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    関裕美「魔法の手鏡」

    1: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 09:39:48.50 ID:1zrb/YD+0
    裕美「あ。このガラス玉、きれいだな……」

     アクセサリーの材料を探していた私は、表通りからすこし裏路地に入った所で、小さなお店を見つけました。
     ショーウインドーを覗くと、そこにはキラキラした素敵な小物がいっぱい。

     そのお店の名前は……

    裕美「魔法を売る店……?」




    2: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 16:19:03.23 ID:bBMqw/ks0
    裕美「現在休店中? 閉店しました、とか、閉店時間中とかじゃなくて?」

     開店時間も書いていないそのお店は、『現在休店中』の札がかかり、鍵もかかっていました。

    裕美「やってない……みたいだね。残念だな」

     ガチャッ。
     その時です。中から男の人が出てきたかと思うと、かかっていた『現在閉店中』の札をひっくり返しました。

    P「やれやれ。ようやく到着しましたか」

    裕美「あ、あの」

    P「? はい」

    裕美「お店……その、やってるんですか?」

    P「はい。しばらく閉めておりましたが、また今日から」

    裕美「見せてもらえますか!?」

    P「もちろんです。どうぞ……魔法を売る店に」

    3: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 16:24:27.31 ID:bBMqw/ks0
    裕美「うわあ……!」

     お店の中は、不思議で、そしてキラキラした小物でいっぱいでした。
     宝石みたいなガラス玉、不思議な模様の描かれたプレート、小さなお人形さんたち。

    裕美「きれい……」

    P「本日は、どのようなものをお求めで?」

    裕美「あ、うん。最初はあのガラス玉がきれいだな、って思ったんだけど」

     お店の人は、なんだかつまらなさそうに私の指さしたガラス玉をひょいと手にしました。 と、親指と人差し指の間に挟まれていたガラス玉が、人差し指と中指の間、次は中指と薬指の間というふうに、次々と増えていきます。

    裕美「手品?」

    P「いえ、魔法です」

     真面目にそう応えるお店の人が、私はなんだかおかしくなりました。
     魔法?
     そうか、お店の名前が、魔法を売る店なんだもんね。そういうことにしておかないと。
     うふふ。

    4: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 16:28:53.20 ID:bBMqw/ks0
    P「なにか?」

    裕美「ううん、なんでもないの。それより……あれ?」

     気がつくと、私の手の中にはさっきのガラス玉があります。

    P「よろしければ、お持ち下さい」

    裕美「あの、いくらですか?」

    P「魔法のガラス玉は、お代をいただかないことになっております。いくらでも増やすことができますので」

    裕美「いくらでも?」

    P「いくらでも」

     そう言ってお店の人は、両手いっぱいのガラス玉を私に見せます。
     あれ? 今さっきまで、この人なにも持っていなかったんじゃなかったっけ?
     
     ?



    5: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 16:31:43.74 ID:bBMqw/ks0
    P「それよりも、他に色々な品をそろえておりますよ。火を噴く翼のあるの蛇ですとか、触れた液体をメロンソーダに変える黄金の指、蛙を使役できる金の鞠、コンニャクも両断できる刀……」

    裕美「私、そういうのはいいかな。あ、手鏡」

     小さなコンパクトの手鏡が、私の目に入りました。
     綺麗に装飾された、可愛い手鏡です。

    P「ほほう、なかなかお目が高いですね。それはあの有名な……あ、いやいや、前歴はお客様には関係ないことでした」

    裕美「?」

    P「いずれにいたしましても、なりは小さくなりましたが間違いのない逸品です」

    裕美「? よくわからないけど、すごく素敵。これは、いくらですか?」

    P「1000万円」

    裕美「え!?」

    6: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 16:33:07.80 ID:bBMqw/ks0
    P「が、元の値段でしたが、1000枚に割り分けたのでひとつあたりは1万円で」

     なんのことだかわからないけど、それにしても1万円かあ。
     これだけ綺麗な手鏡だと、やっぱりそれぐらいはするよね。

    裕美「それじゃあ、私には無理かな」

    P「……ではいかがでございましょう。本日は、久々に店を開けました記念すべき日。そして貴女はその第1号のお客様、ここは!」

    裕美「まけてくれるの?」

    P「ローンでいかがでしよう。いや、頭金に1000円だけ入れていただいて、残金は払えるようになってから……つまり出世払いというのは」

    裕美「そんなことできるの?」

    P「本日は、特別に」

    裕美「それができるなら……うん、この手鏡欲しいな」

    P「ありがとうございます。では……はい、1000円は確かに。残りはまた、いつかお願いいたします」

    裕美「うん! この鏡、大切にするね!」

    7: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 16:36:19.80 ID:bBMqw/ks0
     家に帰った私は、さっそくコンパクトを開いた。
     実はこういう手鏡が前から欲しかったんだ。

     私は目つきがきつい。
     人からよく「怒ってるの?」とか言われてしまう。
     鏡を見ると、自分でもそう思う。

     でもだからこそ、小まめに自分でも鏡を見て、恐い顔になっていないかチェックするようにしている。
     少しでも可愛く見られるように、努力しなくちゃね。

    裕美「本当に綺麗だな、この手鏡……あれ?」

     鏡面がなぜか、すこしピンク色になった。
     映ってる私の顔も、すこしピンク色になる。

    裕美「どうしたのかな? あ、戻った」

     鏡は一瞬で、もとに戻っていた。
     なんだろう?

    裕美「そういえばこれ、お店の人が『魔法の手鏡』って言ってたっけ。お店の名前も、魔法を売る店だったし……もしかして本当に、魔法の手鏡なのかな?」

     私はちょっとした冗談のつもりで、手鏡に話しかけてみた。

    8: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 16:40:59.27 ID:bBMqw/ks0
    裕美「鏡よ鏡、鏡さん。世界で1番可愛いのはだあれ?」

    鏡「それは……関裕美ちゃんです」

    裕美「きゃっ!」

     驚いた私は、あやうく鏡を落としてしまうところでした。
     しゃべった!? 今、鏡が喋ったの?

    裕美「今……しゃべったのはあなた?」

     返事はない。
     そもそも、鏡がしゃべるはずもないけど……

    裕美「じゃあ……世界で1番可愛いのは……だあれ?」

    鏡「それは……関裕美ちゃんです」

    裕美「しゃ……!」

     しゃべった!?
     鏡の中には……

    裕美「私……?」

    9: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 16:43:17.45 ID:bBMqw/ks0
    P「不良品?」

    裕美「うん。あ、いやそうじやないんだけど……」

    P「?」

    裕美「この鏡、しゃ……」

    P「しゃ?」

     私は周囲を確認し、店内に誰もいない事を確認してから店長さんに話しかけた。
     こんなこと……誰かに聞かれたら、ヘンな娘だと思われちゃうかも。

    裕美「しゃべったの」

    P「ああ、はい」

    裕美「……」

    P「……」

    裕美「え?」

    P「?」

    裕美「しゃべったんだよ!?」

    P「ええ、はい」



    10: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 16:43:47.09 ID:bBMqw/ks0
    裕美「おかしくない?」

    P「魔法の手鏡ですから……しゃべらないというなら、返品にも応じますが……しゃべったから返品したいというのは、理解に苦しみますね」

     私はびっくりして店長さんを見る。
     どう見ても真剣な表情だ。
     じゃあ……?

    裕美「……あの」

    P「はい?」

    裕美「ここってもしかして、本当に……」

    P「本当に?」

    裕美「魔法を売る店……なの?」

    P「はい。それはもう、店の名前にあるように」

    裕美「じゃあ……この手鏡も……」

    P「はい。魔法の手鏡で、ございます」

     私は言葉が出なかった。
     魔法の手鏡?
     だから、しゃべったの?

     ……でも。

    11: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 16:44:30.88 ID:bBMqw/ks0
    裕美「これ……壊れてるよ。魔法の手鏡」

    P「なんですって?」

    裕美「私の質問に……」

    P「質問に?」

    裕美「……」

    P「要するに、質問にちゃんと答えなかった、と?」

    裕美「……うん。絶対に間違ってる答えを言ったんだもん」

    P「具体的には?」

    裕美「え?」

    P「検証してみねばなりません。もしお客様の言葉が本当なら、私とこの店『魔法を売る店』の沽券に関わる問題でありますから」

    裕美「えーと……あのね」

    P「はい」

    12: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 16:47:29.07 ID:bBMqw/ks0
    裕美「世界で1番可愛いのは……誰か、って聞いたら」

    P「なんと答えました? この魔法の手鏡は」

    裕美「その……あの……ね、うーんと……」

    P「はい」

    裕美「それは、関裕美ちゃんだ……って……」

    P「ふうむ」

    裕美「……」

    P「もしかして……」

    裕美「え?」

    P「その関裕美、というのはお客様……あなたのお名前では?」

     あ、そうか。
     私、自分の名前を話してなかったんだ。

    裕美「……うん」

    P「そうだと思いました。ならばこの魔法の手鏡、壊れてはおりません」

    裕美「え?」



    13: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 16:50:29.53 ID:bBMqw/ks0
    P「世界で1番可愛いのは、お客様……関裕美様です。間違いありません」

    裕美「え!? ……あ……り、がと……う……」

     顔が赤くなる。
     この人、今……私の事を可愛いって言ってくれた?
     世界で1番?

    P「私見はともかく、この魔法の手鏡が言うのです。間違いありません」

    「え?」

     ……鏡が言うから?
     それだけ……?

    裕美「信じられないよ、そんなの」

    14: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 16:51:15.55 ID:bBMqw/ks0
    P「なんですと?」

    裕美「私、目つきがきつくていつも人から『怒ってるの?』とか言われて……自分でも、鏡を見ると恐い顔してるな……って」

    P「私にはそちらの方が、信じられませんね」

    裕美「だって!」

    P「わかりました」

     ?
     店長さんは、なにがわかったんだろう?

    15: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 16:53:38.68 ID:bBMqw/ks0
    P「私にはここ、魔法を売る店の店長として責任があります」

    裕美「責任?」

    P「お客様からの商品についてのご懸念は、すなわちこの店と私に対する信用問題でありますから」

    裕美「?」

     な、なんのことかな?
     難しい言葉が多くて、よくわかんないよ。

    P「アフターケアと、お客様からのご指摘の検証とを兼ね、私とこの店とその商品が間違いない事を確かめてみせましょう」

    裕美「えーっと……それって?」

    P「要は、関裕美様。あなたは可愛い、その事を証明すればよろしいのです。さすれば、この鏡の正しさもご納得いただけるはず。そうでしょう?」

    裕美「それは……でも、そんなのどうやって?」

    P「それを考える前に、まずはこれを」

     店長さんは、昨日私がお店に来た時に時にかかっていた『現在閉店中』の札を手にしていました。

    P「わすが1日だけの開店となってしまいましたが、致し方ありません。この、魔法を売る店の信用がかかっているのですから」

     店のドアに、またあの札がかけられました。
     もしかして昨日までも、同じように店長さんはこの店の商品の為に休んでいたのかな?

    16: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 16:56:34.84 ID:bBMqw/ks0
    P「さて、それでは取りかかりましょう。関裕美様、あなたが可愛いと証明する作業に」

    裕美「それって、どうするの?」

    P「ふうむ……あなたはいかがです? どうなったら、自分が可愛いと信じられます?」

    裕美「どうなったら、って……」

     目つきの悪い私が……可愛いとか……
     人から「怒ってるの?」とか「睨まれた」とか「恐い」って言われちゃう私が……
     アイドルみたいに可愛いって、言ってもらえるようになれるの……?

    17: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 17:00:09.00 ID:bBMqw/ks0
    P「どうです?」

    裕美「私がアイドルみたいに可愛くなれるなんて、やっぱり信じられないよ」

    P「ほう」

    裕美「だからね、もう手鏡の事はいいから……」

    P「アイドルですか」

    裕美「あ、でもお代はいつかちゃんと……え?」

    P「なるほど。アイドル。うむ、アイドルですか」

    裕美「あ、あの……店長さん?」

    P「関裕美様が、アイドルになる。それもトップアイドルに。そうすれば1番可愛い、ということになりますね」

    裕美「え? あの、でも、それは無理かな、って……」

    P「あなたがそう思っているからこそ、証明になるのではありませんか?」

    裕美「それは……まあ……うん」

     それは確かにそうかも知れない。
     知れないけど、この人本当に私をアイドルにするつもりなの!?



    18: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 17:01:06.63 ID:bBMqw/ks0
    P「では少々お待ちを。調べてみましょう、アイドルのなり方」

     店長さんは、ポケットから小さな瓶を取り出した。
     と、コルクのフタを外す。
     すると中から、煙がモクモクと湧きだしてきた。

    裕美「きゃっ!」

     煙はそのまま、恐そうな顔の形になった。

    P「魔神よ、汝に問う」

    魔神「未だ時は至らず。致し方ない、なんでも貴様の質問に答えてやろう。ほう? その娘っこはワシへの生贄か?」

    P「馬鹿者! この方はお客様だ。それより我が質問に答えよ」

    魔神「言うがいい。契約の時が来る前に」

    P「問いたいのは、アイドルのなり方」

    魔神「なんだと?」

    P「アイドルのなり方、だ!」

     煙の中の魔神は、眉をひそめる。
     もういい加減、このお店のこういう事では驚かなくなってきたけど、店長さん聞く相手間違えてない?
     魔神がアイドルのなり方とか知ってるの?

