鬼殺隊剣士「死ぬ前に行ってみるか、遊郭」
2020-12-28
1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/12/23(水) 02:29:01.25 ID:2v7Wc5RF0
明治13年
鬼殺隊剣士→男「家族を鬼に殺されて10年。過酷な生活が祟って余命わずかと宣告された」
男「蝶屋敷の方に墓の用意をされるほど弱ってから半年も鬼殺隊を続けた俺は本当にすごいと思う」
男「しかしいよいよダメになってしまった。元々風邪っぴきのする方ではあったが、もう剣を振って数分足らずで呼吸が使えない」
男「引退だ」
男「最後の旅は、先に逝った仲間たちに楽しい土産話をできる場所がいいな」
男「うん、仲間のためなら仕方ない」
男「いざ、遊郭に」
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2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/12/23(水) 02:46:41.69 ID:2v7Wc5RF0
遊郭〈ガヤガヤ ガヤガヤ
男(なんだろう。来てみたはいいものの)
美女壱「あら~、今日もきてくれたのぉ?」ハダケー
美女弍「駄目よ、私たちはしょせん泡沫の夢。貴方と共には行けないわ」ハダケー
男(なんで美女しかいないの)
男(なんでこんなよりどりみどりなの)
男(なんで肩が露出してんの)
男(こぼれ落ちそうなたわわに釘付けだよ!)
美女参「ねぇそこのお兄さん」クイッ ハダケー
男「淫靡!」クワッ
男(なんだろう。来てみたはいいものの)
美女壱「あら~、今日もきてくれたのぉ?」ハダケー
美女弍「駄目よ、私たちはしょせん泡沫の夢。貴方と共には行けないわ」ハダケー
男(なんで美女しかいないの)
男(なんでこんなよりどりみどりなの)
男(なんで肩が露出してんの)
男(こぼれ落ちそうなたわわに釘付けだよ!)
美女参「ねぇそこのお兄さん」クイッ ハダケー
男「淫靡!」クワッ
3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/12/23(水) 02:52:46.33 ID:2v7Wc5RF0
美女参「いん……えっ?」
男「じゃなくて。寒くないのか君!」
美女参「あら、あら」クスクス
男(笑顔かわいい)
美女参「ね、お兄さんは遊郭初めてでしょ?」
男「は、え、ちか」
美女参「緊張しないで。……あら、逞しいのね」
男「あああ」
美女参「今日は私と一緒に遊びましょ♪」
男「」
男「じゃなくて。寒くないのか君!」
美女参「あら、あら」クスクス
男(笑顔かわいい)
美女参「ね、お兄さんは遊郭初めてでしょ?」
男「は、え、ちか」
美女参「緊張しないで。……あら、逞しいのね」
男「あああ」
美女参「今日は私と一緒に遊びましょ♪」
男「」
4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/12/23(水) 02:58:31.30 ID:2v7Wc5RF0
男「前後不覚になって逃げ出してしまった……」
男「恐ろしい鬼からも逃げたことのない俺を退かせるとは大した人物だ」
男「きっと遊郭では美上弦の一人に数えられていたに違いない」
男「危うく貞操の危機だった」
男「……あれ? 俺捨てにきた……あれ?」
5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/12/23(水) 03:10:11.99 ID:2v7Wc5RF0
男「気を取り直して遊郭へ」
男「まあ正直さっきは様子見だった。遊郭の美女たちの一分しか見ないうちに心を決めては、間違いなく早漏と茶化される」
男「やはり泰然自若と、真剣な気持ちで、確たる意思で」
男「美しい花の中から、最高の一輪を見極める」
男「いざ、有終の美を飾らん!」
〈ザワザワ
男「ん? 何やら向こうの通りが騒がしい」
6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/12/23(水) 03:50:24.87 ID:2v7Wc5RF0
男(祭囃子。まるで別世界へと迷い込んだような空気の変質)
男(熱に浮かされた人々の騒ぎと、こぼれて溢れる光に、隣の通りへ誘蛾のごとく立ち寄ると)
男(さながら天から降ったと思うほどの美貌の遊女が)
男(しゃらん、しゃらんと浮世を震わせ、道を下っていた)
「夕霧大夫だ」
「やっぱり遊郭一だ。夕霧大夫は」
〈ドンドン パーパラー
夕霧大夫「????」
男(世界は彼女を中心に廻っているのではないかと思った)
男(悪名高き、怨敵鬼舞辻が生み落とした鬼も忘れて、この時代のこの場こそ完成された世界に感じた)
男(万人の視線を浴びて、凛々しく可愛らしく、そんな花魁に誰しも憧憬の眼を向ける)
〈オナアアアアリイイイイイ??
男(……だが)
男(その列の後ろ、闇夜に溶け込む一人の遊女)
男(つまらなそうに、退屈で仕方ないといった具合で睨めつける姿を見て)
男(かつてないほど、心の震えを覚えた)
7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/12/23(水) 04:14:55.13 ID:2v7Wc5RF0
夕霧大夫の花魁道中 列中央
遊女?(くそ! なんであたしが引き立て役を!)
遊女?(あたしの方が綺麗なんだから!)
遊女?(けど……まあ、あたしには及ばないけど夕霧。本当に瑞々しく美しい肉に育ったわね……)
遊女?(はあ……うふ。夕霧は久しぶりのご馳走。お前を楽しんだらいったん雲隠れしようかしら)
遊女?(下らない人間の相手は疲れたし、目星のつけてた子は帯に取り込み終えてしまった)
遊女?(次は鯉……紫……そうね、蕨姫がいいわ)
遊女?→堕姫(あとは地下の帯ごと隠れてしまおう)
男「ーーーー」
堕姫(あら? こいつは)
堕姫(こいつ、鬼狩りだ。周りとは違う。おそらく柱か、それに近い)
8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/12/23(水) 04:45:21.51 ID:2v7Wc5RF0
堕姫(……けど、ウフフ。お前もうすぐ死ぬわね)
堕姫(ボロボロじゃない、身体が。一瞬で殺せるわ)
堕姫(こんな場所に姿を晒して、まさか勝てると思ってるの? あたし上弦の陸よ。強い柱を六人喰った)
堕姫(勝てないのよ。わかる? ま、すぐ終わらせてあげるわ。あんたは不細工だから食べるのはお兄ちゃんね)
男「…………」
堕姫(来ないわね……ああ、そう。気にしてるのね、コイツらを)
堕姫(そうね。あんたが刀を抜いた瞬間にあたし殺すもの。周りの連中全員。夕霧だけは取り込むけど)
堕姫(いいわ、今は見逃してあげる。殺すのはいつでもできる)
堕姫(だって負けるはずないもの。あたしが)
堕姫(あたしとお兄ちゃんが)
9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/12/23(水) 05:11:10.73 ID:2v7Wc5RF0
男「やば、何今の子……! 胸が、胸がドキドキする……今なら新しい呼吸会得できるかもしれない」
男「なんであんな目つき悪いの? 何か不機嫌なことあったのって百晩中話聞いてあげたすぎる……!」
男「すみません……! どなたかあの列にいた緑色の遊女の名前ご存知の方いませんか?」
「なんだ、翠姫のことか?」
男「翠……姫……!? 翠姫翠姫翠姫、なんて可憐な名前なんだ……!」
「……おい兄ちゃん。もしかして翠姫が気になってるのか?」
男「え? そうですがもしかしてあなたもですか? 悪いけど度重なる鬼退治のお給金で、私が積める金の上限は天井知らずです大人しく身を引いた方が身のためですよ」
「鬼退治って、なんだそら。歌劇の話か? まあとにかくやめとけ。あれは別嬪だがどうしようもねえ性悪だ」
男「…………」
「まだ何人か逃げ出したって話があるだけで済んでるのは夕霧大夫がいるからだ。でも大夫は身請けしてもおかしくない頃合いだし、きっといなくなったら翠姫は禿をいじめ殺したりするんだろうな」
男「そんな……」
10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/12/23(水) 05:35:25.93 ID:2v7Wc5RF0
男「そうか……薄々分かってたけど性格悪いのか。まあ悪そうだよな。絶対わがままだろうし」
男「いや、むしろあの刺々しい見た目で性格までカワいかったら兵器だよ。性格の悪さがあってようやく人間の器に収まってられるんだよ」
男「だってホラ……」
妄想堕姫『今日は私と……遊んでくれる?』
男「死を待たずしてこの世の春だよ(錯乱)」
男「それにさ」
男「あんなに可愛いと、もはやどんなわがままでも許すと内なる己が騒いでいる……!」
男「もはや早漏の誹りもやむなし。君の心のためならば、たとえ火の中水の中、あるいは鬼の跳梁跋扈する魔城であっても飛び込む所存」
男「うおおおおおお!」
11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/12/23(水) 06:54:31.37 ID:2v7Wc5RF0
男(なぜだ……なぜなんだ!?)
堕姫「のこのこ来たわね。馬鹿なのお前は」
男(俺か? 俺を待ってたんだよなこの反応)
男(え、なんで? 接点ないのに。まさか想いが通じたのか? 確かに溢れんばかりに君のことを想っていたけどもすごくない奇跡じゃん)
堕姫「まあいいわ。隠れて動かれるのが一番目障りで嫌だし。それじゃあとっとと……」
堕姫「あら? 刀はどうしたの」
男「刀? 質に入れてきたけど」
堕姫「」
12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/12/23(水) 07:44:10.13 ID:2v7Wc5RF0
堕姫(え……意味がわからない。しち? 質よね。入れてきたってなんで?)
堕姫(じゃあこいつ何しにきたの??)
男「ふっ」ニヤ
堕姫(!? ……気味が悪い。なんなのこいつ、鬼の前で武器もないのに、どうして笑うことができるの)
堕姫(まさか鬼狩りの仲間が隠れて……いや、そんな気配はないわ)
堕姫(まさかこいつ、鬼と素手でやり合うイカれ野郎なのか?)
男「……刀は、これに変わった」ジャラ
堕姫「! そう、なるほどね。お前なかなかやるじゃない」
堕姫(質に入れたって言ったわ。つまりそのお金で何か買ったのね。私を殺すための武器を)
堕姫(分かってるじゃない。爆弾? それとも銃? 少なくとも刀じゃあたしに敵わないのに気付いたのは鋭いわ。ま、仮にどんなものでもお前はあたしに殺されるけどね)
男「これで俺の手持ちは……」ニヤ
男「五千円だ……」ジャララ
堕姫「????」
13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/12/23(水) 08:02:47.21 ID:2v7Wc5RF0
堕姫「いい加減にしろ! 馬鹿にしてるんだったら許さないわよあたし!」
男「……! そうか、すまん。いきなり金を見せびらかして靡くほど軽くはない、というわけか」
男(これほどの遊女になると大金なんて積まれて当たり前。そこから客として気に入られるには別の魅力が必要というわけか……)
男(……望むところだ!)
男「翠姫!」キリッ
堕姫「フン。あたしは堕姫。お前(鬼狩り)の最期に頭を巡る名前よ」
男(源氏名じゃなくて名前呼んでほしいとか親密度高いなオイ)
男「ならンッ……堕姫!」キリッ
堕姫「お前なんかが気安く呼ぶな!」
男「え? ええー?」
14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/12/23(水) 08:11:39.21 ID:2v7Wc5RF0
男(名前は教えてやってもいいけど、勘違いしないでよね! 呼ぶには追加料金が発生するんだからね! ぷん!)
男(ってことか? どこまで魔性なんだ)
男(……落ち着くんだ。これまで通りが通用しない敵ほど、焦らずいつも通りの自分で立ち向かう。焦りで型を崩せば、自然呼吸が乱れる)
男(即ち死)
男「俺はこういった事のいろはを知らない。この街のことも、君のことも」
堕姫「フン、よく言うわ」
堕姫(さんざん鬼を葬ってきたくせに)
男「だからこれまで通りのやり方、攻め方で君を落とす」
堕姫(落とす? なんだ……呼吸音が変わった。来る!)
男(雷の呼吸、壱ノ型!)
男「一目見たときにあなたの虜になってしまった! どうか俺に(性的に)食べられてくれないか!」
男(言った! 言ったぞ、霹靂一閃(告白までの速さ、最速の呼吸)が決まった!)
15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/12/23(水) 08:20:19.63 ID:2v7Wc5RF0
男(しかしいきなり過ぎだよな。どんな反応をしているか堕姫の顔が見れん。情けない……!)
堕姫「あんた何言ってるの?」ビキビキ
男(……ダメかあ!)
堕姫「意味わからないわ、お前は脳に蛆が湧いてるのかしら?」
堕姫「どう考えたって、食べられる(物理)のはお前の方じゃない!」
男「え、あっ、そうだよな!?」
堕姫「喜んでるの? 気持ち悪いわね。あたしを食べたかったんじゃないの? なんで食べられるあんたが喜ぶのよ」
男「いや! 全然どっちが攻めるとか拘りはない! むしろ食べ慣れてる君に任せた方が素晴らしい経験になるな!」
堕姫「」
16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/12/23(水) 08:33:51.83 ID:2v7Wc5RF0
堕姫(なに? こいつ。自分から食べられにきたっていうわけ? 頭おかしいんじゃないの)
堕姫(まさか罠? 自分の身体に毒を塗り込んで……それだとこいつが死ぬから違うわね)
堕姫(分からない……とりあえず殺しておけばいいかしら)
堕姫「……そう」
堕姫「けど残念ね。あんたは別に綺麗じゃないわ。不細工なお前を食べる(直喩)のはお兄ちゃんよ」
男「嫌だけど!?」
堕姫「はあ? 何勝手なこと言ってんの。望み通り食べてあげるんだからいいでしょ!」
男「お兄さんに(隠喩)食べられるのはダメだろ! というかお兄さんは嫌がらないのか!」
堕姫「それは……」
妓夫太郎『殺すだけじゃ取り立てきれないヤツは憎いなぁああ。腹を捌いたくらいで取り出せんのはここ何日かの飯だけだもんなあ』
妓夫太郎『全部奪って、ようやく幸福のすべてを取り立てられるんだなあ。特に鬼狩りはいい飯食ってるから喰っても喰っても足りねえなああ!!』
堕姫「むしろあんた(鬼狩り)は好物よ」
男「お義兄さんんんんんんんん!? 会ったことないけど会いたくねえ!!」
18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/12/23(水) 11:34:36.82 ID:2v7Wc5RF0
男「まてまてまて! 俺も君も急ぎすぎだ冷静になろう!」
堕姫「はああ? イライラするわね、さっきから意味わかんないのよ何しに来たのお前」
男「今日のところは君を買いに来たんだ! それだけ!」
堕姫「あんた癪に障るわね。なんであたしが、お前とそんなマネをすると思うの。だいたいっ、鬼」
堕姫(鬼狩りが……)
男『刀? 質に入れてきたけど』
堕姫(鬼狩りは特別な鋼で作った刀を持ってる。それはその武器でしか鬼狩りに鬼を殺すことができないから)
堕姫(だからこいつは今、あたしを絶対に殺せない。一方あたしはいつでも殺せる。万全を期して地下の帯も少し戻している。何より上弦のあたしが負けるはずない)
堕姫(まさかこいつ本当に戦いに来たわけじゃないの? あたしを買いにきただけ? だとしたら)
堕姫「大した馬鹿ね。脳みそが詰まってないのかしら」
男「反省してる。不得手とはいえここまで君を怒らせるなんて汗顔の至りだ」
19: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/12/23(水) 13:02:57.88 ID:2v7Wc5RF0
男「さて、宿のあてがなくなったし今日のところは失礼する」
堕姫「は? ねえまさか、お前、そのまま帰れると思ってるの?」
男(……なるほど、自分ほどの美姫と話しておいてタダで帰ってしまう。そんな男なのかお前は、と聞かれているわけだ)
堕姫「見逃すわけないじゃない。(命を)置いていきなさいよ」
男(置いていけ……いくら払うのが正解なんだ?)
