子。

     愛海のほうも何か事情があると察したのか、ふーんと相槌を打っただけで、それ以上探ろうとはしない。

    「青森に行くつもりなんだっけ?」

    「うーん、青森というか。出来るだけ北まで行ってみたいという話でして」

    「おー、津軽海峡冬景色」

    47: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)03:35:01 ID:akv

    「――そういえば、改めて、泊めてくれて本当にありがとうございます」

     自分の隣でくたっと眠り込んでいるほたるを見詰めてから、改めて、と頭を下げる裕子。 

    「さっきも言いましたがほたるちゃんきっと凄く疲れてるから。夜中まで移動にならなくて本当に良かったです」

     ほたるが旅に出た事情は知っている。

     もしかして旅の疲れ以上に、彼女には溜め込んだ疲れがあったのかもしれない。

     列車の中の睡眠はその場しのぎで疲れがとれない。

     早めに休める場所が確保できてよかった、と思うのだ。

    「いいのいいの。お山のお礼がしたいし、ほっとけない感じがしたし」

    「――それ、さっきも言ってましたね」

    「うん、お山のお礼は何度してもいいよね」

    「いえ、お山の方ではなくて、ほっとけない、の方です」

     ああうんと頷いて、愛海はほたるの寝顔をもう一段深く覗き込む。

    「目を引かれたのは、細くてとっても綺麗な後姿をしていたからなんだけど……なんだかね、見てたら寂しそうっていうか――捕まえないと消えてしまいそうな気がしたんだよ」

    「それで、つかまえたんですか」

     お山をだ。

    48: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)03:35:25 ID:akv

    「あはは、まあそういうことで。個人的な趣味でもあったけど。大変ステキなお山だったけど。掴んだときの反応もとっても初々しくて可愛かったけど!」

    「台無しですよ!? ――だけど、そうですよね。私も、ほっとけないと思ったのです」

     色々台無しではあったけど、裕子はなんだかちょっとだけうれしかった。

     福井の駅で、何故だれもほたるに目を留めないのか不思議だった。

     あれだけ苦しそうなのに、誰もそれが見えないみたいに無視してた。

     だけどやっぱり、見えるんだ。

     ちゃんと人の苦しみが見える人がいることに、なんだかとてもホッとしたのだ。

    「――詳しくは言えないんですが、ほたるちゃん、かなり辛い目にあったみたいで」

     ほっとした気持ちに任せて、胸の気持ちを明かしていく。

    「辛くて落ち込んで、好きなこと諦めて、それで平気なふりしてこれから過ごすのかなあとか色々考えてたらほっとけなくて――えーと」

     明かして行きながら、裕子の眉がムムムと寄った。

     自分の思ってることを理路整然と説明するのって難しい。

     堀裕子は直感派なのだ。

    「えーと、だからこの旅の間に、ほたるちゃんの傷を回避しつつ何とかさりげなくうまい感じでほたるちゃんを元気にする方法を探し出して、これからもハツラツ元気に笑ってもらえるように出来ないかなあと思ってるわけです!」



    49: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)03:35:46 ID:akv

    「いやあ、それは無理じゃないかなー」
     
     だが愛海は裕子なりの必死の説明をズンバラリと切って捨てる!

    「な、それはどうしてですか!?」

     動揺するエスパーユッコ!

    「だって裕子さん、人に隠れて何かするとかさりげなく裏側からとか、すごく苦手そうなんだもん!!」

    「ハッ!?」

    「だってどう見てもそういう顔してる!」

    「言われて見れば全くその通りです!?」

     裕子の中に稲妻が走った。

     眉毛がクイッと上がった。

     あと湿っぽい空気は跡形もなく吹き飛んだ。

    「私、どっちかというと思い立ったら一直線ってほうなんです、言われてみれば」

    「ふふふそうでしょうそうでしょう」

     なんか自慢げな棟方愛海。

     かわいい女の子が大好きというだけあって、女の子を見る目は本当に大したものなのである。

    50: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)03:36:09 ID:akv

    「かわいい女の子は苦手分野でうんうん唸ってちゃ駄目。もっと得意な方向で勝負しなきゃ。つまり言いたいことはハッキリ言ったほうがいいと思う!!」

    「全くその通りです……私は今まで何を!」

     ほたるをほっとけないと思ったのも本当だ。

     なんとかしたいって心を砕いてきたのも本当だ。

     だけど裕子は今までほたるほど深く傷ついた人間を見たことがなかった。

     どうしていいか解らなくて、時間ばかり過ぎて、気ばかり焦って――でもその傷に触れると痛い思いをさせるのではないかと踏み出せなくて。

    「そうじゃないですよね。明るく笑ってほしいです、元気になってほしいですと、はっきり言うべきだったのです――うーん、こんな助言が得られるなんて、もしかしたら列車の故障もサイキックお導き!?」

    「サイキックは解らないけどまあそんな感じ!」

     大雑把すぎる肯定とともに、愛海はピッと一本、指を立てた。

    「あと、手伝ってほしいときは手伝ってってほしいって言ったほうが絶対早いと思う!」

    「全くです――愛海ちゃん、ほたるちゃんが元気になれるよう手伝ってください!」

    「あたしは美少女が笑顔になるためならなんでもするよ。だから後で裕子さんのお山も登らせてね!」

    「それは駄目です」

    「えー」

     人気の少ない夜のバスに、笑い声が響いた。

     その笑い声を聞きながら、ほたるは夢を見た。

     笑顔でいっぱいの、夢だった。

    51: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)03:37:02 ID:akv
    ◎翌朝7時・朝食時/棟方家居間


    「――というわけで愛海ちゃんも私たちの旅についてくることになりました!」

    「あと、目的地は北海道にしようよって話になったんだけどどうかな! 帯広のほうならあたし行ったことあるから、観光案内できるよ!」

     疲れが出てぐっすり眠って、すっきり寝覚めた朝食時。

     棟方家の居間に出てきたほたるに、仲良く肩を組んでそう宣言する2人。

    「何が『というわけで』なのかさっぱり解りません……!!」

     そして、何が起こったか解らないほたる。

    「ほたるちゃんに元気になってほしいと思って!」

     解るのは、そう言って笑う裕子さんの顔が、すごく眩しいってことだけだ。

    「元気に――あの、私」

    「皆まで言わなくてけっこうです!」

     ビシーッと先割れスプーンをかざして言葉を遮るエスパーユッコ。

    「ほたるちゃんは元気になるために北に行こうとしたんじゃないってわかってます。心を整理したいんだって、今まで頑張ってたことに踏ん切りをつけたいんだって」

    「――はい」

     ほたるは小さく頷いた。

     最初は何もかもが嫌になって、飛び出した。

     やけっぱちで、身投げしてもいいぐらいに思って。

     だけど裕子さんに会えて、心が軽くなった。

     裕子さんと一緒だったらきっと気持ちよく旅を終わることが出来る。

     この旅の楽しい思い出とともに、私の挫けた夢も整理することが出来るのかも知れないと――



    52: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)03:37:37 ID:akv
    「だけどそれはそれ、これはこれです!」

    「えええええ」

    「私は旅が終わったとき、ほたるちゃんが元気になってくれたらいいと思います。心の底から笑えるようになったらいいなって思います。そうでなくちゃ、別れた後も心配なんですもの!」

     ほたるはエスパーじゃない。

     自分のサイキックも、いつもちゃんとは届かない。

     だからもう裕子は思ってることを隠さなかった。

    「ほたるちゃんが、じゃなくて。私が。私が、ほたるちゃんに笑っててほしいんですよ」

    「そうそう。美少女は笑ってたほうがいいんだよ、絶対」

     登山家美少女棟方愛海も深く同意した。

    「あのでも、私昨日、けっこう笑って――」

     ほたるは毎日、笑顔の練習をしていた。

     どんな気持ちでも笑えるように。

     人に心配をかけないために。

     昨日だって、笑えていたと思う。

     気持ちが沈んでいたのも本当だけど、裕子と一緒で楽しかったのも、本当だ。

     それを伝えられるようには、きっと笑えていたはずなのに――

     だがしかし。

    「あんな笑顔でエスパーユッコはごまかせません!」

    「ど、どうして」

    「強いて言うならエスパーだから。あと直感です」

     唖然。

     もう口をぽかんと開けるしかない白菊ほたる。

    53: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)03:38:01 ID:akv
     この旅に出てから一番間抜けな顔をしているって、自分でもよくわかった。