    魔神「まず芸能事務所とマネジメント契約を取り交わす必要がある」

    裕美「え?」

    19: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 17:03:03.78 ID:bBMqw/ks0
    P「それ以外に方法はないのか?」

    魔神「芸能事務所との契約は、必要な条件だ。無論、個人事務所であったりする場合もあるが、いずれにせよアイドル活動を支援する者は必須となる」

     この魔神さん、アイドルに詳しいんだ……

    P「その者は? なんと呼ばれるのだ?」

    魔神「プロ……デューサーと呼ぶがいい。それがアイドルを支援する者の名だ!」

    P「理解した。では、今日から私がその名を名乗ろう。私がプロデューサーだ!」

    裕美「……え? えー!?」

    P「ただ今より関裕美様、私の事はプロデューサーとお呼び下さい」

    20: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 17:04:52.38 ID:bBMqw/ks0
     店長さん……じゃなかった、プロデューサーはその後色々と準備があると言われ、私は家に帰った。
     そして翌日、私がお店に行ってみると……

    裕美「魔法を売る……プロダクション!?」

    P「やあ、関裕美様。お待ちしておりました。ようこそ、魔法を売るプロダクションへ」

    裕美「表の看板、あれやっぱり本当なんだ。ねえ店長さん」

    P「店長ではありません」

    裕美「え?」

    P「私は、プロデューサーです」

    裕美「……もういいよ、そういうの」

    P「なんですと?」

    裕美「私、このお店が好きなの。綺麗で、キラキラしていて、不思議で、でも楽しくて」

    P「……」

    裕美「だから、私の為にお店をやめたりしないで」

    21: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 17:05:22.23 ID:bBMqw/ks0
    P「ご心配には及びません。この店の本質は、なんら変わっていません。ただ、名義上プロダクションとして登録をしただけです」

    裕美「そ、そうなの?」

    P「魔法の手鏡の言った事が間違いでなかったと証明されたら、また名義も店に戻します。まあ、手続き上事務所ということにしただけです。アイドルにプロダクションは必要ですから」

     それを聞いて私は少し、安心した。
     うん。私、このお店が本当に大好きになってるんだ。

    P「その笑顔」

    裕美「え?」

    P「私はまた、確信しました。やはり、魔法の手鏡は正しい」

     笑顔?
     私、笑ってた?
     いっつも「怒ってる?」って聞かれる私が?



    22: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 17:08:17.43 ID:bBMqw/ks0
    P「さて、手続きや申し込みから取りかかりましょう」

    裕美「ほんとかな……」

    P「あの、手続きから……」

    裕美「……」

    P「関裕美さま?」

    裕美「え? あ! う、うん。なに?」

    P「この魔法を売るプロダクションと、正式に契約を交わしていたただきます」

    裕美「あ、うん」

    P「判子などはお持ちで?」

    裕美「ううん、持ってないけど」

    P「ならば自著で結構です。デイジー、バイオレット、ここへ」

     店長さんの言葉に応えるように、手にペンを持ったお人形さんが2体、トコトコと歩いてやってきた。

    23: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 17:11:24.66 ID:bBMqw/ks0
    P「これから私が口にすることを、書面に書きとるように」

     デイジーちゃんとバイオレットちゃんは、コクリと頷くとそれぞれが紙を机に置く。

    P「魔法を売るプロダクションとその代表である私、魔法を売るプロデューサー、かっこ以下甲とするは、関裕美様、かっこ以下丙とすると、以下のマネジメント契約を取り交わす」

     デイジーちゃんとバイオレットちゃんは、よどみなく同じ動作で同じ事を紙に書き留めていく。

    P「ひとつ、甲は丙に対し魔法の手鏡が正しく機能している事を証明するため、誠心誠意プロデュースに努めるものとする」

    P「ふたつ、具体的には甲と丙は魔法の手鏡の言うとおり丙が可愛い事を証明する為トップアイドルを目指すこと」

    P「みっつ、契約の期間は上記の証明がなされ、かつ丙よる魔法の手鏡の未納代金分の支払い完了をもって終了するものとする」

     あ! そういえば私、まだ手鏡の代金を払いきってなかったんだ。
     なるべく早く、払わないとね。うん。

    P「関裕美様、これでよろしいですか? よろしければサインを」

    裕美「うん。……これでいいの?」

    P「こちらにもサインを。……はい、結構です。この同じ文言の両者のサインのある契約書は、お互いが1枚ずつ持つこととなります。これでマネジメント契約完了です」

    裕美「じゃあこれで、私はこの魔法を売るプロダクションの所属アイドルなの?」

    P「左様でございます。以後、あなた様がトップアイドルとなられるその時まで、よろしくお願いいたします」

    裕美「うん、よろしくお願いします」

     私はきちんと頭を下げた。
     私の為にがんばってくれるんだから、当然だよね。

    24: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 17:14:53.25 ID:bBMqw/ks0
    P「それでは次に、準備に取りかかりましょう。アイドルに必要なもの」

    裕美「アイドルに必要なもの?」

    P「まずは衣装ですね」

    裕美「そうか。うん、アイドルってみんな可愛い衣装を着てるんだよね」

    P「まずは一着、作ってみなければなりません」

    裕美「作る? どうやって?」

    P「無論、魔法で」

     店長さんは、戸棚から絨毯を引っ張りだしてきた。

    裕美「きれいな絨毯……絵が織ってあるんだね」

     絨毯には、アラビア風? の絵が織り込まれている。
     真ん中で女の人が踊っていて、まわりの人たちがそれを楽しそうに見ている絵だ。

    25: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 17:17:12.54 ID:bBMqw/ks0
    P「正確には織ってあるのではなく、絨毯の中に入っているのです」

    裕美「え? それってこの踊り子の人が?」

    P「そうです。彼女ならば、衣装のことにも詳しいし、後々役に立ってくれるはず。出よ、ジニー!」

     何も起きない。店長さんも首をひねる。

    P「ジニー?」

     やっぱり何も起きない。

    裕美「どうしたの?」

    P「ジニーが出てきません。妙ですね」

     ちょっと前の私だったら「絨毯から女の人が出てくるはずないよ」って、言ってたと思う。
     でももう、さすがに私もなれっこになってきた。

    26: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 17:17:46.43 ID:bBMqw/ks0
    裕美「どうしてジニーさん、出てきてくれないのかな」

    鏡「それは、音楽がないからです」

    裕美「きゃっ! あ、この手鏡、またしゃべった」

    P「おお、そうだった。ジニーを呼ぶ出すのは久しぶりだったので、音楽の事を忘れていました。うむ、やはりこの手鏡は優秀な逸品だ」

    裕美「そういえば……」

     私は、初めてこの魔法の手鏡がしゃべった時のことを思い出した。

    裕美「この手鏡、私の質問に答えないこともあるんだけど」

    P「それはどんな質問ですか?」

    裕美「えっとね、確か『今しゃべったのはあなた?』って聞いた時だと思う」

    P「この魔法の手鏡は、知り得る限り全ての質問に対する答えを教えてくれますが、例外が2つあります」

    裕美「それって?」



    27: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 17:18:20.64 ID:bBMqw/ks0
    P「まずは、この魔法の手鏡の知らないこと。知らないことには答えようがありませんから」

    裕美「それはわかるよ。でも、この手鏡って、そんなに色々な事を知ってるの?」

    P「魔法の手鏡は、世界中の鏡と繋がっています。つまり世界中の鏡が見聞きした事を、この鏡は全部知っているのです」

     なるほど。それは確かに、物知りなはずだ。
     あれ? でも……

    裕美「じゃあ、鏡のない所のことはわからないの?」

    P「おっしゃる通り。人の手の及ばぬような土地ですとか、なんらかの事情で鏡のない場所で起きていることはわかりません」

     そして店長さんは続ける。

    P「同様の理由で、魔法の手鏡は未来の事が予見できません。今の状況を知ることはできても、それが今後どうなるかという事を考えたり判断したりはできないので、知ることができないのです」

    裕美「じゃあ、明日の天気とかは答えてくれないんだ」

    P「その通りです。その質問には、答えてくれないでしょう。ただ、テレビの天気予報がどう言っていたのか、ですとか天気の専門家がどう判断しているのかという質問には答えてくれるはずです」

     要は使い方ということかな。
     でも……

    28: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 17:18:51.86 ID:bBMqw/ks0
    裕美「私が『しゃべったのはあなた?』って聞いたのに答えてくれなかったのは?」

    P「例外の2つ目は、自分で自分の事については答えられない、という事です」

    裕美「そう……なの?」

    P「これは魔法の手鏡に限らず、そして魔法の働きの有無に限らず、自分のことは自分でもわからないものです。そういった意味では、先ほどの『知らないことには答えられない』と同じ理由と言えるかも知れません」

     そういうものなのかな?
     でも、店長さんは魔法の手鏡のことがあるにしても、私が可愛いと言ってくれる。
     私自身は、それがとても信じられない。
     それと同じなのかな……?

    P「答えられない事に関して、魔法の手鏡は『答えられません』とは言ってくれません。聞いても返事がない時は、先に述べた2つの理由のどちらかに該当するとお考え下さい」

    裕美「わかった」

    P「さて、音楽でジニーを呼び出さねば……魔法の白い鳥たちに歌わせるか」

     店長さんが手を叩くと、どこからか小鳥たちが飛んでくる。

    裕美「わ、可愛い小鳥さんたち」

    P「7羽の姉妹です。左からドナ、レベッカ、ミーナ、フランチェスカ、ソフィア、ララ、シエラです」

    裕美「よろしくね」

    29: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 17:21:44.13 ID:bBMqw/ks0
    P「彼女たちは、踊りにあわせて綺麗な音色で歌うことができます」

    裕美「え?」

    P「踊りにあわせて綺麗な音色で歌うことができます」

    裕美「その踊りって、誰が踊るの?」

    P「それはジニーに」

    裕美「ジニーさんは、音楽がないと出てこないんじゃないの?」

    P「なのでそれは魔法の白い鳥たちに……あ!」

     私は吹き出してしまった。
     店長さん、ちょっとドジなところもあるんだ。
     うふふ。

    P「弱りましたね。ジニーはアナログの音楽でないと、出てこれないのです……そうだ」

    裕美「いい考えがあるの?」

    30: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 17:22:55.29 ID:bBMqw/ks0
    P「関裕美様、お願いいたします」

    裕美「え?」

    P「歌ってください」

    裕美「わ、私!?」

    P「アイドルになるのですから、手始めに」

     え。ええー!?
     私そんな、人前で歌ったことなんてないよ。

    P「難しく考える必要はありません」

     店長さんはそう言うけれど……
     その時、私はあのコンビのお人形さん、デイジーちゃんとバイオレットちゃんと目が合った。

    31: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 17:26:05.74 ID:bBMqw/ks0
    裕美「お人形さん♪ お人形さん♪
       あたしの 大好き お人形さん♪
       いつもいつも 可愛い お人形さん♪」

     デイジーちゃんとバイオレットちゃんはビックリしたようにお互い顔を見合わせると、クスクスと笑い出した。
     良かった。お礼の気持ち、伝わったのみたいだ。

    裕美「青い目と黒い目♪
       髪はブロンド♪
       お肌はセルロイド♪
       お洋服はおそろいの シルクの赤♪」

     と、デイジーちゃんとバイオレットちゃんじゃないお人形さん達が、次々とテーブルの上に登りだした。

    裕美「みんな可愛いお人形さん♪
       とっても可愛いお人形さん♪
       みんな大好き お人形さん♪」

     次に鉛の兵隊さん達が現れた。
     規律正しく行進して私に敬礼してくれた。

    裕美「お人形の兵隊さん♪
       とっても強そうな兵隊さん♪
       お人形さんをまもって 今日も行進♪
       かっこいい兵隊さん♪
       みんなの兵隊さん♪
       私も大好き 鉛の兵隊さん♪」

     その瞬間、あの7羽の小鳥さんたちが歌い出した。
     私の歌は、和音になって輪唱になり、ボイスパーカッションも加わる。

    裕美「魔法のお店のみんなが 大好き♪
       魔法のお店もみんなが 大好き♪
       今日も楽しい みんなのお店♪」

     お人形さん達も、兵隊さん達も踊り出す。私も一緒になって小躍りをした。
     そしてついに、あの魔法の絨毯から女の人が飛び出してきた。
     髪をボニーテールにした、綺麗な女の娘だ。



    32: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 17:28:04.03 ID:bBMqw/ks0
    ジニー「ひょっほーぅ☆ なんだか楽しそうだねっ! アタシも踊るよっ☆」

    裕美「はじめ まして ジニーさん♪
       私は裕美です♪
       どうかよろしく お願いします♪」

    ジニー「これはこれはどうも♪
        ご丁寧 いたみいります♪
        アタシはジニー♪
        バニーじゃありません♪
        魔法の絨毯の精霊です♪」

    P「いや、素晴らしい。即興の歌で、みんな関裕美様に惹きつけられました。そして、ジニー、ようやく出てきましたね」

    ジニー「はーい、お久しぶりですっ☆」

    裕美「みんな可愛いから、なんとなく歌っちゃった。こんなの始めて」

    P「これは予想以上に上手くいくかも知れませんね」

    33: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 17:31:45.94 ID:bBMqw/ks0
    ジニー「それでっ? アタシになんのご用ですかっ☆」

    P「まずはこの方の衣装を作る事だ」

     ジニーさんの着ている衣装は、アラビア風のちょっと大人向きだ。
     わ、私もこんな衣装を着るの?