男(明確に値がついてないから、支払いは完全に俺の気持ち次第。つまり試されてるわけだな。俺の……)
男(愛を!)クワッ
【鬼滅の刃】愛の言葉は必要か【ぎゆしの】
2020-12-21
1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/04/05(日) 19:52:28.56 ID:33Pc5UOzO
関連
ハルヒ「SOS団で恋の暴露大会をするわよ!」
【朗報】わたてんさん、ケムリクサを超えてガチで覇権へ
【ラブライブサンシャイン】善子「運命の引力」
【悲報】Twitterで3年前に「令和」を予言してたものがいたwwwwwwwww
2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/04/05(日) 19:58:13.03 ID:33Pc5UOzO
3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/04/05(日) 19:59:45.88 ID:33Pc5UOzO
「お前、ちゃんと胡蝶に思ったこと伝えてるか?」
同僚の宇髄天元に食事に誘われた。鮭大根のある店を探すと言って俺に気を使う宇髄に断りをいれる。
「大丈夫だ。鮭大根はなくてもいい」
こう言ってはなんだが、鮭大根を置いてある店は珍しい。わざわざ探すとなると大変な時間がかかるだろう。春休み中の貴重な昼休憩をそんなことに使う必要はない。義勇はそう思って断りをいれた。
同僚の宇髄天元に食事に誘われた。鮭大根のある店を探すと言って俺に気を使う宇髄に断りをいれる。
「大丈夫だ。鮭大根はなくてもいい」
こう言ってはなんだが、鮭大根を置いてある店は珍しい。わざわざ探すとなると大変な時間がかかるだろう。春休み中の貴重な昼休憩をそんなことに使う必要はない。義勇はそう思って断りをいれた。
4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/04/05(日) 20:00:24.13 ID:33Pc5UOzO
「なんでだよ、お前鮭大根好きだろ?前は毎日食ってたじゃねぇか」
「あぁ、確かにな…だが…もうその必要はない」
「はぁ?どういうことだよ?」
納得いかないとばかりに宇髄が理由を尋ねるので、正直に答える。
「あぁ、確かにな…だが…もうその必要はない」
「はぁ?どういうことだよ?」
納得いかないとばかりに宇髄が理由を尋ねるので、正直に答える。
5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/04/05(日) 20:01:43.51 ID:33Pc5UOzO
「鮭大根は胡蝶が作ってくれるのが一番美味い」
そう言うと、何故か宇髄は目を見開いた。まるで何かに驚いているようだった。その後、ため息をついて諦めたような表情に変わり、冒頭のセリフを口にしたのだ。
そう言うと、何故か宇髄は目を見開いた。まるで何かに驚いているようだった。その後、ため息をついて諦めたような表情に変わり、冒頭のセリフを口にしたのだ。
6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/04/05(日) 20:02:21.11 ID:33Pc5UOzO
「お前、ちゃんと胡蝶に思ったこと伝えてるか?」
「…どういう意味だ?」
「どういう意味もクソもねえよ。そのままだ。お前のことだから、胡蝶の鮭大根が美味いことどころか最近は店で鮭大根食ってないことすら言ってないだろ?」
「…」
「図星かよ…」
確かに胡蝶に言ったことはない。けれど、それはわざわざ言うほどのことだろうか。
「…どういう意味だ?」
「どういう意味もクソもねえよ。そのままだ。お前のことだから、胡蝶の鮭大根が美味いことどころか最近は店で鮭大根食ってないことすら言ってないだろ?」
「…」
「図星かよ…」
確かに胡蝶に言ったことはない。けれど、それはわざわざ言うほどのことだろうか。
7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/04/05(日) 20:03:07.63 ID:33Pc5UOzO
「お前は本当…わかってねえな…いいか?女ってのはな、ちゃんと言葉で伝えてほしいものなんだよ!」
「いや、胡蝶にはきっと伝わっている」
なんせ前世から、口下手な自分のことを散々フォローしてくれていたのだ。現世に生まれ変わった今でも、彼女は自分のことを理解してくれている。
「いや、胡蝶にはきっと伝わっている」
なんせ前世から、口下手な自分のことを散々フォローしてくれていたのだ。現世に生まれ変わった今でも、彼女は自分のことを理解してくれている。
8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/04/05(日) 20:03:44.34 ID:33Pc5UOzO
「そういうことじゃねぇんだよ。いいか?全く同じ人間なんていないんだ。口で言わなきゃ伝わるわけねぇだろ?」
「…確かに」
「それによぉ、仮に伝わっていたとしても女っつうのは言ってほしいもんなんだよ」
「…そういうものなのか」
宇髄は前世では三人の嫁を娶っていた。現世では流石に結婚こそできないが、それでも同じ三人と仲睦まじく生活しているらしい。そんな宇髄が言っているのだから間違いないのだろう。
「…確かに」
「それによぉ、仮に伝わっていたとしても女っつうのは言ってほしいもんなんだよ」
「…そういうものなのか」
宇髄は前世では三人の嫁を娶っていた。現世では流石に結婚こそできないが、それでも同じ三人と仲睦まじく生活しているらしい。そんな宇髄が言っているのだから間違いないのだろう。
9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/04/05(日) 20:05:28.97 ID:33Pc5UOzO
「そりゃあお前らのことだから、普段の話の流れで察してるとは思うぜ?けどな、その敢えて言わなかった一言が大事に思う瞬間があるんだよ」
「…なるほどな」
「鮭大根が美味いことだって、伝えてんのか?少なくとも俺はお前からそんな台詞が聞こえて驚くくらいには、言ってなかったと思うぜ?」
「うっ…」
確かに、胡蝶は俺の好物と知っているから鮭大根をよく作ってくれている。しかし、宇髄の言う通り、店で食べるより美味いと思っていることを伝えたことはなかった。
「…なるほどな」
「鮭大根が美味いことだって、伝えてんのか?少なくとも俺はお前からそんな台詞が聞こえて驚くくらいには、言ってなかったと思うぜ?」
「うっ…」
確かに、胡蝶は俺の好物と知っているから鮭大根をよく作ってくれている。しかし、宇髄の言う通り、店で食べるより美味いと思っていることを伝えたことはなかった。
10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/04/05(日) 20:06:10.86 ID:33Pc5UOzO
「『思ってたんだ』じゃ伝わらないんだぜ?そんなこと、お前ならわかっているはずだろう?」
「…」
返す言葉もない。前世では結局死に別れてしまった。前世ほどではないかもしれないが、今世だって何が起こるかわからない。明日一緒にいられる可能性は100%ではないのだ。
「…」
返す言葉もない。前世では結局死に別れてしまった。前世ほどではないかもしれないが、今世だって何が起こるかわからない。明日一緒にいられる可能性は100%ではないのだ。
11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/04/05(日) 20:06:52.94 ID:33Pc5UOzO
「俺の気持ち…か…」
仕事を終えた帰り道。義勇は一人呟く。思えば生徒として再会した時から、しのぶには多くの我慢をさせてしまっていた。教師と生徒だからと、付き合うのは卒業するまで待たせてしまったし、付き合ってからも口下手な義勇に合わせてくれるのはしのぶの方だ。
元々溜め込みやすい性格で、油断をするとすぐに自分を犠牲にしようとする。そんな彼女のことを幸せにしたかった。前世から、自分のことより他人のことを大切にする彼女のことを何より大事にしたかった。それなのに、どうして鮭大根が美味いくらいのことを言ってやれなかったのだろうか。
仕事を終えた帰り道。義勇は一人呟く。思えば生徒として再会した時から、しのぶには多くの我慢をさせてしまっていた。教師と生徒だからと、付き合うのは卒業するまで待たせてしまったし、付き合ってからも口下手な義勇に合わせてくれるのはしのぶの方だ。
元々溜め込みやすい性格で、油断をするとすぐに自分を犠牲にしようとする。そんな彼女のことを幸せにしたかった。前世から、自分のことより他人のことを大切にする彼女のことを何より大事にしたかった。それなのに、どうして鮭大根が美味いくらいのことを言ってやれなかったのだろうか。
12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/04/05(日) 20:08:00.10 ID:33Pc5UOzO
「いや…違うな…」
そうだ、鮭大根どころではない。ずっとずっと、しのぶには世話になりっぱなしだ。口下手を良いことに甘えてきてしまった。もっともっと言わなければいけないことがあるのではないか。
そうだ、鮭大根どころではない。ずっとずっと、しのぶには世話になりっぱなしだ。口下手を良いことに甘えてきてしまった。もっともっと言わなければいけないことがあるのではないか。
13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/04/05(日) 20:08:35.47 ID:33Pc5UOzO
「…よし」
帰ったら全部伝えよう。唐突かもしれない。ひょっとしたら上手く伝わらないかもしれない。けれど伝えずにはいられない。これまでの想いを、前世の分まで。
さて、どんな言葉で伝えようか。あまり長々と話すべきではないな。簡潔に、それでいて気持ちが伝わる言葉を…
そんな風に考えながら義勇はいつもの帰り道をゆっくりゆっくり歩いていった。
帰ったら全部伝えよう。唐突かもしれない。ひょっとしたら上手く伝わらないかもしれない。けれど伝えずにはいられない。これまでの想いを、前世の分まで。
さて、どんな言葉で伝えようか。あまり長々と話すべきではないな。簡潔に、それでいて気持ちが伝わる言葉を…
そんな風に考えながら義勇はいつもの帰り道をゆっくりゆっくり歩いていった。
14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/04/05(日) 20:21:37.13 ID:33Pc5UOzO
「話があるんだ」
家に帰り、荷物を置く。しのぶはもう既に夕食も風呂も準備してくれている。けれど、その前に義勇は決心が鈍らないうちに日頃の想いを伝えようと心に決めていた。
家に帰り、荷物を置く。しのぶはもう既に夕食も風呂も準備してくれている。けれど、その前に義勇は決心が鈍らないうちに日頃の想いを伝えようと心に決めていた。
15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/04/05(日) 20:24:01.12 ID:33Pc5UOzO
「話…ですか?」
けれどしのぶはどこか浮かない表情だ。まるで何かに怯えているかのようだ。なるほど、確かに宇髄の言っていることは正しかったらしい。俺はこんなにもしのぶを不安にさせていたのか。
けれどしのぶはどこか浮かない表情だ。まるで何かに怯えているかのようだ。なるほど、確かに宇髄の言っていることは正しかったらしい。俺はこんなにもしのぶを不安にさせていたのか。
16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/04/05(日) 20:24:33.24 ID:33Pc5UOzO
「あぁ、いや、何、大した話ではないんだが…」
いざ言うとなると、少し気恥ずかしく思ってしまい、言葉が詰まる。こんなことではいけない。しっかりと伝えなければ。呼吸を整えて、話を始めようとしたその瞬間からだった。
いざ言うとなると、少し気恥ずかしく思ってしまい、言葉が詰まる。こんなことではいけない。しっかりと伝えなければ。呼吸を整えて、話を始めようとしたその瞬間からだった。
17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/04/05(日) 20:27:01.74 ID:33Pc5UOzO
「わ、私も!義勇さんにお話があります!」
なんとしのぶの方からも話があるという。なんだろう。この不安そうな表情…というより、青ざめているようにも見える…ひょっとして、もう手遅れなのだろうか。向こうは既に俺に愛想を尽かしてしまったのかもしれない。
なんとしのぶの方からも話があるという。なんだろう。この不安そうな表情…というより、青ざめているようにも見える…ひょっとして、もう手遅れなのだろうか。向こうは既に俺に愛想を尽かしてしまったのかもしれない。
18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/04/05(日) 20:27:37.71 ID:33Pc5UOzO
「…そうか、だが俺から言わせてほしい」
もしもそうだったとしても、ちゃんと今までの感謝は伝えよう。そうしないと、自分の中で納得ができない。
もしもそうだったとしても、ちゃんと今までの感謝は伝えよう。そうしないと、自分の中で納得ができない。
19: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/04/05(日) 20:28:10.23 ID:33Pc5UOzO
「い、嫌です!私からがいいです!」
珍しい。いつもは折れてくれるしのぶが、自分の意見を通そうとするなんて…それほどまでに俺といるのはもう限界なのだろうか…そう思うと胸が締め付けられるけれど、だとすればこちらも尚更譲れない。フラれた後に気持ちを伝えられる程、強いメンタルは持ち合わせていないのだ。
珍しい。いつもは折れてくれるしのぶが、自分の意見を通そうとするなんて…それほどまでに俺といるのはもう限界なのだろうか…そう思うと胸が締め付けられるけれど、だとすればこちらも尚更譲れない。フラれた後に気持ちを伝えられる程、強いメンタルは持ち合わせていないのだ。
20: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/04/05(日) 20:29:24.08 ID:33Pc5UOzO
「わかった…それならお互いに同時に言うと言うのはどうだ?」
「え?」
我ながらバカげた提案だと思った。けれどしのぶも譲りそうにない。俺にとってはこれ以外にこの状況を解決する方法がわからない。こうするしかないのだ。
「え?」
我ながらバカげた提案だと思った。けれどしのぶも譲りそうにない。俺にとってはこれ以外にこの状況を解決する方法がわからない。こうするしかないのだ。
21: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/04/05(日) 20:29:50.36 ID:33Pc5UOzO
「…わかりました」
そんなバカげた提案にしのぶは珍しく乗ってきた。そこまで俺に愛想が尽きたのか。もうしのぶの顔は涙が溢れて見ていられない。すまない、しのぶ。これだけ…これだけ言えば、俺はもうお前の目の前からは消えるから…だから、これだけは言わせてくれ…
そんなバカげた提案にしのぶは珍しく乗ってきた。そこまで俺に愛想が尽きたのか。もうしのぶの顔は涙が溢れて見ていられない。すまない、しのぶ。これだけ…これだけ言えば、俺はもうお前の目の前からは消えるから…だから、これだけは言わせてくれ…
22: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/04/05(日) 20:33:22.56 ID:33Pc5UOzO
「しのぶ…」
「義勇さん…」
「愛してる」
「愛しています…」
「「え?」」
打ち合わせていたかのように、二人とも同じ言葉を言っていた。驚いたところに至っては本当に同時だった。
「義勇さん…」
「愛してる」
「愛しています…」
「「え?」」
打ち合わせていたかのように、二人とも同じ言葉を言っていた。驚いたところに至っては本当に同時だった。
23: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/04/05(日) 20:44:52.88 ID:33Pc5UOzO
「しのぶ…俺に愛想を尽かしたんじゃ…」
「義勇さんこそ…他に好きな女の人ができたんじゃ…」
「何の話だ?」
本当に何を言っているのかがわからない。そこで俺は宇髄の言葉を思い出す。なるほど、こう言う時に俺は一言足りなかったのだったな。
「義勇さんこそ…他に好きな女の人ができたんじゃ…」
「何の話だ?」
本当に何を言っているのかがわからない。そこで俺は宇髄の言葉を思い出す。なるほど、こう言う時に俺は一言足りなかったのだったな。
24: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/04/05(日) 20:45:23.15 ID:33Pc5UOzO
「俺はしのぶ以外の女を愛したことなどないが?」
「義勇さん!」
言い終わるか終わらないかのうちにしのぶが抱きついてきた。わんわん泣いている彼女を俺は傷つけてしまったのだろうか。
「義勇さん!」
言い終わるか終わらないかのうちにしのぶが抱きついてきた。わんわん泣いている彼女を俺は傷つけてしまったのだろうか。
25: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/04/05(日) 20:47:05.41 ID:33Pc5UOzO
「なるほどな…そんなことが…」
「うぅ…恥ずかしいです…」
しのぶをなんとか泣き止ませ、お互いに事情を説明する。なんという偶然だろう。いや、それだけ自分たちのことを心配してくれている人が多いということか。感謝するべきことだな。
「うぅ…恥ずかしいです…」
しのぶをなんとか泣き止ませ、お互いに事情を説明する。なんという偶然だろう。いや、それだけ自分たちのことを心配してくれている人が多いということか。感謝するべきことだな。
26: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/04/05(日) 20:47:37.75 ID:33Pc5UOzO
「しかし、確かに言ってみないとわからないものだな…まさか、しのぶが俺のことをそんなに浮気性だと思っていたとは…」
「ぎ、義勇さんだって!口に出してなかっただけで私が愛想を尽かした冷血女だと思ってたじゃないですか!」
「そこまでは言っていない」
いや、これはお互いさまだな。宇髄の言う通り、言わなければ伝わらないこともあるのだ。
「ぎ、義勇さんだって!口に出してなかっただけで私が愛想を尽かした冷血女だと思ってたじゃないですか!」
「そこまでは言っていない」
いや、これはお互いさまだな。宇髄の言う通り、言わなければ伝わらないこともあるのだ。
27: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/04/05(日) 20:48:15.36 ID:33Pc5UOzO
「ほら、もう夕食にしましょう!今日は鮭大根ですよ?」
恥ずかしさを誤魔化すように顔を背けてしのぶが言う。そうだ、そういえばこれも言っていなかったな。
恥ずかしさを誤魔化すように顔を背けてしのぶが言う。そうだ、そういえばこれも言っていなかったな。
28: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/04/05(日) 20:49:50.29 ID:33Pc5UOzO
「しのぶ」
「はい?」
「いつもありがとう…しのぶの鮭大根が、一番美味い」
「…どういたしまして」
相変わらず、しのぶはそっぽを向いたままだったが、真っ赤に染まった耳を見ると気持ちは伝わってくる。なあ、宇髄。確かに言わないと伝わらないこともあるけれど、こんな風に伝わることもあるっていうことも知ってるか?
終わり
「はい?」
「いつもありがとう…しのぶの鮭大根が、一番美味い」
「…どういたしまして」
相変わらず、しのぶはそっぽを向いたままだったが、真っ赤に染まった耳を見ると気持ちは伝わってくる。なあ、宇髄。確かに言わないと伝わらないこともあるけれど、こんな風に伝わることもあるっていうことも知ってるか?
終わり
【鬼滅の刃】カナヲ「しのぶ姉さんが屁をこいた。」
2020-12-20
1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/28(土) 22:25:21.56 ID:OCUvFRYnO
カナヲ(――ごめんなさい姉さん)
カナヲ(ごめんなさい)
カナヲ(私あの時、笑えなくてごめんなさい)
カナヲ(しのぶ姉さんがオナラをした時――)
カナヲ(笑えなくてごめんなさい)
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1585401921
関連
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【朗報】わたてんさん、ケムリクサを超えてガチで覇権へ
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2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/28(土) 22:28:20.20 ID:OCUvFRYnO
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
――ぶびっ!!
しのぶ『ひぅっ!!??』
あの時――――――
産屋敷『おや……?』
実弥『ちょ、オイオイしのぶさんよォ!? 柱合会議中だぜェ! はしたないんじゃねぇのかィ!』
天元『ド派手にかましやがる』
杏寿郎『うむ……天晴!』
蜜璃(ええ~~! しのぶちゃん、ええ~~~!?)
時透様も、悲鳴嶼様も、伊黒様も、富岡様までも……みんな、笑っていたのに――
――私だけ笑えなかった
とても、動揺していたけど
――ぶびっ!!
しのぶ『ひぅっ!!??』
あの時――――――
産屋敷『おや……?』
実弥『ちょ、オイオイしのぶさんよォ!? 柱合会議中だぜェ! はしたないんじゃねぇのかィ!』
天元『ド派手にかましやがる』
杏寿郎『うむ……天晴!』
蜜璃(ええ~~! しのぶちゃん、ええ~~~!?)
時透様も、悲鳴嶼様も、伊黒様も、富岡様までも……みんな、笑っていたのに――
――私だけ笑えなかった
とても、動揺していたけど
3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/28(土) 22:36:44.65 ID:OCUvFRYnO
しのぶ『ちがっ! 違うの! 今日は朝からお腹の調子が悪くてっ、だからっ……!! ねぇ、カナヲは知っていたわよね!?』
カナヲ『……っ』
私は体中、汗をかくばかりで――
悲鳴嶼『あぁ……今朝から腹の調子が悪かったのか。だからつい屁が出てしまったのだ。可哀想だ』
時透『……。でも、親方様のお話を遮ったら、駄目だよ』
しのぶ『ちがっ、ちがっ、あああ、ちがうの……』
伊黒『何が違うんだ。腹が痛かった。だから屁がでた。今自分でそう言ったろう。ではいったい何が違うのだ。俺には理解できないんだが?』
富岡『もういいやめろ』
しのぶ『~~~~~~~~ッ!!!』
4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/28(土) 22:39:12.28 ID:OCUvFRYnO
――――――みんな、笑っていたのに
産屋敷『ふふふ』
5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/28(土) 22:55:31.32 ID:OCUvFRYnO
体中、汗をかくばかりで
私は笑う事ができなかった
だけど姉さんは――
しのぶ『ああ、みんなを、切り殺してやりたい』
しのぶ『ハァ』
しのぶ『……。』
しのぶ『ねぇ、カナヲ』
カナヲ『?』
だけど姉さんは、私を責めなかった
しのぶ『――笑っていいのよ。貴方もおかしければ、笑って、いいのだから』
カナヲ『っ…………。』
6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/28(土) 23:01:31.16 ID:OCUvFRYnO
姉さんは優しかった
だからいっぱい
心の中で言い訳してた
笑うと蹴飛ばされるの
噛まれるの
引き摺り回されて水に浸けられるの
動きをよくみてないと、悪いところに当たって――
――……。
ずっとそうしてきたから
笑わないようにしてきたから
急に笑えなかったの
ごめんなさい――
7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/28(土) 23:46:00.61 ID:OCUvFRYnO
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~。
8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/28(土) 23:57:46.90 ID:OCUvFRYnO
しのぶ「――だから、今度こそ笑ってみせるから、もう一度私に、その」
しほぶ「してほしい、と?」
カナヲ「はい、師範」
しのぶ「……。」
カナヲ「……。」
しのぶ「変ったわねカナヲ。――姉さんもきっと、喜んでる」
カナヲ「……! では……!」
しのぶ「でも、だめよ」
カナヲ「え……。」
9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/29(日) 00:01:55.61 ID:NWxjBKDtO
しのぶ「現在私の体は、血液・内臓・爪の先に至るまで、高濃度の藤の花の毒が回っている状態です」
カナヲ「……!!」
10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/29(日) 00:12:44.68 ID:NWxjBKDtO
カナヲ(――ごめんなさい姉さん)
カナヲ(ごめんなさい)
カナヲ(私あの時、笑えなくてごめんなさい)
カナヲ(しのぶ姉さんがオナラをした時)
カナヲ(笑えなくてごめんなさい――――――――――)
全集中・屁の呼吸 ~完~
11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/29(日) 00:15:53.40 ID:NWxjBKDtO
未熟者の書く推敲不足なSSです。
そんなものをお読みくださった方、本当にありがとうございました。
19巻、本当に泣けました……。
そんなものをお読みくださった方、本当にありがとうございました。
19巻、本当に泣けました……。
引用元: ・【鬼滅の刃】カナヲ「しのぶ姉さんが屁をこいた。」
【鬼滅の刃】プロポーズ【ぎゆしの】
2020-12-20
