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    及川雫「雨が隠してくれるから」

    1: ◆twOYNJxMJs 2018/06/03(日) 14:25:22.91 ID:3p6XmkjM0
    少し甘めのお話です




    2: ◆twOYNJxMJs 2018/06/03(日) 14:27:15.32 ID:3p6XmkjM0
    ―街中―

    雫「うふふー♪」

    P「上機嫌だな雫、さっきのパンケーキそんなに美味しかったか?」

    雫「はいー、とーってもふわふわで美味しかったですー!」

    P「確かに美味しかったけど、かなりのボリュームだったな……でも大丈夫か? 女子寮で裕子達がケーキを作って待っているんだろ?」

    夜に女子寮の皆で雫の誕生日パーティーを行うことは聞いているのでこんなに食べていて大丈夫なのだろうか、パンケーキに圧迫されたお腹を軽く抑えながら雫に尋ねる。

    雫「大丈夫ですよー、甘いものは別腹ですからねー」

    P「そりゃ良かった。……にしても『誕生日は一緒に買い物に付き合って欲しい』だなんて、そんなお願いでよかったのか?」

    午前中は雫が行きたがっていた雑貨屋さんを巡って買い物を楽しみ、昼時にはパンケーキが人気のお店でランチ。
    普段から頑張っている彼女の誕生日プレゼントとしてこれでいいのか、と思いながらも楽しんでもらえてはいるようなので少し安心する。
    もちろん、別にプレゼントは用意してはあるが……

    雫「そうですかー? 一緒に歩いて、一緒にお買い物をして、一緒に美味しいものを食べて……プロデューサーさんと一緒にいられることが一番のプレゼントですよー?」

    P「くはっ……」

    雑貨屋で購入した商品が入った紙袋をこちらに見せながらにこやかに微笑む雫を見て、思わず何とも言えない声が出てしまう。

    雫「ど、どうしたんですかー!? いきなり胸を抑えたりして、どこか痛いんですかー?」

    P「いや、余りにも雫の笑顔が眩しすぎて……っ!」

    雫「そ、そうですかー?」

    P「いや、誕生日を理由に無理なお願いをする人もいるんだよ……誰とは言わないけど」

    無論それは一部のアイドルではあるのだが、その一部のお願いが中々に厄介なのである。
    やれ地酒を買ってこいだの、ご当地限定おつまみを用意しろだの、例を挙げたらキリがない。

    3: ◆twOYNJxMJs 2018/06/03(日) 14:28:11.26 ID:3p6XmkjM0
    ―女子寮―

    「くしゅんっ……!」

    「早苗さん大丈夫ですか?」

    「あー……うん、誰かが噂をしてるわね」

    「ふぇぇ……クリームはねてきちゃったぁ……」

    「だ、大丈夫ですよっ! まだ時間はありますから落ち着いて作りましょう!」

    「雫ちゃん達、どうしてるかしらね?」

    「今日はいい天気ですからね! きっと楽しく過ごしているはずですよ!」

    4: ◆twOYNJxMJs 2018/06/03(日) 14:29:03.41 ID:3p6XmkjM0
    雫「プロデューサーさんも大変なんですねー……」

    P「まぁ、雫はもう少しわがままを言ってもいいと思うけど」

    雫はその穏やかな性格もあってか、無理なお願いをすることも少ない。
    他のアイドルとの交流を通して少しは積極的にはなってきたが、もう少しわがままになってもいいと個人的には思うが。

    雫「わがままですかー? 私のわがまま……」

    P「ん、何かあるか?」

    雫「私は……い、いえ! なんでもないですよー」

    P「ははは、そうか。でも皆に祝ってもらえるなんて雫は幸せ者だな」

    雫「そうですねー、皆と過ごす毎日はとっても大切ですから」

    P「ああ、友達は大切にするんだぞ……」

    雫「はいー! そういえばプロデューサーさんのお家ってこの辺りなんですよねー?」

    P「ああそうだけど…………ダメだからな」

    雫「私何も言ってないですよー?」

    P「どうせ『時間があるからお邪魔したいですー』とか言うつもりだろ? 雫のお願いでもそれだけはダメ」

    雫「そうですかー……」

    残念そうな顔をする雫に申し訳ないが、流石に自分の家にアイドルを入れるわけにはいけない。



    5: ◆twOYNJxMJs 2018/06/03(日) 14:30:48.56 ID:3p6XmkjM0
    P「まぁ、まだ時間はあるからもう少し散歩でもしようか」