    裕美「あ、あの!」

    ジニー「こちらの方だと、少し布を多めでフリルとかも多めがいいですよねっ☆」

    P「任せる。その為に呼んだのだから。ん? 関裕美様、なにか?」

    裕美「え? あ、えーと、そういう衣装でお願いします」

    P「? 心得ました。ジニー取りかかれ」

    ジニー「じゃあ、アタシの絨毯からちょっと糸を拝借して……そーれ! チクチクチクッ☆」

     ジニーさんは、手にした針で目にもとまらない動きで衣装を縫っていく。

    34: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 17:32:27.62 ID:bBMqw/ks0
    裕美「でもそんなに糸を使っちゃって、ジニーさんの絨毯なくなっちゃわないのかな……?」

    鏡「魔法の絨毯は、月の光を紡いだ繭の糸なので月の光を浴びればまた元通りになるのでなくなりません」

    裕美「あ、そうなんだ。良かった」

    ジニー「うんっ☆ でも、心配してくれてありがとうねっ!」

     私とジニーさんは、目を合わせて笑った。
     うん、やっぱりこのジニーさんもいい人だ……まあ、人かはわからないけど……
     私このお店、大好き!

    ジニー「はい、完成っ! ほらほら、着てみて」

    裕美「う、うん」

     ジニーさんが縫い上げたのは、本当に可愛い衣装。
     これ、私が着てもいいのかな……

    P「では、私は席を外しましょう。その間に、せねばならぬ用を済ませます」

     そう言うと、店長さんはお店から出ていった。

    ジニー「ほらほらほらっ☆」

    裕美「ど……どうかな?」

    35: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 17:36:07.30 ID:bBMqw/ks0
    no title

    no title

    関裕美(14)

    no title

    ジニー(?)

    36: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 17:37:57.12 ID:bBMqw/ks0
    ジニー「うんうん。すっごく可愛いよっ☆ それじゃあ続いて、踊りの練習っ!」

    裕美「ダンスレッスン……私にできるかな」

    ジニー「大丈夫だよっ☆ さっき魔法の白い小鳥さんたちが歌っていたのは、あなたが踊ってくれてたからだから」

    裕美「そう……かな」

    ジニー「じやあ、かるーく準備体操からっ!」

    裕美「うん」

    ジニー「ムキムキ体操、はじめーっ☆」

    裕美「え?」

    ジニー「ちょうちょだって鍛え上げりゃモスラぐらいなーれるんだっ☆ はい!」

    裕美「え? ちょ、ちょーちよだって鍛え上げりゃモスラぐらいなー……なれるかな?」

    ジニー「疑問に思っちゃダメ、ダメー!」

    裕美「は、はい!」

    ジニー「トカゲだって鍛え上げりゃゴジラぐらいなーれるんだっ☆」

    裕美「トカゲだって鍛え上げりゃゴジラぐらいなーれるんだ♪」



    37: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 17:38:56.24 ID:bBMqw/ks0
    ~2時間後~


    ジニー「いいよ、いいよー! そーれ、四国だって鍛え上げりゃオーストラリアぐらいなーれるんだっ☆」

    裕美「四国だって鍛え上げりゃオーストラリアぐらいなーれるんだ♪」

    P「……なれますかね?」

    ジニー・裕美「なれるよ!!!」

    P「……意気投合されたようで、結構です。ではジニー、今後とも関裕美様の衣装とダンスレッスンを頼む」

    ジニー「がってん! がってん!! がってんっ☆☆☆」

     店長さんは、いつの間にか帰ってきていた。

    38: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 17:40:39.29 ID:bBMqw/ks0
    P「次にメイクの練習ですが……」

    裕美「メイクかあ。お母さんに教わって、ちょっとだけならお化粧もやったことあるけど」

    P「アイドルとしてですから、プロの道具や技術や心得が必要になります。これは私にはわからない、そして知り得ないものでして」

    裕美「じゃあやっぱりジニーさんに教えてもらうの?」

    P「次善の策としてはそれも考えておりますが、更に適任がおります。私としてはそちらにお願いをしたいのですが、なにぶん気難しい女でして……」

    ジニー「あ! じゃ、じゃあアタシは絨毯に戻りますっ!」

    裕美「え?」

     店長さんが迷うような女の人かあ、ジニーさんもなんだか急いで帰っちゃったし、私うまくやっていけるかな……?

    P「とにもかくにも、頼んでみるとしましょう。カンタータ!」

     店長さんが呼ぶと、お店の奥からガシャンという大きな音がした。そしてそれは、どんどん近づいてくる。
     ガシャン! ガシャン!! ガシャン!!!
     現れたのは、真っ黒な西洋風の鎧だった。
     普通なら中に誰か入っているんだと思うけど、このお店のことなのでこういう鎧の人なのかも知れない。

    裕美「関裕美です。メイクのこと、色々と教えてください」

     私が頭を下げると、鎧のカンタータさんは首をかしげる動作をした。

    39: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 17:41:51.13 ID:bBMqw/ks0
    P「違います、関裕美様」

    裕美「え?」

    P「カンタータは、武器庫の番人です。武器庫は扱っている品に危険な物が多いので、彼のような頑丈な者が番をしております」

    裕美「そ、そうなんだ。勘違いしてごめんね、カンタータさん」

     私が再び頭を下げると。カンタータさんは、ガチャガチャと大きな音を立てて肩を揺すった。
     たぶん、笑って許してくれたんだと思う。

    P「カンタータ、ゴルゴンの盾を持ってきなさい」

     カンタータさんは頷くと、また店の奥に戻っていく。

    P「この間にどうぞ、これを」

    裕美「緑のサングラス? これをかけるの?」

    P「左様でございます。これは魔法の品ではない、ただのエメラルドのサングラスですが、十分に効果はあります」

    裕美「効果って?」

    P「ゴルゴンの盾のメデューサを見た者は、石になっていまうのです」

    裕美「石に!?」

    40: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 17:43:19.80 ID:bBMqw/ks0
     そうこうしている間に、カンタータさんは大きな盾を持って戻ってきた。
     盾には女の人の上半身が彫られている。ううん、きっと彫られているんじゃなくて……

     ドン――

    メデューサ「ちょいと! 乱暴に置くんじゃないよ!! まったくここの男どもはレディに対する礼儀がなっちゃいないんだから!!!」

     やっぱり。この盾の女の人がきっと、私にメイクを教えてくれるメデューサさんだ。

    P「メデューサ、あなたに頼みがあります」

    メデューサ「なんだって? 頼み? それならそれなりの態度ってもんを見せてもらおうじゃないか。あたしに頭を下げてごらんよ。店長であるあんたが、このあたしに頭を下げるなんて屈辱的な……」

    P「この通りです。頼みを聞いてください」

    メデューサ「……なにさ、頼みってのは」

    P「こちらの女性に、メイクの仕方を教えて差し上げて欲しいのです」

    メデューサ「へえ、あんた名前は?」

    裕美「あ、せ、関裕美です。よろしくお願いします!」

    メデューサ「あんた、メイクなんて要らないだろうに」



    41: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 17:45:33.09 ID:bBMqw/ks0
    P「この方は、アイドルを目指しているのです。その為に必要なのです」

    メデューサ「ふん」

    裕美「あの……あのね、メイクが必要ないっていうのわかるよ。私、目つきが……きつくていつも人から『怒ってる?』って聞かれるし、顔もそんなに可愛くないし……」

    メデューサ「……」

    裕美「髪だってこんなだし……」

    メデューサ「……綺麗な髪だよ。あんたのはね」

    裕美「え?」

    メデューサ「サングラス、外してごらん」

    裕美「え? うん」

    P「関裕美様、お待ちを……」

     店長さんが何かを言い終わる前に、私はサングラスを外しちゃってた。そしてその私の目がメデューサさんを見る前に、メデューサさんの手が私の視線を遮ってくれた。
     白くてきれいな手だった。

    42: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 17:49:21.42 ID:bBMqw/ks0
    メデューサ「鏡は持ってるかい?」

    裕美「うん。魔法の手鏡なら……」

    メデューサ「それに映して、あたしの顔を見てごらん」

     私は言われた通りにした。
     エメラルドのサングラス越しじゃないメデューサさんは、びっくりするぐらいの美人だった。
     そして――

    裕美「髪は1本1本が蛇さんなんだ!」

    メデューサ「そう。しかも毒蛇。どうだい、あんたの髪の方が綺麗だろ?」

    裕美「うーん……でもこの蛇さんも、かわいいよ」

     鏡越しにお互いが顔を見ているので、私とメデューサさんは隣に並ぶ形になる。と、メデューサさんの髪の蛇が、私の顔をのぞき込んでウインクをしてくれる。
     私は人差し指で、その蛇さんの頭をなでた。

    メデューサ「……そうかい」

    裕美「メデューサさんを見ると石になっちゃうって聞いたけど、サングラスをかけたり鏡越しに見れば大丈夫なのはどうしてなの?」

    P・鏡「それは、偏光です」

    裕美「? 偏光って……」

    メデューサ「ああ、男どもの言うことは放っておきな。男なんてもんはね、女の顔をあれこれ言う割には何にもわかっちゃいないんだから」

    裕美「でも、店長さんは……」

    メデューサ「ん?」

    43: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 17:50:57.10 ID:bBMqw/ks0
    裕美「私を、その……可愛いって……」

    メデューサ「……どれ、あたしがその可愛い娘っこを、舞踏会に行くようなレディに仕上げてやろう」

    裕美「うん。お願いします」

    メデューサ「道具は? 用意してあるんだろうね!?」

    P「魔法の化粧箱を用意しております。中に必要な物は、一通りそろっているかと」

    メデューサ「どれどれ? なんだいこの口紅の色は。この娘の歳格好ってもんを考えなよ」

    P「そういうものなのですか?」

    メデューサ「こりゃ大人用だろ!?」

    P「しかし虹を溶いた一級品の……」

    メデューサ「高価な品ならいいって思うのが、男の浅はかさだね。海色の口紅があったろ、あとついでにガマニオンと銀星砂も持っといで!」

    P「わかりました」

    44: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 17:52:42.39 ID:bBMqw/ks0
    裕美「え、あの店長さん……いいのかな?」

    メデューサ「いいのさ。好きにやらしておやり。ついでにあんたに、化粧の心得ってもんを教えてあげようかね」

    裕美「うん、お願い」

    メデューサ「自信を持ちな」

    裕美「え?」

    メデューサ「自信がない者ほど、あれこれ弄るのさ。本当は必要ないんだけど、一応やってやる。それぐらいの気持ちで化粧はするんだよ」

    裕美「自信?」

    メデューサ「それに化粧ってのは、自分を相手に見せる……つまり差し出す行為。堂々とやんなきゃ負けだよ。媚びるような真似は、卑しいからね」

    裕美「うーんと……よくわからないけど私、自信はあんまりないかな……」

    メデューサ「これ!」

    裕美「えっ?」

    メデューサ「あんたは、わかってないよ。あの唐変木で慇懃無礼な店長のやつが、あんたの為にあたしに頭を下げたってことの凄さがね」

    裕美「そうなの?」



    45: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 17:54:21.95 ID:bBMqw/ks0
    メデューサ「あいつは店長、あたしは品物。それを考えたら、あいつはあたしに命令さえすりゃいいんだ。それを事もあろうに人もあろうに、あたしの言う事を本気にして頭を下げやがった。それを汲んでやんなきゃ、今度はあんたの女が廃るよ」

     メデューサさんの言っていることは、なんとなくはわかる。
     でもこの、両親以外の誰からも可愛いなどと言われたことのないこの私には、それをいっぺんに理解するのはなかなか難しい。

    メデューサ「それに今、あいつはあたしに言われて嬉々として小走りに品物を取りに行ったろ? あいつはあんたの為に喜んで使役してる。なら、あいつの為に綺麗になっておやんな。とりあえずは、それでいい」

     アイドルになるということは、どこの誰とも知らない人に自分を可愛い、素敵だと思ってもらうことになる。それがどういうことか、私にはまだよくわかっていないけど、今は彼女の言うことに……うん、従おう。

    P「持って来ましたよ。これでよろしいので?」

    メデューサ「ああ。じゃあメイクが終わるまで、あんたはすこっんでな」

    P「は? いやしかし、私は関裕美様のプロデューサーですが?」

    メデューサ「レディが身支度してるとこを、ジロジロ見るのはマナー違反だよ! さあ、出て行きな!!」

     店長さんは、少し残念そうに微笑んでお店の外に出て行ってくれた。

     それからメデューサさんは、私にメイクを教えてくれた。

    メデューサ「口紅は、あんまり濃く塗るんじゃないよ。この口紅はここを回せば色んな海の色に変わる。最初は朝焼けの映る海がいいだろ」

    裕美「こう?」

    48: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 17:59:02.76 ID:bBMqw/ks0
    メデューサ「そうそう。あたしは海の生まれだから、海にゃ詳しいのさ。あたしのメイクの基本は海」

    裕美「じゃあ今日から、私もそうするね」

    メデューサ「……チャンスをモノにおし。絶対に機会を逃がすんじゃないよ」

    裕美「?」

    メデューサ「女の人生は戦いさ。戦わなきゃ勝てない。勝たなきゃ欲しいモノは手に入らない」

    裕美「私、欲しいものとか、別にないよ?」

    メデューサ「あたしも昔は、そう思っていた。無知だった」

    裕美「それって……」

    メデューサ「結局、自分のことは自分でもわかっちゃいないのさ」

    裕美「それ、店長さんも言ってた気がする」

    メデューサ「あの男が、その言葉の意味を本当に知ってて言ったのかはわからないけどね」

    裕美「? うん」

    メデューサ「欲しいものが、本当に欲しいものができた時、戦うことを躊躇っちゃいけないよ。さもないと……」

    裕美「さもないと?」

    メデューサ「あたしみたいな身になっちまうのさ」

    49: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 18:00:47.55 ID:bBMqw/ks0
     メデューサさんのこと、もっと聞きたかったけど私は遠慮した。
     きっと色々と大変なことがあったんだと思う。
     私は、メデューサさんの手ほどきでメイクを覚えた。
     メイクを終え、鏡の中にいる私は、私じゃないみたいだった。