1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/25(水) 21:09:12.65 ID:LYKLrGhZO
外国の言葉で『I love you』という言葉がある。意味は「私はあなたを愛しています」という意味だそうだ。これを初めて聞いた時に、俺は
「こんな言葉、いつ使うのだろう」
と思った。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1585138152
「こんな言葉、いつ使うのだろう」
と思った。
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2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/25(水) 21:10:03.06 ID:LYKLrGhZO
愛というのは行動で示すものだ。一々言葉にすると途端にそれは安っぽくなってしまう。ところが外国ではわりと頻繁に使われる言葉だと教わったのは御館様からだったか。
3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/25(水) 21:10:33.77 ID:LYKLrGhZO
「せっかくこうして出会えた私たちだけれど、別れはいつやってくるかわからない。今日かもしれないし、明日かもしれない。実際はもっと先かも知れないけれど、自分の想いはきちんと伝えた方がいいね」
だって、気持ちを伝えないまま別れてしまうのはあんまりだろう。と続けた御館様の言葉に納得はした。
だって、気持ちを伝えないまま別れてしまうのはあんまりだろう。と続けた御館様の言葉に納得はした。
4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/25(水) 21:11:04.90 ID:LYKLrGhZO
けれど、それが親愛や友愛ならばともかく、男女の仲となるとやはり俺には言えないな、とそんなことを考えていた自分に御館様は、
「そんな義勇には、こんな言い方もあるんだよ…」
と別の言い方を教えてくださった。
「そんな義勇には、こんな言い方もあるんだよ…」
と別の言い方を教えてくださった。
5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/25(水) 21:11:36.55 ID:LYKLrGhZO
「カアアアーーーッ死亡??胡蝶シノブ死亡??上弦ノ弐ト格闘ノ末死亡ーーーーッ??」
そんな話を義勇が思い出したのは、こともあろうに最終決戦で、胡蝶しのぶの訃報を聞いた時だった。動揺する炭治郎を叱責しながら、義勇は
(胡蝶は想いを伝えきることができたのだろうか)
と少しだけ考えを巡らせる。
そんな話を義勇が思い出したのは、こともあろうに最終決戦で、胡蝶しのぶの訃報を聞いた時だった。動揺する炭治郎を叱責しながら、義勇は
(胡蝶は想いを伝えきることができたのだろうか)
と少しだけ考えを巡らせる。
6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/25(水) 21:12:05.47 ID:LYKLrGhZO
自分と異なり、人当たりの良かった彼女だ。大切な人も多かっただろう。蝶屋敷の面々にはきちんと別れを告げられたのだろうか。あれだけの器量だ。恋仲の男が居てもおかしくはない。そんな相手がいたのならば、想いを伝えられたのだろうか。
7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/25(水) 21:12:32.90 ID:LYKLrGhZO
(やめよう)
考えても仕方がないことだ。死んでいった胡蝶の分も、自分は鬼を斬らなければならない。しかしなぜだろう。彼女のことが頭から離れない。心にモヤモヤと雲がかかる。胡蝶に惚れた相手がいようと関係のない話だ。
考えても仕方がないことだ。死んでいった胡蝶の分も、自分は鬼を斬らなければならない。しかしなぜだろう。彼女のことが頭から離れない。心にモヤモヤと雲がかかる。胡蝶に惚れた相手がいようと関係のない話だ。
8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/25(水) 21:13:04.66 ID:LYKLrGhZO
自分はたしかに、歳下ながら世話をやいてくれる彼女のことを憎からず思っていたけれど、それだけだ。自分が彼女のような努力家に見合うなどと思ったこともない。考えたって仕方なのないことなのだ。このままでは任務に支障が出る。何か別のことを考えなければ…
そういえば、結局御館様は『I love you』をなんと訳したのだったか…。
そういえば、結局御館様は『I love you』をなんと訳したのだったか…。
9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/25(水) 21:13:33.30 ID:LYKLrGhZO
「月が綺麗ですね」
そうだ。確かそんな訳し方があるのだと御館様は教えてくださった。どこぞの文豪が、日本男児はそんなことは言わない。そんなものは『月が綺麗ですね』とでも訳しておけと言ったことが始まりだとか、そんな話をしていたのを覚えている。けれど、俺の脳内に響いたのは御館様の声ではなく、鈴を転がすような胡蝶の声だった。
そうだ。確かそんな訳し方があるのだと御館様は教えてくださった。どこぞの文豪が、日本男児はそんなことは言わない。そんなものは『月が綺麗ですね』とでも訳しておけと言ったことが始まりだとか、そんな話をしていたのを覚えている。けれど、俺の脳内に響いたのは御館様の声ではなく、鈴を転がすような胡蝶の声だった。
10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/25(水) 21:14:05.04 ID:LYKLrGhZO
あれはたしか、那田蜘蛛山だった。そうか、あの時お前はちゃんと言ってくれたんだな。
俺でいいのかと、確認することだって今となってはできやしない。俺はあの時なんと答えたのだったか。多分俺のことだから、任務に関係がないと斬り捨ててしまったのだろう。それからも変わらず接してくれた胡蝶の器の大きさに感謝しなければならない。
俺でいいのかと、確認することだって今となってはできやしない。俺はあの時なんと答えたのだったか。多分俺のことだから、任務に関係がないと斬り捨ててしまったのだろう。それからも変わらず接してくれた胡蝶の器の大きさに感謝しなければならない。
11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/25(水) 21:14:37.16 ID:LYKLrGhZO
「炭治郎??」
目の前に鬼が現れた。どうやら上弦の鬼のようだ。纏っている雰囲気が違う。なぁ、胡蝶。今から返事をしても間に合うだろうか。もうお前は死んでしまったけれど、もしも次の世界で出会えたなら…その時には、俺が鬼なんていない未来を作るから…他でもないお前のために…そうだ、たしかあの言葉に対する返事は…
目の前に鬼が現れた。どうやら上弦の鬼のようだ。纏っている雰囲気が違う。なぁ、胡蝶。今から返事をしても間に合うだろうか。もうお前は死んでしまったけれど、もしも次の世界で出会えたなら…その時には、俺が鬼なんていない未来を作るから…他でもないお前のために…そうだ、たしかあの言葉に対する返事は…
12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/25(水) 21:15:03.46 ID:LYKLrGhZO
それから義勇は力を得る代わりに寿命を削る痣を発現させた。傷は熱した刀で焼いて塞いだ。無惨との戦いでは利腕をもぎ取られてもなお戦った。その姿を見ていた隠曰く
「死のうとしているのかと思った」
とまで言われるほどだった。
それはとっても悲しくて、とても素敵なプロポーズ。
「死のうとしているのかと思った」
とまで言われるほどだった。
それはとっても悲しくて、とても素敵なプロポーズ。
13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/25(水) 21:15:54.39 ID:LYKLrGhZO
その後…それから何百年も経ったころ…
今日はキメツ学園の卒業式。高校三年生の私は今日でこの校舎を去ることになる。
今日はキメツ学園の卒業式。高校三年生の私は今日でこの校舎を去ることになる。
14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/25(水) 21:20:22.12 ID:LYKLrGhZO
「ねぇ、冨岡先生。私卒業しましたよ」
「…知っている」
友達にも、後輩にも、気持ちは伝えてきた。唯一の心残りと言えば、この恋心だけ。鬼のいないこの世の中ならば想いを伝えられるかとも思っていたが、蓋を開けてみれば私は生徒で彼は教師だった。前世程ではないが、どうやら今世でもこの恋は許されないらしい。いや、これはきっと前世で勝手に諦めた私に対する罰なのだ。
「…知っている」
友達にも、後輩にも、気持ちは伝えてきた。唯一の心残りと言えば、この恋心だけ。鬼のいないこの世の中ならば想いを伝えられるかとも思っていたが、蓋を開けてみれば私は生徒で彼は教師だった。前世程ではないが、どうやら今世でもこの恋は許されないらしい。いや、これはきっと前世で勝手に諦めた私に対する罰なのだ。
15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/25(水) 21:23:53.84 ID:LYKLrGhZO
「明日から、私はここには来ませんよ?本当にわかっていますか?」
「…わかっている」
だから、別れてしまうのが名残惜しくて、こんな夜遅くまで学校に残ってしまうことくらいは許してほしい。少しだけ、これだけ言って前世のように諦めるから…
「…わかっている」
だから、別れてしまうのが名残惜しくて、こんな夜遅くまで学校に残ってしまうことくらいは許してほしい。少しだけ、これだけ言って前世のように諦めるから…
16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/25(水) 21:24:22.70 ID:LYKLrGhZO
「それにしても、今日は…『月が綺麗ですね』」
それは冨岡先生には絶対通じないだろうけれど、いえ通じないからこそ選んだのですが、私の自己満足なのだ。私はきちんとこう言って自分の気持ちにケジメをつけたいだけなのだから。
それは冨岡先生には絶対通じないだろうけれど、いえ通じないからこそ選んだのですが、私の自己満足なのだ。私はきちんとこう言って自分の気持ちにケジメをつけたいだけなのだから。
17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/25(水) 21:24:48.63 ID:LYKLrGhZO
「胡蝶…」
「はい?」
どうして呼び止めるのだろう。早く帰って泣きたいのに。貴方の目の前では泣きたくないのに。全くそんなんだから嫌われるんですよ…
「俺は『お前のために[ピーーー]た』ぞ」
「はい?」
どうして呼び止めるのだろう。早く帰って泣きたいのに。貴方の目の前では泣きたくないのに。全くそんなんだから嫌われるんですよ…
「俺は『お前のために[ピーーー]た』ぞ」
18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/25(水) 21:25:42.08 ID:LYKLrGhZO
「胡蝶…」
「はい?」
どうして呼び止めるのだろう。早く帰って泣きたいのに。貴方の目の前では泣きたくないのに。全くそんなんだから嫌われるんですよ…
「俺は『お前のために死ねた』ぞ」
「はい?」
どうして呼び止めるのだろう。早く帰って泣きたいのに。貴方の目の前では泣きたくないのに。全くそんなんだから嫌われるんですよ…
「俺は『お前のために死ねた』ぞ」
19: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/25(水) 21:26:15.96 ID:LYKLrGhZO
「先…生…もしかして…記憶が…?」
「あぁ、俺たちは無惨を倒した。今、この世を平和にするために…だから」
「冨…岡先…生…」
「卒業したんだろう?前みたいに呼んではくれないのか?」
「冨岡さん…」
こんなことってあるのだろうか。あっていいのだろうか。前世でだって、伝わらないだろうと思って卑怯な告白をした私に、あまつさえそれを今世でも繰り返した私に、こんな幸せがあってもいいのだろうか…こんなのまるでお伽話じゃないか。
それはとっても幸せで、とても素敵なプロポーズ。
「あぁ、俺たちは無惨を倒した。今、この世を平和にするために…だから」
「冨…岡先…生…」
「卒業したんだろう?前みたいに呼んではくれないのか?」
「冨岡さん…」
こんなことってあるのだろうか。あっていいのだろうか。前世でだって、伝わらないだろうと思って卑怯な告白をした私に、あまつさえそれを今世でも繰り返した私に、こんな幸せがあってもいいのだろうか…こんなのまるでお伽話じゃないか。
それはとっても幸せで、とても素敵なプロポーズ。
引用元: ・【鬼滅の刃】プロポーズ【ぎゆしの】
蟲柱の想い人
2020-12-20
1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:09:37.05 ID:cB7BtnJ3O
「第一回、蝶屋敷会議を始めます」
「は?え?ちょ…は?」
呼ばれて部屋に入ると、カナヲがそう宣言して謎の会議が始まった。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1584965377
「は?え?ちょ…は?」
呼ばれて部屋に入ると、カナヲがそう宣言して謎の会議が始まった。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1584965377
関連
ハルヒ「SOS団で恋の暴露大会をするわよ!」
【朗報】わたてんさん、ケムリクサを超えてガチで覇権へ
【ラブライブサンシャイン】善子「運命の引力」
【悲報】Twitterで3年前に「令和」を予言してたものがいたwwwwwwwww
2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:10:58.21 ID:cB7BtnJ3O
「許さない…許さない…許さない…」
「あの野郎…畜生…畜生…」
恨みのこもった言葉をぶつぶつと呟いているのは我妻善逸さん。そして震える拳を握りしめているのは、嘴平伊之助さんだ。この二人と、カナヲがただならぬ様子で座っている。どうやら深刻な事態のようだ。特に普段は気に入らないことがあると暴れ散らかしている伊之助さんが座っているところを見ると、事態は一刻の猶予を争うものだとわかる。
「あの野郎…畜生…畜生…」
恨みのこもった言葉をぶつぶつと呟いているのは我妻善逸さん。そして震える拳を握りしめているのは、嘴平伊之助さんだ。この二人と、カナヲがただならぬ様子で座っている。どうやら深刻な事態のようだ。特に普段は気に入らないことがあると暴れ散らかしている伊之助さんが座っているところを見ると、事態は一刻の猶予を争うものだとわかる。
3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:11:32.03 ID:cB7BtnJ3O
「一体何があったの!?」
「師範に…」
「しのぶ様に!?」
「…くっ」
どうやら内容はこの屋敷の主人、胡蝶しのぶ様に関することらしい。一体何があったのだろう。しのぶ様と言えば言わずと知れた柱。鬼殺隊の中でも最高戦力とされる一人だ。そんな人が窮地に陥っているというのか。カナヲの目には悔しさで涙が滲んでいる。しのぶ様だけでなく、カナヲの心にまでここまでの傷を負わせるなんて…許せない。涙で話せないカナヲに代わって、善逸さんが口を開く。
「師範に…」
「しのぶ様に!?」
「…くっ」
どうやら内容はこの屋敷の主人、胡蝶しのぶ様に関することらしい。一体何があったのだろう。しのぶ様と言えば言わずと知れた柱。鬼殺隊の中でも最高戦力とされる一人だ。そんな人が窮地に陥っているというのか。カナヲの目には悔しさで涙が滲んでいる。しのぶ様だけでなく、カナヲの心にまでここまでの傷を負わせるなんて…許せない。涙で話せないカナヲに代わって、善逸さんが口を開く。
4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:12:06.29 ID:cB7BtnJ3O
「男が…できた…」
「は?」
何を言っているのだろうこの男は。事態は一刻を争うのではなかったのだろうか。
「は?」
何を言っているのだろうこの男は。事態は一刻を争うのではなかったのだろうか。
5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:12:42.44 ID:cB7BtnJ3O
「だから!しのぶさんに好きな男ができたの!」
「聞こえた上での『は?』なんですよ!」
さっきまでの重苦しい雰囲気は何だったのだろう。私の緊張を返してほしい。
「聞こえた上での『は?』なんですよ!」
さっきまでの重苦しい雰囲気は何だったのだろう。私の緊張を返してほしい。
6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:13:08.32 ID:cB7BtnJ3O
「おい、アオコ、落ち着け」
「落ち着いてます!というかアオイです!」
「アオイ、いい加減にして。私たちは真面目な話をしてるんだよ」
「え?これ私が間違えてるの?」
絶対に納得がいかない。おかしいのは絶対にこの三人の方だ。
「落ち着いてます!というかアオイです!」
「アオイ、いい加減にして。私たちは真面目な話をしてるんだよ」
「え?これ私が間違えてるの?」
絶対に納得がいかない。おかしいのは絶対にこの三人の方だ。
7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:13:43.78 ID:cB7BtnJ3O
「そもそもどうしてしのぶ様にお相手ができたらダメなのよ」
確かに驚いてはいる。しのぶ様の性格的に、本懐を遂げるまでは…姉の仇を討つまでは、そういった色恋にかまける時間などないとばかりに多忙な日々を送っていたからだ。けれど、彼女は柱である前に十八歳の乙女なのだ。こんな世の中でなければ恋の一つもしていてもおかしくない。いつぞや善逸さんも言っていたが、あの美貌なら引く手数多だろう。もしも本当に想い人がいるのであれば、それは好ましいことではないだろうか。
確かに驚いてはいる。しのぶ様の性格的に、本懐を遂げるまでは…姉の仇を討つまでは、そういった色恋にかまける時間などないとばかりに多忙な日々を送っていたからだ。けれど、彼女は柱である前に十八歳の乙女なのだ。こんな世の中でなければ恋の一つもしていてもおかしくない。いつぞや善逸さんも言っていたが、あの美貌なら引く手数多だろう。もしも本当に想い人がいるのであれば、それは好ましいことではないだろうか。
8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:14:19.69 ID:cB7BtnJ3O
「師範にはまだ早い」
「いや、カナヲの方が歳下でしょうが!」
思わず大きな声を出してしまった。
「師範に恋愛はまだ早い…まだまだ私は手がかかる」
「…それ自分で言ってて恥ずかしくないの?」
「いやだ…師範を取られたくない…」
炭治郎さんたちに出会ってから、カナヲは自分の思いを口に出せるようになってきた。しかし、まさかため込んできた感情がこんなものだとは思いもしなかった。
「いや、カナヲの方が歳下でしょうが!」
思わず大きな声を出してしまった。
「師範に恋愛はまだ早い…まだまだ私は手がかかる」
「…それ自分で言ってて恥ずかしくないの?」
「いやだ…師範を取られたくない…」
炭治郎さんたちに出会ってから、カナヲは自分の思いを口に出せるようになってきた。しかし、まさかため込んできた感情がこんなものだとは思いもしなかった。
9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:16:11.23 ID:cB7BtnJ3O
「そうだそうだ!しのぶは俺たちの世話で忙しいんだ!」
「あなたが言うな!」
とは言うものの伊之助さんの言うことは少しわかる。山で育ったという彼はしのぶ様をどこか母親のように思っている節がある。心情的には大好きな母親を他の男に取られるのと同じなのだろう。やっと与えられた母性を失いたくないのだ。
「あなたが言うな!」
とは言うものの伊之助さんの言うことは少しわかる。山で育ったという彼はしのぶ様をどこか母親のように思っている節がある。心情的には大好きな母親を他の男に取られるのと同じなのだろう。やっと与えられた母性を失いたくないのだ。
10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:16:41.14 ID:cB7BtnJ3O
「俺はあんな美人といちゃいちゃできる男は大っ嫌いだ!」
「…」
もはや言葉もでない。この人に関しては今私がここで斬り捨てても問題無いのではなかろうか。
「…」
もはや言葉もでない。この人に関しては今私がここで斬り捨てても問題無いのではなかろうか。
11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:17:35.89 ID:cB7BtnJ3O
「モテる男は全員敵だ!」
「善逸、もう黙って」
「あ、うん…」
善逸さんがカナヲに黙らさせられる。どうやら一枚岩ではないらしい。
「善逸、もう黙って」
「あ、うん…」
善逸さんがカナヲに黙らさせられる。どうやら一枚岩ではないらしい。
12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:18:13.57 ID:cB7BtnJ3O
「とにかく、私たちは認めない」
「認めないって言ったって…そもそも相手は誰なのよ?」
しのぶ様とは長く一緒にいる。今でも任務にはついて行けないが、治療や生薬の買い付けなどには一緒に赴くこともある。そんな私でさえ相手が誰かわからない。そもそも本当に相手などいるのだろうか。
「認めないって言ったって…そもそも相手は誰なのよ?」
しのぶ様とは長く一緒にいる。今でも任務にはついて行けないが、治療や生薬の買い付けなどには一緒に赴くこともある。そんな私でさえ相手が誰かわからない。そもそも本当に相手などいるのだろうか。
13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:18:45.41 ID:cB7BtnJ3O
「半々羽織だ!」
「え?」
確かに柱の中では水柱様と関わることは多い。二人が並び立っていると、互いの顔の良さも相まって本当に画になる。柱同士では異例の合同任務も多く、実際あまり関わりのない隊士の間ではお似合いだと噂にもなっているらしい。けれど…
「え?」
確かに柱の中では水柱様と関わることは多い。二人が並び立っていると、互いの顔の良さも相まって本当に画になる。柱同士では異例の合同任務も多く、実際あまり関わりのない隊士の間ではお似合いだと噂にもなっているらしい。けれど…
14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:19:13.53 ID:cB7BtnJ3O
「水柱様としのぶ様はそんな間柄ではありませんよ?しのぶ様がからかっているだけで…」
そう、水柱こと冨岡義勇さんは極度の口下手、というかコミュニケーションが致命的に苦手である。しのぶ様はそんな水柱様をからかって遊んでいるのが真実である。
そう、水柱こと冨岡義勇さんは極度の口下手、というかコミュニケーションが致命的に苦手である。しのぶ様はそんな水柱様をからかって遊んでいるのが真実である。
15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:19:52.37 ID:cB7BtnJ3O
「私もそう思っていた…油断した…」
「クソっ…」
しかし、二人の様子を見ると一般隊士が噂をしているのとはわけが違うようだ。
「クソっ…」
しかし、二人の様子を見ると一般隊士が噂をしているのとはわけが違うようだ。
16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:20:28.24 ID:cB7BtnJ3O
「何か証拠でもあるんですか?」
思わず私はそう聞いた。すると、善逸さんから返事が返ってくる。
思わず私はそう聞いた。すると、善逸さんから返事が返ってくる。
17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:20:59.39 ID:cB7BtnJ3O
「まず第一に距離が近い!」
「はぁ…」
「はぁ…じゃないですよ!特に顔!顔が近いの!あれはもう接吻する距離ですよ!?」
呆れた声は出てしまったけれど、確かに二人が話をする時の距離は近い。しかし、それは身長差のある二人が話をするために水柱様が屈んでくださっているだけだと、以前しのぶ様から伺ったけれど…
「はぁ…」
「はぁ…じゃないですよ!特に顔!顔が近いの!あれはもう接吻する距離ですよ!?」
呆れた声は出てしまったけれど、確かに二人が話をする時の距離は近い。しかし、それは身長差のある二人が話をするために水柱様が屈んでくださっているだけだと、以前しのぶ様から伺ったけれど…
18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:22:24.95 ID:cB7BtnJ3O
「それだけじゃない…もっと…もっと大変なことが…」
「そうだ!紋逸のなんて目じゃないのがあるぜ!」
「どんなことですか?」
もうこれは全部聞いてから否定した方が早そうだ。
「そうだ!紋逸のなんて目じゃないのがあるぜ!」
「どんなことですか?」
もうこれは全部聞いてから否定した方が早そうだ。
19: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:23:43.98 ID:cB7BtnJ3O
「しのぶは俺たちを治療してくれるだろ!その時に…その時に…半々羽織にはまじないを言うんだ!」
「まじない?」
大正の世になってまじないを信じている人などいるのだろう。と、鬼の存在を知っている自分が言うのもおかしな話だが、自分以上にしのぶはそういった呪いの類を信じていなかったはずだが…
「まじない?」
大正の世になってまじないを信じている人などいるのだろう。と、鬼の存在を知っている自分が言うのもおかしな話だが、自分以上にしのぶはそういった呪いの類を信じていなかったはずだが…
20: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:24:10.77 ID:cB7BtnJ3O
「『痛いの痛いの飛んでいけ~♪』って…楽しそうに…」
「…」
本当に帰りたくなってきた。二十を超えた成人男性にそんなことをするのはからかい以外の何ものでもないだろう。
「…」