     なにそれって思う気持ちと、裕子さんならそのぐらい見抜きそうだって気持ちが半々にある。

    「ほ、北海道に行こう、というのは何故」

    「まず北に行こうで青森までって言うのが中途半端だよ!」

     愛海のダメ出し。

    「お山だって山頂を征服してこそ。どうせ北に行くならいけるとこまで行くんだよ。二人とも北海道行ったことある?」

    「無いです」

    「無いです」

     中国・中部地方出身の二人にとって、北海道はあまりに遠すぎる土地だった。

     行ったこともなければイメージも乏しい。

     雪がふって広くて農産物が美味しくてかわいいキタキツネとかいる場所だ、程度の認識である。

    「あたしは北海道なんどもいったことあるけどね、いいとこだよ。見るところも、遊ぶところもいっぱいあって。あとカニがおいしい」

    「カニにかけては福井も負けていませんが」

    「どこのカニが美味しいかって話は今はいいんです」

     裕子の郷土愛をすげなくスルーして、愛海は熱弁をふるう。

    「聞けば昨日は遊びもせず観光もせずにずーっと移動してばっかりだっていうじゃない。移動して駅弁食べてまた移動して――そんなの気が晴れるわけないじゃない。そのうちお尻の肉がもげちゃうよ!」

    「そ、それはその通りかもしれません。遊ぶべきですね、私たちは! 確かに北海道って一度行ってみたかったんです」

     思わずお尻をかばいつつ強く同意する裕子。

    「私も、確かに北海道って憧れがあって――でも、愛海さんもついて来てくれるなんて」

    54: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)03:38:26 ID:akv

     少し躊躇するほたる。

     はっきり確認したわけではないが愛海はたぶん中学生だ。

     自分はアイドル活動のために必死でためたお金と、過去の事務所でモデルをしたときにいただいたお金なんかがある。今回はこれを吐き出してしまうつもりだった。

     裕子は高校生だからきっとお金が沢山あるにちがいない――中学一年のほたるは、高校生の経済状況を過大に評価していた――が、中学生の愛海が突然、というのは色々大変ではないだろうか。

    「北海道に行ったこともない二人だけで突然行ったって、楽しめるわけないじゃない」

     愛海はやれやれ仕方ないなあって顔だ。

    「あたしは何度も行ったことあるから、絶対あたしが一緒のほうが楽しめるよ? 二人の旅を、あたしも微力ながら応援したいの――!!」

     愛海の真摯な美少女顔。

     ほたるは一瞬、会ったばかりでそんなに私たちの事を考えてくれるなんてと感激しそうになる。

    「愛海ちゃん、本音。本音を言ってください」

     だが裕子は誤魔化されない。

     だってエスパーだから!

    「だってほたるちゃんも裕子さんも近年まれに見る美少女なんだもん! ちょっとでも長く一緒にいたい!」

    「あはは」

     あまりにストレートな本音に、促した裕子も苦笑いだ。

    「それにね!」

     愛海は可愛らしく唇を尖らせる。

     自分の可愛さを充分理解してるしぐさだった。

    「あたし、今年の冬休みは家の手伝いとか色々あって、まだ全然遊べてないんだもん。遊びたーい! どっか行きたーい!!」

    55: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)03:38:41 ID:akv
    「――そうですよね。冬休みだもん、遊びたいですよね」

     あんまりに正直な告白に、ほたるは笑った。

     なんだかすとん、と肩の力が抜けた気がした。

    「愛海さん、色々楽しいところ、教えてくださいね」

    「もちろんだよ! 胸とり腰とり丁寧に――」

    「取るのは、手足でお願いします」

     わいわいと続く、ほたると愛海のかけあいを眺めて、裕子は本音を言ってよかった――と思った。

     だって、突然の言葉にぽかんとする顔も、今の笑顔も。

     ほたるの表情はどれも、昨日よりずっと活き活きしていたからだ。

    56: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)03:39:15 ID:akv


    ◎北への旅

     それからの旅は、輝いていた。

     列車が進めば窓の外の景色がどんどく変わっていくように、次々と色々なことが起きる。

    「愛海ちゃん、早く早く! 間に合わないですよ!」

     北海道に入ってすぐの停車駅。
     
     発車ベルが鳴り響くなか、列車の降り口からホームに顔を出して、裕子が叫ぶ。

    「待って待って待ってもうすぐー!」

     紙袋を抱えてホームを突っ走ってきた愛海が、すんでのところで列車に飛び込むと、タイミングよくドアが閉まって列車が動き出す。

    「停車時間短かったんだから、無理に降りない方がよかったのでは……」

    「だって前にこの駅の売店で買ったおかきが美味しかったんだもん」

     労わるように背中を撫でてくれるほたるに笑顔を向けてから、愛海はほら、と戦利品を差し出す。

     でっかい袋に入ったおかきが三袋。

    「揚げおかきですか? こんな大きな袋をいくつも買って――おいしっ!?」

     席に戻って1つつまんでムムムと唸る堀裕子。

    「ほんとだ、美味しい――あっ、おかきだけじゃなくて海老の味がするのが入ってる」

     時々混じっている、海老味の珍味っぽいものがまたおいしい。

     揚げおかきなんて高カロリーだが、普段節制しているほたるも思わずぱくぱく食べてしまう美味しさだ。

    「ね、後引くでしょ?」

     愛海は自慢げにこのおかきを『発見』したときの思い出を聞かせてくれた。



    57: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)03:40:13 ID:akv
     それをきっかけに、それぞれの旅の思い出に花が咲く。 

     裕子の思い出は、どれも思いもかけない出来事が続いて、面白い。

     トラブルを起したり、巻き込まれたり、その顛末のひとつひとつが裕子らしくて、思わず楽しくなってしまう。

     愛海の思い出は美少女のお山が絡んでいるものが多かった。

     けど、そうして知り合った美少女とは普通に仲良くなってラインのアドレスを交換していたりするらしい。

     そういえば自分らも出会いは無許可登山だったのに、結局愛海と旅をしていたりする。

     自分たちと同じように、愛海と出会った人たちはお山を狙われたりしつつもつい仲良くなってしまうのだろう。
     
     ほたるも裕子もなんとなくそんな風に納得する。 

     そしてほたるの思い出話。

    「実は、こんなことがあったんですが――」

     ほたるは鳥取から東京に向けて、何度も旅立った中で経験した出来事について話した。

    58: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)03:40:34 ID:akv
     昨日、裕子と同じような話をしたときは当たり障りの無いことしか話せなかった。

     だけど今日は、自分が体験したトラブルについて、話すことができた。

     列車が突如止まっておろおろした話。

     来るはずの迎えが来なくて不安になった話。

     東京に住み始めたばかりのころ地下鉄の乗り換えに難儀して、とんでもないところに行ってしまった話――

     どれもその時は不安で仕方なかったことだ。

     思い出したのが昨日だったら、きっとやっぱり暗い話にしてしまっただろう。

     だけど今日は違った。

    「列車が止まってあんまり慌てたから、私『次降ります』ボタンを探し回ったりして――」

    「ああ、バスにあるような奴ですね」

    「そうなんです。それで――」

     今日はその話を、みんなで笑ってすることが出来た。

     昨日と今日、何が違うんだろう。

     ほたるは内心で首をかしげる。

     だけど、辛い思い出も、不安だったことも、あとでみんなで笑って話すことが出来るなら、無駄ではないのかも知れない。

     みんなに話せるネタが沢山あること、不安だった思い出を笑って話そうと思えること。

     今ほたるはそれを嬉しいと思っていた。



                     ◇◇◇

    59: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)03:41:31 ID:akv

    「観光に来たはずなのに、私たちなんでゴルフをしてるんでしょう」

     綺麗に除雪されたコースに立ってクラブ抱えて、根本的な疑問を口にするほたる。

    「ゴルフじゃないよ、パークゴルフだよ!」

     ゴルフとパークゴルフの違いを強く主張する愛海。

    「北海道の人はパークゴルフ大好きなんだって。まあ、前うちの一家を案内してくれた人が好きだっただけかも知れないけど、やってみるとこれがけっこう楽しくて」

    「聞いたことないですねえパークゴルフ」

    「私もです……」

     なにせ福井にも鳥取にもパークゴルフ場は無いんだから裕子もほたるも知らなくて当たり前だが、パークゴルフは北海道発祥の、ゴルフよりもっと親しみやすいスポーツだ。

     使うクラブは一本だけ、大きなボールを転がして打つ。

     コースもずっと短くて、コースは18ホール66打。

     本物のゴルフコースと違ってコースはコンパクトにまとまっているからゴルフカートなんか無い。

     事務所で500円払って道具を借りて点数記録表を貰ったら、一面真っ青に晴れた空の下、クラブをかかえてえっさほいさ歩くのだ。

    「では打ちます……えいっ」

     すかっ。

     ほたるの第一打は空振り。

     第二打はなんだか当たり損ねてポテポテと転がる。

    「次は私ですね、ムムムーン!」

     裕子の第一打も当たりそこねで、なんかべしょっとかぼてっとか言うような音を立てて不景気に転がって行った。

    「こんな大きなボールなのに当てるの難しいですね」

     二打三打と打って行くけど、クラブもボールも大きいのに当たりそこなったりあらぬ方向に飛んでいったり。

    「ねーねー裕子さん、早く打ってよー」

    「いや、ここは集中させてください、集中!!」

     打つ前に何度も素振りしてコースを確認して念力を集中する裕子。

     簡単そうだから今度こそ、いや今度こそとやってるうちにすっかり夢中になるというパターンである。



    60: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)03:42:22 ID:akv
    「うー、なんで愛海ちゃんみたいに、打った時にカキーンって音がしないんでしょう」