    雫に代わりの提案をする。幸い彼女を女子寮に送るまで時間は残っている。
    何故なら、用意したプレゼントをまだ雫に渡せていないのだから。

    雫「はい! のんびり行きましょー! ってあれ?」

    ぽつ……ぽつ……

    P「雨か……折り畳み持ってるから使いな」

    いつの間にか空は雲で包まれていて、雨が降り始めていた。
    念のため鞄に忍ばせていた折り畳み傘を雫に手渡す。

    雫「でもそれだとプロデューサーさんがー……」

    P「小雨だから問題ないって、荷物が濡れないように気を付けるんだよ」

    きっと通り雨だろう、プレゼントが濡れないようにと俺は手に持っていた鞄を胸に抱え歩き出した。

    6: ◆twOYNJxMJs 2018/06/03(日) 14:31:24.76 ID:3p6XmkjM0
    ―3分後―

    ザアァァァァァァァ!!!

    P「こんなに降るなんて聞いてない!」

    雫「プロデューサーさん! 傘に!」

    P「いや、それだと雫が……」

    小雨だと思っていた雨はいつのまにか豪雨になっていた。
    雫が俺に向けて傘を差し出すそうとするが……

    ヒュゴォォッッ!!

    雫「きゃあ!」

    突然の強風に耐えられなかったのか、ひっくり返った勢いで傘は彼方遠くに飛び去ってしまった。

    P「雫大丈夫か!」

    雫「私は大丈夫ですけど……傘が……」

    P「綺麗に吹っ飛んでいったな……仕方ない! ちょっと走るぞ!」

    降りしきる雨の中、雫の手を引いて走る。
    雨のせいで視界は良いとは言えないが、この状況から脱出しまいとただひたすらに走った。

    雫「プロ……さぁん……!」

    P「雫……? くっ……雨音が強くて聞こえない……」

    途中、雫が俺に向かって何か言っていたがその言葉は雨によってかき消されてしまった

    7: ◆twOYNJxMJs 2018/06/03(日) 14:32:03.60 ID:3p6XmkjM0
    ―Pの家―

    P「はぁ……はぁ……何とか家に辿り着いた……」

    雫「でも、全部びしょびしょになっちゃいましたねー……」

    雫が服の裾を絞りながら苦笑いをする。
    結局、雨宿りはできそうなところは見つからなかったため、雫を家に連れてきてしまった。

    P「雫は先にシャワーを浴びてきな。その間にタオルや着替えを探しておくから」

    雫「分かりましたー。ところでプロデューサーさんは何で家の中に入ってからずっと上を向いているんですかー?」

    P「あ、ああ! 水が耳の中に入っちゃってね、俺の事はいいから早くシャワーに入ってきなさい」

    雫「はーい」

    脱衣所の扉が閉まる音を確認すると、俺は上に向けていた首を下ろした。

    P「行ったか……流石にあの姿の雫は刺激が強すぎるって……」

    雫には黙っていたが首を上に向けていたのは耳に水が入っていたからではない。
    雨水を吸った雫の衣服が彼女にぴったりと張り付き、雫のボディラインを惜しげもなく強調していたからである。