本当に帰りたくなってきた。二十を超えた成人男性にそんなことをするのはからかい以外の何ものでもないだろう。
21: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:24:43.39 ID:cB7BtnJ3O
「俺知ってんだ!このまじないは今まで俺とカナヲにしかしなかったんだ!」
「師範は大好きな人にしかこのおまじないをしない…」
「その自信はどこからくるんですか!?」
あなたたちがしのぶ様のこと好きなだけですよね。そんな言葉をグッと飲み込む。
「師範は大好きな人にしかこのおまじないをしない…」
「その自信はどこからくるんですか!?」
あなたたちがしのぶ様のこと好きなだけですよね。そんな言葉をグッと飲み込む。
22: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:26:06.56 ID:cB7BtnJ3O
「とにかく、そんなことだけでは好きだの嫌いだのわかりませんよ」
「とっておきのが…ある…」
とっておく意味がわからないが、カナヲの話だけ聞いて終わりにしよう。これでも私は忙しいのだ。
「とっておきのが…ある…」
とっておく意味がわからないが、カナヲの話だけ聞いて終わりにしよう。これでも私は忙しいのだ。
23: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:26:33.59 ID:cB7BtnJ3O
「そ、その…あの…く、薬を…」
「ん?」
満を辞して話し始めたわりになぜか言い淀む。どうしたと言うのだろう。
「ん?」
満を辞して話し始めたわりになぜか言い淀む。どうしたと言うのだろう。
24: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:27:00.36 ID:cB7BtnJ3O
「あの…塗る、時に…」
「あ、わかった!」
「薬塗る時だろ!?わかる!やらしーんだよな!」
「は?」
私以外の二人は意味がわかったらしい。
「あ、わかった!」
「薬塗る時だろ!?わかる!やらしーんだよな!」
「は?」
私以外の二人は意味がわかったらしい。
25: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:27:29.61 ID:cB7BtnJ3O
「薬塗る時によぉ、半々羽織の時は絶対にしのぶが塗るんだよ!」
「その時の雰囲気がもう…なんか凄いんですよ!しのぶさんの目線というか、手つきというか、色気というか…あれはもう事…」
「師範はそんなことしない!」
なるほど言いたいことはなんとなくわかった。何度も言うが柱は鬼殺隊の最高戦力。そんな柱の治療には治療の最高責任者であるしのぶ様が当たるのが常なのだが、こういう誤解が生じるのならばこれからは考えた方が良いのかもしれない。
「その時の雰囲気がもう…なんか凄いんですよ!しのぶさんの目線というか、手つきというか、色気というか…あれはもう事…」
「師範はそんなことしない!」
なるほど言いたいことはなんとなくわかった。何度も言うが柱は鬼殺隊の最高戦力。そんな柱の治療には治療の最高責任者であるしのぶ様が当たるのが常なのだが、こういう誤解が生じるのならばこれからは考えた方が良いのかもしれない。
26: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:29:00.59 ID:cB7BtnJ3O
「師範はいやらしいことなんてしないし、厠にも行かない!師範の赤ちゃんはコウノトリさんが運んでくる!適当なことを言うな!」
「ぎゃぁぁぁぁあ!?な、なんで俺ばっかり!?」
いけない、カナヲが暴走している。止めるために腰を浮かせかけたその時…
「いい加減にしないか!」
最後の一人、竈門炭治郎さんが入ってきた。
「ぎゃぁぁぁぁあ!?な、なんで俺ばっかり!?」
いけない、カナヲが暴走している。止めるために腰を浮かせかけたその時…
「いい加減にしないか!」
最後の一人、竈門炭治郎さんが入ってきた。
27: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:29:31.00 ID:cB7BtnJ3O
「任務が終わっておみまいに来たら、この部屋にって案内されて、途中から話を聞いていたけどなんだこれは!?」
返す言葉もない。任務終わりでお疲れのところにこんなゴタゴタに巻き込んでしまって申し訳ない。
返す言葉もない。任務終わりでお疲れのところにこんなゴタゴタに巻き込んでしまって申し訳ない。
28: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:30:03.84 ID:cB7BtnJ3O
「けど、炭治郎…師範が…」
「カナヲ…カナヲにとってしのぶさんはとても大切な人じゃなかったのか?どうして、その大切な人に好きな人ができるのを邪魔したいんだ?」
「うっ…」
答えられないのも無理はない。正直に『子供じみた嫉妬です』なんて、言えるわけがないのだから。それも、カナヲが炭治郎さん相手に…
「カナヲ…カナヲにとってしのぶさんはとても大切な人じゃなかったのか?どうして、その大切な人に好きな人ができるのを邪魔したいんだ?」
「うっ…」
答えられないのも無理はない。正直に『子供じみた嫉妬です』なんて、言えるわけがないのだから。それも、カナヲが炭治郎さん相手に…
29: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:30:36.32 ID:cB7BtnJ3O
「けどよぉ!権八郎!あの半々羽織の野朗は…」
「あぁ…そうか…伊之助にはわからないか…」
「は?」
食ってかかる伊之助さんに、炭治郎さんは諦めたように話を続ける。
「あぁ…そうか…伊之助にはわからないか…」
「は?」
食ってかかる伊之助さんに、炭治郎さんは諦めたように話を続ける。
30: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:31:25.95 ID:cB7BtnJ3O
「そうだよな、伊之助にはまだ辛いよな…しのぶさんのこと母親のように慕ってたもんな…」
「ち、ちげーし!?し、しのぶが俺様の世話をどーしてもしたいって言うから…」
「しのぶさんが別の男の人と所帯をもつなんて…耐えられないよな…」
「はぁぁぁぁあ!?余裕で耐えられるわ!祝いの品持参して盛大に祝うわ!」
そう言うやいなや、伊之助さんは部屋を飛び出した。多分お祝い用にツヤツヤのどんぐりを拾いに行ったのだろう。
「ち、ちげーし!?し、しのぶが俺様の世話をどーしてもしたいって言うから…」
「しのぶさんが別の男の人と所帯をもつなんて…耐えられないよな…」
「はぁぁぁぁあ!?余裕で耐えられるわ!祝いの品持参して盛大に祝うわ!」
そう言うやいなや、伊之助さんは部屋を飛び出した。多分お祝い用にツヤツヤのどんぐりを拾いに行ったのだろう。
31: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:31:59.73 ID:cB7BtnJ3O
「おぉ、伊之助は元気だなぁ」
若干見当違いなことを口にしながら、炭治郎さんは言葉を続ける。
「あの二人は何とかできても、俺は諦めないからな!」
唯一残った善逸さんが声高に叫ぶ。
若干見当違いなことを口にしながら、炭治郎さんは言葉を続ける。
「あの二人は何とかできても、俺は諦めないからな!」
唯一残った善逸さんが声高に叫ぶ。
32: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:32:26.35 ID:cB7BtnJ3O
「ん?善逸にはそもそも関係ない話だろう?」
「うぐっ!?」
「姉同然に育ったカナヲや、母親のように世話をしてもらった伊之助が言うのはまだわかるけれど、善逸は本当に何の関係もないだろう?」
「ぐはっ!?」
「挙げ句の果てに『俺はあんな美人といちゃいちゃできる男は大っ嫌いだ!』とか『モテる男は全員敵だ!』って…恥ずかしくはないのか?」
「止めろぉぉぉお!正論で攻めてくるな!」
炭治郎さんの言う通り、善逸さんには本当に何の関係もない。水柱様に対するただの逆恨みだ。
「うぐっ!?」
「姉同然に育ったカナヲや、母親のように世話をしてもらった伊之助が言うのはまだわかるけれど、善逸は本当に何の関係もないだろう?」
「ぐはっ!?」
「挙げ句の果てに『俺はあんな美人といちゃいちゃできる男は大っ嫌いだ!』とか『モテる男は全員敵だ!』って…恥ずかしくはないのか?」
「止めろぉぉぉお!正論で攻めてくるな!」
炭治郎さんの言う通り、善逸さんには本当に何の関係もない。水柱様に対するただの逆恨みだ。
33: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:33:00.05 ID:cB7BtnJ3O
「むっ!」
「はっ!?ね、禰豆子ちゃん!?ち、違うんだよ!?浮気じゃないんだ!俺はいつだって禰豆子ちゃん一筋だから!」
多分禰豆子さんは、善逸さんがお兄さんを困らせているように見えたから(というか事実困らせているが)注意しただけだろうが、何を勘違いしたのか、善逸さんは禰豆子さんに振られたと思ったらしく、必死に弁明している。
「はっ!?ね、禰豆子ちゃん!?ち、違うんだよ!?浮気じゃないんだ!俺はいつだって禰豆子ちゃん一筋だから!」
多分禰豆子さんは、善逸さんがお兄さんを困らせているように見えたから(というか事実困らせているが)注意しただけだろうが、何を勘違いしたのか、善逸さんは禰豆子さんに振られたと思ったらしく、必死に弁明している。
34: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:33:32.05 ID:cB7BtnJ3O
「そもそも、禰豆子と善逸は付き合っていないだろう」
「むっ!」
「いやぁぁ!禰豆子ちゃぁぁあん!?」
こうして、何の成果も残さず第一回蝶屋敷会議は幕を閉じたのだった。
「むっ!」
「いやぁぁ!禰豆子ちゃぁぁあん!?」
こうして、何の成果も残さず第一回蝶屋敷会議は幕を閉じたのだった。
35: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:34:52.70 ID:cB7BtnJ3O
「ふふふ、それは大変でしたね」
「本当ですよ…」
次の日、私が洗濯物を畳んでいる時に通りかかったしのぶ様に事の顛末を話すと、まるで他人事のように笑っていた。
「本当ですよ…」
次の日、私が洗濯物を畳んでいる時に通りかかったしのぶ様に事の顛末を話すと、まるで他人事のように笑っていた。
36: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:35:27.74 ID:cB7BtnJ3O
「炭治郎くんにはお礼を言わないといけませんね」
「やめてください」
そんなことをしたらまた勘違いする人が出るじゃないですかと続ける私に、しのぶ様は冗談ですよと返してくるけれど、この人はどこまで自分の容姿のことを自覚しているのだろうか。
「やめてください」
そんなことをしたらまた勘違いする人が出るじゃないですかと続ける私に、しのぶ様は冗談ですよと返してくるけれど、この人はどこまで自分の容姿のことを自覚しているのだろうか。
37: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:35:59.19 ID:cB7BtnJ3O
「しかし、冨岡さんとの噂がそんなことになっていたとは…今までは特に困ることもなかったのですが…」
「因みにお聞きしますが、本当に水柱様とは何もないんですよね?」
「私が冨岡さんと?あるわけないじゃないですか」
そんな話をしていると、玄関の方から声が聞こえてきた。
「因みにお聞きしますが、本当に水柱様とは何もないんですよね?」
「私が冨岡さんと?あるわけないじゃないですか」
そんな話をしていると、玄関の方から声が聞こえてきた。
38: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:36:27.40 ID:cB7BtnJ3O
「胡蝶はいるか?」
柱であるしのぶ様を呼び捨てにできる人の中で、ぶっきらぼうで、言葉少なに問いかけるような人物は私の知る限り一人だけだ。
「もう、噂をすればですか…」
やれやれと言うように腰をあげたしのぶ様についていこうとしたけれど、私の周りにはまだ畳み終わっていない洗濯物が大量にあった。
柱であるしのぶ様を呼び捨てにできる人の中で、ぶっきらぼうで、言葉少なに問いかけるような人物は私の知る限り一人だけだ。
「もう、噂をすればですか…」
やれやれと言うように腰をあげたしのぶ様についていこうとしたけれど、私の周りにはまだ畳み終わっていない洗濯物が大量にあった。
39: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:36:54.08 ID:cB7BtnJ3O
「いいですよ、私一人で対応できますから」
「でも…昨日の今日ですよ?また誤解されるかも…」
「それもそうですね…ではひと段落したら来てくれますか?」
そう約束してしのぶ様を見送る。そして、洗濯物を粗方片付けてから、私も玄関へ向かった。
「でも…昨日の今日ですよ?また誤解されるかも…」
「それもそうですね…ではひと段落したら来てくれますか?」
そう約束してしのぶ様を見送る。そして、洗濯物を粗方片付けてから、私も玄関へ向かった。
40: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:37:26.51 ID:cB7BtnJ3O
「ほら、あがってください」
「…いや、しかし…」
なんてことはない会話だった。しかし、私はその光景に目を奪われた。なんだこれは。
「…いや、しかし…」
なんてことはない会話だった。しかし、私はその光景に目を奪われた。なんだこれは。
41: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:38:01.06 ID:cB7BtnJ3O
「治さないと化膿しますよ?」
「…これくらいなんともない」
駄々っ子のように治療を嫌がる水柱様に、しのぶ様が小言を言っている。ただそれだけなのに、どうしてこんなにも、美しいのだろうか。こんなに美しいしのぶ様の顔を、私は見たことがなかった。
「…これくらいなんともない」
駄々っ子のように治療を嫌がる水柱様に、しのぶ様が小言を言っている。ただそれだけなのに、どうしてこんなにも、美しいのだろうか。こんなに美しいしのぶ様の顔を、私は見たことがなかった。
42: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:38:27.05 ID:cB7BtnJ3O
「もう!ほら、アオイからも何とか言ってください!」
「え?あ、はい、えーっと…」
名前を呼ばれてようやく我に帰る。なんだあれは。なんだったんだ。知らない、知らない、知らない、知らない、あんなに綺麗で美しい顔を、私は今まで見たことがない。けれど、あれは正に『恋する人』の顔ではないか。
「え?あ、はい、えーっと…」
名前を呼ばれてようやく我に帰る。なんだあれは。なんだったんだ。知らない、知らない、知らない、知らない、あんなに綺麗で美しい顔を、私は今まで見たことがない。けれど、あれは正に『恋する人』の顔ではないか。
43: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:38:59.38 ID:cB7BtnJ3O
「これは、治療が必要ですね」
「ほら、塗り薬を塗るだけですから、やってしまいましょう」
「本当か?」
「そんなことで騙したりしませんよ」
また会話が二人に戻っていった。しのぶ様は嘘をついたのだろうか。いや、ああ見えて嘘をつけるほど器用な人ではない。凄まじい心の傷を受けて表情こそ隠せるようにはなったけれど、本来は苛烈すぎるほどに真っ直ぐな人なのだ。じゃああれは…
「ほら、塗り薬を塗るだけですから、やってしまいましょう」
「本当か?」
「そんなことで騙したりしませんよ」
また会話が二人に戻っていった。しのぶ様は嘘をついたのだろうか。いや、ああ見えて嘘をつけるほど器用な人ではない。凄まじい心の傷を受けて表情こそ隠せるようにはなったけれど、本来は苛烈すぎるほどに真っ直ぐな人なのだ。じゃああれは…
44: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:39:29.93 ID:cB7BtnJ3O
「こんなになるまで放っておいて…」
しのぶ様の指が水柱様の傷に触れる。傷んだり、菌が入ったりしないように配慮しているのだろうが優しすぎるほどのその手つきは妖艶などと言うものではなかった。愛おしさを感じている触れ方だ。
しのぶ様の指が水柱様の傷に触れる。傷んだり、菌が入ったりしないように配慮しているのだろうが優しすぎるほどのその手つきは妖艶などと言うものではなかった。愛おしさを感じている触れ方だ。
45: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:39:56.55 ID:cB7BtnJ3O
「別に痛くない」
「それは『痛くない』と思い込んでいるだけですよ」
そうか、『思い込んでいる』んだ。恋愛にうつつを抜かしている暇はないと、だから自分が恋などするはずがないと思い込んでいるんだ。だから、恋をしていることに気付いていないんだ。
そんなことがあるのだろうか。だけど、現に目の前で起こっているのだからしょうがない。
「それは『痛くない』と思い込んでいるだけですよ」
そうか、『思い込んでいる』んだ。恋愛にうつつを抜かしている暇はないと、だから自分が恋などするはずがないと思い込んでいるんだ。だから、恋をしていることに気付いていないんだ。
そんなことがあるのだろうか。だけど、現に目の前で起こっているのだからしょうがない。
46: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:40:22.74 ID:cB7BtnJ3O
「全く、冨岡さんはしょうがないですね」
そう言う彼女の笑顔には困った様子など全くない。アオイでも滅多に見る事の少ない彼女の本当の笑顔だった。
そう言う彼女の笑顔には困った様子など全くない。アオイでも滅多に見る事の少ない彼女の本当の笑顔だった。
47: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:40:49.05 ID:cB7BtnJ3O
「…カナヲの気持ち、ちょっとわかるかも」
聞こえないように、そっと呟く。自分たちがどれだけ努力しても、カナエ様が亡くなってからというもの、すっかり見えなくなってしまったしのぶ様の本当の笑顔をこんなに簡単に引き出せるだなんて。嫉妬してしまう。けれど…
聞こえないように、そっと呟く。自分たちがどれだけ努力しても、カナエ様が亡くなってからというもの、すっかり見えなくなってしまったしのぶ様の本当の笑顔をこんなに簡単に引き出せるだなんて。嫉妬してしまう。けれど…
48: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:41:26.56 ID:cB7BtnJ3O
「…良かった」
全部捨ててしまったのかと思っていた。お洒落も、自分の時間も、体も、全てを投げ打って姉の仇を討とうとする姿は、顔に浮かべる笑みに反して苛烈極まりなかった。ひょっとしたら、居場所である蝶屋敷でさえ、捨ててしまう日が来るのではないか。そんなことを考えたのも一度や二度ではない。他人には簡単に与えるくせに、自分は簡単に捨ててしまう。そんな人だから。『恋』だけは、捨てずにいれたことが、アオイは心の底から嬉しく思った。
全部捨ててしまったのかと思っていた。お洒落も、自分の時間も、体も、全てを投げ打って姉の仇を討とうとする姿は、顔に浮かべる笑みに反して苛烈極まりなかった。ひょっとしたら、居場所である蝶屋敷でさえ、捨ててしまう日が来るのではないか。そんなことを考えたのも一度や二度ではない。他人には簡単に与えるくせに、自分は簡単に捨ててしまう。そんな人だから。『恋』だけは、捨てずにいれたことが、アオイは心の底から嬉しく思った。
49: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:41:55.97 ID:cB7BtnJ3O
「アオイ?」
「あぁ、すいません。少しぼーっとしてました」
しのぶ様には黙っておこう。気付いてしまったら、捨ててしまおうとするかもしれない。そうなると彼女は自分が傷つくことなんて微塵も考えないのはわかっているのだから。
「あぁ、すいません。少しぼーっとしてました」
しのぶ様には黙っておこう。気付いてしまったら、捨ててしまおうとするかもしれない。そうなると彼女は自分が傷つくことなんて微塵も考えないのはわかっているのだから。
50: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 21:42:21.40 ID:cB7BtnJ3O
「冨岡さんがいるのなら、今日は鮭大根にしましょうか」
「何!?本当か!?」
「えぇ、アオイ、鮭大根にしてもいいかしら?」
「…お願いします」
神も仏も、鬼に家族を殺されたあの日から信じてなんかいない。だけど、神様、どうかこの恋だけは、この人から奪わないでください。そんな願いをこめた私の一言をしのぶ様にはバレないようにそっと託した。
終わり
「何!?本当か!?」
「えぇ、アオイ、鮭大根にしてもいいかしら?」
「…お願いします」
神も仏も、鬼に家族を殺されたあの日から信じてなんかいない。だけど、神様、どうかこの恋だけは、この人から奪わないでください。そんな願いをこめた私の一言をしのぶ様にはバレないようにそっと託した。
終わり
引用元: ・蟲柱の想い人
鬼滅の刃ss 我が子のために・・・
2020-12-20
1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/25(水) 23:25:52.99 ID:CTG1QIS00
鬼滅ssです。
このお話は原作8巻で無限列車編~遊郭編までの炭治郎が一人で任務に出ていた期間のお話になります。
よろしければどうぞお読みください。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1585146352
このお話は原作8巻で無限列車編~遊郭編までの炭治郎が一人で任務に出ていた期間のお話になります。
よろしければどうぞお読みください。
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2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/25(水) 23:27:39.52 ID:CTG1QIS00
「そうか、大変だったな。そのような激戦をよくぞ生き延びてたな炭治郎。」
無限列車にて下弦の壱の鬼を討伐、さらに上弦の参こと猗窩座によって煉獄さんが討たれてから数日が経過した。
蝶屋敷で治療を終えたこの俺こと竈門炭治郎は妹の禰豆子を連れて育手の師匠である鱗滝さんの家を訪ねていた。
そこで俺は鬼殺隊の隊士としてこれまでの戦いを伝えてみせた。
今から二年前に俺は鬼に家族を殺された。唯一人生き残った禰豆子は鬼と化してしまった。
その後は俺たちを助けてくれた水柱の冨岡さんによって育手の鱗滝さんを紹介された。
それから二年間は鱗滝さんの元で修行に励みこうして鬼殺隊の隊士となったわけだ。
「初めて会った時と比べて見違えるように成長した。随分と立派になったものだ。」
「…いいえ…俺なんてまだまだ未熟です。そのせいで煉獄さんは…」
「そう思い詰めるな。彼奴の死はお前の責任ではない。
鬼殺隊の隊士たる者は鬼との戦いにおいては常に死を覚悟して挑まねばならない。
惨酷かもしれんがそれが鬼殺隊なのだ。」
鬼殺隊は鬼を狩ることが務め…
それは自らの命を掛けて行うべき務めなのはわかる。
けれど大切な人たちの命が紡がれていくのはやるせなさを感じてならなかった。
3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/25(水) 23:29:00.13 ID:CTG1QIS00
「その命ですけど…鱗滝さん…今更ながら本当にありがとうございます…」
俺は目の前にいる鱗滝さんに深々と頭を下げながら礼を述べた。その理由はこの間の柱合会議にあった。
あの時、俺たち兄妹は鬼殺隊の柱に囲まれて処刑されるかの瀬戸際に立たされていた。
鬼殺隊の使命は鬼狩り。それなのに俺は鬼と化した妹を連れて歩いている謂わば異端の存在。
つまり俺たち兄妹は他の隊士たちにしてみれば十分に規律違反を犯しており処刑されても文句は言えなかった。
そんな俺たち兄妹に救いの手を差し伸べてくれたのが鱗滝さんと…それにこの場にはいないけど俺たちの恩人である冨岡さんだった。
二人は以前からお館さまに直訴の文を出しており、もしもの時は自分たちが腹を切って責任を取るとのことだった。
鬼殺隊の剣士は鬼狩りを宿命としている。
そんな中で異端の存在である俺たちのために命を投げ出す覚悟で庇ってくれた。
あの窮地において俺たち兄妹をそこまで信じてくれた鱗滝さんと冨岡さんには感謝してもしきれなかった。
「感謝など無用だ。ワシはお前の育手。教え子を信じるのに命を掛けるのは当然のことよ。」
「それでも…本当にありがとうございます…俺たち兄妹はきっと応えてみせます。」
「うむ、その心意気だけで十分だ。」
心意気だけじゃダメだ。俺は絶対に成し遂げなければならない。
すべての元凶である鬼舞辻無惨を討ち果たす。そして妹の禰豆子を人間に戻す。
それこそが俺たちを信じてくれた冨岡さんと鱗滝さん、それに命懸けで俺たちを守り抜いてくれた煉獄さん。
みんなが俺たちを信じてくれた。ならば信じて突き進むだけだ。
4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/25(水) 23:30:11.58 ID:CTG1QIS00
「ところで炭治郎、次の任務があると聞いているが…」
「はい。また新たな鬼が現れたとの報告を受けました。ここへはその道中だったので立ち寄ったんです。」
鬼殺隊は鬼狩りを使命とする。鬼が出たのなら何処だろうと向かい人々を苦しめる悪鬼を退治しなければならない。
この使命は鬼殺隊の上位に位置する柱は勿論のこと俺みたいな下っ端の隊士も同様だ。
それに鬼殺隊は万年人不足(鬼との戦いで死人がバッタバッタ出るからね)
なので怪我人の俺も傷が完全に癒えないうちに出動要請が入った。猫の手も借りたいとはまさにこのことだ。
「なるほど、この先の山を二つ越えた村で鬼が出たか。」
「昨日村人が惨殺されたとのことです。それで鬼の仕業だと報告を受けました。」
「そうか、あの辺りには中々旨い肉料理を出すメシ屋があったな。
確かそこの女将は身篭っていたはずだ。まさかと思うが巻き込まれていなければいいのだが…」
どうやら現地には鱗滝さんのお知り合いの方がいるらしい。
こうしてはいられない。今の鬼殺隊は炎柱の煉獄さんが不在となった。
それによって戦力の弱体化を余儀なくされている。
だからこそ煉獄さんの穴埋めをするためにも若輩の俺にも出来ることをやらなくては!