    「ふふふ、あたしはもう4回目だもん。プロだよ」

     どのホールでも愛海の第一打はすごくいい音がする。

     きちんと当たるとああいう音がするんだ、とほたるも愛海の打ち方を真似るのだが、なかなか上手くいかない。 

     もっとも愛海にしても調子がいいのは一打目だけで、二打目以降はとたんにプレイが怪しくなってくる。

     初心者一名と未経験二名だ、ほたるが自分の不運を気にするまでもなく、三人とも平等にへたっぴで、次々失敗をしでかすのだ。 

    「次こそは――うう、なんでまっすぐ飛んでくれないんでしょう」

    「あたしのスーパーショットをご覧あれ、えーい!」

    「うわあ、真っ直ぐ茂みに飛んでいきましたよ!?」

     三人して狭いコースを悪戦苦闘、あっちに打ったりこっちに打ったり。

    「北海道の人はパークゴルフ大好きってほんとかなあと思ってましたけど、さっきすれ違ったおじいさん、すごくかっこいいクラブを持ってましたね。マイクラブかなあ」

    「うわっ、あの人ボールを飛ばしましたよ!? このクラブでどうやって――ハッ、もしかしてあの人もサイキックが!?」

     他の人のプレイに驚いたり、自分たちの失敗に笑ったり。

     こう打ったらいい、いやこうだとへたくそなりに技術の話を戦わせたり、茂みに飛び込んだボールの脱出法について三人で首をひねったり――

     最初は観光でゴルフってどうなのとか思ってた気持ちは吹き飛んで、みんなしてゴルフの話ばっかりするようになる。

     ほたるも汗をかいて、はあはあ息をついて、空を見上げて。

    「あ――」

    「どうしたんですか、ほたるちゃん」

     そのまま言葉を失うほたるに、裕子が首をかしげる。

    61: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)03:42:43 ID:akv

    「いいえ。空が、まぶしいなって思って」

    「あー」

     一息ついて、裕子も空を見上げる。

     その日、その町の空は晴れ渡っていた。

     雪の照り返しもあるのだろう、真っ青な空の下、空気まで眩しく輝いてるみたいだった。

    「昨日私たちが出会ったあたりは、なんかぐずぐずした天気でしたものね」

    「窓の外も、ずっと灰色で――」

     こんな青空を見たのは、いつ以来だろう。

     そう思い返してみても、全然思い当たらない。

     つい最近まで居たはずの、東京の空ってどんなだったっけ。

     あそこは鳥取よりずっと晴れ間が多かったはずだから――

     そうやって思い出そうとして、ほたるは東京の空を全然覚えていないことに気がついた。

     そうだ、自分は東京では、いつも俯いていた気がする。

     空なんか、見上げたことがなかった気がする。

     だからだろうか、今日見上げた空は本当に綺麗で、なんだか心に染み渡るみたいで――

    「つぎー! ほたるちゃんの打順だよー!!」

     いつもどおりカキーンと第一打を決めた愛海が、ほたるを呼ぶ。

     もう一度空を見上げて深呼吸をしてから、ほたるは『はい』と元気よく声を返した。 



                     ◇◇◇

    62: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)03:43:18 ID:akv


     決して、旅は長い時間じゃなかった。

     八戸を出発してから夕方までの道のりだ。

     その間に色々なところで降りて、色々綺麗なものを見て、楽しいことに触れて、めまぐるしく時間が過ぎて。

     あとは列車やバスで移動して、わいわいと話す。

     時間が空いたら、トランプなんかしたりする。

    「ムムムーン! 私の透視能力で、どの札がババなのか当てて見せましょう……!」

     そんなこと言って、裕子はムムンと念じ始めたりする。

    「でもトランプで自分だけ相手の札を見るのって、ズルくない?」

    「ああっ、確かにズルは良くないですね! 私、トランプの間はサイキックを封印します!!」

     愛海のとぼけたツッコミに反省したりもする。

     そんな裕子の生真面目さがなんだかほほえましくて、三人で笑う。

     バス停の待ち時間に、町並みを眺めてヒマを潰したりもした。

     ぼんやり眺めていると、北海道の町はほたるや裕子が知ってるものと、随分違っている。

    「なんで、北海道のおうちは屋根にいっぱい釘が立っているのでしょう」

    「ああ、あれは落雪対策だね」

     にょきにょきと屋根から釘が生えた家をいくつも見つけてほたるが首をかしげると、愛海がさらっと解説してくれる。

    「屋根の上の雪がいっぺんに滑り落ちてくると、軒先に居た人を押しつぶしちゃうんだよ。ああやっておけば滑り止めになって、いっぺんに雪が落ちて来ないんだ」

    「へええ――」

     そんな風に、色々なことを知ったり、感心したり。

    63: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)03:43:44 ID:akv
     そんな合間合間に、三人はよく音楽を聞いた。

    「私、この人の歌、好きなんです!」

    「あ、いいなこれ。あたしも好きかも」

     工夫のないやり取りをして、スマホを交換してお互いお勧めの歌を聴く。

     三人とも小難しい曲なんて持ってない。

     薦めあう歌の大半はアイドル物で、三人ともが知ってる歌もけっこうあった。

     周りに人が居なければ、そういう歌を三人で合唱したりもして――

     もしかしたらほたるにとっては、そうやって三人で歌を聞いている時間が一番印象深かったかもしれない。

     だってそれは、ほたるが見たかった光景だったから。

     歌が、笑顔を呼んでいる。

     歌が、人と人を繋いでいる。

     それは、ほたるが『アイドルになれば、出来るかもしれない』と思ったことだった。

     私も、誰かを笑顔にしたい。

     私も、誰かをしあわせにしたい。

     その力が、アイドルにはきっとあるんだ。

     そう思ったことが間違いじゃないと、二人の笑顔が教えてくれているような気がした。

    64: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)03:44:10 ID:akv
    「――もしよかったら、この曲も聞いてみてくれませんか?」
     
     やがて人気の無いバス亭で、ほたるはおずおずと、ある曲を二人に勧めた。

     それは、自分にアイドルへの道を決意させた、あのアイドルの曲だった。

     昨日は鼻歌を聞いただけで動揺してしまったけど、今日は二人に、聞いてほしいと思うことが出来た。

     自分をしあわせにしてくれた、あの歌を。

     だって、そんな気持ちになれたのは、きっと二人のおかげだったから。

     ――昨日の朝、ほたるの気持ちはくしゃくしゃだった。

     大好きな歌を口ずさもうとして、泣いてしまうほどに。

     だけどずっと裕子が傍にいてくれた。

     裕子自身は『色々考えてもほたるちゃんを元気付ける方法が思いつかない――!』と内心頭を抱えていた旅路ではあったけど、裕子が傍にいてくれたことが、ほたるにとってどれほど嬉しかったか。

     自分と同じように不可能に挑んで、自分と違っていまでも折れずに居る裕子の存在が、どれほど励みになったかわからない。

     裕子と出会わなかったら、今でも自分は同じように沈んでいたに違いないのだ。

     そして、愛海は衝撃だった。

    『好きなものを好きじゃないふりをするなんて、いやじゃない』

     たぶん愛海自身は何の気なしに口にしたであろうそのシンプルな言葉は、ほたるを強くゆさぶっている。

     愛海の『好き』はシンプルだ。

     愛海は自然体で好きを語り、感じたことを口にする。

     その様子は何よりも雄弁に、ほたるに『素直になっていいんだ』と語りかけてくれているようでもあった。

     出会って1日の自分たちのために観光案内を買って出てくれる心意気も、嬉しかった。



    65: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)03:44:33 ID:akv
    だから今朝、ほたるは二人の提案に答えることが出来た。