    メデューサ「どうだい?」

    裕美「……私じゃないみたい」

    メデューサ「あんたは基がいいからね。ほら、あの店長が戻ってきたよ」

    裕美「あ、店長さんおかえりなさい。私……どう、かな?」

    P「……まさか、これほどとは」

    裕美「?」

    P「可愛いですよ。関裕美様」

    裕美「ありがとう……店長さん」

    P「……店長ではなく、プロデューサーです」

     それ以上、私はなにも言えず、店長さんもなにも言わなかった。

     私のレッスンの日々が始まった。

    50: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 18:05:41.17 ID:bBMqw/ks0
    P「うむ、ダンスも歌もサマになってきましたね。では、次に」

    裕美「上手くなってるかはわからないけど、なんだか楽しいよ。みんなと一緒に歌ったり踊ったりして、こんなの私初めて」

    P「オーディションを受けていただきます」

    裕美「うん!あ、え……?」

    P「オーディションです。歌番組のオーディションに申し込んでおきました」

    裕美「お、オーディションって、人前で歌ったり踊ったりするの?」

    P「当然です」

    裕美「ちょ、ちょっと早くないかな。私、まだ……」

    P「大丈夫です。歌も踊りもなかなか上手になられましたし、それな何より」

    裕美「?」

    P「あなたは、可愛いですから」

     店長さんにそう言ってもらえるのは嬉しい。
     私にそう言ってくれる人は初めてだ。

    51: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/08/05(日) 18:07:20.64 ID:bBMqw/ks0
    P「ジニーも魔法の白い鳥たちも、あなたの歌や踊りには太鼓判を押してくれてます。大丈夫です」

    裕美「そうか……うん、みんなが私の為に協力してくれたんだから、やってみる」

    P「その意気です」

    裕美「それで、そのオーディションっていつあるの?」

    P「今から1時間後ですね」

    裕美「……え?」

    P「なので急ぎましょう」

    裕美「ええーーー!?」



    52: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 18:09:14.73 ID:bBMqw/ks0
    P「いやあ、走りましたね」

    裕美「はあ……はあ……こ、こういう時に使える魔法とかはなかったの……?」

    P「空飛ぶワイバーンとか、背に乗れる泣きクジラとかがいるのですが、どうにも街中の人前で乗るものではないですし、翼の生えたブーツは免許が必要ですし……」

    裕美「うーん。魔法っていっても何でもできるわけじゃないんだね。私、もっと簡単にどこかに行けたりするのかと思ってた」

    P「それはそうです。そして特に、時間や空間を飛び越えるというのは魔法が苦手とするところでもあります」

    裕美「そうなの?」

    P「『あった事』を『なかった事』にする行為やその逆、そして未来を限定するような行為は自分だけではどうにもできないのです。空間を飛び越える行為もそうです。『いる事』と『いない事』の差異は、自身の存在では購えないものです」

    裕美「どういう意味?」

    P「……ものすごく大ざっぱに例えれば、大きな滝から落ちてくる水すべてを帽子で汲んで滝の上に戻すのは無理という事です」

    53: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 18:10:15.40 ID:bBMqw/ks0
    裕美「そっか。よくわからないけど、わかったよ店長さん」

    P「店長ではなく、プロデューサーです。まあ魔法を売る店……いや、今は魔法を売るプロダクションは例外ですが、その説明はやめておきましょう。オーディションが始まってしまいますから」

    裕美「そうだっけ!」

    54: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 18:11:51.96 ID:bBMqw/ks0
    裕美「うわ……みんな可愛い娘ばっかり……」

     オーディションの控え室は、まるで花々が咲き誇っているみたいに輝いて見えた。
     可愛い娘ばかりが、大勢集まっている。

    松尾千鶴「私はできる……私は可愛い……私は合格する……」

    裕美「あの、お隣失礼していいかな」

    千鶴「私は……ハッ! わ、私は別に自己暗示なんかしてないから!!」

    裕美「あ、う、うん」

     あれ、自己暗示だったんだ……

    白菊ほたる「合格するのは4人だけ……無理かもしれない……けど、あきらめたくない……」

    岡崎泰葉「同じ事務所の3人で受かりたいけど、どうかしらね。あれ? あなた、初めて見る顔よね」

    裕美「あ、う、うん……いえ、はい。関裕美って言います……」

    泰葉「裕美ちゃんね。よろしく!」

    ほたる「あの、裕美ちゃんはどこの事務所なんですか……?」

    裕美「え? 事務所? あ、えーと……魔法を売る店。じゃなくて、今は魔法を売るプロダクション。……かな?」

    千鶴「魔法を売るプロダクション? 聞いた事ないわね」

    55: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 18:13:33.92 ID:bBMqw/ks0
    泰葉「そうね。どう、ほたるちゃん」

    ほたる「私も……聞いた事ないです。魔法を売るプロダクション……」

    千鶴「ほたるちゃんが知らないとなると、新規立ち上げの事務所かも知れないわね」

    裕美「あ、そ、そうです。……だと思う」

    泰葉「やっぱり。そうだと思った。ほたるちゃんは今まで色々な事務所を渡り歩いていて、事務所については詳しいのに、そのほたるちゃんが知らないんだもの」

    裕美「そうなの? あ、ごめんなさい、そうなんですか?」

    ほたる「あ、いいよ敬語じゃなくても。私……行く先々の事務所が倒産してて、その度に次の事務所を探していたから……」

    裕美「そうなんだ」

    千鶴「新規立ち上げ事務所かあ。何人ぐらい所属アイドルがいるの?」

    裕美「え? 所属してるのは……たぶん、私ひとりだと思う」

    千鶴「え!?」

    裕美「他には誰もいないと思う」

    泰葉「え、ちょっと待って。新規立ち上げ事務所で、所属しているのはあなただけなの?」

    裕美「うん」

    千鶴「それって……」

    ほたる「……もしかして」

    56: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 18:14:49.73 ID:bBMqw/ks0
    泰葉「もしかしなくても、あなたの為に立ち上げられた事務所ってことよね!?」

     言われてみると確かに、魔法を売るプロダクションは私の為に立ち上げられた芸能事務所ということになるのかな。
     魔法の手鏡が正しいという証明の為とはいえ、私がトップアイドルになる為に店長さんがお店をプロダクションにしたんだから。

    裕美「うん……そう、かな?」

    千鶴「し、失礼しました。私、知らなか……存じ上げなかったもので!」

    ほたる「今日は、よろしくお願いします!」

    裕美「え? ええ??」

    泰葉「ま、待って。待って!」

    裕美「?」

    泰葉「失礼だけど私、あなたに初めてお目にかかりましたけど」

    裕美「う、うん」

    泰葉「芸歴は? これまでの」

    裕美「芸歴って……そんなのないよ。今日、初めてオーディションも受けるし」

    泰葉「……私ね。これでも芸歴は10年ほどあるんだけど」

     あ! この娘……岡崎泰葉ちゃんだ!! ドラマで見た事ある、有名な子役の娘だ!!!



    57: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 18:17:01.84 ID:bBMqw/ks0
    泰葉「もしかしてあなた、どこかの令嬢とかなの?」

    裕美「そんなことないよ。ふ、普通の家庭です」

    泰葉「じゃあどうして、あなたの為にプロダクションが立ち上げられたの? コネがあるわけでもない、お金があるわけでもないのに」

    裕美「それは……色々と事情があって……」

    泰葉「聞かせて」

    裕美「えっ!?」

    ほたる「あ、あの……」

    千鶴「泰葉さん?」

    泰葉「他人を詮索するのは礼儀に反するのは、わかってる。でも、私は芸能界で生きてきたしこれからもそうするつもりなの」

    裕美「う、うん」

    泰葉「だから、芸能界に関する事情なら、知っておきたい。何よりあなたはきっと、私のライバルになると思うから」

    裕美「ら、ライバル?」

    ほたる「それは……わかります」

    裕美「え? え?」

    千鶴「可愛いものね。あなた」

    裕美「えーーっ!?」

     こ、こんな可愛い人達から、私が可愛いって言われた?

    58: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 18:19:20.14 ID:bBMqw/ks0
    泰葉「だから知りたいの。どういった事情で……」

    係員「それではオーディションを始めまーす。今回の十時愛梨ちゃん司会の歌番組に、ゲストで出演を希望される方はお集まりくださーい!」

    千鶴「あ、始まるみたい」

    ほたる「泰葉さん……行かないと」

    泰葉「う、うん……あ、じゃあまたね。お互いがんばりましょう」

    裕美「あ、う、うん……はい」

    愛梨「みなさん、今日はよろしくお願いしますね。オーディションという形ではあるけど、楽しい番組にしたいからこの段階から楽しもうと思ってるから」

    係員「はい、そういう事で。始めます先ずは……ええと松白菊ほたるさん」

    ほたる「は、はい!」

    愛梨「あ、ほたるちゃん。やっほー、がんばってねー」

    千鶴「あ、愛梨さん……いくら同じ事務所でも、あんな風に……合格してもコネだと思われたらどうしよう」

    泰葉「別にいいと思うよ」

    千鶴「えっ?」

    泰葉「コネだって、その人の持ってる立派な素質だもの。それにコネだけで渡っては行けないのは、いずれみんなわかることだし」

    千鶴「確かに……そうかも。それになりふり構っていられる余裕なんて、ないのよね」

    泰葉「そう」

     な、なんだか圧倒されるな……こ、こういう人たちの中で、私やっていけるかな。

    59: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 18:21:05.31 ID:bBMqw/ks0
    P「大丈夫です」

    裕美「あ、店長さん。どこ行ってたの!? 私、なんだか不安で」

    P「店長ではなくプロデューサーです。挨拶回りをしておりました。いずれここで多くの仕事をするつもりですので……」

    裕美「私、合格できるかな……」

    P「ジニーや魔法の白い鳥たちを始め、店のもの達とやってたようにやればよろしいのです」

    裕美「でも、ほら。みんななんだか流行の歌とか、すごいダンスをやってるよ?」

    P「お気になさらず。先程のように、歌って踊ってください」

    係員「次、えーと……関裕美さん」

    裕美「は、はい!」

    愛梨「ええと、裕美ちゃんだね。今日は何をやってくれるのかな?」

    裕美「え、ええと……」

     ほ、本当にいいの? いいのかな、店長さん!

    愛梨「? どうしたの?」

     こ、こうなったら仕方ない。やってみるしかない。

    裕美「わ、私は魔法のうたを、歌います!」

    愛梨「魔法のうた?」

     私は、魔法を売る店でいつもみんなと歌い、踊っているレッスンをそのままにやった。
     最初は緊張していたけど、すぐにいつもの調子が出てきた。
     お店のみんなといるように。
     お店のみんなと歌うように。
     お店のみんなと踊るように……

    60: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 18:22:45.81 ID:bBMqw/ks0
    係員「それでは合格者を発表します。呼ばれた方は、前に出てください。まず、関裕美さん」

    裕美「え? あ、は、はい!」

    ほたる「え……!?」

    千鶴「関裕美ちゃんだっけ。合格したのね」

    ほたる「え、ええ。でも……それよりも……」

    係員「それから、白菊ほたるさん、松尾千鶴さん、岡崎泰葉さん。以上の4名が合格となります。お疲れ様でした」

    千鶴「よ、良かった。合格……」

    ほたる「嬉しいです……これで愛梨さんと一緒に番組に出られるんですね……」

    泰葉「……あの娘……関裕美ちゃん……私たちより後に審査を受けたはずなのに、真っ先に名前が呼ばれた……? どうして?」


    P「オーディション合格、おめでとうございます」

    裕美「ありがとう。でも……なんか信じられないな」

     あれだけいた、可愛いアイドルの中から私が選ばれた。
     きつい目をした私が。
     なんだかとても、信じられない。

    61: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 18:24:26.50 ID:bBMqw/ks0
    P「これもあなた様の実力です。自信をお持ちください」

    裕美「ねえ、本当に何もしてないよね? 魔法とかで」

    P「審査員の心を変えるとか、ですか? いいえ、そのようなことはいたしておりません」

    裕美「わかった、信じる。でも」

    P「?」

    裕美「店長さんがその気になったら、魔法で審査員の人の心を変えたりできるの?」

    P「店長ではなく、プロデューサーです。その答えはイエスでもありノーでもあります」

    裕美「どういうこと?」

    P「実際、そういう魔法も存在します。それに人生においての大きな決断ならともかく、何かをひとつ選択するぐらいの心変わりはたやすく行う事ができます。その意味で、先程の問いの答えは、イエスです」

    裕美「でもノーでもあるんだよね」

    P「2つの理由から、私はその魔法を使いません。ひとつは、これは関裕美様が可愛いことの証明が目的であるからです」

    裕美「だから魔法を使ったズルはしないってこと?」

    P「魔法の手鏡が間違っていない事の、これは証明です。誰かに思ってもないことを言わせたりさせたりしては、フェアではありませんから」

    裕美「……2つめの理由は?」

    P「その必要がないからです。関裕美様……あなたは、可愛いです」

    裕美「ひとつめの理由より私、2つめの理由の方が好き……ありがとう店長さん」

    P「店長ではなく、プロデューサーです。どういたしまして」

    裕美「……もうひとつ、いいかな」

    P「いくつでも、なんなりと」



    62: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 18:25:36.75 ID:bBMqw/ks0
    裕美「店長さんは、私の質問にちゃんと答えてくれた。嘘やごまかしなしに、そういう魔法はあるけど使わないって」

    P「店長ではなくてプロデューサーですが、ええ」

    裕美「だから私も、フェアじゃないといけないと思うの」

    P「と、言いますと?」

    裕美「私、もう魔法のこと信じてるよ。お店の魔法全部。だから魔法の手鏡のことも、今はもう信じてる。なにより、店長さんのこと信用している」

    P「……」

    裕美「だから……証明はしなくてもいいんだよ? 魔法の手鏡は、本物。壊れてるって思ったのは、私の間違い。今はそう思ってるの」

    P「……」

    裕美「つまりその……私をもう、アイドルにしなくても……そ、そう私は思っていて。でも私の為に店長さんやみんなが協力してくれるのは嬉しいし、アイドルになりたくないわけじゃなくて……だけど、もう魔法の手鏡を信用してるのに、手鏡が正しいことを示す為にやってもらうのは、フェアじゃないかな、って」

    P「もう一度」

    裕美「え?」

    P「魔法の手鏡に聞いてみていただけますか? あなた様が最初に聞いたあの質問を」

    裕美「うん……鏡よ鏡、鏡さん。世界で一番可愛いのはだあれ?」

    鏡「それは、関裕美ちゃんです」

     魔法の手鏡は、前と同じ答えを返してくれる。
     でも本当かな?
     私が持ち主だから、気をつかってそう言ってくれてない?
     可愛いっていうのは嬉しいけど、本当に? 私が?