5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/25(水) 23:31:15.35 ID:CTG1QIS00
「ところで炭治郎、お前はこの前の戦いでおった傷がまだ癒えていない身だ。そんな身体で任務とは些か心配だな。」
「大丈夫です!こんな怪我でへこたれていられません!」
確かに鱗滝さんの指摘通り俺の身体はまだ完全ではない。
けれどみんなからの期待を応えるために蝶屋敷でいつまでも安静にしているわけにはいかない。
既に伊之介や善逸も単独での任務に就いている(善逸はかなり嫌がっていたけど…)
だから俺だけが寝込んでいるわけにいくものか。
「実は義勇に助太刀を依頼しておいた。」
そんな俺を心配してか鱗滝さんが富岡さんを呼んだと言ったけど…え?冨岡さんが…
「いやいや、それこそ駄目ですよ!あの人は水柱だし俺以上の激務をこなしているんだから悪いですよ!」
「馬鹿者ッ!鬼との戦いにおいて油断は禁物!用心に越したことはない!」
さすがに鱗滝さんから一括されてしまった。確かにその通りかもしれない。
鬼との戦いは常に命懸け。慢心なんて以ての外。
それに俺自身もまだ身体の傷が癒えたわけではないしここは鱗滝さんの言う通りにすべきかもしれないな。
6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/25(水) 23:32:42.35 ID:CTG1QIS00
「わかりました。それでは冨岡さんと合流してから鬼を退治します。」
鱗滝さんの忠告を受けてまずは冨岡さんとの合流を優先することにした。
ちなみに冨岡さんは既に現地へと向かっているとのこと。
こうしちゃいられない。若輩者の俺がのんびりしていたら叱られてしまう。
鱗滝さんに挨拶を済ませるとすぐに俺は現地へ出発しようとした。
けど出向こうとした際、鱗滝さんはあることを告げた。
「炭治郎忘れるな。我ら鬼殺隊は鬼から人を守ることが使命だ。」
勿論忘れてなんていませんよ。人を喰らう悪しき鬼は俺が許さない。
そのことを肝に銘じて俺は愛刀を握り締め妹の入った木箱を背負い現地へと出発した。
7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/25(水) 23:33:17.47 ID:CTG1QIS00
「ハァ…ハァ…ようやく着いたぁ…」
鱗滝さんの家を出てから数時間の時が過ぎた。出発した時はまだ昼間だったのに今やあたりはすっかり日が暮れて真夜中だ。
それにしても…我ながら情けない…息が上がるし体力の消耗が激しいや…
やはりまだ身体は不調のようだ。
先日の無限列車の戦いで受けた傷はまだ十分には癒えていないらしい。
幸いにも傷口が開いてはいないがこの身体で戦闘になれば五体満足ではいられない。
そう思うと冨岡さんに助っ人を依頼してくれた鱗滝さんの判断は正しかった。
うん、やっぱり俺の育手の師だ。ちゃんと見てくれているんだな。ありがとうございます。
ところで暗くなったのなら丁度いい。俺は周囲に人がいないのを確認すると背負っていた木箱を下ろした。
「さあ禰豆子、出ておいで。」
そう囁くと木箱の蓋がひとりで開けられた。
そこから麻の葉文様の着物に市松柄の帯を締め黒くて長い綺麗な髪を結び額にしてそして口には竹の口枷という大きな特徴をした少女が姿を現した。
この子は俺の妹の禰豆子。今となっては唯一の肉親だ。
妹は鬼と化したが人を襲うような悪鬼ではない。だが他の鬼と同じく陽の光を浴びれば消滅してしまう。
そのため昼間はこうして木箱の中に入りひたすら眠ることで鋭気を養っている。
だからといって実の妹を木箱の中に閉じ込めたままにするわけにはいかない。
動けるようになる夜になるとこうして木箱の中から出してあげる必要があった。
「う…うぅ…」
寝起きのせいか禰豆子はぼんやりとした寝ぼけ眼な状態だ。
無理もないか。妹は人を喰らわないがそのためにかなりの睡眠を取っている。
恐らく睡眠を多く取ることで人喰いの本能を押さえ込んでいるのだろう。
そんな禰豆子の手を取ると俺は再び歩みだした。
ごめんな禰豆子…兄ちゃんいつも苦労ばかりかけて…
8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/25(水) 23:35:04.10 ID:CTG1QIS00
「いらっしゃいッ!」
村へたどり着くとまずは鱗滝さんの紹介してくれたメシ屋へと足を運んだ。
店に入ると主の旦那さんが元気よく挨拶してくれた。
その傍らには旦那さんの奥さんにして店の女将さんが笑顔で俺たち兄妹を持て成してくれた。
ちなみにお店の中はこじんまりとした佇まいだけどまるで実家のような落ち着いた安心感があった。
それとこのお店だけど…肉料理が評判だと聞いたけどそのせいで妙に血生臭い匂いがするな。
これじゃあ俺の鼻が効かないや。
「その服装だけど…ひょっとして坊やは鱗滝さんとこの子かい?」
「はい、竈門炭治郎といいます。鱗滝さんがお二人によろしくと言っていました。」
「そうなの。最近会ってないけどお元気そうで安心したわ。」
「ところで女将さん。お腹の子は順調ですか?」
「ええ、もうそろそろ出産してもいい頃合よ。」
女将さんは鱗滝さんの話通り大きなお腹をしている。この様子だともう出産も間近だろうな。
9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/25(水) 23:35:59.33 ID:CTG1QIS00
「よかったらちょっと触ってみない?」
女将さんの厚意に甘えて俺はお腹に耳を当ててみた。
善逸ほど耳がいいわけじゃないがお腹越しから赤ちゃんの心音が伝わってくる。
こうしていると昔を思い出すな。幼い頃に母ちゃんのお腹から生まれてくる弟妹の心音を聴いていたな。まるで死んだ母ちゃんを思い出す。
同じくお腹に耳を当てている禰豆子も穏やかな顔でその心音を聴いていた。
そういえばこうして平穏なひと時を味わうのは久しぶりだよな。
ここ最近は物騒なことばかりが続いていたからな。けど感慨に浸っている場合じゃない。
禰豆子もいずれは誰かと結婚して母親としてお腹に子を宿す時が来るのだろう。
だけど今のままじゃそんな平穏な未来など訪れはしない。
早く鬼舞辻を倒して禰豆子を人間に戻さなきゃならないんだ。
「ありがとうございます。早く元気な子が生まれてくるといいですね。」
「うちの嫁は今回が初産なんだ。けどこの尻なら安産なのは確実だよ!ハハハ!」
「もうアンタったら!」
旦那さんは女将さんのお尻を自慢するかのようにバンバンと叩いてみせた。
いやいや、妊婦さんなんだからそこは勞ってあげないと…
それにしても子供が生まれるなんてめでたいな。
けれどこの村には鬼が出没している。まだ何処に潜んでいるのかわからない。
ひょっとすれば妊婦の女将さんを襲う可能性だって十分にありうる。
「お嬢ちゃんも将来はいいお母さんになるんだぞ。」
旦那さんがいまだに女将さんのお腹をさすっている禰豆子に笑顔でそんな事を言っていた。
この夫婦の笑顔を絶やしてはならない。鬼殺隊の隊士として俺は全力でこの家族を守る。
それが俺の使命だ!
10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/25(水) 23:36:47.66 ID:CTG1QIS00
「よしやるぞ!…って…あれ…?」
決意を固めると同時にあることに気づいた。
店の奥を見てみると客席にポツンと誰かが食事を取っていた。
ところでこのお客さんだけど………よく見たら冨岡さんだ!
「あ、冨岡さん居たんですね。」
「先刻からずっとここで食事をしていた。この村ではここでしか飯が食えないからな。」
…なんか気まずい。この人俺たちが店の人たちと談笑していたのにその間一人でパクパクご飯食べてたんだよな。
普通なら世間体を気にして会話に参加するのが大人だよね。
それなのにどうして一人で淡々と食事しているんだろ?
「…俺たち鬼殺隊は常在戦場の心構えでなければならない。故に早々と食事を済まさなければならん。」
なんかそれっぽいことを言っているけど言い訳に聞こえるのは気のせいかな。
どうしょう?今からでも旦那さんたちに冨岡さんのことを紹介すべきかな?
けど今更すぎて逆にどちらにとっても失礼に当たるのではないのだろうか。
11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/25(水) 23:38:04.34 ID:CTG1QIS00
「…ところで任務の話をしておきたい。この村で鬼が出没している件は既に聞いているな。」
それから冨岡さんは懐から新聞を取り出した。見ると新聞にはこの村で起きた惨殺事件についての記述があった。
事件が起きたのは昨夜のことだ。
「殺されたのはこの村に住むお婆さんだ。産婆だったらしい。」
産婆といえば妊婦さんの出産時に手助けしてくれる助産婦さんのことだ。
この小さな村では産婆はお婆さん唯一人だけとのことだ。
「それで遺体を調べたがかなり食い散らかした跡があった。
しかもかなり食べ残していたようで痕跡からして恐らくは初めて人を喰ったのだろう。」
事件の惨状を淡々と語る冨岡さんの話を聞いて先程まであったはずの食欲がすっかり失せていたことに気づいた。
当然だ。こんな話を聞かされて食事を取ろうなど思うはずもない。
それにしても年配のお婆さんを襲うなんて卑劣な鬼だ。許せない!
「まだ事件が起きてから時間が経っていない。恐らくは鬼もそんな遠くには行っていないだろう。
俺はヤツが潜みそうな場所をしらみ潰しに探す。お前もメシを食ったらすぐに探しに出てほしい。」
そう促すと冨岡さんは早々に店から立ち去った。さすがは柱だ。
鬼の討伐を第一に考えているだけあって行動が迅速だ。
ちなみに冨岡さんの食器には頼んだであろう鮭大根の定食を米一粒残すことなく綺麗に置かれていた。
ふむ、これが冨岡さんの好物なのかはわからないけど美味しいことには間違いなさそうだ。
俺も同じものを食べてすぐに鬼の搜索に加わろう。
腹が減っては戦は出来ぬだ。食欲が失せたなんて言っていられない。
とにかく無理矢理でも腹に飯を入れて力をつけなきゃな!
12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/25(水) 23:40:46.49 ID:CTG1QIS00
こうして食事を済ませた俺は禰豆子を連れて夜の村を捜索に出た。
けれど夜だというのに鬼の気配はちっとも感じられない。
鬼の動きには関連性がある。日中に鬼が太陽の光が浴びると身体が消滅するためかなり行動が制限されている。
よって鬼が動くなら日没後の夜中しかない。
それなのにどういうわけか鬼が動く気配がどうしても感じられなかった。
「おかしい…匂いが感じられないなぁ…」
店で嗅いだ血生臭い匂いが強かったせいなのかどうも鼻の調子が悪い。
自慢じゃないが俺の鼻は犬の嗅覚ほど嗅ぎ分けることが出来る。
けれど本調子じゃないにしてもこれだけ探しても鬼が見当たらないってどういうことだ?
「う~ん…こうなったらもう一度頭の中を整理してみよう…」
とにかく一旦落ち着いていまわかっていることを振り返ってみよう。
鬼が出たのは昨夜のことだ。殺されたのは産婆のお婆さん。鬼は初めて人を喰い殺した。
その鬼はまだこの村から出ていない。ざっと振り返るとこんなところだ。
特にこれといって気になる点は…待てよ…?
「なあ禰豆子、そういえばこの村には産婆は殺されたお婆さんしかいなかったよな。」
「ふがっ!」
俺は傍らに居る禰豆子にも確認を取るようにもう一度あることを確かめた。
そういえば店の女将さんは妊娠している。
待てよ?あのお腹なら産婆のお婆さんは何度か女将さんを診察してたんじゃないか。
だとしたら女将さんたちは殺された産婆のお婆さんについて何か知っているはずだ。
そのことに気づいた俺は禰豆子を連れて急いで店に戻った。
これで事件解決に一歩前進だ。そう思いながら駆け足で店へと向かった。
13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/25(水) 23:41:53.56 ID:CTG1QIS00
「ごめんくださ~い!ちょっと聞きたいことがあるんですけど!」
すぐに店へと戻ったが店内には誰もいなかった。
先程までいたはずの旦那さんと奥さんの姿が見えない。まさか鬼が…!?
そう思った俺はすぐさま刀を抜いた。
鋭い日輪刀の刃を突き立てとにかく鬼の気配を感じ取った。
「…この匂い…わかる…これは…血だ…」
先程は肉料理のせいで鼻が満足に嗅げなかったが今はちがう。
これは家畜の血じゃない。人の血の匂いだ。それも大量の血が流れたことで俺の鼻が嗅ぎ取ることが出来た。
それから俺たちは店の奥へと入った。台所に入りさらにその奥の家屋へと侵入した。
家の中は荒らされた形跡はない。
もしも鬼なら当然荒らされた形跡くらいあってもおかしくはない。
だがこの家からは血の匂い以外の異変は感じ取れない。これはどういうことなのかと最後に家の居間へと入った時だ。
「これは…まさか…」
そこには酷い悪臭が漂っていた。この独特な悪臭を俺はこれまで何度も嗅ぎ取っていた。これは鬼の匂いだ。匂いの元は居間の奥だ。すぐに襖を開けるとそこには驚くべき光景があった。
14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/25(水) 23:42:41.39 ID:CTG1QIS00
「うぐ…あぁ…」
なんとそこには腕から血を流す旦那さんがいた。
そんな旦那さんの腕を誰かがジュルジュルとまるでご馳走のように飲み込んでいた。
その誰かとは…奥さんだった…
「嘘だ…何であなたが…」
一瞬俺の頭の中が真っ白になった。だってそうだろ。さっきまで俺はこの人たちと仲良く談笑していたんだ。
それなのに奥さんが鬼と化すなんて何がどうなっている。
いや、考えるのは後だ。それよりも今やるべきことは唯一つ!
「やめろォッ!」
日輪刀を振るって旦那さんと女将さんを引き離した。
旦那さんの腕はいまだに血が滴り落ちておりそれを女将さんは涎を垂らしながら眺めている。
これまで見てきた鬼と同じだ。もう人のことを食い物としか見ていないんだ。
「女将さん…あなたが鬼だったのか…」
既に手遅れだ。女将さんは人を喰った悪鬼と化した。
こうなれば俺は鬼殺隊の隊士としての使命を果たさなければならない。
鬼を斬る。それ以外に解決する術はないんだ。
15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/25(水) 23:45:17.80 ID:CTG1QIS00
「待ってくれ!女房を斬らないでくれ!」
首を斬ろうとした瞬間だった。なんと旦那さんが俺と女将さんの間に入って仲裁しようとした。
「やめてください。もうこうなったら手遅れなんだ。悪いが斬らせてもらいます。」
「ちがうんだ!女房は俺を襲ってはいない!この血は俺が自分で傷つけてそれで飲ませているだけなだ!」
どうやら旦那さんは女将さんのために自分の血を与えていたらしい。
それで辛うじて正気を保っていたわけか。それだけならまだ同情の余地はあった。けれど…
16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/25(水) 23:45:47.73 ID:CTG1QIS00
「女将さんは産婆のお婆さんを殺した。それは事実ですね。」
そう問い質すと旦那さんは観念しながらすべてを白状した。
事の発端は昨夜まで遡る。実は女将さんだが昨夜に急な発作に襲われた。
この非常事態に旦那さんはすぐに産婆のお婆さんを呼んだけど最早どうにもならない状況に追い込まれていた。
産婆のお婆さんに女将さんとそれにお腹の赤ちゃんは助からないと宣告された。
そう絶望に浸っていた時のことだ。旦那さんにとってはある意味で救いの手が差し伸べられた。
『―――お前の家族を助けてやろう。』
男は鬼舞辻無惨と名乗った。俺たち鬼殺隊が追っている悪鬼だ。
ヤツは旦那さんを拐かすと女将さんを鬼にした。
鬼の生命力を得た女将さんは発作も収まり大事には至らなかった。だが…
『ギャァァァァァッ!?』
鬼と化した女将さんは産婆のお婆さんを喰い殺してしまった。
どうやら鬼の本能に耐えられなかったらしい。
それが事件の顛末だった。
17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/25(水) 23:47:37.90 ID:CTG1QIS00
「経緯はわかりました。けど何故自首しなかったんですか!これが許されるべき行いでないことはわかっているはずだ!?」
「わかっている!女房も警察に自首すると言っていた。けど…お腹の子がもうすぐ生まれるんだ…」
すべてはお腹の子のためだと…
そうか、そういうことだったのか。この夫婦は生まれてくる子の誕生を望んでいる。
けれど女将さんが自首すればどうなるだろうか。
事情を知らない警察に行けば太陽の光によって身体が消滅してしまう。
そうなればお腹の子は助からないだろう。
「我が儘なお願いかもしれないが頼む!お腹の子が生まれるまで待ってくれ!」
それがこの夫婦の望みだった。
その願いを聞いた上で俺はもう一度女将さんの顔を覗いた。涙を浮かべながらお腹を摩っていた。
その光景はまだ家族が生きていた頃に母ちゃんが生まれてくる弟妹を勞っている姿と酷似していた。
生まれてくる子を想う気持ちは痛いほどわかるよ。
俺だってさっきまで女将さんのお腹の子の心音を確かめていたんだ。けどそれとこれとは話が別だ。
「それなら聞かせてください。お婆さんの死についてどうやって報いるつもりですか。」
俺は臆することなく二人に刃を向けながら問い質した。
鬼狩りの剣士としてこれだけはどうしてもハッキリとさせる必要がある。
いくら女将さんに殺意がなかったとしても現にお婆さんは亡くなってしまった。
それもお腹の子を取り上げようとした人だ。
俺は面識ないがお婆さんの死を蔑ろにするなどどれほど退っ引きならない事情があろうと絶対に許されないことだ。
「…罪は償います…私たち夫婦が必ず…」
決意した目で二人はそう答えてくれた。その言葉には嘘偽りの匂いは感じられない。
この言葉は信じられる。だけど…
ここにいる鬼狩りは俺だけじゃない。冨岡さんがいる。あの人は鬼殺隊の柱だ。
柱ならば鬼とわかれば即斬りつけるだろう。
以前に産屋敷邸に呼びつけられた時に冨岡さんは俺たち兄妹を庇ってくれた。
あの時は禰豆子が人を襲わないと証明出来たからこそ信じてもらえたんだ。
けど今回は状況が大きく異なる。女将さんは既に人を襲ってしまった。
人の命を奪うという取り返しのつかない過ちに及んでいる。
状況がどうであれ人を襲った鬼とわかれば女将さんはすぐに斬られる。
こうなれば見過ごすか?いや、それも駄目だ。
ここで冨岡さんから逃げられたとしても他の隊士が女将さんを斬る結末に変わるだけ。
それに女将さんは既に人を襲ってしまった。
ここで逃がしたら本能のままに人を襲う悪鬼と成り代わる可能性もある。
俺は鬼殺隊の隊士だ。これ以上の被害者が出ることだけは絶対に避けなければならない。
18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/25(水) 23:48:30.91 ID:CTG1QIS00
「やはりここにいたか。」
そんな時だった。考えに耽っていた俺の背後から冨岡さんが姿を現した。
冨岡さんはいつものように無表情で佇んでいるけどその手には既に刀を抜いている。
俺と同じく水の呼吸の使い手である証としてその刀身は綺麗な青色に輝いていた。
愛刀に刻まれた『悪鬼滅殺』の文字を女将さんに翳しながら冨岡さんは構えを取った。
「炭治郎どけ。こいつは俺がやる。」
「待ってください!まずは事情を聞いてください!」
「人喰い鬼の事情など知るか。俺は自らの使命を果たすまでだ。」
富岡さんは問答無用とでもいうかのように女将さんに斬りかかった。このままでは…
19: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/25(水) 23:49:23.55 ID:CTG1QIS00
「話を聞いてくださいッ!」
けど俺は咄嗟にそんな冨岡を無理やり引っ張り出すようにして外へと押しやった。
正直全力の体当たりだったけど冨岡さんは怪我一つ負うこともなくピンピンしていた。
「…何の真似だ。お前も鬼殺隊の剣士。ならば悪鬼は斬らねばならない。」
「わかっています。けど女将さんは身篭っています。
いくら悪鬼とはいえお腹には生まれてくる赤ん坊がいるんだ。せめて子供が生まれるまで待ってあげられませんか!」
俺は先程聞かされた事件の詳細を冨岡さんにも説明してみせた。
なんとか事情を話して納得してもらうつもりでいた。
「ふざけるな。どんな事情があろうと人を喰った悪鬼など野放しには出来ない。」
だけど事情を話しても冨岡さんの考えは変わらなかった。
いや、最初からわかっていたことだ。駄目元で話をしてその返答がこれだった。
鬼殺隊の隊士なら誰もが悪鬼滅殺を信条として闘いに挑んでいるんだ。
俺だってそのうちの一人だ。けれど…どうにかしてやりたい時だってあるんだ!
「何も見逃してほしいとは言っていません。せめてお腹の子が生まれるまでの間だけでも待ってあげられませんか!」
「ならば尋ねるぞ。生まれてくる子は人か。それとも…鬼か。どちらだ。」
冨岡さんから問い詰められて俺は言葉を失くした。
生まれてくる子が人なのか鬼なのかなんて俺にわかるわけがない。
20: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/25(水) 23:50:43.63 ID:CTG1QIS00
「赤ん坊が鬼ならばそれは人の血肉を糧として生まれてくるということだ。
つまり生まれながらにして罪を背負っているということ。生まれてくること自体が罪。
子が鬼ならばそれも斬る。それだけのことだ。」
それが冨岡さんの下した結論だった。鬼殺隊の隊士ならば冨岡さんの結論は正しい。
俺だって人喰い鬼のことを許したくはない。だけど生まれてくる子はちがうはずだ。
その子はまだ罪を背負ってなどいない。生まれてくること自体が罪などそんなの断じて認めるものか!
「…炭治郎…まだ言い争うつもりか…」
「はい、納得してくれるまで俺も引き下がれません。」
「これ以上の我が儘はやめろ。
以前はお前の妹が人を襲わなかったから俺と鱗滝さんも庇えた。
だがそこにいる鬼はちがう。そいつは既に人を襲ってしまった。」
「わかっています。だけど!」
「いい加減にしろ!これ以上お前が鬼を庇えばどうなる!また規律違反で裁かれるぞ!
お前たち兄妹のために命を掛けている鱗滝さんが腹を切ることになるのを忘れたか!!」
そうだ…冨岡さんの言う通りだ…
俺たち兄妹の命は最早自分たちだけの采配で決められるものじゃない。
育手の鱗滝さんにそれに目の前にいる冨岡さんも何かあった時は腹を切って詫びるとお館さまに書状を差し出してくれた。
再び裁きに掛けられたら俺たち兄妹は今度こそ討たれるだろう。
それだけじゃない。俺たちのために命を差し出してくれた冨岡さんと鱗滝さんも…
今更ながら自分の責任を自覚していなかったのが余りにも未熟すぎた。
21: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/25(水) 23:51:33.91 ID:CTG1QIS00
そんな悲観する俺の心にある言葉が囁いてきた。
『胸を張って生きろ』
今は亡き煉獄さんが遺してくれた最期の言葉だ。
その言葉を思い出したと同時に俺は今の自分を振り返った。
そして同時に目の前にいる冨岡さんに対して刀を抜いた。
「何のつもりだ。」
「こうなれば力尽くで納得させます。
確かに母親は人喰い鬼です。けれど生まれてくる赤子の命を蔑ろにするなど…
その行いを見過ごすのは胸を張って生きていると言えないッ!」
俺は冨岡さんに斬りかかった。冨岡さんの剣は俺の斬撃などビクともせず軽く受け流した。
当然だ。向こうは柱なんだ。実力が及ばないのは端から承知の上。
さらに言えば俺はまだ怪我がちゃんと癒えていない。
こんな状態で柱の冨岡さんに勝つなど絶対にありえないだろう。
「やめろ。こんな戦いは無意味だ。俺が納得するなど決してありえない。」
「…わかっています…それでも俺は…俺たちは…
みんな母親から生まれてきた。誰だってそうだ。それは鬼だって…
冨岡さんあなただってそうだったはずだ!ならばわかるはずだ!