     一緒に行ってみよう、楽しんでみよう。

     愛海さんのように自然体で、色々なことを感じてみようって。

     列車が走るたび、窓の景色があたらしくなっていくように、ほたるの心もどんどん新しくなっていく。

     三人で北海道を行く気短い旅の間に、ほたるは自分の心が少しづつ活力を取り戻していることを感じていた。

     もう演技じゃなく、笑うことができる。

     自分の中にあった悲しみや苦しみを、ちゃんと見ることが出来る。

     そして――

     だからこそ気付いた、疑問がある。

     それはほたるの一番奥に横たわって、今まで気付くこともできずにいた疑問だった。

     今もまだ、その疑問は完全には形になっていなくて、言葉に出来ない。

     だけど、それは自分が正視して、はっきり答えを出さなくてはいけない疑問なんだとも、解った。

     三人で笑って旅をしながら、白菊ほたるは何度も想像する。

     もし、裕子さんに出会う前に愛海さんに出会っていたら、どうなったろう。

     きっと自分は悲鳴を上げて遠ざかろうとしただろう。

     愛海の言葉を聴く余裕だって、なかったろう。

     逆に、愛海さんと出会わない自分は、どうだったろう。

     もしかして自分は優しい裕子さんに甘えて、自分の中の『疑問』を自覚できないままで旅を終えたかも知れない。

     そうしたらきっと自分は、いつかとても後悔したに違いないのだ。

     二人がいたから、自分はすこしづつ元気になることができた。

     自分自身を、ちゃんと見ることができた。

     だから二人に、聞いてほしかったのだ。

     自分に色々な切欠をくれた、あの歌を――

    66: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)03:45:15 ID:akv
     スマホにスピーカーを繋げて、三人でそれを囲んで、歌を聴く。

     裕子はそれがあの時自分が鼻歌で唄おうとした歌だと気付いて、ほたるを見た。

     ほたるは大丈夫です、と笑ってみせた。

     やがて曲が終わると、何も言わずに愛海が曲をリピートさせた。

    「いい歌だね」

     短く笑って聞いて、またリピート。

     そして何度も聞くうちに、裕子がそこに合わせて唄い出した。

     ちょっと歌詞が曖昧なまま、愛海も唄い出す。

     二人の歌声は、とても綺麗だ。

     アイドルになるためレッスンをしてきたほたると比較すれば技術は今一歩だけど、声そのものの美しさは目を見張るものがあった。

     ああ、仲良くなった候補生の子たちも、こんな素敵な声だった。

     ほたるは、何度も重ねてきた歌のレッスンを思い出す。

     今はどこにも無い事務所で、ヒマを見つけてはみんなで好きな歌を歌ったっけ。

    67: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)03:45:32 ID:akv
     やがてほたるも、二人に合わせて唄い出した。

     唄いながら、いろいろなことを思い出す。

     不幸で苦しいばかりだったころ、この歌とアイドルが希望をくれたこと。

     何度も何度も飽きずに練習して、おかあさんに怒られたこと。

     初めて上京するとき、列車に揺られながら、スマホに入れたこの歌を何度もなんども聞いたこと――

     思い出すいろいろなことがそのまま溢れて、歌に乗って流れ出すみたいだった。

     ふと気がつくと、いつの間にか裕子も愛海も歌うのを止めて、ほたるの歌に耳を傾けていた。

     一瞬目を丸くして、それでもほたるが最後まで唄いきると、二人は笑って拍手した。

     いつまでもいつまでも、拍手した。

     思わず、涙がこぼれそうになる。

     ああ、大好きな歌で誰かが喜んでくれるって、なんて嬉しいことなんだろう。

     誰かを笑顔に出来るって、なんて素敵なことなんだろう。

     ほたるは目を閉じて、その拍手と二人の笑顔を噛み締めた。



                     ◇◇◇

    68: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)03:45:56 ID:akv
    「そういえば、気になっているんだけど」

     棟方愛海がそんなことを言い出したのは、日暮れまでの残り時間がそろそろ少なくなってきた、そんなころ。

     かわらず歌を聴きながら、次はどこで降りようか――と三人てガイドブック広げて相談していたときの事である。

    「北の方に行くにしたがって、美少女旅行者を見かける率が上がってない?」

    「ああ、それは確かに」

     難しい顔で、裕子も愛海の知見に同意する。

     これはって女の子を見かけるたび、ニコニコお近づきになりに行こうとする――そして当然お山を狙う――愛海がヒョイッと居なくなる回数は午後に入って列車やバスを乗り継ぐたびに、確かに増えていた。

     愛海がお山を狙う情熱と美少女を探し出す審美眼はそりゃもう確かなもので、列車の中だろうと駅の雑踏の中だろうと、必ずカワイイ子を見つけ出して突撃する。

     何も知らない美少女のお山を守るべくエスパーユッコが出動したことも、一度や二度ではないのである。

    「なにか、美女が多い地方だったりするのでしょうか、このへん」

    「美少女は美少女を呼ぶ。これも裕子さんやほたるちゃんと一緒に旅をしているからだよねきっと」

    「わ、私は」

    「いえ、裕子さんはとってもステキです」

     褒められ慣れてないのか赤くなる裕子に追い討ちをかけたのはほたるだ。

     なにせアイドルを目指していたのだからこっちも容姿に関する目は確かだ。

    「裕子さんって身長は私とそれほど変わらないけど、スタイルいいし、笑顔もステキで――触れる機会がなかったけど、今までの事務所でもなかなか見なかったぐらいの」

    「そこまでにしましょうほたるちゃん、そこまでに」

    「うひひ、照れる裕子さんも可愛い」

     普段の元気と恥じらいのギャップが最高です、とご満悦で裕子の照れ顔を堪能してから、愛海はさて、と話題を切り替えた。



    69: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)03:46:18 ID:akv
    「どこかで軽く食べたら、今日のシメはあたしのオススメの町に行こうよ」

    「お勧めの町――?」

     美少女が沢山いたりするのだろうかと益体も無い想像をするほたる。 

    「すごく綺麗な町で、ステキな庭園があるんだよ。暗い時間だと灯りがロマンチックで――どうしたのほたるちゃん」

    「いえ、なんでも」

     自分の偏った想像を反省するほたるにへんなの、と首をかしげて愛海は言葉を続ける。

    「ちょっと遅い時間になっちゃうけど、お父さんが宿を取ってくれた町まではちゃんとそこからバスが出てるから問題なし。どうかな?」

     ほら、と時刻表を見せてくれる。
     
    「去年行ってステキだったから、もう一度行きたいって思ってたんだよ、ね、是非!」

     ははあ、とにかく北に行こうといっていたのはそれでか、と笑って納得するほたる、裕子。

    「愛海ちゃんの観光案内はここまで確かでしたからね。楽しみです」

    「はい、その町、見てみたいな――私も楽しみ」

     ほたるは笑った。

     素直に楽しみだと言うことができた。
     
     きっと三人なら、どこに行ったって楽しいから――。

    70: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)03:46:40 ID:akv

    ◎日暮れ/某所バス停留所


     北海道の夜は、本州よりもずっと早く来るような気がする。

     山に太陽が隠れても名残を惜しむように明るさが続く――そんなほたるたちが知っている夕暮れとは、違う。

     一度太陽が低くなるとそのまま潔く明るさが失せて、あっという間に夜になってしまう、そんな風に思えた。

     自分たちの住んでいる町と何が違うんだろう。

     平地ばかりだからだろうか、それとも緯度が高いからだろうか。

     自然が手付かずで人工の灯りがない場所が多いから、そのせいもあるのかもしれない――

     もし旅人に余裕があれば、そうやって自分が知るほかの土地との違いに思いを馳せ、旅情を味わうことが出来ただろう。

     だけど、白菊ほたるたちはそうではなかった。

    「――バス、来ないね」

    「はい」

    「おかしいなあ」

     町外れ、宿を取ってある町に向うバスが出るバス停の前で、ほたるたちは不安げに顔を見合わせていた。

    71: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)03:47:25 ID:akv
     愛海がお勧めしてくれた町は、とても素敵だった。