    63: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 18:27:38.21 ID:bBMqw/ks0
    P「いかがですか?」

    裕美「嬉しいけど、本当かなあ……」

    P「つまりまだ、疑念を抱かれておられるわけですね?」

     私は、ハッとした。
     うん、魔法を売る店も、魔法の手鏡も、そして店長さんも信用しているけど、でも私が可愛いって本当? 本当の本当に?
     そうだ、私はまだ信じきれないでいる!

    P「自分のことは、自分ではわからないものなのですよ。ですがご案じになる必要はございません。なぜなら、私が証明して見せて差し上げるからです。この鏡の正しさを」

     この時、ようやく私はわかった。
     店長さんはもちろん、魔法の手鏡を信用している。
     それなのに、私の為に色々とやってくれているのだ。

    裕美「ありがとう……」

    P「どういたしまして。さて、仕事も入ったのですから、がんばらないといけませんよね」

    裕美「うん! 私、がんばるね!!」

    64: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 18:29:42.35 ID:bBMqw/ks0


    泰葉「……」

    泰葉「魔法?」



    65: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 18:31:10.50 ID:bBMqw/ks0
    ほたる「不正……ですか?」

    泰葉「というか、上手く私も言えないんだけど、何か本人の実力じゃないことで合格したんじゃないかな、って」

    千鶴「うーん。確かにそういうの、私も良くないとは思うけど、何か確証があるんですか?」

    泰葉「ないけど……でも、なんだか気になるの」

    千鶴「泰葉さん、あの裕美ちゃんって娘を気にしすぎじゃないです?」

    ほたる「可愛いのは私も認めますし、歌もダンスもすごかったですけど……」

    泰葉「うん。実力は間違いなくあるわ。でも……一見キツそうなのに、笑うとこっちまで笑顔になっちゃうあの不思議な魅力には、何か秘密があるような気がして……」

    千鶴「ふう、わかりました」

    泰葉「え?」

    ほたる「泰葉さん、言い出したら聞かない人ですから……ふふっ」

    千鶴「行ってみましょう、裕美ちゃんのプロダクション」

    泰葉「2人とも……いいの?」

    ほたる「はい」

    千鶴「どんなレッスンしてたら、あんな歌やダンスができるようになるのか、私も興味ありますし」

    泰葉「そうよね、うん」



    66: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 18:35:16.79 ID:bBMqw/ks0
    裕美「あ~♪ あーあ~あーあ~あー♪」

     私が音程を取ると、7羽の姉妹の小鳥さんたちが合わせてさえずってくれる。
     と、それに合わせて、店の中の人形さんたちは踊りだし、喋れる品物は歌ってくれる。
     私はこの魔法を売る店……しゃなかった、今は魔法を売るプロダクションでのレッスンが大好き! 本当に楽しいんだもん」

    ジニー「いい感じだよっ☆ 音程もリズムも、バッチリ身についてきたね!」

    裕美「みんなのお陰だよ。歌も、ダンスも、メイクも……お店のみんなが協力してくれてるから」

    67: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 18:35:43.33 ID:bBMqw/ks0
    泰葉「住所は間違いないと思うんだけど……あ、ほたるちゃん戻ってきた」

    千鶴「どうだった? 窓から覗いた感じ」

    ほたる「……それが裕美ちゃん、小鳥と一緒に歌ってて……」

    泰葉「……小鳥と?」

    ほたる「あと、人形が踊ってた」

    泰葉「???」

    68: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 18:37:37.24 ID:bBMqw/ks0
    ジニー「もう一人、忘れてない?」

    裕美「え? あ、うん。店長さん!」

    P「店長ではなくプロデューサーですが、お呼びになられましたか?」

    裕美「呼んだわけじゃないけど、いつも私のプロデュースをありがとう。感謝してるよ」

    P「今はプロデューサーなのですから、これが私の仕事です。それに……なんというか、やってみると面白いものです。ん……?」

    裕美「どうしたの?」

    P「宮殿の影が、誰かがプロダクションを覗いていると教えてくれています」

    裕美「宮殿の影?」

    P「この店……いや、今はプロダクションの影はそれ自体が意志のある存在です。以前は由緒ある宮殿の影でしたが、宮殿が取り壊される際に影だけを引き取りました」

    裕美「じゃあ魔法を売るプロダクション本来の影は?」

    P「バカンス中です」

    裕美「え? バカンスって……お休みなの?」

    P「ちょっと前にアメリカから手紙が届きました。アメリカ各地を転々と旅しているようです。機会があれば、ご紹介しましょう」

    裕美「うん! 楽しみにしてる」

     相変わらずこのお店……じゃなかった。プロダクションは不思議なことが多い。でもそれが私には楽しい。
     店長さんはいつだって、面倒がらずに私におプロダクションのことを説明してくれる。
     それでもまだまだ、プロダクションには不思議なことがいっぱいだ。

    69: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 18:39:09.86 ID:bBMqw/ks0
    P「さて、訪問者にどのように対処しましょうか……ここが魔法を売る店ならお客様として出迎えますが、今はプロダクションなので……」

    裕美「私、見てくるよ」

    P「あ、それには及びま……」

     店長さんが最後までしゃべる前に、私は外に飛び出した。
     そしてそこには――

    裕美「あ!」

    千鶴「えっ!?」

    ほたる「ど、どうも……」

    泰葉「……こんにちは」

    裕美「千鶴さんにほたるちゃんに、泰葉さん! 遊びに来てくれたの!?」

    千鶴「え……?」

    ほたる「えっと……」

    泰葉「そ、そう!」

    千鶴「えっ!?」

    ほたる「や、泰葉さん!?」

    泰葉「と、友達になりたいと思って」

    裕美「わあ、嬉しい! 店長さん、私のお客さんだったよ」

    70: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 18:41:24.84 ID:bBMqw/ks0
    P「これはどうも、アイドルの白菊ほたる様に松雄千鶴様、そして岡崎泰葉様」

    泰葉「あ、あの実は今、見ちゃったんだけど……」

    P「? はい」

    泰葉「小鳥が歌ってませんでした!?」

    裕美「うん。紹介しようか?」

    泰葉「人形も動いてたし!!」

    P「みな、魔法の品ですので……」

    泰葉「魔法……」

    P「何かご不審な点でも?」

    泰葉「そ、そういうのって人にしゃべってもいいの!?」

    裕美「え? だめ……だった?」

    P「岡崎泰葉様には、はい。そして関裕美様には、いいえ」

    泰葉「いいの!?」



    71: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 18:42:39.14 ID:bBMqw/ks0
    P「魔法とは、人の求めによって生じる力です。人を拒むことはありません。ただ、なかなかに魔法を受け入れられる方も少ないのですが」

    裕美「うん。私も最初は、信じてなかったもの。手品だと思ってたぐらい」

    千鶴「じゃあさっきのは、本当に小鳥が歌って」

    ほたる「人形が踊ってた……んですか?」

    裕美「そうだよ。みんなで私に、レッスンしてくれてるの」

     泰葉さんは、びっくりした顔をしてたけど、やがて笑い出した。

    裕美「どうしたの?」

    泰葉「ううん。なんだか疑ってた自分がばかみたいだな、って。ごめんね、裕美ちゃん」

    裕美「? 何がごめんなの?」

    泰葉「魔法とかって聞いて、私は疑ってしまったの。何か不正をしてるのかも、って。だからごめんなさい」

    裕美「そ、そんなのいいよ。ね、店長さん」

    P「店長ではなくプロデューサーです。ええ、何も問題はありません。それよりも、芸能界のアイドルの先輩として、こちらの関裕美様をどうか、よろしくお願いします」

    ほたる「あ、それは……こちらこそ」

    千鶴「ええ。ライバルではあるし、所属は別だけど友達としては仲良くしたいわ」

    泰葉「ええ。今後ともよろしくね」

    裕美「うん! えへへ、友達が増えたよ。やったね」

    P「では、おもてなしに冷たいものでもご用意いたしましょう。確かスキタイの実が冷やしてありました」

     芸能界は、色々と厳しい部分もある。泰葉さんが懸念していたみたいに、不正みたいなこともあるみたい。
     でも、私はこのプロダクションとプロデューサの店長さんとならやっていけると思う。
     それに……友達もできたし!

    72: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 18:44:33.24 ID:bBMqw/ks0
     私のアイドル活動は、店長さんのおかげで順調だ。
     CDも自社レーベルを立ち上げてくれた。
     そしてそのCDは……

    P「これは魔法の靴屋と魔法の鶴に任せます」

    裕美「靴屋さんと鶴さん? CDを靴屋さんや鶴さんが作ってくれるの?」

    P「ええ。しかし彼らは……いや、彼らと彼女はあなた様が寝ていないと仕事をしてくれません」

    裕美「え?」

    P「なので関裕美様には、これから寝ていただきます」

     まさか寝ることがアイドル活動に必要になるとは思ってもいなかったけど、私は店長さんを信頼している。

    P「あまりぐっすりと眠ってしまわれると夜に眠れなくなってしまうので、魔法のシュラフではなく普通のベッドをご用意いたしました」

     それは天蓋のついた、綺麗なベッドだった。

    裕美「ここで寝ていればいいの?」

    P「はい。どうぞ」

    裕美「……」

    P「……」

    裕美「なんだか、急には眠れないみたい」

    P「……弱りましたね」

    73: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 18:46:00.69 ID:bBMqw/ks0
    裕美「そうだ、歌。歌とか聞いたら眠れるかも」

    P「では魔法の小鳥たちをよびましょうか」

    裕美「……ねえ、店長さん」

    P「店長ではなくプロデューサーですが、なんでしょう?」

    裕美「私、店長さんの歌が聞きたい」

    P「……そういった事は不得手でして」

    裕美「それでもいいから、お願い」

    P「……致し方ありません」

     店長さんは、困った顔をしながらも歌ってくれた。私のために。
     どこの言葉かわからない歌詞の、聞いたこともない曲は甘いバリトンで、私はもっと聞きたいと思いながらも目を閉じていると、眠りに落ちてしまっていた。

    74: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 18:46:29.78 ID:bBMqw/ks0
    裕美「……! あ、お、おはよう」

    P「朝ではありませんが、おはようございます。出来上がっておりますよCD」

     私は会うこともできなかったけど、靴屋さんと鶴さんは、確かにCDを作ってくれていた。
     私がジャケットの、素敵なCDだ。
     だけど……

    裕美「こ、これどうしてジャケットが私の寝顔なの!?」

    P「可愛かったので……いけませんでしたか?」

    裕美「……て、店長さんが可愛いと思ったから?」

    P「店長ではなく、プロデューサーです。魔法の靴屋と魔法の鶴が、そう申しますので」

    裕美「へえー……ふうん……」

    P「私も同意いたしました」

    裕美「え? うふふ。しょ、しょうがないなあ。それならいいよ、寝顔がジャケットでも。少し恥ずかしいけど」

    P「? わかりました。では今夜、関裕美様がぐっすりと寝ている間に大量生産させましょう」

    裕美「靴屋さんと鶴さんって、どういう風にCDを作ってくれてるの?」

    75: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 18:47:59.58 ID:bBMqw/ks0
    P「それは企業秘密です。というか、あなた様はそれを知ってはなりません」

    裕美「え? どうして?」

    P「寝ている間に何が起きているのかを知る事と、寝ている間に何が起きているのかを見る事は、形而下学的には同義だからです」

    裕美「? よくわからないけど、わかった」

     CDはジャケットだけでなく、中の入った私の歌もきちんと入っていた。
     試しに魔法の白い蛇さんにCDを取り込んでもらい、自分の歌を聞いていると不思議な気持ちになってくる。

    裕美「これ……どうなのかな。自分ではよくわかんないよ。このCD、売れるかのかな……?」

    P「売れますとも」

    裕美「? 店長さん、どうしてそんなに自信満々なの?」

    P「店長ではなく、プロデューサーです。実は既に100枚近く売れました」

    裕美「え?」

    P「あちらをご覧ください」

     店長さんが指さした方を見ると、お店のみんながCDを持って笑っている。
     ジニーさんやメデューサさん、デイジーちゃんにバイオレットちゃん、その他大勢のお店の品々がみんなCDを持ってる。
     あ、あそこにいるのが靴屋さんと、鶴さんかな?