どんな命だろうと境遇だろうと母親が子を産むことを咎めるなどあってはならないんだ!」
俺は渾身の力を込めて剣を振るった。その瞬間だった。剣が宙を舞った。
渾身の力を込めた一撃は呆気なく弾かれてしまった。
駄目だった。言葉でも想いでも説得することができなかったのか。
『胸を張って生きろ』
今は亡き煉獄さんが遺してくれた最期の言葉だ。
その言葉を思い出したと同時に俺は今の自分を振り返った。
そして同時に目の前にいる冨岡さんに対して刀を抜いた。
「何のつもりだ。」
「こうなれば力尽くで納得させます。
確かに母親は人喰い鬼です。けれど生まれてくる赤子の命を蔑ろにするなど…
その行いを見過ごすのは胸を張って生きていると言えないッ!」
俺は冨岡さんに斬りかかった。冨岡さんの剣は俺の斬撃などビクともせず軽く受け流した。
当然だ。向こうは柱なんだ。実力が及ばないのは端から承知の上。
さらに言えば俺はまだ怪我がちゃんと癒えていない。
こんな状態で柱の冨岡さんに勝つなど絶対にありえないだろう。
「やめろ。こんな戦いは無意味だ。俺が納得するなど決してありえない。」
「…わかっています…それでも俺は…俺たちは…
みんな母親から生まれてきた。誰だってそうだ。それは鬼だって…
冨岡さんあなただってそうだったはずだ!ならばわかるはずだ!
どんな命だろうと境遇だろうと母親が子を産むことを咎めるなどあってはならないんだ!」
俺は渾身の力を込めて剣を振るった。その瞬間だった。剣が宙を舞った。
渾身の力を込めた一撃は呆気なく弾かれてしまった。
駄目だった。言葉でも想いでも説得することができなかったのか。
22: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/25(水) 23:52:02.75 ID:CTG1QIS00
「…」
けど冨岡さんは自分の愛刀をジッと見つめていた。一体どうしたんだと見てみたがその理由はすぐに分かった。
『悪鬼滅殺』の悪鬼の文字にヒビが入っていた。刀にヒビが入ればその精度が落ちる。
「…どうやらお前の熱意が上回ったようだな。これでは使い物にならん。」
冨岡さんはヒビの入った刀を鞘に入れた。刀が使えなくなってしまったようで戦う意志はないようだ。
これは…つまり助かったのか…?
よかった。これでひと安心だ。
23: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/25(水) 23:56:26.71 ID:CTG1QIS00
「何を安心している?これで事態はより深刻になったんだぞ。」
「え?それは…どういう…」
「俺は刀が使えなくなてしまった。わかっていると思うが俺たち鬼狩りが戦うには日輪刀が不可欠。今あるのはお前の刀だけ。つまり何かあった場合はお前がこの場を治めなければならないんだ。」
改めて言われたけどそうだった。冨岡さんを納得させて終わりなわけじゃない。
ここからが始まりなんだ。
「大変だ!女房が産気づいちまった!?」
するとそこへ家の中にいた旦那さんが大声で女将さんが産気づいたと言ってきた。
よりにもよってこんな時に…
「けど産婆のお婆さんはもう亡くなってしまったんじゃ…」
「ああ…そうだ…他所の村から産婆を連れてこなきゃ…」
今からなんて旦那さんの足じゃ絶対に間に合わない。
俺も一家の長男としてこれまで兄妹たちの出産を見届けてきた。
出産は命懸けで時間との勝負だ。悠長な真似などしていられない。
「わかりました!俺が隣村に行って産婆さんを呼んできます!」
こうなれば俺が行くしかない。いくら怪我を負っているとはいえ俺は鬼殺隊の隊士だ。
善逸ほどではないけど足は鍛えられているから普通の人よりは早いぞ。
けど冨岡さんはそれを許さなかった。
「駄目だ。産婆を連れてくることは許さない。」
「そんなどうしてですか!もう時間がないんですよ!」
「母親は人喰い鬼だ。それに今は出産でかなりの体力を消耗している。
つまり飢餓状態に陥っている。そんな状態で一般人を巻き込んでみろ。死人が出るぞ。」
あ…今更ながら俺は事の重大さを思い知らされた…
唯でさえ出産など命懸けだというのに鬼の出産となれば一般人を立ち入ることも出来ないんだ。
「あ゛…あ…あぁぁぁ…」
そんな中で女将さんの苦しむ声が聞こえてきた。
もう悩んでいる時間はない。こうなれば取るべき手段は唯一つだ。
24: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/26(木) 00:03:23.90 ID:E3bwfHu30
それから俺たちは急いで出産の準備に取り掛かった。
女将さんが人喰い鬼である以上、人は呼べない。
それを前提として自分たちで赤ん坊を取り上げることになった。
そして子供を取り上げる役は俺が担うことになった。
「大丈夫なのかい?お前さんまだ子供だろ。」
「俺は長男です。これまで何度も兄妹の出産には立ち会っていますから。
それよりも女将さんこそすいません。男の俺が取り上げることになってしまって…」
「いいんだよ。この際だから贅沢なんて言えないしね…」
本来なら本業の産婆さんに取り上げてもらうのがいいのだろうけど…
そんなこと言っていられない。旦那さんは女将さんの隣に寄り添い俺は取り上げる準備に入った。
ちなみに冨岡さんは誰も出入り出来ないように戸の前で用心を行い禰豆子は木箱の中に入ってもらった。
25: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/26(木) 00:04:28.88 ID:E3bwfHu30
「ん゛~ぐ~んん~!?」
それから時刻にして夜明け前の4時半くらいだろうか。
胎内から子供の頭がぽっこりと見えてきた。よし、今のところは順調だ。
それから徐々に子供の頭が出て来る。いいぞいいぞ、その調子だ。
「頑張れお前!お腹の子も頑張ってくれ!」
隣で旦那さんも大きな声で呼びかけていた。そうだ頑張れ。頑張るんだ!
けど順調なのも最初だけだった。その後は女将さんがいくら力んでも子供が胎内から出ようとはしなかった。
まずい。このまま夜明けを迎えたら厄介だ。鬼の母親が消滅すればお腹の子はどうなる?
まさか一緒に消滅なんてことに…
「んぐぅぅぅ~!」
それでも女将さんは子のため懸命に力み続けた。
その想いが叶ったのだろうか少しずつだけど赤ん坊の身体が出てきた。
「よしいいぞ!あと少しだ!」
あと少し。ほんの少しという時に差し掛かった時だ。
26: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/26(木) 00:07:43.44 ID:E3bwfHu30
「ハァ…ハァ…」
女将さんの体力が限界に差し掛かっていた。
いくら鬼でも出産にはかなりの体力を消耗するようだ。
そのせいでこれ以上力むのは困難だった。
「旦那さん!行きますよ!」
「ああっ!頼む!」
それから俺と旦那さんの二人掛りで子供を引っ張り出そうとするが…
やはり駄目だ。単なる力任せじゃないからその力加減がかなり厳しいところだ。
もう時間が迫っている。どうしたら…
「急げ。」
そんな時、戸の前にいた冨岡さんが俺たちと同じく赤子を引っ張ろうとしていた。
言葉こそ足りないが冨岡さんも必死に取り上げてくれている。
その想いが伝わったのだろうか赤ん坊の身体がみるみる胎内から出てきた。
よし、いいぞ!この場にいるみんながお前の誕生を望んでいる!
だからお願いだ。どうか無事に生まれてきてくれ!
「出たッ!生まれたぞ!」
そして遂に子供が生まれた。それも女の子だ。
けれど…産声が聞こえない。第一声が発せられないなんてどうして…
まさか死産ではないのか。
「あぁ…赤ちゃん…」
そんな不安な空気の中で出産を終えた女将さんが赤ん坊を抱こうとした。
いくら鬼と化したとはいえ生まれてきた子を慈しむのは母親として当然だ。
俺歯女将さんの腕の中に赤ん坊を渡そうとした。
27: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/26(木) 00:08:41.09 ID:E3bwfHu30
「そこまでだ。」
それは一瞬だった。冨岡さんは俺の腰元にあった刀を抜くと女将さんに向けて刃を向けた。
余りにも一瞬だったので俺は思わず女将さんに赤ん坊を渡さずになんとか庇った。
「冨岡さん何をしているんですか!」
「よく見ろ。母親の口から涎が垂れている。」
その指摘通り女将さんの口元から大量の涎が垂れていた。
そうか、生まれたばかりの子供は羊水と血で混じり合っているんだ。
さらに女将さんは出産を終えて体力を消耗しているからかなりの飢餓状態に陥っている。
残酷だけど鬼と化した女将さんにしてみればこの赤ん坊は目の前にあるご馳走も同然だ。
「今の母親に子供を渡せばたちまち食い殺されるぞ。そうなることをお前たちは望むのか。
そして炭治郎、俺が出来る譲歩はここまでだ。この先は鬼殺隊の隊士として行動しろ。」
その言葉を受けて俺はこの場を冨岡さんに任せると家の戸を開けて外へと出た。
外に出ると夜が開けてまもなく朝日が昇ろうとしていた。
俺はまだ産声も上げない赤ん坊にこの朝日の光を照らそうとした。
この子が鬼だったら朝日の光で身体が消滅する。けれど人であれば生きていられる。
これはそういう生き実験だった。
「どうか頼む…人であってくれ…」
これより昇る朝日に向かってそう願った。
もうこれ以上の悲劇を与えないでほしい。この子の人生の門出が祝福されるものであってくれ。
そう願った矢先だった。
28: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/26(木) 00:16:17.50 ID:E3bwfHu30
「 「おぎゃぁぁぁぁっ!」 」
朝日に照らされて赤ん坊が産声を上げた。子供は日に照らされても消滅しなかった。
よかった、鬼じゃなかったんだ。本当によかった。
これでこの子が人であると証明された。俺は急いで家の中に戻った。
そして母親の女将さんにこの子を抱いてもらおうとした。けれど…
「そんな…どうして…」
家の中に入るとなんと女将さんが戸の前に立っていた。
何をやっているんだ!鬼のあなたが太陽に晒されたら消滅してしまうんだぞ!?
「あぁ…何でこんなことを…」
「ごめんなさい。けどもう決めたことなの。」
それは先程の行いが原因だった。我が子を前にして食欲を抑えられない鬼の母親は最早子供にとって害でしかない。
だから消滅しなければならないのだと…
そして光を浴びたことで徐々に女将さんの身体が消滅していった。
「お願いです…せめてこの子を抱きしめてくれ…」
俺はなんとか子供を抱いてほしいと頼み込んだ。
けれど女将さんは無言で首を振った。まるで人殺しの自分には無垢な我が子を抱く資格などないといっているように思えた。
あぁ…もう駄目なんだ…
そして女将さんの身体が完全に消滅する寸前だった。
「生まれてきてくれてありがとう―――
最期にそんな言葉を遺して女将さんは消えた。
赤ん坊は自分の母親がこの世から消えたことなど何も知らない。
けれど俺は確かに見た。女将さんが消滅する寸前、微かに赤ん坊の頭を撫でたことを…
29: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/26(木) 00:18:25.47 ID:E3bwfHu30
それから数時間後、警察が到着すると旦那さんは逮捕された。
産婆のお婆さんを殺害した容疑での逮捕だ。旦那さん自らの通報による自首だった。
俺たちは旦那さんの擁護もすることもなく間近で逮捕される場を見ているしかなかった。
「いいんですか。これで…」
「仕方がない。犯人がいなければ事件の幕引きはありえない。
だからこそ旦那は自分が犯人だと名乗り出てこの事件を終わらせようとしているんだ。」
俺が問い詰めた時、旦那さんと女将さんは各々責任を取ると言っていた。
女将さんは子のために自らの命を投げ打った。そして旦那さんは女将さんの罪を被ることで産婆のお婆さんを殺した責任を取っているんだ。
だけどそれは子供が一人ぼっちになることを意味する。
だとしてもこれは両親なりの愛情なのかもしれない。
生まれてきた子を思えば人を殺めた罪を清算しなければならない。
この子が生まれるのにあたってお婆さんが犠牲になってしまった。
これからの人生の門出で我が子に罪を背負わせるわけにはいかない。
それがたとえ大切な我が子と離れることになってもやらなければいけないんだ。
30: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/26(木) 00:19:39.44 ID:E3bwfHu30
「あ~う~」
そんなことなど露知らず赤ん坊は俺の腕の中で無邪気に笑っていた。
ごめんな、俺たちがもっと早く駆けつけていればこんな結末にはならなかったのに…
「それで赤ん坊はどうするつもりだ。任務には連れていけんぞ。」
「そのことなんですが以前にお世話になった藤の花の家のお婆さんに預けるつもりです。
あの人なら信じられるしそれにこの村にこの子だけを置いていけませんからね。」
両親がいなくなったこの村にこの子を残すのはつらいことだ。
親が人を殺したとなれば村人はこの子に対して悪意を持つだろう。
ひょっとすれば危害を加えることだってあるかもしれない。
今の俺に出来ることはこの子を健やかに育つ場所を与えることだけ。
それが俺に出来る唯一の責任の取り方だ。
31: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/26(木) 00:20:23.48 ID:E3bwfHu30
「冨岡さん今回はありがとうございました。あなたがいなければどうなっていたか…」
旦那さんが連行された後で俺は冨岡さんにお礼の言葉を述べた。
今回の事件は冨岡さんの協力がなければどうなっていたのかわからない。
下手をしたらもっと悲惨な事態にさえ陥っていたのかもしれなかったんだ。
「礼はいい。俺は何もしてはいない。」
「そんなことはありません。赤ん坊の出産を手伝ってくれたじゃないですか。
むしろ役に立たなかったのは俺の方です。あれだけ啖呵を切っておきながら自分だけでは何も出来なかった。」
那田蜘蛛山、それに無限列車の時と同じだ。俺は結局一人では何も出来なかった。
いつもそうだ。誰かに助けられてばかりいる。こんな自分が情けないとすら思う。
今回だって俺にもっと力があれば…
「…卑下するな。お前は無力ではない。
確かに鬼殺隊の隊士としては失格かもしれない。それでもお前は人を救った。
今回の事件は下手をすれば一家は全滅に陥っていたはずだ。」
「けれど…この子以外は…」
「それでもお前は人を救えた。誇れ。胸を張ってみせろ。」
胸を張れと…煉獄さんが遺してくれた言葉だ。それを同じく冨岡さんも言ってくれた。
そうかもしれない。俺が卑下していたらそれこそ最後まで付き添ってくれた冨岡さんに失礼だ。
「冨岡さん!本当にありがとうございます!」
「…子はちゃんと届けろよ。」
そう告げると冨岡さんはさっさとこの場を立ち去った。
俺が破損させてしまった刀の修復のために刀鍛冶の里へと立ち寄るらしい。
今回は本当に悪いことをしてしまった。この埋め合わせはいずれなんとかしよう。
32: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/26(木) 00:20:54.05 ID:E3bwfHu30
「さあ、この村ともお別れだぞ。」
冨岡さんが去った後で俺も赤ん坊とそれに禰豆子が入った木箱を背負ってこの村を立ち去ろうとした。
鬼がいなくなった以上は俺もこの村に用はない。
それに俺が抱いている赤ん坊にとってもこの村は悲しい思い出しかない。
今はまだ真実を伝えるべきではない。いずれ大人になった時に改めて話してあげよと思う。
『―――行ってらっしゃい。』
ふと誰かがそんなことを囁いた。声の方を振り返ってみるとそこはこの子の生家であり今はもう無人のメシ屋だった。
「そうか、お母さんはちゃんと見守ってくれているんだな。」
俺は何も知らない無垢な赤ん坊にそう語りかけた。そして俺はある未来を思い浮かべた。
『お父さん!お母さん!定食出来たよ!』
『おやまあ、アンタもようやく一人前に料理出来るようになって。』
『そうだな。これで頼りになる婿を貰えたら万々歳だ。』
小さなメシ屋を親子三人で切り盛りする優しい家族たち。
明るく健やかに成長した一人娘とそれを喜ぶ両親。
『本当だねぇ。取り上げた時は本当に小さかったのによく大きく育ったもんだよ。』
そんな家族を取り上げた産婆のお婆さんが笑顔で語りかけてくれていた。
これはひょっとしたらありえたかもしれない未来…
親子仲良く居てほしかった。けれどもうこの未来は敵わない。
だからこそ唯一人遺されたこの子にはしあわせな未来を歩んでほしい。
それこそが今回の事件で関わった人たちすべての願いだ。
33: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/26(木) 00:21:23.58 ID:E3bwfHu30
そしてもうひとつ改めて思い知らされたことがある。
「鬼舞辻無惨、俺はお前を絶対に許せない。」
この家族の幸せを踏みにじった男、鬼舞辻無惨。
事件の背後で人の命を弄んだ悪鬼。お前だけは許してはおけない。
いつの日か必ずお前をこの手で葬ってやる。
~終~
34: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/26(木) 00:25:29.95 ID:E3bwfHu30
終わりです。それでは
引用元: ・鬼滅の刃ss 我が子のために・・・
【鬼滅の刃】鮭大根【ぎゆしの】
2020-12-19
1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/20(金) 21:31:58.50 ID:N9Z2+gYcO
「義勇さんの好きな食べ物ってなんですか?」
ある日の任務の帰り道、炭治郎と義勇はたまたま出会い帰路を共にしている。というのも、二人とも目指す場所は蝶屋敷なのである。炭治郎は同期である善逸と伊之助がまだ治療を受けているのでお見舞いに。義勇の方は傷薬の軟膏が無くなったので補充をするために蝶屋敷に向かっていた。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1584707518
ある日の任務の帰り道、炭治郎と義勇はたまたま出会い帰路を共にしている。というのも、二人とも目指す場所は蝶屋敷なのである。炭治郎は同期である善逸と伊之助がまだ治療を受けているのでお見舞いに。義勇の方は傷薬の軟膏が無くなったので補充をするために蝶屋敷に向かっていた。
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2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/20(金) 21:33:05.51 ID:N9Z2+gYcO
そんな中唐突に炭治郎が話題に出したのが好きな食べ物の話。話題としてはよくある部類だろう。義勇の方は口下手なので、こうして自分から話しかけてくれる炭治郎のような存在はありがたかった。
3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/20(金) 21:33:38.86 ID:N9Z2+gYcO
「…鮭大根」
「へぇ、そうなんですね!今日は蝶屋敷でご飯をご馳走になるんですか?」
「?」
話が繋がらない。なぜ鮭大根が好きだと言ったら蝶屋敷で夕飯を食べることになるのだろう。義勇がそう思案していると、それを察したのか炭治郎が更に続ける。
「へぇ、そうなんですね!今日は蝶屋敷でご飯をご馳走になるんですか?」
「?」
話が繋がらない。なぜ鮭大根が好きだと言ったら蝶屋敷で夕飯を食べることになるのだろう。義勇がそう思案していると、それを察したのか炭治郎が更に続ける。
4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/20(金) 21:34:11.15 ID:N9Z2+gYcO
「いや、今日の夕飯は鮭大根だそうなので…」
「何!?」
柄にもなく大きな声を出す。これには弟弟子で義勇と比較的長い時間関わってきたと思っていた炭治郎でも見たことのない姿だった。
「何!?」
柄にもなく大きな声を出す。これには弟弟子で義勇と比較的長い時間関わってきたと思っていた炭治郎でも見たことのない姿だった。
5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/20(金) 21:34:38.62 ID:N9Z2+gYcO
「…すまない」
「いえ、ちょっと驚いただけです」
よっぽどお好きなんですね。と続けられると義勇はバツの悪そうな表情を浮かべる。これで弟弟子の前では気取っていたかったのだろう。無口で口下手と言われる義勇だが、気を許した相手には意外と表情は雄弁なのだ。
「いえ、ちょっと驚いただけです」
よっぽどお好きなんですね。と続けられると義勇はバツの悪そうな表情を浮かべる。これで弟弟子の前では気取っていたかったのだろう。無口で口下手と言われる義勇だが、気を許した相手には意外と表情は雄弁なのだ。
6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/20(金) 21:35:14.00 ID:N9Z2+gYcO
「けど珍しいですよね、鮭大根って。何かきっかけがあったんですか」
「…姉の得意料理だった」
聞いてから炭治郎は『しまった』と思った。義勇の姉は祝言をあげる前日に義勇のことを庇って亡くなっている。辛い記憶を思い出させてしまったかもしれない。
「…姉の得意料理だった」
聞いてから炭治郎は『しまった』と思った。義勇の姉は祝言をあげる前日に義勇のことを庇って亡くなっている。辛い記憶を思い出させてしまったかもしれない。
7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/20(金) 21:36:06.84 ID:N9Z2+gYcO
「…気にするな」
炭治郎の表情を読み取ったのか、義勇が声をかける。
「鮭大根は姉さんの得意料理だった…俺は姉が好きだったから…好きな人が作ってくれる料理ほど旨いものはない」
「たしかに…」
決して上手い言い回しではなかったが、義勇の想いは伝わってくる。好きな人が作ってくれる料理に勝るものはない。炭治郎は幼い頃に作ってもらった母の手料理を思い出し、納得していた。
炭治郎の表情を読み取ったのか、義勇が声をかける。
「鮭大根は姉さんの得意料理だった…俺は姉が好きだったから…好きな人が作ってくれる料理ほど旨いものはない」
「たしかに…」
決して上手い言い回しではなかったが、義勇の想いは伝わってくる。好きな人が作ってくれる料理に勝るものはない。炭治郎は幼い頃に作ってもらった母の手料理を思い出し、納得していた。
8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/20(金) 21:36:48.10 ID:N9Z2+gYcO
「水柱様、炭治郎さん、おかえりなさい」
そんな話をしていると蝶屋敷にたどり着いた。この屋敷に常駐し、家事や治療を取り仕切っている神崎アオイが挨拶を述べる。
そんな話をしていると蝶屋敷にたどり着いた。この屋敷に常駐し、家事や治療を取り仕切っている神崎アオイが挨拶を述べる。
9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/20(金) 21:37:20.24 ID:N9Z2+gYcO
「ただいま戻りました!」
「…あぁ」
こういう時に同じ流派でも、差が出てくる。人当たりの良い炭治郎と人付き合いの苦手な義勇では致し方ないことだ。
「今日の夕飯は義勇さんもご一緒しても構わないでしょうか?義勇さんは鮭大根が大好物だそうで…」
義勇に代わって炭治郎が聞く。
「…あぁ」
こういう時に同じ流派でも、差が出てくる。人当たりの良い炭治郎と人付き合いの苦手な義勇では致し方ないことだ。
「今日の夕飯は義勇さんもご一緒しても構わないでしょうか?義勇さんは鮭大根が大好物だそうで…」
義勇に代わって炭治郎が聞く。
10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/20(金) 21:37:55.36 ID:N9Z2+gYcO