     まるでヨーロッパの北国のような自然に目を丸くしたり、雪をかぶった綺麗な庭園を歩いたり、展望台からたくさんのタンチョウを見て歓声を上げたり――

     とにかく寒かったけどそれが気にならないぐらい楽しくて、今日は宿で楽しい思い出話も出来るに違いないと、三人ともそう思っていた。

     全ての観光を終えて町外れのバス亭に移動して、宿をとってある町に向うバスに乗ろうとするまでは、だ。

     そう、いくら待っても来るはずだったバスが来ないのだ。

     おかしいな、おかしいなと言っている間にどんどんあたりは暗くなって、ほたるたちは街灯も少ない町外れのバス亭に取り残されたような格好になる。

    「雪も積もっていますし、何かのトラブルでしょうか」

    「うーん、来るときは何もなかったですけどねえ」

    「おかしいなあ、あたしが持ってる時刻表だともうとっくに来ているはずなんだけど」

     愛海は去年旅行に来たとき買ったのだというこのあたりのバスの時刻表を広げて難しい顔をする。

     寒い中三人で身を寄せ合って時刻表を確認すると、確かにもう30分も前に次の町に向うバスが来てなくてはおかしいはずである。

     だが。

    「あれっ、ちょっと待ってください」

     裕子が、声を上げた。

     バス停に張られた時刻表に目をやったのだ。

    「――色が褪せててよくわかんないですが、こっちの時刻表、愛海ちゃんの時刻表と色々違ってないですか」

    「え!?」

     見れば確かに、色褪せた時刻表は、愛海の持っている時刻表より随分とスカスカしている気がした。

     目を凝らして確認して――愛海はやがてえーっと声を上げた。

    「夕方からの便がなくなってる――!?」

     愛海たちは知らなかったが、北海道では不採算から本土よりずっと早いペースでバスの減便が続いている。

     この町から出るバスも同じことで、愛海が知っているよりずっと早く、最終便は出てしまっていたのだ。

    「――え、これ、どうしよう」

     自分の周囲を見回して、愛海はほたるたちと出会ってから初めて、明確に慌てた様子をみせた。

    72: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)03:48:12 ID:akv
     それはそうだ。周囲はすっかり暗く、周囲は自然ばかりで目に付く家の一軒もない。

     そもそも案内を買って出た愛海も数回、ほたるたちに至っては初めて来た場所なのだから、皆しっかりした土地勘などない。

     要するに三人で、観光に訪れたよく知らない小さな町で、立ち往生してしまったのだから。

    「落ち着きましょう、タクシーとか拾って、町に戻ればいいことですから」

     大したことないですよ、と年上らしく笑って落ち着かせようとする裕子の顔も、やはり不安そうである。

    「そもそもタクシーが通るかな、ここ」

     呟く愛海も昼間と違って元気が無かった。

     町外れで、暗くなって、さっきから車なんか通らない。

     ほんの時々荒々しい運転の4WD車が通り過ぎていくけどどれもけっこうな勢いで、とても助けを求められる感じではない。

     暗くなるにつれ、あたりはどんどん寒くなる。

     冬の北海道の夜に立ち往生――それがシャレにならない事態だということは、誰にだってわかる。

     それに愛海には自分が古い時刻表をアテにしたから、という負い目もあった。

     とても平気ではいられないではないか。

     それぞれに不安を抱えて、これからどうしようと話す二人を、ほたるは黙って見ていた。

     昼間あれほど明るくて、自分を勇気づけてくれた人たちが不安そうにしている。

     空を見上げると、あれほど明るかった空はもう暗くて、星さえ見えなくて。

     冷えていく空気と一緒に、忘れていた冷たい気持ちがすうっ、と胸の中に蘇っていくのを、ほたるは感じた。

     そうだ、これはひょっとして――



    73: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)03:48:34 ID:akv
    「――ごめんなさい」

     ぽろりと、口から謝罪がこぼれていた。

    「ごめんなさい、きっと、私のせいなんです」

    「え、いや。どう考えてもほたるちゃんのせいじゃないよ?」

     突然俯いて謝り出すほたるにあわてたのは愛海だ。

    「だってほら、あたしが時刻表の新しい奴を確認しなかったから――」

    「だって、昨日もそうだったんです」

    「きのう?」

    「昨日だって列車が止まって、予定していた町にたどり着けなくて。今日もこうして足止めを受けて――私と一緒に旅をしているから」

    「ほたるちゃん」

    「私が何も考えずに飛び出したから。おかあさんたちも心配させて、お二人にも色々苦労をかけて、せっかく、私を元気付づけようとしてくれてる人に、何度も不安な思いをさせて――」

     裕子の制止を振り切って、言葉を繋ぐ。

     言葉を口に出すということは、自分の中にあるものを形にするという事でもある。

     言葉にしていくうちに、ほたるは自分の中の罪悪感がどんどん形を取っていくのを感じざるを得ない。

    「――私が旅に出なければ、きっと、お二人はここで不安な思いをするようなことはなかったのに!」

    74: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)03:49:00 ID:akv
     裕子は物事の明るい面を見せてくれる、とても素敵な人だ。

     愛海はなんだか憎めない、人の心を暖かくしてくれる人だ。

     二人に出会えて、嬉しい。

     二人に会えていなかったら、自分はどうなっていたか解らない。

     二人に会えて、とても楽しかった。

     だけど、二人はどうだろう。

     二人は自分に出会わなくても、きっと普通に過ごしていた。

     二人は自分を助けてくれているけど、それは二人にいらぬ負担を強いているだけなのではないか。

     二人に会えて嬉しい。

     だけどそのせいで今、あんなに明るい二人に不安な顔をさせてしまった。

     それが今、辛くて辛くて仕方なくて――

    「ほんとならお二人が、私に付き合う義理なんてなかったのに。ごめんなさい――!」

     ほたるはワッと泣き出してしまう。

     ――のだが。

    「あれっ、あたしとしては素敵なお山を堪能させてもらった上に美少女と旅行ができるだけでお釣りがくる感じだったんだけど」

     シレッと言う愛海。

    「えっ」

    75: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)03:49:39 ID:akv

    「えっ」

    「でもほたるちゃんの気がすまない感じなら、もう一回登山させてもらっていい?」

     さらに愛海が手をワキワキさせて肉薄してくるもんだから、ほたるの瞳から流れ出しかかった涙も中途半端に止まってしまうしかない。

     とりあえずお山を緊急ガードしてあわあわと退避。

    「そこまでですよそこまで!」

     『うひひ逃げる美少女も素敵だなあ』とか言ってほたるに肉薄しようとする愛海の襟首を雑に押さえて、裕子はまっすぐほたるを見る。

    「愛海ちゃんじゃないけど、私もおつりがくる感じなんですが」

    「えっ――」

     ほたるを慰めるというより素の感想を口にするような裕子の調子に、ほたるは目を見開いた。

     見開いた瞳一杯に、ぱっと笑った裕子が映る。

    「私、そもそも予知夢を見て北に向かう旅に出るつもりになったんですよ? その旅にほたるちゃんみたいな道連れが出来たってだけでかなり嬉しいです」

    「あ――」

    「それに電車が止まらなかったら愛海ちゃんとも出会わなかったし。最初はどうかと思いましたけど、付き合ってみると楽しくていい子ですよね愛海ちゃん」

    「うわ、なんか照れる」

     褒められ慣れていないのかおどけているのか、襟首押さえられたままくねくねと恥らう愛海。

     自分ひとりだったら絶対出会わなかったような新しい友達が一人、二人と増えた。

     それだけで旅の成果としては充分以上じゃないかと裕子は思う。

     それに、ほたるに受けた衝撃は、今も真新しく裕子の胸にあった。

     1つの夢が潰えることが、その人を叩き潰してしまう。

     それは残酷なことだけど、そんなにまで夢に打ち込めた人を、堀裕子は他に知らない。

     自分もいつかそんな風に、何もかもをかけて打ち込める夢を見つけてみたい――

     ほたるは裕子の胸に、新しい情熱の火をともした。



    76: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)03:50:19 ID:akv

     この火の価値は何者にも替えがたいって、裕子はそう思うのだ。

     ああ、それに、そうだ。

     そういう面倒くさい理屈は放っといて――

    「だいいち、楽しかったじゃないですか」

     裕子は笑って、そう言い切ることができた。

    「色々あったりするけど、ほたるちゃんと一緒にいて、三人で旅して、いろんなことして、唄って、ご飯食べて――楽しかったじゃないですか、これまでの旅」

    「あたしも楽しかったよ!」

     シュパッと挙手して申告する愛海。

    「お山もそうだけど、誰かと旅するのって楽しいよね。でも、誰と旅しても楽しいってわけじゃないよきっと――で、ほたるちゃんたちとの旅は楽しい!」

     好きなものを、愛海は決して隠さない。

    「ほたるちゃんは違う?」

     愛海のブラウンの瞳が、屈託なくほたるを捕らえた。

    「――違わないです」

     ほたるも、それは同じだった。

    「私も、私も、楽しかったです」

    77: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)03:50:32 ID:akv
     そうだ、楽しかった。

     素敵な二人と一緒に、いろいろなことが出来た。

     色々なことがあったけど、発端は苦しくて仕方の無いことだったけど、二人と出会った後の旅を思い返せば、色々な出来事が、どれも楽しくて仕方がなかったような気がするのだ。

    「なら、それでいいじゃない」

     愛海は、笑って言った。

    「はい」

     ほたるは、ぐすんとすすり上げて、頷いた。

     笑って二人になにか言おうとして上げた顔が、突然眩しい光に照らされる。

     グオオオオン!!