    76: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 18:48:25.79 ID:bBMqw/ks0
    ジニー「すっごくいい曲だよっ☆ 聞いてると身体が自然に動いちゃうぐらい!」

    メデューサ「可愛い顔、するようになったじゃないか……いいや、もともとか」

    裕美「みんな……ありがとう!」

     私のCDは飛ぶように売れた。というか、店長さんによると、実際に飛んでいたらしいけど私はそれを見ていない。
     でも、私はアイドルとして、売れ出してきた。

    77: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 18:50:31.61 ID:bBMqw/ks0
    P「仕事がどんどん入ってきています」

     店長さんはいつものにように、それが重大な発表であるみたいに私に話しかけてきた。

    裕美「すごいね。まるで本物の有名芸能人みたい」

    P「まるで、ではありません。あなたは今や、世間の誰もが注目する一流の有名芸能人です」

     確かに店長さんの言う通りかも知れない。ちょっと前までは人から「怒ってるの?」と聞かれていた私が、今はメガネとかで変装していても周りがヒソヒソと「あれ関裕美ちゃんじゃない?」とか言っているのがわかるし、時にはサインも求められる。

     でも、それでも私は、もしかしたらこれは夢なんじゃないだろうかと思ったりもしている。
     幸運で幸福な夢を、私はずっと見ているんじゃないかな--?

    78: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 18:51:47.00 ID:bBMqw/ks0
    P「ライブやイベントを組んでいます。そして実は、日本ゴールドディスク大賞にも、ノミネートされました」

    裕美「え!? あの年末にテレビでやる、その年の音楽界の表彰をする!?」

    P「そうです。その為に当初お話していた年末の予定を、少々変更いたしました。スケジュールを鏡にかざしておきましたので、後ほど魔法の手鏡でご確認ください」

    裕美「日本ゴールドディスク大賞かあ、すごいね。もしも大賞とか取っちゃったら……」

    P「無論、関裕美様は、トップアイドルとして認知されることでしょう」

    裕美「私、今でもまだ自分が可愛いって信じられないんだ。でも……」

    P「……なんでしょう?」

    裕美「そういう賞とかもらったら、違うのかな? 信じられるようになる……のかな?」

    P「……それは私にもわかりません。結局は、どこまでいっても自分では自分のことはわからないものなのかも知れません。ですが--」

    裕美「?」

    P「トップアイドルと呼ばれるようになれば、本人ではなく周りが変わります。その時、答えは見えるのではないでしょうか」

    裕美「そうなのかな……」

     トップアイドルへの大きな門、日本ゴールドディスク大賞。
     ちょっと前までは考えもしなかった舞台に、私が立つ時が近づいてきていた。

    79: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 18:53:32.09 ID:bBMqw/ks0
    千鶴「あ、裕美ちゃん」

     事務所は違うけど、同期として活躍する千鶴さんと泰葉さんとほたるちゃん。

    泰葉「聞いたわよ。日本ゴールドディスク大賞のノミネート。負けないわよ!」

    裕美「ということは、みんなも?」

    ほたる「はい……夢みたいです、ゴールドディスク大賞にノミネートされるなんて」

    千鶴「ちょっとほたるちゃん、泣かないで」

    泰葉「そうよ。それに、ノミネートか最終目標じゃないでしょ? 目指すのは……」

    裕美「大賞……だね」

    ほたる「はい。できたら……」

    裕美「え?」

    ほたる「できたら、大賞はこの4人の中から出したい……です」

    千鶴「そうね。4人で大賞を争いたいな」

    泰葉「でも……」

    裕美「え?」

    泰葉「ううん、なんでもない」

    泰葉(誰が大賞になるにしても、絶対にあなたが最後まで候補に残るわきっと。魔法の力とか関係なく、ね)

    80: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/08/05(日) 18:55:12.02 ID:bBMqw/ks0
    P「関裕美様、大事なお話があるのですが」

     日本ゴールドディスク大賞の受賞式も近づいてきたある日、いつも通りの神妙な顔で、店長さんが私にそう話しかけてきた。
     いつも通りだけど、どこかいつもよりも真剣……ううん、なんだか不安そうだ。

    裕美「どうかしたの? 何かあったとか?」

    P「いえ。実は、プロダクションの収益とあなた様のギャランティの件で少々ご相談したいと思いまして」

    裕美「ぎゃらんてぃ……?」

    P「関裕美様の芸能活動によって生じる収益は、必要経費を差し引いても黒字となっております。そこでその黒字収益は、あなた様のギャランティ、つまりギャラ……報酬としてお支払いしたいと思います」

     そっか。私はそういう事を全然考えてなかった。
     この魔法を売るプロダクションも、芸能活動を行う会社なんだから、そういうお金の事も店長さんはやってくれてたんだ。

    裕美「ごめんなさい。私、お金のことって全然考えてなかったの」

    P「よいのです、それは。ただ、この機会にちゃんとしておこうと思いまして」

    裕美「うん。あれ? でも黒字になった分が私の報酬って、店長さんは?」

    P「お話したいのは、その件でして」

    裕美「? うん」



    81: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 18:56:33.89 ID:bBMqw/ks0
    P「関裕美様の報酬から、いくらかを私……というかこの魔法を売るプロダクションに支払っていただいてもよろしいでしょうか」

    裕美「もちろんだよ。今まで思いつかなくてごめんなさい」

    P「よろしいのですね?」

    裕美「うん。というか私、別にお金なんて要らないよ? 全部、魔法を売る店のものにしてもいいのに」

    P「そういう訳にはまいりません。それではプロダクションが法律によって罰せられてしまいますから」

    裕美「そういうものなの? じゃあ、半分こ」

    P「……なんですって?」

    裕美「私と店長さんで、半分こでどうかな?」

    P「店長ではなく、プロデューサーです。そのように過分にいただくわけには参りません」

    裕美「でも、私をアイドルにしてくれたのは店長さんだし、芸能活動だって全部店長さんが準備とかもしてくれてるんだし」

    P「……お支払いいただきたいのは、九千円です」

    裕美「え?」

     それだけ?
     よくわからないけど、それって安くないの?

    82: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 18:58:35.19 ID:bBMqw/ks0
    P「こちらに関裕美様の口座を作っておきました。ここからこの魔法を売るプロダクションに、九千円を振り込んでもよろしいでしょうか」

     私は、店長さんの差し出した通帳を開いてみた。

    裕美「0の数がえーと……ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ、いつつ……え!? こんなに!?」

    P「最終的な収支はまだですが、現時点でこれだけの収益が入ってきております」

    裕美「こんな……こんなに私、要らない!」

    P「それは違います」

    裕美「え?」

    P「報酬はあなた様の評価のひとつです。それのみに囚われてはいけませんが、それを否定してもなりません」

     そう……なの?
     私にはよくわからない。でも、こんな大金を受け取っていいのかな?

    P「あなた様のファンや、あなた様の為に仕事をした人たちからの報酬がこれです。あなた様は受け取らねばなりません。それもまた、アイドルのなすべきことです」

    裕美「それならやっぱり、店長さんと半分こに……」

    P「それは本当にいいのです。私は……いえ、なんでもありません」

    裕美「?」

    P「そりよりも……」

    裕美「え?」

    P「よろしいでしょうか? この口座から、魔法を売るプロダクションに九千円をお支払いいたただいても……」

     店長さんは真剣に、そしてなんだか寂しそうに言った。
     その時。

    83: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 19:00:10.32 ID:bBMqw/ks0
    「……ダメダヨ」

    裕美「え?」

    「ダメ……」

     どこからか、かすかに声が聞こえてくる。
     ふと見ると、2体のお人形さんと目があった。
     確か……そう、デイジーちゃんとバイオレットちゃんだ。

    裕美「どういう……」

    P「デイジー! バイオレット! 口を挟んではなりません!! これは大事な話なのです」

     店長さんがそう言うと、デイジーちゃんとバイオレットちゃんは目をそらし、口をつぐんだ。

    裕美「店長さん?」

    P「店長ではなく、プロデューサーです」

     でもささやいてくるのは、デイジーちゃんやバイオレットちゃんだけじゃなかった。

    「ダメ」「ハラッチャダメ」「ダメダヨ」「ソンナコトシナイデ」「ソレハダメ」「モシモ」「ハラッチャッタラ」「ソノトキハ」「ソンナコトニナッチラ」「ハラワナイデ」「オネガイ」

     店中から、誰のものかわからないぐらい小さな声が、次々と私にささやいてくる。

    裕美「え? どういうこと?」

    P「みんな黙りなさい! これは関裕美様がご自分で判断されなければならないことなのです!! 差し出がましい真似をするものは、虚無の壷に放り込みます」

     店内は一瞬で静かになった。

    84: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 19:02:33.54 ID:bBMqw/ks0
    P「さあ、関裕美様。いかがです?」

    裕美「え……と、お金を払うかってことだよね?」 うーんと……」

     お店のみんながささやいていた事も気になるけど、やっぱりお金のことはきちんとしておきたい。
     これまでプロデュースをしてもらったんだし、払わないといけないものは払っておきたい。
     私をアイドルにしてくれて、そして可愛いって認めさせてくれて、そういう感謝も込めて。

    裕美「うん、払うよ。九千円でも、いくらでも。店長さんの欲しいだけ」

    P「……いただきたいのは、九千円だけです。では、電子決済で振り込みをいたします」

    裕美「うん、お願い」

    P「……本当によろしいのですね?」

    裕美「? ええ」

     店長さんが、手にしたスマホを操作した。

    P「ご確認を。関裕美様の口座から、魔法を売るプロダクションに九千円が支払われました」

    裕美「うん」

    P「……ありがとう……ございました」

    裕美「どういたしまして」

     私は頭を下げると、その日は帰った。
     この時私は、とうとう払った九千円の意味に気づくことは――いや、思い出すことはできなかった。

    85: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 19:05:14.09 ID:bBMqw/ks0
     日本ゴールドディスク大賞の授賞式の日、みんなが私を送り出してくれた。
     ちょっとだけ緊張はしたけど、いつもと同じ。私は、お店にいるつもりで歌って、踊った。
     そして、その結果は……

    ほたる「裕美ちゃん、おめでとう」

    泰葉「やっぱり今年は、裕美ちゃんだったか」

    裕美「みんな、ありがとう」

    千鶴「私たちも、来年は続くわよ。待っててね」

    裕美「うん!」

     信じられなかったけど、私は日本ゴールドディスク大賞を受賞した。
     これもきっと、みんなのおかげだ。
     みんなが協力してくれたから、獲れた賞だ。が

     そう、特に……



    86: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 19:11:32.82 ID:bBMqw/ks0
    裕美「店長さん! やったよ!! 私、大賞だって!!!」

    P「おめでとうございます。私も感動いたしました。すばらしいステージです」

    裕美「ほんと? えへへ、みんなも見てくれたかな」

    P「……コウモリが伝えてくれました。私同様、みな喜んでおりました」

    裕美「よかった。私、それが1番嬉しい。早くみんなに会いたい!」

    P「……」

    裕美「ね、はやく帰ろうよ。みんなの所へ」

    P「それにつきまして、大事なお話があります」

    裕美「え? 今?」

    P「はい」

     店長さんの真剣な顔。
     な、なにかな……

     ……あれ?

    87: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 19:12:45.17 ID:bBMqw/ks0
    P「関裕美様は、数多のアイドルの中で大賞を獲得されました」

    裕美「うん。全部、店長さんのお陰だよ。あと、お店のみんなと」

    P「これで則ち、関裕美様は文字通りトップアイドルになられたわけです」

    裕美「まだ実感がないけど……でも私、ちょっと自信がついたよ。店長さんと魔法の鏡が言ってくれた事、ほんとだったって」

    P「……そうですか」

     まただ。
     店長さん、私が「店長さん」って言っても「店長ではなくプロデューサーです」って訂正してくれない。

    88: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 19:15:07.90 ID:bBMqw/ks0
    P「それでは、これをもって私と関裕美様の契約も終了ということとなります」

    裕美「……え?」

    P「魔法の手鏡は、正しかった。今そうお認めになられましたね?」

    裕美「それは、そうだけど」

    P「あなた様は、やはり可愛かった。たった今、そう証明されたのです」

    裕美「待って、ねえ待って!」

    P「……そしてこの契約書をご覧ください。こちらの項目にこう書かれております」

    89: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 19:17:20.91 ID:bBMqw/ks0

    『魔法を売るプロダクションとその代表である私、魔法を売るプロデューサー(以下甲とする)は、関裕美様(以下丙とする)と、以下のマネジメント契約を取り交わす。

     ひとつ、甲は丙に対し魔法の手鏡が正しく機能している事を証明するため、誠心誠意プロデュースに努めるものとする。

     ふたつ、具体的には甲と丙は魔法の手鏡の言うとおり丙が可愛い事を証明する為トップアイドルを目指すこと。

     みっつ、契約の期間は上記の証明がなされ、かつ丙よる魔法の手鏡の未納代金分の支払い完了をもって終了するものとする』


     契約書の内容は、私も覚えている。
     いつだったか、店長さんが言ったことをデイジーちゃんとバイオレットちゃんが書いてくれた、あの契約書だ。

    90: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 19:19:10.20 ID:bBMqw/ks0
    P「先日、私と魔法を売るプロダクションは、未納であった魔法の手鏡の代金を、関裕美様からお支払いいただきました」

    裕美「あっ!」

     私は思いだした。
     そう、先日の事だ。
     私は確かに、店長さんと魔法を売る店に九千円を支払った。
     あれは……



    91: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 19:20:29.57 ID:bBMqw/ks0
    裕美「魔法の手鏡の、代金だったんだ……」

    P「それを明かすわけには参りませんでした。私がそれを話してしまえば関裕美様は、敢えてずっと払わないでいるという選択を第三者からならともかく、当事者である私からの助言で知ってしまう事になるからです」

    裕美「店長さんは、いつだってフェアだもんね……」

    P「でありますから、本日この時をもちましてこの契約は終了となります。ご理解いただけましたか」

     理解はできた。
     でも、それじゃあこれから私と店長さんはどうなっちゃうの?