    P「グラビアとかで水着姿には馴れていたはずだったんだけどな……とにかく、着替えを用意しないと」

    タオルで身体をさっと拭き、雫が着れそうな服を探し始める。

    P「こっちもボロボロだな……」

    雨水をふんだんに吸った鞄から出てきたのは雫に渡すはずだったプレゼント。
    お店で綺麗に包んでもらった包装紙は破れ、リボンも解けてしまっていた。

    P「寒い……俺も早く着替えないとな」

    鞄の中身は適当にテーブルに置き、服探しに戻ることにした。



    8: ◆twOYNJxMJs 2018/06/03(日) 14:34:03.58 ID:3p6XmkjM0
    雫「ふぅー……あがりましたー」

    P「Tシャツとジャージしかなかったけど大丈夫か?」

    雫「ちょっと胸のあたりがキツいですけど大丈夫ですよー」

    P「そ、そうか……くしゅんっ! 着替えたけどやっぱ寒いな……俺もシャワー浴びてくるか。雫、冷蔵庫の中のものは自由に飲んでいいからな」

    胸元をぱたぱたさせる雫を尻目に寒気を感じる身体を震わせながら脱衣所に向かうことにした。

    雫「プロデューサーさん、シャワー浴びずにいたからとっても寒そう……あ、そうだ! 冷蔵庫の中には……ふふふー♪」

    雫「後は入れ物だけど……さっき買ったこれを使って……あれ? これはなんだろう?」

    9: ◆twOYNJxMJs 2018/06/03(日) 14:34:53.40 ID:3p6XmkjM0
    P「ふぅ……体が暖まった……」

    雫「おかえりなさいプロデューサーさん、ホットミルクを作りましたのでどうぞー」

    P「ありがとな。あれ、このマグカップって……」

    雫「はいー、今日買った牛さん柄のカップですよー」

    P「これ雫のだけど使っちゃっていいの?」

    雫「遠慮せずにどうぞー♪」

    P「じゃあ頂くよ……うん、甘くて美味しい、冷えた体も心も暖かくなるよ」

    雫「ふふふ、隠し味に少しだけお砂糖を入れたシュガーホットミルクですよー」

    P「隠し味をばらしたら隠し味にはならないと思うけど……ホットミルクに砂糖を入れるのは知らなかったな、美味しいよ」

    雫「ちょっとした隠し味で美味しい牛乳もさらに美味しくなりますからねー」

    10: ◆twOYNJxMJs 2018/06/03(日) 14:35:32.64 ID:3p6XmkjM0
    P「なるほど……」

    雫の作ってくれたホットミルクに暖まりながら窓の外を見る。
    家に着いた時よりも雨はさらに激しくなっており、窓ガラスに打ち付けられた雨音が家の中にも届いていた。

    雫「雨、やみませんねー……」

    P「この雨だと外に出るのは危険だな」

    雫「そうですねー……牛さんたちも外でのんびりできませんねー」

    P「やっぱり雨だと牧場の仕事も大変?」

    雫「確かに、雨が降ると大変ですけどー……でも私、雨は嫌いじゃないですよー」

    P「意外だな、雫は雨が嫌いだと思っていたけど」

    雫「そんなことないですよー! お日様も大事ですけど、雨が降らないと作物は育ちませんからねー。もちろんずっと雨だと困っちゃいますけどー……」

    P「確かにバランスは大事だ。でもまぁ、雨の日は家でゆっくりするに限るよ」

    雫「こうやって雨の日にお家でのんびりしていると両親の事を思い出しますねー。お母さんが入れたお茶を飲んでお父さんが笑っていてー……とっても仲良し夫婦なんですよー」

    P「はは、それだとホットミルクを入れた雫がお母さんで……」

    雫「それを飲んで笑っているプロデューサーさんがお父さんでー……」

    P・雫「「………」」

    雫「まるで夫婦みたいですねー///」

    P「そ、そうだな……」

    雫の夫婦発言にお互い顔が赤くなってしまう。
    しばらくの間、雫の顔を見ることができなかった。

    11: ◆twOYNJxMJs 2018/06/03(日) 14:36:40.39 ID:3p6XmkjM0
    雫「そういえば、机の上のこれなんですけどー……」