「え?はい…構いませんよ。そのつもりだと思いますし…」
少し不思議そうな顔をしてアオイが応える。
「…ありがとう」
言葉少なに礼を言うと、『胡蝶に会いに行く』と炭治郎に言い残し、義勇はスタスタと歩いていってしまった。
少し不思議そうな顔をしてアオイが応える。
「…ありがとう」
言葉少なに礼を言うと、『胡蝶に会いに行く』と炭治郎に言い残し、義勇はスタスタと歩いていってしまった。
11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/20(金) 21:38:35.84 ID:N9Z2+gYcO
「せっかくの好物なんですから、もっと喜べばいいのに…」
「いや、大喜びしてましたよ」
「え?あれでですか!?」
匂いのわかる炭治郎以外にはわからないくらいの差しかない表情は、けれども確かに笑みを浮かべていた。よっぽど楽しみなのだろう。
「いや、大喜びしてましたよ」
「え?あれでですか!?」
匂いのわかる炭治郎以外にはわからないくらいの差しかない表情は、けれども確かに笑みを浮かべていた。よっぽど楽しみなのだろう。
12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/20(金) 21:39:01.95 ID:N9Z2+gYcO
「けど、凄いですね!鴉を飛ばしたのはついさっきだったのに、その間に義勇さんの分の夕食まで用意するなんて」
義勇は元々は蝶屋敷に寄るつもりは無かった。傷薬の軟膏も柱である義勇が使うことは少ない。大概はその場に居合わせた平隊員の治療に使ってしまう。自分で使っているわけではないからか、無くなって初めて気がつくのだ。今回もたまたま居合わせた炭治郎の傷に塗ろうと取り出すと残りが僅かなことに気がついたのだ。そこから鴉を飛ばして時間にして一時間程。その速さでもう一人分の夕食を追加するとは、炭治郎はアオイの手際の良さに驚愕していた。
義勇は元々は蝶屋敷に寄るつもりは無かった。傷薬の軟膏も柱である義勇が使うことは少ない。大概はその場に居合わせた平隊員の治療に使ってしまう。自分で使っているわけではないからか、無くなって初めて気がつくのだ。今回もたまたま居合わせた炭治郎の傷に塗ろうと取り出すと残りが僅かなことに気がついたのだ。そこから鴉を飛ばして時間にして一時間程。その速さでもう一人分の夕食を追加するとは、炭治郎はアオイの手際の良さに驚愕していた。
13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/20(金) 21:39:32.92 ID:N9Z2+gYcO
「いえ、水柱様の分は元々作られていましたよ」
「ん?」
ここで炭治郎はある違和感に気づく。
『え?はい…構いませんよ。そのつもりだと思いますし…』
『いえ、水柱様の分は元々作られていましたよ』
そう、どこか他人事なのだ。
蝶屋敷の主人は他の誰でもない蟲柱、胡蝶しのぶである。傷を負った隊士の治療や機能回復訓練の責任者も主人であるしのぶである。しかし、患者の衣類の洗濯、生薬の買い付け、そして蝶屋敷での食べ物の調理は柱として任務に赴くしのぶのかわりにアオイが請け負っている。それなのに、どうしてこんなに他人事なのだろう。
「ん?」
ここで炭治郎はある違和感に気づく。
『え?はい…構いませんよ。そのつもりだと思いますし…』
『いえ、水柱様の分は元々作られていましたよ』
そう、どこか他人事なのだ。
蝶屋敷の主人は他の誰でもない蟲柱、胡蝶しのぶである。傷を負った隊士の治療や機能回復訓練の責任者も主人であるしのぶである。しかし、患者の衣類の洗濯、生薬の買い付け、そして蝶屋敷での食べ物の調理は柱として任務に赴くしのぶのかわりにアオイが請け負っている。それなのに、どうしてこんなに他人事なのだろう。
14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/20(金) 21:40:03.32 ID:N9Z2+gYcO
「おかえり、炭治郎」
そんな違和感に首を捻っていると、カナヲに声をかけられた。
「ん?あぁ、ただいまカナヲ!」
「炭治郎…あれ?水柱様と一緒じゃないの?」
「あぁ…義勇さんなら、先に…ってどうして義勇さんがいるって思ったんだ?」
「だって、今日は夕飯が鮭大根だから」
「ん?」
ますますわけがわからない。どうして今夜の夕飯が鮭大根なら義勇がいることになるのだろうか。いくら好物だとはいえ、好物の前に常に移動する人間などいないだろう。
そんな違和感に首を捻っていると、カナヲに声をかけられた。
「ん?あぁ、ただいまカナヲ!」
「炭治郎…あれ?水柱様と一緒じゃないの?」
「あぁ…義勇さんなら、先に…ってどうして義勇さんがいるって思ったんだ?」
「だって、今日は夕飯が鮭大根だから」
「ん?」
ますますわけがわからない。どうして今夜の夕飯が鮭大根なら義勇がいることになるのだろうか。いくら好物だとはいえ、好物の前に常に移動する人間などいないだろう。
15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/20(金) 21:40:30.70 ID:N9Z2+gYcO
「何故かわからないんですが、夕飯が鮭大根の日には水柱様がいらっしゃるんですよ」
そんなことがあるのだろうか。にわかには信じがたい。
「アオイさんが鮭大根を作るのを義勇さんが察知してるんですかね?」
「ん?鮭大根を作っているのは私ではありませんよ?」
「え?」
予想外の答えだったが、これで納得はできる。どこか他人事だったのではない。作っていないのだから本当に他人事だったのだ。しかし、それでは一体誰が作っているのだろう。
そんなことがあるのだろうか。にわかには信じがたい。
「アオイさんが鮭大根を作るのを義勇さんが察知してるんですかね?」
「ん?鮭大根を作っているのは私ではありませんよ?」
「え?」
予想外の答えだったが、これで納得はできる。どこか他人事だったのではない。作っていないのだから本当に他人事だったのだ。しかし、それでは一体誰が作っているのだろう。
16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/20(金) 21:41:27.17 ID:N9Z2+gYcO
「鮭大根だけは、毎回師範が作る…」
「しのぶさんが?どうして?」
「しのぶ様曰く、『これしか作れないんですよ』って…」
なるほど、起きている時間の全てを鍛錬と鬼狩りに費やすのが鬼殺隊。しのぶはそれに加えて治療や毒の調合も行なっている。料理など勉強する暇などない。作れる料理が一つだけでも別段不思議はない。けれど…
「しのぶさんが?どうして?」
「しのぶ様曰く、『これしか作れないんですよ』って…」
なるほど、起きている時間の全てを鍛錬と鬼狩りに費やすのが鬼殺隊。しのぶはそれに加えて治療や毒の調合も行なっている。料理など勉強する暇などない。作れる料理が一つだけでも別段不思議はない。けれど…
17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/20(金) 21:41:58.61 ID:N9Z2+gYcO
「どうして鮭大根なんだろう?」
作れるのが鮭大根というのが引っかかる。決して作りやすい料理ではない。その上有名なわけでもない。そんな料理だけが、どうして作れるのだろうか。
作れるのが鮭大根というのが引っかかる。決して作りやすい料理ではない。その上有名なわけでもない。そんな料理だけが、どうして作れるのだろうか。
18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/20(金) 21:42:29.23 ID:N9Z2+gYcO
「さぁ…そこまでは…」
「それに…」
「お!権八郎じゃねーか!勝負しろ!」
「おい!止めろよ!伊之助!」
そんな話をしているうちに、伊之助と善逸がやってきて話しかけてきた。この分だと二人ともだいぶよくなっているようだ。
「それに…」
「お!権八郎じゃねーか!勝負しろ!」
「おい!止めろよ!伊之助!」
そんな話をしているうちに、伊之助と善逸がやってきて話しかけてきた。この分だと二人ともだいぶよくなっているようだ。
19: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/20(金) 21:42:56.95 ID:N9Z2+gYcO
「それよりほら、もう風呂入らないと夕飯に間に合わないぞ?」
「あ!?もう、そんな時間だったのか!」
善逸の一言でふと我に帰る。随分長い間話をしていたようだ。三人は夕飯を食べる前に風呂に向かうことにした。
「あ!?もう、そんな時間だったのか!」
善逸の一言でふと我に帰る。随分長い間話をしていたようだ。三人は夕飯を食べる前に風呂に向かうことにした。
20: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/20(金) 21:43:27.47 ID:N9Z2+gYcO
「がははは!俺が一番だ!」
「こら、伊之助!廊下は歩かないとダメだろう?」
風呂から上がるなり、伊之助は走り出して一目散に食堂に向かっていった。炭治郎は最初、まだ脚の怪我が治っていない善逸を助けて一緒に行こうとしたが。善逸の方から
「俺はいいからアイツを止めてやってくれ。またしのぶさんに怒られちゃうよ…」
と言われたので伊之助を追いかけて来たのだ。
「こら、伊之助!廊下は歩かないとダメだろう?」
風呂から上がるなり、伊之助は走り出して一目散に食堂に向かっていった。炭治郎は最初、まだ脚の怪我が治っていない善逸を助けて一緒に行こうとしたが。善逸の方から
「俺はいいからアイツを止めてやってくれ。またしのぶさんに怒られちゃうよ…」
と言われたので伊之助を追いかけて来たのだ。
21: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/20(金) 21:44:09.42 ID:N9Z2+gYcO
「…」
「あら、伊之助くん、炭治郎くん、いらっしゃい」
食堂には義勇としのぶが居た。しのぶの方は食べ終わっていたが、義勇の方はまだ鮭大根を残していた。
「あら、伊之助くん、炭治郎くん、いらっしゃい」
食堂には義勇としのぶが居た。しのぶの方は食べ終わっていたが、義勇の方はまだ鮭大根を残していた。
22: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/20(金) 21:44:43.19 ID:N9Z2+gYcO
「それでは私はこのあたりで失礼しますね…」
そうして、しのぶが席を外すと同時に二人分の食事が運ばれてくる。
「おい、半々羽織!それいらねえのかよ?」
それとは鮭大根のことである。伊之助は丁寧に鮭大根だけを残している義勇を見て食べたくないと判断したのだ。
そうして、しのぶが席を外すと同時に二人分の食事が運ばれてくる。
「おい、半々羽織!それいらねえのかよ?」
それとは鮭大根のことである。伊之助は丁寧に鮭大根だけを残している義勇を見て食べたくないと判断したのだ。
23: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/20(金) 21:45:10.22 ID:N9Z2+gYcO
「…いや」
「義勇さんは、鮭大根が好物なんだよ」
「は?そんな珍しいものが好物なのかよ?なんでだ?」
驚くのも無理はない。
「…好きな人が作ってくれるからだ」
ドキンと心臓が跳ねた音がする。同じ台詞のはずなのに、この鮭大根を誰が作っているかどうかを聞く前と後では意味合いがまるで違うように聞こえる。
「義勇さんは、鮭大根が好物なんだよ」
「は?そんな珍しいものが好物なのかよ?なんでだ?」
驚くのも無理はない。
「…好きな人が作ってくれるからだ」
ドキンと心臓が跳ねた音がする。同じ台詞のはずなのに、この鮭大根を誰が作っているかどうかを聞く前と後では意味合いがまるで違うように聞こえる。
24: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/20(金) 21:45:39.43 ID:N9Z2+gYcO
「…ここの鮭大根が一番旨い」
嗅いだこともないような優しい匂いがした。そしてそれ以上にこれまでの違和感が全て繋がった。
どうしてしのぶは鮭大根という珍しい料理だけを作るのか。
どうして義勇がやってくる日は毎回鮭大根なのか。
やってくる日がわかるのはきっと、薬を出している人と料理を作る人が同じだからだろう。いつも大体どれくらいで使い切るのかわかるのだ。
嗅いだこともないような優しい匂いがした。そしてそれ以上にこれまでの違和感が全て繋がった。
どうしてしのぶは鮭大根という珍しい料理だけを作るのか。
どうして義勇がやってくる日は毎回鮭大根なのか。
やってくる日がわかるのはきっと、薬を出している人と料理を作る人が同じだからだろう。いつも大体どれくらいで使い切るのかわかるのだ。
25: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/20(金) 21:46:11.26 ID:N9Z2+gYcO
(義勇さんは知っているのだろうか、この鮭大根はしのぶさんが作っているのだと…)
知っていても知らなくても、多分二人が想いを告げる日はこないのだろう。二人とも大切な人を失った。鬼を殲滅することが何よりも優先すべきことなのだ。きっとこれからもしのぶは鮭大根を出し続け、義勇はそれを食べながらしのぶの話を聞く。それだけで満足なのだろう。
知っていても知らなくても、多分二人が想いを告げる日はこないのだろう。二人とも大切な人を失った。鬼を殲滅することが何よりも優先すべきことなのだ。きっとこれからもしのぶは鮭大根を出し続け、義勇はそれを食べながらしのぶの話を聞く。それだけで満足なのだろう。
26: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/20(金) 21:46:39.17 ID:N9Z2+gYcO
「お待た…って、炭治郎!?なんて音してるんだよ!?」
願わくば、そのいじらしい恋とも言えぬような淡いその気持ちだけは踏みにじらずにいてほしい。炭治郎はそう願わずにはいられなかった。
それほど二人の間からは、嗅いだことのないような幸せな匂いが漂っていた。
願わくば、そのいじらしい恋とも言えぬような淡いその気持ちだけは踏みにじらずにいてほしい。炭治郎はそう願わずにはいられなかった。
それほど二人の間からは、嗅いだことのないような幸せな匂いが漂っていた。
27: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/03/23(月) 01:10:05.87 ID:oWk+p+vC0
ぎゆしの人気で嬉しい
引用元: ・【鬼滅の刃】鮭大根【ぎゆしの】
【鬼滅ss】鬼退治の幕間
2019-09-27
1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/17(月) 23:05:39.47 ID:BC2DGCvz0
これは、日本一慈(やさ)しい鬼退治。
その合間で日常のひと時を過ごす、炭治郎たちの小さな話。
【キャラ名】
>>3
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1560780339
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2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/17(月) 23:13:48.22 ID:qPvQ/O710
甘露寺
3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/17(月) 23:22:17.58 ID:fe1iOedzo
カナヲ
4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/17(月) 23:35:05.22 ID:BC2DGCvz0
心の糸が切れた日を、ぼんやりと覚えている。
惨たらしような空色の青が自分の頭上に浮かんでいた。
ぼんやりと流れゆく雲を眺めながら、ふっと頬を撫でる緩い風がそよいでくる。
ひもじい、かなしい、さびしい、くるしい。
つらい、つらい、つらい、つらい。
そういう気持ちを私を横切る風に全て乗せてみた。
すると、不思議とつらくなくなった。
なにもかも、つらくなくなった。
全てを落としてしまった。
そんな気がした。
5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/17(月) 23:46:24.81 ID:BC2DGCvz0
お腹の足しにもならないような端銭で売り払われても、かなしくなかった。
それから見知らぬ土地へ流されるために、
きつく縛られた胸の縄をぐいぐいと引かれて
波止場へと歩みを薦める。
その途中で水面に自分の顔が映り込んだ。
髪はボサボサ、頬は落ちくぼみ、黒ずんだ垢が体全体に浸透している。
鳥が飛び去った影響で波紋が広がり、醜く歪んだように虚の鏡面が出来上がる。
波紋が治まると水の奥にいる私と目が合った。
少し大きい瞳の底は、先ほどよりも虚を感じる。
不安、痛覚、そういった情動が機能していないから
ただ呼吸をするだけの肉の塊がそこにいた。
死ぬ事すらも、生きる事すらも、全てすべてが虚の中。
ただ漫然と、漠然と歩みを進めていると。
ふと、声が聞こえる。
「あの、ちょっとよろしいでしょうか?」
6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/18(火) 00:02:24.76 ID:yR7JbxaC0
むくり、と目を覚ます。
何やら懐かしい夢を見ていたような気がした。
鮮明に思い出せる内容ではない事から、きっと昔の夢でも見たのだろう。
私にとって振り返る事ができる記憶というのは、二人の姉が出来た時から。
二人が作ってくれた、“栗花落カナヲ”という私が出来てから。
きっと、姉さんたちと出会った頃の夢だったのか。
覚えていない事柄に想いを馳せる事をやめて、少し背伸びをしながら改めて意識を覚醒させてゆく。
今日は任務や業務も特にはない。
先日まで屋敷で療養していた炭治郎たちも、機能回復訓練を終えて次の任務に向かったようだ。
本来はもう少し治療に時間がかかる、という見立てだったが
あの三人は予想以上の回復の早さを見せてくれた、というのはしのぶ姉さんの言葉。
となると、今日は一日何もすることが無くなってしまった。
鍛錬をこなすか。それとも次の任務の諜報にあたるか。二者択一。
隊服に着替え、いつものようにコインを投げようとして、ふと一人の男の子の顔を思い出す。
竈門炭治郎。
彼が屋敷を出る前に、私に伝えた言葉。
振り返ったときのあの笑顔。
私は無意識に、コインを胸に抱いて握りしめる。何かを確かめるように。
7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/18(火) 00:13:28.00 ID:yR7JbxaC0
ふと、窓の外でバサバサと羽音が聞こえてくる。
伝達用の鎹烏だ。
不覚にも驚いてしまい、あわあわと手元を躍らせてコインを落とさないよう善処した。
烏が銜えていたのは白い紙。
どうやら誰かから宛ての文のようだ。
表面には何も書かれていなかったので、ひょいと返して裏面を覗いてみた。
「竈門炭治郎より」
そう書かれていた文だった。
何故だか呼吸が乱れて、脈拍が速くなる。
一体どうして私に手紙を届けたのか。
深まる疑問と、早まる心臓の鼓動。
二つに折られた文を開き、文面を見てみると。
「訓練に付き合ってくれてありがとう。
俺も頑張る。カナヲも一緒に頑張ろう」
それだけしか書かれていない、随分と小ざっぱりした内容だった。
しかも慌ててしたためたような殴り書きのような急ぎ字で。
任務の途中だったのか、それとも急用で時間が無い中に書いてくれたのか。
ふふ、と。口元が自然に綻んでしまう。
私は驚いて、思わず右手を口にあてた。
私は、いま、笑ったのか。
8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/18(火) 00:17:22.04 ID:yR7JbxaC0
彼は不思議な男の子。
ひたむきで、まっすぐで、あたたかい。
おひさまのひと。
今日の予定は鍛錬でもなく、諜報でもなく。
手紙の返事に時間を割いてみよう。
手元のコインは宙に浮かず、握っていた左手に秘められたまま。
栗花落カナヲの平凡な一日はゆっくりと幕を開けた。
9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/18(火) 00:24:12.62 ID:yR7JbxaC0
~その日の夕刻~
善逸「炭治郎、鎹烏が何か銜えて持ってきてるぞ」
炭治郎「ありがとう。鱗滝さんからの返事かな……ん?」
伊之助「なんだよ紋一郎、急にほっこりした顔になって」
炭治郎「いや、きっとこれ一日中かかって考えてくれたんだな、って」
善逸・伊之助「「??」」
「栗花落カナヲより
どういたしまして」
【大正コソコソ噂話】
その日の晩、自分の文筆の才の無さがあまりにもアレすぎて
秘かに落ち込んでいるカナヲの姿があったとか。
10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/18(火) 00:24:47.00 ID:yR7JbxaC0
【キャラ名】
>>12
11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/18(火) 00:31:25.06 ID:t2iu8wipO
あかざ
12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/18(火) 00:31:38.27 ID:bp/jmQaB0
禰豆子
13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/18(火) 00:31:42.92 ID:dyAuxeOwO
ドウマ
14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/18(火) 00:31:56.03 ID:6kRlZk6SO
ひょっとこの刀鍛冶
はがねづかさん
はがねづかさん
15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/18(火) 00:41:40.50 ID:yR7JbxaC0
竈門禰豆子は人を喰らわぬ優しい鬼。
その認知が少しずつ広まっているのか、
異質な存在ながらに隊の中でも比較的に風当たりは落ち着いている。
鬼は本来人の肉を食う、血液を取る、このいずれかで身体回復になるのだが
禰豆子はそれら両方を行なわずに、睡眠をとることで回復手段を賄っている。
怪我の具合がひどいほど眠りは深くなる傾向にあるらしく、
兄である炭治郎の任務に付き添い、
そこで怪我を負った結果としてよく眠っている事もしばしば。
だからこそ、起きているときに出歩く事は割と稀有になる。
そんなある日、任務にて炭治郎と善逸が共に地方の鬼狩りに出向いた際の事。
16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/18(火) 00:54:24.53 ID:yR7JbxaC0
鬼殺隊の一員として、昨今は飛躍的に力を増している炭治郎と善逸。
様々な鬼との戦いを経て実践の経験値も増し、もはや下弦以下の鬼は即滅可能なまでに強くなっている。
目を覚ましている時の善逸の逃げ腰は相変わらずだが、一旦眠りに入ると
彼の雷光の如き剣閃は鋭さに磨きがかかっており、着実に強くなっているのが分かる。
よって、昨今は禰豆子が任務先で怪我をする事がとんと少なくなった。
兄の炭治郎としては、心労の一つである、妹が前線で戦う頻度が下がって安堵していることだろう。
今回の任務でも、夕刻に現地に着いて、そのまま鬼を屠り、
夜を明かしてから朝には帰路に着くという強行旅のような日程に相成った。
鬼を倒して宿に泊まるとき、
「往復だけで鬼数十匹分くらいの長さなのに、こんだけ頑張った俺らは遊んじゃいけないのかよ!!