    裕美「もう店長さんは、私のプロデューサーじゃないの?」

    P「そうなります。が、今後も関裕美様がアイドルは続けられるよう、移籍の手配をしておきました。岡崎泰葉様や松尾千鶴様、白菊ほたる様のおられるプロダクションです。これが私からの、最後のアフターケアとなります」

    裕美「そんなの……そんなの嫌だよ。私、そんなの嫌!」

    P「……」

    裕美「私、店長さんがいい! 魔法を売るプロダクションがいい!! お店のみんなといっしょがいい!!!」

    P「最後にもうひとつご説明せねばなりませんが、魔法を売る店は何かひとつ魔法の品を売り代金を受け取るごとに、店の場所が変わります」

    92: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 19:22:04.04 ID:bBMqw/ks0
    裕美「え?」

    P「魔法はいつでも、同じ場所で手に入るとは限らないのです」

    裕美「そ、それって……」

    P「次がどこの国のどこの街になるのか、それは私にもわかりません。魔法を売る店は、そういう特別な魔法の品なのです」

    裕美「それじゃあ、もうあの場所に魔法を売る店はなくなっちゃうの!?」

    P「はい。ですので、これでお別れです。関裕美様、魔法の手鏡のお買い上げありがとうございました」

    裕美「嫌! 嫌! 嫌! そんなの嫌!! お別れなんて嫌!!!」

     その時だ。店長さんの姿が、少しずつ薄くなってきている事に私は気がついた。

    93: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 19:24:10.02 ID:bBMqw/ks0
    P「私という存在もまた、魔法を売る店の品と同様に店に帰属しています。店が移動し始めているのです。私も店と共に行かねばなりません」

    裕美「嫌……嫌。そんなの……」

    P「さようなら、関裕美様。どうぞお元気で……」

    裕美「……プロデューサー!」

    P「今や私はプロデューサーではありません。店長です」

    裕美「私といて、楽しかった? アイドルのプロデュースって仕方なくやっていたの?」

    P「私は……」

     最後の言葉を聞くことなく、店長さんは消えてしまった。
     その場に崩れ落ちる私の目の前に、その時何かが落ちてきた。

    94: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 19:48:53.67 ID:bBMqw/ks0
    裕美「これ……店長さんが持ってた魔神の瓶だ」

     瓶のコルクには羊皮紙が張り付けてある。
     私は急いで、その羊皮紙を広げた。

    『親愛なる仲間、関裕美様。日本ゴールドディスク大賞の受賞、おめでとう。これはみんなからのお祝いの品です。これがみんなであのプロデューサーさんの目を盗んで贈れる、ただひとつの魔法の品。また会える日を楽しみにしています――魔法を売るプロダクションの仲間より』

     たったふたつ、魔法の手鏡とこの瓶だけが手に残り、私は一人になった。
     そして私は、生まれてから一番たくさんの涙をこの夜に流した。

    95: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 19:53:25.14 ID:bBMqw/ks0
     1ヶ月が経った。た。
     私はまだ、瓶を開けずにいる。
     お店のみんなが贈ってくれたあの瓶には、魔神さんが入っているはずだ。
     開ければ私の質問に答えてくれると思う。
     そう、どうすればまた魔法を売る店に行けるのか、どうすればまたみんなに会えるのか。

     そして一番大切なこと――

     どうすればまた、店長さんにプロデュースをしてもらえるのか。

     何度か瓶を開け、それを聞こうと思った。
     でも、その度にやめた。

     それは、自分で自分のことを知ろうと思ったからだ。
     そう、今なら私にもよくわかる。
     自分で自分のことはわからないもの……いや、わかろうとしていなかった。

     だから、新しいプロダクションでがんばってみた。
     もしかしたら、私はアイドルそのものが楽しかったんじゃないだろうか。
     魔法を売る店は、関係ないのかも知れないと。

     だが、それは――間違いだった。



    96: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 19:55:00.22 ID:bBMqw/ks0
     移籍したプロダクションは、みんな新設だ。
     設備も人員も整っていて、活動もしやすい。
     レッスンもしっかりできる。

     ただ……

     歌っても、誰かが飛び出して一緒に踊ってくれることはない。
     踊っても、誰もそれに合わせて歌ってはくれない。

     私は……

    裕美「やっぱり、魔法を売るプロダクションに……帰りたい……みんなに……会いたいよ――」

    泰葉「……その方がいいよ」

    97: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 19:56:36.14 ID:bBMqw/ks0
    裕美「あ、泰葉さ……」

    泰葉「一緒にアイドルできるのも楽しいけど、やっぱり裕美ちゃんはあのプロダクションじゃなきゃ」

    ほたる「そうです……裕美ちゃんが一番輝くのは……」

    千鶴「あのプロダクションとプロデューサーさんだもんね!」

     みんなに言われ、私は決心した。
     急いで家に帰り、あの魔人さんの瓶を取り出す。

     私は瓶のコルクを抜いた。
     と、次の瞬間にいつかと同じようにもくもくと煙が中から湧きだし、魔神さんの顔になった。

    98: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 19:57:46.18 ID:bBMqw/ks0
    魔神「時は至れり」

    裕美「え?」

    魔神「契約の時は来た。ついに我は自由の身となった」

     ど、どういうこと? 魔神さんは、コルクを抜いた人の質問に答えてくれるんじゃないの?

    魔神「そうではない」

    裕美「そうでは……って、え?」

    魔神「聞かれる前に答えておこう。貴様の認識は間違っている。我はあの店長と個人的な契約を結んでいた」

    裕美「契約?」

    魔神「我は魔法的なもの、及びそうでないものの法や契約の専門家だ。古来よりすべての法や契約に通じている」

    裕美「そっか。それで店長さんは、アイドルのなり方を魔神さんに聞いたんだ」

    魔神「左様。法規的な手続きを我に問いただしたのだ」

    裕美「じゃあ私の質問には答えてくれないの?」

    魔神「ふうむ」

     魔神さんは、私の顔をまじまじとのぞき込む。ちょ、ちょっと恥ずかしいな。

    99: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 19:58:55.27 ID:bBMqw/ks0

    魔神「貴様の問いには答えられぬ。そしてなにより、我は貴様と契約してはおらぬ」

    裕美「じゃあ店長さんが聞いたら、答えてくれるの」

    魔神「今やそれも叶わぬ。なぜなら契約の時はきたからだ。我とあの店長は、両者以外の誰かがコルクを抜くまで我が店長に使役するという契約を結んでおった」

    裕美「それってなんのために?」

    魔神「代わりの報酬として、快適な住処を用意してもらう為。魔法のランプだ」

    裕美「魔法のランプ……」

    魔神「魔神にとって、魔法のランプは快適な住まいだ。最高のランプの報酬として、我は店長と契約を交わした。そして今日この時、我は自由を得た」

     魔神さんがそう言うと、どこからかランプが飛んできた。

    魔神「約束通り、これは我のもの。では、さらばだ。可愛らしい人間の娘よ」

     煙がどんどんとランプの中に入っていく。私はあわてて叫んだ。

    裕美「待って!」

    魔神「なんだ?」



    100: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 20:01:03.37 ID:bBMqw/ks0
    裕美「私の質問に答えて!」

    魔神「貴様の質問には答えられぬ。それは我の専門外であるからだ。そして答える義理もない」

    裕美「そんなの……冷たいよ。そうじゃない?」

    魔神「なんだと?」

    裕美「だってコルクを抜いたのは、私だよ? それで自由になれたのなら、ちょっとぐらい義理とか恩を感じてくれてもいいんじゃないの?」

     一瞬あっけにとられたような顔をした魔神さんは、次の瞬間に笑いだした。

    魔神「我をおそれもせず、そのような事を言う人間は珍しい。だが……」

    裕美「だめ?」

    魔神「我は法と契約の専門家。それ以外の質問には答えられぬ。しかし、確かに貴様の言うように多少の義理や恩は感じてしかるべきやも知れぬな」

    裕美「本当に? ありがとう!」

    魔神「貴様に法と契約の専門家として、アドバイスをやろう。契約を交わした際は、その契約をよくよく見るがいい」

    裕美「え?」

    101: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 20:02:39.25 ID:bBMqw/ks0
    魔神「完璧な人間などいないように、完璧な契約や法というものは存在しない。必ずどこかに瑕疵がある」

    裕美「えっと、そういうことじゃなくて、私が聞きたいのは……」

    魔神「法や契約とは道路ではない。行き止まりの袋小路などないのだ」

    裕美「あの、私の話を聞いて」

    魔神「必ず抜け道はある」

    裕美「あのね!」

    魔神「ただし……!」

    裕美「え?」

    魔神「抜け道とは、歩いている者だけに役に立つ……決して立ち止まるな。立ち止まらない限り、抜け道はある――では、さらばだ」

    裕美「ま、待って! そういうのじゃなくて、私が聞きたいのは……ねえ、魔神さん!? 待ってよ!!」

     ランプの中に煙がすべて収まると、ランプは窓から外へ飛んで行ってしまった!
     どうしよう……あの魔神さんが、最後の希望だったのに……

    102: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 20:03:29.80 ID:bBMqw/ks0
     途方に暮れて私は、ランプが飛んでいった空を見上げる。
     どうにかしてもう一度、魔法を売る店に行き店長さんに会う。会ってまたプロデュースをしてもらう。その望みは絶たれてしまった。
     夜空の月が、とても綺麗に光っている。

    裕美「そういえばジニーさん。私の衣装にだいぶ絨毯を使ってくれてたけど、今頃あの月の光で絨毯は元に戻っているかな……」

     そのジニーさんが最後に贈ってくれた魔神さんの小瓶も、結局私は役に立てる事は出来なかった。
     魔神さん……最後になんて言ってたっけ。

     確か……

    103: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 20:05:24.05 ID:bBMqw/ks0

    魔神「法や契約とは道路ではない。行き止まりの袋小路などないのだ」

    魔神「必ず抜け道はある」




    104: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 20:07:00.20 ID:bBMqw/ks0
    裕美「だっけ。抜け道……?」

     抜け道……抜け道ってなんの事だろう。
     そもそも魔神さんは、私の質問についてじゃなくて、何について話してくれたんだっけ。

    105: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 20:23:11.80 ID:bBMqw/ks0

    魔神「抜け道とは、歩いている者だけに役に立つ……決して立ち止まるな。立ち止まらない限り、抜け道はある――」


    106: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 20:25:41.70 ID:bBMqw/ks0
    裕美「そんなこと言われても、もうどうしようもないよ……魔法を売る店と店長さんが今どこにいるのか、どうすれば会えるのかも難しい問題だけど、そもそも会えたとしてどうすればまた私のプロダクションとプロデューサーさんになってもらえるのか……」

     もう、無理……なのかな。

    107: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 20:27:10.26 ID:bBMqw/ks0

    魔神「抜け道とは、歩いている者だけに役に立つ……決して立ち止まるな。立ち止まらない限り、抜け道はある――」




    108: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 20:28:22.89 ID:bBMqw/ks0
    裕美「……」

     そうだ。あきらめたらもう終わり、でも歩き続ければ道はあるのかも知れないんだ。
     私は、契約書を引き出しから取り出す。
     店長さんと契約を交わした日から、しまったままの契約書を。
     魔神さんの言う通り、よくよく読んでみよう。

    109: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 20:30:22.97 ID:bBMqw/ks0

    『魔法を売るプロダクションとその代表である私、魔法を売るプロデューサー(以下甲とする)は、関裕美様(以下丙とする)と、以下のマネジメント契約を取り交わす。

     ひとつ、甲は丙に対し魔法の手鏡が正しく機能している事を証明するため、誠心誠意プロデュースに努めるものとする。

     ふたつ、具体的には甲と丙は魔法の手鏡の言うとおり丙が可愛い事を証明する為トップアイドルを目指すこと。

     みっつ、契約の期間は上記の証明がなされ、かつ丙よる魔法の手鏡の未納代金分の支払い完了をもって終了するものとする』


    110: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 20:32:07.19 ID:bBMqw/ks0
     1回だけじゃなく、私は何度も契約書を読み返した。
     そうして7回目に契約書を読み直した時だ。

    裕美「……あ!」

     その瞬間、月が輝いた気がした。
     暗い夜の空の中に、光る道が見えた。
     魔神さんの言う通りかも知れない。
     瑕疵のない契約はない。

     私は――道を見つけた!