     低く唸るようなエンジン音。

     暗さに慣れていた目には強すぎる光に三人が目を細めるのと、雪道を蹴立てて走る大きな4WD車が地面を削るような音を立てて三人の傍に停車したのは、ほとんど同時のことだった。

    78: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)03:50:51 ID:akv

    ◎幸運の桟橋へ


     バス停の前を少し行き過ぎて止まったのは、真っ黒で大きな4WD車だった。

     ほたるたちに車種や正確な種類はわからないが、ほたるたちが見た事のある4WD車より、一回り大きいような気がする。

     暗いからか、何かのフィルムでも貼っているせいかで車の中はぜんぜん見えないし、大きくて四角くてごつい車体、太いタイヤには無言の威圧感があった。

     移動手段がなくて困っていたところなのだからラッキー! と喜んでもよさそうなものだったが、なんだかそうする気になれないのはその威圧感のせいだったろう。

     三人はなんとなく身を寄せ合って、赤く光るバックライトを見詰めた。

     やがて車はもう一度唸り、バックして三人の前で止まった。

     運転席のパワーウインドがゆっくりと開いて――

    「!?」

    「!?」

     ほたると愛海が竦みあがった。

     だって、運転席の窓から顔を出したのは、車同様ごつくて恐い感じの、外人のおじさんだっからだ。

     どのぐらい恐いかというと正義のエスパーユッコが思わず年下二人を後ろにかばっちゃうほどだ。

    「Вы в порядке?」

     しかもその声ときたら低くて洋画の悪役みたいなのだからたまらない。

     不安な思いをしていた三人が、思わず警戒してしまうのも仕方ないという物であろう。

     だが、この警戒も長くは続かない。

    「待ってください。Отец……パパ、恐くない、ですね」

     今度は後席の窓が開いて、ほっそりした姿の銀髪の女の子が顔を覗かせる。

     三人で、目を丸くした。

     だって、顔を出したのはもんの凄い美少女だったのだ!!

     どのぐらい美少女かと言うと、愛海がウヒョーと叫んで我を忘れ、飛び掛りそうになったほどだ。

     もし裕子とほたるが愛海を取り押さえるのがもうちょっと遅かったなら銀髪美少女のお山はおもうさま蹂躙され、少女の乳もとい父は激怒し、このお話はここで終わっていたかもしれない。



    79: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)03:51:08 ID:akv
    「もしかして、立ち往生ですかと、パパ、聞いてます」

     愛海を取り押さえる一瞬の攻防には気付かず、銀髪の少女は父親の意図を説明した。

     銀の髪、白い肌、青い瞳。

     すらりとして、洗練されていて――もしも雪の精霊がいたならこんな姿をしているのかも知れない、とほたるは思う。

     外国の子、もしかしたらハーフなのだろうか。独特のゆったりした口調には独特なイントネーションがあったけど、それが彼女にかえって暖かさをつけ加え、その魅力を増しているようにも思える。

    「あ、はい。そうなんです。夜の便で次の町にいけると思っていたら、バスがもうなくて」

    「この路線のバス、減便になったの、つい最近です。時々皆さんのように立ち往生する人、いますね。パパ、そういう人がいないか、気をつけています――Отец?」

     裕子の説明にやっぱりと頷き、銀髪美少女は父親に外国語でなにやら説明し始めたようだった。

    「たぶん、ロシア語かなあ」
     
     しばらくそのやり取りに耳を傾けてから、愛海はそう結論した。

     言葉の調子からアテをつけたのだ。

    「えっ、愛海ちゃん、解るんですか」

     ほたるは目を丸くする。

    「私なんだか『知らない外国語』ぐらいにしか思わなかったです」

    「いや、前に八戸のお町で見た船員さんが、あんなふうな言葉で喋ってたからそう思っただけで――あーでもいいなあロシア語。勉強したいのと持ちかけたらあの子が手取り足取り教えてくれたりしないかなあ」

    「ダメですからね、親切にしてくれているんですから」

     うひひと笑いそうな愛海を裕子が嗜めたところで、ぶうん、とエンジンが大きく吹かされた。

    「パパ、皆さんの宿まで載せてくれる、言ってます。乗ってください」

     銀髪美少女が、笑って三人に手を振った。

     その笑顔の明るさと不安から解放された安心感で、三人はわっと声を上げて喜んだのだった。



                     ◇◇◇

    80: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)03:52:11 ID:akv
     大きな4WDは雪道を物ともせずに走る。

     ごついタイヤはしっかり雪道を捉えて不安を感じさせないし、先ほどほたるたちの目をくらませたヘッドライトも、いまは雪原をしっかり照らし出して頼もしいと感じられる。

     暖かい車内で広い後席に少女四人が並んで座り(なお、登山家美少女は銀髪美少女から一番遠い席に配置された)、ほっと一息。

    「Добрый вечер。私、アナスタシアです。あの、アーニャって呼んでください」

     ようやく三人の緊張が緩んできたところで、銀髪美少女の自己紹介。

    「あたし、棟方愛海。拾ってくれてありがとう! しかも拾ってくれたのがこんな美少女だなんて、運命感じちゃうな!」

    「堀裕子です。さっきはごめんなさい、折角親切にしてくれたのにアーニャちゃんのお父さんを怖がっちゃって」

    「いいんです。パパ、よく恐がられます――でも本当はとても優しいです」

     そう言って運転席の父親を見るアナスタシアの視線も、とても優しい。

     きっと仲がいい親子なんだろうと、ほたるは想像する。

     そういえば、戻ったら鳥取の両親にはどうやって謝ろう。

     説明はしたからひどく怒られはたりしないだろうけど、ずいぶん心配をかけてしまっている。

     どんなに謝っても、そのことはきっと償いきれなくて――と考えに沈みそうになったところで、ほたるはようやくアナスタシアがあの青い瞳で無邪気に自分を見詰めていることに気がついた。

     そうだ、自己紹介の途中だったじゃないか。

    「あ、ご、ごめんなさい、私は白菊ほたる、13歳です。鳥取から来ました。趣味はアイドルレッスンと笑顔の練習で――」

     慌てたついでに、オーディションために何度も練習したような調子で自己紹介をしてしまう。

    「кумир! やっぱり」

    「えっ?」

     ほたるの自己紹介の何が面白かったのか、アナスタシアはぱあっと笑った。

    「丁寧に、ありがとうございます、アツミ、ユウコ、ホタル――あの、それで、私、皆さんに聞きたいことがありますね」

     わくわくと、何かを期待するようにこちらを見詰める青い目。

    81: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)03:52:26 ID:akv
    「私たちに、ですか」

     吸い込まれそうな綺麗な目にどぎまぎするほたるに、アナスタシアはちょっと子供っぽい動作で頷いた。

    「はい、三人は旅の途中みたいでした。この後、どこに向う予定でしたか?」

    「実は、予定らしい予定はなくて」

     何かを期待するようなキラッキラした目で見られる居心地の悪さに縮こまって、ほたるは自分たちの旅に予定らしい予定が無いこと、明日の事は今夜宿で相談しようと思っていたことなどをかいつまんで説明する。

    「ああ、そうでしたか。残念です。あてが外れました……」

     そしたら何故だか、アナスタシアはがっくりと消沈するではないか。

    「えっ、えっ、残念ってあの、どうして」

     まさか恩人をがっかりさせてしまうとは思ってもみず、したたか慌てるほたる。
     
    「もしかしたら三人とも、阿寒のイメージガールコンテストに出場しに来たのかと思いました」

     残念です、としょぼんとした調子で説明するアナスタシア。

    「コンテスト――ですか」
     
     ここで聞くとは思っていなかった言葉だった。

     ほたるは思わず、聞き返してしまう。

    「はい、三人とも、とてもカワイイですし、ホタルはкумир――アイドルのレッスンしていると言いました。それに、三人が泊まる町、阿寒へのバスが出ます。だから、もしかしてと思ったんです」 