もっと美味しいものとかさ、のんびり湯治とかとさ!
ちょっとくらい……ちょっとくらいさ、いいんじゃないでしょうかねぇ!!!?」
と善逸はひとしきり文句を垂らしたのち、渋々と眠りに就いた。
炭治郎も流石に長旅の疲労が出たのか、善逸の愚痴を受けた後にはすぐ床について寝息を立て始める。
夜も更け、遠くで犬の遠吠え響く月夜の明るい丑の刻。
がたごと、がたごと。桐の箱が音を立て始めた。
17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/18(火) 01:02:32.69 ID:yR7JbxaC0
かたり、と控えめに蓋が開くような静けさで、禰豆子が桐の箱から出てくる。
八畳間の比較的広い部屋の中央で、男子が二人眠っていた。
部屋の奥には換気のために薄くあけた窓が見える。
暗い部屋をすっと割くように、薄い月明りが緩く窓辺を照らしている。
むーっ、と一声。のちに、そろりそろりと眠る二人を起こさぬよう
窓辺へ近づいて、空に昇る憂いの月を見上げてみる。
禰豆子の瞳に写る月光は、何色なのだろうか。
白いのか、黄色いのか、紅いのか。
それを語る言葉を、今の彼女は持ち合わせていない。
月の光に揺れる桃色に似た瞳は、ずっと空を見上げている。
18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/18(火) 01:12:37.38 ID:yR7JbxaC0
「禰豆子ちゃん、起きてるの?」
寝惚けたような、小さい声が後ろから聞こえてくる。
そこには、くしくしと眼(まなこ)を擦る善逸の姿。
寝ぐせなのか、右の髪がぴょこんと跳ねている。
そこに気付く素振りはなく、彼は炭治郎を起こさないように
ゆっくりと禰豆子のいる窓辺へ歩みを進めた。
そして、彼女の横に腰をおろし、同じ空を見上げてみる。
「あ、今日はまた綺麗なお月様だね」
善逸は禰豆子の方を見ず、月に語り掛けるようにぽつりと一人ごちた。
禰豆子の返事はない。善逸は構わず言葉を紡ぐ。
「今日もさ、炭治郎すごかったんだ。あいつメキメキ強くなっていってるよね。
俺が気付いたら四匹も鬼を切っていてさ。
あいつのおかげで、今日の月をこうして見れる人が沢山いるんだよな。凄いよな」
他人事のように言う善逸。
四匹のうち三匹は彼が切っているのを、当然彼は存ずる事無く。
炭治郎がそう伝えても、俺がそんな強いわけないだろうの一点張り。
禰豆子もそれを見ていたが、そんな気など知らずに善逸は言葉を続ける。
「俺、弱いけれどさ。それでも、じいちゃんが選んでくれた子だから。
じいちゃんや、皆のために、こう、強くなれたらって……」
19: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/18(火) 01:20:07.93 ID:yR7JbxaC0
そこまで発したあと、急に気恥ずかしくなったのか
善逸は手を横にブンブンと禰豆子に振り出す。
「あ、いやね……そう!そうなれたらいいなってだけだから!!
いけないねコレ、夜の魔力だね!
こういう時間に手紙書いた時の勢いに近いアレだから!!!」
首まで降り始めた善逸に、禰豆子はそっと右手を近づける。
そして、彼の黄色い頭に乗せ、ゆっくりと撫で始めた。
顔の表情が変わらず、喋る事もないので、どういう意図なのかは分からない。
ただ、善逸は撫でられているというのが非常に照れ臭くなった。
「え、なに!?禰豆子ちゃん!?
急にどうしたの、どうしたの!なにもうこれ結婚しよう!
炭治郎を義兄さんと呼ぶ覚悟はとうにできてるよ!!!」
奥で寝ている炭治郎が、うーん、と唸ったので善逸は言葉を止める。
禰豆子はそれでも、撫でる手を止めない。
「あ、いや、その、俺こういうの慣れてないから……」
「むー」
「……」
「む」
「……ありがとう」
「ん」
20: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/18(火) 01:24:35.27 ID:yR7JbxaC0
そうして禰豆子はひとしきり撫でたあと、すくっと立ち上がり、
そのままとてとてと桐の箱の中に戻って寝息を立て始めた。
後に残された善逸は、ただ茫然としながら布団の中に潜り、
さっきのは一体なんだったのかと世通り悶々と考える事になった……。
【大正コソコソ噂話】
善逸は起き抜けに炭治郎へ「おはよう、義兄さん」と声をかけると
これでもかというほどに不快な顔をされて、地味に心にきたとか何とか。
21: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/18(火) 01:26:21.79 ID:yR7JbxaC0
【キャラ名】
>>24
22: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/18(火) 01:27:34.77 ID:dyAuxeOwO
あかざ
24: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/18(火) 01:34:16.10 ID:doQZq5kn0
鱗滝
26: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/18(火) 01:50:08.54 ID:yR7JbxaC0
夕餉の支度をしていると、鎹烏が文を銜えて飛んできた。
儂に届く手紙は、昨今だと専ら炭治郎からだ。
案の定、年にあった粗忽な字で
日々の修行や営み、任務先での出来事などを丁寧に綴ってくれる。
昨今は炎柱が命を賭して乗客を守った事に感銘を受けたのか
「強くなりたい」が結びの言葉になる事が多くなった。
27: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/18(火) 01:54:11.90 ID:yR7JbxaC0
焦る事は無い、と伝えて伸び伸びと成長を本来は促したい所だが
今の彼奴は鬼殺隊の立派な一員。
何がどう足りないのか、心に問いかけるよう発破をかける文体で返事をする。
厳しさこそがこれからの命を護る最善と信じて。
しかして。まだ幼い身に、重すぎるものを背負わせた。
背中に担ぐ桐の箱に、妹をはじめとして、無辜の民、隊の仲間など。
多くの命を入れているのだろう。
優しい子どもに、酷な事をさせている。
いや、炭治郎だけではない。
未来の継子を育てる名目で送り出した、選抜で還ってこなかった子どもたち。
水飴が好きな年頃であろうあの子たちにも、艱難辛苦ばかりを舐めさせてしまった。
儂はきっと地獄に落ちるだろう。
それはそれで構わない、当然の報いというものか。
28: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/18(火) 02:00:58.14 ID:yR7JbxaC0
ふと、懐かしい声が聞こえた気がした。
男児の声か、女児の声かは定かではない。
もしくは、その双方か。
一人の声のような、沢山の声のような。なんともあやふやな幻聴だ。
ただ、どこかで必ず聞いた事のある声だった。
何か優しい言葉をかけてくれたのかすら分からないが、謎の心の温かさを感じる。
自分も耄碌してきたものだ。
聞こえぬ声に安らぎを覚えるなどとは。
ぼんやりと炭治郎からの手紙を読んでいると、
ジュっと火にかけていた鍋が噴き零れる音でハッとした。
そうだ、夕餉の準備をしていたのだった。
手紙の返事をすることに一所懸命になっていたという迂闊さが見えるあたり、
やはり元水柱はやはり引退して正解だったようだ。
今は不器用ながらに義勇が役目を果たしてくれているから、その辺りは問題ないだろう。
29: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/18(火) 02:06:45.34 ID:yR7JbxaC0
優しいあの子の事だ。
きっと、未だに判断に迷うことがあるだろう。
その時は、炭治郎。
お前の背中を押してくれる人を信じてあげてほしい。
夕餉を食べ終えたら、そうだ。
久々に作ってみよう、厄除の面を。
儂が育てたあの子たちの武運長久と、大きくなれなかったあの子たちへの鎮魂を込めて。
【大正コソコソ噂話】
鱗滝さんは後日、気まぐれに義勇さんへ手紙を届けたらしい。
内容は「みんなと上手くやれているのか」との事。
それを見た義勇さんは渋い顔をして、
たまたま近くに居たしのぶさんはその様を見て爆笑していたとか何とか。
31: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/18(火) 02:16:58.93 ID:yR7JbxaC0
【キャラ名】
>>36
34: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/18(火) 08:20:18.37 ID:bp/jmQaB0
あかざ
36: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/18(火) 08:55:47.15 ID:22XGb4V40
鋼鐡塚蛍
37: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/18(火) 09:43:01.93 ID:yR7JbxaC0
いま、刀鍛冶の里は活気づいていた。
それもその筈。
実に久方ぶりに、鬼殺隊が上弦の鬼を撃破したのだ。
自分たちの打った刀が鬼を屠る。
戦場へ赴けない代わりとして、魂を込めて打つ日輪刀に
想いを託している里の皆々としては嬉しい限りだろう。
左腕の欠損による音柱の引退を始めとした、様々な代償を経て、
大いなる勝利をもぎ取った。
怪我人はあれど現状で死者は無し。
実に素晴らしい事のように思える。
ただ、上弦撃破の吉報を眺めている鋼鐡塚蛍の顔は険しい。
ひょっとこ面で顔は分からぬゆえ、険しい顔を覗かせているのかどうか正しくは不明だが。
それでも、その面の内側から滲み出るような気配を感じる。
その正体は恐らく、焦燥感。
彼が見ているのは、張り出された知らせ文の下部。
重軽傷者一覧の項目に書かれている一文だった。
竈門炭治郎 重体
意識不明 昏睡中
38: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/18(火) 09:54:06.27 ID:yR7JbxaC0
またしても俺の打った刀を駄目にしやがった……。
許すまじ、許すまじぃ……!!!!
そう思う気持ちは九割九分ほど持ち合わせており、
憤怒の心象で燃え滾るような心を抱いている。
この炎で刀を打てたら、どれほど立派なものが出来上がるだろうか。
そう思う傍ら、残る一分の心は澄んだ音を醸し出して自身に問いかけてくる。
本当に良い刀を打てた時に聞こえてくるような、凛と張ったたおやかな音。
俺がもっと立派に刀を打てていたのなら。
炭治郎はこんなに酷い怪我を負わずに済んだのではないか。
39: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/18(火) 10:06:22.66 ID:yR7JbxaC0
刃毀れのひどい刀を見て、当初は怒りと悲しみばかりが沸き上がった。
だが、それは同時に戦闘の激しさを物語るようで、
ほんの少し、僅かばかりだが、必死に鬼と戦うあの少年が目蓋の裏に幻視された。
今まで担当してきた剣士もみな凡骨ばかり。
こちらが一刀にどれほど心血を注いでいるのか苦労も知らず、
折れた欠けたですぐに駄目にしてくる。
それを是正する意味合いで柔らかく「殺す」と伝えたら、すぐに担当を外されてきた。
盆暗に差し出す刀はないとせいせいしていた。
だが、竈門炭治郎は違った。
これまで二度も直してきたが、変わらずに自分を指名して打ち直しを依頼してくる。
その依頼が来る度にはらわたが煮えくり返っているのだが、
それでも尚、あの少年は俺に刀を頼んでくる。
鬼の屠るための刀でもあり、
同時にその鬼と対面する鬼殺隊の命を護る刀でもあるから。
もしかすると、俺の未熟であいつは命を落としかけたのではなかろうか。
40: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/18(火) 10:16:51.47 ID:yR7JbxaC0
心に浮かんだ言葉に耳を傾けた鋼鐡塚は、すくっと立ち上がり
そのまま山へ篭る準備を始めた。
特上の刀を打つためには、健全な精神が必要とされる。
その精神を入れる器として、身体を鍛えぬくことから開始しようと思い立ったからだ。
炭治郎が昏睡から目覚めて、また自分の刀を振るうそのとき。
あの赫灼の子の身命を護れる刀を打ち損じないように。
立ち上がった動きで、ひょっとこ面が少しずれる。
端正な顔立ちを想起させる口元には、
にやりと意気込むような笑顔がこぼれている。
右手でずれた面を直し、重そうな荷物をよいしょと背負う。
背には最低限の食糧と鍛冶道具一式。
愚直な彼は、刀鍛冶の高みへとまた一歩昇り始めた。
それはそれとして、あいつには手紙を送っておこう。
今の心境を綴ったやつを三枚ほど。
【大正コソコソ噂話】
鋼鐡塚さんからの手紙を読んだ炭治郎は、その後すぐに
みたらし団子の美味しい店を探し始めたらしいとか。
41: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/18(火) 11:46:22.46 ID:yR7JbxaC0
【キャラ名】
>>45
44: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/18(火) 15:14:26.23 ID:zJox3Tp50
煉獄
45: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/18(火) 15:15:10.07 ID:hmhzTh0aO
しのぶと義勇
1人だけならしのぶ
1人だけならしのぶ
46: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/18(火) 17:13:27.12 ID:yR7JbxaC0
※今更で恐縮ですが、アニメ・コミックス派の方は念のためネタバレ注意。
身内の酒柱から柱合会議の招集があったため、
しばし出かけて参ります。
>>45把握です。一応この話を書いたら一旦〆で。
それまでスレはお好きなようにお使いください。
身内の酒柱から柱合会議の招集があったため、
しばし出かけて参ります。
>>45把握です。一応この話を書いたら一旦〆で。
それまでスレはお好きなようにお使いください。
47: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/18(火) 23:30:21.47 ID:yR7JbxaC0
とある峠の茶屋にて。
天気は快晴、新緑は眩し。
幸せは日向に転がっている、と悠々と語る朗らかな陽気。
そんな気候と裏腹に、むすりとした仏頂面の青年が野点傘の下にいる。
彼の者の名は富岡義勇。
表情筋の動かし方を忘れているかの如く、眉一つぴくりともさせずに
一人静かにお茶を啜っていた。
48: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/18(火) 23:37:36.19 ID:yR7JbxaC0
彼がここで茶を一服しているのには理由があった。
任務と見回りの双方を兼ねてこの地へ来たのはいいが、
どうやら自分より先に着いていた柱が一足早く解決してくれていたようだ。
自身の仕事が済んでいるのなら、もうこの地に用はないと
踵を返してさっそく次の任務先へ向かおうとしたところ、
件の人物から「お茶の一杯くらいは労いとして付き合うべきだ」と諭され、今に至る。
49: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/18(火) 23:44:37.06 ID:yR7JbxaC0
ずず、と玄米茶を一啜り。深みのあって美味しいものだ。
それにしても予定の時間より半刻は経過しているのに、彼女は未だ来る気配がない。
もう半刻待ってみても来ないなら、さっさと先に行ってしまおうか。
そんな事を考えていたら、茶屋の前に人影が一つ。
「すいません、お館様への報告書をまとめあげるのに手間取っていました」
彼女の名前は、胡蝶しのぶ。
鬼殺隊を統括する“柱”の一人。
自身も水柱と謳われているが、実力不足の身にはいかんせん肩書が重すぎるので、
そう言われるとつい苦い気持ちが芽生えてしまう。
遅い、と一言告げると、笑顔を崩さぬまま彼女は
「淑女を急かすのは男(おのこ)として如何なものでしょうね」と返してくる。
言葉を戻すのも億劫だったので、そうか、と残して再び茶を啜る。
50: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/18(火) 23:49:06.60 ID:yR7JbxaC0
ふと空を見上げると、鎹烏が飛んできた。
新しい任務依頼の追記だろうか。
そう思いながらも義勇は烏から文を受け取り、
二つ折りにされていた紙をおもむろに開いてみる。
宛先を見ると、達筆ながらに見慣れた字が書かれていた。
どうやら師である鱗滝左近次からのようだ。
内容は、なんという事のない手紙。
父が息子を案じるような、優しい内容だった。
51: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/18(火) 23:56:10.89 ID:yR7JbxaC0
そのまま読み終えようとすると、追伸の一行が目に飛び込む。
<他の柱とはうまくやれているか?
義勇、お前と仲の良い子が見つかっていたら儂は嬉しい>
義勇は思わず渋い顔をしてしまう。
この感情は羞恥に近い。未だこの年齢になっても師匠に心配をかけているのか、と。
遠目から義勇を見ていたしのぶは、
珍しい表情をする義勇が何を読んでいるのか気になり、
気配を消しつつ後ろから手紙をふと覗き込んでみた。
全文は読めないが、追記の部分だけは読みとれる。
そこだけ読めたら十分だった。
ブッフォッッッ、と思わず吹き出してしまうのを堪える事は、今の彼女には不可避だった。
52: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/18(火) 23:59:12.91 ID:yR7JbxaC0
後頭部に霧状の唾が飛び散った義勇は、不快そうに後ろにいるしのぶを振り返る。
むすっとした仏頂面に磨きがかかっていて、中々の迫力だ。
だが、そんなことを意にも介さず、しのぶは義勇から少し離れた席に座り、言葉を紡ぐ。
「勝手に覗いちゃってすみません。
でも駄目ですよ、お師匠様に嫌われてる事を心配されちゃうのは」
「再三言うが、俺は別に嫌われていない」
「あらあらそうですか、そうですか。自覚が無いのは素敵なことです」
たった二言三言なのに、かなりの毒気を纏っている。
義勇はげんなりしながらも、しのぶの眼をじとりと見つめた。
そして告げる。
「お前とは、割とうまくやってると思っている」
しのぶは、その言葉に驚いてしまった。
本当に仲良くやれていると思っているとは正気なのか、という考えと。
何故だか分からないが言われて悪い気がしない、という感情の二つが芽生えた。
53: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/19(水) 00:03:24.65 ID:pPrQcDNK0
「富岡さん、そういう風に空気読めないから嫌われるんですよ」
だから別に嫌われていない。
そう言おうと思ったが、水掛け論になるので
義勇は首を振りつつ、茶を啜るがてらに言葉を飲み込んだ。
ふとしのぶの方を改めて見ると、少しうつむいている。
ぱさりと垂れた前髪で表情が読めないが、まぁ特に読む必要もないだろう。
よいしょっと、と言いながら、腰を浮かせてしのぶは義勇の座る席に少し近づく。
また何か言われるのだろうかと内心身構えていると、
ふと鼻腔を何某かの香りがくすぐってきた。
この香りは、藤の花。
鬼を殺す甘い毒の香。
この匂いは少しだけ好ましい。
54: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/19(水) 00:05:31.07 ID:pPrQcDNK0
「お前には鬼も寄り付かないな」
何とはなしにそう告げると、表情は笑顔を崩していないが
彼女の左こめかみには青筋がピクピクと蠢いている。
「鬼“も”ですか。富岡さん。急に喧嘩をふられても困るんですが」
「いや喧嘩を売ったつもりは毛頭ないのだが」
「投げ売り特価で売ってましたよ富岡さん。
こういう機微にお気づきにならない辺り、まぁ色々とお察しできますね」
「いや、すまない。お前から少し強い藤の花の香りがするものだから……」
それを聞いたしのぶの顔が、ほんの少しだけ曇った。
55: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/19(水) 00:07:01.15 ID:pPrQcDNK0
その表情から覗かせるものは、一体何なのか。
何となく、哀愁と決意によく似ていた。
またしても言葉を間違えてしまったのか、と義勇は内心狼狽してしまう。
もう喋らないで黙って茶を飲んで、さっさとここを出てしまおうかと考えていると
けろりとした顔でしのぶは言う。
「まぁ最近は新しい毒を試したりしているから、その名残でしょうね。
純度の高い藤の花の毒が出来上がると、必然的に私の技量向上にもなりますし」
「そんなものか」
「そんなものです」
56: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/19(水) 00:10:01.39 ID:pPrQcDNK0
そして義勇は再び茶を啜る。湯呑にはもう二割も残っていない。
これでようやく席を立てると思っているところに
お待たせしました、と店員から
しのぶの分のお茶と茶請けの団子が野点傘の席に届いた。
「あ、店員さん。この人の分のお茶もおかわりで。
あと代金は彼と一緒にしておいてください」
店員はすかさず、畏まりましたと言葉を残して店内に戻っていく。
「おい、おい」
「いいじゃないですか。私たち、仲がいいんでしょう?
たまにはゆっくりお話でもしてみましょう」
「……」
57: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/19(水) 00:12:35.66 ID:pPrQcDNK0
「それにですね、その……」
「なんだ、急に言いよどんで」
「花の香りがする淑やかな女子に、
お団子代を立て替えない男はいないって知ってましたか?」
「いや知らん、初耳だ。
それに俺は茶しか飲んでないから店員が来たら別払いにするぞ」
しのぶは笑顔を引っ込めて、大きくため息をつく。
全集中・鈍感男への苛立ち呼吸。
「富岡さん、そういうところですよ……」
色んな感情を込めて、そう告げるのが精一杯だった。
【大正コソコソ噂話】
義勇さんは、鱗滝さんへ返事をする際に
「蟲柱とは仲が良い」という言葉を少し間違えて
「蟲柱とは良い仲」と送ってしまったそうで。
鬼殺隊では一時期、水柱と蟲柱の夫婦(めおと)が誕生すると騒然になった。
しのぶさんは、「そんな事ありませんよ」と
ひきつった笑顔の額に無数の青筋を立てながら否定して回るのに奔走したとか。
58: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/19(水) 00:13:37.59 ID:pPrQcDNK0
これにて閉幕。またいつか。
鬼滅ssがもっと増えますように。
鬼滅ssがもっと増えますように。
61: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/19(水) 00:31:24.81 ID:RDAvJsPM0
乙の呼吸。
62: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/06/24(月) 15:52:00.23 ID:L79kwJuKO
乙
雰囲気がとても好き
また書いてほしい
雰囲気がとても好き
また書いてほしい
引用元: 【鬼滅ss】鬼退治の幕間
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