     急いで魔法の手鏡を取り出す。

    裕美「鏡よ鏡、鏡さん――」

    111: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 20:35:46.29 ID:bBMqw/ks0
    ~北緯67度32分45秒東経133度23分13秒~
    ――ロシア連邦サハ共和国ベルホヤンスク――

    P「今日も雪……ですか。昼でも日は昇らないし、相変わらずお客様の来店もなく、当分この地にいることになりそうですね」

    ジニー「魔法の温度計を見てくださいよっ! 室内なのにマイナス10度ですよ」

    P「外はマイナス40度だからな。これでもまだ、暖かい方だ。それよりもジニー、なぜ呼ばれてもいないのに出てきている?」

    ジニー「ほら、あの歌で」

    P「魔法の白い小鳥……そのDVDをかけては、一緒に歌うのが日課になっていますね」

    ジニー「みんな裕美ちゃんの歌が大好きなんですよっ☆」

    P「……」

    112: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 20:37:33.36 ID:bBMqw/ks0
    ジニー「店長もでしょ?」

    P「素晴らしい歌声だと思います」

    ジニー「……ねえ」

    P「なりません」

    ジニー「アタシ、まだなんにも言ってませんけど?」

    P「関裕美様との契約は終わったのです。魔法の手鏡も完全に購入され、あの方とこの店を結びつけるものは今や何もありません。何も、そう何も……」

    ジニー「でも」

    P「あんな可愛い方と、共に歌い、踊り、その活躍を目の当たりにし、力を合わせ共に活動することは楽しかったかも知れません。しかし、我々はもう関係のない部外者なのです」

    ジニー「……それは、誰に向かって言ってるんですか?」

    P「……なに?」

    ジニー「アタシは、店長のひいお爺さんの時代からこのお店にいます。店長が生まれる前からですよっ!」

    P「それがどうしたというのです」

    113: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 20:39:41.46 ID:bBMqw/ks0
    ジニー「店長は、先代の店長から教えられた仕事を完璧にこなしてますよ。今までのどの店長よりも。でも……」

    P「……でも?」

    ジニー「アタシ、店長が楽しそうに仕事をしている所、見たことありません。いつも礼儀正しいけれど、笑ったことなんてないでしょっ?」

    P「仕事とは、そういうものです」

    ジニー「でも、裕美ちゃんをプロデュースしてる時は違った」

    P「……」

    ジニー「裕美ちゃんと話している時や、その活躍を見守っている時……ううん、裕美ちゃんをどうトップアイドルにしようか、それを考えている時だって店長は楽しそうに、笑っていましたよっ!」

    P「笑った? 私が?」

    ジニー「店長は、見つけたんですよっ! 本当に楽しい、自分にとっての天職を。やりがいのある、そしてあなたがやるべき仕事をっ!!」

    P「……」

    ジニー「……」

    P「自分で自分の事は、わからないものです……か」

    114: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 20:41:37.28 ID:bBMqw/ks0
    ジニー「店のみんなは、わかってますよっ☆ 店長は裕美ちゃんのプロデューサーに戻るべきだ、って。それにみんな、裕美ちゃんも店長も大好きなんですから」

    P「……もう、遅いのです。それに今頃、関裕美様も新しいプロダクションで……」

     カランカラン♪

    P「おや、お客様だ。ようこそ、魔法を売る……」

    裕美「やっと会えた! 久しぶり、店長さん!!」

    P「……これは夢か」

     店長さんは、私の顔を見るなり固まっちゃった。
     でも私も寒さで凍って固まっちゃいそう。
     話には聞いていたけど、こんなに寒いんだベルホヤンスク。



    115: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 20:45:36.20 ID:bBMqw/ks0
    裕美「ここって本当に寒いね。ね、いつだったか話してくれたあれを出してよ。火を噴く魔法の蛇さん」

    P「なぜここに!? どうしてここが……どうやってここまで来られたのですか!?」

    裕美「あのね、魔法の手鏡に聞いたんだ。鏡よ鏡、鏡さん――魔法を売る店は、今どこにあるの? って。魔法の手鏡は『それはベルホヤンスクです』って教えてくれたけど、私はそれを聞いてもどこだかわからなかったんだ」

    P「ならば、どうして……」

    裕美「千鶴さんに聞いたんだ。ベルホヤンスクってどこ、って。千鶴さんは勉強家だから知ってたよ。ベルホヤンスクは、人間の住んでいる中で一番寒い町だって」

    P「しかしだからといって……」

    裕美「うん、場所がわかっても行き方とかわからないし、ロシア語も私はわからないし。だからね」

    P「……だから?」

    裕美「魔法の手鏡に聞いたんだ。『ベルホヤンスクのロケがあるお仕事とかそういう企画はないの?』って。そうしたらブーブーエスに、十時愛梨ちゃんは世界で一番寒い町でも暑がるのかって企画があるって」

    P「もしかして、あなた様は……」

    裕美「うん。頼み込んだんだ。愛梨さんに。そのお仕事受けて、それで私も一緒に参加させて、って」

    P「なんて無茶を……」

    116: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 20:49:04.99 ID:bBMqw/ks0
    裕美「ほたるちゃんや、泰葉さんも一緒にお願いしてくれた。愛梨さんとプロダクションの人に。裕美ちゃんとは友達だけど、ライバルとして戦いたいからって」

    P「……」

    裕美「それで私は、今ここにいるの。撮影もさっき終わったから、急いで来たんだよ」

    P「あなた様が、いかにして再びこの店においでになられたのかはわかりました。しかしながら、もう我々はアイドルとプロデューサーという関係ではないのです。ですから――」

    裕美「どうして?」

    P「せっかくおいでいただきましても……は?」

    裕美「どうしてもう、アイドルとプロデューサーという関係じゃないの?」

     店の中が、ざわざわし始めた。
     店のみんな、そう魔法の品物たちが私と店長さんのやり取りを、期待を込めて見守っている。
     そう、私はひとりじゃない。

    117: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 20:50:43.18 ID:bBMqw/ks0
    P「どうして、ではありません。先日ご説明しました通り、私と関裕美様との間に交わされた契約は既に終了しております」

    裕美「あのね、店長さん」

    P「? はい」

    裕美「私はね、店長さんやお店のみんなに会いたかったからここに来たわけじゃないんだよ? あ、えっと会いたかったのはそうなんだけど、一番の目的は……」

    P「なんでしょうか?」

    裕美「私、クレームをつけに来たの。うん、今日の私はクレーマーなんだから」

     店長さんは再び呆気にとられ、店内のざわざわが大きくなる。
     みんな、私を見守ってて!

    118: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 20:53:00.21 ID:bBMqw/ks0
    P「クレームとは……? 魔法の手鏡に不具合でも?」

    裕美「私、契約書をよくよく読んでみたんだ。それで気がついたの、この契約書には瑕疵がありまーす!」

     瑕疵って言葉の意味は、実はあんまりわかってないけど、私は精一杯の虚勢を張って、契約書を店長さんに見せる。



    119: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 21:00:32.28 ID:bBMqw/ks0

    『魔法を売るプロダクションとその代表である私、魔法を売るプロデューサー(以下甲とする)は、関裕美様(以下丙とする)と、以下のマネジメント契約を取り交わす。

     ひとつ、甲は丙に対し魔法の手鏡が正しく機能している事を証明するため、誠心誠意プロデュースに努めるものとする。

     ふたつ、具体的には甲と丙は魔法の手鏡の言うとおり丙が可愛い事を証明する為トップアイドルを目指すこと。

     みっつ、契約の期間は上記の証明がなされ、かつ丙よる魔法の手鏡の未納代金分の支払い完了をもって終了するものとする』


    120: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 21:01:14.95 ID:bBMqw/ks0
    P「これのどこに、瑕疵が?」

    裕美「契約書のここ、こう書いてあるでしょ」

    121: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 21:01:54.59 ID:bBMqw/ks0

     ふたつ、具体的には甲と丙は魔法の手鏡の言うとおり丙が可愛い事を証明する為トップアイドルを目指すこと。


    122: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 21:02:22.98 ID:bBMqw/ks0
    P「……書いてありますね。丙が可愛い事を証明する為トップアイドルを目指すこと……そしてあなた様は、トップアイドルになられました。なので次の項目の『上記の証明がなされ』の条件が満たされた事になります」

    裕美「それは店長さんの、間違った解釈だと思うな。私は」

    P「なんですって?」

    裕美「正確に読んで欲しいの。契約書にはこう書いてあるでしょ? 『甲と丙は魔法の手鏡の言うとおり丙が可愛い事を証明する為トップアイドルを目指すこと』」

    P「それのどこに違いが……」

     私は、魔法の手鏡を取り出した。
     お願い、私の――魔法の手鏡。

    123: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 21:02:56.89 ID:bBMqw/ks0
    裕美「鏡よ鏡、鏡さん。世界で1番可愛いのはだあれ?」

     最初に魔法の鏡さんがしゃべった、全ての始まりになったあの質問を、もう一度私はしてみる。

    鏡「それは、関裕美ちゃんです」

     あの時と同じ。その返事に、私は安堵する。
     そして、店長さんを必死で説明をする。

    裕美「契約書には『魔法の手鏡の言う通り』、って書いてあるでしょ? 魔法の手鏡に私が聞いたのは『世界で1番可愛いのは誰?』って質問。そして魔法の手鏡の答えは私、関裕美」

    P「確かにそうでした。認めます」

    124: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 21:07:00.48 ID:bBMqw/ks0
    裕美「店長さんは、私をトップアイドルにしてくれた。可愛いって証明はしてくれた。でも……でも私、まだ世界で1番じゃない!」

    P「あっ!」

    裕美「この契約書、まだ有効だと思うの。私の質問の答えとして魔法の鏡の言う通りに、アイドルとして私が世界で1番になるまで!」

     魔法を売る店の中は、静まりかえった。
     店長さんはまた固まり、お店のみんなは息をのむようにして成り行きを見守ってくれている。

     そして、次の瞬間――

    P「は」

    裕美「?」



    125: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 21:10:24.11 ID:bBMqw/ks0
    P「ははははは! あはははははは、ははははははは!! 私とした事が……確かに、関裕美様の仰る通りです。それにしても……ははははははははははははは!!!」

     店長さんが。あの店長さんがお腹を抱えて笑い出した。今にも転げ回りそうになりながら、大笑いをしている。

    P「こんな……そんな解釈の仕方がありましたか……いや、私は、とんでもない勘違いをしておりました。認めます。関裕美様からのクレームに対し、私とこの魔法を売る店の過失を、契約書の間違った解釈を」

     店内はまた、ううん……これまで以上にざわざわしてきた。

    裕美「じゃあ……」

     私も期待に胸が高まる。

    裕美「店長さんは、また私の……」

    P「いいえ」

    裕美「え……?」

     ダメなの?
     やっぱりダメなの……?

    126: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 21:12:25.06 ID:bBMqw/ks0
    P「店長ではありません」

    裕美「え? あ!」

    P「私はプロデューサーです。関裕美様」

     店長さんが、私にウインクしてくれる。
     そしてお店の中は、ひっくり返したような大騒ぎになった。
     みんなが飛び出してきて、私に抱きついてくれる。
     ジニーさんも、デイジーちゃんとバイオレットちゃん、魔法の白い小鳥さんたち、顔にベールを被ったメデューサさん、その他のみんながみんな私を抱きしめてくれた。

    メデューサ「チャンスをモノにしたねっ! よくやったよ、この娘は!」

    裕美「うん! 私、手に入れたよ!! 大切なものを!!!」

    ジニー「裕美ちゃんならやれると信じてたよっ!」

    裕美「ありがとう、ジニーさんの応援のお陰だよ」

    ジニー「いいんだっ☆ それに裕美ちゃんと同じぐらい、店長も嬉しいはずだからね」

    裕美「そうなの?」

    127: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 21:14:42.41 ID:bBMqw/ks0
    P「オッホン! さあさあ、それでは再びこの魔法を売る店を元の位置に戻し、プロダクションに登記し直さねばなりません」

    裕美「どうするの?」

    P「泣きクジラの背に乗せて運びます」

     店長さんがそう言い終わるか終わらないうちに店がグラグラと揺れ出す。
     と、窓の外の景色が動き出す。
     いや、動いているのは魔法を売る店の方だ。

    P「十時愛梨様をはじめ皆様に、連絡を入れておきます。先に帰国することと、関裕美様が再移籍する件を」

    裕美「うん。私も改めてお礼に行くね」

    P「それにしましても、世界で1番とは大きく出ましたね」

     確かに。言われてると、必死だったとはいえ大変な事を言ってしまったものだと自分でも思う。
     でも……

    128: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 21:15:44.86 ID:bBMqw/ks0
    裕美「だって私には、すごいプロデューサーとすごい仲間がいるんだもん。だから、大丈夫!」

    P「ならば始めましょう。またあの、わくわくするような、手応えのある、輝くような日々を」

    裕美「うん!!!」


     泣きクジラの背に乗って、私たち……私と店長さんと魔法を売る店とその仲間は、日本を目指した。
     また始まるんだ――あの、キラキラ輝く日々が。



       Fin. 

    129: ◆hhWakiPNok 2018/08/05(日) 21:18:10.57 ID:bBMqw/ks0
    以上で終わりです。おつきあいいただきまして、ありがとうございました。
    少し早めですが、もうすぐ関裕美ちゃんの誕生日ということで書かせていただきました。
    おめでとう、裕美ちゃん。



    130: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/08/05(日) 21:18:59.41 ID:T0m0xnyT0
    乙です
    とても良いお話でした

    131: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/08/05(日) 21:24:13.21 ID:xji7Y9UiO
    おつおつ
    力の入った誕生日SSでした

    132: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/08/05(日) 22:34:40.31 ID:miCllQhrO
    ブラボー素晴らしい



    引用元: 関裕美「魔法の手鏡」

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