    夫婦発言から少し経った後、話を変えようとした雫が指差したのはボロボロになってしまったプレゼントの箱だった。

    P「しまった、出しっぱなしにしてしまったか」

    雫「もしかしてー……!」

    P「本当は綺麗な状態で渡したかったけど……雫、改めて誕生日おめでとう」

    ボロボロになった箱の中からプレゼントを取り出す。
    幸い、中の物までは濡れていなかった。

    雫「わぁ……ネックレスですー! 雫型の石がキラキラ光ってますねー」

    P「喜んでもらえたなら何よりだよ」

    雫「プロデューサーさん、つけてもらえますかー?」

    P「ああ、もちろん」

    雫の首元にネックレスをかけてあげる。
    一瞬手が雫の髪に触れたが、完全に乾ききっていなかったのかまだ少し湿っていた。

    雫「ふふふー♪ とーっても嬉しいですー!」

    首元を見つめながらふにゃっと笑う雫、その姿を見れただけで嬉しい気分になった。



    12: ◆twOYNJxMJs 2018/06/03(日) 14:37:12.83 ID:3p6XmkjM0
    雫「えへへー♪」

    そんなに気にいったのか雫は胸元のネックレスを見ながらにこやかに微笑んでいる。
    外は相変わらず、大雨模様だった。

    P「さっきニュース見たけど、夜までには止むってさ」

    雫「それは良かったですー。あ、そうだ! 大雨の時だからできることがあるんですけど、やってみてもいいですかー?」

    P「大雨の時だからできること? 別にいいけど」

    雫「はいー、こうやって雨の音が大きいと……『――――――』という感じでですねー」

    途中、雫の声が雨音でかき消されてしまい聞き取ることができなかった。
    ……ただ、口の動きから何を言ったか想像することは出来るのだが。

    P「……今何て言った?」

    雫「それは秘密ですー。でも雨の音が強いとこうやって声を隠すことができるんですよー」

    P「そうか……でも口の動きは見えるから何ていったかまる分かりだけど。今は『ぎゅうにゅう』って言っただろ」

    雫「正解ですー! 凄いですねプロデューサーさん」

    P「俺は雫のプロデューサーだぞ、それぐらいは分かるよ」

    13: ◆twOYNJxMJs 2018/06/03(日) 14:37:47.75 ID:3p6XmkjM0
    雫「そうですかー……じゃあ今から言うことも当ててみてくださいねー」

    P「ああ、任せてみな」

    雫「それじゃあいきますよー。私はプロデューサーさんのことが『――――』ですー! えへへ、言っちゃいましたー///」

    P「えーっと、今言ったのって……」

    雫「わがままかもしれませんけど、これは私の本当の気持ちですよー。これからもずっとずっと……」

    雫がじっと俺を見つめてくる。
    その瞳は彼女が何かに挑む瞬間、真剣な時のそれだった。
    窓の外では変わらず大雨が降り続いている。まだ、止むことはないだろう。

    P「そうか……」

    なら、今から雫に言う言葉も、今から雫にすることも、全て雨が隠してくれる。
    だから……

    P「雫、俺は――」

    14: ◆twOYNJxMJs 2018/06/03(日) 14:38:15.90 ID:3p6XmkjM0
    ―女子寮―

    裕子「雫ちゃん誕生日おめでとうございます!」

    雫「皆さんありがとうございますー」

    くるみ「みんなでケーキ作ったの、クリームが上手く濡れなかったけどぉ……」

    雫「大丈夫、とーっても美味しそうだよー!」

    くるみ「えへへ……」

    早苗「あれ、雫ちゃん? 新しいネックレス買ったの?」

    雫「あ、これはですねー」

    裕子「分かりました! プロデューサーから貰ったんですね!」

    雫「そうですよー、とーっても大切な私の宝物ですよー♪」

    早苗「あら、いいじゃない! どう? デート楽しかった?」

    雫「デ、デートですかー……」

    早苗「そうよ! 若い男女が一緒にお出かけ……お姉さんとしては不純な行為が無かったか確かめないといけないわ!」

    雫「え、えーっと……///」

    裕子「どうなんですかっ! 雫ちゃん!」

    雫「そ、それはー……///」

    くるみ「雫しゃん……?」

    雫「……雨が隠しちゃいましたー、ということでー///」


    おわり



    15: ◆twOYNJxMJs 2018/06/03(日) 14:40:58.02 ID:3p6XmkjM0
    以上です。
    本日6月3日は岩手の牧場娘、及川雫ちゃんの誕生日です。
    ホットミルクでも飲みながら彼女をお祝いしてあげてください。



    引用元: 及川雫「雨が隠してくれるから」

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