    「なんですか、そのコンテスト」

     そもそもイメージガールってナニ、みたいな顔で首をかしげる裕子。

    「阿寒湖に面した町が、そういうコンテストをするんです。都会の芸能事務所が協力して、大きなキャンペーンをするから――そのイメージガール、探していますね」

    「ああ、それで道中かわいい子が多かったんだね!」

     謎は解けたと愛海は一人納得する。



    82: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)03:52:48 ID:akv
    「実は友達に誘われて、私もそれに出場しますね――だけど、一緒に応募した友達は行けなくなって、私ひとりです。心細いから、あなたたちもそうならいいのにって、思いました」

    「ふむふむ――あっ、これですね!」

     アナスタシアの説明を聞きながら検索をかけていたらしい裕子が、それらしいサイトを見つけて声を上げた。

     四人でくっついてスマホを覗き込む。

     その町の公式サイトに、すずらんの花と青い湖が配されたイメージガール募集の特設ページが追加されている。

     曰く、町のイメージガールとして一年間町の広告活動に従事してくれる女の子を選ぶために、町主催のコンテストを開催する。

     本来は事前に応募してもらうけど、当日の飛び入りも大歓迎。

     もし合格すれば阿寒湖にまつわる歌を歌ったり、北海道で様々なテレビ番組やイベントに出てもらう。

     東京の大きな芸能事務所が協力しているので、東京のテレビに出たり、唄ったりすることもある――

    「つまり、期間限定のアイドルみたいなものなんですね」

    「はい――この事務所、私も知ってます。凄い大手さんですよ」

     ざっくりと総括する裕子に頷きながら、ほたるは自分のスマホで阿寒湖のほとりの町、阿寒町について検索した。

    83: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)04:38:48 ID:akv
     阿寒町は阿寒湖に面した湖の町で、アイヌの大きなコタンがあるのだという。

     検索していくと、大きな木彫りのふくろうが町に鎮座している写真があった。

     そのふくろうはコタンコロカムイという、夜の村を守る神なのだという。

     悪いものが村に入ってこないように目を光らせる、人々の守り神なのだ。

     サイトにも配されていてたすずらんは町の花で、花言葉はしあわせの再来。

     それにあやかってか湖に面した『幸運の桟橋』からは『すずらん丸』と名づけられた観光船が出ているのだとか――

     悪いものから守る神がいる、幸運の花の町。

     その言葉がなんだかすごく眩しくて、ほたるは何もかも嫌になって飛び出したことも忘れて、「いいなあ」と思った。

     この旅では、色々なことがあった。

     旅立ったときはひどく絶望していたけど、裕子さんや愛海ちゃんと出会えて、明るい気持ちになれた。

     最初は目的地なんかなかったけど、旅を続けて来た果てに幸運の花の町に出会うなんて、自分には出来すぎのような気がした。

     もしその町に行ったら、そんな縁起のよさそうなコンテストに出たら、自分も少しは幸福に近づけるのだろうか?

     飛び入りで自分なんかが参加しても、きっと受かることはないんだろうけど―― 

    「つまりその町に行けば美少女が沢山居るんだよね?――あたしそこに行きたい!」

     美少女登山家棟方愛海は、大興奮だった。

    「しかもコンテストに出れば沢山の美少女と合法的にお近付きになれるチャンスがある――あたし、出る! コンテストに出るよ!!」

     しかもほたるの感じている逡巡をぽーんと飛び越えて、参加を表明するではないか。

    「――ほたるちゃんも、出てはどうでしょう」

    「裕子さん――」

     ほたるの肩に手を置いて、堀裕子が笑っていた。

    84: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)04:39:16 ID:akv
    「色々あった旅の終着点が幸運の町なんて、ステキじゃないですか――これこそが私の予知の運命だったかもしれませんよ」

     でも、と言いそうになるほたるを、裕子はじっと見ていた。

     ああ、そうだ。

     裕子さんはずっと、私を見てくれていた。

     ほたるは思い出す。

     裕子さんは私を駅で見つけてくれたときからずっと、私を見ていてくれた。

     私を元気づけようとしてくれた。

     青森までの長い列車の旅で、自分の夢が砕けた話をして――

     でも裕子は決して『きっと大丈夫だ』なんて、言わなかった。

     『ほたるならアイドルになれる』なんて軽い言葉は、口にしなかった。
     
     ただ、ほたるの心が癒されるよう、笑顔になれるよう、心を砕いてくれていた。

     その裕子が初めて、コンテストに向けてそっとほたるの背中を押した。

     その事の意味が、ほたるには解るような気がした。

     それは、ずっとほたるの中に横たわっていた疑問の答えと、きっと同じだった。

    「不安なら不肖・エスパーユッコも一緒に出ましょう。私のサイキックがあれば安心です!!」

     太陽みたいな裕子の笑顔が、はじけた。

     なんの保障にもなりそうにないのに無闇に自信ありげな言葉に、ほたるはぷっと吹き出してしまう。

     いつの間にか、心の中にもうなくなっていたと思った力があった。

     それが溢れて、笑いになった。

    85: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)04:39:42 ID:akv
     ほたるが笑う。

     わらって、笑って、笑って。

     とても楽しそうに笑って、みんながどうしたのかとそれを見て。

    「――私も出ます、コンテスト」

     アナスタシアが目を丸くするぐらい笑ってから、ほたるは控えめにそう宣言した。

     イメージガールそのものは、アイドルへの道に直接繋がっているとは言えない。

     その切欠が出来るぐらいだろう。

     だが、それでもいい。

     いや、そもそも合否はどうでもいい。

     挑戦してみようと、そう思えたのだ。

    「いいんですか」

    「――諦められていないことを、諦め切れたふりをして暮らすのは、きっと無理ですよね」

     確認する裕子に、ほたるは頷く。

     それはずっとほたるの胸にあった疑問の答えだった。

     自分は届かなかった。

     自分はアイドルになれる力がなかった。

     だから砕けて、諦めた。

     でも、自分は本当に諦めきれていただろうか。



    86: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)04:40:32 ID:akv
     二人と旅して元気を貰った。

     みんなで歌を歌った。

     あのとき一緒に歌えたのが、どれほど嬉しかったか解らない。

     自分が素敵だと思っていたことはやっぱり素敵だったと、知ることが出来たから。

     自分の胸の中で、あの時の憧れが今でも輝いてると、再確認することが出来たから。

     アイドルへの憧れを捨てられる?
     
     すっぱり諦めて、それを見ずにこれからを生きていける? 

     ずっと自分の中に横たわっていた疑問。

     好きなものを好きでないふりをするのは嫌だと、愛海は言った。

     答えはきっと、最初からそれだった。

     たとえ苦しくても、才能がなくても、自分に手が届かない星だとしても――アイドルへの憧れを捨てるなんて、無理なんだ。

     私はアイドルが好きなんだ。

     ずっと私を労わってくれた裕子さんが、コンテストに出ないかって言ってくれたのは、きっとそれでだ。

    87: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)04:41:09 ID:akv
    「裕子さんは、知っていたんですよね」

    「えっ」

    「アイドルから目を背けたままじゃ、私はきっと元気になんかなれないって」

     裕子は小さくはにかんだ。

    「そこまではっきり思っていたわけじゃないです――ただ」

    「ただ?」

    「ずっと打ち込んでた夢を捨ててしまったら、その後ほたるちゃんはどんな顔をして暮らすんだろうって、考えたんです」

    「――」

    「いままでの全部を賭けてきた夢を全部捨てて、見ないふりをしてるほたるちゃんが、楽しそうな顔をしてるところが想像できなかったんです。そんなのは嫌だって、思ったんです」

    「――私、裕子さんみたいになりたいです」

     それはほたるの、素直な気持ちだった。

     サイキックとアイドル。

     追っているものは違っても、誰からも『できっこない』と思われているものを追いかけているってことでは、裕子と自分はよく似ていた。

     違うのは、夢を捨てようとした自分と違って、裕子は何度失敗してもあきらめていなかったって事だ。

    「何度失敗しても、誰から無理だって言われても自分の夢を追いかけていけるようになりたいです。裕子さんみたいに強くなりたい」

    「ほたるちゃんは強いですよ」

     裕子は明るく請け負った。

    「だって、結局ほたるちゃんはもう一度頑張ろうって気になったんですから」

    「――ありがとうございます」

     それはきっと、裕子と愛海がいなければ出来ないことだった。

    「アナスタシアさん、明日は、みんなで一緒に行きましょうね」

    「いいのですか」

     誘ったこととはいえ、予定していなかったことではないのか。

     少し遠慮がちな様子を見せる銀髪の彼女に、ほたるは頷く。

    「アナスタシアさんが教えてくれたから、私、思いきれたんです。どんなお礼をしても足りないぐらいです」

    88: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)04:41:25 ID:akv
     思い返せば、不思議に思う。

     裕子さん、愛海ちゃん、アナスタシアさん。

     三人のうち誰に会わなかったとしても、私は阿寒町に行ってみようなんて思わなかったろう。

     もういちど挑戦してみようと思えたのは、もしかしたらもっとずっと先の事だったに違いない。

     幸運――なんてものが自分にあるのかは解らないけど、なにか不思議なめぐり合わせのようなものを、ほたるは感じずにはいられなかった。

    「それに――」

    「что?」

     きょとんとするアナスタシアの手を、ほたるはそっとそっと握った。

    「アナスタシアさんと知り合って、友達になれたら――きっとそれだけでお釣りが来るくらいですよ。ね?」

     ほたるは笑う。

     愛海も、裕子も、アナスタシアも笑う。

    「では明日は4人で乗り込んで、上位を独占してやりましょう!」

     えいえいおー。

     景気をつけるように拳をふりあげる裕子に、みんながあわせた。
     
     明日は四人で阿寒町に乗り込む。

     そう決めて四人は同じ宿に泊まる。

     四人で夜遅くまで、本当に沢山の話をした。

     北海道のこと、旅のこと、お互いのこと、アイドルのこと――
     
     それは眠るのが惜しくなるような、楽しい楽しい一夜だった。
      

    89: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)04:41:38 ID:akv
    ◎翌日17時前後/阿寒町・幸運の桟橋付近


     そして四人はコンテストに乗り込んだ。

     コンテストは盛況で、美少女よりどりみどりの夢のような空間に愛海のテンションは最高潮に達する。

     なんとか愛海を押さえつつ、四人で様々な課題に取り組み、幾多のライバルを乗り越えて。

     そして見事イメージガールの栄冠を手に入れる――

     ことが出来たら、きっと綺麗なラストだったろう。

     だが。

     残念なことに、そうは問屋がおろさないのが人生というものだったのである。



                     ◇◇◇

    90: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)04:42:37 ID:akv


    「結局四人とも落選してしまいましたねえ」

     お立ち台の上でトロフィーを受け取って笑う女の子を聴衆の向こうから眺めて、裕子はあーあと肩を落とした。

    「しかたありません。あんなтрудно――難しい、アイヌの風習の問題なんて、出ると思いませんでした」

     アナスタシアもため息とともに首を振る。

     そう、いくつかの課題で絞られた候補者に示されたのは、アイヌに関する様々な風習や神話に関するマニアックなクイズだったのだ。

     もちろんそんなクイズに答えられるものがそうそういるはずは無い。

     それまで横並びで喰いついていた候補者も、結局今トロフィーを受け取ってる少女以外、そこで総崩れ――というわけだ。

    「あの子って、ここのアイヌコタンの女の子なんだって」

     湖畔の店で買ったレイクロブスターのフライをぱくぱく食べつつ、愛海は言った。

    「なんか、出来レースだったんじゃないかって。これ買ったお店で噂してる子がいたなあ」

     阿寒町はアイヌコタンと阿寒湖の観光が大きな比重を占める町だ。

     それにこれから町を中心に宣伝る事を考えたら、町出身の人間にイメージガールになってほしい、と考えるのは当然だったかも知れない。

    「――幻滅しましたか?」

     勇気を出して挑んだコンテストの結果がこれである。

     ほたるの心中はいかばかりか――と、おそるおそる声をかける裕子。

     だがほたるは無言で、暗くなってゆく『幸運の桟橋』を見詰めていた。



    91: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)04:43:52 ID:akv
    「今日はここで一泊するとして、明日はあたし、青森に戻らなくちゃ」

     残念ながらお小遣いがないのです、もっと旅していたいなあ、とため息をつく愛海。

    「――そうですね、そろそろ旅も終わりなんですかね」

     まだ桟橋から目を離さないほたるの背中を見詰めてぺしょんと眉を下げながら、裕子はため息をついた。

     福井から青森、北海道。

     移動ばっかりでいろいろトラブルもあった旅だったけど、思っても見なかったような人と知り合えて、感銘を受けることもあって、凄く楽しい旅だった。

     ただ、最後にほたるにステキな結果が訪れなかった。

     それだけが残念で――

    「ねえ、みなさん」

     くるっと、ほたるが振り返った。

     笑っていた。

    「また、今度は春休みに、四人で集まりませんか?」

    「春休みに――ですか」

     意外な提案に、裕子たちたは目を丸くした。

    92: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)04:44:08 ID:akv
    「そう、春休みです――だって、楽しかったじゃないですか。これきりで会えないなんて、私、嫌です」

     もう一度夢に挑もうとしたコンテストは出来レースだったかも知れない。

     だけど、ほたるの笑顔はさばさばとしていた。

    「今度は東京なんてどうでしょう。私、そのころは東京に居ると思うから、案内しますよ」

    「それってつまり――」

     裕子は、目を見開いた。

     ほたるは鳥取の生まれだったはずだ。

     東京に居るということは、つまり――

     ほたるは、夢に向けて、頑張り続けるということだ。

    「ああ、いいですね。凄くいいです」

     鼻の奥につんとするものを感じつつ、裕子は何度も頷いた。

    「私、東京をちゃんと観光してみたかったんです。是非、案内してください!」

     愛海もアナスタシアも、東京にはあこがれがあった。

     私もわたしもと同意して、四人で約束を交わして、アドレスを交換して。

    「旅――楽しかったですね」

     桟橋を見詰めて、ほたるは言った。

    「はい、とっても!!」

     裕子は心の底から、頷いた。



                     ◇◇◇

    93: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)04:44:27 ID:akv


     夕闇迫る桟橋の近く、四人の背後から歩み寄る影があった。

     きちっとした背広を身に着けた、大柄な男。

     町のコンテスト関係者は男とすれ違うたび頭を下げ、二言三言言葉をかける。

     どれも、コンテストが盛り上がったことに対する謝礼の言葉だった。

     男はコンテスト開催に協力していた東京の芸能事務所の人間ひとり、芸能プロデューサーだ。

     コンテストの途中から、男はコンテストの結果とは関係なしに何人かの少女に目を留めていた。

     周囲を輝かせるように笑いあう四人の笑顔を見て、男は自分の直感が間違っていなかったと確信する。

     ネクタイを直し、背筋を伸ばして、近付いていく。

    「すみません。少し、お話を聞いていただけないでしょうか――」

     男の言葉に、四人が振り返った。

     男は、名刺を差し出した。
     
     コンテストには、誰も合格しなかった。

     だけどこれから先、この名刺を切欠にして、四人の前には思っても居なかったような新しい道が開けていく。

     だけどこの話では、ここから先は語らない。

     ここから先は、きっとみんなが知っている物語だからだ――。



    【シンデレラガールズ劇場 第70話へ続く】



                    



                       (おしまい)



    94: ◆cgcCmk1QIM 2018/10/09(火)04:50:14 ID:akv
    ありがとうございました。

    長いものであり、列車の運行などに怪しい部分もありますが、読んでいただければ幸いです。

    95: 名無しさん@おーぷん 2018/10/09(火)04:54:10 ID:JRk
    乙でした!ホントに読んでて引き込まれる物語でした。
    仕事があるのに目が話せなくて、こんな時間まで最後まで読んでしまいました

    この4人がなぜ北海道で、って想像して、それにキレイに繋がる話でしたね
    (70話のセリフの口調から目をそらしつつ)
    また次の作品をお待ちしてます

    96: 名無しさん@おーぷん 2018/10/09(火)09:31:58 ID:xyE
    乙乙
    凄く良かった…

    劇場につながるのも鳥肌だわ

    97: 名無しさん@おーぷん 2018/10/09(火)13:02:38 ID:WGP
    これほんとすき



    98: 名無しさん@おーぷん 2018/10/09(火)20:15:45 ID:iv5
    乙です。
    珍しい組み合わせだと思いましたが、最後で納得しました。
    徹頭徹尾素晴らしい物語でした。

    99: 名無しさん@おーぷん 2018/10/09(火)23:11:50 ID:Wno
    乙でした

    素晴らしい物語です
    最後まで一気に読んでしまいました

    ありがとうございました



    引用元: 【モバマス】白菊ほたるの逃避行

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